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闇色の森と、ヨウセイの隠れ里

●シャンバラをさがして
「この前の戦争は大変だったよね。シャンバラの都には聖域がはられて今も守られてるみたい。この聖域を破る方法を皆探してる所なんだけど……」
クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)はシャンバラの把握できている限りの地図をボードに貼り付け、マグネットマーカーを置き始めた。
「いま、シャンバラ国内のどこかにウィッチクラフトでも把握できてないヨウセイの集落があるって話は知ってる?
今回はそのひとつを探し出すっていう任務をお願いしたいんだ」
シャンバラという国はマザリモノに対する強い差別意識が広まっている。
中でもヨウセイに関しては人権そのものを認めないほどの極端な差別がおこり、魔女狩りと称して見つけ次第捕獲されていた。
捕まっていないヨウセイたちは必然的に、国の人々から身を隠しひっそりと暮らすことになる。
そうして生まれるのが、『ヨウセイの隠れ里』である。
「今回探して貰う隠れ里は『ミストルティン』っていうんだ。ヤドリギって意味の言葉だよ。
けどシャンバラの部隊も、ウィッチクラフトも、まだその里を見つけてない。
なぜなら里は、闇色の森に囲まれてるから……」
闇色の森。
恐ろしい魔獣が巣くう森。
屈強な戦士の一団が魔女狩り目当てで突入し、半数が重傷、残り半数は腕や足だけになって帰ってきたという恐ろしい森だ。
話によれば森には無数の魔獣が住んでおり、森に入った人間を無差別に食い散らかすという。
それは森に蔓延している闇の呪いによるものとされ、森は暫く立ち入り禁止区域になっていたという。
「けど、シャンバラへ聖霊門を橋頭堡にして入り込むことが出来てる以上、仲間になったヨウセイたちを保護することもできる筈だよね。
それに、隠れ里のヨウセイたちはまだこのことを知らないはず。
闇色の森を突破して、ヨウセイたちにもう隠れなくていいってことを教えてあげよう!」
「この前の戦争は大変だったよね。シャンバラの都には聖域がはられて今も守られてるみたい。この聖域を破る方法を皆探してる所なんだけど……」
クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)はシャンバラの把握できている限りの地図をボードに貼り付け、マグネットマーカーを置き始めた。
「いま、シャンバラ国内のどこかにウィッチクラフトでも把握できてないヨウセイの集落があるって話は知ってる?
今回はそのひとつを探し出すっていう任務をお願いしたいんだ」
シャンバラという国はマザリモノに対する強い差別意識が広まっている。
中でもヨウセイに関しては人権そのものを認めないほどの極端な差別がおこり、魔女狩りと称して見つけ次第捕獲されていた。
捕まっていないヨウセイたちは必然的に、国の人々から身を隠しひっそりと暮らすことになる。
そうして生まれるのが、『ヨウセイの隠れ里』である。
「今回探して貰う隠れ里は『ミストルティン』っていうんだ。ヤドリギって意味の言葉だよ。
けどシャンバラの部隊も、ウィッチクラフトも、まだその里を見つけてない。
なぜなら里は、闇色の森に囲まれてるから……」
闇色の森。
恐ろしい魔獣が巣くう森。
屈強な戦士の一団が魔女狩り目当てで突入し、半数が重傷、残り半数は腕や足だけになって帰ってきたという恐ろしい森だ。
話によれば森には無数の魔獣が住んでおり、森に入った人間を無差別に食い散らかすという。
それは森に蔓延している闇の呪いによるものとされ、森は暫く立ち入り禁止区域になっていたという。
「けど、シャンバラへ聖霊門を橋頭堡にして入り込むことが出来てる以上、仲間になったヨウセイたちを保護することもできる筈だよね。
それに、隠れ里のヨウセイたちはまだこのことを知らないはず。
闇色の森を突破して、ヨウセイたちにもう隠れなくていいってことを教えてあげよう!」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.闇色の森を突破する
2.隠れ里『ミストルティン』のヨウセイたちに安全を伝える
2.隠れ里『ミストルティン』のヨウセイたちに安全を伝える
【エネミーデータ】
・魔獣(個体数不明)
熊、鹿、狸、大型の鳥などの野生生物が森の呪いによって魔獣化したもの。
きわめて凶暴であり、戦闘の心得がある者でも危険。
噛みついたり突き飛ばしたりといった攻撃を行ない、最終的には喰ってしまうという。
集めた情報や僅かな予知によれば魔獣はある程度連携のとれた動きをする上、戦闘に関してのみ高い知能を持ちうるという。野生動物と思ってかかると痛い目を見そうだ、とも。
森を突破する上で一番の問題であり、障害。
進軍中は警戒を怠らず、奇襲や挟み撃ち、囮や罠に注意されたし。
戦闘も一度や二度ではなく連続して、ないしは『急にラッシュが始まること』を警戒するようにとのこと。
【フィールドデータ】
・闇色の森
常に薄暗く、暗い色の霧に覆われた森。
見通しは悪く鼻もききづらい。
視界の悪さが特殊な霧によるものであるため照明器具諸々もあまり役に立たないだろうとのこと。一応、探索は昼間に行なわれる。
・ミストルティンまでの道のり
予知情報その他を照らし合わせ、隠れ里に至る道筋だけは判明している。
重要なのは道に迷わないこと。戦力の大幅な低下によって進軍不能にならないこと。その二つだけだ。
進軍にかかる時間はおよそ一時間前後。
途中休憩は不可能とまではいわないがとても危険。
【ミストルティン】
隠れ里に到着した場合、ヨウセイたちにとても警戒されるだろう。
彼らに、自分たちの所属と目的を伝え、シャンバラによる虐待には晒させないことを伝える必要がある。
加えて彼らの強い敵意や外から来た者への強烈な警戒心を解くことができれば、なお良い。
今すぐに連れ帰る必要はないが、もし完全に警戒を解き里に受け入れられた場合は何人かを連れ帰ることができるかもしれない。
・魔獣(個体数不明)
熊、鹿、狸、大型の鳥などの野生生物が森の呪いによって魔獣化したもの。
きわめて凶暴であり、戦闘の心得がある者でも危険。
噛みついたり突き飛ばしたりといった攻撃を行ない、最終的には喰ってしまうという。
集めた情報や僅かな予知によれば魔獣はある程度連携のとれた動きをする上、戦闘に関してのみ高い知能を持ちうるという。野生動物と思ってかかると痛い目を見そうだ、とも。
森を突破する上で一番の問題であり、障害。
進軍中は警戒を怠らず、奇襲や挟み撃ち、囮や罠に注意されたし。
戦闘も一度や二度ではなく連続して、ないしは『急にラッシュが始まること』を警戒するようにとのこと。
【フィールドデータ】
・闇色の森
常に薄暗く、暗い色の霧に覆われた森。
見通しは悪く鼻もききづらい。
視界の悪さが特殊な霧によるものであるため照明器具諸々もあまり役に立たないだろうとのこと。一応、探索は昼間に行なわれる。
・ミストルティンまでの道のり
予知情報その他を照らし合わせ、隠れ里に至る道筋だけは判明している。
重要なのは道に迷わないこと。戦力の大幅な低下によって進軍不能にならないこと。その二つだけだ。
進軍にかかる時間はおよそ一時間前後。
途中休憩は不可能とまではいわないがとても危険。
【ミストルティン】
隠れ里に到着した場合、ヨウセイたちにとても警戒されるだろう。
彼らに、自分たちの所属と目的を伝え、シャンバラによる虐待には晒させないことを伝える必要がある。
加えて彼らの強い敵意や外から来た者への強烈な警戒心を解くことができれば、なお良い。
今すぐに連れ帰る必要はないが、もし完全に警戒を解き里に受け入れられた場合は何人かを連れ帰ることができるかもしれない。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年03月06日
2019年03月06日
†メイン参加者 8人†
●闇色の森へ
しめった土とかわった形の草花を、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は慎重に踏み固めていく。
「おかしい。これは確かに、ただの森じゃなさそうだな」
かがみ込むウェルスに伴って、エルシー・スカーレット(CL3000368)もまた地面の草花に注目した。
翳したカンテラに照らされた草は僅かにしめっていて、花ははりのある咲き方をしている。
「なにかおかしいの? 地元じゃ見かけない花だけど、普通に元気に咲いてるじゃない」
「ああ、確かに元気だ。だが花が元気だということは虫が元気だということ。虫が元気だと言うことは、動物たちも元気だってことなんだ。けどどうだ……」
改めて立ち上がる二人。
見上げれば、空を覆うかのように広がった木々。
しかし全くと言っていいほど、鳥や獣の声がしなかった。
「不自然なほど静かだ。野生動物の痕跡はあるのに、気配だけがない」
「魔獣の影響ってこと? それとも森の呪い?」
「さあな。けど、用心がいるっていうのは確かだ」
例えば賑やかな町の大通りがあったとしよう。普段は雑踏と話し声ばかりが聞こえ、露天では客寄せが声を張り上げている場所があるとする。
だがある日訪れてみれば誰もおらず、しかし露天や馬車だけはいつもと変わらずそこにある。
人間に置き換えて表現するならそんな不気味さと不自然さが、『闇色の森』には漂っていた。
アデル・ハビッツ(CL3000496)はゆっくりと、周囲を伺うように視線を巡らせる。
掲げたカンテラは効果をもたらさないという程では無いにしろ、暗い色の霧に覆われた森の中ではそれほど効果的とは思えなかった。
「決して陣形を崩さずに進むんだ。誰一人としてはぐれるなよ」
アデルは槍の柄にそなえた発射機構に専用のマガジンを装填すると、戦闘姿勢を整える。
ナバル・ジーロン(CL3000441)も同じように、背負っていた槍と盾をそれぞれ手に取り、全方位に対応できる団子状の陣形を取り始める。
ヘルメットの位置をこまかく調整し、顎の革ベルトをしめた。
「す……進み方は相談したとおりでいいんだよな?」
「ああ……」
同じく完全戦闘装備を纏ったアダム・クランプトン(アダム・クランプトン)も、ヘルメットを押さえて位置を調整。マジックエンジンを起動すると、薬莢を腕のリボルバー式弾倉へと丁寧に差し込んでいく。
鉛の滑るすこんという音が、等間隔に森の中へ反響するようだった。
「話に聞いた森の魔獣たちがいつ襲撃してくるかもわからない。騎士として……」
騎士として、皆を守らないと。そこまで考えて、アダムは口を閉じた。
彼ら自由騎士。本職は違えど今は互いに守り守られるチームだ。
アリア・セレスティ(CL3000222)もその気持ちは同じだったようで、蛇腹に展開する剣のトリガーを引き、リールを巻き込んで刀身を直線上に収納、固定する。
「けど、こんな森の奥に集落があるなんてね。言われなくちゃ探しにだっていかないわ」
「それだけ、追い詰められていたってことだろうなぁ……」
闇色の霧に覆われるという、常人ではまず逃げ去りたくなるような状況の中で、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)はライフルのセーフティーを解除した。
どこかから見られている。そんな気分が、どうしても抜けないからだ。
とはいえここはただの暗い森ではない。闇色の霧に覆われた森だ。
見ようと思って見られるものじゃない。
ということは、深海や泥沼に生息する魚のようにきわめて鋭い視覚器官をもっているか、もしくは光とは別のものでこちらを感知しているかだ。
そして今やつらは、こちらをどう襲うべきか考えているということだ。
「お、追い詰められて、今も不安でいるんだろうからなぁ……教えて、やらないとな」
自分に言い聞かせるように、ふるいたたせるように言葉にすると、ヨーゼフはゆっくりと歩き始めた。
彼らの中心に立ち、周囲の様子を深く観察するウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。
「集落へ言って、もう大丈夫だと安心させてやりたいが……まずは何よりも、この森を抜けないといけない、か」
ネクタイをきゅっと結び直し、ウィリアムは慎重に歩いて行く。
●魔獣
闇色の森を深く進むほど、鼻をツンとつくような臭いがした。ミント臭にも似たそれは、アデルたちの鼻を酷く鈍くさせる。
霧によって視界が狭まることで、深い恐怖を煽った。
見えない場所から何かがこちらを見ている。
襲いかかろうと息を潜めている。そのことが、アデルにはよくわかった。
なぜなら。
「後ろ――いや、三方向、囲まれている!」
彼のサーチエネミーにきっぱりと敵性ユニットとして感知されていたからだ。
ショートランサーを構え、まず背後の敵に突進。
霧の中から飛び出してくるシカのような物体に、こちらの攻撃が僅かに早くヒットした。その瞬間を狙ってトリガーを引き、槍を相手の頭に強くめり込ませる。
「っし、こっちは任せろ!」
もう一方の方角を守るように歩み出るナバル。ライオットシールドのバーを足で引っかけ素早く立てると、激しいショルダータックルを仕掛けてくる熊型魔獣の衝撃を受け止めた。
そのまま吹き飛ばされそうになるのをグッとこらえ、盾の裏から槍を突く。
突き刺さった槍を掴まれ振り回されるも、ナバルは必死に食らいついていく。
「そのまま押さえてて……!」
助走をつけて跳躍するエルシー。
熊の側頭部に鋭いキックを叩き込むと、そのまま素早く回転し第二の踵を打ち込んだ。
二段攻撃に大きくぐらつく熊。
別方向から襲いかかるイノシシが目を光らせるが、素早く割り込んだアダムがイノシシの進行を強引に食い止めた。
両手で相手の胴体を掴み、腹部から下半身にかけてのアーマーで衝撃を逃がしていく。
それでも突進の勢いは凄まじく、アダムは一メートルほど押し込まれた。
エルシーと背中合わせになった所で、お互いの息づかいだけで連携をとった。
掴んだ左腕内部に仕込んだ炸薬を用い衝撃を与えると、エルシーとアダムは同時に飛び退く。
突進の勢いが残ったまま方向をずらされたイノシシは近くの樹木に正面から激突した。
「今だ! 仕留められるか!」
「任せて……!」
アリアが剣を振り込むと、蛇腹に伸びた剣がイノシシに巻き付いていく。
それを強引に引けば、肉体は切り裂かれ、かつ互いが引き寄せられるのだ。
素早く近づき、もう一本の剣を突き立てるアリア。
「この感じ……ヨウセイが操ってるわけじゃない」
獣に狩りの狡猾さを上乗せし、身体能力を僅かに向上させる。魔獣とは、どうやらそういうものであるらしい。
統率をとるにしては連携が甘い。この分だと、罠や囮というのも比較的狡猾な野生動物が時折みせる狩猟方法のそれだと考えるべきかもしれない。いや、それだけでも充分恐ろしいが、話の通じる相手ではないと分かったことがアリアからみた収穫だった。
イノシシが倒れるのを確認すると、ウィリアムは周囲の土や木から人形を作り出し、熊へと襲いかからせる。
組み合った所を、ウェルスが更に追い打ちをかける形にするためだ。
「ヘイ兄弟、悪いもんでも食べたのか!?」
蒸気式狙撃銃を的確に二発。熊の頭に弾がめり込むように発砲。
バーを操作して空薬莢を排出すると、深く息を吐いた。
ぐらりと傾き、仰向けに倒れる熊の魔獣。
「話をまるで聞きゃあしねえ。森の呪いってのも厄介なもんだぜ」
「そろそろ、こっち側も手伝ってもらえるか」
アデルの言葉に反応して、ヨーゼフがライフルを向けた。
シカがベースになっているものの、角は鋭利な刃物のように鋭く、肉体は奇妙なまでに頑丈そうだ。
本能的に手の震えを感じたが、それを深く呼吸を整えることで制御した。
ヨーゼフのライフルの、スコープの内側の、こちらを見た、シカの目。
焦る気持ちを抑え、たった一発で当てる気持ちで、ヨーゼフは鋭く引き金を引いた。
乾いた音が、森の中に響く。
闇色の森を進むのは、決して難しいことではなかった。
ヨーゼフが進みやすそうな場所を選び、アデルが周囲を警戒し続け、残るメンバーも決して緊張をとくことなく森をゆっくり進んでいく。
「アダム、私を置いてかないでよね? 視界が悪いからはぐれちゃいそう」
「誰も置いていったりしな――止まって!」
腕を翳すアダム。
敵の気配は感じていない。が、一体なにがあったのかとアデルたちもまた立ち止まった。
「おっと、これは……」
目を細めカンテラを翳すウェルス。
地面の土が盛り上がり、動物らしきものが半分埋まっている。
近づいて見れば、死亡してから随分と時間のたった人間であることがわかった。
肉はあまり残っておらず、ほとんど骨ばかりになっている。といってもその骨までもが強い力で砕かれていて、人間だと分かったのは深く観察したからだ。
「うわあ、魔獣に食べられたのかな。酷いこと……じゃ、ないよね。ある意味自然な――」
「いや、待った」
ウィリアムが武器を握って、すこしだけ大きく声を張った。
「罠だ。囲まれるぞ」
「「――!!」」
全く同時に戦闘姿勢をとるナバルとアデル。
「本当だ、あちこちから反応……一斉に来る!」
「ら、ラッシュだ! 備えろ!」
「ぐう……!」
ライフルを構え、ウィリアムの横につくヨーゼフ。
「なるべく固まって、全方位に対応し続けるんだ。しのぎきろう!」
アダムが叫んだ途端、魔獣たちが一斉に飛びかかってきた。
四方八方、同時である。
それは勿論、頭上から飛来する鳥型の魔獣も含まれる。
「どうする。一点突破で逃げ切るか!?」
ナバルはライオットシールドを両手で横向きに構え、突撃してくる魔獣を正面から押し返した。
「う、う……!」
ヨーゼフは歯を食いしばって威嚇するようにライフルを撃ちまくっている。
それをフォローするように、アダムは彼の前に出て魔獣の攻撃を阻んだ。
「周到に一斉攻撃を仕掛けるほどだ。きっと追いつかれてしまう。攻撃の勢いが弱まるまでは耐えしのぐしかない!」
アダムは腕のレバーを操作すると、ショットガンのように気の弾丸を眼前にばらまいた。
魔獣たちが一斉に吹き飛ばされていく。
アデルはそれに伴って突撃し、ひときわ大柄な熊型魔獣の腹に槍を突き立てた。
トリガーを引き、打ち出す槍によって強引に突き飛ばす。
直後、両サイドから同時に突撃してくる鹿魔獣にサンドされるが、ウィリアムが放ったインスタント注射器によって痛みが緩和され、自己治癒力が増強された。
もう暫くだ。
ウィリアムのアイコンタクトに、アリアが動きで応えた。
展開した蛇腹剣をそのままに、魔獣の中へ飛び込みジグザグに駆け回る。
追いかけようとした獣が、空振りした腕が、みな激しく切り裂かれていく。
「見つけた――そこ!」
アリアは目をきらりと光らせ、魔獣の包囲網のうちひとつを強引に突破した。
切り裂かれ、吹き飛ぶ獣たち。
「こっちよ、皆走って!」
「よしきた……!」
ウェルスは追ってくる鳥型魔獣をライフルで撃ち落とすと、ポケットから治癒魔力を内包したシェルを取り出し、ライフルにオプションされたグレネードランチャーにセット。仲間の進行方向へと発射した。
空中で炸裂した弾から治癒力をもった魔力粉末が降り注ぎ、魔獣たちの追撃を緩和する。
「隠れ里(ミストルティン)はきっとすぐそこだ。急げ!」
●ミストルティン
深い木々と草を抜ける。
突如明るい場所に出たナバルは、ゴロゴロと転がるように地面に倒れた。
「う、動くな!」
そんなナバルに突きつけられる弓や槍。
恐怖と敵意の表情を浮かべたヨウセイたちが武装し、こちらを強く威嚇していた。
「うごくと殺す!」
「お前は誰だ!」
「喋るな! 殺すぞ!」
「うつ伏せになれ!」
「動くなと言ったはずだ!」
それぞれ矛盾した要求を出し、今にも襲いかからん勢いだ。
仰向けになったナバルは。
「……っぷはー!」
武器を放り投げ、大の字に伸びた。
「話聞くから、ちょっと休ませて! ほんとにしんどかったんだ!」
まるきり敵意のない様子に、ヨウセイたちは言葉を詰まらせた。
ばたばたと女子供を粗末な小屋のなかに逃がした男たちも、こちらを見定めるような目で見ている。
後を追うように、ウィリアムとアダムが跪いて武器を眼前に置いた。
意味のある言葉と喋って伝えるのは、この後だ。
ウィリアムは小声で他のメンバーにも同じように膝を突くように伝えると、こうべを垂れたまま暫く待った。
ウィリアムいわく。
感情が高ぶった人間や、敵意をむき出しにした人間に対し、理論的な説得はかえって逆効果になることがある。
まずは相手の感情の波が下がるように促し、理論的な対話ができる段階にまでもっていく必要があるのだ。
柔らかく噛み砕いて言うなら……『理屈の前に感情を納得させよう』である。
相手が静まったのを確認し、うち一人が代表となって話しかける段階。
「お前たちは何だ?」
それを期に、アダムたちはやっと顔を上げた。
「イ・ラプセルの自由騎士だ。シャンバラとの戦争を行なっている」
「今は橋頭堡を築き、圧政下にある種族の救済と保護にあたっているんだ」
「ヨウセイさんは特にって聞いてたから……心配しないでください。他の里のヨウセイさんたちも一緒です」
「イ・ラプセルは種族で差別したりしない。シャンバラみたいに、こうして隠れて生活する必要もないんだ」
エルシーやアデルが続けて説得にあたると、ヨウセイたちは困惑したように顔を見合わせ始めた。
「それは、本当なのか? 我々を引きずり出すための嘘じゃあ……」
「信じて貰うためなら、出来る限りのことをする」
ヨーゼフは戦闘と森の恐怖がまだ抜けていないのか、呼吸を荒くしながら付け加えた。
ここはヨウセイたちの隠れ里。
人権すら与えられず虐げられてきた種族が寄り合って暮らす小さな場所だ。
礼儀作法やルールはなく、ただ皆、同じ対象を恐怖し、おびえて暮らしていたのだ。
そんな相手に接するなら、できるだけ正直である必要があった。
嘘や邪心は、きっと伝わる。
理論的な証拠を提示するのは、その後にすることだ。
それから暫くして、自由騎士たちは持ち寄った話を聞かせたり自由騎士の印を見せたりすることで、里の代表者から一定の信用を得るに至った。
一部の人々はまだ半信半疑でいるようで、里の代表がゆっくりと説得し、保護に移すことになるだろう。
ウェルスとアリアは、代表者のヨウセイに魔獣のことを尋ねてみた。
「『闇色の森』にすまう魔獣たちは、一体何なんだ? あなたたちが作り出してるものかと思ったが、どうも違うらしい」
「はい、我々もあれがなんなのか知りません。ただ、立ち入った者を排除するのは確かなので、森のなかに存在するこの安全地帯に身を寄せているのです。なぜここだけが安全なのかも、私たちには……」
「なら、ここから全員で外に出るには?」
「一つだけ方法はあります。地下に掘った穴がありますので、それを通じて外へと出ることができます。元々は一部の連絡員が外の様子を探るためのものでしたが、彼も命を落としたようで……」
通路は乾燥した藁で埋め、簡単には通れないようにしているらしい。
森の外に出るのは、それらを取り除く作業をしてからになるだろう。
「今日は里に宿泊していってください。あまり居心地のいい場所では、ありませんが……」
こうして、ヨウセイの隠れ里は長い年月をこえ、外の世界へと出ることになった。
彼らがこの先どのように生きていけるかは、きっと、自由騎士たちの戦いにかかっているのだろう。
しめった土とかわった形の草花を、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は慎重に踏み固めていく。
「おかしい。これは確かに、ただの森じゃなさそうだな」
かがみ込むウェルスに伴って、エルシー・スカーレット(CL3000368)もまた地面の草花に注目した。
翳したカンテラに照らされた草は僅かにしめっていて、花ははりのある咲き方をしている。
「なにかおかしいの? 地元じゃ見かけない花だけど、普通に元気に咲いてるじゃない」
「ああ、確かに元気だ。だが花が元気だということは虫が元気だということ。虫が元気だと言うことは、動物たちも元気だってことなんだ。けどどうだ……」
改めて立ち上がる二人。
見上げれば、空を覆うかのように広がった木々。
しかし全くと言っていいほど、鳥や獣の声がしなかった。
「不自然なほど静かだ。野生動物の痕跡はあるのに、気配だけがない」
「魔獣の影響ってこと? それとも森の呪い?」
「さあな。けど、用心がいるっていうのは確かだ」
例えば賑やかな町の大通りがあったとしよう。普段は雑踏と話し声ばかりが聞こえ、露天では客寄せが声を張り上げている場所があるとする。
だがある日訪れてみれば誰もおらず、しかし露天や馬車だけはいつもと変わらずそこにある。
人間に置き換えて表現するならそんな不気味さと不自然さが、『闇色の森』には漂っていた。
アデル・ハビッツ(CL3000496)はゆっくりと、周囲を伺うように視線を巡らせる。
掲げたカンテラは効果をもたらさないという程では無いにしろ、暗い色の霧に覆われた森の中ではそれほど効果的とは思えなかった。
「決して陣形を崩さずに進むんだ。誰一人としてはぐれるなよ」
アデルは槍の柄にそなえた発射機構に専用のマガジンを装填すると、戦闘姿勢を整える。
ナバル・ジーロン(CL3000441)も同じように、背負っていた槍と盾をそれぞれ手に取り、全方位に対応できる団子状の陣形を取り始める。
ヘルメットの位置をこまかく調整し、顎の革ベルトをしめた。
「す……進み方は相談したとおりでいいんだよな?」
「ああ……」
同じく完全戦闘装備を纏ったアダム・クランプトン(アダム・クランプトン)も、ヘルメットを押さえて位置を調整。マジックエンジンを起動すると、薬莢を腕のリボルバー式弾倉へと丁寧に差し込んでいく。
鉛の滑るすこんという音が、等間隔に森の中へ反響するようだった。
「話に聞いた森の魔獣たちがいつ襲撃してくるかもわからない。騎士として……」
騎士として、皆を守らないと。そこまで考えて、アダムは口を閉じた。
彼ら自由騎士。本職は違えど今は互いに守り守られるチームだ。
アリア・セレスティ(CL3000222)もその気持ちは同じだったようで、蛇腹に展開する剣のトリガーを引き、リールを巻き込んで刀身を直線上に収納、固定する。
「けど、こんな森の奥に集落があるなんてね。言われなくちゃ探しにだっていかないわ」
「それだけ、追い詰められていたってことだろうなぁ……」
闇色の霧に覆われるという、常人ではまず逃げ去りたくなるような状況の中で、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)はライフルのセーフティーを解除した。
どこかから見られている。そんな気分が、どうしても抜けないからだ。
とはいえここはただの暗い森ではない。闇色の霧に覆われた森だ。
見ようと思って見られるものじゃない。
ということは、深海や泥沼に生息する魚のようにきわめて鋭い視覚器官をもっているか、もしくは光とは別のものでこちらを感知しているかだ。
そして今やつらは、こちらをどう襲うべきか考えているということだ。
「お、追い詰められて、今も不安でいるんだろうからなぁ……教えて、やらないとな」
自分に言い聞かせるように、ふるいたたせるように言葉にすると、ヨーゼフはゆっくりと歩き始めた。
彼らの中心に立ち、周囲の様子を深く観察するウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)。
「集落へ言って、もう大丈夫だと安心させてやりたいが……まずは何よりも、この森を抜けないといけない、か」
ネクタイをきゅっと結び直し、ウィリアムは慎重に歩いて行く。
●魔獣
闇色の森を深く進むほど、鼻をツンとつくような臭いがした。ミント臭にも似たそれは、アデルたちの鼻を酷く鈍くさせる。
霧によって視界が狭まることで、深い恐怖を煽った。
見えない場所から何かがこちらを見ている。
襲いかかろうと息を潜めている。そのことが、アデルにはよくわかった。
なぜなら。
「後ろ――いや、三方向、囲まれている!」
彼のサーチエネミーにきっぱりと敵性ユニットとして感知されていたからだ。
ショートランサーを構え、まず背後の敵に突進。
霧の中から飛び出してくるシカのような物体に、こちらの攻撃が僅かに早くヒットした。その瞬間を狙ってトリガーを引き、槍を相手の頭に強くめり込ませる。
「っし、こっちは任せろ!」
もう一方の方角を守るように歩み出るナバル。ライオットシールドのバーを足で引っかけ素早く立てると、激しいショルダータックルを仕掛けてくる熊型魔獣の衝撃を受け止めた。
そのまま吹き飛ばされそうになるのをグッとこらえ、盾の裏から槍を突く。
突き刺さった槍を掴まれ振り回されるも、ナバルは必死に食らいついていく。
「そのまま押さえてて……!」
助走をつけて跳躍するエルシー。
熊の側頭部に鋭いキックを叩き込むと、そのまま素早く回転し第二の踵を打ち込んだ。
二段攻撃に大きくぐらつく熊。
別方向から襲いかかるイノシシが目を光らせるが、素早く割り込んだアダムがイノシシの進行を強引に食い止めた。
両手で相手の胴体を掴み、腹部から下半身にかけてのアーマーで衝撃を逃がしていく。
それでも突進の勢いは凄まじく、アダムは一メートルほど押し込まれた。
エルシーと背中合わせになった所で、お互いの息づかいだけで連携をとった。
掴んだ左腕内部に仕込んだ炸薬を用い衝撃を与えると、エルシーとアダムは同時に飛び退く。
突進の勢いが残ったまま方向をずらされたイノシシは近くの樹木に正面から激突した。
「今だ! 仕留められるか!」
「任せて……!」
アリアが剣を振り込むと、蛇腹に伸びた剣がイノシシに巻き付いていく。
それを強引に引けば、肉体は切り裂かれ、かつ互いが引き寄せられるのだ。
素早く近づき、もう一本の剣を突き立てるアリア。
「この感じ……ヨウセイが操ってるわけじゃない」
獣に狩りの狡猾さを上乗せし、身体能力を僅かに向上させる。魔獣とは、どうやらそういうものであるらしい。
統率をとるにしては連携が甘い。この分だと、罠や囮というのも比較的狡猾な野生動物が時折みせる狩猟方法のそれだと考えるべきかもしれない。いや、それだけでも充分恐ろしいが、話の通じる相手ではないと分かったことがアリアからみた収穫だった。
イノシシが倒れるのを確認すると、ウィリアムは周囲の土や木から人形を作り出し、熊へと襲いかからせる。
組み合った所を、ウェルスが更に追い打ちをかける形にするためだ。
「ヘイ兄弟、悪いもんでも食べたのか!?」
蒸気式狙撃銃を的確に二発。熊の頭に弾がめり込むように発砲。
バーを操作して空薬莢を排出すると、深く息を吐いた。
ぐらりと傾き、仰向けに倒れる熊の魔獣。
「話をまるで聞きゃあしねえ。森の呪いってのも厄介なもんだぜ」
「そろそろ、こっち側も手伝ってもらえるか」
アデルの言葉に反応して、ヨーゼフがライフルを向けた。
シカがベースになっているものの、角は鋭利な刃物のように鋭く、肉体は奇妙なまでに頑丈そうだ。
本能的に手の震えを感じたが、それを深く呼吸を整えることで制御した。
ヨーゼフのライフルの、スコープの内側の、こちらを見た、シカの目。
焦る気持ちを抑え、たった一発で当てる気持ちで、ヨーゼフは鋭く引き金を引いた。
乾いた音が、森の中に響く。
闇色の森を進むのは、決して難しいことではなかった。
ヨーゼフが進みやすそうな場所を選び、アデルが周囲を警戒し続け、残るメンバーも決して緊張をとくことなく森をゆっくり進んでいく。
「アダム、私を置いてかないでよね? 視界が悪いからはぐれちゃいそう」
「誰も置いていったりしな――止まって!」
腕を翳すアダム。
敵の気配は感じていない。が、一体なにがあったのかとアデルたちもまた立ち止まった。
「おっと、これは……」
目を細めカンテラを翳すウェルス。
地面の土が盛り上がり、動物らしきものが半分埋まっている。
近づいて見れば、死亡してから随分と時間のたった人間であることがわかった。
肉はあまり残っておらず、ほとんど骨ばかりになっている。といってもその骨までもが強い力で砕かれていて、人間だと分かったのは深く観察したからだ。
「うわあ、魔獣に食べられたのかな。酷いこと……じゃ、ないよね。ある意味自然な――」
「いや、待った」
ウィリアムが武器を握って、すこしだけ大きく声を張った。
「罠だ。囲まれるぞ」
「「――!!」」
全く同時に戦闘姿勢をとるナバルとアデル。
「本当だ、あちこちから反応……一斉に来る!」
「ら、ラッシュだ! 備えろ!」
「ぐう……!」
ライフルを構え、ウィリアムの横につくヨーゼフ。
「なるべく固まって、全方位に対応し続けるんだ。しのぎきろう!」
アダムが叫んだ途端、魔獣たちが一斉に飛びかかってきた。
四方八方、同時である。
それは勿論、頭上から飛来する鳥型の魔獣も含まれる。
「どうする。一点突破で逃げ切るか!?」
ナバルはライオットシールドを両手で横向きに構え、突撃してくる魔獣を正面から押し返した。
「う、う……!」
ヨーゼフは歯を食いしばって威嚇するようにライフルを撃ちまくっている。
それをフォローするように、アダムは彼の前に出て魔獣の攻撃を阻んだ。
「周到に一斉攻撃を仕掛けるほどだ。きっと追いつかれてしまう。攻撃の勢いが弱まるまでは耐えしのぐしかない!」
アダムは腕のレバーを操作すると、ショットガンのように気の弾丸を眼前にばらまいた。
魔獣たちが一斉に吹き飛ばされていく。
アデルはそれに伴って突撃し、ひときわ大柄な熊型魔獣の腹に槍を突き立てた。
トリガーを引き、打ち出す槍によって強引に突き飛ばす。
直後、両サイドから同時に突撃してくる鹿魔獣にサンドされるが、ウィリアムが放ったインスタント注射器によって痛みが緩和され、自己治癒力が増強された。
もう暫くだ。
ウィリアムのアイコンタクトに、アリアが動きで応えた。
展開した蛇腹剣をそのままに、魔獣の中へ飛び込みジグザグに駆け回る。
追いかけようとした獣が、空振りした腕が、みな激しく切り裂かれていく。
「見つけた――そこ!」
アリアは目をきらりと光らせ、魔獣の包囲網のうちひとつを強引に突破した。
切り裂かれ、吹き飛ぶ獣たち。
「こっちよ、皆走って!」
「よしきた……!」
ウェルスは追ってくる鳥型魔獣をライフルで撃ち落とすと、ポケットから治癒魔力を内包したシェルを取り出し、ライフルにオプションされたグレネードランチャーにセット。仲間の進行方向へと発射した。
空中で炸裂した弾から治癒力をもった魔力粉末が降り注ぎ、魔獣たちの追撃を緩和する。
「隠れ里(ミストルティン)はきっとすぐそこだ。急げ!」
●ミストルティン
深い木々と草を抜ける。
突如明るい場所に出たナバルは、ゴロゴロと転がるように地面に倒れた。
「う、動くな!」
そんなナバルに突きつけられる弓や槍。
恐怖と敵意の表情を浮かべたヨウセイたちが武装し、こちらを強く威嚇していた。
「うごくと殺す!」
「お前は誰だ!」
「喋るな! 殺すぞ!」
「うつ伏せになれ!」
「動くなと言ったはずだ!」
それぞれ矛盾した要求を出し、今にも襲いかからん勢いだ。
仰向けになったナバルは。
「……っぷはー!」
武器を放り投げ、大の字に伸びた。
「話聞くから、ちょっと休ませて! ほんとにしんどかったんだ!」
まるきり敵意のない様子に、ヨウセイたちは言葉を詰まらせた。
ばたばたと女子供を粗末な小屋のなかに逃がした男たちも、こちらを見定めるような目で見ている。
後を追うように、ウィリアムとアダムが跪いて武器を眼前に置いた。
意味のある言葉と喋って伝えるのは、この後だ。
ウィリアムは小声で他のメンバーにも同じように膝を突くように伝えると、こうべを垂れたまま暫く待った。
ウィリアムいわく。
感情が高ぶった人間や、敵意をむき出しにした人間に対し、理論的な説得はかえって逆効果になることがある。
まずは相手の感情の波が下がるように促し、理論的な対話ができる段階にまでもっていく必要があるのだ。
柔らかく噛み砕いて言うなら……『理屈の前に感情を納得させよう』である。
相手が静まったのを確認し、うち一人が代表となって話しかける段階。
「お前たちは何だ?」
それを期に、アダムたちはやっと顔を上げた。
「イ・ラプセルの自由騎士だ。シャンバラとの戦争を行なっている」
「今は橋頭堡を築き、圧政下にある種族の救済と保護にあたっているんだ」
「ヨウセイさんは特にって聞いてたから……心配しないでください。他の里のヨウセイさんたちも一緒です」
「イ・ラプセルは種族で差別したりしない。シャンバラみたいに、こうして隠れて生活する必要もないんだ」
エルシーやアデルが続けて説得にあたると、ヨウセイたちは困惑したように顔を見合わせ始めた。
「それは、本当なのか? 我々を引きずり出すための嘘じゃあ……」
「信じて貰うためなら、出来る限りのことをする」
ヨーゼフは戦闘と森の恐怖がまだ抜けていないのか、呼吸を荒くしながら付け加えた。
ここはヨウセイたちの隠れ里。
人権すら与えられず虐げられてきた種族が寄り合って暮らす小さな場所だ。
礼儀作法やルールはなく、ただ皆、同じ対象を恐怖し、おびえて暮らしていたのだ。
そんな相手に接するなら、できるだけ正直である必要があった。
嘘や邪心は、きっと伝わる。
理論的な証拠を提示するのは、その後にすることだ。
それから暫くして、自由騎士たちは持ち寄った話を聞かせたり自由騎士の印を見せたりすることで、里の代表者から一定の信用を得るに至った。
一部の人々はまだ半信半疑でいるようで、里の代表がゆっくりと説得し、保護に移すことになるだろう。
ウェルスとアリアは、代表者のヨウセイに魔獣のことを尋ねてみた。
「『闇色の森』にすまう魔獣たちは、一体何なんだ? あなたたちが作り出してるものかと思ったが、どうも違うらしい」
「はい、我々もあれがなんなのか知りません。ただ、立ち入った者を排除するのは確かなので、森のなかに存在するこの安全地帯に身を寄せているのです。なぜここだけが安全なのかも、私たちには……」
「なら、ここから全員で外に出るには?」
「一つだけ方法はあります。地下に掘った穴がありますので、それを通じて外へと出ることができます。元々は一部の連絡員が外の様子を探るためのものでしたが、彼も命を落としたようで……」
通路は乾燥した藁で埋め、簡単には通れないようにしているらしい。
森の外に出るのは、それらを取り除く作業をしてからになるだろう。
「今日は里に宿泊していってください。あまり居心地のいい場所では、ありませんが……」
こうして、ヨウセイの隠れ里は長い年月をこえ、外の世界へと出ることになった。
彼らがこの先どのように生きていけるかは、きっと、自由騎士たちの戦いにかかっているのだろう。