MagiaSteam
囚われのジローとケモノ連合




「どうやらここのようですな……」
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)は怪しい雰囲気の店の前に居た。
 先ほど商店街を歩いているときにふいに渡された一枚のチラシ。

『貴方が見たことも聞いたことも食べたことも無い麺、あります』

 反応しないワケも無かった。
「チラシにあった麺を頂きたい」
 フードを被った怪しい店主がジローを迎える。
「ひぇっひぇっひぇ。これはこれはいらっしゃいませ。少し時間がかかりますでな。これでも飲んでお待ちくだされ」
「おお、かたじけないですぞ。ちょうどのどが渇いておりました」
 ジローは出された飲み物を一気に飲み干す。
「では、もうしばらくお待ちくだされ」
 店主が店の奥へ消える。
「楽しみですな……うむ……」
 ジローは突然猛烈な眠気に襲われる。
「……すぴー……すぴー」
 ジローは机に突っ伏し、寝息を立て始めた。たいそう立派な鼻ちょうちんつきで。


『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)は集った自由騎士に一通の書状を見せた。

 ちょおせん状

 自由きしへ!
 おまえたちの大じななかまはあずかった。
 返してほしければオレたち6人としょうぶしろ!
 明日のおひる12じに、町はずれのサミュエルの丘で待つ。

 ぜったい逃げるなよ。
 来ないとオレたちまちぼうけでカゼをひくかもしれないぞ。
 あ、あとなかまにひどいことをするぞ。ほんとだぞ!!

 ケモノれんごう

「なんだこれ……」
 自由騎士も困惑する。
「実はな……」
 テンカイの話すことの顛末はこうだ。最近その活躍により広く知られるようになった自由騎士団。これに対してこれまで王国を守ってきた王国騎士団に憧れ、目標としてきた亜人の子達はどうにも面白くない。本当に自由騎士団はすごいのか、実力を試してやる! と息巻いて……ということらしい。
 聞くとまだ幼さの残る少年少女達だが、みな日々厳しい鍛錬を行っており、その実力はなかなかのものだという。油断したら足元をすくわれるかもな。テンカイが真面目な顔でそういった。
「ジローの無事は確認済みだが……これは立派な犯罪だ。しっかり懲らしめてやってくれ」
 テンカイは頼むよというと部屋の奥へと消えていった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.ケモノ連合に実力を示す
麺です。今無性に塩ラーメンが食べたいです。

純戦依頼です。立場が変われば、その考え方も大きく変わるものです。
王国騎士に憧れるが故に、それ以外をよく思えないケモノ連合のメンバー。
直接手合わせすることで自由騎士のすごさも理解してもらえると思います。


●ロケーション
 首都より少し離れた小高い丘。
 遮蔽物などは何も無い、決闘にはちょうどいい場所。
 そこで6人のケモノビトが待ち構えています。
 1回戦1対1、2回戦2対2、3回戦2対2、4回戦1対1の合計4戦です。
 降参するか、戦闘不能になったら終了です。
 傾向として皆、自由騎士が少々本気を出しても大丈夫な程度にはタフネス。
 手加減しては足元をすくわれるほどの実力はありますので遠慮は無用です。

●登場人物

『ケモノ連合』

・トビー・トビー 
 10歳男。サルのケモノビト。格闘スタイル。お調子者。
 武器はナックル。流れるような連続攻撃と高い回避力が自慢です。
 ランク1のスキルを複数所持。ケモノ連合の特攻隊長。勉強は苦手だが格闘センスは高い。挑戦状を書いた張本人。
 韋駄天足と空中二段飛びを所持。
「ボクのこーげき、かわせるモンならかわしてみてよっ!!」
 第1戦で戦います。

・リサ・リサ
 12歳女。ウシのケモノビト。重戦士スタイル。立派な角と豊満な体型。
 武器はスレッジハンマー。高い攻撃力が自慢です。
 ランク1のスキルを複数個所持。アイドルオーラとフェイクデスを所持。
「ふふー! 自由騎士ってどのくらい強いのかなー。リサ楽しみー!」
 第2戦で戦います。

・ロン・ロン
 13歳女。ネコのケモノビト。魔導士スタイル。美形。
 武器は魔導書。高い魔導力が自慢です。
 ランク1のスキルを複数個所持。セクシーとフェロモンを所持。
「美しく戦い、美しく勝つ。それが私の信条ですわっ」
 第2戦で戦います。

・イーゴ・イーゴ
 15歳男。穿山甲のケモノビト。重戦士スタイル。年齢とかけ離れた逞しい体躯。
 武器はロングソードにラージシールド。並外れた体力が自慢です。
 ランク1のスキルを複数個所持。威風と武人を所持。
「語ることなど無い。剣を交わせばわかること」
 第3戦で戦います。

・ドルク・ドルク
 11歳男。ヒョウのケモノビト。軽戦士スタイル。チャラい。
 武器はダガー二刀流。その素早さが自慢です。
 ランク1のスキルを複数個所持。モテキとリュンケウスの瞳を所持。
「ちょりーっす! 自由騎士って美人のおねーさんもいるのかなっ」
 第3戦で戦います。

・ラッシュ・ラッシュ
 10歳男。クマのケモノビト。ガンナースタイル。達観者。立派な太い眉。
 武器はデリンジャーx2。正確無比な命中力が自慢です。
 ランク1のスキルを複数個所持。勇者と魔王を所持。
「オレを本気にしたら……アンタ、きっと後悔するぜ」
 第4戦で戦います。
 
・『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 眠らされて椅子に縛り付けられています。

ご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2018年12月31日

†メイン参加者 6人†




 首都郊外。サミュエルの丘。
 ケモノ連合に呼び出された自由騎士達はその丘に来ていた。
 そこには自由騎士たちを待ち構えるケモノビトの少年少女達。椅子に縛られたジローの姿もある。
「よく逃げずに来たな!! その心意気は褒めてやるっ!!」
 挑戦状を出した張本人、トビーは心なしか安堵の表情を浮かべている様にも見える。
「俺達と正々堂々戦え! 自由騎士!!」
(未来の後輩候補かもだけど……ジローを誘拐しておいて『正々堂々』とかっ!) 
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は珍しく怒りの感情をそのまま表情に出している。所謂ぷんすか状態だ。
「ミタホーンテン卿…いえ、ジロー兄さん! 同じく麺を愛する者として、何としても助けなければ」
『異邦のサムライ』サブロウ・カイトー(CL3000363)は兄(?)の事で気が気でないようだ。 
(麺をエサにされたら、そりゃあ引っ掛かるわよね……待っててね、ジローさん。すぐに助けますから)
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は状況を鑑みた。結論はジローなら仕方ない。まぁその通りである。
「はぁ?ジローはんも阿呆やんなぁ。そないなどーしょうもないもんに騙されはって……」
 第一報を聞いた蔡 狼華(CL3000451)はため息をつきながらそう言った。これもまぁ致し方ない。その通りである。
 こうして自由騎士VSケモノ連合の試合の火蓋は切って落とされた。


 第1戦 トビー・トビー VS サブロウ・カイトー

「お兄ちゃんがボクの相手? ボクこう見えて結構すごいんだけど……大丈夫?」
 トビーはぴょんぴょんと跳ね、身軽さをアピールする。
「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」
 サブロウは軽く安い挑発を流し、戦闘態勢へ。
 目的はただの討伐でなく、力を示す事。サブロウは此度のこの状況の本質を考える。
「となれば、やはり正攻法ですね」
 一番簡単に相手に実力を認めさせる方法は、相手の得意分野で凌駕すること。
(トビー君には申し訳ないですが……ちょっと大人げないくらいに全力で参りますよ)
「じゃぁいっくよーーーっ!!!」
 トビーが勢いよくサブロウへ向かっていく。
(この打ち込みのスピード……踏み込みのタイミング……)
 なるほど自信を持つだけの事はある、とサブロウはトビーのナックルを太刀で受け止めながら感心する。
「へへっ!! 守ってるだけじゃボクには勝てないよっ」
 サブロウが攻撃に転じないのをいい事に、トビーはまますます調子に乗る。
 得意げに空中二段飛びから放つ拳はサブロウに鈍い衝撃を与える。
(そろそろですかね)
 サブロウが大きく息を吸う。
 ガキィィン。サブロウの太刀がトビーの拳を弾く。
「へへっ。さすがに一方的にはいかないか」
 なんて鋭い太刀筋──トビーは弾かれた拳に鈍い痺れを感じていた。
「それでは本気でいきますよ」
 サブロウが集中しその速度を強化する。
「させな──」
「遅い!」
 サブロウの強化を見たトビーはすぐに反応した……のだが。
 サブロウへ向かっていったトビーの横にはサブロウの姿。影狼で一気に近づいたサブロウがトビーの虚を突く。
「くふっ。その技はっ!?」
 トビーは動揺していた。格闘スタイルで修行中のトビーが未だ習得しえぬ技。それを違うスタイルのはずのサブロウがいとも容易く使いこなしているのだ。
「くそっ!!」
 トビーが繰り出したのは自身がもっとも信頼する空中二段飛びからの拳の打ち下ろし。
「いくぞっ!!! ……いないっ!?」
 トビーが目線を向けたサブロウが居た場所には何者の姿もない。
「これで終わりです」
 トビーの頭上から声がした。
 疾風刃・改──ラピッドジーンで極限まで引き上げた速度をすべて乗せた攻撃はトビーを打ち抜く。
 トビーの意識は途切れた。

 第1戦はサブロウの勝利。全てにおいてサブロウが一枚上手であった。

 第2戦 リサ・リサ VS カーミラ・ローゼンタール
     ロン・ロン    蔡 狼華

「ふふー! 自由騎士ってどのくらい強いのかなー。リサ楽しみー!」 
「美しく戦い、美しく勝つ。それが私の信条ですわっ」
 リサとロンはまるでゲームでも始めるかのような雰囲気だ。事の重大さを理解している様子は無い。
 珍しく言葉数が少ないカーミラ。
「ふふふ、面白いこと言わはるわ」
 不敵に笑う狼華。
「始める前にこれだけは言っとく。人質取って呼びつけるとか小悪党みたいなマネしてるけど、騎士の正義と誇り的にどーなの?」
 腕を組み、仁王立ちのカーミラはリサとロンをまっすぐ見つめ是非を問う。
「そ、そんなのあなた達には関係ありませんわっ!!」
 その鋭い眼差しに気おされたのかロンが言葉を返す。
「私は国防騎士も兼任してる。騎士見習いが騎士に喧嘩を売る意味……分かってる?」
 カーミラの瞳の奥で燻る炎が大きく揺れた。
 開始直後からリサとカーミラの視線が激しくぶつかり合う。お互い一歩も引かないオーラを放つ2人。
 カーミラが柳凪で強化すれば、負けじとリサも奮起する。
 どちらも同じ牛のケモノビト。体型もさることながらバトルスタイルは違えども戦法は似ていた。
 虚を取る事無く、真正面からぶつかる両者。お互いの武器と武器が激しく交差し火花を散らす。
 一方の狼華はラピットジーンで速度を上げた1ターン目こそロンの魔道攻撃を掠らせたものの、その後は俊敏な動きでロンを翻弄し的を絞らせない。
「あーあ。せっかくの着物が台無しやわぁ。これはきちんと御代を頂かないけまへんなぁ」
 ロンの魔導で傷ついた着物の裾に目をやると狼華はロンに向かってにっこりと微笑んだ。
 麺は知っている。こういう話し方をする人たちの笑顔はとても怖いことを。
 ロンも何かを感じたようだ。ぶるりと身震いをすると狼華を近づけまいと呪文を唱え続ける。
「攻撃が単調すぎやしまへんか」
 不意に狼華から放たれた気の刃はロンの足元の地面をえぐり土煙を上げる。ロンが狼華の姿を見失ったほんの僅かな時間。この一瞬が命取りになる。
「ほぉれ、ガラ空きや。……つーかまえたっ」
 狼華のしなやかな手がロンを後ろから優しく包み込む。その手つきに思わずロンは身を縮める。
「なっ!?」
「ほんまもんの美しさ、艶やかさ、見せてやろやないの……」
 狼華の表情が豹変(かわ)る。それは積み重ねた経験の違い。上辺だけの技能ではない。本物の艶がそこにはあった。
「え……!? ええええぇえっぇぇぇっ!?」
 本物(?)を前にロンは思わず声を上げた。
「たぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
 一方正面からぶつかり合うカーミラとリサ。次第に実力差は浮き彫りになる。カーミラのしなやかな体躯から繰り出される手技足技の前に、防戦一方になるリサ。
 始まりこそ先制を取れたリサであったが、カーミラの放つ震撃は徐々にリサから速度奪っていたのだ。それゆえリサは自分でも気付かないうちに、いつしか後手に回る事になっていた。
「くっ! かはっ! こんなはず……じゃっ!!」
「遅いっ!!」
 カーミラの渾身の拳がリサの中心を捉えた。
「……グフッ」
 倒れるリサ。勝負は決まったかのように見えた。
(ふふ、リサが倒れたと思って油断したところに一撃食らわせてやるんだからっ)
 倒れたまま動かないリサの元へ近寄るとカーミラが脚を大きく振りかぶる。
 ぶん──っ。
 空気を裂くような本気の蹴り。思わず転がり避けるリサ。
「なっ!? 倒れている相手になんてこ──」
「やっぱりね」
 カーミラが拳を構える。その目はエモノを狩る者の目。
「ま、待って降参……っ、降参するからっ!!」
「問答無用っ! 我流・神獣撃ーーーーー!!!!」

 リサ、気絶(ノンフェイクデス)。ロン、気絶(恍惚の表情を浮かべ、その身体は上気していた)。
 第2戦も自由騎士の勝利。終わってみれば圧勝であった。
 
 第3戦 イーゴ・イーゴ VS エルシー・スカーレット
     ドルク・ドルク    テオドール・ベルヴァルド

「語ることなど無い。剣を交わせばわかること」
「ちょりーっす! 自由騎士って美人のおねーさんも……いるじゃん!!!!」
 寡黙なイーゴと軽いノリのドルク。対するはエルシーと『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
「お手柔らかにね」
 エルシーはドルクにウィンク。するとなにやらイーゴに耳打ちするドルク。
 1ターン目はお互い自らの強化から始まった。テオドールは息吹で回復を促す。
 動いたのは次の瞬間から。エルシーはまっすぐイーゴへ向かう。
 たぶんパワーやタフネスは彼の方が上。エルシーは楽観視しない。初手で踏み込んだ最速の拳はイーゴの盾によって防がれる。
 そこへドルクが会わせるようにダガーを振るう。
「そこの美しいおねーさん! イーゴより僕の相手してよっ!!」
 ドルクがニカッと笑う。エルシーの思惑通りだった。性格的にイーゴが魔導スタイルのテオドールへ向かうことは無いだろう。そしてドルクもまたエルシーに惹き付けられている。
 エルシーはイーゴとドルクの流れるような連続攻撃を竜の籠手で裁いていく。性格は真逆の2人だがそのコンビネーションは精錬されている。さすがのエルシーも裁くので手一杯だ。テオドールが遠距離から攻撃するも冷静なイーゴの盾はなかなか攻撃を通さない。ならばとエルシーが鉄山靠で盾を貫く打撃を与えるも、イーゴの胆力もすさまじく一歩も引く事無く攻撃してくる。
 熱い攻防は続き、テオドールの息吹効果もあるとはいえエルシーの負担は大きい。
『ここまで想定どおりとは──』
 テオドールはエルシーにテレパスを送りながら魔導力を増幅させる。
 同じスタイルとの戦いでない事に多少の申し訳なさを感じつつも、これはれっきとした果し合い。
「さてあまり時間をかけてはエルシー嬢に負担が大きい。一気にいきますよ」
 テオドールがエルシーと連携するべくテレパスを送る。
 エルシーが目配せした。次の瞬間、エルシーがその場で軽くジャンプした。
 ぽよん。と揺れるエルシーの豊かなそれ。戦闘中もちらちら見られている感はあったのだが──思わずドルクの目が釘付けになる。と、同時にドルクの右腕が緋き炎に包まれる。テオドールの放った緋き炎だ。
「あちちっ!?」
 ドルクが炎に気をとられた瞬間、エルシーが放ったのは緋色の衝撃。その拳には様々な想いが乗る。特に彼氏がいるの羨ましい!ぐぎぎ!という気持ちは拳の威力をぐんと引き上げる。引き上げていると思う。たぶん。でもちょっと怖い。
「こふっ……あとで連絡先……おしえ(ばたっ)」
 ドルク散る。これはしょうがない。目の前でぽよんとなったのだ。目を逸らす訳にはいかない。男とは悲しい生き物なのだ。
「さて、後はあの強固な守りをうちやぶりましょうか」
 その後イーゴは一人奮闘するも、エルシーの盾を貫く衝撃とテオドールの凍結魔導により自身の勝ち目が無いことを知る。ふうと息を吐くと構えを解く。
「……降参する。私の負けだ」
 剣と盾を置き、深々と頭を下げるその様子は、自由騎士も感心するほど潔いものだった。
 こうして第3戦は終了した。経験の差──エルシーとテオドールの完全なる読み勝ちであった。

 第4戦 ラッシュ・ラッシュ VS ウェルス ライヒトゥーム

「オレを本気にしたら……アンタ、きっと後悔するぜ」
 到底10歳とは思えない達観した言動のラッシュに対し、マントを羽織り、包帯でその立派な毛並み全てを覆った『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。そこには敵に対して僅かでも情報を与えまいとするウェルスの考えがあった。
 油断など欠片もしない。対戦者に対してのウェルスなりの答えだった。
 そしてこの戦いは凡その想像とは違う形となる。
 双方、クマのケモノビトでガンナー。自ずと遠距離狙撃戦になる──自由騎士の誰もがそう思っていた。
 だが始まって早々に銃を構えたラッシュに対し、ウェルスは歩を前に進めた。
 同じ土俵で戦わず、相手を圧倒する。ウェルスが状況を的確に感じ取り、揺らがぬ心で導き出した回答がそこにあった。
「こちらに向かってくる……だと!?」
 相手に無傷で近寄るスキルなどウェルスは持っていない。当然ラッシュの放つ弾丸はウェルスを打ち抜く。
 銃声の数だけウェルスの身体を弾丸が貫く。だがその歩は止まらない。
 ロストペイン──かの道化師がいたずらに自由騎士へ伝えた痛みを消すアレイスター魔法。ラッシュはその恐怖を味わう事になる。
(なぜだっ!? これだけの銃弾を受けてなぜ倒れない?)
 ラッシュは達観している。ケモノ連合の前でも動揺した様子などこれまで見せた事もない。子供らしさの欠落したラッシュは異質な存在だった。
「何故!? 何故!? 何故?! 何故──」
 ラッシュにはウェルスの行動を理解する事が出来ない。ラッシュは何かに取り付かれたかのようにウェルスへ銃弾を打ち込み続ける。
(もういいだろ。倒れろ……倒れろっ……倒れろっ!!!)
「捕まえた……ぜ。まだやるかい?」
 そこには全身から血を流しながらも超至近距離で銃を構えるウェルス。このまま銃を放てばウェルスの勝ちは揺るがなかったであろう。
 幾度無く放たれた銃撃により包帯は外れ、ラッシュはウェルスが自分と同じ容姿をしていることに気付く。
 一人で生きていくために自らで武装した心。達観する事で守ってきた自己はその子供らしさを取り戻す。
「ご……ごめんな……さい。うわぁぁぁぁあああ」
 大粒の涙を流し号泣するラッシュ。そこには年齢相応のクマの子供がいた。
 力押しする訳でも無く、相手を軽視する訳でもない。
「これが大人の勝ち方だ」
 そういうウェルスの目は優しかった。
 
 第4戦。ウェルス勝利──。


「ごめんね、痛かった?」
 エルシーはケモノ連合の皆を手当てしている。
「……というわけで! 良き騎士を目指すなら、たとえ千年冷遇されても耐える覚悟を持たなきゃダメだよ!」
 ケモノ連合の皆に訥々とお説教をしているノのはカーミラ。
 国を守る騎士に上下などない。それぞれが常に役割をしっかりと果たしているからこそ、国は国として成り立つのだ。仮にも騎士に憧れ、騎士を目指すものがこのような行動に出た事がカーミラにはどうしても許せなかったのだ。
 そういうものじゃない──カーミラの言葉は熱を帯びる。思いが強いからこそ本気で今しっかりと伝えなければならない。カーミラの思いは確かにケモノ連合一人ひとりの心に響いていた。
「カーミラさんの言う通りですよ」
 そこにサブロウがあわせる。
「実効戦力の国防騎士と、機動力の自由騎士。両者はいずれも護国の車輪とでも呼ぶべき関係であって、どちらが欠けても、イ・ラプセルは守れないのです。どちらが偉いとか優れているとか、そんな議論に意味はありません」
 サブロウは自由騎士と王国騎士の役割の違い、そして重要性を改めて解く。
「とはいえ──自由騎士は枠に囚われない広い範囲の依頼を受ける事もあります。それにより国民との距離が近く、賞賛を得やすいという部分はあるかもしれません」
 まぁホント色々やりますからね──サブロウは少々困ったような、ばつの悪そうな表情。
 自由騎士と言えども、賞賛や喝采の中だけで仕事をこなしているわけではない事は伝わった事だろう。
「皆が自由騎士団の事も好きになってくれたら、お姉さんうれしいな」
 そういうエルシーに真っ先に答えたのはドルクだ。
「はいっ!! 超好きっす!! 自分、自由騎士超~~~好きになったっす!」
 そういってドルクはエルシーの手を握る。求愛でもしそうな勢いだ。
「こらーーー!! アンタの場合、好きになったのは自由騎士じゃないでしょ!!」
 ロンに頭を叩かれるドルク。ケモノ連合の日ごろの関係性が垣間見えるようだ。
「ふふふ、少しは自由騎士ってもんがどないなもんか分からはったな?」
 そんなケモノ連合の面々に狼華はゆっくりと語りかける。
「多数に認められるっちゅー事はそれ相応の理由があるもんなんえ。あんたらが王国騎士団を信望しとるんはええ事やし、その為に鍛えはるんは正義やと思うわ。けどなぁ、その他を貶めはってもええ事はひとつも無いよ?」
 まぁ、うちが言えた事や無いけどな──狼華は僅かに表情を変えながらそんな事を呟いた。

「……ごめんなさい」
 ケモノ連合全員が一斉に頭を下げる。その顔には反省の色が浮かぶ。
 その顔を見て彼らはもう二度と同じ過ちを犯すことは無いだろうと自由騎士達は確信する。
 こうして自由騎士の実力を直接感じ取ったケモノ連合のメンバー。ジローが無傷である事やウェルスからの進言もあり、重い罪に問われる事は無かった。
 そして今回の一件で彼らには新しい目標と憧れが生まれた。更に修行を積み逞しくなった彼らが自由騎士団の門を叩くのはもう少し先の話だ。

「ミタホーンテン卿、起きられよ。折角の麺が伸びてしまうぞ」
 テオドールが縛られていたジローに声をかける。
 ぱちん。と鼻ちょうちんが割れ、ジローが寝ぼけながらも反応する。
「麺が延びるとは一大事!! 一刻も早く食べなければなりませんぞーーっ!! で、どこに!?」
「……ぷっ」
「あははは」
 いつも通りのジローの様子を見て、皆は笑っていた。


「で、このあと亡くなったんですよね……」
 通りすがりの慎ましやかなお胸の自由騎士は悲しげな表情でそう言った。

 \それ、デマですからーーー!!!/

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『艶師』
取得者: 蔡 狼華(CL3000451)

†あとがき†

これによりケモノ連合の自由騎士を見る目は大きく変わりました。王国騎士団を尊敬するように自由騎士団もまた尊敬し、目指す目標となることでしょう。
彼らの成長はこれからも続きます。きっとまた手合わせする日も来るかもしれません。

MVPはケモノ連合の皆をしっかり叱った貴方へ。

ご参加ありがとうございました。
感想など頂ければ幸いです。
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