MagiaSteam
ハッピーエンドをあなたと




 むかしむかし、あるところに。
 豊かな土地を手慰みがてら滅ぼそうとする魔王がおりました。
 その地に住まう民は苦しみ、豊かな土地は荒れ、豊かな姿は見る影もなくなっていきました。
 このまま滅ぼされるだけかと思われましたが、魔王の前に、ひとりの者が立ち塞がりました。
 民はその者のために祈り、その者はその心を束ね、ついに魔王を討ち果たしたのです。
 その者は、いつしか誰からも勇者と呼ばれるようになりました。――――めでたし、めでたし。


「なあに?」
「ああ、いやなんでもない。なんでもないんだが――」
 手渡された台本にさっと目を通したニコラス・モラル(CL3000453)が、軽く頬を掻く。その姿を見た彼の娘であるステラ・モラルは、きとりと鋭い視線を投げた。
 療養所の子供たちのために演劇をしてほしい。
 ――そう言って手渡された台本は、よく言えば素直で、悪く言えば捻りがない。
 まあ、見るのは子供たちだから、彼らが盛り上がってくれるならばそこまで凝った話でなくともいいのだろう。
「声掛けてみるか。自由騎士はこういうイベントが好きなのも多いしな」
「そうよ。わたしが困ったときには必ずたすけてね。約束よね?」
 そう言ってすこし意地悪そうに笑って見せるものだから。可愛い娘のお願いを断れるはずもなく。
「演じて欲しいのは、勇者と魔王と……、それから祈りの民。細かいところはお任せするわ」
 機械の指を折りながらそう言った彼女は、何かを思い出したようにぱっと顔を上げて。
「ああ、でもお父さんは勇者はダメよ。似合わないもの」
 父に対して娘は、ちょっぴり意地悪だった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
リクエストシナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.療養所の子供たちを楽しませる
2.自分たちも楽しむ
 やっぱりご無沙汰しております、あまのいろはです。
 リクエストありがとうございました!


 このシナリオはニコラス・モラル(CL3000453)さんのリクエストによって作成されたシナリオです。
 申請者以外のキャラクターも参加することができます。
 なお、依頼はオープニングが公開された時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。


 療養所にいる子供たちのために、演劇をしてほしい、との依頼です。
 テーマは「平和」「願い」「愛」「希望」など、前向きなもの。
 あんまりにも現実的すぎると子供泣いちゃうからね。楽しませてあげてね。

 任される役は、勇者、魔王、祈りの民数名。
 役を増やしたり、子供たちや依頼人であるステラ・モラルさんを巻き込んだり、台本の改変や変わった演出など自由に演じてください。

 舞台のセットや必要なものの持ち込みなどはあまり気にしなくて構いません。

●場所
 アデレードにある療養所です。

●同行NPC
 サミュエル・マシューズ(nCL3000049)、
 ペコラ・ココペコラ(nCL3000060)のふたりが同行します。

 要望があれば舞台に上がりますが、特になければ観客としてみています。
 何か指示がある場合は、相談ルームにて【サミュエル】【ペコラ】と書いて、100文字程度で指示したいことをお書きください。
 出発時、一番最新の指示のみを参照いたします。

●補足
 みんなで楽しく芝居をしようぜ!という依頼ですので、どうぞ皆様も楽しんでくださいませ。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  2個  1個
2モル 
参加費
100LP
相談日数
7日
参加人数
3/6
公開日
2021年01月09日

†メイン参加者 3人†




「それで、何の役をするの? 勇者が似合わないお父さん?」
「へいへい、勇者がダメなら魔王やるしかないじゃーん」
「それはそれは、とっても似合ってるわ」
 実の娘であるステラ・モラルにそう言われた『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)は、分かりやすく肩を竦めてみせた。
 自分に向けるすこし意地悪そうな笑い方すらも愛らしく見えるのは、親の贔屓目だけではないとニコラスは思う。だって実際どう見ても美人だよな、美人。
 そんな彼の思いに気付くこともなく、ステラはくるりと他の自由騎士たちへと向き直った。水のような髪がふわりと波打つ。
「それで、勇者は?」
「ボクです……」
 作り物の剣を片手に、『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズが気まずそうにそろっと手を挙げた。
「随分頼りなさそうな勇者ね?」
「いやもう本当その通りで……」
 療養所で行われる演劇の手伝いと聞いてきたら、任されたのはまさかの主役。
 ただの靴磨きである彼が人前に立つなんてことはそうそうない。もちろん、演劇の経験だってさっぱりだ。
 不相応な役を任され、緊張しきっているサミュエルの肩を『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)がぽんと叩いた。
 祈りの民を演じるマグノリアの衣装は、いつものかっちりした服と雰囲気が変わって、ふわふわと愛らしい。
「大丈夫、劇はみんなで作るものだよ」
 そう言って微笑むマグノリアはとても心強い。心強いけれど――。
「勇者はマグノリアさんでもよかったんじゃ!?」
「いや、僕はペコラと祈りの民をするからね」
 さらりと流された。
「がんばってね、サミュちゃん!」
 名前を呼ばれた『ふわふわ演算士』ペコラ・ココペコラはぱっと顔を上げると、ぐっと拳を握って笑顔で応援。――違う、欲しいのは応援の言葉じゃない。
「大丈夫、僕たちもフォローするよ」
「たぶんなんとかなるのよ、当たって砕けろ!ってやつなのね」
「砕けたくないんだよ僕は」
 やっぱり諦めきれないサミュエルはくるりと振り返って、その場に居るもうひとりの人物に助けを求める。
「瑠璃彦さんは!?」
「はっはっは。既に役者も揃っているのだから、あっしは裏方として働かせていただきますぞ!」
 最後の頼みの綱でもある瑠璃彦 水月(CL3000449)にも、やっぱり流されてしまう。
 もう開演直前だというのにやんややんやと賑やかな様子を見て、ステラはちいさくため息を吐いた。
「……この調子で本当に大丈夫なの?」
 お父さんは頼りないんだから、と口を尖らせる姿を見てニコラスがふっと笑う。
「やる時はちゃーんとやるから、問題ないな。……知ってるだろ?」
「…………そうね」
 ちいさくそう呟きながら、ステラは視線を逸らす。その仕草が愛らしくて頭でも撫でてやろうかと手を伸ばしたら、ふいっとさりげなく避けられた。
「はいはい、そろそろ開幕の時間よ!」
 そんなふたりの様子を見ていた誰かに何かを言われる前にと、ステラは舞台へと自由騎士たちを送り出す。ひらり、笑顔で手を振って。
 ――それじゃあ、私は観客席に行くわ。素敵な劇を見せてくれるのを、楽しみにしているわね。


 ――むかしむかし、あるところに。とても豊かな土地がありました。
 舞台はマグノリアのナレーションで幕を開ける。声帯変化で愛らしく、それでいて聞き取りやすく変えた声は、子供たちを演劇の世界へと誘っていく。
 ――ひとびとはとても幸せでした。その幸せがずっと続くと思っていました。
 照明に照らされた青々とした木々や咲き誇る花々は、まるで本物のようだった。子供たちがわあ、と喜ぶ声が聞こえる。
 ――けれど、その幸せはじわじわと崩されていったのです。そう、魔王の手によって!
 美しかった舞台のセットが姿を変えていく。まるで魔法とでもいうような演出に、子供たちは更に舞台へ釘付けになる。
(…………へえ、随分と凝ってるのね)
 観客席から演劇を見ていたステラは思わずほうと感嘆の息を吐く。正直、想像以上だ。――けれど。
『……まずは豊かな土地からだ。そうすれば人間どもは飢え、飢えを解消する為に互いを殺しあう。我々が直接全てを滅ぼすまでもない。実に滑稽だな』
 どこか禍々しい豪華な椅子に腰掛けて、膝を組みくつくつと不穏な笑顔を浮かべる父を見て思う。
 ――これはちょっと、本格的すぎやしないだろうか!!
 本物の役者顔負けの演技。本物のようなセットの舞台。
 いや、全然問題はないのだけれど。むしろ喜ばしいことなのだけれど。
『あぁ、だが懸念はある。このような時、この地に勇者が現れるという伝承があったな。力を持たぬうちに探し滅ぼせ。いいな』
 父を勇者だと思ったことはないけれど、魔王とまで思ったこともなかった。
 けれど、目の前で魔王を演じる父は、すっかりその様が板についている。つきすぎている。
 自分の言葉のせいで父が張り切っているのかもしれないことは、ちょっと頭の隅へと追いやっておくことにした。
『滅ぼせ、根絶やしにしろ。全ては魔王である俺の為に!』
 そう言ってふははと高笑いをしながらニコラスがマントを揺らせば、彼の傍らに雷光の翼を持った大精霊サンダーバードが現れる。
 呼び出されたそれが翼を羽ばたかせると、舞台の上でばちりばちりと雷光がいくつも弾けた。
 ――――え、待って。スキルまで使っているの?
 目の前で行われた『演技』を見て呆気にとられていると、くつりと意地悪そうに笑うニコラスとステラの視線がぶつかった。
 どうだ、とでも言いたそうなその顔は気に入らないけれど。ほんのちょっとだけ格好よく見えてしまうのは舞台演出のせいに違いないと、ステラは口を尖らせた。

 ひとりでこの舞台のセットを操っていた瑠璃彦は、満足そうな子供たちやステラを見てにんまり笑う。
(なれると裏方と言うのも案外楽しいものですぞ)
 真っ黒な衣装に全身を包んだ瑠璃彦は、スキルもフル活用してあちらこちらへと飛び回りながら裏方の仕事に務めていた。
 演技を際立たせるための照明を。場を盛り上げるための音楽を。役者の化粧から、そのサポートまで、瑠璃彦はほとんどひとりでこなしていた。
(煌びやかな表舞台を演出するためには、裏方の作業をする者も必須ですからな)
 故郷、アマノホカリでも能や神楽といった様々な舞台はあった。
 イ・ラプセルの舞台にはあまり馴染みのない彼だったけれど、裏方の仕事があって舞台が輝くというのは、どこの国でも同じなのかもしれない。
「……おや、随分とお疲れですな。やはり花形は大変でしょう」
 魔王の場面を終え、一度舞台裏へ下がったニコラスへ瑠璃彦がすすっと水を差し出す。それを受け取って喉を潤すと、ニコラスはふうと息を吐いた。
「……ちょっとこれおじさんには荷が重かったかもしれん」
「何を! とても立派に演じておられましたぞ!」
 瑠璃彦がふにふにと手を叩く。雑談に興じながらも、舞台からは目を逸らさない。――場面は、勇者と祈りの民たちへと変わっていた。
『……どうしてこんなことに……。やっぱり魔王の仕業なのね……』
『希望を捨ててはいけないよ、この土地には伝承があるでしょう』
 美しかった土地は荒れ、悲しむ民――ペコラの背をマグノリアがそっと支える。
 そうして語り始めたのは勇者の伝承のこと。魔王はそれを恐れていおり、だから執拗にこの地を狙うこと。
『こんな時だからこそ私たちは手を取り合わないと。きっと勇者は現れるよ』
『ええ、泣いてばかりじゃだめね……!』
 固く手を握ったふたりの後ろで話を聞いていた少年――のちに勇者となるサミュエルがすっと立ち上がった。ぱっとライトが彼ひとりに落とされる。
『勇者じゃないけれど、僕が行くよ。この土地が好きだからね』
 ――それが、勇者の旅の始まりだったのです。
 マグノリアのナレーションに合わせて舞台は暗転。セットを変えるために瑠璃彦がささっと動く。
「それではニコラス殿、あっしは仕事に戻りますぞ」
「おう、任せた」
「黒子は黒子らしく、影に潜むのですぞ……」
 スキルを活かして素早く目立たず、カサカサカサカサと動き裏方の仕事をこなす瑠璃彦。その動きはどこか人離れしており、どちらかというと虫のようにも見えて……。
「……すまん瑠璃彦、ちょっと怖いぞ」
 彼のスキルのおかげで子供たちに気付かれず、滞りなく舞台が進んでいくのは幸いだった。だって、子供が見たら泣いちゃいそうだもの。

 魔王ニコラスと勇者サミュエル、祈りの民であるマグノリアとペコラが舞台の上で熱心に演じ。くるりくるりと変わる場面と演出を瑠璃彦が支えて。
 羽の生えたリスのような妖精や、祈りの民の力を借りて勇者は旅を続ける。――気付けばもう、魔王の城は目の前。勇者は城へと足を踏み入れる。
『へぇ、よく来たな。伝承は本当だったか』
『これ以上の悪事は許さない、僕はお前を倒す!!』
『許さないと、どうしてくれるっていうんだ?』
 魔王は不敵な笑みを浮かべて、禍々しい剣をすらりと抜く。勇者が剣を構える前に、剣を振り下ろした。子供たちの悲鳴が上がる。
『……ほう。口だけではないようだな?』
 なんとか受けてみせた勇者を嘲笑うように、魔王の攻撃は止まらない。苛烈な太刀筋に、勇者は受けるのがやっとだ。
 実は演技ではなく、本当に受けるのがやっとだった。剣にも覚えがあると言っていたニコラスと違って、サミュエルはさっぱりだ。
 子供たちは大いに盛り上がっているけれど、――ガチな緊迫感から作られる迫真の演技だということを、子供たちは知らない。
『より良くありたいとお前たちも願うだろう! それの何が悪い!』
『悲しむ声を知らないからそんなことを言えるんだ――!!』
 魔王と勇者が動きを止め、舞台の端に居る祈りの民へと照明が向けられる。
『土地は枯れ、植物は実らなくなりました』
『それだけでは飽き足らず、ひとにも手を出し……、盛大に私の胸を揉まれたのです……!』
 マグノリアからの告発に、ニコラスの動きが思わず止まる。
 ちがうよおじさん本当にはしてないよ。演技だよ。でもステラの視線が刺さる気がして、ちょっと怖くてそちらを見れない。
 のちにマグノリアはこう語った。――魔王ニコラスの悪行はこれしかないと思ったと。そのために胸に詰め物もしっかり入れたのだと。
『こんなイタズラ許せません! 懲らしめて下さい勇者様……!』
 祈りの民を照らしていた照明がぱっと消えて、また勇者と魔王を照らし出す。
『悲しむ声を確かに聞いたんだ! それを知らないというのか!』
 知らないって言いたい悪事もあったけれど。まあ、それは、置いといて。
 勇者と魔王の戦いは続き、勇者が剣を受け、お互いの動きが止まったその瞬間。照明が観客席にいるステラをぱっと照らした。
 何が起きているのか分からずに、ステラは目をまるくしてぱちくり瞬く。そんな彼女へマグノリアは歩み寄ると、すっと手を差し出した。
『ああ、やっと見つけました……!!』
「……え?」
『あなたは本当は魔王の子……。けれど、あなたは優しい心を持っています』
「えっ!!?」
『あなたの優しい心と言葉で語りかければ、彼すら救えるかも知れません……』
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 その場から後ずさろうとしたステラの手をマグノリアがすかさず握る。
 『演技』の真っ最中で子供たちが見ている手前、その手を振り払うこともできず、ステラの顔に思わず引き攣った笑顔が浮かんだ。
「わ、私にそんな力はないわ」
『確かに私たちの力は弱いかもしれません……』
「そうよ、弱いのよ! だから勇者がいるでしょう!!」
『彼とて元はただの民です。誰かを守りたいと思うとき、ひとは誰しも勇者になれるのです』
 雰囲気を壊さずにお断りをしようとするステラの言葉ひとつひとつを、マグノリアはすべてアドリブで打ち返す。
 その間にも握った手は緩めず、さあ舞台の上においでと目で訴えていた。
「………………」
 ステラが戸惑っている僅かな間に、照明がまた舞台も照らした。サミュエルがステラを見るとぱっと手を伸ばし――。
『――――どうか、手を!!』
 物語の主役にそう呼びかけられてしまえば、もう逃げることなんて出来なくて。ステラは唇をくっと噛むと、舞台の下からその手を取った。
「ああ、もう! どうにでもなればいいわ!!」
 ステラはそのまま舞台へと駆け上がる。――最後のひとりである役者も揃ったのだから、目指すエンディングはひとつしかない。そう、もちろん、誰もが笑顔のハッピーエンドだ。


 勇者の仲間が増えてそのまま魔王を倒して一件落着――、とはならなかった。魔王は子供を浚うと、あろうことか盾にしたのだ。
 動きが取れない勇者、それに付け込む魔王。ニコラスが観客席から浚ってきた子供たちは、魔王と勇者に挟まれてぷるぷると震えている。
『子供たちを返して欲しいなら、剣を捨てることだな』
 勇者は言われたとおりに剣を捨てる。けれど、魔王はにんまり笑うと――。
『愚かなことだな、魔王の言葉を信じるなんて!』
『待て、約束が違う!』
『さあ勇者サミュエル! 己の力不足で目の前で命が散る様をその目に焼き付けるといい!』
 人質の子供たちへ振り下ろされた魔王の剣を受け止めたのは、勇者の剣ではなく、機械の腕。
『やめなさいよ』
『お前は……』
 ステラが子供たちを庇うようにして、魔王の前に立っていた。子供たちはその隙に魔王から逃げ出すと、勇者のもとへと駆けてくる。
(ああ、これは……)
 父と娘、ふたりが向かい合うその姿は、あの日のようだとマグノリアは思った。
『……忘れてしまったの? 私よ、お父さん。アナタの娘よ』
 ふ、とステラが笑う。演技なのか本心なのか、どちらとも取れる表情で。
「あのね、お父さん。……言えてなかったことがあるの」
 このような形でステラが舞台へ上がることを予想していなかったニコラスは、黙って次の言葉を待つ。
「…………私も、また会えてよかった。――――、……お父さん」
 あの時のように、彼女からその言葉は言えなかったけれど。――それでも、十分だった。
「…………ステラ」
 魔王が剣を落とす。それをステラは拾い上げると、ゆっくりと剣を振り上げた。
『……悪い心だけなくしてあげる。ほんとうに、仕方ないお父さんね』
 マグノリアとペコラが子供たちに勇者とステラを応援しよう!と声を掛ける。ふたりの手拍子に合わせて、子供たちが名前を呼び、魔王を助けようと心をひとつにする。
 瑠璃彦がきらきらと光る紙吹雪を舞い散らせるなか、ステラが剣を振り下ろした。剣はニコラスの目の前を掠めて。
『…………俺、は』
 こうして、魔王の悪い心は断ち切られた。勇者と、それを信じたひとたちと、魔王の娘でもある、もうひとりの勇者ステラによって。
 ――こうして、魔王は心を入れかえ、良き王となりました。民たちも、みんな幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
 手に持っていた花籠をペコラに渡し、マグノリアがエコーズを放つ。
 幸せな結末に、わぁっと歓声が上がる。舞台を褒め称える拍手は、いつまでもいつまでも続いていた。

 役者の方は重労働ゆえ、ゆっくり休んでもらわねば、と瑠璃彦が率先して舞台を片付ける。
 お言葉に甘えて、無事に演劇を終えた役者たちは一休み。
「あー、疲れた。そこら中駆け回らないといけない勇者よりかはいいけど」
「そこら中駆け回りました」
 勇者の衣装もそのままに、椅子に腰掛けて項垂れているサミュエルを見てニコラスがくつくつ笑う。
「カッコよかったぞ、勇者サミュエル?」
「うわー!!やめて!? 僕勇者とか主役とかほんっと向いてないんだよ……!」
「あ、でもちょっと話があるから後で顔貸してくれるか」
「ちょっと待った、アレは不可抗力だしその後の打ち合い本気だったよね!?」
 そんなふたりを見て笑いながら、マグノリアがまあまあ、と仲裁に入る。
「ふふ、でも大成功で良かったね」
「……そうだな、うまくいったなら上々。皆、お疲れ様だ」
「瑠璃彦もひとりで裏方をしていて凄かったのね!」
「掃除も任せてくだされ。猿鳥……ではなく去る鳥水場濁さずということで使う前より綺麗に掃除していきますぞ」
 えっへんと胸を張る瑠璃彦に、ペコラがぱちぱちと拍手する。すっかり綺麗だというのに、まだ綺麗にするつもりらしい。
 そんな雑談をしていたら、ノックをしてステラが部屋へと入ってくる。
「子供たち喜んでたよ。……だから、ありがとう」
 それは、とても短い言葉だったけれど。なかなか素直になれない彼女からすると、精いっぱいの感謝の気持ちを表す言葉だった。
 どういたしまして! 口を揃えて答えると、みんなでけらけら笑いだす。
 何が可笑しいのかしら、とちょっと頬を膨らましたステラは、あっと思い出したように父へ向き直ると彼にしか聞こえないように囁く。
「……そうだお父さん、あれは演技だからね」
 拗ねられても困るから、そういうことにしておこう。緩みそうな顔を隠すために、ニコラスは手で頬を押さえるのだった。

 笑顔の結末は、決してひとりでは作れない。――だから、ハッピーエンドをあなたと。これからも、ずっとずっと。

†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

FL送付済