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【三巴海戦】戦慄の復讐拳、ブラックエイダー現る!



●戦慄! 漆黒の復讐鬼!
 戦いのときは迫っていた。
 いよいよ、マーケットから解放された奴隷をイ・ラプセル領内へと送る作戦が発動した。
 これは、ただの輸送作戦ではない。
 この輸送をきっかけにイ・ラプセル側はヘルメリアに対する橋頭保を手に入れんとしていた。
 一方で、ヘルメリアとてそれをただ座視しているはずもない。
 起きたのは、海上での戦いだった。
 イ・ラプセル軍とヘルメリア軍、さらには海賊団まで。
 奴隷を乗せた船舶、エスター号を守り切ることこそが、自由騎士団の任務内容であった。
 その、戦いのさなかに、彼らは『ソレ』と遭遇した。

「砲撃だ――!」
 海面に次々と水柱が上がる。
 かなりの至近距離からの砲撃であることは間違いない。
 しかし、すでに時刻は夕刻。辺りは見通しこそよいものの、かなり暗くなりつつある。
「敵の船影はどこだ!」
「クソ、他の船の影に隠れているのか!」
 その船に乗り合わせた自由騎士達が周囲を探すが、黒々とした海が広がるばかりで――
「いや、いるぞ! あそこか!」
 声をあげたのは、船に乗り合わせたパーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056) だった。
 彼が指をさして示した先に、確かに大きな船があった。
「黒い……!」
「船そのものを黒く染め上げたのか!」
 交戦の時間帯を見抜き、船体を黒く塗って陰に隠れて接近する。
 相当に戦いなれている連中だ、と、パーヴァリは感じた。
「突っ込んでくるぞ!」
「白兵戦の準備をしておくんだ!」
 口々に自由騎士達が騒ぐ中、突如として鈴の音が響く。
「戦闘~、戦闘の時間ですよ~」
 少し間延びした声。
 しかし、直後に漆黒の船は自由騎士達の船に激突、船体が派手に揺れる。
「おお!?」
 転びそうになるパーヴァリの前に、敵兵がやってきた。
 その姿を見て、彼は驚く。
 ヘルメリアの国章が描かれたヘルメット型の仮面と、妙な意匠のベルト。
 それらは全てが黒く、そして、同じ姿の兵士が何人もいる。
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー1号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー2号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー3号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー4号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー5号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー6号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー7号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー8号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー9号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー10号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー11号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー12号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー13号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー14号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー15号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー16号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー17号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー18号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー19号!」
「我こそは、漆黒の正義! ブラックエイダー20号!」
「「「我ら、正義の私怨によって自由騎士団を殲滅する者なり!」」」
 見事にポーズをキメながら、ブラックエイダー軍団が押し寄せてきた。た。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.ブラックエイダーを12人以上撃退する
この共通タグ【三巴海戦】依頼は、連動イベントのものになります。
依頼が失敗した場合、『【三巴海戦】KEEP! エスター号防衛戦!』に軍勢が雪崩れ込みます。

とゆーワケで吾語です。
やってきました大規模連動。
ヘルメリアということで毎度おなじみマスクドエイダーネタを、と思いきや?

以下、シナリオ詳細です。

◆戦場
・夕刻の海上
 かなり暗くなっているタイミングでの戦闘開始となります。
 二つの船がぶつかってすぐとなりますので、かなり船が揺れています。
 具体的には「飛行能力・浮遊状態・格闘クラス」以外は、
 揺れで非常に動きにくいため常時命中・回避2割減、最大移動距離10mとなります。

◆敵
・ブラックエイダー1号 ヒーラークラス
・ブラックエイダー2~20号 格闘クラス

 なお、12人以上戦闘不能に追い込むと、敵は撤退します。
 黒エイダー1号は他の黒エイダーがガッチガチに周りを固めています。

 以上! がんばれ!
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年12月04日

†メイン参加者 8人†



●ブラックエイダーAがあらわれた! ブラックエイダーBが以下略
 黒く塗られた敵の船が、いよいよ迫ろうとしている。
「やるだけやってみるか」
 だが敵が乗り込んでくる前に『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)が、敵船へと向かって一発打ち込んだ。命中すればたちまち燃え上がる強火力の一発だが、
「……燃えないな。あの黒い塗料は不燃性の塗料か何かか?」
 半ば予想していたことではあった。
 ここまではっきりとした『戦争』。敵が何も備えていないはずもない。
「来るぞ、戦闘態勢を整えるんだ!」
 パーヴァリの声の直後、ブラックエイダー20人が次々と自由騎士側の船へと参上する。
「「「我ら、正義の私怨によって自由騎士団を殲滅する者なり!」」」
 全員が違ったポーズをとる。
 それを見て、まず反応したのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だった。
「……いつの間に増えた?」
「いや、待て。色が違うぞ。別人なんじゃないか?」
 興味深そうに、というか単純に奇異なものを見る目で、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が言う。出来ればアレが何なのか解析したいのが本音ではあった。
「全身が黒いのは喪服、ですかね?」
 と、これは『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)の言葉。推測は幾つか出てくるが、彼女にとって重要なのは気持ちよくブン殴れるかどうかだ。
「いやいやいやいや、あのエイダーがいっぱいって、怖いのでは!?」
 こちらは『悪の尖兵『未来なき絶壁』の』キリ・カーレント(CL3000547)。かつてエイドリアン自らに悪の尖兵呼ばわりされた彼女は、その事態に慌てているようだが、
「エイドリアン、ね。本当にあの中にいるのかしら?」
 そこに疑問を呈したのが『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)だった。
「……そうね。彼は生きてるとは思えないし。――仇討ちかしら?」
 『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が腕を組んで唸るが、答えは出ない。
「ねぇ、パーヴァリ……、あれは、何?」
「いや……、僕も初めて見るけど……」
 『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)がパーヴァリに問うが、パーヴァリは軽く困惑しつつそう答えることしかできなかった。
 そこに、ブラックエイダー1号が吼え猛る。
「我々は! 正義の私怨を燃やす者! 悪しきイ・ラプセル帝国の尖兵どもよ、この胸に燃え滾る悪に対する怒りと憎しみを思い知るがいい!」
 そして1号はガランガランガランガランと手に持っていた鐘を鳴らす。
「総員、攻撃開始――――!」
「「「エイダァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」
「あ、それ掛け声なんですね」
 気づいたミルトスが、そんなことを言った。戦闘開始。

●敵は黒いが速くて強い。しかも多い
 敵の攻撃について端的に述べよう。
 自由騎士に突っ込んでブロック。余りエイダーは全員影狼で突撃してブン殴る。
 ――以上!
 単純であり、簡潔である。それだけに攻めるエイダー軍団には勢いがあった。
「「悪のイ・ラプセル、滅ぶべし!」」
 その掛け声と共に、十九人のエイダーが一気に突撃してきた。
 凄まじい速度だ。船上で揺れを気にしながら構えようとしていた自由騎士達も、その速度には一瞬驚かされてしまう。そして、その小さな隙が彼らの危機を招くこととなった。
「緑のダルマ!」
「緑のダルマを横に押し倒せ!」
 彼らがまず狙ったのは、何と緑のダルマ――、テオドールであった。
「何ッ、こっちに来るのか!」
 と、彼は慌てて退こうとするが、敵の方が早い。
 影をすり抜け、狼の如く喰いかかってくる黒いエイダーの拳が、彼のふくよかな腹に突き刺さっていた。テオドールの体が、フワリと宙に浮く。
「く、は……!」
 小さく声を漏らし、彼はそのまま吹き飛んだ。恐るべき一撃であった。
「緑のダルマが攻撃の起点になっていることくらい、すでに知っている!」
 ブラックエイダーの一人がそれを叫ぶ。戦争であるならば当然の話だが、彼らエイダー軍団は自由騎士達への対策をきっちりと備えているようだった。
「あのソラビトを狙え! ヤツが回復担当だ!」
 空へと逃れたロジェを指さし、ブラックエイダー13号が大声を出す。
 すると周りのエイダー達が、一斉にロジェめがけて気弾を撃ち始めた。
「チッ、しっかりとこっちを調べているようだな!」
 気弾の一発を受け止めながら、ロジェが痛みに顔をしかめる。
 数の差を利用しての一気呵成の圧殺。完全な短期決戦狙いの作戦だ。少しでも臆せば、たちまち持っていかれてしまうだろう。ここは、全力で抗うべき場面。
「させません! させないんだってばァ!」
 ここで奮戦したのが、キリであった。
 本来、ロジェやテオドールを護る役割を担うはずだった彼女。
 しかし敵の動きは護りの構えを取るよりも速く、先制の一撃を許してしまった。
 その屈辱が、彼女を衝き動かす原動力となった。
「こ、のォ!」
 自分の前に立つ数人のブラックエイダーへ、キリが全身の気を解放して叩きつける。
 その一撃は、ダメージとして見れば大したものではなかったろう。
 しかし、彼女の一撃に、ブラックエイダー12号と17号が大きく吹き飛ばされて体勢を崩した。
「隙を、見せたな!」
 それを見逃さず、ザルクが甲板に向けて一射。
 弾丸を介して発生した魔導の結界が、ブラックエイダー達の動きを束縛する。
「ぬ、これは……!」
 動かなくなった足を見て、ブラックエイダー8号が驚きの声をあげた。
 しかし、一刻一秒を争うこの状況下においては、その一声すらも敵に機を与えてしまう。
「よそ見をしましたね!」
 ミルトスが殴りかかった。エイダー8号はそれを受け止めるも、威力を殺しきれない。
 さらに、突っ込んでいったのがライカだ。
「そっちから仕掛けてきた戦いだ。容赦などあると思わないことね!」
「最初からそんなことは思っていない!」
 二人の拳士が拳を交わす。しかし、ザルクの一発の影響が大きい。
 押しているのはライカであった。
「――悪影響は除去する!」
 鐘を鳴らし、叫んだのはブラックエイダー1号。ヘルメリアの兵士でありながら行使された癒しの魔導が他のエイダー達を縛る効果を取り除いていく。
「……要は、あいつ!」
 ライカが1号を睨み、舌を打った。
 敵も、1号こそが自分達の支柱であることを承知しているのだろう。
 徹底的に壁を作って、自由騎士達を行かせまいとしていた。
「潰せ! 一人残らず叩き伏せろ! 悪に容赦はいらない!」
 1号が鐘を鳴らすと、他のエイダー全てが「応!」と叫んで攻めかかってきた。
 キリとザルクによって、一旦はその勢いを挫きかけたエイダー軍団だったが、やはり全員が目的を同じくして一丸となっているのが強い。たちまち勢いを取り戻した。
「……やれやれ、ようやく痛みが引いてきたぞ」
 しかし、それが勝利に直結するかといえば、無論そんなはずもなく――、
「ではそろそろ、こちらも勝利に向けた行動を始めようではないか」
「無理は……、しないように。……まだ、ダメージはあるから」
 マグノリアに注意されつつも、戦線に復帰したテオドールが小さく手を打ち鳴らした。
「分かっているとも。――それでは、正義を問う時間だ」

●結局のところ、正義というのはただの言葉で
 何かを壊したい衝動を正しいとは思えない。
 誰かを殺したい怨念を正しいとは思えない。
 けれど、それが『自分の大切な誰かのため』に得た者ならば――、
「私達は、正義の私怨を執行する!」
 ブラックエイダー1号が、高らかに己が抱く恨みを正当化する。
 戦いはまさに互角、一進一退の攻防が続いていた。
 量で押すブラックエイダー軍団に対し、だが自由騎士達は一人当たりの質で優っていた。
「ちょっと、押し込ませてもらいます!」
 中でも特に活躍目覚ましいのが、嬉々として漆黒の仮面軍団と殴り合っているミルトスで、彼女の長い脚が鋭く振り回されてエイダー三人を強く打ちのめす。
 その隣で、褐色の肌を躍動させてエルシーが叫んだ。
「誰が誰だか分かりにくい!」
 敵は全員同じ格好。漆黒。そして辺りはそろそろ夜。分かりにくくて当然だった。
「もうちょっと、個性分けを、しなさいよ!」
「「滅すべし、悪しきイ・ラプセル!」」
「言うセリフまで揃えて、そんなんじゃヒーローじゃなくて悪の戦闘員じゃない!」
 エルシーの指摘は辛らつだった。しかし、そんな応酬を繰り広げつつも敵の急所を狙ってくる一撃をスレスレでかわし、逆にこちらが痛打をキメるなど、闘いはガチだ。
「悪を滅ぼせ!」
「イ・ラプセルを倒せ!」
「自由騎士に死を!」
 しかし、やはりブラックエイダー達は止まらなかった。
 質の差を気合と勢いで補いながら、彼らは自由騎士達に食らいついてくる。
「この、やらせま、せん!」
 キリが踏ん張って敵の攻撃を受け止めるも、やはり数が多い。カバーしきれない。
「堪えるんだ、ここでき合い負けして退いたら、一期に呑み込まれるぞ!」
 ロジェも叱咤しながら癒しの魔導で必死に戦線を支えようとする。
 しかし、どうしても手数の面で敵に及ばないのだ。彼の癒しが仲間に届く前に、自由騎士達はさらなる攻勢に晒されて傷を増やしていく。
 無論、自由騎士達とて相応に反撃は重ねており、ブラックエイダーの中にも倒れる者は出てきている。回復が追い付いていないのは敵も同じなのだ。
 しかし、それでも――、
「殺せ!」
「潰せ!」
「叩け!」
「「「悪のイ・ラプセル、滅ぶべし!」」」
 深い怨念に裏打ちされた彼らの勢いを、どうしても弱められない。
「よほど支えだったようだな、エイドリアンの存在が!」
「お前達がその名を口にするな!」
 テオドールが指摘すれば、ブラックエイダー1号が声を裏返させてそう叫ぶ。
「悪いが、彼を打倒した自由騎士ならばここにいないぞ。残念だったな」
「そんなことは知る者か。イ・ラプセルこそが悪! イ・ラプセルこそが、カタキだ!」
 投げかけた言葉は、しかし怒号によって否定される。
 その黒い仮面の奥に垣間見える激情は凄まじいものだった。そしてそれを燃料として、黒い仮面の一団はただでさえ高い士気をさらに高めようとする。
 しかし――、
「でも、行かせない」
 きっかけは、マグノリアの躍ったタンゴだった。
 それによって生まれた不可視の力の流れが、ブラックエイダー達の足を絡めとって縛る。
「う、動けな……!?」
「よくやった、ホワイト卿! 今のタイミングでのそれは、まさに値千金だ!」
 そして、今までに阻まれ続けていたテオドールの魔法が、ついに戦場に炸裂した。
 発動した魔導が、黒いエイダー軍団を一気に打ちのめした。この場は船上。広さは限られており、数が多い敵軍はほぼ固まって動いていたために、まともに喰らうこととなる。
「まだ、まだ……!」
 直後に、ブラックエイダー1号が慌てて癒しの魔導を発動するも、
「い、痛みが……!」
「クソ、早く治してくれ!」
 癒しの魔導は発動した。しかし、痛みを訴える者は減らなかった。
「回復殺し……! そんな、小手先の技でッ!」
「ああそうだ、小手先の技だとも。そう長続きもしない。しかし、今は覿面だ!」
 テオドールがブラックエイダー軍団に指を突きつけた。
「恨みと憎しみに身を委ね過ぎたな、ブラックエイダー! 君は選択を誤った!」
 そこからは、ほとんど素崩れにも等しい有様となった。
 回復阻害によって復帰の目を断たれたブラックエイダー軍団は、それでも必死に自由騎士に立ち向かった。だがすでにこれまで保っていた勢いは半ば挫かれ、
「大したものだとは思ってやるよ。……それと、この戦いの結果は関係ないがな」
 ザルクの一発が、また彼らの動きを縛る。
 そこへ、散々エイダーにボコられて怒り心頭の霧が突っ込んだ。
「これで、お返し――――!」
 そして渾身のにんじんソード。ザシュッ、バキッ、エイダー3号と7号は倒れた。
「ふぅ、大体今回は終わりっぽいですかね」
 ミルトスが若干不完全燃焼気味なのに比べて、
「どうしたの、まさかその程度の恨みで終わりなの? その程度の憎しみしかひねり出せないの? 認めないわ、そんなの認めない。もっと本気で殺しに来い!」
 ライカはブラックエイダーにも負けない激情をそこに燃え滾らせていた。
「治す方の身にもなってほしいね……」
 たちまち傷だらけになっていく彼女を、マグノリアがブツクサ言いつつ癒していた。
「もう、諦めたらどうだ。結果は見えているだろう?」
 そして上空より、自身も癒しの魔導を使って仲間の傷を塞ぎながら、ロジェがブラックエイダー1号に降伏勧告をする。1号は彼を見て、仮面の奥に歯を軋ませた。
「黙れ! そんな言葉、私達が聞くと思うのか!」
「当然、思ってはいない」
 と、ロジェは肩をすくめつつも、
「だが、言葉は尽くすべきだと思った。そして今、そちらに言うべき言葉は尽きた」
「――つまり、ここからは本格的に殴って分からせる時間ってことよ!」
 ロジェの言葉を引き継いだのは、エルシー。
 ブラックエイダー達の壁をついに乗り越えて、彼女が1号の前に立った。
「し、しま……ッ!?」
「その恰好、似合っているわよ。キマってるわ――、頭ごとね!」
 百万の諫言よりも一発の鉄山靠。
 全身を使ったブチかましは、ブラックエイダー1号を打ち据えて、船外へと吹き飛ばした。
 水柱が上がり、そこへ別のエイダー達が走っていく。
「クッ、これ以上は無理か! 撤退だ、撤退――――!」
 動けなくなった仲間を支えながら、ブラックエイダー達が黒い船に戻っていく。
 それを眺めながら、言ったのはエルシー。
「あなた達は強かったけど、同時に脆かったわ。彼がいた方が、数段厄介だったわよ」
「――黙れッッ!」
 だがそれに言い返す女性の声。
 助け上げられたブラックエイダー1号――、アルテイシアが仮面を脱いで叫ぶ。
「お前達のせいで、彼は二度と戦えない体になってしまった……!」
 目に涙を浮かべて、彼女は咆哮を轟かせた。
「絶対に許さない……! 次は、次こそは――」
 エイダー軍団を乗せた船が離れていく。そのさなかに、自由騎士達ははっきりと聞いた。
「次こそは、彼と一緒にイ・ラプセルを潰してやる!」
 そして、国同士の戦争の中でひそかに行われた私闘は終わった。
 イ・ラプセルとヘルメリアの対立が激化していく一方で、ヘルメリアの正義の味方にまつわる戦いも、そろそろ佳境を迎えつつあるのだった。