MagiaSteam
アルコバレーノと滅びゆく種




 ダレカタスケテ……

 少女人形のような姿をした、この幻想種は木の洞で息を潜め祈っていた。
 来る筈のない助けを。起こることの無い奇跡を。
 遠くから仲間の悲痛な叫び声が聞こえる。
 とっさに耳をふさぐ。何も聞こえない。何も聞いてない。何も……聞きたくない。

 がさっ。すぐ目の前の草むらから音がした。少女のような幻想種は思わず俯き身を硬くする。
「ここにも居やがったか」

 アナタタチハダレ……

「お前の仲間達はうれし涙を流しながら喜んで差し出してくれたぜぇ」
「ぎゃはは! おいおい見ろよ! こいつ一丁前に泣いてるぜ。助けてってか? だーれも来やしねぇよ。お・ま・え・が・さ・い・ご! だからなぁっ!!」
 男達の手には石。それは仲間達の命そのもの。男達の目にはどす黒い欲望が渦巻いている。

 コワイ……ダレカ……タスケテ……

 少女の目に涙が溢れる。もう何も見えない。もう何も──
 これ以上無いほどの絶望の中での絶命。
 男が最後に手に入れた石は、その絶望とは似ても似つかぬ鮮やかな虹色の輝きを放っていた。


 ある幻想種の絶滅を防いで欲しい。『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は悲痛な面持ちでそう言った。
 幻想種ルー・ルー。額に石を埋め込んだ人形型の幻想種だ。森の中にひっそりと暮らす彼女は幼少期から成長するにつれて石の色はより艶やかに変わっていく。その幻想種の額の石はルー・ルーの奇跡と呼ばれ、めったに出回らない貴重な石として高価な値段で取引がされていた。中でも一番希少とされているのが虹色に輝くアルコバレーノと呼ばれるものだった。
 だがルー・ルーはこの石を奪われれば死んでしまう。ゆえにこの石の採取はこの幻想種を殺めることに他ならない。事実石を手に入れるため、密猟者がその命を大量に散らし、絶滅しかけた事も過去にはあった。
 幻想種の大量虐殺。それを重く見た国は保護の方針を掲示し、調査など極わずかな接触を許可された者以外はルー・ルーへの接触は禁止され、それに反したものは厳しく罰せられ、密猟は無くなった……はずだった。
「先のヴィスマルクからの襲撃により、少なからず国は混乱してしまった。それに乗じて密猟者が動く。つい先ほどプラロークが導きだした」
 この襲撃を許せば、ルー・ルーは遂に絶滅してしまう可能性もある。フレデリックは続ける。
「彼女達は本来とても人懐こく誰よりも純粋だ。その澄んだ心を君達の手で守ってはくれまいか。今ならまだ間に合うのだ」
 フレデリックは深々と頭を下げた。

 ──行こう。
 誰が発したかはわからない。でもその言葉はその場に居た全員の総意とも思えた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.幻想種「ルー・ルー」の全滅を防ぐ
2.密猟者全員の討伐、もしくは逃亡
麺二郎です。
そろそろそうめんの時期がやってきました。お中元でもらう素麺。これを楽しみに一年一年を生きています。

幻想種ルー・ルーの絶滅の阻止をお願いします。

以下依頼詳細となります。

●討伐対象
 密猟者 13人
 全員が銃とフォレストマスターのスキルを所持しています。目的は石の奪取です。ルー・ルーを手当たり次第に襲って石を奪取します。
 4人、4人、5人のグループで行動しており、それぞれルー・ルーの住処の北側、西側、東側より近づいています。そのぞれのグループにリーダーが存在し、比較的高い戦闘能力を持ちます。

 銃を撃つ 攻遠単 【スクラッチ1】
 銃乱射 攻遠範  【スクラッチ1】
 ナイフ 攻近単  【ポイズン1】
 近接格闘術 攻近単 【ウィーク1】 各グループリーダーのみ使用。リーダーは近接戦闘に長けています。

●幻想種ルー・ルー
 少女人形のような姿をした幻想種。その数は現在確認できてるものはわずか6体。60cm程度で女性型しか存在しません。基本的には言葉は発さず、テレパシーのようなもので同種間会話を行います。生を受けた瞬間よりその額には石が埋め込まれています。成長するごとに石の色は変化します。稀に虹色になる事もあるようですが、その条件などはわかっていません。
 ある程度の言葉は理解できますが会話が出来るほどではありません。

 レーナ・ルー・ルー
 現存するルー・ルーの中では一番若い個体。唯一言葉をかなり理解しており、ある程度の意思疎通が行えます。自由騎士団がたどり着いた際には付近の木の洞に隠れています。

●ロケーション
 森の中、お昼過ぎ。
 そこに6体の少女人形のような姿をした幻想種がいます。
 自由騎士団が南側よりたどり着いた際には東側グループの手によってすでにルー・ルーの1体が捕獲されている状況です。6ターン以内に救出できなければ捕獲されたルー・ルーは処理されます。
 それぞれのグループはルー・ル-達のいる中心からそれぞれの方位に50mほど離れた場所に居ます。
 ルー・ルーは純粋です。意思がきちんと伝われば素直に従ってくれます。 

●同行NPC
 ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければルー・ルーを守ることを最優先に行動します。
 所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。

疑う事を知らない純粋な存在は騙され、蹂躙され、滅びるしか無いのでしょうか。
新たな未来は自由騎士団のみなさんの手で。

皆様のご参加お待ちしております。
EXには書くことが無ければお勧めの麺のお店を。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
15モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年08月27日

†メイン参加者 8人†




「あなた達も一度狩られる側の気分、味わってみる?」
 『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は男達へそう告げる。その言葉には若干の怒気を含み、そしてその目はまさに狩人のソレだった。
「くっ……」
 蛇ににらまれた蛙。男達は冷徹な言葉と視線を浴びて一歩も動けない。
 決着。その場は自由騎士団によって完全に掌握されたのであった。


 話は自由騎士団メンバーが現地へたどり着く瞬間へさかのぼる。
「ヒトの欲望の為に絶滅…そいつはスマートじゃないな、阻止させもらうぜ!」
 その石の生成に関わる秘密を知った『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は改めて決意を口にする。
「きっと怖がっているはず。早く保護してあげなきゃ……」
「ルールーちゃんの事に限らずだけど、同じ人が悪い事をするのがナナンは悲しいよぉ…。何か事情があるのかもだけどぉ、してる事は悪い事だからナナンがお仕置きして懲らしめるねぇ!」
 『裏街の宵の天使』アリア・セレスティ(CL3000222)、『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)もそれに呼応するように力強く頷く。
「今更この国で悪いことなんかしたって、ほとんど水鏡でバレバレだっていうのよくやるねぇ。うううん……ちょっと頭足りてないのかなぁ」
『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)は少しあきれたような様子でそういった。
 確かにこの国には神造兵器デウスギアである水鏡階差演算装置がある。そのため未然に防がれる事件も多いのは事実。だがプラロークが導き出してこその水鏡階差演算装置。その対処量には限界がある。100%見つかる訳ではない――その状況こそが事件がなくならない理由でもあった。
「わぁっ〜! 人形型の幻想種!? しかも絶滅危惧種!!?? いいねいいね! わっくわっくしちゃうね! 密猟者も殺しちゃって石だけとるなんてもったいない事しないで生きたまま捕まえれば……あー、えへへ! なんでもないよ〜」
 少し様子が違うのは『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)だ。
 彼女は救助というよりは学術的興味で頭の中が一杯になっている様だった。確かに研究者にとっては格好の素体でもあるであろうルー・ルーに絡む一件という事で、率先して自ら志願してこの場にいる。
 その様子を見ながら『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は一言。
「何色に輝こうが所詮ただの石ころだと思うんですがね」
「そうね……。でもあたしも狩人として狩猟に出ることがあるだけに、こういった連中の行いは許しておけないわ」
『白金の星』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は思う。自然の調和を乱さず、それでいて法の領分を弁えてこその狩人。それを守れない者は単なる略奪者とか殺戮者であって狩人を名乗る資格なんて無い、と。

 ルー・ルーの住処中央付近へたどり着いた一行はすぐにそれぞれの行動を開始する。
 アリアがまずは感情探査でレーナを探すことを試みると同時にナナンとウェルスが東へ向かい、すでにつかまっているル-・ルーの救出へ向かう。
「時間がねぇ! 急ごう!」
 タイムリミットは近い、ウェルスは少々の焦りを感じながらも急ぐ。
「それじゃナナンは先に行って足止めしとくのだっ!」
 ウェルスの横を韋駄天足を持つナナンが颯爽と走り抜ける。ハイバランサーによる森の中での軽やかな体捌きもあり、ナナンはぐんぐんスピードを上げる。
 ウェルスも体捌きには自信がある。それでもナナンには及ばず後れをとってしまう。
「すまねぇ! すぐに追いつくからよろしく頼むっ」

「へへへ……まずは一匹っと。こりゃ楽勝だな。早く終わらせて酒でも飲みてぇもんだ」
「で、どうする。すぐに殺っちまうか? 額の宝石以外はゴミだしなぁ」
 ルー・ルーの瞳に恐怖が宿る。一瞬額の宝石の色彩が揺らいだように見えた。
「ん? なんだこいつの宝石、今何か……」

「とおりゃぁぁぁぁぁっ!!!!」
 それは一瞬。宝石のわずかな変化に気づいた男が確かめようとルー・ルーに近づいたその刹那。ナナンの放ったバッシュの一撃は男を吹き飛ばした。
「ルールーちゃんの宝石を無理矢理奪おうなんて!ナナンが許さないのだ!」
「なんだテメェ!!」
 男達が一斉に武器を構える。一人はナナンの不意打ちにより吹き飛ばされ気絶している。しかしそれでも残る相手は4人。男達も突然の攻撃に動揺したものの、相手が年端も行かない子供だと知ると態度が変わる。
「道にでも迷ったのかいお嬢ちゃん? こんな森の奥まで一人で来るなんていい度胸じゃねぇか」
「どうします? こいつもお持ち帰りですかい?」
「ボス好みだしなぁ。不意打ちで一人やられちまったが、こっちは4人。どうあがいたって勝ち目は無いぜ、お嬢ちゃん」
 グヘヘ、と卑下た笑いを浮かべる男達。じりじりとナナンとの距離をつめていく。
 さすがに分が悪いと感じたのか、ナナンにも緊張が走る。
「オラァッーーーーー!!」
 叫び声と共に、男の一人にアイスコフィンが炸裂する。
「グハッ……」
 男は一瞬で気を失い、その場に崩れ落ちた。
「ウェルス!! 遅いのだっ!」
「すまねぇ遅くなった。残念だったな、一人じゃないぜ。これで3対2だ。さぁ、続けようか」
 絶妙のタイミングでウェルスが合流する。その傍らには捉えられていたルー・ルー。ナナンに気をとられていた男達の隙を見てウェルスが助け出したのだ。
 圧倒的不利からの逆転劇。これもウェルスがこれまでに積んできた経験がなせる業に相違ない。
「何やってやがる! 早くあいつらをぶっ殺して取り返せ!」
 リーダーらしき男が他の二人に号令する。
「それは無理ですね」
 その声の主はカスカ。レーナ探しを手伝ってから東へ向かった彼女が到着したのだ。
 一息おくとその背丈と同じほどの長刀をすぅ、と音も無く抜く。
 3対3。数のみで優位だった密猟者のその優位性は失せた。美しい銀髪をなびかせたその少女の登場はその場の攻勢を大きく変えたのだった。

「……天理真剣流・発破抜打。これで終わりです」
 カチン。カスカが刀を鞘に戻す。……ドサッ。程なく最後に残った東グループのリーダーが倒れ、東対応チームは捕らえられたルー・ルーの奪還に成功したのであった。
「急いで中央に戻るぜ!」
 捕らえられていたルー・ルーを抱えるウェルスの言葉に2人は即座に反応した。


 ――どこにいるの? 大丈夫、私達は味方だよ――
 アリアは感情探査でレーナのか細い感情を捕らえようとしてた。
 
 タスケテ……コワイ……ダレカ……

「見つけたっ!! その木にいるわっ」
 アリア、ミルトス、ヒルダはその木へ駆け寄る。
 いた。その幻想種……少女は気の洞の中でひざを抱えてうずくまり、小さな体を震わせていた。
 何も知らないレーナは駆け寄ってきた3人にも恐怖の表情を浮かべる。

 アナタタチハダレ……? 

「もう大丈夫」
 ヒルダがふわりとレーナのその身をやさしく包み込んだ。言葉は通じなくても気持ちはきっと伝わる。考えるよりも先にヒルダの体は動いていた。しばらくの沈黙。そしてレーナの顔から恐怖が消えた。
 そのタイミングを見計らってアリアがレーナに話しかける。
「私達はあなたたちを助けに来たの。言葉は分かる? みんなを助けるためにも話を聞いて欲しいの」
 元来命の危機たる極限状態で言葉だけではどこまでの説得が出来たかはわからない。だがヒルダのとっさの行動により言葉以上の気持ちを肌で感じたレーナは信じる事にした。この誰ともわからない人達を。
 私達を救ってくれる存在であると。
 アリアは膝をつき、レーナの目をまっすぐに見つめて優しく微笑んだ。
「大丈夫、私達が必ず守るから。みんなに伝えて。南に逃げようって!」
 レーナが頷いて他のルー・ルーとの意思疎通を始める。
「ジローさん、この子をお願い。他の子たちも呼びかけにこたえて向かっているみたい。みんなを誘導してね」
「任せておけ!」
 同行していた『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)は応!と親指を立てるとレーナと共に南へ向かった。いずれ他のルー・ルーも合流するだろう。
「では私は東へ加勢しにいきます」
 一緒にレーナ探しを行っていたカスカはそういうと駆け出した。東へ先に行った仲間の元へ急ぐ。
「まだ油断は出来ないわよ。密猟者が近づいてきてるわ」
 ミルトスは気合を入れなおす。北と西から迫り来る密猟者は合わせて8人。一方中央に残る自由騎士は5人。まともに相手をしては戦闘には勝てたとしてもルー・ルーを守りきるのは至難の技だ。
 ふっとミルトスの気配が消えた。技能を駆使して周囲に紛れ込む。初手のアドバンテージはミルトスにありそうだ。
「さてさて、話もまとまったようですし、あとは密猟者をちゃちゃっと退治しちゃいましょう」
 クイニィーはそういうと、ホムンクルスを生成しはじめる。
「ホムンクルスはこのくらいでいいかな? じゃぁ君達はルー・ルーちゃんを守ってね。じゃぁあたしもへんし~ん」
 子リスへ変化したクイニィーは近くの木へ上り、密猟者を待ち構える。
 一方ローラ、ヒルダ、アリアは中央でそのまま密猟者を待ち構える。囮あっての奇襲作戦。さらには相手は全員が杜での行動が得意な密猟者だ。ある程度開けた場所で敵を迎え撃つ。ミルトスとクイニィーの攻撃がより効果的になるよう3人が出した結論だった。


「ん? おいおい女がいるぜ。しかも3人。こりゃ今夜は宝石と女で酒池肉林ってか」
「3人ともなかなかの上物じゃねぇか。こりゃたっぷり楽しめそうだ」
「これほどの上ものなら飽きても高く売れるぜぇ」
 西と北から向かってきていた密猟者8人は中央にいたアリア、ヒルダ、ローラの3人を見つけると色めきだした。
 男達は全身を嘗め回すような視線を3人に向ける。
「くっ……なんて目で私を……でも私は屈しない……から」
 アリアは羞恥で顔をゆがめる。もし負けてしまったら私は一体この男達にどうされてしまうのか……。
 最悪の状況になった場合、自身が置かれる状況に対して自分の中の相反する感情が存在することにアリアは思わず身をよじる。
 別の意味でその視線を利用し、自身の魅力を最大限に生かそうとするのがローラだった。
「なぁに? おにーさんたち。もしかしてローラと遊びたいの? そうだなぁ……ローラは強いヒトが大好きなの。おにーさんたちがすっごく強いってわかったら……遊んであげても・い・い・よ♪」
 裏街の夜の妖精。まさに称号どおりの怪しい雰囲気をかもし出す。
 男達の下種な視線にしっかりと反応しているアリアとローラとは真逆に、キッと強い眼差しで男たちをにらみつけたのはヒルダだった。その瞳はまっすぐに男達を捕らえている。
「お前達がルー・ルーを捕まえようとしている事はお見通しだ! おとなしく投降するなら傷つけはしない!」
 狩人とは――。
 ヒルダは自身の価値観とあまりにも違う密猟者達の振る舞いに憤りを隠せないでいた。
「一人反抗的な目をしてやがるが……上物には違いねぇ。出来るだけ傷つけずに捕まえろ。宝石はそのあとでゆっくり回収するぞ」
 銃をしまい、ぎゃははと笑いながら男達は3人を取り囲む。
「ぐふっまずは服を全部脱がして品定めだぁ……」
「俺はあの気が強そうな金髪がいいな。墜とし甲斐がありそうだ」
 男達が一斉に3人へ飛びかかろうとした瞬間、このタイミングを見計らって気配を消していた2人が動いた。
「いっけぇぇ!! スパルトイ!!」
「油断大敵! 猛訣掌!!」
 クイニィーの人形兵士が命中。そのまま男は気絶。一方ミルトスの必殺の一撃もリーダの一人を的確に打ち抜いた。
「な、なにぃぃぃっ!? 仲間がいやがったのか!! 卑怯だぞ!!」
 不意に仲間をやられた男達の一人がそう叫ぶ。
「何が卑怯よ! 8人がかりでか弱い女子3人を襲おうとしてたくせに!」
 これ見よがしにアッカンベーのポーズのローラ。
「てめぇら! もう手段はえらばねぇ! こいつら全員始末しろ!」
「大義名分があっても、自分より弱い相手を狩りに来るのは私は気が進まないんですけど……貴方達はそういう気分になることはないんですか? いえ、一回狩られる側の気分を味わってみるのもいいと思いますけど」
 そう言ったのはミルトス。言葉は穏やかだがその表情は別。彼らへ向けられる視線は男達を凍りつかせる。
「今後数を増やす研究とかもしたいし、生体とか色々と知りたい事が沢山あるルー・ルーはここで絶滅されちゃ困るんだよね。ざーんねん! 今頃他のルー・ルーちゃん達もあたしのホムンクルスが守ってるよ」
 動物変身を解いたクイニィーもあわせる。クイニィーが事前に用意しておいたホムンクルスも忠実に命令を実行している。
「ぐっ……構う事はねぇ、やっちまえ!!」
 男達は銃を取りだして応戦しようとする。
「させませんっ!」
 ラッピドジーンで強化された速度を生かし、アリアがヒートアクセルで男を狙う。高速の攻撃を受けた男は一瞬記憶が飛ぶ。すかさずアリアは銃を叩き落とした。
「はぁぁぁっ!! 逃がさないわよっ」
 ヒルダも愛用の蒸気散弾銃で男達を追い詰める。ヒルダの動きに合わせてドレスのすそがまるで踊るかのようにひらめいた。
 アリアの目にもとらない連続攻撃、ヒルダの正確無比な銃裁き、ミルトスの多彩な格闘術、ローラとクイニィーの潤沢な回復支援。数こそ有利だった密猟者達だったが、瞬く間に数を減らし決着のときは近づいていた。
密猟者達にも考えはあった。もし邪魔が入ってもルー・ルーを人質にすれば相手の動きは封じられる、と。しかしそのルー・ルーはいない。捕らえたルー・ルーは奪還され、他のルー・ルー達もレーナの呼びかけに答え、南へ離脱していたからだ。
「くそっ! こんなはずじゃ! 俺たちの一攫千金が!! 素敵な隠居生活が!!」
 チェックメイト。密猟者達が出来る対抗策はすでに無い。欲望の対象態度にしか見ていなかった者はその実、自分達を狩る狩人だったのだ。
「……ぐはっ!! 俺のハーレムが……」
 ヒルダのS.S.Sが決まり、最後まで抵抗していたリーダ格が崩れ落ちた瞬間、戦闘は終わった。
 崩れ落ちながらもその目線はローラへ釘付けだった事は敢えて明記しておこう。逆ハーレムマスター恐るべし。

「……もう終わっていましたか」
 そこに東から戻ってきたカスカ、ウェルス、ナナンの3人が合流する。
「こっちは大丈夫だったぜ。ほら、とらわれのお姫様だ」
 ウェルスはとらわれていたルー・ルーの無事を他の5人に報告した。


「そういえば意思疎通できる子がいるんなら、保護してってお願いしてみれば? 今の王様って相当お人よしだし多分前向きに考えてくれると思うの」
 意外とも思えるローラの発言に一同顔を見合わせる。
「なんていうかローラからそういった言葉が出るのはちょっと意外っつーか」
 東から戻ったウェルスが言う。確かにローラの性格からすればなかなかに珍しい発言と思えなくも無い。
「だが一理ある。ルー・ルーの保護に関しては強く要請しても良いかもしれない。今後もまたあのようなふとどき者が出ないとも限らないし」
 ヒルダも思うところはあった様でそう続ける。
 一方、ナナンはおもちとルー・ルーを遊ばせている。言葉は通じなくともなんとなく気が合うようでルー・ルーはおもちと楽しそうじゃれていた。そんな様子をナナンは嬉しそうに見ているのだった。
 クイニィーは縄で縛り上げられた密猟者達の前にいる。
「ねぇねぇ知ってた? 人の目玉とか内臓とかって高く売れるんだよ? 君達は幾らくらいになるかなぁ?」
 本気だ。男達全員がそう思うほどにクイニィーは生き生きとした表情でそう言った。
「う……嘘だろ、天下の自由騎士様ともあろうお方が、そそそ、そんな事出来訳ねぇっ」
「……冗談だと思う?」
 低く響く声と光の無い瞳でクイニィーが詰め寄ると男の顔が恐怖で歪む。
「お、おたすけ……」
「…あはは! なんてねー! ねぇねぇ今どんな気持ち?」
 ウェルスは男達が捕縛された後、付近を見回っていた。密猟者が荒らしたであろう森の様子を報告するためだ。
「ん~。特に密猟者によって何かこのあたりの自然に影響が出そうな事はなさそうだな。腐っても森の住人って事か」
 ウェルスは納得できるような出来ないような複雑な気持ちだった。

「そういえば石炭も黒いダイヤモンドなんて呼ばれていたと記憶しています。宝石っていうのは人の業と犠牲が詰まっているモノなのかもしれませんね」
 ふとカスカがつぶやく。真の価値を知ること。ソレは良い部分も悪い部分もすべてを理解した上で初めて感じることが出来るものなのではないか。
 宝石は確かに美しい。だがその奥にある美しさの代償もまた人々は理解する必要があるのかもしれない。

 アリガトウ、ヤサシイヒトタチ

 レーナは笑った。
 



 




†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

MVPはミルトスさんへ。
その瞬間、狩る側だと思っていた人間が狩られる側だった事を実感させられる。
素敵ですね。

素麺やっぱり揖保の糸。
FL送付済