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フワフワの白い花はお好き?――惨劇の食肉蜂――




 それは、巣に住まうものにとって致死レベルで不快な気配だった。
 巣の外の広大な土地のそこかしこに、触れたらただでは済まない領域が点在している。
 それが、密集しているのだ。
 そこを回避して巣の目的を果たすことができないもどかしさ。
 ひたひたと忍び寄ってくる破滅の気配に、女王は打って出る決断を下そうとしている。
 新たな可能性を模索しようと。
 今度、巣に近づくものが現れたら、それを襲って食料としようと。
 花の蜜の代わりに生き物の血をすすって生きていこうと。


「ああ、お花摘みをお願いしたいんです。『ヒツジノトモダチ』いいますのん。ふわふわでかわいい花ですねん」
『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は、眼鏡の向こうの青い目を細めた。
 指示された図録によると、指先くらいの白く可憐な花だ。それが地面にはうように直径2メートルくらいの群生を作っている。と、佐クラは言う。
「とてもいい精油ができるんですけど、たくさん採らなくちゃいけないんです。仰山いりますのん」
 これいっぱいに詰めてくれ。と、渡された袋は、花のサイズと提示された図録の密集具合から考えると、見渡す限りの面積を根こそぎにしないと無理なんじゃないかと思える大きさだ。
「分散して咲く習性がありますねん。かなり広範囲探してもらうことになりますのん。で、回収後の後始末もお願いします」
 ぴんくおさげのうさぎは、目を細めた。
「この花、むしると香りが薄まるんです。この辺にある巣から蜂が出てきます。で、その蜂が普通の人は刺されたら即召されるって類のイブリースで、すでに動物が幾分やられてますのん。幸いまだほんとにヒトはやられてへんのですけど、人の味しめたら厄介になります。やられた動物、スッカスカにされてはるんですわ。危ないから、巣の場所は特定できてませんのん」
 花の香りで封じられていた食肉蜂が、これ幸いと出てくる。と。
「あ、オラクルは即死はありません。ものごっつうだるくなって、徐々に色が悪くなってくるだけで」
 それ、てきめんに具合が悪くなってる奴だ。放置すると、死ぬんだろ。大体わかるぞ。
「ここ、次の花が咲くまでは放牧に使ってもええなって場所ですねん。折角の牛だの羊だのヒトだのが蜂に殺されたら大変ですやろ? イブリース化とけたら無理に殺生する必要もありません。イブリース化してるのは巣の内の何匹かやろうし、そうするとてきめんに様子おかしいのなんとかすればええです。蜂には蜂のお役目もありますし。刺されたら痛いけど、そこは持ちつ持たれつやし」
 だが、有象無象の蜂の中からイブリース化したもののみを攻撃するとか、かなり難しいのでは。
「それでですな。皆さんに積んでいただく花。これ、動物には無害ですけど、この蜂には毒なんです。普通の蜂は動けなくなりますよって。きっちり袋にいっぱい取っていただいたら、余った花を有効利用していただいてかましまへん」
 つまり、戦闘を有利に進めたければ余分に花摘みをしろと。
「まあ、手っ取り早く回収するなら森の入り口だけで済むんで腕に覚えがあるならむしろお勧めです。一気にむしりすぎると不意打ち食らう危険性はありますなぁ」
 そこらへんは、あんたはんらが相談することやね。と、『発明家』は目を細めた。
「あんじょうきばって、よろしくおねがいします」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
資源発掘α
担当ST
田奈アガサ
■成功条件
1.依頼品『ヒツジノトモダチ』の規定量確保
2.イブリース化した蜂の浄化
 マギアスティームでは初めまして。
 田奈アガサです。
 お助けアイテム=依頼の品です。さじ加減は相談してくださいね。

*依頼の白い花「ヒツジノトモダチ」
 羊毛に似たふわふわした白い小さな花です。特徴的な見た目と匂いなので、摘み間違えることはないです。
 袋の一割を燃やすと敵全体にスロウ1、二割で敵全体にスロウ2がかかります。
 燃やすと戦闘が終わった後に再利用が完全にできなくなります。
 地面に生えているものに直接火を放つと地下茎を伝って野原全体が燃えてしまいますし、葉っぱや土など不純物も燃えて効果が出ません。依頼失敗になりますので注意してください。(花を対象としない魔法スキルでは燃えません)
 本依頼は、「ヒツジノトモダチ」を規定量確保するのが最優先の成功条件です。

*戦闘場所情報
 天気・晴れ。風はなし。
 だだっ広い野原に隣接した森に蜂の巣があります。
 森の入り口は、そこだけ例外的に「ヒツジノトモダチ」が密生しているのですぐわかります。
 蜂の巣の場所の詳細はわかりません。
 森の入り口の花を摘むことで蜂をおびき出すことができます。
 ここには袋一つに丁度足りるだけの群生があります。
 他の場所で花を摘むPCは、移動や採取を有利にするスキルがなければ、袋の一割分の花を確保した上でウィーク1付与状態で1ターン後に戦闘参加となります。
 何らかのスキル使用を宣言した場合、条件が緩和されます。

*敵情報
 蜂(×2)
 働き蜂がイブリース化したものです。
 手のひらサイズなので、すぐわかります。
 群れ指揮 攻遠単 普通の蜂を率いて刺してきます。ポイズン1付与。
 咀嚼 攻近単 イブリース化して変化した顎で噛みついてきます。スクラッチ1付与。

 女王蜂(×1)
 女王蜂がイブリース化したものです。
 イブリース化した蜂より一回り大きいサイズなので、すぐわかります。
 群れ指揮 攻遠単 普通の蜂を率いて刺してきます。ポイズン2付与
 咀嚼 攻近単 イブリース化して変化した顎で噛みついてきます。スクラッチ2付与。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
21モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年06月19日

†メイン参加者 8人†




「やあ、良い天気じゃないか。これでもう少し風があれば最高だったな」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレーネ(CL3000180)の言う通り。
 うらうらと照る太陽。立ち上る草いきれ。これから花摘みと戦闘に従事することを考えれば、風がほしかったが仕方ない。
「ヒツジノトモダチって、不思議な名前だね。牧草地だから、かな?」
 マリア・ベル(CL3000145)の推測は合っている。ヒツジノトモダチが生える場所はよい牧草が生えやすい。
 一面草の緑色の中に点在する白い塊がヒツジノトモダチの群生だ。
 アリアが事前に調べてきた書物によると、動物が刺す虫が苦手とする芳香がして、花だけを集めて火をつけると一時的にマヒさせる。それでは刺激が強すぎるので、実際に使用するときは、花を精油に加工して使うものだ。
 養蜂家にも優しく、放牧される動物にも優しい、まさしく『ヒツジノトモダチ』である。
 根や葉を温存すればすぐ次の花は生えてくる。渡された袋程度の量なら生態系を乱すことにはならない。
 小さな花だけ毟らなくてはいけないのが玉にきずなのだ。葉が混ざると効果が下がる。
「ヒツジノトモダチ、小さくてふわふわで可愛いんだぞ!」
 サシャ・プニコフ(CL3000122)が歓声を上げる。
「ペルナにも似てるんだぞー!」
 小さな肉厚の花びらが何枚も重なる花だ。ペルナ・クラール(CL3000104)のフワフワ巻き毛の質感にも似ている。
「こんな場所でのんびり散歩も出来ないのは勿体ないよね」
 体液をすすられてカラカラに干からびた獣の死体が発見されたのはこのあたりだ。
「面倒な問題はすぐに片づけて皆がゆっくりハイキングできる野原を取り戻しちゃおう?」 
 森の入り口の密集群生を目指す本隊と別の群生で戦闘に使う分を集める分隊に別れる手はずになっている。
「では、ひとっ走りいってきまー」
 コジマ・キスケ(CL3000206)は走ることには自信がある。
そのコジマの足をもってしても必要量を集めるのに駆けずりまわらなくてはならないのがヒツジノトモダチ採取の面倒なところだ。そもそも人海戦術が基本。蜂が片付かないと甚大な被害が予想される。 
(自由騎士団って、要は何でも屋なんですねー……)
 身分の安定あわよくば立身出世を考えていたコジマにとって、先行き見えないご時世と今の身分は忸怩たる感がある。
「一旦別行動、他の群生地でヒツジノトモダチを集めるネ」
『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)も別動隊だ。群生の濃淡で目星をつけ、効率的に回る作戦だ。
 それぞれにサポートが付き、少しでも迅速に戻ってこられるように全力を尽くす。
 行ってらっしゃいと手を振って、本隊は森の入り口に向き直った。さあ、お花摘みだ。


『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は、周囲を見回した。蜂の羽音はしない。しんと静まり返っている。
「じゃ、不意打ちがないよう警戒を頼むよ、ミルトス」
 わかってる。と、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は頷いた。ミルトスのセフィラはイェソド。意図的にアンテナを張り巡らせれば向けられる害意は感じ取れる。
「えーと、根っこごと掘り返したりとか、そういうのは別にいいのよね?」
 しなくていい、しなくていい。と、ドクター連中は首を縦に振った。ほろほろとこぼれる花を潰さぬように辛抱強く繊細に根気よく粘り強く――とにかく忍耐が要求されるのだ。
「それにしても……これを、全部か」
 アリアが、ははは。と、軽く笑った。文献に載ってたのと規模が違う。採取とは肉体労働である。
「まずは燃やすために袋の二割分を集めたら、私が持っておこう」
 降り注ぐ陽光の下、白衣の照り返しがまぶしく頼もしい。
 せっせと集めて、二割を超え、三割四割、仕事が進み、汗が噴き出し、腰にこわばりを覚える頃、ふとミルトスが立ち上がり一点をひたと見据える。
 それまでの和やかな雰囲気が一気にひりついたものにかわった。
「みんな。森と間合いを取って。でも、守れるところに来て」
 今日は、風がなかった。だが、空気が唸っている。
 森の奥から、唸りの原因がオラクル達に迫ってきていた。
「蜂がでてきたぞー!!」
 聖書のページを繰り始めたサシャの声に各々が装備を手に取る。
 野原の向こうの二人に聞こえただろうか。
 俯瞰術式を展開し、敵の動きを見定めたマリアが隊列を展開するべき方向を指し示した。
 アリアは文献で調べたとおり、花をググっと握り固めて球状に圧縮し、用意していた着火剤で花に火をつけ、その方向に投げる。
 とたんに独特の芳香が立ち込めた。ウルウルと煙が出続けている。
 煙を浴びた蜂の動きに乱れが生じた。ぼとぼとと地面に落ちる。
 先頭を飛んでいた蜂の集団が旋回して森の奥に飛んでいこうとしていたのが不自然に逃走をやめ、その場で滞空する。
 奥から三体の巨大な蜂が現れる。一体が特に大きい。あれが女王だ。
 集団の向きがぎりぎりと捻じ曲げられる。
 群れは、イブリースと化した個体の制御下に入っている。危険を回避する本能すら捻じ曲げられ、特攻させられるのだ。
「敵の全体を把握したよ。普通の蜂は、イブリース化した個体の盾で砲弾だね。弾切れを待ってたらこっちが危ないかな」
 マリアが所見を述べた。
「初手でデータを取る! すまんが頼む!」
「守るわ――ペルナさん、いくわよ!」
 ミルトスがローブの裾をさばいて、前衛に躍り出る。
 ちらりと投げた視線は、横について同じくブロックに入ったペルナに向けてだ。
「次お願いね」
 ミルトスの独特な構えに至る一挙手一投足を構成する運動神経回路のやりとりがそのままペルナの脳に転写され、ペルナの四肢が訓練された格闘家の動きをなぞる。
 つつつっと後方に下がったペルナはぺたんとへたり込んだ。
「寝こけてしまいたい――」
 前衛で守りに入るためとはいえ、脳に掛かる負荷が大きい。強制的に刷り込んだ動きで混乱した脳にはクールダウンが必要なのだ。
「アリア! ちょっとだけ代わってやってくれ! 前に出てる方の働きバチを叩く!」
「了解だ」
 アリアが前に出る。
(体力も盾もあるし、まあなんとかなるだろう)
 ラウンドシールドを蜂の群れに向けて構える。
「じゃ、今のうちに攻撃するんだぞ。後は回復!」 
 サシャの指先にきらきらと青いマナが凝縮され射出される。サシャの顔くらいある蜂を包み込むとビキビキ音を立てて氷結した。
「お待たせしましタ!」
 思ったより早くルーが戻ってきた。顔色が悪い。無理がたたっているのだろう。
「すぐ戦線に入るから。待っててクダサイ!」
 身中で渦を巻く冷たい虚弱の塊を還元された癒しの力によって霧散させた。


 話は少し遡る。
 ルーは、緑に点在する白い花の群生の濃淡をじっと見つめて目星をつけると、より濃い方から優先的にかき集め始めた。
(目標は一割強!うっかり足りなくて依頼失敗は嫌ネ!)
 燃やす分はきっちり二割燃やすだろう。ルーとコジマが摘んでこないと依頼達成に足りなくなる。
 花摘み要員の助けも借り、覚悟していた所より合流地点に近い所で目標量に達成した。

 コジマも、群生の途切れる端まで走った。そこから、森の入り口に向けて摘みながら近づいていく。
 目標値に到達した頃。

「蜂がでてきたぞー!!」

 遠くからかすかに聞こえた声。コジマは離れたところにいたルーが駆けだしたのを視認すると袋をひっつかんで自分も駆けだした。


 蜂の群れがツボミの顔に貼りついた。
 強烈な熱と細かい痛みが顔全体に広がる。息が出来ない。重要な部分を侵食される恐怖をねじ伏せて分析する。
 払いのけようとする前に蜂の群れは離脱していく。
「前衛に入るね!」
 彼方から駆けてきたコジマが前衛に入った。持ち前の木津力で予想されていた消耗状態に至っていない。
 アリアとマリアが下がり、反動を乗り越えたペルナも前衛に入り盤石の体制になる。
 サシャによってツボミに癒しの術が施され、毒の弊害もコジマによってほどかれた。
 アリアが空中に書く『さようなら』の重みある言葉は、悪魔化した蜂の命を削る。
 後衛に下がったマリアがその上に絶妙にタイミングを外した連射をお見舞いする。
 ぴきぱきぴきっと音がした。
「おおおっ!」
 ツボミが腫れの引いた目を丸くする。
 ぱりぱりとタマネギの乾いた皮のように外殻がカシャカシャと剥げ落ちて、地面に落ちると同時に、その中にいた本体も地面の上の普通の蜂の中に落下した。
 それがイブリース化の解除現象であることを察したツボミの手がワキワキしている。
(元のサイズになった。本体はそのままなのかな。イブリース化の痕跡は確認できないものかな。面白いな知りたいな興味深いな大変興味深いな!)
 精査するには、戦闘が終わらなければどうにもできない。現場が荒れる前に回収したい。モチベーションが上がる。
 残った一匹が女王をかばうようにオラクルと対峙した。
 一直線上にはいったことで、ミルトスの戦術の幅が広がる。
(サイズが小さめなのは気にするとして――)
 整えられる呼吸。
(昆虫は外骨格、つまり、鎧の中を液体が満たしているイメージで、内部へ衝撃を伝播させるつもりで打つべし……ッ!!)
 踏み出される一歩、ホバリングする蜂の頭部から透った衝撃が背後にいる女王の体に抜ける。
 踵を返した女王自らがミルトスに怒りの顎をねじ込んだ。とっさに急所をずらし致命傷を逃れたミルトスの腕が痛々しいほどえぐれる。
 あまりの痛みと衝撃にごっそりと命が削られる。
 追いかけるように仲間から飛んでくる癒しの術にかすみかけていた世界が戻ってくるのを感じた。

 戦闘向きではない者たちがお互いを癒しながらどうにかこうにか蜂を追い詰めていった。
 燃やした花の匂いではたはたと普通の蜂が地面に落ちていかなかったら、更なる持久戦に突入していたかもしれない。
 既に辺りに飛ぶ蜂はなく、女王蜂のみが空で頼りなく滞空していた。
 地面に敷き詰められたように蜂が落ちている。そのほとんどが死んでいるわけではないのはざわざわとひくつく様子で知れた。ヒツジノトモダチの匂いで運動中枢がマヒしているのだ。
 オラクル達も致命傷に至るほどではないが、術を駆使するための力が底を尽きかけている。
 術をより消耗の少ないものに切り替えなくてはならない段階だ。
「ちくちく痛いのはごめんなんだぞー!!」
「大丈夫。抜かせない!」
 しかし、逆に言えば、毒や不調で瓦解するほどやわな布陣ではない。確実に有効打をものにしていけばいつかは終わるのだ。
 女王の外殻がはらはらと花びらがほどけるように剥がれ落ち、その上にポトリと本体が落ちた時。
 長い長い緊張の末、オラクル達は互いの顔を見合わせて、健闘をたたえ合った。
 守り切られた後衛はともかく、前衛の顔や手は幾度も腫れては癒され腫れては癒されを繰り返した。
 虫除けは大事。と、皆の心は一つになっていた。
 そうだ。最優先目的は、蜂退治ではない。
「花、足りなければ摘むよ。しっかり、お仕事は終わらせないとね」
 マリアは任務達成目的を忘れていない。
「イブリース化が解けた個体を探して回収、籠に入れて持って帰りたいが――」
 マリアがジーっとツボミを見ている。
 入れ子細工の人形のように幾層にも重なった外殻を着こむように成立していたらしい。
 外殻の破片は確認できるかその下の蜂のどれが該当個体かさっぱり判断がつかない。 
 大きさでどうにかわかるのは女王のみだ。ツボミの手がワキワキする。
「流石に、あの大きさの蜂は、怖いけど。女王蜂は特に、巣に必要な存在だから」
 群れから切り離した女王は死んだも同然だ。
「……せめて女王位は――あー――殻は回収しよう。というか。だいぶ粉だな」
 マリアはしたかったが難しいと判断出来るツボミに敬意を払っている。
 
 アリアとサシャとペルナは森に入って巣を探していた。
「随分と激しいピクニックだな」
 アリアが言った。盾はすごく役に立った。お弁当が目的なのがピクニック。あとでおいしく食べられそうだ。
「蜂がイブリース化してなくても、お花摘みのたびに蜂に狙われるのって本当につらいんだぞ。精油を作るのも大変なんだぞ。もっと感謝して使わないといけないっておもうぞ」
 サシャが言う。神よ、今日の恵みと同胞の献身に感謝します。
 意見に異存はないが、頭から精油をかぶってべとべとさんになったことがあるペルナは思い浮かべて、涙ぐんだ。しばらく食べ物が全部ヒツジノトモダチの味になる。
(イヴリース化していないとしても、蜂さんは危険があるからね。ここに来る人も、蜂さん達も両方が幸せに暮らせるのが一番だもの)
 思ったよりずっと奥にあった。普通ならヒツジノトモダチの影響は考えにくい。そもそもそんな住みづらそうなところに巣をつくったりしないだろう。そう考えると。
「ちょいと環境が整いすぎて、ヒツジノトモダチがいっぱい生えたのかな?」
 ペルナはそういう結論に達した。
「結構いろいろ踏んだから、今回のようにあほみたいに生えることはないんじゃないかなぁ」
 踏み踏み加減は経験則だ。次期は程よく咲くだろう。
「巣の所でお花を焼けば普通の蜂はこれ以上でてこないかな?」
「それには及ばないよ。蜂の根絶が目的じゃないよ」
 巣の場所は移さなくていい。と、判断された。巣から出られれば、牧草地や動物より魅力的な花畑が近くにあったのだから。共存は可能だ。

「後は残りの花を集めるだけ、と。もうひと頑張り、かな」
 ミルトスは、遠くに目を向ける。もうめぼしい所は摘んだ後だが。
「これも騎士の仕事。だよね」
 マリアが言う。規定量まで花を詰めるべきだ。
「いやまあ仕事内容に文句はないんですけど。戦争にくらべりゃ、そりゃ、ね」
 コジマの語尾が途切れ気味だ。
 小さなことからコツコツと。は、基本ではあるが「騎士」という言葉の持つ重みのギャップは否めない。
 そもそも、戦闘で使った分でもうヒツジノトモダチはほとんど残っていない。若干報酬に色はつくかもしれない。収穫量ではなく誠意ある対応のお駄賃という方向で。
 少しでも余分にと、オラクル達がどんどん牧草地に散っていく。草をはむ羊のように。
「ねー、もう、袋の線の上まで摘んだよ?」
 サシャは言う。
「そうですネ、依頼の分は摘みきってますネ。ダメ押しよ、ダメ押し」 
 と言いつつ、ルーは隠し持ったバックに花を詰めている。虫除けポプリでのもうけに夢が膨らむ。費用対効果のことを考えなければ。
(商人ですから! 商人ですもの! 金になるものは根こそぎヨ!)
「――帰る前に寝ころんでいかない?」
 森から戻ってきた、主にペルナが、野原でいい感じにころころすやすやし終えた頃。
 己の仕事をやり遂げた面々が作業を終えていた。
 大きな袋はふかふかいい匂いで、今夜はいい感じに眠れそうだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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