MagiaSteam
亡者の行進。あるいは、墓穴は誰が為に…。



●亡者の行進
 その村は長い時間をかけて、じわじわと、けれど確実に滅亡を迎えた。
 一人、二人……老人や子供から順に倒れていった。
 総勢30人ほどの小さな村だ。否、集落と呼ぶのが相応しいだろうか。
 それが流行り病によるものだと気付いた時にはもう手遅れだ。村唯一の集合墓地には遺体が山と積まれていた。墓穴が足りないのだ。なぜなら、墓穴を掘っていた者たちもまた、すでに遺体の山の一部となっていたのだから。
 そして、村の人間は一人を残して死に絶えた。
 最後に残った一人は、よき隣人たちを葬るために毎日毎日、穴を掘り続けた。
 掘って、掘って……最後に掘った墓穴は自分が入るためのものだった。
 彼もまた、流行り病に侵されていたのである。

 そうして村人たちが死に絶えて数日。
 墓穴の中には、誰の姿もありはしない。
 土の下で眠っていたはずの彼ら、彼女たちはどこへ行ったのか。
 そう、たとえば村の集会所。
 たとえば、粗末な民家の中に。
 たとえば、畑の中央に。
 『還リビト』となった彼ら、彼女たちは村を徘徊しているのだ。
 病に侵され、腐った皮膚もそのままに。
 総勢30名の還リビトたちは、彷徨い続ける。
 その中でただ1体……最後まで生き残ったとある男性の還リビトだけは、今も穴を掘り続けていた。
 誰も収まることのない、深い深い墓穴を。

●階差演算室
「さて、今回のお仕事は還リビトたちの掃討……ってことになるかな」
 哀しいね、と『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)はごくごく小さな声で、そんな言葉を吐き出した。
「還リビトとなった村人たちは全部で30人。1体1体はさほど強くはないけれど、倒された際に[ポイズン]の状態異常を散布する能力を備えているよ」
 生前、流行り病に侵されていた名残りだろうか。
 力は強いが動作は鈍いので、複数体に囲まれるなどしなければそう簡単に自由騎士たちが負けることはないだろう。
「村にある家屋は全部で10。そのうち村の中央にある大き目の建物は村の集会所だね。それから、村の周辺には荒野が広がっているよ」
 村にある障害物は家屋のみ、となっている。
 そして、村から二百メートルほど離れた荒野には墓地があった。
 還リビトとなった村人たちは、荒野を歩いて村へ帰って来たのだろう。
 中にはまだ村に辿り着いていない者たちもいるようだ。
 その中で1人、スコップを手にした男の還リビトだけは今も墓地に残っていた。
「彼のことはグレイブディガーと呼称しよっか。他の還リビトたちよりも少しだけ強いみたいだね。[ポイズン]のほかに[ヒュプノス]の状態異常を付与してくるよ」
 幸いなことに、墓地から移動する様子はないので発見じたいは容易だろう。
「少し数が多いけど、全員きっちり眠らせてあげて」
 と、瞳を伏せてクラウディアはそう言った。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
病み月
■成功条件
1.還リビトの掃討
●ターゲット
グレイブディガー(還リビト)×1
墓所に残り、今も墓穴を掘り続けている男性の還リビト。
最後まで生き残っていた村人であり、他の還リビトたちよりも腐敗が少ない。
そのためか、他の者よりも動作が幾分素早いようだ。
・納墓 [攻撃] A:攻近範
スコップを地面に叩きつけることで、大量の土砂をばら撒く攻撃。

・R.I.P.[攻撃] A:攻近単【ヒュプノス1】【ポイズン2】
スコップによる急所を狙った一撃を放つ。

村人たち(還リビト)×29
流行り病によって死んだ村人たち。
力は強いが動作は鈍い。
村、荒野、墓所の至るところに散らばっている。
・パンデミック[攻撃] A:攻近範【ポイズン1】
戦闘不能になる際、周囲へ毒を拡散する。

●場所
小さな村……集落と言った方が正しいかもしれない。
9の民家と1つの集会所、それから畑がある。
また、村の外には荒野。
荒野を北へ向かうと、村の墓所がある。
還リビトたちは、墓所から村の至るところに散開している。
万が一にも還リビトを取り逃せば、流行り病がさらに広まってしまうかもしれない。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2020年02月10日

†メイン参加者 4人†




 乾いた風が吹いていた。
 腐った血肉の臭いが混じる、嫌な風だ。
 村の入口で足を止め、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は固く歯を食いしばる。
「村が全滅するなんて……こうなる前に、なんとかしたかった」
 握り締めた拳に血が滲む。
 何のための自由騎士だ、と。
 こうなる前に、悲劇を未然に防ぐための自由騎士ではなかったのかと自問自答する。
 そんな彼女の視線の先には、痩せた身体の還リビトが3体。元は村の住人だったのだろう。粗末な衣服は、土に塗れて汚れていた。
「流行り病の被害者を討伐するってのは心苦しいが……やらないわけにはいかないからな。還リビトを放置して周辺の村にまで被害が広がるのは避けなければならない」
 手にしたダガーへ視線を落とし『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)はそう呟いた。
 流行り病に侵された還リビトを放置することで、病が村の周辺へと広がる可能性もあるだろう。そういった事態を防ぐために、彼はこの場に足を運んだのである。
 すい、と1歩踏み出すと同時にオルパはダガーを振り抜いた。
 すぐ目の前にまで接近していた還リビトの首が、ぼとりと地面に落ちる。
「ごめんなさい。私たちにできることは………浄化だけでしょうか」
 地面に落ちた還リビトの首をそっと身体の傍へ置き換え、セアラ・ラングフォード(CL3000634)は静かに目を閉じた。
 せめて安らかに眠れますように……祈りを捧げる以外に、彼女に出来ることはない。
 それから、視線を上げたセアラは素早く左右へ目を動かして、還リビトたちの居場所を探る。
「目の前の2体の他、建物の影にも3体……注意してください」
 物体を透過して見通すことのできる[リュウケンスの瞳]によるものか。彼女は正確に、物影に潜む還チビトたちの居場所を特定してみせる。
 セアラの指示を受け、ジーニー・レイン(CL3000647)が斧を振り上げ駆け出した。
「私の戦斧じゃ遺体を大きく傷つけてしまうが……ごめんなっ!」
 近くにいた還リビト2体を、まとめて斧で薙ぎ払い地面に倒す。
 素早く、けれど力強く。
 二度、振り下ろされたジーニーの斧は、還リビトたちの活動をそれぞれ一撃で停止させた。
「亡くなったあとにまで気の毒な話だぜ。いいかげん救ってやらないといけないな」
 活動を停止した2体の遺体を、どこか辛そうな視線で見据えジーニーはそう言葉を零す。
 そんなジーニーの肩に誰かの手が置かれた。
 赤い籠手に包まれた手。それはエルシーのものだった。
「えぇ。見落としがないように丁寧に索敵して……村人全員に安らかな眠りを」
 ガツン、と胸の前で拳を打ち合わせたエルシーは、まっすぐに前を見据えて村の中へと歩を進める。


 踊るような軽いステップ。
 白いブーツが地面を削り、砂埃を舞いあげる。
 緩慢な動作で迫りくる還リビト3体の手を掻い潜りながら、その胸や頭部へと放たれるは鋭い拳打。
 エルシーの拳は、素早く、けれど正確に、還リビトたちを無力化していく。
 エルシーの籠手には、ぼんやりとした白い輝きが宿っていた。オルパによって破魔の力を宿されているのだ。できるだけ遺体を損傷させずに討伐するための、彼なりの気遣いであろう。
「村の異変に気が付かず、すみません。どうか安らかに」
 謝罪の言葉が、還リビトたちの耳に届くことはない。
 ゆえにそれは、単なる彼女の自己満足。
 けれど、しかし。
 それでも彼女は、救えなかった村人たちに謝罪の言葉を告げながら、その身体を打ちのめすのだ。

「流行り病で倒れたあとにまで動き回る事はないだろう。もう、眠れ……」
 閃くダガー。
 放たれるは不可視の刃。
 遠方にいた還リビトの首や腕を切り落とし、オルパは小さな溜め息を零す。
「これで12体……まだまだ数は多いな」
 と、そう呟いて新たなターゲットを探すべく視線を左右へ走らせる。
 そんなオルパの背後……建物の影から還リビトが飛び出した。
 仕留めたと思っていた還リビトの1体が、どうやらまだ活動を停止していなかったらしい。
 舌打ちと共に、オルパは身体を反転させる。
 その勢いに任せ、ダガーを振るうが還リビトは掲げた右腕でその一撃を防いでみせた。 
 刃渡りの短いダガーでは、腕ごと首や身体を両断するといったことは出来ない。
「……ぐっ」
 オルパの首筋に、還リビトが喰らい付く。

「すぐ回復を……!」
 そう声をかけ、オルパへ駆け寄るセアラであったが、それをオルパは制止する。
 素早くダガーを振り抜いて、自身の首に喰らい付いた還リビトを倒す。
 倒れた遺体から、禍々しい毒の霧が撒き散らされた。毒に身体を侵されながらも、オルパは新たなターゲットの元へと駆けていった。
「まだ平気だ。数が多いからな……」
 多少のダメージを気にしていては、還リビトを討伐し終えるまでにセアラのMPが尽きてしまうだろう。
「分かりました」
 回復を後回しにし、セアラは近くの還リビトへと視線を向けた。
 聖遺物による一撃で、還リビトの体力を削る。
 仲間たちの負ったダメージに気を配りつつ、彼女もまた一刻も早く村人たちに安らかな眠りを届けるために戦闘を行うのであった。

 地面が抉れ、土砂が飛び散る。
 大上段から叩きつけられた戦斧の一撃は、衝撃派となって還リビトたちを吹き飛ばす。
「おりゃあっ! 俺が寝かしつけるのは、少々手荒くなるぜ!」
 数体の還リビトをまとめて相手取りながら、ジーニーは斧を担ぎ直した。
 本来であれば、倒した還リビトたちをすぐにでも埋葬してやりたい。だが、状況がそれを許さない。
 そのことが彼女には辛いのだろう。
「ちっ……生きていた頃の意識とかはあるのかな? いや……ないか。ないと思う事にしよう」
 そのことだけが、唯一の救いだろうか。
 病で苦しみ死した後、還リビトとして蘇り……そして再び死に至る。
 そんなの悲しすぎるだろう……ジーニーは、そう思わずにはいられない。

「皆さんに癒しを……」
 村での戦闘開始から十数分。
 元々大して広くも無い村だ。戦闘を終えた仲間たちに対し、セアラは回復術を行使する。
 淡い燐光が舞い散って、仲間たちの傷を癒す。
 ダメージを回復させた後は、状態異常の治療だ。
 魔導医学の知識により、正しく毒の種類を識別し、体内から取り除く。
 MPだけはどうしようもないが、これでまだまだ戦闘を継続することは可能となった。
「遺体は村の入口付近に集めましたが……墓所へ運ぶのは後で、ですね」
「本当ならすぐにでも埋めてあげたいのですけれどね」
 今はそれより優先すべきことがあるから、とエルシーは唇を噛み締め歩き始める。
 村の出口……その外に広がる荒野へ、そしてその先の墓所へ向かって。

 地面に伏した還リビトの身体から、大量の瘴気が溢れだす。
 生前、その身を苦しめた流行り病が元となっているのだろうが……倒された彼らは、その時こうして毒の霧を撒き散らすのだ。
「キリがありませんね……」
 毒を受けたジーニーに回復術をかけながら、セアラはふぅと額の汗を拭う。
 荒野を進み初めてしばらく……時折襲って来る還リビトたちとの戦闘も、これで2度目だ。
「だが、これで26体……残すはグレイブディガー含めて、4体……いや」
 タタン、と軽い足音を鳴らしオルパが駆ける。
 仲間たちの前に身を投げだし、2本のダガーを振り抜いた。放たれた不可視の斬撃が、正面からこちらへ向かって来ていた還リビトの胴と十字に切り裂く。
 呻き声をあげながら、倒れ込む還リビト。
 その身から、じわりと瘴気が滲み……。
「村の外に流行り病を持ち出さないように気を付けませんとね」
 瘴気が拡散する直前、その全身を氷が包む。
 セアラの手元に渦を巻く魔力と極寒の冷気。氷の棺に捕らわれた還リビトは、荒野の真ん中で立ちつくしたまま活動を止めた。
「見えて来たわね」
 拳を握り、エルシーは視線を遠くへ向ける。
 視界に映るは粗末な木の柵……村の共同墓地である。


 ザクザクと、土を掘り返す音が響いていた。
 墓所の端で、スコップ片手に穴を掘るのは1人の男……否、男性の還リビトだった。その顔は土に塗れ、その手の皮は剥けている。村人全員分の墓を掘り、自身も病で死した男の還リビト。
 誰も入る者のいない墓穴を、彼は今も掘り続けているのだ。
「あなたが……亡くなった隣人達のために墓穴を掘り続ける隣人想いのグレイブディガー」
 乾いた風が、エルシーの赤い髪を揺らした。
 拳を構え、姿勢を低く地面に倒す。
「墓標には“優しき魂、ここに眠る”と刻んであげるわ」
 まるで弾丸のように……。
 エルシーはグレイブディガー目がけて、駆け出した。

 ゆらり、と。
 墓穴の中から2体の還リビトが姿を現す。
 背の高い男性と、小柄な女性の還リビト。比較的腐敗が少ないところを見るに、村にいた還リビトたちよりも後に死んだ者なのだろう。
「悪ぃが……まとめてふっとばしてやるぜ!」
「どうか安らかに眠ってくれ」
 ジーニーの斧が地面を叩く。
 撒き散らされた衝撃派が、2体の還リビトの身体を打ち抜く。
 よろけた還リビトの背後へ、素早く回り込んだのはオルパであった。
 一閃。
 目にもとまらぬ速度でダガーを振り抜き、背の高い還リビトの首を切り落とす。
 さらにもう1体の還リビトは、すでにセアラによって凍りつけにされていた。
「これで残りは1体です!」
 セアラの視線の向く先には、スコップを振り回すグレイブディガーの姿があった。

 グレイブディガーの懐に潜り込み、エルシーは鋭い拳を放つ。
 1つ、2つ……肉を打つ乾いた音が鳴り響き、グレイブディガーが踏鞴を踏んだ。
「はぁっ!」
 裂帛の気合と共に、さらに1歩踏み込んで、渾身の拳をその胸へと叩きつける。
 だが……。
『うぅ……おおおお!』
 よろけた姿勢から振り上げられたスコップが、エルシーの胸元を深く抉る。
 飛び散る鮮血……エルシーの頬が朱に濡れる。
 急所狙いの一撃は、姿勢も悪かったこともあり大きなダメージには至っていない。
 戦闘は続行可能だと、エルシーは拳を振り上げて……。
「え……かふっ」
 その口からは、大量の血が溢れだす。
 自身がじわじわとダメージを受けている感覚をエルシーは味わっていた。その身が毒に侵されたのだ。
 さらには強い眠気が襲う。
 瞼が重い。意識が遠のく。
 身体がゆらぎ、意識が途切れる。
 その寸前……スコップを振りかぶるグレイブディガーが見えた気がした。

 グレイブディガーのスコップと、ジーニーの斧が激突する。
 金属同士のぶつかる音。それから、火花が飛び散った。
「おいおい、そんなスコップで私の戦斧と戦おうってのかい?」
 そう言いながら、ジーニーはちらと背後を見やる。
 そこには毒に侵され、眠りについたエルシーがいた。
 そんな彼女の元へ、セアラが慌てて駆けて来る。エルシーの治療はセアラに任せれば問題ないだろう。
 そう判断し、ジーニーは手首を捻って斧を大きく傾かせた。
 スコップの軌道がそれ、地面に突き刺さる。
「今だ!」
「あぁ……終わりにしてやる。お前さんはもう楽になっていいんだ」
 ガラ空きになったグレイブディガーの頭部に向けて、ダガーによる斬撃が放たれた。
 黒いコートを翻し、宙を舞うように接近していたオルパの攻撃である。
 額を抉られ、グレイブディガーが呻き声をあげる。
 腐った血肉が飛び散った。
『あああああああああ!』
 言葉にならない咆哮と共に、グレイブディガーは地面に刺さったスコップを大きく薙いだ。
 撒き散らされた大量の土砂が、ジーニーとオルパの身体を打ち据える。

「エルシー様、起きてください!」
 そう言ってセアラは、地面に倒れたエルシーの首に手を触れた。
 セアラの手元には淡い輝き。
 光の粒子と化して飛び散ったそれは、エルシーの全身に吸い込まれていく。
「う……っと。助かったわ」
 目を覚ましたエルシーは頭を振って、意識の覚醒を促した。その手を数度開閉し、動作に問題ないことを確認すると、彼女は素早く立ち上がる。
「行って来る」
「えぇ、お願いします」
 駆け出すエルシーの背中に向けて、セアラはそっと頬笑みかけた。

 土と血に塗れたジーニーは、戦斧を力任せに薙ぎ払う。
 グレイブディガーはスコップでそれを受け止めるが、元々30を超える墓穴を掘って消耗していたスコップだ。手入れの行き届いたジーニーの斧をそう何度も受け止められるものではなかったのだろう。
「っらぁ!」
 斧の勢いを止められず、スコップは半ばほどから砕け散る。
 武器を失ったグレイブディガーの懐に、戦線へ復帰したエルシーが駆け込んだ。
 スコップを手放し、エルシーに掴みかかるグレイブディガー。武器を失ったとはいえ、彼は還リビト……その握力は、人間のそれを遥かに凌駕する。
 まともに掴まれれば、骨も筋肉も一緒くたに握りつぶすことも可能であろう。
 もっともそれは「まともに掴めれば」の話ではあるが……。
「させないぜ。もう、眠っちまえよ」
 オルパの放った不可視の刃が、グレイブディガーの両腕を断つ。
 武器も、腕も失ったグレイブディガーには、もはや抵抗の手段は残されていない。
「もういい、もういいんです。貴方ももう休んでください」
 駆ける勢いそのままに、エルシーの拳がグレイブディガーの胸を穿った。
 赤い髪が風に舞う。
 倒れ行くグレイブディガーに視線を向ける彼女の目元で、きらりと一粒、涙が光った。

 戦闘終了から、どれだけの時間が経っただろうか。
 村や荒野に野ざらしにされていた遺体は、すべてグレイブディガーの掘った墓穴の中に収められた。
 土を被せられた遺体……あいにくと、4人は村人たちの名を知らない。
 30の名もなき墓標をじっと眺め、各々のやり方で祈りを捧げる。
 流行り病で死した彼らが、安らかに眠りにつけるよう。
「せめて、私たちだけでも覚えておくわ」
 家族や友人、隣人たちのために最後まで墓穴を掘り続けた1人の男がいたことを。
 墓所を守るため、死してなお勇敢に男の生き様を。
「優しき魂、ここに眠る」と刻まれた、小さな墓標に頭を下げて、エルシーはくるりと踵を返す。
 こうして小さな一つの村は、本当の意味で滅んで消えた。 

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済