MagiaSteam
ヴァロック、頭をよくしてあげよう




 ニルヴァン小管区の東に位置する小管区『ヴァロック』。狭い領土ながらも大規模なヨウセイ収容所があるためシャンバラではそれなりに重要視されている区域になる。
 そのヴァロック小管区、統括塔4階。
「いやぁ……」
「ん……んっ……」
 むせ返るような淫靡な匂いの漂う部屋の中、半裸のような姿でジートンに絡みつくヨウセイ達。ジートンはもはや日課ともいえるヨウセイとの楽しい交流に勤しんでいた。
「ぐふぉふぉふぉ……一体誰のおかげで収容所暮らしを免れたとおもっているのだ。しっかりと役目を果たさぬか。これも神への奉仕の一環なるぞ」
「うぅ……」
 ヨウセイ達の悲痛な声は誰にも届くことは無い。
 ──数時間後。
 ガチャりと音がして扉が開いた。出てきたのはジートン。
「アッサラームよ、急にヨウセイが泡を吹いて倒れて動かなくなってしまってな。まぁ少し薬が効きすぎたのかもしれん。いつもどおり処分しておいてくれたまえ」
 まるで壊れたおもちゃの話でもするかのように、アッサラームに指示を出すジートン。
「ジートン様……今年に入ってすでに7人。さすがにこの消費量は──」
「何か私に言いたいことでもあると?」
 アッサラームの言葉を遮るようにジートンが言葉を発する。穏やかな表情とは裏腹に眼光は鋭い。
「いえ……なんでもありません。了解いたしました」
 傅くアッサラームにジートンはにやりと笑うと、更にこう告げた。
「欠員はすぐ埋めてくれたまえ。ああ、今度はとびきり若い娘がいいかもしれんなぁ♪」

 そして……贄となったヨウセイ達の悪夢は毎夜のように繰り返されていく。


「電撃作戦である」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)が自由騎士に告げたのは極小数によるヴァロック小管区統括塔の強襲と制圧だった。
「我々には足がかりとしてのニルヴァンがある。だが今後の事を考えれば不十分と言わざるを得ない。それで君達の出番となる訳だ」
「話はわかった。ではなぜその強襲の場所がヴァロックなんだ?」
 自由騎士が尋ねる。
「無論ニルヴァンの近隣ということもあるが……理由は大きく2つ。比較的小規模で統括塔の守備状況が現時点で判明していること。そしてもう一つは……統括者のジートンの存在だ」
 フレデリックが様々な経路から得たジートンの人物像を話し終えた頃には自由騎士達の行動は決まっていた。
「行こう」
 その瞳に決意を宿した自由騎士達。
 その姿はフレデリックの号令を待つことも無く、シャンバラの夜の闇へ消えていた。

「統括者さえ何とかできれば後は、我々自由騎士の同志の力で如何とも出来る。頼んだぞ……」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.小管区ヴァロック統括者ジートンの確保
2.聖堂騎士アッサラームの撃破
麺です。ハード再び。ちなみに選べるお店では麺はいつもハリガネで注文です。バリカタも好き。

ニルヴァン小管区を占領されたシャンバラ。未だ正体の見えぬ敵との戦いにシャンバラの警戒もあがりつつあります。この混乱に乗じてニルヴァン近隣のヴァロック小管区の統括者を打ち倒し、小管区としての機能崩壊を狙うため、塔に忍び込み、アッサラームを打ち倒し、ジートンを捕縛するのが今回の目的となります。

●ロケーション
 ニルヴァン東に位置するヴァロック小管区。夜。
 その統括塔が今回の戦場です。塔の入り口には見張りがいますが塔周囲を周回しており、無理に倒す必要はありません。
 シャンバラにも反抗勢力はいますが、本拠地を狙ってくるような動きは少なく、今回の統括塔にも最低限の警備しかいません。塔は5階建てとなっており、1階には護衛の兵士達の詰め所があります。各階には大きな部屋が中央にあり、らせん状の階段で各階は繋がっています。また塔の入り口は簡単な鍵で施錠されています。
 塔内は明かりが灯っており、塔は頑丈な作りのため攻撃に一切の遠慮は必要ありません。
 ジートンは4階の統括者室で奉仕という名目でヨウセイへの虐待を行っている最中です。
 ジートンの趣向上、部屋は完全な防音措置がされており、中の音が外へ洩れないように外の音も一切中には聞こえません。
 部屋の前にはアッサラームと3人の兵士がいます。部屋の鍵は中から閉まっています。
 ジートンの部屋の扉は破壊もしくは、アッサラームの持つ鍵を使う事であける事が出来ます。
 扉を何らかの方法で開けたあと、兵士やアッサラームの対処に手をこまねき、3ターン過ぎるとジートンは5階への隠し階段を利用して逃亡します。5階に逃げた時点で自由騎士は一切手出しできなくなり任務失敗となります。
 また戦闘開始後、騒ぎを聞きつけ1階の詰め所から残る17人の兵士が階段を駆け上がってきます。(4階まで上がってくるのに4ターンを要します。またサポートメンバーの有無により駆け上がってくる兵士の人数が変化(減少)します)。廊下に比べらせん状の階段は狭く、人が二人並んで通るほどの幅しかありません。
 

●敵情報

・ジートン司祭 46才 魔導スタイル ノウブル
 表向きは神のためのヨウセイ収集従事者として名を馳せる小太りの男。そのヨウセイの取り扱いと収集のスピードを買われ登用されたあとは、ありとあらゆるコネツテカネの力で小管区のトップにまで上り詰めました。交渉の才能は秀でていますが、魔導の才能は持ち合わせなかったようです。
 スキルもごくごく初歩のものしか使えず、アッサラーム他護衛の兵士に守られるだけの存在です。
 ヨウセイ(♀)との一方的なコミニュケーションを日課としており、その筋では有名人。そのためか首を狙うヨウセイも多いようです。

・ヨウセイ 3人
 ジートンの部屋にいます。10代の美しい女性たちです。すでにジートンによる奉仕の強要が行われており、精神的にも厳しい状態です。自由騎士が部屋に突入すればジートンが人質にもしかねず、何らかのフォローが必要です。

・聖堂騎士アッサラーム
 ジートンの警備として常に行動を共にする騎士。ジートンにはもったいないほどの強者。ミトラースを絶対として崇めているため、ヨウセイの存在はモノであり、ジートンのヨウセイへの扱い(その行為からヒトに近いものとして扱っていることに対して)は快く思っていない。剣の腕前も確かだが、その魔導力の高さも聖堂騎士たる所以。遠近問わず攻撃可能な万能タイプ。
 軽戦士と魔導のランク2スキルを使いこなす強敵です。
 主にトリロジーストライク、コンフュージョンセル、コキュートス、マナウェーブ等を使用。
 また特殊な鎧の効果により常にHPチャージ効果の恩恵を受けています。

・シャンバラ軍正規兵 20人
 ジートン配下の兵士。軽装の鎧で防御を固めているが殆どが魔導スタイルで数名のヒーラーが存在する。全て使用できるのはランク1スキルのみ。見た目では区別はつきません。
 またアッサラームが倒されると、正規兵は逃げ出します。

●同行NPC

『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければ回復に従事します。 
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。
 久々の同伴(?)で張り切っている様子。

皆様のご参加心よりお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年02月26日

†メイン参加者 6人†




(ジートンとかいう司祭、凡そ慈悲をかける必要性を感じないのだが……)
「おっと、いかんいかん」
 そう言って頭を振り、心を落ち着けるのは『信念の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)。
 報告の中のジートンという人物はまさにゲスの極みといった男だった。しかしどんな人物であれ、仮にもひとつの管区を任せる立場を与えられた者。生け捕り尋問すればきっと何か有益な情報を持っているに違いない。ジートンの行ってきた行為に憤りを感じていたランスロット。寧ろそうとでも思っていなければ勢いのまま斬ってしまいかねない。
 そんなランスロットの隣で神妙な顔をしているのは『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)。
「しっかしこんな分かりやすいゲスな小悪党が、隣の小管区の統治者とはなあ。軍事的にはありがたい話だがヨウセイ族的には完全にクソだなこりゃ」
 吐き捨てるように言うザルク。
「まぁほんと、分かりやすい下衆よね……容赦してあげる理由もないわ。ま、でもある意味では与しやすい相手でもあるのよね」
 そう言うのは『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)。
 今、私達が行っているのは国と国の存亡をかけた戦争。当然国の正義や守べきものの為に戦う気持ちはある。だがそれは相手国の人々とて同じ事。相手もまた譲れないものや違う価値観の中の正義で戦っている。彼らにとっては自分達こそが侵略者であり、悪なのだ。
 そんな中で、このジートンという誰が見ても明らかに下衆な男の討伐の任務。
「敵がこういう明確な悪人でいてくれたほうが割り切れて助かるわ」
 ヒルダがポツリと呟いたこの言葉は、多くの自由騎士達の気持ちを代弁しているように思えた。
「にしても統括者ジートン……ヒトをヒトとも思っていない最低野郎だわ。シャンバラってこんなのばかりなのかしら……ほんとぶっ殺してやりたいわ」
『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は明らかに殺意が高い。
「まあ、今回は生け捕りが目的だし、ヨウセイ族が面子にいなくてよかったと思うべきか、なんつーか」
 ザルクはライカを諌めながら複雑な表情を浮かべるが、状況を考えればヨウセイのメンバーが選抜されなかったのは幸いと言えるだろう。
「…・・・まぁやるなと言われるならやらないけど。少しくらい痛めつけてもいいんじゃない? 死なない程度に。とりあえずブツは二度と使い物にならなくするくらいはしてもいいと思うわ」
 男性諸君にはなんとも恐ろしい言葉をさらりと言うライカ。それほどライカにとってジートンは許しがたいのだ。
 一方そんな皆の様子を何も言わず眺めているのは『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)。
 アダムが目指すのは誰もが誰にも優しい世界。その世界実現のための近道と、依頼をこなし続けている。だがどれだけ依頼をこなしても、世界は憎しみや悲しみで溢れているままだ。アダムは自問する。自分が救えてるのはほんの僅か、ほんの一握りの人々だけなのではないか。アダムは自問する。自身の行っている行為自体ただの自己満足なのでは無いか。
「それでも僕は……」
 アダムはそれ以上考えるのを止めた。今行うべき事に全力を尽くすために。


「いまだっ」
 ランスロットの合図で統括塔周囲の警備兵の見回りの隙を突いて塔の中へと進入した自由騎士達。ヒルダはリュンケウスの瞳を駆使し、詰め所の中の兵士の動きを探る。そのまま気づかれぬよう1階の兵士詰め所の前を通り過ぎようとしていた時だった。
「すぐ追いつきます」
『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は小声でそう言うと1人詰め所のドアの前で立ち止まる。
「わかった」
 何事かと思いながらも、アリアを信じ先を行く自由騎士達。そのまま薄暗い螺旋階段を出来るだけ音を立てずに昇っていく。
 目指すは塔4階。聖堂騎士アッサラームが守護するジートンのいる統括室。
(迷うなよ、アダム・クランプトン。敵を倒す事が『優しい世界』への近道だ)
 上へと続く螺旋階段を進むアダムは、龍氣螺合で自己を強化しながら自分自身を言い聞かせる。倒すべき相手はもう、すぐそこだ。

「いくぜっ!!!」
 ザルクの合図で皆が一斉に階段から4階の通路へ飛び出す。
「何奴っ!?」
 音に気づいたアッサラームの配下がすぐに剣を構える。
「遅いぜ! パラライズショットッ!!」
 ザルクが放つはその身を束縛する魔導弾。襲撃と共に放ったその技はアッサラームにこそ回避されたものの周囲にいた兵士へ命中する。
「うわぁぁーーーっ!? ……なんだこの技は。痛くないぞ!? こけおどしか!?」
「いや……ぐ……ぬぅ……身体が動かん……っ」
 パラライズショット。その効果はダメージこそ無いもののスキル使用を不可にし、50%の確立で行動をも不能にする。
「受けてみなさいっ!!」
 突然の襲撃とザルクの初撃によって指揮系の乱れた所へヒルダが放つはバレッジファイア。絶え間ない灼熱の弾幕が廊下で守護する兵士達に一気に降り注ぐ。
「ぐわぁぁーーーーっ!!」
「盾で防御しろっ!!」
「遅いっ!!」
 更にそこへ盾を構えたランスロットとアダムが突進し、衝撃で弾き飛ばされる兵士たち。
 ガキィィィィン。響く金属音。
「……さすがね」
 強化し更なる速度を得たライカの一撃を、アッサラームが盾で防ぐ。
「何者かしらんが……聖堂騎士たるこの私の前に敵として現れたこと、あの世で後悔するがいい」
 ステップバックして距離をとるライカ。
「動けるタイミングで全員距離をとれ。巻き込まれないように各自注意。回復兵は1階の詰め所へ伝達せよ」
「サー!!」
 アッサラームもすぐに指示を出し、陣形を整えていく。
「我が名はアダム、誇り持つ者ならば名乗られよ」
 アダムは高らかと名乗りを上げる。
「我が名はアッサラ-ム。神国シャンバラを守る聖堂騎士である」
 呼応する者。アダムに自身の正義があるようにアッサラームもまた正義を貫かんとする武人なのだ。
「呼ばれちゃったみたいね」
「下からの援軍は俺達に任せておけ」
 ランスロットとヒルダが螺旋階段へ向かうと……そこには遅れて到着したアリアの姿。
「こっちは任せるね、ノイズが大きくなったら、接近の合図だから」
 アリアが仕掛けたもの。それはノイズロック。特定の扉や箱を開けることで発動するスキルだ。
「ノイズ……ね。了解っ!」
 アリアとヒルダが目で合図する。──その時すでに1つ目のノイズが鳴り響いていた。

『なんだこの耳障りな音は!?』

「さてと……何人来ようと関係ない。ここは絶対に通しはしない」
 自らを盾と称するランスロット。揺らぐことの無いその絶対的防御は彼の信念そのものだ。
 下の階でさらにノイズが重なる。どうやら2つ目が作動したようだ。

『音は耳を塞いでしのげ! 一刻も早く4階へと向かうのだ!!』

「そうね。ここならたとえ何百人来ようと関係ないわ」
 ヒルダは軽くステップを踏みながら階段の壁や天井を確認する。耐性は高そうね……ここでも存分に暴れられるわ。
 さらにノイズは大きくなり、駆け上ってくる兵士達の沢山の足音が聞こえ始める。
『ウォォォォォーーーー!!』
 迫り来る兵士達をランスロットとヒルダは真正面から見据える。
「行くわよっ!!」
「いざゆかんっ!!」
 自由騎士2人に対し、シャンバラ正規軍は16名。圧倒的数の差の中、絶対に引けない戦いの幕が切って落とされた。

「シャンバラにもこれほどの剣技の使い手がいるなんてね……」
 幾度と無く、重ねられた技の応酬でライカが感じたのは相手の力量。その強さへの純粋な興味だった。
 剣の使い手でありながら、距離をとればすかさず魔導を放つアッサラーム。その隙の無い攻撃に聖堂騎士の実力を改めて垣間見る自由騎士達。
 回復手段の乏しい自由騎士にとって、戦闘の長期化はすなわち失敗を意味する。
(まずは敵の回復を断つ!!)
 到着の遅れたアリアが動く。そしてその遅れこそが、この場において大きなアドバンテージを生んでいた。
 アリアが4階にたどり着いたときにはすでに戦闘は始まっていた。そして戦闘に加わるまでの戦闘を客観的に観察できる時間。それがアリアにほんの僅かな違和感を与えていた。見た目には判別できない兵士の中に1人行動が遅れるものがいる事。まるで何かを判断した上で行動しているような。何か。それは味方への回復が必要かどうかではないのか。戦闘の最中では感じ取れなかったであろう僅かな違和感。
「はぁーーーっ!!!」
 アリアが違和感を感じた兵士へ向け放った攻撃は兵士の盾によって防がれる。そう……別の兵士の盾によって。違和感は核心に変わる。
 アリアがその後回復手の動きを止めるまで僅か17秒。
 アリアはしばしその時を待つ。ライカがアッサラームを抑え、アダムとザルクが回復手でない兵士を抑えきる瞬間を。
 ガードのいなくなった回復手の元へ、アリアは風のように瞬時に近づき、一閃する。
「グハァッ!!」
 返す刀で間髪いれずアリアが放ったのは疾風刃・改。相手の攻撃を極限までその身で受けきり、オリジナルへと昇華させた技。
 結果としてアリアは敵回復手に一度たりとも回復させること無く、その意識を奪い去ったのであった。
「グハァ!!」
「ゴガハッ」
 時を同じくして響く断末魔が2つ。
 アダムの思いを込め圧縮した力を解き放つ剛拳が、ザルクの敵の防御力をも粉砕するその銃弾が、アッサラームの配下二人の意識を同時に反転させたのだった。
「まだよ。アタシはこんなところでは止まらないっ!!!」
 アッサラームをその俊敏な動きで翻弄しながら抑え続けるライカ。実力だけで言えばまだアッサラームが上であろう。だが。倒すでなく、抑える──ライカには信頼出来る仲間がいる。その事がライカをまたひとつ高みへ導いていく。
 まだだ、アタシはもっと速く、強くなれる。加速するんだ。もっと、もっと──!!
 ライカの攻撃は止まらない。傷つくごとにその攻撃の精度は上がっていく。
「むぅっ!!」
 アッサラームの表情にも変化が現れるのはそれからすぐの事だった。

 一方螺旋階段。
 そこには一階からあがってきた兵士達を抑えるランスロットとヒルダ。
 お互いノックバック効果のある技を駆使し、あがってくる兵士を抑え続けて入るものの。敵は魔導国家シャンバラの正規兵。近接技に加えて遠距離の術を持っている。推し留めながらも受け続けた攻撃は徐々に二人の体力を奪っていく。
「直接やりあう相手は少ないが……それでもこの状況長く持たせるのは至難だな」
「……認めたくないけど確かにそうね。でも倒さなきゃいけない訳じゃない。アリア達がアッサラームを討ち取ってくれるまで絶えればいいのよ」
 防衛線における大きな糧。それは希望。そしてヒルダの中にはアリアへの絶対的な信頼がある。それこそがヒルダの希望。
 この希望が消えぬ限り、ヒルダが折れる事は無い。
「危ないっ!!」
 ヒルダを狙う一際大きな魔導弾。そこへ立ちはだかったのはランスロット。一瞬怯んだヒルダが目を開けるとそこにはランスロットの広い背中があった。
「ウォォッォォォォーーーー!! 安全装置解除・銃剣乱舞!!!」
 ランスロットが吼え、仕込まれた剣を周囲に乱射する。その威力と鬼が如き迫力に思わず距離をとる兵士達。
「ヒルダ! まだ魔力は残っているか?」
「……え、うん。抑えていたからまだもう少しは」
「わかった。ここからは俺がヒルダの盾になろう。攻撃に集中してくれ」
 それからランスロットはその体力が尽きるまで、敵の攻撃を受けきる。
 全てを守るための盾になる──ランスロットのその言葉に偽りなど無い。

「ハァ……ハァ……あとは貴方だけね」
 アッサラーム以外すべて倒れたのを確認すると、ライカは薄い笑みを見せる。もちろん回復が乏しい状況で実力が上と思われる存在と熾烈な攻防を続けてきたのだ。本来そんな余裕があるはずも無い。現に疲弊しきったライカの身体中の至る所に出来た傷跡からは鮮血が滲む。
「驚いたな。まだそんな表情が出来るとは」
 儚げで美しいその表情を見たアッサラームの抱いた感情。それは純粋な相手への敬意。
「騎士アッサラーム、貴方はこの小管区の現状を良しとしているのかい」
 アダムが問いかける。
「……」
 アッサラームは何も答えない。
「ジートンの下で剣を振るう事が神への信仰に繋がると、そう思うのかい?」
「……我が正義と信仰は剣を振るう今この場所にのみ存在しているのだ。誰に仕えているかなど関係あるまい。……お前もそうでは無いのか?」
「僕の正義は……」
 言葉に詰まるアダム。
「もはや言葉など不要。お互いが正義を示すのはこの剣のみ」
 アッサラームが剣を構える。
 ザルク、アダム、ライカ、アリア。アッサラームと対峙した4人は聖堂騎士の凄まじきを知る事になる。
 4対1であるにもかかわらず、アッサラームの猛攻は衰えを感じさせず、とても4人を同時に相手しているとは思えぬほどの動きを見せていた。しかしその戦いにも終焉が訪れる。ザルクが一瞬の隙を突いて仕掛けたパラライズショットによってスキルを封じたその瞬間を自由騎士達は見逃さなかった。
「ぬぅっ!? スキルが発動せぬっ」
 アッサラームの攻撃のリズムが乱れる。
「覚悟しなさいっ!!!」
 血心一閃【絶神】──その執念を燃え上がらせ放った一撃は、アッサラームをほんの僅かな時間無防備にした。
「オオォォオォーーーー!!」
 アダムが吼える。その獅子の如き雄叫びとともに放たれた拳はアッサラームに深くめり込み、その身を吹き飛ばす。
 凄まじい衝撃音と共に壁に叩きつけられるアッサラーム。
「ぐ……ふ……」
 朦朧とする意識の中、それでも剣を離そうとしない。
「陽炎う煌星。これで、終わりです」
 アリアの声をアッサラームが耳元で聞いたとき、すでに戦いは終わっていた。
 

 アッサラームから奪取した鍵でジートンのいる部屋の扉を開けるザルク。
 扉を空けたとたん自由騎士が感じたのは……粘つくように湿った空気とむせ返るような淫靡な香り。
「な、なんだお前た──ぐわっ!?」
 突然の来訪者に慌てふためくジートンに有無を言わさずザルクの魔導弾が炸裂する。すかさず影狼で間合いを詰め、ヨウセイの元へ向かうライカとアリア。
「くそっ!! こうなれば……」
 身体は動かずとも呪文を唱えようとするジートン。だがランスロットの盾と一体化した渾身の突進が炸裂。ジートンの意識はそこで途絶えた。
 ──数分後。
 目を覚ましたジートンは自身が捕縛された事を知る。
「お、おい。お前達は一体何者だ? ……誰に頼まれた?」
 自由騎士は何も答えない。
「グレイタスのバーカスか。それともグラーニアのアンペール。……いや、ムートリアスのカースンか! そうだろうっ!?」
 その所業からであろうか。ジートンは常々敵が多い人物のようだ。次々と出てくる他の管区の統括者であろう者達の名前。
「……わ、わかった。誰に頼まれたかはもういい。こうしよう、2倍……いや3倍払う。それでどうだ。悪い話じゃないだろう?」
 ジートンは状況を理解できないながらも必死に食い下がる。だが自由騎士は何も答えない。
「他にも……私の配下になればこいつらヨウセイだって好きにし放題だ。何なら壊してしまっても構わない。替えならいくらで──グェエ!?」
 にたりと醜悪な嗤い顔を見せたジートンの鳩尾にランスロットの拳がめり込んだ。
「それ以上しゃべるな。耳が腐る」
 ランスロットの言葉は、またも意識を飛ばしたジートンには届いてはいなかった。

 その後ジートンとアッサラームは捕縛され、自由騎士達によって連行されていった。精霊門を通じてイ・ラプセルへ移動し、尋問を受けるのであろう。
 そしてライカの目の前にはヨウセイたち。助け出された後も感情も見せず、うつろな瞳をしたままだ。
 きっと簡単には癒せない傷を心と身体に負っているのね──そんな彼女達にアタシは何て言葉を掛けてあげればいいの。そんな事を考えていたライカだったのだが。身体は自然に動いていた。そっとヨウセイたちを抱きしめる。だが触れられることに恐怖があるのだろうか。ヨウセイ達の身体は強張ったままだ。それでも優しく包み込むように抱きしめ続けるライカ。
「……アタシ達が、終わらせたから。もういいの」
 すると──ヨウセイ達の頬を伝ったのは一粒の涙。
「もう……大丈夫ですよ」
 アリアもまたヨウセイたちにシーツを羽織らせながら、ゆっくりとした口調で優しく話しかける。
 ただ傍にいる。それがどれだけ心強いことか。ただ傍にいる。それがどれだけ温かいものか。ただ傍にいる。それがどれだけ安らぐことか。
「ふぇぇぇぇ……」
 堰を切ったかのように泣きじゃくるヨウセイたち。
 ライカの、アリアの心に寄り添った振る舞いは、ヨウセイ達に一度は失いかけた心を取り戻させたのだ。
 

 アッサラームが倒されたことで蜘蛛の子を散らすように逃げていった正規兵を見ながらアダムは1人佇んでいた。

 ヒトは何故、こうも残虐になれるんだ。
 ヒトは何故、他人に優しくなれない。
 これは世界が間違っているのか。
 それともヒトが間違っているのか。
 ……分からない、分からないよ。

 自問するアダム。
 だがいくら自身に問いかけようと、今のアダムにはその答えを導き出す事は出来なかった。

 その答えはきっと。アダムが進む未来にある。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『護るべきもののために』
取得者: ランスロット・カースン(CL3000391)
『寄り添う心』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『弛まぬ絆』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『我思う』
取得者: ザルク・ミステル(CL3000067)
『道半ば』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『弛まぬ絆』
取得者: ヒルダ・アークライト(CL3000279)

†あとがき†

強襲成功。ヴァロック小管区のコントロールを奪う事に成功しました。
それにより管区内のヨウセイの収容所から多くのヨウセイを救助することに成功しています。

MVPは悩みながらも前を目指す貴方へ。
人は足掻きながらも前を進み続ける。そこに答えがあると信じて。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済