MagiaSteam
浜辺の土地守さま




「大亀様ぁ、甲羅干しなら他んとこでやっちょくれんか」
 眉尻を下げた男性の前には、どーんという擬音語がよく似合う巨大な亀が陣取っていた。男の手には、地引き網用の漁網。大亀は男をちらと見やるが、すぐにぷいとそっぽを向いた。
「そんな~、おおがめさまぁ~」
「駄目かぁ~」
 様子を伺っていた他の漁師たちも、がっくりと肩を落とす。
「こりゃあ拗ねてらっしゃるなぁ」
「俺たちだってどうにかしてやりてぇけどよ……」
 誰一人怒る事なく一様に苦笑いを浮かべている様子は、頑固な年寄りを見るようでもあり、我儘な子供を見守るようでもあり。――問題は、その駄々っ子が大きすぎるのだ。ちょっとした小屋くらいの大きさがある亀に砂浜のど真ん中を占拠され、浜辺で仕事をする者達は動線の変更を余儀なくされている。
 端的に言って、邪魔くさい。
「まあ魚は空いてっとこ干しとくわ」
「うちらはそれで良いだろうけども、大亀様あのまんまじゃ可哀想だがや」
「つっても俺らじゃ務まらん」
 どうしたものかなぁ、と。深く息を吐き、村人たちはお手上げだと天を仰いだ。


「ちょっとお使いを頼まれてくれないかい?」
 キザイア・イェリネク(nCL3000078)に請われて話を聞いてみれば、アマノホカリ産の薬草を仕入れて欲しいなどと宣った。聖霊門で繋がったとはいえ、『ちょっと』のノリで行くところでもない。
「え? なんだい、大きな声で言っとくれ……ああ、はいはい。お使い自体は自由騎士に頼む事じゃないのはわかってるよ。問題は仕入れに行きたい村がねェ、ちょいと幻想種の事で困ってるみたいで」

 キザイアの話によると南御屋の南西、威瀬(いせ)湾に面したその漁村では、『大亀様』と呼ばれる巨大な亀の幻想種と共存してきたそうだ。特に何をするわけでもないが、大亀様が居るだけで小物の妖怪が悪さをする事がなくなるので有り難がられているようだ。
 その大亀様だが、のんびりとした性格でありながら、意外と好戦的な面も持ち合わせているらしい。よく村民を相手に力比べをする事があり、この村出身のサムライは大亀様を鍛錬の相手に育ったと言っても過言ではない。

「その大亀様と力比べをしていた人達がねェ、やれ宇羅幕府が動いただの、やれ神州なんとかが騒いでるだの……、忙しくって最近村に居ないの。で、全然相手にして貰えないもんだから、大亀様すっかり元気がないんだよォ。だから、代わりに大亀様と戦ってあげてくれないかい?」
 要は大亀様を存分に暴れさせ、ストレス発散に付き合ってやれば良いらしい。この小さな村に恩を売ったところで、得られるメリットと言えば今後アマノホカリ産の美味しい海産物を手に入れやすくなるという事くらいしかないのだが。
「なんで薬草の仕入れで漁村かって? 海で採れるのよォ。保存が利くように乾かしてあるとかで……『わかめ』とかいったかねェ? それじゃあよろしく頼んだよ」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
宮下さつき
■成功条件
1.幻想種『大亀様』のストレス発散に付き合う
聖霊門開通おめでとうございます。
幻想種いっぱいなアマノホカリにわくわくです。宮下です。

●敵情報
土地守『大亀様』
巨大な亀の幻想種です。水陸両生。人語を話せるわけではありませんが、知能が高いので意思の疎通は可能です。

・圧し潰す
近接範囲、ショック(砂に埋没し、這い出る行動に次ターンを消費します)

・水鉄砲
遠距離貫通(貫:80%,20%)

・甲羅に篭る
完全攻撃防御(持続:1ターン)

・頭突き
近接単体、ノックバック
「甲羅に篭る」次ターンのみ、追加で【ブレイク1】が発生します。

●戦場
威瀬湾の浜辺です。
砂と岩で足場が悪く、戦闘開始時点で全員に【スロウ1】が付与されます。
何らかの対策をする事で解除可能です。

それではよろしくお願い致します。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
5モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/6
公開日
2020年10月06日

†メイン参加者 6人†




 自由騎士達が村を視界に入れるよりも先に、風が海の香りを運んできた。海に囲まれたイ・ラプセルの面々に潮風は馴染み深いが、些か嗅ぎ慣れない磯臭さが混じった事でここは異国なのだと改めて認識する。
「困ってる――といっても、暴れてる云々の依頼よりかはまだ平和か」
 近付いてきた村を見やり、『何やってんだよお父さん』ニコラス・モラル(CL3000453)は目を細める。内戦中だと言うが、のどかな田舎だ。
「ふーん、アマノホカリ産の薬草か。ボクも欲しいなー」
 そう言ってきょろきょろと村の様子を伺うリィ・エーベルト(CL3000628)は、好奇心から目を輝かせる子供のようでもあり、探究心溢れる研究者のようでもあった。
「溜めちゃうと良くない物って言う事はぁ、石を沢山お洋服に抱えて持つのと一緒かなぁ??」
 それとも風船の空気みたいに、爆発しちゃう前のハラハラドキドキする感じかなぁと小首を傾げる『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)は、彼女なりに幻想種の現状を理解しようと努めているようだった。なんにせよ長引くのは好ましくないだろうと話す彼女に、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)も同意する。
「それは人も幻想種も同じだよね、きっと」
 鬱屈、抑圧、そういった状況がよろしくないのはヒトに限った話ではない。
「イブリース化でもしようものなら、こんな小さな村がどうなるかは火を見るよりも明らかだからな。こっちだと禍憑き……と言ったか」
 来訪者に気付き様子を伺っている村人たちに向け、『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は軽く手を振って見せる。歩み出た初老の男性は、村のまとめ役といった所だろうか。
「この村に何か御用ですかな」
「大亀ちゃんがご機嫌斜めだってナナンは聞いたのだ!」
 話を聞いて大亀様と手合わせに来たのだと説明すれば、村人たちは甚く喜んだ。皆、大亀様の現状を憂えていたそうだ。
「……こういうの、いいね」
 村人たちを見渡し、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はぽつりと漏らす。
「あー、幻想種と共存? 利があるといっても……アマノホカリのヒト達はのんびりしてるのかな」
 マグノリアと同じく幻想種の血を引くリィも、村人たちの視線に不快なものは感じない。マザリモノへの偏見が少ない国だという噂は本当らしい。先導する村人の背を眺め、マグノリアは呟いた。
「僕等も彼等の様に穏やかに、全ての種を認め合う事が出来る様になるといい」


「で……っかいな大亀の旦那?!」
 事前に聞いていた話の通り、大亀様は砂浜のど真ん中に寝そべっていた。甲羅の高さだけで、騎士の中でも大柄なはずのウェルスの背丈を超えている。
「しかし、これだけ大きいなら……ぶはっ」
 肉にべっ甲、更には央華では生薬の材料としてなかなかの値段が付くのではなかったか。口には出さなかったが、ウェルスは何かを察したらしい大亀様の鼻息で舞った砂の洗礼を受ける事となった。
「大亀ちゃん、あーそーぼー」
 砂まみれになっているウェルスはさておき、まずは仕事だ。ナナンの朗らかな声掛けに、大亀様はようやく重たい頭を上げた。意外とつぶらな瞳をしている大亀様と目が合い、カノンはにっこりと笑いかける。
「こんにちはー。大亀様とどすこいしにきたよ♪」
 カノンが四股を踏んで見せれば、触発されたのか大亀様はのっそりと立ち上がる。腹ばいの状態でも自由騎士達より大きいというのに、立つとより圧迫感がある。
「デカいなぁ」
 感心したように呟いたニコラスをちらりと見やり、大亀様は更に後足だけで立ち上がってみせた。――砂浜に大きな影が落ち、微かにマグノリアの眉が上がる。
「……下がって。くるよ」
「は?!」
 マグノリアが注意を促すと同時、巨体が倒れてきた。自由騎士達が散開するが早いか、大亀様の腹が砂浜を叩く。ずん、と足下が揺れる。
「キミは亀の割に、随分とせっかちなようだね」
 砂浜に残っていた村人達に離れるよう声を掛け、リィはガラス瓶の蓋を開けた。とぷんと薬液が揺れ、仮初の命が誕生する。
「潰されるなんて冗談じゃない……っ」
 いきなり開戦など勘弁してくれ、ぼやきながらもニコラスはトリアイナPSD改に指を掛ける。魔導弾は二つの軌道を描き、伏せた甲羅の表面を削った。
「大亀様、やる気いっぱいだね!」
「前のめりもいいとこだ。余程鬱憤が溜まっていたと見える」
 カノンも負けないよと吠えた少女の声は大亀様を叩き、ウェルスの弾丸は甲羅の一点を陥没させる。彼の予想通り防御に優れているようだが、確かな手応えはあった。
「存分に発散すると良いよ。僕も全力で付き合おう」
 恐らくは持久戦を得意とする相手だ、ならばその鉄壁を削ぐ事が出来れば。マグノリアの選択した現象は、デ・レ・メタリカ。劣化を刻み込まれた大亀様の鼻先に、間髪を入れずナナンが踏み込んだ。
「大亀ちゃん、ナナンの全力で行っくよぉ! そぉれ、ドッカーン!!」
 型も構えもあったものではない、渾身の一振り。ツヴァイハンダーが城壁のように硬い幻想種を突き上げるように振り抜かれる。純然たる力に押し上げられ、巨体が浮いた。
「えへへー、ナナンの全力を見たかー! ……あれ?」
 見上げれば大亀様は意外と長さのある首を伸ばし、しっかりとナナンを見つめている。おもむろに手足を伸ばし、そのまま重力に逆らう事なく――落ちてきた。
 ドォォオオオン!
「ナナンおねーさーん?! 大亀様、そこどいてー! どすこーい!」
 気迫と共に繰り出された張り手は児戯のようでいて、だがカノンの愛らしい手の平は鋭い打擲音を立てた。大亀様のもつれた足元で、もこもこと小さな砂山が動く。
「……ぷはっ」
「大丈夫か?!」
「口に砂入った以外は平気ー! っ、ぺ」
 砂の中から、ナナンが顔を出した。癒しの術式を構築しながらニコラスが問えば、思いのほか軽い調子で答えが返ってきた。やたらと柔らかい足場は、そう悪い事ばかりでもないらしい。
「あまりふらつかれると、足元の彼女が危ないから……ね」
 ふわり。リィの喚び出した冬の精霊が大亀様の周りを舞い、凍てついた蔦が太い足を大地に縫い付けた。大亀様が動きを止めた隙にマグノリアは仲間の強化に勤しみ、ウェルスは引き金を引く。
 ふいに、遠くから歓声が聞こえた。声のする方に視線を向ければ、海岸に沿って生える松林の中に村人の姿が見えた。何せ娯楽の少ない田舎だ、ちゃっかり観戦しているらしい。
(「スモー……スモウ、と言ったか」)
 毎度自由騎士が付き合ってやる道理などない。今後は村人たちでどうにかして貰うべく考えを巡らせ、ニコラスは肩を竦めた。


「……わぷっ」
 真正面から幾度目かの水鉄砲を浴びたカノンは、手の甲で顔をぬぐうと「しょっぱい」と顔を顰めた。後方に居たウェルスも体をぶるぶると震わせ、毛皮についた水滴を飛ばす。
「よりにもよって海水とはな」
 恨みがましい声で放った二連射は、大亀様の前足にめり込んだ。表皮も十分硬いが、甲羅よりは幾分柔らかいようだ。
「後で拳銃を整備してやらないと」
「水も滴る……なんて言ってる場合じゃないな」
 同じく濡れた髪を掻き上げながら、ニコラスはヒポクラテスの誓いを綴る。水への親和性が高かろうと、濡れて身体に張り付いた服は少々気持ち悪い。
「確かに、長引くと風邪をひいてしまいそうだね。……出し惜しみは無しにしよう」
 マグノリアの術具に、白銀の光が満ちる。冴え冴えとした魔力が立ち上り、精緻な呪法が紡がれる。術が編み上がるや否や、大亀様へと魔導の楔が打ち込まれた。追い打ちをかけるように、リィのウェンディゴが大亀様へと纏わりつく。ナナンは状態異常で雁字搦めになっている大亀様目掛けて跳躍し、大剣を振りかぶった。
「思い……っきり行くねぇ!」
 振り下ろされた剣は甲羅の中央を打ち据えた。乾いた破裂音を立て、背甲に亀裂が入る。
「やっぱり堅かっ……?!」
 カノンが仲間の有効打に頬を緩めた次の瞬間、大亀様は後足で体をぐいと持ち上げた。自身を封じる鎖を引き千切るように力強く浮いた身体は、容赦なく小さな身体に圧し掛かる。直後、巨体は小さく跳ねるようにナナンへ。飛沫を上げるように砂が四方へと散った。
「二人が戻るまで時間を稼いで」
 リィの指示を受け、ホムンクルスは待ってましたとばかりにぴょこんと躍り出た。その小さな背にゴメンねと声を掛け、森の霊長を宿した矢を打ち上げる。
「……散々だ!」
 先程から水をかけられ砂をかけられ、もう悪戯などという可愛いものではない。いつでも下がれるよう大亀様の動きに最大限の警戒を払いつつも、ニコラスはカノンを癒す。
「僕の見立てでは折り返し地点は過ぎているはずだよ。あと一息だ」
 マグノリアは手早く炸薬を仕上げ、投擲した。大亀様の頭を焦がし、毒を孕んだ煙を上げる。
「そうか。じゃあ……派手に行くとするか!」
 拳銃をホルダーに戻したウェルスは、代わりにロケットランチャーを構えた。機構が作動し、肩に熱が伝わる。
「目標、大亀の旦那。……耳塞いでろ!」
 バシュ。放たれたロケット弾は蒸気を噴き上げながら飛翔し、大亀様へと着弾した。劈くような爆音。砂が間欠泉のように柱を作り、大地が鳴動する。
 砂煙が晴れると、そこに居た大亀様は満身創痍だった。あと一歩。だが大亀様はぎゅうと目を固く閉じると、手足を、頭を甲羅へと引っ込める。
「ふっかーつ! 後衛には向かわせないよぉー! ……あれれ?」
 砂から這い出たナナンが張り切ったものの、大亀様は籠城中だ。
「それならもっくもくにするよぉ! ニンジャみたいに!」
 煙玉が炸裂し、爆煙が大亀様を包む。煙は甲羅の穴から入り込み、轟音を防ぐ術は無い。
「お疲れ様、下がってていいよ」
 リィは前衛の二人と入れ替わるように戻ってきたホムンクルスを労い、パナケアで癒す。小さな身体が嬉しそうにふるりと震えた。
「篭ったからといって無傷とはいかないぜ。覚悟してくれよ、旦那」
 如何に防御力に自信があろうと、やりようはある。ウェルスのディスペルアローが、マグノリアのティンクトラの雫が、ニコラスのエコーズが――魔導に基づいた力が、大亀様に降り注ぐ。
「――……」
 勝負はほぼ決したようなものだ。それでもカノンは油断せず、呼吸を整える。大亀様の正面に立ち、取った構えは羅刹破神。
「いくよ、かうんたー!」
 煙幕を突き破るように、巨大な頭が繰り出された。それを濃密な赤のオーラを以て迎撃する。

 ぐらり。倒れたのは、大亀様の方だった。


「きゃー♪ 高い高ーい!」
「次はナナン、ナナンも乗ってみたいのだ!」
 すっかり機嫌を良くした大亀様は、カノン達の相手をしていた。村の子供達も交え、賑やかな笑い声が響いている。
「大亀様、嬉しそうにしちょる。良かった良かった。あんたらありがとうな」
「いえ。それより聞きたい事があって……ワカメとは薬草に分類される物だったかな?」
「あ、それボクも知りたいな」
 浜辺に漂着したわかめを採取していたマグノリアとリィは、漁師と思われる男に尋ねる。二人の記憶に間違いがなければ、ただの食材のはずだ。
「そちらの国じゃ、あんま海藻食わなかったっけか。髪にツヤが出る食いもんって事で通商連が買ってったりするが……どっかで間違って伝わったかもなぁ」
 乾いた白髪頭を思い出し、二人は老婆の悩みを察する。
「うーん、じゃあこの辺りに薬草が生えてたら教えて欲しいなー」
「ここじゃ鉄葎を煎じて胃腸薬にするくらいだな」
「カナムグラ? それって株で採っても大丈夫?」
「どーぞどーぞ、好きなだけ持ってってくれ! 漁網に絡んで仕方ねえ」
 漁師の口ぶりから察するに、繁殖力の強い種らしい。その時、軽い足取りで採取に向かうリィを見送るマグノリアの手が、何者かにぐいと引かれた。
「……ん?」
 もしゃもしゃ。マグノリアが手に持っていたわかめを、大亀様が食んでいた。
「あー! 大亀様、そりゃあ騎士様のだがね」
「構わないよ。大亀も体を動かしてお腹が空いたのかもしれないね」
「大亀ちゃんお腹空いたのぉー?」
 背の上から飛び降り、ナナンは「どーぞ!」とバナナの皮を剥いた。恐る恐る開いた口に放り込んでやれば、大亀様は目を輝かせた。永い時を生きる大亀様も、南国の果物は初めて口にしたらしい。
「――君はいつの時代から、此処に居るのかな?」
 マグノリアの問いに、大亀様は首を傾ける。わからない、或いは数えきれない程の悠久の時を生きてきたのか。漁師が言うには「祖父が物心ついた時にはこの大きさだった」との事だ。少なくとも数百年は生きていそうだ。
「……これからも共存してくなら、定期的に構ってやる方法を考えないとダメなんじゃないか?」
 ニコラスの問いはもっともで、今回の件は一時しのぎに過ぎない。戦闘以外に発散させる方法を考えるべきだと話す。
「ほらさー、偶に祭りとかであるじゃんか? どんだけ大亀を動かせたかとか、持ち上げられたかとか。あとはほら、スモウとかどうよ?」
 嫁や娘に自慢できるんじゃないかと提案すれば、漁師たちの反応は上々だ。問題は肝心の大亀様がどう思うかだが、
「大亀の旦那も『悪くない』ってさ」
 ウェルスが意思を確認してやれば、返ってきた感情は至極満足そうなものであった。
「……で、だ。ここいらの海と陸をよぉくご存知な旦那に聞きたいんだが、お宝の話とか聞いた事ないか?」
 ウェルスに尋ねられ、しばし考えるような素振りを見せた大亀様は、突然砂浜の一部を掘り返し始める。
「おお?! これはアワビ……って空かよ」
 二つ、三つと差し出されるがどれも中身は無く、押し付けるように渡されてウェルスは困ったように眉尻を下げた。
「これが今日の礼ってか? でもなぁ、この貝じゃカメオにも出来ないし……」
「かめおがなんだか知らねーが、そりゃあ螺鈿細工に使うヤツだ」
 ほれそこの女衆の簪に付いてるやつだと言われてみれば、光沢のある細工がきらきらと輝いている。上手く加工出来れば、装身具として売り物になるかもしれない。
「そういえば、カノン、昔かーさまに聞いた事があるんだけど」
 砂浜の端に移動して甲羅干しを始めた大亀様によじ登り、カノンはお伽噺を思い出していた。あれは確か、母が生きていた頃の。
「亀を助けたらりゅうぐーじょうって所に……いつか、連れてって……」
 ぽかぽかとした日差しに誘われて、カノンは甲羅の上に寝そべった。釣られるように目を閉じた大亀様は、まるで微笑んでいるような、穏やかな表情をしていた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『大亀様のおともだち』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『大亀様のおともだち』
取得者: ナナン・皐月(CL3000240)
『大亀様のおともだち』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『大亀様のおともだち』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『大亀様のおともだち』
取得者: リィ・エーベルト(CL3000628)
『大亀様のおともだち』
取得者: ニコラス・モラル(CL3000453)

†あとがき†

大亀様にお付き合いくださり、ありがとうございました。
今回カスタムスキル使ってくださる方が多くてとっっっても楽しかったです!
FL送付済