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【デザイア!】正義の騎士と悪の騎士

●マスクド・エイダー正義のテーマ
嗚呼、ヘルメリアに今日もまた陽が昇る
西を見よ 我らが尊き 正義の証
嗚呼 ヘルメリアにやがて来る勝利の日
空を見よ とっても蒼いね いい天気だね
だが気をつけろ
ヘルメリアを狙う邪悪 惨劇 黒い影
鉄血軍団ヴィスマルク!
血が鉄だから流れない
血も涙もないということさ!
謎の結社パノプティコン!
謎が謎呼ぶ名前も謎
パプノティコンと間違えやすい!
悪の帝国イ・ラプセル!
こいつは悪いぞとにかく悪い
絶対悪いぞ、邪悪の権化、頭も悪いし口も悪い!
※セリフ
「この世界は我がイ・ラプセル帝国のものだらぷせる~!(邪悪な語尾)」
「待てェェェェェい! そんなことはさせないぞ!」
「何ィ、貴様はまさかにっくきヘルメリアの、らぷせる!(邪悪な語尾)」
「そぉ! 私がいるかぎり栄光のヘルメリアは敗れない!」
「イ・イ・イ・イ・イ・イ・イ!(邪悪な笑い) よかろう、ならば貴様からブチ殺してやるらぷせる!(邪悪な語尾)!」
「させないぞ、偉大なるヘルメリアの力を見よ!」
嗚呼、エイダー マスクド・エイダー
ヘルメリアの輝く希望 正義の体現 みんなのヒーロー!
その手は殴るためではなく 隣人の手を握るために
その口は罵るためではなく 隣人と対話をするために
そして最強無敵のヘルメリア戦術で 邪悪なイ・ラプセル帝国を殲滅だ!
くらえエイダーキック! 割と強いぞ!
さらにエイダー左手パンチ! 最近金属になったからとっても痛いぞ!
GO! GO! れっつらGO!
行け、エイダー! ヘルメリアに平和をもたらすその日まで!
進めエイダー!
戦えエイダー!
エイダー! エイダー! 嗚呼、マスクド・エイダー!
●――を、考えていたエイドリアンのところに来た報告
「何書いてるんですか?」
「決まっておぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉる! 私からの! 親愛なるヘルメリア市民への! 邪悪なイ・ラプセル帝国に気をつけろという想いを! 伝わりやすく歌にしてみたのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いや、1%も伝わらないと思いますよ」
「なぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ!?」
「ってゆーか長すぎます。ダルい。ウザい」
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」
スレイブマーケット内に幾つかある警備部隊詰め所の一つ。
そこで、暑苦しい男と暑苦しい男に慣れ切った副官が会話をしていた。
暑苦しい男の方は、以前自由騎士とやりあって左腕を失い、つい先日カタクラフトをようやく繋げた自称正義のヒーロー『マスクド・エイダー』ことエイドリアン・カーティス・マルソー三等であった。
「えー、でも自由騎士団はこないだの戦いで全滅したらしいじゃないですか」
「いいや! 全滅などしておらん! 絶対にしておらんのだ!」
「何で分かるんですか?」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん、勘!」
「どンだけ論理的に反論しても通じないヤツですね」
副官はエイドリアンという人間にかなり慣れていた。
「見ているがいい我が副官よ! 今行なわれている正義のヘルメリアの正義の循環を正義に回す正義のスレイブマーケットも、すでに悪しきイ・ラプセル帝国のテロ対象になっているに違いない! 来るぞ、来る! 来ーるー、きっと来るー!」
「ジャンルをホラーに持っていくのはやめましょう。過程がコメディです」
と、副官は返すものの、さすがに襲撃と言われても実感はなく、
「隊長、左腕大丈夫なんですか? まだその腕になって数日でしょう?」
「キュイィィィィィィィィィン! チュインチュインギュオンギュオン! くらえエイダー必殺の左手パンチ! 左手パンチ! 金剛必殺左手パーンチ!」
「あ、心配するだけムダなパターンだ」
虚空に向かって鋼の左腕でパンチを繰り返しているエイドリアンを見て、副官はとりあえずコーヒーを淹れなおすことにした。
部下の一人が駆け込んできたのは、そのときのこと。
「た、大変です! 警邏中の我が部隊が襲撃を受けました……!」
「なっ……?」
この報告に、副官はコーヒーのマグカップを取り落としそうになった。
「襲撃だと!? 何という邪悪な! これはやはり悪のイ・ラプセル帝国の仕業だな!」
「う、う~ん、信じられないですけど、とにかく救援に行きましょうか!」
「うむ、往くぞ!」
エイドリアンは腰に蒸気機関変身ベルト『エイドリアンドライバー(商品化企画中)』を装着すると、蒸気機関のスイッチを入れた。
ピロリピロリピロリ。
キュインキュインキュインキュイン。
ギュワ~ンギュワ~ンギュワ~ン。
「変――身ッ!」
そしてエイドリアンは変身ポーズを取り終えると、近くに置いておいたヘルメリア紋章ヘルメットをカポっと被る。
「ヘルメリアを愛する正義の人、マスクド・エイダァァァァァァァァ! 改!」
ドカァァァァァァァァァァァァァン!
背後で起きた爆発は副官が周りに影響を与えない程度の強さで起こしたものだ。
「いいからさっさと来てください!」
報告してきた部下が、こらえきれずに絶叫した。
●一方、自由騎士側
「イヤな予感がするわ」
街角、すでに戦いが始まっている中でマリアンナ・オリヴェル(nCL3000042) は背筋にゾクリと走るものを感じた。
「どうした、マリアンナ?」
共に作戦に参加している自由騎士の一人に問われ、マリアンナは「ううん」とうなる。
「ちょっと、変な悪寒がして……」
「悪寒?」
「ええ、何ていうか……」
マリアンナは肩を抱き、物憂げに空を見上げた。
「絶対に関わりたくない相手に、絶対に関わらなきゃいけない運命を感じ取ってしまった、みたいな感じの……」
その予感が現実のものとなるまで、あと数十秒。
嗚呼、ヘルメリアに今日もまた陽が昇る
西を見よ 我らが尊き 正義の証
嗚呼 ヘルメリアにやがて来る勝利の日
空を見よ とっても蒼いね いい天気だね
だが気をつけろ
ヘルメリアを狙う邪悪 惨劇 黒い影
鉄血軍団ヴィスマルク!
血が鉄だから流れない
血も涙もないということさ!
謎の結社パノプティコン!
謎が謎呼ぶ名前も謎
パプノティコンと間違えやすい!
悪の帝国イ・ラプセル!
こいつは悪いぞとにかく悪い
絶対悪いぞ、邪悪の権化、頭も悪いし口も悪い!
※セリフ
「この世界は我がイ・ラプセル帝国のものだらぷせる~!(邪悪な語尾)」
「待てェェェェェい! そんなことはさせないぞ!」
「何ィ、貴様はまさかにっくきヘルメリアの、らぷせる!(邪悪な語尾)」
「そぉ! 私がいるかぎり栄光のヘルメリアは敗れない!」
「イ・イ・イ・イ・イ・イ・イ!(邪悪な笑い) よかろう、ならば貴様からブチ殺してやるらぷせる!(邪悪な語尾)!」
「させないぞ、偉大なるヘルメリアの力を見よ!」
嗚呼、エイダー マスクド・エイダー
ヘルメリアの輝く希望 正義の体現 みんなのヒーロー!
その手は殴るためではなく 隣人の手を握るために
その口は罵るためではなく 隣人と対話をするために
そして最強無敵のヘルメリア戦術で 邪悪なイ・ラプセル帝国を殲滅だ!
くらえエイダーキック! 割と強いぞ!
さらにエイダー左手パンチ! 最近金属になったからとっても痛いぞ!
GO! GO! れっつらGO!
行け、エイダー! ヘルメリアに平和をもたらすその日まで!
進めエイダー!
戦えエイダー!
エイダー! エイダー! 嗚呼、マスクド・エイダー!
●――を、考えていたエイドリアンのところに来た報告
「何書いてるんですか?」
「決まっておぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉる! 私からの! 親愛なるヘルメリア市民への! 邪悪なイ・ラプセル帝国に気をつけろという想いを! 伝わりやすく歌にしてみたのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いや、1%も伝わらないと思いますよ」
「なぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ!?」
「ってゆーか長すぎます。ダルい。ウザい」
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」
スレイブマーケット内に幾つかある警備部隊詰め所の一つ。
そこで、暑苦しい男と暑苦しい男に慣れ切った副官が会話をしていた。
暑苦しい男の方は、以前自由騎士とやりあって左腕を失い、つい先日カタクラフトをようやく繋げた自称正義のヒーロー『マスクド・エイダー』ことエイドリアン・カーティス・マルソー三等であった。
「えー、でも自由騎士団はこないだの戦いで全滅したらしいじゃないですか」
「いいや! 全滅などしておらん! 絶対にしておらんのだ!」
「何で分かるんですか?」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん、勘!」
「どンだけ論理的に反論しても通じないヤツですね」
副官はエイドリアンという人間にかなり慣れていた。
「見ているがいい我が副官よ! 今行なわれている正義のヘルメリアの正義の循環を正義に回す正義のスレイブマーケットも、すでに悪しきイ・ラプセル帝国のテロ対象になっているに違いない! 来るぞ、来る! 来ーるー、きっと来るー!」
「ジャンルをホラーに持っていくのはやめましょう。過程がコメディです」
と、副官は返すものの、さすがに襲撃と言われても実感はなく、
「隊長、左腕大丈夫なんですか? まだその腕になって数日でしょう?」
「キュイィィィィィィィィィン! チュインチュインギュオンギュオン! くらえエイダー必殺の左手パンチ! 左手パンチ! 金剛必殺左手パーンチ!」
「あ、心配するだけムダなパターンだ」
虚空に向かって鋼の左腕でパンチを繰り返しているエイドリアンを見て、副官はとりあえずコーヒーを淹れなおすことにした。
部下の一人が駆け込んできたのは、そのときのこと。
「た、大変です! 警邏中の我が部隊が襲撃を受けました……!」
「なっ……?」
この報告に、副官はコーヒーのマグカップを取り落としそうになった。
「襲撃だと!? 何という邪悪な! これはやはり悪のイ・ラプセル帝国の仕業だな!」
「う、う~ん、信じられないですけど、とにかく救援に行きましょうか!」
「うむ、往くぞ!」
エイドリアンは腰に蒸気機関変身ベルト『エイドリアンドライバー(商品化企画中)』を装着すると、蒸気機関のスイッチを入れた。
ピロリピロリピロリ。
キュインキュインキュインキュイン。
ギュワ~ンギュワ~ンギュワ~ン。
「変――身ッ!」
そしてエイドリアンは変身ポーズを取り終えると、近くに置いておいたヘルメリア紋章ヘルメットをカポっと被る。
「ヘルメリアを愛する正義の人、マスクド・エイダァァァァァァァァ! 改!」
ドカァァァァァァァァァァァァァン!
背後で起きた爆発は副官が周りに影響を与えない程度の強さで起こしたものだ。
「いいからさっさと来てください!」
報告してきた部下が、こらえきれずに絶叫した。
●一方、自由騎士側
「イヤな予感がするわ」
街角、すでに戦いが始まっている中でマリアンナ・オリヴェル(nCL3000042) は背筋にゾクリと走るものを感じた。
「どうした、マリアンナ?」
共に作戦に参加している自由騎士の一人に問われ、マリアンナは「ううん」とうなる。
「ちょっと、変な悪寒がして……」
「悪寒?」
「ええ、何ていうか……」
マリアンナは肩を抱き、物憂げに空を見上げた。
「絶対に関わりたくない相手に、絶対に関わらなきゃいけない運命を感じ取ってしまった、みたいな感じの……」
その予感が現実のものとなるまで、あと数十秒。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.歯車騎士団の撃退(最低7割以上)
OP長くなってすいません。書いてるうちに楽しくなってしまって……、
吾語でございます。
やってまいりました、スレイブマーケット!
今回もマスクド・エイダー氏がはりきっております! 左腕がメタリック!
それではシナリオ概要となります。
◆戦場
スレイブマーケットが開催されている街中の一角です。
時間帯は夜、警邏巡回を行なっていた歯車騎士団へ自由騎士が奇襲しました。
しかし運悪くその歯車騎士団の隊長はエイドリアン氏でした。
よってリプレイは戦闘開始直後、エイドリアン到着後となります。
すでに一般人などは周りにはおらず、静まり返っています。
戦闘を行なうことは十分にできるでしょう。
ただし、長期戦となればさらに歯車騎士団の増援が来てしまいます。
戦闘が5分以上続いた場合、敵の数は2倍となり、
その場合の戦闘による攻略難易度は2段階ほど上昇します。
ですので、5分経過までに7割を倒して撤退するか、
もしくは5分以内に敵を殲滅する必要があります。
◆敵勢力
・エイドリアン・カーティス・マルソー
自称ヘルメリアの正義のヒーロー・マスクド・エイダー改!
前回はノウブルでしたが今回からキジン(25%)となっております。
クラスは以前と同じく格闘クラス。レベルは結構高めです。
左拳による一撃はかなり痛いのでご注意ください。
・副官さん
実はかなり高レベルのヒーラーです。
レベルはエイドリアンに次いで高いです。
常にエイドリアンの傍らに控えていて彼の指示に従います。
でもエイドリアンはほぼ単独行動しかせず指示を出さないので、
主に自分の判断で動きます。
・歯車騎士団×10
重×3 軽×2 銃×3 防×2 の構成となっております。
レベルは皆さんの平均値と同等、または少し上。程度です。
なお、このシナリオに参加した方にはマスクド・エイダーより、
「悪のイ・ラプセル帝国ネーム」が贈られます(断言)。
今回より、帝国ネームの基準は下記のようになります。
貢献値0~99 :悪の尖兵〇〇
貢献度100~299:悪の怪人〇〇
貢献度300以上 :悪の大幹部〇〇
イ・ラプセルは悪の帝国なんかじゃない!
という方はご注意いただくようお願いいたします!
----------------------------------------------------------------------
この共通タグ【デザイア!】依頼は、連動イベントのものになります。この依頼の成功数により八月末に行われる【デザイア!】決戦の状況が変化します。成功数が多いほど、状況が有利になっていきます。
----------------------------------------------------------------------
吾語でございます。
やってまいりました、スレイブマーケット!
今回もマスクド・エイダー氏がはりきっております! 左腕がメタリック!
それではシナリオ概要となります。
◆戦場
スレイブマーケットが開催されている街中の一角です。
時間帯は夜、警邏巡回を行なっていた歯車騎士団へ自由騎士が奇襲しました。
しかし運悪くその歯車騎士団の隊長はエイドリアン氏でした。
よってリプレイは戦闘開始直後、エイドリアン到着後となります。
すでに一般人などは周りにはおらず、静まり返っています。
戦闘を行なうことは十分にできるでしょう。
ただし、長期戦となればさらに歯車騎士団の増援が来てしまいます。
戦闘が5分以上続いた場合、敵の数は2倍となり、
その場合の戦闘による攻略難易度は2段階ほど上昇します。
ですので、5分経過までに7割を倒して撤退するか、
もしくは5分以内に敵を殲滅する必要があります。
◆敵勢力
・エイドリアン・カーティス・マルソー
自称ヘルメリアの正義のヒーロー・マスクド・エイダー改!
前回はノウブルでしたが今回からキジン(25%)となっております。
クラスは以前と同じく格闘クラス。レベルは結構高めです。
左拳による一撃はかなり痛いのでご注意ください。
・副官さん
実はかなり高レベルのヒーラーです。
レベルはエイドリアンに次いで高いです。
常にエイドリアンの傍らに控えていて彼の指示に従います。
でもエイドリアンはほぼ単独行動しかせず指示を出さないので、
主に自分の判断で動きます。
・歯車騎士団×10
重×3 軽×2 銃×3 防×2 の構成となっております。
レベルは皆さんの平均値と同等、または少し上。程度です。
なお、このシナリオに参加した方にはマスクド・エイダーより、
「悪のイ・ラプセル帝国ネーム」が贈られます(断言)。
今回より、帝国ネームの基準は下記のようになります。
貢献値0~99 :悪の尖兵〇〇
貢献度100~299:悪の怪人〇〇
貢献度300以上 :悪の大幹部〇〇
イ・ラプセルは悪の帝国なんかじゃない!
という方はご注意いただくようお願いいたします!
----------------------------------------------------------------------
この共通タグ【デザイア!】依頼は、連動イベントのものになります。この依頼の成功数により八月末に行われる【デザイア!】決戦の状況が変化します。成功数が多いほど、状況が有利になっていきます。
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状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
150LP [予約時+50LP]
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年09月06日
2019年09月06日
†メイン参加者 8人†
●すまない、戦いの途中だがエイドリアンだ!
かくしてエイドリアン・カーティス・マルソーが現場に到着したのだった。
「マスクド・エイダアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!」
ビシィ! ピシィ! ポーズ、バシィィィィィィィ!
「手伝ってください!」
「さっさと戦ってください!」
「みんな頑張ってるんですよ!」
マスクド・エイダー、参戦直後に総攻撃をくらう。部下から。
「見るがいい、我が副官よ! 我が正義のヘルメリアの騎士達の、祖国を守らんとする猛き姿を! 大事なものを守る。これこそまさに真なる正義なりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「いや、みんな全然余裕なくていきり立ってるだけですよね?」
「そうとも言うゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その、シリアスを砕いてあまりある絶叫交じりの会話を聞きながら、自由騎士達は痛感した。
あーぁ、来ちゃった。と。
「あーぁ、来ちゃった……」
そしてそれを口に出して言ったのは、予感が的中して死にそうになっているマリアンナだった。
近くに立つ『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が彼女の肩を叩く。
「マリアンナさん。こうなったら悪寒の元をキッパリと断っておきましょう?」
「ええ、そうね、エルシー。全くの同意よ」
シャンバラとの戦いを経て、だいぶ丸くなったように思えるマリアンナだが、今言った一瞬だけは、目つきがイ・ラプセルに来た当時のようになっていた。
具体的には、瞳からハイライトが消えていた。
「また会ったな、エイダー」
「むぅ、貴様は悪の怪人・鉄仮面仮面! いやさ、鉄仮面仮面仮面!」
「その名に思うところはないが、左腕の調子はどうだ」
エイドリアンの前に現れたのは、前回の戦いで彼の左腕を潰した『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)だった。口調は淡々と、しかし言葉には皮肉を利かせる。
「うむ! すこぶる快調であるワケだが、悪の帝国の悪の怪人にも人を心配する程度のセンチメンタリズムがあるとは新発見だ! 論文を書いて学会への提出を検討しよう!」
だがエイドリアンに皮肉は通じなかった。
「悪、悪ねぇ……」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)が腕組みをして軽く零す。
「いいわね。悪。貴様がアタシをそう呼ぶなら、心置きなく悪に徹せるわね」
「見たか聞いたか正義のヘルメリアの正義の兵士諸君! ついに開き直りおったぞ、この邪悪なる悪の怪人めが! おお、何とおそろしい! これはもう明日は雨だな!」
「数日は降りそうにないなー」
副官は星が瞬く空を見上げていた。
「何とでも言いなさい。アタシは貴様を殺すためにこの拳を振るうだけよ」
「殺すとか人に言ったらいけないと親に習わなかったのか!? いや、逆に殺せと習った可能性すらありうるのか! まさしく悪の帝国の教育法! 教育水準の高さがうかがえるな!」
「逆に褒められた気がしたのは気のせいなのかしら……」
恐れおののくエイドリアンに、マリアンナが逆におののいた。
「……あれが噂のマスクド・エイダー。何というか、いっそ分かりやすいな」
エイドリアンを眺めていた『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が、なかなか味わい深い表情を浮かべつつ、敵将をそのように評した。
「フ、私をどのように言おうとも我が正義に陰り無し! 曇り無し! 傷の一つもありはしなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! 見たかこれこそマスクド・エイダー!」
「左腕」
「ものすッッッッッッッッッッごい痛かったッッッッッッッッッッ!」
副官に指摘され、エイドリアンは自分の左腕をブンブン振った。
「何が、正義ですか!」
しかし、シリアスの対義語みたいになっているエイドリアンに向かって、切羽詰まった叫びを向ける者がいた。『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)である。
「亜人を奴隷にするヘルメリアなんかに、正義なんてないです! エイダーさんの守りたい人の中に、亜人の方々はいないのですか? 種族の違いで虐げることも、正義なのですか!」
キリの、心からの叫びである。
だが、それに対してエイドリアンはこう答えた。
「では問おう、少女よ。ヘルメリアに正義はないと語るお前の正義はどこにあるのだ?」
「え……」
「なるほど、少女よ。貴様の言葉にも理はあろう! 確かに我が正義のヘルメリアでは亜人と呼ばれる者達の扱いは他に比べれば低いかもしれぬ! だがそれはどれほどのことだというのだ! 虐げるとは、何と比較した場合の言葉だ! 話に聞くかつてのシャンバラでのヨウセイの扱いよりさらに下とでもいうのか!? 否、断じて否である! 私は断言しよう、亜人もまた我がヘルメリアの民であると! 扱いは低かろうとも、我が国は彼らに仕事を与え、糧を与え、居住を許している! その事実すらも悪と断じるならば、まずは断固たる己の正義を証明してから吼えるがいい! がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「どうして最後までシリアス保てないんです?」
「何ィ!? 今の私のどこがシリアスではないと!?」
「最後」
「個人的に一番のシリアスポイントだったんだがなァ!!?」
「だったら――!」
「「む?」」
完全にコントを始めていたエイドリアンと副官へ、キリが大声で割って入る。
「だったら勝ってキリの正義を証明します。そっちこそ、悪の怪人にしてやるわよ!」
そして彼女は、エイドリアンと歯車騎士団へビシっと指を突きつけた。
「気持ちのいい啖呵だ、キリさん」
そして、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が彼女の背中をポンと叩いた。
「己の正義を証明するのは難しい。そもそもこの戦い、ヘルメリアから見れば僕達は侵略者。客観的な立場のみで語るなら、確かにこちらが悪だろう」
「フフン、分かっているではないか。そう、貴様らこそは悪の枢軸――」
「だがあえて僕は正義を名乗ろう!」
アダムはエイドリアンに対して朗々と告げる。
「僕は僕を信じる。僕の正義を信じる。この信念こそが正義であると!」
「残念ですけど、言うだけならタダで、しかも言ってることも自己正当化ですねー」
副官の言葉がアダムに突き刺さる。だが、
「僕達が正義になるのはこれからだ。勝利こそが、それを証明するだろう!」
「その通ォォォォォォォォォォォォォォォり!」
彼を壁として、その後ろにいた『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が、前へと躍り出てエイドリアンに殴りかかる。
「我が名はシノ! 自由を愛する謎のイ・ラプセル帝国の改造人間である!」
「ぬぅ、貴様は――!?」
「我らはこれよりお主らに勝つ! 勝って、イ・ラプセルの正義を証明する! それを阻むというならば、マスクド・エイダーよ、ワシと一騎打ちをするがいい!」
シノピリカはつい、大声でそう叫んでしまった。
予定では自由騎士団とは無関係を装うつもりだったが、キリとアダムの堂々たる口上に気分が高揚し、ついつい自分も勢いのままに名乗ってしまった。
――だが、ちょっとした怪我の功名か。敵は完全にこちらに意識を集中している。
「と、ゆーワケでテオドールよ」
シノピリカが、チラリと後方に目をやる。そこには、うなずき返す『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の姿があった。
「双方、共に見事な口上であったと言わせていただこう。だが――」
テオドールの顔が、意地悪く歪んだ。
「さすがに喋りすぎではないかね。ヘルメリアのヒーロー殿。ここは戦場だぞ」
「ぬ、貴様……!」
「黙れ。動くな。虚無の底に堕ちろ」
そしてテオドール渾身の呪術魔導が炸裂する。溜めを必要とするその一撃は、最上位の技の一端だけあって、戦場全域に強力な呪詛を巻き散らした。
「ぐおおおおおおおおお!?」
ほとんど奇襲に近い一撃に、エイドリアンと副官はなすすべなく吹き飛ばされた。
「それでは諸君、ここは悪の帝国らしく――」
それを見据えながらテオドールは軽快にパンと手を打って、
「優雅に、雄々しく、悪辣に、戦争という罪を犯そうじゃないか」
悪の帝国貴族らしく、二度目の開戦を告げたのだった。
●極悪、悪のイ・ラプセル帝国三大幹部!
「くっ、不意打ちとは卑怯千万! これこそまさに悪の所業!」
体勢を立て直すエイドリアンだったが、しかし、彼の本能が警告を発していた。
この戦いは、ただの小競り合いには終わらない、と。
「開戦の号砲が轟いた以上、戯れはここまでだ」
まず動いたのはアデル。
エイドリアンを挑発した彼だったが、この戦いでは別にヒーローの相手をするつもりはない。
「うおお、悪のイ・ラプセルめぇ!」
「どうやら、お前達もアレにそれなりに毒されているようだな」
彼が相対するのは歯車騎士団の重戦士。
今回も前回同様、限られた時間の中での戦いだ。
しかも、その時間の中でなるべく多くの戦力を削ることが求められる。
敵の中でも火力の高い相手から狙うのは常道ともいえた。
「うおお!」
「何の、その程度では俺は落とせんぞ!」
敵のハンマーを槍の柄で受け、今度はアデルが反撃に転じようとする。
「やらせるものか!」
だが、そこに敵の壁役が立ちはだかった。
「ああ、知っている。ゆえに任せたぞ」
「了解した。僕が叩こう!」
壁役を狙っていくのはアダムだ。
「オオ――!」
戦場に、強烈な雄叫びが炸裂する。
それは明確な威力を伴って、敵壁役の全身をしたたかに打ち据えた。
「むむッ」
それを見ていたエイドリアンが小さく唸る。
「おおおおおおおお、この野郎――――!」
一方で、歯車騎士団の軽戦士がテオドールを狙って飛び込んでいく。
「むぐっ!」
身のこなしでは軽戦士の方に分があり、かわそうとした彼は一閃を腕に受けてしまうが、
「おっと、そこは対応させてもらう!」
すかさず、ロジェが癒しの魔導を発動させて傷を塞いだ。
戦力的に見て、ロジェとテオドールは戦線を支える回復役としての立場も大きい。どちらかが欠けたらその時点で戦闘は一気に苦しさを増すだろうことは目に見えていた。
「チィッ! ならば!」
それを、軽戦士も感じ取ったか、さらにテオドールを狙おうとするが、しかしヒラリヒラリと舞う赤い影が敵戦士の攻撃を受け止め、テオドールを守った。
「動きは速いけど、技はまだまだつたないわね」
割り込んできたのはエルシー。腕にはめた篭手が赤い影となって敵を打つ。
「むむむッ」
それを見ていたエイドリアンがまた小さく唸った。
「どこを見ている、ヘルメリアのヒーローよ!」
そして、彼自身が相対するはイ・ラプセルの改造人間シノピリカだ。
超重量級の彼女の拳を、エイドリアンは鋭いバックステップで何とか回避する。
「むむむむッ」
その眼前を重い音と共に行き過ぎる相手の拳を見て、エイドリアンはみたび唸った。
そしてヤツはまたハジけた。
「ななななななな、何ということだァァァァァァァァァァァァァ――――ッッッッ!?」
「どうしたんですか隊長。もういつものことだから、『また発作か』くらいにしか思ってませんけど一応聞きますね、どうしたんですか隊長!」
「おお、我が親しみ溢れる隣人の副官よ! これが叫ばずにいられようか、何ということ! 何というなのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「主語を抜かすのはやめましょう、隊長。さすがに私でも分かりません」
「あ、うん、そうだな。実はだな」
「ハイ」
そしてエイドリアンは、とんでもないことを言い出した。
「イ・ラプセルにとっての最重要攻略対象は我々だったのだァァァァァァァ――――!」
「「な、何だってー!?」」
みんな叫んだ。自由騎士も含めて、みんな。
だって初耳だし。
「どういうことですか、隊長。ウチら普通に警邏任されただけの一部隊ですけど」
「まだ分からんか! 今この場に、三人もの悪のイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)がいるということがァァァァァァァァァ――――!」
「「あ」」
心当たりがある三人が、気づいたように声をあげた。
「見るがいい、あのデカイ金髪のメカニック貴公子を!」
「さっき正義正義言ってた人ですね」
「あのデカさ! あの甘いイケメンマスク! そして正義とか信念とか脳内ハッピーニューイヤー的言動! 間違いない、あれこそはイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)が一人、“優しい世界を目指すと言いながら敵には絶対優しくしないどころか容赦なくその重装備で心をへし折りに行く重装天然言行不一致”奇行の機甲貴公子アダム・クランプトンだ――――!」
「おお、アレが!?」
「食事中にマラソンを開始してトイレでろくろを回し始めるという……!」
「みんな、離れろ! 優しい奇行に巻き込まれるぞ!」
歯車騎士団が色めき立った。
だが、エイドリアンの戦慄はまだ終わらない。
「他にも皆、注意せよ! あの赤い髪の女に見える人の形をしたナニカだ!」
言って、彼はエルシーを指さした。もうこの時点で酷い。
「あれこそはイ・ラプセル国内で毎夜毎夜『悪い敵国の異分子はいねが~』とさまよいながら敵を見つけたら直ちに自動迎撃虐殺暴力機構と化して手にハメた篭手で躍動殴打撲殺を繰り返し、その結果着ている服も髪の毛も、肌の色すら鮮血によって赤黒く染まった悪のイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)が一人、“舞い踊る都市伝説。イ・ラプセル七不思議の一つ踊って殴れるエルシーさん”踊り赤死(あかし)のスカーレットではないかァァァァァァァァァァァァ――――!!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、こいつが踊って殴れるエルシーさんだったのか!?」
「ひぃ! このままじゃ踊られる、殺される!」
「何て真っ赤なんだ……、あれが全て、人の血……!?」
「地毛だけど!?」
エルシー、全力の反論。
「知ってるか、エルシーさんは元々は雪のように真っ白な髪だったらしい……」
「それがあんなに赤く……。一体、どれだけ殴り殺したんだ……!」
「だから地毛よ!!?」
なおもおののくヘルメリア兵にエルシーは叫ぶが、一度張られたレッテルの前には現実や真実など大した力を持たないのであった。悲しいね。
「そして貴様だァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
「そしてワシかァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
最後に、エイドリアンはシノピリカの方を向いた。
「その隻眼。その重々しい左腕。その金髪、知っている。私は貴様を知っているぞ!」
「ほぉ、ならば聞こうではないか。ヘルメリアではワシはどのように評されておるのか」
「そう、貴様こそは悪のイ・ラプセル王国が誇る超重装改造人間!」
「超重装改造人間」
「黒鉄(くろがね)の――」
「黒鉄の」
「乳ッ!」
「乳」
シノピリカは自分の胸を見下ろした。
大きく突き出た乳房のせいで、自分の足元が全然見えない。
「そう、貴様こそは悪のイ・ラプセル王国が我が正義のヘルメリアの前途ある若者を色に狂わせるべく開発した重装戦士型セクシーアイドル! 黒鉄の乳キシダンガーZP!」
なお、キシダンガーZPのZPはゼッペロンのZPであり、Z級おっぱいという意味ではないとのことであるが、その読み方はゼットピーでもゼッピーでもなく、ゼッパイな辺り、真意がうかがいしれようというものである。
ちなみに名付け親はエイドリアンではない。何と、ヘルメリアのアングラ界隈で自然発生的に生まれた名称であるのだった。
「……そうきおったかー」
さすがにその方向は想定しておらず、シノピリカも毒気を抜かれる。
「ちなみに言っておくと、『ヘルメリアで出回ってるアッチ方面のソリッドブックに出てくるクッコロ女騎士ランキング』でここ数か月、常に三位以内に入っている常連らしいのが貴様だァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
「その事実は知りたくなかった……」
シノピリカ、渾身の真顔。
「ところで副官よ」
「何ですか隊長」
「クッコロ女騎士とはどのような意味だ。何の専門用語であろうか!」
「いや、知る必要はないかなって。きれいなままのあなたでいてください」
「ぬう……、我が信頼する副官のこの反応。さては相当に邪悪な言葉と見て間違いあるまい。外から侵略するのみならず、まさかその妖艶さをもって内側から文化侵略を仕掛けてくるとは、狡猾。まさに狡猾の極み! これが悪の大幹部のなせる業か……!」
「ワシは今、割と本気でヘルメリアの国民性に重大な危機感を抱いておる」
ヘルメリアの一部界隈でイ・ラプセルのシンボルになり始めているらしいキシダンガーZPは真剣な顔つきでそのようなコメントを残した。
「分かっただろう、諸君! 今この場には、三体もの悪の大幹部が集結している! これはまさに、我々こそがイ・ラプセルの重大な攻略目標であることの証拠に他ならない!」
「ど、どうするのですか、エイドリアン三等!」
彼の言葉に恐れを抱いた兵士が問う。エイドリアンは答えた。
「戦うのだ! 勇気を胸に、正義をその手に掴んで離さず!」
「おお……!」
「ここで我らが負ければヘルメリアはどうなる? 悪は我らが祖国を荒らすであろう! 諸君はそれを看過するのか! 諸君の正義はそれを許容しうるのか! 否というならば戦え! 今こそ、我らが命を燃やし尽くしてでも祖国ヘルメリアの正義を守り、貫くのだ!」
「「オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!」」
イ・ラウセルの奇襲に浮足立っていたヘルメリア兵達が、一気に気勢を盛り返す。
「あれだけフザけたことを言いながら、締めるべきところできっちり締めてきたか。厄介な」
テオドールが舌を打つ。
彼の先制攻撃で、戦いの当初は自由騎士側が勢いづいた。
だが、その勢いをエイドリアンはさらに上回ってくる。
折れない相手というのは、それだけで敵に回すと邪魔な存在だ。
その意味では、エイドリアンは相当な難物であることは間違いなかった。
「ここでヤツを叩ければ儲けものだが……」
「そうね。そのためには――」
テオドールの隣に立つライカは、エイドリアンを見ていなかった。
彼女が見る先にいるのは、他の兵士と変わらない姿をして、兜で頭を覆っている副官だった。
●それはそれとして戦うときは真面目です!
戦いが始まって三分が過ぎた。
「君達には悪いが、僕は絶対に止まらない!」
「うおお、止めてやる。止めてやるぅ!」
ぶつかり合うのは、アダムと壁役。鋼鉄の拳にヘルメリア兵の立てはひしゃげ、だがヘルメリア兵の突撃に、アダムの機鋼躯体が不気味に軋む。
「ぐおお!?」
「ぬがぁぁぁぁぁぁ!」
両者はともに吹き飛ばされ、だが、立っていたのはアダムのみ。
「はっ、はぁ……!」
息苦しい。動きにくい。身体を動かそうにも、機能が狂い始めている。
「なるほど、強い……」
重くなった体を引きずりながら、彼は唇に垂れる血をぬぐった。
戦いは、長らく拮抗し続けていた。
「ぜあああああああああああああああああああ!」
傷にまみれた重戦士が、ハンマーを振り回す。それを、キリがしっかりと受け止めた。
「こ、の……!」
手にした特別製のローブを前にかざし、それを盾にする。
だが、受け止めることはできたものの衝撃は凄まじく、ミシリと腕の骨が歪んだ。
激痛。迸りそうになる悲鳴を、キリは強引に噛み殺した。
「やるではないか悪の尖兵・未来なき絶壁女よ!」
その活躍を見ていたエイドリアンが、キリのことをそのように評価した。
「何ですか、未来なきって。キリの身体は未来でいっぱいよ!」
「フッ、愚かな。悪に傾倒する者に未来は訪れない!」
「あ、そういう意味……」
勘違いに気づき、キリの顔が羞恥に真っ赤になった。
「この程度で怒るとは短絡的なり!」
そしてエイドリアンはそれを勘違いした。
「もー! もー! シノピリカさん、頑張ってー!」
「応! 応援恐悦至極! 任されよぉ!」
全身をエイドリアンの攻撃にへこませながらも、シノピリカが左拳を振り回す。
「さぁ、鉄腕比べと行こうか、にわかキジンめが!」
「来るがいい、キシダンガーZP!」
「「ふんぬゥ!」」
シノピリカとエイドリアン。二人の左腕が真っ向からぶつかった。
戦場に、雷鳴にも似た衝撃音が炸裂する。そして二人は、弾かれたように吹き飛ばされた。
「隊長!」
そこですかさず、副官がエイドリアンを癒し、
「大丈夫か、シノピリカ!」
自由騎士団側でも、ロジェが起き上がろうとする彼女のダメージを消した。
「こっちは、まだまだイケる。それよりも他を……」
シノピリカに弱々しくも言われ、ロジェはうなずく。
それを見ていたエイドリアンが彼のことを指さして叫んだ。
「悪の帝国を医術で支えるとは小癪な! さしずめ貴様は悪の怪人、ドクトル治す人か!」
「まんますぎないか……?」
ロジェは言いつつ、別の場所に視線を巡らせる。
戦いは一進一退、双方ともに癒し手の少なさもあって、ダメージは溜まる一方だった。
「こ、の、おォォォォォォォォォォ!」
エルシーの肢体が夜の街に躍動する。
跳躍してからの膝蹴りが、軽戦士の一人のあご先を直撃した。
「お、踊って殴れるエルシーさんめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「私は、自由騎士のエルシーだって……!?」
背中。いきなり激痛が走った。振り向けば、そこには銃を構えたヘルメリア兵。
「……や、やったぞ。悪の大幹部に、俺が!」
「こ、の……!」
傷口から、だくだくと血が溢れた。まずい。この傷は、まずい。
「エルシー!」
ロジェが叫び、気力を振り絞って魔導を発動させた。
エルシーの傷こそ癒えたが、ロジェの意識が疲れに眩んだ。魔力が尽きかけている。
「ロジェさん、キリも!」
と、キリも癒しの魔導を使うものの、まだまだ練度が低く効果は薄い。
やはり自由騎士側の癒しを担っているのはロジェであった。彼こそが戦線を支えているのだ。
そしてそれは、ヘルメリア側も同じだった。
「さすがにキツくなってきましたね~」
副官が間延びした声で言うが、しかし、その呼吸は浅く乱れていた。
ロジェと同じだ。戦線を維持するため治癒魔導を使い続けて、すっかり疲れきっている。
「フ、その程度かヘルメリア。やはり、悪鬼羅刹虚無修羅魔人様が出るまでもない。この戦場での勝利は、尖兵である我々がもらい受けるぞ」
「言う割にあなたもボッコボコじゃないですか」
満身創痍のアデルへと、副官が指摘する。
「この程度で、俺達の悪を挫けると思うなよ、ヘルメリア!」
「おお、こっちのレベルに合わせてきましたね」
副官が驚くのを見て、マリアンナが眉根を寄せた。
「アデル、もしかして私達って何か大事なものを投げ捨ててないかしら、アデル!」
「気にするな、マリアンナ。それを気にしたとき、本当の意味での魂の敗北が俺達に訪れるぞ」
「やっぱり投げ捨ててるのね!」
敵さんもまだ元気だなー、と、副官は思った。
そこに、味方の悲鳴が聞こえる。気を取られすぎたか。副官は杖を構えて魔導を行使した。
「ぐああああああ!」
だが、ヘルメリア兵の悲鳴が止まらない。魔導は確かに発動したのに。
「これは……」
「そう、私だよ、副官殿」
声をかけたのはテオドールだった。
「また、あなたですかぁ……。嫌気さしますよ」
「それは私も同じだよ。散々手こずらされた」
副官は身構える。
先ほどから何度か、自分の使う魔導の効果を目の前の悪の貴族に邪魔されていた。
「だがここで君を叩けば、こちらは戦況をほぼチェックメイトに持っていける」
「覚悟してもらうわよ、副官さん」
テオドールと反対側、副官の背後にはライカが立っていた。
「……あちゃ~」
副官は軽く天を仰いだ。
まさか、自分が狙われることになろうとは。
みんな、エイドリアンの方を狙うんじゃないかなー、と、軽く思ってたのが災いしたか。
「ま、それでも」
呟き、杖を構え直して、
「私もヘルメリアの兵士なんで、頑張れるだけ頑張りましょうかね」
戦いは、まもなく五分を迎えようとしていた。
●兜の奥にある素顔
「我が副官を狙うとは、何たる悪辣! これがイ・ラプセルのやり方かァ!」
「そりゃ普通はそうするじゃろ」
戦いながら、激昂するエイドリアンにシノピリカは冷静に返した。
敵勢唯一の癒し手である副官が動けなくなって、戦況は一気に自由騎士有利に転がった。
時間が経てば、敵の増援が駆けつけてくることは想像に難くない。
その前に、できる限り今この場にいる歯車騎士団を叩く。その目的は達されつつあった。
自由騎士それぞれの活躍あってのことだが、中でもシノピリカの奮闘はこの状況を生み出すのに一役買っていた。彼女はほぼ一人で、エイドリアンの足止めをこなしたのだ。
「ふっ、ふッ! さすがにキッツイのぉ……」
もはや彼女も立っているのがやっとの状態。
エイドリアンにはまだ余裕が残っていることから、実力で自分が劣っていることは分かっていた。しかし、個人の実力など戦争では大して意味はない。
いかに、自分に与えられた役割を全うできるか。結局はそれに尽きる。
その意味で、シノピリカは「敵主力の足止め」という大役を見事全うして見せた。
そして、そんな彼女だからこそ気づく、エイドリアンの変化。
「……何じゃ」
それまで、自分と戦いながらも常に戦場全域を俯瞰し、的確に味方にアドバイスを投げていたエイドリアンが、ここで急にそわそわし始めていた。
彼が意識を向ける先、そこにいるのは――、
「もしや」
思いついて、シノピリカは傷む体をおして声を張り上げた。
「副官の方から潰すんじゃ――――!」
「なっ」
副官は、ライカの攻撃を懸命にかわし続けていた。
だが、テオドールがシノピリカの声を聞きつけ、そこでパンと手を打つ。
「今こそ、敵の急所を仕留めるべきだぞ、諸君! 敵の急所はまさにここだ!」
「な。ちょ、ちょっ、ちょっ!?」
「今沈めば、これ以上は攻められないで済むわよ?」
影となって奔るライカが、言いつつ連撃を繰り出してくる。
「イヤですよ、倒れてたまるモンですかってんだ!」
しかし副官は一撃こそ受けたが、攻撃のほとんどを杖で受け流して交代する。
だが足元がいきなりグニュリと泥化して、踏みしめた足に絡みついてきた。
「おおおおお!?」
「悪いが、今沈んでもらおう」
テオドールだ。
彼が使った呪術が、地面を泥に変えたのだった。
「隙あり――、とった!」
ライカが飛び込んでくる。その拳はもはや絶対にかわせな――、
「アルテイシア!」
必死の様相で叫ばれたその声は、副官が最も聞き慣れた声。
「エイドリ……」
両手を広げ、自ら壁となって、エイドリアンは副官をかばった。
その全身をライカの拳や蹴りが幾度も打ち付ける。
「ぬぐぉぉぉぉ!」
「硬い……!? どれだけ鍛え上げてるのよ!」
「だがチャンスだ。ここで敵将を仕留められたならば、大きいぞ!」
そのテオドールの言葉に、自由騎士達の狙いはエイドリアン一人に絞られた。
「同情はしないわ。これは戦争。だから私達は、確かに今この瞬間、悪を行なう!」
エルシー渾身の一撃は、本来副官を狙おうとしたもの。
だがこの機を逃すいわれはない。彼女の真紅の衝撃がエイドリアンの水月に突き刺さる。
「ぐおお、お、お、お、お、お、お、お! こ、こんな程度で……!」
「その忍耐力は驚嘆に値する。ゆえにここで仕留めよう。何としても!」
テオドールの極寒の魔導が、エイドリアンの突き出そうとしていた右腕を真っ白に凍てつかせた。痛みも何も感じ得ない恐るべき無感覚が、彼の右腕を髄から蝕んでいく。
ギリギリと、仮面の奥でエイドリアンは歯を噛み合わせた。
それでも、彼は耐えようというのだ。
「お、の、れ……、あ、あ、悪の怪人・グリーンダルマイン、め……!」
「この状況でそんな減らず口を叩ける精神力は、素直に評価しようではないかね。まぁ、私は達磨ではないがな!」
言ったテオドールのすぐあとに、改めてライカが踏み込んでくる。
「貴様は――」
「アタシはライカ・リンドブルム。覚えて死になさい、マスクド・エイダー」
呟く彼女の声は憎悪にまみれ、握る拳は殺意がみなぎり、かくして振るわれた技は、打倒するのではなく速やかに命を摘み取らんとする殺しの技であった。
「ご、は……! 怪人め、悪の女怪人わるキューレ、め……」
「前回はブットバスター女だったけど、まあいいわ。戯言に取り合うつもりはないし」
倒しきれなかったことに、ライカは舌打ちをする。
全身から血を流し、満身創痍のエイドリアンの前に、そして立つのは鋼鉄の男。
「エイドリアン・カーティス・マルソー」
「……正義の、ヘルメリアの、力を。今こそ、さぁ、来い、悪のイ・ラプセル」
アデルが呼びかけても、エイドリアンは反応しなかった。
立つ姿にも力はなく、朦朧とした意識でこれまでの言動を弱く繰り返すばかり。すでにその状態が尋常でないことは疑いようもなく、精神力のみで立っていることは明らかだった。
「もうやめてください、これ以上は! 隊長!」
副官が、自分を守ろうとするエイドリアンに縋りつく。
そのとき副官がかぶっている兜が外れて地面に落ち、その奥にあった素顔が露わになった。
澄んだ銀色の髪がハラリと落ちる。
目に涙を浮かべて彼にすがる副官は、美しい女性であった。
「エイドリアン、もういいです! もう、いいですから!」
「そういうわけにはいかない」
だが、無情にもアデルは副官の言葉を切って捨てた。
「どうして……」
「これが戦争だからじゃよ」
呼吸を荒げながら、答えたのはシノピリカだった。
「ああ、そうとも。戦争に正義などあるものか。ワシらの何が、正義だというのか……」
武装を構えるアデルの背中を見つめながら、彼女はそう続けた。
ここでエイドリアンを叩くことは、確実にイ・ラプセルの脅威を減らすことに繋がるだろう。それは確かな利。逃す手などありえず、彼らは弱りきった目の前の男を叩くのだ。
「もはやかける言葉はない。こいつを受けて倒れろ」
「……ある」
だが、エイドリアンはアデルを見上げて何かを言った。
「何?」
「正義は、ある」
「…………」
「アルテイシア……、君も、国も、私が守る。それが、私の貫くべきせい――」
なおうわごとのように呟くエイドリアンへ、今度こそアデルがトドメを刺した。
「……アサルト」
戦場に、これまでで最大規模の爆裂が生じた。
本来であれば遠距離で使うことが望ましい一撃を、零距離で浴びせる。
その威力は、爆発の規模が何より雄弁に物語っていた。
そして巻き上がった黒煙の中から、エイドリアンと呼ばれた肉塊が吹き飛ばされた。
繋いだばかりの鋼の左腕が粉々に砕け、残る四肢も千切れ飛び、どう考えても生きているはずがない肉の塊と化して、ヒーローだったものは地面に転がる。
「イヤアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッッ!」
副官――アルテイシアの絶叫が戦場にこだまして、少し離れた場所からチラチラと移ろう明かりが見えた。ヘルメリアの増援がやってきたのだろう。
「みんな、行かないと!」
マリアンナに促され、自由騎士達が逃げていく。
その中で、顔を蒼くしたキリが呟いた。
「正義って、何ですか……? キリ達は本当に正しいんですか?」
誰も、その問いに答えられなかった。
代わりにアダムが、色濃い苦悩をその顔に浮かべて、もらした。
「それでも僕は、僕の信念を諦めない……!」
アルテイシアの嘆く声が、彼らの耳にしばらくこびりついて離れなかった。
かくしてエイドリアン・カーティス・マルソーが現場に到着したのだった。
「マスクド・エイダアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!」
ビシィ! ピシィ! ポーズ、バシィィィィィィィ!
「手伝ってください!」
「さっさと戦ってください!」
「みんな頑張ってるんですよ!」
マスクド・エイダー、参戦直後に総攻撃をくらう。部下から。
「見るがいい、我が副官よ! 我が正義のヘルメリアの騎士達の、祖国を守らんとする猛き姿を! 大事なものを守る。これこそまさに真なる正義なりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「いや、みんな全然余裕なくていきり立ってるだけですよね?」
「そうとも言うゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
その、シリアスを砕いてあまりある絶叫交じりの会話を聞きながら、自由騎士達は痛感した。
あーぁ、来ちゃった。と。
「あーぁ、来ちゃった……」
そしてそれを口に出して言ったのは、予感が的中して死にそうになっているマリアンナだった。
近くに立つ『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が彼女の肩を叩く。
「マリアンナさん。こうなったら悪寒の元をキッパリと断っておきましょう?」
「ええ、そうね、エルシー。全くの同意よ」
シャンバラとの戦いを経て、だいぶ丸くなったように思えるマリアンナだが、今言った一瞬だけは、目つきがイ・ラプセルに来た当時のようになっていた。
具体的には、瞳からハイライトが消えていた。
「また会ったな、エイダー」
「むぅ、貴様は悪の怪人・鉄仮面仮面! いやさ、鉄仮面仮面仮面!」
「その名に思うところはないが、左腕の調子はどうだ」
エイドリアンの前に現れたのは、前回の戦いで彼の左腕を潰した『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)だった。口調は淡々と、しかし言葉には皮肉を利かせる。
「うむ! すこぶる快調であるワケだが、悪の帝国の悪の怪人にも人を心配する程度のセンチメンタリズムがあるとは新発見だ! 論文を書いて学会への提出を検討しよう!」
だがエイドリアンに皮肉は通じなかった。
「悪、悪ねぇ……」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)が腕組みをして軽く零す。
「いいわね。悪。貴様がアタシをそう呼ぶなら、心置きなく悪に徹せるわね」
「見たか聞いたか正義のヘルメリアの正義の兵士諸君! ついに開き直りおったぞ、この邪悪なる悪の怪人めが! おお、何とおそろしい! これはもう明日は雨だな!」
「数日は降りそうにないなー」
副官は星が瞬く空を見上げていた。
「何とでも言いなさい。アタシは貴様を殺すためにこの拳を振るうだけよ」
「殺すとか人に言ったらいけないと親に習わなかったのか!? いや、逆に殺せと習った可能性すらありうるのか! まさしく悪の帝国の教育法! 教育水準の高さがうかがえるな!」
「逆に褒められた気がしたのは気のせいなのかしら……」
恐れおののくエイドリアンに、マリアンナが逆におののいた。
「……あれが噂のマスクド・エイダー。何というか、いっそ分かりやすいな」
エイドリアンを眺めていた『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が、なかなか味わい深い表情を浮かべつつ、敵将をそのように評した。
「フ、私をどのように言おうとも我が正義に陰り無し! 曇り無し! 傷の一つもありはしなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! 見たかこれこそマスクド・エイダー!」
「左腕」
「ものすッッッッッッッッッッごい痛かったッッッッッッッッッッ!」
副官に指摘され、エイドリアンは自分の左腕をブンブン振った。
「何が、正義ですか!」
しかし、シリアスの対義語みたいになっているエイドリアンに向かって、切羽詰まった叫びを向ける者がいた。『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)である。
「亜人を奴隷にするヘルメリアなんかに、正義なんてないです! エイダーさんの守りたい人の中に、亜人の方々はいないのですか? 種族の違いで虐げることも、正義なのですか!」
キリの、心からの叫びである。
だが、それに対してエイドリアンはこう答えた。
「では問おう、少女よ。ヘルメリアに正義はないと語るお前の正義はどこにあるのだ?」
「え……」
「なるほど、少女よ。貴様の言葉にも理はあろう! 確かに我が正義のヘルメリアでは亜人と呼ばれる者達の扱いは他に比べれば低いかもしれぬ! だがそれはどれほどのことだというのだ! 虐げるとは、何と比較した場合の言葉だ! 話に聞くかつてのシャンバラでのヨウセイの扱いよりさらに下とでもいうのか!? 否、断じて否である! 私は断言しよう、亜人もまた我がヘルメリアの民であると! 扱いは低かろうとも、我が国は彼らに仕事を与え、糧を与え、居住を許している! その事実すらも悪と断じるならば、まずは断固たる己の正義を証明してから吼えるがいい! がおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「どうして最後までシリアス保てないんです?」
「何ィ!? 今の私のどこがシリアスではないと!?」
「最後」
「個人的に一番のシリアスポイントだったんだがなァ!!?」
「だったら――!」
「「む?」」
完全にコントを始めていたエイドリアンと副官へ、キリが大声で割って入る。
「だったら勝ってキリの正義を証明します。そっちこそ、悪の怪人にしてやるわよ!」
そして彼女は、エイドリアンと歯車騎士団へビシっと指を突きつけた。
「気持ちのいい啖呵だ、キリさん」
そして、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)が彼女の背中をポンと叩いた。
「己の正義を証明するのは難しい。そもそもこの戦い、ヘルメリアから見れば僕達は侵略者。客観的な立場のみで語るなら、確かにこちらが悪だろう」
「フフン、分かっているではないか。そう、貴様らこそは悪の枢軸――」
「だがあえて僕は正義を名乗ろう!」
アダムはエイドリアンに対して朗々と告げる。
「僕は僕を信じる。僕の正義を信じる。この信念こそが正義であると!」
「残念ですけど、言うだけならタダで、しかも言ってることも自己正当化ですねー」
副官の言葉がアダムに突き刺さる。だが、
「僕達が正義になるのはこれからだ。勝利こそが、それを証明するだろう!」
「その通ォォォォォォォォォォォォォォォり!」
彼を壁として、その後ろにいた『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が、前へと躍り出てエイドリアンに殴りかかる。
「我が名はシノ! 自由を愛する謎のイ・ラプセル帝国の改造人間である!」
「ぬぅ、貴様は――!?」
「我らはこれよりお主らに勝つ! 勝って、イ・ラプセルの正義を証明する! それを阻むというならば、マスクド・エイダーよ、ワシと一騎打ちをするがいい!」
シノピリカはつい、大声でそう叫んでしまった。
予定では自由騎士団とは無関係を装うつもりだったが、キリとアダムの堂々たる口上に気分が高揚し、ついつい自分も勢いのままに名乗ってしまった。
――だが、ちょっとした怪我の功名か。敵は完全にこちらに意識を集中している。
「と、ゆーワケでテオドールよ」
シノピリカが、チラリと後方に目をやる。そこには、うなずき返す『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の姿があった。
「双方、共に見事な口上であったと言わせていただこう。だが――」
テオドールの顔が、意地悪く歪んだ。
「さすがに喋りすぎではないかね。ヘルメリアのヒーロー殿。ここは戦場だぞ」
「ぬ、貴様……!」
「黙れ。動くな。虚無の底に堕ちろ」
そしてテオドール渾身の呪術魔導が炸裂する。溜めを必要とするその一撃は、最上位の技の一端だけあって、戦場全域に強力な呪詛を巻き散らした。
「ぐおおおおおおおおお!?」
ほとんど奇襲に近い一撃に、エイドリアンと副官はなすすべなく吹き飛ばされた。
「それでは諸君、ここは悪の帝国らしく――」
それを見据えながらテオドールは軽快にパンと手を打って、
「優雅に、雄々しく、悪辣に、戦争という罪を犯そうじゃないか」
悪の帝国貴族らしく、二度目の開戦を告げたのだった。
●極悪、悪のイ・ラプセル帝国三大幹部!
「くっ、不意打ちとは卑怯千万! これこそまさに悪の所業!」
体勢を立て直すエイドリアンだったが、しかし、彼の本能が警告を発していた。
この戦いは、ただの小競り合いには終わらない、と。
「開戦の号砲が轟いた以上、戯れはここまでだ」
まず動いたのはアデル。
エイドリアンを挑発した彼だったが、この戦いでは別にヒーローの相手をするつもりはない。
「うおお、悪のイ・ラプセルめぇ!」
「どうやら、お前達もアレにそれなりに毒されているようだな」
彼が相対するのは歯車騎士団の重戦士。
今回も前回同様、限られた時間の中での戦いだ。
しかも、その時間の中でなるべく多くの戦力を削ることが求められる。
敵の中でも火力の高い相手から狙うのは常道ともいえた。
「うおお!」
「何の、その程度では俺は落とせんぞ!」
敵のハンマーを槍の柄で受け、今度はアデルが反撃に転じようとする。
「やらせるものか!」
だが、そこに敵の壁役が立ちはだかった。
「ああ、知っている。ゆえに任せたぞ」
「了解した。僕が叩こう!」
壁役を狙っていくのはアダムだ。
「オオ――!」
戦場に、強烈な雄叫びが炸裂する。
それは明確な威力を伴って、敵壁役の全身をしたたかに打ち据えた。
「むむッ」
それを見ていたエイドリアンが小さく唸る。
「おおおおおおおお、この野郎――――!」
一方で、歯車騎士団の軽戦士がテオドールを狙って飛び込んでいく。
「むぐっ!」
身のこなしでは軽戦士の方に分があり、かわそうとした彼は一閃を腕に受けてしまうが、
「おっと、そこは対応させてもらう!」
すかさず、ロジェが癒しの魔導を発動させて傷を塞いだ。
戦力的に見て、ロジェとテオドールは戦線を支える回復役としての立場も大きい。どちらかが欠けたらその時点で戦闘は一気に苦しさを増すだろうことは目に見えていた。
「チィッ! ならば!」
それを、軽戦士も感じ取ったか、さらにテオドールを狙おうとするが、しかしヒラリヒラリと舞う赤い影が敵戦士の攻撃を受け止め、テオドールを守った。
「動きは速いけど、技はまだまだつたないわね」
割り込んできたのはエルシー。腕にはめた篭手が赤い影となって敵を打つ。
「むむむッ」
それを見ていたエイドリアンがまた小さく唸った。
「どこを見ている、ヘルメリアのヒーローよ!」
そして、彼自身が相対するはイ・ラプセルの改造人間シノピリカだ。
超重量級の彼女の拳を、エイドリアンは鋭いバックステップで何とか回避する。
「むむむむッ」
その眼前を重い音と共に行き過ぎる相手の拳を見て、エイドリアンはみたび唸った。
そしてヤツはまたハジけた。
「ななななななな、何ということだァァァァァァァァァァァァァ――――ッッッッ!?」
「どうしたんですか隊長。もういつものことだから、『また発作か』くらいにしか思ってませんけど一応聞きますね、どうしたんですか隊長!」
「おお、我が親しみ溢れる隣人の副官よ! これが叫ばずにいられようか、何ということ! 何というなのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「主語を抜かすのはやめましょう、隊長。さすがに私でも分かりません」
「あ、うん、そうだな。実はだな」
「ハイ」
そしてエイドリアンは、とんでもないことを言い出した。
「イ・ラプセルにとっての最重要攻略対象は我々だったのだァァァァァァァ――――!」
「「な、何だってー!?」」
みんな叫んだ。自由騎士も含めて、みんな。
だって初耳だし。
「どういうことですか、隊長。ウチら普通に警邏任されただけの一部隊ですけど」
「まだ分からんか! 今この場に、三人もの悪のイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)がいるということがァァァァァァァァァ――――!」
「「あ」」
心当たりがある三人が、気づいたように声をあげた。
「見るがいい、あのデカイ金髪のメカニック貴公子を!」
「さっき正義正義言ってた人ですね」
「あのデカさ! あの甘いイケメンマスク! そして正義とか信念とか脳内ハッピーニューイヤー的言動! 間違いない、あれこそはイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)が一人、“優しい世界を目指すと言いながら敵には絶対優しくしないどころか容赦なくその重装備で心をへし折りに行く重装天然言行不一致”奇行の機甲貴公子アダム・クランプトンだ――――!」
「おお、アレが!?」
「食事中にマラソンを開始してトイレでろくろを回し始めるという……!」
「みんな、離れろ! 優しい奇行に巻き込まれるぞ!」
歯車騎士団が色めき立った。
だが、エイドリアンの戦慄はまだ終わらない。
「他にも皆、注意せよ! あの赤い髪の女に見える人の形をしたナニカだ!」
言って、彼はエルシーを指さした。もうこの時点で酷い。
「あれこそはイ・ラプセル国内で毎夜毎夜『悪い敵国の異分子はいねが~』とさまよいながら敵を見つけたら直ちに自動迎撃虐殺暴力機構と化して手にハメた篭手で躍動殴打撲殺を繰り返し、その結果着ている服も髪の毛も、肌の色すら鮮血によって赤黒く染まった悪のイ・ラプセル帝国大幹部・悪鬼羅刹虚無修羅魔人(貢献度300以上の皆さんのこと)が一人、“舞い踊る都市伝説。イ・ラプセル七不思議の一つ踊って殴れるエルシーさん”踊り赤死(あかし)のスカーレットではないかァァァァァァァァァァァァ――――!!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ、こいつが踊って殴れるエルシーさんだったのか!?」
「ひぃ! このままじゃ踊られる、殺される!」
「何て真っ赤なんだ……、あれが全て、人の血……!?」
「地毛だけど!?」
エルシー、全力の反論。
「知ってるか、エルシーさんは元々は雪のように真っ白な髪だったらしい……」
「それがあんなに赤く……。一体、どれだけ殴り殺したんだ……!」
「だから地毛よ!!?」
なおもおののくヘルメリア兵にエルシーは叫ぶが、一度張られたレッテルの前には現実や真実など大した力を持たないのであった。悲しいね。
「そして貴様だァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
「そしてワシかァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
最後に、エイドリアンはシノピリカの方を向いた。
「その隻眼。その重々しい左腕。その金髪、知っている。私は貴様を知っているぞ!」
「ほぉ、ならば聞こうではないか。ヘルメリアではワシはどのように評されておるのか」
「そう、貴様こそは悪のイ・ラプセル王国が誇る超重装改造人間!」
「超重装改造人間」
「黒鉄(くろがね)の――」
「黒鉄の」
「乳ッ!」
「乳」
シノピリカは自分の胸を見下ろした。
大きく突き出た乳房のせいで、自分の足元が全然見えない。
「そう、貴様こそは悪のイ・ラプセル王国が我が正義のヘルメリアの前途ある若者を色に狂わせるべく開発した重装戦士型セクシーアイドル! 黒鉄の乳キシダンガーZP!」
なお、キシダンガーZPのZPはゼッペロンのZPであり、Z級おっぱいという意味ではないとのことであるが、その読み方はゼットピーでもゼッピーでもなく、ゼッパイな辺り、真意がうかがいしれようというものである。
ちなみに名付け親はエイドリアンではない。何と、ヘルメリアのアングラ界隈で自然発生的に生まれた名称であるのだった。
「……そうきおったかー」
さすがにその方向は想定しておらず、シノピリカも毒気を抜かれる。
「ちなみに言っておくと、『ヘルメリアで出回ってるアッチ方面のソリッドブックに出てくるクッコロ女騎士ランキング』でここ数か月、常に三位以内に入っている常連らしいのが貴様だァァァァァァァァァァァァァァ――――!」
「その事実は知りたくなかった……」
シノピリカ、渾身の真顔。
「ところで副官よ」
「何ですか隊長」
「クッコロ女騎士とはどのような意味だ。何の専門用語であろうか!」
「いや、知る必要はないかなって。きれいなままのあなたでいてください」
「ぬう……、我が信頼する副官のこの反応。さては相当に邪悪な言葉と見て間違いあるまい。外から侵略するのみならず、まさかその妖艶さをもって内側から文化侵略を仕掛けてくるとは、狡猾。まさに狡猾の極み! これが悪の大幹部のなせる業か……!」
「ワシは今、割と本気でヘルメリアの国民性に重大な危機感を抱いておる」
ヘルメリアの一部界隈でイ・ラプセルのシンボルになり始めているらしいキシダンガーZPは真剣な顔つきでそのようなコメントを残した。
「分かっただろう、諸君! 今この場には、三体もの悪の大幹部が集結している! これはまさに、我々こそがイ・ラプセルの重大な攻略目標であることの証拠に他ならない!」
「ど、どうするのですか、エイドリアン三等!」
彼の言葉に恐れを抱いた兵士が問う。エイドリアンは答えた。
「戦うのだ! 勇気を胸に、正義をその手に掴んで離さず!」
「おお……!」
「ここで我らが負ければヘルメリアはどうなる? 悪は我らが祖国を荒らすであろう! 諸君はそれを看過するのか! 諸君の正義はそれを許容しうるのか! 否というならば戦え! 今こそ、我らが命を燃やし尽くしてでも祖国ヘルメリアの正義を守り、貫くのだ!」
「「オオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!」」
イ・ラウセルの奇襲に浮足立っていたヘルメリア兵達が、一気に気勢を盛り返す。
「あれだけフザけたことを言いながら、締めるべきところできっちり締めてきたか。厄介な」
テオドールが舌を打つ。
彼の先制攻撃で、戦いの当初は自由騎士側が勢いづいた。
だが、その勢いをエイドリアンはさらに上回ってくる。
折れない相手というのは、それだけで敵に回すと邪魔な存在だ。
その意味では、エイドリアンは相当な難物であることは間違いなかった。
「ここでヤツを叩ければ儲けものだが……」
「そうね。そのためには――」
テオドールの隣に立つライカは、エイドリアンを見ていなかった。
彼女が見る先にいるのは、他の兵士と変わらない姿をして、兜で頭を覆っている副官だった。
●それはそれとして戦うときは真面目です!
戦いが始まって三分が過ぎた。
「君達には悪いが、僕は絶対に止まらない!」
「うおお、止めてやる。止めてやるぅ!」
ぶつかり合うのは、アダムと壁役。鋼鉄の拳にヘルメリア兵の立てはひしゃげ、だがヘルメリア兵の突撃に、アダムの機鋼躯体が不気味に軋む。
「ぐおお!?」
「ぬがぁぁぁぁぁぁ!」
両者はともに吹き飛ばされ、だが、立っていたのはアダムのみ。
「はっ、はぁ……!」
息苦しい。動きにくい。身体を動かそうにも、機能が狂い始めている。
「なるほど、強い……」
重くなった体を引きずりながら、彼は唇に垂れる血をぬぐった。
戦いは、長らく拮抗し続けていた。
「ぜあああああああああああああああああああ!」
傷にまみれた重戦士が、ハンマーを振り回す。それを、キリがしっかりと受け止めた。
「こ、の……!」
手にした特別製のローブを前にかざし、それを盾にする。
だが、受け止めることはできたものの衝撃は凄まじく、ミシリと腕の骨が歪んだ。
激痛。迸りそうになる悲鳴を、キリは強引に噛み殺した。
「やるではないか悪の尖兵・未来なき絶壁女よ!」
その活躍を見ていたエイドリアンが、キリのことをそのように評価した。
「何ですか、未来なきって。キリの身体は未来でいっぱいよ!」
「フッ、愚かな。悪に傾倒する者に未来は訪れない!」
「あ、そういう意味……」
勘違いに気づき、キリの顔が羞恥に真っ赤になった。
「この程度で怒るとは短絡的なり!」
そしてエイドリアンはそれを勘違いした。
「もー! もー! シノピリカさん、頑張ってー!」
「応! 応援恐悦至極! 任されよぉ!」
全身をエイドリアンの攻撃にへこませながらも、シノピリカが左拳を振り回す。
「さぁ、鉄腕比べと行こうか、にわかキジンめが!」
「来るがいい、キシダンガーZP!」
「「ふんぬゥ!」」
シノピリカとエイドリアン。二人の左腕が真っ向からぶつかった。
戦場に、雷鳴にも似た衝撃音が炸裂する。そして二人は、弾かれたように吹き飛ばされた。
「隊長!」
そこですかさず、副官がエイドリアンを癒し、
「大丈夫か、シノピリカ!」
自由騎士団側でも、ロジェが起き上がろうとする彼女のダメージを消した。
「こっちは、まだまだイケる。それよりも他を……」
シノピリカに弱々しくも言われ、ロジェはうなずく。
それを見ていたエイドリアンが彼のことを指さして叫んだ。
「悪の帝国を医術で支えるとは小癪な! さしずめ貴様は悪の怪人、ドクトル治す人か!」
「まんますぎないか……?」
ロジェは言いつつ、別の場所に視線を巡らせる。
戦いは一進一退、双方ともに癒し手の少なさもあって、ダメージは溜まる一方だった。
「こ、の、おォォォォォォォォォォ!」
エルシーの肢体が夜の街に躍動する。
跳躍してからの膝蹴りが、軽戦士の一人のあご先を直撃した。
「お、踊って殴れるエルシーさんめぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「私は、自由騎士のエルシーだって……!?」
背中。いきなり激痛が走った。振り向けば、そこには銃を構えたヘルメリア兵。
「……や、やったぞ。悪の大幹部に、俺が!」
「こ、の……!」
傷口から、だくだくと血が溢れた。まずい。この傷は、まずい。
「エルシー!」
ロジェが叫び、気力を振り絞って魔導を発動させた。
エルシーの傷こそ癒えたが、ロジェの意識が疲れに眩んだ。魔力が尽きかけている。
「ロジェさん、キリも!」
と、キリも癒しの魔導を使うものの、まだまだ練度が低く効果は薄い。
やはり自由騎士側の癒しを担っているのはロジェであった。彼こそが戦線を支えているのだ。
そしてそれは、ヘルメリア側も同じだった。
「さすがにキツくなってきましたね~」
副官が間延びした声で言うが、しかし、その呼吸は浅く乱れていた。
ロジェと同じだ。戦線を維持するため治癒魔導を使い続けて、すっかり疲れきっている。
「フ、その程度かヘルメリア。やはり、悪鬼羅刹虚無修羅魔人様が出るまでもない。この戦場での勝利は、尖兵である我々がもらい受けるぞ」
「言う割にあなたもボッコボコじゃないですか」
満身創痍のアデルへと、副官が指摘する。
「この程度で、俺達の悪を挫けると思うなよ、ヘルメリア!」
「おお、こっちのレベルに合わせてきましたね」
副官が驚くのを見て、マリアンナが眉根を寄せた。
「アデル、もしかして私達って何か大事なものを投げ捨ててないかしら、アデル!」
「気にするな、マリアンナ。それを気にしたとき、本当の意味での魂の敗北が俺達に訪れるぞ」
「やっぱり投げ捨ててるのね!」
敵さんもまだ元気だなー、と、副官は思った。
そこに、味方の悲鳴が聞こえる。気を取られすぎたか。副官は杖を構えて魔導を行使した。
「ぐああああああ!」
だが、ヘルメリア兵の悲鳴が止まらない。魔導は確かに発動したのに。
「これは……」
「そう、私だよ、副官殿」
声をかけたのはテオドールだった。
「また、あなたですかぁ……。嫌気さしますよ」
「それは私も同じだよ。散々手こずらされた」
副官は身構える。
先ほどから何度か、自分の使う魔導の効果を目の前の悪の貴族に邪魔されていた。
「だがここで君を叩けば、こちらは戦況をほぼチェックメイトに持っていける」
「覚悟してもらうわよ、副官さん」
テオドールと反対側、副官の背後にはライカが立っていた。
「……あちゃ~」
副官は軽く天を仰いだ。
まさか、自分が狙われることになろうとは。
みんな、エイドリアンの方を狙うんじゃないかなー、と、軽く思ってたのが災いしたか。
「ま、それでも」
呟き、杖を構え直して、
「私もヘルメリアの兵士なんで、頑張れるだけ頑張りましょうかね」
戦いは、まもなく五分を迎えようとしていた。
●兜の奥にある素顔
「我が副官を狙うとは、何たる悪辣! これがイ・ラプセルのやり方かァ!」
「そりゃ普通はそうするじゃろ」
戦いながら、激昂するエイドリアンにシノピリカは冷静に返した。
敵勢唯一の癒し手である副官が動けなくなって、戦況は一気に自由騎士有利に転がった。
時間が経てば、敵の増援が駆けつけてくることは想像に難くない。
その前に、できる限り今この場にいる歯車騎士団を叩く。その目的は達されつつあった。
自由騎士それぞれの活躍あってのことだが、中でもシノピリカの奮闘はこの状況を生み出すのに一役買っていた。彼女はほぼ一人で、エイドリアンの足止めをこなしたのだ。
「ふっ、ふッ! さすがにキッツイのぉ……」
もはや彼女も立っているのがやっとの状態。
エイドリアンにはまだ余裕が残っていることから、実力で自分が劣っていることは分かっていた。しかし、個人の実力など戦争では大して意味はない。
いかに、自分に与えられた役割を全うできるか。結局はそれに尽きる。
その意味で、シノピリカは「敵主力の足止め」という大役を見事全うして見せた。
そして、そんな彼女だからこそ気づく、エイドリアンの変化。
「……何じゃ」
それまで、自分と戦いながらも常に戦場全域を俯瞰し、的確に味方にアドバイスを投げていたエイドリアンが、ここで急にそわそわし始めていた。
彼が意識を向ける先、そこにいるのは――、
「もしや」
思いついて、シノピリカは傷む体をおして声を張り上げた。
「副官の方から潰すんじゃ――――!」
「なっ」
副官は、ライカの攻撃を懸命にかわし続けていた。
だが、テオドールがシノピリカの声を聞きつけ、そこでパンと手を打つ。
「今こそ、敵の急所を仕留めるべきだぞ、諸君! 敵の急所はまさにここだ!」
「な。ちょ、ちょっ、ちょっ!?」
「今沈めば、これ以上は攻められないで済むわよ?」
影となって奔るライカが、言いつつ連撃を繰り出してくる。
「イヤですよ、倒れてたまるモンですかってんだ!」
しかし副官は一撃こそ受けたが、攻撃のほとんどを杖で受け流して交代する。
だが足元がいきなりグニュリと泥化して、踏みしめた足に絡みついてきた。
「おおおおお!?」
「悪いが、今沈んでもらおう」
テオドールだ。
彼が使った呪術が、地面を泥に変えたのだった。
「隙あり――、とった!」
ライカが飛び込んでくる。その拳はもはや絶対にかわせな――、
「アルテイシア!」
必死の様相で叫ばれたその声は、副官が最も聞き慣れた声。
「エイドリ……」
両手を広げ、自ら壁となって、エイドリアンは副官をかばった。
その全身をライカの拳や蹴りが幾度も打ち付ける。
「ぬぐぉぉぉぉ!」
「硬い……!? どれだけ鍛え上げてるのよ!」
「だがチャンスだ。ここで敵将を仕留められたならば、大きいぞ!」
そのテオドールの言葉に、自由騎士達の狙いはエイドリアン一人に絞られた。
「同情はしないわ。これは戦争。だから私達は、確かに今この瞬間、悪を行なう!」
エルシー渾身の一撃は、本来副官を狙おうとしたもの。
だがこの機を逃すいわれはない。彼女の真紅の衝撃がエイドリアンの水月に突き刺さる。
「ぐおお、お、お、お、お、お、お、お! こ、こんな程度で……!」
「その忍耐力は驚嘆に値する。ゆえにここで仕留めよう。何としても!」
テオドールの極寒の魔導が、エイドリアンの突き出そうとしていた右腕を真っ白に凍てつかせた。痛みも何も感じ得ない恐るべき無感覚が、彼の右腕を髄から蝕んでいく。
ギリギリと、仮面の奥でエイドリアンは歯を噛み合わせた。
それでも、彼は耐えようというのだ。
「お、の、れ……、あ、あ、悪の怪人・グリーンダルマイン、め……!」
「この状況でそんな減らず口を叩ける精神力は、素直に評価しようではないかね。まぁ、私は達磨ではないがな!」
言ったテオドールのすぐあとに、改めてライカが踏み込んでくる。
「貴様は――」
「アタシはライカ・リンドブルム。覚えて死になさい、マスクド・エイダー」
呟く彼女の声は憎悪にまみれ、握る拳は殺意がみなぎり、かくして振るわれた技は、打倒するのではなく速やかに命を摘み取らんとする殺しの技であった。
「ご、は……! 怪人め、悪の女怪人わるキューレ、め……」
「前回はブットバスター女だったけど、まあいいわ。戯言に取り合うつもりはないし」
倒しきれなかったことに、ライカは舌打ちをする。
全身から血を流し、満身創痍のエイドリアンの前に、そして立つのは鋼鉄の男。
「エイドリアン・カーティス・マルソー」
「……正義の、ヘルメリアの、力を。今こそ、さぁ、来い、悪のイ・ラプセル」
アデルが呼びかけても、エイドリアンは反応しなかった。
立つ姿にも力はなく、朦朧とした意識でこれまでの言動を弱く繰り返すばかり。すでにその状態が尋常でないことは疑いようもなく、精神力のみで立っていることは明らかだった。
「もうやめてください、これ以上は! 隊長!」
副官が、自分を守ろうとするエイドリアンに縋りつく。
そのとき副官がかぶっている兜が外れて地面に落ち、その奥にあった素顔が露わになった。
澄んだ銀色の髪がハラリと落ちる。
目に涙を浮かべて彼にすがる副官は、美しい女性であった。
「エイドリアン、もういいです! もう、いいですから!」
「そういうわけにはいかない」
だが、無情にもアデルは副官の言葉を切って捨てた。
「どうして……」
「これが戦争だからじゃよ」
呼吸を荒げながら、答えたのはシノピリカだった。
「ああ、そうとも。戦争に正義などあるものか。ワシらの何が、正義だというのか……」
武装を構えるアデルの背中を見つめながら、彼女はそう続けた。
ここでエイドリアンを叩くことは、確実にイ・ラプセルの脅威を減らすことに繋がるだろう。それは確かな利。逃す手などありえず、彼らは弱りきった目の前の男を叩くのだ。
「もはやかける言葉はない。こいつを受けて倒れろ」
「……ある」
だが、エイドリアンはアデルを見上げて何かを言った。
「何?」
「正義は、ある」
「…………」
「アルテイシア……、君も、国も、私が守る。それが、私の貫くべきせい――」
なおうわごとのように呟くエイドリアンへ、今度こそアデルがトドメを刺した。
「……アサルト」
戦場に、これまでで最大規模の爆裂が生じた。
本来であれば遠距離で使うことが望ましい一撃を、零距離で浴びせる。
その威力は、爆発の規模が何より雄弁に物語っていた。
そして巻き上がった黒煙の中から、エイドリアンと呼ばれた肉塊が吹き飛ばされた。
繋いだばかりの鋼の左腕が粉々に砕け、残る四肢も千切れ飛び、どう考えても生きているはずがない肉の塊と化して、ヒーローだったものは地面に転がる。
「イヤアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッッ!」
副官――アルテイシアの絶叫が戦場にこだまして、少し離れた場所からチラチラと移ろう明かりが見えた。ヘルメリアの増援がやってきたのだろう。
「みんな、行かないと!」
マリアンナに促され、自由騎士達が逃げていく。
その中で、顔を蒼くしたキリが呟いた。
「正義って、何ですか……? キリ達は本当に正しいんですか?」
誰も、その問いに答えられなかった。
代わりにアダムが、色濃い苦悩をその顔に浮かべて、もらした。
「それでも僕は、僕の信念を諦めない……!」
アルテイシアの嘆く声が、彼らの耳にしばらくこびりついて離れなかった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
重傷
称号付与
『悪の尖兵『未来なき絶壁』の』
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)
『悪の大幹部キシダンガーZP』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『悪の大幹部『踊り赤死』の』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『悪の怪人鉄仮面仮面仮面』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『悪の怪人わるキューレ』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『悪の怪人グリーン・ダルマイン』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『悪の怪人ドクトル治す人』
取得者: リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『悪の大幹部奇行の機甲貴公子』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)
『悪の大幹部キシダンガーZP』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『悪の大幹部『踊り赤死』の』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『悪の怪人鉄仮面仮面仮面』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『悪の怪人わるキューレ』
取得者: ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
『悪の怪人グリーン・ダルマイン』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『悪の怪人ドクトル治す人』
取得者: リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『悪の大幹部奇行の機甲貴公子』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
†あとがき†
お疲れさまでした。
結構苦戦しましたが、勝ちましたね!
被害こそ大きかったですが、エイドリアンにはほぼ完勝しました。
ヘルメリアとの戦争も加速していきますが、
皆さんは自分の正義と信念をもって臨んでください。
それではまた次のシナリオで~。
結構苦戦しましたが、勝ちましたね!
被害こそ大きかったですが、エイドリアンにはほぼ完勝しました。
ヘルメリアとの戦争も加速していきますが、
皆さんは自分の正義と信念をもって臨んでください。
それではまた次のシナリオで~。
FL送付済