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【白蒼激突】白い神の聖歌を阻止せよ!

●
1月末に聖霊門が奪われニルヴァン小管区陥落の報が本国である聖央都ウァティカヌスに。開放された捕虜によって伝えられることになりました。
陥落したニルヴァン小管区に対し、シャンバラは聖央都の周りにある大管区より、正規軍である「聖堂騎士団」の大規模派兵を決定。
誉れ高き一団は、ニルヴァン小管区の奪還に動き出します。
――とある”聖歌隊”員の日記――
「なんて、冒涜的な――っ!」
愚かにもミトラース様の庇護を破壊する暴徒の手に落ちたニルヴァンを、再びミトラース様の御許に救い出してあげなくては。
「聖堂騎士団」の後方支援として配属された私の部隊も意気軒昂である。
遠眼鏡越しに見える館の外壁には、恐れ多くも聖なるミトラースが我が同胞に下賜あそばされた聖獣を揶揄したとしか思えない意匠がなされていた。
あれは、間違いない。敵の所業だ。どこの誰かは屠ってからで十分だ。
「なんということでしょう」
副官の顔が青い。私の部下はまだ心が幼い。どんな時でも、私たちは晴れやかであるべきだ。
「我らがミトラース様の御威光を全軍にお届けする大命を拝した私達が恐れおののくなどあってはならないことです。ほほ笑みなさい。敵の挑発行為におののく同胞を支え鼓舞するのです。動揺ではなく確固たる憤怒をもって、ニルヴァンを奪回し、正しき信仰を導かねばなりません!」
副官は、大きく頷いた。
「“聖歌隊(ゴスペラ)”、詠唱準備。旋律調律。全軍の鎮静化、精神汚染耐性上昇をミトラース様に祈りましょう」
”聖歌隊”所属『暁』オーレリアは、最初の旋律を紡ぎだした。
●
「戦場で神に祈り、その恵みをもたらす乙女たち。なんて叙事詩的なのでしょう」
マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)のことさらゆっくりとした微笑は、オラクル達の心に染み入る。主に戦慄と共に。
「戦力としても侮れませんのよ。高レベルのヒーラーと錬金術師の混戦部隊です。いるのといないのでは大違いですわ――こちらの攻撃を片端から治されると困りますわね。弾薬はただじゃありませんのよ?」
マリオーネさんが困っている。将来困るのが見えるので、方策を考えた。
「ですので、皆様には”聖歌隊”を専門に狩りだしていただきますわ」
後方から忍び寄って、敵の回復リソースを破壊する遊撃隊だ。成功すれば、実益に加え、士気低下の効果も期待できる。
「ネクロマンサーが起き上がらせても、回復を使われることはないようですし。口から泡を吹いて楽譜を振り回す乙女を見たら向こうの士気も下がりましょう。護衛として聖堂騎士が四名ついていますので、これが主な相手ですわね。ですけれど向こうは湯水のように治してきますから、根競べしていてはじり貧になります。落としどころを相談なさってくださいね」
悲し気に眉を潜ませ、ハンカチで口元を隠す。
「侵攻経路は先遣部隊によって確保されております。のんびりしていると追手がかかります。迅速に。あくまで、攻撃対象のせん滅。それで作戦成功といたします」
1月末に聖霊門が奪われニルヴァン小管区陥落の報が本国である聖央都ウァティカヌスに。開放された捕虜によって伝えられることになりました。
陥落したニルヴァン小管区に対し、シャンバラは聖央都の周りにある大管区より、正規軍である「聖堂騎士団」の大規模派兵を決定。
誉れ高き一団は、ニルヴァン小管区の奪還に動き出します。
――とある”聖歌隊”員の日記――
「なんて、冒涜的な――っ!」
愚かにもミトラース様の庇護を破壊する暴徒の手に落ちたニルヴァンを、再びミトラース様の御許に救い出してあげなくては。
「聖堂騎士団」の後方支援として配属された私の部隊も意気軒昂である。
遠眼鏡越しに見える館の外壁には、恐れ多くも聖なるミトラースが我が同胞に下賜あそばされた聖獣を揶揄したとしか思えない意匠がなされていた。
あれは、間違いない。敵の所業だ。どこの誰かは屠ってからで十分だ。
「なんということでしょう」
副官の顔が青い。私の部下はまだ心が幼い。どんな時でも、私たちは晴れやかであるべきだ。
「我らがミトラース様の御威光を全軍にお届けする大命を拝した私達が恐れおののくなどあってはならないことです。ほほ笑みなさい。敵の挑発行為におののく同胞を支え鼓舞するのです。動揺ではなく確固たる憤怒をもって、ニルヴァンを奪回し、正しき信仰を導かねばなりません!」
副官は、大きく頷いた。
「“聖歌隊(ゴスペラ)”、詠唱準備。旋律調律。全軍の鎮静化、精神汚染耐性上昇をミトラース様に祈りましょう」
”聖歌隊”所属『暁』オーレリアは、最初の旋律を紡ぎだした。
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「戦場で神に祈り、その恵みをもたらす乙女たち。なんて叙事詩的なのでしょう」
マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)のことさらゆっくりとした微笑は、オラクル達の心に染み入る。主に戦慄と共に。
「戦力としても侮れませんのよ。高レベルのヒーラーと錬金術師の混戦部隊です。いるのといないのでは大違いですわ――こちらの攻撃を片端から治されると困りますわね。弾薬はただじゃありませんのよ?」
マリオーネさんが困っている。将来困るのが見えるので、方策を考えた。
「ですので、皆様には”聖歌隊”を専門に狩りだしていただきますわ」
後方から忍び寄って、敵の回復リソースを破壊する遊撃隊だ。成功すれば、実益に加え、士気低下の効果も期待できる。
「ネクロマンサーが起き上がらせても、回復を使われることはないようですし。口から泡を吹いて楽譜を振り回す乙女を見たら向こうの士気も下がりましょう。護衛として聖堂騎士が四名ついていますので、これが主な相手ですわね。ですけれど向こうは湯水のように治してきますから、根競べしていてはじり貧になります。落としどころを相談なさってくださいね」
悲し気に眉を潜ませ、ハンカチで口元を隠す。
「侵攻経路は先遣部隊によって確保されております。のんびりしていると追手がかかります。迅速に。あくまで、攻撃対象のせん滅。それで作戦成功といたします」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.”聖歌隊”の討伐(四人全員)
2.援軍を呼ばせない。(聖堂騎士団を3ターン放置しない)
3.追手をかけさせない(10ターン以内に決着させる)
2.援軍を呼ばせない。(聖堂騎士団を3ターン放置しない)
3.追手をかけさせない(10ターン以内に決着させる)
●
田奈です。
兵力を磨り潰すのが戦争の基本。仲間を後方から支えるヒーラー部隊を背後から襲うお仕事ですよ。マリオーネさんの推奨は奇襲だけど、もちろん、面子によって正々堂々と回復合戦してくれても構わない。勝てばよいのです。
●撃破目標
“聖歌隊(ゴスペラ)”--4名 装備は空色です。
”暁”オーレリア 他の三人より高位のヒーラーです。回復量が多いので、放置しているとどんどん治されます。
*“聖騎士団(テンプルナイツ)”――4名 装備は白です。
後方護衛を仰せつかった、比較的経験の浅い軽戦士一名、重戦士二名、ガンナー一名です。
牽制の必要はありますが、倒す必要はありません。
場所
日中、攻撃の妨げになる天候不順なし。草原。足元に異常なし。
遮蔽物なし。
主戦場よりやや後方。哨戒中を狙います。
10ターン以上かかったり、騎士団員を放置して、3ターン以上経過すると援軍を呼ぶのに成功しますので撤退を余儀なくされます。失敗です。
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「この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
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田奈です。
兵力を磨り潰すのが戦争の基本。仲間を後方から支えるヒーラー部隊を背後から襲うお仕事ですよ。マリオーネさんの推奨は奇襲だけど、もちろん、面子によって正々堂々と回復合戦してくれても構わない。勝てばよいのです。
●撃破目標
“聖歌隊(ゴスペラ)”--4名 装備は空色です。
”暁”オーレリア 他の三人より高位のヒーラーです。回復量が多いので、放置しているとどんどん治されます。
*“聖騎士団(テンプルナイツ)”――4名 装備は白です。
後方護衛を仰せつかった、比較的経験の浅い軽戦士一名、重戦士二名、ガンナー一名です。
牽制の必要はありますが、倒す必要はありません。
場所
日中、攻撃の妨げになる天候不順なし。草原。足元に異常なし。
遮蔽物なし。
主戦場よりやや後方。哨戒中を狙います。
10ターン以上かかったり、騎士団員を放置して、3ターン以上経過すると援軍を呼ぶのに成功しますので撤退を余儀なくされます。失敗です。
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「この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
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状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年02月16日
2019年02月16日
†メイン参加者 8人†
●
どんな戦場でも、最優先に攻撃しなくてはならない対象は設定される。
神の愛満ち溢れたこの世界、その恵みを適宜分配する癒し手ほど早々に戦場からいなくなってほしい相手はいない。
「いつも言ってんだろ。後ろでごにょごにょ言ってるやつらの頭からぶっ飛ばせ!」
――どこかの戦場でのとある先任射手の新兵へのありがたい訓示
●
「振る舞いだけ聞けばまさしく聖女とでも言えそうだが……面倒だな。こういう存在には、速やかにご退場願いたいものだ」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)がいう。
透過する猫の目は、戦場を見通す。
地面の凹凸に身を潜めるようにして待機しているアクアディーネのオラクル達。
「城塞かてせっかく作ったんやし、情報を必要以上に持っていかれたり壊されとうないしな」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、先日まで要塞建築の現場で補助の任務に就いていた。それなりの愛着はある。
「本格的に暴れたことないからほんま緊張するわ」
活性化する因子に呼応し、カタクラフトが熱を帯び始めた。
視界の端に『聖歌隊』の空色の衣が入り、作戦活動まで秒読みだ。
(空色は綺麗やけど、うちの女神さまの青い色の方が数倍綺麗やな)
「自分達の回復は……時間もないし、している暇も無いか。私は、回復をする手番で、敵を攻撃していった方が良さそうだ」
「ワタシも聖歌隊の対応だね――とはいっても、皆が攻撃に集中できるよう後ろから支えよう」
潤沢な回復魔法を持つ『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)も攻撃に手番を割く。
つまり戦闘に支障が出ない範囲なら、回復を期待してはいけないということだ。終わるころには満身創痍になる覚悟。敵と真逆の状況になりそうだ。ゆえに、時間をかければかけるだけ、オラクルには不利になる。
ミトラースの乙女の歌声に戦場が奮起する。士気高揚に乙女を使うのはシャンバラに限ったことではない。
『魔女』エル・エル(CL3000370)の紫の瞳が、草原に立つ聖歌隊とその護衛を見ている。
「歌に魔力を織り込む術、シャンバラにもあったのね」
旋律、和音、律動。三要素の組み合わせは世界の成り立ちに干渉するには有効な手段だ。ゆえに、ある時代は奨励され、ある時代は排斥され、ある地域ではもてはやされ、ある地域ではさげずまれ、エル・エルは家族を失った。
すべての技術に絶対的貴賤はない。あるのは「時」と「場合」だ。
今この時でさえ、『心底の純粋な信仰をもって神を称える聖歌』は、「非常に邪魔極まりないもの」としてラ・イプセルのオラクルに奇襲される。
絶対的なものはなく、世界は揺れ動き、その時々の趨勢を握ったものを生かす。
今が、そのつかむべき趨勢が見える数少ない瞬間だ。
そんなエル・エルの横顔にちらりと視線を送り、『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)は、わずか先の未来を考える。
「婆さんたちの牧歌的な歌が懐かしいな……」
これからここに響く歌は味方をセフィロトの海から引きずり戻し、敵を死を蹴り飛ばす、しのぎを削る歌声だから。
憂いと共に張られた妨害結界により、『聖歌隊』すぐそこにいるはずの駐留軍に遠隔手段による救援要請を出すことはできない。
「戦場の倣いだ。 回復役は前線の敵兵を癒す。癒されたその敵兵は、味方の誰かを殺すのだから」
回復役で実際に手を下さないから攻撃から免れるとは幻想だ。生きていようが、死んでいようが、起き上がって来る敵は悪夢だ。彼女らは、活きのいい戦士を戦場に供給し続けるが故に攻撃される。
治療と士気維持活動のため部隊から部隊を移動する『聖歌隊』を護衛する『聖堂騎士団』の気を引くように、重鎧にランスを握ったアデル・ハビッツ(CL3000496)が飛び出した。
白兵戦でも使用可能の乗馬槍を大上段から地面にたたきつける。
激しい衝撃に浮足立つ軍馬の手綱を引き締める余裕もあらばこそ。
「後ろから狙うような真似をして申し訳ありません〜!」
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の声は、ぎりぎりと地面に押し付けられていく聖歌隊の耳に入っただろうか。
それは電磁場という新たな概念の檻。風のマナが異常活性を起こし、見えない力場に押し潰される衝撃に耐えねばならない。
「さぁ、あなたたちの歌と、あたしの歌と、勝負といきましょうか」
近づけないなら、空から歌う。鱗粉をまとった黒い羽。機動も制限される高度飛行を駆使してでも、この歌声を届けたい。
魂を縛らせろ。暁のオーレリア。
「あたしの血族は、過去、その力のせいで魔女と呼ばれてしまったわ」
誇り高き、サバトの女王のアリア。
吸い込む息は旋律に変換され、『敵』に向けて紡がれる。衝撃が肌を震わせ、内臓をかき混ぜ、魔女の矜持が聖女の動きをしばし止める。
エルは、エルを見上げる『聖歌隊』の目に、優れた歌い手への憧憬と驚愕と称賛と否定と嫉妬と恐怖を見た。
オラクルの戦いは、一般人とは次元が違う。
速度の概念が変わる。常人が思いも及ばない剣劇の多さ行動数の多さ。無限のように感じる刹那。
いかなる戦闘巧者であろうとも、加護を持つオラクルを凌駕するのは容易ではない。
「――喜びを!」
エルの歌詞なき旋律を振り払うように高らかに。
「歌いましょう! ミトラースの誉れを。恩寵を。神は我らと共に! 勲詩をミトラースに捧げましょう!」
ひときわ華麗な装飾を身にまとった『聖歌隊』――『暁』のオーレリアは晴れやかに声を上げた。目尻、鼻腔、耳孔から赤い血の糸を垂らしながらも、ミトラースの聖歌隊は止まらない。耳を傷めても、旋律は骨身にしみこんでいる。
「ああ、そうだね。彼女がオーレリアだろう。うん。回復させる量が違う」
「そうですね。スキル詳細も確認しました。間違いないでしょう」
ウダの観察眼に、敵を分析する能力にたけたアルビノのお墨付きだ。明らかにミトラースの恩寵を余計に受けている。これで、影武者という蓋然性は回避された。
アクアディーネの愛が無限に注ぎ込んでくる平等な愛ならば、ミトラースの愛は捧げた者に捧げた物相応に報いる愛だ。いま彼女の歌声にこたえ、ミトラースの恵みが傷を癒す。
みるみる出血は止まり、吹き飛ばされた衝撃から立ち直った聖堂騎士は胸をときめかせて神の御業の尊さに胸を熱くしながら、障害たるアデルに飛びかかった。
ランスを掲げ、防御に心血を注いでいる間、脇をすり抜けていく聖堂騎士にロジェは、試験管を投げつけた。
中身は、炸裂する性質を持った強毒だ。解毒のために一人が旋律を変えればその分、敵の手数は減り、命が早く削れる。
「援軍を呼ぶ暇など与えるものか。彼らには此処にいてもらうとしよう」
加速器をたぎらせ、アリシアが『聖歌隊』の中心に突っ込む。
最大限の加速を乗せた刃が空色の衣を切り裂く。吹きあがる鮮血。
「お力を」
痛みにわななく喉が震え、傷口が小さくなっていく。
次なる一撃、止まらない連撃。乙女の悲鳴に触発されて、離脱しようとする聖堂騎士達を跳ね飛ばすため地面に突き立てるランス。
聖堂騎士には兜の下のアデルの顔は見えない。しかし、気配は感じる。尻をまくって、女を殴りに行くのか。と、問いただす気配。
これが、『聖歌隊』を警護する任務が骨身にしみた『騎士』ならば、アデルの挑発には乗らなかったかもしれない。
しかし、彼ら被比較的経験の浅い、守らなければ何が起こるかということを本当の意味で理解していない者たちだった。何しろ,『暁』のオーレリアの癒しの声は瀕死のものも立ち上がらせるのだから。過信があった。オーレリアの歌声があるところなら、多少の激しい戦闘などおそるるに足らず。
血気にはやった重戦士がアクアディーネのオラクルに向けて刃を振るう。
その一撃を全力で防御しながら、味方が『聖歌隊』を討伐しきるのを待つ。ここで立ち続けることが最優先だった。
●
ヒステリックに響くミトラースの聖歌。
精神力を捧げて、命乞いをする。護衛の聖堂騎士の、仲間の、自分の、何より集中攻撃を受けているオーレリアの。
『劫火』灯鳥 つらら(CL3000493)の剣がオーレリアに迫り、せっかくつけられた加護を圧縮した剣圧で吹き飛ばしていく。ぴきりと割れた感触を味わいながら、爪先はするりと動き、返す刀の勢い共々もう一撃叩き込む。
その陰からアリシアが飛び込み、速度任せの三連撃を浴びせかかる。
「マギアスは火力が命ですぅ〜! 全力でお相手させて頂きますぅ〜!!」
細密に魔力を練り上げたシェリルが、空気中の水のマナを一気に凍結させる。
歌声を吐く唇から真っ白く凝固し、氷の棺に閉じ込められる『暁』に聖堂騎士の裂ぱくの気合がシェリルを襲った。
咆哮する聖堂騎士の射手が、エルに向かって弓を引く。
高機動戦闘に適していない空域で、弾はエルをとらえた。羽ばたくクロアゲハの羽を彩る鮮血。
「倒れている暇はないよ。ワタシが支えよう」
スパルトイを動かしていたアルビノの指が止まり、柔らかな呪文を唇に乗せる。
ぱっくりと割られた背中の痛みが遠のくのに、シェリルは小さく息をついた。
アルビノの呼んだ恵みの雨は魔法だから、空飛ぶ魔女にだって届く。しみこんでいく癒しの力が背中まで抜けた傷口をふさいでいく。
「S級で同道していたけれど、まるで泣くように歌うよなあ、君は」
歌詞はないエルの歌は、聴く者を魅了し、耳ではなく、脳に、心に響き。ゆえに臓腑をえぐられる。
アリアの名残を受けて、降り注ぐ二連の矢。魔力が尽きるまで叩き込まれる残響。
『歌姫』としての矜持を歌いきって、誇らかなエルに、聞こえてないことを承知でウダは呟き、その矢に添わせるようにオーレリアに向けて更なる氷の吐息を吹きかける。生きるための熱さえ冷める所業。
オーレリアの歌声がやむ。じわじわと体をむしばむ冷気。傷つけられた傷の中に氷が入り込む。
『聖歌隊』の旋律が変化する。氷の影響を解除するために歌を変えたのだ。その分、傷を治す力は弱まる。
弱まっていく鼓動。オラクル達の選んだ方策は、『聖歌隊』に本来の実力を発揮する暇を与えなかった。
重力を駆使し、氷を駆使し、徹底的に動きを鈍らせ、速度を武器にしたつららとアリシアが満足な攻撃手段を持たない『聖歌隊』を凌駕しきることに成功したのだ。
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しかし、彼らに投降するよう説得する時間がない。なら、行動に移るべきだ。
「……彼らが悪いんじゃない。 悪いのは、この有り様を彼らに押し付けたミトラースだ。 だから、いま敵対しているという理由で彼らの命を奪いたくは……ない。 その機会を与えなければ、彼らの神と同じことのように思えてね」
相手がそうだから、こちらもそうでなければならないわけではないとウダは言う。
討伐――つまり、殺せと命じたプラロークだって、不殺を旨とするアクアディーネのオラクルだ。好き好んでそんな指令を出したわけではないだろう。なにかはあるのだ。あのプラロークは言葉が足りない。
捕縛用のロープを取り出したオラクルに、細い声が上がった。
「ミトラース様は悪くない! 異教徒め! おいたわしい。おーれりあサマ」
戦闘不能となった『聖歌隊』が急にしゃべった。彼女たちを思いやった言葉も、信仰の徒には侮蔑に聞こえる。
「オーレリア様私たちはミトラース様ああ申し訳ございませんああなんて罪深い恐ろしい捕らえられるなんてああいけませんそんな」
晴れ晴れとした、すこんと抜けるような目の色。殺し合いに耐えられなかったのだ。遠くに見える土埃の向こうからくるけが人が彼女たちの戦だったのだから。実際に攻撃されたことなどなかったのだ。
「@@」
止める暇もあらばこそ。捕縛か抹殺かも、オラクル達の中でもその時が差し迫るまでは棚上げにされていたことだ。そして、誰もそのことについては考えていなかった。魔術師なら片りんはわかった。自分と呪文を唱えられない仲間の体の中に、即死できる毒を発生させる、自決用の小さな呪文。本来なら、癒すための呪文が逆方向に捻じ曲げられていた。
誇り高き神の乙女は、虜囚となるを良しとしない。そんな呪文を使うように教え込まれていた。人質にされたり、見せしめにされたりすることのないように。
捕虜協定はある。しかし、非道から目を背けてきた者は、敵の手に落ちれば同じ目に遭うと思う。恐怖は視野を狭め、痛みは考えを鈍らせ、幼い心に芽生えた罪悪感は安易な死を呼ぶ。
「――離脱だ」
重戦士と削り合いをしていたアデルが言う。遠距離攻撃が届かない位置に陣取っていたため、彼のところまで十分な癒しは届いていなかった。防御に徹せず、もう少し戦闘が長引いていたら、何かが吹き飛んでいたことだろう。
オラクル達は、先遣隊が確保している経路に急いだ。命がけでオラクル達のために道を守ってくれている者がいる。
だが、祈らずにはいられない。せめて、セフィロトの海が安らかに彼女たちを受け入れんことを。
どんな戦場でも、最優先に攻撃しなくてはならない対象は設定される。
神の愛満ち溢れたこの世界、その恵みを適宜分配する癒し手ほど早々に戦場からいなくなってほしい相手はいない。
「いつも言ってんだろ。後ろでごにょごにょ言ってるやつらの頭からぶっ飛ばせ!」
――どこかの戦場でのとある先任射手の新兵へのありがたい訓示
●
「振る舞いだけ聞けばまさしく聖女とでも言えそうだが……面倒だな。こういう存在には、速やかにご退場願いたいものだ」
『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)がいう。
透過する猫の目は、戦場を見通す。
地面の凹凸に身を潜めるようにして待機しているアクアディーネのオラクル達。
「城塞かてせっかく作ったんやし、情報を必要以上に持っていかれたり壊されとうないしな」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は、先日まで要塞建築の現場で補助の任務に就いていた。それなりの愛着はある。
「本格的に暴れたことないからほんま緊張するわ」
活性化する因子に呼応し、カタクラフトが熱を帯び始めた。
視界の端に『聖歌隊』の空色の衣が入り、作戦活動まで秒読みだ。
(空色は綺麗やけど、うちの女神さまの青い色の方が数倍綺麗やな)
「自分達の回復は……時間もないし、している暇も無いか。私は、回復をする手番で、敵を攻撃していった方が良さそうだ」
「ワタシも聖歌隊の対応だね――とはいっても、皆が攻撃に集中できるよう後ろから支えよう」
潤沢な回復魔法を持つ『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)も攻撃に手番を割く。
つまり戦闘に支障が出ない範囲なら、回復を期待してはいけないということだ。終わるころには満身創痍になる覚悟。敵と真逆の状況になりそうだ。ゆえに、時間をかければかけるだけ、オラクルには不利になる。
ミトラースの乙女の歌声に戦場が奮起する。士気高揚に乙女を使うのはシャンバラに限ったことではない。
『魔女』エル・エル(CL3000370)の紫の瞳が、草原に立つ聖歌隊とその護衛を見ている。
「歌に魔力を織り込む術、シャンバラにもあったのね」
旋律、和音、律動。三要素の組み合わせは世界の成り立ちに干渉するには有効な手段だ。ゆえに、ある時代は奨励され、ある時代は排斥され、ある地域ではもてはやされ、ある地域ではさげずまれ、エル・エルは家族を失った。
すべての技術に絶対的貴賤はない。あるのは「時」と「場合」だ。
今この時でさえ、『心底の純粋な信仰をもって神を称える聖歌』は、「非常に邪魔極まりないもの」としてラ・イプセルのオラクルに奇襲される。
絶対的なものはなく、世界は揺れ動き、その時々の趨勢を握ったものを生かす。
今が、そのつかむべき趨勢が見える数少ない瞬間だ。
そんなエル・エルの横顔にちらりと視線を送り、『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)は、わずか先の未来を考える。
「婆さんたちの牧歌的な歌が懐かしいな……」
これからここに響く歌は味方をセフィロトの海から引きずり戻し、敵を死を蹴り飛ばす、しのぎを削る歌声だから。
憂いと共に張られた妨害結界により、『聖歌隊』すぐそこにいるはずの駐留軍に遠隔手段による救援要請を出すことはできない。
「戦場の倣いだ。 回復役は前線の敵兵を癒す。癒されたその敵兵は、味方の誰かを殺すのだから」
回復役で実際に手を下さないから攻撃から免れるとは幻想だ。生きていようが、死んでいようが、起き上がって来る敵は悪夢だ。彼女らは、活きのいい戦士を戦場に供給し続けるが故に攻撃される。
治療と士気維持活動のため部隊から部隊を移動する『聖歌隊』を護衛する『聖堂騎士団』の気を引くように、重鎧にランスを握ったアデル・ハビッツ(CL3000496)が飛び出した。
白兵戦でも使用可能の乗馬槍を大上段から地面にたたきつける。
激しい衝撃に浮足立つ軍馬の手綱を引き締める余裕もあらばこそ。
「後ろから狙うような真似をして申し訳ありません〜!」
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の声は、ぎりぎりと地面に押し付けられていく聖歌隊の耳に入っただろうか。
それは電磁場という新たな概念の檻。風のマナが異常活性を起こし、見えない力場に押し潰される衝撃に耐えねばならない。
「さぁ、あなたたちの歌と、あたしの歌と、勝負といきましょうか」
近づけないなら、空から歌う。鱗粉をまとった黒い羽。機動も制限される高度飛行を駆使してでも、この歌声を届けたい。
魂を縛らせろ。暁のオーレリア。
「あたしの血族は、過去、その力のせいで魔女と呼ばれてしまったわ」
誇り高き、サバトの女王のアリア。
吸い込む息は旋律に変換され、『敵』に向けて紡がれる。衝撃が肌を震わせ、内臓をかき混ぜ、魔女の矜持が聖女の動きをしばし止める。
エルは、エルを見上げる『聖歌隊』の目に、優れた歌い手への憧憬と驚愕と称賛と否定と嫉妬と恐怖を見た。
オラクルの戦いは、一般人とは次元が違う。
速度の概念が変わる。常人が思いも及ばない剣劇の多さ行動数の多さ。無限のように感じる刹那。
いかなる戦闘巧者であろうとも、加護を持つオラクルを凌駕するのは容易ではない。
「――喜びを!」
エルの歌詞なき旋律を振り払うように高らかに。
「歌いましょう! ミトラースの誉れを。恩寵を。神は我らと共に! 勲詩をミトラースに捧げましょう!」
ひときわ華麗な装飾を身にまとった『聖歌隊』――『暁』のオーレリアは晴れやかに声を上げた。目尻、鼻腔、耳孔から赤い血の糸を垂らしながらも、ミトラースの聖歌隊は止まらない。耳を傷めても、旋律は骨身にしみこんでいる。
「ああ、そうだね。彼女がオーレリアだろう。うん。回復させる量が違う」
「そうですね。スキル詳細も確認しました。間違いないでしょう」
ウダの観察眼に、敵を分析する能力にたけたアルビノのお墨付きだ。明らかにミトラースの恩寵を余計に受けている。これで、影武者という蓋然性は回避された。
アクアディーネの愛が無限に注ぎ込んでくる平等な愛ならば、ミトラースの愛は捧げた者に捧げた物相応に報いる愛だ。いま彼女の歌声にこたえ、ミトラースの恵みが傷を癒す。
みるみる出血は止まり、吹き飛ばされた衝撃から立ち直った聖堂騎士は胸をときめかせて神の御業の尊さに胸を熱くしながら、障害たるアデルに飛びかかった。
ランスを掲げ、防御に心血を注いでいる間、脇をすり抜けていく聖堂騎士にロジェは、試験管を投げつけた。
中身は、炸裂する性質を持った強毒だ。解毒のために一人が旋律を変えればその分、敵の手数は減り、命が早く削れる。
「援軍を呼ぶ暇など与えるものか。彼らには此処にいてもらうとしよう」
加速器をたぎらせ、アリシアが『聖歌隊』の中心に突っ込む。
最大限の加速を乗せた刃が空色の衣を切り裂く。吹きあがる鮮血。
「お力を」
痛みにわななく喉が震え、傷口が小さくなっていく。
次なる一撃、止まらない連撃。乙女の悲鳴に触発されて、離脱しようとする聖堂騎士達を跳ね飛ばすため地面に突き立てるランス。
聖堂騎士には兜の下のアデルの顔は見えない。しかし、気配は感じる。尻をまくって、女を殴りに行くのか。と、問いただす気配。
これが、『聖歌隊』を警護する任務が骨身にしみた『騎士』ならば、アデルの挑発には乗らなかったかもしれない。
しかし、彼ら被比較的経験の浅い、守らなければ何が起こるかということを本当の意味で理解していない者たちだった。何しろ,『暁』のオーレリアの癒しの声は瀕死のものも立ち上がらせるのだから。過信があった。オーレリアの歌声があるところなら、多少の激しい戦闘などおそるるに足らず。
血気にはやった重戦士がアクアディーネのオラクルに向けて刃を振るう。
その一撃を全力で防御しながら、味方が『聖歌隊』を討伐しきるのを待つ。ここで立ち続けることが最優先だった。
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ヒステリックに響くミトラースの聖歌。
精神力を捧げて、命乞いをする。護衛の聖堂騎士の、仲間の、自分の、何より集中攻撃を受けているオーレリアの。
『劫火』灯鳥 つらら(CL3000493)の剣がオーレリアに迫り、せっかくつけられた加護を圧縮した剣圧で吹き飛ばしていく。ぴきりと割れた感触を味わいながら、爪先はするりと動き、返す刀の勢い共々もう一撃叩き込む。
その陰からアリシアが飛び込み、速度任せの三連撃を浴びせかかる。
「マギアスは火力が命ですぅ〜! 全力でお相手させて頂きますぅ〜!!」
細密に魔力を練り上げたシェリルが、空気中の水のマナを一気に凍結させる。
歌声を吐く唇から真っ白く凝固し、氷の棺に閉じ込められる『暁』に聖堂騎士の裂ぱくの気合がシェリルを襲った。
咆哮する聖堂騎士の射手が、エルに向かって弓を引く。
高機動戦闘に適していない空域で、弾はエルをとらえた。羽ばたくクロアゲハの羽を彩る鮮血。
「倒れている暇はないよ。ワタシが支えよう」
スパルトイを動かしていたアルビノの指が止まり、柔らかな呪文を唇に乗せる。
ぱっくりと割られた背中の痛みが遠のくのに、シェリルは小さく息をついた。
アルビノの呼んだ恵みの雨は魔法だから、空飛ぶ魔女にだって届く。しみこんでいく癒しの力が背中まで抜けた傷口をふさいでいく。
「S級で同道していたけれど、まるで泣くように歌うよなあ、君は」
歌詞はないエルの歌は、聴く者を魅了し、耳ではなく、脳に、心に響き。ゆえに臓腑をえぐられる。
アリアの名残を受けて、降り注ぐ二連の矢。魔力が尽きるまで叩き込まれる残響。
『歌姫』としての矜持を歌いきって、誇らかなエルに、聞こえてないことを承知でウダは呟き、その矢に添わせるようにオーレリアに向けて更なる氷の吐息を吹きかける。生きるための熱さえ冷める所業。
オーレリアの歌声がやむ。じわじわと体をむしばむ冷気。傷つけられた傷の中に氷が入り込む。
『聖歌隊』の旋律が変化する。氷の影響を解除するために歌を変えたのだ。その分、傷を治す力は弱まる。
弱まっていく鼓動。オラクル達の選んだ方策は、『聖歌隊』に本来の実力を発揮する暇を与えなかった。
重力を駆使し、氷を駆使し、徹底的に動きを鈍らせ、速度を武器にしたつららとアリシアが満足な攻撃手段を持たない『聖歌隊』を凌駕しきることに成功したのだ。
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しかし、彼らに投降するよう説得する時間がない。なら、行動に移るべきだ。
「……彼らが悪いんじゃない。 悪いのは、この有り様を彼らに押し付けたミトラースだ。 だから、いま敵対しているという理由で彼らの命を奪いたくは……ない。 その機会を与えなければ、彼らの神と同じことのように思えてね」
相手がそうだから、こちらもそうでなければならないわけではないとウダは言う。
討伐――つまり、殺せと命じたプラロークだって、不殺を旨とするアクアディーネのオラクルだ。好き好んでそんな指令を出したわけではないだろう。なにかはあるのだ。あのプラロークは言葉が足りない。
捕縛用のロープを取り出したオラクルに、細い声が上がった。
「ミトラース様は悪くない! 異教徒め! おいたわしい。おーれりあサマ」
戦闘不能となった『聖歌隊』が急にしゃべった。彼女たちを思いやった言葉も、信仰の徒には侮蔑に聞こえる。
「オーレリア様私たちはミトラース様ああ申し訳ございませんああなんて罪深い恐ろしい捕らえられるなんてああいけませんそんな」
晴れ晴れとした、すこんと抜けるような目の色。殺し合いに耐えられなかったのだ。遠くに見える土埃の向こうからくるけが人が彼女たちの戦だったのだから。実際に攻撃されたことなどなかったのだ。
「@@」
止める暇もあらばこそ。捕縛か抹殺かも、オラクル達の中でもその時が差し迫るまでは棚上げにされていたことだ。そして、誰もそのことについては考えていなかった。魔術師なら片りんはわかった。自分と呪文を唱えられない仲間の体の中に、即死できる毒を発生させる、自決用の小さな呪文。本来なら、癒すための呪文が逆方向に捻じ曲げられていた。
誇り高き神の乙女は、虜囚となるを良しとしない。そんな呪文を使うように教え込まれていた。人質にされたり、見せしめにされたりすることのないように。
捕虜協定はある。しかし、非道から目を背けてきた者は、敵の手に落ちれば同じ目に遭うと思う。恐怖は視野を狭め、痛みは考えを鈍らせ、幼い心に芽生えた罪悪感は安易な死を呼ぶ。
「――離脱だ」
重戦士と削り合いをしていたアデルが言う。遠距離攻撃が届かない位置に陣取っていたため、彼のところまで十分な癒しは届いていなかった。防御に徹せず、もう少し戦闘が長引いていたら、何かが吹き飛んでいたことだろう。
オラクル達は、先遣隊が確保している経路に急いだ。命がけでオラクル達のために道を守ってくれている者がいる。
だが、祈らずにはいられない。せめて、セフィロトの海が安らかに彼女たちを受け入れんことを。