MagiaSteam
<<豊穣祭WBR>>密着、WBR24時!



●戦慄! ウィート・バーリィ・ライ!
「ウィート・バーリィ・ライ!」
「うわぁ~」
 勇者の扮装をした子供たちが麦の穂で悪霊役の大人をはたき、お菓子をもらっていく。
 それを見ながら、エール酒を飲んだ男たちが陽気に歌った。
 今夜はWBR。
 勇者と悪霊の撃退劇を通じて、麦の収穫を祝い、願う祭りである。
 この日は国も無料でエール酒と麦の茶を人々に振る舞い、イ・ラプセル中が祭りの空気に沸いた。秋の夜長を楽しむための、最高の夜である。
 だが、人々は知らない。
 今このときにも悪は人知れずはびこっている。その事実を。
 この戦時下にあって、祭りとは数少ない、人々が心を緩められることができる機会だ。
 普段、敵国との終わらぬ戦いの中に気を揉む日々を送っているからこそ、国民たちはそれをせずに済む祭りを精一杯に楽しもうとする。
 それ自体は悪いことではない。
 ただ、祭りというのは往々にして人の悪性をも剥き出しにしてしまうことがあった。
 祭りの空気に浮かれ、普段は抑え込んでいる素の自分を曝け出す者。
 そして、いつも以上の陽気になって、ついついハメを外しすぎてしまう者。
 悪いのは、祭りだからと無礼講的思考でやらかしてしまう、その度の過ぎたワルノリなのだ。
 確かに、それは小さな悪なのかもしれない。
 ちょっとした出来心、ついつい魔が差しただけのことではあろう。
 だが、それも間違いなく、悪なのであった。
 これは、港町アデレードを舞台として、WBRという祭りの夜に起きた数々の事件と、それを取り締まる自由騎士達の活躍を赤裸々に描いた戦いの記録である。

 ――なお、

「今日はお祭りなのね、楽しみだわ! 麦のお茶、美味しいわよね!」
 マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042) は普通にWBRを兄と楽しんでいて、
「マリアンナ、あまりはしゃぎすぎてはいけないからね。気を付けて」
 パーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056) は妹に同行していて、
「ぐおおおおおお、やーらーれーたー! と、何故俺がこのような……」
 ライル・ウィドル(nCL3000013) は顔が怖いからと布を被って悪霊役をやらされ、
「――警備か。まぁ、了解した。必要なことではあるな」
 絶対に酒を飲ませてはならないジョセフ・クラーマー(nCL3000059) は警備に回されていた。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常α
担当ST
吾語
■成功条件
1.ウィート・バーリィ・ライ!
だが残念だったな、このコメント欄ではトリックオアトリートと言っちまうのさ!
吾語です。うぃーとばーりらーい。
密着24時と言いつつやるのは夜だけっていうタイトル詐欺的アトモスフィア。

密着24時なので基本、登場する皆さんはモザイクかけて声もやけに高くなってお送りいたします。登場した皆さんは最後のスタッフロールで名前が出るでしょう。

楽しみ方は下記の通り!

1.勇者役か悪霊役をやる
 仮想して騒ぐ、というWBR本来の楽しみ方をします。
 プレイング中に勇者役か悪霊役か明記してください。
 ライル君に絡みたい場合はここを選択してください。

2.酒を飲む
 国から無料でエール酒が振舞われるんだからそりゃ飲むに決まってるよな!
 ドンチャン騒ぎinアデレードです。でも未成年の方は麦茶です。
 オリヴェル兄妹に絡みたい場合はここを選択してください。

3.警備する
 お祭りだからこそ何が起きるか分かりません。
 不測の事態が起きても対処できるよう、巡回警備を行ないます。
 絶対酒を飲ませてはいけない説法野郎に絡みたいならここを選択してください。

上記の内、希望の一つをプレイング中に明記するようお願いします。
明記されていない場合は、こちらでプレイング内容に合わせて判断します。
また、同行される方がいる場合はこちらもプレイング中に明記をお願いします。

大体そんな感じ!
お祭りの夜を楽しみましょー!

状態
完了
報酬マテリア
1個  0個  0個  0個
8モル 
参加費
50LP
相談日数
8日
参加人数
13/100
公開日
2019年11月15日

†メイン参加者 13人†

『教会の勇者!』
サシャ・プニコフ(CL3000122)
『アイドル』
秋篠 モカ(CL3000531)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)


●戦慄のWBR、その裏の顔に迫る!
「ウィート・バーリィ・ライ!」
 勇者の扮装をした子供達が悪霊役の大人に向かって威勢よく声を張り上げる。
 悪霊役の大人がやられたふりをして、それはそれは平和な光景。
 しかし、そこにもまた罪と罰とが混在する!
 古今東西、祭りは人間の光と影が浮き彫りにするという。
 渾身の密着取材によって、ついに我々取材班はWBRに潜む裏の顔を目撃した!

 < 密 着 、  W B R 2 4 時 ! >

 まず我々取材班は、今回のWBRで犯罪行為が起こらないよう警備をしている自由騎士に対して取材を敢行した。対応に出たのは顔の左半分を包帯で覆ったキジンの魔導士だった。

 ――本日はよろしくお願いします。

「ああ、うむ。話は聞いている。この祝祭の実情を民草に知ってもらうための取材、であったな。民が広く情報を知る機会があるというのは悪いことではないだろう」

 ――そう言っていただけると助かります。早速ですが、これからどこに?

「無論、巡回だ。アデレードという街はそこそこ広くてな。一晩とはいえ、常に目を光らせておかねばいつどこで何が起きるか――」
「おお、ジョセフ。ここにいたか! あちらで物盗りがあったようだぞ!」
「……いきなりか」
 突然の報告に、場の空気が緊迫に染まる!
 我々に対応してくれた魔導士は、報せに駆け付けたオニヒトの戦士と共に現場に向かって走り出した。当然のことながら、我々もそのあとに続いた。
「ッンだよテメェらはヨォ、俺ァ別に何もとっちゃいねぇよ!(※プライバシー保護のため、音声は変えてあります)」
 そこにいたのは容貌からみて四十がらみの男。すでに現場に駆け付けていた別の自由騎士によって取り押さえられてはいるが、しかし物怖じもせずいけしゃあしゃあと自分の無罪を周りに向かって大声で訴えている。
 しかし、男に近づくとはっきりと匂ってくる酒の匂いから、この男が相当量の酒を飲んでいることは明らかであった。
「あ、ジョセフさん、ヨツカさん、来てくれたのね」
 男を取り押さえている赤い髪の拳士が魔導士達に向かって笑いかけた。
 だがその汗にまみれた姿を見る限り、男は相当激しく暴れたようだった。それを取り押さえる彼女の苦労が偲ばれる。
 それにしても、肌の露出面積が多いのは我々の気のせいだろうか。
「エルシーか。お疲れ様だ。しかし、確か汝、こんばんはゴミ拾いをするとか言っていなかったかね。私はそのように聞いていた覚えがあるのだが……」
「そーなのよねー。ゴミ拾いの美女で行こうかと思ってたのに、いきなり近くで悲鳴が上がって、それで、何かこうなっちゃったのよねー」
「ヨツカが思うに、ゴミ拾いの美女という言葉には何か底知れないものを感じるな」
「健気な美女の噂が陛下の耳にまで届けば私の評判もうなぎのぼりっていう寸法よ!」
「その寸法、サイズ違いが甚だしいとヨツカは思うぞ」
 我々が見ている前で、自由騎士達が何やら言葉を交わしている。
 話の内容こそ聞こえないが、きっと、このたびの事件に対する情報交換をしているに違いない。彼らの緊張に満ちた顔つきがそれを物語っていた。
「オウオウ、何だよテメェラはヨォ! 俺はやってねぇって言ってるだろうが!(※プライバシー保護のため、音声は変えてあります)」
「はいはい、でもネタは上がっとるんよね~。ご愁傷様」
 赤い髪の女性に変わって男の対応をしているのは、仮装をしている茶色の髪の自由騎士だった。被害者から話を聞き終えたらしく、この場に駆け付けたのだ。
「アリシア、盗られたものはどうなっているか?」
「えーっとね、盗られたっていうか、ひったくられかけたんかな。エルシーさんが捕まえてくれたから、うちが被害者さんに返しておいたで」
「アリシアさん、ナイス!」
 どうやら、男は酔った勢いで犯行に及んだらしい。
 普段の男がどういう人間かはうかがい知れないが、しかし彼をそうさせたのは間違いなくこの祭りの空気であろう。まさに人は環境によってどこまでも変わるという証左だ。
「はい、ほんじゃおっちゃん、名前教えてくれん?」
「るっせぇな! 俺は何もしちゃいねぇよ! それとも俺が盗った証拠でもあるのかよ!(※プライバシー保護のため、音声は変えてあります)」
 周りに多数の目撃者もいる中、男はなおも容疑を否認する。
 何という大胆さ。祭りの空気とは人をここまで厚顔無恥にしてしまうものなのか!
「うむ、まずはあちらで話を聞くことにしよう」
「そうだな。ヨツカが連れて行こう」
「ゲェ! バケモノ!? ウィート・バーリィ・ライ! ウィート・バーリィ・ライ!(※プライバシー保護のため、音声は変えてあります)」
 悪霊の扮装をしていたオニヒトの戦士を前にして、男は急にその場に座り込んで謝り出した。
 己の罪の大きさをやっと自覚したのか、それ以降、男は人が変わったようにおとなしくなり、自由騎士の質問にもきちんと答えるようになった。

 ――こういうことはよくあるんですか?

「さぁ、どうなのかしら? 多分、それなりにはあるんじゃないかしら。……ところで、あなた達はどなたなのかしら?」

 ――あ、我々は今回のWBRの様子を取材するために来た者です。

「えっ、取材!? マジで!!? じ、じゃあ、ここでキッチリしっかりゴミ拾いすれば、ゴミ拾いする美女の話が陛下にまで届きやすくなったり――」
「やめろ」
「やめろ」
「やめとき」
 自由騎士までもが浮かれて失言をしてしまうWBR!
 だがこの祭りの夜が秘める魔性はまだまだこんなものではないだろう。
 我々は引き続きそれを暴くべく、取材を続けることにするのだった。

●祭りの夜に潜む魔物! その正体を探る!
 最初の取材のとき、我々に対応してくれたキジンの魔導士は言った。
「酒とは、魔物のようなものだな」
 ――と。
 きっと、彼の周りでも彼にそう言わしめる何かがあったのだろう。
 そして間違いなく、彼の言葉は事実である。
 今宵、WBR。国より無料のエール酒が振舞われる無礼講の時間。
 こうした、普段は様々な理由で課されている枷が今夜に限っては外されている。
 そうなれば自然、人というものは気を大きくしてしまうものだ。
 祭りにふるまわれる酒。まるでそれは、檻のない広場に開け放たれた飢えた獣に投げ込む新鮮な肉の如きもの。何かが起こるぞといわんばかりの空気が、常に場に満ちている。
 我々取材班は、酒にではなく祭りに酔った人々の姿を目の当たりにすることとなる!

「麦茶は美味いなー! 塩も捕球できるし!」
「そうね。みんなお酒飲んでるけど」
「イエーイ! マリアンナ、飲んでる~? 楽しんでる~?」
「ええ。飲んでるわよ、麦茶」
「あー! 麦茶は美味いなー! 負け惜しみではないぞ。負け惜しみなものかー!」
 我々がまず遭遇したのは、酒を片手に大いに騒いでいるソラビトの女性と、何故か子供たちに振舞われる麦茶を手にしてその女性と話をしているヨウセイの少女とマザリモノと思しき女性の三人組だった。我々はこの三人のうち、ソラビトの女性に話を聞くことにした。

 ――こんばんは、いい夜ですね。

「はーい、こんばんは~。って、ちょっとパーヴァリ! もっと呑んで! せっかくタダで呑めるのに呑まないなんて嘘でしょ! あ、マリアンナはこっちの魚の串焼きとかどう?」
「アンネリーザ、僕は自分のペースで呑むから別に……」
「何よ、そんなチビチビ呑んでるだけじゃ楽しくないでしょ! 一緒に騒ぎましょうよ!」

 ――えーと、今ちょっとよろしいですか?

「おい、やめておけ。そっちのヤツは完全に出来上がっているぞ」
 さらに話を聞こうとした我々を、マザリモノの女性が止めてきた。
「大体、何だ貴様らは? ……はァン? 取材? WBRをか? 何とも奇特な連中だな」
「どうしたの、ツボミ。あら、この人達は?」
「おお、マリアンナ。何か知らんが取材らしいぞ!」
「しゅ、ざい?」
「ああ。そういえば貴様にゃなじみのないものかもしれんな」
 マザリモノの女性はそう言いながら麦茶をまた飲んだ。
 何故、彼女とヨウセイの女性は酒ではなく麦茶を飲んでいるのだろうか。もしや、そこには我々の計り知れない大きな事情があるのかもしれない。我々は二人に話を聞くことにした。

 ――何故、お二人は酒ではなく麦茶を?

「ああ? そんなモン決まっているだろうが、こいつが未成年だからだよ!」
「らしいわ。でも麦茶は美味しいし、別にお酒が欲しいとは思わないけど」
「ちなみに私は医者だからだ! こういう夜はな、けが人の大量生産日なんだよ、チクショウめ! あー、ホント麦茶美味いなー! 酒より全然美味いなー!」
 何ということだろう、ここにも祭りの夜の危険を知る人がいたのである。
 見たことのない動物の扮装をしている彼女は、散々グチりながらも麦茶を飲んで緊急の事態に備えているのだ。きっと、普段から人格者として知られる名医に違いない。
「イ・ラプセルサイコー! アハハ、はい、パーヴァリ、かんぱーい!」
「アンネリーザ、これで何回目の乾杯だい? まぁいいけど、ほら、乾杯」
 一方で、ソラビトの女性はヨウセイの男性を相手に派手にジョッキを煽っている。
 見ればそこかしこに同じような光景があった。
 やはり今夜は何かが違う。祭りだからというのもあるが、一種の形容しがたいうねりのようなものが人々の心を絡めとって危うい方向にいざなっている。そんな気がするのだ。
「ふぅ、ちょっと休憩しましょうか」
 水色の髪の女性がやってきたのは、まさにそんなときのことだった。
「あ、新顔さんねー。アハハ、こんばんはー! 一杯どう?」
 早速ソラビトの女性が酒を勧めるが、水色の髪の女性はクスリと笑って、
「すみません、ワタシ、未成年なので。麦茶をいただきますね」
「へぇ、そんなに背が高いのに未成年なのね」
「よく言われます。でもまだお酒は飲めないんですよね~」
「へぇ、そうは見えないけど。最近の子は発育がいいわね~」
 ソラビトの女性の視線が、水色の髪の女性からヨウセイの女性へと移る。
「ホント、発育いいったらないわ~」
「うむうむ、そうだよなー。こっちのこいつなんか、未成年でコレだモンなぁ」
「……二人ともどこ見てるの?」
 マザリモノの女性もヨウセイの女性を見てうなずく。
 何ということだろう、我々はここにセクハラの現場を目撃してしまったのだ!
「なぁ、マリアンナよ。実際そろそろイイ男の一人や二人、できたんじゃないか?」
「え、ええ!?」
「え、何々? 恋バナ? 恋バナ?」
 驚くヨウセイの女性の隣にソラビトの女性が座る。ヨウセイの女性の困惑がこちらまで伝わってくるかのようだ。
「お二人とも、こちらにお菓子がありますけど食べませんか」
 だがそこに水色の髪の女性が助け舟を出してきた。まさに捨てるミトラースあれば拾うアクアディーネあり。人の理性は祭りの狂気に劣らない証拠であろう。
「おお、いいわね! ちょうだい!」
「うむ、一つか二つか三つか四つ、もらおうではないか」
 そして、差し出されたお菓子に貪りつく二人の女性。マザリモノの女性までそこに加わっているのは、今日が祭りだからに違いない。普段はよほど抑圧された日々を送っているのだろう。名医といえども人の子。鬱積した感情を解消するのもまた、今夜を置いてないのだ。
「……む、何故お前がここにいるのだ、マリアンナ」
 そこに、また一人、新たにやってくる。
 今度は男性だった。しかも、随分と物々しい格好をしている。
 これは、もしや最近巷で噂になっている戦記物小説の主人公である鋼鉄蒸気戦士メタリックスチーマーの扮装だろうか。かなり凝った造りに、我々は釘付けになった。
「あら、アデル。こんばんは。ここにいるのは、成り行き、かしら」
 知り合いらしいヨウセイの女性は柔らかい笑みを浮かべてそう言う。水色の髪の女性が、鋼鉄の男性にお菓子の入ったかごを差し出した。
「いかがです?」
「ああ、もらおうか」
 鋼鉄の男性が菓子を一つ摘み上げる。我々はそこに、戦士の休息を感じ取った。
「アデルこそ、どうしてここに? あなたって、お酒も飲むの?」
「いや、麦茶をもらいに寄っただけだ」
「そうなのね。じゃあ、はい」
 ヨウセイの女性が麦茶を差し出す。二人はそれなりに親しい間柄らしい。
「あとは、この場所が酔っ払いで酷いことになってないか、見回りにな。どうやら、そういう事態にはなっていないようだが――」
「ええ、一か所、お菓子の奪い合いは発生していますけど」
 水色の髪の女性が言って笑う。その視線の先では、ソラビトの女性とマザリモノの女性が残り一つのカボチャのパイを巡って骨肉の争いを繰り広げていた。
「あの程度は戯れだな。放っておけばいい。今日は、ゆっくりとしたい」
「そうね。それがいいわ」
 鋼鉄の男性に、ヨウセイの女性が笑いかける。
「それともう一つ、俺がここに来た理由があってな」
「あら、そうなの?」
「ああ。お前に会いに来た」
「え……」
 ヨウセイの女性は突然言われて鼻白んだようだった。
「最近はずっと、ヘルメリアとの戦争だのヤバイイブリースだの、あわただしい状況ばかりだったからな。たまにはゆっくり話せれば、と思っただけだ」
「……うん、そうね。私も久しぶりにゆっくり話したかったわ」
「あら、ワタシはお邪魔ですかしら?」
 と、そこに水色の髪の女性も会話に加わり、ヨウセイの女性が「そんなことはないわ」と微笑んで彼女を迎え入れる。
「騒がしい夜になるかとも思ったが、今日はのんびりできそうだ」
「そうね。お話、しましょ」
「ええ。ワタシもご一緒させていただきますね」
 我々が他の人々に話を聞いている間も、そうして三人はまったりと時間を過ごしていた。
「パイゲットー! フハハハハハハ、残念だったなアンネリーザ!」
「まだよ、まだ終わらないわ! 狙った獲物は逃がさいわ!」
「な、何ィー! 貴様、その手にあるパイは一体……!」
「さっきもらってきたわ。パーヴァリに行ってもらって!」
「オイ、貴様。いくら何でもパシらせるのはどうなんだ?」
「いや、僕は別に構わなかったし」
「ッカー! そんなだから貴様は普段から影が薄いといわれるのだ!」
 一方で、カボチャパイを巡る醜い争いは新たな局面を迎えているようだった。
 これこそまさにWBRの光と闇。
 我々取材班はこの現場で人の美しさと醜さ、その両面を目の当たりにすることとなった!

●勇者と悪霊がはびこる夜! WBRは眠らない!
 夜もそろそろ深まってきた。
 しかし、闇が増すこの時間こそ、最も危ない時間帯であるともいえる。
 我々取材班は、ついにWBRの裏側に巣食う闇を目撃する!

「Ya――――Ha――――!」
 それは、我々がWBRの次の取材対象を探しているときに聞こえてきた。
 激しいシャウトだ。しかし、声そのものはとろけるように甘い。
 我々は近くにいたこともあり、その声の方へと向かってみた。するとそこには燃え盛る篝火。
「ウィィィィィィィィィト・バーリ・ラァァァァァァァァァァイ!」
 夏季ならされる弦楽器の音と共に、またもや叩きつけられるハニーボイス。
 多くの人々が集まっているその輪の中心で、二人の少女が暗い夜など知ったことかとばかりに明朗闊達に歌声を披露していた。
 弦楽器をかき鳴らしているのは、マザリモノらしき少女だった。
 そして小さな翼をいっぱいに広げてソラビトの少女が歌っている。
 吟遊詩人のたぐいだろうか。
 それにしても素晴らしい歌声だ。周りの勇者や悪霊も彼女達の音楽に聞き入っている。
 やがて歌が終わると、周りから拍手と歓声が上がった。
 我々取材班は軽い喧噪に包まれる少女達に突撃取材を敢行した!

 ――こんばんは、いい歌でしたね。

「「ありがとうございます!」」

 ――すいません、我々は祭りを取材しているものでして。

「え、取材の方ですか?」
「もしかして、私達の取材、だったり?」

 ――はい。とてもいい歌だったので、お話を伺おうかと。

「わ、わ、すごいよモカちゃん!」
「すごいね、キリさん! 私達、有名になっちゃうかも!」

 ――いつもこうしたライブを?

「いえ、今日はお祭りなので。ねー?」
「ねー!」

 ――なるほどなるほど。いい話が聞けました。ありがとうございました!

「こっちこそ、歌を聞いてくれてありがとうございました!」
「また聞いてくださいね!」

 そして我々は去り行く少女達を見送り、いい気分でその場を後にしようとした。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 だが突如として轟いた絶叫が場の余韻を破砕する。
 何事かと見れば、そこには天を衝くばかりに巨大な悪霊(白シーツ)がいた。
「やーらーれーたー! ヌグアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
「わーん、あの悪霊さん、怖いー!」
 悪霊をやっつけたと思われる勇者役の子供が、悪霊(白シーツ)の大きすぎる声量に逆にギャン泣きをカマしてしまっている。これは明らかに事件の気配!
「ライル……、さすがにやりすぎだよ……」
 同じ白シーツ姿の別の悪霊役の誰かが、巨大悪霊を柔らかな声で叱る。
 すると巨大悪霊は立ち上がり、シーツを被ったまま器用に腕を組んで唸った。
「何故だ! 俺はキチンと役割を果たしているはずだ!」
「それでも怖いということは……、つまりライルがそもそも怖いということでは……」
 小悪霊の指摘に、巨大悪霊が震えた。
「ぬぐぐ、それでは解決のしようがないではないか、マグノリア!」
「僕に言われても……、困る……」
 小悪霊は肩をすくめてそう言った。まさに正論。我々取材班もうなずかざるを得ない。
 と、そこに、何やらいい香りが漂ってくる。
「見ろ、出たぞ!」
「幸運の悪霊だー!」
「捕まえろ! 賞品を手に入れるんだー!」
 口々に騒ぎ始める周囲の勇者達。
 見ると、明らかに祭りでしてはいけないガチ機動で場を駆け抜ける何者かがいた。
「捕まえられるものなら、捕まえてみてくださ――――い!」
「むぅ、あれはまさか『くねくねアンジェリカさん』!」
「知ってるの……、ライル……、でん……」
「うむ。何か今朝アンジェリカがそう名乗って『自分を捕まえた人には賞品を贈呈する』とか抜かしていてな。それからずっとああしてアデレード中を踊りながら走り回っているようだ。見たところ、まだ一度も捕まっていないらしい」
「新しい都市伝説でも……、作る気なのかな……?」
 凸凹悪霊の話を聞くまでもなく『くねくねアンジェリカさん』の話はすでに大きく広まっている。我々はこのWBRに新たに生まれた怪異を自らの目で目撃することとなった!
「駆け抜けていったな」
「駆け抜けていったね……」
 踊りながらも常人には到底追いつけない速度で去っていった『くねくねアンジェリカさん』。
 来年もきっとその恐るべき姿を人々の前に晒すのだろうか。
 我々はそれを思い、悪寒に身を震わせるのだった。
「「ウィート・バーリィ・ラーイ!」」
 おもむろに男女の声が重なった。
 巨大悪霊に向けられたらしきその声は、狼っぽい少女とクマのメモノビトの男性が同時に言ったものであった。周りの人々の視線が二人に集中している。
「む、サシャとウェルスか。何用だ」
 知己であるらしい巨大悪霊が促すと、少女とクマの男性がまた同時に声を揃えた。
「「勝負を挑みに来た」」「んだぞ!」「ぜ、旦那!」
 そして、二人はお互いに睨み合った。どうやら、一緒に来たわけではないらしい。
「先に言ったのはサシャだぞ」
「いや、俺だね。一瞬俺の方が早かったぜ、一瞬」
「へへーん、サシャの方が一瞬の一瞬早かったぞ! そんなことも分からないのか!」
「あァン? 寝ぼけてるのかねェ。俺のが一瞬の一瞬の一瞬早かったっての」
「…………(ミシィ!)」
「…………(ピキィ!)」
 そして二人は睨み合ったまま互いに動かなくなった。
 祭りの夜に高まる闘争の気配。我々の脳裏を喧嘩の二文字がよぎる。
「くだらないことで争うのはよくないよ……」
 だが、割って入った小悪霊に、少女もクマの男性も「むむむ」と眉間にしわを寄せる。
「……よし、待ってろ」
 クマの男性はいったん身を引くと、何故か覆面を被った。
「やぁ、僕はクマのウーさんだよ☆(甲高い声)」
 そしていきなり小芝居が始まる。
「クソアm、じゃなくてアバズr……、じゃなくてそこの女の子、僕と勝負しないかい☆(甲高い声)」
「煽ってるのか? 煽ってるんだぞ?」
 少女の背から怒りの炎が立ち上るのを我々は確かに見た!
「ハハッ!(甲高い声) 煽ってなんかいないさ。ところで勝負はしないのかい?(甲高い声) 別にそれでもいいんだよ。ただしその場合は僕の勝ちになるけどね!(甲高い声)」
「むぎぎぎぎぎ――――!」
 何ということだろうか、覆面を被ってから明らかにクマの男性の様子が変わった。
 覆面を被る前は、物言いこそ少し乱暴ではあったもののまだ常識的な範疇であった。
 しかし今はどうだ。
 狼っぽい少女を前にして、明らかに常軌を逸した言動を繰り広げている。
 何故、いきなり声が高くなったのか。
 何故、いきなり勝負を仕掛けたのか。
 何故、少女がそれを断ったらクマの男性の勝ちになるのか。
 分からない。
 長らくこの祭りの取材を行なっている我々をもってしても、何一つ分からなかった。
 もしや、彼は何か危険な薬物に手を出しているのだろうか。
 或いはクマの男性が被っている覆面こそ、実はイブリース化したアイテムの可能性も!
 その考えに至ったとき、我々取材班の間に緊張が走った。
 先ほど取材した自由騎士達に応援を要請するべきかもしれない。我々はそれを検討し始めた。
 しかしそのとき、小悪霊がまた軽く肩をすくめた。
「何ていうか……、何ともいえないね……」
「ま、放っておけばよかろう。実害があるワケでもなし。これもまた祭りの一端よ」
 巨大悪霊もそれに同意しているようだった。
 実害がない、とは、一体何を根拠にした言葉なのか。我々は彼に確かめることにした。

 ――あの、あそこの二人は止めないで大丈夫なんでしょうか。

「む、何だ貴様らは? ……まぁ、派手に喧嘩をしているワケでもないしな」

 ――しかし、あのケモノビトの男性は明らかに言動がおかしいのですが。

「いや、ウェルスは大体あんな感じだろう」
「うん。大体……、あんな感じだね……」
 二人の言葉に我々は衝撃を受けた。
 クマの男性の奇異に過ぎる言動は、ただの素だったのだ!
「よーし! やってやるんだぞ、サシャがその勝負、受けてやるんだぞ!」
「おっけー☆(甲高い声) ルールは簡単。君が10球投げて僕が1球も打てなかったら君の勝ち。1球でも打てたら僕の勝ちだよ。いいね☆(甲高い声)」
「条件がひどい」
「条件がひどい……」
 条件がひどかった。
「分かったぞ! ただしサシャの1球は他のヤツの10球に相当するから1球で決着だぞ!」
「こっちもか」
「こっちもだね……」
 こっちもひどかった。
「えー、そんな条件、このクマのウーさんが呑むワケ――」
「てりゃ!」
 少女が投げた球が、クマの男性の横を通り過ぎた。
「ないじゃーん!(甲高い声) ……あれ?(素の声)」
「サシャの勝ち――――!」
「オイ待て、まだ勝負は始まってねぇだろうが!?」
「え、何でだぞ。サシャが開始って言ったら開始だぞ。そして勝った! やったー!」
「ひでぇ、そりゃねぇよ! あんまりだ! なぁ、旦那!」
 クマの男性が巨大悪霊に泣きつくも、
「いや、ひどさで言えばとんとんといったところだぞ」
 巨大悪霊は冷静にそう指摘するだけだった。
「じゃあ、サシャの勝ちだから、くらえ必殺くすぐり攻撃――――!」
「ほんぎゃああああああああああああああ! や、やめ! やめ! らめぇ~!」
「どうして僕は……、野郎の喘ぎ声なんて聞かされてるのかな……」
 小悪霊が我々の気持ちを代弁してくれた。

 こうして、我々のWBR取材は終わった。
 勇者と悪霊に分かれて騒ぐこの宴は、しかし、やはり我々の予想通り魑魅魍魎が跋扈する暗黒領域が如き魔境であった。
 だが同時に、そこには人々の安全を守ろうとする自由騎士達の頑張りもまた存在していたのだ。
 彼らがいてくれる限り、WBRの平和は守られ続けることだろう。
 そして――、
 そしていつの日かきっと『くねくねアンジェリカさん』を捕らえる者が出てくるに違いない。


 < 密 着 、  W B R 2 4 時 ! > ――完!



・今回、取材にご協力いただいた自由騎士の皆さん(順不同・敬称略)
 『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
 『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)
 『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)

 『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)
 『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)
 『カンパニュラ』レティ・アスクウィス(CL3000613)
 『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)

 『悪の怪人ニコニコブッ刺し女』秋篠 モカ(CL3000531)
 『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)

 『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)
 『ヤバイ、このシスター超ヤバイ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
 『巨乳貧乳大戦争の仕掛人(未来)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
 『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)


 『破戒僧』ジョセフ・クラーマー(nCL3000059)
 『黒騎獅』ライル・ウィドル(nCL3000013)
      マリアンナ・オリヴェル(nCL3000042)
      パーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056)

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『森のホームラン王』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)

†あとがき†

お疲れ様でした!
実に楽しいお祭りでしたね!

昔からよく言います。
祭りに呑んでも呑まれるな!
日本語的におかしい気がする!

それではまた次回のシナリオで~。
ありがとうございました!
FL送付済