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月下の幽霊屋敷

「すっかり遅くなってしまった……」
イ・ラプセルの町から離れ、狩に出ていた男は森で迷い、途方に暮れていた。道も方角も分からず、月明かりを頼りに夜道を歩いていると、木々の間から光がこぼれている。
「こんな所に屋敷が……怪しいけど、背に腹は変えられないか……」
光に向かって歩いていくと、そこには見た目こそ質素だが、堂々とした佇まいの屋敷があった。一晩の宿か、叶わないにしても道を尋ねたいと思い、男はその扉をノックする。
「すみません、森で道に迷った者です。一晩泊めてはいただけないでしょうか? ご迷惑であれば、道を教えていただくだけでも構いません」
しかし、返事はない。長らく待ち続け、妙に思った男が窓から中を覗きこむと……。
「うわぁ!?」
そこには怯え切った顔で身を寄せ合い、震えている子ども達の姿。彼らは皆一様に礼服にも似た服に身を包み、体のどこかが必ず異形化していた。そして、その視線の先には長い銀髪を揺らす長身の男が腕を組み、処刑人のような目で子ども達を見下ろしていて。
「まずい、ここはマザリモノの奴隷を売買する屋敷だったのか……!」
声をかけてしまった事を後悔した男がそっと踵を返した時だった。振り向いた瞬間、真っ白な肌に瞳ばかりが真紅に染まった女と目が合う。
「うわぁあああああ!?」
いつの間にか背後を取られていたことに恐怖を覚えた男は死にもの狂いで逃げ出していった……。
「こんな噂を知っているかい?」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はカフェメニューに並ぶ、女性に人気のスイーツを眺めてセンスを磨こうとしながら自由騎士達に語りかけた。
「イ・ラプセルの領土から離れるか否かみたいな、町の外にある森の奥に、幽霊屋敷があるらしい。そこには人外染みた人々と、それを支配する男が住んでいるって噂だ」
ヨアヒムは店員を呼ぶとウィンク一つ。
「今日は君を注文したいな」
「お客様。寝言は自宅で寝てからお願いします」
「……そ、それでね、話をまとめるとそこの人はほとんどがマザリモノで、それを支配しているのが、先日現れた吸血鬼というのが噂の真相らしい」
さっさと帰っていく店員に、バッサリ切り捨てられたヨアヒムは涙目で自由騎士達に向き直った。
「もしこの噂が本当なら、彼は吸血には飽き足らず、人々を拉致していた可能性が出てくる。とはいえ、あくまでも『可能性』の域を出ない以上、騎士団が動くわけにはいかないみたいなんだ」
国家の組織とは、強大である反面、煩雑な手続きを要し腰が重いものである。
「どうだろう、もし興味があるならもう少し詳しく話すけど……」
君たちは本日のスイーツを注文してさっさと食事に移ってもいいし、このままヨアヒムの話に耳を傾けてもいい。
イ・ラプセルの町から離れ、狩に出ていた男は森で迷い、途方に暮れていた。道も方角も分からず、月明かりを頼りに夜道を歩いていると、木々の間から光がこぼれている。
「こんな所に屋敷が……怪しいけど、背に腹は変えられないか……」
光に向かって歩いていくと、そこには見た目こそ質素だが、堂々とした佇まいの屋敷があった。一晩の宿か、叶わないにしても道を尋ねたいと思い、男はその扉をノックする。
「すみません、森で道に迷った者です。一晩泊めてはいただけないでしょうか? ご迷惑であれば、道を教えていただくだけでも構いません」
しかし、返事はない。長らく待ち続け、妙に思った男が窓から中を覗きこむと……。
「うわぁ!?」
そこには怯え切った顔で身を寄せ合い、震えている子ども達の姿。彼らは皆一様に礼服にも似た服に身を包み、体のどこかが必ず異形化していた。そして、その視線の先には長い銀髪を揺らす長身の男が腕を組み、処刑人のような目で子ども達を見下ろしていて。
「まずい、ここはマザリモノの奴隷を売買する屋敷だったのか……!」
声をかけてしまった事を後悔した男がそっと踵を返した時だった。振り向いた瞬間、真っ白な肌に瞳ばかりが真紅に染まった女と目が合う。
「うわぁあああああ!?」
いつの間にか背後を取られていたことに恐怖を覚えた男は死にもの狂いで逃げ出していった……。
「こんな噂を知っているかい?」
ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はカフェメニューに並ぶ、女性に人気のスイーツを眺めてセンスを磨こうとしながら自由騎士達に語りかけた。
「イ・ラプセルの領土から離れるか否かみたいな、町の外にある森の奥に、幽霊屋敷があるらしい。そこには人外染みた人々と、それを支配する男が住んでいるって噂だ」
ヨアヒムは店員を呼ぶとウィンク一つ。
「今日は君を注文したいな」
「お客様。寝言は自宅で寝てからお願いします」
「……そ、それでね、話をまとめるとそこの人はほとんどがマザリモノで、それを支配しているのが、先日現れた吸血鬼というのが噂の真相らしい」
さっさと帰っていく店員に、バッサリ切り捨てられたヨアヒムは涙目で自由騎士達に向き直った。
「もしこの噂が本当なら、彼は吸血には飽き足らず、人々を拉致していた可能性が出てくる。とはいえ、あくまでも『可能性』の域を出ない以上、騎士団が動くわけにはいかないみたいなんだ」
国家の組織とは、強大である反面、煩雑な手続きを要し腰が重いものである。
「どうだろう、もし興味があるならもう少し詳しく話すけど……」
君たちは本日のスイーツを注文してさっさと食事に移ってもいいし、このままヨアヒムの話に耳を傾けてもいい。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.幽霊屋敷の調査
謎が謎を呼ぶミステリーだと思った?
残念! 残念の残念による残念な残念依頼だよ!!
訳が分からない? 考えるな、感じよ
【現場】
町外れの森の中にある屋敷
ヨアヒムが噂をまとめて正確な場所を突き止めています
あくまでも発見されたのが夜だっただけだから、昼間いけば照明はいらない
あえて夜行ったとしても、十分に明るいです
【目的】
幽霊屋敷を調べる事
【注意事項】
噂によると、現場には何人ものマザリモノや亜人がいる事が予想されます
逆にノウブルはいないようですが、その意味について少し考えておくといいかもしれません
残念! 残念の残念による残念な残念依頼だよ!!
訳が分からない? 考えるな、感じよ
【現場】
町外れの森の中にある屋敷
ヨアヒムが噂をまとめて正確な場所を突き止めています
あくまでも発見されたのが夜だっただけだから、昼間いけば照明はいらない
あえて夜行ったとしても、十分に明るいです
【目的】
幽霊屋敷を調べる事
【注意事項】
噂によると、現場には何人ものマザリモノや亜人がいる事が予想されます
逆にノウブルはいないようですが、その意味について少し考えておくといいかもしれません
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年09月20日
2018年09月20日
†メイン参加者 8人†
●カーミラがいなかったら地雷踏み抜いてた
「……というのが事前に拾えた情報だな」
『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)曰く、此度の現場となる館は随分前に放棄されたもので、実質記録には残っていない代物らしい。
「不動産屋がぼんやりでも覚えててくれてよかったぜ。一先ず、これで屋敷そのものは突然現れたお化け屋敷でもなければ、曰くつきの訳アリ物件でもねぇって事が確定した。ついでに言えばもう管理してる奴もいないはずだし、普通のならず者なら手入れするはずがねぇから、噂の通りなら、そこに誰か住んでる事になるってよ」
「という事は、ヴラディオスがおうちにしてる可能性が高くなった?」
「確かに。もし彼がイ・ラプセルの街の中に住んでいるのなら、吸血事件の起きない日にも目撃情報くらいは出てきそうだものね」
首を傾げる『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)に『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が頷いた。一度接触している彼女らにとって、吸血鬼には思うところがあるようだ。
「まぁ、現状だとヴラディオスかどうかだって怪しいし、まずは行ってみましょ?」
そう語る『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)は、二人同様一度接触しているにもかかわらず、どこか楽し気ですらあった。そんな彼女の示す先には、うっそうとした森の奥深くに、場違いな屋敷が鎮座している。見た目こそ簡素だが、どこか人を寄せ付けない雰囲気を纏うそこは、砦にも似た気配を振りまいていて。
「じゃ、手筈通りに」
ひらりと手を振って、『フェイク・ニューフェイス』ライチ・リンドベリ(CL3000336)が部隊の半分を連れて屋敷の後ろへ向かっていくと『魔女狩りを狩る者』エル・エル(CL3000370)は静かに目を閉じて首を傾げた。
「何これ……不安?」
屋敷の壁を透過して、心の動きを感じ取ったエルは眉根を寄せる。
「それに若干の恐怖……なんでしょう、イメージしてたのと随分違うわね……まぁ、人数は相当みたいだけど」
「あっちも裏口の前についたみたいだぞ」
ウェルスがギアからの連絡を伝えると、カーミラが大きく息を吸った。
『私たちは自由騎士団だよ! この屋敷で人身売買がされてるって疑いが出たから調査に来たよ!!』
大気を震わす程の大声は衝撃による突風を生み、周囲を木々を揺らしながら窓ガラスに悲鳴を上げさせた。普段からうるせぇガキンチョが大声のスキルなんか使うんじゃねぇ!!
「……返事、ないね?」
「これはもしかしたら……」
アダムが生唾を飲み、緊張した面持ちで慎重にドアをノック。
「既に伝えさせてもらったけれど、僕たちは自由騎士団だ。どうだろう、少しお話させて欲しいのだけど……」
ドアから離れ、数秒後。
「……お待ちしておりました」
肌は透き通るほどに白く、瞳ばかりが真紅に輝く女性が『震えながら』姿を見せた。彼女の白銀の髪の合間から覗く折られた角から、鬼人だと見受けられる。
「あれ?」
カーミラは調子が悪いのかなーなんて思いながら裏口に向かった別動隊を呼び戻すが、彼女は知らない。屋敷の前で桁違いの大声なんか上げたから、屋敷の中の人達が物凄くビックリしてしまったという事を。その辺りをなんとなーく察したアダムはそっと花束を差し出して。
「気に入ってもらえるといいのだけれど……」
「これは?」
不思議そうな顔をして受け取る女性に、アダムは苦笑。
「そう珍しい物でもないだろうけど、気持ちの問題かな……先日は仲間を怪我無く返してくれてありがとう、という気持ちのさ」
首を傾げる女性に、アダムは思い出したように問う。
「ヴラディオスさんはご在宅ですか」
真っ直ぐに、女性の瞳を見つめて問えば、それまで穏やかだった彼女の気配がピンと張り詰めた。自分より遥かに背の高いアダムの目をジッと見返して。
「えぇ、ヴラ様なら厨房で足止めしております」
「厨房? 何かお料理でも……ヴラ様!?」
一瞬聞き流しそうになったが、随分と気の抜けた呼称にアダムが聞き返すと、ウェルスが彼の肩を叩いて「そこじゃねーだろ」って呆れかえった顔をする。
「足止めって事は、ヴラディオスの旦那は現在進行形でこっちに向かおうとしてるって事か?」
「いえ。ですが、ヴラ様は皆様を敵と認識していらっしゃいます。同じ席に着かれては会話もままならないと判断し、誠に勝手ながら、厨房に押し込んで見張りを付けさせていただきました」
(厨房に押し込んで見張り……?)
恭しく一礼する女性の姿からして、恐らく嘘ではないのだろう。だが、だからこそ一度ヴラディオスと拳を交えたカーミラには信じられなかった。
(あの吸血鬼を押さえこめる人がいるの……?)
「立ち話もなんですから、中へどうぞ。部屋をご用意させて頂いております」
カーミラが警戒心を高め、それに気づいたように彼女を一瞥した女性は自由騎士達を屋敷へ招き入れた……。
●お前ら探索能力高め過ぎィ!
(不安な感情ばかりね……さっきまでは恐怖も混じってた事を考えると、少なくとも私たちが現時点では危険な存在じゃないって事は伝わったのかしら?)
屋敷の住人たちの心を探るエルは、彼らの胸中の中から負の感情を掬い取り、その濃度を見やり心の在り様を推測する。
(ちょっと……数多くない?)
周囲の熱を感知できる『はず』のライチなのだが、その熱源こと生き物の体温が周囲一帯に張り巡らされておりわけが分からない事になっていた……つまり、女性に導かれている間、その通り過ぎる扉という扉の向こうに張り付いて、こちらを見ている者がいるらしい。
(まぁ、ドアの隙間からこっち見てるから分かるし、私には全部聞こえてるんだけど……)
聴覚を強化しているライチには、ドアの向こうの子ども達がこそこそと話す会話がきっちり聞こえている。珍しい客人に対する興味も、謎の集団に対する恐怖も、いつでも襲いかかれるという奇襲作戦も。
(これ、あんまり歓迎されてないよね……)
(当たり前でしょう。こっちは突然現れた部外者なのよ?)
苦笑するライチとツンとしたエルは視線だけで会話すると前に向き直る。ライチがそのまま視線を窓に滑らせると、三本の角を生やした貴族調の服の自由騎士が窓の下からひらりと手を振り、その上からは金色の髪と色彩豊かなポンチョを揺らす自由騎士がぷらーり。
「? 今なにか気配が……」
先頭を行く女性が外を見やると、サッと隠れる二人。
「気のせいでしょうか……」
女性は再び歩き出す。なお、実は屋敷の入り口にもライオンみたいな頭した機人がスタンバってるのは秘密だ!
「綺麗にお掃除されていますね」
レネット・フィオーレ(CL3000335)は廊下の隅や窓枠に埃がない事を見止め、何気なく語りかけた。
「えぇ、皆手伝ってくれますから」
「いい子達なんですね」
どこか柔らかい声音に釣られてレネットも微笑むと、女性がふと振り返り。
「一応、子どもばかりではないのですよ? 成人組は成人組できちんと仕事をしています。そうでなくては生活が成り立ちませんから」
「えっ!?」
つい声を上げてしまうレネットに女性はくすくすと楽しそうに笑った。
「とはいえ、皆さんの目に着くのはほんの少数で、基本的には狩や採集で食料を集めたり、獲った物を売ったり、畑の世話をしたりして人目につかずに過ごす者がほとんどですけどね」
(レネットの嬢ちゃんが策士なのか、それともあまりにも天然すぎて口が滑ってるのか……)
女生との会話から、屋敷の住人が大人から子どもまでいる事、大人は一部とはいえ、町に出入りしている事を聞きだしたレネットの会話術(?)にウェルスが複雑な顔をした。
「着きました。お出しする程のお茶もございませんが、どうぞお入りください」
女性が足を止め、自由騎士達に扉を開く。そこには長いテーブルと整列した椅子があり、食堂のような部屋であることが見受けられた。
●吸血鬼、正体見れば、枯れ柳
「単刀直入に聞くわ」
席に着き、真っ先に口を開いたのはエルだった。
「あなた達どこから来たの? 昔からここにいるってわけじゃないわよね?」
どこか威圧的なエルの視線に怯みもせず、女性は一つため息をつくと口を開く。
「私達は流浪の民……と言えば聞こえはいいですが、元は奴隷や商品として売買されていた者の集まりです。どこへ行こうと我々は人としての扱いを受けず、どこへだろうと身を寄せる事はできませんでした」
「ふぅん……それで、ここに隠れて住んでたってわけね」
エルは急に興味をなくしたようにそれまでの攻撃的な視線を外し、頬杖をついて脱力する。
「じゃあなんでその隠れ家を見つけた男を逃がしたりしたのよ?」
「見つかった以上、この場所の事は露見するでしょう。それこそ彼を始末すれば済む話でしたが、私達はノウブルと同じ事をしたくなかったのです。それに、彼を逃がしたことでここがお化け屋敷だと噂が広まれば、誰も近づかないと思ったのです」
「ふむ……噂ですか」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)はこの話を聞いて、今回の一件の流れに見当がついたようだ。
「つまり、この屋敷が発見された事を逆手に取り、彼をあえて取り逃がす事でここが危険な場所だと知らしめて、人々を遠ざける事で安寧を守ろうとしていた、と?」
女性が頷き、ライチは首を捻る。
「そんな簡単に上手くいくものなの?」
「噂ほど無責任なものもありませんからね。その時の男性はさぞ恐怖していた事でしょう。であれば、実際に見聞きしたモノに加えて、自分の想像が入り交じる事になります。そしてその手の話は人々の間で伝播していくうちに、少しずつ変容して、気づいた時には元の話とは全くの別物になってしまうんです」
そこまで語り、マリアは窓の向こうに立ち並ぶ木々を見やる。
「そうでなくても、この辺りは狩人ですら迷うほど入り組んでいます。私たちはヨアヒムさんが噂話をまとめて作ってくださった正確な地図があるからここまで来れましたが、一般の方はおろか、例え騎士であったとしても、人海戦術でも用いない限りはそうそうたどり着けません」
「それで噂は目撃談と一緒に自然消滅しておしまいってことね」
合点がいったらしいライチだが、マリアは首を振る。
「そうはいきません……私たちが来てしまったから。そうですよね?」
マリアの確認に、女性は頷く。
「ですが、これは同時にいい機会なのかもしれない、そう判断して皆さまをここまでお通ししました」
などと真面目な場面なのだが、話に飽きたカーミラが周りをうろうろ。そうね、アンタヴラディオス殴る気満々だったものね。
「機会? 何かするつもりなの?」
きゐこが不思議そうな顔を……ローブで見えない? その話は後にしてくれ。取りあえず女性が頷き、カーミラは不意打ちで扉を開けて、聞き耳を立てていた子ども達を発見。
「もう我々は……というかヴラ様は限界なのです。ヴラ様は元々、どこの国にも属さず、何事にも興味を向けず、静かに旅をする一族だったと聞いております。しかし、奴隷や商品として取引され、物として扱われる我々を見て、一族を抜けて単身商人たちに戦いを挑み、傷つきながらも我々を解放してくださいました」
「あら、じゃあ彼はあなた達を保護している、という認識でいいのね?」
きゐこの問いにはどこか嬉しそうに頷く女性だったが、彼女の表情はフッと影を落とす。ついでにカーミラは拳を構えて腰を落とす。
「けれど、こんな場所に隠れて住んでいる以上、生活はギリギリでした。それでも連れ出してしまった人達に苦労はさせたくないと、あの方は朝から晩まで働き、ほとんど食事も睡眠もとっておりません。そのせいで体に残った傷跡もほとんど癒えぬままなのです」
「何という心意気……しかし、何故吸血を?」
アダムはヴラディオスが何らかのスキルの行使の為に吸血しているのだと読んでいた。しかし、戦闘では攻撃せず、体が傷だらけという事は回復もしていない。これはどういうことか? そしてカーミラは子ども達の前で拳闘の演武を始めたとはどういうことか? おいライチ、折角だからと持ってきた果物を配るんじゃない、ここは演武を見せる劇場じゃないぞ!
「民間療法、と言えばよいのでしょうか? 人の生き血をすすると活力が湧くことから、ヴラ様の一族は人から血を吸う事で生命力を分けてもらえると信じていたようです。しかし実際は活力はわけど生命力は得られず、見切りをつけようとしたところで、あなた方にみつかったのだとか」
吸血事件の真相に拍子抜けしたアダム、細く長い吐息と共に残身を取るカーミラ。子ども達からのささやかな拍手を受け取っていると今度はレネットが子ども達の前で虚空を撫でて、まるで「ここに鍋があります」と言わんばかりのパントマイムを始めた。
●まさかの無事に事なきを得る
「今までの話は分かった」
実際には、ノウブルに何をされたのか、奴隷という商品ではなく、奴隷『や』商品という表現、などなど、気になる点はあるが、ウェルスは話を進める。
「それで、いい機会ってのはどういうことだ?」
「……イ・ラプセルに身を寄せたいのです」
彼女にとっても大きな覚悟をした一件なのだろう。やや間があって、返事があった。
「今の生活を続ければ、いつかヴラ様は倒れ、我々は全滅するでしょう。そうなる前に、生活基盤を整えたいのです」
「やればいい……といいたいところだが、そう簡単にはいかないな?」
何かを察したウェルスに、女性は頷く。
「私達はどの国家であろうと蔑まれ、虐げられてきました。子ども達ですら、外部の者には不信感を抱いています。ヴラ様に至っては、誰一人として信用できない程に……」
「その子ども達は皆同じような服を着ていますが、もしやパノプティコンから?」
レネットの「ここにお薬を一つ、二つ、三つ」の動きから目を逸らせず、ついでに自分が
仏頂面という自覚がある故に子ども達は見れないというマリアが尋ねるも女性は否定する。
「あれはただ単にヴラ様が作りやすいからだそうです」
「作ってるんですか!?」
「できました~!」
驚くマリアの傍ら、レネットは子ども向けに脱力した声音で語りながら、ありもしない鍋から全身ふわふわの毛玉のような子犬を呼び出すと、子ども達に抱かせてやる。初めて見る小動物に、子ども達の目が釘付けに。
「それで、私達は何をすればいいの?」
「私達の一部がイ・ラプセルにおいて、事情を明かすことなく就職できる手引きをしていただきたいのです」
その要求にきゐこは首を傾げ、レネットのタネが分からない子ども達もフワフワ毛玉がどうやって現れたのかに疑問符。
「国民にはならないの?」
「なれません。私たちは、国という組織を信用できませんから」
「あら、私達の事は信用してくれるのね」
ほんのり嬉しそうなきゐこに女性はにこり。
「もし皆さんに話し合いの意思がないなら、今頃厨房に繋がる裏口から侵入して、ヴラ様に叩きのめされてるところですから」
(あっぶね!?)
その話を聞いて、ウェルスは肝を冷やした。当初の予定では二面展開し、正面と裏口から挟撃するように探索する予定だったから。そのまま行っていれば、彼女からの信頼を踏みにじった挙句、部隊の半分が撃破されていただろう。
「それで、今後の動き方ですが……」
具体的な方針を話し合い、女性に見送られて自由騎士達は引き上げていく。その帰り際に、アダムが振り返った。
「ヴラディオスさんにひとつ、お願いしたい事があるんだ。とても、とてもとてもとっても大事な事だ」
真剣な眼差しに、女性もまた表情を引き締めるのだが。
「僕の女装については、その、忘れてくれ。頼む、お願いします、どうかこの通り。誠心誠意頭を下げるからどうか」
ガバッと頭を下げる必死な姿に女性はクスクスと笑いながら。
「私はヴラ様ではありませんよ?」
「いや、気分的なものだよ。そのくらい大切なお願いなんだ……」
懇願するアダムに、女性はそっと目を細めて。
「イ・ラプセルの騎士が、皆あなたのような愛すべき道化者であれば……」
「何か?」
「いえ、何も。またお会いしましょう? 次はきちんとお茶を入れ、ヴラ様も説得してお茶菓子を用意させますから」
再会を約束し、自由騎士達は去っていく。その約束は、果たされないとは知らずに……。
「……というのが事前に拾えた情報だな」
『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)曰く、此度の現場となる館は随分前に放棄されたもので、実質記録には残っていない代物らしい。
「不動産屋がぼんやりでも覚えててくれてよかったぜ。一先ず、これで屋敷そのものは突然現れたお化け屋敷でもなければ、曰くつきの訳アリ物件でもねぇって事が確定した。ついでに言えばもう管理してる奴もいないはずだし、普通のならず者なら手入れするはずがねぇから、噂の通りなら、そこに誰か住んでる事になるってよ」
「という事は、ヴラディオスがおうちにしてる可能性が高くなった?」
「確かに。もし彼がイ・ラプセルの街の中に住んでいるのなら、吸血事件の起きない日にも目撃情報くらいは出てきそうだものね」
首を傾げる『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)に『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が頷いた。一度接触している彼女らにとって、吸血鬼には思うところがあるようだ。
「まぁ、現状だとヴラディオスかどうかだって怪しいし、まずは行ってみましょ?」
そう語る『翠氷の魔女』猪市 きゐこ(CL3000048)は、二人同様一度接触しているにもかかわらず、どこか楽し気ですらあった。そんな彼女の示す先には、うっそうとした森の奥深くに、場違いな屋敷が鎮座している。見た目こそ簡素だが、どこか人を寄せ付けない雰囲気を纏うそこは、砦にも似た気配を振りまいていて。
「じゃ、手筈通りに」
ひらりと手を振って、『フェイク・ニューフェイス』ライチ・リンドベリ(CL3000336)が部隊の半分を連れて屋敷の後ろへ向かっていくと『魔女狩りを狩る者』エル・エル(CL3000370)は静かに目を閉じて首を傾げた。
「何これ……不安?」
屋敷の壁を透過して、心の動きを感じ取ったエルは眉根を寄せる。
「それに若干の恐怖……なんでしょう、イメージしてたのと随分違うわね……まぁ、人数は相当みたいだけど」
「あっちも裏口の前についたみたいだぞ」
ウェルスがギアからの連絡を伝えると、カーミラが大きく息を吸った。
『私たちは自由騎士団だよ! この屋敷で人身売買がされてるって疑いが出たから調査に来たよ!!』
大気を震わす程の大声は衝撃による突風を生み、周囲を木々を揺らしながら窓ガラスに悲鳴を上げさせた。普段からうるせぇガキンチョが大声のスキルなんか使うんじゃねぇ!!
「……返事、ないね?」
「これはもしかしたら……」
アダムが生唾を飲み、緊張した面持ちで慎重にドアをノック。
「既に伝えさせてもらったけれど、僕たちは自由騎士団だ。どうだろう、少しお話させて欲しいのだけど……」
ドアから離れ、数秒後。
「……お待ちしておりました」
肌は透き通るほどに白く、瞳ばかりが真紅に輝く女性が『震えながら』姿を見せた。彼女の白銀の髪の合間から覗く折られた角から、鬼人だと見受けられる。
「あれ?」
カーミラは調子が悪いのかなーなんて思いながら裏口に向かった別動隊を呼び戻すが、彼女は知らない。屋敷の前で桁違いの大声なんか上げたから、屋敷の中の人達が物凄くビックリしてしまったという事を。その辺りをなんとなーく察したアダムはそっと花束を差し出して。
「気に入ってもらえるといいのだけれど……」
「これは?」
不思議そうな顔をして受け取る女性に、アダムは苦笑。
「そう珍しい物でもないだろうけど、気持ちの問題かな……先日は仲間を怪我無く返してくれてありがとう、という気持ちのさ」
首を傾げる女性に、アダムは思い出したように問う。
「ヴラディオスさんはご在宅ですか」
真っ直ぐに、女性の瞳を見つめて問えば、それまで穏やかだった彼女の気配がピンと張り詰めた。自分より遥かに背の高いアダムの目をジッと見返して。
「えぇ、ヴラ様なら厨房で足止めしております」
「厨房? 何かお料理でも……ヴラ様!?」
一瞬聞き流しそうになったが、随分と気の抜けた呼称にアダムが聞き返すと、ウェルスが彼の肩を叩いて「そこじゃねーだろ」って呆れかえった顔をする。
「足止めって事は、ヴラディオスの旦那は現在進行形でこっちに向かおうとしてるって事か?」
「いえ。ですが、ヴラ様は皆様を敵と認識していらっしゃいます。同じ席に着かれては会話もままならないと判断し、誠に勝手ながら、厨房に押し込んで見張りを付けさせていただきました」
(厨房に押し込んで見張り……?)
恭しく一礼する女性の姿からして、恐らく嘘ではないのだろう。だが、だからこそ一度ヴラディオスと拳を交えたカーミラには信じられなかった。
(あの吸血鬼を押さえこめる人がいるの……?)
「立ち話もなんですから、中へどうぞ。部屋をご用意させて頂いております」
カーミラが警戒心を高め、それに気づいたように彼女を一瞥した女性は自由騎士達を屋敷へ招き入れた……。
●お前ら探索能力高め過ぎィ!
(不安な感情ばかりね……さっきまでは恐怖も混じってた事を考えると、少なくとも私たちが現時点では危険な存在じゃないって事は伝わったのかしら?)
屋敷の住人たちの心を探るエルは、彼らの胸中の中から負の感情を掬い取り、その濃度を見やり心の在り様を推測する。
(ちょっと……数多くない?)
周囲の熱を感知できる『はず』のライチなのだが、その熱源こと生き物の体温が周囲一帯に張り巡らされておりわけが分からない事になっていた……つまり、女性に導かれている間、その通り過ぎる扉という扉の向こうに張り付いて、こちらを見ている者がいるらしい。
(まぁ、ドアの隙間からこっち見てるから分かるし、私には全部聞こえてるんだけど……)
聴覚を強化しているライチには、ドアの向こうの子ども達がこそこそと話す会話がきっちり聞こえている。珍しい客人に対する興味も、謎の集団に対する恐怖も、いつでも襲いかかれるという奇襲作戦も。
(これ、あんまり歓迎されてないよね……)
(当たり前でしょう。こっちは突然現れた部外者なのよ?)
苦笑するライチとツンとしたエルは視線だけで会話すると前に向き直る。ライチがそのまま視線を窓に滑らせると、三本の角を生やした貴族調の服の自由騎士が窓の下からひらりと手を振り、その上からは金色の髪と色彩豊かなポンチョを揺らす自由騎士がぷらーり。
「? 今なにか気配が……」
先頭を行く女性が外を見やると、サッと隠れる二人。
「気のせいでしょうか……」
女性は再び歩き出す。なお、実は屋敷の入り口にもライオンみたいな頭した機人がスタンバってるのは秘密だ!
「綺麗にお掃除されていますね」
レネット・フィオーレ(CL3000335)は廊下の隅や窓枠に埃がない事を見止め、何気なく語りかけた。
「えぇ、皆手伝ってくれますから」
「いい子達なんですね」
どこか柔らかい声音に釣られてレネットも微笑むと、女性がふと振り返り。
「一応、子どもばかりではないのですよ? 成人組は成人組できちんと仕事をしています。そうでなくては生活が成り立ちませんから」
「えっ!?」
つい声を上げてしまうレネットに女性はくすくすと楽しそうに笑った。
「とはいえ、皆さんの目に着くのはほんの少数で、基本的には狩や採集で食料を集めたり、獲った物を売ったり、畑の世話をしたりして人目につかずに過ごす者がほとんどですけどね」
(レネットの嬢ちゃんが策士なのか、それともあまりにも天然すぎて口が滑ってるのか……)
女生との会話から、屋敷の住人が大人から子どもまでいる事、大人は一部とはいえ、町に出入りしている事を聞きだしたレネットの会話術(?)にウェルスが複雑な顔をした。
「着きました。お出しする程のお茶もございませんが、どうぞお入りください」
女性が足を止め、自由騎士達に扉を開く。そこには長いテーブルと整列した椅子があり、食堂のような部屋であることが見受けられた。
●吸血鬼、正体見れば、枯れ柳
「単刀直入に聞くわ」
席に着き、真っ先に口を開いたのはエルだった。
「あなた達どこから来たの? 昔からここにいるってわけじゃないわよね?」
どこか威圧的なエルの視線に怯みもせず、女性は一つため息をつくと口を開く。
「私達は流浪の民……と言えば聞こえはいいですが、元は奴隷や商品として売買されていた者の集まりです。どこへ行こうと我々は人としての扱いを受けず、どこへだろうと身を寄せる事はできませんでした」
「ふぅん……それで、ここに隠れて住んでたってわけね」
エルは急に興味をなくしたようにそれまでの攻撃的な視線を外し、頬杖をついて脱力する。
「じゃあなんでその隠れ家を見つけた男を逃がしたりしたのよ?」
「見つかった以上、この場所の事は露見するでしょう。それこそ彼を始末すれば済む話でしたが、私達はノウブルと同じ事をしたくなかったのです。それに、彼を逃がしたことでここがお化け屋敷だと噂が広まれば、誰も近づかないと思ったのです」
「ふむ……噂ですか」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)はこの話を聞いて、今回の一件の流れに見当がついたようだ。
「つまり、この屋敷が発見された事を逆手に取り、彼をあえて取り逃がす事でここが危険な場所だと知らしめて、人々を遠ざける事で安寧を守ろうとしていた、と?」
女性が頷き、ライチは首を捻る。
「そんな簡単に上手くいくものなの?」
「噂ほど無責任なものもありませんからね。その時の男性はさぞ恐怖していた事でしょう。であれば、実際に見聞きしたモノに加えて、自分の想像が入り交じる事になります。そしてその手の話は人々の間で伝播していくうちに、少しずつ変容して、気づいた時には元の話とは全くの別物になってしまうんです」
そこまで語り、マリアは窓の向こうに立ち並ぶ木々を見やる。
「そうでなくても、この辺りは狩人ですら迷うほど入り組んでいます。私たちはヨアヒムさんが噂話をまとめて作ってくださった正確な地図があるからここまで来れましたが、一般の方はおろか、例え騎士であったとしても、人海戦術でも用いない限りはそうそうたどり着けません」
「それで噂は目撃談と一緒に自然消滅しておしまいってことね」
合点がいったらしいライチだが、マリアは首を振る。
「そうはいきません……私たちが来てしまったから。そうですよね?」
マリアの確認に、女性は頷く。
「ですが、これは同時にいい機会なのかもしれない、そう判断して皆さまをここまでお通ししました」
などと真面目な場面なのだが、話に飽きたカーミラが周りをうろうろ。そうね、アンタヴラディオス殴る気満々だったものね。
「機会? 何かするつもりなの?」
きゐこが不思議そうな顔を……ローブで見えない? その話は後にしてくれ。取りあえず女性が頷き、カーミラは不意打ちで扉を開けて、聞き耳を立てていた子ども達を発見。
「もう我々は……というかヴラ様は限界なのです。ヴラ様は元々、どこの国にも属さず、何事にも興味を向けず、静かに旅をする一族だったと聞いております。しかし、奴隷や商品として取引され、物として扱われる我々を見て、一族を抜けて単身商人たちに戦いを挑み、傷つきながらも我々を解放してくださいました」
「あら、じゃあ彼はあなた達を保護している、という認識でいいのね?」
きゐこの問いにはどこか嬉しそうに頷く女性だったが、彼女の表情はフッと影を落とす。ついでにカーミラは拳を構えて腰を落とす。
「けれど、こんな場所に隠れて住んでいる以上、生活はギリギリでした。それでも連れ出してしまった人達に苦労はさせたくないと、あの方は朝から晩まで働き、ほとんど食事も睡眠もとっておりません。そのせいで体に残った傷跡もほとんど癒えぬままなのです」
「何という心意気……しかし、何故吸血を?」
アダムはヴラディオスが何らかのスキルの行使の為に吸血しているのだと読んでいた。しかし、戦闘では攻撃せず、体が傷だらけという事は回復もしていない。これはどういうことか? そしてカーミラは子ども達の前で拳闘の演武を始めたとはどういうことか? おいライチ、折角だからと持ってきた果物を配るんじゃない、ここは演武を見せる劇場じゃないぞ!
「民間療法、と言えばよいのでしょうか? 人の生き血をすすると活力が湧くことから、ヴラ様の一族は人から血を吸う事で生命力を分けてもらえると信じていたようです。しかし実際は活力はわけど生命力は得られず、見切りをつけようとしたところで、あなた方にみつかったのだとか」
吸血事件の真相に拍子抜けしたアダム、細く長い吐息と共に残身を取るカーミラ。子ども達からのささやかな拍手を受け取っていると今度はレネットが子ども達の前で虚空を撫でて、まるで「ここに鍋があります」と言わんばかりのパントマイムを始めた。
●まさかの無事に事なきを得る
「今までの話は分かった」
実際には、ノウブルに何をされたのか、奴隷という商品ではなく、奴隷『や』商品という表現、などなど、気になる点はあるが、ウェルスは話を進める。
「それで、いい機会ってのはどういうことだ?」
「……イ・ラプセルに身を寄せたいのです」
彼女にとっても大きな覚悟をした一件なのだろう。やや間があって、返事があった。
「今の生活を続ければ、いつかヴラ様は倒れ、我々は全滅するでしょう。そうなる前に、生活基盤を整えたいのです」
「やればいい……といいたいところだが、そう簡単にはいかないな?」
何かを察したウェルスに、女性は頷く。
「私達はどの国家であろうと蔑まれ、虐げられてきました。子ども達ですら、外部の者には不信感を抱いています。ヴラ様に至っては、誰一人として信用できない程に……」
「その子ども達は皆同じような服を着ていますが、もしやパノプティコンから?」
レネットの「ここにお薬を一つ、二つ、三つ」の動きから目を逸らせず、ついでに自分が
仏頂面という自覚がある故に子ども達は見れないというマリアが尋ねるも女性は否定する。
「あれはただ単にヴラ様が作りやすいからだそうです」
「作ってるんですか!?」
「できました~!」
驚くマリアの傍ら、レネットは子ども向けに脱力した声音で語りながら、ありもしない鍋から全身ふわふわの毛玉のような子犬を呼び出すと、子ども達に抱かせてやる。初めて見る小動物に、子ども達の目が釘付けに。
「それで、私達は何をすればいいの?」
「私達の一部がイ・ラプセルにおいて、事情を明かすことなく就職できる手引きをしていただきたいのです」
その要求にきゐこは首を傾げ、レネットのタネが分からない子ども達もフワフワ毛玉がどうやって現れたのかに疑問符。
「国民にはならないの?」
「なれません。私たちは、国という組織を信用できませんから」
「あら、私達の事は信用してくれるのね」
ほんのり嬉しそうなきゐこに女性はにこり。
「もし皆さんに話し合いの意思がないなら、今頃厨房に繋がる裏口から侵入して、ヴラ様に叩きのめされてるところですから」
(あっぶね!?)
その話を聞いて、ウェルスは肝を冷やした。当初の予定では二面展開し、正面と裏口から挟撃するように探索する予定だったから。そのまま行っていれば、彼女からの信頼を踏みにじった挙句、部隊の半分が撃破されていただろう。
「それで、今後の動き方ですが……」
具体的な方針を話し合い、女性に見送られて自由騎士達は引き上げていく。その帰り際に、アダムが振り返った。
「ヴラディオスさんにひとつ、お願いしたい事があるんだ。とても、とてもとてもとっても大事な事だ」
真剣な眼差しに、女性もまた表情を引き締めるのだが。
「僕の女装については、その、忘れてくれ。頼む、お願いします、どうかこの通り。誠心誠意頭を下げるからどうか」
ガバッと頭を下げる必死な姿に女性はクスクスと笑いながら。
「私はヴラ様ではありませんよ?」
「いや、気分的なものだよ。そのくらい大切なお願いなんだ……」
懇願するアダムに、女性はそっと目を細めて。
「イ・ラプセルの騎士が、皆あなたのような愛すべき道化者であれば……」
「何か?」
「いえ、何も。またお会いしましょう? 次はきちんとお茶を入れ、ヴラ様も説得してお茶菓子を用意させますから」
再会を約束し、自由騎士達は去っていく。その約束は、果たされないとは知らずに……。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
「隊長、部隊の編制、完了しました」
とある騎士の報告に、秘密裏に集めた騎士をまとめる長は頷いて。
「装備を整えるのにどれだけかかる?」
「二週間ほどかと」
噂は人伝いに変化する。行き場の無い者達を連れた吸血鬼は、国民を喰らう怪物として騎士達の耳に届いていた。
「配備が完了次第奴らを皆殺しにする。怪物に死を、国民に安寧を!」
「はっ!!」
正義の騎士は動き出す。怪物に化けた噂に踊らされて……
とある騎士の報告に、秘密裏に集めた騎士をまとめる長は頷いて。
「装備を整えるのにどれだけかかる?」
「二週間ほどかと」
噂は人伝いに変化する。行き場の無い者達を連れた吸血鬼は、国民を喰らう怪物として騎士達の耳に届いていた。
「配備が完了次第奴らを皆殺しにする。怪物に死を、国民に安寧を!」
「はっ!!」
正義の騎士は動き出す。怪物に化けた噂に踊らされて……
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