MagiaSteam
【魔女と魔弾】巨人進撃。或いは、都市破壊計画。



●魔女の指揮する歪な巨人
 荒野の一角にそれは突然現れた。
 乾いた大地に四肢を突き、這いつくばるような姿勢を保つ歪な人型。
 短い脚に、長い腕。
 左右の腕に埋め込まれたガラス管には、銀に輝く液体金属が充ちている。
 太ましい胴体の上に乗る小さな頭部。
 頭の真ん中には、瞳のように1つの赤い結晶が埋め込まれていた。
 立ち上がれば、全高はおよそ10メートルほどになるだろうか。
 肩には都合6つの砲台が並び、背中は分厚いガラスに覆われていた。
 ガラスの中には人影が2つ。
 分厚いガラス越し故、少々歪に見えるが、どうやらテーブルを挟んで茶会などを催しているようだ。
「さて、後どれぐらいで着くかな? 君のおかげでなかなか協力な兵器に完成したとは思うのだが……少々鈍いのが難点だ」
 と、青いレンズのゴーグルを付けた小柄な女性……ヘクセンが問う。
 青い髪に白い肌、薄紫の紅を塗った唇をにぃと吊り上げヘクセンは笑った。
 纏う白衣から覗く腕には、蛇と稲妻を模した入れ墨。ヘクセンの機嫌に反応し、淡く点滅を繰り返す。
 向かいに座る白髪の女性……名をウィッカと言う……が、暫し思案し答えを返す。
 ウィッカは白い肌と赤い目、長い白髪のひどく美しい女性であった。
 額には溶接工の付けるようなゴーグル。首に巻かれた革のチョーカー。
 白いシャツにベストを着用した執事のような服装である。
「液体金属……アルケメタルの鎧を着こんでいるからね。この速度なら半日かしらん? 精度はともかく、射程に入れるだけなら1時間もあれば十分ね」
 彼女たちの口ぶりから察するに、どうやらこの歪な巨人……ウィッカの作った人工精霊が、液体金属の外装を纏ったものである……は、何処かへ向かっているらしい。
「では、始めよう」
 ヘクセンは告げる。
「世界に少しの変化を与える実験を」
 と、ウィッカは返しクスリと笑んだ。

●作戦会議
「さて、今回は巨人の討伐任務だ。と、言っても人工的に作られた巨大な精霊なんだけどな」
 壁に貼られたの地図、その1点を指さして『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は告げる。
 指し示された地点には、荒野の真ん中に立つ城塞都市があった。
「どうやら連中、作り上げた人工精霊を使って城塞都市を落とすつもりらしい」
 都市の周囲は、ぐるりと背の高い石壁で囲われている。
 なるほど、巨人の肩に接合された砲台は石壁を破壊するためのものなのだろう。
「人工精霊を操っているのは、ヘクセンとウィッカという名の姉妹だ。ヘクセンは【バーン】【フリーズ】の状態異常が付与された魔弾を撃つ能力を、ウィッカは薬品を作製する技術を持っている。人工精霊が着こんでいる外装がそれだな」
 液体金属、アルケメタルとウィッカが呼ぶものだ。
 装着者やウィッカの意思で形を変えるウィッカの発明品である。
「人工精霊の機能か動きを止めて、2人を捕縛してほしいんだが……」
 苦い笑みを浮かべて、ヨアヒムは視線をさまよわせる。
「人工精霊の動きは鈍い。接近は容易だろうぜ。ただ、装甲の厚さがな」
 そもそも身に纏っている液体金属……アルケメタルの外装が厚い。
 また、アルケメタルは自動で形状を変化させる特性がある。
 両腕にもストックが詰まっているので、多少削ったところですぐに修復されてしまうだろう。
「肩に担いだ砲台には、ヘクセンの魔弾を強化して射出する機能があるようだ。それと、2人が搭乗している部分を覆う分厚いガラスだが、ヘクセンの魔弾だけは内から外へ通すようだ」
 つまり、こちらからの攻撃はガラスを破壊せねば届かない。
 だが、ヘクセンは安全な位置からガラスに張り付くこちらを攻撃できるということだ。
「ウィッカも自衛手段のとして、爆発する薬液を所持しているらしい。接近できたからといって油断は禁物だぜ」
 人工精霊とヘクセン&ウィッカの攻撃を掻い潜りつつ停止させる。
 単純といえば単純な話だ。
 けれど……。
「とにかく頑丈なのがな……くれぐれも無理はしないように、だが確実に止めてくれ」
 と、そう言って。
 ヨアヒムは仲間たちを送り出す。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
病み月
■成功条件
1.ヘクセン&ウィッカの捕縛
2.人工精霊・タイタンの破壊
●ターゲット
ヘクセン(ノウブル)×1
青いレンズのゴーグルを付けた小柄な女性。
青い髪に白い肌、薄紫の紅を塗った唇。
白いコートを着用している。
右腕に刻まれた蛇と稲妻の入れ墨を介して、魔弾という魔力の弾丸を放つ技能を持つ。
ウィッカの作製した人工精霊とアルケメタルの武装でとある城塞都市を陥落させようと目論んでいる。
※拙作『【魔弾】射手ヘクセン。或いは、捕らわれの妹を追って 』に出たヘクセンと同じ人物です。前作を知らずとも、問題ありません。

・カスパール[攻撃] A:魔遠単【バーン2】
炎の性質を持つ赤い魔弾。

・ザミエル[攻撃] A:魔遠単【フリーズ2】
氷の性質を持つ青い魔弾。

ウィッカ(ノウブル)×1
魔女を名乗る白髪赤目、白い肌の女性。
男性的な服装をしており、腰には各種薬液の詰まった試験管を下げている。
人工精霊と液体金属・アルケメタルを作製しとある城塞都市を陥落させようと目論んでいる。
彼女の目的は、自身の発明品で「世界に少しの変化を与えること」らしいが……。
※拙作『魔女ウィッカの企み。或いは、薬と罠のカーニバル…』に出たウィッカと同じ人物です。前作を知らずとも、問題ありません。

・モーガン[攻撃] A:魔遠範[バーン2]
黒色の液体を散布する。
空気に触れるなり発火し、周囲に熱と火炎をまき散らす薬液であり威力が高い。


タイタン(人工精霊)×1
ウィッカの作製した人工精霊。
ウィッカの発明品、アルケメタルの装甲を纏っている。
両腕にはアルケメタルの予備の満ちたガラス管が設置されている。
背中には巨大なガラスのカバー。その中にヘクセンとウィッカが搭乗している。
肩には都合6つの砲台が並んでいる。
砲台からはヘクセンの魔弾を強化して放つことが可能。
砲台を1つにまとめることで、現在位置からでも2割ほどの命中率で城塞都市を砲撃可能。
立てば全長10メートルほど。四つん這いの姿勢で移動している。
砲台の使用には10秒のインターバルが必要。

・カスパール・改[攻撃] A:魔遠範【フリーズ2】
周囲に炎の魔弾を拡散する。

・ザミエル・改 [攻撃] A:魔遠貫【フリーズ2】
威力と貫通力を上げた氷の魔弾を射出する。


●場所
とある荒野の真ん中。
しばらく進んだ先には城塞都市がある。
荒野には視界を遮るものは存在せず、ヘクセンたちとの遭遇は容易。
一方でこちらも隠れる場所がないので注意が必要。
タイタンの攻撃で地面にクレーターができれば、それを利用し身を隠すことも可能かもしれない。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/8
公開日
2020年05月28日

†メイン参加者 4人†




 荒野を進む巨人の影。
 その背を覆うガラスの覆い。巨人……タイタンの背に設けられたスペースでは、2人の女性が優雅に茶会など催している。
 女性……青い髪の女性の名はヘクセン。もう1人、白い髪の女性の名はウィッカという。
 2人……魔女と魔弾使いの姉妹である……と巨人の向かう先には、とある城塞都市。
 ウィッカの作ったタイタンには、ヘクセンの魔弾を強化して放つ砲台が取り付けられている。それを持ってして、城塞都市を陥落させるのが2人の目的だ。
 ウィッカ曰く、それは〝世界に少しの変化を与えること〟なのだという。
 そんな2人とタイタンの進行方向には、4人の人影。
「あら? 人影?」
「どうやらワタシたちに用事があるようだね」
「えぇ、見覚えのある顔ね」
 と、ウィッカは口角を吊り上げる。
「……やぁ、やっと来たか。なんだ、茶会かい? 暫くは優雅にお茶なんて飲んで居られなくなるだろうから、今の内に楽しむといい」
 小柄な人影……『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はそう囁いた。
 その声は、タイタンの背に乗るウィッカとヘクセンには届かなかった。けれど、その唇を読んでヘクセンは眉間に皺を寄せる。
 額に付けたゴーグルを下ろし、目を覆う。
「丁度いい。まずは彼女ら相手に試射と行こう」
 なんて、言って。
 ウィッカに指示し、タイタンの砲台を4人に向けた。

「そうはさせない」
 と、そう言ってマグノリアはタイタンへ向け手を翳す。
 タイタンの身体に纏わりつくマグノリアの魔力。付与されたのは劣化の概念。
 機能の低下したタイタンの射線から、4人は素早く退避する。
 砲口が赤く輝く、放たれたのは冷気を纏めた青い魔弾。ヘクセンのスキルを強化したものだ。氷の破片をばらまきながら、青い魔弾が疾駆する。
 着弾と共にまき散らされる冷気を浴びて、薄紫髪の少年……セーイ・キャトル(CL3000639)が苦悶の表情を浮かべる。
 半身を凍り付かせたセーイの背後には、セアラ・ラングフォード(CL3000634)の姿があった。その身は、セーイのスキル【アステリズム】の魔力壁に覆われている。
 セアラを守るために、セーイは回避行動を後回しにしたのだろう。
「助かりました、セーイさん。今回は回復専業ですからね、すぐに治療いたします! ですので、護衛は……」
「はい! 俺がずっとセアラさんを守ります!」
 セアラの展開した魔法陣から、淡い燐光を孕んだ微風が拡散された。
 暖かな光が、仲間たちの身体を包む。
その光の名は【ノートルダムの息吹】。多少の傷なら、しばらくの間これで自動回復が可能となった。回復に専念するセアラを守護するために、セーイはセアラのカバーに回る。
 冷気が掻き消え、クリアになった2人の傍に、すでにマグノリアと『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はいない。
「おや? 消し飛んだ……訳ではないよね?」
 困惑の声をあげるヘクセン。一方、ウィッカは焦った顔でヘクセンの肩を激しく叩く。
「お姉ちゃん、下! 下だわ!」

 タイタンを操作するウィッカには、その視界が共有されているのだろう。
「人工精霊タイタンか。大きいわね……」
 赤い髪を靡かせながら、エルシーはタイタンの懐へと潜り込む。腰を沈め、拳を握った。
 すぅ、と冷えた空気を吸い込んで……。
 雄叫びと共に、地面に突かれたその腕……腕に取り付けられたガラス管へと、渾身の殴打を叩き込む。
 

 長い桃色の髪を靡かせながら、マグノリアが荒野を駆ける。
 道中、生み出したホムンクルスを傍らに侍らせ、その手の中で聖遺物を回転させた。
「僕じゃあ心許ないかも知れないが、前衛に出るよ」
 幸いなことに、タイタンやウィッカ&ヘクセンの注意は既に懐に潜り込んでいるエルシーへと向いていた。
 その分、エルシーはタイタンの攻撃を避けるのに精一杯で、思うように攻勢に移れてはいないようだ。
 近接戦闘を得意とするエルシーが攻めあぐねるのは珍しい。
 そう思ったマグノリアは、タイタンへ向けて手を翳す。
 放たれたのは、錬金術によって作られた強毒を含む炸薬だ。
「さて……有用だといいのだけれど」
 禍々しい色合いをした、炸薬の球が空を疾る。
 パチャン、と。
 タイタンの巨体に比べれば、ごく少量の炸薬液がタイタンの目の前で破裂した。

 色白い手で両目を覆い、ウィッカが苦悶の呻きを零す。
「うぁぁ……目が!? いきなり何かが目の前で爆発したわぁ!?」
 床に倒れ込み、もがき苦しむウィッカを横目に、ヘクセンは小さな舌打ちを零す。
 マグノリアの放った炸薬は、タイタンの頭部……赤い石に着弾し、爆ぜた。どうやらその石から見える光景は、ウィッカの視界と同調していたようだ。
 閃光に目を焼かれたウィッカは、おかげでこうしてもがき苦しむ羽目になっている。
「それなら、これで……」
 右腕に魔力を通しながら、ヘクセンはそう呟いた。
 直後、ヘクセンが魔弾を放つとともに、タイタンの砲台からは無数の炎弾が放たれた。
 
 周囲に飛び散る炎弾が、荒野に業火の柱をあげる。
 肌を焼かれたエルシーが、悲鳴と共にタイタンの懐から離脱。
 タイタンとの接近戦の結果か、エルシーの額からは血が流れている。
「もうちょっとでガラス管を破壊できそうだったのに……背中の2人が厄介かしら?」 
 顔を濡らす血を乱暴に拭い、エルシーは視線をタイタンの背へと向ける。
 炎弾を撃った反動か、現在タイタンはその動きを止めている。
 肩に備えられた砲台から煙を上げているところみるに、冷却時間といったところか。
「それなら、優雅にお茶飲んでる2人をぶちのめすわ」
 タイタンの体に視線を走らせ、背へと至る最短ルートを模索する。
 背へと辿り着いても、分厚いガラスに阻まれているが、それは殴り割れば良いのだ。
 拳を数度開閉させて、エルシーはくるりと踵を返す。
 タイタン目掛け駆けるエルシーの全身を、淡い光が追いかけた。

 時間は少し巻き戻る。
 血混じりの唾を吐き捨てて、セーイは視線を背後へ向けた。周囲には、炎弾が着弾したことで出来たクレーターが幾つか。
「セアラさん、無事ですか?」
「えぇ、おかげさまで」
 セーイの【未来視】による回避指示を受け、セアラは炎弾を浴びずに済んだ。
 直撃コースだった数発は、セーイがその身を挺して庇っている。全身に負った火傷が、セーイの体にじくじくとした痛みを与えた。
 痛みを堪え、セーイはセアラへ視線を向ける。
 少し前にセーイが張り直した障壁もまだ健在だ。
「それなら、俺はタイタンの額の赤い宝石の破壊を狙います!」
 そう言ってセーイは、空中に赤いマナで文字を刻んだ。
 それは、別れを意味する古代文字。
 まるで転写されるみたいに、タイタンの頭部に文字が描かれる。
「赤い宝石の正体は分からないけど、きっと何か意味があるはず!」
 破壊すれば、仲間たちの助けになるかもしれない、と。
 そう判断し、セーイは文字を書き終えた。
 タイタンの頭部が、再び業火に包まれる。
 
 地面に空いたクレーターへと、セアラは素早く跳び込んだ。
 胸の前で手を組んで、セアラは静かに目を閉じる。
 先ほどの攻撃で、大きなダメージを負ったのはセーイとエルシーの2人。とくにセーイは【バーン】の状態異常に陥っている。
 2人の位置を把握し、セーイは無形の魔力により魔法陣を展開。
 立ち上る燐光が、周囲へと散った。
 淡い燐光が仲間たちの傷と、状態異常を癒していく。
 無事に治療が終えたことを確認し、セアラは安堵の吐息を零した。
「長期戦になりそうですからMPは節約したいのですけれど……倒れては意味がありませんから」
 そ、っと穴の縁から顔を覗かせ、戦場の様子へ視線を送る。
「ぁぁぁああああああああああっ!!」
 直後聞こえる、空気を震わす大音声。
 視線の先では、タイタンの背に駆け上ったエルシーが、ガラス壁へ向け拳を叩きつけていた。

 ガラス壁が激しく揺れる。
 咆哮が、ガラスを細かく震わせた。
 力を1点に集中させたエルシーの殴打。
 ガラス壁に、ビシリと小さなヒビが走る。
加えてその衝撃は、ガラス壁を貫通し内部に乗ったウィッカとヘクセンを襲った。
「な、なに……!?」
 目を押さえたヘクセンが、突然のダメージに驚愕の声を零した。
 舌打ちを零し、ヘクセンは頭上へと腕を掲げる。
 その右腕に刻まれた蛇と稲妻のタトゥーが青く光った。
 充填される魔力。指先に形成される青い魔弾。
 放たれた氷の魔弾が、ガラス壁を突き抜けエルシーの腹部を穿つ。
「く……ふっ」
 衝撃にエルシーの身体が浮いた。
「腕を頭上へあげなさい」
 と、ヘクセンからウィッカへと指示が飛ぶ。
 未だ視界が回復しないウィッカであるが、ヘクセンの指示に素早く反応し、タイタンの腕を頭上へと突き上げさせる。
 空中に浮いたエルシーの身体を、アルケメタルの鎧に覆われた太い腕が打ち据えた。
 ミシ、と骨の軋む音。
 血を吐きながら、地面へ落ちるエルシーの身体。
 けれど……。
「や、やってやったわ。液体金属に覆われていないガラス壁部分なら、割れない強度じゃなさそうね……」
 血の滲む腹部を押さえながら、エルシーはよろりと立ち上がる。

「ガラス壁に……ヒビ? いや、今はそれよりも……皆さん、後退してください!」
 セーイの声は【テレパス】によって即座に仲間たちへと届けられた。
 その声に反応し、マグノリアとセアラは地面に空いたクレーターへと跳び込んだ。
 即座に回避に移れなかったのは、たった今タイタンの攻撃を受けたばかりのエルシーだ。
「い、今の位置取りなら皆を巻き込むことはないはず……!」
 セーイの脳裏によぎるビジョンは、下記のようなものだった。
 揺れる大地。
 タイタンを中心にまき散らされる無数の炎弾。
 炎に飲まれるエルシーの姿。
 大きなダメージを負った今のエルシーが、炎弾の直撃に耐えきれるだろうか。
「間に……あえっ!」
 吹き荒れる白き風のマナ。
 タイタンの身体を中心に展開される、強烈な電磁場。
 アルケメタルに覆われたタイタンの体表で、バチバチと小さな火花が爆ぜる。
 重力に押しつぶされるように、タイタンの巨体が僅かに地面に沈み込む。

 拡散される炎弾は、重力に引かれ思ったよりも飛距離が伸びない。
 結果、タイタンの周辺で無数の火柱があがり、クレーターが量産される。
 そのうち1発が、エルシーのすぐ傍に着弾した。
 吹き荒れる熱波を孕んだ土煙。
「や、やったのかしらん?」
 視界の回復したウィッカが、土埃の中に目を凝らす。
 タイタンの頭部に埋め込まれた赤い宝石が、ぼんやりとした光を放つ。
 果たして……。
「えほっ……助かったわ、マグノリア」
 土埃を突き破り、エルシーが姿を現した。
 赤い髪が熱風に靡く。
 焦げた頬を乱暴に拭い、タイタンへ向けて駆け出した。
 そんなエルシーの背後には、黒焦げになったホムンクルスが転がっていた。

 炎弾が放たれた瞬間、マグノリアはホムンクルスを走らせた。
 逃げ遅れたエルシーの守護を任せるためである。
 かくして、ホムンクルスは見事その役目を果たしてみせた。炎弾の射線上に身を晒し、エルシーを火炎と熱から守り通した。
 作られたものとはいえ、その命を犠牲にして。
「僕等と城塞都市を其の命を賭してでも守り切れ……と、そう命令したからね」
 よくやったよ、と。
 炭となって崩れ去るホムンクルスへ、マグノリアはねぎらいの言葉を投げかけた。
 そして、冷たい眼差しをタイタンへと向ける。
 攻撃直後の硬直状態にあるタイタン。隙を最低限に抑えるためか、その身を覆うアルケメタルの鎧は、一層分厚くなっているように見える。
「だけど、それじゃあ素早くは動けないだろう? 好都合だ」
 と、そう呟いてクレーターから跳び出した。
 土埃に紛れるようにして、一気にタイタンとの距離を詰める。
 タイタンの腕を駆け上がっていくエルシーを一瞥し、マグノリアはその懐へと潜り込んだ。
「アルケメタルと人工精霊は、別々に運用した方が役に立つと思うけど……」
 鎧のせいで視界が狭い、と。
 タイタンの首に狙いを付けて、魔力を込めた掌打を放った。

 いかなる防御も無効にしてダメージを与えるマグノリアの掌底がタイタンの巨体を震わせた。
 アルケメタルの鎧を突き抜け、その首に大きなダメージを与える。アルケメタルの外装も一部が砕け剥がれ落ちた。
 即座に両腕に搭載されているガラス管が音を立てて軌道。満たされている液体金属を、外装の薄くなった箇所へと送り込んだ。
 けれど、アルケメタルでは補填できないパーツもある。
 タイタンのメインカメラとして取り付けられていた頭部の赤い宝石だ。
「なんて強度……実際、アルケメタルとか人工精霊とか戦争に使えれば色々役に立つかもしれませんね」
 遠くからその光景を見ていたセアラは、クレーターから這い出しながら感心したような吐息を零した。
 マグノリア渾身の一撃を受けてなお、見かけ上はタイタンに大きな変化はないのである。
 事実、ダメージこそ受けたもののまだ活動を続けているのがその証拠。人工精霊とは、もしかすると痛みなどを感じにくいのかもしれない。
「いえ、それより今は自分の役割を果たさなければ」
 聖遺物を胸の前に構え、セアラは無言の祈りを捧げる。
 展開された魔法陣から淡い燐光が溢れ出し、傷ついた仲間たちの傷を癒した。


 砕けた宝石の欠片を手に取って、マグノリアはタイタンの間近から離脱する。
 一見して宝石からは魔力の残滓など感じられない。だが、ウィッカの視界とタイタンの視界をリンクさせていたのは確かにこの宝石なのだ。
 これまでの戦闘中、タイタンの頭部付近にダメージを入れるとタイタンの動きは精細さを欠いたことからも、マグノリアの予想はおそらく当たっているだろう。
「彼女等を捕縛したら……其の基本材料と生成期間、其れから予算がどれだけ掛かるかも聞いて置かないとね。だけど、まずは」
 タイタンの背へ向け、マグノリアは【ティンクトラの雫】を放つ。
 爆炎の吹き荒れる中であれば、エルシーも多少は動きやすくなるだろう。

 タイタンの背に駆け上がり、エルシーは固く拳を握った。
 その拳をガラス管へ叩きつけるべく、腰を大きく後ろへ捻る。
 そうはさせじとガラス管の内部から、ヘクセンの魔弾が放たれた。
「……っ!? さすがに隙が」
 位置が悪いわ、と舌打ちを零すエルシー。
 そんな彼女の脳裏に、セーイの声が響き渡った。
(エルシーさん。ガラス壁が硬いなら、もっと硬くすれば壊れ易くなると思う!)
「……問題はそれだけじゃないけど……いえ、もしかしたら、いけるかも?」
 何かを思いついたのか。
 ガラス管を凍らせるよう、エルシーはセーイへ指示を出す。
 直後、放たれたセーイの青い魔弾が、ガラス管を凍らせた。
「……はぁっ?」
 困惑の声を上げたのはヘクセンだった。
 彼女の放った青い魔弾は、セーイの氷に阻まれてエルシーのもとに届かなかった。
 ヘクセンは焦った視線をウィッカへ向ける。ウィッカも目を丸くして、ガラス壁を見つめていた。
「あ、もしかしてガラス壁じゃないから? お姉ちゃんの魔弾は、他人の魔力で構成された障壁なんかも貫通できないものねぇ?」
「つまり、一方的に攻撃できるという優位性は失われたわけね」
 加えて、タイタンの背に逃げ場などは存在しない。
 顔色を青ざめさせるヘクセンと、エルシーの視線が交差した。
 にぃ、と犬歯を剥き出しエルシーが笑う。
「もうすぐ私の拳が届くわ。直接殴って、捕縛してあげる!」
 力を1点に集中させたエルシーの殴打が、ガラス壁を打ち砕く。

 降り注ぐガラスの破片から、ウィッカとヘクセンは頭を抱えて逃げ惑う。
 ガラスの破片とともに着地したエルシーは、拳の2連撃でまずはウィッカの意識を奪った。ウィッカの意識が途切れると共に、タイタンもその動きを停止させる。
「くっ……ウィッカ!?」
 左腕で頭を庇いながら、ヘクセンは右腕を前に突き出す。
 狙う先にはエルシーの姿。
 けれど……。
「命だけはとらないからありがたく思いなさい」
 その肘に向けエルシーの拳が突き刺さる。
 骨の砕ける音がして、ヘクセンは泡を吹いて気絶した。

 捕縛されたウィッカとヘクセンの眼前に、セアラは静かに歩み出る。
「〝世界に少しの変化を与える〟とはどういうことですか?」
 それは、ウィッカが固執していた彼女の目的……あるいは、追い求めるべき理想ともいえるものだった。
 鼻と顎を赤く腫らしたウィッカは、くっくと笑ってセアラの顔をじっと見返す。
 それから……。
「湖面に小石を投げ込むと、その波紋は大きく広がる。ワタシたちはその一石……方法なんてどうでもいいけど、どうせなら派手でわかりやすい方がいいでしょう?」
 なんて、言って。
 それっきり、口を噤んで何の言葉も発さない。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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