MagiaSteam
誕生日くらい祝わせろ。




 この国の暦の読み方を教えてもらった。この島の春はとてもとても暖かい。夏の盛りみたいだ。
 今日は、俺がしくじって、ウチからヤマにではなく、ソトに出てしまった日だ。
 そこから自由騎士団の人と話すようになった冬までは、できればなかったことにしたい。
 いつかウチに帰りたい。
「シムルグくん、起きている? 今日は走ってみましょうか」
 看護師さんの他に、体の一部を失った人を鍛える人も来てくれるようになった。
 俺の回復具合も何か役に立つらしい。ただで世話してもらっているからそれぐらいは役に立たなくてはならない。
 このクニでは、風船で空を飛べるようになった。長く、たくさん、遠くまで飛べるようになったのだという。
 ビョウインの窓から、ほんの少しだけ見えたので教えてもらった。あれで、ヤマに行けるだろうか。
 俺が、俺の布で鳥になるのは、きっと世界の端っこのジダイオクレなことになるのだろうけど、でも、俺は自分で飛びたい。鳥になりたい。
 だから、そういう風になる。なります。
「あの。シムルグくん、今日は――」


「お誕生日だったんです」
 マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)が渋い顔だ。
「シムルグと呼ばれる少年のお誕生日だったんです!」
 シムルグと呼ばれる少年。
 昨年の秋にイ・ラプセルに漂着したノスフェラトゥの少年だ。他の種族だったら文字通り何度も死んでいる状態を乗り越え、この冬の間ずっと療養していたと聞いている。
「もう一般人レベルなら普通に生活できるくらい元気になったんですが。お誕生日だったのに、誰もそれに気が付かないまま日付が過ぎてしまったんです!」

 その日の朝。まだ間に合うと気が付いた看護師が彼にお誕生日についておずおずと聞くと――。
「母が命を懸けて俺を生――んだ日なので、母に感謝の祈りを捧げ――ました」
 と答えたという。

 異文化。子供を産んだ母親をほめたたえる日らしい。看護師は、母がどれだけ称えられるか、とうとうと話して聞かされたそうだ。
「わかります。そう言う考えもありです。それは尊重します。それはそれとして――イ・ラプセルの人間としては、年端もいかない坊やには生まれてくれてありがとうしてあげたいじゃありませんか」
 マリオーネさん的に、そういうのをきちんとしないと手がワキワキするらしい。結婚記念日を忘れると大変なことになったんだろう。今は確認するすべもないが。
 そろそろ、アカデミーの学生寮の一角に引っ越す算段は付いているそうだ。
「引っ越し前にお友達を作っておいてあげたいという気もあります。病院の会議室を借りてお茶と軽食の支度を整えましたので――」
 よろしかったら。と、プラロークは言う。
 彼の過ぎてしまったお誕生日ともうすぐそこに迫っている門出を祝ってやってくださいな。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常α
担当ST
田奈アガサ
■成功条件
1.誕生日を祝う。
2.自由騎士団入りを祝う。
3.シムルグと仲良くなる。
 田奈です。
 そろそろパジャマを卒業するシムルグ君(仮名)とおしゃべりしませんか。
 大分、神代共通語もうまくなったんですよ。

 シムルグ君については、「秋の浜辺ですることと言えば」から【漂流少年】シリーズに登場したノスフェラトゥの少年です。
 高々度単独滑空飛行が成人儀式なのですが、それに失敗したのが起因となって、色々あり、今、ここにいます。
 ノスフェラトゥに関しては、神様が300年前に居なくなった少数民族としか知られていません。
 その結論に到達するまで調べた過程が上記リプレイです。
 読まなくても、長期入院していた子の遅れたお誕生日祝い兼退院祝い兼自由騎士団入隊のお祝いで大丈夫です。が、読むと、仲間の奮闘具合が胸にしみます。ついでにシムルグ君の地雷を踏まなくて済みます。

*場所:国防騎士団附属病院・会議室。
 簡素な会議室。現状復帰するという条件付きで、飾り付けOKです。
 軽食とお菓子とお茶の用意はマリオーネさんが手配してます。
 もちろん、持ち込みも歓迎です。

 大体の事態は拾いますので、割とまじめなシムルグ君をドンびかせない程度にフレンドリーに接してやってください。
 この集まりには、マリオーネさんも参加します。マリオーネさんもいます。大事なことなので、2回言いました。
状態
完了
報酬マテリア
1個  0個  0個  0個
11モル 
参加費
50LP
相談日数
5日
参加人数
9/∞
公開日
2019年05月14日

†メイン参加者 9人†




 マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)の笑顔が若干いつもより柔らかい。
「イ・ラプセル様式のお誕生会、楽しんでもらえればいいのですけれど」
 乾いた日光の差し込む部屋は、『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)が作ってきた色紙の輪つなぎやティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が持ち込んだリボンや花で飾りつけされている。
 殺風景な病院の一室が少しだけにぎやかになるように。
 盛大に飾り付けたら、主賓の少年はお片付けの大変さを慮ってお祝いどころではなくなるだろう。
「マリオーネさんがあんなに大きな声を出すなんてはじめて見ました――マリオーネさんの事を1つ知れて面白いかなって思ったり」
 ティラミスの物言いに、まあ。と、未亡人は頬に手を当てた。
「私、記念日は大事にする性質ですのよ」
 うぅふぅふぅとマリオーネはゆっくりと笑う。
「さぁ折角の誕生日祝いだ、賑やかにいこうじゃないか」
 トミコ・マール(CL3000192)が素敵なケーキを焼き上げて、素晴らしいデコレーションに歓声が上がる。
 炊けた。と『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)が顔を出した。やり切った女の顔だ。
 テーブルには手作りのお菓子とオードブル。そろそろ主賓を呼ぼう。お誕生会の始まりだ。


 ノスフェラトゥの顔色の良しあしもちゃんとわかる。
 たとえるなら、冬の鉛色と、春の雲一つない快晴。晴れやかな表情は彼の回復ぶりを物語っていた。
「シムルグくん、お久しぶりや。だいぶ元気になったみたいで安心したわー」
 『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は相好を崩した。頬っぺたぷりぷりやー。
「お誕生日やったん? うちらとはお祝いの仕方が違うけど今日はシムルグくんが生まれたことをお祝いさせてな」
『お誕生日はお祝いさせてもらえなかった者は一年待たねばならないのです』
 と、そういうのはしたことがないと恐縮するシムルグをマリオーネが諭していたのは自由騎士の耳に入っている。
「それに自由騎士団に入ってくれるみたいやしそれも一緒にな」
 顔見知り以外の自由騎士も来てくれている。
「オマエ、シムルグと呼ぶ良イか。オレ、エイラ言ウ! ヨロシク! 元気なテるは良カった!」
 『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)があの秋の海でシムルグを見つけたのだ。マリオーネからすでに聞かされていたシムルグは感謝を示した。
「ありがとう。あなたが見つけてくれて、俺は生きている。あなたが見つけてくれなければ、樽の中で生き死にを繰り返して、途中で力尽きていただろう」」
「ウル?」
 エイラは首をかしげた。
「コウして話ス初メて! 細カい事気ニしない!」
 シムルグ的には細かくないんだが、くどくどいうのも潔くない。
「はじめまして。私は自由騎士のエルシーよ。よろしくね!」
ん、ん。と、咳払いした『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は、早速ですが。といった。
「私が作詞作曲したお誕生日をお祝いする歌を、シムルグ君にもおきかせするわね?」

 ハッピー・バースデー、シムルグく~ん
 おめでとー、おめでとー。今日の主役は君なのさ~
 おいしいパンとジュースでお祝い~
「さぁ、声高らかに!」
 おめでと~ シムルグく~ん

 ぱちぱちぱちと降り注ぐ拍手と、きょとんとしたシムルグ。
(……あれ?  私がいた孤児院のみんなにはこの歌好評だったんだけどな…… )
 孤児院のみんなの気遣いまで邪推し始めたエルシーに、シムルグは興味深そうにいった。
「お誕生日は歌うのか」
「そう。お誕生日には歌います!」
 エルシーの返答に、シムルグはしきりに感心した。
 『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は、少年に目線を合わせて自己紹介をした。突っ立っていては顔が視界に入らない。
「自由騎士アダム・クランプトン。今日から君の仲間であり、友となる事が出来れば良いと思っているよ」
 差し出された手を、シムルグはおずおずと握った。
「アタシはトミコ。こう見えても自由騎士だよ」
 今日はケーキもあるよ。とウインクする。
「おにくだ」
 『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は確信を持っていた。
「おいしいおにくを一緒に食べるぞ! お誕生日にご飯を一緒に食べたらみんなお友達なんだぞ!」
 トミコがこしらえた「おいしいおにく」の皿を持ってきたサシャは人懐っこくシムルグに笑いかけた。
「これね、カノンのかーさまが生きてた頃、お祝い事の時によく作ってくれたお料理なんだー」
 赤いご飯はお祝いのごはん。邪気を払い、魔よけの意味を持つのだと説明するカノンにシムルグは何度もうなずいた。
「カノンのかーさまは良く笑う太陽のような人だったよ」
 カノンは、ゴマ塩を振ってあげつつ問うた。
「俺のおたあは――岩盤みたいな人だよ」

 トミコプロデュースのお食事の前に、シムルグから一言。
「改めて、はじめまして。俺は、カノンからシムルグという名前をもらったノスフェラトゥだ。今日は生まれた日を祝ってもらえてとても嬉しい。知らないことばかりで、たくさん勉強しなくてはいけない――ません。 俺の世界は生まれてからずっと、タカイかモットタカイかでできていた。でも、世界はずっと広かった。合ってますか。広いということを知った新しいノスフェラトゥになって、帰りたい。高くて広くて――大きな世界を飛び回れるようになるのが、俺の目標です」
 大分、神代共通語もうまくなっていた。
「そのために自由騎士団に入ります。よろしくお願いします」


 自由騎士団に身を投じるということは白紙の未来と向き合うことになる。続く戦争が脳裏をよぎったティラミスも、戻る場所はなくなったエイダも、その場にいる自由騎士も、今はシムルグの誕生日を祝った。うまれた日を祝える彼の「今」を祝った。
 

「色々味見できるようにしたんよ。好きなもの見つけてもらえると嬉しいわー」
 アリシアは、これとこれとと律義に指さすシムルグに目を細めた。
 食事の後はプレゼントタイムだ。
「実はお洋服もいいかなぁって迷ったんですけど、1つ思いつきました。シムルグ君の好みもあると思いますし、皆で買いに行くってのはどうです?」
 ティラミスから、クッキーと花と提案のプレゼント。
「これは、とぶか。マリアはすごいな。紙から鳥と防具を作る」
 アマノホカリでは紙を複雑に折りたたんで美麗な飾りを作るのだ。掌に載せられた鳥の飾りにシムルグの目が見開かれている。
 カノンが夢を忘れないようにと羽の装飾のあるドングリを渡した。
「今一ピンとくるものがなくてね」
 中庭に連れ出されたシムルグの前でアダムはしゃがんだ。
「肩に跨ってくれるかな。そうしたら僕がシムルグ君を落とさない様に立ち上がって思いっきり走るよ」
 
 国防軍附属病院の中庭で、明るい少年の歓声が上がった。


 日暮れ。
「ふふふ。皆よく食べたねぇ」
 トミコが、空になった皿を下げている。 
「ええ。いいお誕生会でした」
 マリオーネが見下ろす中庭では、鳥みたいだと感極まったシムルグにほだされ、日が暮れるまで病院の中庭を駆けずり回った自由騎士がまとめてお説教されている。
 てへへ。と、年相応のきまり悪げな顔をしたノスフェラトゥは五月のうちに退院するという。
 今日もらったものはみんな瓶に詰めて寮に持ち込むのだと笑った。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済