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インディゴライトと消える娘たち

●
それは根も葉もない噂話だった。
仲の良い若い娘ふたりはある洋服店を訪れ、思い思いに好みの服を手にとっては楽しそうに洋服選びをしていた。
「じゃぁちょっと試着してくるね」
「うん、待ってる」
「お客様、そちらの服にはこのネックレスもお似合いですよ」
店員はそういって娘にネックレスを手渡す。それはインディゴライトが妖艶に光る、一見娘には不釣合いな高価そうなネックレス。
「ありがとう! じゃぁそれも付けてみるわ」
5分。10分。いつまで経っても試着室に入った娘は出てこない。
「ねぇ、いつまで着替えてるの? 開けるよ?」
返事は無い。不審に思った娘が試着室のカーテンを開けると……そこには誰も居なかった。
それはただの噂話……のはずだった。
誰もが噂と思っていたその事件は、今まさに起こり続けている。
●
とある、地下室。
十数名といったところだろうか。沢山の若い娘が鎖でつながれ、拘束されている。
「あ、あの……私達……これからどうなるんですか……」
娘の一人が意を決して監視役の男に問いかける。
それまで娘達が問いかける事をずっと躊躇していたのは、単にその男のいでたちの異様さによる。
その男の両腕は異様に太く逞しかった。軽く女性の胴回り以上はあるだろう。そしてその顔は……ひどく醜かった。そんな男がぼろぼろの衣類を身につけ椅子にすわり、じっと娘達を見ていたのだ。娘達が言葉を搾り出すのに相当な勇気が必要だったであろう事は想像にたやすい。
「……お、おめぇ達はもうすぐ、ほ、他の国に、う、売られるんだな。あ、愛玩奴隷としてな」
男はどもりながらも、娘達の服から覗く柔肌に視線を送りながらそう言った。
ひぃ、と娘達が悲痛な声を漏らす。静寂の中、すすり泣く声だけが響く。
そんな重苦しい空気の中、ぎぃと扉が開き、男が入ってくる。監視役の男とは対照的に小奇麗な身なりの老紳士風の男だった。
「……もう2、3品調達したらここを離れます。さすがに騎士団の連中も馬鹿ではない。いずれこの場所も見つけることでしょう」
老紳士はそういうと娘達を見渡した。ただ、その目は人に対して向けられるようなものでは無い。商品。ただ商品を見定めするような眼で娘達を見ていた。
「きちんと見張りをしておいてください。……それと商品価値を下げるような真似は絶対しないように」
この異常な状況の中、紳士のなんら普段の生活と変わらぬような物言いに、娘達は全てを悟る。
そこには失意と絶望のみが漂っていた。
●
「俺のかわい子ちゃんたちが居なくなってるんだ!! 何とかしてくれっ!!」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は泣きそうな顔でそう言った。
(俺の、じゃないとおもうけど……)
口には出さないが自由騎士たちの思いは一緒だ。
「それと……どうやらある幻想種も関係してるみたいなんだ」
なぜか猛烈に焦りながら話すヒアヒムの説明はこうだ。
ここ数ヶ月連続して若い娘の失踪事件が相次いでいる。しかも事件が起こるのは決まって洋服店の試着室。居たはずの娘が忽然と消えてしまうらしい。しかも消えたのは選りすぐりの美(少)女ばかりときている。
「幸い(?)俺たち自由騎士団も美女美少女揃い!! 俺の考えてる事わかるよね?」
結構危険なことをさらりと言うね、この人。と自由騎士たちは少し冷めた目でヨアヒムを見ながらも、失踪事件が頻発しているとあっては放って置くわけにはいかない。
かくして囮作戦は実行に移される事となった。
それは根も葉もない噂話だった。
仲の良い若い娘ふたりはある洋服店を訪れ、思い思いに好みの服を手にとっては楽しそうに洋服選びをしていた。
「じゃぁちょっと試着してくるね」
「うん、待ってる」
「お客様、そちらの服にはこのネックレスもお似合いですよ」
店員はそういって娘にネックレスを手渡す。それはインディゴライトが妖艶に光る、一見娘には不釣合いな高価そうなネックレス。
「ありがとう! じゃぁそれも付けてみるわ」
5分。10分。いつまで経っても試着室に入った娘は出てこない。
「ねぇ、いつまで着替えてるの? 開けるよ?」
返事は無い。不審に思った娘が試着室のカーテンを開けると……そこには誰も居なかった。
それはただの噂話……のはずだった。
誰もが噂と思っていたその事件は、今まさに起こり続けている。
●
とある、地下室。
十数名といったところだろうか。沢山の若い娘が鎖でつながれ、拘束されている。
「あ、あの……私達……これからどうなるんですか……」
娘の一人が意を決して監視役の男に問いかける。
それまで娘達が問いかける事をずっと躊躇していたのは、単にその男のいでたちの異様さによる。
その男の両腕は異様に太く逞しかった。軽く女性の胴回り以上はあるだろう。そしてその顔は……ひどく醜かった。そんな男がぼろぼろの衣類を身につけ椅子にすわり、じっと娘達を見ていたのだ。娘達が言葉を搾り出すのに相当な勇気が必要だったであろう事は想像にたやすい。
「……お、おめぇ達はもうすぐ、ほ、他の国に、う、売られるんだな。あ、愛玩奴隷としてな」
男はどもりながらも、娘達の服から覗く柔肌に視線を送りながらそう言った。
ひぃ、と娘達が悲痛な声を漏らす。静寂の中、すすり泣く声だけが響く。
そんな重苦しい空気の中、ぎぃと扉が開き、男が入ってくる。監視役の男とは対照的に小奇麗な身なりの老紳士風の男だった。
「……もう2、3品調達したらここを離れます。さすがに騎士団の連中も馬鹿ではない。いずれこの場所も見つけることでしょう」
老紳士はそういうと娘達を見渡した。ただ、その目は人に対して向けられるようなものでは無い。商品。ただ商品を見定めするような眼で娘達を見ていた。
「きちんと見張りをしておいてください。……それと商品価値を下げるような真似は絶対しないように」
この異常な状況の中、紳士のなんら普段の生活と変わらぬような物言いに、娘達は全てを悟る。
そこには失意と絶望のみが漂っていた。
●
「俺のかわい子ちゃんたちが居なくなってるんだ!! 何とかしてくれっ!!」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は泣きそうな顔でそう言った。
(俺の、じゃないとおもうけど……)
口には出さないが自由騎士たちの思いは一緒だ。
「それと……どうやらある幻想種も関係してるみたいなんだ」
なぜか猛烈に焦りながら話すヒアヒムの説明はこうだ。
ここ数ヶ月連続して若い娘の失踪事件が相次いでいる。しかも事件が起こるのは決まって洋服店の試着室。居たはずの娘が忽然と消えてしまうらしい。しかも消えたのは選りすぐりの美(少)女ばかりときている。
「幸い(?)俺たち自由騎士団も美女美少女揃い!! 俺の考えてる事わかるよね?」
結構危険なことをさらりと言うね、この人。と自由騎士たちは少し冷めた目でヨアヒムを見ながらも、失踪事件が頻発しているとあっては放って置くわけにはいかない。
かくして囮作戦は実行に移される事となった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.失踪した娘達の保護
2.幻想種(ティンク)の保護
2.幻想種(ティンク)の保護
麺です。長男ですが二郎です。
イ・ラプセル首都の複数の洋服店で失踪事件が発生。
事件の裏には奴隷売買組織が絡んでいるようです。
まずは皆様の美女(美少女)力を遺憾なく発揮していただければと思います。
※参加者に女性が居なかった場合、どなたかが女装して囮になる事になります。
●依頼の流れ
まずは囮役を数人決めていただき、各自洋服店にて連れ去られていただきます。
その後、アジトで娘達の無事を確認しつつ、他の自由騎士と連絡をとることが出来れば、別働班がアジトへ急行できます。
ただし連れ去られる際は幻想種によって眠らされてしまうため、眠りに耐性が無い限りはアジトで目覚めるまでは何も出来ません。
またアジトで拘束される際に、着ているもの以外は没収されていますが、よほど高価なもので無ければ髪飾りなど装飾品等は見逃されます。
囮メンバーの所持能力や持ち込めたアイテムで有効な手段が無い場合は、別動班がアジトを探し出すまでの間、囮のメンバーのみでそれなりの時間を稼ぐ形となり、どうやって時間を稼ぐかが重要となります。
また時間稼ぎに自信がある場合は、有効手段があっても敢えて時間を稼ぐというのも一つの手です。
様々なテクニックを駆使して、この事件を解決に導いていただければと思います。
●ロケーション
とある地下室。地下には2つ部屋があります。
一つは娘達が捕らえられている部屋。娘達は拘束されていますが、屈強な監視が居るため鍵はかかっていません。
もう一つは、売買組織の三下が10人ほどいる部屋になっています。没収されたアイテムはこの部屋の隅に置いてあります。
どちらの部屋もかなり広さがあり、頑丈に出来ているため戦闘に不具合は生じません。
地下入り口には見張りがふたり。どちらも銃を所持し、付近を警戒しています。
●登場人物
・老紳士
齢60前後に見える老紳士。組織ではそれなりの立場のようです。どのような状況でも冷静沈着。淡々と仕事をこなします。
自由騎士がアジトを突き止めた時には、すでにその場を離れています。
・フンヌ
34歳男。『怪力フンヌ』の異名を持つ男。監視役。オーガ系幻想種とのマザリモノで肥大化した両腕と醜い顔を持つ。その醜さゆえ親に捨てられ、貧民街をさまよっていたところ、そのパワーを評価され組織入り。紳士に対しては絶対服従しており「どんな事があっても娘達を逃がす事の無いように」と命令されています。命令によりこのような役割を担っていますが、本来女性にはあまり免疫がありません。
ビッグパンチ 攻近単 【ノックバック】巨大な拳で対象を殴打します。
パワーハンマー 攻近範 【ノックバック】両腕を振り回し、周囲を敵を吹き飛ばします。
雄たけび 魔遠範 【パラライズ1】けたたましい雄たけびを上げて周囲の敵を威嚇します。
・三下 8人(見張り含む)
全員銃を所持。大して強くありません。が逃がすと更に仲間を連れてくる可能性があります。
・幻想種 ティンク 5体
ある程度の意思疎通が可能な10cm程度の小さな幻想種。光の鱗粉で対象を眠らせる事が出来る。そしてインディゴライトには光の鱗粉の効果を増幅する効果があるようです。売買組織に捕獲され、誘拐の手伝いをさせられています。当日は三下の屯している部屋で鳥かごに入れられています。
・若い娘たち 14人
14~20歳の娘達です。皆、一定水準以上の美(少)女で全員が何らかの器具で拘束されています。
●同行NPC
・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
指示すれば女装して囮にもなりますが、誘拐される可能性は限りなく0です。
特に指示がなければ急行班とともに行動します。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
数ある都市伝説でもかなりメジャーなこの状況。楽しんでいただければ幸いです。
皆様のご参加お待ちしております。
イ・ラプセル首都の複数の洋服店で失踪事件が発生。
事件の裏には奴隷売買組織が絡んでいるようです。
まずは皆様の美女(美少女)力を遺憾なく発揮していただければと思います。
※参加者に女性が居なかった場合、どなたかが女装して囮になる事になります。
●依頼の流れ
まずは囮役を数人決めていただき、各自洋服店にて連れ去られていただきます。
その後、アジトで娘達の無事を確認しつつ、他の自由騎士と連絡をとることが出来れば、別働班がアジトへ急行できます。
ただし連れ去られる際は幻想種によって眠らされてしまうため、眠りに耐性が無い限りはアジトで目覚めるまでは何も出来ません。
またアジトで拘束される際に、着ているもの以外は没収されていますが、よほど高価なもので無ければ髪飾りなど装飾品等は見逃されます。
囮メンバーの所持能力や持ち込めたアイテムで有効な手段が無い場合は、別動班がアジトを探し出すまでの間、囮のメンバーのみでそれなりの時間を稼ぐ形となり、どうやって時間を稼ぐかが重要となります。
また時間稼ぎに自信がある場合は、有効手段があっても敢えて時間を稼ぐというのも一つの手です。
様々なテクニックを駆使して、この事件を解決に導いていただければと思います。
●ロケーション
とある地下室。地下には2つ部屋があります。
一つは娘達が捕らえられている部屋。娘達は拘束されていますが、屈強な監視が居るため鍵はかかっていません。
もう一つは、売買組織の三下が10人ほどいる部屋になっています。没収されたアイテムはこの部屋の隅に置いてあります。
どちらの部屋もかなり広さがあり、頑丈に出来ているため戦闘に不具合は生じません。
地下入り口には見張りがふたり。どちらも銃を所持し、付近を警戒しています。
●登場人物
・老紳士
齢60前後に見える老紳士。組織ではそれなりの立場のようです。どのような状況でも冷静沈着。淡々と仕事をこなします。
自由騎士がアジトを突き止めた時には、すでにその場を離れています。
・フンヌ
34歳男。『怪力フンヌ』の異名を持つ男。監視役。オーガ系幻想種とのマザリモノで肥大化した両腕と醜い顔を持つ。その醜さゆえ親に捨てられ、貧民街をさまよっていたところ、そのパワーを評価され組織入り。紳士に対しては絶対服従しており「どんな事があっても娘達を逃がす事の無いように」と命令されています。命令によりこのような役割を担っていますが、本来女性にはあまり免疫がありません。
ビッグパンチ 攻近単 【ノックバック】巨大な拳で対象を殴打します。
パワーハンマー 攻近範 【ノックバック】両腕を振り回し、周囲を敵を吹き飛ばします。
雄たけび 魔遠範 【パラライズ1】けたたましい雄たけびを上げて周囲の敵を威嚇します。
・三下 8人(見張り含む)
全員銃を所持。大して強くありません。が逃がすと更に仲間を連れてくる可能性があります。
・幻想種 ティンク 5体
ある程度の意思疎通が可能な10cm程度の小さな幻想種。光の鱗粉で対象を眠らせる事が出来る。そしてインディゴライトには光の鱗粉の効果を増幅する効果があるようです。売買組織に捕獲され、誘拐の手伝いをさせられています。当日は三下の屯している部屋で鳥かごに入れられています。
・若い娘たち 14人
14~20歳の娘達です。皆、一定水準以上の美(少)女で全員が何らかの器具で拘束されています。
●同行NPC
・ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
指示すれば女装して囮にもなりますが、誘拐される可能性は限りなく0です。
特に指示がなければ急行班とともに行動します。
所持スキルはステータスシートをご参照ください。
数ある都市伝説でもかなりメジャーなこの状況。楽しんでいただければ幸いです。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年11月03日
2018年11月03日
†メイン参加者 8人†
●
囮となったうら若き乙女たち。まずはその面々を改めて紹介しておこう。
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は先日誕生日を迎えたばかりの13歳。(資料を二度見)……13歳!? どこからかこの年齢であの■とか……と声が聞こえてきそうではあるが、立派なツノを携えた牛のケモノビトである。牛。そう牛なのだ。誰もが納得の種族であろう。
身長125cm、体重■■kg。その身長に見合わない豊満な体つきながらも無駄も無く、格闘スタイルに必要なしなやかさを併せ持った体躯。一つに結われた腰元まではあるであろうシルバーの長い髪はたおやかに風に揺れ、まっすぐ見つめるその黄金の瞳はナチュラルに人々を魅了する。
そして彼女の持つアイドルオーラは輝きを放ち、カーミラの魅力を更に引き上げている。
天真爛漫でいつでも全力全開。彼女も、その周りにもいつも笑顔が絶えない。
そんな彼女がターゲットにならないはずも無かった。
「こんにちわーっ!」
元気よく洋服店に入るとカーミラは早速服選びを始める。
「今度パーティーがあるみたいだし、どんなのがいいかな~。やっぱ赤かなー」
迷うカーミラに店員が話しかける。
「お客様、試着されてみてはいかがですか?」
「いいのっ? じゃぁこれ全部着てみるねっ」
話しかけるや否や、選んでいたドレスを片手に試着室へ向かおうとするカーミラに、店員が続ける。
「拝見したところ、ドレスをお選びのご様子。そのドレスにはこういったネックレスもお似合いかと思うのですが、ご一緒にいかがでしょうか」
店員の手にはインディゴライトが光るネックレス。
「ん~~~~~。宝石にはあんま興味ないけど……せっかくだから着けてみるねっありがとっ」
そう言うとカーミラは試着室へ入る。
スポポポーン、と音がしそうな程の勢いで脱衣するカーミラ。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は文句なしの美少女である。
17歳のノウブル。若くしてゴールドスミス家の家長を継ぎ、一人奮闘中の身だ。
曰く金糸のような艶やかな髪、曰くサファイアの如く煌めく青い瞳、曰く緩やかな曲線を描く魅惑的な肢体。まっことその通りではあるのだが……それを声高に自ら言ってしまう辺りに、そこはかとない残念感が漂うのは皆さんもお気づきであろう。そんな彼女も普段とは別人のような表情を見せる事がある。それは人の生き死にのかかった戦いの場。その時彼女は普段表に出さない憂いを帯びた表情を見せる。それら全てを含めてジュリエットの魅力であり、人を惹きつけてやまない彼女の資質なのだ。
現に、ゆるくウェーブのかかったゴールドの髪。アクアブルーの澄んだ瞳。そのバランスの良いプロポーションも相まって、眩いばかりのアイドルオーラを放つ彼女は圧倒的な存在感をかもし出していた。
そんな彼女がターゲットにならないはずも無かった。
「お邪魔しますわ」
洋服店に入ると、ジュリエットは早速服を選び始める。
これが囮である事も、任務である事も理解している。だが色とりどりの洋服を選ぶうちにどうしても考えてしまう。この服を着たらあの方はどう思うかしら、と。
はっと任務を思い出し数着の服を見繕ったジュリエットは店員に話しかける。
「試着をしたいのですけど、よろしいかしら」
近くにいた店員がそれに笑顔で応対する。
「はい。それではあちらの試着室をお使いください」
店員は店の奥の試着室を使うよう促し、そのまま元の作業に戻る。
「ありがとう。では使わせていただきますわ」
……え? 何かお忘れで無くって? わたくしに渡すものがあるでしょう?
焦るジュリエット。自然と試着室に向かう歩が鈍くになる。
気づけば試着室の目の前。ジュリエットを軽い喪失感が襲ったその瞬間、店員から声がかかった。
「お客様。よろしければですが……こちらのネックレスなども試着されてみてはいかがでしょうか?」
店員から渡されたのはインディゴライトのネックレス。
「しょ、しょうがないですわね! 着けてみて差し上げますわっ」
言葉とは裏腹にジュリエットははちきれんばかりの笑顔で試着室へ入っていく。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)。自由騎士随一の使い手である。何の、とは聞いてはいけない。
桃色の髪は柔らかく揺れ、年齢より幼く見えるが均整の取れた顔立ち。中背の細身ではあるものの、しっかりと女性らしい体のラインが見てとれる。そして……その容姿からは想像も出来ないほどの艶を纏っている。
「は~い♪ ローラに似合う服、あるかな~?」
店に入ってすぐにローラは服を見繕いだす。ローラがいるだけで店は大人の雰囲気を纏う。
「ん~~~~どれにしっよかなぁ♪」
ローラが甘い声を出しながら服を選んでいく。
「お客様。よろしければ試着されてみてはいかがですか?」
その手にはインディゴライトのネックレス。
「わ、そのネックレス素敵! それも着けてみていい?」
店員に進められるよりも先にネックレスへ手を伸ばすローラ。
誰にも気づかれずにふふ、と笑うと試着室へ入っていく。
「(うふふっ。連れてかれたら見張りの人たち相手にしっかり時間稼ぎしちゃうよぉ。時間稼ぎの方法はぁ……うふふ、ローラみたいな女の子がこーゆー男達相手にヤることなんて一つだけだよぉ♡)」
ローラはなんとも妖しい笑みを浮かべている。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
●
『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)と『口封じ』大噛・シロ(CL3000400)はカーミラと共に行動していた。
「女の子を誘拐なんて許せない! 絶対犯人を捕まえてやるんだよ! でも……うーん。こっちじゃなかったかな」
裏口を頬を膨らませプンプン怒りながら見張るカノンに、店の入り口で待機していたシロからテレパスが飛ぶ。
『成功、囮。開始、追跡』
合流したカノンと共にシロのテレパスを頼りにカーミラの追跡を開始した。
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はジュリエットに同行し、店の前で張り込んでいた。ジュリエットが店に入ってだいぶ経つが出てくる様子は無い。
そろそろとばかりにエルシーは店へ入るが案の定ジュリエットの姿は無い。
やはり。エルシーの思考がフル回転する。
きっと店員が渡したネックレスが誘拐の合図。そしてインディゴライトを持つ女性は幻想種に眠らされアジトへ誘拐される。外で見張っていても出てきた様子が無い事から、おそらくは試着室に抜け道があるはず。という事は店員も誘拐犯とグルの可能性が高い。
「名探偵エルシーはまるっとお見通しよ!」
囮役では無いが、エルシーもまた紛れも無い美女である。一本調子で試着を薦める店員を軽くいなし、試着室の調査を始める。
「これは……っ!?」
マリア・スティール(CL3000004)はローラと共に行動していた。
同じく店に入り、ローラが試着室に入ったことを確認すると、店内を物色して回る。
しばらくして、試着室を開けると……そこにローラの姿は無い。
「しまった、もうやられたあとかっ」
マリアがサーチエネミーでローラの行方を捜す。だがマリアに向けられた敵意がある訳ではないためかうまく感知できないようだ。
「ちっ。仕方ねーな」
マリアはマキナ=ギアを使ってシロに連絡を取った。
その頃『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は全く別の行動を行っていた。
アリアが行うのは言わば囮の囮。囮作戦とは別に以前失踪事件が起こった洋服店を巡っていたのだ。行動は決まっている。洋服を見繕い、店員に試着を促させる。その上でネックレスを薦められた場合に、敢えて試着室へ入らずに、質問を繰り返す。
「とても綺麗ですね、これも売り物ですか? そういえば……インディゴライトって特殊な効果があるって知ってます?」
巡ること数店。その言葉に大きく店員の感情が揺れたのをアリアは見逃さなかった。
「あなた……何か知っていますね?」
「わ、わたしは、な、何もっ……」
明らかに動揺する店員にアリアはにじり寄っていく。全く別の方法ではあるもののアリアもまた核心へと近づきつつあった。
エルシーが試着室で見つけたもの。それは地下道へと続く隠し扉だった。時を同じくして囮となった美しき自由騎士達もまた拘束された上でズタ袋に入れられ、担がれたまま地下道を移動していた。
『これは……アジトに着くまでは何もできませんわね』
ジュリエットは起きてはいるものの声を出す事はできず、周囲の状況も把握できない。
『すやすや~』
ローラはすやすやと熟睡している。
『ばっちり捕まったよ! 今袋に入れられて移動してるよ』
カーミラは……シロとテレパスで繋がっていた。カーミラの運命(セフィラ)が勝利を引き寄せるべく、その感覚を研ぎ澄まさせる。
『たぶん……南に向かってる』
『了解、追跡を開始。推奨、位置情報の伝達』
その時シロのマキナ=ギアにマリアから連絡が入る。
「オレだ、マリアだ。そっちに合流するぜ」
●
眠らされていたローラが目覚めるとそこは地下室だった。沢山の娘達と……ジュリエット、カーミラの姿がある。
「(起きましたか)」
ジュリエットが小声でローラに話しかける。
「(シロとのテレパスはばっちりだよ、もうしばらくすればみんな来るはずっ)」
そういうカーミラのほうへジュリエットが顔を向ける。
「なな!? カーミラ、貴方なんて格好ですのっ!?」
思わずジュリエットが声を上げる。カーミラは下着姿だった。その色は黒。あだるちー。いつもの調子で脱衣をしたカーミラは眠らされる頃にはもうすでに服を脱ぎ終えてしまっていたのだ。年齢を考えればまだ早いとお思いだろう。しかしよく似合っている。
「(ま、まあいいですわ。そろそろ始めますわよっ)」
3人が頷く。あとは別働隊がたどり着くまで時間を稼ぐだけだ。
「むぐぐ、こーれーはーずーせー!!」
カーミラがじたばたと暴れながら騒ぎ出す。
「わたくし、こんな薄汚いところに押し込められるのは嫌ですわー! 嫌だったら嫌なのですわ!!! それにここは品がありませんの。とにかくっ! いーやーなーのーでーすーわー!!!」
あわせてジュリエットもわがままお嬢様のフリ(本人談)を演じる。なかなかどうしてそのわがままっぷりは堂に入っている。
「お、おい。さ、騒ぐな、お、おでがマスターに怒られる……っ」
部屋にいた男が焦ったようにジュリエットとカーミラに近づいてくる。
「なんだなんだ、騒がしいな」
すると隣の部屋から男達が様子を見にやってきた。
「フンヌ、ちゃんとおとなしくさせておけよ!」
そう言い放った男にフンヌはギロリと目線を向ける。
「お、おでに命令できるの、マスターだけ。お、お前生意気いうな」
男達はその迫力にすっかり気おされたようだった。
「わ、わかったよ。すまなかった。とにかく頼んだぞ」
部屋を出ようとする男達。
「ねぇねぇお兄さん達って奴隷商人でしょお?」
男達の顔つきが瞬時に変わる。
「ごまかさなくてもいいよぉ、ローラもどっちかってゆーと裏方面に近い人間だしね」
ローラから妖しい気配が漂い始める。
「まー捕まっちゃったのはアレだけどぉ、今更じたばたしてもしょうがないってゆーか……
ほら、どうせ売られるんならちょっとでもイイ所に売られたいでしょお?」
男達の視線がローラの一挙手一同に向けられている。彼女の持つ特異体質(スキル)がそうさせているのだろうか。
「だからぁ……ローラがどれだけスゴい女の子なのかってこと、お兄さん達に教えてあ・げ・る♡……ね?」
──ローラと男達は隣の部屋へ消えた。
そして部屋には見張りの男と攫われた美女達。そして何を想像したのか顔を真っ赤にしたジュリエットと、何の事やら全く理解していないカーミラが残される事になった。
●
「それじゃいってくるねっ。ジローさんも宜しくねっ」
カノンの生業は劇団員。所持していたメイク道具でアクアディーネに似せたメイクを行い、向かうはアジトの地下への入り口。そこには見張りが2人。
「変な人に追われているのっ。助けてっ!」
カノンはそういうと見張りの二人のもとへ。時間差でジローがカノンを追いかける。
「なんだ、あの変なのは。わかった。すぐに追っ払ってやる」
見張りは近づいてきたジローを威嚇する。ジローは逃げるように立ち去った。
「もう大丈夫だ。それにしても……お洒落な靴とスカーフなんだが……何でスイムウェアなん……ぐふっ!?」
「お前!なにしやが……ぐえっ」
見張り二人は静かに崩れ落ちる。
カノンの震撃が、シロのヒートアクセルがそれぞれの鳩尾へめり込んだのだ。
「中へ急ぎましょう」
エルシーが声をかける。
「おう! まずはザコのほうからだなっ」
マリアが集中するとより強いものを求めて体が反応する。
「奥にいるな。じゃぁまずはこっちだ!」
4人が勢いよく扉を開けると……そこには魂が抜けたかのように倒れる4人の男達と、服を直しているローラの姿。
「ローラさん!? えっ!?えっ!?」
なんとなく状況を察したエルシーが顔を手で覆いながら部屋を確認する。
「ティンクたちはそっちの鳥かごのナ中にいるよ~。あとはい、これ」
そういうとローラがエルシーに手渡す。カーミラのマキナ=ギアだ。
『確認、4人。不足、2人。調査、残る2人の行方』
シロがテレパスで皆に伝える。2名足りないと。
「そういえばいねーな。三下は全部で8人じゃなかったか?」
マリアも数を確認する。見張りの2人と部屋で転がってる4人。やはり2人足りない。
「2人はなんだか知らないけど出て行ったみたい」
ローラが言う。どうやって聞き出したかはこの際敢えて聞くまい。
「あとは……フンヌだけか。オレの強いやつレーダーにすっげぇ反応してるぜっ」
マリアが拳をあわせて気合を入れなおした。
「いきましょう!」
エルシーの声と共に4人は隣の部屋へ向かった。
●
「な、なんだか隣が、さ、騒がしいんだな」
フンヌは部屋を動かない。なぜならそう言い付けられているから。彼にとって今行うべき事は見張り。
そこへ勢いよく扉が開く。
「なっ!? だ、誰だオマエたちっ!!」
突然の事にフンヌが声を荒げる。
「カーミラ!! オマエのマキナ=ギアだっ!!」
マリアが隣の部屋で見つけたものをカーミラへ投げて渡す。
それと同時にシロがブレイクゲイトでジュリエットが拘束具を破壊する。カーミラは……自力でぶっ壊したようだ。戦闘態勢に移る。
「あ……あああ……怒られるのイヤだ。おで、怖い。皆捕まえる。グォアアアアアァァァアアアアアア!!!」
フンヌが吼えた。凄まじいその声に間近にいたジュリエットとカーミラは一瞬動きを封じられる。
「あぶないっ!!」
動きの止まった2人に注意が向かないようエルシーが果敢に攻める。
フンヌのパワーは強大だ。その腕から繰り出される一撃は直撃を食らえば自由騎士といえども無傷ではいられないだろう。
「な、なんで!? おでの攻撃、あたらない」
フンヌは両腕を振り回す。しかしその攻撃は空を切る。
「もうチョイ待ってくれよっ」
少し離れた位置でマリアが集中を繰り返す。
「なんでなんでなんで!? 当たらない、おでは強いんだぞ!!」
カノンが不意にフンヌの目の前に立った。
「もう……やめて」
アクアディーネに扮したその瞳はまっすぐにフンヌを見つめている。
「め、女神……さま?」
一瞬フンヌの動きが止まる。それに呼応するかのようにカノンがゆらりと動く。次の瞬間フンヌの体中にに鈍い衝撃が駆け巡る。カノンの鉄山靠が炸裂したのだ。思わずのけぞり目を見開くフンヌ。
『感嘆、怪力。不快、大声』
そこへ間髪いれずにシロが最高速の一撃を叩き込む。
「グボアッッ」
シロの一撃はほんの僅かの間ではあるがフンヌを空白にする。
「おっしゃーーーっ!!! とどめの一撃だぜっ!! 受けて見やがれーーーっ!!!」
そこへ集中に集中を重ねたマリアの必殺の一撃が炸裂するっ!!!
「……お、おでは……マスターに……ゲフッ」
最後までマスターへの忠誠を口にしながらフンヌは泡を吹きながら地に伏した。
●
攫われた娘たちとともに外へ出るとそこにはアリアの姿が。
「申し訳ありません。想定はしていたのですが……思った以上に時間がかかってしまいました」
アリアは全く別の場所で戦っていた。アリアが核心をつき店員に詰め寄ったところで、店に2人の男が突如乱入。そのまま激しい戦闘になった。店内ということもあり、派手な攻撃を躊躇したアリアが虚をつかれ、一時はかなり危ない状態となったが、たまたま近くを巡回していた2人の女自由騎士の加勢もあり、形勢は瞬く間に逆転。最後はアリアのヒートアクセルが男の意識を奪い、見事捕縛に成功したという事だった。捕まえた2人はやはりアジトからいなくなっていた2人だった。なにやらネックレスに付いてかぎ回っている女がいると連絡を受け、急遽洋服店へ向かったらしい。その後店員からも情報を引き出し、店ごとに事情は違うものの、数多くの洋服店が奴隷売買組織と繋がっていた事も裏が取れたという。
これでこの失踪事件は無事に解決。人が消える試着室は元通りただの噂話に戻るであろう。
すぅ……すぅ……
気づけばかすかな寝息がふたつ。
仲良く背中合わせで眠る、カーミラとジュリエットのものだった。
囮となったうら若き乙女たち。まずはその面々を改めて紹介しておこう。
『全力全開!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は先日誕生日を迎えたばかりの13歳。(資料を二度見)……13歳!? どこからかこの年齢であの■とか……と声が聞こえてきそうではあるが、立派なツノを携えた牛のケモノビトである。牛。そう牛なのだ。誰もが納得の種族であろう。
身長125cm、体重■■kg。その身長に見合わない豊満な体つきながらも無駄も無く、格闘スタイルに必要なしなやかさを併せ持った体躯。一つに結われた腰元まではあるであろうシルバーの長い髪はたおやかに風に揺れ、まっすぐ見つめるその黄金の瞳はナチュラルに人々を魅了する。
そして彼女の持つアイドルオーラは輝きを放ち、カーミラの魅力を更に引き上げている。
天真爛漫でいつでも全力全開。彼女も、その周りにもいつも笑顔が絶えない。
そんな彼女がターゲットにならないはずも無かった。
「こんにちわーっ!」
元気よく洋服店に入るとカーミラは早速服選びを始める。
「今度パーティーがあるみたいだし、どんなのがいいかな~。やっぱ赤かなー」
迷うカーミラに店員が話しかける。
「お客様、試着されてみてはいかがですか?」
「いいのっ? じゃぁこれ全部着てみるねっ」
話しかけるや否や、選んでいたドレスを片手に試着室へ向かおうとするカーミラに、店員が続ける。
「拝見したところ、ドレスをお選びのご様子。そのドレスにはこういったネックレスもお似合いかと思うのですが、ご一緒にいかがでしょうか」
店員の手にはインディゴライトが光るネックレス。
「ん~~~~~。宝石にはあんま興味ないけど……せっかくだから着けてみるねっありがとっ」
そう言うとカーミラは試着室へ入る。
スポポポーン、と音がしそうな程の勢いで脱衣するカーミラ。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
『高潔たれ騎士乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は文句なしの美少女である。
17歳のノウブル。若くしてゴールドスミス家の家長を継ぎ、一人奮闘中の身だ。
曰く金糸のような艶やかな髪、曰くサファイアの如く煌めく青い瞳、曰く緩やかな曲線を描く魅惑的な肢体。まっことその通りではあるのだが……それを声高に自ら言ってしまう辺りに、そこはかとない残念感が漂うのは皆さんもお気づきであろう。そんな彼女も普段とは別人のような表情を見せる事がある。それは人の生き死にのかかった戦いの場。その時彼女は普段表に出さない憂いを帯びた表情を見せる。それら全てを含めてジュリエットの魅力であり、人を惹きつけてやまない彼女の資質なのだ。
現に、ゆるくウェーブのかかったゴールドの髪。アクアブルーの澄んだ瞳。そのバランスの良いプロポーションも相まって、眩いばかりのアイドルオーラを放つ彼女は圧倒的な存在感をかもし出していた。
そんな彼女がターゲットにならないはずも無かった。
「お邪魔しますわ」
洋服店に入ると、ジュリエットは早速服を選び始める。
これが囮である事も、任務である事も理解している。だが色とりどりの洋服を選ぶうちにどうしても考えてしまう。この服を着たらあの方はどう思うかしら、と。
はっと任務を思い出し数着の服を見繕ったジュリエットは店員に話しかける。
「試着をしたいのですけど、よろしいかしら」
近くにいた店員がそれに笑顔で応対する。
「はい。それではあちらの試着室をお使いください」
店員は店の奥の試着室を使うよう促し、そのまま元の作業に戻る。
「ありがとう。では使わせていただきますわ」
……え? 何かお忘れで無くって? わたくしに渡すものがあるでしょう?
焦るジュリエット。自然と試着室に向かう歩が鈍くになる。
気づけば試着室の目の前。ジュリエットを軽い喪失感が襲ったその瞬間、店員から声がかかった。
「お客様。よろしければですが……こちらのネックレスなども試着されてみてはいかがでしょうか?」
店員から渡されたのはインディゴライトのネックレス。
「しょ、しょうがないですわね! 着けてみて差し上げますわっ」
言葉とは裏腹にジュリエットははちきれんばかりの笑顔で試着室へ入っていく。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)。自由騎士随一の使い手である。何の、とは聞いてはいけない。
桃色の髪は柔らかく揺れ、年齢より幼く見えるが均整の取れた顔立ち。中背の細身ではあるものの、しっかりと女性らしい体のラインが見てとれる。そして……その容姿からは想像も出来ないほどの艶を纏っている。
「は~い♪ ローラに似合う服、あるかな~?」
店に入ってすぐにローラは服を見繕いだす。ローラがいるだけで店は大人の雰囲気を纏う。
「ん~~~~どれにしっよかなぁ♪」
ローラが甘い声を出しながら服を選んでいく。
「お客様。よろしければ試着されてみてはいかがですか?」
その手にはインディゴライトのネックレス。
「わ、そのネックレス素敵! それも着けてみていい?」
店員に進められるよりも先にネックレスへ手を伸ばすローラ。
誰にも気づかれずにふふ、と笑うと試着室へ入っていく。
「(うふふっ。連れてかれたら見張りの人たち相手にしっかり時間稼ぎしちゃうよぉ。時間稼ぎの方法はぁ……うふふ、ローラみたいな女の子がこーゆー男達相手にヤることなんて一つだけだよぉ♡)」
ローラはなんとも妖しい笑みを浮かべている。
そこへ……どこからかきらきらした粉が降り注ぐ。程なくかすかに聞こえる寝息。
彼女の囮は見事に成功したのであった。
●
『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)と『口封じ』大噛・シロ(CL3000400)はカーミラと共に行動していた。
「女の子を誘拐なんて許せない! 絶対犯人を捕まえてやるんだよ! でも……うーん。こっちじゃなかったかな」
裏口を頬を膨らませプンプン怒りながら見張るカノンに、店の入り口で待機していたシロからテレパスが飛ぶ。
『成功、囮。開始、追跡』
合流したカノンと共にシロのテレパスを頼りにカーミラの追跡を開始した。
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はジュリエットに同行し、店の前で張り込んでいた。ジュリエットが店に入ってだいぶ経つが出てくる様子は無い。
そろそろとばかりにエルシーは店へ入るが案の定ジュリエットの姿は無い。
やはり。エルシーの思考がフル回転する。
きっと店員が渡したネックレスが誘拐の合図。そしてインディゴライトを持つ女性は幻想種に眠らされアジトへ誘拐される。外で見張っていても出てきた様子が無い事から、おそらくは試着室に抜け道があるはず。という事は店員も誘拐犯とグルの可能性が高い。
「名探偵エルシーはまるっとお見通しよ!」
囮役では無いが、エルシーもまた紛れも無い美女である。一本調子で試着を薦める店員を軽くいなし、試着室の調査を始める。
「これは……っ!?」
マリア・スティール(CL3000004)はローラと共に行動していた。
同じく店に入り、ローラが試着室に入ったことを確認すると、店内を物色して回る。
しばらくして、試着室を開けると……そこにローラの姿は無い。
「しまった、もうやられたあとかっ」
マリアがサーチエネミーでローラの行方を捜す。だがマリアに向けられた敵意がある訳ではないためかうまく感知できないようだ。
「ちっ。仕方ねーな」
マリアはマキナ=ギアを使ってシロに連絡を取った。
その頃『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)は全く別の行動を行っていた。
アリアが行うのは言わば囮の囮。囮作戦とは別に以前失踪事件が起こった洋服店を巡っていたのだ。行動は決まっている。洋服を見繕い、店員に試着を促させる。その上でネックレスを薦められた場合に、敢えて試着室へ入らずに、質問を繰り返す。
「とても綺麗ですね、これも売り物ですか? そういえば……インディゴライトって特殊な効果があるって知ってます?」
巡ること数店。その言葉に大きく店員の感情が揺れたのをアリアは見逃さなかった。
「あなた……何か知っていますね?」
「わ、わたしは、な、何もっ……」
明らかに動揺する店員にアリアはにじり寄っていく。全く別の方法ではあるもののアリアもまた核心へと近づきつつあった。
エルシーが試着室で見つけたもの。それは地下道へと続く隠し扉だった。時を同じくして囮となった美しき自由騎士達もまた拘束された上でズタ袋に入れられ、担がれたまま地下道を移動していた。
『これは……アジトに着くまでは何もできませんわね』
ジュリエットは起きてはいるものの声を出す事はできず、周囲の状況も把握できない。
『すやすや~』
ローラはすやすやと熟睡している。
『ばっちり捕まったよ! 今袋に入れられて移動してるよ』
カーミラは……シロとテレパスで繋がっていた。カーミラの運命(セフィラ)が勝利を引き寄せるべく、その感覚を研ぎ澄まさせる。
『たぶん……南に向かってる』
『了解、追跡を開始。推奨、位置情報の伝達』
その時シロのマキナ=ギアにマリアから連絡が入る。
「オレだ、マリアだ。そっちに合流するぜ」
●
眠らされていたローラが目覚めるとそこは地下室だった。沢山の娘達と……ジュリエット、カーミラの姿がある。
「(起きましたか)」
ジュリエットが小声でローラに話しかける。
「(シロとのテレパスはばっちりだよ、もうしばらくすればみんな来るはずっ)」
そういうカーミラのほうへジュリエットが顔を向ける。
「なな!? カーミラ、貴方なんて格好ですのっ!?」
思わずジュリエットが声を上げる。カーミラは下着姿だった。その色は黒。あだるちー。いつもの調子で脱衣をしたカーミラは眠らされる頃にはもうすでに服を脱ぎ終えてしまっていたのだ。年齢を考えればまだ早いとお思いだろう。しかしよく似合っている。
「(ま、まあいいですわ。そろそろ始めますわよっ)」
3人が頷く。あとは別働隊がたどり着くまで時間を稼ぐだけだ。
「むぐぐ、こーれーはーずーせー!!」
カーミラがじたばたと暴れながら騒ぎ出す。
「わたくし、こんな薄汚いところに押し込められるのは嫌ですわー! 嫌だったら嫌なのですわ!!! それにここは品がありませんの。とにかくっ! いーやーなーのーでーすーわー!!!」
あわせてジュリエットもわがままお嬢様のフリ(本人談)を演じる。なかなかどうしてそのわがままっぷりは堂に入っている。
「お、おい。さ、騒ぐな、お、おでがマスターに怒られる……っ」
部屋にいた男が焦ったようにジュリエットとカーミラに近づいてくる。
「なんだなんだ、騒がしいな」
すると隣の部屋から男達が様子を見にやってきた。
「フンヌ、ちゃんとおとなしくさせておけよ!」
そう言い放った男にフンヌはギロリと目線を向ける。
「お、おでに命令できるの、マスターだけ。お、お前生意気いうな」
男達はその迫力にすっかり気おされたようだった。
「わ、わかったよ。すまなかった。とにかく頼んだぞ」
部屋を出ようとする男達。
「ねぇねぇお兄さん達って奴隷商人でしょお?」
男達の顔つきが瞬時に変わる。
「ごまかさなくてもいいよぉ、ローラもどっちかってゆーと裏方面に近い人間だしね」
ローラから妖しい気配が漂い始める。
「まー捕まっちゃったのはアレだけどぉ、今更じたばたしてもしょうがないってゆーか……
ほら、どうせ売られるんならちょっとでもイイ所に売られたいでしょお?」
男達の視線がローラの一挙手一同に向けられている。彼女の持つ特異体質(スキル)がそうさせているのだろうか。
「だからぁ……ローラがどれだけスゴい女の子なのかってこと、お兄さん達に教えてあ・げ・る♡……ね?」
──ローラと男達は隣の部屋へ消えた。
そして部屋には見張りの男と攫われた美女達。そして何を想像したのか顔を真っ赤にしたジュリエットと、何の事やら全く理解していないカーミラが残される事になった。
●
「それじゃいってくるねっ。ジローさんも宜しくねっ」
カノンの生業は劇団員。所持していたメイク道具でアクアディーネに似せたメイクを行い、向かうはアジトの地下への入り口。そこには見張りが2人。
「変な人に追われているのっ。助けてっ!」
カノンはそういうと見張りの二人のもとへ。時間差でジローがカノンを追いかける。
「なんだ、あの変なのは。わかった。すぐに追っ払ってやる」
見張りは近づいてきたジローを威嚇する。ジローは逃げるように立ち去った。
「もう大丈夫だ。それにしても……お洒落な靴とスカーフなんだが……何でスイムウェアなん……ぐふっ!?」
「お前!なにしやが……ぐえっ」
見張り二人は静かに崩れ落ちる。
カノンの震撃が、シロのヒートアクセルがそれぞれの鳩尾へめり込んだのだ。
「中へ急ぎましょう」
エルシーが声をかける。
「おう! まずはザコのほうからだなっ」
マリアが集中するとより強いものを求めて体が反応する。
「奥にいるな。じゃぁまずはこっちだ!」
4人が勢いよく扉を開けると……そこには魂が抜けたかのように倒れる4人の男達と、服を直しているローラの姿。
「ローラさん!? えっ!?えっ!?」
なんとなく状況を察したエルシーが顔を手で覆いながら部屋を確認する。
「ティンクたちはそっちの鳥かごのナ中にいるよ~。あとはい、これ」
そういうとローラがエルシーに手渡す。カーミラのマキナ=ギアだ。
『確認、4人。不足、2人。調査、残る2人の行方』
シロがテレパスで皆に伝える。2名足りないと。
「そういえばいねーな。三下は全部で8人じゃなかったか?」
マリアも数を確認する。見張りの2人と部屋で転がってる4人。やはり2人足りない。
「2人はなんだか知らないけど出て行ったみたい」
ローラが言う。どうやって聞き出したかはこの際敢えて聞くまい。
「あとは……フンヌだけか。オレの強いやつレーダーにすっげぇ反応してるぜっ」
マリアが拳をあわせて気合を入れなおした。
「いきましょう!」
エルシーの声と共に4人は隣の部屋へ向かった。
●
「な、なんだか隣が、さ、騒がしいんだな」
フンヌは部屋を動かない。なぜならそう言い付けられているから。彼にとって今行うべき事は見張り。
そこへ勢いよく扉が開く。
「なっ!? だ、誰だオマエたちっ!!」
突然の事にフンヌが声を荒げる。
「カーミラ!! オマエのマキナ=ギアだっ!!」
マリアが隣の部屋で見つけたものをカーミラへ投げて渡す。
それと同時にシロがブレイクゲイトでジュリエットが拘束具を破壊する。カーミラは……自力でぶっ壊したようだ。戦闘態勢に移る。
「あ……あああ……怒られるのイヤだ。おで、怖い。皆捕まえる。グォアアアアアァァァアアアアアア!!!」
フンヌが吼えた。凄まじいその声に間近にいたジュリエットとカーミラは一瞬動きを封じられる。
「あぶないっ!!」
動きの止まった2人に注意が向かないようエルシーが果敢に攻める。
フンヌのパワーは強大だ。その腕から繰り出される一撃は直撃を食らえば自由騎士といえども無傷ではいられないだろう。
「な、なんで!? おでの攻撃、あたらない」
フンヌは両腕を振り回す。しかしその攻撃は空を切る。
「もうチョイ待ってくれよっ」
少し離れた位置でマリアが集中を繰り返す。
「なんでなんでなんで!? 当たらない、おでは強いんだぞ!!」
カノンが不意にフンヌの目の前に立った。
「もう……やめて」
アクアディーネに扮したその瞳はまっすぐにフンヌを見つめている。
「め、女神……さま?」
一瞬フンヌの動きが止まる。それに呼応するかのようにカノンがゆらりと動く。次の瞬間フンヌの体中にに鈍い衝撃が駆け巡る。カノンの鉄山靠が炸裂したのだ。思わずのけぞり目を見開くフンヌ。
『感嘆、怪力。不快、大声』
そこへ間髪いれずにシロが最高速の一撃を叩き込む。
「グボアッッ」
シロの一撃はほんの僅かの間ではあるがフンヌを空白にする。
「おっしゃーーーっ!!! とどめの一撃だぜっ!! 受けて見やがれーーーっ!!!」
そこへ集中に集中を重ねたマリアの必殺の一撃が炸裂するっ!!!
「……お、おでは……マスターに……ゲフッ」
最後までマスターへの忠誠を口にしながらフンヌは泡を吹きながら地に伏した。
●
攫われた娘たちとともに外へ出るとそこにはアリアの姿が。
「申し訳ありません。想定はしていたのですが……思った以上に時間がかかってしまいました」
アリアは全く別の場所で戦っていた。アリアが核心をつき店員に詰め寄ったところで、店に2人の男が突如乱入。そのまま激しい戦闘になった。店内ということもあり、派手な攻撃を躊躇したアリアが虚をつかれ、一時はかなり危ない状態となったが、たまたま近くを巡回していた2人の女自由騎士の加勢もあり、形勢は瞬く間に逆転。最後はアリアのヒートアクセルが男の意識を奪い、見事捕縛に成功したという事だった。捕まえた2人はやはりアジトからいなくなっていた2人だった。なにやらネックレスに付いてかぎ回っている女がいると連絡を受け、急遽洋服店へ向かったらしい。その後店員からも情報を引き出し、店ごとに事情は違うものの、数多くの洋服店が奴隷売買組織と繋がっていた事も裏が取れたという。
これでこの失踪事件は無事に解決。人が消える試着室は元通りただの噂話に戻るであろう。
すぅ……すぅ……
気づけばかすかな寝息がふたつ。
仲良く背中合わせで眠る、カーミラとジュリエットのものだった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『黒いぽよん』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『わがままジュリエット』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『うつつで見るは妖しき艶夢』
取得者: ローラ・オルグレン(CL3000210)
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『わがままジュリエット』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『うつつで見るは妖しき艶夢』
取得者: ローラ・オルグレン(CL3000210)
特殊成果
『インディゴライトネックレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『インディゴライトネックレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『インディゴライトネックレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ローラ・オルグレン(CL3000210)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『インディゴライトネックレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『インディゴライトネックレス』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ローラ・オルグレン(CL3000210)
†あとがき†
攫われた娘たちと捕まっていた幻想種は無事救出されました。
MVPは一人別行動をとりながらも、奮闘した貴方へ。
イムソムニアで眠気に対応されたお2人もお見事でした。
48時間、ゆっくりお休みください。
ご参加ありがとうございました。
MVPは一人別行動をとりながらも、奮闘した貴方へ。
イムソムニアで眠気に対応されたお2人もお見事でした。
48時間、ゆっくりお休みください。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済