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地下鉱脈探検隊。或いは、コバルトは誰のもの?

●地下鉱脈の怪異
とある鉱山で地下鉱脈が発見された。
良質のコバルトが採掘されると噂され、調査に向かった鉱山夫たちだったが、ほんの数時間で彼らは逃げ戻って来ることになる。
逃げ戻って来た彼らは口を揃えて、こう言った。
「犬か狼の唸り声を聞いた」
「2本脚で歩く怪物を見た」
「コバルトは確かにあったが、あれは化け物たちの持ち物だ」
「暗闇の中で正確にこちらを追って来た」
鉱山夫たちの中には、鋭い刃物で切り裂かれたような傷を負った者もおり、以来、鉱山は封鎖されることとなる。
だが、今でも鉱山からは獣の咆哮が聞こえてくるのだ。
地下鉱脈に巣食う獣とは、果たして……。
それが地上に出て来ない保証はどこにあるのか……。
●依頼発注
「とまぁ、そんなわけで、鉱山の調査に行って来てはもらえんやろか?」
手にした資料に目を通しながら『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は、自由騎士たちへとそう告げた。
とある鉱山の地下鉱脈。
そこに巣食う怪物と、大量のコバルトにまつわる噂話だ。
「怪物も気になるけんやけどね。たぶん、悪魔化した何かが住み付いてるおもいます? 獣の鳴き声を聞いたって人もおるみたいやし、仮称は“コボルト”ってことにしてください。目撃者の話じゃ、数は1体やあらへんみたいです」
コボルトとは、犬の頭部に人の身体を持つ妖精の名だ。
なるほど確かに、コバルトとの関連も謳われる。
詳しい容姿を確認した者はいないが、妥当な命名であろう。
にんまりと笑って、ヒラガは告げる。
「そうそう。傷を受けた鉱山夫ですけど、しばらくまともに動けんようにならはって。たぶんやけど[カース]を付与されたん思います」
加えて、地下鉱脈という暗所にあって怪物は正確に鉱山夫たちの位置を把握していたようだ。
「偶発的なものか、それとも地下鉱脈のコバルトがイブリース化に関連しとったりするんかもしれません。怪物はコバルトを守ってはるんやろか? それとも、単にそこが巣なだけかもやけど? 気になるから、ちょっと詳しく調べてほしい思います」
要するに、地下鉱脈のコバルトを回収して来いということだろう。
「あんじょうきばって、よろしくおねがいします」
と、そう言って。
ヒラガは自由騎士たちを、地下鉱脈へと派遣した。
とある鉱山で地下鉱脈が発見された。
良質のコバルトが採掘されると噂され、調査に向かった鉱山夫たちだったが、ほんの数時間で彼らは逃げ戻って来ることになる。
逃げ戻って来た彼らは口を揃えて、こう言った。
「犬か狼の唸り声を聞いた」
「2本脚で歩く怪物を見た」
「コバルトは確かにあったが、あれは化け物たちの持ち物だ」
「暗闇の中で正確にこちらを追って来た」
鉱山夫たちの中には、鋭い刃物で切り裂かれたような傷を負った者もおり、以来、鉱山は封鎖されることとなる。
だが、今でも鉱山からは獣の咆哮が聞こえてくるのだ。
地下鉱脈に巣食う獣とは、果たして……。
それが地上に出て来ない保証はどこにあるのか……。
●依頼発注
「とまぁ、そんなわけで、鉱山の調査に行って来てはもらえんやろか?」
手にした資料に目を通しながら『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は、自由騎士たちへとそう告げた。
とある鉱山の地下鉱脈。
そこに巣食う怪物と、大量のコバルトにまつわる噂話だ。
「怪物も気になるけんやけどね。たぶん、悪魔化した何かが住み付いてるおもいます? 獣の鳴き声を聞いたって人もおるみたいやし、仮称は“コボルト”ってことにしてください。目撃者の話じゃ、数は1体やあらへんみたいです」
コボルトとは、犬の頭部に人の身体を持つ妖精の名だ。
なるほど確かに、コバルトとの関連も謳われる。
詳しい容姿を確認した者はいないが、妥当な命名であろう。
にんまりと笑って、ヒラガは告げる。
「そうそう。傷を受けた鉱山夫ですけど、しばらくまともに動けんようにならはって。たぶんやけど[カース]を付与されたん思います」
加えて、地下鉱脈という暗所にあって怪物は正確に鉱山夫たちの位置を把握していたようだ。
「偶発的なものか、それとも地下鉱脈のコバルトがイブリース化に関連しとったりするんかもしれません。怪物はコバルトを守ってはるんやろか? それとも、単にそこが巣なだけかもやけど? 気になるから、ちょっと詳しく調べてほしい思います」
要するに、地下鉱脈のコバルトを回収して来いということだろう。
「あんじょうきばって、よろしくおねがいします」
と、そう言って。
ヒラガは自由騎士たちを、地下鉱脈へと派遣した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.地下鉱脈の調査
2.地下鉱脈の脅威排除
2.地下鉱脈の脅威排除
●ターゲット
コボルト(イブリース?)×?
2本脚で立つ怪物、と目撃者は言う。
犬や狼に似た獣の声を聞いた者もいる。
鋭い刃物……それが武器か爪かは分からない。
どうやら数は1体ではないようだ。
・スラッシュ [攻撃] A:攻近単[カース2]
鋭い刃物による斬撃。
・コボルトスラッシュ [攻撃] A:攻近範[三連]
鋭い刃物による連続攻撃。
●場所
とある鉱山の地下鉱脈。
大量のコバルトが存在しているらしい。
ランプなど取り付けられていないため、暗所対策は必須である。
道幅はそれなりに広いようだ。
コボルト(イブリース?)×?
2本脚で立つ怪物、と目撃者は言う。
犬や狼に似た獣の声を聞いた者もいる。
鋭い刃物……それが武器か爪かは分からない。
どうやら数は1体ではないようだ。
・スラッシュ [攻撃] A:攻近単[カース2]
鋭い刃物による斬撃。
・コボルトスラッシュ [攻撃] A:攻近範[三連]
鋭い刃物による連続攻撃。
●場所
とある鉱山の地下鉱脈。
大量のコバルトが存在しているらしい。
ランプなど取り付けられていないため、暗所対策は必須である。
道幅はそれなりに広いようだ。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年02月15日
2020年02月15日
†メイン参加者 4人†
●
とある鉱山の地下鉱脈。
光さえ差さない遥か地の底。
遠くから響く、獣の咆哮。
湿った土とカビの匂いに眉をしかめて『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は小さなため息をこぼす。
その手には夜間用眼鏡が握られていた。
どうやら、ため息の原因はカビの匂いだけでなく、その夜間用眼鏡にもあるらしい。
「視界が狭くなるような気がして、あまり好きじゃないのよねコレ」
と、そんなことを呟いて視線を背後へ向けた。
「えっと……カンテラも一応持って来てはいますけれど」
困ったような顔をしてはセアラ・ラングフォード(CL3000634)視線を地下鉱脈の奥へと移す。
なるほどたしかに、彼女の持参したカンテラであれば暗闇を明るく照らすことも可能だろう。
「近くの町で聞いた話では、地面の陥没によって偶然入口を発見したという話でしたが……」
この広く長い地下鉱脈においてカンテラの明かりの届く範囲はひどく狭い。
あくまで補助としての役割以外は期待できない。
とはいえ、ないよりは遥かにマシであろうが。
セアラ自身は[リュウケンスの瞳]のおかげで、暗闇でも大きな問題なく行動が可能であるようだ。
「たしかに暗いけど、獲物は狼の唸り声をあげるんだろ?そうなら、近くにきたらわかりそうなもんだが……」
と、そう呟いたのは『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)だ。
手にしたカンテラを掲げ、しきりに視線を左右の壁へと走らせる。背負った戦斧を十全に振り回せるか否か確認しているのだろう。
「皆、準備はいい? よぉし、それじゃあ探検だー!」
仲間たちを見回して、『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)はきらきらとした笑顔で捜査の開始を告げたのだった。
地下鉱脈などに縁のない人生を送ってきたナナンは、いざ出発という段階になっていよいよ「わくわくドキドキ」を抑えきれなくなっちゃったらしい。
こうして4名は、地下鉱脈に巣食うという獣頭人体の怪物……コボルトの捜査および、コボルトの守護する鉱石・コバルトの調査へ出発した。
●
「今のところ一本道のようだけど……おかしいわね、壁面に採掘された跡があるわ」
手にした紙片に道順を記載しながら、エルシーは「はて?」と首をかしげる。
「炭鉱夫さんたち……では、ないのでしょうか?」
と、そう答えたのはセアラであった。
だが、エルシーの触れていた壁面に顔を近づけるなり早々「違いますね」と自身の予想が間違っていることに気が付いた。
「こいつはツルハシやスコップで掘った痕跡じゃないな。もしそう言うのならさ……こう!」
ガキン、と硬い音が響いた。
ジーニーの振るった戦斧が壁に叩きつけられた音だ。
天井からは、パラパラと小石が降り注ぐ。
「ほんとだ! ジーニーちゃんの斧の跡と、もともとあった跡じゃ全然違うのだ!」
降り注ぐ小石を避けながら、ナナンは興奮した声をあげる。
ジーニーの斧によってつけられた鋭い傷跡。
その隣には、もともとあった粗い……たとえば、力任せに壁を殴り壊したような痕跡。
「埋まっていたのはコバルトかしら?」
どうやらコボルトたちは、壁に埋まった鉱石を力任せに掘り出せる程度には高い膂力を有しているらしい。
その答えにいたり、エルシーはきゅっと唇を引き締める。
「不意打ちに備えます。もう少し、慎重に進みましょう」
セフィラを使用するエルシーを先頭に、4人はさらに地下鉱脈を奥へと進む。
「来たわね……」
そう言葉を吐いて。
エルシーはわずかに腰を沈ませた。
視線の先、暗闇の奥から聞こえる荒い吐息。
時折混じる「ウォン」という吠え声。
コボルトだ。
4人の視界に4体のコボルトが姿を現す。
百七十センチ前後の身長。狼の頭部。長い体毛に覆われてこそいるものの、その骨格は人のそれに非常に近しい。
そして、その手には、ぼんやりと青く光る斧や剣を携えていた。
鉱石……おそらくはコバルトを削って造り出したものなのだろう。金属製の武器と異なり、粗さが目立つ。
石器といった方が、ともすると近いかもしれない。
「聞いていた特徴と一致しますね。コボルトで間違いないかと……ですが、正体は何なのでしょうね。イブリースか幻想か……人間ではなさそうですが」
カンテラ片手にセアラは呟く。
道具を造り、扱うのが人間の大きな特徴であり、一般的な獣とは異なる点だ。
だが、コボルトたちのもつ武器はどうだろう。
おそらくは、通常の方法で精製された石器ではない。コバルトを削ったところで、武器としての性能など無いに等しいのだから。
それを武器として扱うということは……それなりの切れ味を有しているはずだ。襲われた炭鉱夫たちの負った、鋭い切り傷ももしかするとコバルト製の武器でつけられたものかもしれない、とセアラは予想する。
「ねぇ、ここはコボルトちゃんたちの大事な場所なの?」
警戒するエルシーやセアラの間を潜り抜け、ナナンはコボルトたちの前へと歩を進める。
笑顔を浮かべ、小首を傾げ、コボルトたちに問いかけた。
ぎょっとした表情を浮かべ駈け出そうとしたセアラだが、エルシーがため息とともにそれを制した。
「言葉、通じるのかしら? えぇっと、はじめまして。貴方達と話がしたいのだけれど……」
ナナンの隣に立ち、エルシーはそう言葉を投げた。
コボルトたちは、じぃと4人を観察し……。
『ォォォオオオン‼」
雄たけびとともに、地面を蹴って駈け出した。
各々がコバルト製の武器を振りかざす。
どうやら戦意は満点のようだ。
「これは話し合いというより、殴り合った末に分かり合うって感じじゃないかな?」
振り下ろされたコバルトの剣を戦斧で叩き折りながら、ジーニーはそう呟いた。
彼女の零した小さな声は、けれど誰の耳にも届かない。
コボルトの咆哮にかき消され、闇の静寂へ飲まれて消えた。
コボルトの斧を、籠手で滑らせ受け流す。
飛び散ったコバルトの破片が、エルシーの頬に細かな傷を付けた。滲む血もそのままに、エルシーはコボルトの手首へ拳打を加える。
ぎゃん! と痛みに悲鳴をあげてコボルトの手から斧が落ちた。
仲間の悲鳴を聞きつけてか、2体のコボルトがエルシーへと標的を変える。襲い来るコボルトへ視線を移し、構えを取るが……。
「ナナンに任せてぇ!」
コボルトのうち1体を、ナナンの両手剣が殴打する。
元々、2体のコボルトはナナンが受け持っていた相手だ。
ナナンは支援要員であるセアラの護衛を担っていたのだが、コボルトがエルシーへ標的を変更したのなら、こうして攻勢に移ることもできる。
大剣による一撃を受け、コボルトは前のめりに倒れこむ。
隣を走っていた仲間が攻撃を受けたのだ。
エルシーへ襲い掛かるコボルトたちは、どうするべきかと動揺を見せた。
さらに……。
「犬ってのは昔から人間と仲良くできる種族だろ? 人間とも仲良くできるんじゃねぇのか?」
戦斧のフルスイングが、コバルトの剣を粉々に砕く。
それでも戦斧の勢いは止まらない。
斧に打ち据えられたコボルトが1体、意識を失い地に伏した。
仲間が先頭不能に陥ったのを見て、残りのコボルト3体が動きを止める。
一瞬……ほんの一瞬、エルシーから視線を逸らしたことがコボルトたちの敗因だ。
「全員、射程圏内よ!」
踊るように、跳ねるように。
エルシーはコボルトたちの間を駆け抜ける。
タタン、タタンと軽い音。リズムを刻み、拳を振るう。
防御の姿勢さえとっていなかったコボルトたちは、瞬く間にその意識を失った。
「ダメージはともかく、カースが厄介ですね」
セアラの翳した手の平から、淡い燐光があふれ出す。
仲間の治療を続けながら、その視線は先ほど倒したコボルトたちへと向いていた。
否……コボルトだったもの、というべきか。
そこに居たのは4頭の狼。どうやらコボルトたちは、イブリースで間違いないらしい。
4体の狼は洞窟の隅にうずくまり、互いの傷を舐めあっていた。
「ねぇ……」
と、エルシーが声をかけると、尻尾を巻いて威嚇する。どうやら彼女にやられたことが、トラウマになっているようだ。
その様子を見たナナンは「かわいそう」と言いながら狼たちへフルーツを与えている。
苦虫を噛み潰したような顔をするエルシーを宥めながら、ジーニーは「さて」と首を傾げた。
「他にも仲間はいるのか? イブリース化を解いてやろうってんだ。悪いようにはしないさ」
「狼は一般的に5~10匹程度、多ければ30匹を超える群れを形成すると聞きますね」
カンテラを掲げ、セアラは呟く。
残るコボルトが何体いるのか不明だが、このままここで立ち止まっても仕方がない。
そう考えて、4人は先へと進むことを選択した。
カンテラの明かりに照らされて浮かび上がった青い壁面。
それは大量のコバルトだった。
周辺にコボルトたちの姿はない。
だが……。
「この先にも空間があります。もっと広い空間が……」
リュウケンスの瞳で壁を見やって、セアラは告げる。
「コボルトちゃんたちのお家があるってことぉ?」
コツン、と大剣の柄で壁面を突きながらナナンは問うた。
コボルトがさきほどの4体だけではないと、そう確信しているようだ。
「炭鉱夫さんたちがコボルトに襲われたのは、この場所で間違いないでしょうから……ここから先は、前人未到の地ということになるでしょうか」
カンテラの明かりを下げ、セアラは足元を照らす。そこには折れたツルハシや衣服の切れ端、それから血痕が残っていた。
「壊すか?」
戦斧を掲げたジーニーが、コバルトの埋まる壁面へと視線を向ける。
手伝うわ、と言わんばかりにエルシーがその隣に並んだ。
「いえ、必要ないかと。ほら、あちらに奥へ続く道がありますから」
セアラが指さした先。壁の一部が崩落し、奥へとつながる通路があった。
人為的に作られた通路ではなく、自然に壁が倒壊してできたものだろう。
コバルトに目を向けていた炭鉱夫たちは、おそらくそれに気が付いていなかったようだ。
こうして4人はコバルトの埋まる壁の向こうへ歩を進めた。
そこには都合7体のコボルト。
そして、山のように大量のコバルトがあった。
●
きらきらと、光を反射しコバルトの山が輝いて見える。
光……それは、十数メートル上方、天井の割れ目から差し込む太陽の光だ。
「コボルトちゃんたちは、あそこから落ちてきたのかなぁ?」
「コボルトが落ちてきたのではなく、落ちてきてからイブリース化したのではないかと」
前線で戦うエルシーとジーニーの後ろ姿を眺めつつ、セアラとナナンは言葉を交わす。
4人の姿に気づいた7体のコボルトは、武器を手にして襲い掛かって来た。
最初に交戦した4体は、いわば斥候のようなものだったのか。
「ちっ……」
コボルトの攻撃を受け、ジーニーは数歩たたらを踏んで後退した。その右肩から胸にかけて、鋭い裂傷が刻まれている。
一瞬の隙を見せたジーニーに、コボルトたちが殺到する。
「やべぇ……判断ミスだ」
ジーニーの頬を冷や汗が伝う。
けれど……コボルトたちの刃がジーニーに届くことはなかった。
「よけて! よけてー!」
甘ったるい叫び声。
ジーニーの横を通過する光球が、コボルトたちの中央で爆ぜた。
まき散らされる熱気と冷気。
ナナンによる支援を受けて、ジーニーは態勢を立て直す。
肩から胸にかけての傷も、すでにふさがり始めていた。
セアラによる回復支援がある限り、多少の怪我なら速やかに前線へ復帰できる。そのことを知るジーニーは、治療の途中だが斧を担いで前へと進む。
「目的は調査と脅威排除ですから、元の狼に戻した上で地上へ連れて帰りましう」
「11匹の狼をか? そいつは骨が折れそうだ……面倒だぜ!」
凍り付き、動けないでいるコボルトの頭部へ斧の腹が叩き込まれた。
武器を折られ、砕かれる度にコボルトたちはコバルトを使って新たな武器を精製する。どうやら、コバルトから武器を作るという能力をコボルトたちは備えているらしい。
イブリースという存在のでたらめさを改めて目の当たりにし、セアラは「ふぅ」とため息をこぼす。
「皆さん、回復が必要ならおっしゃってください。すぐに対応しますから」
そう言葉を投げかけると「えぇ」「おう!」と前線で戦うエルシーとジーニーから即座に了承の声が返る。
後衛のセアラや、セアラの護衛と仲間の援護を担うナナンはさほどダメージを負う場面もないのだが、前衛の2人はそうはいかない。
「うぅん……そこなのだ!」
そう言ってナナンは光球を放つ。
着弾し拡散される熱気と冷気に煽られて、残り3体となったコボルトたちが姿勢を崩した。
その瞬間……。
「後はお前らだけだな! キャンキャン鳴かせてやるぜ……覚悟しなっ!」
振り下ろされた戦斧が地面を打った。
解き放たれた衝撃波が、3体のコボルトの体を打ち抜く。
意識を失い、狼へと戻るコボルトを見ながら「よし」と小さく、ジーニーは拳を握りしめた。
「さて、コバルトも回収したし……地下鉱脈はここで終点のようね」
採取したコバルトを荷物の中にしまい込み、エルシーは視線を背後へ向けた。
そこに居たのは規則正しく整列した11匹の狼たち。
その先頭に立つナナンは、にこにこ顔で狼たちにフルーツを配っている。どうやら無事、狼を手懐けることに成功したようだ。
後は狼を伴い帰路につくだけである。
「誤って地下鉱脈に落下した狼たちがイブリースへ変異した……という感じでしょうか」
すでにイブリース化も解けている。
地上に戻って、狼たちは近くの山へでも開放してやればそれで構わないだろう。
こうして、無事地下鉱脈に巣食うコボルトを撃破した4人は、元来た道を引き返していく。
とある鉱山の地下鉱脈。
光さえ差さない遥か地の底。
遠くから響く、獣の咆哮。
湿った土とカビの匂いに眉をしかめて『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は小さなため息をこぼす。
その手には夜間用眼鏡が握られていた。
どうやら、ため息の原因はカビの匂いだけでなく、その夜間用眼鏡にもあるらしい。
「視界が狭くなるような気がして、あまり好きじゃないのよねコレ」
と、そんなことを呟いて視線を背後へ向けた。
「えっと……カンテラも一応持って来てはいますけれど」
困ったような顔をしてはセアラ・ラングフォード(CL3000634)視線を地下鉱脈の奥へと移す。
なるほどたしかに、彼女の持参したカンテラであれば暗闇を明るく照らすことも可能だろう。
「近くの町で聞いた話では、地面の陥没によって偶然入口を発見したという話でしたが……」
この広く長い地下鉱脈においてカンテラの明かりの届く範囲はひどく狭い。
あくまで補助としての役割以外は期待できない。
とはいえ、ないよりは遥かにマシであろうが。
セアラ自身は[リュウケンスの瞳]のおかげで、暗闇でも大きな問題なく行動が可能であるようだ。
「たしかに暗いけど、獲物は狼の唸り声をあげるんだろ?そうなら、近くにきたらわかりそうなもんだが……」
と、そう呟いたのは『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)だ。
手にしたカンテラを掲げ、しきりに視線を左右の壁へと走らせる。背負った戦斧を十全に振り回せるか否か確認しているのだろう。
「皆、準備はいい? よぉし、それじゃあ探検だー!」
仲間たちを見回して、『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)はきらきらとした笑顔で捜査の開始を告げたのだった。
地下鉱脈などに縁のない人生を送ってきたナナンは、いざ出発という段階になっていよいよ「わくわくドキドキ」を抑えきれなくなっちゃったらしい。
こうして4名は、地下鉱脈に巣食うという獣頭人体の怪物……コボルトの捜査および、コボルトの守護する鉱石・コバルトの調査へ出発した。
●
「今のところ一本道のようだけど……おかしいわね、壁面に採掘された跡があるわ」
手にした紙片に道順を記載しながら、エルシーは「はて?」と首をかしげる。
「炭鉱夫さんたち……では、ないのでしょうか?」
と、そう答えたのはセアラであった。
だが、エルシーの触れていた壁面に顔を近づけるなり早々「違いますね」と自身の予想が間違っていることに気が付いた。
「こいつはツルハシやスコップで掘った痕跡じゃないな。もしそう言うのならさ……こう!」
ガキン、と硬い音が響いた。
ジーニーの振るった戦斧が壁に叩きつけられた音だ。
天井からは、パラパラと小石が降り注ぐ。
「ほんとだ! ジーニーちゃんの斧の跡と、もともとあった跡じゃ全然違うのだ!」
降り注ぐ小石を避けながら、ナナンは興奮した声をあげる。
ジーニーの斧によってつけられた鋭い傷跡。
その隣には、もともとあった粗い……たとえば、力任せに壁を殴り壊したような痕跡。
「埋まっていたのはコバルトかしら?」
どうやらコボルトたちは、壁に埋まった鉱石を力任せに掘り出せる程度には高い膂力を有しているらしい。
その答えにいたり、エルシーはきゅっと唇を引き締める。
「不意打ちに備えます。もう少し、慎重に進みましょう」
セフィラを使用するエルシーを先頭に、4人はさらに地下鉱脈を奥へと進む。
「来たわね……」
そう言葉を吐いて。
エルシーはわずかに腰を沈ませた。
視線の先、暗闇の奥から聞こえる荒い吐息。
時折混じる「ウォン」という吠え声。
コボルトだ。
4人の視界に4体のコボルトが姿を現す。
百七十センチ前後の身長。狼の頭部。長い体毛に覆われてこそいるものの、その骨格は人のそれに非常に近しい。
そして、その手には、ぼんやりと青く光る斧や剣を携えていた。
鉱石……おそらくはコバルトを削って造り出したものなのだろう。金属製の武器と異なり、粗さが目立つ。
石器といった方が、ともすると近いかもしれない。
「聞いていた特徴と一致しますね。コボルトで間違いないかと……ですが、正体は何なのでしょうね。イブリースか幻想か……人間ではなさそうですが」
カンテラ片手にセアラは呟く。
道具を造り、扱うのが人間の大きな特徴であり、一般的な獣とは異なる点だ。
だが、コボルトたちのもつ武器はどうだろう。
おそらくは、通常の方法で精製された石器ではない。コバルトを削ったところで、武器としての性能など無いに等しいのだから。
それを武器として扱うということは……それなりの切れ味を有しているはずだ。襲われた炭鉱夫たちの負った、鋭い切り傷ももしかするとコバルト製の武器でつけられたものかもしれない、とセアラは予想する。
「ねぇ、ここはコボルトちゃんたちの大事な場所なの?」
警戒するエルシーやセアラの間を潜り抜け、ナナンはコボルトたちの前へと歩を進める。
笑顔を浮かべ、小首を傾げ、コボルトたちに問いかけた。
ぎょっとした表情を浮かべ駈け出そうとしたセアラだが、エルシーがため息とともにそれを制した。
「言葉、通じるのかしら? えぇっと、はじめまして。貴方達と話がしたいのだけれど……」
ナナンの隣に立ち、エルシーはそう言葉を投げた。
コボルトたちは、じぃと4人を観察し……。
『ォォォオオオン‼」
雄たけびとともに、地面を蹴って駈け出した。
各々がコバルト製の武器を振りかざす。
どうやら戦意は満点のようだ。
「これは話し合いというより、殴り合った末に分かり合うって感じじゃないかな?」
振り下ろされたコバルトの剣を戦斧で叩き折りながら、ジーニーはそう呟いた。
彼女の零した小さな声は、けれど誰の耳にも届かない。
コボルトの咆哮にかき消され、闇の静寂へ飲まれて消えた。
コボルトの斧を、籠手で滑らせ受け流す。
飛び散ったコバルトの破片が、エルシーの頬に細かな傷を付けた。滲む血もそのままに、エルシーはコボルトの手首へ拳打を加える。
ぎゃん! と痛みに悲鳴をあげてコボルトの手から斧が落ちた。
仲間の悲鳴を聞きつけてか、2体のコボルトがエルシーへと標的を変える。襲い来るコボルトへ視線を移し、構えを取るが……。
「ナナンに任せてぇ!」
コボルトのうち1体を、ナナンの両手剣が殴打する。
元々、2体のコボルトはナナンが受け持っていた相手だ。
ナナンは支援要員であるセアラの護衛を担っていたのだが、コボルトがエルシーへ標的を変更したのなら、こうして攻勢に移ることもできる。
大剣による一撃を受け、コボルトは前のめりに倒れこむ。
隣を走っていた仲間が攻撃を受けたのだ。
エルシーへ襲い掛かるコボルトたちは、どうするべきかと動揺を見せた。
さらに……。
「犬ってのは昔から人間と仲良くできる種族だろ? 人間とも仲良くできるんじゃねぇのか?」
戦斧のフルスイングが、コバルトの剣を粉々に砕く。
それでも戦斧の勢いは止まらない。
斧に打ち据えられたコボルトが1体、意識を失い地に伏した。
仲間が先頭不能に陥ったのを見て、残りのコボルト3体が動きを止める。
一瞬……ほんの一瞬、エルシーから視線を逸らしたことがコボルトたちの敗因だ。
「全員、射程圏内よ!」
踊るように、跳ねるように。
エルシーはコボルトたちの間を駆け抜ける。
タタン、タタンと軽い音。リズムを刻み、拳を振るう。
防御の姿勢さえとっていなかったコボルトたちは、瞬く間にその意識を失った。
「ダメージはともかく、カースが厄介ですね」
セアラの翳した手の平から、淡い燐光があふれ出す。
仲間の治療を続けながら、その視線は先ほど倒したコボルトたちへと向いていた。
否……コボルトだったもの、というべきか。
そこに居たのは4頭の狼。どうやらコボルトたちは、イブリースで間違いないらしい。
4体の狼は洞窟の隅にうずくまり、互いの傷を舐めあっていた。
「ねぇ……」
と、エルシーが声をかけると、尻尾を巻いて威嚇する。どうやら彼女にやられたことが、トラウマになっているようだ。
その様子を見たナナンは「かわいそう」と言いながら狼たちへフルーツを与えている。
苦虫を噛み潰したような顔をするエルシーを宥めながら、ジーニーは「さて」と首を傾げた。
「他にも仲間はいるのか? イブリース化を解いてやろうってんだ。悪いようにはしないさ」
「狼は一般的に5~10匹程度、多ければ30匹を超える群れを形成すると聞きますね」
カンテラを掲げ、セアラは呟く。
残るコボルトが何体いるのか不明だが、このままここで立ち止まっても仕方がない。
そう考えて、4人は先へと進むことを選択した。
カンテラの明かりに照らされて浮かび上がった青い壁面。
それは大量のコバルトだった。
周辺にコボルトたちの姿はない。
だが……。
「この先にも空間があります。もっと広い空間が……」
リュウケンスの瞳で壁を見やって、セアラは告げる。
「コボルトちゃんたちのお家があるってことぉ?」
コツン、と大剣の柄で壁面を突きながらナナンは問うた。
コボルトがさきほどの4体だけではないと、そう確信しているようだ。
「炭鉱夫さんたちがコボルトに襲われたのは、この場所で間違いないでしょうから……ここから先は、前人未到の地ということになるでしょうか」
カンテラの明かりを下げ、セアラは足元を照らす。そこには折れたツルハシや衣服の切れ端、それから血痕が残っていた。
「壊すか?」
戦斧を掲げたジーニーが、コバルトの埋まる壁面へと視線を向ける。
手伝うわ、と言わんばかりにエルシーがその隣に並んだ。
「いえ、必要ないかと。ほら、あちらに奥へ続く道がありますから」
セアラが指さした先。壁の一部が崩落し、奥へとつながる通路があった。
人為的に作られた通路ではなく、自然に壁が倒壊してできたものだろう。
コバルトに目を向けていた炭鉱夫たちは、おそらくそれに気が付いていなかったようだ。
こうして4人はコバルトの埋まる壁の向こうへ歩を進めた。
そこには都合7体のコボルト。
そして、山のように大量のコバルトがあった。
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きらきらと、光を反射しコバルトの山が輝いて見える。
光……それは、十数メートル上方、天井の割れ目から差し込む太陽の光だ。
「コボルトちゃんたちは、あそこから落ちてきたのかなぁ?」
「コボルトが落ちてきたのではなく、落ちてきてからイブリース化したのではないかと」
前線で戦うエルシーとジーニーの後ろ姿を眺めつつ、セアラとナナンは言葉を交わす。
4人の姿に気づいた7体のコボルトは、武器を手にして襲い掛かって来た。
最初に交戦した4体は、いわば斥候のようなものだったのか。
「ちっ……」
コボルトの攻撃を受け、ジーニーは数歩たたらを踏んで後退した。その右肩から胸にかけて、鋭い裂傷が刻まれている。
一瞬の隙を見せたジーニーに、コボルトたちが殺到する。
「やべぇ……判断ミスだ」
ジーニーの頬を冷や汗が伝う。
けれど……コボルトたちの刃がジーニーに届くことはなかった。
「よけて! よけてー!」
甘ったるい叫び声。
ジーニーの横を通過する光球が、コボルトたちの中央で爆ぜた。
まき散らされる熱気と冷気。
ナナンによる支援を受けて、ジーニーは態勢を立て直す。
肩から胸にかけての傷も、すでにふさがり始めていた。
セアラによる回復支援がある限り、多少の怪我なら速やかに前線へ復帰できる。そのことを知るジーニーは、治療の途中だが斧を担いで前へと進む。
「目的は調査と脅威排除ですから、元の狼に戻した上で地上へ連れて帰りましう」
「11匹の狼をか? そいつは骨が折れそうだ……面倒だぜ!」
凍り付き、動けないでいるコボルトの頭部へ斧の腹が叩き込まれた。
武器を折られ、砕かれる度にコボルトたちはコバルトを使って新たな武器を精製する。どうやら、コバルトから武器を作るという能力をコボルトたちは備えているらしい。
イブリースという存在のでたらめさを改めて目の当たりにし、セアラは「ふぅ」とため息をこぼす。
「皆さん、回復が必要ならおっしゃってください。すぐに対応しますから」
そう言葉を投げかけると「えぇ」「おう!」と前線で戦うエルシーとジーニーから即座に了承の声が返る。
後衛のセアラや、セアラの護衛と仲間の援護を担うナナンはさほどダメージを負う場面もないのだが、前衛の2人はそうはいかない。
「うぅん……そこなのだ!」
そう言ってナナンは光球を放つ。
着弾し拡散される熱気と冷気に煽られて、残り3体となったコボルトたちが姿勢を崩した。
その瞬間……。
「後はお前らだけだな! キャンキャン鳴かせてやるぜ……覚悟しなっ!」
振り下ろされた戦斧が地面を打った。
解き放たれた衝撃波が、3体のコボルトの体を打ち抜く。
意識を失い、狼へと戻るコボルトを見ながら「よし」と小さく、ジーニーは拳を握りしめた。
「さて、コバルトも回収したし……地下鉱脈はここで終点のようね」
採取したコバルトを荷物の中にしまい込み、エルシーは視線を背後へ向けた。
そこに居たのは規則正しく整列した11匹の狼たち。
その先頭に立つナナンは、にこにこ顔で狼たちにフルーツを配っている。どうやら無事、狼を手懐けることに成功したようだ。
後は狼を伴い帰路につくだけである。
「誤って地下鉱脈に落下した狼たちがイブリースへ変異した……という感じでしょうか」
すでにイブリース化も解けている。
地上に戻って、狼たちは近くの山へでも開放してやればそれで構わないだろう。
こうして、無事地下鉱脈に巣食うコボルトを撃破した4人は、元来た道を引き返していく。