MagiaSteam
冬の巨獣は緑の羽ばたき



●世の中デカさがモノをいう
 全長:15m。
 全幅:25m。
 それが、この恐るべき幻想種の大きさである。
 つまりは、見上げるほどに高く、視界に収まりきらないほどに大きい。
 ということだ。
 その威容は、まさに伝説の幻想種の名にふさわしいものであろう。
 記録によれば前回ソレが現れたのは十年前。
 そして、判明している生態として、活動が活発になるのが十年に一度。
 要するに、今年は『当たり年』なワケなのである。
「ヤツが……、来る……!」
 イ・ラプセルのとある地方にて、彼はそう叫んだ。
 今年で50になる彼は、実に30年前からヤツに悩まされてきた。
 十年に一度の邂逅。それがもたらす多いなる悲劇。
 過去三度、その憂き目にあってきた彼にとって、もはやヤツは疫病神だった。
 そう、十年に一度、イ・ラプセルのとある業種に甚大な被害をもたらすヤツこそは――嗚呼、恐るべきヤツこそは――――!
「ヤツが来る……! ヤツが、ヤツが……!」
 戦慄と共に、キャベツ農家30年の彼は叫んだ。
「巨ベツが……、来る!」

●イ・ラプセル空前のスケールでお送りします
「ついに巨ベツが現れる時期になってしまったのである」
 集められた自由騎士を前に、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) がそう告げた。
 ――何だそれ。
 自由騎士達は何も理解できずに首をひねった。
「巨ベツとは、見た目が巨大なキャベツだがキャベツとは全く関係がない幻想種である。幼体のまま十年間地中で成長し、十年に一度地上に現れるという、独特の生態を持った植物型幻想種なのであるが……」
 そこまでの説明を受けて、自由騎士達はまた首をひねる。
「……キャベツ型幻想種」
 幻想種ってやつは何でもありだなァ!
 自由騎士数人は全く同時にそんなことを思った。
「まずこの巨ベツであるが、その名の通り巨大である」
 全長15m、全幅25mなのだとか。
 大きい。圧倒的に大きい。とにかく大きい。だが見た目キャベツ。
「そして外側の葉を羽ばたかせることで、飛行が可能である」
 本当に幻想種ってヤツは何でもありだなァ!?
 今度は自由騎士全員が全く同時にそんなことを思った。
 だが、一定周期とはいえそんな巨大な生物が活動するとなると、周囲の地域には多大な被害が出るのではなかろうか。これは、案外大きな事件では?
 と、考えていた自由騎士もいたが、
「この巨ベツによってもたらされる被害とはキャベツ泥棒である」
「…………ん?」
「巨ベツはキャベツ畑で栽培されているキャベツを自分と同族だと思い、畑ごとキャベツを強奪してしまうのであるな。これによってキャベツ農家は甚大な被害を被るのである」
 やることしょっぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
 それはまさにイ・ラプセル空前のスケールでお送りする野菜泥棒であった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
吾語
■成功条件
1.巨ベツをやっつける
冬キャベツは甘くておいしいって言いますね。
吾語です。
では、以下シナリオ概要です。

●敵
・巨ベツ×1
 とてつもなくデケェキャベツですがコイツ自身は食べれません。
 キャベツを同族と思いキャベツ畑を地面から抉り取って自分の内部に収納します。
 キャベツ農家にとっては害獣以外の何物でもないでしょう。
 今回、巨ベツはすでに内部にキャベツ畑収納済みです。
 外の葉を羽ばたかせて空を飛びまず。着地状態だとほぼ移動できません。
 攻撃方法は、
 羽ばたきによる烈風(全:物理ダメージ+ノックバック)
 空中からのボディプレス(近範囲:物理ダメージ+ウィーク2)
 となります。なお、巨体すぎるので自由騎士側のノックバックは通用しません。
 ただし、巨体ではありますがキャベツなので、防御力は高くないです。
 また、巨ベツは一定ダメージを与えるたびに外側の葉が削れていきます。
 この葉を全てはがせば巨ベツは倒れ、内部のキャベツ畑を解放することができます。
 根気強く葉っぱをはがしていってください。
 戦闘後、内部に収納されているキャベツは補償として国が買い取ることになります。

●戦場
・平原
 巨ベツはキャベツ畑を襲撃したのち、平原で休んでいます。
 時間帯は昼間となります。周囲に建物などはありません。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/10
公開日
2019年01月31日

†メイン参加者 8人†

『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『ひまわりの約束』
ナナン・皐月(CL3000240)
『困った時のウィリアムおじさん』
ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)


●天より来たれり、其の名は巨ベツ
 少し、早く着きすぎてしまったようだ。
「おお……」
 『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が感嘆の声を漏らす。
 駆けつけた自由騎士達が見たのは、信じがたい光景だった。
「まぁ~、すごいですねぇ」
 これには、『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)までもがのんびりとビックリしていた。のんびりと。
 見上げれば、そこにあるのは巨大な影。
 完全な円ではなく、見覚えのある楕円形である。
「……おおきい」
 リムリィ・アルカナム(CL3000500)も、そんな感想を素直に呟く。
「何てで――――っかい、キャベツ……!」
 隣の『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)がそれを叫んだ。
 そう、それはキャベツ。空を飛んでいてなお巨大と分かるキャベツであった。
 即ち――これこそが巨ベツ!
「いやいやいやいや、幻想種って本当に何でもありネ」
 ワン・フェイロン(CL3000492)が信じがたいとばかりに首を振っている。
 しかし視線を空に合わせれば、そこに確かに巨ベツはあった。
 だが現実。これは現実!
「あんな幻想種は初めて見る。……世の中、まだまだ知らないことが多い」
 『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)は冷静に呟きつつ、「だが」と続けた。
「すでにあの中には盗んだキャベツがあるはずだ」
「そうだな。ふざけた外見の化物でも、農業に打撃を与えるならば退治せねば。農業生産力の低下はそのまま国力の低下にも直結するからな」
 やけに真面目な口調で、アデル・ハビッツ(CL3000496)が同意した。
「しかし、あの巨体をこっちに近づける必要があるな」
 リュリュがあごに手を当て考える。
 巨ベツはこれから地面に降り立って休むところだろう。できることなら、攻撃しやすい位置に降りて欲しいが――
「それなら!」
 と、手を挙げたのは『新米兵士』ナバル・ジーロン(CL3000441)だった。
「あのデカベツをおびき寄せる、いい方法があるぜ!」
 他の自由騎士達の視線を一身に集めながら、彼は自信ありげに言い切った。

●一山いくらの大作戦
 キャベツ。
 それは言うなれば葉の塊である。
 瑞々しい葉が幾重幾層にも重なって出来上がる、その芸術的楕円フォルム。
 生で良し、煮てよし、焼いてよし。
 その食べ方は実に多彩。野菜の中でも特に知名度が高い、食卓のお供。
 ここ水の国イ・ラプセルは特にキャベツ農家が多い。
 そんな噂もあったりなかったり。ちなみに王宮は特にコメントしていない。
 嗚呼、キャベツ。
 それこそまさに水の国に相応しい、野菜オブ野菜!
 そんな、丸々とした立派なキャベツが今、ナバルの手の中にあった。
「くっくっく、見ろよこの可愛らしいキャベツちゃん!」
 その手にかかるずっしりとした重みを存分に感じながら、彼はキャベツを見せつけるようにして高く掲げた。
「触ってみりゃ表面もツヤツヤスベスベで、こりゃ食べちゃいたくなるぜ!」
 言って、一拍。
「…………いいや、食べるね!」
 堂々と宣言し、ナバルはキャベツの外の葉をベリッと剥がして口に入れた。
 二度、三度と噛めば採れたてホヤホヤのキャベツの甘みが口の中に広がっていく。それは調味料などなくても十分美味と呼べるものだった。
「うンま~~~~い! これはもう止まらない、こうして、こうだ!」
 彼はまた葉をむしって、自分の口に投げ入れる。
 シャクシャク、モグモグ。
「ああうめぇなぁ! ガッハッハ! ジワジワ味わい尽くしてやるぜー!」
 ナバルがそうやって、三枚目の葉をむしろうとしたときだった。
 急に、空が陰った。
「……おっと?」
 気づいたナバルが上を見る。そこに、根っこがあった。
 キャベツって下から見るとこんな感じなのかー。と、ナバルは思った。
「感心してないで避けるネ――――ッ!」
「うわ、ヤッベ!」
 離れた場所からフェイロンが叫んだ。巨ベツが、落ちてきているのだ。
 ナバルも慌ててその場を離脱し、自由騎士達の前に巨大幻想種は落下した。「「「う、わ、わ、わ、わ、わ!」」」
 地面が、半端なく揺れた。
「あ~、危なかった……」
 尻もちをついたナバルが、額の汗をぬぐう。挑発が効きすぎたようだ。
 八人の自由騎士が見る先に、巨ベツは大きくそそり立っていた。
 まるで、薄緑色の壁だ。
「この中に、盗まれたキャベツがあるんですよねぇ?」
「いや、あるのは、盗まれたキャベツ畑だよ」
 シェリルの言葉にかぶりを振って、リュリュが訂正した。
 畑ごととは全く、史上空前のスケールでお送りする野菜泥棒ではないか。
「相手は恐るべき巨体だが、だからこそその動きは鈍重なはずだ」
 ウィリアムが持ってきた薬物をその場で調合しながら言う。
 彼の言う通り、薄緑色の壁は動きこそしているが、全体的にかなり遅い。
「一斉攻撃だー! ドッカーン!」
 両手持ちの大剣を振り回し、ナナンが巨ベツの表面を力の限り叩いた。
 バリバリと、裂けるような音がする。
「わ、わ、簡単に破れちゃった!」
 ナナンが小さく驚いた。
 手応えも盛大で、刃は薄緑の壁を完全に突き破っていた。
「とりゃ。とりゃ。えい」
 抑揚のない声で、リムリィも巨ベツの葉を攻撃していった。
 敵もズズズと動きはするが、とにかく動きが遅いので避けられることがない。
 叩きやすい。これは本当に叩きやすい。
「うごかないまとはあてるのがらくでいい」
「本当にな」
 生み出したホムンクルスを突撃させて、リュリュが同意の首肯をする。
 ドカンと一発派手にやってから、その後は魔力の光弾を連発。
 光が炸裂するたびに、表面の葉が破れていく。
 この脆さは、ただキャベツであるというだけでなく、巨ベツが飛行可能な幻想種であることにも起因していた。
 鳥類の骨が空洞構造であるように、巨ベツの葉もまた、太い部分は内部が空洞構造になっているのだ。そして薄い部分は向こう側が透けて見えるほど薄い。
「つまり防御力はない等しいということですねぇ」
 表面にシェリルの魔導が炸裂する。
 それは爆炎となって巨ベツの表面を焼きながら広がった。
 しかし、ただ焼くだけでは効果は薄い。生野菜が焼けないのと同じ理屈だ。
 まぁ、魔導の威力だけでも十分大きな傷をつけることはできていたが。
「こりゃバリバリいけるネ!」
 巨ベツの表面に殴る蹴るの暴行を働きながら、文字通りバリバリ剥けていくその葉にフェイロンが笑って叫んだ。
 その髪を、ゆるやかな風がフワリと揺らす。
「お、何ヨ?」
 気づいたその直後、風は一気に強まり暴風となって吹きつけてきた。
「わ~~~~!?」
 次々に吹き飛ばされていく自由騎士達。
 暴風は、巨ベツの葉の羽ばたきによるものだった。
「この程度、どってことないよぉ! おおおおおおおおおお!?」
 踏ん張ろうとしたナナンも地面をすっ転がって、近くの木にぶつかった。
 巨ベツの逆襲が始まろうとしていた。

●進撃の巨ベツ
 風が吹く。吹き荒ぶ。
「わわわわわわわわ~~~~!」
 転がる。自由騎士達が転がっていく。
 踏ん張ろうとする者も当然いたが、しかし風が強い。強すぎる。
 これこそ巨ベツの羽ばたきだ。
 一度着地した巨ベツが、羽ばたきによってふたたび空へと浮かびつつある。
 それを見たナナンが、キラリンと瞳を輝かせた。
「リムリィちゃん、チャンスだよぉ!」
「……うちあげじゅんびー」
 リムリィがメイスを振りかぶる。その鎚頭部分に、ナナンが飛び乗った。
「……うまくいったらもうけも、のっ」
 最後の一音に思い切り力を込めて、リムリィはメイスをブン回した。
 それは、オラクルだからこそできる芸当であった。ナナンの身が高く放り出されて、彼女は見事に巨ベツの上に乗ることに成功する。
「お、案外しっかり立てるねぇ。じゃあ、よ~しぃ」
 巨ベツの葉をしっかりと踏みしめて、ナナンが大剣を逆手に持った。
「そ~れ、グサグサグサグサグサグサ~!」
 重みのある刃は、さほど鋭くなくても巨ベツの身に深々と突き刺さる。
 それを何度も繰り返し、ナナンは巨ベツの外側の葉をボロボロにしていった。
 浮かびかけていた巨体が、それによってか大きく傾ぐ。
「わ、っとっとぉ!」
 ナナンも驚きはするが、何とかバランスを保って大剣を突き立て続ける。
 一方で、下にいる他の自由騎士達は――
「おやぁ~、こっちに来ますねぇ」
 シェリルがのんびりとそう告げる。
「ああ、落ちてくるな。まぁ、そうしたらまた全員で一斉攻撃だ」
 リュリュも早速攻撃の準備に入った。
 程なく巨ベツが再度墜落した。自由騎士からは少し離れた場所だ。
「おっと、変なところに落ちたな」
 ナバルが巨ベツの落下地点を確認する。そこはそれなり高い丘の上だった。
「――あの位置は、危ないのではないか?」
 いち早くそれに気づいたのはアデルであった。
 巨ベツが落ちたのは丘の端っこの方。そこに半分ほどはみ出た形で落ちた。
「「…………」」
 アデルの言葉の意味が理解できないまま、自由騎士達は巨ベツの方を見て、
「「あ」」
 巨体が大きく傾くさまを見て、やっと気づいた。
 ゴロン、と、巨ベツが坂を転がった。その延長線上には――自由騎士達。
 ゴロンゴロンゴロン、ゴ ロ ン ゴ ロ ン ゴ ロ ン !
 高さ15mの巨ベツが凄まじい加速をつけて転がって来た!
「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」」
 攻撃の準備を整えていた全員が、一目散に逃げだした。
 勢い良く転がってくる巨ベツを受け止めるなど誰も試そうとも思わない。
 仮に潰されてしまえば、それはつまり――死因、キャベツで圧死。
 末代までの恥ってものである。
「わ~~~~~~~~~~~~~~!」
 そして、巨ベツの上に乗っていたナナンも派手に飛ばされて、
「ぅわっぷ!」
 生い茂る葉がクッションとなって、何とか事なきを得た。
 彼女が落ちたのは、平原の先にある林だった。
 そして今自由騎士達めがけて転がる巨ベツがその林に激突せんとしている。
「散開! みんな散開するんだ――!」
 逃げるリュリュが絶叫し、自由騎士達が林を前に左右に散った。
 そして、彼らがいた場所を巨ベツが豪快に転がって通り過ぎ――
 ドカーン! ベキベキベキー! バキバキバキー!
 耳をつんざくほどの轟音が、辺り一帯に響き渡った。
「…………」
 それから十秒ほどしてからだろうか、身を伏せていたシェリルが立ち上がる。
「はぁ、どうなりましたぁ?」
 彼女は視線を彷徨わせて状況を確認しようとした。
 すると、巨ベツはすぐ近くにあった。
「あらまぁ……」
 木々数本をなぎ倒し、林に半ば埋まるような形で止まっている。
 折れた木は巨ベツにグッサリ突き刺さっており、身動きが取れないようだ。
「これはチャンスですねぇ」
 ホコリを払って、シェリルは魔法の緋文字を空中に描き出した。
「動けないのか。だったら、集中攻撃だな」
 それに乗じてリュリュも魔導の光弾を解き放つ。
「葉と葉の隙間に、ねじ込むように」
 すぐにアデルも攻撃に加わって、槍を隙間にブチ込んだ。
 薄い葉っぱはたやすく破れ、その奥に白みがかった新しい葉が見えたのでさらにそれも突き破った。景気よく破れるものだから、アデルはさらに槍を振るって巨ベツの葉を割いていく。
「タラッタラッタラッタラ~、てネ!」
 フェイロンが鼻歌交じりに叩いて蹴って殴って、蹴って殴って叩いて、敵が動けない状態で一方的に葉を破っていく。
 それは何というか、少なくとも戦闘ではなかった。
 では虐待とか、なぶり殺しとか、そういったものかというと、それも違う。
「ものすごい単調な作業ですねぇ」
 叩き始めてしばらく、シェリルが小さく漏らした。
「確かに。何というか、単純作業をしている気分になってくるな……」
 ウィリアムも薬物を調合しつつどうした。
 当然といえば当然だ。何せ敵が大きすぎる。
 八人いるとはいえ、それでも手に余るほどの大きさなのだ。
 彼が炸薬を投げつけても、破れるのは薄皮程度。巨体のうちのほんの僅かだ。
 だが小さいことでも積み重ねれば、それは変化へと繋がっていく。
「お? 動き始めたか?」
 攻撃を続けていたリュリュが、巨ベツの蠢動に気づいた。
 木々に邪魔されながらも、巨ベツが再び羽ばたこうとしているようだ。
「もうちょっと静かにしておいてくださいねぇ」
 だが先んじて、シェリルが魔導を行使していた。
 発生した電磁力場が巨ベツの一角を打ち据え、変動重力で縛り付ける。
 さすがに一撃で全体を縛ることはできないものの現状では十二分。
「日が暮れる前に終わらせるネ!」
「「おー!」」
 フェイロンの言葉に皆が応えつつ、巨ベツ剥きの作業は続くのだった。

●農家の皆さんお疲れ様です
 思えば、これは農業に似ているのではないだろうか。
 作業がようやく半分ほど終わった頃、ウィリアムはふとそんなことを思った。
「さすがに中身だけあって詰まってるな、ここまでくると葉も固い……」
「……こっちでいっしょにひっぱって」
「リムリィちゃん、手伝うよぉ!」
 丸まっている巨ベツの葉を、自由騎士数人がかりで剥がしていく。
 硬い。そして重い。それを力づくで、何とかこじ開けた。
 アデルは槍を使っててこの原理で手伝い、シェリルは炎で焼いて変形を試す。
 葉をこじ開けるという単調作業の中で行われる、そうした試行錯誤。
 効果のあり無しは別として、単純に続く日々の中、土を耕し様々な作物を育て、ときには品種改良という試行錯誤も行なう。
 何故か自分達の行動が農業に通じているように、彼は感じたのだ。
 それは、多分思い込みでしかないのだろうが。
「うおお! 疲れたー! 疲れたけどもうちょっと頑張るぜー!」
 全身を汗に濡らしながら、ナバルも葉を剥がし続けている。
 八人がかりでおよそ一時間。巨ベツはかなり小さくなっていた。
 周りには、剥がされた葉が散乱している。かなり多い。それだけ彼らが頑張ったということだ。
 そして、あと少し、もう少しだけ頑張れば――
「あ!」
 気づいたとき、ウィリアムは思わず声を上げていた。
 白い葉の向こう側に、別の色が見えたのだ。濃い茶色。土の色である。
「やっとか!」
「もう少しだー!」
 疲れ、力尽きつつあった自由騎士達が色めきだった。
 全員が気力を振り絞って、巨ベツの葉をむしりに走る。
 ベリベリという音が、それから一分ほども続き、やがて野菜汁まみれになった八人は見た。
「これが盗まれたキャベツ、ばた……、け……?」
 その疑問符は、目の前にある超巨大土玉に対してのものであった。
 そう、あったのはキャベツではなく土だった。
 小山程度の大きさはありそうな、湿った土の玉。巨ベツの葉の中にあったのがそれだ。
「……派手に転がってたからネ」
 フェイロンが理由に気づいて苦笑交じりにこぼす。
 畑ごと盗まれたなら、つまりは土も一緒ということで、巨ベツの回転によって土が団子状に丸まってしまったのだろう。
 じゃあ、キャベツは?
「中かぁ……
「中、でしょうねぇ……」
「…………」
「……このままには、しておけないよな」
「うん、まぁ……」
 自由騎士達の間に絶望的な空気が漂う。
 やっと巨ベツの解体作業が終わったと思ったら、今度はキャベツ探索だ。
 すでに疲労も濃い自由騎士達が天を仰ぐのも無理からぬことであろう。
 そんな中で、誰かが言った。
「今日は思いっきりキャベツ料理を食べよう」
 それから少しだけ間が空いて、
「……おなかへった」
「キャベツって、生でも焼ても煮ても美味しいですよぉ」
「ナナン達のお夕飯のためにもぉー!」
「今日食べるキャベツを育ててくれたキャベツ農家さんのためにもー!」
「もう少しだ、がんばろう」
「「おー!」」
 自由騎士達が、泥まみれになりながら土中のキャベツを探しにかかる。
 日が少しずつ暮れる中、彼らは毎日こうした土いじりをして農作物を作っている農家の偉大さを知った。そして思った。
 イ・ラプセルの農家の皆さん、心の底からお疲れ様です!
 作業の後のキャベツ料理の味は、格別であったという。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。
巨ベツの解体作業ってすごい疲れそうですよね。
その難題をクリアした皆さんはまさに英雄と呼んで差し支えないでしょう!

それでは、次の機会にお会いしましょう!
FL送付済