MagiaSteam
ドミニク・オーソリティという青年




「さぁて、腹も減ったし、そろそろ終いだ。おい、お前ら仕事切り上げろ。ドミニク、後は任せたぞ」
「わかりました。親方、あとは任せてください」
 日も傾きかけた頃。アデレード港町のはずれ。
 小さな船大工の作業場にその青年はいた。
 大工にしては少し華奢に見えるが、均整の取れたしなやかな体つきは服の上からでも見て取れる。親方からの信頼も厚く、仲間内では若輩ながら様々な仕事を任されているようだった。 
「それにしてもドミニクが来てくれてから楽になったもんだぜ」
「そんなこと言ってるからお前はいつまでたっても半人前なんだ! あいつを見てみろ。若いのに筋がいい。初めて半年足らずで誰よりもいい仕事をしやがる。少しは見習いやがれ」
「そりゃねぇよ、親方ぁ~」
 ガハハと笑いながら酒場へと向かう大工仲間たち。
 そんな仲間たちを笑顔で見送りながらドミニクは作業場へ戻る。
「さぁて、残りも片付けてしまわないとね」
 青年はよし、と気合をはくと作業に戻る。
 今日もどこにでもあるいつもの日常が終わろうとしていた。

 以前自由騎士が対応した仕事にて入手した破り捨てられた一枚の写真。
 組織との関連性を匂わせるその写真は、ばらばらにされていたものの、自由騎士によって回収。写真を手渡されたテンカイはすぐに調査を依頼。
 その後調査班の地道な聞き込み調査により、とうとう写真の青年と思われる青年を探し出すことに成功したのだった。
 そう、その写真に写った人物こそ、この青年だったのだ。

 そして青年の様子を陰で伺う人影が1つ。
(今日も特に動きはなし、か)

 そしてこの2日後。調査員は忽然と消息を絶ったのだった。


「よく来てくれた。自由騎士諸君。まずは状況を説明させてくれたまえ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は、急ぎ自由騎士たちを呼び出していた。
「以前対応してもらった依頼に関してだ。君たちが入手した写真に写った青年を探っていた調査員が消息を絶った」
「一体どこへ……? もしかして写真の青年に接触したのですか?」
「わからん。もっか探しているが……依然不明のままだ。ああ、まだ接触はしていないはずだ。様々な理由はあるが現状手元にあるのは写真だけ。聞き込みをしても何一つ悪い話は出てこなかった。もちろん組織とのつながりも皆無。何よりこの青年は調査員が消息を絶った後も何事もなかったように普通に生活を続けているのだ。闘技場の生贄候補だった可能性も捨てきれない。ただ……」
 フレデリックは苦慮の表情を浮かべる。
「この青年の船大工以前の過去はいくら調査しても何もわからなかった。出生がどこかも家族も、おおよそ過去を知りそうな存在が誰一人見つかってないのだ。もしも……だ。もしも彼が組織の人間であるなら、このような状況で平然と日常生活を送っているとするなら、相当な実力者か、何らかの強い後ろ盾を持つことは明白。これまでの動きをみても危機管理能力は非常に高い。表立って動くならばこちらも絶対の確証とともに、相応の覚悟と準備も必要になってくるだろう」
 フレデリックの表情は重い。軽率な指揮で有能な部下を危険にさらしたくはないのだろう。
「そこでだ。改めて君たちにこの青年の動向を調べてもらいたい。もちろん何かしら組織とのつながりが分かれば一番いいのだが、もし尻尾を出したとしても今回は接触することは禁止する。まずは調査にとどめてもらいたい。得た情報は全てこちらに伝える事。いいか、深入りはせず情報を持ち帰ることに専念してくれたまえ」
「……わかりました」
 かくして自由騎士たちは、青年の調査のためアデレードへと向かうのであった。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.青年の情報を持ち帰る
麺です。
たまっている宿題をこなしていくシリーズ。地下闘技場組織編の続きになります。

 このシナリオは『ブレインストーミングスペース#1』のアリア・セレスティ(CL3000222) 2019年06月07日(金) 22:43:34の発言から発生しました。
 名前のある方が参加することを強要しているものではありません。参加を確定するものでもありません。

 以前の依頼【ゲスのゲスによるゲスのための楽しいショウ。再演】にて入手した写真の青年が見つかりました。しかし調査員の調査の限りではどこにでもいる普通の船大工の青年だったのですが……その調査をしていた調査員が忽然と消息を絶ちました。
 その原因がこの青年なのか、それとも別なのか、調査をお願いします。

●この依頼の流れ(ネタバレあり)

 ・青年を尾行 → 家を突き止める

 時刻は夕刻。【土地勘】や【配達屋】【斥候】などの技能がある場合はより効率的でスムーズに尾行できます。町のはずれにある一人で住むには少々大きく感じる平屋の3部屋ほどある家がドミニクの家です。親方や大工仲間には知人に安く借りていると話しているようです。

 ・しばらくすると寝る(?) → その後潜入を試みる。いないぞ、どこ行った?

 家に入ったことを確認後、しばらくすると家の明かりが消えます。寝室と思しき部屋をそっと覗いてみると……青年の姿が見えません。何とか中に潜入してみましょう。ドアや窓には簡単なカギがかかっているだけです。【ピッキングマン】などがあればスムーズに侵入できます。中に入るとなぜか青年はいません。とりあえず部屋を調査しましょう。探す系の技能があればスムーズですが、技能【家政婦】をもっていた場合は驚くほどすんなりと色々見つかります。家政婦はいやがおうにも出くわしてしまうのです。見てしまうのです。
 
 ・家にはある仕掛けが → 仕掛けより外へ

 仕掛けにはアイアンロックが施されています。合言葉はカタカナ5文字です。ヒントは部屋のどこかにありますが【フォーチュンテラー】か【直観】を持っている方がいた場合はその方が思いついた言葉がなんと!合言葉になります。複数いた場合は麺の好みで選ばせていただきます。アイアンロックにより仕掛けは鉄の強度になっていますが、力づくで開けることも可能です。しかしその場合は時間がかかりその後得られる情報が少なくなります。
 仕掛けを通って出たところは街はずれの荒れ地。そこには今は使われていない古いカタコンベがあります。どうやらその中に青年は入ったようです。(有益な技能があるとより強くそう感じることができます)中には何か住み着いているようで、中からは魔物の雄たけびのようなものが聞こえます。そこへと進む自由騎士たち。見つかる可能性があるので、明り以外の視界確保方法があればベストです。何もない場合は暗闇に慣れるまでしばらく入り口付近で時間を浪費します。

 ・廃墟と化したカタコンベ。魔物と戦闘 → その奥には……

 暗闇の中で魔物と戦闘です。魔物をひきつける戦闘チームと尾行チームに分かれます。戦闘チームは尾行チームが情報を経て戻るまで無限のようにわき続ける魔物達と戦い続けます。半数が残り回復役がいれば無理なく戦線を維持できます。中では縄張り争いで常に魔物同士が争っているようで、多少の戦闘による騒音は問題ありませんが、派手な光や音が出るスキルなどを多用すると尾行がばれる可能性は無きにしも非ずです。
 尾行チームは様々な技能の所持が有効に働きます。

 ・調査終了 → 報告

 直接の接触や戦いは今回は無しです。プレイングに書いてあっても麺が止めるんだからね。


 といった流れになります。
 すべての項目で技能やプレイングによりかかった時間が判定され、途中でかかった時間が短いほど得られる情報も多くなります。
 今回は尾行という状況を楽しんでいただければと思います。
 個人的に麺はいろんな技能描写がしとうございます。


●登場人物&敵
 
 ドミニク・オーソリティ
 どこにでもいそうな穏やかな表情の青年。調査対象。詳細不明。
 
 魔物たくさん
 カタコンベに住み着いています。尾行班が戻るまでの耐久戦です。
 一匹一匹は大したことはありませんが、いくら倒しても沸いてくるので、回復がいない場合はちょっぴり負傷して帰ることになります。ご注意を。

 ※ジローはついていく気満々でしたがどう見ても尾行に適した風貌をしておらず、目立つこと必至のためテンカイに止められました。


皆様のご参加お待ちしております。


状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
7モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
5/6
公開日
2019年12月30日

†メイン参加者 5人†




「らっしゃい! 採れたての新鮮な魚が入荷してるよっ!!」
「年越しの準備は当店で!!」
 年の瀬で活気付くアデレードの港町を足早に進む自由騎士達。
「……来たらよかったのに」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は風貌NGで今回の任務を外されたジローの事を考えていた。確かに少々風変わりだけど日常の範囲内よね──。エルシーはくすりと笑う。様々な種族が暮らすこの国ではそこまで目立つとは思えなかったからだ。
「そういえば……カマーという人物がいたね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は以前自由騎士達が遭遇した男の名を口にした。
「ドミニクに彼との繋がりが有るとしたら……この国の裏で動いている組織の目的を得られるかも知れない」
「確かに。点と点が線に……かもな」
 マグノリアの言葉に頷くのは『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)。
(裏の顔を表では絶対に見せないだろう彼……ドミニクの二面性を僕は知りたい。 彼が一体どんな人間で、どの様な意志で組織の為……いやきっと自身の為に動いているのか……)
 マグノリアを突き動かすのは飽くなき探究心。
「どんな手段で其れを成そうとしているのか……其れが分かれば、対策も取れるかも知れない」
「ええ。彼をこのまま野放しには出来ません」
『ルーキーメイドさん』アリア・セレスティ(CL3000222)の言葉には強い意思が篭る。何故か。それは明白だった。
 ドミニクはアリアにとって絶対に犯してはいけない領域に土足で踏み込み、そして何もかもを壊そうとした。その事実がアリアの脳裏から離れる事は無いからだ。
「そろそろ見えてきましたえ」
『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が指差す先に目的の鍛冶職人の仕事場が見える。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……楽しみやわぁ」
 狼華は口元だけの笑みを見せる。

 自由騎士達の長い一日は始まった。


 ニコラスが先陣を切り、自由騎士達は行動を開始していた。
 1人居残り仕事を終えたドミニクが作業場から出るのを確認すると、別行動を申し出たアリア以外の4人はそれぞれの尾行を始める。
(また普通そうな青年だなぁ)
 『たまたま同じ方向にある家』へと帰宅する素振りで、ドミニクと一番近い距離をキープしていたニコラスが最初に抱いた印象はこうだった。どこにでもいそうな普通の青年。だがニコラスは……いやニコラス故であろうか。
(アレがラスカルズに繋がってるかもしれないってんだからな。まぁ外見は人畜無害、中身は腹黒なんざぁあの界隈じゃ普通にある事か)
 見た目とのギャップ。普通の中に潜む異常、狂気。日々そういったものに触れる機会に身を置くニコラス。
「普通だからこそ、だ」
 狂気は日常に潜んでいる。ニコラスはそれを誰よりも知っている。
(なんだかわくわくするわね)
 普段より幾分露出の抑えられた服(エルシーのいつもを知らなければ十分に露出が高いわけだが)を着て、買い物客を装うエルシー。
(いやぁ。溢れ出る美貌の私は尾行には不向きかもしれないけどね。世の男性の目をくぎ付けにしてしまうから……)
 なんて思いが少し溢れ出てしまったのか、エルシーは仲間達より少し後ろで尾行する事になったようだ。
(それにしても家すらわかってへんとは……聞き込みや尾行もロクに出来ひん様なモン、容易にバレて消されても同情できひんわぁ)
 狼華ははぁとため息を漏らす。
「向いとらんかったんとちゃいます?」
 ぽつりと呟く。狼華の言葉は突き放すようなものも多い。だが、そこには狼華なりの美学がある。
「やはり……思った通りでした」
 そこへ別行動していたアリアが合流する。追跡には自信があるアリアだったが、今回必要となるのは隠密行動。そのためアリアは酒場へと向かったドミニクの同僚達と接触。更なる情報収集を行っていたのだ。
『そういえば見た事ねぇな。そういえば……小さい頃に流行り病で見えなくなったとか……言ってたような──』
(やはり彼の両目をはっきりと見ている者はいなかった……)
 隻眼のドミニク。以前の依頼で自由騎士が聞きだしたドミニクの通り名。といっても見た目でついた通り名とも限らないのではあるが、アリアには可能性は高まったと思えた。
「おっと、やっこさんの家に着いたみたいだぜ」
 先行していたニコラスの元へ皆が集る。
「まぁえらい立派なトコに住んどりますなぁ」
 狼華の目の前には1人で暮らすには少々持て余しそうな家。
(仕事仲間には知人から安く借りとる言うてはるんやて? その知人も出て来んのやろ? ほんまにそんなんおるんか?)
 全てはきっと真実では無い。嘘で塗り固められた過去。嘘で塗り固められた関係。そして……嘘で塗り固められた笑顔。
(……真っ黒やないか。ああいう可愛らしい顔してるのがいっちゃんえげつないんよ)
 経験からだろうか。狼華は得も知れぬ高揚感を感じていた。

 ドミニクが家に戻り小一時間もすると部屋の明かりは移動し、寝室と思われる部屋に明かりが灯る。そしてその明かりも消えた。
「ほら、明かりが消えはりました。そろそろ行きましょか?」
 自由騎士達は中の様子を確かめるべく、窓へとゆっくりと近づいていくのだった。

●調査
「……いないわ」
「一体どういう事?」
 自由騎士達が中の様子を窺おうと覗いた部屋。そこは最後に明かりが灯り消えた寝室と思われる部屋だったのだが。なぜかそこに青年の姿は無い。
 他の部屋の様子も確認したが、どこにも彼の姿を確認することは出来ない。ではまた外へ出たのだろうか──否。家に出入りする扉は一つしかない事は確認していた。そしてそのドアもずっと見張っていたのだ。
「おんや、奴さん本当にいねぇみたいだな」
 家を一周して戻ってきたニコラスが手首をぐるぐると回す動作を見せる。これは予備動作。彼が持つ技能の一つである鍵開けの妙技が出る前の準備運動。
「ちょいとお邪魔します……よっと」
 程なく、かちゃと音がして扉が開く。
「さて、お宝探しだぜ」
 
 しばらくのあと。
 
「本当にいないわね。玄関から外に出た様子は見えなかったし、どこに行ったのかしら?」
 家中を隈なく探した自由騎士達だったが、やはりドミニクの姿は無い。
「家にはいない。そして家から出てもいない。じゃぁ彼はどこへ」
 マグノリアは首をひねる。
「……外からの出口は見張っとったのに居らへんなら、部屋のどこかから出られる方法があるんやろなぁ」
「とにかく家中を探してみましょう」
「そうだな……って、アリア、何、その格好!?」
 驚くニコラスの目線の先には、うさ耳を装着し、暗闇でも良く見える眼鏡をかけ、敏腕メイドが如く部屋中を隈なくチェックするアリアの姿。少し照れながらなのがまた、いい。
「部屋の掃除は……お世辞にも行き届いているとはいえませんね……それにしても──」
 アリアが感じたこの家に足りないもの。それは生活感。普通に生活していれば塵が積もりにくそうな場所にも薄い塵が積もっている。
 そしてもう一つアリアが気になったのは……本棚。なぜか鉱石に関係する書籍が並んでいた。ドミニクは船大工。こんな本は必要ないはず──。
「なぁ、おかしいと思わはりません?」
 全ての部屋も見て集積された情報が狼華が違和感を感じ、指差したのはベッド。明らかに部屋の導線を遮るように置かれている。
「僕もそれは感じたんだ。他の部屋は生活しやすいように家具なんかがきちんと配置されてる。おかしいよね。このベッドだけ。それによく床を見て。僅かだけど移動した跡があるよ」
 僅かな痕跡をも見逃さないマグノリアの技能が違和感を確証へと変えていく。
「そういえば聞いた事があります。男が何かを隠すのは──」

「ベッドの下!!」

 自由騎士がベッドの下を調べるとそこにはアイアンロックで硬く閉ざされた地下への扉があった。
「確か合言葉でロックは解除されるはずだが……」
「部屋にはそれっぽいものはなかったですね」
「とりあえず適当にそれっぽいので試してみるか。まぁダメだった時は……」
 自由騎士達は思い当たる言葉を各々試していった。

 しばらくのあと。
 
「──結構時間を使っちゃったわね」
 結局合言葉合致には至らず、少々時間をかけながらも力技で突破した一行は、抜け道を進んでいた。
「それにしても……『一般人の家』に隠し通路があるなんてなぁ」
 リュンケウスの眼で先を見通しながら先頭を進む狼華。
「そろそろ出口みたいだな」
 長い抜け道を出た先には古びた地下墓地への入り口。周辺の寂れ具合を見ても今は使われていなさそうだ。
「入る……しかないよな」
「いよいよコイツの出番ってわけね……(高かったんだから!)」
 エルシーが取って置きとばかりに夜間用眼鏡を装着する。
 何が起こるかわからない。危険が伴うのは間違いない。それでも自由騎士は歩みだす。真実を知るために。


「こいつら一体何匹いるのよ? キリがないわね」
 エルシーは魔物達と戦っていた。否、戦い続けていた。
 地下を進んですぐに襲い掛かってきた魔物達。歴戦を戦い抜いてきた自由騎士にとってさほど手こずる相手ではない。だが倒しても倒しても仲間を呼び続け、沸いてくる魔物達を前に自由騎士は一つの作戦を講じる。
「ここは任せて」
 マグノリアとエルシーはその場に留まる事を選んだ。全員が足止めされてしまえばそれだけ得られる情報は少なくなる。もちろんリスクも伴うがそれも承知の上だ。
(それにしても……この魔物達……これだけの数……一体何処から涌いて出て来るのか……元が何であったのかも気になるね)
 マグノリアの探究心の対象に制限などなく。それは目の前の魔物達へも向けられていた。

 一方、ドミニクを追ったアリア、ニコラス、狼華の3人は確実に真実へと迫りつつあった。
(いやぁん、おいていかないでっ……ってそんな怖い顔するなよアリア。わぁってるよ、気配頼りにいきゃいいんだろ。……その為の技能だ)
 人に潜み、闇に潜み、情報に潜む。ニコラスの技能は潜む事でその効果を最大限に発揮しうる。
(魔物だらけのカタコンペへ一人で行ったとすればかなりの手練れか……魔物の通り道を熟知しとるんやろなぁ)
 狼華は想像する。ドミニクという男を。その醜く薄汚れた本性を。
(あんな優男にどんな顔があるのか、その可愛らしい顔の皮剥ぎ取ってやるわ)
 そういって笑みを浮かべる狼華の体は、その興奮を抑えきれぬかのように熱を帯びる。
(待ってなさいドミニク。絶対に貴方という存在を捉えて見せる)
 アエリアもまた急く心を抑えつつ追跡の気配を悟らせぬよう細心の注意で進む。
(静かにっ)
 天井を移動するアリアが、前方から聞こえる音を捉える。
(いよいよだな……)
(さぁ、誰に会う? 何をする? ヒトをヒトと思わん奴らは何を得て喜ぶのか、うちに教えておくれやす)
 微かに光が洩れるカタコンベの遥か奥。そこには1人の男が佇んでいた。

「さす……がに、少し疲れてきた……わね」
「少し……ね。もし魔力が尽きたら僕は回復しか出来なくなっちゃう……ごめんね」
 肩で息をするエルシー。とその後ろで支援を続けるマグノリア。今はまだマグノリアの奏でる音が多くの魔物達の足を奪っている。そのため単体攻撃しか持たないエルシーでもなんとか対処できているのだが。マグノリアの魔力が尽きればより一層魔物達の攻撃は激しくなる。エルシーの実力を持ってしてもこの数を一人裁ききるのは至難の業だ。
(私達が抑えられているうちに……頼むわよ!)
 闇の向こうに消えた仲間を見つめるエルシーの瞳は強く輝いていた。

「……。……」
(何か話してるみたいだけど聞こえねえな)
(しっ!!)
 シンプルなつくりのカタコンベであるがゆえに近づける距離にも限界がある。一瞬だけ姿を確認したものの、その後はかろうじて音が拾える距離。これが限度だった。
(集中……集中よ。必要な音以外の全てをシャットダウンしてあの音だけを聞き取る)
 ドミニクに尤も接近した位置。天井から突き出た岩かげの後ろでアリアは音を探る。アリアが持つ特殊スキル『オーディオエフェクト』は周囲の音の強弱を自由に操る事が出来る。その能力により周囲の雑音を極限まで減らすことでドミニクたちの会話を聞き取ろうとしていた。
「……だね。わ……だって、……んだ……ね」
(私なら聞き取れる。もっと……集中……集中)
 そしてアリアがとうとう音を捉える。ドミニクの声、そして相手の声を。

『──というわけでアッチの件はそんな感じでよろしくね~♪』
 ドミニクと思われる青年と話しているのはオネエ言葉の太い声。
 すでに大事な話は終わったようだった。
『わかったわよ。でも、やぁねぇ最近お仕事しにくくってしょうがないのよぉ』
『そんな事言わないで頼むよ~。だってさ。つまんないじゃん。平和なんて。もっとみんな争って♪ もっとみんな恐怖して♪ も~~~~~っと混沌にならないと♪ 人間なんて一皮向けばみ~~んな欲望の塊なんだからさ♪ もっと欲望に素直になったらいいのにね~♪』
『でさ、これからどうするの? アタシも出会っちゃったけどさぁ。自由騎士の子達? あれって結構手ごわいわよぉ』
『うーん。そうだよね。邪魔は邪魔なんだけどさ。でもちょっとボク気に入ってるんだ』
『あーらそうなの? 以外ねぇ。アナタあーゆー正義ぶってるの大嫌いだったじゃない』
『あ、それは変わらないよ。うん。正義なんてだーいキライ。ボク達には何の意味もないしね。でもさ……』
『ボクらの邪魔ば~っかする彼らが、絶望して果てるときの顔ってサ。きっと素敵だと思うんだよね~♪』
『また孤児院から攫う計画でも立てちゃう? きっと必死の形相で守りに行くんだろうな~。大変だよね正義って。他を守らないといけないんだから。ほんっと大変。うーん、同情しちゃう♪』
『相変わらずいい趣味しているわねぇ』
『あはは。そんな、褒めないでよ~♪ ホラ、好きな子にさ、意地悪しちゃうでしょ? そんな感じ』
『わっかる~v それアタシもわかるわぁ。アタシの場合ちょっと意地悪しちゃうとすぐに動かなくなっちゃうんだけどね』
『あはは。カマーは手加減しないから♪』
 
 シュッ。アリアが天井から音もなく降りる。俯きその表情はわからない。
(ふざけるな……ふざけるな……そんな理由で……そんなつまらない理由で!!!!)
「やめるんだ」
 激高に駆られアリアをとめたのはニコラス。いつもの飄々とした彼ではない。その瞳はまっすぐにアリアを捉えていた。
「何が聞こえたかはわかりはしまへんけど……どうせろくでもない事なんはわかります。でも今日の依頼は確認をする事。接触はご法度ですえ」
 狼華もまたアリアの行き先を遮るように前へ出る。
「耐えろ、アリア。俺達は未来を変える力を持っている。だが今事を起こせば救える者も救えなくなるぞ」
 アリアは戦っていた。心の中で弾けそうな何かと。それを必死で抑える。
「ぐ……ぅ……」
「向こうはんも話が終わったなら動き出しますえ。急いで外へ出るとしましょ」

 少しの沈黙。

「わかりました……脱出しましょう」
 落ち着きを取り戻したアリアが出口に向けて踵を返す。自由騎士の調査は完了したのだ。
 急ぎ脱出を試みるアリア達がエルシーとマグノリアの元まで戻ってくる。
「どうやらぎりぎり間に合ったみたいだね」
 すでに魔力がつき、ゼロコスト回復でエルシーを回復し続けていたマグノリアの元へ3人がたどり着く。
「もどったのね! で、どうだっ──」
 疲弊しきったエルシーが聞く言葉も遮り、アリアたちは無言でカタコンベを脱出する。
「まずは報告だ」
「ええ」
「もう白黒はっきりしとります。いそぎましょ」
「ちょ、ちょっと先ずは何があったか教えてほしいわ」
「うん、それもあるけど僕は少し休みたいかな。さすがに疲れちゃったよ」

 自由騎士の調査はすぐに報告され、写真の青年が探しているドミニクである事は立証されることになった。
 

『ふふ、ふふふふ♪』
『どうしたの? 嬉しそうね』
『いやね、お~~きなネズミがいた気がするな~って』
『え~~!? ネズミ嫌いよぉ!! いやんいやん!!』
『次はきっと会えるのかな。楽しみ楽しみ~♪』

 その日以降ドミニクという船鍛冶職人は二度と姿を現す事はなかった。
 それどころかドミニクがいた鍛冶場自体から人が忽然と消えていた。
 まるで──最初から何も無かったかのように。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

またひとつ真実へ近づきました。

MVPは確証得る起因となったあなたへ。

ご参加ありがとうございました。
FL送付済