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奔闘、黒棺盗賊団。或いは、汽車の上の攻防戦……。

●盗賊護送任務
とある街を襲った盗賊の一団があった。
名を『黒棺盗賊団』と言う。
だが、総勢50人からなる盗賊団は街の住人や、派遣された王国騎士団に敗れ捕縛された。
数多くの死者と重傷者を出した、激しい攻防戦が繰り広げられ、街は炎に包まれた。
捕らえられた盗賊……つまり生き残りの盗賊は15名。
彼らを汽車に乗せ、王都サンクディゼールへ護送することになったのだが、ここで一つの問題が発生した。
それは、騎士の頭数不足。
街の復興や、盗賊団の残党殲滅などの任務もあり護送に裂ける人数に限りがあるのだ。
5両編成の汽車に搭乗する騎士は5名。
そのうち1車両に15名の盗賊たちは拘束された状態で乗せられている。
「噂では、黒棺盗賊団の総勢は70名近く……加えて、奴らは仲間を大事にしているとそう聞いている。このまま15名の連行を許すとも思えないが」
護送チームの隊長を務める騎士は、不安げな表情でそう呟いた。
そんな彼のもとにいい知らせと悪い知らせが、それぞれ1つずつ届く。
1つ。『黒棺盗賊団』の残党たちが、汽車へ襲撃をかけるつもりだという情報がもたらされた。
これが悪い知らせ。
そしてもう1つ。
護送任務に、数名の自由騎士たちが応援に寄越されるというものだ。
●護送依頼発令
「よく来た、お前たち。では、今回の任務について通達するぞ」
まっすぐに伸びた背筋に、精悍な顔つき。
大柄な身体に見合った張りのある声。
鎧を纏ったその男の名は『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)。王国騎士団の団長を務める国の重鎮の1人である。
「お前たちには、襲撃地点の手前の駅で汽車に乗り込んでもらうことになる」
そうすれば、盗賊たちに自由騎士たちの存在を悟られる心配もない。
盗賊たちが油断しているところを返り討ちにしてやろう、とそういう作戦だ。
「連中がどのような方法で汽車に乗り込むつもりかは分からん。努々警戒は怠らぬようにな」
もたらされた情報によれば、仲間の救出に向かった盗賊たちは総勢12名。
軽剣士スタイル、ガンナースタイル、格闘スタイルのスキルを身に付けた者たちが各4名ずつで構成された一団だ。
「もっとも練度が低いのか、使用できるスキルにさほど強いものはないようだ。警戒すべきは仲間同士での連携と、全員が所持しているという“黒球”と呼ばれる武装であろうな」
黒球……それは『黒棺盗賊団』が所持している兵装だ。
卵サイズのカプセルに詰まった黒い液体状の魔法物質。それは空気に触れると燃焼し、周囲に爆風をまき散らす。
さらには[ポイズン]の状態異常も付与されているとフレデリックはそう告げた。
「汽車から落とされると、戦線復帰に時間がかかる。汽車の速度を落とすか、停止させねばならないだろうからな」
その間に、盗賊たちが逃げ出してしまう可能性もある。
理想としては汽車を止めないことだ、とフレデリックは考えていた。
「連中が持っている“爆弾”をどこから調達したのか……その出どころを突き止める必要がある。どのようなことがあろうと、連中を王都まで護送してほしい」
頼んだぞ、とそう告げて。
フレデリックは、自由騎士たちを送り出す。
とある街を襲った盗賊の一団があった。
名を『黒棺盗賊団』と言う。
だが、総勢50人からなる盗賊団は街の住人や、派遣された王国騎士団に敗れ捕縛された。
数多くの死者と重傷者を出した、激しい攻防戦が繰り広げられ、街は炎に包まれた。
捕らえられた盗賊……つまり生き残りの盗賊は15名。
彼らを汽車に乗せ、王都サンクディゼールへ護送することになったのだが、ここで一つの問題が発生した。
それは、騎士の頭数不足。
街の復興や、盗賊団の残党殲滅などの任務もあり護送に裂ける人数に限りがあるのだ。
5両編成の汽車に搭乗する騎士は5名。
そのうち1車両に15名の盗賊たちは拘束された状態で乗せられている。
「噂では、黒棺盗賊団の総勢は70名近く……加えて、奴らは仲間を大事にしているとそう聞いている。このまま15名の連行を許すとも思えないが」
護送チームの隊長を務める騎士は、不安げな表情でそう呟いた。
そんな彼のもとにいい知らせと悪い知らせが、それぞれ1つずつ届く。
1つ。『黒棺盗賊団』の残党たちが、汽車へ襲撃をかけるつもりだという情報がもたらされた。
これが悪い知らせ。
そしてもう1つ。
護送任務に、数名の自由騎士たちが応援に寄越されるというものだ。
●護送依頼発令
「よく来た、お前たち。では、今回の任務について通達するぞ」
まっすぐに伸びた背筋に、精悍な顔つき。
大柄な身体に見合った張りのある声。
鎧を纏ったその男の名は『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)。王国騎士団の団長を務める国の重鎮の1人である。
「お前たちには、襲撃地点の手前の駅で汽車に乗り込んでもらうことになる」
そうすれば、盗賊たちに自由騎士たちの存在を悟られる心配もない。
盗賊たちが油断しているところを返り討ちにしてやろう、とそういう作戦だ。
「連中がどのような方法で汽車に乗り込むつもりかは分からん。努々警戒は怠らぬようにな」
もたらされた情報によれば、仲間の救出に向かった盗賊たちは総勢12名。
軽剣士スタイル、ガンナースタイル、格闘スタイルのスキルを身に付けた者たちが各4名ずつで構成された一団だ。
「もっとも練度が低いのか、使用できるスキルにさほど強いものはないようだ。警戒すべきは仲間同士での連携と、全員が所持しているという“黒球”と呼ばれる武装であろうな」
黒球……それは『黒棺盗賊団』が所持している兵装だ。
卵サイズのカプセルに詰まった黒い液体状の魔法物質。それは空気に触れると燃焼し、周囲に爆風をまき散らす。
さらには[ポイズン]の状態異常も付与されているとフレデリックはそう告げた。
「汽車から落とされると、戦線復帰に時間がかかる。汽車の速度を落とすか、停止させねばならないだろうからな」
その間に、盗賊たちが逃げ出してしまう可能性もある。
理想としては汽車を止めないことだ、とフレデリックは考えていた。
「連中が持っている“爆弾”をどこから調達したのか……その出どころを突き止める必要がある。どのようなことがあろうと、連中を王都まで護送してほしい」
頼んだぞ、とそう告げて。
フレデリックは、自由騎士たちを送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.黒棺盗賊団12名の盗伐
2.盗賊15名の護送
2.盗賊15名の護送
●ターゲット
黒棺盗賊団・団員(種族不明)×12
揃いの黒装束に身を包んだ盗賊たち。
個人個人の練度は低いが、連携することでそれを補う戦法を得意とする。
また、身軽な者が多いことも特徴である。
仲間意識が強く、今回は捕らわれた団員たちを救出するために護送汽車へ襲撃を仕掛けるつもりらしい。
軽剣士スタイル×4
ガンナースタイル×4
格闘スタイル×4
で構成されている。使用可能スキルはランク1のもののみのようだ。
また、各人1つずつ“黒球”と呼ばれる兵装を所持している。
・黒球[攻撃] A:魔遠範【バーン1】【ポイズン1】
卵サイズの小型爆弾。
内部に満たされた魔法物質が空気に触れることで、火炎と毒をまき散らす。
●フィールド
走行する汽車の全体。
客室、屋根の上、連結部など戦場は多岐にわたるだろう。
また、汽車から落下した際は復帰までに6ターンほどの時間がかかる。
※自由騎士が落下した場合、復帰のために汽車の速度が低下あるいは停止します。
全員先頭不能にするか捕縛しない限り、永遠と襲い掛かってくるだろう。
黒棺盗賊団・団員(種族不明)×12
揃いの黒装束に身を包んだ盗賊たち。
個人個人の練度は低いが、連携することでそれを補う戦法を得意とする。
また、身軽な者が多いことも特徴である。
仲間意識が強く、今回は捕らわれた団員たちを救出するために護送汽車へ襲撃を仕掛けるつもりらしい。
軽剣士スタイル×4
ガンナースタイル×4
格闘スタイル×4
で構成されている。使用可能スキルはランク1のもののみのようだ。
また、各人1つずつ“黒球”と呼ばれる兵装を所持している。
・黒球[攻撃] A:魔遠範【バーン1】【ポイズン1】
卵サイズの小型爆弾。
内部に満たされた魔法物質が空気に触れることで、火炎と毒をまき散らす。
●フィールド
走行する汽車の全体。
客室、屋根の上、連結部など戦場は多岐にわたるだろう。
また、汽車から落下した際は復帰までに6ターンほどの時間がかかる。
※自由騎士が落下した場合、復帰のために汽車の速度が低下あるいは停止します。
全員先頭不能にするか捕縛しない限り、永遠と襲い掛かってくるだろう。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年04月09日
2020年04月09日
†メイン参加者 4人†
●
無人の荒野を汽車が走る。
5両編成の汽車だ。車両には5名の騎士と、15名の盗賊が乗っていた。
盗賊たちの名は『黒棺盗賊団』……とある街へ襲撃をかけ、騎士たちによって壊滅した盗賊団の数少ない生き残りであった。
彼らのルーツは不明だが、どうやら仲間を大切に考えているらしい。
そのため捕らえられなかった盗賊たちの生き残りが、捕らえられた仲間たちを奪還に来ることが予想される。
そうなった場合、5名の騎士だけでは迎撃が難しいと判断された。
そうして、派遣されたのが都合4名の自由騎士たち。
「で、汽車のルート上には大昔の遺跡と。盗賊たちが汽車に飛び乗るつもりなら、ここが怪しいわね」
3両目の車両に集まった自由騎士の1人、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は地図を片手にそう告げた。
ちなみに、5名の騎士と盗賊たちは2両目の車両に搭乗している。
「黒ずくめの連中の相手なんて、楽しくなさそうだよなぁ。かわいこちゃんでもいたらいいが……いないんだろうな。まぁ、仕方ないさ」
そう言って『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は、窓の傍へと歩いて行った。
窓を開け、視線を上方へと向ける。
「列車の屋根の上やら足場の悪い位置に陣取っている連中は、俺が片付けよう」
窓の桟に手をかけ、オルパは車両の外へ身を躍らせた。
素早い動きで屋根の上へと飛び乗ると、その場に座って盗賊たちの襲撃に備えた。
「では、私は窓を封鎖してきますね」
少しでも盗賊たちの侵入ルートを潰すため、セアラ・ラングフォード(CL3000634)はオルパが出て行った窓へ歩みよると、それに鍵をかけ、近くの椅子を立てかける。
「んじゃ、私は機関車両の方に回るよ」
愛用の戦斧を肩に担ぎ、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は車両を出ていく。
後に残るはエルシーとセアラの2名。
エルシーは3両目を、セアラは2両目を担当することになる。
●
黒棺盗賊団残党の目的は、捕らわれた仲間たちの奪還だ。
ゆえに、彼らは最終的に2両目……盗賊たちの乗せられている車両を目指すことになる。
「来たか……エルシー殿の予想通りだな」
黒いコートを翻し、オルパは屋根の上で立ち上がった。その手には2本のダガー。視線の先には、遺跡の上から車両目掛けて飛び降りた12人の黒衣の者たち……黒棺盗賊団の残党たちだ。
「まぁ、適材適所ってやつさ」
淡々とそう呟いてダガーを一閃。
放たれた青い魔弾が、車両に飛び乗る盗賊の1人に命中し、その身を一瞬で凍り付かせた。
姿勢を崩し、凍り付いた盗賊は屋根の上に落下する。
素早く盗賊へと接近すると、オルパはその首筋へダガーを振るった。
「峰打ちだ」
意識を刈り取られた盗賊がその場に倒れる。
だが、その間に残る11名は車両に取り付いた。さすがにオルパ1人で、一斉に襲い来る12人を相手取ることは不可能だった。
こうして、汽車上での攻防戦は幕を開けた。
窓ガラスを蹴り破り、黒づくめの男が車内に飛び込む。
その手には刃渡りの短い曲刀が握られていた。
さらに、その背後にも数名の男たち。
その数はおよそ4名ほど。残りは屋根上やほかの車両から汽車内部へ侵入するつもりであるようだ。
迎え撃つは、窓から吹き込む寒風に燃えるような赤髪を靡かせる拳闘士、エルシーであった。
砕け散るガラス片を掻い潜りながら、窓際へと接近し……。
「大きな得物を振り回したりライフルで銃撃したりは不向き……つまり拳が武器の私向きなミッションってわけよ」
宣言通り、先頭に立つ男の胸を拳で打ちぬく。
1点に集約された衝撃が、男の胸を打ち抜き、さらには背後のもう1人を巻き込んで壁へと叩きつけた。
「っし、先制! 連携が上手いってのは裏を返せば数を減らして連携阻止すれば脆いって事よね」
生憎と2人の男たちの意識はまだ残っている。
戦闘能力を奪うべく、拳を握り直し壁際へと駆けるが……。
「……」
新たに窓から飛び込んできた男が、エルシーの足元へ何かを放った。
コツン、と軽い音を立て足元に転がるそれは卵サイズの黒い球体。
「っ……!?」
砕けた黒球の中から、ドロリと滲む黒い液体。
それは空気に触れると同時に発火し、周囲に毒と火炎をまき散らす。
エルシーが炎に飲まれると同時に、新たに車内へ跳び込んできた2人の男は2両目へ向け駆けていく。
「あ、待ちな……っ!」
纏わりつく炎を払い、追走しようとしたエルシーの太腿を1発の銃弾が撃ち抜いた。
最初にエルシーが殴り飛ばした2人のうち、後列に位置していた男による援護射撃。
エルシーが痛みに足を止めたその直後、もう1度爆音が鳴り響き2両目と3両目を繋ぐ連結扉が吹き飛ばされた。
一方そのころ、先頭機関車両。
数度、連続して鳴り響く爆音。
衝撃に車体が激しく揺れる。
フロントガラスが砕け、一斉に車内へ跳び込んでくる3人の男。黒棺盗賊団の残党たちだ。
曲刀を手にした男が2人、徒手空拳の女性が1人。
迎え打つは戦斧を肩に担いだ女丈夫・ジーニーだった。赤い右目が妖しく光る。獣じみた笑みを浮かべ、ジーニーは告げた。
「仲間想いなのは結構な事だけど、盗賊稼業は褒められたもんじゃないな。人生やり直せ!」
斧を掲げて、先頭に立つ盗賊へと斬りかかる。
曲刀と斧が激しくぶつかり、甲高い音が鳴り響く。飛び散る火花。舞い散るガラス片。
徒手空拳による拳打が、ジーニーの胴を打つ。
「うぉっ……この!」
よろめくジーニーの手を、曲刀が切り裂き血しぶきが飛んだ。
狂暴な笑みを浮かべ、ジーニーは斧を大上段へ振りかぶる。
が、しかし……。
「っとと……列車を壊してもいいってんなら、【テンペスト】を使うけど」
次いで放たれた斬撃を斧の柄で払いのけながら、ジーニーはギリと歯を食いしばる。
彼女の武器である戦斧を十全に振り回すには、車両内部は狭すぎるのだ。
「やっぱりダメだよなぁ」
仕方ないか、とため息を一つ。
ジーニーは斧の先端で、拳士の胸へ突きを放った。
爆破した連結扉から、2両目へと侵入してくる2人の男。
彼らの姿を見て、捕らわれていた盗賊団員たちが喜色を浮かべた。
盗賊たちを護送していた騎士たちが腰の剣へ手を伸ばす。
「騎士の皆様はそのまま護りを固めてください。彼らの足止めは私が……」
侵入してくる男たちへ向け、セアラは素早く手を翳す。
魔力の渦が巻き起こり、連結部で吹き荒れる。
黒棺盗賊団の1人が“黒球”を放ったのだろう。吹き荒れる魔力渦に火炎が混ざる。
侵入者たちが怯んだところで、セアラは連結扉へと近づいた。
魔力渦が消えるとともに、視線を3両目へと向ける。
そこにいたのは、血を流しながら盗賊を殴りつけるエルシーの姿。
「エルシー様! 上着の右ポケットに黒球を持っています!お気をつけて!」
【リュウケンスの瞳】で盗賊を観察したセアラが、エルシーへ注意を飛ばす。
セアラの声に即応し、エルシーは盗賊の右腕へと拳を放った。
骨の折れる鈍い音……よろける盗賊の顔面に、次いで放たれた拳が刺さる。
意識を失い、盗賊はどさりと地に伏した。
「今のうちに回復を」
セアラの元へ迫る2人の盗賊。
迎撃と回復の2択のうち、セアラは後者を選択したのだ。
エルシーの身体が淡い燐光に包まれる。
血は止まり、傷は癒える。失われた体力が回復すると同時に、その身を侵す毒も取り除かれる。
「数ではこちらが劣勢だけど、連携ならこっちも負けてないのよ!」
床を蹴ってエルシーは跳んだ。
雄叫びと共に放たれた拳打が、盗賊たちを怯ませる。
めちゃくちゃに振り回される盗賊の曲刀が、セアラの頬を切り裂いた。
頬を赤に濡らしながら、セアラは柔らかい笑みを浮かべる。
一瞬、空中でセアラとエルシーの視線が交差する。
笑みを交わし……セアラは2両目へと下がる。
激しい戦闘音が鳴り響き、盗賊たちの悲鳴が響いた。
寒風吹きすさぶ屋根の上、2人の男がオルパに迫る。
蹴りと拳の同時攻撃。
オルパはそれを、ダガーで受け流すことで回避する。
残る盗賊は目の前にいる2人だけだ。屋根に取り付いた盗賊たちの残りは既に戦闘不能にしている。
「どこをみている? こっちだこっち」
2人の男の間をすり抜けながら、ダガーで一撃ずつ切り付けた。
ダメージは少ないが、オルパのダガーは【パラライズ】の状態異常が付与された特別性だ。
「う……ぐ」
男の1人が、その場で硬直する。よく見れば、手や指先が痙攣していた。
無事に【パラライズ】がかかったようだ。そのことを視認し、オルパはもう1人の盗賊へと視線を移す。
いかに黒棺盗賊団が連携を得意としていようとも、1人では連携も何もあったものではない。
振り抜かれた拳を最小限の動作で回避。
「遅いぞ」
返す刀でダガーを振りぬく。
放たれたのは魔力の矢。
魔力で形成された2本の矢が、盗賊団員の腹部を貫いた。
意識を失い倒れた男を拘束し、オルパは【パラライズ】にかかっている盗賊団員の元へと近寄る。
状態異常が解けると同時に、その喉元にダガーを突き付けオルパは問うた。
「それで、黒球をどこから手に入れたんだ? あぁ、正直に言った方が身のためだぞ。戦闘中に何人か死亡したって話にしても、別に不自然じゃないからな」
冷や汗を零しながら、男はギリと歯を食いしばる。
場所は2両目。
ふぅ、とため息を一つ零してセアラは懐へ手を入れる。
取り出したのは未使用の黒球。先ほど、エルシーと戦闘中だった盗賊団員から奪ったものだ。
「さて……これは一体、何なのでしょうか。ご存じないですか?」
セアラが視線を向けた先には、拘束された15名の盗賊団員。
周囲の騎士たちが、黒球を見るなり表情を変えた辺り、どうやら街を襲った際にも、盗賊たちはそれを使用したらしい。
「見たことのない魔法薬……のようですけど」
火炎と毒をまき散らす危険な兵装である。
大規模とはいえ、今回戦闘した盗賊たちに黒球を作成できそうな者はいなかった。
ならば一体、どこからそれを手に入れたのか。
小首をかしげて、セアラは思考の海へと沈む。
●
「さて……これで良しと」
殴り倒した盗賊たちをロープを使って拘束しながら、エルシーはそう言葉を吐いた。
顔を腫らした盗賊が、忌々し気な視線をエルシーへと向けたが……。
「皆で仲良く罪を償って来る前に、一つお尋ねしたいんだけど」
ドカン、と。
籠手を付けた右の拳で車両の壁を殴りつけ、彼女は盗賊団員の視線を真正面から受け止める。
殴った壁が陥没し、エルシーは不機嫌そうに表情を歪める。
「あんたたちのせいだからね、これ……」
じろりと盗賊団員を睨み、エルシーは問いを口にする。
「この黒球、どこから入手したのかしら?」
機関車両での戦闘音を聞きつけ、セアラはゆっくりと封鎖していた扉を開く。
操縦席を守るように戦うジーニーと、そんなジーニーへ襲い掛かる女盗賊の姿があった。
女盗賊の蹴りが、拳が、ジーニーの全身に降り注ぐ。
「ちっ……速いな。こ、こうなっちゃったらテンペスト使っちゃう?」
額から零れる血を拭い、ジーニーはそう呟いた。
どうやら、戦斧を思うように振るえないことが原因で女盗賊に押し負けているらしい。
焦りといら立ちから、今にも全力で暴れだしてしまいそうなジーニーをどうにか冷静にさせようと、セアラは回復術を行使。
淡い燐光がジーニーの体を包む。
「ジーニー様、黒球の入手経路はオルパ様が聞き出してくださいました。残る盗賊はその方だけですので」
「おぉ、回復ありがとうな!」
セアラに礼を述べ、ジーニーは斧を腰の位置へ降ろす。
警戒するように、女盗賊は壁際へ後退。
視界にジーニーとセアラの両名を捉える位置取りだ。
「思いっきり暴れてやるぜ!」
女盗賊が構えを取るのとほぼ同時、床を蹴ってジーニーが駆ける。
身体の前に突き出された戦斧を受け止めるべく、女盗賊は拳を開く。
手の平で斧の腹を押すようにして、ジーニーの突撃を回避。
そのまま、カウンターとして拳打を放つ。
だが、しかし……。
「な……斧を、捨て……?」
気が付いた時にはもう手遅れだ。
女盗賊の視界いっぱいに迫るはジーニーの頭部。
彼女は斧を防がれると同時に、攻撃を頭突きへと切り替えていた。
「身軽ってんなら、よく飛んでくだろ!」
「く……」
これまで斧で戦い続けていたジーニーだが、素手での戦闘ができないというわけではない。
とくに、有り余る力を活かした体当たりなどその最たるものだ。
結果……。
「ぅ……あぁ!?」
ジーニーの頭突きを顔面に受け、女盗賊は意識を失う。
こうして、黒棺盗賊団の残党は無事に全員捕縛された。
「それで、黒球の入手経路って?」
盗賊たちの護送を終え帰還の途に付く自由騎士たち。
エルシーがオルパに問うたのは、盗賊たちの所持していた“黒球”と呼ばれる兵装の出どころだ。
オルパは表情を曇らせ、言葉を探すように視線を宙にさまよわせる。
やがて……。
「奇妙な話なんだがな……いつの間にか持っていて、どこで誰が手に入れたのか、一切覚えていないそうだぞ」
と、尋問した盗賊数名の言葉を思い出しながらオルパは告げる。
頭の上に「?」を浮かべ、エルシーは腕を組んで首をかしげる。
「……覚えていない? 誰も? 何も?」
そんなことある?
なんて……疑問を抱くエルシーだが、盗賊たちはすでに全員牢の中。
黒球の出どころは、現段階では分からない、と報告するしかなさそうだった。
無人の荒野を汽車が走る。
5両編成の汽車だ。車両には5名の騎士と、15名の盗賊が乗っていた。
盗賊たちの名は『黒棺盗賊団』……とある街へ襲撃をかけ、騎士たちによって壊滅した盗賊団の数少ない生き残りであった。
彼らのルーツは不明だが、どうやら仲間を大切に考えているらしい。
そのため捕らえられなかった盗賊たちの生き残りが、捕らえられた仲間たちを奪還に来ることが予想される。
そうなった場合、5名の騎士だけでは迎撃が難しいと判断された。
そうして、派遣されたのが都合4名の自由騎士たち。
「で、汽車のルート上には大昔の遺跡と。盗賊たちが汽車に飛び乗るつもりなら、ここが怪しいわね」
3両目の車両に集まった自由騎士の1人、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は地図を片手にそう告げた。
ちなみに、5名の騎士と盗賊たちは2両目の車両に搭乗している。
「黒ずくめの連中の相手なんて、楽しくなさそうだよなぁ。かわいこちゃんでもいたらいいが……いないんだろうな。まぁ、仕方ないさ」
そう言って『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は、窓の傍へと歩いて行った。
窓を開け、視線を上方へと向ける。
「列車の屋根の上やら足場の悪い位置に陣取っている連中は、俺が片付けよう」
窓の桟に手をかけ、オルパは車両の外へ身を躍らせた。
素早い動きで屋根の上へと飛び乗ると、その場に座って盗賊たちの襲撃に備えた。
「では、私は窓を封鎖してきますね」
少しでも盗賊たちの侵入ルートを潰すため、セアラ・ラングフォード(CL3000634)はオルパが出て行った窓へ歩みよると、それに鍵をかけ、近くの椅子を立てかける。
「んじゃ、私は機関車両の方に回るよ」
愛用の戦斧を肩に担ぎ、『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は車両を出ていく。
後に残るはエルシーとセアラの2名。
エルシーは3両目を、セアラは2両目を担当することになる。
●
黒棺盗賊団残党の目的は、捕らわれた仲間たちの奪還だ。
ゆえに、彼らは最終的に2両目……盗賊たちの乗せられている車両を目指すことになる。
「来たか……エルシー殿の予想通りだな」
黒いコートを翻し、オルパは屋根の上で立ち上がった。その手には2本のダガー。視線の先には、遺跡の上から車両目掛けて飛び降りた12人の黒衣の者たち……黒棺盗賊団の残党たちだ。
「まぁ、適材適所ってやつさ」
淡々とそう呟いてダガーを一閃。
放たれた青い魔弾が、車両に飛び乗る盗賊の1人に命中し、その身を一瞬で凍り付かせた。
姿勢を崩し、凍り付いた盗賊は屋根の上に落下する。
素早く盗賊へと接近すると、オルパはその首筋へダガーを振るった。
「峰打ちだ」
意識を刈り取られた盗賊がその場に倒れる。
だが、その間に残る11名は車両に取り付いた。さすがにオルパ1人で、一斉に襲い来る12人を相手取ることは不可能だった。
こうして、汽車上での攻防戦は幕を開けた。
窓ガラスを蹴り破り、黒づくめの男が車内に飛び込む。
その手には刃渡りの短い曲刀が握られていた。
さらに、その背後にも数名の男たち。
その数はおよそ4名ほど。残りは屋根上やほかの車両から汽車内部へ侵入するつもりであるようだ。
迎え撃つは、窓から吹き込む寒風に燃えるような赤髪を靡かせる拳闘士、エルシーであった。
砕け散るガラス片を掻い潜りながら、窓際へと接近し……。
「大きな得物を振り回したりライフルで銃撃したりは不向き……つまり拳が武器の私向きなミッションってわけよ」
宣言通り、先頭に立つ男の胸を拳で打ちぬく。
1点に集約された衝撃が、男の胸を打ち抜き、さらには背後のもう1人を巻き込んで壁へと叩きつけた。
「っし、先制! 連携が上手いってのは裏を返せば数を減らして連携阻止すれば脆いって事よね」
生憎と2人の男たちの意識はまだ残っている。
戦闘能力を奪うべく、拳を握り直し壁際へと駆けるが……。
「……」
新たに窓から飛び込んできた男が、エルシーの足元へ何かを放った。
コツン、と軽い音を立て足元に転がるそれは卵サイズの黒い球体。
「っ……!?」
砕けた黒球の中から、ドロリと滲む黒い液体。
それは空気に触れると同時に発火し、周囲に毒と火炎をまき散らす。
エルシーが炎に飲まれると同時に、新たに車内へ跳び込んできた2人の男は2両目へ向け駆けていく。
「あ、待ちな……っ!」
纏わりつく炎を払い、追走しようとしたエルシーの太腿を1発の銃弾が撃ち抜いた。
最初にエルシーが殴り飛ばした2人のうち、後列に位置していた男による援護射撃。
エルシーが痛みに足を止めたその直後、もう1度爆音が鳴り響き2両目と3両目を繋ぐ連結扉が吹き飛ばされた。
一方そのころ、先頭機関車両。
数度、連続して鳴り響く爆音。
衝撃に車体が激しく揺れる。
フロントガラスが砕け、一斉に車内へ跳び込んでくる3人の男。黒棺盗賊団の残党たちだ。
曲刀を手にした男が2人、徒手空拳の女性が1人。
迎え打つは戦斧を肩に担いだ女丈夫・ジーニーだった。赤い右目が妖しく光る。獣じみた笑みを浮かべ、ジーニーは告げた。
「仲間想いなのは結構な事だけど、盗賊稼業は褒められたもんじゃないな。人生やり直せ!」
斧を掲げて、先頭に立つ盗賊へと斬りかかる。
曲刀と斧が激しくぶつかり、甲高い音が鳴り響く。飛び散る火花。舞い散るガラス片。
徒手空拳による拳打が、ジーニーの胴を打つ。
「うぉっ……この!」
よろめくジーニーの手を、曲刀が切り裂き血しぶきが飛んだ。
狂暴な笑みを浮かべ、ジーニーは斧を大上段へ振りかぶる。
が、しかし……。
「っとと……列車を壊してもいいってんなら、【テンペスト】を使うけど」
次いで放たれた斬撃を斧の柄で払いのけながら、ジーニーはギリと歯を食いしばる。
彼女の武器である戦斧を十全に振り回すには、車両内部は狭すぎるのだ。
「やっぱりダメだよなぁ」
仕方ないか、とため息を一つ。
ジーニーは斧の先端で、拳士の胸へ突きを放った。
爆破した連結扉から、2両目へと侵入してくる2人の男。
彼らの姿を見て、捕らわれていた盗賊団員たちが喜色を浮かべた。
盗賊たちを護送していた騎士たちが腰の剣へ手を伸ばす。
「騎士の皆様はそのまま護りを固めてください。彼らの足止めは私が……」
侵入してくる男たちへ向け、セアラは素早く手を翳す。
魔力の渦が巻き起こり、連結部で吹き荒れる。
黒棺盗賊団の1人が“黒球”を放ったのだろう。吹き荒れる魔力渦に火炎が混ざる。
侵入者たちが怯んだところで、セアラは連結扉へと近づいた。
魔力渦が消えるとともに、視線を3両目へと向ける。
そこにいたのは、血を流しながら盗賊を殴りつけるエルシーの姿。
「エルシー様! 上着の右ポケットに黒球を持っています!お気をつけて!」
【リュウケンスの瞳】で盗賊を観察したセアラが、エルシーへ注意を飛ばす。
セアラの声に即応し、エルシーは盗賊の右腕へと拳を放った。
骨の折れる鈍い音……よろける盗賊の顔面に、次いで放たれた拳が刺さる。
意識を失い、盗賊はどさりと地に伏した。
「今のうちに回復を」
セアラの元へ迫る2人の盗賊。
迎撃と回復の2択のうち、セアラは後者を選択したのだ。
エルシーの身体が淡い燐光に包まれる。
血は止まり、傷は癒える。失われた体力が回復すると同時に、その身を侵す毒も取り除かれる。
「数ではこちらが劣勢だけど、連携ならこっちも負けてないのよ!」
床を蹴ってエルシーは跳んだ。
雄叫びと共に放たれた拳打が、盗賊たちを怯ませる。
めちゃくちゃに振り回される盗賊の曲刀が、セアラの頬を切り裂いた。
頬を赤に濡らしながら、セアラは柔らかい笑みを浮かべる。
一瞬、空中でセアラとエルシーの視線が交差する。
笑みを交わし……セアラは2両目へと下がる。
激しい戦闘音が鳴り響き、盗賊たちの悲鳴が響いた。
寒風吹きすさぶ屋根の上、2人の男がオルパに迫る。
蹴りと拳の同時攻撃。
オルパはそれを、ダガーで受け流すことで回避する。
残る盗賊は目の前にいる2人だけだ。屋根に取り付いた盗賊たちの残りは既に戦闘不能にしている。
「どこをみている? こっちだこっち」
2人の男の間をすり抜けながら、ダガーで一撃ずつ切り付けた。
ダメージは少ないが、オルパのダガーは【パラライズ】の状態異常が付与された特別性だ。
「う……ぐ」
男の1人が、その場で硬直する。よく見れば、手や指先が痙攣していた。
無事に【パラライズ】がかかったようだ。そのことを視認し、オルパはもう1人の盗賊へと視線を移す。
いかに黒棺盗賊団が連携を得意としていようとも、1人では連携も何もあったものではない。
振り抜かれた拳を最小限の動作で回避。
「遅いぞ」
返す刀でダガーを振りぬく。
放たれたのは魔力の矢。
魔力で形成された2本の矢が、盗賊団員の腹部を貫いた。
意識を失い倒れた男を拘束し、オルパは【パラライズ】にかかっている盗賊団員の元へと近寄る。
状態異常が解けると同時に、その喉元にダガーを突き付けオルパは問うた。
「それで、黒球をどこから手に入れたんだ? あぁ、正直に言った方が身のためだぞ。戦闘中に何人か死亡したって話にしても、別に不自然じゃないからな」
冷や汗を零しながら、男はギリと歯を食いしばる。
場所は2両目。
ふぅ、とため息を一つ零してセアラは懐へ手を入れる。
取り出したのは未使用の黒球。先ほど、エルシーと戦闘中だった盗賊団員から奪ったものだ。
「さて……これは一体、何なのでしょうか。ご存じないですか?」
セアラが視線を向けた先には、拘束された15名の盗賊団員。
周囲の騎士たちが、黒球を見るなり表情を変えた辺り、どうやら街を襲った際にも、盗賊たちはそれを使用したらしい。
「見たことのない魔法薬……のようですけど」
火炎と毒をまき散らす危険な兵装である。
大規模とはいえ、今回戦闘した盗賊たちに黒球を作成できそうな者はいなかった。
ならば一体、どこからそれを手に入れたのか。
小首をかしげて、セアラは思考の海へと沈む。
●
「さて……これで良しと」
殴り倒した盗賊たちをロープを使って拘束しながら、エルシーはそう言葉を吐いた。
顔を腫らした盗賊が、忌々し気な視線をエルシーへと向けたが……。
「皆で仲良く罪を償って来る前に、一つお尋ねしたいんだけど」
ドカン、と。
籠手を付けた右の拳で車両の壁を殴りつけ、彼女は盗賊団員の視線を真正面から受け止める。
殴った壁が陥没し、エルシーは不機嫌そうに表情を歪める。
「あんたたちのせいだからね、これ……」
じろりと盗賊団員を睨み、エルシーは問いを口にする。
「この黒球、どこから入手したのかしら?」
機関車両での戦闘音を聞きつけ、セアラはゆっくりと封鎖していた扉を開く。
操縦席を守るように戦うジーニーと、そんなジーニーへ襲い掛かる女盗賊の姿があった。
女盗賊の蹴りが、拳が、ジーニーの全身に降り注ぐ。
「ちっ……速いな。こ、こうなっちゃったらテンペスト使っちゃう?」
額から零れる血を拭い、ジーニーはそう呟いた。
どうやら、戦斧を思うように振るえないことが原因で女盗賊に押し負けているらしい。
焦りといら立ちから、今にも全力で暴れだしてしまいそうなジーニーをどうにか冷静にさせようと、セアラは回復術を行使。
淡い燐光がジーニーの体を包む。
「ジーニー様、黒球の入手経路はオルパ様が聞き出してくださいました。残る盗賊はその方だけですので」
「おぉ、回復ありがとうな!」
セアラに礼を述べ、ジーニーは斧を腰の位置へ降ろす。
警戒するように、女盗賊は壁際へ後退。
視界にジーニーとセアラの両名を捉える位置取りだ。
「思いっきり暴れてやるぜ!」
女盗賊が構えを取るのとほぼ同時、床を蹴ってジーニーが駆ける。
身体の前に突き出された戦斧を受け止めるべく、女盗賊は拳を開く。
手の平で斧の腹を押すようにして、ジーニーの突撃を回避。
そのまま、カウンターとして拳打を放つ。
だが、しかし……。
「な……斧を、捨て……?」
気が付いた時にはもう手遅れだ。
女盗賊の視界いっぱいに迫るはジーニーの頭部。
彼女は斧を防がれると同時に、攻撃を頭突きへと切り替えていた。
「身軽ってんなら、よく飛んでくだろ!」
「く……」
これまで斧で戦い続けていたジーニーだが、素手での戦闘ができないというわけではない。
とくに、有り余る力を活かした体当たりなどその最たるものだ。
結果……。
「ぅ……あぁ!?」
ジーニーの頭突きを顔面に受け、女盗賊は意識を失う。
こうして、黒棺盗賊団の残党は無事に全員捕縛された。
「それで、黒球の入手経路って?」
盗賊たちの護送を終え帰還の途に付く自由騎士たち。
エルシーがオルパに問うたのは、盗賊たちの所持していた“黒球”と呼ばれる兵装の出どころだ。
オルパは表情を曇らせ、言葉を探すように視線を宙にさまよわせる。
やがて……。
「奇妙な話なんだがな……いつの間にか持っていて、どこで誰が手に入れたのか、一切覚えていないそうだぞ」
と、尋問した盗賊数名の言葉を思い出しながらオルパは告げる。
頭の上に「?」を浮かべ、エルシーは腕を組んで首をかしげる。
「……覚えていない? 誰も? 何も?」
そんなことある?
なんて……疑問を抱くエルシーだが、盗賊たちはすでに全員牢の中。
黒球の出どころは、現段階では分からない、と報告するしかなさそうだった。