MagiaSteam
カーネリアンと輝きの粒




 消え行く命は儚いものだ。
 神から授かったその輝きは一律ではない。
 長く大きく輝くものもいれば、一瞬のキラメキで終わるものもいる。
 神様は不平等だ。
 またその輝きが一つ、今失われようとしていた。


 とある病院の一室に若い男女がいた。
 ベッドに横たわる少女はアンジェ。17歳のノウブルだ。重い病気を患い、余命いくばくも無い状態だという。
 最近では体調の優れない日も多くなり、今日は久々の面会に許可が出た日だった。
「ねぇヨハネ。私、輝きの粒が見たいの」
 唐突にアンジェが笑顔で言う。
「輝きの粒? どうして今になって?」
 ヨハネは突然の申し出に困惑する。
 輝きの粒。それはとある洞窟の奥で取れる赤や橙色に輝く鉱石だ。光に当てるときらきらと輝く若い女子には人気の石だ。
 ただ、手に入れるのはなかなかに難しい。輝きの石が取れる洞窟には魔物が棲んでいるからだ。そのため一般に出回ったその石は非常に高価で取引されており、ヨハネの今の収入ではとても手が出るものではなかった。

 ヨハネとアンジェは同い年の幼馴染。家がお隣だった縁で幼い頃から何をするにも一緒。その中のよさはあたりでも評判で、お互いを必要とし、お互いが惹かれあっているのは誰の目から見ても明らかだった。
 だが近すぎる故か、数ヶ月前アンジェが病気で倒れ、生命の危機をさまよう今の今になってもその関係は幼馴染を越える事は無かった。
 もうすぐいなくなるかもしれない自分が好意を伝えてしまったら……もしすぐに私がいなくなったらヨハネに今以上に辛い思いをさせてしまう……。アンジェは言葉に出来ない。
 病気で苦しんでいるアンジェに好意を伝えることにどんな意味があるのか。なぜいまさらと思われてしまうのではないか、ただの同情だと思われるのではないか……。ヨハネもまた言葉には出来なかった。

「でも一体どうして? 僕には手の届かない高価な代物だよ。今以上に頑張って働いても手に入るのはいつになるか……」
「うん。わかってる。でも欲しいの。……だから次に会うのはヨハネが輝きの粒を持ってきてくれた時だよ」
「えっ……!? それってどういう」
 ヨハネはアンジェに理由を問い詰めようとするが、アンジェは穏やかに笑うだけだ。
「そろそろ面会時間が終わりますので」
 看護婦がヨハネに声をかけ、ヨハネは病室を出ようとする。
「待ってて……絶対に手に入れるから」
 部屋を出る際、ヨハネは小声で、でもアンジェにはっきりと聞こえるように呟いた。

「本当に良かったの?」
 看護婦はアンジェに問う。彼女はアンジェの容態は知っている。そしてヨハネがそれをすぐには手に入れられない事も。
「いいんです。ヨハネはいつまで経っても頼りないから。このくらいの事できるようになってくれないと!」
 アンジェはふふふと笑いながらそう言う。
「そう……。強いのね、あなたは」
 そういうと看護婦はアンジェの容態を確かめると部屋を後にした。
 一人きりになった部屋に静寂が訪れる。

 ぽろり。

 ぽろり。

 涙があふれてくる。
 じわり、と確実に忍び寄る死の影。
 これでヨハネまでも失ったら──。

 ぽろり。

 ぽろり。

 でも、このままじゃいけない。ヨハネには前に進んで欲しい。
 私がいなくなってもヨハネには笑っていて欲しい。

「う……うわぁぁぁぁん」
 ずっと張り詰めていた感情の糸はぷつりと切れ、アンジェは泣いた。ぼろぼろと涙を流しながら声を上げて幼子のように泣いた。その涙はとどまる事はなく。
「うわぁああああぁあああぁん……ヨハネ……私怖いよ……死にたくないよぉ……ゲホッゲホッ」

 その日からアンジェは面会謝絶となった。


 輝きの粒の取得を手伝って欲しい。
 その青年が自由騎士団に相談に来たのは、それから数日してからだった。
「というわけで、理由は今この青年に話してもらったとおりなんだけど……病弱で薄幸の美少女からの頼み、もちろん聞いてあげたいよね~~」
 ヨアヒムの脳内ではあってもいないその少女はすでに美少女になっているらしい。
「どうしても輝きの粒を手に入れて、アンジェにもう一度会って理由を聞きたいんです。僕に出来ることなら何でもやります。どうか手伝っては頂けないでしょうか」
 ヨハネが集った自由騎士団の皆に頭を下げる。
「俺からもお願いできないかな♪」
 いつも通りの飄々とした物言いだが、ヨアヒムの表情はまじめそのものだった。

「じゃぁいくか」
 自由騎士達の意思は決まっていた。

  

 


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.輝きの粒を手に入れる
麺二郎です。
この猛暑の中、そうめんを食べてなんとか生きながらえています。

イ・ラプセルのとある洞窟で採掘できる輝きの粒という鉱石の取得をお願いします。

以下依頼詳細となります。

●カーネリアン洞窟
 輝きの粒を採掘できる洞窟です。
 中で複数に枝分かれしており、人の手が殆ど入っていないため明かりなどもありません。
 また魔物が多く棲み付いている為、他に人の出入りはありません。
 輝きの粒はある程度の知識があれば素人でも発見可能です。

洞窟内のモンスター
お化けコウモリ
 沢山います。鋭いつめ(攻近単)と音波(攻遠単)で攻撃してきます。
血吸いモグラ
 沢山います。鋭いつめ(攻近単)と噛み付き(攻近単、スクラッチ1)で攻撃してきます。
デスジャッカル 
 通常のジャッカルよりも二周り大きく、その牙は大型動物の骨をも砕きます。12頭。ファミリーでこの洞窟をねぐらにしています。鋭い牙と連携攻撃を行ってきます。

 コウモリやモグラは自由騎士団の実力であれば、戦闘はさほど問題にはなりません。
 デスジャッカルは非常に結束力が強く、一匹でも相手にするとすべてのデスジャッカルが襲ってくるため非常に厄介です。
 デスジャッカルの習性を予め調べる事が出来れば戦闘を回避できるかもしれません。

●登場人物
 アンジェ(ノウブル、17歳)
 ごく一般的な家庭に育ったノウブルの少女。非常に重い病気にかかり現在は療養しています。医者の継げた余命はとうに過ぎており、いつどうなってもおかしくない状態です。両親は延命にかかる高額な費用をまかなう為、昼夜問わず働いているためあまりお見舞いには来ていません。

 ヨハネ(ノウブル、17歳)
 アンジェの隣に住む幼馴染の優しい青年。いつもいこにことしており怒った所は見せたこともありません。引っ込み思案な性格もありアンジェとはお互い惹かれあっているにもかかわらずその関係は止まったままです。
 なぜ突然アンジェが無理難題を出したのか理由を確かめたがっています。
 洞窟にもどうしても付いて行くといって聞かず、一行に同行します。もちろん戦闘能力などは皆無なので常に守る必要があります。

●同行NPC
 ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示がなければ戦闘時の補助に徹します。
 頭の中まで筋肉なので難しい事は出来ません。石の知識やジャッカルの知識も残念な子です。
 所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。


少女が見せたありったけの勇気はヨハネに何かをもたらすのでしょうか。


皆様のご参加お待ちしております。
EXには書くことが無ければ、乾麺と生麺どちらが好きかでも。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
17モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
参加人数
8/8
公開日
2018年09月16日

†メイン参加者 8人†




『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)はデスジャッカルについての情報集めを街中で行っていた。
 デスジャッカルの行動時間帯。それがわかるだけでも大きな成果だ。
 しかしもともとこういった事は得意分野ではないボルカスが、有益な情報を得る事はなかなか容易ではない。
「これは……思った以上に大変だな」
 少し渋い表情をしたボルカスだが、それでも彼はつき動く。なぜなら彼はアンジェとヨハネのためになると確信しているから。
「突然呼び止めてすまない。デスジャッカルについて知っている事は無いだろうか──」

『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)と『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は学徒という立場を活かし、図書館でデスジャッカルの性質を調べていた。その生態系を詳しく知ることはその依頼で大きな意味を持つ。
「どういった暮らしをしているのか、なにが苦手で、なにを好み、なにを攻撃対象とするのか。そういった書物が見つかればよいのですが……」
「そうね。確か……ジャッカルって雑食だったよね? 確かに好きなものや苦手なものとか……あと昼行性か夜行性とか。その辺りも調べておきたいわね」
 二人は様々な生体図鑑を調べていく。
「あった! これね。ふむふむなるほど……この習性は使えるわね」
「そうですね。これなら無駄な戦闘は避けられそうですっ」
「これで問題はひとつクリアね。さぁみんなに合流して情報を共有しましょう」
「はい。急ぎましょう」
 エミリオとアリアは得た情報をメモに取り、図書館を後にした。

『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)と『商売繁盛どどんこどん』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)、『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)も自身のコネクションを使った情報集めに奔走していた。洞窟の構造、輝きの粒、デスジャッカル。調べておくべき情報は多い。
「どこまで集め切れるかはわからねぇが……どうにかうまくやるしかないな。よっ! ちょっと聞きたいんだが……」
「あらあら~いつもご贔屓にして頂いてありがとうございますぅ~。あ、そうそう、ひとつ質問をよろしいですかぁ~? いつも色々なお話を聞かせてくださる博学多識な○○さまならきっとご存知かと思うのですが~」
「よっ旦那! 景気はどうだい? ……そりゃぁ良かった。お互いがんばりましょうや。そういえば一つ聞きたいことがあってね。旦那の店でも確か輝きの粒は扱ってたと思うんだけど、あれの詳細について教えてもらえないかい?」
 裏の情報網、お店のお客からの情報収集、商人同士のネットワーク。三者三様の情報収集もまた出発ぎりぎりまで続けられ、情報は集約されていく。

 程なく自由騎士たちは集り、皆が得た情報は共有される。居合わせた自由騎士の手伝いもあり、必要な情報はほぼ揃ったようだ。前準備は終わった。

「わたくしの採掘人のスキルもあります。輝きの粒については何も問題ありません。絶っ対に見つけて差し上げますわ」
『命短し恋せよ乙女』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)はそう言うと、自信にあふれた良い笑顔を沈みがちなヨハネに向ける。
「アンジェさんの為にも一刻も早く「輝きの粒」を手に入れて来なきゃね!」
『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)もそういって声をかける。話を聞く限りアンジェさんはヨハネさんが輝きの粒を買えない事を分かっててお願いしてる。その間に自分が居なくなれば…って思っているのかな。でもそれって……シアは少し複雑な心境だった。
「ありがとうございます。皆さんよろしくお願いします」
 ヨハネは改めて皆に頭を下げる。
「さぁ向かおう。カーネリアン洞窟へ。目指すは輝きの粒だ」
 ザルクが皆に声をかける。

 準備は整った。


「先生っ!! 患者の容態が急変しましたっ」
「どの患者だっ?!」
「例の……」
「すぐに行く! 準備を急げ!」
「わかりましたっ」
 病室に慌しく医者が駆けつける。
「はぁっ……はぁっ……ゴホッ……うっ……ぁぁぁ……」
「君はまだ生きなきゃいけない! まだだ! 自分でそう言ってたじゃないか!」
「アンジェちゃん聞こえる? アンジェちゃんっ! 気をしっかり持って!!」
 意識も混濁し苦しそうに声を上げるアンジェへ医師達は声をかけ続ける。

 ──わ……たし……


 洞窟へ向かう途中。ボルカスはヨハネに声をかけた。
 これだけは言わねばなるまい──ボルカスが重い口を開く。
「……死ぬかも知れないぞ」
 その言葉にヨハネは俯き硬直してしまう。その身は震えているのがわかる。
「ちょ、ボルカスの旦那。今そんな事を言わなくても」
 あわててウェルスがフォローする。
「いや、これは紛れも無い事実だ。それをしっかりと認識しているのか確かめておきたい」
「確かにそうには違いないけどよ、ヨハネの旦那だってそんな生半可な……」
「構いません!!」
 ウェルスの言葉をさえぎってヨハネはそう力強く答えた。
 ヨハネには戦う能力は無い。いくら同行者が居るといっても自分が魔物が住み着く洞窟に行くことの危険は百も承知の上。それでも。体は未だ小刻みに震えている。だがヨハネの顔はその決意を宿し、まっすぐにボルカスを見ていた。
「……わかった。ならば俺は何があってもお前を守ろう」
 ボルカスは思った。全てを覚悟した良い顔だ、と。
「見えてきたよっ」
 先頭を行くシアが皆に声をかける。
 改めてヨハネの決意を聞いた自由騎士たち皆のこぶしに力が篭る。各々が心に誓う。
 絶対に間に合わせると──。

 事前調査を行った事での優位性の確立。ある意味洞窟に着いた時点で全ての攻略は成されたも同然だった。
 デスジャッカル。今回の依頼でどうしても戦闘を避けたいモンスターだった。
「デスジャッカルの習性については問題ないわ」
 エミリオとアリアはその生活習性を調べ上げた。昼間は基本狩りの時間。戦えぬ幼子を除けばすべてのデスジャッカルは狩りへ出る。時間さえ間違わなければ塒である洞窟内で出くわす可能性は限りなく低い。そしてボルカスも街中での必死の聞き込みの結果、残される幼子についても、基本的には洞窟内でも身を隠すようにじっとしており、攻撃でも受けない限りは仲間を呼ぶことも無いとつきとめていた。
 ヨハネの中心とし、最前方にはウェルスとボルカス。その後ろにはアリア。そしてヨハネを守るべくジュリエットとシェリル、そしてザルク。最後尾にはエミリオとシア、ジロー。そして途中で出会い、状況を聞き協力を快諾してくれた自由騎士たちもいる。前後方どちらからの攻撃にも万全の最善とも思われる隊列での捜索が始まる。
 ボルカスのカンテラが洞窟の奥を照らす。思った以上に暗く、そして湿っぽい。
 これもまた、輝きの粒が取れる条件だとウェルスが言った。仲間の商人から聞き出した情報だ。
「輝きの粒は鍾乳石の先に同じ成分が集ることでできるみたいです~。光を当てるときらきらしてとても綺麗だそうですよ~」
 シェリルがのんびりした口調でそう皆に話す。これも事前調査でお客から得る事が出来た。これもシェリルの日ごろからのおもてなしの賜物だ。
「へぇ~そうなんだ。じゃぁ天井とかを見たほうがいいのかな?」
 自由騎士とはいえシアもやはり女の子。綺麗なものには少し興味があるようだ。
「ああ、それもあるが、ある程度の大きさになる自然に地面に落ちるらしい。なので鍾乳石がある場所の地面も良く探したほうがいいようだ」
 ザルクがシェリルの情報を補足する。ザルクの得た情報は表からのものではない。だがそれゆえに信用に値するとザルクは確信する。
「それにしても……こう暗いと皆でカンテラを持っていても明るいのは周りだけですね」
 アリアが少しこわばった顔でそういう。元来暗闇に不安を覚えないものなどいない。アリアもまたそうなのだろう。
「確かに……明かりがここまで通らないとは思いもしませんでした。ただコウモリもモグラも基本的には音に反応するので明かりの有無によるデメリットは無さそうですね」
 エミリオが続ける。この洞窟の暗さは逆に住み着くものの習性もわかりやすくしている。
 ボルカスとウェルスもそれぞれスキルを駆使して索敵しながら進む。後方のシアとエミリオも同様にサーチエネミーで周知の警戒は怠らない。
 敵自体は今のこのメンバーであれば突破はたやすい。だがヨハネがいる。彼にとってはこの洞窟に住む魔物の一撃でも致命傷になりかねない。自由騎士たちが慎重になるもの無理は無い。
「来るぞ! 前方からだ!」
「こりゃ数が……多いぞっ」
 ボルカスとウェルスが皆に敵襲を伝える。お化けコウモリの大群だ。
「えっ……!?」
 シアとエミリオも敵の存在を捕らえる。
「後ろからも来ますっ! 敵は……地面!?」
 前後挟まれる形で戦闘が始まる。前方のコウモリ、後方のモグラ。
「やれやれっまったくよりによって同時とはねっ。ヨハネの旦那! 身を低くして絶対に動くんじゃねぇぜ!」
 相手が動物ならもしかして、ともウェルスは考えた。が、そんな余裕はなさそうだ。すばやく戦闘態勢に入る。
「問題ない。それだけ数がいようと一体ずつ仕留めればいずれは終わる」
 ボルカスはオーバーブラストで確実に敵を駆逐していく。
 斬。スキルによる身体加速からのヒートアクセルの一撃で一刀両断されたコウモリが地に落ちる。
「近寄らせませんよ。絶対に」
 アリアが両手に握り締めた愛用の武器《葬送の願い》と《慈悲の祈り》が鈍い光を放った。
「大丈夫ですわ。わたくし達、結構強いんですのよ」
 敵襲と共にジュリエットはヨハネをかばう体勢をとり、仲間への回復支援を開始する。
 ジュリエットの祈りはメセグリン、ハーベストレインとなり仲間を次々と癒していく。
「来ないでくださぁい!モグラさん、コウモリさん、不衛生で駆除対象です〜!その爪も牙もさらにアウトですよぉ〜!!」
 シェリルもその口調からは想像もできないほどの鋭い攻撃を敵へ向ける。まさに駆除という言葉が相応しい。
 後方でも血吸いモグラとの攻防は続く。
「数は多いですが全ては想定の範囲内。問題はありませんっ」
 エミリオはスキャンした情報を活用しながら確実に一体ずつライフルで仕留めていく。
「はぁぁ──っ!!」
 加速せよ。加速せよ。シアのスピードが上がる。まるで演舞でも踊るかのようにシアのレイピアの軌道が美しい放物線を描く。後に残るは力尽きた魔物。
 ズキュゥゥゥン!
 一際大きな銃声が響く。ザルクの放った銃声だ。
「こりゃ一体ずつじゃきりが無いな。……パラライズショット」
 ザルクの動きが一瞬止まった次の瞬間。目にも留まらぬ速さで地面に複数の魔弾が放たれる。
 戦いの中で得た稀有の力は今この瞬間輝きを放ち、周囲を囲む魔物に襲い掛かり空を闊歩していたものは自由を奪われ地へ堕ちる。もはや結果は明白だった。
 
 しばしの後、魔物たちは完全に沈黙する。少なくとも近辺にいた魔物は片付いたようだ。
「片付きましたわね」
「そうですね。あとは輝きの粒を見つけるだけです」
「おーい! これそうじゃねぇか?」
 声がしたほうを皆のカンテラの明かりが照らす。それは光を浴びてきらきらと輝いていた。確かに輝きの粒だ。


「アンジェ!!」
 ヨハネと自由騎士たちが病室にたどり着いたとき、アンジェは生と死の境を揺蕩っていた。……いや、正しくは明確な死がすぐそこにあった。
「手は尽くしたのですが……」
「アンジェ!! アンジェ!!」
 ベッドに駆け寄りヨハネは呼ぶ。アンジェの名を。……愛する人の名を。
「アンジェ……僕だよ。ヨハネだよ。君の無茶なお願い……やっと……やっと叶えたんだよ。時間はかかっちゃったけど……いろんな人に助けてもらってやっとの思いで手に入れたんだ」
 ヨハネはそっとアンジェを抱きかかえ、手を握る。その体はすでに温もりを失いつつあった。……そこに確かにあった命が砂流のように零れていく。
「ヨハネ、後悔無いように伝えたいことは全部言葉に出して伝えるんだ」
 ザルクはそっとヨハネの背中を押す。
「そうだよ! アンジェさんに伝えたいこと、あるよね?」
 シアもヨハネに声をかける。後悔させたくない。皆考える事は一緒だった。

 ─────────。

「ねぇ、アンジェ。ほら、見てご覧よ。君が欲しがってたものだよ。でもただの石じゃないんだ。自由騎士団の皆さんがね、こんな……こんな素敵なネックレスにしてくれたんだよ」
 すでに涙でぐしゃぐしゃになったヨハネはアンジェに問いかけるように話しかける。ジュリエットが洞窟からの移動の最中、可能な限りの技術をつぎ込んで作り上げたネックレスをアンジェの手に握らせながら。
「そうですわ。私が今持っている全ての技術を詰め込んで作りましたのよ! これを見もしないなんて許しませんわ」
 ジュリエットも声をかける。
 
 ─────────。

「アンジェ……。頼むから……目を開けてよ……」
 アンジェを抱きしめ、ぼろぼろと涙を流し続けるヨハネ。
 そこに居合わせた自由騎士たちは誰一人として声をかけることが出来ない。

 ─────────。

「アンジェ……まだ……僕は君に伝えたいことが……アンジェ……」
 ヨハネはアンジェをきつく抱きしめる。この現実を受け入れることなど到底出来ないのだ。

 ──────とくん。

「っ!?」
 突然、ヨハネが医者のほうを見た。
「せ、先生! アンジェがっ!! アンジェがっ!!」
 その場にいた医者達がまさかとざわめく。
「確かに彼女の心臓は……一体どういうことだ!?」
 ゆっくりとアンジェの瞳が開く。散りゆく命の一瞬の奇跡が確かに今ここにあった。
「ヨハ……ネ?」
「アンジェ……アンジェっ!!」
 ヨハネはアンジェをきつく抱きしめる。
「ヨハネ……苦しいよ」
「あっ。ごめんアンジェ、だって……だって」
 あわててヨハネは力を緩める。
「……夢を見ていたの。覚えてる? ヨハネ。小さい頃にした約束を」
 アンジェはヨハネに優しく微笑み話しかける。
「……覚えているさ。あの日の約束。でも僕は……結局君との約束を守れそうに無い」
 気を落とすヨハネ。
「そんな事は無いわ。あなたはこうやって私の願いを叶えてくれた。それを見れただけで私は満足なの……ゴホッ」
 フッとアンジェから力が抜ける。アンジェが苦しそうに咳き込む。
「……神様が最後にくれた時間も……そんなに残ってない……みたい」
 アンジェは微笑を絶やさない。しかしその表情からは明らかに生気が失われつつある。
「アンジェ……僕は約束を守ったんだ! 今度はアンジェ、君の番だよっ!」

 その場にいる誰もが固唾を呑んで状況を見守っていた。
 そんな中、ボルカスには一つの考えがあった。この二人のためになら──。
 今こそ行動を起こそうとしたその時、アンジェがボルカスのほうを見て。笑った。とても優しく。どこか寂しそうに。そしてとてもとても強い意志を持った瞳で。

 ──その力は。あなたが本当に大切と思う人のために──

 アンジェは声など発してはいない。しかしボルカスには確かにそう聞こえた気がした。

「……アンジェ!? アンジェ!? しっかりして!!」
 アンジェがゆっくりと目を閉じる。その命の最後のともし火は今消えようとしていた。
「ヨハネ……ありがとう。強く……強く生きてね」
「お別れの言葉なんていらない!! アンジェ……僕は……僕は君の事が──」

 アンジェは繋いだ手を力強く握り返す。まるでヨハネの温かさを最後に刻みつけるように。離れたくない。その気持ちをすべてのせるように。
 そして……握られた手はするりとすべり落ちる。
 アンジェはそのまま二度と目を開ける事は無かった。


「もう大丈夫です」
 ヨハネは真っ赤に目を腫らしながらも、自由騎士たちにそう力強く伝えた。
「アンジェは……僕の中で生き続けます。……このネックレスと共に」
 ヨハネの手にはアンジェとお揃いのネックレス。
「旦那……。いい顔してるぜ」
 その顔を見たウェルスは思った。ネックレスを贈る事の意味。さもあらば伝えようと思っていたがそれはこの二人には必要なかったと。

 二人は結局お互いの気持ちを言葉で伝える事は出来ていない。だが言葉はそもそも必要だったのだろうか。その時のヨハネの顔は後悔を微塵も感じさせるものではなかった。

 しばらくの後、知らせを聞き駆けつけ泣き崩れる両親に、ウェルスは採掘した残りの輝きの粒を全て渡した。
 心の傷が癒えるのには時間はかかるだろう。だがこの粒はアンジェが最後に欲したモノだ。残されたものにこれを役立ててもらう事もまたアンジェの望みであろうとウェルスは思ったのだ。

「結局あの二人の約束ってなんだったのかな」
 アリアがぽつりとつぶやく。
「さぁ~なんだったのでしょうね~。……でもわたしはあの二人、きちんと通じ合ったように思いますぅ~」
 両親から渡された小さな小さな欠片を見ながらシェリルは思う。これも一つの形だと。
「さ、帰ろっ!」
 シアは服で目のあたりをぬぐうと元気にそういった。
「そうですね」
「帰ってヨアヒムさんに報告しましょう」
 アリアとエミリオ、他の自由騎士たちもそれにあわせて歩き出す。自由騎士には次の依頼が待っている。



 少しだけ昔の記憶。

 小さな男の子と女の子が遊んでいる。

「……ねぇ」

「なに?」

「私のお願い聞いてくれる?」

「もちろん! だって僕は君の事が──」


†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

称号付与
『やさしいひと』
取得者: ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
特殊成果
『輝きの欠片』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

彼は振り返ること無く前へ進む事でしょう。心に刻みこんだ最愛の人と共に。

MVPはただの石であったモノを何よりも素敵な贈り物に変えたあなたへ。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済