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霧中のアデレード、惨劇

●争乱
三つの不運が重なってしまった結果、アデレードは騒乱は騒乱へと変わった。
一つめは、水鏡が役に立たなかったことである。
イ・ラプセルの神造兵器である水鏡機関は未来を映す。
しかし、あらゆる未来を見通すワケではない。
当然、そこにはばらつきが存在し、映し出される未来も断片的なものだ。
今回はそのばらつきが悪い意味で働いてしまった事例であった。
二つめは、霧が出ていた。
それ自体は年に数度あることだが、その日出ていた霧はのちに記録になるほど濃かった。
アデレード全体が真っ白く染まってどこに何があるのかもわからなくなった。
そして三つめ、敵が入り込んでいた。
敵は全部で六人。
遠路はるばる船でイ・ラプセルまでやってきた、アマノホカリからの刺客であった。
宇羅幕府より彼らに下された指示は単純明快。
――殺戮である。
それは作戦ではない。そう呼べるほどの目的意識など幕府の連中は持っていない。
ただ、そうした方が争いが激しくなるだろうという杜撰な判断のもとに決定した行動だ。
そして、ここにいる六人が派遣された。
サムライではない。こうした闇仕事を請け負う専門職――、ニンジャだ。
「標的は?」
「全てだ」
「女もか」
「殺せ」
「子供もか」
「殺せ」
「老人もか」
「殺せ」
「けが人も、病人も、赤子も、全てか」
「そうだ、全て殺せ。この街にいる人間を全て殺せ。殺しきれなくなったら死ね。死ぬまで殺して、殺せるだけ殺したら死ね。以上だ。他に質問は?」
「ない。全て了解した」
「では、行動を開始せよ」
「応」
こうして、六人の殺戮者達が霧の中に沈んでいった。
三つの不運が重なってしまった結果、アデレードは騒乱は騒乱へと変わった。
一つめは、水鏡が役に立たなかったことである。
イ・ラプセルの神造兵器である水鏡機関は未来を映す。
しかし、あらゆる未来を見通すワケではない。
当然、そこにはばらつきが存在し、映し出される未来も断片的なものだ。
今回はそのばらつきが悪い意味で働いてしまった事例であった。
二つめは、霧が出ていた。
それ自体は年に数度あることだが、その日出ていた霧はのちに記録になるほど濃かった。
アデレード全体が真っ白く染まってどこに何があるのかもわからなくなった。
そして三つめ、敵が入り込んでいた。
敵は全部で六人。
遠路はるばる船でイ・ラプセルまでやってきた、アマノホカリからの刺客であった。
宇羅幕府より彼らに下された指示は単純明快。
――殺戮である。
それは作戦ではない。そう呼べるほどの目的意識など幕府の連中は持っていない。
ただ、そうした方が争いが激しくなるだろうという杜撰な判断のもとに決定した行動だ。
そして、ここにいる六人が派遣された。
サムライではない。こうした闇仕事を請け負う専門職――、ニンジャだ。
「標的は?」
「全てだ」
「女もか」
「殺せ」
「子供もか」
「殺せ」
「老人もか」
「殺せ」
「けが人も、病人も、赤子も、全てか」
「そうだ、全て殺せ。この街にいる人間を全て殺せ。殺しきれなくなったら死ね。死ぬまで殺して、殺せるだけ殺したら死ね。以上だ。他に質問は?」
「ない。全て了解した」
「では、行動を開始せよ」
「応」
こうして、六人の殺戮者達が霧の中に沈んでいった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.六人の忍者を全て撃退する
ご無沙汰してます、吾語です。
いやー、久々になりますがちょっとハードな依頼ですよ。
霧に沈んだアデレードを舞台に、6人の殺戮者がエントリーしました。
こいつらを早急に倒さないとアデレードの人々がどんどん犠牲になっていきます。
皆さんは「霧の中で警邏を行なっていた」というていでの参加となります。
ですのでリプレイ開始時点でニンジャを細くできているワケではありません。
つまり、探索する必要があります。
探索に時間をかければ、その分、犠牲者が増えます。
逆に、探索が速やかに終われば犠牲者を抑えることができるでしょう。
ただし、犠牲ゼロで終わらせることを目指す場合難易度はベリハ相当となります。
ニンジャは二人一組の3チームで行動しています。
アデレードは1~6の区画に分けられ、そのうち3つにニンジャが潜んでいます。
皆さんはこの1~6のいずれかの区画を探索してニンジャを見つけてください。
なお、単独行動の場合、ニンジャと遭遇しても自動敗北扱いとなります。
精鋭ニンジャ×2なので1人では勝てません。必ず複数で探索をしてください。
1か所を探索する人数が多いほど、ニンジャに対する発見率、勝率が上がります。
また、探索方法についてもプレイングの内容によっても発見確率が上がります。
霧の濃さは、リュンケウスの瞳・急で3m見通せるレベル。と思ってください。
ニンジャは己の命について何とも思っていません。
ですので敗北が決定した時点で機密を守るために自決します。
ニンジャを生かして捕らえる場合の戦闘難易度はベリハ相当となります。
アデレードの街を何とか守ってください。
皆さんのプレイングをお待ちしています。
いやー、久々になりますがちょっとハードな依頼ですよ。
霧に沈んだアデレードを舞台に、6人の殺戮者がエントリーしました。
こいつらを早急に倒さないとアデレードの人々がどんどん犠牲になっていきます。
皆さんは「霧の中で警邏を行なっていた」というていでの参加となります。
ですのでリプレイ開始時点でニンジャを細くできているワケではありません。
つまり、探索する必要があります。
探索に時間をかければ、その分、犠牲者が増えます。
逆に、探索が速やかに終われば犠牲者を抑えることができるでしょう。
ただし、犠牲ゼロで終わらせることを目指す場合難易度はベリハ相当となります。
ニンジャは二人一組の3チームで行動しています。
アデレードは1~6の区画に分けられ、そのうち3つにニンジャが潜んでいます。
皆さんはこの1~6のいずれかの区画を探索してニンジャを見つけてください。
なお、単独行動の場合、ニンジャと遭遇しても自動敗北扱いとなります。
精鋭ニンジャ×2なので1人では勝てません。必ず複数で探索をしてください。
1か所を探索する人数が多いほど、ニンジャに対する発見率、勝率が上がります。
また、探索方法についてもプレイングの内容によっても発見確率が上がります。
霧の濃さは、リュンケウスの瞳・急で3m見通せるレベル。と思ってください。
ニンジャは己の命について何とも思っていません。
ですので敗北が決定した時点で機密を守るために自決します。
ニンジャを生かして捕らえる場合の戦闘難易度はベリハ相当となります。
アデレードの街を何とか守ってください。
皆さんのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2020年10月26日
2020年10月26日
†メイン参加者 8人†
●霧に惑う
イヤな予感がする。
濃密な霧の中で、それを口に出したのは誰だったか。
「二手に分かれて街を探すってのはどうだい?」
提案したのは『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)である。実の娘がいるこの街で、言葉にできない不吉な空気を感じる。それは、親としての直感であった。
「ああ、そうしよう。連絡は密に、離れすぎずに何かあれば即応できる態勢でいくぞ」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)も同調してうなずき、霧の中で警邏にあたるはずだった八人の自由騎士は、四人一組の班を二つ作って動き出すことにした。
「……何なんだよ、このザワつく感じはよ」
肌と服を湿らせる霧に身を浸しながら、『命の価値は等しく。されど』ナバル・ジーロン(CL3000441)が眉間にキツくしわを寄せてうめく。
ここはイ・ラプセルの港町アデレード。
そのはずなのに、いつもとまるで気配が違う。この雰囲気は、戦場のそれに近い。
「敵がいる……、ってのか?」
辺りを見回すも、景色は霧に閉ざされて一寸先も見通せない。
まさか、と思いながらも、そのまさかが彼の内心に膨れ上がって不安を生じさせる。
「……ヘルメリアみたいだな」
呟いたのは『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。
この、重く絡みついてくるような粘っこい霧は、彼に蒸気と工業の国ヘルメリアを想起させていた。それもあってか、やはりウェルスも妙な不安を感じている。
「今のところ、何も起きてない、か……?」
ニコラスがもう一つの班とテレパスによる連絡を取っている間、他の三人はその場にひとまず立ち止まる。ナバルは深く呼吸をしながら、何が起きてもすぐに対応できるよう、気を尖らせて周囲に意識を配っていた。
――だから、なのだろう。
「……ん?」
音、というには小さすぎ、光、というにはか細すぎる。
何故それを見つけられたのか自分でもわからない。ただ、霧の向こうに何かがある。
ナバルはそれを感じ取った。
「どうした、ナバル?」
「……いや、あっちに何かが」
と、声をかけてきたアデルに言うと、彼は数歩進んで、靴底が柔らかいものを踏んだ。
「え?」
にわかに驚き、視線を下ろす。
人が、倒れていた。
のどをぱっくりと裂かれて絶命した、初老の男性の亡骸であった。あふれたおびただしい量の血が、今もじわじわと石畳の道に広がりつつある。
「な……!?」
ナバルが目を剥く。驚きに硬直したのは、ほんの一瞬。
その一瞬に、霧が乱れた。
「敵だ!」
ウェルスが叫ぶ。ニコラスとアデルが、それぞれ武器を構えた。
しかしナバルは反応するのが一拍遅れてしまい、飛んできた手裏剣が肩に突き刺さった。
「ぐ、ぁあ!?」
「ナバル、退け。すぐに追い打ちが来るぞ!」
ニコラスの警告通り、霧の向こうからさらに手裏剣が投げつけられてくる。
しかし、そこま守り手たるナバル。すかさず構えた盾でそれを弾いた。
「何だよ! 何なんだよ、こいつらは!?」
だが混乱はすぐには覚めない。盾を構えられたのは、戦士としての反射行動だった。
「何者だ、おまえら」
両手に拳銃を携え、ウェルスが霧の向こう浮かぶ二つの人影に問う。
「――自由騎士か」
だが、人影はその問いに答えず、抑揚のない声でそう呟くのみ。
「逃げるか」
「否。殺そう」
「応。そうしよう」
短い、あまりにも短い敵の会話。霧の向こうに感じられる殺気が一気に濃度を増す。
「この研ぎ澄まされた殺気、薄すぎる気配。まさかとは思ったが」
アデルが言う。
「……そうか、こんなところまで来ていたのか。アマツホカリのニンジャ!」
二つの影がそれぞれ違ったタイミングで、四人に襲いかかった。
●霧に躍る
同刻、もう一つの班も異常事態に直面していた。
「血の匂いがするわ……。多分、こっちよ」
いかめしい顔つきのままで、天哉熾 ハル(CL3000678)が霧の中を進んでいく。
医療に携わる彼女は、同じ班に属する他三人よりも血の匂いに敏感だ。だからこそ、深い霧の中にかすかに混じる異臭に気づけたワケだが、しかし、それは薄い。
これもやはり霧のせいだろう。肌をじっとり濡らすほどの霧のせいで、血臭が薄まっている。ハルがそれに気づけたのも偶然に近いが、普段より警戒を強めていたおかげでもあるのは確かで、要するに、異常を察したということだ。
――胸騒ぎがする。
鼻先に感じるのみの薄い薄い血の匂い。しかし、霧に薄まっているはずのそれを、ハルは感じ取った。感じ取れてしまった。ならば、そこに流れた血の量は……!
「待ってくれ、近くに何かいる」
ハルの中に焦燥が膨らむ中、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が皆を制する。魔力を感知しうるその能力が、近い場所で働いた魔導を知覚したのだ。
「みんな、集まって。カノンが先に行くよ!」
言って、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が戦闘に立つ。
彼女は優れた視力をもって、霧の先を見通そうとする。
すると、真正面に大きな人影。おそらくは成人男性だろうか。
さらによく観察しようとして、直後、カノンの背筋にすさまじいまでの悪寒が走る。
人影には、頭はなかった。
「……な、ぇ?」
固まるカノンの前で、人影がグラリとかしぐ。
そして倒れた際に、首をはねられた傷口から血が溢れ、それが彼女の顔を汚した。
「――総員、戦闘態勢です!」
自失するカノンに変わり、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が前に出た。そして続けて声を張り上げる。
「現状を確認します! 一つ、ハル様が感じた血の匂い! すでに犠牲者が出ています! 二つ、マグノリア様が感じた魔力反応! ここでたった今、魔導が使われたということです! 三つ、カノン様が見つけた男性の死体! 殺害時刻はたった今! つまり、今この場は敵の間合い真っ只中です、皆様、気をつけてくださいませ!」
叫び、そしてアンジェリカはすかさず己の中に宿る獣性を解放し、そして霧の中に潜む存在を察知するや、一気に飛びかかった。
「逃がしません、攻めさせません! 後悔する間もなく、罪の重さに潰れて果てろ!」
そして放たれる、神速の六連撃。
一撃辺りからして当たれば必殺の威力。それが六度も続けば、大抵のものは倒れる。
アンジェリカ自身にも相応の消耗を強いる技だが、まさに先手必勝。今の場面ではその選択は間違いなく正解であった。確かな手応え。敵が吹き飛ぶ。
「……立て直しは不可。然らば、散るのみ」
だが、連撃の最中にアンジェリカの耳に届いた、淡々とした物言い。
それが、体を潰されている最中に発する声か、と、彼女は悪寒と共に思った。直後、
「ダメだ! 離れるんだ、アンジェ――」
聞こえたマグノリアの声が、途中で途切れた。
間近で轟いた爆音が、その声を上から塗り潰したからだ。
高めた獣性が危険を告げていた。しかし避けられなかったのは、あまりに近かったから。
敵が、爆ぜた。アンジェリカの目の前でいきなり膨れ上がったかと思うと、光と炎を瞬かせて巨大な爆裂の花をそこに咲かせたのだ。
「……ッ! こん、な!?」
体毛が焦げる、肌が焼かれる。だが荒れ狂う苦痛の中、彼女は次なる敵手が迫っている事実にも気づいていた。爆光の向こうから、倭刀を構えた影が一直線に駆けてくる。
「ナメんなァ――――ッ!」
しかし響き渡る憤怒の叫び。
アンジェリカの身を回り込むようにして、カノンが新たな敵手へと殴り込んでいった。
「何してんだよォォォォォォォォ!」
珍しく、彼女は激昂していた。
そして放たれた右の拳は、霧の中の影を思い切りよくブン殴った。
アンジェリカを狙っていた影が、その一撃に吹き飛ぶ。だが、カノンはそれだけで済ませるつもりはなかった。怒りが、彼女の心を満たし、支配していた。
「まだ、こんなモンじゃ終わらせないよ!」
と、叫んで、らに敵手へと追撃をかけようとする。
「いけない!」
だが突如、ハルが血相を変えてカノンの腕を掴み、後ろから引っ張った。
「え、な、何で……!?」
さすがに、カノンはワケがわからず仰天する。だが直後、
「散」
もう一人の敵手も、また爆発した。
爆風と余熱が、間近にいたカノンの髪を煽り、その肌をジリジリと焼いた。
「そんな、この人たち、何で……?」
「アマノホカリのニンジャ、ここまで潔いと、気持ち悪いわね……」
唖然とするカノンの髪をハルが撫でた。
霧の向こうに見えた姿に、ハルは敵が忍者であることを知った。
そして、そこに感じた気配から、自爆することを察したのだ。
「毒で自決とかだったら、何としても生き永らえさせたけど。これじゃあ、ね」
彼女はフゥ、と息をつく。
「そうだ、生きてる人! 衛生兵さん、周りを探して! まだ生きてる人がいるかも!」
一方でカノンは、連れてきた衛生兵部隊に命じて辺りを探索させた。
しかし、結果は彼女の期待を裏切りながらも、予想は裏切らないものだった。
「死者二名。……おそらくは夫婦、だね」
アンジェリカを治療しながら、マグノリアが告げる。
首をはねられた男性の他に、すぐ近くに心臓を穿たれた女性の死体が見つかったのだ。
「何で、何でこんな……」
「何でも何も、ないのでしょうね」
震えるカノンに、アンジェリカが弱い声で言って息をついた。
「自分の命にすら執着を持たない者が、他人の命に何を見出せるでしょうか。きっと、この方々は命じられたままにこの街に来て、殺して、死ぬつもりだったのでしょう」
「おかしいよ、そんなの戦争じゃない! 人のやることじゃない!」
「ええ、そうよ。アマノホカリの連中を私達と同じ人間だと思っちゃいけないわ」
怒りのままに吼えるカノンに、ハルが冷たく言う。だがその声の冷たさは、彼女が秘める強い憤激の発露でもあった。握った拳から、一筋、血が零れる。
「行こう。この街に来てるのが二人だけとは思えない」
努めて冷静さを保つマグノリアに促され、三人はうなずく。
その耳に、そう遠くない場所から発された悲鳴が届いたのは、直後のことであった。
●霧に決する
霧中に刃が閃いて、盾を削って火花が散る。
「おまえらァァァァァァァァ――――ッ!」
その絶叫は、ナバルのもの。
見てしまったのだ、二人目の死者を。まだ若い、いや、幼い子供の亡骸を。
「何でだ、何で、こんなことをする!」
大きな盾を振り回し、ニンジャへと思い切り突撃しながら、彼は叫んだ。
戦争は、正義と正義のぶつかり合いだと思っていた。
皆を幸せにするという願いは所詮幼く愚かしいもので、自分の働きが誰かの幸せを踏み躙る。それが当たり前で、場合によっては自分がされる側に回ることもある。
痛く、辛く、嘆かわしい。けれども抗わねば生きていけない。それが戦争なのだ、と。
そう自分を納得させて、ナバルは今まで戦ってきた。
しかし、今目の前にいるこいついつらは何だ。アデルはアマノホカリのニンジャと言ったが、それは、今イ・ラプセルが戦っている相手ではないのか。
視界の端に、子供の死体が映る。ナバルは奥歯を噛みしめた。これは、戦争じゃない。
「何で、こんなことをする!?」
「…………」
「何のために俺達騎士じゃなく、民を傷つける!?」
「…………」
刃と盾がぶつかり合う。激情のままに吼える彼に、しかしニンジャは無言を貫く。
「国のためか! それとも、大事な誰かのためか! 答えろ!?」
「特にない」
熱に高ぶるナバルに対し、ニンジャの返答は素っ気なく、そして刃が盾を貫き彼の脇腹を串刺しにする。激痛が、なお叫ぼうとするナバルの動きを止めた。
「特に、ない……、だと……」
痛みよりも驚きに目を剥く彼へ、ニンジャがトドメを刺そうとする。
そこへ、ウェルスが牽制に入った。
「バカ野郎! 前に出すぎだって!」
二丁拳銃を立て続けに発砲し、ニンジャを後退させると、そこにニコラスが駆けつけてナバルの傷をすぐに癒し始める。痛みが消えていく。しかし、ナバルは絶句したままだ。
「何なんだよ、あいつら。……一体?」
「あれを俺達と同じと思うな。あれは、半ば別の生き物だ」
アデルが言う。ニンジャと相対して、彼はそれを感じ取っていた。使命感でもなく、殺意でもなく、信仰でもなく、ただ機械のように淡々と人を殺す。
それができる精神性は、もはや人と呼ぶべきではない。アデルですら、そう思う。
「オラァ! 避けられるなら避けてみろよ!」
ウェルスが銃撃を連発し、弾幕を形成してニンジャを追いつめる。
それは、回避のしようのない広域を射程とする攻撃。普通の相手ならば、どうするべきか悩むであろうが、ニンジャは躊躇なく前に踏み出して弾幕に身を晒した。
「おかしいんだよ、おまえら!」
その動きに驚きつつも、しかしウェルスは後退。一方で、ニンジャは動きを鈍くしてその場に立ち止まる。さすがに驚いたか、自らの体を見回している。
「おまえみたいなの相手に、何も仕込みなしだと思ったか、バカが」
笑うウェルス。
ニンジャを穿った弾幕には、氷の魔導が宿っていた。当然、受ければその身は凍てつき、動きは鈍る。ウェルスの作戦勝ちであった。
「さて、おまえみたいのは捕まえてしっかり――」
「いかん、離れろ! ウェルス!」
いきなり、ニコラスが血相を変えて叫んだ。ちょうど、彼はテレパスによってもう一方の班と連絡を取っていたところだった。そこで聞いたのだ。
「散」
ニンジャが自爆するという、その事実を。
「ぐおお!?」
だが遅かった。ウェルスは生じた爆発に呑み込まれ、そして吹き飛ばされる。
ニコラスはすぐに駆けつけて倒れた彼を癒そうとする。その背後に、もう一人のニンジャが迫っていることに、焦る彼は気づけていなかった。
「御命頂戴仕る」
「やらせる、かよぉ!」
が、ナバルが割って入って、盾でニンジャの一閃を弾く。
そしてさらに突っ込んでいったアデルが、突撃槍を振り回してニンジャへと迫った。
ニンジャはその場から退こうとする。しかし、アデルの突撃の方が迅い。
「この間合いなら、霧も隠密も無関係だ。逃がさん」
内蔵された蒸気機関を過剰渦動。一気に高まった出力をそのまま動きに転化させ、ニンジャに対して超高速の連撃をブチかましていく。
グラリと揺らぐニンジャの体。その眉間に、次の瞬間、小さな穴が穿たれる。
「アデレードをマトをかけたんだ、贖ってもらうぜ」
それはニコラスが放った魔導の弾丸。父として、娘が住まうこの街を脅かす者を許せるはずもなく、その怒りが込められた一発がニンジャの命脈を絶つ。
「散」
そして、ニンジャは爆発した。
スキルではなく、おそらくは内部に仕込んだ何らかの装備によるもの。爆風が深い霧を押しのけて、いっときだけその場の景色を露わにする。
男性と、子供の死体がそこに転がっているのがよく見えた。
「ちくしょう……!」
それを目の当たりにしてキツく唇を噛む。守れなかった、という想いが胸に広がる。
「この程度で済んで、不幸中の幸いってやつか」
「ああ、他の場所が気になるな。早々に向かうべきだろう」
そこに聞こえる、ニコラスとアデルの声。ナバルには、それが信じられなかった。
「何が、幸いだよ! 人が死んだんだぞ!」
「そうだ、だが最低限の被害と見るべきだ。無差別殺戮をされるよりずっとマシだ」
「受け入れろよ、ナバル。これは戦争だ。……これが、戦争だ」
ニコラスにそう言われては、何も言い返せない。命を数えてはならない。それは普通のこと。だが、犠牲は数えるしかない。それもまた、戦争にあっては普通のこと。
押し黙るナバルの背を、ウェルスがポンと叩く。それを見ながら、ニコラスはもう一方の班にテレパスによる連絡を送った。
返事はなかった。何故なら、そちらもまた戦闘の真っ最中だったからだ。
「散」
一人が、爆散する。
死体と、もう一人のニンジャの姿が浮き彫りになった。
「やりすぎたよ。君達は、やりすぎた」
呟くのは、マグノリア。表情こそ変わらないが、しかし、声ににじむ明らかな怒り。
放たれた魔力がニンジャに絡みつき、その力を奪っていく。
「世界を錆びつかせる劣化の魔導。今の君にはお似合いだよ」
呟き、そしてマグノリアはあとのことをハルに任せた。
「何で、アタシ達を狙わないのかしらね。やることが回りくどい」
手にした倭刀が翻されて、一息に振り抜かれる。
刃に乗った漆黒の魔力が守りを失ったニンジャを激しく打ち据えて、その身を空中へと高く吹き飛ばした。ハルが、皆へと叫ぶ。
「自爆するわよ、みんな、後退して!」
直後に、爆裂。巻き起こった風が、霧を広く押しのけた。
そして数秒。全員が警戒を密にして、他に敵がいないかを探り、沈黙が重なる。
「……終わったようですね」
アンジェリカが言って、全員が警戒を解いた。
そののち、二班は合流して改めてアデレードの街を見回し、他に被害が出ていないことを確認する。
このたびの襲撃による死者――、五名。
だが、自由騎士の奮闘もあって被害は最小限に留まっていた。
「いずれ、落とし前はつけないとね」
「ああ、当然だよ。……当然さ」
言うハルに、マグノリア。そして強く拳を握って、ナバルが叫んだ。
「――覚えておくぞ、宇羅幕府!」
その瞳には、激情の光が滾っていたという。
イヤな予感がする。
濃密な霧の中で、それを口に出したのは誰だったか。
「二手に分かれて街を探すってのはどうだい?」
提案したのは『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)である。実の娘がいるこの街で、言葉にできない不吉な空気を感じる。それは、親としての直感であった。
「ああ、そうしよう。連絡は密に、離れすぎずに何かあれば即応できる態勢でいくぞ」
『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)も同調してうなずき、霧の中で警邏にあたるはずだった八人の自由騎士は、四人一組の班を二つ作って動き出すことにした。
「……何なんだよ、このザワつく感じはよ」
肌と服を湿らせる霧に身を浸しながら、『命の価値は等しく。されど』ナバル・ジーロン(CL3000441)が眉間にキツくしわを寄せてうめく。
ここはイ・ラプセルの港町アデレード。
そのはずなのに、いつもとまるで気配が違う。この雰囲気は、戦場のそれに近い。
「敵がいる……、ってのか?」
辺りを見回すも、景色は霧に閉ざされて一寸先も見通せない。
まさか、と思いながらも、そのまさかが彼の内心に膨れ上がって不安を生じさせる。
「……ヘルメリアみたいだな」
呟いたのは『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。
この、重く絡みついてくるような粘っこい霧は、彼に蒸気と工業の国ヘルメリアを想起させていた。それもあってか、やはりウェルスも妙な不安を感じている。
「今のところ、何も起きてない、か……?」
ニコラスがもう一つの班とテレパスによる連絡を取っている間、他の三人はその場にひとまず立ち止まる。ナバルは深く呼吸をしながら、何が起きてもすぐに対応できるよう、気を尖らせて周囲に意識を配っていた。
――だから、なのだろう。
「……ん?」
音、というには小さすぎ、光、というにはか細すぎる。
何故それを見つけられたのか自分でもわからない。ただ、霧の向こうに何かがある。
ナバルはそれを感じ取った。
「どうした、ナバル?」
「……いや、あっちに何かが」
と、声をかけてきたアデルに言うと、彼は数歩進んで、靴底が柔らかいものを踏んだ。
「え?」
にわかに驚き、視線を下ろす。
人が、倒れていた。
のどをぱっくりと裂かれて絶命した、初老の男性の亡骸であった。あふれたおびただしい量の血が、今もじわじわと石畳の道に広がりつつある。
「な……!?」
ナバルが目を剥く。驚きに硬直したのは、ほんの一瞬。
その一瞬に、霧が乱れた。
「敵だ!」
ウェルスが叫ぶ。ニコラスとアデルが、それぞれ武器を構えた。
しかしナバルは反応するのが一拍遅れてしまい、飛んできた手裏剣が肩に突き刺さった。
「ぐ、ぁあ!?」
「ナバル、退け。すぐに追い打ちが来るぞ!」
ニコラスの警告通り、霧の向こうからさらに手裏剣が投げつけられてくる。
しかし、そこま守り手たるナバル。すかさず構えた盾でそれを弾いた。
「何だよ! 何なんだよ、こいつらは!?」
だが混乱はすぐには覚めない。盾を構えられたのは、戦士としての反射行動だった。
「何者だ、おまえら」
両手に拳銃を携え、ウェルスが霧の向こう浮かぶ二つの人影に問う。
「――自由騎士か」
だが、人影はその問いに答えず、抑揚のない声でそう呟くのみ。
「逃げるか」
「否。殺そう」
「応。そうしよう」
短い、あまりにも短い敵の会話。霧の向こうに感じられる殺気が一気に濃度を増す。
「この研ぎ澄まされた殺気、薄すぎる気配。まさかとは思ったが」
アデルが言う。
「……そうか、こんなところまで来ていたのか。アマツホカリのニンジャ!」
二つの影がそれぞれ違ったタイミングで、四人に襲いかかった。
●霧に躍る
同刻、もう一つの班も異常事態に直面していた。
「血の匂いがするわ……。多分、こっちよ」
いかめしい顔つきのままで、天哉熾 ハル(CL3000678)が霧の中を進んでいく。
医療に携わる彼女は、同じ班に属する他三人よりも血の匂いに敏感だ。だからこそ、深い霧の中にかすかに混じる異臭に気づけたワケだが、しかし、それは薄い。
これもやはり霧のせいだろう。肌をじっとり濡らすほどの霧のせいで、血臭が薄まっている。ハルがそれに気づけたのも偶然に近いが、普段より警戒を強めていたおかげでもあるのは確かで、要するに、異常を察したということだ。
――胸騒ぎがする。
鼻先に感じるのみの薄い薄い血の匂い。しかし、霧に薄まっているはずのそれを、ハルは感じ取った。感じ取れてしまった。ならば、そこに流れた血の量は……!
「待ってくれ、近くに何かいる」
ハルの中に焦燥が膨らむ中、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が皆を制する。魔力を感知しうるその能力が、近い場所で働いた魔導を知覚したのだ。
「みんな、集まって。カノンが先に行くよ!」
言って、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が戦闘に立つ。
彼女は優れた視力をもって、霧の先を見通そうとする。
すると、真正面に大きな人影。おそらくは成人男性だろうか。
さらによく観察しようとして、直後、カノンの背筋にすさまじいまでの悪寒が走る。
人影には、頭はなかった。
「……な、ぇ?」
固まるカノンの前で、人影がグラリとかしぐ。
そして倒れた際に、首をはねられた傷口から血が溢れ、それが彼女の顔を汚した。
「――総員、戦闘態勢です!」
自失するカノンに変わり、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が前に出た。そして続けて声を張り上げる。
「現状を確認します! 一つ、ハル様が感じた血の匂い! すでに犠牲者が出ています! 二つ、マグノリア様が感じた魔力反応! ここでたった今、魔導が使われたということです! 三つ、カノン様が見つけた男性の死体! 殺害時刻はたった今! つまり、今この場は敵の間合い真っ只中です、皆様、気をつけてくださいませ!」
叫び、そしてアンジェリカはすかさず己の中に宿る獣性を解放し、そして霧の中に潜む存在を察知するや、一気に飛びかかった。
「逃がしません、攻めさせません! 後悔する間もなく、罪の重さに潰れて果てろ!」
そして放たれる、神速の六連撃。
一撃辺りからして当たれば必殺の威力。それが六度も続けば、大抵のものは倒れる。
アンジェリカ自身にも相応の消耗を強いる技だが、まさに先手必勝。今の場面ではその選択は間違いなく正解であった。確かな手応え。敵が吹き飛ぶ。
「……立て直しは不可。然らば、散るのみ」
だが、連撃の最中にアンジェリカの耳に届いた、淡々とした物言い。
それが、体を潰されている最中に発する声か、と、彼女は悪寒と共に思った。直後、
「ダメだ! 離れるんだ、アンジェ――」
聞こえたマグノリアの声が、途中で途切れた。
間近で轟いた爆音が、その声を上から塗り潰したからだ。
高めた獣性が危険を告げていた。しかし避けられなかったのは、あまりに近かったから。
敵が、爆ぜた。アンジェリカの目の前でいきなり膨れ上がったかと思うと、光と炎を瞬かせて巨大な爆裂の花をそこに咲かせたのだ。
「……ッ! こん、な!?」
体毛が焦げる、肌が焼かれる。だが荒れ狂う苦痛の中、彼女は次なる敵手が迫っている事実にも気づいていた。爆光の向こうから、倭刀を構えた影が一直線に駆けてくる。
「ナメんなァ――――ッ!」
しかし響き渡る憤怒の叫び。
アンジェリカの身を回り込むようにして、カノンが新たな敵手へと殴り込んでいった。
「何してんだよォォォォォォォォ!」
珍しく、彼女は激昂していた。
そして放たれた右の拳は、霧の中の影を思い切りよくブン殴った。
アンジェリカを狙っていた影が、その一撃に吹き飛ぶ。だが、カノンはそれだけで済ませるつもりはなかった。怒りが、彼女の心を満たし、支配していた。
「まだ、こんなモンじゃ終わらせないよ!」
と、叫んで、らに敵手へと追撃をかけようとする。
「いけない!」
だが突如、ハルが血相を変えてカノンの腕を掴み、後ろから引っ張った。
「え、な、何で……!?」
さすがに、カノンはワケがわからず仰天する。だが直後、
「散」
もう一人の敵手も、また爆発した。
爆風と余熱が、間近にいたカノンの髪を煽り、その肌をジリジリと焼いた。
「そんな、この人たち、何で……?」
「アマノホカリのニンジャ、ここまで潔いと、気持ち悪いわね……」
唖然とするカノンの髪をハルが撫でた。
霧の向こうに見えた姿に、ハルは敵が忍者であることを知った。
そして、そこに感じた気配から、自爆することを察したのだ。
「毒で自決とかだったら、何としても生き永らえさせたけど。これじゃあ、ね」
彼女はフゥ、と息をつく。
「そうだ、生きてる人! 衛生兵さん、周りを探して! まだ生きてる人がいるかも!」
一方でカノンは、連れてきた衛生兵部隊に命じて辺りを探索させた。
しかし、結果は彼女の期待を裏切りながらも、予想は裏切らないものだった。
「死者二名。……おそらくは夫婦、だね」
アンジェリカを治療しながら、マグノリアが告げる。
首をはねられた男性の他に、すぐ近くに心臓を穿たれた女性の死体が見つかったのだ。
「何で、何でこんな……」
「何でも何も、ないのでしょうね」
震えるカノンに、アンジェリカが弱い声で言って息をついた。
「自分の命にすら執着を持たない者が、他人の命に何を見出せるでしょうか。きっと、この方々は命じられたままにこの街に来て、殺して、死ぬつもりだったのでしょう」
「おかしいよ、そんなの戦争じゃない! 人のやることじゃない!」
「ええ、そうよ。アマノホカリの連中を私達と同じ人間だと思っちゃいけないわ」
怒りのままに吼えるカノンに、ハルが冷たく言う。だがその声の冷たさは、彼女が秘める強い憤激の発露でもあった。握った拳から、一筋、血が零れる。
「行こう。この街に来てるのが二人だけとは思えない」
努めて冷静さを保つマグノリアに促され、三人はうなずく。
その耳に、そう遠くない場所から発された悲鳴が届いたのは、直後のことであった。
●霧に決する
霧中に刃が閃いて、盾を削って火花が散る。
「おまえらァァァァァァァァ――――ッ!」
その絶叫は、ナバルのもの。
見てしまったのだ、二人目の死者を。まだ若い、いや、幼い子供の亡骸を。
「何でだ、何で、こんなことをする!」
大きな盾を振り回し、ニンジャへと思い切り突撃しながら、彼は叫んだ。
戦争は、正義と正義のぶつかり合いだと思っていた。
皆を幸せにするという願いは所詮幼く愚かしいもので、自分の働きが誰かの幸せを踏み躙る。それが当たり前で、場合によっては自分がされる側に回ることもある。
痛く、辛く、嘆かわしい。けれども抗わねば生きていけない。それが戦争なのだ、と。
そう自分を納得させて、ナバルは今まで戦ってきた。
しかし、今目の前にいるこいついつらは何だ。アデルはアマノホカリのニンジャと言ったが、それは、今イ・ラプセルが戦っている相手ではないのか。
視界の端に、子供の死体が映る。ナバルは奥歯を噛みしめた。これは、戦争じゃない。
「何で、こんなことをする!?」
「…………」
「何のために俺達騎士じゃなく、民を傷つける!?」
「…………」
刃と盾がぶつかり合う。激情のままに吼える彼に、しかしニンジャは無言を貫く。
「国のためか! それとも、大事な誰かのためか! 答えろ!?」
「特にない」
熱に高ぶるナバルに対し、ニンジャの返答は素っ気なく、そして刃が盾を貫き彼の脇腹を串刺しにする。激痛が、なお叫ぼうとするナバルの動きを止めた。
「特に、ない……、だと……」
痛みよりも驚きに目を剥く彼へ、ニンジャがトドメを刺そうとする。
そこへ、ウェルスが牽制に入った。
「バカ野郎! 前に出すぎだって!」
二丁拳銃を立て続けに発砲し、ニンジャを後退させると、そこにニコラスが駆けつけてナバルの傷をすぐに癒し始める。痛みが消えていく。しかし、ナバルは絶句したままだ。
「何なんだよ、あいつら。……一体?」
「あれを俺達と同じと思うな。あれは、半ば別の生き物だ」
アデルが言う。ニンジャと相対して、彼はそれを感じ取っていた。使命感でもなく、殺意でもなく、信仰でもなく、ただ機械のように淡々と人を殺す。
それができる精神性は、もはや人と呼ぶべきではない。アデルですら、そう思う。
「オラァ! 避けられるなら避けてみろよ!」
ウェルスが銃撃を連発し、弾幕を形成してニンジャを追いつめる。
それは、回避のしようのない広域を射程とする攻撃。普通の相手ならば、どうするべきか悩むであろうが、ニンジャは躊躇なく前に踏み出して弾幕に身を晒した。
「おかしいんだよ、おまえら!」
その動きに驚きつつも、しかしウェルスは後退。一方で、ニンジャは動きを鈍くしてその場に立ち止まる。さすがに驚いたか、自らの体を見回している。
「おまえみたいなの相手に、何も仕込みなしだと思ったか、バカが」
笑うウェルス。
ニンジャを穿った弾幕には、氷の魔導が宿っていた。当然、受ければその身は凍てつき、動きは鈍る。ウェルスの作戦勝ちであった。
「さて、おまえみたいのは捕まえてしっかり――」
「いかん、離れろ! ウェルス!」
いきなり、ニコラスが血相を変えて叫んだ。ちょうど、彼はテレパスによってもう一方の班と連絡を取っていたところだった。そこで聞いたのだ。
「散」
ニンジャが自爆するという、その事実を。
「ぐおお!?」
だが遅かった。ウェルスは生じた爆発に呑み込まれ、そして吹き飛ばされる。
ニコラスはすぐに駆けつけて倒れた彼を癒そうとする。その背後に、もう一人のニンジャが迫っていることに、焦る彼は気づけていなかった。
「御命頂戴仕る」
「やらせる、かよぉ!」
が、ナバルが割って入って、盾でニンジャの一閃を弾く。
そしてさらに突っ込んでいったアデルが、突撃槍を振り回してニンジャへと迫った。
ニンジャはその場から退こうとする。しかし、アデルの突撃の方が迅い。
「この間合いなら、霧も隠密も無関係だ。逃がさん」
内蔵された蒸気機関を過剰渦動。一気に高まった出力をそのまま動きに転化させ、ニンジャに対して超高速の連撃をブチかましていく。
グラリと揺らぐニンジャの体。その眉間に、次の瞬間、小さな穴が穿たれる。
「アデレードをマトをかけたんだ、贖ってもらうぜ」
それはニコラスが放った魔導の弾丸。父として、娘が住まうこの街を脅かす者を許せるはずもなく、その怒りが込められた一発がニンジャの命脈を絶つ。
「散」
そして、ニンジャは爆発した。
スキルではなく、おそらくは内部に仕込んだ何らかの装備によるもの。爆風が深い霧を押しのけて、いっときだけその場の景色を露わにする。
男性と、子供の死体がそこに転がっているのがよく見えた。
「ちくしょう……!」
それを目の当たりにしてキツく唇を噛む。守れなかった、という想いが胸に広がる。
「この程度で済んで、不幸中の幸いってやつか」
「ああ、他の場所が気になるな。早々に向かうべきだろう」
そこに聞こえる、ニコラスとアデルの声。ナバルには、それが信じられなかった。
「何が、幸いだよ! 人が死んだんだぞ!」
「そうだ、だが最低限の被害と見るべきだ。無差別殺戮をされるよりずっとマシだ」
「受け入れろよ、ナバル。これは戦争だ。……これが、戦争だ」
ニコラスにそう言われては、何も言い返せない。命を数えてはならない。それは普通のこと。だが、犠牲は数えるしかない。それもまた、戦争にあっては普通のこと。
押し黙るナバルの背を、ウェルスがポンと叩く。それを見ながら、ニコラスはもう一方の班にテレパスによる連絡を送った。
返事はなかった。何故なら、そちらもまた戦闘の真っ最中だったからだ。
「散」
一人が、爆散する。
死体と、もう一人のニンジャの姿が浮き彫りになった。
「やりすぎたよ。君達は、やりすぎた」
呟くのは、マグノリア。表情こそ変わらないが、しかし、声ににじむ明らかな怒り。
放たれた魔力がニンジャに絡みつき、その力を奪っていく。
「世界を錆びつかせる劣化の魔導。今の君にはお似合いだよ」
呟き、そしてマグノリアはあとのことをハルに任せた。
「何で、アタシ達を狙わないのかしらね。やることが回りくどい」
手にした倭刀が翻されて、一息に振り抜かれる。
刃に乗った漆黒の魔力が守りを失ったニンジャを激しく打ち据えて、その身を空中へと高く吹き飛ばした。ハルが、皆へと叫ぶ。
「自爆するわよ、みんな、後退して!」
直後に、爆裂。巻き起こった風が、霧を広く押しのけた。
そして数秒。全員が警戒を密にして、他に敵がいないかを探り、沈黙が重なる。
「……終わったようですね」
アンジェリカが言って、全員が警戒を解いた。
そののち、二班は合流して改めてアデレードの街を見回し、他に被害が出ていないことを確認する。
このたびの襲撃による死者――、五名。
だが、自由騎士の奮闘もあって被害は最小限に留まっていた。
「いずれ、落とし前はつけないとね」
「ああ、当然だよ。……当然さ」
言うハルに、マグノリア。そして強く拳を握って、ナバルが叫んだ。
「――覚えておくぞ、宇羅幕府!」
その瞳には、激情の光が滾っていたという。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
†あとがき†
お疲れさまでしたー!
皆さんの奮闘もあって被害は最小に収まりました。
かなり頑張ったな、というのが私の印象です。
それでは、また次回のシナリオで!
皆さんの奮闘もあって被害は最小に収まりました。
かなり頑張ったな、というのが私の印象です。
それでは、また次回のシナリオで!
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