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【ソフ00】神威顕現、虚無到来、いざ尋常に終焉を

●神威顕現、拒絶
それは、とある村人が命潰える寸前に見た光景である。
黒い。
何もかもが黒い。
人も、牛も、家も、畑も、木も、草も、土も、何もかも。
全てが、見える全てが黒に染まって、そして己すらも黒に染まりつつある。
外傷はない。
しかし、自分は今から死のうとしている。
感じるのだ。
自分の体が黒に覆われていくに従って、自分の命が固く凝り固まっていくのを。
命は潰え、別の何かに。別の、おぞましく、忌まわしい何かに。
生きているという事実を拒むかのように。
生きているという事実を絶えさせるかのように。
黒く。黒く。黒く。黒く。凝り固まって、塗り潰されて、根底から変えられていく。
それを表す名を、村人は知らない。
だが、別の人間ならば知っていたかもしれない。それを表す名は、確かに存在した。
――イブリース。
魔と呼ばれ、悪とされ、生けるものの天敵に位置づけられるモノ。
「あ……、ァ……」
自分がそれに成り代わっていく恐怖を、村人は絶望の中でとくと味わった。
何故、こんなことになった。どうして。
それは、空から降ってきたモノのせいだ。
今や右目が黒く変じ、見えているのは左目だけ。
かすれる視界の中、しかし、なおもはっきりと見えている。
山よりも巨大な、のっぺりとした、黒い巨人。
それは人の形をしているが、人の形をしているだけだ。全身黒く、凹凸もほとんどない。
『ホォォォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
一体、どこから出しているのか。
それの声は、まるで狭い洞穴を通じる風が鳴らす、甲高い反響音のようだ。
生きているかもしれないそれが降り立って、そこから、全てが黒く染まっていった。
そして染まったものは、イブリースと化して黒い巨人に付き従う。
『ホォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
甲高く声を響かせながら、黒い巨人は歩き始める。
それを見上げていた村人も、やがて指先まで黒く染まり、黒い巨人の眷属と化した。
『ホォォォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
黒い巨人が鳴く。
その足元に、おびただしい数のイブリースを従えながら。
それが降り立った地は、かつてシャンバラと呼ばれた地の北部。
名は、ニルヴァン。
ヴィスマルクとの国境近く、以前は最前線として最初に自由騎士を領主に置いた場所。
かつて黒鉛の神と呼ばれ、今はシェリダーの名を冠する神の成れの果てが、全てを黒く染めながら、あらゆる生を拒むために二ルヴァンの地を歩み始める。
これなるは、神威の顕現。顕われたるものの名は『拒絶』。
世界を滅ぼす零零の脅威が一つである。
●虚無到来、醜悪
海に、何かが浮かんでいる。
ゆらゆらと、波の間をたゆたいながら、それは力なく浮かんでいる。
知る者がいれば、きっと驚いたことだろう。
それは、人の形をしていた。
それは、神の如き神々しさを漂わせていた。
桃色にも見える。浅い紫色にも見える。人にも見える。獣にも見える。
つい先日、訪れた虚無によって失われた大地アマノホカリ。
かつて、騒乱のただ中にあったアマノホカリに再臨した神は、本物ではなかった。
残された神造兵器である生体人形を操っただけの、騙りに過ぎなかった、
しかし、こちらは違う。
仰向けで波にもまれながら力なく海に浮かんでいるだけのそれこそ、真なる神の肉。
アマノホカリ、そのもの。
同じ名を持つ国が虚無に飲まれる直前、そこに住まう者達に死を命じた神である。
そして、水死体のように波を漂うそれが、唐突に変形を開始した。
黄金比率もかくやというレベルで均整がとれていた肉体の腹部が、ボコリと膨れる。
その表面は割れ、海面に血肉が散って、そして笑い始めた。
『キャキャッ、キャキャキャキャキャキャ!』
裂けた腹の奥から、ぬるりと伸びてくる緑色の舌。裂けた断面からは乱杭歯が生えてくる。裂けた腹はこうして巨大な口となり、濁声での笑いを派手に響かせた。
すると、次に頭部が変形した。
閉ざされていた両眼のうち、右目だけが開き、そして頭の右半分がいびつに巨大化する。
なまじ美しかっただけに、その変形は見る者がいたならば確実に嫌悪感を催させるだけのアンバランスさがあった。そして、右目が半ば飛び出して、瞳と瞼の隙間からビュルビュルと細い触手が何本も伸びて、のたうち回った。
変形は、それに留まらない。
人の形は瞬く間に崩れて、腕は腕でなくなり、足は足でなくなり、肋骨が肉を突き破ってさらに形を変え、全体の質量もどんどんと肥大化していった。
肉が裂ける。
目が増える。
触手が伸びる。
腕が映える。髪が伸びる。頭が増える。口が増える。鼻が増える。毛が伸びる。尻の隣に乳房が、尻尾の上に耳が、指先から鱗に覆われた足が、翼の隣に虫の角が――。
無秩序であった。
およそ、生物というものの規則を全て無視した、哺乳類と爬虫類と鳥類と魚類と虫類と、その他の生物を一か所に集めてこねくり回した、ただただグロテスクなだけの肉塊。
巨大な船ほどの大きさになり、千を超える口で狂笑の不協和音を奏で続け、万を超える瞳で全方位に熱い視線を送る、形を得た冒涜そのもの。
やがて、海を漂うそれの表面に、ねじくれた角のようなものがいくつも生えてくる。
しかし先端は尖っておらず、そこには小さな穴が開いていた。
フシュウフシュウと、気の抜けた音がして、角の先端から気体が漏れ始める。
色は腐った肉の色。
匂いは腐臭と死臭と血臭を混ぜ合わせた、毒々しいまでの刺激臭。
体表を同じ色のねばついた体液で覆いながら、その巨肉塊はやがて全身を腐肉の色のガスで己自身をすっぽりと覆ってしまった。
海中では、肉塊から伸びた触手がそこに泳ぐ生物を捕らえ、底に開いた口へと持っていく。そして肉塊は食った分だけ肥大化し、さらに、小さな肉塊がそこから分化する。
『ァァァァァァァァァ……、ォォォォォォォォォォォ……』
巨肉塊から分かたれたそれは、本体に比して小さいといえど、その大きさは巨岩にも勝る。そして、有している性質は同じ。海を漂いながら、腐肉の霧を放出する。
それは、イブリースであった。
巨肉塊も、小肉塊も、全て、生けるモノの天敵。歪んだ命の形なのである。
腐肉の霧を吹きながら多数の命を取り込み、その数だけ小肉塊を増やした巨肉塊は、海流に乗ってやがてとある場所へと辿り着く。
そこにある港町の名は、アデレードといった。
かつては黄金の神アマノホカリと呼ばれ、今はカイツールの名を冠する神の成れの果てが、腐肉の霧を撒き散らしながら、なおも醜さを増しつつアデレードへと迫る。
これなるは、虚無の到来。来たるものの名は『醜悪』。
世界を滅ぼす零零の脅威が一つである。
●いざ尋常に終焉を
世界の白紙化。――【ソフ00】が始まった。
それは、創造神からのビオトープに生きる者達への通達。滅びの名である。
死ね。
滅べ。
神がそう命じている。
死ね。
滅べ。
歪め。
染まれ。
堕ちろ。
神がそう誘っている。
死ね。
滅べ。
歪め。
染まれ。
堕ちろ。
汚濁に呑まれろ。
罪そのものと化してしまえ。
悪となり罰となり死を飲み下して無価値と悟って生を諦めろ。
神がそう告げている。
だが、君は言うだろう。
「やなこった」
――と。
されば、残された道はただ一つ。戦うしかない。
近づく虚無と、迫る滅びと。
己の命と尊厳と力と存在価値と意地と、他の諸々――、その全てを賭して。
神だったものを全身全霊で否定するしかない。
これは――、そういう戦いである。
二つの神が押し付けてきた自分勝手な滅びを超えて、いざ尋常に、終焉を!
それは、とある村人が命潰える寸前に見た光景である。
黒い。
何もかもが黒い。
人も、牛も、家も、畑も、木も、草も、土も、何もかも。
全てが、見える全てが黒に染まって、そして己すらも黒に染まりつつある。
外傷はない。
しかし、自分は今から死のうとしている。
感じるのだ。
自分の体が黒に覆われていくに従って、自分の命が固く凝り固まっていくのを。
命は潰え、別の何かに。別の、おぞましく、忌まわしい何かに。
生きているという事実を拒むかのように。
生きているという事実を絶えさせるかのように。
黒く。黒く。黒く。黒く。凝り固まって、塗り潰されて、根底から変えられていく。
それを表す名を、村人は知らない。
だが、別の人間ならば知っていたかもしれない。それを表す名は、確かに存在した。
――イブリース。
魔と呼ばれ、悪とされ、生けるものの天敵に位置づけられるモノ。
「あ……、ァ……」
自分がそれに成り代わっていく恐怖を、村人は絶望の中でとくと味わった。
何故、こんなことになった。どうして。
それは、空から降ってきたモノのせいだ。
今や右目が黒く変じ、見えているのは左目だけ。
かすれる視界の中、しかし、なおもはっきりと見えている。
山よりも巨大な、のっぺりとした、黒い巨人。
それは人の形をしているが、人の形をしているだけだ。全身黒く、凹凸もほとんどない。
『ホォォォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
一体、どこから出しているのか。
それの声は、まるで狭い洞穴を通じる風が鳴らす、甲高い反響音のようだ。
生きているかもしれないそれが降り立って、そこから、全てが黒く染まっていった。
そして染まったものは、イブリースと化して黒い巨人に付き従う。
『ホォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
甲高く声を響かせながら、黒い巨人は歩き始める。
それを見上げていた村人も、やがて指先まで黒く染まり、黒い巨人の眷属と化した。
『ホォォォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ――――』
黒い巨人が鳴く。
その足元に、おびただしい数のイブリースを従えながら。
それが降り立った地は、かつてシャンバラと呼ばれた地の北部。
名は、ニルヴァン。
ヴィスマルクとの国境近く、以前は最前線として最初に自由騎士を領主に置いた場所。
かつて黒鉛の神と呼ばれ、今はシェリダーの名を冠する神の成れの果てが、全てを黒く染めながら、あらゆる生を拒むために二ルヴァンの地を歩み始める。
これなるは、神威の顕現。顕われたるものの名は『拒絶』。
世界を滅ぼす零零の脅威が一つである。
●虚無到来、醜悪
海に、何かが浮かんでいる。
ゆらゆらと、波の間をたゆたいながら、それは力なく浮かんでいる。
知る者がいれば、きっと驚いたことだろう。
それは、人の形をしていた。
それは、神の如き神々しさを漂わせていた。
桃色にも見える。浅い紫色にも見える。人にも見える。獣にも見える。
つい先日、訪れた虚無によって失われた大地アマノホカリ。
かつて、騒乱のただ中にあったアマノホカリに再臨した神は、本物ではなかった。
残された神造兵器である生体人形を操っただけの、騙りに過ぎなかった、
しかし、こちらは違う。
仰向けで波にもまれながら力なく海に浮かんでいるだけのそれこそ、真なる神の肉。
アマノホカリ、そのもの。
同じ名を持つ国が虚無に飲まれる直前、そこに住まう者達に死を命じた神である。
そして、水死体のように波を漂うそれが、唐突に変形を開始した。
黄金比率もかくやというレベルで均整がとれていた肉体の腹部が、ボコリと膨れる。
その表面は割れ、海面に血肉が散って、そして笑い始めた。
『キャキャッ、キャキャキャキャキャキャ!』
裂けた腹の奥から、ぬるりと伸びてくる緑色の舌。裂けた断面からは乱杭歯が生えてくる。裂けた腹はこうして巨大な口となり、濁声での笑いを派手に響かせた。
すると、次に頭部が変形した。
閉ざされていた両眼のうち、右目だけが開き、そして頭の右半分がいびつに巨大化する。
なまじ美しかっただけに、その変形は見る者がいたならば確実に嫌悪感を催させるだけのアンバランスさがあった。そして、右目が半ば飛び出して、瞳と瞼の隙間からビュルビュルと細い触手が何本も伸びて、のたうち回った。
変形は、それに留まらない。
人の形は瞬く間に崩れて、腕は腕でなくなり、足は足でなくなり、肋骨が肉を突き破ってさらに形を変え、全体の質量もどんどんと肥大化していった。
肉が裂ける。
目が増える。
触手が伸びる。
腕が映える。髪が伸びる。頭が増える。口が増える。鼻が増える。毛が伸びる。尻の隣に乳房が、尻尾の上に耳が、指先から鱗に覆われた足が、翼の隣に虫の角が――。
無秩序であった。
およそ、生物というものの規則を全て無視した、哺乳類と爬虫類と鳥類と魚類と虫類と、その他の生物を一か所に集めてこねくり回した、ただただグロテスクなだけの肉塊。
巨大な船ほどの大きさになり、千を超える口で狂笑の不協和音を奏で続け、万を超える瞳で全方位に熱い視線を送る、形を得た冒涜そのもの。
やがて、海を漂うそれの表面に、ねじくれた角のようなものがいくつも生えてくる。
しかし先端は尖っておらず、そこには小さな穴が開いていた。
フシュウフシュウと、気の抜けた音がして、角の先端から気体が漏れ始める。
色は腐った肉の色。
匂いは腐臭と死臭と血臭を混ぜ合わせた、毒々しいまでの刺激臭。
体表を同じ色のねばついた体液で覆いながら、その巨肉塊はやがて全身を腐肉の色のガスで己自身をすっぽりと覆ってしまった。
海中では、肉塊から伸びた触手がそこに泳ぐ生物を捕らえ、底に開いた口へと持っていく。そして肉塊は食った分だけ肥大化し、さらに、小さな肉塊がそこから分化する。
『ァァァァァァァァァ……、ォォォォォォォォォォォ……』
巨肉塊から分かたれたそれは、本体に比して小さいといえど、その大きさは巨岩にも勝る。そして、有している性質は同じ。海を漂いながら、腐肉の霧を放出する。
それは、イブリースであった。
巨肉塊も、小肉塊も、全て、生けるモノの天敵。歪んだ命の形なのである。
腐肉の霧を吹きながら多数の命を取り込み、その数だけ小肉塊を増やした巨肉塊は、海流に乗ってやがてとある場所へと辿り着く。
そこにある港町の名は、アデレードといった。
かつては黄金の神アマノホカリと呼ばれ、今はカイツールの名を冠する神の成れの果てが、腐肉の霧を撒き散らしながら、なおも醜さを増しつつアデレードへと迫る。
これなるは、虚無の到来。来たるものの名は『醜悪』。
世界を滅ぼす零零の脅威が一つである。
●いざ尋常に終焉を
世界の白紙化。――【ソフ00】が始まった。
それは、創造神からのビオトープに生きる者達への通達。滅びの名である。
死ね。
滅べ。
神がそう命じている。
死ね。
滅べ。
歪め。
染まれ。
堕ちろ。
神がそう誘っている。
死ね。
滅べ。
歪め。
染まれ。
堕ちろ。
汚濁に呑まれろ。
罪そのものと化してしまえ。
悪となり罰となり死を飲み下して無価値と悟って生を諦めろ。
神がそう告げている。
だが、君は言うだろう。
「やなこった」
――と。
されば、残された道はただ一つ。戦うしかない。
近づく虚無と、迫る滅びと。
己の命と尊厳と力と存在価値と意地と、他の諸々――、その全てを賭して。
神だったものを全身全霊で否定するしかない。
これは――、そういう戦いである。
二つの神が押し付けてきた自分勝手な滅びを超えて、いざ尋常に、終焉を!
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『拒絶』を討つ
2.『醜悪』を討つ
2.『醜悪』を討つ
神の蟲毒は終わるとは言った。
しかし、神との戦いが終わるとは言っていない。言っていないのだ!
というワケで吾語です。私が関わった二つの物語の終わりが来ました。
この際、思いっきり好き勝手させてもらうことにしました。神&神で死ね!
●敵情報
◆拒絶(シェリダー)
HP:超々高/攻撃:超高/魔導:超高/防御:超高/魔抗:超高/速度:超遅
常時【攻耐】・【魔耐】・【BS全耐性】維持。ブロック不可。
かつて『黒鉛の神クロノス』であったものです。
今はシェリダーと名を変え、触れたものをイブリースに変える黒い巨人と化しました。
全長100mくらい。重さは不明。全体的にのっぺりした人型の黒い巨人。
イブリースとしての属性を有し、その巨体を生かした攻撃を仕掛けてきます。
この敵に殺されたPC・NPCは下記の拒絶分体として蘇生し、敵勢力に加わります。
この敵を倒した場合、全ての拒絶分体が活動を停止して崩壊します。
・攻撃方法
殴る:近攻範 物理攻撃。この攻撃に対しては防御力は半分として計算。
踏む:遠攻範 物理攻撃。この攻撃に対しては防御力は半分として計算。
鳴く:敵全 魔導攻撃。この攻撃に対しては魔抗力は半分として計算。コンフュ3。
産む:『拒絶分体』を増やします。3ターンに1回使用。
・パッシブ効果
物理拒絶:25%の確率で物理攻撃を無効化します。
魔導拒絶:25%の確率で魔導攻撃を無効化します。
防御拒絶:攻撃時、【攻耐】と【完攻防】を無効化します。
魔抗拒絶:攻撃時、【魔耐】と【完魔防】を無効化します。
・拒絶分体(×50)
HP:高い/攻撃:高い/魔導:高い/防御:超高/魔抗:超高/速度:普通
常時【BS全耐性】維持。
拒絶本体に触れられた生物が変質して生まれたイブリースです。全身真っ黒。
形状は様々で、人だったり獣だったり。
・パッシブ効果
物理拒絶(分体):15%の確率で物理攻撃を無効化します。
魔導拒絶(分体):15%の確率で魔導攻撃を無効化します。
防御拒絶(分体):攻撃時、【攻耐】を無効化します。
魔抗拒絶(分体):攻撃時、【魔耐】を無効化します。
◆味方NPC
・二ルヴァン駐留部隊
二ルヴァンに駐留していた騎士団です。種族様々。
いわゆる盾兵、衛生兵などの部隊と同じ扱い。
この戦場への参加者はアイテムとは別に選択した兵種一つを使用可能。
その旨、プレイングへの記載は必須。
・ヨウセイ部隊
マリアンナとパーヴァリが率いるヨウセイの部隊です。故郷を守るために戦います。
毎ターン、レンジャーのランク2レベル3スキルで敵に攻撃します。
・マリアンナ
ヨウセイの少女です。
レンジャーのランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
・パーヴァリ
マリアンナの兄でヨウセイ部隊のリーダーです。
レンジャーのランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
◆醜悪(カイツール)
HP:無限/攻撃:無/魔導:無/防御:無/魔抗:無/速度:無
HPチャージ999999(持続時間無制限)。ブロック不可。
かつて『黄金の神アマノホカリ』であったものです。
今はカイツールと名を変え、無限に肥大化し続ける醜い肉の塊と化しました。
大きさは巨大な船くらい。重さは不明。あらゆる生物を集合させたような見た目の肉塊。
イブリースとしての属性を有し、全ステータス0。しかしHPは無限。死にません。
バカげた再生能力のおかげで神殺しの能力をもってしても殺しきれません。
『醜い触手』と醜悪分体をどんどん増殖させながら『腐色の霧』の範囲を拡大させます。
この敵に殺されたPC・NPCは下記の醜悪分体として蘇生し、敵勢力に加わります。
この敵を倒した場合、全ての醜悪分体が活動を停止して崩壊します。
・攻撃方法
分裂:『醜悪分体』を増やします。1ターンに1回使用。生長と同時行使。
生長:『醜い触手』を増やします。1ターンに1回始用。分裂と同時行使。
・パッシブ効果
噴霧:『腐色の霧』の範囲を拡大します。1ターン5+αm拡大(初期は5+5m)。
再生:毎ターンHP999999回復。この効果は無効化できない。
・特殊ルール
・腐色の霧
『醜悪』が撒き散らしている汚い色のガスです。戦場はすでに範囲内です。
範囲内に入った者は毎ターン最大HP-2%(累積)。ランダムでBS付与。
付与されるBSは霧の中では回復することができません。
また、全能力-20%され、霧の中ではこれを元に戻すことはできません。
霧の範囲外に出て休めば最大HPも毎ターン2%ずつ回復します。
この霧アデレードまで残り200mで、は毎ターン範囲を拡大して接近します。
オラクルでない者は、霧を吸った瞬間に即死。
オラクルでも自由騎士以外は5ターンで死にます。
このガスで死んだ者は次のターンに『醜悪分体』として蘇生します。
・醜い心臓
『醜悪』を通常の手段で殺すことはできません。
ただし『醜悪』の表面のどこかには『醜い心臓』が存在します。
これは『醜悪』の弱点であり、HP1。これを破壊すれば『醜悪』は崩壊します。
ですが常に『醜悪』は変形し続け『醜い心臓』もその位置を変動します。
『醜い心臓』を狙わなければ、攻撃命中率は0%。
これを狙って攻撃する場合は命中率1%となります。プレイング内容で増加可能。
しかし、この心臓を破壊できるのは近接攻撃のみとなります。
・醜悪分体(×50)
HP:超高/攻撃:無/魔導:無/防御:無/魔抗:無/速度:無
HPチャージ300(持続時間無制限)。
『醜悪』から分裂したイブリースです。見た目は大きな岩くらいの肉塊。
本体である『醜悪』と同じく『腐色の霧』を吐き出しています。
この分体が存在すると『腐色の霧』の拡大速度が上昇します。
上昇比率は『分体1体につき2%上昇』です(パッシブ『腐色の霧』の+αに該当)。
・醜い触手(×20)
HP:高い/攻撃:超高/魔導:低い/防御:低い/魔抗:低い/速度:速い
常時【BS全耐性】維持。
『醜悪』から伸びる様々な色の肉の触手です。
攻撃範囲は攻遠単、【攻耐】を無効化してきます。CT率がかなり高いです。
また、近接攻撃が届かず、遠距離攻撃でしかダメージを与えられません。
自由騎士が『醜悪』の上に乗っている場合は近接攻撃可能。
ただし触手の攻撃は攻近単となり必中クリティカル。ノックバック・ショック追加。
◆味方NPC
・朝廷近衛軍
アマノホカリ崩壊時、イ・ラプセルに逃れた朝廷近衛軍の部隊です。全員オラクル。
サムライとニンジャで構成され、それぞれランク2レベル3スキル使用可能。
・ジョセフ・クラーマー
キジンの魔導士です。
魔導士のランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
フィールドパッシブ
幽霊列車(ゲシュペンスト)
範囲:全世界
『属性:イブリース』のHP、攻撃力、魔導力を強化します。またNPCが死亡した際に、イブリース化して復活します。
注!
神にはダメージを与える事はできません。例外はオラクルです。
またPC以外のオラクルが神を倒した時、その力は創造神に戻ります。
●場所情報
便宜上、戦場を【黒鉛】【黄金】に分けます。
プレイング内、及びEXプレイング内にどこに向かうかを示してください。
示さなかった場合、ランダムぐり分けとなります。(人が少ない所に行く。『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
世界各国への輸送は飛行船『アルタイル』にて行います。他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
しかし、神との戦いが終わるとは言っていない。言っていないのだ!
というワケで吾語です。私が関わった二つの物語の終わりが来ました。
この際、思いっきり好き勝手させてもらうことにしました。神&神で死ね!
●敵情報
◆拒絶(シェリダー)
HP:超々高/攻撃:超高/魔導:超高/防御:超高/魔抗:超高/速度:超遅
常時【攻耐】・【魔耐】・【BS全耐性】維持。ブロック不可。
かつて『黒鉛の神クロノス』であったものです。
今はシェリダーと名を変え、触れたものをイブリースに変える黒い巨人と化しました。
全長100mくらい。重さは不明。全体的にのっぺりした人型の黒い巨人。
イブリースとしての属性を有し、その巨体を生かした攻撃を仕掛けてきます。
この敵に殺されたPC・NPCは下記の拒絶分体として蘇生し、敵勢力に加わります。
この敵を倒した場合、全ての拒絶分体が活動を停止して崩壊します。
・攻撃方法
殴る:近攻範 物理攻撃。この攻撃に対しては防御力は半分として計算。
踏む:遠攻範 物理攻撃。この攻撃に対しては防御力は半分として計算。
鳴く:敵全 魔導攻撃。この攻撃に対しては魔抗力は半分として計算。コンフュ3。
産む:『拒絶分体』を増やします。3ターンに1回使用。
・パッシブ効果
物理拒絶:25%の確率で物理攻撃を無効化します。
魔導拒絶:25%の確率で魔導攻撃を無効化します。
防御拒絶:攻撃時、【攻耐】と【完攻防】を無効化します。
魔抗拒絶:攻撃時、【魔耐】と【完魔防】を無効化します。
・拒絶分体(×50)
HP:高い/攻撃:高い/魔導:高い/防御:超高/魔抗:超高/速度:普通
常時【BS全耐性】維持。
拒絶本体に触れられた生物が変質して生まれたイブリースです。全身真っ黒。
形状は様々で、人だったり獣だったり。
・パッシブ効果
物理拒絶(分体):15%の確率で物理攻撃を無効化します。
魔導拒絶(分体):15%の確率で魔導攻撃を無効化します。
防御拒絶(分体):攻撃時、【攻耐】を無効化します。
魔抗拒絶(分体):攻撃時、【魔耐】を無効化します。
◆味方NPC
・二ルヴァン駐留部隊
二ルヴァンに駐留していた騎士団です。種族様々。
いわゆる盾兵、衛生兵などの部隊と同じ扱い。
この戦場への参加者はアイテムとは別に選択した兵種一つを使用可能。
その旨、プレイングへの記載は必須。
・ヨウセイ部隊
マリアンナとパーヴァリが率いるヨウセイの部隊です。故郷を守るために戦います。
毎ターン、レンジャーのランク2レベル3スキルで敵に攻撃します。
・マリアンナ
ヨウセイの少女です。
レンジャーのランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
・パーヴァリ
マリアンナの兄でヨウセイ部隊のリーダーです。
レンジャーのランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
◆醜悪(カイツール)
HP:無限/攻撃:無/魔導:無/防御:無/魔抗:無/速度:無
HPチャージ999999(持続時間無制限)。ブロック不可。
かつて『黄金の神アマノホカリ』であったものです。
今はカイツールと名を変え、無限に肥大化し続ける醜い肉の塊と化しました。
大きさは巨大な船くらい。重さは不明。あらゆる生物を集合させたような見た目の肉塊。
イブリースとしての属性を有し、全ステータス0。しかしHPは無限。死にません。
バカげた再生能力のおかげで神殺しの能力をもってしても殺しきれません。
『醜い触手』と醜悪分体をどんどん増殖させながら『腐色の霧』の範囲を拡大させます。
この敵に殺されたPC・NPCは下記の醜悪分体として蘇生し、敵勢力に加わります。
この敵を倒した場合、全ての醜悪分体が活動を停止して崩壊します。
・攻撃方法
分裂:『醜悪分体』を増やします。1ターンに1回使用。生長と同時行使。
生長:『醜い触手』を増やします。1ターンに1回始用。分裂と同時行使。
・パッシブ効果
噴霧:『腐色の霧』の範囲を拡大します。1ターン5+αm拡大(初期は5+5m)。
再生:毎ターンHP999999回復。この効果は無効化できない。
・特殊ルール
・腐色の霧
『醜悪』が撒き散らしている汚い色のガスです。戦場はすでに範囲内です。
範囲内に入った者は毎ターン最大HP-2%(累積)。ランダムでBS付与。
付与されるBSは霧の中では回復することができません。
また、全能力-20%され、霧の中ではこれを元に戻すことはできません。
霧の範囲外に出て休めば最大HPも毎ターン2%ずつ回復します。
この霧アデレードまで残り200mで、は毎ターン範囲を拡大して接近します。
オラクルでない者は、霧を吸った瞬間に即死。
オラクルでも自由騎士以外は5ターンで死にます。
このガスで死んだ者は次のターンに『醜悪分体』として蘇生します。
・醜い心臓
『醜悪』を通常の手段で殺すことはできません。
ただし『醜悪』の表面のどこかには『醜い心臓』が存在します。
これは『醜悪』の弱点であり、HP1。これを破壊すれば『醜悪』は崩壊します。
ですが常に『醜悪』は変形し続け『醜い心臓』もその位置を変動します。
『醜い心臓』を狙わなければ、攻撃命中率は0%。
これを狙って攻撃する場合は命中率1%となります。プレイング内容で増加可能。
しかし、この心臓を破壊できるのは近接攻撃のみとなります。
・醜悪分体(×50)
HP:超高/攻撃:無/魔導:無/防御:無/魔抗:無/速度:無
HPチャージ300(持続時間無制限)。
『醜悪』から分裂したイブリースです。見た目は大きな岩くらいの肉塊。
本体である『醜悪』と同じく『腐色の霧』を吐き出しています。
この分体が存在すると『腐色の霧』の拡大速度が上昇します。
上昇比率は『分体1体につき2%上昇』です(パッシブ『腐色の霧』の+αに該当)。
・醜い触手(×20)
HP:高い/攻撃:超高/魔導:低い/防御:低い/魔抗:低い/速度:速い
常時【BS全耐性】維持。
『醜悪』から伸びる様々な色の肉の触手です。
攻撃範囲は攻遠単、【攻耐】を無効化してきます。CT率がかなり高いです。
また、近接攻撃が届かず、遠距離攻撃でしかダメージを与えられません。
自由騎士が『醜悪』の上に乗っている場合は近接攻撃可能。
ただし触手の攻撃は攻近単となり必中クリティカル。ノックバック・ショック追加。
◆味方NPC
・朝廷近衛軍
アマノホカリ崩壊時、イ・ラプセルに逃れた朝廷近衛軍の部隊です。全員オラクル。
サムライとニンジャで構成され、それぞれランク2レベル3スキル使用可能。
・ジョセフ・クラーマー
キジンの魔導士です。
魔導士のランク3レベル3スキル行使可能。
戦場に特に縁が深い者がいれば、同行可能です。その旨、プレイングへの記載は必須。
フィールドパッシブ
幽霊列車(ゲシュペンスト)
範囲:全世界
『属性:イブリース』のHP、攻撃力、魔導力を強化します。またNPCが死亡した際に、イブリース化して復活します。
注!
神にはダメージを与える事はできません。例外はオラクルです。
またPC以外のオラクルが神を倒した時、その力は創造神に戻ります。
●場所情報
便宜上、戦場を【黒鉛】【黄金】に分けます。
プレイング内、及びEXプレイング内にどこに向かうかを示してください。
示さなかった場合、ランダムぐり分けとなります。(人が少ない所に行く。『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
世界各国への輸送は飛行船『アルタイル』にて行います。他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
8個
4個
4個
4個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
26/∞
26/∞
公開日
2021年07月16日
2021年07月16日
†メイン参加者 26人†
●拒絶:災厄、黒く染め上げ
今、二つ目の村が滅びた。
『ホオオオオオオォォオォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ 』
景色の果てまで鳴り響く、甲高い声。
それは、全ての命を拒む神の声である。決して耳を傾けてはいけない声だ。
「神の蟲毒の勝利ののち、やっと終わったと思ったのに……」
地を揺らしながら迫るものを見て、セアラ・ラングフォード(CL3000634)が小さくため息をつく。ヴィスマルクに勝って、戦いは終わったと思った。だが、
『ホオオオオオオォォオォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ 』
それは現れた。
アマノホカリの消失、虚無の到来。そして、神威の顕現。
山の如き大きさの、のっぺりとした人型。
空から二ルヴァンの地へと降ってきたそれは、触れた全てを黒へと沈める、かつて神と呼ばれたものの成れの果て、今やあらゆる命を拒絶する、形ある災厄である。
「何という、光景だ……」
そこに見えるものに、自由騎士の一人が小さく呻いた。
進み続ける巨大な黒い人型の足元、そこに、黒く染まった獣や人が群れを作って進み続けている。黒い巨人の眷属と化していることは、一目見れば明らかだ。
「来るぞ、迎え撃て!」
「む、迎え撃てって、人がいるんですよ!?」
命じた指揮官に、二ルヴァン駐留軍の兵士が戸惑う。
「いや、あそこに見えるのはもう、人間じゃない……」
自由騎士が告げる。
確かに、そこに見える黒く染まった人間は、人の形をしているだけの別存在。
神であった異形の力に飲み込まれてその一部と化した『拒絶分体』である。
だが、それを理解できているものはまだ少ない。自由騎士以外には、戸惑いが残っている。その迷いを、セアラの凛とした声が断ち切った。
「皆さん、あれは敵です!」
彼女が指さす先、そこには黒い軍勢があった。
「ここで勝たなければ、私達まであの黒い群れに飲み込まれてしまいます。そうなったら、もう終わりなんです。ここまでやってきたのに、全て、無駄になってしまうのですよ!」
その叱咤に、兵士や騎士たちはハッとする。
そして、続くように飛び出す影がある。
「くだらんことに考えを割いているヒマがあったら、さっさと攻めろ。バカ共が」
そう言って、自ら黒の群れへと突っ込んでいったのは『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)であった。
セアラの飛ばした檄と、そして彼が一人突出したことにより、周りはもはや戸惑うことすら許されなくなった。場にいる全員が、その視線を黒の群れへと向ける。
――開戦だ。
「どけどけ、どけェい! 貴様ら木っ端などに、用はないわァ!」
自分を狙ってくる『拒絶分体』をひらりひらりとかわしながら、ロンベルは一路、黒の群れの最奥にて歩みを進める『拒絶』本体へと迫っていく。
目の前に、巨大な黒い足がそそり立つ。ロンベルは大きく跳躍すると、足の甲の上に乗って、さらにそこから『拒絶』の足を駆け上がろうとしていった。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
雄々しい叫びを轟かせながら、ロンベルは一気に上へと駆け抜けて、折れ曲がっている『拒絶』の膝からもう一度跳躍。その頭部に向かって、武器を振りかぶる。
「うらァ!」
気合の声と共に振り下ろされる刃。
当たれば、いかなるものとて耐え抜くことなどできない強烈な一撃だ。が――、
「……何ッ!?」
当たる直前、威力が消えた。いや、死んだ。
そして驚くロンベルの頭上に黒い天井――、それは『拒絶』の手のひらであった。
上から下へ、巨大な黒い手が地面を叩きつける。
ただただ大きいだけの手。しかし、だからこそその威力はただごとではない。
「ぐ、が……!」
地面に落とされたロンベルが歯を食いしばる。右腕が、あらぬ方向に折れ曲がっていた。
「ロンベル様!」
セアラが慌てて彼の傷を癒しに向かう。
その間に、ロザベル・エヴァンス(CL3000685)が同じように『拒絶』本体へと向かおうとする。そこへ『スチームヴォーパルバニー』フリオ・フルフラット(CL3000454)も合流し、二人は共に巨大な黒の人型へと突進していく。
「信じがたい」
走るさなか、ロザベルが言う。
「世界を終わりを突きつけてくるかのような暴威。全く、悪い夢のようです」
「夢ではなく、ジョークのたぐいでありましょう」
それに、フリオが軽い調子で返した。
ロザベルが、チラリと彼女の方を流し見る。
「……あなたの恰好のように、ですか?」
「イエスであります」
フリオは、自分に注がれるロザベルの視線をしっかり感じながら、得意げに笑った。
「相手は創造神の先兵が如き存在。イブリース化した神などという、悪趣味の極み。ならばこちらも、それに合わせて少々悪趣味に走ってもいいでありましょう!」
「よく、わかりません」
「それでよろしいかと。――これは、私なりの神に対する諧謔でありますれば!」
黒い巨体を前に、フリオが右腕を振りかぶる。
高速回転する巨大鋸が、唸りをあげて『拒絶』本体に振り下ろされんとする。
「神に対する人の抗い、しかと喰らえでありま――」
「そいつは、威力を殺してくるぞ!」
そこに横合いから飛んでくるロンベルの声。
その言葉通りに、フリオの一撃はいきなりその勢いを消失させてしまう。
「な……」
フリオが目を剥く。
魔導、ではない。他に何かの技術、でもない。
技術ではない。機能でもない。権能――、堕ちたりといえど、神の神たる力の一端か。
「なるほど、理解しました」
驚きに硬直しているフリオの隣で、ロザベルが静かにうなずいた。
「ジャヴァウォック、アクティブ! ……ドライブ!」
吹き出す大量の蒸気。
そして、ロザベルの動きが途端に高速化し、黒い表面に攻撃を叩きこんでいく。
何発かが、フリオと同じように威力を相殺される。
しかし大半が、黒い表面に傷をつけていった。フリオが「おお」と声を出す。
「なるほど、手数! 手数は全てを解決するのでありますね!」
「そういうことです」
即座に極論に走るフリオと、それにうなずくロザベル。
清々しいまでの脳筋的結論であった。
「なるほど、悪くない」
そして、ここにも一人、脳筋的結論の実践者が立つ。
「相手が何であろうと、腕力と手数で叩き続ければ死ぬ! それだけのことだ!」
そうやって吼え猛るのは、無論、ロンベルであった。
「行くぞ!」
「「応ッ!!!!」」
走り出す三人を見送りながら、セアラは思った。
「……まぁ、悲観されるよりは百倍マシ、でしょうか」
相手が神であろうとも、自由騎士は自由騎士なのであった。
●醜悪:無限、無尽、不死、不滅
アデレードの海岸線が、どんどんと蝕まれていく。
『ァァァァァァァァァァ……、ァァ、ァァァァァァァァァァ……』
『ケキャキャキャキャ! キキャキャキャキャキャキャ!』
『オォォォォォ……、ゥオォォォォォォウ、ゥォォォォォオオオォォォォォ……』
聞くに堪えない数多の濁声。
そこかしこに転がる肉塊からのものだ。
ブクブクと膨れ上がった肉塊は、無数に開いた口から見るも毒々しい色のガスを散らしい、周囲の大気をその色に染め上げつつあった。
腐った肉の色をしているそれを、仮に腐色の霧と呼ぼう。
それは、見た目以上に臭かった。
異臭と呼ぶには激しすぎ、激臭と呼んでもまだ足りない、腐臭と死臭と血臭を混ぜこぜにして、さらに吐き気を催させるだけの重さを追加した、劇物でしかないもの。
命を削り取る腐色の霧は、徐々に徐々に、その範囲を広げつつあった。
その中心には、途方もなく巨大な肉塊。
蠢き、爆ぜて、短い周期で次々に新たな分体を生み出している『醜悪』本体である。
常に変形を続ける、この醜い肉の山のかつての名は――、アマノホカリ。
「認めないよ」
だが、それを知りながらも、拳を握って肉の山を見上げる者がいる。
「これが、アマノホカリだって……?」
呟くのは『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)である。
「……認めない」
高々とそそり立ち、蠢く『醜悪』を見上げながら、カノンは思いを馳せる。
虚無によって消えたアマノホカリの地。
そこでの、思い出を。
「そんなに消したかった? あの国を、みんなを!」
叫び、そして彼女は思い切り殴りかかった。
「消えるなら、おまえだけで消えろぉ!」
腐色の霧に突っ込んでいく。途端、体から力が抜けた。
痛みが走るのではない、力が溶けて流れ出ていくような不快感。通常の毒や酸ではない。
「それが、どうしたぁ!」
だが、襲い来る脱力感を気合でねじ伏せて、カノンの渾身の一撃が肉壁を叩いた。
バツン、と大きな音がした。
ここ数年を常に最前線で戦い続けてきた彼女の一撃が、艦船ほどもある『醜悪』の一角に巨大なクレーターを穿つ。それはカノン自身をも驚かせた。
「何、この手応えのなさ……」
拍子抜けしかけるカノンであったが、しかし敵はそれほど甘くはなかった。
『ヒャヒャッ! ヒャヒャヒャヒャヒャ!』
近くの口から笑いが漏れたかと思うと、カノンが穿った拳の跡が、肉の流動によってすぐさま塞がってしまった。信じがたい速度の再生能力である。
『ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! キャハハハハハァ――――!』
ミチミチと音がする。
高笑いを響かせるその口から、ヌルリと伸び生えてきた触手がカノンを狙う。
「ぐっ!?」
咄嗟にガードを固めるも、無知の如くしなる触手が、カノンを打ち据えた。
衝撃を殺しきれず、彼女は派手に吹き飛ばされてしまう。
「おおっと、危ないですなぁ」
間一髪、海に投げ出されかけたカノンを『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)が受け止め、そのまま腐色の霧の範囲外へと連れ出していく。
「あ、ありがとう……」
「いえいえ。それよりも、来ておりますぞ」
瑠璃彦に言われて見てみると、他の触手が上から襲いかかってきていた。
「何とも危ないでござるな」
迫る触手に、しかし瑠璃彦は慌てずに何かを投げつける。
それは触手に当たって弾け、周囲に超低温の薬液をブチ撒けた。
触手の動きが止まる。その隙に、彼とカノンはそれぞれ左右へと逃れていった。
瑠璃彦が逃れた先には、今まさに本体から分かたれた『醜悪分体』。
大きく開かれた幾つもの口から、腐色のガスが漂い始めている。
「何ともきちゃないミートボールですぞ、こいつは」
瑠璃彦が舞いの如き動きを見せて、手にした武器で『醜悪分体』を斬りつけていく。
その手応えは何とも軽く、本体同様、分体も戦闘能力は皆無であることが伺えた。しかし、刻んでも刻んでも、傷は片っ端から治っていく。
本体ほどではないにせよ、分体の再生能力も十分以上に厄介だった。
「ふ~む、なるほどですぞ」
さらに斬りつけながら、瑠璃彦はどの程度で仕留められるかを試そうとする。
さなか、彼は小さく咳き込んだ。本能が危機を告げる。瑠璃彦は即座にその場から飛び退いた。腐色の霧の範囲外に出た途端、全身がじっとりとした汗で濡れる。
「……これは、また、参るでござるな」
瑠璃彦は気づいた。汗だけではない。体中から、血が流れ出ている。気がつかないうちに、出血していたらしい。間違いなく腐色の霧の影響であろう。
「大丈夫ですか!」
霧の外でけが人の治療を行なっていた『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)が駆け寄ってきて、瑠璃彦に癒しの魔導を施す。
しかし出血は消え、幾分楽にはなったものの、瑠璃彦の身にはまだ明らかに虚脱感が残っていた。魔導では癒せないとなると、これは神の力の一端と見るべきか。
「ありがとうですぞ」
「いえ、治しきれずに申し訳ありません」
頭を下げる聖流に、瑠璃彦は「そんなことは」とかぶりを振る。
「どうやら、あの汚いガスの影響は外に出れば薄れてくるようでござるな。魔導で治らないのであれば、神の力。権能の一端かもですぞ」
「それは、いいことを聞きました」
再び霧の中に突っ込んでいく瑠璃彦を見送って、その場に残った聖流は、本体から伸びる太い触手や、その辺に転がっている『醜悪分体』を相手にしている騎士達へ向けて、たった今手に入れた重要な情報を共有すべく、声を張り上げた。
「皆さん、ガスの中で苦しくなったら、すぐに外に出てください。外に出れば、その苦しさはだんだん薄れてくるみたいです! どうか焦らず、冷静に対応してください!」
その声に、周りにいる兵や騎士達から「おお!」という声が返る。
聖流がもたらした情報は、癒しの魔導も通じない霧の毒性に苦しむ戦士達にとって、紛れもない朗報であった。以降、触手や分体と戦う彼らの動きが、目に見えて変わった。
「……アマノホカリ様」
聖流は、今も汚濁の霧を垂れ流している巨大な肉塊を見上げた。
「このお姿は、創造神の影響を受けたお姿、なのですか……?」
小さな声でのその呟きに、だが、醜い肉の塊と化したアマノホカリは何も答えなかった。
――戦いは続く。
いや、それは果たして戦いを呼ぶべきなのかどうか。
巨大な肉塊から分かたれ、ひたすら増え続ける『醜悪分体』と、そこから撒き散らされて範囲を拡大する腐色の霧。それに対し自由騎士は、とにかく肉塊を叩き続けている。
海岸線の大半を占めるに至っている『醜悪』本体を、何人もの自由騎士が攻撃し続けている。しかし、高すぎる再生能力は、それらをものともせず『醜悪』は触手を伸ばし、分体を増やしながら、大量の汚物めいたガスを大気に立ち上らせていく。
「やりにくい……」
絶対的な再生能力を前に『邪竜』瀧河 雫(CL3000715)が毒づく。
狂った神を殺しに来た。それはいい。他の連中がどういう考えをもってこの場にいるかはわからないが、自分はただ、神を殺しに来ただけだ。
しかし、相手が『絶対に殺せない存在』となれば、その目的も果たせなくなってしまう。
胸中を占める苦いものに、雫は小さく臍を噛んだ。
だが、とも思う。
霧の中に身を浸しながら、雫は考えた。
本当に、この肉塊は絶対不死なのか。何をしても殺すことのできない存在なのか。
そんなことが、ありうるのだろうか。
「そこの人、霧の中にいすぎだよ、出て!」
思考にふけっていると、外から声が聞こえてきた。
雫は素直に従って、一度『醜悪』本体から離れて霧の外へと出る。
彼女に声をかけたのはリィ・エーベルト(CL3000628)であった。
そこには、触手に打たれて負傷した兵士や、腐色の霧の毒を吸って弱った騎士などが集められており、それをリィが癒そうとしているところだった。
「どうやって勝つんだよ、あんなの……」
「叩いても叩いても、まるで効きやしないじゃないか」
雫は、場に蔓延しつつある絶望的な空気を肌で感じ、軽く腕を組む。
「そんなこと言ってないで、アデレードの人達の避難だって、まだ終わってないんだよ? それなのに、ここでくじけてどうするんだよ。もう!」
リィが唇を尖らせながら、癒しの魔導を使う。
それによって、雫の倦怠感もいくばくかは和らいだが、場の空気は重いままだ。
「そうだ、あの再生力を逆手に取れば……!」
誰かが言って顔を挙げた。
数ある魔導やスキルの中には、再生能力を逆転させてダメージを与えるものもある。それを使えば『醜悪』に大きなダメージを与えられるのではないか、という発想だ。
「ああ、なるほど」
と、リィも理解を示す。雫としても、試す価値はありそうだと思えた。
「いや、無理だ」
しかし、そこに水を差す声。
声の主は、リィと共に負傷者の治癒を担当していた『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)であった。
「どういうこと、マグノリア?」
リィが尋ねると、マグノリアは小さく嘆息し、
「僕もさっき同じことを考えついて、実際に試してみたんだよ」
その言葉に、周囲がザワつく。しかしマグノリアは俯き、肩をすくめた。
「結果は――、無駄だった。小さい方には通用したけど、あの大元の大きい方の再生能力は逆転しなかった。あれの再生を止める手段は、ないね」
実行した本人による断言。
それは、ささやかながらも生まれかけた希望をへし折る、残酷すぎる言葉であった。
「……じゃあ、もう」
提案した兵士が、そそり立つ肉の山を見上げる。今もミチミチと音を立てて新たな触手を生やすそれは、絶対に攻略できない絶望の権化のようであった。
この神の成れの果てを倒すことはできない。誰もが、その結論に達しつつあった。
「まぁ、何とかなるとは思うけどね」
しかし、死刑宣告をしたマグノリア自身が、あごに手を当て軽く言う。
「え?」
振り向く兵士に、マグノリアは告げた。
「何とかなるさ。ここまで、何とかしてきたんだから」
それは何とも要領を得ない言葉。しかし、雫がそれに追随する。
「そうだね。考えてみれば、絶対の不死不滅なんて、それこそあり得ない。神だろうが何だろうが、死ぬはずだよ。殺せるはずだ。その手段は、絶対にある」
「例えば?」
「例えば――、唯一無二の弱点、とかね」
リィに問われ、彼女は答えた。
完全無欠の再生能力。それは確かに絶望的な能力に思える。しかし、強靭な生命力を持つ生物ほど、あっけなく死んでしまうような致命的な弱点を持っているものだ。
「試す価値は、あるか」
マグノリアが『醜悪』本体を見上げた。
「うん、あたしも探してみるよ」
雫も言って、動き出す。
この強大な肉塊には大きな弱点が存在する。その仮説は、瞬く間にアデレードで戦う者達全体へと広まっていったのであった。
●拒絶:奮戦、黒の波濤を抑え込み
敵は、ただただ前に進むだけである。
無数の『拒絶分体』と、それらを生み出した『拒絶』本体。
それら黒の群れが、ただ、前へ、前へと進んでくる。
言ってしまえば津波にも等しい、作戦もない、戦術もない、純粋なる前進の圧力。
「だからこそ、思うんだ。これ、尋常かぁ!?」
悲鳴をあげたのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)である。
「こんな、作戦もへったくれもない連中との戦いは、およそ戦争とは呼べんよなぁ!」
「だなー、これ、どっちかっていうと防災とかそっちじゃねーかな……」
隣に立つ『大いなる盾』ナバル・ジーロン(CL3000441)が、軽く屈伸して「よし」と拳を握る。具合は良好。これで、また最前線に復帰できる。
「もう行くのか。さっき、あのデカブツに踏み潰されて両腕複雑骨折、頸椎捻挫、肋骨粉砕骨折したばっかりだろうに」
ツボミが呆れ調子で言う。
「……聞くだに酷いな、俺のダメージ。一撃でそれか」
ナバルはゲッソリとした顔つきで、今も全身を続ける『拒絶』本体を見上げた。
「単純にでかくて強いってのが、一番面倒なんだよなぁ……」
「全くだ。搦め手で攻めてくる相手の方がまだ楽まであるぞ、あれは」
同じく『拒絶』本体を眺めながら、つぼみがため息をつく。
「だけど、まぁ、治ったし。いかなきゃな」
言って、自分の盾を掴むナバルに、ツボミは思い切りイヤそうな顔をする。
「あのなぁ、魔導で骨はくっつけたが、当たり前の話だが、完治というワケじゃないんだぞ? そこをわかってるのか、貴様は……」
「わかってるよ」
しかしナバルはこともなげに言う。
「命は一つしかない。だから、俺だって死ぬわけにはいかない。でも――」
「体を張らなきゃ守りたいモノを守れない、だろ? ああ、いい、いい。貴様が言うことなんておおよそ想像がつくわ、全く、バカが」
さらに深く息をつきつつ、ツボミは自ら歩み出てナバルの隣に立った。
「私だってな、そうする必要性くらいは承知しているんだ。その上で、無茶をするなと言っているんだ。体を張るなら、上手い体の張り方くらいは常に考えておけ」
「……そう言われちゃ、うなずくしかないよ」
ナバルは苦笑し、周りにいる戦士達に告げる。
「よし、行こうぜ! ヨウセイのみんなは、小さい方の黒いのを攻撃してくれ! 細かい指揮は、パーヴァリがとる! そうだよな?」
傍らに控えていたパーヴァリ・オリヴェルが「任せてくれ」とうなずいた。
「さて、こちらも動くぞ。仕切り直しだ、準備はできているだろうな!」
ツボミが問うと、彼女の魔導の範囲にいた二ルヴァン駐留軍の兵達が立ち上がる。
「いいか、攻めるな。守れ。攻めるのは攻めてるヤツに任せておけ。我々の役目は、あの黒い連中を少しでも押し留めることだ。いいな? 無茶すんなよ? 絶対だぞ? フリじゃないからな? 限界近づいたらすぐ撤退しろ。命かけるとか言ったら殺すぞ?」
無茶を言ってるのはどっちだよ、と、ナバルは思った。
「もうすぐ来ます!」
最前線からやってきた『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が、報告を寄越してくる。黒い群れは、いよいよこちらへと迫りつつあった。
「来やがったか」
ツボミが渋い顔をする。
つい数分前まで、この辺りは安全圏だったはずだ。しかし、それはもう過去。すでにここは最前線で、黒い波濤が押し寄せようとしているのだ。
ヨウセイ部隊と二ルヴァン駐留軍の兵士達の間にも、強い緊張が走る。
「あ~、めんどくせぇ。めんどくせぇな~」
しかし、ツボミはまるで態度を変えることなく、心底めんどくさげに髪を掻いた。
「何がだよ」
同じく、微塵も緊張を見せず、ナバルが尋ねると、
「だってなぁ、このあと、絶対本命いるだろ。あの黒いの何とかしても」
「あ~、創造神とかいう?」
「それだ、それ。めんどくさいんだよ、いい加減。そう思わんか?」
「思うけど、まずはこっちどうにかしなきゃだろ」
「わかっちゃいる。あ~、休みてぇ」
二人の会話は、ごくごく自然なものだった。
今、あるいは世界で最も危険な場所かもしれないそこで、二人の自由騎士は日常と何も変わらない会話を繰り広げているのだ。
それは、兵士達が感じていた緊張を和らげるのに、十分な効果を発揮する。
死を目前にすれども、それを乗り越えることはできる。ここまで戦い抜き、生き抜いてきた二人の自由騎士の姿が、それを皆に伝えていた。
「よし、やるかー」
「「「はいッ!」」」
黒の波濤を目の前にして、戦士達の叫びは一つに重なった。
●醜悪:分裂、増殖、斬刻、撃滅
腐肉の色の霧が、海岸線から街に向かって広がっていく。
「やれやれ……」
刃が閃き、転がる肉塊が刻まれる。
「切っても切っても、だな。これではラチがあかない……」
呟きながらも、流麗な動きを持ってサーベルを振るいながら『醜悪分体』を刻んでいるのは『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)であった。
巨大極まる『醜悪』本体ではなく、その周りに転がっている分体の方を減らすことで腐色の霧の範囲を狭めようというのだが、いかんせん数が多い。
「切っても」
刃を振るう。肉片が飛ぶ。
「切っても」
刃を振るう。肉片が飛ぶ。
「……減ってはいるはずなのだがな」
彼女の剣捌きによって『醜悪分体』は倒れてはいるのだ。
しかし、それと同等の速度で増え続けている。厄介なのはそこだった。
戦う力を持たない分体といえど、その生命力はやけにしぶとく、一体倒すだけでも相応の時間を要する。そしてそのうちに新たな分体が増殖してしまうのだ。
ラチがあかないというグローリアの言葉は、まさにその通りであった。
「しかし、な」
それでも、彼女は剣を振る。
「これを倒さなければ平和が訪れないというなら、倒すしかあるまい」
やるしかない。だからやる。行動原理は、非常に明快であった。
だが、そうこうしているうち、またしても増えてしまう『醜悪分体』。
――攻撃が追いつかない!
グローリアが、そう思ったときだった。
「突き方、始めッッ!」
威勢のいい声がして、グローリアの後方から多数の兵が突撃してくる。
兵達は手にした武具で『醜悪分体』を串刺しにした。
「……近衛軍?」
兵士たちの装備を見て、グローリアはそう判断する。
アマノホカリが消える前にこの地に渡ってきた、朝廷近衛軍だ。
「大丈夫だった?」
と、グローリアに尋ねてきたのは、号令をかけた本人。天哉熾 ハル(CL3000678)である。
「あなたは……」
「楽しく会話をしているヒマ、ある?」
ハルに問われ、グローリアはハッとする。
「いや、ないな」
「そういうことよ」
クスリと笑って、ハルが動いた。
手にした倭刀が独特の軌道を描き、その切れ味をもって分体を刻む。
「第一部隊、下がって! 第二部隊、突き方始め!」
そうしながら、ハルは朝廷近衛軍に指示を下していった。
二部隊が交互に入れ替わりながら、分体への攻撃を重ねていく。そうすることで、腐色の霧の影響を最小限にしようという試みである。
「……なるほど、ロクなモンじゃないわね」
自身も霧の中に身を置いて、ハルは力が抜ける実感に軽く舌を打つ。
力が抜けるというよりは、命が零れていく、という方が感覚としては正しいかもしれない。いずれにせよ、放置などできない。全力で対処すべきだろう。
と、少し離れた場所で、派手な爆裂音がする。
ハルはそちらを見て「あら」と小さく声をあげた。
「そっちに行ってたのね。残念だわ。できれば今度こそ、と思ってたんだけどね」
軽く苦笑しながら、ハルが倭刀を振り下ろす。
彼女の見ている先には、見慣れた三つの人影があった。
「ジョセフ! もう半身焼かれたくなければ、しっかり付き合いなさいよ!」
「ミステル夫人。夫ある身で言うことではないと思うのだが?」
「そういう! 意味じゃ! ないわよ!」
ドカン、ドカンと魔導を炸裂させながら『永遠の絆』エル・ミステル(CL3000370)が顔を真っ赤にして傍らを走る男に向かって言う。
言われた方の男――、ジョセフ・クラーマーは表情を全く変えずに、
「汝としてはそのような意図はないかもしれないが、しかし、第三者が聞けばどのように思うか。常にそれを想定しながら離すべき立場ではないかと――」
と、器用にも説教を始めようとする。
「ま、別にいいんだけどよ。俺は」
そんなやり取りをしている二人の少し後方。そこを走るのは、エルの旦那である『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)であった。
そんな彼を、エルがチラリと見る。
「……別にいいの?」
「ああ、別に。だってなぁ」
「何よ」
憮然とするエルに、ザルクは言った。
「周りが多少騒いだところで、揺らぐもんじゃないだろ、俺とおまえは」
「…………そうね」
返すエルの頬がほんのり赤くなっているのを、ザルクは見逃さなかった。
「夫婦仲睦まじいことは何よりだが、ここが戦場であることを留意されたし」
「わかってるわよ!」
思いっきり正論パンチで水を差してくるジョセフであった。
「ったく、冗談じゃないわよ!」
憤激を込めた魔導が、本体から伸び来る触手に直撃する。
「さすがの手際だ」
淡々と告げながら、ジョセフもまた、魔導によって触手を焼き払っていく。
走り、放ち、離れる。
霧に巻き込まれないための一撃離脱の戦法である。
そして、ザルクは銃撃を続けながら『醜悪』の本体をつぶさに観察した。
「これが真のアマノホカリの姿、か。何ともグロいな」
感想を述べつつ、観察を続ける。
不死身の『醜悪』には弱点が存在するかもしれない。その話を聞いて、ザルクは己の洞察力をもってそれを看破しようというのだった。
「神経を研ぎ澄ませ、観察しろ、違和感を掴め……」
ブツブツと言いながら、見ることに集中する。それでも攻撃の手が緩まないのは、ザルクの戦士としての経験の豊かさゆえであろう。そして、
「……あれか」
違和感は、そこにあった。
●拒絶:決着、人の人たる理由を知れ
山が、動く。
「来るぞ! 総員、散開せよ!」
迫る巨塊に対し『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、指示を下した。
二ルヴァン駐留部隊が、その指示に従って、迅速に散っていく。
そこに、上から『拒絶』の拳が降ってきた。
もはや大地が降ってくるのにも等しいその一撃は、さすがに何名かを巻き込む。
「治療班、出番だぞ! 直ちに動いてくれたまえ!」
しかし、そこで『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が指示を下した。
「全く、少しも休めやしないわ!」
軽く愚痴を垂れつつ『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)がテオドールに従って『拒絶』の拳に巻き込まれた兵と騎士達を癒していった。
「止まるな! こうしている間にも敵は攻め寄せてくるぞ、抑え込め!」
「わかっています! ……こんなときに!」
さらに続くアデルの命令に『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)が応えようとするが、そこに聞こえる汽笛の音。誰もがそれを邪魔に思う。
やってきたのはゲシュペンンスト。
イブリースに力を与える、世界の歪みの象徴とも呼ぶべき存在である。
「放っておけ! 俺達がさっさとあのデカブツを沈めれば、終わる話だ!」
ゲシュペンストを憎々しげに見つめるサーナをアデルが一喝。
「……ですね」
サーナもそれにうなずいて、ゲシュペンストから視線を外して黒の群れを睨みつける。
二ルヴァンでの戦いはいよいよ趨勢が決まりかけていた。
巨大な『拒絶』本体と、それが生み出す無数の分体。
しかし、本体は動きが遅い上、分体も無数ではあっても無尽蔵というワケではない。
無論、イ・ラプセル側も決して余裕があるワケでもない。
むしろ、ずっとこちらは攻められる側で、状況だって常にギリギリだ。
あの『拒絶』の本体を見るがいい。
山の如く巨大な、感情も見当たらない黒い人型。
ただ一歩進むだけで大地は震え、地面は凹み、草木はめくれあがってしまう。
そんなものを一体相手にするだけでも、すでに余裕など残るはずもない。
さらに、それに加えて『拒絶』が生み出す分体が厄介極まった。
オラクル以外の生命を分け隔てなく、言い方を変えれば無節操にイブリースに作り替える『拒絶』の能力によって生み出された、黒き存在。命なき、形だけの残骸である。
ただでさえ脅威である『拒絶』本体に加えて、そんなものまで敵として押し寄せてきたのだ。何をどうして、イ・ラプセル側に余裕など残ろうか。
ゆえに、戦いが始まったその時点で、戦況は限界近く。イ・ラプセル側は不利だった。
そう、不利だったのだ。
敵は巨大で、強大で、莫大で、膨大で、迎え撃つこと自体、苦境を確信させるもの。
イ・ラプセル側は、最初からギリギリだった。
――いつも通りに。
「第一小隊から第三小隊、分体への攻勢に回れ! 第四、第五、防衛線を保て!」
アデルが指示を飛ばす。
「負傷者はこちらへ来たまえ。悪いが、精魂尽き果てる以外の理由で戦線離脱はできぬものと心得てほしい。諸兄にはまだまだ働いてもらわねばならんからね」
最前線で傷ついた者に向かって、テオドールがそう告げる。
「集まった? あと何人? 言っておくけど、全快できるなんて思わないでね? 魔導での治癒なんて、どうせ応急処置以上のものにはならないんだから」
そう言って、ステラが癒しの魔導で負傷者を癒し、
「あと一人、武具に破魔の力を付与できます! どなたか!」
サーナの申し出に、近くにいた騎士のほとんどが挙手をする。
――戦況は不利?
そんなものは最初からだ。
――余裕など皆無?
いつからイ・ラプセルは余裕を持てるような立場になったのか。
――状況はギリギリ?
毎度毎度のこと過ぎて、何度繰り返してきたかさえも忘れて久しい。
ああ、そうだ。要するに――、
「俺達は、やるべきことをやるだけだ。いつものように、いつもの如く!」
「そうして繰り返してきた結果、今この場に、我々は立っている!」
上から、地面が降ってくる。『拒絶』本体が足で踏みつけてきたのだ。
大地が震える。丘が砕ける。
されど、自由騎士達に動揺はない。
「負傷者は後方へ! 治療が完了した者は前に出ろ! 循環を意識しろ! 止まれば死ぬと思え! おまえ達の死は、そのまま世界の死に直結する! 絶対に死ぬな!」
それは命令か、それとも叱咤か、激励か。
叫んでいるアデル自身、もはやその部分は定かではない。
ただ、そのとき必要な言葉を、必要なタイミングで叫んでいるに過ぎない。
そして、周りを見すぎていたことが仇となったか、そんなアデルの背後に『拒絶分体』が迫ろうとしている。彼はそれに、気づいていない。
「やらせないわ!」
そこに、鋭い声と、鋭い矢。
放たれた一矢は『拒絶分体』ののど元を見事に抉り、活動を停止させる。
「……マリアンナ」
アデルが振り向く。
彼を助けたのは、ヨウセイの少女マリアンナであった。
「ダメよ、アデル。周りを見るのはいいけど、自分も戦場にいることを忘れないで」
「むぅ……、助けてもらった手前、反論ができないじゃないか」
アデルの返しに、マリアンナは小さく笑った。
近くでは、兄のパーヴァリの指示を受け、ヨウセイ部隊が支援に回っている。
「どう?」
そしてマリアンナが、言葉短くアデルに問う。
「分体の数も減っている。勝率は七……、いや、八割程度には上がったか」
「そう、つまり――」
「ああ、まだ八割だ。二割の確率で負ける。油断など、していいはずがない」
神と人との違いが、ここにあった。
アデルだけではない。
テオドールとて、同じだ。勝利を得るそのときまで、常に背水の心持ちである。
「ゆくぞ、神の成れの果て! この地を、この国を、守っているのは我らなのだ!」
彼が放った広域の攻撃魔導が、最後の分体の群れを飲み込んでいく。
そこへ、サーナを先頭とする自由騎士達が、一気呵成に飛び込んでいった。
「今です! この隙は、逃さずに!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
減っていく。
分体が仕留められ、その数が減っていく。
無論、自由騎士側とて無傷というわけにはいかない。兵士も、騎士も、傷を負う。
「どんどん来ていいわよ! 出し惜しみなんて、してられないわ!」
だが、ステラをはじめとして、それを後方で支える人員だって、しっかりといるのだ。
やがて、多くが分体へと向けられていた攻撃が『拒絶』本体に集まり始める。
山の如き巨大に比せば、騎士達の攻撃は一撃一撃は大したものではないだろう。
しかし、元より、人の営みとはそうしたものだ。
森を拓き、山を崩し、丘を均して、街を築いて国を広げる。
それこそが、これまで人が繰り返してきた日常。歴史。つまりは生きることそのもの。
今さら、山一つを崩すことの何が難しかろうか。
「神よ」
途切れることのない攻撃に、徐々に削れていく『拒絶』を見上げ、アデルは言う。
「わかるか、俺達と貴様の違いが」
突撃槍を手に、彼は一歩踏み出した。
「貴様は強く、俺達は弱い。それが、何よりの違いだ」
さらに一歩、前へと進む。
「強いだけの貴様らは、強いから何も考えない。考える必要もない。だが弱い俺達は、弱くとも勝てるよう、生き残れるよう、常から考え続けなければならなかった」
突撃槍を握る手に、力がこもる。
「そして、弱い俺達が身に着けたものこそが、戦略であり、戦術であり、作戦であり、陣形であり、戦法であり――、貴様がここで敗れる、最も大きな理由なのだ」
「アデル……」
マリアンナに呼ばれ、アデルが肩越しに軽く振り向く。
「……マリアンナ。あとで少し、話したい事がある」
「うん、待ってるね。だから、いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
そして、アデルはその場から駆け出して行った。
無論、彼一人の力で『拒絶』本体を仕留められるものではない。
しかし、彼一人の力が加われば、その分『拒絶』本体を仕留められる確率は上がる。
やがて――、
『ホォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ …………』
高らかに響き続けていた『拒絶』の声が、止まった。
それは同時に進撃の停止も意味し、満身創痍の騎士達が見上げる中、漆黒の巨体はその場に佇み続け、そこから数秒と立たずに硬い音が響く。
「崩れるぞ、総員、退避!」
テオドールが血相を変えて叫び、イ・ラプセルの軍が引き上げていく。
そして『拒絶』が崩れた。その身を灰の塊へと変えて、派手に崩落していった。
命を拒絶する黒き神の残骸は、生きようとする者達によって逆に拒絶された。
ただ強いだけの神が、己の弱さを知る人に勝てる道理など、最初からなかったのだ。
それは、必然の勝利であった。
●醜悪:終焉、終局、終末、終――、うるさいわね、さっさとくたばりなさいよ!
だが、ザルクは敵の弱点を突くことができなかった。
「ッチィ!」
空中に投げ出され、彼は強く舌を打つ。
観察によって『醜悪』の表面に蠢くものを見つけた彼であったが、攻撃直前に伸びてきた触手に足を取られ、思い切り投げだされてしまったのだ。
「ちょっと、ザルク!」
エルが顔を青くして夫を見上げる。
それが隙となって、今度は死角より彼女めがけて触手が打ち放たれようとした。
「だ、だめです!」
しかしそこで『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)が自ら体を張って、エルを狙う触手を受け止める。バチン、と、激しい音がした。
「……雪!」
気づき、振り返ったエルが驚き、次の瞬間、その顔が憤怒に染まった。
「何、してくれてんのよ!」
放った魔導に、触手は燃え上がってのたうった。
「ぼくは、大丈夫、です」
フラリとよろめきつつも、雪は倒れることなくそこに立ち続けた。
だが、エルが手を握って息をつく。
「無理はするものじゃないわよ。一旦出直すわ、ついてきて」
「え、でも……」
「こんなところにいつまでもいていいはずがないでしょ。仕切り直しよ」
そう言われては、雪としても返す言葉がない。おとなしくエルと共に、ひとまず『醜悪』本体を離れ、腐色の霧の範囲の外へと出ていった。
彼女たちがそうしている間にも、朝廷近衛軍は『醜悪分体』の抑えに回り、他の自由騎士は『醜悪』本体へと登って、そこにあるはずの弱点を探し続けた。
この戦場に参加した多数の騎士達による弱点探しであったが、これが困難を極めた。
まず、何といっても腐色の霧が邪魔をしてくる。
『ケキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!』
そこかしこで癇に障る笑い声をあげながら、『醜悪』の口は腐色のガスを垂れ流し続けている。これはもはや『醜悪』をどうにかしない限り、取り除くのは不可能だ。
霧状のガスが立ち込めている範囲の外に出れば、徐々に調子は戻ってくるものの、中に入れば再び肉体は侵され、襲い来る脱力感と戦わなければならない。
集中力を保つのも一苦労という場所で、さらに『醜悪』の弱点を探す自由騎士達は、それを阻もうとする長大かつ強靭な肉の触手の相手もしなければならないのだ。
「邪魔を、しないでください!」
四方から伸びてくる触手に対して『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)が広域攻撃用の魔導を炸裂させる。
「今です、皆さん!」
ティルダの近くにいた騎士達が、触手が動きを止めた隙にバッと散っていく。
ここは『醜悪』上の一角。常に流動する肉が、今もウゾウゾと波を打っている。
「……この巨体は、攻撃するだけ無駄、なんですよね」
ティルダが触手の攻撃を間一髪かわしながら、そんなことをひとりごちる。
強い再生力を持つ相手ならば、生命逆転の魔導によってダメージを与えることもできる。が、どうやら『醜悪』本体が持つ再生能力は根本的に別物であるらしい。
その報告は、少し前にここで戦っている自由騎士の間で共有された。
つくづく、神というものはこちらの想定を超えてくる。
そう考えて、ティルダは小さく息をついた。
「神様だったものが、こんな姿になるなんて……」
自分が立っている肉の塊は、元々はアマノホカリ神であったという。
黄金の神にして、イ・ラプセルも戦いに参加した極東の島国で崇められていたもの。
それが、アマノホカリ。
だが、毒々しい桃色の表面を常に膨張させ、流動させ、変形させている今のこれを見て、そこに神の威容を感じられる者などいるだろうか。
ティルダとて、そこに感じるのはただひたすらな怖気のみである。
「アマノホカリ様、あなたの意思は、ここにあるのですか?」
『ケケケケケケケケケ、クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!』
問いかけても、返ってくるのはこちらを嘲るような 笑い声だけだった。
だから――、
「こんなものは、神じゃ、ありませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
笑っている口へと『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が自分の得物のデカブツを思い切り叩きつけた。
「あ」
祈りのポーズをしていたティルダが、固まった。
「むむっ、やはり再生しますか! しかしそれこそこちらの思うツボ! いい加減、こんなモノが神とか思いたくなくてムシャクシャしていたのでストレス発散をしたかったところです! セイヤッ! ソイヤッ! うりゃさ! とりゃさァ!」
アンジェリカ、怒りに任せた怒涛の連撃。
聞くに堪えない肉を断つ音が、ティルダの耳をダイレクトアタックした。
「ひゃあ」
思わず、小さく悲鳴が出た。
「平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)!」
「わひゃあ」
目の前で繰り広げられる地獄のような破滅的連撃に、ティルダはそろそろ腰を抜かしそうになっていた。と、そこで彼女は小さく咳き込む。
アンジェリカが剣を振るのをやめて、彼女の方を向いた。
「いけません。下がりましょう」
「え?」
きょとんとするティルダの手を引いて、アンジェリカはさっさとその場から離脱する。
「あ、あの、アンジェリカさん!?」
「顔色、真っ青ですわよ。ティルダ様」
「え、そんな……」
言われて、驚く。ティルダは自分の頬を指で撫でると、指先にカサつきを感じた。
生気を失い、水分もなくなって、砂のようにも思えてしまう肌の質感。
「どうやら、少々、あの霧の中に身を置きすぎたようですね」
「……気づきませんでした」
脱力感はあったものの、まさかここまで影響が出ていたとは知らず、アンジェリカに言われてティルダは背筋が凍えるのを自覚した。
「すみません、アンジェリカさん。……邪魔をしてしまって」
「いいえ、いいのです」
アンジェリカの戦いの邪魔をした。
そのことを気に病みかけるティルダであったが、アンジェリカは気持ちよくそれを否定する。別に、自分一人欠けたところで、大きな差はないのだ、と。
「それに――」
と、アンジェリカは笑った。
「案外、もうすぐ決着がつくかもしれませんよ」
「え、でも……、相手はずっと増殖し続ける不死身の……」
「不死身などありえませんよ。神でも死にます。倒せます。そうやって、私達がここまでやってきたのですから。……違いますか?」
まるで確信を持っているかのようなアンジェリカの物言い。
そこに、経験則以外の根拠はないに違いない。しかし、不思議とティルダは彼女の言葉を否定する気にはなれなかった。それどころか、
「そうですね。もしかしたら――」
二人は、霧の外に出る。
「もしかしたら、もうすぐ、終わるのかも」
そしてその言葉が現実のものとなるまで、あと、ほんの数分もないのだった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!! ケタケタケタケタ、やっかましいのよ、ただの内臓剥き出し肉塊風情がッッッッ!!!!」
と、いうワケで、この戦いにピリオドを打つのは彼女達――、笑い声にブチギレて絶叫している『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)と『醜悪』本体の上で弱点となる心臓を探している『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)である。
「心臓なぁ~、あるんだよなぁ。何回か見つけちゃいるんだよなぁ……」
暴れるきゐこに対し、ウェルスの声はかなり疲れが色濃く出ていた。
致し方あるまい、二人は『醜悪』に弱点となる心臓があると知って、これまでずっと霧の内外に出たり入ったりを繰り返し、探し続けていたのだから。
知識、発想、視覚、聴覚、機械による解析まで用いて、およそ知覚という面においては過剰なまでの準備をもって挑んだ二人。
おかげで、心臓の位置を特定することができた。
が、攻撃が当たらなかった。
何せ、戦艦ほどもある『醜悪』本体の全体に対して、核である心臓はあまりにも小さく、そして常にその位置を変え続けている。
見つけたところで、攻撃を当てるのがそもそも至難の業なのだ。
それでも、何度か惜しいところまではいった。
他の自由騎士とも連携して、心臓を見つけては、攻撃を繰り返した。
だが、当たらず、見逃し、また探すところから。それを何度続けたことだろう。
結果――、キレた。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」
きゐこが魔力によって超高熱の熱波をその場に炸裂させる。無駄に。
高熱に晒され『醜悪』の表面が焼けただれるも、それは直ちに再生し、元も戻る。
だが、構わない。
そもそもただのウサ晴らし、きゐこは自分がすっきりすればいいのだ。
――と、思ったら、
「ウオオオオオオオオオ、いたァァァァァァァ!!?」
突如、ウェルスの絶叫。
「え、何が?」
驚くきゐこの足元を、彼は指さしていた。
何事かと視線を下げる。するとそこに、何度か見た覚えのある、ドクンと脈打つ肉の瘤。
――『醜悪』の心臓であった。
その瞬間、きゐこは願った。これ以上なく、切に願った。
「動くなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
己の業を、運命を薪として、きゐこ願いが世界を突き抜ける。
常に蠢き続けていた『醜悪』の巨体が、停止した。
ウェルスも、きゐこも、頭の中は真っ白だ。何をどうするべきか、そんな思考は巡っちゃいない。それだけ、唐突な出来事だった。
しかしきゐこが願えたのは、彼女の中に決意があったからだ。
猪市 きゐこには絶対に許せないものがある。
それが裏切り。
この世で、最も汚い罪悪だときゐこは信じて疑わない。
だから、1500年前に国を裏切った神に、そのケジメを取らせる。
その一念が、この短い時間の中で、きゐこを衝き動かす原動力となった。そして、
「終わりよ」
あろうことか、きゐこは『醜悪』の心臓を素手で抉り出したのである。
『ギ、ギャ……』
近くに開いた口から『醜悪』が声を漏らす。
それをチラリと流し見て、きゐこは忌々しげに舌を打った。
「うるさいわね、さっさとくたばりなさいよ!」
そして一息に、手の中の心臓を握り潰す。
アデレードの海岸線に『醜悪』の断末魔の悲鳴が轟き渡った。
あとはもう、あっさりとしたものだった。
心臓を潰された『醜悪』は灰となって崩れ、分体も触手も同じようにして消えた。
腐色の霧も時間が経つと晴れて、アデレードの海岸線は元に戻っていった。
二ルヴァンでの戦いの結末が必然であったのならば、この戦いの結末は間違いなく偶然によるものであったと断言してもよい。
だが、偶然を味方に引き入れるのもまた人の強さのうち。
偶然であれ必然であれ、これもまた、人が人たるがゆえに得た勝利であった。
世界を襲った二度目の神の脅威は、こうして取り除かれた。
今、二つ目の村が滅びた。
『ホオオオオオオォォオォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ 』
景色の果てまで鳴り響く、甲高い声。
それは、全ての命を拒む神の声である。決して耳を傾けてはいけない声だ。
「神の蟲毒の勝利ののち、やっと終わったと思ったのに……」
地を揺らしながら迫るものを見て、セアラ・ラングフォード(CL3000634)が小さくため息をつく。ヴィスマルクに勝って、戦いは終わったと思った。だが、
『ホオオオオオオォォオォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ 』
それは現れた。
アマノホカリの消失、虚無の到来。そして、神威の顕現。
山の如き大きさの、のっぺりとした人型。
空から二ルヴァンの地へと降ってきたそれは、触れた全てを黒へと沈める、かつて神と呼ばれたものの成れの果て、今やあらゆる命を拒絶する、形ある災厄である。
「何という、光景だ……」
そこに見えるものに、自由騎士の一人が小さく呻いた。
進み続ける巨大な黒い人型の足元、そこに、黒く染まった獣や人が群れを作って進み続けている。黒い巨人の眷属と化していることは、一目見れば明らかだ。
「来るぞ、迎え撃て!」
「む、迎え撃てって、人がいるんですよ!?」
命じた指揮官に、二ルヴァン駐留軍の兵士が戸惑う。
「いや、あそこに見えるのはもう、人間じゃない……」
自由騎士が告げる。
確かに、そこに見える黒く染まった人間は、人の形をしているだけの別存在。
神であった異形の力に飲み込まれてその一部と化した『拒絶分体』である。
だが、それを理解できているものはまだ少ない。自由騎士以外には、戸惑いが残っている。その迷いを、セアラの凛とした声が断ち切った。
「皆さん、あれは敵です!」
彼女が指さす先、そこには黒い軍勢があった。
「ここで勝たなければ、私達まであの黒い群れに飲み込まれてしまいます。そうなったら、もう終わりなんです。ここまでやってきたのに、全て、無駄になってしまうのですよ!」
その叱咤に、兵士や騎士たちはハッとする。
そして、続くように飛び出す影がある。
「くだらんことに考えを割いているヒマがあったら、さっさと攻めろ。バカ共が」
そう言って、自ら黒の群れへと突っ込んでいったのは『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)であった。
セアラの飛ばした檄と、そして彼が一人突出したことにより、周りはもはや戸惑うことすら許されなくなった。場にいる全員が、その視線を黒の群れへと向ける。
――開戦だ。
「どけどけ、どけェい! 貴様ら木っ端などに、用はないわァ!」
自分を狙ってくる『拒絶分体』をひらりひらりとかわしながら、ロンベルは一路、黒の群れの最奥にて歩みを進める『拒絶』本体へと迫っていく。
目の前に、巨大な黒い足がそそり立つ。ロンベルは大きく跳躍すると、足の甲の上に乗って、さらにそこから『拒絶』の足を駆け上がろうとしていった。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
雄々しい叫びを轟かせながら、ロンベルは一気に上へと駆け抜けて、折れ曲がっている『拒絶』の膝からもう一度跳躍。その頭部に向かって、武器を振りかぶる。
「うらァ!」
気合の声と共に振り下ろされる刃。
当たれば、いかなるものとて耐え抜くことなどできない強烈な一撃だ。が――、
「……何ッ!?」
当たる直前、威力が消えた。いや、死んだ。
そして驚くロンベルの頭上に黒い天井――、それは『拒絶』の手のひらであった。
上から下へ、巨大な黒い手が地面を叩きつける。
ただただ大きいだけの手。しかし、だからこそその威力はただごとではない。
「ぐ、が……!」
地面に落とされたロンベルが歯を食いしばる。右腕が、あらぬ方向に折れ曲がっていた。
「ロンベル様!」
セアラが慌てて彼の傷を癒しに向かう。
その間に、ロザベル・エヴァンス(CL3000685)が同じように『拒絶』本体へと向かおうとする。そこへ『スチームヴォーパルバニー』フリオ・フルフラット(CL3000454)も合流し、二人は共に巨大な黒の人型へと突進していく。
「信じがたい」
走るさなか、ロザベルが言う。
「世界を終わりを突きつけてくるかのような暴威。全く、悪い夢のようです」
「夢ではなく、ジョークのたぐいでありましょう」
それに、フリオが軽い調子で返した。
ロザベルが、チラリと彼女の方を流し見る。
「……あなたの恰好のように、ですか?」
「イエスであります」
フリオは、自分に注がれるロザベルの視線をしっかり感じながら、得意げに笑った。
「相手は創造神の先兵が如き存在。イブリース化した神などという、悪趣味の極み。ならばこちらも、それに合わせて少々悪趣味に走ってもいいでありましょう!」
「よく、わかりません」
「それでよろしいかと。――これは、私なりの神に対する諧謔でありますれば!」
黒い巨体を前に、フリオが右腕を振りかぶる。
高速回転する巨大鋸が、唸りをあげて『拒絶』本体に振り下ろされんとする。
「神に対する人の抗い、しかと喰らえでありま――」
「そいつは、威力を殺してくるぞ!」
そこに横合いから飛んでくるロンベルの声。
その言葉通りに、フリオの一撃はいきなりその勢いを消失させてしまう。
「な……」
フリオが目を剥く。
魔導、ではない。他に何かの技術、でもない。
技術ではない。機能でもない。権能――、堕ちたりといえど、神の神たる力の一端か。
「なるほど、理解しました」
驚きに硬直しているフリオの隣で、ロザベルが静かにうなずいた。
「ジャヴァウォック、アクティブ! ……ドライブ!」
吹き出す大量の蒸気。
そして、ロザベルの動きが途端に高速化し、黒い表面に攻撃を叩きこんでいく。
何発かが、フリオと同じように威力を相殺される。
しかし大半が、黒い表面に傷をつけていった。フリオが「おお」と声を出す。
「なるほど、手数! 手数は全てを解決するのでありますね!」
「そういうことです」
即座に極論に走るフリオと、それにうなずくロザベル。
清々しいまでの脳筋的結論であった。
「なるほど、悪くない」
そして、ここにも一人、脳筋的結論の実践者が立つ。
「相手が何であろうと、腕力と手数で叩き続ければ死ぬ! それだけのことだ!」
そうやって吼え猛るのは、無論、ロンベルであった。
「行くぞ!」
「「応ッ!!!!」」
走り出す三人を見送りながら、セアラは思った。
「……まぁ、悲観されるよりは百倍マシ、でしょうか」
相手が神であろうとも、自由騎士は自由騎士なのであった。
●醜悪:無限、無尽、不死、不滅
アデレードの海岸線が、どんどんと蝕まれていく。
『ァァァァァァァァァァ……、ァァ、ァァァァァァァァァァ……』
『ケキャキャキャキャ! キキャキャキャキャキャキャ!』
『オォォォォォ……、ゥオォォォォォォウ、ゥォォォォォオオオォォォォォ……』
聞くに堪えない数多の濁声。
そこかしこに転がる肉塊からのものだ。
ブクブクと膨れ上がった肉塊は、無数に開いた口から見るも毒々しい色のガスを散らしい、周囲の大気をその色に染め上げつつあった。
腐った肉の色をしているそれを、仮に腐色の霧と呼ぼう。
それは、見た目以上に臭かった。
異臭と呼ぶには激しすぎ、激臭と呼んでもまだ足りない、腐臭と死臭と血臭を混ぜこぜにして、さらに吐き気を催させるだけの重さを追加した、劇物でしかないもの。
命を削り取る腐色の霧は、徐々に徐々に、その範囲を広げつつあった。
その中心には、途方もなく巨大な肉塊。
蠢き、爆ぜて、短い周期で次々に新たな分体を生み出している『醜悪』本体である。
常に変形を続ける、この醜い肉の山のかつての名は――、アマノホカリ。
「認めないよ」
だが、それを知りながらも、拳を握って肉の山を見上げる者がいる。
「これが、アマノホカリだって……?」
呟くのは『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)である。
「……認めない」
高々とそそり立ち、蠢く『醜悪』を見上げながら、カノンは思いを馳せる。
虚無によって消えたアマノホカリの地。
そこでの、思い出を。
「そんなに消したかった? あの国を、みんなを!」
叫び、そして彼女は思い切り殴りかかった。
「消えるなら、おまえだけで消えろぉ!」
腐色の霧に突っ込んでいく。途端、体から力が抜けた。
痛みが走るのではない、力が溶けて流れ出ていくような不快感。通常の毒や酸ではない。
「それが、どうしたぁ!」
だが、襲い来る脱力感を気合でねじ伏せて、カノンの渾身の一撃が肉壁を叩いた。
バツン、と大きな音がした。
ここ数年を常に最前線で戦い続けてきた彼女の一撃が、艦船ほどもある『醜悪』の一角に巨大なクレーターを穿つ。それはカノン自身をも驚かせた。
「何、この手応えのなさ……」
拍子抜けしかけるカノンであったが、しかし敵はそれほど甘くはなかった。
『ヒャヒャッ! ヒャヒャヒャヒャヒャ!』
近くの口から笑いが漏れたかと思うと、カノンが穿った拳の跡が、肉の流動によってすぐさま塞がってしまった。信じがたい速度の再生能力である。
『ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ! キャハハハハハァ――――!』
ミチミチと音がする。
高笑いを響かせるその口から、ヌルリと伸び生えてきた触手がカノンを狙う。
「ぐっ!?」
咄嗟にガードを固めるも、無知の如くしなる触手が、カノンを打ち据えた。
衝撃を殺しきれず、彼女は派手に吹き飛ばされてしまう。
「おおっと、危ないですなぁ」
間一髪、海に投げ出されかけたカノンを『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)が受け止め、そのまま腐色の霧の範囲外へと連れ出していく。
「あ、ありがとう……」
「いえいえ。それよりも、来ておりますぞ」
瑠璃彦に言われて見てみると、他の触手が上から襲いかかってきていた。
「何とも危ないでござるな」
迫る触手に、しかし瑠璃彦は慌てずに何かを投げつける。
それは触手に当たって弾け、周囲に超低温の薬液をブチ撒けた。
触手の動きが止まる。その隙に、彼とカノンはそれぞれ左右へと逃れていった。
瑠璃彦が逃れた先には、今まさに本体から分かたれた『醜悪分体』。
大きく開かれた幾つもの口から、腐色のガスが漂い始めている。
「何ともきちゃないミートボールですぞ、こいつは」
瑠璃彦が舞いの如き動きを見せて、手にした武器で『醜悪分体』を斬りつけていく。
その手応えは何とも軽く、本体同様、分体も戦闘能力は皆無であることが伺えた。しかし、刻んでも刻んでも、傷は片っ端から治っていく。
本体ほどではないにせよ、分体の再生能力も十分以上に厄介だった。
「ふ~む、なるほどですぞ」
さらに斬りつけながら、瑠璃彦はどの程度で仕留められるかを試そうとする。
さなか、彼は小さく咳き込んだ。本能が危機を告げる。瑠璃彦は即座にその場から飛び退いた。腐色の霧の範囲外に出た途端、全身がじっとりとした汗で濡れる。
「……これは、また、参るでござるな」
瑠璃彦は気づいた。汗だけではない。体中から、血が流れ出ている。気がつかないうちに、出血していたらしい。間違いなく腐色の霧の影響であろう。
「大丈夫ですか!」
霧の外でけが人の治療を行なっていた『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)が駆け寄ってきて、瑠璃彦に癒しの魔導を施す。
しかし出血は消え、幾分楽にはなったものの、瑠璃彦の身にはまだ明らかに虚脱感が残っていた。魔導では癒せないとなると、これは神の力の一端と見るべきか。
「ありがとうですぞ」
「いえ、治しきれずに申し訳ありません」
頭を下げる聖流に、瑠璃彦は「そんなことは」とかぶりを振る。
「どうやら、あの汚いガスの影響は外に出れば薄れてくるようでござるな。魔導で治らないのであれば、神の力。権能の一端かもですぞ」
「それは、いいことを聞きました」
再び霧の中に突っ込んでいく瑠璃彦を見送って、その場に残った聖流は、本体から伸びる太い触手や、その辺に転がっている『醜悪分体』を相手にしている騎士達へ向けて、たった今手に入れた重要な情報を共有すべく、声を張り上げた。
「皆さん、ガスの中で苦しくなったら、すぐに外に出てください。外に出れば、その苦しさはだんだん薄れてくるみたいです! どうか焦らず、冷静に対応してください!」
その声に、周りにいる兵や騎士達から「おお!」という声が返る。
聖流がもたらした情報は、癒しの魔導も通じない霧の毒性に苦しむ戦士達にとって、紛れもない朗報であった。以降、触手や分体と戦う彼らの動きが、目に見えて変わった。
「……アマノホカリ様」
聖流は、今も汚濁の霧を垂れ流している巨大な肉塊を見上げた。
「このお姿は、創造神の影響を受けたお姿、なのですか……?」
小さな声でのその呟きに、だが、醜い肉の塊と化したアマノホカリは何も答えなかった。
――戦いは続く。
いや、それは果たして戦いを呼ぶべきなのかどうか。
巨大な肉塊から分かたれ、ひたすら増え続ける『醜悪分体』と、そこから撒き散らされて範囲を拡大する腐色の霧。それに対し自由騎士は、とにかく肉塊を叩き続けている。
海岸線の大半を占めるに至っている『醜悪』本体を、何人もの自由騎士が攻撃し続けている。しかし、高すぎる再生能力は、それらをものともせず『醜悪』は触手を伸ばし、分体を増やしながら、大量の汚物めいたガスを大気に立ち上らせていく。
「やりにくい……」
絶対的な再生能力を前に『邪竜』瀧河 雫(CL3000715)が毒づく。
狂った神を殺しに来た。それはいい。他の連中がどういう考えをもってこの場にいるかはわからないが、自分はただ、神を殺しに来ただけだ。
しかし、相手が『絶対に殺せない存在』となれば、その目的も果たせなくなってしまう。
胸中を占める苦いものに、雫は小さく臍を噛んだ。
だが、とも思う。
霧の中に身を浸しながら、雫は考えた。
本当に、この肉塊は絶対不死なのか。何をしても殺すことのできない存在なのか。
そんなことが、ありうるのだろうか。
「そこの人、霧の中にいすぎだよ、出て!」
思考にふけっていると、外から声が聞こえてきた。
雫は素直に従って、一度『醜悪』本体から離れて霧の外へと出る。
彼女に声をかけたのはリィ・エーベルト(CL3000628)であった。
そこには、触手に打たれて負傷した兵士や、腐色の霧の毒を吸って弱った騎士などが集められており、それをリィが癒そうとしているところだった。
「どうやって勝つんだよ、あんなの……」
「叩いても叩いても、まるで効きやしないじゃないか」
雫は、場に蔓延しつつある絶望的な空気を肌で感じ、軽く腕を組む。
「そんなこと言ってないで、アデレードの人達の避難だって、まだ終わってないんだよ? それなのに、ここでくじけてどうするんだよ。もう!」
リィが唇を尖らせながら、癒しの魔導を使う。
それによって、雫の倦怠感もいくばくかは和らいだが、場の空気は重いままだ。
「そうだ、あの再生力を逆手に取れば……!」
誰かが言って顔を挙げた。
数ある魔導やスキルの中には、再生能力を逆転させてダメージを与えるものもある。それを使えば『醜悪』に大きなダメージを与えられるのではないか、という発想だ。
「ああ、なるほど」
と、リィも理解を示す。雫としても、試す価値はありそうだと思えた。
「いや、無理だ」
しかし、そこに水を差す声。
声の主は、リィと共に負傷者の治癒を担当していた『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)であった。
「どういうこと、マグノリア?」
リィが尋ねると、マグノリアは小さく嘆息し、
「僕もさっき同じことを考えついて、実際に試してみたんだよ」
その言葉に、周囲がザワつく。しかしマグノリアは俯き、肩をすくめた。
「結果は――、無駄だった。小さい方には通用したけど、あの大元の大きい方の再生能力は逆転しなかった。あれの再生を止める手段は、ないね」
実行した本人による断言。
それは、ささやかながらも生まれかけた希望をへし折る、残酷すぎる言葉であった。
「……じゃあ、もう」
提案した兵士が、そそり立つ肉の山を見上げる。今もミチミチと音を立てて新たな触手を生やすそれは、絶対に攻略できない絶望の権化のようであった。
この神の成れの果てを倒すことはできない。誰もが、その結論に達しつつあった。
「まぁ、何とかなるとは思うけどね」
しかし、死刑宣告をしたマグノリア自身が、あごに手を当て軽く言う。
「え?」
振り向く兵士に、マグノリアは告げた。
「何とかなるさ。ここまで、何とかしてきたんだから」
それは何とも要領を得ない言葉。しかし、雫がそれに追随する。
「そうだね。考えてみれば、絶対の不死不滅なんて、それこそあり得ない。神だろうが何だろうが、死ぬはずだよ。殺せるはずだ。その手段は、絶対にある」
「例えば?」
「例えば――、唯一無二の弱点、とかね」
リィに問われ、彼女は答えた。
完全無欠の再生能力。それは確かに絶望的な能力に思える。しかし、強靭な生命力を持つ生物ほど、あっけなく死んでしまうような致命的な弱点を持っているものだ。
「試す価値は、あるか」
マグノリアが『醜悪』本体を見上げた。
「うん、あたしも探してみるよ」
雫も言って、動き出す。
この強大な肉塊には大きな弱点が存在する。その仮説は、瞬く間にアデレードで戦う者達全体へと広まっていったのであった。
●拒絶:奮戦、黒の波濤を抑え込み
敵は、ただただ前に進むだけである。
無数の『拒絶分体』と、それらを生み出した『拒絶』本体。
それら黒の群れが、ただ、前へ、前へと進んでくる。
言ってしまえば津波にも等しい、作戦もない、戦術もない、純粋なる前進の圧力。
「だからこそ、思うんだ。これ、尋常かぁ!?」
悲鳴をあげたのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)である。
「こんな、作戦もへったくれもない連中との戦いは、およそ戦争とは呼べんよなぁ!」
「だなー、これ、どっちかっていうと防災とかそっちじゃねーかな……」
隣に立つ『大いなる盾』ナバル・ジーロン(CL3000441)が、軽く屈伸して「よし」と拳を握る。具合は良好。これで、また最前線に復帰できる。
「もう行くのか。さっき、あのデカブツに踏み潰されて両腕複雑骨折、頸椎捻挫、肋骨粉砕骨折したばっかりだろうに」
ツボミが呆れ調子で言う。
「……聞くだに酷いな、俺のダメージ。一撃でそれか」
ナバルはゲッソリとした顔つきで、今も全身を続ける『拒絶』本体を見上げた。
「単純にでかくて強いってのが、一番面倒なんだよなぁ……」
「全くだ。搦め手で攻めてくる相手の方がまだ楽まであるぞ、あれは」
同じく『拒絶』本体を眺めながら、つぼみがため息をつく。
「だけど、まぁ、治ったし。いかなきゃな」
言って、自分の盾を掴むナバルに、ツボミは思い切りイヤそうな顔をする。
「あのなぁ、魔導で骨はくっつけたが、当たり前の話だが、完治というワケじゃないんだぞ? そこをわかってるのか、貴様は……」
「わかってるよ」
しかしナバルはこともなげに言う。
「命は一つしかない。だから、俺だって死ぬわけにはいかない。でも――」
「体を張らなきゃ守りたいモノを守れない、だろ? ああ、いい、いい。貴様が言うことなんておおよそ想像がつくわ、全く、バカが」
さらに深く息をつきつつ、ツボミは自ら歩み出てナバルの隣に立った。
「私だってな、そうする必要性くらいは承知しているんだ。その上で、無茶をするなと言っているんだ。体を張るなら、上手い体の張り方くらいは常に考えておけ」
「……そう言われちゃ、うなずくしかないよ」
ナバルは苦笑し、周りにいる戦士達に告げる。
「よし、行こうぜ! ヨウセイのみんなは、小さい方の黒いのを攻撃してくれ! 細かい指揮は、パーヴァリがとる! そうだよな?」
傍らに控えていたパーヴァリ・オリヴェルが「任せてくれ」とうなずいた。
「さて、こちらも動くぞ。仕切り直しだ、準備はできているだろうな!」
ツボミが問うと、彼女の魔導の範囲にいた二ルヴァン駐留軍の兵達が立ち上がる。
「いいか、攻めるな。守れ。攻めるのは攻めてるヤツに任せておけ。我々の役目は、あの黒い連中を少しでも押し留めることだ。いいな? 無茶すんなよ? 絶対だぞ? フリじゃないからな? 限界近づいたらすぐ撤退しろ。命かけるとか言ったら殺すぞ?」
無茶を言ってるのはどっちだよ、と、ナバルは思った。
「もうすぐ来ます!」
最前線からやってきた『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が、報告を寄越してくる。黒い群れは、いよいよこちらへと迫りつつあった。
「来やがったか」
ツボミが渋い顔をする。
つい数分前まで、この辺りは安全圏だったはずだ。しかし、それはもう過去。すでにここは最前線で、黒い波濤が押し寄せようとしているのだ。
ヨウセイ部隊と二ルヴァン駐留軍の兵士達の間にも、強い緊張が走る。
「あ~、めんどくせぇ。めんどくせぇな~」
しかし、ツボミはまるで態度を変えることなく、心底めんどくさげに髪を掻いた。
「何がだよ」
同じく、微塵も緊張を見せず、ナバルが尋ねると、
「だってなぁ、このあと、絶対本命いるだろ。あの黒いの何とかしても」
「あ~、創造神とかいう?」
「それだ、それ。めんどくさいんだよ、いい加減。そう思わんか?」
「思うけど、まずはこっちどうにかしなきゃだろ」
「わかっちゃいる。あ~、休みてぇ」
二人の会話は、ごくごく自然なものだった。
今、あるいは世界で最も危険な場所かもしれないそこで、二人の自由騎士は日常と何も変わらない会話を繰り広げているのだ。
それは、兵士達が感じていた緊張を和らげるのに、十分な効果を発揮する。
死を目前にすれども、それを乗り越えることはできる。ここまで戦い抜き、生き抜いてきた二人の自由騎士の姿が、それを皆に伝えていた。
「よし、やるかー」
「「「はいッ!」」」
黒の波濤を目の前にして、戦士達の叫びは一つに重なった。
●醜悪:分裂、増殖、斬刻、撃滅
腐肉の色の霧が、海岸線から街に向かって広がっていく。
「やれやれ……」
刃が閃き、転がる肉塊が刻まれる。
「切っても切っても、だな。これではラチがあかない……」
呟きながらも、流麗な動きを持ってサーベルを振るいながら『醜悪分体』を刻んでいるのは『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)であった。
巨大極まる『醜悪』本体ではなく、その周りに転がっている分体の方を減らすことで腐色の霧の範囲を狭めようというのだが、いかんせん数が多い。
「切っても」
刃を振るう。肉片が飛ぶ。
「切っても」
刃を振るう。肉片が飛ぶ。
「……減ってはいるはずなのだがな」
彼女の剣捌きによって『醜悪分体』は倒れてはいるのだ。
しかし、それと同等の速度で増え続けている。厄介なのはそこだった。
戦う力を持たない分体といえど、その生命力はやけにしぶとく、一体倒すだけでも相応の時間を要する。そしてそのうちに新たな分体が増殖してしまうのだ。
ラチがあかないというグローリアの言葉は、まさにその通りであった。
「しかし、な」
それでも、彼女は剣を振る。
「これを倒さなければ平和が訪れないというなら、倒すしかあるまい」
やるしかない。だからやる。行動原理は、非常に明快であった。
だが、そうこうしているうち、またしても増えてしまう『醜悪分体』。
――攻撃が追いつかない!
グローリアが、そう思ったときだった。
「突き方、始めッッ!」
威勢のいい声がして、グローリアの後方から多数の兵が突撃してくる。
兵達は手にした武具で『醜悪分体』を串刺しにした。
「……近衛軍?」
兵士たちの装備を見て、グローリアはそう判断する。
アマノホカリが消える前にこの地に渡ってきた、朝廷近衛軍だ。
「大丈夫だった?」
と、グローリアに尋ねてきたのは、号令をかけた本人。天哉熾 ハル(CL3000678)である。
「あなたは……」
「楽しく会話をしているヒマ、ある?」
ハルに問われ、グローリアはハッとする。
「いや、ないな」
「そういうことよ」
クスリと笑って、ハルが動いた。
手にした倭刀が独特の軌道を描き、その切れ味をもって分体を刻む。
「第一部隊、下がって! 第二部隊、突き方始め!」
そうしながら、ハルは朝廷近衛軍に指示を下していった。
二部隊が交互に入れ替わりながら、分体への攻撃を重ねていく。そうすることで、腐色の霧の影響を最小限にしようという試みである。
「……なるほど、ロクなモンじゃないわね」
自身も霧の中に身を置いて、ハルは力が抜ける実感に軽く舌を打つ。
力が抜けるというよりは、命が零れていく、という方が感覚としては正しいかもしれない。いずれにせよ、放置などできない。全力で対処すべきだろう。
と、少し離れた場所で、派手な爆裂音がする。
ハルはそちらを見て「あら」と小さく声をあげた。
「そっちに行ってたのね。残念だわ。できれば今度こそ、と思ってたんだけどね」
軽く苦笑しながら、ハルが倭刀を振り下ろす。
彼女の見ている先には、見慣れた三つの人影があった。
「ジョセフ! もう半身焼かれたくなければ、しっかり付き合いなさいよ!」
「ミステル夫人。夫ある身で言うことではないと思うのだが?」
「そういう! 意味じゃ! ないわよ!」
ドカン、ドカンと魔導を炸裂させながら『永遠の絆』エル・ミステル(CL3000370)が顔を真っ赤にして傍らを走る男に向かって言う。
言われた方の男――、ジョセフ・クラーマーは表情を全く変えずに、
「汝としてはそのような意図はないかもしれないが、しかし、第三者が聞けばどのように思うか。常にそれを想定しながら離すべき立場ではないかと――」
と、器用にも説教を始めようとする。
「ま、別にいいんだけどよ。俺は」
そんなやり取りをしている二人の少し後方。そこを走るのは、エルの旦那である『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)であった。
そんな彼を、エルがチラリと見る。
「……別にいいの?」
「ああ、別に。だってなぁ」
「何よ」
憮然とするエルに、ザルクは言った。
「周りが多少騒いだところで、揺らぐもんじゃないだろ、俺とおまえは」
「…………そうね」
返すエルの頬がほんのり赤くなっているのを、ザルクは見逃さなかった。
「夫婦仲睦まじいことは何よりだが、ここが戦場であることを留意されたし」
「わかってるわよ!」
思いっきり正論パンチで水を差してくるジョセフであった。
「ったく、冗談じゃないわよ!」
憤激を込めた魔導が、本体から伸び来る触手に直撃する。
「さすがの手際だ」
淡々と告げながら、ジョセフもまた、魔導によって触手を焼き払っていく。
走り、放ち、離れる。
霧に巻き込まれないための一撃離脱の戦法である。
そして、ザルクは銃撃を続けながら『醜悪』の本体をつぶさに観察した。
「これが真のアマノホカリの姿、か。何ともグロいな」
感想を述べつつ、観察を続ける。
不死身の『醜悪』には弱点が存在するかもしれない。その話を聞いて、ザルクは己の洞察力をもってそれを看破しようというのだった。
「神経を研ぎ澄ませ、観察しろ、違和感を掴め……」
ブツブツと言いながら、見ることに集中する。それでも攻撃の手が緩まないのは、ザルクの戦士としての経験の豊かさゆえであろう。そして、
「……あれか」
違和感は、そこにあった。
●拒絶:決着、人の人たる理由を知れ
山が、動く。
「来るぞ! 総員、散開せよ!」
迫る巨塊に対し『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)が、指示を下した。
二ルヴァン駐留部隊が、その指示に従って、迅速に散っていく。
そこに、上から『拒絶』の拳が降ってきた。
もはや大地が降ってくるのにも等しいその一撃は、さすがに何名かを巻き込む。
「治療班、出番だぞ! 直ちに動いてくれたまえ!」
しかし、そこで『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)が指示を下した。
「全く、少しも休めやしないわ!」
軽く愚痴を垂れつつ『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)がテオドールに従って『拒絶』の拳に巻き込まれた兵と騎士達を癒していった。
「止まるな! こうしている間にも敵は攻め寄せてくるぞ、抑え込め!」
「わかっています! ……こんなときに!」
さらに続くアデルの命令に『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)が応えようとするが、そこに聞こえる汽笛の音。誰もがそれを邪魔に思う。
やってきたのはゲシュペンンスト。
イブリースに力を与える、世界の歪みの象徴とも呼ぶべき存在である。
「放っておけ! 俺達がさっさとあのデカブツを沈めれば、終わる話だ!」
ゲシュペンストを憎々しげに見つめるサーナをアデルが一喝。
「……ですね」
サーナもそれにうなずいて、ゲシュペンストから視線を外して黒の群れを睨みつける。
二ルヴァンでの戦いはいよいよ趨勢が決まりかけていた。
巨大な『拒絶』本体と、それが生み出す無数の分体。
しかし、本体は動きが遅い上、分体も無数ではあっても無尽蔵というワケではない。
無論、イ・ラプセル側も決して余裕があるワケでもない。
むしろ、ずっとこちらは攻められる側で、状況だって常にギリギリだ。
あの『拒絶』の本体を見るがいい。
山の如く巨大な、感情も見当たらない黒い人型。
ただ一歩進むだけで大地は震え、地面は凹み、草木はめくれあがってしまう。
そんなものを一体相手にするだけでも、すでに余裕など残るはずもない。
さらに、それに加えて『拒絶』が生み出す分体が厄介極まった。
オラクル以外の生命を分け隔てなく、言い方を変えれば無節操にイブリースに作り替える『拒絶』の能力によって生み出された、黒き存在。命なき、形だけの残骸である。
ただでさえ脅威である『拒絶』本体に加えて、そんなものまで敵として押し寄せてきたのだ。何をどうして、イ・ラプセル側に余裕など残ろうか。
ゆえに、戦いが始まったその時点で、戦況は限界近く。イ・ラプセル側は不利だった。
そう、不利だったのだ。
敵は巨大で、強大で、莫大で、膨大で、迎え撃つこと自体、苦境を確信させるもの。
イ・ラプセル側は、最初からギリギリだった。
――いつも通りに。
「第一小隊から第三小隊、分体への攻勢に回れ! 第四、第五、防衛線を保て!」
アデルが指示を飛ばす。
「負傷者はこちらへ来たまえ。悪いが、精魂尽き果てる以外の理由で戦線離脱はできぬものと心得てほしい。諸兄にはまだまだ働いてもらわねばならんからね」
最前線で傷ついた者に向かって、テオドールがそう告げる。
「集まった? あと何人? 言っておくけど、全快できるなんて思わないでね? 魔導での治癒なんて、どうせ応急処置以上のものにはならないんだから」
そう言って、ステラが癒しの魔導で負傷者を癒し、
「あと一人、武具に破魔の力を付与できます! どなたか!」
サーナの申し出に、近くにいた騎士のほとんどが挙手をする。
――戦況は不利?
そんなものは最初からだ。
――余裕など皆無?
いつからイ・ラプセルは余裕を持てるような立場になったのか。
――状況はギリギリ?
毎度毎度のこと過ぎて、何度繰り返してきたかさえも忘れて久しい。
ああ、そうだ。要するに――、
「俺達は、やるべきことをやるだけだ。いつものように、いつもの如く!」
「そうして繰り返してきた結果、今この場に、我々は立っている!」
上から、地面が降ってくる。『拒絶』本体が足で踏みつけてきたのだ。
大地が震える。丘が砕ける。
されど、自由騎士達に動揺はない。
「負傷者は後方へ! 治療が完了した者は前に出ろ! 循環を意識しろ! 止まれば死ぬと思え! おまえ達の死は、そのまま世界の死に直結する! 絶対に死ぬな!」
それは命令か、それとも叱咤か、激励か。
叫んでいるアデル自身、もはやその部分は定かではない。
ただ、そのとき必要な言葉を、必要なタイミングで叫んでいるに過ぎない。
そして、周りを見すぎていたことが仇となったか、そんなアデルの背後に『拒絶分体』が迫ろうとしている。彼はそれに、気づいていない。
「やらせないわ!」
そこに、鋭い声と、鋭い矢。
放たれた一矢は『拒絶分体』ののど元を見事に抉り、活動を停止させる。
「……マリアンナ」
アデルが振り向く。
彼を助けたのは、ヨウセイの少女マリアンナであった。
「ダメよ、アデル。周りを見るのはいいけど、自分も戦場にいることを忘れないで」
「むぅ……、助けてもらった手前、反論ができないじゃないか」
アデルの返しに、マリアンナは小さく笑った。
近くでは、兄のパーヴァリの指示を受け、ヨウセイ部隊が支援に回っている。
「どう?」
そしてマリアンナが、言葉短くアデルに問う。
「分体の数も減っている。勝率は七……、いや、八割程度には上がったか」
「そう、つまり――」
「ああ、まだ八割だ。二割の確率で負ける。油断など、していいはずがない」
神と人との違いが、ここにあった。
アデルだけではない。
テオドールとて、同じだ。勝利を得るそのときまで、常に背水の心持ちである。
「ゆくぞ、神の成れの果て! この地を、この国を、守っているのは我らなのだ!」
彼が放った広域の攻撃魔導が、最後の分体の群れを飲み込んでいく。
そこへ、サーナを先頭とする自由騎士達が、一気呵成に飛び込んでいった。
「今です! この隙は、逃さずに!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
減っていく。
分体が仕留められ、その数が減っていく。
無論、自由騎士側とて無傷というわけにはいかない。兵士も、騎士も、傷を負う。
「どんどん来ていいわよ! 出し惜しみなんて、してられないわ!」
だが、ステラをはじめとして、それを後方で支える人員だって、しっかりといるのだ。
やがて、多くが分体へと向けられていた攻撃が『拒絶』本体に集まり始める。
山の如き巨大に比せば、騎士達の攻撃は一撃一撃は大したものではないだろう。
しかし、元より、人の営みとはそうしたものだ。
森を拓き、山を崩し、丘を均して、街を築いて国を広げる。
それこそが、これまで人が繰り返してきた日常。歴史。つまりは生きることそのもの。
今さら、山一つを崩すことの何が難しかろうか。
「神よ」
途切れることのない攻撃に、徐々に削れていく『拒絶』を見上げ、アデルは言う。
「わかるか、俺達と貴様の違いが」
突撃槍を手に、彼は一歩踏み出した。
「貴様は強く、俺達は弱い。それが、何よりの違いだ」
さらに一歩、前へと進む。
「強いだけの貴様らは、強いから何も考えない。考える必要もない。だが弱い俺達は、弱くとも勝てるよう、生き残れるよう、常から考え続けなければならなかった」
突撃槍を握る手に、力がこもる。
「そして、弱い俺達が身に着けたものこそが、戦略であり、戦術であり、作戦であり、陣形であり、戦法であり――、貴様がここで敗れる、最も大きな理由なのだ」
「アデル……」
マリアンナに呼ばれ、アデルが肩越しに軽く振り向く。
「……マリアンナ。あとで少し、話したい事がある」
「うん、待ってるね。だから、いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
そして、アデルはその場から駆け出して行った。
無論、彼一人の力で『拒絶』本体を仕留められるものではない。
しかし、彼一人の力が加われば、その分『拒絶』本体を仕留められる確率は上がる。
やがて――、
『ホォォォォォォォォォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ …………』
高らかに響き続けていた『拒絶』の声が、止まった。
それは同時に進撃の停止も意味し、満身創痍の騎士達が見上げる中、漆黒の巨体はその場に佇み続け、そこから数秒と立たずに硬い音が響く。
「崩れるぞ、総員、退避!」
テオドールが血相を変えて叫び、イ・ラプセルの軍が引き上げていく。
そして『拒絶』が崩れた。その身を灰の塊へと変えて、派手に崩落していった。
命を拒絶する黒き神の残骸は、生きようとする者達によって逆に拒絶された。
ただ強いだけの神が、己の弱さを知る人に勝てる道理など、最初からなかったのだ。
それは、必然の勝利であった。
●醜悪:終焉、終局、終末、終――、うるさいわね、さっさとくたばりなさいよ!
だが、ザルクは敵の弱点を突くことができなかった。
「ッチィ!」
空中に投げ出され、彼は強く舌を打つ。
観察によって『醜悪』の表面に蠢くものを見つけた彼であったが、攻撃直前に伸びてきた触手に足を取られ、思い切り投げだされてしまったのだ。
「ちょっと、ザルク!」
エルが顔を青くして夫を見上げる。
それが隙となって、今度は死角より彼女めがけて触手が打ち放たれようとした。
「だ、だめです!」
しかしそこで『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)が自ら体を張って、エルを狙う触手を受け止める。バチン、と、激しい音がした。
「……雪!」
気づき、振り返ったエルが驚き、次の瞬間、その顔が憤怒に染まった。
「何、してくれてんのよ!」
放った魔導に、触手は燃え上がってのたうった。
「ぼくは、大丈夫、です」
フラリとよろめきつつも、雪は倒れることなくそこに立ち続けた。
だが、エルが手を握って息をつく。
「無理はするものじゃないわよ。一旦出直すわ、ついてきて」
「え、でも……」
「こんなところにいつまでもいていいはずがないでしょ。仕切り直しよ」
そう言われては、雪としても返す言葉がない。おとなしくエルと共に、ひとまず『醜悪』本体を離れ、腐色の霧の範囲の外へと出ていった。
彼女たちがそうしている間にも、朝廷近衛軍は『醜悪分体』の抑えに回り、他の自由騎士は『醜悪』本体へと登って、そこにあるはずの弱点を探し続けた。
この戦場に参加した多数の騎士達による弱点探しであったが、これが困難を極めた。
まず、何といっても腐色の霧が邪魔をしてくる。
『ケキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!』
そこかしこで癇に障る笑い声をあげながら、『醜悪』の口は腐色のガスを垂れ流し続けている。これはもはや『醜悪』をどうにかしない限り、取り除くのは不可能だ。
霧状のガスが立ち込めている範囲の外に出れば、徐々に調子は戻ってくるものの、中に入れば再び肉体は侵され、襲い来る脱力感と戦わなければならない。
集中力を保つのも一苦労という場所で、さらに『醜悪』の弱点を探す自由騎士達は、それを阻もうとする長大かつ強靭な肉の触手の相手もしなければならないのだ。
「邪魔を、しないでください!」
四方から伸びてくる触手に対して『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)が広域攻撃用の魔導を炸裂させる。
「今です、皆さん!」
ティルダの近くにいた騎士達が、触手が動きを止めた隙にバッと散っていく。
ここは『醜悪』上の一角。常に流動する肉が、今もウゾウゾと波を打っている。
「……この巨体は、攻撃するだけ無駄、なんですよね」
ティルダが触手の攻撃を間一髪かわしながら、そんなことをひとりごちる。
強い再生力を持つ相手ならば、生命逆転の魔導によってダメージを与えることもできる。が、どうやら『醜悪』本体が持つ再生能力は根本的に別物であるらしい。
その報告は、少し前にここで戦っている自由騎士の間で共有された。
つくづく、神というものはこちらの想定を超えてくる。
そう考えて、ティルダは小さく息をついた。
「神様だったものが、こんな姿になるなんて……」
自分が立っている肉の塊は、元々はアマノホカリ神であったという。
黄金の神にして、イ・ラプセルも戦いに参加した極東の島国で崇められていたもの。
それが、アマノホカリ。
だが、毒々しい桃色の表面を常に膨張させ、流動させ、変形させている今のこれを見て、そこに神の威容を感じられる者などいるだろうか。
ティルダとて、そこに感じるのはただひたすらな怖気のみである。
「アマノホカリ様、あなたの意思は、ここにあるのですか?」
『ケケケケケケケケケ、クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!』
問いかけても、返ってくるのはこちらを嘲るような 笑い声だけだった。
だから――、
「こんなものは、神じゃ、ありませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
笑っている口へと『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)が自分の得物のデカブツを思い切り叩きつけた。
「あ」
祈りのポーズをしていたティルダが、固まった。
「むむっ、やはり再生しますか! しかしそれこそこちらの思うツボ! いい加減、こんなモノが神とか思いたくなくてムシャクシャしていたのでストレス発散をしたかったところです! セイヤッ! ソイヤッ! うりゃさ! とりゃさァ!」
アンジェリカ、怒りに任せた怒涛の連撃。
聞くに堪えない肉を断つ音が、ティルダの耳をダイレクトアタックした。
「ひゃあ」
思わず、小さく悲鳴が出た。
「平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)! 平穏のあらんことを(ルビ:ブチ殺しますわ)!」
「わひゃあ」
目の前で繰り広げられる地獄のような破滅的連撃に、ティルダはそろそろ腰を抜かしそうになっていた。と、そこで彼女は小さく咳き込む。
アンジェリカが剣を振るのをやめて、彼女の方を向いた。
「いけません。下がりましょう」
「え?」
きょとんとするティルダの手を引いて、アンジェリカはさっさとその場から離脱する。
「あ、あの、アンジェリカさん!?」
「顔色、真っ青ですわよ。ティルダ様」
「え、そんな……」
言われて、驚く。ティルダは自分の頬を指で撫でると、指先にカサつきを感じた。
生気を失い、水分もなくなって、砂のようにも思えてしまう肌の質感。
「どうやら、少々、あの霧の中に身を置きすぎたようですね」
「……気づきませんでした」
脱力感はあったものの、まさかここまで影響が出ていたとは知らず、アンジェリカに言われてティルダは背筋が凍えるのを自覚した。
「すみません、アンジェリカさん。……邪魔をしてしまって」
「いいえ、いいのです」
アンジェリカの戦いの邪魔をした。
そのことを気に病みかけるティルダであったが、アンジェリカは気持ちよくそれを否定する。別に、自分一人欠けたところで、大きな差はないのだ、と。
「それに――」
と、アンジェリカは笑った。
「案外、もうすぐ決着がつくかもしれませんよ」
「え、でも……、相手はずっと増殖し続ける不死身の……」
「不死身などありえませんよ。神でも死にます。倒せます。そうやって、私達がここまでやってきたのですから。……違いますか?」
まるで確信を持っているかのようなアンジェリカの物言い。
そこに、経験則以外の根拠はないに違いない。しかし、不思議とティルダは彼女の言葉を否定する気にはなれなかった。それどころか、
「そうですね。もしかしたら――」
二人は、霧の外に出る。
「もしかしたら、もうすぐ、終わるのかも」
そしてその言葉が現実のものとなるまで、あと、ほんの数分もないのだった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!! ケタケタケタケタ、やっかましいのよ、ただの内臓剥き出し肉塊風情がッッッッ!!!!」
と、いうワケで、この戦いにピリオドを打つのは彼女達――、笑い声にブチギレて絶叫している『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)と『醜悪』本体の上で弱点となる心臓を探している『名探偵』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)である。
「心臓なぁ~、あるんだよなぁ。何回か見つけちゃいるんだよなぁ……」
暴れるきゐこに対し、ウェルスの声はかなり疲れが色濃く出ていた。
致し方あるまい、二人は『醜悪』に弱点となる心臓があると知って、これまでずっと霧の内外に出たり入ったりを繰り返し、探し続けていたのだから。
知識、発想、視覚、聴覚、機械による解析まで用いて、およそ知覚という面においては過剰なまでの準備をもって挑んだ二人。
おかげで、心臓の位置を特定することができた。
が、攻撃が当たらなかった。
何せ、戦艦ほどもある『醜悪』本体の全体に対して、核である心臓はあまりにも小さく、そして常にその位置を変え続けている。
見つけたところで、攻撃を当てるのがそもそも至難の業なのだ。
それでも、何度か惜しいところまではいった。
他の自由騎士とも連携して、心臓を見つけては、攻撃を繰り返した。
だが、当たらず、見逃し、また探すところから。それを何度続けたことだろう。
結果――、キレた。
「ウラァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」
きゐこが魔力によって超高熱の熱波をその場に炸裂させる。無駄に。
高熱に晒され『醜悪』の表面が焼けただれるも、それは直ちに再生し、元も戻る。
だが、構わない。
そもそもただのウサ晴らし、きゐこは自分がすっきりすればいいのだ。
――と、思ったら、
「ウオオオオオオオオオ、いたァァァァァァァ!!?」
突如、ウェルスの絶叫。
「え、何が?」
驚くきゐこの足元を、彼は指さしていた。
何事かと視線を下げる。するとそこに、何度か見た覚えのある、ドクンと脈打つ肉の瘤。
――『醜悪』の心臓であった。
その瞬間、きゐこは願った。これ以上なく、切に願った。
「動くなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
己の業を、運命を薪として、きゐこ願いが世界を突き抜ける。
常に蠢き続けていた『醜悪』の巨体が、停止した。
ウェルスも、きゐこも、頭の中は真っ白だ。何をどうするべきか、そんな思考は巡っちゃいない。それだけ、唐突な出来事だった。
しかしきゐこが願えたのは、彼女の中に決意があったからだ。
猪市 きゐこには絶対に許せないものがある。
それが裏切り。
この世で、最も汚い罪悪だときゐこは信じて疑わない。
だから、1500年前に国を裏切った神に、そのケジメを取らせる。
その一念が、この短い時間の中で、きゐこを衝き動かす原動力となった。そして、
「終わりよ」
あろうことか、きゐこは『醜悪』の心臓を素手で抉り出したのである。
『ギ、ギャ……』
近くに開いた口から『醜悪』が声を漏らす。
それをチラリと流し見て、きゐこは忌々しげに舌を打った。
「うるさいわね、さっさとくたばりなさいよ!」
そして一息に、手の中の心臓を握り潰す。
アデレードの海岸線に『醜悪』の断末魔の悲鳴が轟き渡った。
あとはもう、あっさりとしたものだった。
心臓を潰された『醜悪』は灰となって崩れ、分体も触手も同じようにして消えた。
腐色の霧も時間が経つと晴れて、アデレードの海岸線は元に戻っていった。
二ルヴァンでの戦いの結末が必然であったのならば、この戦いの結末は間違いなく偶然によるものであったと断言してもよい。
だが、偶然を味方に引き入れるのもまた人の強さのうち。
偶然であれ必然であれ、これもまた、人が人たるがゆえに得た勝利であった。
世界を襲った二度目の神の脅威は、こうして取り除かれた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
重傷
アデル・ハビッツ(CL3000496)
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
フリオ・フルフラット(CL3000454)
ナバル・ジーロン(CL3000441)
グローリア・アンヘル(CL3000214)
雪・鈴(CL3000447)
カノン・イスルギ(CL3000025)
天哉熾 ハル(CL3000678)
ロンベル・バルバロイト(CL3000550)
瑠璃彦 水月(CL3000449)
リィ・エーベルト(CL3000628)
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
ロザベル・エヴァンス(CL3000685)
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
フリオ・フルフラット(CL3000454)
ナバル・ジーロン(CL3000441)
グローリア・アンヘル(CL3000214)
雪・鈴(CL3000447)
カノン・イスルギ(CL3000025)
天哉熾 ハル(CL3000678)
ロンベル・バルバロイト(CL3000550)
瑠璃彦 水月(CL3000449)
リィ・エーベルト(CL3000628)
称号付与
『人の人たる由を知り』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『ガチャ強者』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『アマノホカリの心臓を抉った女』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『ガチャ強者』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『アマノホカリの心臓を抉った女』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
†あとがき†
お疲れさまでした。
戦いは終わりました。
終わったんですね。
本当に、お疲れさまでした。
皆さん、ご参加いただきまして、ありがとうございました!
戦いは終わりました。
終わったんですね。
本当に、お疲れさまでした。
皆さん、ご参加いただきまして、ありがとうございました!
FL送付済