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【巨神の村】眠らぬ神を造り上げる

●
息子の竹二は、今年で9歳になる。
3年前、6歳で死ぬところであった。父親である自分・松一のせいで。
子供たちを生け贄にして喰らう大太郎様という悪神は、実在しなかったのだ。
あの頃の自分には、それがわからなかった。
愚かな親に捨てられた竹二が、愚かな親のもとへ戻って来てくれた。そして今、明るく笑っている。
「父ちゃん! 石拾い、終わったぜー」
耕作の前準備として、土中の石を取り除く。這いつくばり土にまみれる作業を、竹二は率先してこなしてくれる。
「ここ、もう耕せるよ」
「……なあ竹二……お前、働かなくていいよ……」
松一は、弱々しい声を発した。
「俺は、お前を……働かせちゃ、いけないんだ。お前には、楽をさせてやらなきゃいけないのに……」
「何言ってんの、楽なんか出来るわけないだろ。働いて年貢、納めなきゃ」
大人よりも子供の方が現実を見ている、と松一は思った。
「少しくらいなら待ってくれるって、帯刀様は言ってたけどさ。甘えてられないよ」
「……そう……だな」
幕府の侍・帯刀作左衛門が、竹二を含む子供たちを助けてくれた。
結局は、宇羅幕府に年貢を取られる民であり続ける事が、これからの子供たちにとっては幸せなのであろうか。
オニヒトに対する差別的感情が、自分の中には間違いなくある、と松一は思う。
そんなものを、しかし子供たちに受け継がせる必要は全くないのだ。
「松一、おめえ何やってる」
声を、かけられた。
村人たちが、畑を、家を、松一と竹二を、ぐるりと取り囲んでいる。
「今日はよ、狼庵様のとこへ行く日だぞ」
大太郎様の神官・金森狼庵が、定期的に集会を開いている。
村人全員で、大太郎様に祈りを捧げる。それだけの集会である。
「……俺は行かない。ここ、今日中に耕しておきたいんだ」
松一は言い、鍬を地面に振り下ろした。
村人たちが、ずかずかと耕地に踏み入って来た。
「おめえよ。余分に働いてよ、宇羅の鬼どもに貢いで媚びへつらおうってハラだべ?」
「大太郎様に背いて、鬼どもに俺らの命まで差し出そうってのかよ。とんでもねえ野郎だ」
「竹二ィ! てめえがなあ、逃げ帰って来やがったせいでなああ、大太郎様がお怒りなんだよおッ!」
しがみ付いて来る竹二を、松一は背後に庇った。
激昂する村人たちの中には、農具を振りかざしている者もいる。
皆、自分と同じだ、と松一は思った。
あの時、大太郎様の社に竹二を置き去りにして保身を図った自分に、この人々を咎める資格はない。
「……なるほど、のう」
声がした。
激昂する村人たちの動きが、凍り付いた。
「これが……のうぶる、なる者どもの有り様であるか。ふむ」
「帯刀様……」
声を漏らす竹二の頭を、帯刀作左衛門はそっと撫でた。
そして、ずいと進み出る。青ざめ固まっている、村人たちに向かってだ。
「アレス・クィンスめ……こういう時に、おらぬとはな」
すらり、と帯刀が大小を抜く。
右手に大刀、左手に小刀。その力強い五指は、しかしそんなものがなくとも容易く人体を引きちぎるだろう、と松一は思った。
この男は、鬼なのだ。
「拙者がやるしか、ないではないか」
「帯刀様……何を……」
問いかける松一の方を振り向かずに、帯刀は言った。
「目を閉じ、耳を塞いでおれ」
「帯刀様……」
「竹二、お志乃を覚えておるか」
「お志乃姉ちゃん……いなく、なっちゃったって……」
「異国の者たちがな、安全な場所へ連れて行ってくれた。まあ、それは良い……あやつの両親は生かしておかぬ。竹二よ、おぬしの親御はましな方ゆえ生かしておく。宇羅の民は、そのような者のみで良い」
村人たちに向かって、帯刀はユラリと踏み出した。
「松一よ、おぬしの畑に肥やしを振り撒いてやろう。その後、金森狼庵も斬る。集会があるのだったな? そこに集いし者ども、残らず斬って捨てる……オニヒトの治世に、こやつらは要らぬ」
●
村の中央に、巨大な社を建てた。
村人を大勢、集めねばならぬから巨大になってしまう。
それでも、金森幻龍がかつて築いたものに比べれば、慎ましやかな建物である。
この拝殿は講堂でもあり、今から村人たちが集まって来る。
自分・金森狼庵は、大太郎様に仕える神官として、大いに語らなければならない。村人の、大太郎様への信仰を、さらに強固なものにしなければならない。
「なあ金森狼庵よ。おぬし大太郎様を、利用しておるだけであろう?」
男の1人が言った。
この男たちの素性を、狼庵は詳しくは知らない。戦力であるのは間違いないので、手を結んでいるだけだ。
「それが悪いと言っておるわけではない。我らとて、大いに利用するとも」
「眠れる神・大太郎様を……眠っておられる間に、な」
遥か昔から『大太郎様』と呼ばれてきた存在が、地の底に眠っている。
人々はその上に村々を作って生活し、地の底に眠る何者かを崇め奉ってきた。大太郎様の、意思や都合など確認する事もなく。
神を崇め奉る。それはつまり、神を利用するという事である。
人は、そうしなければ平和を保つ事が出来ないのだ。
狼庵がかつて暮らしていた場所は、殊にそうであった。
「大太郎様は、アマノホカリ様の御子であらせられる」
男の1人が言った。狼庵は、そちらを見た。
「……そのような話を作り上げ、村人らに語れと言うのだな」
「おぬしの語る話であれば、民は信じるとも」
口々に、男たちは言う。
「民はやがて大太郎様が、天朝様の御一部である事を知る」
「民衆は大太郎様を通じ、天朝様へと帰依するのだ」
「この村々は、天朝様の御聖地となる。宇羅の鬼どもを討滅する、大義ある戦いの拠点となるのだ」
「聖地を作り上げる。それが我ら月堂忍群の使命よ……おっと、月堂様はもうおられぬか」
「あの方も、いささか愚かであられたな。旗印に掲げるならば、亡き一大名の末裔などでは弱すぎる。神そのもの、でなければ」
聖地。神。
狼庵は思う。そう、自分は聖地を、神を、作り上げねばならないのだ。
失われた聖地を、神を、ここアマノホカリの地に蘇らせなければならない。
かつての聖地は、失われた。神は殺された。
自分は聖戦に敗れて流浪の身となり、やがてアマノホカリの地へと流れ着いた。
大太郎様は、アマノホカリの御子などではない。
自由騎士団に殺された神の、生まれ変わりなのだ。
それを少しずつ民衆に信じ込ませ、やがては失われた信仰を復活させる。
失われた神を、この地の人々の心に蘇らせる。
それが自分ロアン・クリストフの、聖なる使命なのだ。
(今少し、でございます……形なき貴き存在として、どうか神無き地に御再臨あそばされますよう)
今や金森狼庵となったロアン・クリストフは、心の中で祈りを捧げた。
(……我が神、ミトラースよ……)
息子の竹二は、今年で9歳になる。
3年前、6歳で死ぬところであった。父親である自分・松一のせいで。
子供たちを生け贄にして喰らう大太郎様という悪神は、実在しなかったのだ。
あの頃の自分には、それがわからなかった。
愚かな親に捨てられた竹二が、愚かな親のもとへ戻って来てくれた。そして今、明るく笑っている。
「父ちゃん! 石拾い、終わったぜー」
耕作の前準備として、土中の石を取り除く。這いつくばり土にまみれる作業を、竹二は率先してこなしてくれる。
「ここ、もう耕せるよ」
「……なあ竹二……お前、働かなくていいよ……」
松一は、弱々しい声を発した。
「俺は、お前を……働かせちゃ、いけないんだ。お前には、楽をさせてやらなきゃいけないのに……」
「何言ってんの、楽なんか出来るわけないだろ。働いて年貢、納めなきゃ」
大人よりも子供の方が現実を見ている、と松一は思った。
「少しくらいなら待ってくれるって、帯刀様は言ってたけどさ。甘えてられないよ」
「……そう……だな」
幕府の侍・帯刀作左衛門が、竹二を含む子供たちを助けてくれた。
結局は、宇羅幕府に年貢を取られる民であり続ける事が、これからの子供たちにとっては幸せなのであろうか。
オニヒトに対する差別的感情が、自分の中には間違いなくある、と松一は思う。
そんなものを、しかし子供たちに受け継がせる必要は全くないのだ。
「松一、おめえ何やってる」
声を、かけられた。
村人たちが、畑を、家を、松一と竹二を、ぐるりと取り囲んでいる。
「今日はよ、狼庵様のとこへ行く日だぞ」
大太郎様の神官・金森狼庵が、定期的に集会を開いている。
村人全員で、大太郎様に祈りを捧げる。それだけの集会である。
「……俺は行かない。ここ、今日中に耕しておきたいんだ」
松一は言い、鍬を地面に振り下ろした。
村人たちが、ずかずかと耕地に踏み入って来た。
「おめえよ。余分に働いてよ、宇羅の鬼どもに貢いで媚びへつらおうってハラだべ?」
「大太郎様に背いて、鬼どもに俺らの命まで差し出そうってのかよ。とんでもねえ野郎だ」
「竹二ィ! てめえがなあ、逃げ帰って来やがったせいでなああ、大太郎様がお怒りなんだよおッ!」
しがみ付いて来る竹二を、松一は背後に庇った。
激昂する村人たちの中には、農具を振りかざしている者もいる。
皆、自分と同じだ、と松一は思った。
あの時、大太郎様の社に竹二を置き去りにして保身を図った自分に、この人々を咎める資格はない。
「……なるほど、のう」
声がした。
激昂する村人たちの動きが、凍り付いた。
「これが……のうぶる、なる者どもの有り様であるか。ふむ」
「帯刀様……」
声を漏らす竹二の頭を、帯刀作左衛門はそっと撫でた。
そして、ずいと進み出る。青ざめ固まっている、村人たちに向かってだ。
「アレス・クィンスめ……こういう時に、おらぬとはな」
すらり、と帯刀が大小を抜く。
右手に大刀、左手に小刀。その力強い五指は、しかしそんなものがなくとも容易く人体を引きちぎるだろう、と松一は思った。
この男は、鬼なのだ。
「拙者がやるしか、ないではないか」
「帯刀様……何を……」
問いかける松一の方を振り向かずに、帯刀は言った。
「目を閉じ、耳を塞いでおれ」
「帯刀様……」
「竹二、お志乃を覚えておるか」
「お志乃姉ちゃん……いなく、なっちゃったって……」
「異国の者たちがな、安全な場所へ連れて行ってくれた。まあ、それは良い……あやつの両親は生かしておかぬ。竹二よ、おぬしの親御はましな方ゆえ生かしておく。宇羅の民は、そのような者のみで良い」
村人たちに向かって、帯刀はユラリと踏み出した。
「松一よ、おぬしの畑に肥やしを振り撒いてやろう。その後、金森狼庵も斬る。集会があるのだったな? そこに集いし者ども、残らず斬って捨てる……オニヒトの治世に、こやつらは要らぬ」
●
村の中央に、巨大な社を建てた。
村人を大勢、集めねばならぬから巨大になってしまう。
それでも、金森幻龍がかつて築いたものに比べれば、慎ましやかな建物である。
この拝殿は講堂でもあり、今から村人たちが集まって来る。
自分・金森狼庵は、大太郎様に仕える神官として、大いに語らなければならない。村人の、大太郎様への信仰を、さらに強固なものにしなければならない。
「なあ金森狼庵よ。おぬし大太郎様を、利用しておるだけであろう?」
男の1人が言った。
この男たちの素性を、狼庵は詳しくは知らない。戦力であるのは間違いないので、手を結んでいるだけだ。
「それが悪いと言っておるわけではない。我らとて、大いに利用するとも」
「眠れる神・大太郎様を……眠っておられる間に、な」
遥か昔から『大太郎様』と呼ばれてきた存在が、地の底に眠っている。
人々はその上に村々を作って生活し、地の底に眠る何者かを崇め奉ってきた。大太郎様の、意思や都合など確認する事もなく。
神を崇め奉る。それはつまり、神を利用するという事である。
人は、そうしなければ平和を保つ事が出来ないのだ。
狼庵がかつて暮らしていた場所は、殊にそうであった。
「大太郎様は、アマノホカリ様の御子であらせられる」
男の1人が言った。狼庵は、そちらを見た。
「……そのような話を作り上げ、村人らに語れと言うのだな」
「おぬしの語る話であれば、民は信じるとも」
口々に、男たちは言う。
「民はやがて大太郎様が、天朝様の御一部である事を知る」
「民衆は大太郎様を通じ、天朝様へと帰依するのだ」
「この村々は、天朝様の御聖地となる。宇羅の鬼どもを討滅する、大義ある戦いの拠点となるのだ」
「聖地を作り上げる。それが我ら月堂忍群の使命よ……おっと、月堂様はもうおられぬか」
「あの方も、いささか愚かであられたな。旗印に掲げるならば、亡き一大名の末裔などでは弱すぎる。神そのもの、でなければ」
聖地。神。
狼庵は思う。そう、自分は聖地を、神を、作り上げねばならないのだ。
失われた聖地を、神を、ここアマノホカリの地に蘇らせなければならない。
かつての聖地は、失われた。神は殺された。
自分は聖戦に敗れて流浪の身となり、やがてアマノホカリの地へと流れ着いた。
大太郎様は、アマノホカリの御子などではない。
自由騎士団に殺された神の、生まれ変わりなのだ。
それを少しずつ民衆に信じ込ませ、やがては失われた信仰を復活させる。
失われた神を、この地の人々の心に蘇らせる。
それが自分ロアン・クリストフの、聖なる使命なのだ。
(今少し、でございます……形なき貴き存在として、どうか神無き地に御再臨あそばされますよう)
今や金森狼庵となったロアン・クリストフは、心の中で祈りを捧げた。
(……我が神、ミトラースよ……)
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.金森狼庵の撃破(生死不問)
お世話になっております。ST小湊拓也です。
シャンバラの再興をたくらむ神官・金森狼庵(ロアン・クリストフ)を倒して止めて下さい。
時間帯は真昼、場所はアマノホカリのとある村に建立された広い講堂内。集まりつつある村人たちの面前で、狼庵に戦いを挑んでいただきます。
狼庵は拙シナリオ『万世一系』シリーズに登場した月堂忍群の残党3名と行動を共にしております。
この3名(前衛)は忍者刀による攻撃(攻近単、BSポイズン1)の他、以下のスキルを使用します。
体術・飛天空蝉
解説:機に臨み変に応ず。軽やかな動きにて敵の攻撃を誘導し、自分ではなく仲間に代わりに受け止めてもらう。別名、変わり身の術。1キャラ2回まで(重複不可)
効果ターン中、被ダメージを任意の仲間1人が1回肩代わり。効果2T。
火遁・劫火焔舞
解説:飛んで火にいる夏の虫。毒素に反応して激しく燃焼する魔導の炎を広域にまき散らし、敵を焼き尽くす。毒と魔導の合わせ技。
魔遠範(命+2 、魔導+(敵BS数×10))。
隠形・遁法煙玉
解説:睡眠毒を混合した発破を地面に投げ、毒煙を展開する。
ダメージ0、BSアンコントロール1及びヒュプノス。自身に回避×1.3、移動20m。
金森狼庵(ノウブル、男、41歳、呪術士スタイル)は後衛。『ネクロフィリア』『ペインリトゥスLV2』『ケイオスゲイトLV2』を使用します。
講堂から少し離れた所では、宇羅幕府の侍・帯刀作左衛門(オニヒト、男、35歳、サムライスタイル)が、狼庵の集会に向かおうとする村人たちを皆殺しにしようとしております。
これを止めるには帯刀を、戦って倒すか説得するかしていただかなければなりません。最初の1人が斬殺される直前に、割って入る事が出来ます。
帯刀は、以下のスキルを使用します。
・一刀両断
EP20、近距離単体、攻撃。命-5、攻撃+140。必殺。
・飛燕血風
EP25、遠距離単体、攻撃。命-10、攻撃+65 。BSスクラッチ1。
・火之迦具土
EP55、近距離範囲、攻撃。命-6、攻撃+100。BSバーン1、ノックバック。
帯刀は、戦況あるいは皆様による説得の流れ次第では、引き下がってくれるかも知れません。
人数を振り分けて同時に対処するか、あるいは全員で帯刀を止めた後、全員で狼庵を倒しに向かうか。その辺りは皆様にお任せいたします。ただし「全員で狼庵を倒した後、全員で帯刀を止める」事だけは出来ません。その時には、OPの村人たちは皆殺しにされております。
村人らの生死は成功条件には関わってきませんので、最初から放っておく手もあると思います。
その場合、狼庵の撃破直後に帯刀が講堂に殴り込んで来ます。皆殺しを終えた後で、講堂にいる村人たちを即座に殺しにかかります。狼庵が生存のまま戦闘不能であれば殺そうとします。
これを止めるには、やはり帯刀と戦うか説得するかしていただく事になりますが、この場合も流れ次第では引き下がってくれるかも知れません。
今回はシリーズシナリオ『巨神の村』全4話中の第3話になります。
全5話の予定でしたが、前回の方々の御活躍により、起こるかも知れなかった騒動が1つ未然に消滅いたしました。
(メタなお話をすると、アレス・クィンスが村でもう1つやらかす予定でしたが彼は磐成山へ行ってしまいました。『アレスを磐成山へ』という皆様の御判断はST的に「その手があったか!」という感じでした)
それでは、よろしくお願い申し上げます。
シャンバラの再興をたくらむ神官・金森狼庵(ロアン・クリストフ)を倒して止めて下さい。
時間帯は真昼、場所はアマノホカリのとある村に建立された広い講堂内。集まりつつある村人たちの面前で、狼庵に戦いを挑んでいただきます。
狼庵は拙シナリオ『万世一系』シリーズに登場した月堂忍群の残党3名と行動を共にしております。
この3名(前衛)は忍者刀による攻撃(攻近単、BSポイズン1)の他、以下のスキルを使用します。
体術・飛天空蝉
解説:機に臨み変に応ず。軽やかな動きにて敵の攻撃を誘導し、自分ではなく仲間に代わりに受け止めてもらう。別名、変わり身の術。1キャラ2回まで(重複不可)
効果ターン中、被ダメージを任意の仲間1人が1回肩代わり。効果2T。
火遁・劫火焔舞
解説:飛んで火にいる夏の虫。毒素に反応して激しく燃焼する魔導の炎を広域にまき散らし、敵を焼き尽くす。毒と魔導の合わせ技。
魔遠範(命+2 、魔導+(敵BS数×10))。
隠形・遁法煙玉
解説:睡眠毒を混合した発破を地面に投げ、毒煙を展開する。
ダメージ0、BSアンコントロール1及びヒュプノス。自身に回避×1.3、移動20m。
金森狼庵(ノウブル、男、41歳、呪術士スタイル)は後衛。『ネクロフィリア』『ペインリトゥスLV2』『ケイオスゲイトLV2』を使用します。
講堂から少し離れた所では、宇羅幕府の侍・帯刀作左衛門(オニヒト、男、35歳、サムライスタイル)が、狼庵の集会に向かおうとする村人たちを皆殺しにしようとしております。
これを止めるには帯刀を、戦って倒すか説得するかしていただかなければなりません。最初の1人が斬殺される直前に、割って入る事が出来ます。
帯刀は、以下のスキルを使用します。
・一刀両断
EP20、近距離単体、攻撃。命-5、攻撃+140。必殺。
・飛燕血風
EP25、遠距離単体、攻撃。命-10、攻撃+65 。BSスクラッチ1。
・火之迦具土
EP55、近距離範囲、攻撃。命-6、攻撃+100。BSバーン1、ノックバック。
帯刀は、戦況あるいは皆様による説得の流れ次第では、引き下がってくれるかも知れません。
人数を振り分けて同時に対処するか、あるいは全員で帯刀を止めた後、全員で狼庵を倒しに向かうか。その辺りは皆様にお任せいたします。ただし「全員で狼庵を倒した後、全員で帯刀を止める」事だけは出来ません。その時には、OPの村人たちは皆殺しにされております。
村人らの生死は成功条件には関わってきませんので、最初から放っておく手もあると思います。
その場合、狼庵の撃破直後に帯刀が講堂に殴り込んで来ます。皆殺しを終えた後で、講堂にいる村人たちを即座に殺しにかかります。狼庵が生存のまま戦闘不能であれば殺そうとします。
これを止めるには、やはり帯刀と戦うか説得するかしていただく事になりますが、この場合も流れ次第では引き下がってくれるかも知れません。
今回はシリーズシナリオ『巨神の村』全4話中の第3話になります。
全5話の予定でしたが、前回の方々の御活躍により、起こるかも知れなかった騒動が1つ未然に消滅いたしました。
(メタなお話をすると、アレス・クィンスが村でもう1つやらかす予定でしたが彼は磐成山へ行ってしまいました。『アレスを磐成山へ』という皆様の御判断はST的に「その手があったか!」という感じでした)
それでは、よろしくお願い申し上げます。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2021年03月20日
2021年03月20日
†メイン参加者 5人†

●
子供が、大人よりも真っ直ぐに現実を見つめ、現実に適応してゆく。
何故か。
子供は、見えないものより「見えたもの」を強烈に覚えているからだ、と『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は思う。
この村の大人たちは、頼りにならない。その現実を、子供たちは見てしまったのだ。
自分が、しっかりしなければ。そう思った事であろう。先日の志乃にしても、この竹二にしても。
その竹二は父・松一ともども、マグノリアの引き連れて来た盾兵隊にがっちりと防護されている。
村人たちが、農具を振りかざして父子に襲いかかっては、盾兵に弾き飛ばされ尻餅をつく。
その有様に親指を向けながら、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が言った。
「見ての通り、もう心配ないから……駄目だよ、殺しちゃ」
「たわけ者のアレス・クィンスを、止めてくれたのだな」
村人たちを殺戮せんとしていた帯刀作左衛門が、微笑んだ。目は笑っていない。
「すまぬ、と言っておこう」
「気にすんな、こちとら暴れるのは嫌いじゃねえ」
同じくニヤリと牙を剥きつつ、『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が言う。
「聞いてるぜ帯刀作左衛門、おめえさんも大いに暴れたそうじゃねえか? 村のガキども助けるために」
「ひとつ、拙者は間違いをした」
帯刀の笑っていない目が、村人たちを睨む。
「愚かな親を見て育て、と拙者は子供らに言った。こうはならぬ、と思い定めて成長せよ……と」
「間違い、とは思えませんが」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)が言いながら、さりげなく村人たちを背後に庇う。
帯刀の声が、低くなった。
「……お志乃がな、殺されるところであった」
アレス・クィンスがいなかったら、そうなっていたところである。
「愚かな親など、生かしておいてはならんのだよ。金森幻龍ともども拙者は、子供らの親どもを斬っておくべきであった」
「……帯刀様、そんな事を言わないでおくれよ」
竹二が言った。
「お志乃姉ちゃんもだけど源太郎も、五助も、おみつも、もちろんオイラだって、お父ちゃんお母ちゃんにまた会えるの嬉しかったんだよ」
「……今のお言葉。聞こえぬふりはさせませんよ、帯刀様」
セアラが言った。
「お志乃様も、そちらの竹二様も……子供たちは、貴方の事が好きなのです。大好きな帯刀様に、親御を殺められた、となれば」
帯刀の眼前から、セアラは動こうとしない。
「……子供たちの心は、死にます。親御の仇と貴方を憎む事も出来ぬまま、ずっと苦しむ事になるのですよ」
「大人のする事、ではないね」
マグノリアが言う。
無言であった『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も、ようやく言葉を発した。
「ねえ帯刀さん。領民を殺す、なんて支配階級の人のする事としては下策だと思いませんか? 私たちの国にもいましたけどね、そういう領主様。ろくな事になってないですよ」
ベレオヌス・ヴィスケーノの事であろう。
「残った人に迷惑かけまくってます。絶対迷惑、ぜつ☆わく! ですよ。あんなの真似しちゃいけません」
怯えすくむ村人たちを、エルシーは一瞥した。
「この人たちから、年貢を取らなきゃいけないんでしょ? 殺してどうするんですか」
「農業を、甘く見てはいけませんよ」
あまり裕福ではない貴族の娘であるセアラが言った。領民に混ざって畑仕事などを、した事があるのかも知れない。
「働き手ひとりひとりの人力が、どれほど重要なものであるのか。幕府の方々に、お考えいただければと思います」
「この村人たちに、きっちりと納税をさせる。それが君の役目なのだろう? 帯刀作左衛門。ならば、税収が減るような事をするべきではない」
マグノリアは言った。
「君は竹二と約束をしたそうだね。年貢の取立てを少し待つ、と……その少しの間、僕たちに」
村人たちを、ちらりと見やる。
「彼らの中にある『毒』を、解毒させてはもらえないだろうか」
「毒……だと」
「そう、毒だ。彼らは今、毒に侵されている状態……としか、僕には見えないんだよ。毒のない時は、きちんと年貢を納められていたのだろう?」
「毒、か……ふ、ふふふ……」
帯刀が、笑いながら激怒している。
「わからぬか。そやつらの毒はな、我らオニヒトに対する憎しみよ」
憎しみ。差別意識、と言い換える事も出来るであろう。
「オニヒトが天下を取ってしまった! そやつらはな、それが許せんのだ。解毒など出来はせん!」
斬撃が来る、とマグノリアは思った。
利いた風な事しか言わない自分マグノリア・ホワイトを、帯刀はまず斬り捨てようとしている。
「ヒトの心の毒はなぁ……殺さねば、解けんのだよ」
「それは違うよ、帯刀さん」
カノンが、マグノリアを護衛する形に立った。
「貴方がここで人殺しをしたら……もっと大勢の人の心が、解けない毒に侵される。子供たちの心だって」
左右の小さな拳で、カノンは帯刀の双剣に立ち向かおうとしている。
「ねえ帯刀さん。今、貴方がしようとしてる事……オニヒト差別の意趣返しじゃないって、言いきれる? 支配する側の人が、やっていい事じゃないとカノンは思うよ」
「ふふ……意趣返し……ならば……この程度で、済ませはせぬ!」
帯刀が、踏み込んで来た。大小の剣が、マグノリアに向かって一閃する。
その斬撃を、ロンベルが戦斧で受け弾いた。焦げ臭い火花が散った。
「ふん、そりゃそうだな。もっと大勢、とっくに殺しまくってるか」
ロンベルが、返礼の斬撃を叩き込んだ。
「かわいそうに、自制してやがるんだよな。本当は暴れてえんだろ? やろうぜ!」
「……カノンたちが、受けるよっ」
ロンベルの斧、カノンの拳。
それに、エルシーの拳が加わってゆく。
「暴れるなら覚悟して下さい帯刀さん。私たち、正々堂々の試合をやってるわけじゃありませんからねっ!」
全てが、帯刀を直撃した。
「5対1の戦い……躊躇いは、しませんよ」
オニヒトの侍。その筋骨たくましい肉体が、カノンとエルシーの拳でへし曲がりながら、ロンベルの斬撃で裂傷を刻まれ、血飛沫を噴射する。
一方。ロンベルの巨体も、鮮血を噴いていた。
「俺が……1対1で、やろうか……?」
「……ダメです」
エルシーも、よろめきながら血飛沫を散らせている。それに、カノンも。
「くっ……い、いつの間に……ッ!」
鮮血、だけでなく炎が迸っていた。
帯刀の、斬撃。
目視不可能な超高速の剣閃が、発火現象を起こしていた。エルシーもカノンもロンベルも、切り裂かれながら炎に包まれている。
「いけない……!」
セアラが、光を振り撒く。魔導医療の煌めきが、前衛の負傷者3名を包み込んだ。
よろめきつつ炎の斬撃を繰り出したばかりの帯刀が、
「……おぬしらの、力……高潔なる、心……認めよう」
鮮血をしたたらせながら、双刀を構え直す。
「ゆえに言う……去れ。このような者どもに、関わってはならぬ」
構え直した帯刀の身体が、歪みながら吹っ飛んだ。
「ここで立ち去る……くらいならば、最初から来たりはしないよ」
マグノリアが、存在しない弓を引き、目に見えぬ魔力の矢を撃ち込んでいた。
「君だって……僕たちに言われて思いとどまる、程度の決意で、人を殺そうとはしないだろう?」
●
ロンベルと帯刀が、ぶつかり合う。戦斧と双刀が、重い唸りを発して一閃する。
大量の血飛沫をぶちまけて、両名が揺らぐ。
「……脅迫のような形になってしまいますが、言わせていただきますよ帯刀様」
満身創痍の帯刀に、セアラは言葉をかけた。同じく満身創痍のロンベルに、魔導医療の光を投げかけながら。
「もう、おやめ下さい。貴方がこちらに負わせた傷は、ことごとく私が治してしまいます。そして……戦いが続く限り私は、貴方の傷を治して差し上げるわけには参りません」
「……ひとつ、訊こう」
血まみれのまま、帯刀は言った。
「おぬしらの目的は、何であるか。他国へ出向き、マガツキを退治して回る……酔狂でもあるまい。一体、何を企んでおる」
「知れた事だぜ。この国を、乗っ取りに来た」
ロンベルが、続いてエルシーが言った。
「なぁんて、思われちゃってます? やっぱり」
「おぬしら、すでに2つの国を滅ぼしておるそうな」
一応の同盟国であるヴィスマルク側から、様々な情報がもたらされているはずではあった。
「虐げられし者らを救う、その過程で、いつの間にやら国を奪う。見事なものよ」
「そいつに関しちゃ、なぁーんにも言い訳出来ねえんだなあコレが」
ロンベルに続いて、マグノリアが言った。
「僕たちの目的……それは、ヒトの命を消さない事だ」
「……そやつらの命もか」
「無論だよ帯刀。君にも、ヒトの命を奪って欲しくない。ヒトの命を脅かすものと、僕たちは戦ってゆかねばならない。その戦いの相手が……宇羅幕府になってしまう事も、あり得るだろう」
マグノリアは、見渡した。
「だけど僕たちは、この村々で起こっている騒ぎのような事をしたいわけではない……アマノホカリの民に、僕たちの神を信仰させようとは思わない」
「……あくあ様、であったな。確か」
ゆらりと踏み込んで来ようとする帯刀の眼前に、カノンが立った。
「今、この場でカノンたちが企んでいるのはね、帯刀さんを止める事だけだよ」
「……殺さねば、止まらぬぞ」
「いたんだよ、帯刀さんみたいな人が」
カノンが思い返しているのは、セアラの知らぬ誰かであろう。
「あの人は、もう少しで身を破滅させるところだった。帯刀さんにはね、あんなふうになって欲しくない。オニヒトとノウブル、共に生きる明日を諦めないで」
「……諦めては、おらぬよ」
盾兵隊に守られている父子を、帯刀は見やった。
「松一に竹二のごとき『のうぶる』であれば、宇羅の民にふさわしい。生かしておくとも」
「生かす者と、生かさぬ者を……貴方たち宇羅幕府の方々が、選んでしまうのですか」
言いつつ、セアラは思う。まだ、帯刀の傷を治すわけにはいかない、と。
「それでは……人の心から、毒はなくなりません」
「そうとも……人の心から、毒が消える事はない……」
帯刀が片膝をつき、どうにか立ち上がった。
「なればこそ! 支配で、力で、上から抑えねばならんのだ。オニヒトはな、そのようにして戦乱の世を統一したのだぞ。『のうぶる』どもの引き起こした戦乱を、オニヒトが鎮めた! 神君・宇羅明炉公が、この国を救って下さったのだ。文句は言わせぬ、のうぶるどもに任せてはおけぬ! ここアマノホカリはな、我らオニヒトの国なるぞ! アマノホカリなどという名は変えねばならぬ。逃げ失せた神の今更の帰還など、受け容れる事は出来ぬ」
「……宇羅の連中、滅ぶぜ。このまんまじゃ」
傷の癒えたロンベルが、満身創痍の帯刀に迫る。
「俺たちが滅ぼす、事になるかもなあ。止めてみろ、この場で……ああ、その前に。セアラ嬢に傷、治してもらうか?」
「世迷い言を……!」
帯刀が双刀を構え直そうとして、よろめいた、その時。
マグノリアが何かに気付き、叫んだ。
「危ない……! 皆、よけろ!」
その言葉で、エルシーもカノンもロンベルも気付いたようだ。
3人がかりで帯刀を引きずり起こし、突き飛ばす。
次の瞬間、暗黒が生じた。
闇の塊が、エルシーを、カノンを、ロンベルを、押し潰していた。3人とも、黒い大蛇に絡め取られたかのようでもある。
暗黒の範囲外へと突き飛ばされた帯刀を、セアラが細腕で抱き止めた。
「おぬしら……!」
帯刀が呻く。
エルシーとカノンとロンベルが、暗黒の大蛇に締め上げられて血飛沫を吐く。
何者かが、近付いて来ていた。
「解せぬ……その行動に、いかなる意味があるのだ? 自由騎士団よ」
杖を携えた、仮面の男。
「その帯刀作左衛門はな、民を殺めようとしていたのだぞ。何故、庇う? 何故、守るのだ」
「金森狼庵……シャンバラ人ロアン・クリストフ」
マグノリアが言った。
「帯刀作左衛門が死ねば、この村々は完全に君の支配下に収まる……この機会、狙っていたのか」
「帯刀だけではない。お前たち自由騎士団も、生かしてはおかぬ」
金森の言葉に合わせ、3つの人影が動いた。
月堂忍群の残党。毒刃を閃かせ、襲いかかって来る。
「天朝様の御ためであるぞ、死ね! 鬼ども夷狄ども」
会話の必要なし、とばかりにマグノリアが無言で舞った。
小柄な細身から、魔力の大渦が激しく溢れ出し、金森を直撃する。月堂忍群3名を、吹っ飛ばす。
杖にしがみつくようにして、金森が辛うじて倒れず踏みとどまる。
その間セアラは、帯刀を膝の上に抱いたまま、祈りの念を高めていった。
癒しの力が、迸り出た。
迸り出たものが、とぐろを巻く闇の大蛇へと流れ込む。絡め取られた3人を、治療してゆく。
大蛇が、ちぎれ飛んだ。
暗黒の破片を蹴散らして、ロンベルとカノンが現れた。エルシーも現れた。
「助かりました、セアラさん……ちょおっと許し難いですねえ、そこの金森さん。とんだペテン師です」
「共倒れを狙う……か。ふん、目の付け所は悪くねえが」
「一撃で、カノンたちを殺せなかった。その時点で、貴方は終わり」
カノンの小さな身体から、巨大な鬼神の姿が浮かび上がった。
「覚悟を決めてね。教皇ヨハネスの、せめて半分の覚悟が貴方にあるかな」
「鬼が……!」
呻く金森に、エルシーが問いかける。
「オニヒトが、許せませんか?」
「わからぬか。ここアマノホカリはな、オニヒトどもに滅ぼされつつあるのだぞ」
憎悪の眼光が仮面から溢れ出し、カノンに向けられる。
「……シャンバラはな、鬼によって滅ぼされたのだぞ!」
「滅びたものは、蘇らない。蘇らせちゃ、いけないんだよ」
言葉と共に、カノンが踏み込む。
エルシーが、よろよろと立ち上がった月堂忍群3名を、殴り倒し蹴り倒す。
その様をにらみながら帯刀が、セアラの膝から起き上がっていた。
「……恐るべきものよ。ほぼ死に体であった拙者を、ここまで癒し回復せしめるとは」
癒しの力は、帯刀にも及んでいたのだ。
「敵を生かすも殺すも思うがまま、というわけか」
「貴方は敵ではない、と私は思っています」
セアラは言った。
「……貴方との戦いは終わりました。少なくとも、この場においては。違いますか?」
「ふん……どう考えても拙者の負け、か」
帯刀が、村人たちを睨む。
「……敗者に、この場で何かをする資格はない」
「そう決め付ける事も、ねえだろうさ」
ロンベルが、にこりと牙を見せる。
「生きてる限りは、負けじゃあねえぜ!」
暴風が吹いた。ロンベルの、斬撃だった。
かわした帯刀が、左右の大小二刀を一閃させる。ロンベルの戦斧が、それを弾き返す。
両者の間で、3つの得物が幾度もぶつかり合った。触れただけで首を刎ねる風が往来し、紙であれば発火するであろう火花が激しく飛散する。
「やめなさい!」
セアラの怒声が、凜と響き渡った。
マグノリアが、さりげなくセアラの前に立っている。
暴風と火花の飛び交うぶつかり合いの中に、飛び込んで行こうとしているセアラを、マグノリアは小柄な細身で押しとどめていた。
ロンベルと帯刀が、間合いを開いて動きを止める。
セアラは、ロンベルを睨んだ。
「……誰も死なずに済む戦いで、わざわざ人死にを出そうと言うのですか」
「死にはしねえよセアラ嬢。コイツは、そうそうな」
「であるにしても……まあ、ここまでにしよう」
マグノリアが言った。
「……ロンベル。君は、あちらの戦いには加わらないのかい?」
「ありゃあ、もう戦いじゃねえからな」
金森が、エルシーとカノンによって、袋叩きに等しい目に遭わされている。あちらもそろそろ止めた方が良いか、とセアラは思った。
マグノリアが、もうひとつ言った。
「シャンバラ出身者なら……ロンベルにとっては因縁の相手かと思ったけれど。そうでも、ないのかな」
「シャンバラは滅んだ。神は死んだ。それだけさ」
ロンベルが応える。
「どう受け止めて、どう行動するかは個人の勝手……だから俺も好き勝手にさせてもらうぜ。あんな野郎は、どうでもいい」
猛虎の顔面に、笑みが浮かぶ。
「なあ帯刀の旦那。いずれまた1対1で、やってみてえもんだな」
「……御免蒙る。おぬしらと戦うならば、こちらも人を集めねば」
地面が、揺れた。
村全体が揺れた、かのようであった。
ロンベルと帯刀が、マグノリアが、息を呑み、見回している。
何が起こったのかを、セアラはおぼろげに理解した。
「大太郎様……」
「……見よ、自由騎士団」
カノンに取り押さえられた金森が、半死半生の体ながら声を発する。
村人たちが、平伏していた。地を揺らす、巨大なる何者かに対してだ。
「人は、神を求めてしまう……自らは何もせず神にすがるだけの生き方を、ヒトは捨てられぬ。神が実在してしまう、この世界においてはなぁ……甘やかす神ミトラースを、誰もが求めているのだよ……」
「確かに……目に見える形で、神様はいらっしゃいます」
月堂忍群3名を縛り上げながら、エルシーが言った。
「だからこそ私たちは……神様にお見せして恥ずかしくない生き方を、しなきゃいけないんです」
子供が、大人よりも真っ直ぐに現実を見つめ、現実に適応してゆく。
何故か。
子供は、見えないものより「見えたもの」を強烈に覚えているからだ、と『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は思う。
この村の大人たちは、頼りにならない。その現実を、子供たちは見てしまったのだ。
自分が、しっかりしなければ。そう思った事であろう。先日の志乃にしても、この竹二にしても。
その竹二は父・松一ともども、マグノリアの引き連れて来た盾兵隊にがっちりと防護されている。
村人たちが、農具を振りかざして父子に襲いかかっては、盾兵に弾き飛ばされ尻餅をつく。
その有様に親指を向けながら、『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が言った。
「見ての通り、もう心配ないから……駄目だよ、殺しちゃ」
「たわけ者のアレス・クィンスを、止めてくれたのだな」
村人たちを殺戮せんとしていた帯刀作左衛門が、微笑んだ。目は笑っていない。
「すまぬ、と言っておこう」
「気にすんな、こちとら暴れるのは嫌いじゃねえ」
同じくニヤリと牙を剥きつつ、『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が言う。
「聞いてるぜ帯刀作左衛門、おめえさんも大いに暴れたそうじゃねえか? 村のガキども助けるために」
「ひとつ、拙者は間違いをした」
帯刀の笑っていない目が、村人たちを睨む。
「愚かな親を見て育て、と拙者は子供らに言った。こうはならぬ、と思い定めて成長せよ……と」
「間違い、とは思えませんが」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)が言いながら、さりげなく村人たちを背後に庇う。
帯刀の声が、低くなった。
「……お志乃がな、殺されるところであった」
アレス・クィンスがいなかったら、そうなっていたところである。
「愚かな親など、生かしておいてはならんのだよ。金森幻龍ともども拙者は、子供らの親どもを斬っておくべきであった」
「……帯刀様、そんな事を言わないでおくれよ」
竹二が言った。
「お志乃姉ちゃんもだけど源太郎も、五助も、おみつも、もちろんオイラだって、お父ちゃんお母ちゃんにまた会えるの嬉しかったんだよ」
「……今のお言葉。聞こえぬふりはさせませんよ、帯刀様」
セアラが言った。
「お志乃様も、そちらの竹二様も……子供たちは、貴方の事が好きなのです。大好きな帯刀様に、親御を殺められた、となれば」
帯刀の眼前から、セアラは動こうとしない。
「……子供たちの心は、死にます。親御の仇と貴方を憎む事も出来ぬまま、ずっと苦しむ事になるのですよ」
「大人のする事、ではないね」
マグノリアが言う。
無言であった『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)も、ようやく言葉を発した。
「ねえ帯刀さん。領民を殺す、なんて支配階級の人のする事としては下策だと思いませんか? 私たちの国にもいましたけどね、そういう領主様。ろくな事になってないですよ」
ベレオヌス・ヴィスケーノの事であろう。
「残った人に迷惑かけまくってます。絶対迷惑、ぜつ☆わく! ですよ。あんなの真似しちゃいけません」
怯えすくむ村人たちを、エルシーは一瞥した。
「この人たちから、年貢を取らなきゃいけないんでしょ? 殺してどうするんですか」
「農業を、甘く見てはいけませんよ」
あまり裕福ではない貴族の娘であるセアラが言った。領民に混ざって畑仕事などを、した事があるのかも知れない。
「働き手ひとりひとりの人力が、どれほど重要なものであるのか。幕府の方々に、お考えいただければと思います」
「この村人たちに、きっちりと納税をさせる。それが君の役目なのだろう? 帯刀作左衛門。ならば、税収が減るような事をするべきではない」
マグノリアは言った。
「君は竹二と約束をしたそうだね。年貢の取立てを少し待つ、と……その少しの間、僕たちに」
村人たちを、ちらりと見やる。
「彼らの中にある『毒』を、解毒させてはもらえないだろうか」
「毒……だと」
「そう、毒だ。彼らは今、毒に侵されている状態……としか、僕には見えないんだよ。毒のない時は、きちんと年貢を納められていたのだろう?」
「毒、か……ふ、ふふふ……」
帯刀が、笑いながら激怒している。
「わからぬか。そやつらの毒はな、我らオニヒトに対する憎しみよ」
憎しみ。差別意識、と言い換える事も出来るであろう。
「オニヒトが天下を取ってしまった! そやつらはな、それが許せんのだ。解毒など出来はせん!」
斬撃が来る、とマグノリアは思った。
利いた風な事しか言わない自分マグノリア・ホワイトを、帯刀はまず斬り捨てようとしている。
「ヒトの心の毒はなぁ……殺さねば、解けんのだよ」
「それは違うよ、帯刀さん」
カノンが、マグノリアを護衛する形に立った。
「貴方がここで人殺しをしたら……もっと大勢の人の心が、解けない毒に侵される。子供たちの心だって」
左右の小さな拳で、カノンは帯刀の双剣に立ち向かおうとしている。
「ねえ帯刀さん。今、貴方がしようとしてる事……オニヒト差別の意趣返しじゃないって、言いきれる? 支配する側の人が、やっていい事じゃないとカノンは思うよ」
「ふふ……意趣返し……ならば……この程度で、済ませはせぬ!」
帯刀が、踏み込んで来た。大小の剣が、マグノリアに向かって一閃する。
その斬撃を、ロンベルが戦斧で受け弾いた。焦げ臭い火花が散った。
「ふん、そりゃそうだな。もっと大勢、とっくに殺しまくってるか」
ロンベルが、返礼の斬撃を叩き込んだ。
「かわいそうに、自制してやがるんだよな。本当は暴れてえんだろ? やろうぜ!」
「……カノンたちが、受けるよっ」
ロンベルの斧、カノンの拳。
それに、エルシーの拳が加わってゆく。
「暴れるなら覚悟して下さい帯刀さん。私たち、正々堂々の試合をやってるわけじゃありませんからねっ!」
全てが、帯刀を直撃した。
「5対1の戦い……躊躇いは、しませんよ」
オニヒトの侍。その筋骨たくましい肉体が、カノンとエルシーの拳でへし曲がりながら、ロンベルの斬撃で裂傷を刻まれ、血飛沫を噴射する。
一方。ロンベルの巨体も、鮮血を噴いていた。
「俺が……1対1で、やろうか……?」
「……ダメです」
エルシーも、よろめきながら血飛沫を散らせている。それに、カノンも。
「くっ……い、いつの間に……ッ!」
鮮血、だけでなく炎が迸っていた。
帯刀の、斬撃。
目視不可能な超高速の剣閃が、発火現象を起こしていた。エルシーもカノンもロンベルも、切り裂かれながら炎に包まれている。
「いけない……!」
セアラが、光を振り撒く。魔導医療の煌めきが、前衛の負傷者3名を包み込んだ。
よろめきつつ炎の斬撃を繰り出したばかりの帯刀が、
「……おぬしらの、力……高潔なる、心……認めよう」
鮮血をしたたらせながら、双刀を構え直す。
「ゆえに言う……去れ。このような者どもに、関わってはならぬ」
構え直した帯刀の身体が、歪みながら吹っ飛んだ。
「ここで立ち去る……くらいならば、最初から来たりはしないよ」
マグノリアが、存在しない弓を引き、目に見えぬ魔力の矢を撃ち込んでいた。
「君だって……僕たちに言われて思いとどまる、程度の決意で、人を殺そうとはしないだろう?」
●
ロンベルと帯刀が、ぶつかり合う。戦斧と双刀が、重い唸りを発して一閃する。
大量の血飛沫をぶちまけて、両名が揺らぐ。
「……脅迫のような形になってしまいますが、言わせていただきますよ帯刀様」
満身創痍の帯刀に、セアラは言葉をかけた。同じく満身創痍のロンベルに、魔導医療の光を投げかけながら。
「もう、おやめ下さい。貴方がこちらに負わせた傷は、ことごとく私が治してしまいます。そして……戦いが続く限り私は、貴方の傷を治して差し上げるわけには参りません」
「……ひとつ、訊こう」
血まみれのまま、帯刀は言った。
「おぬしらの目的は、何であるか。他国へ出向き、マガツキを退治して回る……酔狂でもあるまい。一体、何を企んでおる」
「知れた事だぜ。この国を、乗っ取りに来た」
ロンベルが、続いてエルシーが言った。
「なぁんて、思われちゃってます? やっぱり」
「おぬしら、すでに2つの国を滅ぼしておるそうな」
一応の同盟国であるヴィスマルク側から、様々な情報がもたらされているはずではあった。
「虐げられし者らを救う、その過程で、いつの間にやら国を奪う。見事なものよ」
「そいつに関しちゃ、なぁーんにも言い訳出来ねえんだなあコレが」
ロンベルに続いて、マグノリアが言った。
「僕たちの目的……それは、ヒトの命を消さない事だ」
「……そやつらの命もか」
「無論だよ帯刀。君にも、ヒトの命を奪って欲しくない。ヒトの命を脅かすものと、僕たちは戦ってゆかねばならない。その戦いの相手が……宇羅幕府になってしまう事も、あり得るだろう」
マグノリアは、見渡した。
「だけど僕たちは、この村々で起こっている騒ぎのような事をしたいわけではない……アマノホカリの民に、僕たちの神を信仰させようとは思わない」
「……あくあ様、であったな。確か」
ゆらりと踏み込んで来ようとする帯刀の眼前に、カノンが立った。
「今、この場でカノンたちが企んでいるのはね、帯刀さんを止める事だけだよ」
「……殺さねば、止まらぬぞ」
「いたんだよ、帯刀さんみたいな人が」
カノンが思い返しているのは、セアラの知らぬ誰かであろう。
「あの人は、もう少しで身を破滅させるところだった。帯刀さんにはね、あんなふうになって欲しくない。オニヒトとノウブル、共に生きる明日を諦めないで」
「……諦めては、おらぬよ」
盾兵隊に守られている父子を、帯刀は見やった。
「松一に竹二のごとき『のうぶる』であれば、宇羅の民にふさわしい。生かしておくとも」
「生かす者と、生かさぬ者を……貴方たち宇羅幕府の方々が、選んでしまうのですか」
言いつつ、セアラは思う。まだ、帯刀の傷を治すわけにはいかない、と。
「それでは……人の心から、毒はなくなりません」
「そうとも……人の心から、毒が消える事はない……」
帯刀が片膝をつき、どうにか立ち上がった。
「なればこそ! 支配で、力で、上から抑えねばならんのだ。オニヒトはな、そのようにして戦乱の世を統一したのだぞ。『のうぶる』どもの引き起こした戦乱を、オニヒトが鎮めた! 神君・宇羅明炉公が、この国を救って下さったのだ。文句は言わせぬ、のうぶるどもに任せてはおけぬ! ここアマノホカリはな、我らオニヒトの国なるぞ! アマノホカリなどという名は変えねばならぬ。逃げ失せた神の今更の帰還など、受け容れる事は出来ぬ」
「……宇羅の連中、滅ぶぜ。このまんまじゃ」
傷の癒えたロンベルが、満身創痍の帯刀に迫る。
「俺たちが滅ぼす、事になるかもなあ。止めてみろ、この場で……ああ、その前に。セアラ嬢に傷、治してもらうか?」
「世迷い言を……!」
帯刀が双刀を構え直そうとして、よろめいた、その時。
マグノリアが何かに気付き、叫んだ。
「危ない……! 皆、よけろ!」
その言葉で、エルシーもカノンもロンベルも気付いたようだ。
3人がかりで帯刀を引きずり起こし、突き飛ばす。
次の瞬間、暗黒が生じた。
闇の塊が、エルシーを、カノンを、ロンベルを、押し潰していた。3人とも、黒い大蛇に絡め取られたかのようでもある。
暗黒の範囲外へと突き飛ばされた帯刀を、セアラが細腕で抱き止めた。
「おぬしら……!」
帯刀が呻く。
エルシーとカノンとロンベルが、暗黒の大蛇に締め上げられて血飛沫を吐く。
何者かが、近付いて来ていた。
「解せぬ……その行動に、いかなる意味があるのだ? 自由騎士団よ」
杖を携えた、仮面の男。
「その帯刀作左衛門はな、民を殺めようとしていたのだぞ。何故、庇う? 何故、守るのだ」
「金森狼庵……シャンバラ人ロアン・クリストフ」
マグノリアが言った。
「帯刀作左衛門が死ねば、この村々は完全に君の支配下に収まる……この機会、狙っていたのか」
「帯刀だけではない。お前たち自由騎士団も、生かしてはおかぬ」
金森の言葉に合わせ、3つの人影が動いた。
月堂忍群の残党。毒刃を閃かせ、襲いかかって来る。
「天朝様の御ためであるぞ、死ね! 鬼ども夷狄ども」
会話の必要なし、とばかりにマグノリアが無言で舞った。
小柄な細身から、魔力の大渦が激しく溢れ出し、金森を直撃する。月堂忍群3名を、吹っ飛ばす。
杖にしがみつくようにして、金森が辛うじて倒れず踏みとどまる。
その間セアラは、帯刀を膝の上に抱いたまま、祈りの念を高めていった。
癒しの力が、迸り出た。
迸り出たものが、とぐろを巻く闇の大蛇へと流れ込む。絡め取られた3人を、治療してゆく。
大蛇が、ちぎれ飛んだ。
暗黒の破片を蹴散らして、ロンベルとカノンが現れた。エルシーも現れた。
「助かりました、セアラさん……ちょおっと許し難いですねえ、そこの金森さん。とんだペテン師です」
「共倒れを狙う……か。ふん、目の付け所は悪くねえが」
「一撃で、カノンたちを殺せなかった。その時点で、貴方は終わり」
カノンの小さな身体から、巨大な鬼神の姿が浮かび上がった。
「覚悟を決めてね。教皇ヨハネスの、せめて半分の覚悟が貴方にあるかな」
「鬼が……!」
呻く金森に、エルシーが問いかける。
「オニヒトが、許せませんか?」
「わからぬか。ここアマノホカリはな、オニヒトどもに滅ぼされつつあるのだぞ」
憎悪の眼光が仮面から溢れ出し、カノンに向けられる。
「……シャンバラはな、鬼によって滅ぼされたのだぞ!」
「滅びたものは、蘇らない。蘇らせちゃ、いけないんだよ」
言葉と共に、カノンが踏み込む。
エルシーが、よろよろと立ち上がった月堂忍群3名を、殴り倒し蹴り倒す。
その様をにらみながら帯刀が、セアラの膝から起き上がっていた。
「……恐るべきものよ。ほぼ死に体であった拙者を、ここまで癒し回復せしめるとは」
癒しの力は、帯刀にも及んでいたのだ。
「敵を生かすも殺すも思うがまま、というわけか」
「貴方は敵ではない、と私は思っています」
セアラは言った。
「……貴方との戦いは終わりました。少なくとも、この場においては。違いますか?」
「ふん……どう考えても拙者の負け、か」
帯刀が、村人たちを睨む。
「……敗者に、この場で何かをする資格はない」
「そう決め付ける事も、ねえだろうさ」
ロンベルが、にこりと牙を見せる。
「生きてる限りは、負けじゃあねえぜ!」
暴風が吹いた。ロンベルの、斬撃だった。
かわした帯刀が、左右の大小二刀を一閃させる。ロンベルの戦斧が、それを弾き返す。
両者の間で、3つの得物が幾度もぶつかり合った。触れただけで首を刎ねる風が往来し、紙であれば発火するであろう火花が激しく飛散する。
「やめなさい!」
セアラの怒声が、凜と響き渡った。
マグノリアが、さりげなくセアラの前に立っている。
暴風と火花の飛び交うぶつかり合いの中に、飛び込んで行こうとしているセアラを、マグノリアは小柄な細身で押しとどめていた。
ロンベルと帯刀が、間合いを開いて動きを止める。
セアラは、ロンベルを睨んだ。
「……誰も死なずに済む戦いで、わざわざ人死にを出そうと言うのですか」
「死にはしねえよセアラ嬢。コイツは、そうそうな」
「であるにしても……まあ、ここまでにしよう」
マグノリアが言った。
「……ロンベル。君は、あちらの戦いには加わらないのかい?」
「ありゃあ、もう戦いじゃねえからな」
金森が、エルシーとカノンによって、袋叩きに等しい目に遭わされている。あちらもそろそろ止めた方が良いか、とセアラは思った。
マグノリアが、もうひとつ言った。
「シャンバラ出身者なら……ロンベルにとっては因縁の相手かと思ったけれど。そうでも、ないのかな」
「シャンバラは滅んだ。神は死んだ。それだけさ」
ロンベルが応える。
「どう受け止めて、どう行動するかは個人の勝手……だから俺も好き勝手にさせてもらうぜ。あんな野郎は、どうでもいい」
猛虎の顔面に、笑みが浮かぶ。
「なあ帯刀の旦那。いずれまた1対1で、やってみてえもんだな」
「……御免蒙る。おぬしらと戦うならば、こちらも人を集めねば」
地面が、揺れた。
村全体が揺れた、かのようであった。
ロンベルと帯刀が、マグノリアが、息を呑み、見回している。
何が起こったのかを、セアラはおぼろげに理解した。
「大太郎様……」
「……見よ、自由騎士団」
カノンに取り押さえられた金森が、半死半生の体ながら声を発する。
村人たちが、平伏していた。地を揺らす、巨大なる何者かに対してだ。
「人は、神を求めてしまう……自らは何もせず神にすがるだけの生き方を、ヒトは捨てられぬ。神が実在してしまう、この世界においてはなぁ……甘やかす神ミトラースを、誰もが求めているのだよ……」
「確かに……目に見える形で、神様はいらっしゃいます」
月堂忍群3名を縛り上げながら、エルシーが言った。
「だからこそ私たちは……神様にお見せして恥ずかしくない生き方を、しなきゃいけないんです」