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私立まぎあすち~む学園



●私立まぎあすち~む学園
「あら、目が覚めた?」
 あなたは気がつくと保健室にいた。何かベッドに寝ていたのだ。
 話しかけてきたのは、やたら背が高く明るい髪色をした細身の男性。
 ただし、唇には紫のルージュを塗り、不自然でない程度に化粧している上、その身に羽織っているのは真っ白い白衣であった。
 保健室に白衣。
 それだけで、この学園における男性の役どころがわかろうというものだ。
「うん、そうよぉ。アタシと、ア・タ・シ。美人保険医のキース・ハモンドよ」
 あなたの表情を見て察したか、キースと名乗った保険医は近くの机の上に座る。
 椅子の上ではない、机の上だ。
「――もちろん、そういう設定に過ぎないけれどね」
 設定とか言い出した。
「アンタ、自分のことはどの程度覚えてるのかしら?」
 問われて、あなたは思い出せる限り思い出してみる。
 自分はイ・ラプセルに属している自由騎士であり、イブリース化した道具の回収という任務を受けて、仲間と共にそれが存在する廃村の一軒家へとやってきた。
 目の前にいるキースは、国が今回の任務のために雇った情報屋。
 普通ならば同行はしないのだが、今回は直接戦闘の危険がないこと。
 さらにはキース自身の好奇心もあって、アイテムの回収に同行することになった。
 と、いう流れのはずだが――、
「ここはねぇ、私立まぎあすち~む学園よ」
 何ぞそれ。
「とある街の郊外に立つ、設立2500年を迎える名門中の名門校」
 設立2500年て。
「――という設定よ」
 という設定て。
 つまりどういうことなのか、とあなたはキースに問う。
 彼は至極神妙な面持ちで言った。
「ここは、学パロ空間よ」
 あなたは彼の綺麗なツラにパンチを叩き込みたくなった。
「正確に言うなら、イブリース化した安眠枕の効果に巻き込まれた全員が共通で見ている、平和な学園という舞台を下地にした夢よ。特に危険はないわ」
 話を聞いている限り、危険しかない気がするのだが。
「そこは情報屋の名に懸けて保証するわ。現実の時間でいえば一晩経てば、みんなこの夢から覚めるということ。そうしたら、枕を安全に回収できるわ」
 そんなことがわかるなんて、情報屋ってすごい。
「これは泡沫。一夜限りの夢の銀幕。あり得ざる霞の楼閣。限りある時間ではあるけれど、目一杯楽しめばいいと思うわ」
 楽しめばいいというが、一体何を楽しめばいいのか。
「例えば勉学を。例えば部活動を。例えば友情を。例えば初々しい恋愛を。総じて、青春と呼ばれる形のないものを、楽しめばいいのよ。あ、それと」
 最後に、キースは語る。
「この夢から出たければ、学園の敷地内にある伝説の木の下で告白をしなさい。どんな告白でもいいわよ。愛の告白でも、罪の告白でも」
 伝説の木の下で罪を供述するのはさすがに勘弁してもらいたいあなたであった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
EXリクエストシナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
吾語
■成功条件
1.学パロする
2.伝説の木の下で何か告白をする
まさかマギスチで学パロとは、この吾語の目をもってしても……(節穴ですの意)。
はい、吾語です。
大体OPにある通りなのでもうあとは好きに学パロしてくださいって感じですね!

※このシナリオはアダム・クランプトン(CL3000185)のリクエストによって作成されたシナリオです。
 リクエストした以外のPCも参加することができます。
 サポート参加する方がいらっしゃいましたら、盛り上げも兼ねてかなり高い確率で描写します。

え~、スチームパンクに学パロってどうなの~?

夢の世界にどんな制約があるというのでしょう(正論)。
そんな感じのお楽しみシナリオとなっております。

なお、参加する皆さんはこの学園での役どころを明記してください。
学園は初等部6年、中等部3年、高等部3年のエスカレーター方式の学園です。

これも夢の一部なので現実のイ・ラプセルとは違うのでしょうね。
さすがは夢、支離滅裂ですね!

夢の中なので現実の年齢は特に考慮しません。
50を超えてても初等部一年でもいいんじゃないでしょうか。
なお、教師を名乗るのも自由です。

という感じで、気楽に行ってみればいいと思いまーす!
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  5個  1個
11モル 
参加費
150LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
4/4
公開日
2020年05月26日

†メイン参加者 4人†



●登校
 パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ!
 朝の住宅地、そこに響くは蹄の音。
 贅沢にも口にあんぱんを三つくわえ、白馬に乗った『朽ちぬ信念』アダム・クランプトン(CL3000185)が学校に向かって急いでいる。
「やぁ! 僕の名前はアダム・クランプトン! 私立まぎあすち~む学園に通うあんぱん大好き高等部二年さ! 今日も愛馬ナリタブリリアンパンに乗って登校しようとしてるところさ! ああ、でもなぜだろう、この先にある曲がり角で運命的な出会いをする気がしてならないぞ! あんぱんおいしい!」
 口にくわえた三つのあんぱんをそのままにして、アダムは器用に声を出す。
 そして曲がり角に突撃すると、そこに、キラリと朝日を照り返す金属の輝きが見えた。
 瞬間、アダムの脳裏に幾つかの閃きにも似た考えが走る。

 ――あの金属の輝き、なめらかな曲線、あれは!
 ――そうか、やはり今日も、また!
 ――しかし、それでも僕は!

 やがて曲がり角、そこから顔を出したのは煌びやかな白いリムジンであった。
「ナリタブリリアンパン、今だ!」
 アダムがグイと手綱を引けば、白馬がそれに応じて地面を跳躍。
 間一髪、リムジンとの激突を回避する。
 しかし――、
「オーッホッホッホッホッホッホッホ!」
 リムジンから飛び出す影一つ。高らかに笑いながら、アダムへと襲いかかった。
「やはり君か、ジュリエちゃん!」
「おはようございますわ、アダム! 本日もご機嫌麗しゅう!」
 朝日を背に、高所から飛び蹴りを繰り出すのは私立まぎあすち~む学園高等部一年、あの名家ゴールドスミス家の御令嬢、『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)であった。
「今日も我が家のリムジンを回避なさいましたわね、何故!」
「何故も何も、正面衝突は普通に交通事故だからだよ、ジュリエちゃん!」
 鉄壁のスカート操作によって決して中身を見せないジュリエットによる超上空からの飛び蹴りを、間一髪右腕で受け止めてアダムがキラリと白い歯を輝かせる。
 それを見て、一瞬、頬をポッと朱に染めるジュリエットであったが、しかし、誤魔化されはしない。その瞳が鋭く彼を見据えた。
「毎日毎日白馬に乗って登校するアダム! その凛々しいお姿に、他の女生徒はあなたを白馬の王子様と勘違いするでしょう! そして朝の登校時に夢見る女生徒が曲がり角であなたと激突するという行為に走りかねません! わたくしはそんな不幸な事故を未然に防いでいるのです! 我が家が誇る戦車砲をも防ぐ超高級無敵リムジンによって!」
 歴史に残るレベルの言いがかりであった。
「そうだったんだねジュリエちゃん! よくわからないけど、あんぱん食べる?」
 そしてアダムはジュリエットが繰り出す秒間百発を超える流星の如き拳打を全て見切り、かわして、懐から取り出した新たなあんぱんを差し出した。
「買収ですの、アダム! 見損なわないでください! いただきます!」
 いただいた。
 そして二人はそのままあんぱんを食べながら道路に着地。
 いつの間にかリムジンはなくなっている。
 展開上の都合というヤツであった。
「参ったね、このままだと走っても遅刻確定だ。だが僕のナリタブリリアンパンなら遅刻せずに登校できるぞ、さぁ、ジュリエちゃん!」
 馬上から、アダムがジュリエットに向かって手を差し伸べる。
「買収の次は懐柔ですの、アダム! 見損なわないでください! 乗ります!」
 乗った。
 パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ!
「キャアアアア――――! すごい速度ですわ!」
「しっかりと僕に捕まっているんだ、ジュリエちゃん!」
「卑怯ですわアダム、しっかり身を寄せて抱きしめろだなんて! そうします!」
 そうした。
「し、死にます! ドキドキして死にそうですわ!」
 果たして馬の速さにドキドキしているのか、それとも別の理由か。
 ただ、どっちにしろ、
「え、何だってジュリエちゃん? あんぱん?」
 アダムには聞こえちゃいなかった。
 かくして、二人は私立まぎあすち~む学園に登校していった。
 一方――、
「……しんどいわ」
 学生鞄を片手に、制服姿の『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が赤い長髪を風に流しながら歩いている。
 だがその表情はどこか疲れていて、爽やかな朝には到底似つかわしくない。
「この状況が、とても、しんどいわ」
「何だい、ボス。何がしんどいって~?」
 隣を歩くのは『炎の踊り子』カーシー・ロマ(CL3000569)。
 エルシーと同じく、制服姿のカーシーがのん気な様子でエルシーに尋ねた。
「二十歳過ぎてるのに学生服を着るのがなかなかしんどいわ」
「それ言ったら俺なんてアラサーにチェックメイトしてるんだけどー?」
 ちなみに、リアル年齢はエルシーが二十一で、カーシーが二十六である。
「……気にならないの?」
「気にしてもしょうがなくない? ここ、夢の中だし」
「むぅ……、まぁ、そうではあるけど」
 カーシーの言うことはもっともではあった。
 そう、ここは夢の中。
 ここで起きることは全て現実には影響しない。
 だから、この場で学生服を着ていたとしても何らリアルには関わりないことだが――、
「だったらいっそ夢なら夢で中途半端にリアルのこと覚えておきたくなかったわよ! 心底から十代半ば~後半のつもりで学生服着ていたかった!」
 エルシー・スカーレット、二十一歳、魂の叫びであった。
「何がそんなにしんどいのかっわからないなー。学生時代を微妙に過ぎて、まだ少し開き直るには至らない程度の年代で学生服を着てしまった自分を見て『やだ、結構イケてるかも』と思ってしまったことなのか、それともその直後に『あ、でもやっぱ無理。二十歳越えててこの格好は無理。改めて見ると結構コスプレくさいかも。うわ、違和感が。うわ』って思ってしまったことなのか、まるでわからないなー」
「見事に一から十まで言い当ててんじゃないわよッッッッ!」
 エルシー・スカーレット、二十一歳、悲痛な嘆きであった。
「ちなみにわからないけどー、もしかしたら『夏になったらスク水も着ることになるのかしら。スク水。……スク水!!?』って感じで今からそんないらない心配をしていたりする可能性もなきにそもあらずっていう――」
「人の心の内を見透かすんじゃないわよ――――ッッ!」
 エルシー・スカーレット、二十一歳、大体以下同文。
「何? カーシーは何なの? その態度は何なの? 回避を重視した立ち回りで攻撃は籠手による打撃中心とか、そういう感じの扱いをしてほしいの?」
「それはちょっとやめてほしいなー。一番手慣れた攻撃方法でしょ、それー」
 さしものカーシーも、半ば以上本気の殺気にまみれたエルシーの瞳に、おののく。
「で、でもね、うん、でもね」
「何よ?」
「学園生活、ちょっと楽しみにしてるでしょ?」
「…………」
 カーシーの言葉に、エルシーはピクリと反応する。
「ここは夢の中だから、きっと色んなイベントできるんじゃないかなーって」
「…………」
「あ、その顔は『と、いうことは例えばフルール・ド・プランタンとかオラトリオオデッセイとかに、こう、学生っぽいことも。甘酸っぱい、ラヴィなこともできてしまったりするのかしら!』って期待してる顔だねー。もしかしたらだけどー」
「だから! 一から十まで見透かしてんじゃ! ないわよ! 回避を重視した立ち回りで攻撃は籠手による打撃中心でいくわ! まずは緋色の衝撃(カスタムスキル)よ!」
「ややや、やーめてー! これ戦闘シナリオじゃないからー!」
 学生鞄をフォンッ、フォンッ、と鋭く振り回すエルシーから逃げ回りつつ、カーシーは道を走っていく。そのまっすぐ先には、設立2500年を迎える名門学校、私立まぎあすち~む学園が大きくそびえ立っているのであった。

●授業
 すっとんきょうにしてギガトンチキな私立まぎあすち~む学園だが、実のところ、その授業風景は結構普通だったりする。では早速だが見てみよう。
「あ~、あんぱんおいしい」
 失礼。普通ではなかった。
 いや、そうでもないのかもしれない。
 普通ではないのは、授業開始五秒であんぱんをかじるアダムだけかもしれない。
 教壇を見れば、恰幅のいい緑髪の男性教師が生徒に向かって熱弁を振るっている。
「そこで私は言ったのだ。――『妻よ、君は今日も美しいな』、と。すると妻は美しく微笑みこう返してきた! 『ありがとうございます。でもお弁当におかずを残してきたのは許しません』とな! 私に何の罪があろう! いや、ない!」
 失礼。やっぱり普通ではなかった。
「先生、風紀委員の視点から見ると、まず親子ほどの年齢差がある奥さんという時点ですでに色々と放っておけないのだが。その点についてはどうお考えなのか」
「む、そうだな。我が妻は確かに美しいからな。周りが放っておかないというのは当然の事実であるな。しかし、それでも我が妻の隣に立つのは私なのだよ」
「誰が惚気ろと言ったのか」
 風紀委員を務める褐色の生徒が鋭くツッコんだ。

 ガラッッッッ!

 次の瞬間、いきなり勢いよくクラスの引き戸が開かれた。
 現れたのは、短い黒髪の女生徒。
「――えぶりばでー生徒諸君、校長なのだ!」
「あ、校長」
「あ、校長」
「あ、校長」
 アダムと、教師と、風紀委員が女生徒を見て立て続けに異口同音。
 今日はどうやら、女生徒校長の日であるようだった。
 この学園の校長は五割の確率で変わる。
 ちなみに昨日は白髪の老人みと●~す校長であった。
 一昨日は若いけど常に胡散臭いへ●めす校長であった。
「挨拶終わったのだ! ぐっばい!」

 ピシャッッッッ!

 ドアは閉められた。
「ふぅ……、あんぱんおいしい」
 いつもの校長襲撃イベントを経て、アダムはまた一つ、あんぱんを口にする。
「それではこの時期に珍しいことだが転入生を紹介する」
 そしていきなり転入生イベントが始まった。
「では自己紹介をしたまえ」
「待ってください、待ってください、設定が違います!」
 大きなぬいぐるみを抱えた黒い髪の転入生が顔を青くして叫んだ。
「設定とは何の話だね、自己紹介をしたまえ」
「え、あの、ここ高等部ですよね?」
「そうだが?」
「あの、高等部じゃなくて初等部六年か中等部一年ってちゃんとプレイングに書――」
 フェードアウト。

 キーンコーンカーンコーン。

「はっ、あんぱんを食べていたらいつの間にか授業が終わっていた! 何故か教室には僕一人しかいなくて、しかも窓から差し込む日の光がオレンジだ。夕方じゃないか!」
 アダムの親切な状況説明終わり。
 ふと外を見れば、チア部とおぼしき金色キラキラのボンボンを持った生徒達が、応援の練習をしている風景が見えた。
 特に、ピンク色の髪をポニテにしている部員の声は大きかった。
「フレッ! フレッ! マギスチ! A! N! P! A! N! レッツゴー!」
 この世界はどこまであんぱんに侵蝕されているのだろうか。
 などと言う考えが浮かぶはずもなく、アダムは「もうこんな時間かー」と呟く。
「あら、アダムさん、まだ教室に残ってなんですね」
 やってきたのは水色の長い髪が特徴的なクラスメイトの女子。
「そろそろ部活に行かないと、学園七不思議の一つ、ろんでぃあなおばけに食べられてしまいますよ? 食べられたらじんきゆうごうしてしまいます」
「何それ、怖いね! ウチの学校、もうちょっと安全性を考慮してほしいよね!」
 朝から白馬に乗って最高速度で校門に突撃するヤツのセリフである。
「ああ、でもそういうのもウチの研究会で調べてみるのも面白いかもしれないね!」
「そういえば、アダムさんの部活って、オカ研ですものね」
「そうさ、オカモト研究会だよ!」
「誰です?」
 クラスメイトの表情は一切変わっていなかった。
「もとい、オカルト研究会さ! じゃあそろそろ行こうかな、このあんぱん食べたら!」
「ろ~ん~でぃ~あ~な~」
「うわぁ! まさか本当にろんでぃあなおばけが!」
 すると、一切前フリなく登場したろんでぃあなおばけ。
 さしものアダムもこれには驚ろ――、
「むしゃむしゃもぐもぐ! うん、今日はつぶあんの気分! もぐもぐごくん!」
 驚けよ。
 問題は、まだ彼がオカ研の部活に行っていない、という点だ。
 この手のイベントは、まずオカ研の部室で学園七不思議を調べることで発生するものであり、イベント発生前に出現すること自体、そもそもルール違反なのだ!
 だが果たしてこのリプレイにルールなどあるのだろうか。
 担当者は書いてて思ったが、担当者がルールなのでまあいいか。まあいいよね。
 冷静になったら負けである。
「ろ~ん~でぃ~あ~な~」
 ろんでぁいおばけがアダムへと迫る。
 しかし、今のアダムには対抗する手段がない。せめてオカ研の部室に行ければ!
「待て、そこまでだ謎の物理現象!」
 そこに、ガラッとクラスの戸を開けて威勢のいい声。
 アダムがそちらを見て、叫ぶ。
「君は――、研究熱心な科学部部長! 研究熱心な科学部部長じゃないか!」
「そうだ! おばけなんて非科学的なものはいないぜ!」
 研究熱心な科学部部長にとって、おばけなど存在しないも同然だった。
「……すごい、……無理やり、な、気が、……する」
 研究熱心な科学部部長の双子である陸上部の少女が、ごもっともなことを言う。
「さぁ、行くんだアダムさん! ここはこの研究熱心な科学部部長に任せろ!」
「ろ~ん~でぃ~あ~な~」
「おばけなんていない! 科学的に証明し倒してやるぜ!」
「……色々と、強引すぎる、……気が、する」
 双子の陸上部少女が、これまたごもっともなことを言う。だが、そのとき、
 シュッ! チャキ――――ン!
「ああ! いきなり飛んできた計算用の大きな三角定規が壁に!」
「フ、バカ騒ぎはそこまでよ」
 教室に響く、やけに艶のある声。皆が教室入り口を見て「ゲェー!」と声を揃える。
「あなたは――、保健医希望だった数学教師! 保健医希望だった数学教師の先生!」
「そうよ、保健医をやりたかったのにオープニングの時点で枠が埋まっているだなんてあんまりだわ! この怒り、今この場で晴らさせてもらうわ!」
 どうでもいい怒りだった。
「さぁ、この難攻不落の数学定理、解けるものなら解いてみなさい!」
 しかしキメゼリフは数学教師だった。
「ろ~ん~でぃ~あ~な~」
 ろんでぃあなおばけが研究熱心な科学部部長と保健医希望だった数学教師に襲いかかる。
「……イミ、フ」
 そして双子の陸上部少女の一言に、これを記している誰かの心臓が止まりかける。
「みんな、ありがとう! あとであんぱん奢るよ!」
「つぶあんで!」
「こしあんで!」
「「…………あン?」」
 走り出すアダムの後方で、つぶあん派の科学部部長とこしあん派の数学教師による仁義なき争いが勃発しようとしていたが、それはまた(記すまでもない)別の話である。
 かくして、アダムはオカ研の部室へと向かうのだった。

●部活
「サポート参加者の描写が適当通り越してやっつけすぎるのはさすがにどうなの?」
 エルシーのダメ出しから始まる部活編。ホットスタートである。
「それを俺に言ってどうするのさー? ちなみに今日のラッキーアイテムはあんぱんね」
 いかにも資料やらが積み上げられている雑多なオカ研部室。
 そこでたった今淹れた茶をすすりながら、カーシーがエルシーに言った。
「そもそもここは夢の中。だったら秩序など求める方が間違っているのでは?」
「まぁそれはそうだけどさー……」
 ジュリエットに言われ、エルシーは机に突っ伏す。
 期待していた学園行事系のイベントが何一つ起きていないのが、不満でならないのだ。
 と、そこにアダムがやってくる。
「やぁ、みんな。揃ってるね!」
 戸を開け、笑って、除いた白い歯がキラリと輝く。
「くっ……、学園補正もあっていつも以上に爽やか貴公子ですわね、アダム!」
 まばゆい輝きから目をそらし、ジュリエットが歯噛みする。
「「あの子は一体何と戦っているのだろう」」
 それはエルシーとカーシーの共通の疑問であった。
「それじゃあ、全員集まったところで今日の調査対象について教えるわよ」
 いつの間にそこにいたのか、保健教諭兼オカ研顧問のキースがパンと手を打つ。
「今日の調査対象は、学園の裏庭にあるという伝説の木について、よ」
「学園の」
「裏庭の」
「伝説の」
「木ですって!?」
 エルシー→カーシー→アダム→ジュリエットという、なかなか見事な連携であった。
「そうよ。その木の下で何かを告白した者は――」
「「こ、告白をした者は……?」」
 勿体ぶるキースにノせられ、ごくりと息を呑むエルシーとジュリエット。
 いつだって、これ系の話は女子の大好物なのだ。
 そして、存分に勿体ぶったのち、キースはクスリと笑って告げる。
「現実に帰っても、告白したことが実現するという噂なのよ」
「あ! 思い出しましたわ、アダム! わたくし実は本日、とても、とても大事な用事がありますの! ええ、とても大事な用事でして、そのためにちょっとアダムに学園の裏庭にあるという伝説の木に一緒来ていただく必要があるのですわ!」
「待て、待ちなさい、ジュリエット。個人的にあなたのことは応援してるけどそれとこれとは話が別よ。そんな不純で異性があーゆーこーゆー感じの行動は風紀委員として見過ごせないわ。学園の裏庭の伝説の木も怪しいわね、ここは風紀委員の私が風紀委員としてじっくりと風紀委員らしく調査する必要があるわ。だから近づいちゃダメよ!」
「何を言われるのですかエルシー先輩。風紀委員が学園の裏庭の伝説の木に用事なんてあるはずがないと思いますけれど? それとも、本当は風紀委員としてではなく、別の個人的な目的のために学園の裏庭の伝説の木に行く必要がおありですの? 例えば、そう、いつか出会う(かもしれない)運命の人の顔を思い浮かべて想いを告げるとか――、お、想いを告げるだなんて、そんな! きゃー、きゃー!」
「な、何言ってるのよジュリエット! そんな、う、運命の人だなんて……! そんな、お、お、想いを告げるだなんて、そんなの! きゃー、きゃー!」
 赤くなった頬に手を当て盛り上がるジュリエットとエルシーを見て、カーシーは淹れなおした茶を啜る。そこに、アダムがあんぱんを差し出してきた。
「苦いお茶にはよく合うよ」
「このカオスな状況でよくそんなマイペース貫けるよね……。あんぱんうめぇ」
「今日のラッキーアイテムだからね!」
「それさっき俺が言ったやーつー」
 カーシーもカーシーで、負けず劣らずマイペースであった。
 一方、女子(片方は実年齢二十代前半)二名の睨み合いはいよいよエキサイトしていた。
「ちょっとそこをおどきになっていただきませんか、エルシー先輩。わたくし、アダムを学園の裏庭の伝説の木に連れていくという大事な用事がございますのよ」
「先輩としてジュリエットの応援はしたいけど、さすがに風紀委員として見過ごせないモノは見過ごせないのよね。だから、ね? まずは風紀委員の私が調べたあとにするのがいいわ。それがいいわ。そうしましょう、ね?」
「オホホホホホホホホ、御冗談を」
「ウフフフフフフフフ、ひかないのねぇ」
 二人共に眼光に力がみなぎり、そろそろ本格的なガンの飛ばし合いに移行しそうだ。
 だがそこで、ジュリエットとエルシーが、同時に視線を横にかわす。
「アダム! あなたの意見をお聞きしたいですわ!」
「ちょっと、カーシー! いつまでも茶ァシバいてないで何か言いなさいよ!」
 しかし、向いた先に名を呼んだ相手はいなかった。
 アダムも。
 カーシーも。
「「……あれ?」」
 その反応を見て、残っていた顧問のキース教諭が笑って告げる。
「あの二人なら、学園の裏庭の伝説の木を調べに行ったわよ」
「「えええええええええええええ!!?」」
 ジュリエットとエルシーは二人して驚愕し、すぐさまあとを追った。
「何やってるのよカーシー! それはさすがに非生産的で不健全よ!」
「エルシー先輩、何を想像してるんですの!?」
 そして一人残ったキースが、淹れなおした茶を一口。
 フッと笑って言う。
「――まさに青春、ね」
 そうかなぁ。

●告白
 とある夕暮れの教室。
「制服って大事だよね……」
 彼は、目の前の制服姿の彼女を見て、しみじみとそうつぶやいた。
 ありがとう。
 ありがとう夢の中。
 愛する人の制服姿をこうして自分の目に収めることができるなんて――!
「……足に風が通って落ち着かないんだが」
 普段、男性っぽく扱われることが多い彼女は、その恰好にやや戸惑っているようだった。
「う~ん……、イイ」
 と、彼の方がその風情ある姿を満喫していると――、
「アダム、どこですのアダム――――!」
「自分達だけで伝説の木を使おうって魂胆ね。させないわ! 絶対に!」
 教室のすぐ外を走り抜ける、二つの声。
 気づいた彼は壁の方へと目をやって、呟いた。
「……学園の裏庭の伝説の木、か?」
 そして物語は、最後の舞台へ――!

「「…………デカイ」」
 学園の裏庭。
 そこにそびえ立つ木を見上げて、アダムとカーシーは半ば絶句した。
 デカイ。
 あまりにもデカイ。
 校舎よりもさらにデカイとは何事なのか。
「これが学園の裏庭の伝説の木――、ユグドラシルなんだね!」
「ジャンルが違うことを自覚してほしいねー」
 興奮のあまりあんぱんをかじるアダムと、何故か手に持っていた弦楽器を奏で始めるカーシー。そして、その音色を目印にエルシーとジュリエットが追いついてきた。
「カーシー!」
「アダム!」
「やぁ、二人共。あんぱん食べる?」
「「学園の裏庭の伝説の木、デッカ!!?」」
「デカイよね~、あ、ちなみに今日のラッキーアイテムはユグドラシルね」
 ベベンベン、と、カーシーが弦楽器を鳴らす。
 校舎より大きい木は果たしてアイテムに分類されるのだろうか。
 という疑問を持ったジュリエットはすこぶる正常な感性の持ち主と言えるが、残念ながら今この場は常識など通用する場面ではないのだった。
「さぁ、それじゃあ伝説の木の調査をしようじゃないか!」
 アダムが言う。
「どうやって?」
 それに疑問を投げる、エルシー。
 そして、その疑問に大量の可燃燃料と同義の返答を返したのが、カーシー。

「誰かが告白するしかないんじゃないかな~」

 その瞬間、ジュリエットとエルシーが睨み合った。
「あら、どうかなさいましたのエルシー先輩。顔が随分と殺気立っておられますわ」
「そっちこそどうしたのかしら、ジュリエット。目が血走ってるわよ」
「そんなことはございませんわ。気のせいでしてよ」
「そうよね。別に私も同じよ。うん、気のせい気のせい」
「オホホホホホホホ」
「ウフフフフフフフ」
 まばたきなしに互いを見据える二人の間で、空間がぐにゃ~していた。
「よし、じゃあ、告白するよ!」
 だがアダム、空気を読まない!
「「ええッ!!?」」
 ジュリエットとエルシーが、揃って彼の方を向いた。
「聞いてほしいんだ。実は僕は――」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! お待ちになってくださいませ、アダム! いけませんわ! そんな、他の人が聞いているところでそんなこと! わたくし、わたくし……!」
「すごい。自分が告白される側であることに微塵の疑いも持ってない」
 カーシーですら唖然となる。
 これが夢の中補正というやつだろうか。
 一方、エルシーは身を震わせていた。
「ダメよ、アダム。それだけはさせられないわ」
 そして彼女の全身から、ドス黒いオーラが噴き出した。
「ちょっとボス? 殺気混じらせるのやめない?」
「黙りなさい……!」
 カーシーがたしなめようとするも、エルシーは止まらない。
「私は、イヤよ! この夢の世界からこんなにすぐ覚めるなんて、絶対イヤ!」
 ついに、エルシーが本音をブチまける。
「だって、私まだ何にもしてないもの! 学園行事のフルール・ド・プランタンも! 学園行事の夏の水着イベントも! 学園行事のオカ研全国大会編も! 学園行事の体育祭で二人三脚、最初はまるで息が合わなかった二人が反目し合いながらもやがてお互いに理解し合って一位を取る、も! 学園行事の学園祭で自分のクラスの出し物の看板を作るのに二人だけ残って夕暮れ頃にやっと完成してお互い顔についたペンキを見て笑いあう、も! 学園行事のキャンプで行われるキャンプファイアーで踊ったペアは両想いになるっていう伝説を偶然同じタイミングで聞いちゃって始まるまではギクシャクしてるけどいざ始まったら一緒に踊りたくて仕方なくてやきもきする、も! 学園行事の満を持してのオラトリオオデッセイも! まだ、まだ何にもしてないのよ!!?」
「すごい! 内容が凄まじく具体的だ!」
「エルシー先輩の学園に対する隠れた期待が予想以上に青天井でしたわ!」
「別名、欲望ダダ漏れともいう」
 髪を振り乱して叫ぶエルシーに、三者三様、それぞれに反応を見せた。
 それに対し、エルシーは強く拳を握って訴える。
「だからこそ、二十歳過ぎなのに学生服を着るという恥辱にも耐えたのに!」
「まだ気にしてたんだね……」
 呟くカーシー、当年とって二十六歳。
 が、その呟きもエルシーに届くことはなく、彼女はゆらりと構えを取った。
「私が抱く乙女の夢を壊してでも告白するというのならば、全力で向かってくることね」
「な、何という威圧感だ!?」
「すごいですわ、まるで貢献値が四桁を超えているが如き強烈な圧を感じます!」
「これが、イ・ラプセル名誉将軍の力なのか!」
 恐れおののくアダム達。
「さぁ、かかってくるがいいわ! 私が今回のシナリオで持ってきた鉄山靠はレベル4で、なおかつ威力が1046あるわよ! しかも貫通2よ!」
「くっ! 何て強い物理攻撃だ!」
「このシナリオにバトルがないと思ったのが運の尽きよ! 私の願いが叶うまで、この夢は終わらせない! この私が、決して終わらせないわ! やー、鉄山靠!」
「羅刹破神」
「やーらーれーたー」
 アダムのフルカウンターによって、エルシーは倒れた。
 背後で、カーシーがゲームオーバー音を器用に奏でていた。
「……恐ろしい敵だった。学パロにあってはならない、そんな敵だった気がする」
「まさしくその通りだけどね」
 汗をぬぐうアダムへ、カーシーは真顔でそう告げた。
 そして、場面はいよいよクライマックス。
「ジュリエちゃん」
 アダムが、ジュリエットの方を向いた。
「ひゃい!?」
 いきなり呼ばれて、彼女は姿勢を正す。
 しかし、アダムが口を開く前にジュリエットは手で制そうとした。
「ま、待ってください! あの! わたくしの方から告白させていただいてよろしいでしょうか! その、さすがに、あ、あのですわね……」
「いや、僕が言うよ」
 だがアダムは頑として譲らなかった。
「こういうのはきっと、僕から言うべきなんだ。だから、言わせてほしい」
 いつになく力強い彼のまなざし、彼の言葉。
 それを前に、どうしてジュリエットは抗えようか。
 彼女はぽ~っと赤くなった顔でアダムを見つめ「はい」と一言だけ返す。
「…………え、マジ告白?」
 エルシーをズリズリ引きずりながら画面端に寄ったカーシーが、信じられない顔つきでアダムのことを見る。彼がそう思うほど、今のアダムは真剣だった。
「ジュリエちゃん、聞いてほしいんだ」
「はい、アダム……」
「僕は――」
 言葉を紡ごうとする彼の唇から、ジュリエットは目が離せなかった。
 高鳴る心臓の音が、すぐ耳元に鳴り響いて聞こえる。
 体は芯から熱く、だがフワフワとした心地は決して不快ではない。むしろ気持ちよくすらある。これが恋の感触なのだと、ジュリエットは体で理解していた。
 ああ、まさに夢のような瞬間。ずっとこれが続けばいいのに。
 そしていよいよ、アダムが告げる。

「僕は、あんぱんが好きなんだ」

 知  っ  て  る  。
「…………アダム?」
 たっぷりと間を置いて、ぎこちなく笑みを浮かべるジュリエット。
「その、すでにわたくし、それについては存じ上げておりますが。何故今、それを?」
「プレイングにそう書いたからね!」
 プレイングってゆーな。
 そこに、弦楽器を鳴らすカーシーが、わざわざジュリエットに絡みにいく。
「あ~ぁ、せっかくの機会が~。だから俺の恋のアドバイスを聞いてりゃよかったって言ったのにー。ジュリエットったら、も~」
「初耳ですわよ!? そんなのあるなら是非是非うかがいたいのですけれど!」
「ラッキーアイテムはあんぱん!」
「たった今、そのラッキーアイテムに乙女の純情を蹂躙されたところですわ!」
 と、ジュリエットが悲鳴をあげたところで、地面が激しく揺れ出した。
「な、これは……!?」
「夢が、壊れていくのよ」
 いつの間にかそこに立っていたキース教諭が、いかにもな雰囲気で言う。
「え、これで終わり? これで終わりですの!? 本気で言ってますの!!?」
「それを言われると辛いけれど、もう文字数が限界なのよ……」
 キース教諭が沈痛な面持ちで言う。そう、文字数的に限界なのだ。これは仕方がない。
「ぅ……、でもね、これだけは言わせてもらうわよ……」
 そこに起き上がったエルシーが、かすれ声で一言。
「これ、学パロって呼んでいいのかしら?」
 その言葉に、全員が目を逸らした。
 夢が終わる。
 泡が弾ける。
 荒唐無稽な混沌の現場はついに終わり、そして皆が現実へと帰還する。
 そして皆が目を覚ましたとき、まず、ジュリエットが言った。
「……全て忘れてしまいたかった」
 そう、枕イブリースが見せた夢を、全員がしっかりと覚えていたのだった。
 あ、枕イブリースは浄化されました。
 めでたしめでたし。……か?

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『右脳がつぶあん、左脳がこしあん』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『コスプレじゃないつってんだろ!』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『あんぱんに夢砕かれしもの』
取得者: ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)
『BGM担当』
取得者: カーシー・ロマ(CL3000569)

†あとがき†

荒唐無稽な夢の中、皆さん楽しめましたでしょうか。
自分はとても楽しめました。

夢って素敵ですね!
それでは皆さん、お疲れさまでした!
リクエスト、ありがとうございましたー!
FL送付済