MagiaSteam
永眠させてしまう寝具?




 イ・ラプセル王都サンクディゼール某所。
 その初老の貴族アンスガーは蒸気技術の商品などの売買によって、国内で少し知られた貴族だった。
 全ての種族に差別のないイ・ラプセルの住民であるアンスガーも人当りは悪くなく、労働者達からもそれなりの信頼を得た男だった。
 そんなアンスガーにはアンティーク品を集める趣味があり、屋敷のあちらこちらに様々な骨董品が並ぶ。
 例を挙げれば、照明、家具、時計、食器などなど。実際に利用している物も多い。
 忙しい仕事の中において、彼にとってこうした品々と触れ合う時間はこの上なく私服の一時。
 メイド達にもできる限り丁寧に扱ってほしいと頼み、長くその品々との触れ合いを楽しもうと考えているようだ。
 
 ある日のこと。
 仕事を終えた彼は食事や風呂等を済ませ、寝室へと向かう。
 寝床には仕事を持ち込まぬスタンスの彼は、仕事先や屋敷のメイド達と最低限の連絡手段がとれる状況にだけして、普段は気兼ねなく眠っている。
 その夜も、そうなる筈だったのだが……。
「……む?」
 アンスガーは寝室に入り、違和感を抱く。
 いつもの部屋なのに、どことなく殺伐とした雰囲気を感じたのだ。
 とはいえ、日中の激務もあって襲ってきた眠気には抗えず、アンスガーは愛用のベッドへと横になって眠ろうとしたのだが……。
 突然、ベッドが動き出し、彼の体を飲み込もうとしてきたではないか。
「な、なんだと……!?」
 さらに、ベッドに並んでいた枕や抱き枕も合わせ、空中にふわふわと浮かび上がって彼へと襲い掛かる。
 眠気も覚め、アンスガーは慌てて寝室の扉へと駆け出す。
「一体、何が起こっているんだ……!?」
 錯乱しながらも、なんとかベッドや枕から逃れ、寝室から転がり出た。
 廊下に出た彼は再び、そっと寝室内を覗き見る。
 中は何事もなかったかのように、ベッドや枕は元の位置へと戻っていた。
 しかし、ベッドが動いて擦れた跡や、枕内部の羽毛があちらこちらへと飛び散っている。
「イブリース化、か……?」
 そう判断した彼はすぐさまメイド達を呼び、寝室を封鎖するように命じたのだった。


 ヘリメリアでは、スレイブマーケット決戦が終わったところで、依頼斡旋所も一段落。
 水鏡を見ていた『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)も、まだ一悶着はありそうかなと話しながらも、今回は別の依頼を紹介する。
「イブリース化した寝具と戦ってほしいんだ」
 寝具と言えば、布団、枕、ベッド。
 そう答えた自由騎士達に、クラウディアはご名答と一言。
「討伐対象はベッドと、枕3体。うち、1体は抱き枕だね」
 それらを使っているのは、蒸気技術を使った商品を売買している会社の重役となっている貴族、アンスガーだ。
 50代後半、頭は白髪がかってきているが、まだまだ精悍さも感じさせる見た目をしている。
 彼はアンティーク収集を趣味としているのだが、そのコレクターアイテムの一つであるベッドがイブリース化したことで、自由騎士団へと討伐依頼を出したようだ。
「イブリース化した寝具は、寝室からは出ようとしないようだね」
 この為、アンスガーは寝室への立ち入りをメイド達に禁じ、自由騎士の到着までは放置している状態だ。
 寝室は貴族の屋敷とあって、それなりに広い。
 中に入ると寝具達は襲い掛かってくる為、これを全て討伐してしまいたい。
 アンスガーも今回コレクトアイテムであるベッドや、内部にある家具などが破壊されてしまうのはやむなしと考えている。
 彼には悪いが、後の憂いがないように破壊してしまいたい。

 うまく事が運べば、アンスガーは自由騎士達を豪華な食事でもてなしてくれる。
 元シャンバラを含むイ・ラプセル国内で入手できる食材を使った料理であれば、振舞うことができるとのこと。
 食べたいものをリクエストし、お腹いっぱい食べてくるといいだろう。
 もちろん、それは依頼が成功した場合の話だ。
「普段から気苦労の多い人のはずだよ。せめて、アンスガーさんをゆっくりと眠らせてあげてほしい。
 そう願い、クラウディアはこの依頼を自由騎士達へと託すのである。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
なちゅい
■成功条件
1.全てのイブリース化した寝具の撃破
 初めましての方も、どこかでお会いした事のある方もこんにちは。
 STのなちゅいと申します。

●敵……4体
◎ベッド×1体
 全長3~4mほどあり、
 イブリース化したアンティーク調の天蓋付きベッドです。
 移動も可能で、寝室に入ってきた者を食らおうとしてきます。

 がぶりんちょ【ウィーク2】、布団の魔力【ヒュプノス1】

◎枕×3体
 全長1.5mの抱き枕1体と全長70cm程度の枕2体
 能力は抱き枕が少し上ですが、使用スキルは同じです。
 自在に空中を浮遊し、襲い掛かってきます。

 安眠の誘い【ヒュプノス2】、顔面張り付き【シール1】

●NPC
◎アンスガー……ノウブル、50代後半の男性。今回の依頼者です。
 髪がだいぶ白くなり、初老を思わせる見た目をしています。
 アンティーク品収集の趣味があり、普段寝ているベッドがイブリース化してしまい、危うく食われそうになっています。
 現場まで案内はしてくれますが、寝室には入らず、戦闘にも参加しません。

●状況
 イ・ラプセルのとある貴族の屋敷の寝室が舞台です。
 イブリース化した寝具達は、寝室に入った者を対象に襲いかかってきます。

 討伐後は、豪華な料理を振舞ってもらえますので、存分に召し上がりくださいませ。
 事前に希望の料理を言っていただければ、イ・ラプセル国内で手に入る食材を使ったものなら提供できます。

 それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年10月05日

†メイン参加者 8人†




 イ・ラプセル王都サンクディゼール某所。
 自由騎士達の一隊は貴族アンスガーの屋敷へと向かっていく。
「これはまた……、安眠できそうにないわね」
 スタイル抜群の『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368) が思ったことを口に出す。
「まあ、典型的なイブリース騒動だな」
 灰色の短髪に屈強な体格の『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092) のこの事件にそんな印象を抱く。
 他国との戦争も激化している状況にあるが、だからこそ、こうした国民を守る任務も大切にしたいとボルカスは語った。
 その貴族アンスガーの屋敷のアンティーク寝具がイブリース化しており、一行はその浄化に向かっている。
「やはり、アンティークはイブリース化しやすいのでしょうか~?」
 おっとりゆるふわなケモノビト、『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311) がそんな疑問を抱く。
「大事にしてたから、物に命が宿った……とかじゃないわね。運が悪かったとしか言いようがない」
 それに対し、左腕の機械化させたキジン女性、『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は端的に言葉を返した。
「ごめんなさい」
 そこで、ふわふわ髪からうさぎ耳を垂らす『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)が仲間達へと一言謝る。
 依頼主の大事な寝具を浄化して救うのが本分ということは踏まえながらも、彼女はその先の報酬を気にして。
「ご馳走がとても気になってしまうの」
 ごくり。
 貴族のお屋敷でのご馳走。
 少なからず、メンバー達もそれに興味津々だったようである。


 さて、屋敷へと到着した自由騎士一行はまず、依頼主のアンスガーと面会する。
「おお、よく来てくれた」
 白髪交じりのアンスガーは自由騎士達を快く歓迎してくれた。
「古い物は思い入れのあるものでもありますから、壊してしまうのは複雑な気持ちですぅ~!」
 シャリルは彼の心情を慮り、精一杯励ましの言葉をかける。
「でも、このまま放置する訳にも行きません……アクアディーネさまの権能により、浄化をさせていただきますぅ!」
 ぐっと両手を握り、シャリルは依頼主へと宣言して。
「なので、ご心配なさらず、アンスガーさま! わたくしたちがきっと寝具を元に戻しますぅ!」
「私達が来たからには、大船に乗ったつもりで任せておいてください」
 エルシーも大きな胸を叩いて見せると、アンスガーは実に頼もしいと頷いた。
 ただ、そこで、ライカは依頼主へと現実も突き付ける。
「できれば、元通りっていうのはわかるんだけど、半分は諦めておいた方が気が楽よ」
 イブリース化したモノが相手なら、自由騎士とてなりふり構ってはおれない状況だってあるのだ。
「まぁ、あんなのに寝たいって思うなら止めはしないけど」
「分かっておる。最悪、破壊しても構わん」
 ライカの言葉に、アンスガーは諦観した態度も見せる。
「アンスガー卿、寝室内に守っておきたいお気に入りの品はないだろうか」
 鉄鋼会社を営むイ・ラプセル王家に仕える貴族、『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)としても、ある意味で蒸気を使った商品を扱う依頼主は顧客に当たる相手。
「そうだな、鏡とキャビネットは無事だとありがたいが……」
 なるほどと熊を思わせるケモノビト、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が答える。
 できるだけ、彼が寝室の物品を運び出す手はずとなっていたのだ。
「それと、私はおいしい麺料理をリクエストしておきます」
 一通り話が済んだタイミングでエルシーがイブリースは麺が伸びる前に片付けると意気込みを示すと、アンスガーは満足げに頷いて近場のメイド長へと話を促す。
「普段、気を遣っている家具はありますか?」
 そのメイド長にはお疲れの主に代わりと、生真面目な少女『ルーキーメイドさん』アリア・セレスティ(CL3000222)が尋ねていた。
 なお、過去の事件でメイドとなったアリアは、なんとなく貴族の屋敷に行く際はメイド服を着用することにしているらしい。
「そうね……。物品管理には気を遣うわね」
 そんなメイドのアリアには、メイド長も言葉を崩して話す。
 普段のお掃除や、アンスガーと交流する彼女達が詳しいと踏んでのこと。メイド達との話も彼女は楽しんでいたようだ。

 日々の仕事の疲れと、満足に眠れぬ状況のアンスガーを別所で休ませ、自由騎士一行はメイドに連れられて彼の寝室へと向かう。
 寝室に到着したところで、自由騎士達は突入に当たって準備を進める。
「モノを出来るだけ傷つけずに動きたいけど……」
「ああ、アンスガー殿のコレクションを壊してしまうのは忍びないが……、気にしすぎて浄化に失敗しても不味い」
 仲間の壁となるべく身構えるキリ。ボルカスも依頼の失敗も懸念して、気合を入れ直す。
 先程、ライカも言っていたが、どうしても時は仕方ないという割り切りもある。アンスガーも理解は示すが、自由騎士の身の安全、浄化の達成の方が優先だ。
 メイドを下がらせたテオドールはそっと扉を少しだけ開き、寝室内の配置を確認して。
「ベッドは枕と右奥。右手前に鏡とキャビネットか」
 左の壁にも時計や本棚などがあるが、そちらは後回し。
 彼はそれを仲間達に共有した後、賛美の詩を歌って突入後の攻撃に備える。
 アンスガーの話によれば、イブリース化した寝具はベッドをメインとして枕が3つ。
 厄介なことに、全てがヒュプノスの効果を及ぼすスキルを使ってくるという。
「じゃーん☆」
 そこで、エルシーが取り出したのは……洗濯バサミである。
「この! 洗濯バサミを! こうよ!」
 彼女はそれを頬っぺたに挟み、その痛みで敵のヒュプノスに対抗しようとしていたようである。
 また、シェリルも森羅万象の魔力を体内に取り入れ、共鳴増幅させて戦いに備える。家具運び出し役のウェルスは、仲間の準備を待つ。
「さあ、お掃除です!」
「いざ、行くぞ!」
 情熱の舞踏で仲間達の指揮を高めるアリアが皆を勢いづけると、ボルカスも心のままに叫んで仲間達の力を高め、寝室へと突入していくのである。


 真っ先に寝室へと飛び込んだのはライカだ。
 カーテンで閉ざされた部屋とあって、部屋の照明をメンバーが手に帰る間、スキルで体を加速させる彼女は部屋の角にいるベッドに視線を向ける。
 すると、ベッドが生き物のように飛び跳ね、布団から舌のようなものまで出して近づいてくる。
 そして、そこからふわりと浮き上がる2つの枕と少し大きな抱き枕へ、ライカは狙いを定めた。
「明らかに、枕の方が面倒よね」
 ヒュプノスにシールが多く、こちらの回復手の数も考慮すれば、数を減らしておくに越したことはない。
 そう考えたライカは牽制で煌雷覇銃を発砲し、浮遊する枕へと炎熱の弾幕を張り巡らせる。
 攻撃の射程を考えてか、ふわりと近づいてくる枕にアリアも近づいて。
(普段は跳び回って死角を突いて戦うけど、家具を壊しちゃいそう)
 そう考え、アリアは最低限の回転軌道に抑えて舞い踊りながら、空中二段飛びして高い位置にいた枕の片割れを双剣で叩き落とす。
 すると、残り2体の枕が近づき、眠りの波動を発してくる。
 洗濯バサミをつけていたエルシーはなんとか眠りを堪えながらも、リミッターを解除した力を持って、両腕に装着した籠手で一気に殴りかかっていった。
 枕はそれだけでなく、メンバーの顔を狙って覆い被さろうとしたり、直接体当たりしたりしてくる。
 仲間を護るべく、キリは自らのローブを盾として扱ってそれらの攻撃をパリィしていく。
 キリのローブは翻して攻撃を弾くだけでなく、着たままでも盾として効力を発揮してくれる。
 しばし、彼女は仲間を護るべく、イブリース化した寝具の前に立ち塞がっていた。
 テオドールも敵陣へと詩を歌い聞かせて動きを止めようとしている中、ウェルスが予めアンスガーに言われていた鏡とキャビネットだけはと運び出しに動く。
 それを横目に、物品を破壊せぬようにと頭の片隅に置きながらも、ボルカスはフリーになりかけていたベッドへと向かう。
 かぶりついてくるそのベッドの破壊力は脅威。
 下手すれば、体を飲み込まれて、永遠の眠りについてしまいかねない。
「どうにもベッドの方の噛みつきは、心を強く持たないと痛みで戦いに支障が出そうだ。
 お布団の魔力は、どんな屈強な者でも弱らせるほどに恐ろしい。
 ボルカスはウェルスが鏡を運び出すのを見ながら、力を込めて焚刑大槍を叩きつけていく。
 反撃にと食らいつかれるボルカスだが、それで彼も引くことはなく。
「なんにせよ、自由騎士として、イブリースに後れを取るわけにはいかんな」
 騎士が必ず助けてくれるという民の安堵が、国全体の安寧に繋がっていくとボルカスは疑わない。
 そこへ、後方からシェリルが術式を組み立てて。
「価値あるものが壊されるのは、許されません! 迅速に行きますぅ!」
 躍りかかってくるベッド目がけ、シェリルは緋き火のマナによって古代文字で「別れ」と描き、ベッドを業火で包み込もうとしていく。
 火の手こそあちらこちらに上がるものの、イブリース化したベッドはそれだけで燃え尽きはしない。
 獲物を食らおうと、そいつは舌なめずりして大きく口を開いてくる。
「さあ、民の為、国家の為! 快眠を約束する寝具に戻ってもらうぞ!」
 態勢を整え直したボルカスは再び気合を込め、自らの片手槍をベッド目がけて打ち込んでいくのだった。


 自由騎士が相手にするのは、イブリース化した寝具という実にシュールな絵面の戦い。
 主に、キリが防御態勢をとり、枕を押さえつける。
 一時、枕に顔を覆われて危機的な状況にも陥っていたが、ボルカスがすかさず周囲の魔力を癒しに転化し、キリに張り付く枕を癒しの力で強引に剥がしていく。
「た、助かりました……」
 そうした支援ももらい、キリはなんとか前線を維持させていた。
 その間に、メンバー達が個別に敵を叩く。
「あんまり女神の権能は使いたくはないけれど、浄化は仕方ないわね」
 人同士の抗争でなければと考え、彼女は影のごとく敵へと接近し、一気に漆黒の籠手を打ち込み、抱き枕を真ん中から破裂させてしまう。
 戦いが続く中、アリアは瞳を閉じてしまっていた。
「スヤア……」
 回転こそ続ける彼女は眠らされているかのように見えて、しっかりと螺旋を描く舞踏の余韻に身を任せ、飛んでくる枕へと双剣の刃を浴びせていく。
 次の瞬間、アリアは目を覚まして。
 彼女はすぐさま、左側の壁が背になるよう構える。
「破邪の刃よ!」
 対イブリースに対する力を得たものの、なんともふわふわした感覚を味わいながら、アリアは両手の刃で飛んできた枕を切り裂いてしまったのだった。
 こちらは、エルシー。
 仲間の攻撃の合間、後ろへと向かおうとした敵をキリが押さえつけていたこともあり、彼女は引付を考えずに攻撃を集中させて。
「はあああああっ!!」
 腹の底からエルシーが雄叫びを上げると、その威圧の力の屈した枕は力を失い、ぽとりと床へと堕ちてしまったのだった。

 残るは、部屋を飛び跳ねるベッドのみ。
 その頃になれば、ウェルスも指定の品だけ運び出し、回復役に専念する。
 睡眠と封印に苛まれる仲間へと、ウェルスは高レベルの術式で万全の状態へと近づけようとする。
 まさに寝室は自分達のテリトリーと、我が物顔で食らいついてくるベッド。
 メンバー達は残る力を、そいつ目がけてぶつけていく。
 ベッドの足元へと底なし沼を作り出し、テオドールは敵の動きを止めてしまえば、序盤からベッドと交戦し続けていたボルカスが槍を鮮やかに操って相手の体を殴りつける。
 再び、シェリルが緋文字によって業火を浴びせかければ、ベッドも疲弊してきたのか、動きを鈍らせて飛び跳ねる回数が減ってきていた。
「ベッドも面倒というか……」
 ライカは普段からソファーで寝ているらしく、ベッドの良さはわからないとのこと。
「べつにわかりたくもないけど。無事に戻せればいいわね」
 それももうじき。
 ベッドに狙いを定めさせず、ライカは最高速度の一撃を鼓舞しで打ち込み、敵を怯ませてしまう。
「一気に切り伏せるの」
 影のごとく迫るキリはベッドへと飛び込み、中の布団目がけてサーベルの刃を突き立てる。
 その際、彼女は一気に浄化の力を働かせ、ベッドのイブリース化を解除してしまう。
 ただのベッドに戻ったそれは全身を傷つけながらも、何事もなかったかのように寝室内に佇み続けるのだった。


 全ての寝具の浄化を終え、エルシーが寝室を見渡す。
「最善は尽くしたわ」
 バチンと洗濯バサミを外す彼女の頬は、少し腫れていた。
 とりあえず、家具を戻そうと動くウェルス。
 事態の収拾を聞きつけて駆け付けたアンスガーの指示の元、彼は家具を元の場所へと運び直す。
 さすがに破裂した枕はともかく、ベッドは多少傷ついていても使えそうだ。
「いや、思ったよりはうまくやってくれた。感謝するよ」
 カーペットの張り替えや壁の傷みなどは許容範囲内。
 胸を撫で下ろすアンスガーの様子を見ながら、ライカも元の場所に家具を戻していく。これなら解体の必要はなさそうだと彼女も判断していた。
 掃除は屋敷のメイドに託すが、キリも気合を入れて頑張っていたようである。
「しかし、何故イブリース化したのか……」
 テオドールは動きを止めたベッドや、メイド達が片付ける枕の残骸を見て思う。
 気苦労が多かったアンスガーに影響された可能性を考え、テオドールは再発防止にと彼の力になれるようにと話す。
 とりわけ、後世の育成。難しいものだが、それによって楽になる部分もある筈だ。
 ウェルスも掃除するセクシーケモノビトの美人メイドをナンパ……もとい、聞き込みを行うべく個室に入ってじっくりと語り合う。
「ここ数日、列車の音を聞かなかったか」
「い、いえ……」
 やや強引なウェルスに、少しだけときめくメイドは小さく首を横に振る。
 なお、ウェルスはベッドや枕の購入日も尋ねていたが、こちらはいずれもしばらく愛用の品ということで、当ては外れたようである。
「そうか……」
 その後はちょっとだけアダルトな聞き込みをと、ウェルスは彼女の口を塞いでいたようだった。

 その後、メンバー達は食堂に誘われ、アンスガーの好意で豪華な料理をご馳走になる。
「帰宅したら妻も待っている事だし、気力を充実できる物でシェフが得意とする物がよいな」
 やや控えめな態度のテオドールに、ボルカスも足並みを揃えて。
「うむ、もてなし? いやいや、アンスガー殿」
 自由騎士として当然の責務を果たしたまで。歓待など恐れ多いと謙遜していたボルカスだったが。
「……なに、シャンバラの高級フルーツ? ……まあ、断るのも無礼ですなぁ!」
 一転して、掌を返す彼に笑いが起きる。
 遠慮気味の態度のキリだが、それ以上に空腹が勝ってしまって。
「できれば、人参グラッセもお願いしていいでしょうか」
 食べられる時に食べる。それは一人旅の頃に身に着けたキリの癖だという。
 そんな彼女に、今回初対面のボルカスやシェリルも笑みを浮かべていたようだ。
「貴族さまが食されるお料理、楽しみですぅ」
 シェリルは味もそうだが、盛り付けなどにも興味を示し、作れるものは真似したいと考えていた様子。
「むしろ、教えて欲しいんですよね……」
 アリアは普段作るのが家庭料理やお菓子メインとあって、貴族の料理も学びたいと調理場までついていき、メイドのレベルをアップさせようとしていたようだ。

 程なくして、卓上へと次々に豪華な料理が並べられていく。
 これでもかとボリュームある肉、丁寧に盛り付けられた野菜は煌めいて見え、デザートも普段お目にかかられぬものがずらりと揃う。
「それじゃあ、豪華なご馳走をいただきましょうか!」
 大切にされたから、あの寝具には心が宿ったのだろうか。
 エルシーはイブリース化した寝具について語りつつ、料理を口にしていく。
「それにしても、頬っぺたがイタイわ」
 言わずとも洗濯バサミのせいなのは違いないが、料理が美味しくて頬っぺたが落ちてしまいそうとはエルシー本人の談である。
 傍では、テオドールがさっぱりと調理された肉や魚を口にする。
 キリも要望した人参のグラッセを頂き、甘くバターの香ばしい味を堪能していた。
 それを口にする間、なんとか皆と打ち解けられるようにと頑張って話をするキリである。
 いつの間にか、ウェルスもふらりとこの場に現れていて。
「……久しぶりに肉は食べたいし、魚料理もいいな」
 後ははちみつを入れた料理をと、トーストと合わせた定番の物から、はちみつ入りのソテーや、スイートポテト、マフィンなどのスイーツもウェルスは旨そうに食べる。
 さらに彼は視線を向けた先程のケモノビトメイドもまた、美味しくいただこうと考えていたのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『ほっぺに洗濯バサミ』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
『食べられる時に食べる』
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)

†あとがき†

イブリース討伐、お疲れ様でした。
MVPは仲間と盾となりつつ、
ベッドを浄化したあなたへ。

ご馳走を食べ、楽しんでいただけたなら幸いです。
今回はご参加、ありがとうございました!
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