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蠢く悪意とケモノ連合

●
「おれ達ケモ連ももっと強くならないとな」
「うんうん」
「もっと強くなって自由騎士たちに認めてもらうんだ」
「そうね。アノ人たち強かったなぁ……」
「じゃぁ……特訓だ」
「特訓?」
「そういえば、うってつけな場所があるじゃん!」
「どこ……? ふむふむ……なーんだ、いつもの森じゃない」
「いつものでもいいじゃん! 修行はやっぱり隠れてしないとね♪」
そういってケモノ連合が向かったのは、とある森。
幼いとはいえそれなりの実力を持つ彼ら。普段の森であれば何も問題はなかったであろう。
だが……その日は違った。
──幽霊列車、ゲシュペンスト。
それに意識はない。それに意図はない。それに目的はない。
悪意を喰らうその列車は生物を、物質を、死体をイブリース化させていく。
その存在が森を通過したのは、ケモノ連合の子供達が森に入る僅か数時間前の出来事だった。
●
「ケモノビトの子供達が森でイブリース化した動物達に襲われるんだ」
言葉とは裏腹に『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)の眉間には深い溝。
「どうした?」
「実はな。以前ジローが攫われただろう? ……ケモノ連合だっけ? 実はあの時のワンパクどもなんだ」
ケモノ連合──以前ジローを誘拐して自由騎士に決闘を申し込んできた子供達だ。
「だからといって助けないという選択肢はないんじゃないか」
「ああ、そのとおり。じつはアイツらお前達にこてんぱんにされた後、すっかり改心して自由騎士の強さに憧れを持つようになったらしいんだ。森に入ったのもそのための特訓をするつもりだったらしい」
それを聞いた自由騎士たちが入ってきた扉に手を掛ける。
「ますます急いで助けないとな」
そういうと思ってたよ。テンカイはそんな顔をする。
それじゃあ頼む、と短い言葉で自由騎士たちを送り出したテンカイは、いつものように部屋の奥へと消えていった。
「おれ達ケモ連ももっと強くならないとな」
「うんうん」
「もっと強くなって自由騎士たちに認めてもらうんだ」
「そうね。アノ人たち強かったなぁ……」
「じゃぁ……特訓だ」
「特訓?」
「そういえば、うってつけな場所があるじゃん!」
「どこ……? ふむふむ……なーんだ、いつもの森じゃない」
「いつものでもいいじゃん! 修行はやっぱり隠れてしないとね♪」
そういってケモノ連合が向かったのは、とある森。
幼いとはいえそれなりの実力を持つ彼ら。普段の森であれば何も問題はなかったであろう。
だが……その日は違った。
──幽霊列車、ゲシュペンスト。
それに意識はない。それに意図はない。それに目的はない。
悪意を喰らうその列車は生物を、物質を、死体をイブリース化させていく。
その存在が森を通過したのは、ケモノ連合の子供達が森に入る僅か数時間前の出来事だった。
●
「ケモノビトの子供達が森でイブリース化した動物達に襲われるんだ」
言葉とは裏腹に『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)の眉間には深い溝。
「どうした?」
「実はな。以前ジローが攫われただろう? ……ケモノ連合だっけ? 実はあの時のワンパクどもなんだ」
ケモノ連合──以前ジローを誘拐して自由騎士に決闘を申し込んできた子供達だ。
「だからといって助けないという選択肢はないんじゃないか」
「ああ、そのとおり。じつはアイツらお前達にこてんぱんにされた後、すっかり改心して自由騎士の強さに憧れを持つようになったらしいんだ。森に入ったのもそのための特訓をするつもりだったらしい」
それを聞いた自由騎士たちが入ってきた扉に手を掛ける。
「ますます急いで助けないとな」
そういうと思ってたよ。テンカイはそんな顔をする。
それじゃあ頼む、と短い言葉で自由騎士たちを送り出したテンカイは、いつものように部屋の奥へと消えていった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ケモノ連合と協力して敵を倒す
2.ケモノ連合の無事
2.ケモノ連合の無事
麺です。
以前ジローを攫って挑戦状を送ってきたケモノ連合を名乗る子供達。自由騎士の強さをその肌で感じたことで新しい目標が生まれました。それはもっと強くなって自由騎士に認めてもらうこと。そのために特訓に選んだ場所で事件は起こります。
森の中でイブリース化した沢山の動物達に取り囲まれてしまったケモノ連合。自由騎士の力で彼らとともにこのピンチを乗り切っていただければと思います。
なおジローはなんとなく悲しい気持ちになるという事で同行しておりません。
●ロケーション
とある森の中。ゲシュペンストによって大量にイブリース化してしまった動物達にケモノ連合が襲われている状況です。
ケモノ連合の子供達の状況は様々(下記登場人物欄にて記載)です。
実際は後れを取らない実力もあるはずですが、突然大量のイブリースに囲まれメンバーの1人が重傷となった事もあり、個々のポテンシャルを発揮できずにいます。
自由騎士たちはその場に駆けつけ、彼らを守り、勇気付け、そしてともに戦っていただきたいと思います。
●登場人物&敵
ゲシュペンストによりイブリース化した獣達。
・ワイルドボア(イブリース化したイノシシ) x13
・ワイルドホーク(イブリース化した鷹) x6
・ワイルドウィーゼル(イブリース化した鼬) x16
・ブラッドバット(イブリース化した吸血コウモリ)x32
どれも体長が1.5倍ほどになり、凶暴化していますが、1匹1匹はさほど強くはありません。
『ケモノ連合』
以前自由騎士に戦いを挑んできたケモノビトの子供達。
その後の修行の成果か、使用できるスキルにランク2相当のものが増え、彼らにも成長が見られます。
・トビー・トビー
10歳男。サルのケモノビト。格闘スタイル。お調子者。
武器はナックル。流れるような連続攻撃と高い回避力が自慢です。
ランク2のスキルを複数所持。ケモノ連合の特攻隊長。勉強は苦手だが格闘センスは高い。
韋駄天足と空中二段飛びを所持。
強がってはいますが沢山の敵に囲まれ、自慢の足も震えています。
・リサ・リサ
12歳女。ウシのケモノビト。重戦士スタイル。立派な角と豊満な体型。
武器はスレッジハンマー。高い攻撃力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。アイドルオーラとフェイクデスを所持。
リサを庇って大怪我を負ったドルクの傍にいます。不安定な状態に陥っています。
・ロン・ロン
13歳女。ネコのケモノビト。魔導士スタイル。美形。
武器は魔導書。高い魔導力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。セクシーとフェロモンを所持。
正常な判断を失っていませんが、幾分の疲労の色が見受けられます。
・イーゴ・イーゴ
15歳男。穿山甲のケモノビト。重戦士スタイル。年齢とかけ離れた逞しい体躯。
武器はロングソードにラージシールド。並外れた体力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。威風と武人を所持。
年長者である事を自覚し、積極的に前に出て敵と戦っています。しかし心的疲労はピークに達しつつあります。
・ドルク・ドルク
11歳男。ヒョウのケモノビト。軽戦士スタイル。チャラい。
武器はダガー二刀流。その素早さが自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。モテキとリュンケウスの瞳を所持。
フェイクデスでやり過ごそうとしたリサが攻撃されるのを庇い、大怪我を負っています。動ける状態ではありません。
・ラッシュ・ラッシュ
10歳男。クマのケモノビト。ガンナースタイル。達観者。立派な太い眉。
武器はデリンジャーx2。正確無比な命中力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。勇者と魔王を所持。
大怪我を負ったドルクとリサを守るように銃を構え、魔物たちを威嚇しています。
ご参加お待ちしております。
以前ジローを攫って挑戦状を送ってきたケモノ連合を名乗る子供達。自由騎士の強さをその肌で感じたことで新しい目標が生まれました。それはもっと強くなって自由騎士に認めてもらうこと。そのために特訓に選んだ場所で事件は起こります。
森の中でイブリース化した沢山の動物達に取り囲まれてしまったケモノ連合。自由騎士の力で彼らとともにこのピンチを乗り切っていただければと思います。
なおジローはなんとなく悲しい気持ちになるという事で同行しておりません。
●ロケーション
とある森の中。ゲシュペンストによって大量にイブリース化してしまった動物達にケモノ連合が襲われている状況です。
ケモノ連合の子供達の状況は様々(下記登場人物欄にて記載)です。
実際は後れを取らない実力もあるはずですが、突然大量のイブリースに囲まれメンバーの1人が重傷となった事もあり、個々のポテンシャルを発揮できずにいます。
自由騎士たちはその場に駆けつけ、彼らを守り、勇気付け、そしてともに戦っていただきたいと思います。
●登場人物&敵
ゲシュペンストによりイブリース化した獣達。
・ワイルドボア(イブリース化したイノシシ) x13
・ワイルドホーク(イブリース化した鷹) x6
・ワイルドウィーゼル(イブリース化した鼬) x16
・ブラッドバット(イブリース化した吸血コウモリ)x32
どれも体長が1.5倍ほどになり、凶暴化していますが、1匹1匹はさほど強くはありません。
『ケモノ連合』
以前自由騎士に戦いを挑んできたケモノビトの子供達。
その後の修行の成果か、使用できるスキルにランク2相当のものが増え、彼らにも成長が見られます。
・トビー・トビー
10歳男。サルのケモノビト。格闘スタイル。お調子者。
武器はナックル。流れるような連続攻撃と高い回避力が自慢です。
ランク2のスキルを複数所持。ケモノ連合の特攻隊長。勉強は苦手だが格闘センスは高い。
韋駄天足と空中二段飛びを所持。
強がってはいますが沢山の敵に囲まれ、自慢の足も震えています。
・リサ・リサ
12歳女。ウシのケモノビト。重戦士スタイル。立派な角と豊満な体型。
武器はスレッジハンマー。高い攻撃力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。アイドルオーラとフェイクデスを所持。
リサを庇って大怪我を負ったドルクの傍にいます。不安定な状態に陥っています。
・ロン・ロン
13歳女。ネコのケモノビト。魔導士スタイル。美形。
武器は魔導書。高い魔導力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。セクシーとフェロモンを所持。
正常な判断を失っていませんが、幾分の疲労の色が見受けられます。
・イーゴ・イーゴ
15歳男。穿山甲のケモノビト。重戦士スタイル。年齢とかけ離れた逞しい体躯。
武器はロングソードにラージシールド。並外れた体力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。威風と武人を所持。
年長者である事を自覚し、積極的に前に出て敵と戦っています。しかし心的疲労はピークに達しつつあります。
・ドルク・ドルク
11歳男。ヒョウのケモノビト。軽戦士スタイル。チャラい。
武器はダガー二刀流。その素早さが自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。モテキとリュンケウスの瞳を所持。
フェイクデスでやり過ごそうとしたリサが攻撃されるのを庇い、大怪我を負っています。動ける状態ではありません。
・ラッシュ・ラッシュ
10歳男。クマのケモノビト。ガンナースタイル。達観者。立派な太い眉。
武器はデリンジャーx2。正確無比な命中力が自慢です。
ランク2のスキルを複数個所持。勇者と魔王を所持。
大怪我を負ったドルクとリサを守るように銃を構え、魔物たちを威嚇しています。
ご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2019年05月23日
2019年05月23日
†メイン参加者 6人†
●
「やる気になったのはいいけど、まだまだ手のかかる見習いだね!」
『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は以前戦った時の事を思い出す。
「まったくだ」
カーミラの言葉に頷くのは『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。ウェルスもまた前に彼らと手合わせした事で、そのポテンシャルの高さは知っている。
(反省完了、向上心有り、実力十分、伸び代あり、遭遇運は悪いが、最終的に俺たちが間に合いそう。中々の優良物件だな。……となればこのお宝(子供たち)は何が何でも死守するぜ!)
「彼らの危機とあっては捨て置けませんね……!!」
『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)もまたケモノ連合と一戦交え、彼らの実力を知るうちの一人。
「修行中の事故とは運が無い……いや? 水鏡に映った事を考えれば運が良いのでしょうか?」
確かに状況自体は運が悪いには違いない。だが『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)の言葉にも一理ある。そのピンチを乗り越える状況もまた水鏡によって
一方誰よりも心配そうな表情を見せるのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。
(いま行くから、持ちこたえて! みんな絶対に助けてみせる。 イーゴとドルクは特に気になるけど……きっと大丈夫、すっごいタフだったもの)
窮地を知らされたエルシーの行動は早かった。少し手間のかかる弟や妹。エルシーは彼らの事をそんな風に感じていたのかもしれない。
(それにしても……ジローさん何気にトラウマになってるのかな……)
今度パスタでも奢ってあげよう。そんな事も考えながら現場へ急ぐ。
「こっちに……足跡」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が見つけた足跡は森の奥へと続いていた。
「急ごう」
自由騎士たちは走る。窮地に陥っている自由騎士の卵達を探し、勇気づけ、そして……共に戦うために。
●
「くそっ!! 囲まれてる!!」
「ドルク……ドルクが……」
「リサ、しっかりして!」
ケモノ連合の子供たちに足りなかったのは経験。実力的には十分対応できるはずだった。しかし未経験のその状況は彼らの判断を鈍らせてしまう。
その結果仲間の一人は重症となり、状況は悪化。統率も取れず各々がバラバラに行動してしまっていた。
「(くっ……このままでは……)」
前に出て戦っていたイーゴには疲労の色が色濃く表れる。一匹一匹がさほどではないことは理解している。だがこの圧倒的な数の差。何より自分が倒れれば仲間も全滅するという重圧が彼に重くのしかかる。肉体的ダメージ以上に削られていく精神力。
こんな時、あの人ならどうするんだろう──そんな事を考えたまさにその時だった。
守護白陣──
韋駄天足でいち早くたどり着いたリンネが初手で放つは自らの必殺。体内で練り上げた気を一気に解放し構築した結界は、リサ、ドルク、ラッシュを取り囲む魔物たちの一部をすさまじい威力とともに吹き飛ばす。
「カーミラキィィーーーーーーーーク!!!!」
走ってきた勢いそのままに魔物の群れに飛び蹴りで突っ込むカーミラ。
「何とか間に合ったな」
そこに木々を巧みに利用しながら移動していたウェルスもたどり着く。
「まずは私は回復を」
リンネは優しく微笑むとノートルダムの息吹で全員の体力回復を促す。
「よっし! やるぞー!」
カーミラは拳を打ち鳴らしながら今だ動揺したままのリサの元へ。
「まったく、私にフェイクデスを破られたの忘れちゃったの?」
少し怒ったような素振りでリサに話しかけるカーミラ。
「相手によっちゃあ、ただ無防備晒すだけになるんだから、得意技にするんなら使いどころは気を付けなきゃだよ!」
リサがカーミラの方を向く。見た事のある顔。強く誇らしい自由騎士の姿。気づけばリサはぽろぽろと涙を流していた。
「あ……魔物が急に……ドルクが……私を庇って……ドルクがぁ……イーゴも……」
自由騎士の姿を見て安心したのだろうか、呆けたままだったリサが状況を説明しようと一生懸命言葉を紡ぐ。
「ほら、焦らない……周りをよく見て。ドルクはマグノリアとリンネが治療してくれてる。だったらリサがするべき事はなに?」
カーミラは強い瞳でリサを見つめる。その瞳の奥にあるもの、それは生への執着。生きる事への強い渇望。ケモノ連合は決して自由騎士に助けられるだけの存在じゃない。一人の戦士としてきちんと役割を与えられる。カーミラは言葉なくともそうリサに伝えていた。
「ぐすっ……できる……事……」
「味方が怪我したからってベソかいてる騎士なんていないよ! ……そのハンマーはオモチャじゃないんでしょ!」
そういうとカーミラの表情が一瞬和らぐ。全身から放たれるマイナスイオンがリサの心に少しずつ落ち着きを取り戻させようとしていた。
「さぁ、ラッシュの坊…いや旦那、飛んでる敵をサッサと落とすぞ」
ウェルスはドルクとリサを一人で守っていたラッシュに声をかける。
「……わかっ──うん!!」
こくりと頷くラッシュの張りつめた緊張が緩んだ。不思議とこの人の前ではありのままでいられる。ラッシュの心は前に戦った時からウェルスに開かれたままなのだ。
もともと獣化具合もほぼ同じ2人。並び敵と対峙するはまるで親子のようにも見えた。親が子に様々なことを教えるがごとくラッシュに指示を出すウェルス。
「さぁ、飛んでるやつを全部俺たちで撃ち落とすぜ!!」
襲い掛かる蝙蝠と鷹のイブリース達。ラッシュとウェルスの銃口がぎらりと光った。
「よく……頑張ったね……」
単独で魔物たちと戦っていたロンの元にはマグノリア。重症のドルクにパナケアをかけるとあとをリンネに任せ、すぐにロンの元へと駆け付けたのだ。
マグノリアは踊る。そのリズムは魅惑のタンゴ。魅入られた魔物たちの足が次々止まる。それだけではない。マグノリアはケモノ連合の子供たちも含め、各自の消耗具合を気にかけ、回復態勢も整えていた。
回復が必要なければアイスコフィン、ティンクトラの雫。状態異常付与を目的とした攻撃で魔物たちを翻弄していく。
攻守ともに変幻自在で繊細な対応を見せるマグノリアにロンは魅入っていた。そんなロンに気づいたマグノリアは微笑みを浮かべながら話しかける。
「……ロンは偉いね……。こういう状況でも冷静さを失っていないから……。其れは味方と自分が生き残る為に必要な事」
ふいに褒められたロンはあからさまな動揺を見せる。
「え? あっ? そんな事……っ」
こんなすごい人に褒められている。ロンの内心は喜びに満ち満ちていた。
「君は高い魔導力も持ってる。現状打破の為。そして皆を守る為にも、一緒に頑張ろうね」
認めてもらえる事。それがどれほど嬉しい事か。どれほど勇気を与えるだろうか。それはロンが欲しかった言葉。けれどこれまで誰にも言ってもらえなかった言葉。それは前に戦った時もロンが感じた事。この人たちは……やっぱり私達をきちんと見てくれている。嬉しい。嬉しい。嬉しい──!! 思わずロンは涙ぐむ。
「できるかな?」
「できる……いえ、やってみせます!!」
涙をぬぐい、凛とした表情を見せたロンとマグノリアは並び立つ。目の前にはまだまだ多くの魔物たち。でも今のロンに不安はない。必ずこの窮地を切り抜けられる。ロンを認め、期待してくれる人達がいるのだから。
「うう……近づいてくるなっ……ボクの攻撃はいたいんだぞっ!!」
強がってはいるものの大勢の魔物に囲まれたトビーは完全に委縮し、その足は震えていた。
(ボクが頑張らないと……っ。くそっ! 足の震えとまれっとまれっ!!)
自らを奮い立たせようとするトビー。だが恐怖に支配された体は言うことを聞きそうにない。
(ボクは……なんて臆病者なんだ……)
トビーが自分自身をあきらめかけた時だった。
「良く頑張りましたね。それに、その震え……素晴らしい!!」
突如現れ感動したそぶりを見せるサブロウにトビーは困惑の色を見せた。
「オ、オマエは」
あの時の──そう言いかけたトビーの言葉を遮りさらにサブロウは言葉を続ける。
「敵を目前にして総身を震わせる。しかして必ずしも怯懦にあらず。まさに闘志の横溢なれば、それすなわち武者震いなり!!」
高らかに宣言するサブロウの勢いに飲み込まれるトビー。唖然とするトビーにサブロウが袖をまくり自らの腕の震えを見せる。
「見て下さい、僕もね。戦を前にすると恐怖で手が震えるのです。体の生理反応とは、かくも抑えがたい。ヒトもケモノもオニもキジンも、それは変わりません」
恐怖という感情を完全に無くす事は難しい。それは本能に根付くもの。どれだけ経験を積もうと変わらない。サブロウはそれを自らをもってトビーに伝える。
「ですけどね……」
サブロウは大きく息を吸い込むとひときわ大きな声を出す。
「これは武者震いだ!!」
サブロウがトビーに笑顔を向ける。
「こう自分に言い聞かせて、己が恐怖を勇気に変え、足を支える力と成す。それが戦士たる者の振る舞いです。さあ、トビー! 君ならやれる! 共に飛びましょう!!」
トビーの震えは止まってはいない。だがトビーの抱えていた恐怖心は不思議と和らいでいた。
「む、武者震いだ!!!!!」
トビーもまた声を出す。その様子を見るサブロウもまた安堵したような表情を見せる。
(我ながら、まったく偉そうなことだ。恥ずかしくなってきますが、しかしこれも彼らの戦意を励ますためです。それに、なんだかんだで師匠ごっこも悪くありませんね)
サブロウとトビーは空を蹴り、空高く舞い上がる。
「いきますよ、トビー。われらの持ち味、存分に生かしましょう」
サブロウとトビーの、森という地形を活かした立体的な攻撃は魔物たちを次々翻弄していくのであった。
「タァァァーーーーー!」
掛け声とともに大地が揺れる。
「自由騎士エルシー、助太刀するわ!」
イーゴは知っている。この人の拳がとても強く、燃えるように熱い事を。イーゴは知っている。自分たちを子ども扱いせず全力でぶつかってくれた事を。そしていつしか憧れの存在となっている事。思わずイーゴは涙ぐみそうになる。
「よくがんばったわね、イーゴ。さすがは皆を守る盾。その調子でもうちょっとお願いね」
エルシーが軽くウィンクする。
「でも、辛かったら下がっていてくれてもいいわよ?あとはお姉さんに任せてね」
「……自分も戦います。これは自分たちが招いた状況ですから」
イーゴの疲労もかなりのものだろう。それでもイーゴは自らを奮い立たせ、盾を構える。
(やっぱり男の子だなぁ)
そんな様子をエルシーは微笑ましく思いながらくすりと笑う。
「いくわよ、イーゴ。ここからはずっと私達のターンよ!」
力強いエルシーの言葉。
「はいっ!!」
イーゴも力強く言葉を返す。さぁ反撃の時間だ。
「う……うぅ……」
「気をしっかり持つのです」
リンネはドルクの手当てを続けていた。スキルによる回復と並行して持てる医学知識を総動員してドルクを回復する。その甲斐あってドルクは意識を取り戻し、最悪の状態は脱したものの、依然危険な状態には変わりない。
「あなたはこんな処で倒れるために鍛えた訳ではないでしょう」
「も、もちろ……ん。まだおねーさんの……連絡先もきいて……ないしっ」
苦し気な顔をしながらもドルクらしい軽口がでる。
ふふ。リンネの口元も緩んだ。
「まだ全快には程遠い状態です。しばらくは回復を続けますよ」
そう言って一息つくとリンネは全体にノートルダムの息吹を付与しなおす。回復に従事しながらも全体の戦線維持も抜かりない。リンネの戦いに向けた純粋な姿勢は、自身が直接拳を交わさずとも発揮されている。
「できる限り注意をひきつけます。魔物を味方の攻撃範囲へおびき出すことも、我々のようなバトルスタイルには重要な役目ですよ」
サブロウがトビーとともに森を縦横無尽に駆け回る。闇雲ではない計算された行動。瞬時にその行動を実行するサブロウに食らいつくトビー。その持ち味は十二分に発揮されつつあった。
「味方を巻き込む心配がないときは、太陽と海のワルツでまとめて敵をぶっ飛ばす! 踊るように軽やかに! 太陽のように苛烈に、怒濤のように容赦なく!」
リサに声をかけながら戦うカーミラ。自らが経験で得た戦術を惜しみなく伝えていく。その声に呼応するようにどんどん動きがよくなるリサ。ただ立ち尽くしていただけのリサはそこにはもういない。
「数が多いときはスクラッチの継続ダメージを活用!」
「は、はいっ!」
リサの返事に復帰を確信したカーミラ。リサと背中合わせに魔物に向けてひと際力強く構えをとる。
「今から使うのは、いわゆる必殺技ってヤツなんだけど、反動で隙ができちゃう技なの……。だからその隙をカバーしてくれる人が必要なんだよ。……できるよね?」
背中を預ける。リサはカーミラにそう言われた気がした。
「はいっ!!!」
ひと際元気に答えるとリサはカーミラとともに魔物達へと突進していく。その表情に迷いはない。リサは一つ自分の殻を破ったのだ。
「イーゴ!」
エルシーの掛け声にイーゴが合わせる。即席といえなかなかのコンビネーション。
(イーゴとドルクの連携はみた事がある、素晴らしいコンビネーションだった。今日は私がドルク役ってわけね)
声を掛け合うほど連携の精度は増していく。気づけば周りを取り囲む魔物達の数は残り僅かになっていた。
「空の敵は俺たちの担当だぜ!」
銃を構え、空の敵を撃ち落とし続けるウェルスとラッシュ。
「残るはあのひと塊だけだ。一気に行くぜ!」
「みんな目を閉じて!!」
声の主はマグノリア。皆が迷うことなく目を閉じた瞬間、辺りが強烈な光に包まれた。マグノリアの放った光が辺りを強烈に照らしたのだ。
「チャンスだっ!!」
二人が同時に放ったのはバレッジファイヤ。威力は違えども双方から無尽蔵に繰り出される灼熱の弾丸。銃声が止んだ頃には空を飛ぶものはただの一匹もいなかった。
「これで……全部やったか?」
よくやったな、とウェルスはラッシュの頭をワシャワシャしながら褒める。
「や、やめて……」
そんな事を言いながらもラッシュはどこか嬉しそうだった。
「ドルク! 生きてる? 漢をみせたわね、立派よ!」
エルシーがドルクに駆け寄る。ドルクはだいぶ回復したものの未だ立ち上がる事もできない状態だった。
「歩ける?おんぶしてあげよっか?」
「えっ? いいんスか? ……って痛てて」
喜ぶドルクのそばにはいつの間にやらロン。よくよく見るとロンがドルクをつねっている。
「ほらほら、これ以上皆さんに迷惑をかけちゃダメでしょ!」
ロンとドルクの力関係が垣間見えた気がした。
「これで終わりかな……皆、頑張ったね」
そういうとマグノリアはロンに向けて手を差し出した。
「そういえば初めましてだったね。僕の名前はマグノリア。自由騎士だよ」
ロンは笑顔で手を握り返す。
こうしてケモノ連合の危機は去った。ゲシュペンストのばら撒いた悪意は自由騎士と自由騎士を目指す子供たちによって見事、無に帰ったのだった。
●
「身を挺して仲間を庇うとはナイスガッツだとは思いますがそれで自分が倒れては元も子もありませんよ」
そこにはケモノ連合の子供たちとリンネの姿。
「もし今後も同じ事をしそうだと自分で思うなら、防御タンクの技を習得されてはいかがですか? 見た処貴方は足回りがそれなりに良い。例えばパリィングなら庇いつつ相手の攻撃をいなしたり、攻撃が出来ます。味方のピンチに駆けつけて敵の攻撃を引きつけいなすというのはかっこいいと思いますよ」
リンネなりに戦う様子を見て、皆が今後どうすれいいのかアドバイスをしていた。リンネからすればそれで将来的に自身のよき好敵手になってくれるなら御の字くらいの軽いもの。だがアドバイスをもらうこと自体初めての経験のケモノ連合の子供たちにとって、自らに良き進言をくれるリンネはとても輝く存在に見えたようだ。
「おおっ」「いいじゃんいいじゃん」「ずるいぞ、ドルクだけ」と子供たち。すっかり回復したドルクも満更でもなさそうだ。その様子はまるで師を慕う弟子たちのようにも見えて。
「……師匠」
ドルクが呟く。それは相手を認め、仰いだ事で自然に出た言葉。
「そうだ、おねーちゃんボクたちのししょーになってよ!」
トビーがいいよね?いいよね?とリンネの腕をぶんぶんとふる。
「師匠! 私にはどういうスタイルがいいでしょうか」
「師匠、自分は防御の型を極めたいのです」
「師匠!」「師匠!」
そんな一度に言われても……待ってください、と戸惑いながらも丁寧に一人ずつアドバイスするリンネ。
「そういえば見た処、回復を使える人が居ない様子。戦いの戦線維持としてとても重要ですし、鍛錬は鍛錬。其の物以上にその後の休憩や回復も大事です。故に一人ぐらい練習するのが良いかと」
攻めにおいては現状でもバランスのいいケモノ連合の子供たちだったが、リンネが危惧していたのは回復サポートできるものがいない事。
「じゃぁ私が!」
「いや、ボクでしょー!」
「いやいや。防御をしつつ自分が」
新しい目標へと自らが進む道。ケモノ連合の子供たちの目前の道は明るく無限に広がっている。
そしてその無限の広がりを見せる未来を作ったのは紛れもなく自由騎士なのであった。
「やる気になったのはいいけど、まだまだ手のかかる見習いだね!」
『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)は以前戦った時の事を思い出す。
「まったくだ」
カーミラの言葉に頷くのは『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。ウェルスもまた前に彼らと手合わせした事で、そのポテンシャルの高さは知っている。
(反省完了、向上心有り、実力十分、伸び代あり、遭遇運は悪いが、最終的に俺たちが間に合いそう。中々の優良物件だな。……となればこのお宝(子供たち)は何が何でも死守するぜ!)
「彼らの危機とあっては捨て置けませんね……!!」
『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)もまたケモノ連合と一戦交え、彼らの実力を知るうちの一人。
「修行中の事故とは運が無い……いや? 水鏡に映った事を考えれば運が良いのでしょうか?」
確かに状況自体は運が悪いには違いない。だが『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)の言葉にも一理ある。そのピンチを乗り越える状況もまた水鏡によって
一方誰よりも心配そうな表情を見せるのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。
(いま行くから、持ちこたえて! みんな絶対に助けてみせる。 イーゴとドルクは特に気になるけど……きっと大丈夫、すっごいタフだったもの)
窮地を知らされたエルシーの行動は早かった。少し手間のかかる弟や妹。エルシーは彼らの事をそんな風に感じていたのかもしれない。
(それにしても……ジローさん何気にトラウマになってるのかな……)
今度パスタでも奢ってあげよう。そんな事も考えながら現場へ急ぐ。
「こっちに……足跡」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が見つけた足跡は森の奥へと続いていた。
「急ごう」
自由騎士たちは走る。窮地に陥っている自由騎士の卵達を探し、勇気づけ、そして……共に戦うために。
●
「くそっ!! 囲まれてる!!」
「ドルク……ドルクが……」
「リサ、しっかりして!」
ケモノ連合の子供たちに足りなかったのは経験。実力的には十分対応できるはずだった。しかし未経験のその状況は彼らの判断を鈍らせてしまう。
その結果仲間の一人は重症となり、状況は悪化。統率も取れず各々がバラバラに行動してしまっていた。
「(くっ……このままでは……)」
前に出て戦っていたイーゴには疲労の色が色濃く表れる。一匹一匹がさほどではないことは理解している。だがこの圧倒的な数の差。何より自分が倒れれば仲間も全滅するという重圧が彼に重くのしかかる。肉体的ダメージ以上に削られていく精神力。
こんな時、あの人ならどうするんだろう──そんな事を考えたまさにその時だった。
守護白陣──
韋駄天足でいち早くたどり着いたリンネが初手で放つは自らの必殺。体内で練り上げた気を一気に解放し構築した結界は、リサ、ドルク、ラッシュを取り囲む魔物たちの一部をすさまじい威力とともに吹き飛ばす。
「カーミラキィィーーーーーーーーク!!!!」
走ってきた勢いそのままに魔物の群れに飛び蹴りで突っ込むカーミラ。
「何とか間に合ったな」
そこに木々を巧みに利用しながら移動していたウェルスもたどり着く。
「まずは私は回復を」
リンネは優しく微笑むとノートルダムの息吹で全員の体力回復を促す。
「よっし! やるぞー!」
カーミラは拳を打ち鳴らしながら今だ動揺したままのリサの元へ。
「まったく、私にフェイクデスを破られたの忘れちゃったの?」
少し怒ったような素振りでリサに話しかけるカーミラ。
「相手によっちゃあ、ただ無防備晒すだけになるんだから、得意技にするんなら使いどころは気を付けなきゃだよ!」
リサがカーミラの方を向く。見た事のある顔。強く誇らしい自由騎士の姿。気づけばリサはぽろぽろと涙を流していた。
「あ……魔物が急に……ドルクが……私を庇って……ドルクがぁ……イーゴも……」
自由騎士の姿を見て安心したのだろうか、呆けたままだったリサが状況を説明しようと一生懸命言葉を紡ぐ。
「ほら、焦らない……周りをよく見て。ドルクはマグノリアとリンネが治療してくれてる。だったらリサがするべき事はなに?」
カーミラは強い瞳でリサを見つめる。その瞳の奥にあるもの、それは生への執着。生きる事への強い渇望。ケモノ連合は決して自由騎士に助けられるだけの存在じゃない。一人の戦士としてきちんと役割を与えられる。カーミラは言葉なくともそうリサに伝えていた。
「ぐすっ……できる……事……」
「味方が怪我したからってベソかいてる騎士なんていないよ! ……そのハンマーはオモチャじゃないんでしょ!」
そういうとカーミラの表情が一瞬和らぐ。全身から放たれるマイナスイオンがリサの心に少しずつ落ち着きを取り戻させようとしていた。
「さぁ、ラッシュの坊…いや旦那、飛んでる敵をサッサと落とすぞ」
ウェルスはドルクとリサを一人で守っていたラッシュに声をかける。
「……わかっ──うん!!」
こくりと頷くラッシュの張りつめた緊張が緩んだ。不思議とこの人の前ではありのままでいられる。ラッシュの心は前に戦った時からウェルスに開かれたままなのだ。
もともと獣化具合もほぼ同じ2人。並び敵と対峙するはまるで親子のようにも見えた。親が子に様々なことを教えるがごとくラッシュに指示を出すウェルス。
「さぁ、飛んでるやつを全部俺たちで撃ち落とすぜ!!」
襲い掛かる蝙蝠と鷹のイブリース達。ラッシュとウェルスの銃口がぎらりと光った。
「よく……頑張ったね……」
単独で魔物たちと戦っていたロンの元にはマグノリア。重症のドルクにパナケアをかけるとあとをリンネに任せ、すぐにロンの元へと駆け付けたのだ。
マグノリアは踊る。そのリズムは魅惑のタンゴ。魅入られた魔物たちの足が次々止まる。それだけではない。マグノリアはケモノ連合の子供たちも含め、各自の消耗具合を気にかけ、回復態勢も整えていた。
回復が必要なければアイスコフィン、ティンクトラの雫。状態異常付与を目的とした攻撃で魔物たちを翻弄していく。
攻守ともに変幻自在で繊細な対応を見せるマグノリアにロンは魅入っていた。そんなロンに気づいたマグノリアは微笑みを浮かべながら話しかける。
「……ロンは偉いね……。こういう状況でも冷静さを失っていないから……。其れは味方と自分が生き残る為に必要な事」
ふいに褒められたロンはあからさまな動揺を見せる。
「え? あっ? そんな事……っ」
こんなすごい人に褒められている。ロンの内心は喜びに満ち満ちていた。
「君は高い魔導力も持ってる。現状打破の為。そして皆を守る為にも、一緒に頑張ろうね」
認めてもらえる事。それがどれほど嬉しい事か。どれほど勇気を与えるだろうか。それはロンが欲しかった言葉。けれどこれまで誰にも言ってもらえなかった言葉。それは前に戦った時もロンが感じた事。この人たちは……やっぱり私達をきちんと見てくれている。嬉しい。嬉しい。嬉しい──!! 思わずロンは涙ぐむ。
「できるかな?」
「できる……いえ、やってみせます!!」
涙をぬぐい、凛とした表情を見せたロンとマグノリアは並び立つ。目の前にはまだまだ多くの魔物たち。でも今のロンに不安はない。必ずこの窮地を切り抜けられる。ロンを認め、期待してくれる人達がいるのだから。
「うう……近づいてくるなっ……ボクの攻撃はいたいんだぞっ!!」
強がってはいるものの大勢の魔物に囲まれたトビーは完全に委縮し、その足は震えていた。
(ボクが頑張らないと……っ。くそっ! 足の震えとまれっとまれっ!!)
自らを奮い立たせようとするトビー。だが恐怖に支配された体は言うことを聞きそうにない。
(ボクは……なんて臆病者なんだ……)
トビーが自分自身をあきらめかけた時だった。
「良く頑張りましたね。それに、その震え……素晴らしい!!」
突如現れ感動したそぶりを見せるサブロウにトビーは困惑の色を見せた。
「オ、オマエは」
あの時の──そう言いかけたトビーの言葉を遮りさらにサブロウは言葉を続ける。
「敵を目前にして総身を震わせる。しかして必ずしも怯懦にあらず。まさに闘志の横溢なれば、それすなわち武者震いなり!!」
高らかに宣言するサブロウの勢いに飲み込まれるトビー。唖然とするトビーにサブロウが袖をまくり自らの腕の震えを見せる。
「見て下さい、僕もね。戦を前にすると恐怖で手が震えるのです。体の生理反応とは、かくも抑えがたい。ヒトもケモノもオニもキジンも、それは変わりません」
恐怖という感情を完全に無くす事は難しい。それは本能に根付くもの。どれだけ経験を積もうと変わらない。サブロウはそれを自らをもってトビーに伝える。
「ですけどね……」
サブロウは大きく息を吸い込むとひときわ大きな声を出す。
「これは武者震いだ!!」
サブロウがトビーに笑顔を向ける。
「こう自分に言い聞かせて、己が恐怖を勇気に変え、足を支える力と成す。それが戦士たる者の振る舞いです。さあ、トビー! 君ならやれる! 共に飛びましょう!!」
トビーの震えは止まってはいない。だがトビーの抱えていた恐怖心は不思議と和らいでいた。
「む、武者震いだ!!!!!」
トビーもまた声を出す。その様子を見るサブロウもまた安堵したような表情を見せる。
(我ながら、まったく偉そうなことだ。恥ずかしくなってきますが、しかしこれも彼らの戦意を励ますためです。それに、なんだかんだで師匠ごっこも悪くありませんね)
サブロウとトビーは空を蹴り、空高く舞い上がる。
「いきますよ、トビー。われらの持ち味、存分に生かしましょう」
サブロウとトビーの、森という地形を活かした立体的な攻撃は魔物たちを次々翻弄していくのであった。
「タァァァーーーーー!」
掛け声とともに大地が揺れる。
「自由騎士エルシー、助太刀するわ!」
イーゴは知っている。この人の拳がとても強く、燃えるように熱い事を。イーゴは知っている。自分たちを子ども扱いせず全力でぶつかってくれた事を。そしていつしか憧れの存在となっている事。思わずイーゴは涙ぐみそうになる。
「よくがんばったわね、イーゴ。さすがは皆を守る盾。その調子でもうちょっとお願いね」
エルシーが軽くウィンクする。
「でも、辛かったら下がっていてくれてもいいわよ?あとはお姉さんに任せてね」
「……自分も戦います。これは自分たちが招いた状況ですから」
イーゴの疲労もかなりのものだろう。それでもイーゴは自らを奮い立たせ、盾を構える。
(やっぱり男の子だなぁ)
そんな様子をエルシーは微笑ましく思いながらくすりと笑う。
「いくわよ、イーゴ。ここからはずっと私達のターンよ!」
力強いエルシーの言葉。
「はいっ!!」
イーゴも力強く言葉を返す。さぁ反撃の時間だ。
「う……うぅ……」
「気をしっかり持つのです」
リンネはドルクの手当てを続けていた。スキルによる回復と並行して持てる医学知識を総動員してドルクを回復する。その甲斐あってドルクは意識を取り戻し、最悪の状態は脱したものの、依然危険な状態には変わりない。
「あなたはこんな処で倒れるために鍛えた訳ではないでしょう」
「も、もちろ……ん。まだおねーさんの……連絡先もきいて……ないしっ」
苦し気な顔をしながらもドルクらしい軽口がでる。
ふふ。リンネの口元も緩んだ。
「まだ全快には程遠い状態です。しばらくは回復を続けますよ」
そう言って一息つくとリンネは全体にノートルダムの息吹を付与しなおす。回復に従事しながらも全体の戦線維持も抜かりない。リンネの戦いに向けた純粋な姿勢は、自身が直接拳を交わさずとも発揮されている。
「できる限り注意をひきつけます。魔物を味方の攻撃範囲へおびき出すことも、我々のようなバトルスタイルには重要な役目ですよ」
サブロウがトビーとともに森を縦横無尽に駆け回る。闇雲ではない計算された行動。瞬時にその行動を実行するサブロウに食らいつくトビー。その持ち味は十二分に発揮されつつあった。
「味方を巻き込む心配がないときは、太陽と海のワルツでまとめて敵をぶっ飛ばす! 踊るように軽やかに! 太陽のように苛烈に、怒濤のように容赦なく!」
リサに声をかけながら戦うカーミラ。自らが経験で得た戦術を惜しみなく伝えていく。その声に呼応するようにどんどん動きがよくなるリサ。ただ立ち尽くしていただけのリサはそこにはもういない。
「数が多いときはスクラッチの継続ダメージを活用!」
「は、はいっ!」
リサの返事に復帰を確信したカーミラ。リサと背中合わせに魔物に向けてひと際力強く構えをとる。
「今から使うのは、いわゆる必殺技ってヤツなんだけど、反動で隙ができちゃう技なの……。だからその隙をカバーしてくれる人が必要なんだよ。……できるよね?」
背中を預ける。リサはカーミラにそう言われた気がした。
「はいっ!!!」
ひと際元気に答えるとリサはカーミラとともに魔物達へと突進していく。その表情に迷いはない。リサは一つ自分の殻を破ったのだ。
「イーゴ!」
エルシーの掛け声にイーゴが合わせる。即席といえなかなかのコンビネーション。
(イーゴとドルクの連携はみた事がある、素晴らしいコンビネーションだった。今日は私がドルク役ってわけね)
声を掛け合うほど連携の精度は増していく。気づけば周りを取り囲む魔物達の数は残り僅かになっていた。
「空の敵は俺たちの担当だぜ!」
銃を構え、空の敵を撃ち落とし続けるウェルスとラッシュ。
「残るはあのひと塊だけだ。一気に行くぜ!」
「みんな目を閉じて!!」
声の主はマグノリア。皆が迷うことなく目を閉じた瞬間、辺りが強烈な光に包まれた。マグノリアの放った光が辺りを強烈に照らしたのだ。
「チャンスだっ!!」
二人が同時に放ったのはバレッジファイヤ。威力は違えども双方から無尽蔵に繰り出される灼熱の弾丸。銃声が止んだ頃には空を飛ぶものはただの一匹もいなかった。
「これで……全部やったか?」
よくやったな、とウェルスはラッシュの頭をワシャワシャしながら褒める。
「や、やめて……」
そんな事を言いながらもラッシュはどこか嬉しそうだった。
「ドルク! 生きてる? 漢をみせたわね、立派よ!」
エルシーがドルクに駆け寄る。ドルクはだいぶ回復したものの未だ立ち上がる事もできない状態だった。
「歩ける?おんぶしてあげよっか?」
「えっ? いいんスか? ……って痛てて」
喜ぶドルクのそばにはいつの間にやらロン。よくよく見るとロンがドルクをつねっている。
「ほらほら、これ以上皆さんに迷惑をかけちゃダメでしょ!」
ロンとドルクの力関係が垣間見えた気がした。
「これで終わりかな……皆、頑張ったね」
そういうとマグノリアはロンに向けて手を差し出した。
「そういえば初めましてだったね。僕の名前はマグノリア。自由騎士だよ」
ロンは笑顔で手を握り返す。
こうしてケモノ連合の危機は去った。ゲシュペンストのばら撒いた悪意は自由騎士と自由騎士を目指す子供たちによって見事、無に帰ったのだった。
●
「身を挺して仲間を庇うとはナイスガッツだとは思いますがそれで自分が倒れては元も子もありませんよ」
そこにはケモノ連合の子供たちとリンネの姿。
「もし今後も同じ事をしそうだと自分で思うなら、防御タンクの技を習得されてはいかがですか? 見た処貴方は足回りがそれなりに良い。例えばパリィングなら庇いつつ相手の攻撃をいなしたり、攻撃が出来ます。味方のピンチに駆けつけて敵の攻撃を引きつけいなすというのはかっこいいと思いますよ」
リンネなりに戦う様子を見て、皆が今後どうすれいいのかアドバイスをしていた。リンネからすればそれで将来的に自身のよき好敵手になってくれるなら御の字くらいの軽いもの。だがアドバイスをもらうこと自体初めての経験のケモノ連合の子供たちにとって、自らに良き進言をくれるリンネはとても輝く存在に見えたようだ。
「おおっ」「いいじゃんいいじゃん」「ずるいぞ、ドルクだけ」と子供たち。すっかり回復したドルクも満更でもなさそうだ。その様子はまるで師を慕う弟子たちのようにも見えて。
「……師匠」
ドルクが呟く。それは相手を認め、仰いだ事で自然に出た言葉。
「そうだ、おねーちゃんボクたちのししょーになってよ!」
トビーがいいよね?いいよね?とリンネの腕をぶんぶんとふる。
「師匠! 私にはどういうスタイルがいいでしょうか」
「師匠、自分は防御の型を極めたいのです」
「師匠!」「師匠!」
そんな一度に言われても……待ってください、と戸惑いながらも丁寧に一人ずつアドバイスするリンネ。
「そういえば見た処、回復を使える人が居ない様子。戦いの戦線維持としてとても重要ですし、鍛錬は鍛錬。其の物以上にその後の休憩や回復も大事です。故に一人ぐらい練習するのが良いかと」
攻めにおいては現状でもバランスのいいケモノ連合の子供たちだったが、リンネが危惧していたのは回復サポートできるものがいない事。
「じゃぁ私が!」
「いや、ボクでしょー!」
「いやいや。防御をしつつ自分が」
新しい目標へと自らが進む道。ケモノ連合の子供たちの目前の道は明るく無限に広がっている。
そしてその無限の広がりを見せる未来を作ったのは紛れもなく自由騎士なのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
†あとがき†
自由騎士はケモノ連合の子供たちにとって憧れから明確な目標へと変わりました。いずれさらに逞しくなった彼らに出会うことでしょう。
MVPは攻守共に活躍した貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
MVPは攻守共に活躍した貴方へ。
ご参加ありがとうございました。
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