MagiaSteam
目に入れると可愛くないイタいあの子!




『はーいっ、今日も可愛いライラちゃんだよ☆ 大きいお友達のみんな、こんばんはー!』
 ざらざらと擦れた音が収まると、なんとも言えない甘ったるい声が流れてくる。
『ライラちゃんのろーれらじお★ 今日も愉快にはっじまっるよー!』
 姿の見えない彼女の声は、蒸気ラジヲを通して今日も誰かの耳に届いていた。

●さて、酒場のヨアヒムさん。……あれっ? ヨアヒムさーん?
 酒場に集まった自由騎士たちが首を傾げている。
 今日は『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)に、怪しい話を仕入れたと呼び出されたはずなのだけれど。
 ヨアヒムの代わりに酒場に居たのは『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)。
 はてさて。不思議そうな視線を受けているサミュエルが、困ったように口を開いた。
「ヨアヒム先輩がやられました。働きたくないそうです」
 何の話だ。疑問が浮かぶと同時に自由騎士たちは察する。
 ―――これは突っ込んだら話が進まないやつだ、と。
 そんな気遣いを知ってか知らずか、サミュエルが続けたのはとある蒸気ラジヲの話だった。

 知る人ぞ知る蒸気ラジヲの深夜番組。司会進行はライラちゃんと言う女の子。
 番組の名前はそのものズバリ『ライラちゃんのろーれらじお★』
 頭が悪そうな名前にすでに突っ込みたい。そんな思いをなんとか抑える。それでそれで?
「内容は他愛ない雑談ばっかり。でも、ここ最近でファンが急激に増えたんだよね」
 なにそれこわい。どういうことなの。やっぱり突っ込みたい気持ちを抑えて続きを待つ。
 怪しいと思ったヨアヒムが調べたところ、どうやらライラちゃんは幻想種だったらしい。
「どうやら声に魅了の効果があるローレライっていう幻想種みたいで」
 なるほどなるほど。うっかり耳にしちゃったひとたちが魅了されちゃったんだね。
 彼女の声に魅了された人々は、ラジヲを聞くために昼夜逆転生活を送り、仕事や食事などの生活が疎かになってしまうとか。困った話だ。
 でも、ファンが急激に増えたのは魅了の効果だけでなく、タイミングの問題もあったようで。
 現在、イ・ラプセルへは神を喪い国を出たシャンバラの民が流れてきている。
 そう。信仰の対象を喪ってぽっかり心に隙間風が吹いている人々の、需要と供給がぴったりマッチしちゃったらしい。
 仕方ないような、そうでもないような。どちらにせよ、このまま放置は出来ない話だ。
 そう言えば。情報を掴んだのはヨアヒムなのに、どうして働きたくないとか言い出したの?
「あー……。真偽のほどを確かめるために、聞いたみたいだよ」
 つまり、ミイラ取りがミイラになったようです。
「「「ヨアヒム何してるの」」」
 突っ込みを抑えきれなかった。(声だけでも)可愛い女の子には弱いから、仕方ないね!


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
■成功条件
1.蒸気ラジヲの発信を止める
 あまのいろはです。
 これもきっと戦後処理。今日も楽しいお仕事頑張ろう。嘘。はたらきたくない。

●幻想種・ローレライ『ライラちゃん』
 幻想種『ローレライ』のうつくしい少女です。
 『ライラちゃんのろーれらじお★』の司会進行をしています。
 一見すると可憐な少女ですが、中身は残念。ちょっと発言がイタい。
 高い魔導力を持っていますが、打たれ弱いです。主な攻撃は以下。

・どきどき★ハート(A/魔攻遠範/BS:チャーム)
 みんなのハートを狙い撃ち! 攻撃した相手を虜にします。
・めろめろ★ボイス(A/回遠全/BS回復)
 可愛い声で応援を送ります。味方を回復し、バッドステータスも治します。
・世界でいちばんカワイイので!(P:自)
 精神系耐性。ライラちゃんは世界でいちばんカワイイという強固な思い込みです。
・世界でいちばんヤサシイので!(P:自)
 ライラちゃんの攻撃を受けた味方は回復します。我々の業界では御褒美です。

●ライラちゃん親衛隊・グッドルッキングオラクル×4
 選び抜かれたグッドなルッキングのオラクルたち。
 開始当初からラジヲを聞いているヘビーなファンです。
 戦闘スタイルは3人が防御タンクスタイル。1人がダンサースタイルです。
 ランク2までのスキルを使えます。

●場所
 海辺ちかくのちいさな家です。ライラちゃんの城です。
 ライラちゃんが放送局として使っている部屋は分かっています。
 時間帯は、特に指示がなければ、夕方からラジヲがはじまるまで。
 ラジヲ放送前には、放送局となる部屋にいます。他の時間は分かりません。

●同行
 サミュエル・マシューズ(nCL3000049)が同行します。
 何かご指示がありましたらどうぞ。スキルは活性化している範囲で使用可能です。
 依頼相談掲示板で【サミュエル】と書かれている一番新しい発言を参照致します。
 特に指示がなければ、後ろからちまちまアローファンタズマを打ってます。

●補足
 蒸気ラジヲを止める方法は、説得でも拳でも壊しても、なんでもOK。
 ライラちゃんとグッドルッキングオラクルの処遇はお任せします。

 情報は以上となります。楽しい楽しい楽しいお仕事頑張ってください。
状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
11モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年06月19日

†メイン参加者 6人†




 海の近くのちいさなお家。
 それは、あの子―――幻想種ローレライ、ライラちゃんのお城である。
 彼女はあの家からラジヲ放送を行い、イ・ラプセルの国民たちを骨抜きにしている。
 骨抜きになったひとたちは、生活を疎かにしてまで彼女のラジヲを聞こうとするらしい。
 ひとつの大きな戦いを終えたとは言え、問題はまだまだ山積みだ。そんな時期に国民たちが働かなくなるなんて、国力低下は必至。由々しき事態である。
 緊迫感のあるようで全くない残念な理由だが、由々しき事態なのである。たぶん。
 そこで、自由騎士たちの出番と言うわけだ。この国のひとたち、自由騎士を何だと思ってるんだろう。

「被害……?」
 彼女のお城を見上げて。ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が小首を傾げた。長い兎の耳がふわふわ揺れる。
「なんというか、タイミングが悪かっただけの気もしますが……」
 ティラミスの言葉に『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)が、こくりと頷く。
「普通にラジヲを楽しみにしている方々もいらっしゃるとのことですから……」
 ティラミスとは違うふわふわした雰囲気を漂わせながら、レオンティーナが言う。
「今回の事は反省していただくとして、今後は魅了を使わずにラジヲを放送されるのであればよろしいかと思います」
 ふわふわ微笑みながら言ったレオンティーナの言葉に、今度はティラミスがうんうんと頷いた。
「きっと、とてもかわいらしくて美しい声の持ち主なのでしょうね」
「そうですね。でも、ラジヲ越しだからライラちゃんの容姿はわからないわけで……」
 実際会ったらブヨブヨの異形だったらどうしよう。ティラミスは想像してぶるりと身震い。
「えー? そんなのいやよ?」
 ふたりの会話を聞いていた『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)が、ぷくぅっと頬を膨らます。
「どこか親近感感じるし、仲良くなってみたいもの!」
 モニカには、ライラと仲良くなってラジヲ出演させてもらっちゃおう、なんて願望もある。
 それに、もっと仲良くなれたら、あんなことやこんなことやそんなこともしてみたい。でも、ライラちゃんより可愛いって分かるのもいいかな?と、モニカはむむむと唸る。
 その横で。『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)が、銀の尻尾がぱたぱたと揺らしていた。彼女の家を見上げる彼女の瞳は、心なしかきらきらと輝いてみえる。
「この海辺近くのかわいいおうち、とっても気になっていたんだぞ」
 尻尾だけでは表現できなかった気持ちがぽつりと口からも零れる。
 しっかり者のサシャとて、まだちいさな女の子。これから気になっていた可愛い家に入るのかと、わくわくする気持ちが隠せない。
「それにしてもヨアヒムダメダメすぎるんだぞ、女の子に弱すぎるとは情けないんだぞ!」
 けれど、ここに来れなかった彼のことを思い出すと、楽しそうに揺れていた尻尾がぴんと立てた。そのまま視線を『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)に向ける。
「サミュエルは大丈夫なのか?」
 話を振られたサミュエルは思わず苦笑い。困ったようにへらりと笑ってサシャに答える。
「ボクはラジヲ聞いてないんだよ。魅了されたら困るしさ」
「サミュエルも魅了されるのか?」
「される、かもしれないなあ……」
 歯切れの悪い言葉を聞いて、サシャは尻尾をより一層ぴんっと立てると、これだからおとこのこは!と呟きながらライラの家へと突入していくのだった。

「イタい……イタくない……難しい問題ね……」
 コツコツとヒールを鳴らしながら。『うらはらな心は春の風』ヴァイオラ・ダンヒル(CL3000386)が、ライラのいる放送室へと向かう。
 ただイタいだけなら放っておけたのに。ヴァイオラはふぅと溜息ひとつ。
 神の蠱毒が進行している現状、国力の低下は避けたい。実害が出ている以上、止めなければ。それに、ラジヲの女の子に魅了されて国力低下、なんて、他国に知られるのはどうだろう。
「ダンヒル家の娘として、政情安定に貢献するわ!」
 ヴァイオラは、貴族である使命感を静かに燃やしていた。ぐっとちいさな握り拳を作る。
「悪気はないのかもしれねぇけどよー、聞いた人が働く気なくなっちまうってのはよくねぇよな」
 とある部屋の前まで来た、李 飛龍(CL3000545)も、困ったように呟く。
 飛龍が足を止めた部屋。それはライラが放送室として使っている部屋だった。そう、つまりここに例のライラちゃんがいるのだ。
 話に聞いていた彼女の親衛隊、グッドルッキングオラクルにも出会わなかった。きっと室内で一緒にいるのだろう。
「説得するにしろ力ずくでいくにしろ、放送を止めなきゃいけねーってのは確かだな」
 飛龍の得意分野は荒事だ。とりあえず説得は仲間に任せて、交渉決裂した時にすぐ動けるようにしておこうと心を決める。
「さて、ココが放送局として使われている部屋ですね」
 レオンティーナが扉の前に立つと、コンコンコンと扉を叩いた。
 中から何か物音がしたが、返事を待たずに扉を開ける。ちょっと時期の早いホラー体験の可能性を捨て切れなかったティラミスが身構えた。
 ―――部屋にいたのは、あおい髪と瞳のミズヒトに似た愛らしい少女。
 突然の来訪者にぱちくり瞬いた彼女は、眉を吊り上げて自由騎士たちをきとりと睨む。
「ちょっと、なあに? 放送前にアポも取らずに来るなんて!」
 彼女こそが渦中のひと、幻想種ローレライのライラちゃんだった。


 招かれざる訪問客にライラが眉をひそめると、どこからか体格のいい男たち――グッドルッキングオラクルが現れライラと自由騎士たちの間に立ち塞がる。
 一触即発という空気のなか、ライラがすっと片手を上げると男たちは動きを止めた。よく訓練されている。
「ええと。これから放送なの。知ってて来たの? ファンならまた日を改めて――……」
「あなたがライラちゃんね……ふぅ~ん、モニカと同じくらいカワイイじゃない!」
 ライラが露骨にイヤな顔をして動きを止める。
 どうしてそんな顔をするのかと、モニカは首を傾げた。自分と同じくらいの可愛さなんて、モニカからすれば最大級の褒め言葉なのに。
 そんなふたりの間を取り持とうと、出来るだけ丁寧で怪しまれないように、ティラミスがライラの元へ来た理由を述べる。
「あの、私たちはその放送を止めてほしいとお願いにきたのです」
 ライラの眉根がぴくりと動いた。むぅっと頬を膨らませてティラミスを見る。
「やめる? どうして、イヤよ」
「放送が駄目というわけではないのよ。でも、魅了はやめて頂戴な」
 救われているひとがいることも分かっているの、というヴァイオラの言葉には、ライラはほんのすこし嬉しそうな顔をしたものの。
「魅了さえなくなれば、自由騎士団仲間に宣伝してあげてもよくってよ」
 止める、ということがやっぱり受け入れられないようだ。それになんだか、ヴァイオラを纏うキラキラしたアイドルのようなオーラも気になるし。
「話はそれだけ? 悪いけれど帰って頂戴。帰ってくれないなら―――……」
 ライラが追い払うように片手を振ると、グッドルッキングオラクルが動く。交渉は決裂だ。
「お! こっからは荒事タイムだな! わりぃが力づくでいかせてもらうぜ!」
 交渉の行方を見守っていた飛龍が動き、地面を蹴り、跳ねる。
 ―――鬼神鉄砕脚。一度限りの、飛龍のとっておき。膝先のスナップを効かせて放つ超高速の一撃。
 飛龍の動きは誰よりも早かったが、男はすんでのところでその攻撃をかわした。ライラのために、常に気を張っていたから反応できたのだろう。
 床が砕けて、破片が飛び散って。それは、派手な戦闘開始の合図となった。

「聞いてくれないなら、戦闘して降参してもらうしかないわね」
 ヴァイオラはライラを狙い、引き金を引く。けれど、グッドルッキングオラクルがその攻撃を一身に引き受け、彼女には届かない。
「皆を虜にするほどすごいお話を放送しているのはサシャも憧れるんだぞ! 羨ましいぞ!」
 弟や妹達に色々お話してるのにちゃんと聞いてもらえないのに!と本音をぽろっと零す。
「サミュエル、一緒に狙っていくぞ!」
 了解、と短い返事とともに複数の矢が男たちの頭上から降り注ぐ。動きが鈍くなった隙を見逃さず、サシャは氷のつぶてを男たちへ向けて放つ。
 兄弟姉妹はもちろん可愛いけれど。言うことを聞いてくれないことが続くと、心がちょっとささくれちゃったりするものだ。
 日々積み重なった思いが込められた一撃は重い。それ八つ当たりじゃないよね?辛かったら話は聞くよ。
「もうっ! なんなのよなんなのよ! 放送の時間になっちゃうでしょー!!」
 ライラの叫びが、部屋に響く。ライラの声をまともに受けてしまったのは、ティラミスだった。声を聞いたティラミスがふらりと、ライラのもとへ歩み寄る。
 ライラはティラミスを警戒する様子はなく、自由騎士たちへ得意げな笑みを向けた。
 つまり。―――ティラミスは、魅了されている!
 ティラミスを引き戻そうとする仲間たちの前に、グッドルッキングオラクルが立ち塞がり壁となる。
「……あなたたちも、兎ちゃんみたいに素直になればいいのに」
 もふもふ。にんまり笑ったライラの手がもふもふの額を撫でる。
「あっ、そんな、いきなり……!」
 もふもふもふ。指先が頬をなぞり、顎へと下ろされて。
「ふわふわで可愛い兎ちゃん、このままライラと一緒にいない?」
「それも、悪くはなっ、やぁ、そこはぁ……!!」
 もふもふもふもふ。あれ、よく見えないけど、もふもふしてるだけだよね。そうだよね。
「なんか羨ましい状況が起きてる気配がするんだけど!!?」
 モニカが視界を塞ぐ男に向かってコキュートスを放つ。男の足元が氷付いていき、動きが止まった。
 その隙を狙って、レオンティーナがティラミスにクリアカースを施す。癒しの力となった魔力が魅了を消し去っていく。
 それに気付いたライラはちいさく舌打ちをすると、ティラミスを思い切り突き放す。よろめいた彼女はグッドルッキングオラクルの壁の向こうから現れ、倒れ伏す。
「………あの手付きには……抗えません……!」
 僅かに肩を揺らし乱れた息をするティラミスの頬は赤いまま。あれ、魅了解けてるよね?
「ライラちゃんさん? 私達はなにも貴女の命を取ろうというのではありません」
 レオンティーナはライラへ言葉を掛ける。彼女はもともと荒事は苦手なのだ。出来ることなら武力よりも言葉で訴えたい。
「ただ、ラジヲで人々を魅了するのをやめていただきたいのです」
 けれど、ライラはべっと舌を出す。レオンティーナはちらり、と男たちへと視線を移して。
「貴方達も、ライラちゃんさんのためを思うなら、矛を収めなさい」
 本当に彼女が可愛いのなら、こんなことは彼女のためにならないと思う。けれど、男たちはすっかりライラの虜。彼女の言葉がすべてなのだ。レオンティーナの言葉は全く届かない。
「しょうがねぇなー。じゃあもう実力行使だ!」
 呆れた様子の飛龍が拳を振り上げて。振り下ろした先は聞く耳を全く持たないグッドルッキングオラクル、―――ではなく。放送につかう機材にだった。
「とりあえずこいつを壊せばしばらくは休業だな!」
「ちょっ、えっ」
 ただの機材が飛龍の拳に耐えられるはずもない。放送機材は派手な音をたてて、見るも無残に砕け散った。
「きゃー!!!? 放送が! 放送が出来なくなっちゃうじゃない!!!」
 流石のライラも慌てふためく。自分たちへの攻撃は警戒していたが、機材を狙われるのは予想外だったらしい。
「なにすんのよ!? モノは大事にしなさいって教わらなかった!?」
「悪りぃなー、おれっち育ちがいいわけじゃないんで!」
「あーりーえーなーいーわー!! ひどい!!!」
 涙声である。そんなライラを見てか、グッドルッキングオラクルたちの足並みも乱れる。
「今よ、一気に畳み掛けるわ!」
 ヴァイオラがグッドルッキングオラクルのひとりへと狙いを定める。引き金を引いて。
 ひとつ、それからもうひとつ。続けざまに撃たれた銃弾は、狙いを違わず撃ちぬいた。男の体勢が崩れる。
「あんた達は地べたに這いつくばってなさいっ!」
「そろそろ倒れてもらうんだぞ!!」
「このままでは終われません……! 名誉挽回です!!」
 ヴァイオラに続いて、モニカが、サシャが、ティラミスが、すかさず男たちへと攻撃を放つ。
「きゃーっ!? 手加減とかないの!?」
 残念ながら絶好のチャンスを見逃す自由騎士じゃないのです。
 トップが崩れた組織は脆い。統率を失ったグッドルッキングオラクルたちがひとり、またひとりと膝を付く。
「分かった! 分かったから!! やめればいいんでしょ!! やめれば!!」
 グッドルッキングオラクルの3人目が膝を付いたところで、遂にライラが音を上げた。
 自由騎士たちは、目にいっぱいの涙を溜めた彼女を見て、ちょっとやりすぎたかもしれないと思ったり、思わなかったりしたそうな。


 ライラはすっかり壊れた機材により掛かり、くすんくすんと嗚咽を漏らしていた。
「おれっちが悪かったって。なあってば、泣くなよー」
 それでも機嫌がなおらないライラを慰めるように、ヴァイオラが肩にそっと手を置く。
「大丈夫、自由騎士団に任せて。いい? これからは特殊能力に頼らず実力で勝負するの!」
 例え自由騎士団がなんとかしてくれなくとも、とりあえず言っとけ言っとけ。後はなんとかなるだろう。たぶん。
「あなたならきっと……うーん……イタ……じゃない、ちょっと変わったキャラって人気があるわよ!」
「なんでストレートにカワイイって言ってくれないの?」
 すん、と鼻をすすりながら、ヴァイオラの顔を不満げに見上げる。ごめんね、これでも言葉は選んだんだよ。
「大丈夫。私と同じくらいかわいいライラちゃんさんなら、魅了抜きでもきっと大人気になりますわ」
 自分と同じくらい可愛いなんて、レオンティーナにとって最大の褒め言葉、―――あれ?
 なんかさっきもそんなこと言ったような。ライラの視線は自由騎士ってみんなこうなの?と訴えていた。
「ステキな声なのに、皆をふぬけにするレベルに魅力を出しちゃうのは良くないんだぞ」
 兄弟姉妹にするように、サシャのお説教タイム。きちんと話を聞いてくれるからちょっと嬉しい。
「特にシャンバラの人たちは働かなくて衣食住整ってたぐうたらさんなんだから!」
 そうなの?とライラが首を傾げる。他国の情勢には流石に疎いらしい。
「楽しい時間は落ち込んだり傷ついた人たちを癒してくれるんだぞ、だから放送は続けてほしいんだぞ」
 サシャのお説教タイム、おしまい。サシャの言葉に、ライラがやっと微笑んだ。
 機嫌がなおったタイミングを見計らって、おずおずっとティラミスがライラに歩み寄る。
「あの、ライラちゃんのスキルが気になりますから、教えてもらいたいです」
「ううん……。ライラの声は生まれつきこうだから、どう教えたらいいか……」
 ごめんね、と僅かに首を傾げる愛らしい仕草でティラミスを見詰める。
 あんまりじっと見詰められると、先ほどのことを思い出してしまいそうで、なんとなくどきまぎしながらティラミスは視線を逸らした。
「ラーイラちゃ~んっ?」
 ライラの背後から不意に現れたモニカが、躊躇いなくばっと抱き付いた。やわらかく、なめらかな頬をライラに寄せて、ふふふと微笑む。
「あたし唄のアドバイスも出来るわ。だから、たま~にモニカをゲストで出演させてねっ☆」
「わかった、わかったから! もう!」
 ライラの肌のどことなくひんやりした触感が気持ちいい。うりうりと頬ずりをすれば、ライラがあうあうと困った声をあげた。
「でも、みんな迷惑したのは事実だし、お仕置きはしなくちゃねっ!」
「えっ」
「大丈夫、痛くしないから……ねっ?」
 ライラはモニカによって、逆エビ固めという名のなんとも物理的なお仕置きをされたのだった。
「まあ、あんまり痛くはしないけどねっ! モニカの自慢のお尻で虜にしてあげる!」
 たぶん、きっと、お仕置きをされたのだった。うん。

 暫くして。放送された『ライラちゃんのろーれらじお★』では、ライラちゃんのいつもの雑談の他に、働くひとたちを褒めたり、何かに頑張るひとを応援する内容の放送が流れた。
 翌日、イ・ラプセル国内がなんだかいつも以上に活気付いたとか、なんとか。それが彼女のラジヲの力かどうかは分からないけれど。何はともあれ、めでたし、めでたし。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済