MagiaSteam




魔女ウィッカの実験。或いは、武器化する液体金属。

●魔女ウィッカの発明品
「素晴らしいのではないかしらん!」
薄暗い部屋の真ん中で、白髪を振り乱し彼女は叫ぶ。
白い肌と赤い目、長い白髪のひどく美しい女性であった。
額には溶接工の付けるようなゴーグル。首に巻かれた革のチョーカー。
白いシャツにベストを着用した執事のような服装である。
腰に下げられた複数の試験管には、極彩色の液体が詰まっていた。
そんな彼女の目の前には、地面に膝を突き沈黙する巨大な人型。
薄紅色の甲冑を纏った巨大なそれは、どうやら生き物のようである。
彼女……名をウィッカという。
彼女は自分自身を[魔女]とそう称していた。彼女は自身の作った薬や発明品を用いて、この世界を「変化させる」ことを目的としている。
そのためならば、ほかのなにを犠牲にすることもいとわない。
そんな性質に至った原因は、果たして一体何なのか。
とにもかくにも、今回魔女・ウィッカの造り出した発明品は目の前に佇む巨大な甲冑を纏った生物のようだ。
おそらくは、錬金術で作り出した使い魔……人工精霊なのだろう。
地下室の壁際には、人型の収まる容器がいくつも並んでいた。
「これ1体作るのに、結構な素材とお金を投資したもの。でも、戦力的にはかなりのものが仕上がったのではないかしらん?」
甲冑を纏った人工精霊は、剣や盾といった武装の類を手にしていない。
代わりに、その頭部から背にかけてガラスの容器を背負っている。
容器の中には、銀色の……鉄に似た質感の液体が詰まっていた。
「戦況に合わせて武装を変更できる私の最高傑作! 名付けて[アルケメタル]と、それで作った最高の鎧。規格外の巨体を持つ人工精霊! これだけあれば、街の一つぐらいは簡単に落とせるのではないかしらん?」
早く使ってみたいわね、と。
そう呟いて、ウィッカは笑う。
●階差演算室
階差演算室
「彼女の狙いはとある街にある研究施設のようだな」
ふむ、と顎に手をあて『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は呟く。
魔女・ウィッカと名乗る奇妙な女性について、判明していることは存外に少ない。
彼女がどこからやって来たのか。
どのようにして資金や素材を調達しているのか。
「今回のように施設を襲って奪っているのかもしれない。まったく、まるで盗人のようではないか」
ごく一般的な盗人であれば、いずれどこかで捕らわれることもあるだろう。
だが、ウィッカは違う。
彼女は用意周到で、そしてかなり迷惑だ。
世界に“変化”を与えることを望む彼女は、どうやら「街を落とすこと」を一つの指標としているらしい。
「他国の動向も気になる時期に、街の一つを潰されるほどの混乱を起こされてはかなわない。早急に彼女を捕縛してくれたまえ」
そういってクラウスは、ウィッカについての情報を自由騎士たちに開示する。
「ウィッカ本人は、薬剤を使用した中・遠距離からの範囲攻撃を得意としているようだ。至近距離での戦闘は苦手らしいな」
だが、油断はできないとクラウスは語る。
「ウィッカの使用する薬剤には[ポイズン][ヒュプノス][バーン]の状態異常を付与する効果があるようだ」
前線に出て戦うタイプではないようだが、どうやら今回は何かしらの目的があり、街へとやってきているらしい。
「彼女との遭遇地点は街の入り口付近。研究施設まではそう遠くないが……甲冑を着せた人工精霊を伴い、街を壊しながら進行中らしいな」
街の住人達の避難はまだ終わっていない。
現在、幸いなことに死人は出ていないようだが……それも時間の問題だろう。
「彼女の伴う人工精霊には、戦況に合わせて装備を変える能力があるようだ。その攻撃には[フリーズ]の状態異常が付与されるという特徴がある」
動作はあまり速くないようだがね、と。
ため息交じりにクラウスは告げた。
こうして自由騎士たちは、クラウスに見送られとある街へと出立した。
「素晴らしいのではないかしらん!」
薄暗い部屋の真ん中で、白髪を振り乱し彼女は叫ぶ。
白い肌と赤い目、長い白髪のひどく美しい女性であった。
額には溶接工の付けるようなゴーグル。首に巻かれた革のチョーカー。
白いシャツにベストを着用した執事のような服装である。
腰に下げられた複数の試験管には、極彩色の液体が詰まっていた。
そんな彼女の目の前には、地面に膝を突き沈黙する巨大な人型。
薄紅色の甲冑を纏った巨大なそれは、どうやら生き物のようである。
彼女……名をウィッカという。
彼女は自分自身を[魔女]とそう称していた。彼女は自身の作った薬や発明品を用いて、この世界を「変化させる」ことを目的としている。
そのためならば、ほかのなにを犠牲にすることもいとわない。
そんな性質に至った原因は、果たして一体何なのか。
とにもかくにも、今回魔女・ウィッカの造り出した発明品は目の前に佇む巨大な甲冑を纏った生物のようだ。
おそらくは、錬金術で作り出した使い魔……人工精霊なのだろう。
地下室の壁際には、人型の収まる容器がいくつも並んでいた。
「これ1体作るのに、結構な素材とお金を投資したもの。でも、戦力的にはかなりのものが仕上がったのではないかしらん?」
甲冑を纏った人工精霊は、剣や盾といった武装の類を手にしていない。
代わりに、その頭部から背にかけてガラスの容器を背負っている。
容器の中には、銀色の……鉄に似た質感の液体が詰まっていた。
「戦況に合わせて武装を変更できる私の最高傑作! 名付けて[アルケメタル]と、それで作った最高の鎧。規格外の巨体を持つ人工精霊! これだけあれば、街の一つぐらいは簡単に落とせるのではないかしらん?」
早く使ってみたいわね、と。
そう呟いて、ウィッカは笑う。
●階差演算室
階差演算室
「彼女の狙いはとある街にある研究施設のようだな」
ふむ、と顎に手をあて『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は呟く。
魔女・ウィッカと名乗る奇妙な女性について、判明していることは存外に少ない。
彼女がどこからやって来たのか。
どのようにして資金や素材を調達しているのか。
「今回のように施設を襲って奪っているのかもしれない。まったく、まるで盗人のようではないか」
ごく一般的な盗人であれば、いずれどこかで捕らわれることもあるだろう。
だが、ウィッカは違う。
彼女は用意周到で、そしてかなり迷惑だ。
世界に“変化”を与えることを望む彼女は、どうやら「街を落とすこと」を一つの指標としているらしい。
「他国の動向も気になる時期に、街の一つを潰されるほどの混乱を起こされてはかなわない。早急に彼女を捕縛してくれたまえ」
そういってクラウスは、ウィッカについての情報を自由騎士たちに開示する。
「ウィッカ本人は、薬剤を使用した中・遠距離からの範囲攻撃を得意としているようだ。至近距離での戦闘は苦手らしいな」
だが、油断はできないとクラウスは語る。
「ウィッカの使用する薬剤には[ポイズン][ヒュプノス][バーン]の状態異常を付与する効果があるようだ」
前線に出て戦うタイプではないようだが、どうやら今回は何かしらの目的があり、街へとやってきているらしい。
「彼女との遭遇地点は街の入り口付近。研究施設まではそう遠くないが……甲冑を着せた人工精霊を伴い、街を壊しながら進行中らしいな」
街の住人達の避難はまだ終わっていない。
現在、幸いなことに死人は出ていないようだが……それも時間の問題だろう。
「彼女の伴う人工精霊には、戦況に合わせて装備を変える能力があるようだ。その攻撃には[フリーズ]の状態異常が付与されるという特徴がある」
動作はあまり速くないようだがね、と。
ため息交じりにクラウスは告げた。
こうして自由騎士たちは、クラウスに見送られとある街へと出立した。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.魔女ウィッカの撃退
●ターゲット
ウィッカ(ノウブル)×1
魔女を名乗る白髪赤目、白い肌の女性。
男性的な服装をしており、腰には各種薬液の詰まった試験管を下げている。
口ぶりから察するに発明品の実験と素材調達のために街を攻め落とすつもりらしいが……。
中距離戦を好む半面、近接戦闘は不得手としているようだ。
※拙作『魔女ウィッカの企み。或いは、薬と罠のカーニバル…』に出たウィッカと同じ人物です。前作を知らずとも、問題ありません。
・シプトン[攻撃] A:魔遠範[ポイズン2]
赤色の毒液を周囲へ撒き散らす。
数千の針で刺されるような激痛を伴う。その痛みは、大の男を悶絶させるほどのものだと言うが……。
・エルヴィラ[攻撃] A:魔遠範[ヒュプノス2]
青色の霧を周囲へ発生させる。
じくじくとした痛みを継続的に発生させる。眠りに落ちた者は幸せだろう……小動物に皮膚を齧られるような痛みを味わうことがないのだから。
・モーガン[攻撃] A:魔遠範[バーン2]
黒色の液体を散布する。
空気に触れるなり発火し、周囲に熱と火炎をまき散らす薬液であり威力が高い。
人工精霊×1
甲冑を纏った、身長3メートル近い人工精霊。
身に纏った鎧は白銀。
頭部から背にかけて、鎧と同色の液体金属に満ちた容器を背負っている。
容器の中身を使用し、随時武装を変更するようだ。
・アルケメタル[攻撃]A:攻??単 [フリーズ1]
剣や盾、矢、斧などに液体金属を変化させ武装となるなどターゲットとの距離に関係なく立ち回ることが可能である。
※対象は単体のみ
●場所
夜。
とある街の東側。
研究施設の傍にある通りを現在、ウィッカと人工精霊は進行中。
通りはさほど広くない。
また、家屋が並んでおり死角も多い。
研究施設の前庭にまで移動すれば、障害物はなくなるが、その分ウィッカの目的達成までの時間が短くなる。
ウィッカ(ノウブル)×1
魔女を名乗る白髪赤目、白い肌の女性。
男性的な服装をしており、腰には各種薬液の詰まった試験管を下げている。
口ぶりから察するに発明品の実験と素材調達のために街を攻め落とすつもりらしいが……。
中距離戦を好む半面、近接戦闘は不得手としているようだ。
※拙作『魔女ウィッカの企み。或いは、薬と罠のカーニバル…』に出たウィッカと同じ人物です。前作を知らずとも、問題ありません。
・シプトン[攻撃] A:魔遠範[ポイズン2]
赤色の毒液を周囲へ撒き散らす。
数千の針で刺されるような激痛を伴う。その痛みは、大の男を悶絶させるほどのものだと言うが……。
・エルヴィラ[攻撃] A:魔遠範[ヒュプノス2]
青色の霧を周囲へ発生させる。
じくじくとした痛みを継続的に発生させる。眠りに落ちた者は幸せだろう……小動物に皮膚を齧られるような痛みを味わうことがないのだから。
・モーガン[攻撃] A:魔遠範[バーン2]
黒色の液体を散布する。
空気に触れるなり発火し、周囲に熱と火炎をまき散らす薬液であり威力が高い。
人工精霊×1
甲冑を纏った、身長3メートル近い人工精霊。
身に纏った鎧は白銀。
頭部から背にかけて、鎧と同色の液体金属に満ちた容器を背負っている。
容器の中身を使用し、随時武装を変更するようだ。
・アルケメタル[攻撃]A:攻??単 [フリーズ1]
剣や盾、矢、斧などに液体金属を変化させ武装となるなどターゲットとの距離に関係なく立ち回ることが可能である。
※対象は単体のみ
●場所
夜。
とある街の東側。
研究施設の傍にある通りを現在、ウィッカと人工精霊は進行中。
通りはさほど広くない。
また、家屋が並んでおり死角も多い。
研究施設の前庭にまで移動すれば、障害物はなくなるが、その分ウィッカの目的達成までの時間が短くなる。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/8
4/8
公開日
2020年03月10日
2020年03月10日
†メイン参加者 4人†
●
とある街の研究施設のその手前。
街の家屋を破壊しながら、進撃を続ける影が2つ。
2つは男装の女性であった。
白い肌と赤い目、長い白髪のひどく美しい女性だ。
額には溶接工の付けるようなゴーグル。首に巻かれた革のチョーカー。
白いシャツにベストを着用した執事のような服装である。
腰に下げられた複数の試験管には、極彩色の液体が詰まっていた。
その女性……名をウィッカという。
さらに、ウィッカに付き従う鎧を纏った巨躯が1体。正体はウィッカの作った人工精霊である。
その身に纏う白金色の鎧は、ウィッカの作った液体金属・アルケメタルで出来ている。ウィッカが多額の資金と大量の素材を費やして作ったものだ。
「ふはは! “変化”よ! 私の知識と技術は日々“変化”を続けているわ! まずは資金と素材を、次に街を落としてこの世界に“変化”を!」
人工精霊とアルケメタル製の鎧の性能をその目にして、ウィッカは高揚しているらしい。
腰に手を当て、実に楽しそうな呵々大笑。
けれど、しかし……。
「そうして“実験”を重ねて“データ”を収集していけば……其れこそ『世界を覆す変化』を得る事も可能かも知れないね」
ポツリ、と。
零された囁き声がウィッカの耳に届いた、その瞬間。
吹き荒れる魔力の渦が、ウィッカと人工精霊を飲み込んだ。
「どんな実験でも失敗と成功の分析をしていけば、より良いものを必ず作り出せる。 彼女が分かり易く暴れるのは実験のデータを数多く容易に得られるからだろう。 勿論僕等との戦闘経験もデータに加わっているだろうね」
パチン、と指を一つ鳴らして『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は魔力の渦を掻き消した。
魔力渦が消えた後には白金色の卵が一つ……否、卵のような形状へ変形したアルケメタル製の鎧と、それを纏う人工精霊である。
さすがにノーダメージではないようだが、マグノリアの予想ほどに体力を削れてはいない。
どろり、と白金色の卵が溶ける。
あっという間に鎧へと形状を変えたアルケメタルの内側から、砂埃に塗れたウィッカが姿を現す。
「あー、あーあー、ったく。あっぶないわぁ。いきなり攻撃仕掛けてくるとか、礼儀ってものがなってないんじゃないかしらん?」
小首を傾げてウィッカは問うた。
問いかけのついでとばかりに、黒色の薬液が満ちた試験管を放る。
試験管の中身、黒色の薬液は空気に触れると燃焼し、火炎と熱波をまき散らす厄介なものだ。
ウィッカはそれを、狙いも定めず適当に放り投げたのだ。
「研究の為に街1つを脅かすのを阻止しないといけませんね」
試験管が近くの民家に落下する、その直前……。
振り抜かれた大十字架が試験管を打ち砕いた。
空気に触れた薬液は爆ぜ、熱波と爆炎をまき散らすが幸いなことに民家への被害は出ていない。
そういうタイミングで、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は試験管を打ち砕いたのだから当然だ。
さらに……。
「またこんな騒動を起こして……被害が大きくなる前に、今度こそ捕縛してやるわ!」
建物の影から飛び出し、爆炎を突き破り駆け抜けるのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だった。
朱色の籠手に包まれた拳を構え、エルシーは一気にウィッカの懐へと潜り込む。
エルシーの拳がウィッカの顔面に突き刺さる、その直前……。
『------』
風が唸るような咆哮と共に、薄く広がった白金色の鎧がエルシーの拳を受け止めた。
ガィィン、と。
金属の振るえる音が鳴り響く。
「あ……っぶないわねぇ。いきなり乙女の顔面殴りに来るかしらん?」
「うるさいわ、この迷惑錬金術師! ご自慢の人工精霊をスクラップにしたあとで、ウィッカをタコ殴りにしてあげる!」
「……あっそ。やれるもんならやってみればいいわぁ」
お好きにどうぞ、とそういって。
土産とばかりに、ウィッカは試験管を放る。
まき散らされた赤い毒液が、エルシーの身を降り注ぐ。
マグノリア、アンジェリカ、エルシーの3名がウィッカとの戦闘を開始した、ちょうどそのころ。
「先輩方、すみません……! 俺、やっぱり街の人達を出来るだけ戦闘に巻き込まない様にしたい。だから、街中走り回って避難してくれ、って呼び掛けて来ます!」
戦場となっている研究施設から幾分遠い街中を、セーイ・キャトル(CL3000639)は駆けまわっていた。
声を張り上げ、住人たちに避難を促す。
外見年齢はまだ15歳ほど……世間一般では子供と称される年齢だ。そんなセーイの言葉をまともに受け止めない住人もいた。
だが、セーイはそんな住人1人ひとりに声をかけ、説得してまわる。
彼はどうしても、街の住人たちに被害を出したくなかったのだ。
そうして彼は必死の形相で、住人たちの避難に全力を傾ける。
ただ一つ……犠牲者を出したくないという、彼の抱く“正しいこと”を行うために。
●
暗闇の中、足音もなくアンジェリカは駆ける。
建物の影から影へ。
迅速に、ウィッカや人工精霊の視界から逃れるように、身を潜めながら距離を詰めた。
そして放たれる魔弾の一撃。
「狙い撃ちます。容器に詰まった液体金属がなくなれば、戦力もかなり減退するでしょう?」
放たれた魔弾は、寸分違わず人工精霊の背負った容器に命中。
容器に詰まった液体金属が激しく揺れた。
「ああ! 何するのよ! アルケメタルが零れたらどうしてくれるのかしらん?」
ウィッカが怒鳴り声をあげる。
それと同時に、人工精霊の鎧が変化した。
その右腕へ容器から液体金属……アルケメタルが供給される。形作られた筒状のそれは銃身であった。
放たれるは、アルケメタルで形成された弾丸だ。
「くっ……!」
大十字架を地面に突き立て、アンジェリカは弾丸を防ぐ。
「冷た……」
アルケメタルが放つ冷気が、アンジェリカの身を凍えさせる。
事前にマグノリアから[アンチトキシス]を付与されているとはいえ、それとて限界というものがある。
人工精霊の攻撃を、何度も受ければそう遠からず戦闘不能に陥るだろう。
人工精霊を援護するためか、ウィッカは宙へ青色の薬液が詰まった試験管を放り投げた。
空中で砕けた試験管から、青色の霧があふれ出す。
「う……っと、危ないわね」
エルシーは口元を覆い、霧の効果範囲から退いた。
睡魔を誘う青い霧を吸い込まないためだ。
近距離戦を得意とするエルシーは、ウィッカにとって天敵ともいえる。格闘の心得のないウィッカでは、エルシーの猛攻を避ける術がないからだ。
さらにエルシーを遠ざけるためか、人工精霊は彼女へと狙いを定める。
だが……。
「すまない。対応が遅くなった……だけど、もう大丈夫だ。2人は心置き無く攻撃に専念してほしい」
渦巻く魔力が人工精霊とウィッカ、そして青い霧を飲み込んだ。
マグノリアの支援を受けて、エルシーとアンジェリカは着実に人工精霊へと攻撃を当てていく。
少しずつだが、ダメージが蓄積したアルケメタルの外装が砕け、地面に零れた。その都度、失われた鎧を補充すべく人工精霊の背負った容器から薬液が失われていく。
「もう少し……」
さらに一撃[大渦海域のタンゴ]を放とうとしたその瞬間。
「……なっ!?」
マグノリアの足元に試験管が転がってきた。
中に詰まった黒色の薬液。
試験管には罅が入っている。
マグノリアとウィッカの視線が交差した。
にやり、と勝ち誇ったかのようにウィッカは笑う。
戦闘の最中、ウィッカは地面に試験管を撒いていたのだ。そのうち一つが、偶然……あるいは、ウィッカの狙い通りにマグノリアの足元へ転がって来た。
試験管が砕けると同時に、爆炎と熱波がマグノリアの身を飲み込んだ。
殴打に次ぐ殴打。
降り注ぐ拳の嵐を、人工精霊は幅広の盾で受け止める。
迎撃よりも防御に徹した方がいい、とエルシーの攻撃を見てウィッカがそう
判断したためだ。
事実、攻撃されれば回避あるいは受け流すことでエルシーはそれに対処し、人工精霊との距離を詰められる。
だが、防御されてはそうはいかない。
幅広の盾はエルシーの視界と進路を阻む。
自然、盾を殴るためにエルシーは足を止めることになり……。
「厄介ね……容器を先に壊した方がいいかしら?」
盾を殴ったことで痺れる拳を引きながら、エルシーは人工精霊を……その背に搭載された容器を睨みつけるのだった。
自身に回復術を行使しながら、マグノリアは爆炎の中から這い出した。
頬から首、そして腹部には大きな火傷。
衝撃と熱波により内臓にもダメージを負ったらしい。咳き込む度に、マグノリアの口元から血が零れる。
「油断した……いや、今はそれより皆の援護を」
よろけながらもマグノリアは血に濡れた手を人工精霊へと翳す。
そんな彼女の横を魔力の矢が駆け抜ける。
「いえ、先輩はまず回復を……参戦が遅くなりましたが、ここから先は俺が凄く頑張ります!」
民家の屋根から飛び降りると同時に矢を放ったのは、セーイであった。
非実体の矢は人工精霊を射貫き、さらにその後方にいたウィッカの肩を抉る。手に持っていた試験管を取り落とし、ウィッカは表情を青ざめさせた。
「やっばぁ……」
試験管の中身は黒い薬液。
咄嗟に人工精霊に自身を守らせようと指示を出すが……。
「このまま一気に攻めきります!」
アンジェリカによる大十字架の三連撃が人工精霊を打ちのめす。
よろけた人工精霊の肩や足に次々とセーイの矢が刺さった。
「ついていける隙なら、がんがん狙ってついていくよ!」
砕けた鎧を補填すべく、人工精霊の背負った容器から液体金属が減っていく。
「あぁ、アルケメタルの残量が……」
失血によるものか、それとも実験成果が減ったからか。
顔色を悪くしたウィッカが、嘆きとも悲鳴ともとれる声を出す。
そこへ追い打ちをかけるように、人工精霊の足元をエルシーが疾駆。
「これでどう? 【鉄山靠】なら鎧を貫いて背中の容器まで衝撃が伝わるんじゃないかしら!」
腰を沈め、拳に力を込めたエルシーが告げた。
視線はまっすぐ、人工精霊とその背にある容器へと向けられている。
「はぁぁっ!」
天へ向け、エルシーは拳を突き上げた。
1点に集中された衝撃は人工精霊の身体を貫き、背負った容器の中身を揺らす。
ビシ、と硬質な音をたて容器に深い罅が走る。
●
「先輩方、少し離れてください!」
そう叫んだのはセーイである。
魔力を多分に含んだ白い風が戦場を吹き抜ける。
直後、周囲に渦巻く電磁力場。
「わっ……とと」
アンジェリカの体毛が、磁力に反応して逆立った。慌ててさらに数歩後退し、アンジェリカは次の攻撃に備える。
強引に引き起こされた重力変動が、人工精霊の身をその場に縫い付けた。
ボロボロと鎧が剥離し、容器に走った罅が広がる。
重力に耐えながら、人工精霊は新たな武装を展開した。それは白金色の巨槌である。
さらに……。
「こいつもおまけにプレゼントするわぁ」
人工精霊が巨槌を振り下ろすのに合わせ、ウィッカが試験管を投げつけた。
『-------------------!!』
咆哮を上げたのだろう。
人工精霊の振り下ろした槌の先には、今まさに追撃を放つべく疾駆していたエルシーの姿。
試験管が砕け、爆風が広がる。
叩きつけられた槌が、地面に大きなクレーターを穿つ。
爆風の中、動き出した者がいた。
「君の実験は“過程”の段階で周辺被害を出しすぎる」
展開された魔力の陣が人工精霊の身を覆う。
吹き荒れる冷気が、容器から零れた液体金属を凍らせる。
元よりかなりの低温である液体金属だが、マグノリアの放った『アイスコフィン・改』の極寒には耐え切れない。
「さらに、これでどうですか!」
セーイの叫びと同時に、凍り付いた人工精霊の体表に、魔力で刻まれた文字が浮く。
古代文字で「別れ」を意味する赤い文字。
人工精霊の全身を豪華が包んだ。
極冷からの高温化。アルケメタルの性質として、さほど熱伝導率が高いものではなかったのだろう。
人工精霊の全身を覆う鎧が砕け、地面に散った。
そうして現れたのは白い巨人だ。
目も鼻も口もないのっぺりとした頭部。人の形をしているだけの、人工の精霊。すべての武装を失い、むき出しになったその心臓部へ向けアンジェリカの魔弾が放たれる。
心臓を穿たれた人工精霊は、一瞬の硬直の後活動を止めた。
どろり……と。
人工精霊の体が溶ける。
「あ、あぁぁぁぁ! な、なんてことするのかしらん! 私の! 私の傑作がぁ! ってか、アルケメタルも無くなっちゃったし!」
悲鳴をあげるウィッカ。
その背後にそっとエルシーが歩み寄り……。
「さぁ、もう観念したらどう? 観念してもボコボコにさせてもらうけど」
その頭部を、籠手に覆われた手で掴む。
夜の街にウィッカの悲鳴が木霊した。
こうしてウィッカと人工精霊による進撃は失敗に終わったのだった……。
とある街の研究施設のその手前。
街の家屋を破壊しながら、進撃を続ける影が2つ。
2つは男装の女性であった。
白い肌と赤い目、長い白髪のひどく美しい女性だ。
額には溶接工の付けるようなゴーグル。首に巻かれた革のチョーカー。
白いシャツにベストを着用した執事のような服装である。
腰に下げられた複数の試験管には、極彩色の液体が詰まっていた。
その女性……名をウィッカという。
さらに、ウィッカに付き従う鎧を纏った巨躯が1体。正体はウィッカの作った人工精霊である。
その身に纏う白金色の鎧は、ウィッカの作った液体金属・アルケメタルで出来ている。ウィッカが多額の資金と大量の素材を費やして作ったものだ。
「ふはは! “変化”よ! 私の知識と技術は日々“変化”を続けているわ! まずは資金と素材を、次に街を落としてこの世界に“変化”を!」
人工精霊とアルケメタル製の鎧の性能をその目にして、ウィッカは高揚しているらしい。
腰に手を当て、実に楽しそうな呵々大笑。
けれど、しかし……。
「そうして“実験”を重ねて“データ”を収集していけば……其れこそ『世界を覆す変化』を得る事も可能かも知れないね」
ポツリ、と。
零された囁き声がウィッカの耳に届いた、その瞬間。
吹き荒れる魔力の渦が、ウィッカと人工精霊を飲み込んだ。
「どんな実験でも失敗と成功の分析をしていけば、より良いものを必ず作り出せる。 彼女が分かり易く暴れるのは実験のデータを数多く容易に得られるからだろう。 勿論僕等との戦闘経験もデータに加わっているだろうね」
パチン、と指を一つ鳴らして『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は魔力の渦を掻き消した。
魔力渦が消えた後には白金色の卵が一つ……否、卵のような形状へ変形したアルケメタル製の鎧と、それを纏う人工精霊である。
さすがにノーダメージではないようだが、マグノリアの予想ほどに体力を削れてはいない。
どろり、と白金色の卵が溶ける。
あっという間に鎧へと形状を変えたアルケメタルの内側から、砂埃に塗れたウィッカが姿を現す。
「あー、あーあー、ったく。あっぶないわぁ。いきなり攻撃仕掛けてくるとか、礼儀ってものがなってないんじゃないかしらん?」
小首を傾げてウィッカは問うた。
問いかけのついでとばかりに、黒色の薬液が満ちた試験管を放る。
試験管の中身、黒色の薬液は空気に触れると燃焼し、火炎と熱波をまき散らす厄介なものだ。
ウィッカはそれを、狙いも定めず適当に放り投げたのだ。
「研究の為に街1つを脅かすのを阻止しないといけませんね」
試験管が近くの民家に落下する、その直前……。
振り抜かれた大十字架が試験管を打ち砕いた。
空気に触れた薬液は爆ぜ、熱波と爆炎をまき散らすが幸いなことに民家への被害は出ていない。
そういうタイミングで、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は試験管を打ち砕いたのだから当然だ。
さらに……。
「またこんな騒動を起こして……被害が大きくなる前に、今度こそ捕縛してやるわ!」
建物の影から飛び出し、爆炎を突き破り駆け抜けるのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だった。
朱色の籠手に包まれた拳を構え、エルシーは一気にウィッカの懐へと潜り込む。
エルシーの拳がウィッカの顔面に突き刺さる、その直前……。
『------』
風が唸るような咆哮と共に、薄く広がった白金色の鎧がエルシーの拳を受け止めた。
ガィィン、と。
金属の振るえる音が鳴り響く。
「あ……っぶないわねぇ。いきなり乙女の顔面殴りに来るかしらん?」
「うるさいわ、この迷惑錬金術師! ご自慢の人工精霊をスクラップにしたあとで、ウィッカをタコ殴りにしてあげる!」
「……あっそ。やれるもんならやってみればいいわぁ」
お好きにどうぞ、とそういって。
土産とばかりに、ウィッカは試験管を放る。
まき散らされた赤い毒液が、エルシーの身を降り注ぐ。
マグノリア、アンジェリカ、エルシーの3名がウィッカとの戦闘を開始した、ちょうどそのころ。
「先輩方、すみません……! 俺、やっぱり街の人達を出来るだけ戦闘に巻き込まない様にしたい。だから、街中走り回って避難してくれ、って呼び掛けて来ます!」
戦場となっている研究施設から幾分遠い街中を、セーイ・キャトル(CL3000639)は駆けまわっていた。
声を張り上げ、住人たちに避難を促す。
外見年齢はまだ15歳ほど……世間一般では子供と称される年齢だ。そんなセーイの言葉をまともに受け止めない住人もいた。
だが、セーイはそんな住人1人ひとりに声をかけ、説得してまわる。
彼はどうしても、街の住人たちに被害を出したくなかったのだ。
そうして彼は必死の形相で、住人たちの避難に全力を傾ける。
ただ一つ……犠牲者を出したくないという、彼の抱く“正しいこと”を行うために。
●
暗闇の中、足音もなくアンジェリカは駆ける。
建物の影から影へ。
迅速に、ウィッカや人工精霊の視界から逃れるように、身を潜めながら距離を詰めた。
そして放たれる魔弾の一撃。
「狙い撃ちます。容器に詰まった液体金属がなくなれば、戦力もかなり減退するでしょう?」
放たれた魔弾は、寸分違わず人工精霊の背負った容器に命中。
容器に詰まった液体金属が激しく揺れた。
「ああ! 何するのよ! アルケメタルが零れたらどうしてくれるのかしらん?」
ウィッカが怒鳴り声をあげる。
それと同時に、人工精霊の鎧が変化した。
その右腕へ容器から液体金属……アルケメタルが供給される。形作られた筒状のそれは銃身であった。
放たれるは、アルケメタルで形成された弾丸だ。
「くっ……!」
大十字架を地面に突き立て、アンジェリカは弾丸を防ぐ。
「冷た……」
アルケメタルが放つ冷気が、アンジェリカの身を凍えさせる。
事前にマグノリアから[アンチトキシス]を付与されているとはいえ、それとて限界というものがある。
人工精霊の攻撃を、何度も受ければそう遠からず戦闘不能に陥るだろう。
人工精霊を援護するためか、ウィッカは宙へ青色の薬液が詰まった試験管を放り投げた。
空中で砕けた試験管から、青色の霧があふれ出す。
「う……っと、危ないわね」
エルシーは口元を覆い、霧の効果範囲から退いた。
睡魔を誘う青い霧を吸い込まないためだ。
近距離戦を得意とするエルシーは、ウィッカにとって天敵ともいえる。格闘の心得のないウィッカでは、エルシーの猛攻を避ける術がないからだ。
さらにエルシーを遠ざけるためか、人工精霊は彼女へと狙いを定める。
だが……。
「すまない。対応が遅くなった……だけど、もう大丈夫だ。2人は心置き無く攻撃に専念してほしい」
渦巻く魔力が人工精霊とウィッカ、そして青い霧を飲み込んだ。
マグノリアの支援を受けて、エルシーとアンジェリカは着実に人工精霊へと攻撃を当てていく。
少しずつだが、ダメージが蓄積したアルケメタルの外装が砕け、地面に零れた。その都度、失われた鎧を補充すべく人工精霊の背負った容器から薬液が失われていく。
「もう少し……」
さらに一撃[大渦海域のタンゴ]を放とうとしたその瞬間。
「……なっ!?」
マグノリアの足元に試験管が転がってきた。
中に詰まった黒色の薬液。
試験管には罅が入っている。
マグノリアとウィッカの視線が交差した。
にやり、と勝ち誇ったかのようにウィッカは笑う。
戦闘の最中、ウィッカは地面に試験管を撒いていたのだ。そのうち一つが、偶然……あるいは、ウィッカの狙い通りにマグノリアの足元へ転がって来た。
試験管が砕けると同時に、爆炎と熱波がマグノリアの身を飲み込んだ。
殴打に次ぐ殴打。
降り注ぐ拳の嵐を、人工精霊は幅広の盾で受け止める。
迎撃よりも防御に徹した方がいい、とエルシーの攻撃を見てウィッカがそう
判断したためだ。
事実、攻撃されれば回避あるいは受け流すことでエルシーはそれに対処し、人工精霊との距離を詰められる。
だが、防御されてはそうはいかない。
幅広の盾はエルシーの視界と進路を阻む。
自然、盾を殴るためにエルシーは足を止めることになり……。
「厄介ね……容器を先に壊した方がいいかしら?」
盾を殴ったことで痺れる拳を引きながら、エルシーは人工精霊を……その背に搭載された容器を睨みつけるのだった。
自身に回復術を行使しながら、マグノリアは爆炎の中から這い出した。
頬から首、そして腹部には大きな火傷。
衝撃と熱波により内臓にもダメージを負ったらしい。咳き込む度に、マグノリアの口元から血が零れる。
「油断した……いや、今はそれより皆の援護を」
よろけながらもマグノリアは血に濡れた手を人工精霊へと翳す。
そんな彼女の横を魔力の矢が駆け抜ける。
「いえ、先輩はまず回復を……参戦が遅くなりましたが、ここから先は俺が凄く頑張ります!」
民家の屋根から飛び降りると同時に矢を放ったのは、セーイであった。
非実体の矢は人工精霊を射貫き、さらにその後方にいたウィッカの肩を抉る。手に持っていた試験管を取り落とし、ウィッカは表情を青ざめさせた。
「やっばぁ……」
試験管の中身は黒い薬液。
咄嗟に人工精霊に自身を守らせようと指示を出すが……。
「このまま一気に攻めきります!」
アンジェリカによる大十字架の三連撃が人工精霊を打ちのめす。
よろけた人工精霊の肩や足に次々とセーイの矢が刺さった。
「ついていける隙なら、がんがん狙ってついていくよ!」
砕けた鎧を補填すべく、人工精霊の背負った容器から液体金属が減っていく。
「あぁ、アルケメタルの残量が……」
失血によるものか、それとも実験成果が減ったからか。
顔色を悪くしたウィッカが、嘆きとも悲鳴ともとれる声を出す。
そこへ追い打ちをかけるように、人工精霊の足元をエルシーが疾駆。
「これでどう? 【鉄山靠】なら鎧を貫いて背中の容器まで衝撃が伝わるんじゃないかしら!」
腰を沈め、拳に力を込めたエルシーが告げた。
視線はまっすぐ、人工精霊とその背にある容器へと向けられている。
「はぁぁっ!」
天へ向け、エルシーは拳を突き上げた。
1点に集中された衝撃は人工精霊の身体を貫き、背負った容器の中身を揺らす。
ビシ、と硬質な音をたて容器に深い罅が走る。
●
「先輩方、少し離れてください!」
そう叫んだのはセーイである。
魔力を多分に含んだ白い風が戦場を吹き抜ける。
直後、周囲に渦巻く電磁力場。
「わっ……とと」
アンジェリカの体毛が、磁力に反応して逆立った。慌ててさらに数歩後退し、アンジェリカは次の攻撃に備える。
強引に引き起こされた重力変動が、人工精霊の身をその場に縫い付けた。
ボロボロと鎧が剥離し、容器に走った罅が広がる。
重力に耐えながら、人工精霊は新たな武装を展開した。それは白金色の巨槌である。
さらに……。
「こいつもおまけにプレゼントするわぁ」
人工精霊が巨槌を振り下ろすのに合わせ、ウィッカが試験管を投げつけた。
『-------------------!!』
咆哮を上げたのだろう。
人工精霊の振り下ろした槌の先には、今まさに追撃を放つべく疾駆していたエルシーの姿。
試験管が砕け、爆風が広がる。
叩きつけられた槌が、地面に大きなクレーターを穿つ。
爆風の中、動き出した者がいた。
「君の実験は“過程”の段階で周辺被害を出しすぎる」
展開された魔力の陣が人工精霊の身を覆う。
吹き荒れる冷気が、容器から零れた液体金属を凍らせる。
元よりかなりの低温である液体金属だが、マグノリアの放った『アイスコフィン・改』の極寒には耐え切れない。
「さらに、これでどうですか!」
セーイの叫びと同時に、凍り付いた人工精霊の体表に、魔力で刻まれた文字が浮く。
古代文字で「別れ」を意味する赤い文字。
人工精霊の全身を豪華が包んだ。
極冷からの高温化。アルケメタルの性質として、さほど熱伝導率が高いものではなかったのだろう。
人工精霊の全身を覆う鎧が砕け、地面に散った。
そうして現れたのは白い巨人だ。
目も鼻も口もないのっぺりとした頭部。人の形をしているだけの、人工の精霊。すべての武装を失い、むき出しになったその心臓部へ向けアンジェリカの魔弾が放たれる。
心臓を穿たれた人工精霊は、一瞬の硬直の後活動を止めた。
どろり……と。
人工精霊の体が溶ける。
「あ、あぁぁぁぁ! な、なんてことするのかしらん! 私の! 私の傑作がぁ! ってか、アルケメタルも無くなっちゃったし!」
悲鳴をあげるウィッカ。
その背後にそっとエルシーが歩み寄り……。
「さぁ、もう観念したらどう? 観念してもボコボコにさせてもらうけど」
その頭部を、籠手に覆われた手で掴む。
夜の街にウィッカの悲鳴が木霊した。
こうしてウィッカと人工精霊による進撃は失敗に終わったのだった……。