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吹っ切れた逃亡家畜をおびき出す簡単な仕事



 名残の夏とは言え、十分暑い。
 イ・ラプセルのお日様は今日も絶賛営業中だ。
 旅の行商の馬車に紛れてやってきてしまった野の獣。
 石畳に跡が残るほど影が濃い街でちょっとした騒ぎが起きていた。

「ツキャンゴラが市場にまぎれちゃったみたいなのよ」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)がううーんと唸っている。
 それがなにか? な、オラクルとの温度差。
「え、あ、市場にツキャンゴラの恐ろしさを実感してない?」
 ツキャンゴラというのは、両手乗りサイズの家畜だ。ウサギに似ている。昔から飼育されていて野性はいないので、幻想種か動物なのか意見が分かれる。
 色は白から黄色、まれに赤いのやピンク。ごくごくまれに青っぽいのもいるらしい。
 ご婦人憧れ、ツキャンゴラのファーカラー、ストール、マフ。秋冬アイテムは今の内からチェックしましょう。
「ツキャンゴラって、採毛目的で飼育されてるから毛がもっふもふなのよね。だから、暑さに弱いのよ。後、なんか光が苦手で、日陰にいたがる。普段目元が毛で隠れてるからって説があるけどどうなのかしらね」
 バーバラお姉さんによる、わかりやすいツキャンゴラの生態。
「それと月の満ち欠けとほぼ同じ周期で毛が生え変わる。まん丸いツキャンゴラは暑いのと重いので微動だにしないけど、毛が抜けたツキャンゴラは一気に解放されてフリーダム。例えるならベリーショートの稲妻なのよ」
 ツキャンドラ幻想種起源説派の主張「あんなでたらめなはっちゃけ方する動物がいるわけがない(意訳)」
「まあ、何もない野原ならいいと思うんだけどね」
 飼っている飼育農家さんは、昼夜の別なく涼しく薄暗くして安静にさせるそうです。肉色でなくてよかったと胸をなでおろしています。毛が抜けてもかろうじて和毛が残ります。
「そんな生き物が、昼間ガンガンに焼けた石畳にパラソル林立した市場に紛れ込んだらどうなると思う?」
 飛び込むパラソル。そこは露天。極端に毛のないウサギは騒動しか生まない。
「回収してきてくれるー? 涼しくしてれば目ざとく現れるから。そこをパシッと。すばしっこいけどどうにかして」
 はい。と、籐籠のバスケットを渡された。
 薄暗くて、風通しがよい作りになっているそうだ。
「あ、そうそう。マントとか、長いスカートとかに潜り込むかもね。ポータブル日陰的意味合いで。そういう報告あるから、そういう目に遭いたくなかったら、服装には気を付けてねー」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
資源発掘σ
担当ST
田奈アガサ
■成功条件
1.ツキャンゴラの捕獲。アライブオンリー。
2.ツキャンゴラによる市場の閉鎖阻止。
 イ・ラプセル、まだまだ暑いです。
 そういう訳で、三分刈りの「動物だよな、幻想種じゃないよな?」な、一介の家畜を回収してきてください。
 一匹だけですから、簡単な仕事ですね。

 家畜「ツキャンゴラ」×1
*毛が薄ければ薄いほど活発になる吹っ切れた家畜です。 放置すると、市場に退く色の稲妻が縦横無尽に駆け回って大騒ぎになります。
 長期的には、毛が生えだしてこの陽気だと暑くて死にます。
 草食です。エサは十分な量用意されています。
*薄暗くて涼しい所が大好きです。居心地がいい所を求めて、死に物狂いで動き出します。なりふり構わないので、非常にすばしっこいです。
*普通に家畜なので、攻撃したら死にます。不殺攻撃でもショック死します。地力を上げて対抗してください。
しかし、向こうは死に物狂いで抵抗してきます。オラクルの皆さんに命に別状はないでしょうが非常に痛いです。
 捕獲できたかどうかは、命中判定を使用します。一定以上の成果が出れば捕獲成功です。

*昼。快晴。場所は市場の通称「パラソル小路」です。
 色とりどりのパラソルの下で老いも若きもイ・ラプセル美人が様々なものを売っています。
この周囲は日向の広場なので、ツキャンゴラはこの界隈から出るのは生態的に不可能です。
長さ50メートル。道幅は大人がすれ違える程度の工事が三本です。パラソルと人ごみのため、見通しは非常に悪いです。移動も支障をきたします。周囲は一般人ですので、戦闘行動は極力控えてください。
*涼しい環境を整えれば寄ってきますので、そこをパシッと捕まえてください。
 市場のどういう位置にするかを相談してください。
 端だと日向に近いので涼しくするのは難しいです。
 真ん中だと日陰は多いですが、人がたくさんいますので立ち回りが難しい場合があるでしょう。
*日光を遮るものを好みますので、マント、スカート、ローブに潜り込む傾向があります。
 今後のオラクル人生とよく相談のうえ、装備を選んでくださいね。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  1個  5個
17モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年09月16日

†メイン参加者 8人†




 名物・パラソル通りは老若男女のイ・ラプセル美人が露店を構えて商売している。美老女が薬草を売り、美おばちゃんがカブを売り、今、自由騎士団のお嬢さんたちが通りの端っこで氷を売ろうとしている。
 そして、長~くなる女の買い物に疲れた殿方が荷物預かって等間隔に座っているのがパラソル通り円周拡大の法則。 夏場は、暑さ対策として,空間をぜいたくに使われる。
 今年から自由騎士団も期間限定営業だ。
 表向きは暑さ対策だけど、実際は――。
「なんか自由騎士団って半分ぐらい便利屋扱いされてる気がするの。逃げたペット……あ、家畜だっけ? とにかくそんなの捕まえて来いなんて、なんかまるで売れてない探偵さんみたいなお仕事だよねー」
『あるくじゅうはちきん』ローラ・オルグレン(CL3000210)、それ以上はイケナイ。
 国防騎士団が出る仕事じゃないけど、新興の自由騎士団ならありじゃね? 的な。
「ツキャンゴラ達ももっふもふは可愛いけど毛が無くなってまうと大暴れしてまうからペットでほしいなーいうても扱いが大変そうやね」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)が、やたらと体温が高い手のひらサイズの高速移動する何かを探しつつ、呟いた。
 一月に一度換毛期を迎え、そのたびに暴れまわるツキャンゴラはご家庭で飼うのは至難の生き物だ。
「秋から冬にかけて毛皮の需要が増えますからね~逃げ出してしまったとは大変です~! 損失ですぅ~! 早く捕まえて育成者に返してあげましょう!」
『商売繁盛どどんこどん』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)、和菓子屋さんだが、商売の種が自然消滅するのは耐えられない。


 話は少しばかりさかのぼる。
「師曰、二柄者刑徳也―。分かりやすく言えば、アメとムチね!」
『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)が、スリットがっつりの大陸風衣装で言うと、その飴を賞味したいと不逞の輩が湧きそうだ。
「市場の端から蒸気熱で追い立て――」
 蒸気熱担当、『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)が準備中。先ほど見たときは一度できたと言っていたが、今また何かいじっている。
「逆の片端で氷菓を売り、涼しい場所を仕立てる」
 この季節、魔導産の氷は大事なのだ。
「まぁ、かき氷屋さんですか?! まだまだ暑いですし、お客様も沢山いらっしゃるでしょうね~!」
 シェリルの頭でチャリンチャリンと硬貨が鳴る。
(――MPの総量がこの位で、アイスコフィンのコストがこの位やなぁ、一個あたりの価格、〆て利益は――)
 脳内そろばんパチパチ。八千代の目線が仮想帳簿を追っている。ちょうちょを追う目つき。
「……はっ! あらあら、うふふ。ツキャンゴラが冷気に釣られて寄ってきてくれるといいんですが」
 期待に、きゃるんと跳ね上がる語尾。
 冷気も大事だが、日光を遮る影も重要だ。
 キンキンに冷やされながら浴びる直射日光は、ジリジリひんやり。皮膚の温度感覚大混乱で幸せな地獄到来の予感。
 服を着ているヒトでそうなのだから、ほとんど地肌のツキャンゴラには辛い。
 レネット・フィオーレ(CL3000335)は、灼熱フライパン回避のため、打ち水をしている。
 パニエでスカートを大きく膨らませているので、精いっぱい腕を伸ばして水を撒いている。健気度アップである。
(ドロワーズも履いておきましたので、でたらめにはっちゃけられても大丈夫)
 膝もカバーのふんわりシルエットは、見られても恥ずかしくない用にはくものだから見えても大丈夫なんだもん。
(乙女としても、今後のオラクル人生にしても、支障が出るような醜態は晒さないはず……!)
 君の幸運を祈る!
 サブロウ・カイトー(CL3000363)は、ガチで悩んでいた。
うっかり装備を洗濯夫さんに渡してしまったのだ。
 縦横無尽に街を駆け回る洗濯夫さん、君は今いずこ。服を取り返している内に、日が暮れてしまう。
「――ええい、ままよ!」
 サブロウは、軍帽をかぶり、びしっと直した。更にマントを羽織った。以上。大丈夫。六尺だからお尻全開だし、フロントもきわどいけど、アマノホカリはハラキリするからギャランドゥのお手入れもしてるはずだよ。そうだと言ってくれ。問題ないね。というか、謎の光が降り注ぐね。だって夏だもの!


 パラソルの影の人目につかないところで、プシュフーと蒸気が漏れる音がした。
 持つべきものは手に職である。
『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)は、工具を手に取ってなんやかんやを何やらし始めた。
知識がなければ何をどうしているかわからない。過ぎた技術は魔法に等しい。
(カバンに入る程度の温風や蒸気熱を排出する蒸気機械を作る)
 歯車、蒸気モーター、小型タービン、熱源、ホース。機械から伸びたホースの先から熱や温風が出る作り。
 ほどなくそれは完成した。ちゃんと動く。少なくとも作戦中に火を吹いて爆発なんてことは起こりえない。
 申し分ない。かばんに入って温風が出る。必要十分条件は満たしている。
 しかし。
(周りにばれたらなんか嫌だ)
 アクアディーネ様。周囲をさらに暑くする機械を稼働させることをお許しください。
(それに、たまにはおいらの技術力も確かめたいね)
 技術者がそう言って、一度置いた工具を手に取った時、それは始まる。
「僕の全力をもって駆動部の防音化や小型化にチャレンジしてみようかな!」
 魔改造の始まりだ!
 同じ頃。
 『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は、市場のほぼ中央で身を潜めていた。
 不漁で魚屋さんの露店は本日は空いているのだという。見栄えが悪いのでパラソルを開いてくれるなら、使ってくれて構わないと交渉が成立している。
(人込みと視界、道三本である事を考えると分散しておいた方が良さそう)
 修道女がそんな所にうずくまっていたら大騒ぎだが、気配を断ち切り、すっかり存在感をなくしているミルトスを「見る」ことができるのはオラクルしかいない。
 スカートの裾が広がらないよう注意しつつ、ミルトスは音も遮断する。
 生かして捕らえなくてはいけない獲物を待つのだ。
 誰もいない静かな日陰に日光に負けそうな肉色の稲妻が店舗に入り込むのを待っている。
 そして、遊撃手としてアリシアがツキャンゴラを追い立ててくるという作戦だ。

「――これで誘導できるという寸法ヨ!」
 細工は流々。仕上げを御覧じろ。
 来いよ、ツキャンゴラ。
 ぼくたちがかんがえたさいきょうのわなに飛び込んで来い!


 作戦開始。
 ジーニアスが「期間限定・八千代堂出張かき氷店」の看板を肩に市場の端っこからスタートする。
「よろしくねー」と愛想を振りまき、店先をのぞき、試食なぞいただきつつ、路地のツキャンゴラが潜んでいそうなところめがけて、地面に熱い空気を散布していく。
 熱風が通るホースが体をつたっているジーニアスもかなりつらい。バックを背負っている背中はものすごく熱くなってる。
(役割的にゆっくり移動しないとだめだろうし、追いたてとマキナギアによる報告を重視するよ!)
 頭から湯気ふきそう。走ったら、倒れる。というかホース外れたら、市場で熱気を振りまいたものとして社会的に死ぬ。
(捕獲は皆に任せた!)
頑張れ。君が作った熱は確実にツキャンドラを追い込んでる!
 ミルトスの足元からじわじわと熱気が押し寄せてきた。打ち合わせはしている。ジーニアスの追い込みは始まっているのだ。
 敬虔な修道女であるミルトス。アクアディーネ様に約束してください。反射的に徹し技を使いません。と。
(なるべく目立たないように。だし、命が危ないし)
 市場で修道女がうっかり逃亡した家畜の内蔵破壊。とか、ちょっとドン引きでは済まない不幸な事故・R18G。集中と瞑想の中間のゾーン。
 その刹那、ふっとパラソルとパラソルの隙間から、フレッシュピンクの稲妻が地面めがけて落ちた。
 いや、ちがう。あの全く無軌道、次の着地地点予想不能で吹っ飛んで歩くおメメグルグルの高速移動体は――。
(ツキャンゴラ!)
 ミルトスには見える。押し寄せてくる見えない熱気を避けて跳ねまわるツキャンゴラの次の着地地点とその次が。そこに着地したら、次の逃げ込む先は氷屋から遠ざかってしまう。
 ミルトスは、細心の注意を払い、その指先がツキャンゴラの向きを氷屋の方に向けた。
 何か、今までと違う感覚が指先に宿った気がした。
「たかが一匹、されど一匹、簡単な仕事だったと、言いたかった……」
 簡単に徹せる力をあえて徹さない。を、した一瞬だった。
「おおきに。後はまかせてな!」
 アリシアが、ツキャンゴラの行く手を阻み、うまい具合に市場の端へ追い込んでいく。
 側にぴったりくっついて時折捕獲を試みる関係上、ひっかき傷がみるみる増えていくが、つかもうとする指先の優しさは変わらない。
 アリシアはマギナギアに呼び掛ける。
「もうつくわ。氷用意しててな!」

 ジーニアスからもミルトスからも連絡が入っている。
 アリシアからも今入った。すぐだ。
 もちろん、大前提はそれとして。
 氷屋として看板を上げた以上、お客様に満足していただけるものを提供できなければ詐欺である。
 シャシャシャシャシャシャシャ。
 氷が削れる音は、夏の醍醐味だね。薄く削る機械を誰か発明したら、大儲けできるんじゃないかな、知らんけど。
「氷の材料費は実質タダ! 素敵な響き!」
 販売価格には、アイスコフィンを習得するまでの教育コストと魔導士を常駐させる人件費と削れるMPが含まれています。高いというなら水を飲んで、どうぞ。
「味の種類は多すぎても少な過ぎてもいけません~。適度に選べて目新しさもある位がベストです~!」
 清涼感溢れるミントから、定番の糖蜜も外せない。
「いらっしゃいまーせぇー! 八千代堂出張かき氷店でぇす」
 ルーも大忙しだ。
 店先はテントやパラソル日除けで涼しく保ち、空気中の氷もアイスコフィンで固めて足元に置き、涼しくなるよう努める。
「お客さん、人参シロップ、こっちもヘルシーでオススメヨ?」
 客の手に手に削り氷。周囲にひんやり感が拡散される。
 他人が持ってると自分もほしくなるのがヒトの性。
 客の列を誘導しつつ、パラソルから最短距離で飛び込めるスペースをつくり、影要員を配置する。
「それにしてもふわふわ毛皮がなくなるとはっちゃける生き物。まだまだ暑いですもの、涼しくなればはっちゃけたくなるのも、分かるような分からないような……?」
 レネット、アリシアからの連絡を参考にして集中。
 日々倍増していく毛並みで行動が制限されているツキャンゴラを見舞う突然の解放感っ! が、常軌を逸した躁状態を産むというのが定説です。
「わたしのような貧乏学生が、薄いとは言えその毛に触れられる機会なんて……そうそうないですから……!!」
 ツキャンゴラの毛皮、お察しの通り、飼育が難しいからお高い。
 ここで残念なお知らせ。
 ヒトには持って生まれた特性があり、それが顕著に現れる状況が存在する。
 選択肢の一つに入れば、確実に選択される星の下に生まれているのだ。仕方ないね!
 ローラのスカートは前はミニスカ、後ろが足首丈の二枚仕立て。
 より影の濃い背面側に足を伝って登りミニスカに潜り込む一連の流れは、アクアディーネの髪が青いのと同じくらいわかりきっている。
「あっ、ちょ、やばっ、ダメっ! 後ろからは慣れてなっ……にゃぁぁあぁあぁぁ!?? ひゃあぁあぁあああぁんっ??」
 ツキャンゴラの絶妙な硬さの肉球てふてふが重力に逆らうハイパーダッシュであんよを絶妙踏み踏みするのだ。なんなら、生え変わって数日経過したふわふわ軟毛ソフトタッチも言及しておくべきかもしれない。
 正直、このくらいの声で済んでよかったねレベルである。やんごとない方々が好んでツキャンゴラの装身具を求める理由。毛の華やかさもあるが、そのむやみやたらと気持ちいい毛の感触が理由なのだ。
 そんなもんがやや高い体温と生物のぬめらかさを以って、うっすいタイツから絶対領域に至る絶妙ラインに若干の静電気を帯びつつ移動したのだ。あらゆる角度から分析しておやばい。
「はいったん? ええわ。そのまま上手い事やったって!」
 ツキャンゴラと併走してきたの二級に姿が見えなくなって内心焦ったアリシア、サムズアップ。およその売り子さんの服の中に潜り込んだら、同じ女性である自分が頭さげて追い出させてもらう覚悟してたから、仲間だったら問題なし!
「うまいことって、どういうことぉっ!?」
 服の上からむぎゅっと押さえつければいいんじゃないかな。ちょっとかがんであっちこっち押さえつけると、色々セクシーポーズになっちゃいそうだけど。
 ついでにここは市場の端。彼女待ちの彼氏がいっぱいうろうろしていることを改めて思い出していただきたい。
「み、見ちゃヤダ、さすがに恥ずかしっ……てゆーかそこ、蒸気カメラで撮らないの! 勝手に現像とかしたらツキャンゴラみたいに檻に放り込んでやるんだから!」
 今後の活動に影響しますので、自由騎士団隠の撮影はしないでください。場合によってはスパイ容疑あるいは都市迷惑条例に抵触する恐れがあります。
 その前に、彼女さん達が悋気を抱いたら面倒です。速やかに現場を離れるのが円満への秘訣であると愚考いたします。
「いやぁぁぁあっん!」
 にゅるんとローラのスカートの短い方から頭を出したツキャンゴラ(ベリーショート)、ちょっと影の量が足りなかったっぽい。いい感じの距離にいい感じに分量が多い日陰。君に決めた。
 レネットとツキャンゴラの目が合う。
 オレ、オマエノスカートノナカ、ハイル。
「ひぃっ」
 覚悟はしていたとはいえ、乙女の反射を耳にして、臆するアマノホカリ男子がおろうか。
 ツキャンゴラのジャンプ!
「ええい、ままよ!」
 サブロウ、本日二回目。
 その時、巨大な黒い鳥が羽ばたいたようだったと後に誰かが語った。
 肌色の稲妻より多くの肌色が内なるウサギを解き放って宙を舞う。
「いざ来たれ、ツキャンゴラ! こっちのマントは暗くて日も遮るし、氷を扱ってたから心持ちヒンヤリしているぞ!」
 削り氷食べてた人の手が一瞬止まる。
 氷柱を抱きかかえてた訳ではありませんので、衛生面は大丈夫です!
 サブロウはツキャンゴラをつかんでそのままイトマキエイのように石畳の上に顔面から着地した。
 その手からにゅるにゅると逃げようとするツキャンゴラ。マントの端をダン! とルーが踏みしめた。
「――絶景かな――」
 おデコを擦りむいたサブロウは呟いた。央華大陸のスカートのスリット、最高です。 
「早く中からつかむネ。早くしないと、マントじゃないところを踏むかもヨ!」
「そこ、逃げるわ。踏んで!」
「はい!」
「んもう、早く捕まってよ。踏んじゃうんだから。えいえい!」
 自由騎士団の娘さんたちが、マントをどかどか踏んで押さえつつ、誘導されたツキャンゴラが籐製の籠に入れられるまで、素敵な脚線が披露された。
 その間、サブロウは灼熱の石畳の上に伏せ続けることを余儀なくされた。スタッフには回復術にたけたものがおります。安心です。
 拍手喝采でおひねりが飛んだ。そこから、サブロウのマントのクリーニング代を捻出することになった。
 ツキャンゴラは、秋冬のお仕事のつてをこしらえる目的半分でルーが農家さんに届けるという。
 仕事上がりにみんなで食べた削り氷は最高においしかった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済