MagiaSteam




食糧庫を狙うならず者達

●
イ・ラプセルの外れにある集落。
ヘルメリア王国との国境も近いその場所は、少し前までシャンバラ皇国と呼ばれていた場所。
領土を広げたイ・ラプセルは己の国の維持はもちろんのこと、他国へと侵攻されぬよう睨みを利かせる状況が続いている。
油断すれば、いきなり攻め込まれる危険もある為、国境付近はピリピリとした緊張が続く。
互いの監視が続くこともあり、国境付近の兵士は相手国方面に注意が向いていることも多い。
それだけに各国、村同士のちょっとした小競り合いや、盗賊、ならず者達の跋扈まで、手が回らぬ状況がある。
それもあって、ならず者達が我が物顔で旅人や行商人、集落を襲い、食料や金品を巻き上げている現状がある。
とある日の昼下がり。
牧畜をメイン産業としたその集落へと、語呂の悪い男達が駆けこんでくる。
「襲え襲え! 食料を奪い取れ!」
大斧を担いだガタイのいいキジンの男が叫ぶと、配下であるケモノビト達が一斉に集落民を襲い始める。
この地域はお世辞に見てものどかな片田舎。さすがに金目のモノが期待できる場所ではない。
それが彼らも分かっており、食料を求めてこの地の人々を襲撃していた。金目のモノは、ついでにいただく程度の認識だろう。
「抵抗するなら、殺しても構わん。食料を奪ったら引き上げるぞ!」
「「「わかりやした!!」」」
キジンの男が一隊のリーダーのようだ。
威勢よく返事する子分達は嬉々とし、人々に刃を突きつけて脅しつつ集落奥の食糧庫を荒らしていく。
直接、牛や豚を狙おうとした子分もいたが、リーダーはそいつを制して。
「おい、運べない物は無理に襲うな! 食糧庫だけ漁って持てるだけ奪えばいい」
「へ、へえ、すいやせん……」
あまり頭が回らぬ子分達のようだが、リーダーの指示には素直に従う。ならず者ながらになかなか統制がとれた一隊だ。
集落民も命までは奪わないと知り、悔しがりながらも大人しくしていた。
「引き上げるぞ!」
「「「へえ、リーダー!」」」
そいつらは集落民を牽制しつつ、持てるだけの食糧を奪い取り、この場から去っていったのだった。
●
階差演算室へと集まる自由騎士団所属のオラクル達。
そこには、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)の姿があった。
「元シャンバラ皇国の領地は今、ならず者達にとって格好のターゲットのようだよ」
ならず者の一隊が牧畜地帯のとある集落を襲う未来が予知された。
現地到着は昼間陽が傾きかけた頃。敵の手慣れた行動もあり、オラクル達は後手に回ってしまう。
敵は集落向かって右手側の側面部の森に潜みつつ、集落へと近づいてくる。
ある程度接近したところで彼らは一気に集落へと襲い掛かり、集落奥の食糧庫を狙う。
その際、邪魔な集落民を武器で脅し、食料のみを奪い取って鮮やかに去ってしまうらしい。
少数で行動し、ならず者ながらに統率のとれた一団だ。
「リーダーはキジンの屈強な男だね。子分達はいずれもケモノビト。2人ずつ、それぞれ扱う武器が違うようだよ」
簡単な敵データはクラウディアが纏めてくれている。後で目を通すとよいだろう。
倒した敵の処遇は、依頼を受けたオラクル達に任せるとのこと。
自由騎士団として縄で縛り付けてもいいし、2度と強盗など働かぬよう完膚なきまでに懲らしめてもいい。
「事後、護った集落民から食事のお誘いがあると思うよ」
牛肉、豚肉をメインとした料理をいただくことができるので、要望があれば、調理法を集落民に伝えることもできる。
あとは希望の夕食を食べつつ、仲間内で交流するといいだろう。
「以上だね。それでは、行ってらっしゃい」
できれば、お土産があると嬉しいなと、クラウディアはしっかりと送り出すオラクル達にお肉をしっかり催促していたのだった。
イ・ラプセルの外れにある集落。
ヘルメリア王国との国境も近いその場所は、少し前までシャンバラ皇国と呼ばれていた場所。
領土を広げたイ・ラプセルは己の国の維持はもちろんのこと、他国へと侵攻されぬよう睨みを利かせる状況が続いている。
油断すれば、いきなり攻め込まれる危険もある為、国境付近はピリピリとした緊張が続く。
互いの監視が続くこともあり、国境付近の兵士は相手国方面に注意が向いていることも多い。
それだけに各国、村同士のちょっとした小競り合いや、盗賊、ならず者達の跋扈まで、手が回らぬ状況がある。
それもあって、ならず者達が我が物顔で旅人や行商人、集落を襲い、食料や金品を巻き上げている現状がある。
とある日の昼下がり。
牧畜をメイン産業としたその集落へと、語呂の悪い男達が駆けこんでくる。
「襲え襲え! 食料を奪い取れ!」
大斧を担いだガタイのいいキジンの男が叫ぶと、配下であるケモノビト達が一斉に集落民を襲い始める。
この地域はお世辞に見てものどかな片田舎。さすがに金目のモノが期待できる場所ではない。
それが彼らも分かっており、食料を求めてこの地の人々を襲撃していた。金目のモノは、ついでにいただく程度の認識だろう。
「抵抗するなら、殺しても構わん。食料を奪ったら引き上げるぞ!」
「「「わかりやした!!」」」
キジンの男が一隊のリーダーのようだ。
威勢よく返事する子分達は嬉々とし、人々に刃を突きつけて脅しつつ集落奥の食糧庫を荒らしていく。
直接、牛や豚を狙おうとした子分もいたが、リーダーはそいつを制して。
「おい、運べない物は無理に襲うな! 食糧庫だけ漁って持てるだけ奪えばいい」
「へ、へえ、すいやせん……」
あまり頭が回らぬ子分達のようだが、リーダーの指示には素直に従う。ならず者ながらになかなか統制がとれた一隊だ。
集落民も命までは奪わないと知り、悔しがりながらも大人しくしていた。
「引き上げるぞ!」
「「「へえ、リーダー!」」」
そいつらは集落民を牽制しつつ、持てるだけの食糧を奪い取り、この場から去っていったのだった。
●
階差演算室へと集まる自由騎士団所属のオラクル達。
そこには、『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)の姿があった。
「元シャンバラ皇国の領地は今、ならず者達にとって格好のターゲットのようだよ」
ならず者の一隊が牧畜地帯のとある集落を襲う未来が予知された。
現地到着は昼間陽が傾きかけた頃。敵の手慣れた行動もあり、オラクル達は後手に回ってしまう。
敵は集落向かって右手側の側面部の森に潜みつつ、集落へと近づいてくる。
ある程度接近したところで彼らは一気に集落へと襲い掛かり、集落奥の食糧庫を狙う。
その際、邪魔な集落民を武器で脅し、食料のみを奪い取って鮮やかに去ってしまうらしい。
少数で行動し、ならず者ながらに統率のとれた一団だ。
「リーダーはキジンの屈強な男だね。子分達はいずれもケモノビト。2人ずつ、それぞれ扱う武器が違うようだよ」
簡単な敵データはクラウディアが纏めてくれている。後で目を通すとよいだろう。
倒した敵の処遇は、依頼を受けたオラクル達に任せるとのこと。
自由騎士団として縄で縛り付けてもいいし、2度と強盗など働かぬよう完膚なきまでに懲らしめてもいい。
「事後、護った集落民から食事のお誘いがあると思うよ」
牛肉、豚肉をメインとした料理をいただくことができるので、要望があれば、調理法を集落民に伝えることもできる。
あとは希望の夕食を食べつつ、仲間内で交流するといいだろう。
「以上だね。それでは、行ってらっしゃい」
できれば、お土産があると嬉しいなと、クラウディアはしっかりと送り出すオラクル達にお肉をしっかり催促していたのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.全てのならず者の討伐。
初めましての方も、どこかでお会いして事のある方もこんにちは。
STのなちゅいと申します。よろしくお願いします。
イ・ラプセル(元シャンバラ皇国)の国境付近で暴れる者達の討伐を願います。
●ならず者
多くはケモノビト。リーダーのみキジンです。
◎リーダー……重戦士
大斧を所持。防御力無視、ブレイク1の効果あり。
全力での斬りかかりの一撃は強力ですし、
広範囲の薙ぎ払いは多数のメンバーを傷つけてきます。
〇子分×6
・軽戦士×2、ナイフを所持。ポイズン1を付与。
・格闘×2、ナックルを所持。ウィーク1を付与。
・レンジャー×2、弓を所持。ダブルアタックを行います。
●状況
国境付近にある集落を、ならず者の一隊が襲います。
牧畜地帯で、ならず者達は牛や豚の肉を目当てに襲って来たようです。
自由騎士団の皆様が駆け付けるよりも、ならず者が村を襲う方が早いようです。
皆様が介入する場合、食料を確実に奪おうと集落民が人質とされる可能性が非常に高い為、何らかの対策が必要でしょう。
事後は集落民から牛肉、豚肉を焼いていただくことができます。付け合わせに近隣で採れた野菜も合わせてどうぞ。
美味しくいただきながら、語らっていただければと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
STのなちゅいと申します。よろしくお願いします。
イ・ラプセル(元シャンバラ皇国)の国境付近で暴れる者達の討伐を願います。
●ならず者
多くはケモノビト。リーダーのみキジンです。
◎リーダー……重戦士
大斧を所持。防御力無視、ブレイク1の効果あり。
全力での斬りかかりの一撃は強力ですし、
広範囲の薙ぎ払いは多数のメンバーを傷つけてきます。
〇子分×6
・軽戦士×2、ナイフを所持。ポイズン1を付与。
・格闘×2、ナックルを所持。ウィーク1を付与。
・レンジャー×2、弓を所持。ダブルアタックを行います。
●状況
国境付近にある集落を、ならず者の一隊が襲います。
牧畜地帯で、ならず者達は牛や豚の肉を目当てに襲って来たようです。
自由騎士団の皆様が駆け付けるよりも、ならず者が村を襲う方が早いようです。
皆様が介入する場合、食料を確実に奪おうと集落民が人質とされる可能性が非常に高い為、何らかの対策が必要でしょう。
事後は集落民から牛肉、豚肉を焼いていただくことができます。付け合わせに近隣で採れた野菜も合わせてどうぞ。
美味しくいただきながら、語らっていただければと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年07月25日
2019年07月25日
†メイン参加者 8人†
●
そこはかつて、シャンバラと呼ばれていた地。
現状は、イ・ラプセルに併合され、ヘルメリアとの国境も程近いその場所では、ならず者も跋扈しているという。
自由騎士団に所属するオラクル達は、すでにならず者に襲われているはずの集落を目指し、急いで移動していく。
「なんで、まじめにがんばってるヒトから、ものをとろうとしたりするんだろう」
でかでかと『村人』と書かれたシャツを着たカバのケモノビトの少女、『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)は賊の思考を不思議に思っていた様子。
「うえていたりとか。そうしないといけないじじょうがあるわけでもないのに」
よくわからないと、リムリィは小さく首を横に振る。
「まったく、ただでさえこの国の人たちは不安がってるだろうに!」
悪い奴らもいたもんだと、田舎農家の出身、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)も事件を引き起こすならず者に怒りを露わにしていた。
(……シャンバラは嫌いですけど、ここはもうイ・ラプセルですし)
内気でおどおどした態度のヨウセイ、『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は、この地がイ・ラプセルに併合されたことを再認識する。
今作戦内に、元魔女狩りである大柄な虎のケモノビト、『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)がおり、ティルダは少し恐れを抱いていたが……。
(……もうヨウセイを狩る必要は無いですし、怖がる必要は無いですよね。うん)
当人が気にする素振りもないこともあり、ティルダもそう自分に言い聞かせて納得させようとしていた。
「とりあえず。あのむらはもううちのなわばりだから」
この地域はもうイ・ラプセルの領土。自由騎士団の自警範囲であり、リムリィはしっかり守る必要があると考えていたようだ。
「キリも昔、食べ物を盗んで生きていました」
うさぎ耳を垂らしたマザリモノの少女、『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547) もそうした過去があるとのこと。
「ひ、人の物を奪うのは良くないですし、食べ物を取られたら村の人が困るので、しっかり捕まえないとです」
ティルダの言葉に、キリも頷いていた。
「キリを正してくれた人のように、ならず者さんたちを止めたい」
今はキリもそれを認識しており、教えてくれた人と同じように今回の犯人達の確保に意気込みを見せる。
「飯だけ盗んでく賊か。あれもこれもって欲張らないあたり、結構頭いいのかもなー」
オニヒトの少年、『ゴーアヘッド』李 飛龍(CL3000545)は相手の行動を聞き、そういうやつは小細工も得意そうだと考えて。
「油断しねーでいくとすっかね!」
「村人の命も財産も、絶対護ってみせるぞ!」
飛龍に続き、ナバルも一緒になって大声で叫び、気合を入れていたのだった。
●
さて、集落へと近づく8人の自由騎士達。
彼らは2班4人ずつに分かれ、囮と集落民の救出へと当たる。
すでに、集落からは人々の叫び声が聞こえていて。
「うあああああっ!!」
「キャアアアアアッ!!」
「襲え襲え! 食料を奪い取れ!」
そして、それよりも大声で大斧を担いだキジンの男……ならず者のリーダーがケモノビトの子分達へと指示を飛ばす。
「「へえ、リーダー!!」」
ガタイの良いリーダーの指示を受けた子分達も威勢よく叫び、集落民へと襲い掛かる。
ならず者達の狙いは、この集落の食料だ。
それもあって、賊は集落民を脅して集落奥の食糧庫の場所を聞き出す。
「抵抗するなら、殺しても構わん。食料を奪ったら引き上げるぞ!」
「「「わかりやした!!」」」
ならず者ながらに統率のとれた一団。
そいつらが集落民に武器を向けつつ食糧庫を目指すところで、外からいくつもの影が駆け込んでくる。
「今は悪魔がニコニコの時代……じゃが、しかし! 正義は滅びてはいなかった!」
「なんだ……?」
「月末の救世主、見参!!」
真っ先に駆け付けたのは、長い金髪を三つ編みにした、左目、左手、両脚の膝から下が蒸気鎧装となった大柄な麗人、『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201) だ。
「おらテメェら、ブツ置いていきやがれやぁ!!!」
同じく、巨躯のロンベルが騎士っぽく賊を威嚇するが、むしろならず者の仲間なのかと感じさせる見た目と物言いである。
「「へっへっへっ……」」
すると、子分のうち2人が手近な集落民を人質に取って。
「おい、コイツがどうなってもいいのか!?」
片方は主婦、片方は少年だ。
それを、三つ目に小ぶりな2本の角、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086) が確認し、敢えて前方の2人へと注意を促す。
「おい、ロンベル。先走るなよ!? 人質無視して突撃とか止めろよマジで! シノピリカも冷静にな……」
ツボミは2人に呼びかけつつ、彼らが暴走して突撃してくる危険を敵に示す。
「おい、少し待て」
リーダーが子分どもを制し、こちらの出方を窺う素振りを見せる。
大局を確認してなめてかかってこない辺り、さすがはリーダーといったところか。
「わー、なんと卑怯な連中だー、わー」
ロンベルが迫真の棒読みボイスで相手を牽制し、片刃の戦斧『デアボリックバスターS』を手にいつでも突っ込めるよう戦闘態勢を維持する。
「む、村の人達を離して下さい!」
そう呼びかけるティルダを、リーダーは珍しそうに見回して。
「ヨウセイが出てくるとはな。驚いたぜ」
その言葉から、ティルダはシャンバラで虐げられていた人々ではないかと想像を巡らす。
(いえ、だからといって、略奪を働いていい理由にはなりませんけど)
ティルダも攻めあぐね、硬直状態とするよう演出する。
(だが、注意は引きつけることができた)
ツボミの想定とは少しずれたが、上々の結果といったところ。後は救助班の働きに期待だ。
(ロンベルは実際、戦闘狂だからなあ……シノピリカも結構激し易いし)
少女の外見に見えて、そこは年長者のツボミ。
暴走しそうなメンバーをしっかりと後方から支援しつつ、囮役の任をしっかり担うのである。
その間、集落民の救出へと当たるメンバー達。
囮班が攻め込む間に、目立たぬ格好を意識した救出班が行動を開始する。
装備をマキナ=ギアへと収納したナバルは囮班が敵を引きつけるのに合わせ、集落民へと接触して。
「皆さんを助けにきた騎士です。あっちでオレの仲間が敵を引き付けてる間に、あなたは他の人と一緒に村から離れててください」
元々、農民のナバルだ。牧畜を行う集落民に交じってもさほど違和感はない。
「大丈夫! 皆さんの命も財産も、オレたちが護ります!」
他、武器を突き付けられている集落民がいないかとナバルが見回す。
キリが村人を装いつつ避難を呼びかけ、さらに、自身のローブを盾代わりにして、いざというときの防壁ともなるが、ならず者達は気づいていないようだ。
人質が2人いるのを確認したナバルが集落民を装い、ならず者へと近づいて。
「どうか、どうかそいつの命だけはお助けくだせえ! ほら芋、芋なら差し上げますから!」
「もらってやる。……が、まだ駄目だ」
あくまで、敵は持てるだけの食料を持ち帰ろうと目論んでいるらしい。
リムリィもいつの間にか集落の子供に紛れ、避難を進めながらも、人質の救出に動く。
「おかあさんとおにいちゃんをはなせー」
子供を装う彼女は、ならず者へと石を投げつける。
それが体に当たったのに、子分の1人が苛立って。
「このガキ……!」
向かってきた敵に対して、リムリィは不敵に微笑む。
「ひとじちをなまいきなこどもにこうかんするかも?」
「あぁん……?」
一瞬、リムリィの言葉が理解できなかった子分。
そいつ目掛け、彼女は体内の気を一気に解き放つ。
「うおおっ!?」
思いもしない攻撃に、子分が大きく吹っ飛ばされてしまう。
「それじゃ、こちらも」
ナバルもまた素手で突進し、近場の邪魔な子分を突き飛ばす。
「何っ……!?」
さらに、屋根の上に登っていた飛龍は人質を取る子分目掛けて、接近させた影を虎狼のごとく襲い掛からせた。
「うおっ、こいつ!」
子分が影に抑え込まれる間に、捕まっていた主婦が慌てて逃げ出していく。
キリもまた、少年を拘束する子分へと仕掛ける。
「いくの、にんじんソード!」
紋様に流す魔力を暴走させることで、キリは人参のような光の剣を象り、少年は素通りしながらも子分のみを切り裂く。
「ぐわあっ!」
血飛沫を飛ばす子分から、必死に逃げ出す少年。
その前へと飛龍が立ち塞がり、護衛へと当たる。
「何だ、お前らは……?」
睨みを利かせるならず者リーダー。
人質がいなくなった敵目掛け、囮班メンバー達がすかさず飛び込んでいった。
●
人質こそ救出できたが、まだ集落内に住民達が残っており、新たな人質にされることも懸念される状況だ。
とはいえ、集落民は全員ならず者の手から逃れている。今は救助班の避難を待つ間、時間を稼げばいい。
奮起したシノピリカは子分どもを相手にし、換装した義手から高圧蒸気を浴びせかける。
蒸気は灼熱の弾丸となり、敵を圧倒していく。
(ちと思惑とは違ったが、倒せばよいじゃろ)
囮が少数だからこそ、相手が突破を選択するよう仕向けるつもりだったシノピリカ。
だが、仲間達が上手く強襲してくれたことで、集落民の安全はある程度確保された。
そして、仲間の数がある程度把握されたのであれば、演技の必要もない。
「貴様らのような無法者には負けぬ!」
あとは、敵を逃がさぬよう攻めるだけと、シリピリカは悠然と構えて見せる。
「世は形ある無明にして、汝の歩みを阻む底なし……」
ティルダも後方から魔導の力を発動させ、敵の足元に底なし沼を出現させて彼らの動きを鈍らせていく。
「へっ、この程度……!」
だが、相手は荒事に慣れたならず者達だ。戦いにおいては自由騎士とうまく渡り合う者もいる。
見事なナイフ捌きにワンツーパンチ。距離を取れば弓で連射し、思ったよりは隙が無い。
救助班が完全に戦線に加わらぬ状況では、前衛陣も疲弊する。
ツボミは周囲の魔力を癒やしの力に転化し、仲間の傷を塞いでいた。
「失敗か……」
早くも、食料強奪に見切りをつけるリーダーだが、奮起するロンベルがそれをさせず、戦斧で切りかかる。
「同じ得物同士気が合うじゃないか、死ぬまでやろうぜぇ!!!」
彼は子分には目もくれず、リーダーへと一直線に攻め込んでいた。
「雑魚のケモノビトには興味無ぇ、俺は強い奴とヤりあいたいんだよ!!!」
「ちっ……」
できるなら、スマートに食料を奪って去りたかったリーダー。
そいつはなおも退路を探しながら、攻め来るロンベルの斧を受け止めていた。
そうこうしている間にも集落民は退避し、救助班も戦線へと加わってくる。
飛龍はリーダーの相手をするロンベルを羨ましがりながらも。
「しゃーねー、今回はロンバルに譲るぜ! 代わりに後でおれっちとも戦ってくれな!」
「いいぜ。全力でやるなら相手になるぞ」
ロンベルの返答を聞いた飛龍は闘気を集中させた足で前蹴りを行い、ナイフ使いへと痛打を浴びせかける。
「あとはぶっとばすだけ」
リムリィも状況は察したようで、近場の子分どもを倒そうと再び気を解き放つ。
リーダーの統率力はかなりのものだが、そいつが抑えられている今、子分どもは襲撃を受けた自由騎士に苛立ち、力任せに武器を振るってくる。
それらを抑えるのは、防御に優れるキリとナバルだ。
死角を補える位置を意識し、キリは前線で戦う仲間達の壁となり続け、ローブを突き出して強固な盾となる。
一方で、ナバルはマキナ=ギアから槍と大盾を取り出し、避難した集落民の方向へと立ち塞がり、行く手も退路も阻む。
「自由騎士……。こんな辺境にまで来るとはな……!」
この状況に、リーダーは苦虫を噛み砕いたような顔をしつつ、この場をどう乗り切るべきか策を巡らすのだった。
●
ならず者は7人、自由騎士は8人。
力量差の問題もあるが、集落民への被害という憂いがなくなった自由騎士に分がある状況だ。
シノピリカは子分達全体の体力を削ることに注力する。
彼女の連射する灼熱の弾幕で焼かれた子分を、飛龍が蹴り倒してしまった。
こちらが数で攻めれば、子分達もは瞬く間に数を減らしていく。
盾となるナバルがナイフ持ちを盾で張り倒し、リムリィもまた格闘使いを超巨大ハンマー『ヒポポタマス』で殴り倒す。
仲間達の傷が増えることもあり、回復の合間に、ツボミは無力化した敵をふん縛っていたようだ。
そうして、防御面に多少の余裕が出てきたキリは、仲間を庇える位置を保ちながらも、砂を巻き上げて相手の目を眩ませる。
彼女はそのまま、ナックルで殴り掛かってくる子分へと突進し、盾とした自らのローブを使って卒倒させてしまう。
後方の弓使いは、ティルダが発動させた術で氷に包まれて意識を失い、もう1体は飛龍が影狼を向かせ、馬乗りの態勢で倒れて動けなくなっていた。
全ての子分を倒され、逃げ場もなくなったこともあり、リーダーも目の前のロンベル撃破に全力を出し始める。
「テメェの斧、痛ぇじゃねーか!! 久しぶりに楽しくなってきたぞ、おるぁ!」
斧を振りかざし、力任せに振るう重力感溢れる戦い。
タイマンならどうだったか分からないが、今は仲間が援護するロンベルが圧倒的に有利だ。
「お前を倒さねば、突破はできんようだな」
リーダーもやむを得ず全力での交戦を始め、次第に攻撃が前のめりになっていく。
「ハッハー! 中々強いじゃないか、キジン野郎!」
「お前もな、虎野郎……!」
互いに傷が増えていく中、ロンベルは起死回生の一撃をと大斧を薙ぎ払う。
確かに、盾となるメンバーを切り裂きはしたが、リーダーの猛攻はそれまで。
武器を戻す暇にロンベルが刃を振り下ろす。
縦にその身を裂かれたリーダー。
「これまで……か」
全力を尽くしてなお一歩及ばぬ相手に、彼は悔しげな表情のまま崩れ落ちていったのだった。
●
ならず者達を全員成敗して。
戦闘不能に陥った彼らを縛り上げた自由騎士達は命までは奪わず、一旦未使用の小屋へと放り込む。
その後、メンバー達は自分達と集落民の怪我の治療へと当たる。
「何かあったら、またオレたちが駆け付けるから、安心してくれな!」
襲われた集落民を、ナバルが元気づける。
「いや、助かった。我々にできることなど多くはないが……」
ならず者に奪われる可能性があった食料を使い、集落を救ってくれた自由騎士達をもてなしたいと住民達が申し出る。
「うれしいけど。だいじょうぶかな」
野菜も肉も大好きなリムリィだが、食べ物は大事だから、気持ちだけでと告げる。
それでも、食べていってほしいと集落民は主張し、体を休める一行へと様々な料理を運んできてくれた。
シノピリカは思わず、垂れそうになるよだれをすする。
「甘えちゃいます、ね……!」
何だか申し訳なくはあるが、ここはお言葉に甘え、キリも食事に手をつけていく。
「飯だ飯だー! 肉くうぜー!」
まだまだ育ちざかりな飛龍。動いてすいたお腹を満たすべく、彼も皿に乗った分厚いステーキをいただく。
口の中に広がる肉汁。そして、噛みしめる為に広がる肉の風味。
それらを味わいつつ、彼はがつがつとステーキを平らげていく。
こちらも、有り難く頂くティルダ。
「美味しいです……!」
ティルダもその味に、顔を綻ばせていた。
「そうそう、与えたエサより、足元のわら食ってたりとかなー!」
食べながら、ナバルは牧畜あるあると話で盛り上がる。
ちょっと恥ずかしがりながらも、キリも控えめな態度に対して遠慮なく並べられた料理を食べていく。
仲間や集落民と楽しい食事の一時を過ごすキリは、片付けの手伝いもしていたようだ。
「ロンベル、模擬戦しようぜ!」
「いいぜ、相手になってやる」
腹ごなしにと対戦を持ち掛ける飛龍に、ロンベルも同意する。
強い者と戦いたい彼らだ。すでに盗人達のことなどとっくに興味など失せていたようだ。
「ちゃんと働いて糧を得るのが大事だと、あの方々も気付いてくれるといいんですけど」
ならず者達を捕えた建物を見つめるティルダ。
そちらには、シノピリカとツボミが向かっていた。
ツボミが食事を与えると、彼らががっつくように食べていく。
「そんなに元気なら、真面目に働けい!」
ならず者達の食べっぷりにシノピリカは呆れ、一喝する。
彼女はしかるべき筋に、彼らを逮捕してもらうべきと考えていた。
「このご時勢、人手は引く手あまたゆえな」
そこで、ツボミはこんな提案を持ち掛ける。
「で、貴様等。こんなとこで燻ってる位なら、罰則後、うちで戦働きでもやらんか?」
ツボミもまた、人手は歓迎と考えている。
特に、リーダーの統率力、判断力、戦闘力。ならず者にしておくにはあまりに惜しいと考えていた。
「……そうだな。世話になる」
賊である彼らとしては、この上ない申し出。子分達もリーダーについていく考えらしい。
(今更、賊上がり程度の連中など、大した問題ではない)
自由騎士のリストの方がよっぽどヤバい人材がてんこ盛りだと、ツボミは内心で考えていたのだった。
そこはかつて、シャンバラと呼ばれていた地。
現状は、イ・ラプセルに併合され、ヘルメリアとの国境も程近いその場所では、ならず者も跋扈しているという。
自由騎士団に所属するオラクル達は、すでにならず者に襲われているはずの集落を目指し、急いで移動していく。
「なんで、まじめにがんばってるヒトから、ものをとろうとしたりするんだろう」
でかでかと『村人』と書かれたシャツを着たカバのケモノビトの少女、『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)は賊の思考を不思議に思っていた様子。
「うえていたりとか。そうしないといけないじじょうがあるわけでもないのに」
よくわからないと、リムリィは小さく首を横に振る。
「まったく、ただでさえこの国の人たちは不安がってるだろうに!」
悪い奴らもいたもんだと、田舎農家の出身、『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)も事件を引き起こすならず者に怒りを露わにしていた。
(……シャンバラは嫌いですけど、ここはもうイ・ラプセルですし)
内気でおどおどした態度のヨウセイ、『元祖!?食べ隊』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は、この地がイ・ラプセルに併合されたことを再認識する。
今作戦内に、元魔女狩りである大柄な虎のケモノビト、『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)がおり、ティルダは少し恐れを抱いていたが……。
(……もうヨウセイを狩る必要は無いですし、怖がる必要は無いですよね。うん)
当人が気にする素振りもないこともあり、ティルダもそう自分に言い聞かせて納得させようとしていた。
「とりあえず。あのむらはもううちのなわばりだから」
この地域はもうイ・ラプセルの領土。自由騎士団の自警範囲であり、リムリィはしっかり守る必要があると考えていたようだ。
「キリも昔、食べ物を盗んで生きていました」
うさぎ耳を垂らしたマザリモノの少女、『真打!?食べ隊』キリ・カーレント(CL3000547) もそうした過去があるとのこと。
「ひ、人の物を奪うのは良くないですし、食べ物を取られたら村の人が困るので、しっかり捕まえないとです」
ティルダの言葉に、キリも頷いていた。
「キリを正してくれた人のように、ならず者さんたちを止めたい」
今はキリもそれを認識しており、教えてくれた人と同じように今回の犯人達の確保に意気込みを見せる。
「飯だけ盗んでく賊か。あれもこれもって欲張らないあたり、結構頭いいのかもなー」
オニヒトの少年、『ゴーアヘッド』李 飛龍(CL3000545)は相手の行動を聞き、そういうやつは小細工も得意そうだと考えて。
「油断しねーでいくとすっかね!」
「村人の命も財産も、絶対護ってみせるぞ!」
飛龍に続き、ナバルも一緒になって大声で叫び、気合を入れていたのだった。
●
さて、集落へと近づく8人の自由騎士達。
彼らは2班4人ずつに分かれ、囮と集落民の救出へと当たる。
すでに、集落からは人々の叫び声が聞こえていて。
「うあああああっ!!」
「キャアアアアアッ!!」
「襲え襲え! 食料を奪い取れ!」
そして、それよりも大声で大斧を担いだキジンの男……ならず者のリーダーがケモノビトの子分達へと指示を飛ばす。
「「へえ、リーダー!!」」
ガタイの良いリーダーの指示を受けた子分達も威勢よく叫び、集落民へと襲い掛かる。
ならず者達の狙いは、この集落の食料だ。
それもあって、賊は集落民を脅して集落奥の食糧庫の場所を聞き出す。
「抵抗するなら、殺しても構わん。食料を奪ったら引き上げるぞ!」
「「「わかりやした!!」」」
ならず者ながらに統率のとれた一団。
そいつらが集落民に武器を向けつつ食糧庫を目指すところで、外からいくつもの影が駆け込んでくる。
「今は悪魔がニコニコの時代……じゃが、しかし! 正義は滅びてはいなかった!」
「なんだ……?」
「月末の救世主、見参!!」
真っ先に駆け付けたのは、長い金髪を三つ編みにした、左目、左手、両脚の膝から下が蒸気鎧装となった大柄な麗人、『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201) だ。
「おらテメェら、ブツ置いていきやがれやぁ!!!」
同じく、巨躯のロンベルが騎士っぽく賊を威嚇するが、むしろならず者の仲間なのかと感じさせる見た目と物言いである。
「「へっへっへっ……」」
すると、子分のうち2人が手近な集落民を人質に取って。
「おい、コイツがどうなってもいいのか!?」
片方は主婦、片方は少年だ。
それを、三つ目に小ぶりな2本の角、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086) が確認し、敢えて前方の2人へと注意を促す。
「おい、ロンベル。先走るなよ!? 人質無視して突撃とか止めろよマジで! シノピリカも冷静にな……」
ツボミは2人に呼びかけつつ、彼らが暴走して突撃してくる危険を敵に示す。
「おい、少し待て」
リーダーが子分どもを制し、こちらの出方を窺う素振りを見せる。
大局を確認してなめてかかってこない辺り、さすがはリーダーといったところか。
「わー、なんと卑怯な連中だー、わー」
ロンベルが迫真の棒読みボイスで相手を牽制し、片刃の戦斧『デアボリックバスターS』を手にいつでも突っ込めるよう戦闘態勢を維持する。
「む、村の人達を離して下さい!」
そう呼びかけるティルダを、リーダーは珍しそうに見回して。
「ヨウセイが出てくるとはな。驚いたぜ」
その言葉から、ティルダはシャンバラで虐げられていた人々ではないかと想像を巡らす。
(いえ、だからといって、略奪を働いていい理由にはなりませんけど)
ティルダも攻めあぐね、硬直状態とするよう演出する。
(だが、注意は引きつけることができた)
ツボミの想定とは少しずれたが、上々の結果といったところ。後は救助班の働きに期待だ。
(ロンベルは実際、戦闘狂だからなあ……シノピリカも結構激し易いし)
少女の外見に見えて、そこは年長者のツボミ。
暴走しそうなメンバーをしっかりと後方から支援しつつ、囮役の任をしっかり担うのである。
その間、集落民の救出へと当たるメンバー達。
囮班が攻め込む間に、目立たぬ格好を意識した救出班が行動を開始する。
装備をマキナ=ギアへと収納したナバルは囮班が敵を引きつけるのに合わせ、集落民へと接触して。
「皆さんを助けにきた騎士です。あっちでオレの仲間が敵を引き付けてる間に、あなたは他の人と一緒に村から離れててください」
元々、農民のナバルだ。牧畜を行う集落民に交じってもさほど違和感はない。
「大丈夫! 皆さんの命も財産も、オレたちが護ります!」
他、武器を突き付けられている集落民がいないかとナバルが見回す。
キリが村人を装いつつ避難を呼びかけ、さらに、自身のローブを盾代わりにして、いざというときの防壁ともなるが、ならず者達は気づいていないようだ。
人質が2人いるのを確認したナバルが集落民を装い、ならず者へと近づいて。
「どうか、どうかそいつの命だけはお助けくだせえ! ほら芋、芋なら差し上げますから!」
「もらってやる。……が、まだ駄目だ」
あくまで、敵は持てるだけの食料を持ち帰ろうと目論んでいるらしい。
リムリィもいつの間にか集落の子供に紛れ、避難を進めながらも、人質の救出に動く。
「おかあさんとおにいちゃんをはなせー」
子供を装う彼女は、ならず者へと石を投げつける。
それが体に当たったのに、子分の1人が苛立って。
「このガキ……!」
向かってきた敵に対して、リムリィは不敵に微笑む。
「ひとじちをなまいきなこどもにこうかんするかも?」
「あぁん……?」
一瞬、リムリィの言葉が理解できなかった子分。
そいつ目掛け、彼女は体内の気を一気に解き放つ。
「うおおっ!?」
思いもしない攻撃に、子分が大きく吹っ飛ばされてしまう。
「それじゃ、こちらも」
ナバルもまた素手で突進し、近場の邪魔な子分を突き飛ばす。
「何っ……!?」
さらに、屋根の上に登っていた飛龍は人質を取る子分目掛けて、接近させた影を虎狼のごとく襲い掛からせた。
「うおっ、こいつ!」
子分が影に抑え込まれる間に、捕まっていた主婦が慌てて逃げ出していく。
キリもまた、少年を拘束する子分へと仕掛ける。
「いくの、にんじんソード!」
紋様に流す魔力を暴走させることで、キリは人参のような光の剣を象り、少年は素通りしながらも子分のみを切り裂く。
「ぐわあっ!」
血飛沫を飛ばす子分から、必死に逃げ出す少年。
その前へと飛龍が立ち塞がり、護衛へと当たる。
「何だ、お前らは……?」
睨みを利かせるならず者リーダー。
人質がいなくなった敵目掛け、囮班メンバー達がすかさず飛び込んでいった。
●
人質こそ救出できたが、まだ集落内に住民達が残っており、新たな人質にされることも懸念される状況だ。
とはいえ、集落民は全員ならず者の手から逃れている。今は救助班の避難を待つ間、時間を稼げばいい。
奮起したシノピリカは子分どもを相手にし、換装した義手から高圧蒸気を浴びせかける。
蒸気は灼熱の弾丸となり、敵を圧倒していく。
(ちと思惑とは違ったが、倒せばよいじゃろ)
囮が少数だからこそ、相手が突破を選択するよう仕向けるつもりだったシノピリカ。
だが、仲間達が上手く強襲してくれたことで、集落民の安全はある程度確保された。
そして、仲間の数がある程度把握されたのであれば、演技の必要もない。
「貴様らのような無法者には負けぬ!」
あとは、敵を逃がさぬよう攻めるだけと、シリピリカは悠然と構えて見せる。
「世は形ある無明にして、汝の歩みを阻む底なし……」
ティルダも後方から魔導の力を発動させ、敵の足元に底なし沼を出現させて彼らの動きを鈍らせていく。
「へっ、この程度……!」
だが、相手は荒事に慣れたならず者達だ。戦いにおいては自由騎士とうまく渡り合う者もいる。
見事なナイフ捌きにワンツーパンチ。距離を取れば弓で連射し、思ったよりは隙が無い。
救助班が完全に戦線に加わらぬ状況では、前衛陣も疲弊する。
ツボミは周囲の魔力を癒やしの力に転化し、仲間の傷を塞いでいた。
「失敗か……」
早くも、食料強奪に見切りをつけるリーダーだが、奮起するロンベルがそれをさせず、戦斧で切りかかる。
「同じ得物同士気が合うじゃないか、死ぬまでやろうぜぇ!!!」
彼は子分には目もくれず、リーダーへと一直線に攻め込んでいた。
「雑魚のケモノビトには興味無ぇ、俺は強い奴とヤりあいたいんだよ!!!」
「ちっ……」
できるなら、スマートに食料を奪って去りたかったリーダー。
そいつはなおも退路を探しながら、攻め来るロンベルの斧を受け止めていた。
そうこうしている間にも集落民は退避し、救助班も戦線へと加わってくる。
飛龍はリーダーの相手をするロンベルを羨ましがりながらも。
「しゃーねー、今回はロンバルに譲るぜ! 代わりに後でおれっちとも戦ってくれな!」
「いいぜ。全力でやるなら相手になるぞ」
ロンベルの返答を聞いた飛龍は闘気を集中させた足で前蹴りを行い、ナイフ使いへと痛打を浴びせかける。
「あとはぶっとばすだけ」
リムリィも状況は察したようで、近場の子分どもを倒そうと再び気を解き放つ。
リーダーの統率力はかなりのものだが、そいつが抑えられている今、子分どもは襲撃を受けた自由騎士に苛立ち、力任せに武器を振るってくる。
それらを抑えるのは、防御に優れるキリとナバルだ。
死角を補える位置を意識し、キリは前線で戦う仲間達の壁となり続け、ローブを突き出して強固な盾となる。
一方で、ナバルはマキナ=ギアから槍と大盾を取り出し、避難した集落民の方向へと立ち塞がり、行く手も退路も阻む。
「自由騎士……。こんな辺境にまで来るとはな……!」
この状況に、リーダーは苦虫を噛み砕いたような顔をしつつ、この場をどう乗り切るべきか策を巡らすのだった。
●
ならず者は7人、自由騎士は8人。
力量差の問題もあるが、集落民への被害という憂いがなくなった自由騎士に分がある状況だ。
シノピリカは子分達全体の体力を削ることに注力する。
彼女の連射する灼熱の弾幕で焼かれた子分を、飛龍が蹴り倒してしまった。
こちらが数で攻めれば、子分達もは瞬く間に数を減らしていく。
盾となるナバルがナイフ持ちを盾で張り倒し、リムリィもまた格闘使いを超巨大ハンマー『ヒポポタマス』で殴り倒す。
仲間達の傷が増えることもあり、回復の合間に、ツボミは無力化した敵をふん縛っていたようだ。
そうして、防御面に多少の余裕が出てきたキリは、仲間を庇える位置を保ちながらも、砂を巻き上げて相手の目を眩ませる。
彼女はそのまま、ナックルで殴り掛かってくる子分へと突進し、盾とした自らのローブを使って卒倒させてしまう。
後方の弓使いは、ティルダが発動させた術で氷に包まれて意識を失い、もう1体は飛龍が影狼を向かせ、馬乗りの態勢で倒れて動けなくなっていた。
全ての子分を倒され、逃げ場もなくなったこともあり、リーダーも目の前のロンベル撃破に全力を出し始める。
「テメェの斧、痛ぇじゃねーか!! 久しぶりに楽しくなってきたぞ、おるぁ!」
斧を振りかざし、力任せに振るう重力感溢れる戦い。
タイマンならどうだったか分からないが、今は仲間が援護するロンベルが圧倒的に有利だ。
「お前を倒さねば、突破はできんようだな」
リーダーもやむを得ず全力での交戦を始め、次第に攻撃が前のめりになっていく。
「ハッハー! 中々強いじゃないか、キジン野郎!」
「お前もな、虎野郎……!」
互いに傷が増えていく中、ロンベルは起死回生の一撃をと大斧を薙ぎ払う。
確かに、盾となるメンバーを切り裂きはしたが、リーダーの猛攻はそれまで。
武器を戻す暇にロンベルが刃を振り下ろす。
縦にその身を裂かれたリーダー。
「これまで……か」
全力を尽くしてなお一歩及ばぬ相手に、彼は悔しげな表情のまま崩れ落ちていったのだった。
●
ならず者達を全員成敗して。
戦闘不能に陥った彼らを縛り上げた自由騎士達は命までは奪わず、一旦未使用の小屋へと放り込む。
その後、メンバー達は自分達と集落民の怪我の治療へと当たる。
「何かあったら、またオレたちが駆け付けるから、安心してくれな!」
襲われた集落民を、ナバルが元気づける。
「いや、助かった。我々にできることなど多くはないが……」
ならず者に奪われる可能性があった食料を使い、集落を救ってくれた自由騎士達をもてなしたいと住民達が申し出る。
「うれしいけど。だいじょうぶかな」
野菜も肉も大好きなリムリィだが、食べ物は大事だから、気持ちだけでと告げる。
それでも、食べていってほしいと集落民は主張し、体を休める一行へと様々な料理を運んできてくれた。
シノピリカは思わず、垂れそうになるよだれをすする。
「甘えちゃいます、ね……!」
何だか申し訳なくはあるが、ここはお言葉に甘え、キリも食事に手をつけていく。
「飯だ飯だー! 肉くうぜー!」
まだまだ育ちざかりな飛龍。動いてすいたお腹を満たすべく、彼も皿に乗った分厚いステーキをいただく。
口の中に広がる肉汁。そして、噛みしめる為に広がる肉の風味。
それらを味わいつつ、彼はがつがつとステーキを平らげていく。
こちらも、有り難く頂くティルダ。
「美味しいです……!」
ティルダもその味に、顔を綻ばせていた。
「そうそう、与えたエサより、足元のわら食ってたりとかなー!」
食べながら、ナバルは牧畜あるあると話で盛り上がる。
ちょっと恥ずかしがりながらも、キリも控えめな態度に対して遠慮なく並べられた料理を食べていく。
仲間や集落民と楽しい食事の一時を過ごすキリは、片付けの手伝いもしていたようだ。
「ロンベル、模擬戦しようぜ!」
「いいぜ、相手になってやる」
腹ごなしにと対戦を持ち掛ける飛龍に、ロンベルも同意する。
強い者と戦いたい彼らだ。すでに盗人達のことなどとっくに興味など失せていたようだ。
「ちゃんと働いて糧を得るのが大事だと、あの方々も気付いてくれるといいんですけど」
ならず者達を捕えた建物を見つめるティルダ。
そちらには、シノピリカとツボミが向かっていた。
ツボミが食事を与えると、彼らががっつくように食べていく。
「そんなに元気なら、真面目に働けい!」
ならず者達の食べっぷりにシノピリカは呆れ、一喝する。
彼女はしかるべき筋に、彼らを逮捕してもらうべきと考えていた。
「このご時勢、人手は引く手あまたゆえな」
そこで、ツボミはこんな提案を持ち掛ける。
「で、貴様等。こんなとこで燻ってる位なら、罰則後、うちで戦働きでもやらんか?」
ツボミもまた、人手は歓迎と考えている。
特に、リーダーの統率力、判断力、戦闘力。ならず者にしておくにはあまりに惜しいと考えていた。
「……そうだな。世話になる」
賊である彼らとしては、この上ない申し出。子分達もリーダーについていく考えらしい。
(今更、賊上がり程度の連中など、大した問題ではない)
自由騎士のリストの方がよっぽどヤバい人材がてんこ盛りだと、ツボミは内心で考えていたのだった。