MagiaSteam
秋の浜辺ですることといえば




「秋の浜辺ですわ。皆様」
 マリオーネ・ミゼル・ブォージン(nCL3000033)の流し目は今日も絶好調である。
「ここのところ、あちこちからいろいろなお船が来ているのはご存知でしょう? 残念ながら無事に到着できるとは限りませんのよ。悲劇ですわ」
 ぶっちゃけ沈めた船とかもあるよね。
「そういう船の残骸が浜辺に流れ着いたりしますの。とても見栄えが悪いし、片付けなくてはなりませんわ。寒くなる前に。それに、もし万が一、何も知らない一般の方が敵方の機密書類や物品を無邪気に拾って中身は読めなかったり、使えなかったりでも、そういうものを拾ったなどとべらべらしゃべってしまったりしたら――」
 一両日中に不審火が出るかもしれない。各国の間者はいないなど希望的観測を信じて生きられない。
「不幸の素は元から断つべきだと思いますのよ。まだ起きていない悲劇は回避しなくては」
 つまり、浜辺でゴミ拾いしつつ、沈んだ船にあったかもしれない機密資料とかやばげなものが万一落ちてたら拾って来い。と。
「そうそう。通商連のお船も被害にあっていますから、ひょっとしたらそれ関係の積み荷も流れているかもしれませんのでそのあたりも回収していただけますこと?」
 それは正しくお宝というやつですね? 金銀財宝、香辛料に香料。末端価格おいくらほにゃららというやつですね?
「そうですわね。勝手に拾ったものをさばいたら流通ルートを逆探知されて、別口で不審火が出るかもしれませんわ。間に入った方もただでは済まなくなると思います。悲劇ですわね」
 プラロークは横を向いて小さく息をついた。正規交易ルートは安全でいいなあ。
「取得物はちゃんと届けると相手に感謝されますわ。感謝は換金されませんけれど、お金で買えないというのは時としてとても強いものとなりますの。売るなら、恩じゃございませんこと?」
 プラロークはゆっくりと時間をかけてほほ笑んだ。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
田奈アガサ
■成功条件
1.来年の海水浴に向けて、浜辺の掃除
2.不審物の撤去
3.取得物の提出
 田奈です。
 秋の浜辺をゴミ袋持ってウロウロしながら、やばいものがあったら回収するお仕事ですよ。簡単!
 イ・ラプセルの秋の海を満喫してね!
 何が落ちてるかは自己申告。できる限りのネタは拾います。

場所:秋の浜辺
 すっきり晴れた穏やかなお天気。波も穏やか。
 夏は海水浴場としてたくさん外貨を稼いでくれる場所。
 きれいな白砂にいろんなものが打ち上げられます。
 沈んだ船の残骸とか積み荷とか備品とか。
 沈んだ船も、最近沈んだものから潮の流れでやってきたいつのだかわからないものまで。

 ゴミ拾いに必要なものは、自由騎士団備品で賄われます。
 大抵のものは何とかなるでしょう。

 こういうものはこういうところにあるんじゃないかと目星をつけて探すと、やみくもに探すより発見できる可能性が上がります。

 やばげなものを着服すると、二、三日中に自宅が不審火の被害に遭います。
 犯人が捕まることは決してない類の不審火です。怖いですね。
 提出すれば、自由騎士団にいろいろいいことがあるでしょう。

 五人以上が「浜辺をきれいに片づけました」と書けば成功です。
 不審火の発生は依頼の成否に影響しません。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  5個  1個
11モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
5日
参加人数
8/8
公開日
2018年11月08日

†メイン参加者 8人†

『ペンスィエーリ・シグレーティ』
アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)
『蒼光の癒し手(病弱)』
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『ナニしてたんすか?』
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『月下、一歩踏み出して』
英羽・月秋(CL3000159)



「さて、やってきたぜ秋の海!」
 ブラッド・アーベントロート(CL3000390)は元気である。列車移動でぺったんこにならない強靭な臀部をお持ちらしい。
 秋の海。イ・ラプセルは秋もいい。光量を落とした日光が冬の前の情けを感じさせてくれる。まあ、山にでも行かない限り、そんなに雪が降るわけでもないのだが。
「備えあれば嬉しいなって……あれ、違います?」
『マシマシの誘惑』フーリィン・アルカナム(CL3000403)が、「きちんと準備するのでお任せください」 と、言うので手配任せたらなんかすごかった。
 砂スキー付き荷台に満載されたゴミ袋とスコップ、紙ばさみ等々廃品回収グッズ。
 お馬さんもついて、全部経費!
 茶色のショートカットの白うさぎさんのティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はマスクと暖かい上着で準備万端。
『研究職の端くれ』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)はガチだ。「運搬を効率化する為に集積拠点を設営。盗難を防ぐ為の見張りもそこに配置したい」
 水について研究する彼女にとってゴミ問題は非常に大きな問題で、ここで集められたごみが最大効率で処理されるのを願ってやまないどころか率先して処理する気満々だ。
 かーなーり本気でやらないと費用対効果に釣り合わない。浜の表面さらっとなでるでは許されない空気。
 恐ろしいことにこの任務、期限が切られていないのだ。きれいに片づけるまでときた。つまり、自分たちできれいに片づけたと認識するまで帰れません。
 ざっぷーん。秋の海の波しぶきは骨身に染み入る程度に冷たい。適当こいて帰るって手もあるが、それは「あー、きみらのきれいってその程度なんだふーん」と思われそう。
 参加者の内なる道徳律によって成立する依頼なのだ。アクアディーネ様がみてる。オラクルだから割とガチで。
「うちはカタクラフトやし潮風でギシギシ違和感覚えるから浜辺にはあんまり近づきとうないねんけど――」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)、本日防塩対策しての参加だ。帰ったらデータとられるぞ。
「好奇心には勝てんくてな」
「わかるー!」
『策士の偵察部隊』クイニィー・アルジェント(CL3000178)が、アリシアと心情的にがっちりスクラム。
「なんとここは宝の山!!さぁーあ、どんなお宝が眠ってるかな?ワクワクしちゃうね!」
「それなー!」
 この広い浜辺一帯、何があるんやろーが埋まっている。ヒトは後で泣くのはわかっているのに出っ張りを掘らずにいられない生き物なのだ。芯持ったニキビとか。
「なんや面白いもんあったら持ち帰って自由騎士団に提出するで!」
「うん。ボクらはスカベンジャーじゃないからね」
 アクアリスが重々しくうなずいた。うっかりスイッチが入ったら戦争以上に深刻な環境問題について小一時間は演説がぶてる。国境を越えて協力し合わないと公害問題に発展す――。
(堅苦しいお話はナシナシ! シャンバラとのいざこざでゴタゴタの中、命張らずにお給料が貰えるんだもの。折角なんだから楽しまないとネ)
「はいはい、わかってるよ〜。それもテキトーにちゃんとやるよ」
 クイニィーはちゃんとわきまえている。
 これ、ポッポナイナイとかしたら、海の果てから地の果てまで追い回される奴だ、なんか本能が警告してくる。
「これモ! 必要凄イ! 必要なモノ!!」
『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)が大きな包みを差し出した。何やらほんのりいい匂い。
「オ弁当!」
 いる。すごくいる。このひんやり具合と責任感に裏打ちされた作業量から考えるとどう考えてもいる。
「これモトテモ大事!」
 砂が入ってこないピクニックシート。大事だ。
 エイラはとても合理的であった。

●初級編・浜辺でゴミ拾いしながら連携を深めよう。
「小波の音が心地よいですね」
『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)の周囲に人形が二体。
「僕の人形も喜んでいる。ねえ、カワホリ、タタラバ」
 抒情に満ちた光景に、これがゴミ拾いであることを忘れてしまいそうだ。
 月秋の手にはまっているのが黒手袋じゃなくて軍手で、ゴミ袋が足元にスタンバイしてなければ完ぺきだった。
「積み荷や浜辺に打ち上げられた備品中心に探しましょう」
 黒いクラゲのようなホムンクルスが辺りを浮遊し始める。
「もしも機密資料が落ちていて、拾い主に悪用されてしまったら一大事ですからね」
(機密情報に、シャンバラの書物、高度な技術の魔道具に敵の内情を知れるミトラースの聖典みたいなのもあるといいな)
 クイニィーが鼻歌交じりで探索中。
「さぁホムちゃん、お宝たくさん見つけるぞ〜!」
 緑色のゼリー的シマリス型ホムンクルスが増やした資格情報量に持って生まれた勘の鋭さを後天的色々飛び越えた超直観が補強する。
「あっちだってあたしの中の何かが言ってる!」

●中級編・拾ったごみを分別しよう。
 手始めに、流木、板、木箱が集積地点に運び込まれ、より細かいゴミ拾いが始まる。
 濡れてべっちょりした紙類だ。包装紙から重要機密書類、膨れた雑誌から稀覯本まで想定範囲に入る。
 一つ一つ拾い上げて、一応判別するので時間がかかる。

 ブラッドは砂に埋もれていた紙束を引っ込抜いた。
(こ、これはっ……)
 握った手に思わず力がこもり、しわが寄ったのを慌てて指で伸ばす。
(ふわもこアニマル専門雑誌「もふもふ日和」!!)
 産業革命は中間層に余裕を生み、愛玩動物の雑誌も発行され始めたところだ。「もふもふ日和」はその先駆けである。貴族のたしなみが庶民に下りてくるのだ。
(確か妙に人気ですぐに売り切れちまったんだよな)
 夏の特集は、『夏はショートヘアーもかわいい! 毛足の短い動物ちゃん大集合!』
 巻頭は、夏毛のツキャンゴラだった。狂暴な動物をかわいく撮った撮影班の健闘をたたえたい。
(これがここにあるってことは……捨てられてるって事だよな)
 三か月くらいは放置されている。
(捨てられちまってるものならこれは持って帰ってもいいんじゃねぇか? 国とかそっち方面では重要なものってわけでもねぇし。俺、欲しいし……読みたいし……)
 ブラッドは気が付いていないが、今までこまこま働いていた大男がいきなり立ち止まったら、みんな、すわ発見か。と動向を注視するに決まっている。
 もし、書類を着流しの懐に入れたら色々考えないといけない事態だ。。
(こ、これは掃除を頑張ったご褒美ってことにしちまおう。これなら問題ねぇはずだよな)
 ふと顔を上げる。
 アクアリスさんが見てる。あと、三種類くらい放たれてるホムンクルスさんも見てる。当然、ホムンクルスの操り手も見てる。
 みんな、大きく丸を出した。リユースも大事だよね! 大事に読んでね!
 ほほえましい光景と穏やかな笑みを浮かべていた月秋も砂から突き出た紙束の角を引き抜いた。
(はて?これは本、でしょうか。厚みがないぺらっぺらな冊子ですが)
 ゆらすとべよべよどころか、くたっとする。間に合わせに急遽作りました的な突貫工事のにおいがする。
(エドワード国王と何故か豊穣祭でラスボスを乗っ取っていたクローリーさんでしょうかね。この絵姿)
 おや、この陛下と道化はやけに仲良しだな。(内容要約)
 月秋は言葉を失った。
(これはある意味ヤバイ物なのでは?)
 どう考えても不敬罪に当たります。これは敵国の誹謗ビラです。そうに違いありません。うちの国王陛下が若くてハンサムで独身であるばっかりに!
(……僕がこの扉を開くのはまだ早いですねそんな日は永遠に来ないで下さい)
 そっ閉じしながら、じゃあこれどうするよ。という、問題が付きまとう。
(でもこれ、自由騎士団に提出してしまっていいのでしょうか)
 敵国の情報攻撃資料ですから提出してしかるべきじゃないでしょうかね。
(まぁ拾ったものは報告しなきゃですよね!)
 自分で持っていたくないという月秋のもっともな判断によって、それは集積所に提出された。
「何を見つけてもうろたえないこと!」
 中を確認したアクアリスは、しっかりと自分に言い聞かせた。
「他言厳禁だよ」
「もちろん」
 二人でがくがくと頷き合った。

●上級編・ゴミじゃないものを分別しよう。
「食ベ無イ。戦出来ナい!片付ケも!良イ無イ!」
 ――って、エイラが言うから、お弁当タイムですよ。
 自然に「これどうしようか」タイムに突入する。
「何やら見知らぬマークが入ったちょっと頑丈そうな箱な。いかにも怪しいわ。開かへん」
 アリシアがあれと指さした箱にはうっすら靴底の跡が残っている。これは提出な。
「中なんやったか、教えてもらえんやろか」
 好奇心がうずいて、夜しか眠れません。問題は、教えてもらった情報の真贋が付かないところだ。
「あとな。これやろ、あとこれな」
 金色のワインカップ――政敵にプレゼントする、これで酒飲むとどんどん体が悪くなる系のやつでは。
 濡れてしまってそのまま乾いたかっぴかぴの書類の束。もはや何語で書かれてるかもわからない。
「全部提出」
 満場一致。
「これ、私が見てもわからないと思うので」
 フーリィンが差し出したのは、蝋引きの紙の上から紐でガンガンに結ばれている。さらに封蝋が垂らしてある。封蝋の詳細は解けてわからないがすごく怪しい。
「プロテクト掛けるなんて生意気! ぜーったいに秘密を暴いてやるんだがら! 提出! 出来ればあの聖霊門に関する記述がある物が一番欲しいかな〜」
 クイニィーが声を上げる。
「今のイ・ラプセルにない武器とかあったら持って行ったら量産してくれそうだよな」
 ブラッドが名前だけ聞いた武器に思いをはせる。パイルバンカー。いったいどんな武器なんだ。
「それでそれで! これ、すっごく気になるんですけど」
 フーリィンがとっておきと取り出したのは瓶だ。中に、丸められた羊皮紙が入っている。ちらっと見える感じでは地図っぽい。どこの地図かは縮尺が分からないので詳細不明だ。
「人を集めて探しに行きましょうよー」
 フーリィンの目がきらっきらしている。提出して必要なら招集がかかるだろう。
「ねえ」
 豪華な燭台を提出箱に入れたクイニィーが難しい顔をしている。
「ミトラースの偶像は……ゴミでいい?」
 ――まだ元気だし、祟られたらあれだから分別しとこっか。影響なくなったら処分しよう?

●最上級編・命より価値のある宝はない。
 ごつごつした岩場。
 オーバーハング気味にえぐられた崖が更に複雑な海流を生み、事故を多発させ更なる堆積物が以下同文。
 打ち寄せる波しぶきがつべたい。
 それまで黙々と普通のゴミを拾い続けていたティラミスは一同に厳かに言った。
「死体を捜します」
 ざっぷーん。岩場は波が強い。暖かい上着もマスクもすべてこのため。小脇に万が一発見の時にいち早くかぶせるシーツを抱えている。
「沈んだ船があるということは、運悪く一緒に沈んでしまった人もいる可能性が高いです」
 そう。それが現実。だから、自由騎士団にお仕事が回ってきているともいえる。還リビトになってる可能性があるのだ。
「漂ってる間にお魚さんが目や唇といった柔らかい所から食べてしまった死体……そんなモノが浜辺に打ち上げられ、普通の人が目にしたらトラウマになってしまいます」
 そうですね。としか言えない現実。死後魂がセフィロトの海に帰るように。肉体は現実に恵みとして還る。
「学校で浜辺で怪しいものや変なもの、人の死体が打ち上げられてたとか、そんな噂がないか探っておきました。それっぽい話は聞けませんでしたが、大丈夫です!」
 宙にぽんぽんとうさぎのホムンクルスが生成され、それがふよふよと空中を走っていく。
「流レ着イたダケ。戻ルマタ海。戻ラなイは引ッカかるカラ! 引ッカかる所探ス!」
 エイラはクレバーだ。岩と岩のとがった部分をのぞき込んでいく。
「生キ物、探ス。生キテタ物。探ス」
 死体を埋めて祈る仕草、物を誰かに差し出す仕草。エイラは弔いをわかっている。
「命ヨリ価値アル積ミ荷。無イ。アってもオレは要ラなイ」
 ゴミを片付けなくては救出もままならない。複数のホムンクルスが飛んでいるが浜辺は広い。発見に手間取っただろう。
「思イ出。機密? 繋ゲる。繋ゲる」
 いなければそれでいいのだ。海で屍をさらすものはいなかった。
「海鳥が集まってる――見慣れない生き物がいる?」
 ティラミスのつぶやきにオラクル達はいっせいにそちらに走り出した。
 プラロークは、なぜ今日、広いイ・ラプセルの海岸線からこの場所を指定して捜索を開始しろと指定してきたのだろうか。
 樽が波間に打ち寄せられている。海鳥がたくさん止まっている。割れた蓋。
のぞき込むと、子供の頭が見えた。底に急いで突っ込まれた思しき帆布。乱雑に投げ込まれた果物。埋もれるように子供。やせ細っているが息をしている。

 オラクルは、秋の海で、男の子を拾った。
 口を利ける状態ではないが、生きていた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

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