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蒸気変態は王都にて笑う

●
夜の帳が降りた王都サンクディゼール。
昼間の王都は人々の往来が激しく、多種多様な種族が入り乱れて賑わいを見せているが、夜ともなればその様相を大きく変える。飲み屋の多い通りなら、これからの時間こそが本番だとばかりにまだ活気が残っている。が、それはごくごく一部だけの話だ。
「はあ、すっかり遅くなっちゃった」
暗い夜道を一人の女が歩いている。まるでひと気のない通りをたった一人で。自分の足音以外に聞こえるのは虫の声くらいなもので、それ以外には何も聞こえやしない。暗闇と静寂。それだけで恐怖を煽るには十分過ぎるシチュエーションだった。
「うぅ……怖い……早く帰りたい……」
寝静まった住宅街を女は早足で進んでいく。ちょっと用事で出掛けただけだった。こんな怖い思いをするなら、もっと早く帰っていれば。
後悔しつつもどんどんと歩を進めていく。しかし――。
「……」
女は唐突に歩みを止めた。
何か居る。
女の進行方向に何か黒い影が立ち尽くしていたのだ。
なんだろうアレは。人……? だとは思うけど、どうしてこんな場所で一人で立っているんだろう。嫌だ。怖い。怖すぎる。とにかくアレに関わるのはヤバイ。
本能的に後ずさる。だがしかし、逃げるよりも先に、黒い影が動きを見せた。
「やあ、お嬢さん。こんな夜更けにこんばんは」
明るい男の声が夜闇に響く。
間違いなく人間だ。それもちょっと紳士的な雰囲気の。その事実に女はホッと仕掛けた。その油断が大きな間違いだった。
「いけない娘だ。こんな遅くに一人で出歩くなんて」
男が近づいてくる。近づかれて初めて分かったが、男は黒い覆面に、首から下を黒いマントのようなもので包みこんでいた。
「――!」
どう見ても不審人物だった。女は叫ぼうとしたが恐怖のあまり声が出ない。
その間にも全身黒ずくめの怪しい男は近づいてくる。
「そんなに夜遊びばかりしていると、危ない目に遭っちゃうよ――」
男は体に纏っていたマントをおもむろに大きく広げた。
「こんな風にねえ!」
ほぼ同時に男の下腹部から白いモノが噴き出す。
「きゃあああああああああ!」
住宅街に女の悲鳴が甲高く木霊した。
●
「――まあその白いモノって言うのは、蒸気だったらしいのよね」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)が言うと、集まったオラクル達は色んな意味で安心した顔をする。別の白いモノだったら問題が有り過ぎて大変な事になるからだ。
「その不審者は、蒸気を噴き出す機械のパンツを履いていたらしいの」
なんて頭の悪い蒸気機械なんだろう。誰かが呆れて呻き声をあげた。
それで男は被害者に蒸気を吹きかけるだけ吹きかけた後、高笑いしながら姿を眩ましたのだという。そんな事件がここ数日のうちに毎晩立て続けに起きているらしい。恐らくは今夜もきっと。
「その変態は女の敵よ。許してはおけないわ」
バーバラの静かな怒りにオラクル達は同意を示す。
「今晩のうちに捕まえてやって欲しいの。お願いできるかしら?」
断る理由があるのだろうか? いや、ない。変態許すまじ。
オラクル達は戦いの準備を始めたのだった。
夜の帳が降りた王都サンクディゼール。
昼間の王都は人々の往来が激しく、多種多様な種族が入り乱れて賑わいを見せているが、夜ともなればその様相を大きく変える。飲み屋の多い通りなら、これからの時間こそが本番だとばかりにまだ活気が残っている。が、それはごくごく一部だけの話だ。
「はあ、すっかり遅くなっちゃった」
暗い夜道を一人の女が歩いている。まるでひと気のない通りをたった一人で。自分の足音以外に聞こえるのは虫の声くらいなもので、それ以外には何も聞こえやしない。暗闇と静寂。それだけで恐怖を煽るには十分過ぎるシチュエーションだった。
「うぅ……怖い……早く帰りたい……」
寝静まった住宅街を女は早足で進んでいく。ちょっと用事で出掛けただけだった。こんな怖い思いをするなら、もっと早く帰っていれば。
後悔しつつもどんどんと歩を進めていく。しかし――。
「……」
女は唐突に歩みを止めた。
何か居る。
女の進行方向に何か黒い影が立ち尽くしていたのだ。
なんだろうアレは。人……? だとは思うけど、どうしてこんな場所で一人で立っているんだろう。嫌だ。怖い。怖すぎる。とにかくアレに関わるのはヤバイ。
本能的に後ずさる。だがしかし、逃げるよりも先に、黒い影が動きを見せた。
「やあ、お嬢さん。こんな夜更けにこんばんは」
明るい男の声が夜闇に響く。
間違いなく人間だ。それもちょっと紳士的な雰囲気の。その事実に女はホッと仕掛けた。その油断が大きな間違いだった。
「いけない娘だ。こんな遅くに一人で出歩くなんて」
男が近づいてくる。近づかれて初めて分かったが、男は黒い覆面に、首から下を黒いマントのようなもので包みこんでいた。
「――!」
どう見ても不審人物だった。女は叫ぼうとしたが恐怖のあまり声が出ない。
その間にも全身黒ずくめの怪しい男は近づいてくる。
「そんなに夜遊びばかりしていると、危ない目に遭っちゃうよ――」
男は体に纏っていたマントをおもむろに大きく広げた。
「こんな風にねえ!」
ほぼ同時に男の下腹部から白いモノが噴き出す。
「きゃあああああああああ!」
住宅街に女の悲鳴が甲高く木霊した。
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「――まあその白いモノって言うのは、蒸気だったらしいのよね」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)が言うと、集まったオラクル達は色んな意味で安心した顔をする。別の白いモノだったら問題が有り過ぎて大変な事になるからだ。
「その不審者は、蒸気を噴き出す機械のパンツを履いていたらしいの」
なんて頭の悪い蒸気機械なんだろう。誰かが呆れて呻き声をあげた。
それで男は被害者に蒸気を吹きかけるだけ吹きかけた後、高笑いしながら姿を眩ましたのだという。そんな事件がここ数日のうちに毎晩立て続けに起きているらしい。恐らくは今夜もきっと。
「その変態は女の敵よ。許してはおけないわ」
バーバラの静かな怒りにオラクル達は同意を示す。
「今晩のうちに捕まえてやって欲しいの。お願いできるかしら?」
断る理由があるのだろうか? いや、ない。変態許すまじ。
オラクル達は戦いの準備を始めたのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.変態を捕まえる
おはようございます、へいんです。
王都に変態が出没しているそうなので、とっ捕まえてやりましょう。
■敵情報
・変態男×1
黒い覆面に黒いマント。
マントの下には蒸気を噴き出せる特製パンツを履いている。
蒸気の最大射程は3Mほど。前方の相手の視界を奪う程度の効果しかない。
蒸気はほんのりと嫌な感じに温かい程度で、精神面以外の害はなし。
目撃証言から身体能力は並だと思われるが、直ぐに行方を眩ませている事からも犯人は非常に土地勘があると思われる。一度見失うと再発見は困難かもしれない。何か手立てがあれば話は別だが……。
■バーバラからの情報
・犯人は『夜』に『一人で出歩いている若い女性』だけを狙っている。
闇雲に探しまわるのは非常に難しいだろう。
何か良い方法を考えよう。
・過去の出現場所はいずれもバラバラで法則が皆無だ。
王都はそれなりに広い。何をするにしても、せめて次に出現しそうな場所くらいは目当てを付けておきたい。
昼間のうちに調査をする事で何か情報を得られる可能性はある。
『聞き込み』『現場の調査』『被害者達への事情聴取』などは有効かもしれない。
ただしそれぞれの行動に対して有用なスキルはあった方が良い。特に被害者達に話を聞く場合は。
・犯人も馬鹿じゃない。自分を捕まえるために人が動いている事を分かっている。
いざという時のために何か追っ手を撒く手段を用意していると思っていい。
例えば『煙幕』などのように周囲の視界を塞ぐ手段を蒸気パンツ以外に持っている可能性は十分にある。或いは『閃光』を発して目を眩ませる道具とか……。
いずれにせよ対策さえ万全ならば何とかなるはず。
以上。皆様のプレイングをお待ちしております。
みんなで守ろう王都の治安。
王都に変態が出没しているそうなので、とっ捕まえてやりましょう。
■敵情報
・変態男×1
黒い覆面に黒いマント。
マントの下には蒸気を噴き出せる特製パンツを履いている。
蒸気の最大射程は3Mほど。前方の相手の視界を奪う程度の効果しかない。
蒸気はほんのりと嫌な感じに温かい程度で、精神面以外の害はなし。
目撃証言から身体能力は並だと思われるが、直ぐに行方を眩ませている事からも犯人は非常に土地勘があると思われる。一度見失うと再発見は困難かもしれない。何か手立てがあれば話は別だが……。
■バーバラからの情報
・犯人は『夜』に『一人で出歩いている若い女性』だけを狙っている。
闇雲に探しまわるのは非常に難しいだろう。
何か良い方法を考えよう。
・過去の出現場所はいずれもバラバラで法則が皆無だ。
王都はそれなりに広い。何をするにしても、せめて次に出現しそうな場所くらいは目当てを付けておきたい。
昼間のうちに調査をする事で何か情報を得られる可能性はある。
『聞き込み』『現場の調査』『被害者達への事情聴取』などは有効かもしれない。
ただしそれぞれの行動に対して有用なスキルはあった方が良い。特に被害者達に話を聞く場合は。
・犯人も馬鹿じゃない。自分を捕まえるために人が動いている事を分かっている。
いざという時のために何か追っ手を撒く手段を用意していると思っていい。
例えば『煙幕』などのように周囲の視界を塞ぐ手段を蒸気パンツ以外に持っている可能性は十分にある。或いは『閃光』を発して目を眩ませる道具とか……。
いずれにせよ対策さえ万全ならば何とかなるはず。
以上。皆様のプレイングをお待ちしております。
みんなで守ろう王都の治安。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
5個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2018年07月01日
2018年07月01日
†メイン参加者 7人†

●
王都サンクディーゼルは今日も活気に満ちあふれていた。
近頃はヴィスマルクとの戦争があったり、その他小規模な戦闘が国内の至る所で頻発していたが、それはそれとして国の中心部である王都は常に賑やかなものである。
そんな王都の平和を脅かす不安の種が一つある。
「むむ……女の敵が出たんだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は狼耳をわなわなと震わせ、怒りを露わにして声を荒げた。
怒りの矛先は勿論、今王都を騒がせている『変態』に対してである。
サシャとてまだ子供で多少の悪戯だってする……本人に自覚があるかはともかく。その悪戯が原因で教会の司祭様に怒られて、隠れ家に逃げ込む事だってしょっちゅうだ。
しかし件の変態は悪戯の領域を大きくはみ出ている。王都に住む女子供は見えない変態の脅威に怯えていたし、サシャの身内だって例外じゃない。
サンクディーゼルの教会にはサシャの弟や妹達も住んでいる。大事な弟妹達を怖がらせた事をサシャはとても怒っていた。
そんなサシャの隣に連れ立って歩くローブ姿の少女――実年齢はともかく見た目は少女――は、怒りというよりも疑問に首を傾げる。
「いつも思うのだけど、変態って得てして根性あるし才能を無駄遣いしてるわよね……」
そんなに面白い物なのかしらね……と疑問を口にしながら『翠の魔焔師』猪市 きゐこ(CL3000048)は目的地に向かって歩いていた。
行き先は例の変態が出没したというポイント。被害者の女性が襲われた場所だ。
変態は連日連夜犯行に及んでいる。二人は手がかりを求めて犯人の軌跡を辿っていた。
「で、王都各地を巡ったのはいいけれど、手がかりらしい手がかりは見つからないわね」
結局それらしいヒントも得られぬまま、きゐこは広場のベンチに座って溜息を吐いた。隣にはサシャもいて、獣耳をしゅんと項垂れさせている。
分かった事と言えば、変態の犯行現場は全て夜間に人気のない住宅街付近で行われているという事くらいか。
収穫なし。しかしきゐこは妙な引っかかりを覚えていた。
「この犯行現場と、これまでの犯行現場、何か似ていると思わないかしら?」
「分からないぞ……ここもさっき見て回った所も全部普通の住宅街だぞ」
それについてはきゐこも同意見だ。しかし引っかかりを覚えたのは確かだ。
一見するとただの良くある住宅街の表通り。やや人気のある場所からは離れているという共通点はあるが――。
「あ」
「ああ!」
と、きゐことサシャは同時に声を上げた。彼女らの目星が効果を果たしたのだ。
「分かったぞ!」
「成程、分かってみれば至極単純、当たり前だったわね」
●
一方こちらは別行動の聞き込み組。
変態の出没箇所で『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は地道な聞き込みをしていた。
「えーと、その……最近王都で出没している変態について聞きたいのですけれど……あ、いや別に貴方を疑ってはいませんよ」
男性を中心に声を掛けるのだが、変態について聞かれた男性陣はこぞって動揺する。アリアの感情探査に引っかかりまくりだった。
動揺するという事は何か心にやましい部分があるのだろうか。
(お願いだからこんな質問で心を乱さないで……)
アリアは若干の男性不信になりかけながらも聞き込みを続けるが、めぼしい情報は得られずにいた。
「ふむ。昼間の不審者の目撃情報はなし、じゃな」
『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)はアリアと聞き込みで得た情報を共有する。
「そうですね、例の変態そのものは噂になっているけれど、昼間に不審者を見たと言う話はなかったですね」
噂に強い学徒であるアリアの情報網をもってしても目撃情報はイマイチ。逆に言えば、昼間の変態はそれだけ市井に溶け込んでいるという事に他ならない。
と、シノピリカが情報を吟味している所に一陣の風が吹いた。もう一人の仲間が姿を現したのだ。
「北のほうで情報集めてきたよー!」
元気いっぱいの声を上げながらジーニアス・レガーロ(CL3000319)がシノピリカとアリアの側で急ブレーキを掛けた。
韋駄天足で王都を駆けてきたケモノビトの少年は、とびっきりの笑顔で入手した情報を話す。
ジーニアスが言った北の方というのは、王都北側に位置する蒸気工場が集まる地域を指している。
今回の一件は、蒸気パンツという一定の技術力が必要な代物が出てきている。故にジーニアスは工場や職人関係に的を絞って聞き込みをしていたのだ。
そしてその成果は確かな手応えを感じさせるものだった。
「そっち方面でなら犯人候補となる怪しい人物が何人かいるんですね」
アリアは言いつつもげんなりする。確かに蒸気機械に関する職人は変わり者も多いイメージだが、犯人候補が多いのも如何なものかと。
「となれば私達も蒸気機械関連での聞き込みにシフトした方が良さそうね」
「うん! おいらももう一回聞き込みしてくるね!」
「うむ、それがよいじゃろうな。さて、ワシは被害者達にも事情聴取をしてくるかの」
「では日没前にまた落ち合いましょう。その頃なら他の皆も調査を終えてるでしょうし」
仲間と別れ、シノピリカは被害者達の元を尋ねて行く。
被害者達は一様に疲れた顔をしており、未だ犯人が捕まっていない事に不安を感じている様子だった。その様子にシノピリカは憤りを覚える。
蒸気技術をいかがわしい欲望を満たす為に悪用するなど言語道断。許しがたき行いだ。彼女は自らの眼、腕、脚を補う蒸気鎧装に懸けて犯人を捕らえると心に誓う。
そんなシノピリカは騎士としての威風を纏い、被害女性からの聞き込みをスムーズに進めていた。
そして事情聴取を進めている内に、シノピリカはある共通点に思い至る。
「待った、今の話は本当じゃな?」
「え? ああ、はい、そうですが……」
それがどうかしましたか? という顔の被害者だったが、対するシノピリカはニヤリと口端を持ち上げた。
「なるほど。となれば、後はアリア殿とジニー殿の情報があればかなり絞り込めそうじゃな」
●
「女の子が1人で歩いてると襲われちゃうんですよね? こわ~い……そのお話、もっと聞かせてもらえますか~?」
少し間延びした口調の甘えた声が、昼間の酒場から聞こえてくる。
『八千代堂』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は、鼻の下を伸ばす男の隣に座って、酒を継ぎながら話を聞いていた。
シェリルのセクシーな色気に完全に骨抜きにされた男達は、昼間から酒を飲みながらどんどん口を軽くしていく。
すぐ近くの席では『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)も似たような手法で聞き込みをしていた。
もっともローラの方はなんというか……より色めいた話の方が多いというか。詳しく書きすぎると年齢制限的にマズい事になりそうだ。
シェリルは仕事でやっているが、ローラのそれは最早日常の延長線上というか――あ、ローラが男の一人と腕を組んで何処かに行ってしまった。
いやいや、多分情報収集のために場所を移しただけだろう。
シェリルは何も見なかった事にして会話を続ける。
「どの辺によく出没するとか、逃げる時はどっちに逃げるとか聞いた事ありますか~?」
「さあなぁ? そういうのは俺達よりも被害者に聞いた方が良いんじゃねえか? ああ、でもそういえば――」
「そういえば……なんですか~?」
さりげなく身体を近づけるシェリルに、男はさらに鼻の下を長く伸ばす。
「あぁ、そういえば何だが、事件直後に知り合いが北の方へ走って行く黒い影を見たって言ってたな」
なんでその情報をもっと早く騎士達に言わなかったのかとシェリルは思った。いや、考えて見ればこの酒場は脛に傷ある人間の溜まり場だ。言わなかったのではなく、言えなかったのだろう。だとすればここまで足を運んだ苦労も無駄ではなかったと言う事か。
「あ~、わたし用事を思い出したのでこれで失礼しますね~」
ここでの仕事は終わったとばかりにシェリルは席を立つ。男が呼び止めるのも意に返さず。
店を出ると入り口横でローラが待っていた。
「さっきの人はどうしたんですか~?」
「一応お仕事中だから、情報だけ聞いてサヨナラしたよ」
本当だろうか。仲間を疑う訳じゃないが何だかローラがツヤツヤしているのが気になる……。
「それよりもシェリルさんは何か収穫はあった?」
「黒い人影の目撃情報を聞けましたよ~」
事件直後に黒い人影が北に逃げたという話をするとローラは頷いた。
「北側って言えば蒸気工場の方面か。じゃあやっぱり技師関係の人が犯人かな」
「かもしれませんね~」
「あ、そうだ、ローラの方も面白い情報を聞けたよ。事件の共通点についてなんだけど――」
●
水平線の彼方に日が顔を沈め始め、王都の街並みが綺麗な茜色に染まる。
変態についての情報収集をしていたオラクル達は、調査を切り上げて予定通りの時刻に集合していた。
オラクル達は額を付き合わせて各々が集めた情報を共有する。
その結果、犯人についての目星と、次に犯人が出没しそうな場所の特定に成功した。
「みなさんの情報から推理するに囮を配置するのは~、こことここと、後はそこですね~」
広げた地図の上にシェリルが点を打っていく。その場所を見てシノピリカも異論はないと頷いた。
「そうじゃな。きゐこ殿とサシャ殿の見立てが確かならば、その辺りで間違いないじゃろう」
「犯人の方も問題ないと思います。多分『餌』にも掛かってくれると思うわよ」
アリアが自信ありげに成果を報告する。仲間達の情報によって犯人はかなり絞り込めた。後は犯人が罠に掛かるのを祈るだけだ。
「さて、作戦も決まった所だしそろそろ良いかしら!?」
きゐこが少し興奮した様子でアクセサリや化粧品の類いを持ち出した。そしてジーニアスにジリジリと迫っていく。
「じょそーだね! 何だか楽しそう!」
ジーニアスは玩具にされているにも関わらず楽しそうにしている。それを良い事に女性陣達はわちゃわちゃとジーニアスを仕立ててゆく。
「面白そうだな! サシャも混ぜて欲しいんだぞ!」
「ジニー殿はこっちのフリフリも似合うのではないか? 被害女性の服とも一致しておるし」
「お化粧もしっかりしましょうね~」
「グッドだわ! もう女性よりも女性らしくなってるわね!」
「ふーん……やっぱり小さくても男の子なんだねー。ねえ、ちょっとローラと良い事しない?」
「ローラさんは私と一緒に囮ポイントに行こうか」
……こうして王都の夜は更けていく。
●
暗い夜道を一人の女が歩いている。まるでひと気のない通りをたった一人で。
不意に女は足を止めた。進行方向に人影を見つけたからだ。暗い夜道に佇む黒い人影を見て、どうして立ち止まらずにいられようか。
女が身動きを取らなくなった事を確認してから、黒い人影はゆっくりと動き出した。
「こんばんはお嬢さん、こんな夜更けに一人歩きとは感心しませんね」
ただでさえも不審者が出没しているというのに。と、不審者本人がそう告げる。
「そんな悪い子には……お仕置きだあ!」
黒い影がマントを広げる。マントの下が露わになる。驚くべき事に不審者は金属製のパンツ一丁の姿だった。
そのパンツから真っ白な蒸気が勢いよく噴き出てくる。
仁王立ちで白いモノを少女にぶっかけるその姿は紛う事なき変態でした。
「うわー! なんだかすっごいムワっとするよー!」
「何!?」
しかし蒸気を浴びた少女の反応は、変態が期待していたものとは少々違った。
悲鳴を上げない!? いや、というか良く見るとこの娘は――!
「貴様、男の娘だな!?」
「おぉーすごいね変態さん。あっさり見破っちゃうなんて」
変態は男の娘――ジーニアスの反応を見てようやく気が付く。自分が罠に掛かった事に。
気が付くや否や変態の行動は早かった。即座に反転して逃げの姿勢を取ったのだ。
「ホント残念だわ。折角女性よりも女性らしくしたつもりだったのに」
しかし振り向いた先にはもう一人少女がいた。囲まれている。
「逃げても無駄よ。直ぐに仲間が駆け付けてくるわ」
変態は応えない。返事の代わりに懐から何か玉のようなものを取り出した。きゐこが止める間もなく、変態はそれを地面に叩きつける。
瞬間辺りに眩い閃光が広がり、一瞬ではあるがきゐことジーニアスの視界を眩ませる。
予測はしていたので眩んだのは一瞬だったが、それでも変態はその隙をついて走り出す。きゐこのアイスコフィンも掠る程度で足を止められない。
「予定通りに追い詰めるわよ、ジーニアスさん!」
「むふー、変態さんもおにごっこで遊びたいんだね! それじゃースタート!」
背後に追っ手の気配を感じながらも変態は必死に逃げていた。
先程のフードの女が使った氷の能力。あれは間違いなくオラクルの力だろう。となれば追っ手は自由騎士団の人間だろうか。
ちょっとした悪戯のつもりがとんでもない相手を呼び寄せてしまったのではないだろうか。
変態は冷や汗だらけで暗い王都を逃げ回る。
「変態こ、滅すべし。慈悲はない……です」
「犯人は絶対逃がさないんだぞ! 女性の敵は許さないんだぞ!」
その内、別方向からも声が聞こえてきて、追っ手の数が増えていった。というか誰か一瞬殺すって言いかけてなかったか!?
もう変態は死にもの狂いで逃げるしかなかった。そして追い詰められていく。
気が付けば袋小路。変態はオラクルに囲まれてしまっていた。
「そこまでじゃ。大人しく投降すれば悪いようにはせん」
シノピリカが投降を促すと、変態は項垂れて膝を付いた。オラクル達はやや警戒しながらも変態に近づいていく。
「――と、見せかけて喰らえ蒸気攻撃!」
9割女性陣のオラクル達に向かって変態が蒸気を吹きかける。
「いやああ! 変態やだやだ助けて!」
ピンク色の少女が上げた悲鳴を聞いて変態はうっとりする。その悲鳴が聞きたかったのだと。
直後にピンクの少女が変態の股間に鋭いケリを入れた。
蒸気パンツは鉄製なのでダメージはないが、男故に反射的に前屈みになってしまう。
そうして動きを止めた変態を、女性陣達は容赦なくボコボコにして縛り上げたのだった。
●
犯人の正体はやはり蒸気機械などの製作に携わっている技師だった。
ジーニアス、アリア、そしてシェリルの情報通り、王都北側のとある工房で働いているらしい。
その工房というのは一般市民用の小型の機械を作っている場所らしく、被害女性は全員がその工房から出荷されたランプ買っていた事がローラの調べにより判明している。
ローラが誑かした男は、被害者女性の一人がランプの修理を頼んだ店の人間だったのだ。そこ経由でランプの製造元が割れたのだ。
基本的に王都内部は街灯があるので明るい所は明るい。が、それでも街灯が設置されていない場所もまだそれなりにある。
例えばか弱い女性が移動時用のランプを買うとしたらその使い所は何処だろうか。夜間は王都の外は危ないのだから、その用途は王都内部に限定される可能性が高い。
つまり例のランプを買った女性はほぼ全員が、王都の街灯の無い場所をよく歩くのだと推理出来る。
きゐことサシャが発見した事件現場の共通点。それは現場には街灯がない、という事だったのだ。街灯のない通りで、まだ事件の発生してない場所を特定するのは容易だった。
そして問題のランプが全て同じ時期に故障していたという事がシノピリカの事情聴取で判明している。そうなるように犯人が仕組んでいたのだろう。
ランプが壊れた後は、どうしても外せない用事のために灯りもなく夜歩きする女性が増えるはずだ。だから犯人は待ったのだ。暗がりの中でその時を。
以上を踏まえて日が落ちる前に例の故障したランプを持ち歩き周り、その上で囮作戦を決行した結果、あっさりと犯人は釣られてくれたという訳だ。
「反省するんだぞ! 女性だけじゃなくて小さなお子様も怖がらせてるんだぞ!」
倒れる変態をサシャが力強く諭す。しかし反応は見られない。シノピリカはその様子を見てやれやれと溜息を吐く。
「ちゃんと罪を償って更生した暁には、話を聞いてやるゆえな。なんなら蒸気程度ならいくらでもぶっかかってくれようぞ!」
「いや……自分から来る人はちょっと」
「この変態は反省が足りてないわね……女性になる覚悟があるのかしら」
杖を振りながら恐ろしい事をきゐこが呟く。
そんなきゐこを宥めてシェリルが一歩変態に近づいた。
「わたしにはよくわかりませんが……あなたにはもっとすごいことができると思うのです!こんな人が嫌がることではなく、人から喜ばれるお仕事、きっと見つかりますよ!」
言うと変態は今度こそ負けたとばかりに沈黙した。これにて一件落着だろうか。
「ところで何で蒸気を掛けて遊んでたのー? 皆が最初、白い蒸気だって聞いて安心してた理由もおいらわからないよ」
最後の最後にジーニアスがそんな事を言うものだから全員が答えあぐねて口を閉ざす。
しかしローラだけは嬉々として艶っぽい笑みを浮かべた。
「それはねぇ、ローラがこれから教えてあげよっか?」
「ローラさん! 相手はまだ子供だから! 邪な心は見せないで!」
そんなローラをアリアが後ろから羽交い締めにする。
今宵の王都は悲鳴では無く、楽しげな笑い声がいつまでも響いていたという。
王都サンクディーゼルは今日も活気に満ちあふれていた。
近頃はヴィスマルクとの戦争があったり、その他小規模な戦闘が国内の至る所で頻発していたが、それはそれとして国の中心部である王都は常に賑やかなものである。
そんな王都の平和を脅かす不安の種が一つある。
「むむ……女の敵が出たんだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は狼耳をわなわなと震わせ、怒りを露わにして声を荒げた。
怒りの矛先は勿論、今王都を騒がせている『変態』に対してである。
サシャとてまだ子供で多少の悪戯だってする……本人に自覚があるかはともかく。その悪戯が原因で教会の司祭様に怒られて、隠れ家に逃げ込む事だってしょっちゅうだ。
しかし件の変態は悪戯の領域を大きくはみ出ている。王都に住む女子供は見えない変態の脅威に怯えていたし、サシャの身内だって例外じゃない。
サンクディーゼルの教会にはサシャの弟や妹達も住んでいる。大事な弟妹達を怖がらせた事をサシャはとても怒っていた。
そんなサシャの隣に連れ立って歩くローブ姿の少女――実年齢はともかく見た目は少女――は、怒りというよりも疑問に首を傾げる。
「いつも思うのだけど、変態って得てして根性あるし才能を無駄遣いしてるわよね……」
そんなに面白い物なのかしらね……と疑問を口にしながら『翠の魔焔師』猪市 きゐこ(CL3000048)は目的地に向かって歩いていた。
行き先は例の変態が出没したというポイント。被害者の女性が襲われた場所だ。
変態は連日連夜犯行に及んでいる。二人は手がかりを求めて犯人の軌跡を辿っていた。
「で、王都各地を巡ったのはいいけれど、手がかりらしい手がかりは見つからないわね」
結局それらしいヒントも得られぬまま、きゐこは広場のベンチに座って溜息を吐いた。隣にはサシャもいて、獣耳をしゅんと項垂れさせている。
分かった事と言えば、変態の犯行現場は全て夜間に人気のない住宅街付近で行われているという事くらいか。
収穫なし。しかしきゐこは妙な引っかかりを覚えていた。
「この犯行現場と、これまでの犯行現場、何か似ていると思わないかしら?」
「分からないぞ……ここもさっき見て回った所も全部普通の住宅街だぞ」
それについてはきゐこも同意見だ。しかし引っかかりを覚えたのは確かだ。
一見するとただの良くある住宅街の表通り。やや人気のある場所からは離れているという共通点はあるが――。
「あ」
「ああ!」
と、きゐことサシャは同時に声を上げた。彼女らの目星が効果を果たしたのだ。
「分かったぞ!」
「成程、分かってみれば至極単純、当たり前だったわね」
●
一方こちらは別行動の聞き込み組。
変態の出没箇所で『蒼の審問騎士』アリア・セレスティ(CL3000222)は地道な聞き込みをしていた。
「えーと、その……最近王都で出没している変態について聞きたいのですけれど……あ、いや別に貴方を疑ってはいませんよ」
男性を中心に声を掛けるのだが、変態について聞かれた男性陣はこぞって動揺する。アリアの感情探査に引っかかりまくりだった。
動揺するという事は何か心にやましい部分があるのだろうか。
(お願いだからこんな質問で心を乱さないで……)
アリアは若干の男性不信になりかけながらも聞き込みを続けるが、めぼしい情報は得られずにいた。
「ふむ。昼間の不審者の目撃情報はなし、じゃな」
『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)はアリアと聞き込みで得た情報を共有する。
「そうですね、例の変態そのものは噂になっているけれど、昼間に不審者を見たと言う話はなかったですね」
噂に強い学徒であるアリアの情報網をもってしても目撃情報はイマイチ。逆に言えば、昼間の変態はそれだけ市井に溶け込んでいるという事に他ならない。
と、シノピリカが情報を吟味している所に一陣の風が吹いた。もう一人の仲間が姿を現したのだ。
「北のほうで情報集めてきたよー!」
元気いっぱいの声を上げながらジーニアス・レガーロ(CL3000319)がシノピリカとアリアの側で急ブレーキを掛けた。
韋駄天足で王都を駆けてきたケモノビトの少年は、とびっきりの笑顔で入手した情報を話す。
ジーニアスが言った北の方というのは、王都北側に位置する蒸気工場が集まる地域を指している。
今回の一件は、蒸気パンツという一定の技術力が必要な代物が出てきている。故にジーニアスは工場や職人関係に的を絞って聞き込みをしていたのだ。
そしてその成果は確かな手応えを感じさせるものだった。
「そっち方面でなら犯人候補となる怪しい人物が何人かいるんですね」
アリアは言いつつもげんなりする。確かに蒸気機械に関する職人は変わり者も多いイメージだが、犯人候補が多いのも如何なものかと。
「となれば私達も蒸気機械関連での聞き込みにシフトした方が良さそうね」
「うん! おいらももう一回聞き込みしてくるね!」
「うむ、それがよいじゃろうな。さて、ワシは被害者達にも事情聴取をしてくるかの」
「では日没前にまた落ち合いましょう。その頃なら他の皆も調査を終えてるでしょうし」
仲間と別れ、シノピリカは被害者達の元を尋ねて行く。
被害者達は一様に疲れた顔をしており、未だ犯人が捕まっていない事に不安を感じている様子だった。その様子にシノピリカは憤りを覚える。
蒸気技術をいかがわしい欲望を満たす為に悪用するなど言語道断。許しがたき行いだ。彼女は自らの眼、腕、脚を補う蒸気鎧装に懸けて犯人を捕らえると心に誓う。
そんなシノピリカは騎士としての威風を纏い、被害女性からの聞き込みをスムーズに進めていた。
そして事情聴取を進めている内に、シノピリカはある共通点に思い至る。
「待った、今の話は本当じゃな?」
「え? ああ、はい、そうですが……」
それがどうかしましたか? という顔の被害者だったが、対するシノピリカはニヤリと口端を持ち上げた。
「なるほど。となれば、後はアリア殿とジニー殿の情報があればかなり絞り込めそうじゃな」
●
「女の子が1人で歩いてると襲われちゃうんですよね? こわ~い……そのお話、もっと聞かせてもらえますか~?」
少し間延びした口調の甘えた声が、昼間の酒場から聞こえてくる。
『八千代堂』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は、鼻の下を伸ばす男の隣に座って、酒を継ぎながら話を聞いていた。
シェリルのセクシーな色気に完全に骨抜きにされた男達は、昼間から酒を飲みながらどんどん口を軽くしていく。
すぐ近くの席では『裏街の夜の妖精』ローラ・オルグレン(CL3000210)も似たような手法で聞き込みをしていた。
もっともローラの方はなんというか……より色めいた話の方が多いというか。詳しく書きすぎると年齢制限的にマズい事になりそうだ。
シェリルは仕事でやっているが、ローラのそれは最早日常の延長線上というか――あ、ローラが男の一人と腕を組んで何処かに行ってしまった。
いやいや、多分情報収集のために場所を移しただけだろう。
シェリルは何も見なかった事にして会話を続ける。
「どの辺によく出没するとか、逃げる時はどっちに逃げるとか聞いた事ありますか~?」
「さあなぁ? そういうのは俺達よりも被害者に聞いた方が良いんじゃねえか? ああ、でもそういえば――」
「そういえば……なんですか~?」
さりげなく身体を近づけるシェリルに、男はさらに鼻の下を長く伸ばす。
「あぁ、そういえば何だが、事件直後に知り合いが北の方へ走って行く黒い影を見たって言ってたな」
なんでその情報をもっと早く騎士達に言わなかったのかとシェリルは思った。いや、考えて見ればこの酒場は脛に傷ある人間の溜まり場だ。言わなかったのではなく、言えなかったのだろう。だとすればここまで足を運んだ苦労も無駄ではなかったと言う事か。
「あ~、わたし用事を思い出したのでこれで失礼しますね~」
ここでの仕事は終わったとばかりにシェリルは席を立つ。男が呼び止めるのも意に返さず。
店を出ると入り口横でローラが待っていた。
「さっきの人はどうしたんですか~?」
「一応お仕事中だから、情報だけ聞いてサヨナラしたよ」
本当だろうか。仲間を疑う訳じゃないが何だかローラがツヤツヤしているのが気になる……。
「それよりもシェリルさんは何か収穫はあった?」
「黒い人影の目撃情報を聞けましたよ~」
事件直後に黒い人影が北に逃げたという話をするとローラは頷いた。
「北側って言えば蒸気工場の方面か。じゃあやっぱり技師関係の人が犯人かな」
「かもしれませんね~」
「あ、そうだ、ローラの方も面白い情報を聞けたよ。事件の共通点についてなんだけど――」
●
水平線の彼方に日が顔を沈め始め、王都の街並みが綺麗な茜色に染まる。
変態についての情報収集をしていたオラクル達は、調査を切り上げて予定通りの時刻に集合していた。
オラクル達は額を付き合わせて各々が集めた情報を共有する。
その結果、犯人についての目星と、次に犯人が出没しそうな場所の特定に成功した。
「みなさんの情報から推理するに囮を配置するのは~、こことここと、後はそこですね~」
広げた地図の上にシェリルが点を打っていく。その場所を見てシノピリカも異論はないと頷いた。
「そうじゃな。きゐこ殿とサシャ殿の見立てが確かならば、その辺りで間違いないじゃろう」
「犯人の方も問題ないと思います。多分『餌』にも掛かってくれると思うわよ」
アリアが自信ありげに成果を報告する。仲間達の情報によって犯人はかなり絞り込めた。後は犯人が罠に掛かるのを祈るだけだ。
「さて、作戦も決まった所だしそろそろ良いかしら!?」
きゐこが少し興奮した様子でアクセサリや化粧品の類いを持ち出した。そしてジーニアスにジリジリと迫っていく。
「じょそーだね! 何だか楽しそう!」
ジーニアスは玩具にされているにも関わらず楽しそうにしている。それを良い事に女性陣達はわちゃわちゃとジーニアスを仕立ててゆく。
「面白そうだな! サシャも混ぜて欲しいんだぞ!」
「ジニー殿はこっちのフリフリも似合うのではないか? 被害女性の服とも一致しておるし」
「お化粧もしっかりしましょうね~」
「グッドだわ! もう女性よりも女性らしくなってるわね!」
「ふーん……やっぱり小さくても男の子なんだねー。ねえ、ちょっとローラと良い事しない?」
「ローラさんは私と一緒に囮ポイントに行こうか」
……こうして王都の夜は更けていく。
●
暗い夜道を一人の女が歩いている。まるでひと気のない通りをたった一人で。
不意に女は足を止めた。進行方向に人影を見つけたからだ。暗い夜道に佇む黒い人影を見て、どうして立ち止まらずにいられようか。
女が身動きを取らなくなった事を確認してから、黒い人影はゆっくりと動き出した。
「こんばんはお嬢さん、こんな夜更けに一人歩きとは感心しませんね」
ただでさえも不審者が出没しているというのに。と、不審者本人がそう告げる。
「そんな悪い子には……お仕置きだあ!」
黒い影がマントを広げる。マントの下が露わになる。驚くべき事に不審者は金属製のパンツ一丁の姿だった。
そのパンツから真っ白な蒸気が勢いよく噴き出てくる。
仁王立ちで白いモノを少女にぶっかけるその姿は紛う事なき変態でした。
「うわー! なんだかすっごいムワっとするよー!」
「何!?」
しかし蒸気を浴びた少女の反応は、変態が期待していたものとは少々違った。
悲鳴を上げない!? いや、というか良く見るとこの娘は――!
「貴様、男の娘だな!?」
「おぉーすごいね変態さん。あっさり見破っちゃうなんて」
変態は男の娘――ジーニアスの反応を見てようやく気が付く。自分が罠に掛かった事に。
気が付くや否や変態の行動は早かった。即座に反転して逃げの姿勢を取ったのだ。
「ホント残念だわ。折角女性よりも女性らしくしたつもりだったのに」
しかし振り向いた先にはもう一人少女がいた。囲まれている。
「逃げても無駄よ。直ぐに仲間が駆け付けてくるわ」
変態は応えない。返事の代わりに懐から何か玉のようなものを取り出した。きゐこが止める間もなく、変態はそれを地面に叩きつける。
瞬間辺りに眩い閃光が広がり、一瞬ではあるがきゐことジーニアスの視界を眩ませる。
予測はしていたので眩んだのは一瞬だったが、それでも変態はその隙をついて走り出す。きゐこのアイスコフィンも掠る程度で足を止められない。
「予定通りに追い詰めるわよ、ジーニアスさん!」
「むふー、変態さんもおにごっこで遊びたいんだね! それじゃースタート!」
背後に追っ手の気配を感じながらも変態は必死に逃げていた。
先程のフードの女が使った氷の能力。あれは間違いなくオラクルの力だろう。となれば追っ手は自由騎士団の人間だろうか。
ちょっとした悪戯のつもりがとんでもない相手を呼び寄せてしまったのではないだろうか。
変態は冷や汗だらけで暗い王都を逃げ回る。
「変態こ、滅すべし。慈悲はない……です」
「犯人は絶対逃がさないんだぞ! 女性の敵は許さないんだぞ!」
その内、別方向からも声が聞こえてきて、追っ手の数が増えていった。というか誰か一瞬殺すって言いかけてなかったか!?
もう変態は死にもの狂いで逃げるしかなかった。そして追い詰められていく。
気が付けば袋小路。変態はオラクルに囲まれてしまっていた。
「そこまでじゃ。大人しく投降すれば悪いようにはせん」
シノピリカが投降を促すと、変態は項垂れて膝を付いた。オラクル達はやや警戒しながらも変態に近づいていく。
「――と、見せかけて喰らえ蒸気攻撃!」
9割女性陣のオラクル達に向かって変態が蒸気を吹きかける。
「いやああ! 変態やだやだ助けて!」
ピンク色の少女が上げた悲鳴を聞いて変態はうっとりする。その悲鳴が聞きたかったのだと。
直後にピンクの少女が変態の股間に鋭いケリを入れた。
蒸気パンツは鉄製なのでダメージはないが、男故に反射的に前屈みになってしまう。
そうして動きを止めた変態を、女性陣達は容赦なくボコボコにして縛り上げたのだった。
●
犯人の正体はやはり蒸気機械などの製作に携わっている技師だった。
ジーニアス、アリア、そしてシェリルの情報通り、王都北側のとある工房で働いているらしい。
その工房というのは一般市民用の小型の機械を作っている場所らしく、被害女性は全員がその工房から出荷されたランプ買っていた事がローラの調べにより判明している。
ローラが誑かした男は、被害者女性の一人がランプの修理を頼んだ店の人間だったのだ。そこ経由でランプの製造元が割れたのだ。
基本的に王都内部は街灯があるので明るい所は明るい。が、それでも街灯が設置されていない場所もまだそれなりにある。
例えばか弱い女性が移動時用のランプを買うとしたらその使い所は何処だろうか。夜間は王都の外は危ないのだから、その用途は王都内部に限定される可能性が高い。
つまり例のランプを買った女性はほぼ全員が、王都の街灯の無い場所をよく歩くのだと推理出来る。
きゐことサシャが発見した事件現場の共通点。それは現場には街灯がない、という事だったのだ。街灯のない通りで、まだ事件の発生してない場所を特定するのは容易だった。
そして問題のランプが全て同じ時期に故障していたという事がシノピリカの事情聴取で判明している。そうなるように犯人が仕組んでいたのだろう。
ランプが壊れた後は、どうしても外せない用事のために灯りもなく夜歩きする女性が増えるはずだ。だから犯人は待ったのだ。暗がりの中でその時を。
以上を踏まえて日が落ちる前に例の故障したランプを持ち歩き周り、その上で囮作戦を決行した結果、あっさりと犯人は釣られてくれたという訳だ。
「反省するんだぞ! 女性だけじゃなくて小さなお子様も怖がらせてるんだぞ!」
倒れる変態をサシャが力強く諭す。しかし反応は見られない。シノピリカはその様子を見てやれやれと溜息を吐く。
「ちゃんと罪を償って更生した暁には、話を聞いてやるゆえな。なんなら蒸気程度ならいくらでもぶっかかってくれようぞ!」
「いや……自分から来る人はちょっと」
「この変態は反省が足りてないわね……女性になる覚悟があるのかしら」
杖を振りながら恐ろしい事をきゐこが呟く。
そんなきゐこを宥めてシェリルが一歩変態に近づいた。
「わたしにはよくわかりませんが……あなたにはもっとすごいことができると思うのです!こんな人が嫌がることではなく、人から喜ばれるお仕事、きっと見つかりますよ!」
言うと変態は今度こそ負けたとばかりに沈黙した。これにて一件落着だろうか。
「ところで何で蒸気を掛けて遊んでたのー? 皆が最初、白い蒸気だって聞いて安心してた理由もおいらわからないよ」
最後の最後にジーニアスがそんな事を言うものだから全員が答えあぐねて口を閉ざす。
しかしローラだけは嬉々として艶っぽい笑みを浮かべた。
「それはねぇ、ローラがこれから教えてあげよっか?」
「ローラさん! 相手はまだ子供だから! 邪な心は見せないで!」
そんなローラをアリアが後ろから羽交い締めにする。
今宵の王都は悲鳴では無く、楽しげな笑い声がいつまでも響いていたという。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
変態はこの後バーバラさんに引き渡されました。多分良いようにしてくれるでしょう。
MVPは女装をしてくれた貴方に差し上げます。
MVPは女装をしてくれた貴方に差し上げます。
FL送付済