MagiaSteam




【楽土陥落】楽園の神は天より墜ちる

●彼は神に懺悔をする
教皇ヨハネス・グレナデンは神が住まうその場所へとやってきた。
全てが白で染め抜かれた、光満ちる領域。
聖央都の中央にそそり立つ教皇庁のさらに中央。
大司教達からは“秘神の間”と呼ばれるそこにシャンバラの神は立っていた。
「――主よ」
光輝の空間に踏み入って、ヨハネスは主の立つ祭壇を見上げた。
広大な空間の中に建てられた巨大な祭壇は、まず上がるための階段からして百段を超えていた。それを一段一段踏みしめながら、教皇はゲオルグから言われた事実を胸の中に反芻する。
二十年前、大戦が起きるきっかけとなったシャンバラの前教皇暗殺事件。
当時、教皇の役を務め、宰相としてシャンバラを取り仕切っていたのはゲオルグとジョセフの父親であるアルジオス・クラーマーという男だった。
アルジオスは優秀な外交官でもあった。
彼は積極的に他国へと渡り、外との繋がりを強化しようとしていた。思えばそれは、幾つもの国から攻め立てられている現状を予期していたがゆえのことかもしれなかった。
だがアルジオスは死んだ。暗殺された。そして戦いの火種となってしまった。
――いや、違うか。
大戦のきっかけとなったのは確かにアルジオスの死であろう。だが、アルジオスの死のきっかけを作ったのは誰か。
自分であった。
今、神への拝謁を賜らんとしているヨハネス・グレナデンこそが、アルジオスが死ぬきっかけを作った張本人なのであった。
アルジオスの暗殺計画が動いていることを、彼は知っていた。
その情報が入ってきたのはたまたまのこと。
当時、大司教の一人でしかなかったヨハネスはアルジオスの暗殺計画を知り、しかし、何もしなかった。アルジオスの死を見過ごしたのだ。
全ては神のために。
神の国であるシャンバラが他国と深く繋がるなどあってはならない。その果てに、異国の悪しき業がシャンバラに流れ込んだらどうするのか。
神は静寂を、平穏を、安穏をこそ望んでおられるはずだ。
当時のヨハネスはそう思っていた。正しくは、思いこんでいた。
「主よ……」
階段をのぼり切ると、ミトラースが立つ中央神殿があった。
それは、光に包まれた真っ白い一軒家程度の大きさの神殿で、壁はなく円を描くように配置された十本の柱と、それによって支えられる石造りの円形の屋根という、いっそ簡素な造りの建物であった。
中央神殿にミトラースはいた。
白の衣でその身を包んだ、白髪の老人。
その身は淡い光を放ち、足は床からかすかに宙に浮いている。
「主よ、我らが神ミトラースよ」
自らが信仰する神を前に、ヨハネスは両膝をついてその場に跪いた。
教皇であろうとも関係ない。
神の前に、罪もたぬ全ての人は等しく愛され、等しく扱われる。
ミトラースという神に、人の個は意味を持たない。
「――主よ、わたくしに罰をお与えください」
平伏したまま額を地面にこすりつけて、ヨハネスは震える声で切り出した。
「かつて、わたくしは罪を犯しました。それは、我が愛するシャンバラを危機へと陥れた、あまりにも大きく、そして愚かな罪でありました」
神を前にそれを告白するヨハネスは死を覚悟していた。
ミトラースはすでに自分のしでかしたことを知っている。ゲオルグはそう言った。もし事実であるのならば、死をもって償うしかない。
死ぬしかない。
死ぬしかない。
思いながら、ヨハネスは押し寄せる死の恐怖に震えつつ、沙汰を待った。
そうしてしばし――
「よい。赦す」
「……は?」
耳が聞いたその言葉に、ヨハネスは気の抜けた顔をそのまま上げる。
ミトラースが、彼を見下ろしていた。
「ヨハネス・グレナデン。我がいとし児よ」
「は、ははッ!」
名を呼ばれ、畏れ多さにヨハネスは再び平伏した。
「汝は我がシャンバラにて育まれしいとし児なれば、その命を無駄に散らすこと、ただただ哀しきことなり。ならば我は汝の罪をも愛し、これを赦そう」
ミトラースが自分の足元に伏しているヨハネスに手を添えた。
降り注ぐ光が、現教皇の心に熱となって伝わっていく。
「おお、おお……!」
ヨハネスを実感が満たしていった。
それこそはミトラースの愛。赦しの光。自分の中の罪悪感が、炎天下に晒された氷の如く、瞬く間に溶けて消えていく。
「我がいとし児よ、シャンバラを守れ。汝はそれを成し遂げよ」
「ははっ! はは――――ッ!」
床に熱い涙を滴らせながら、教皇は神から授けられた勅命に大声で応じた。
神を守り、シャンバラを守る。
教皇ヨハネス・グレナデンは己の命の使いどころを得たのであった。
●誓いと共に
もはや、退路はどこにもない。
「状況はどうなっていますか?」
大聖堂に戻ったヨハネスは、そこにいた赤竜騎士団団長のアルマイア・エルネーシスに尋ねた。
「聖央都、包囲完了。敵軍、進軍開始。早々接敵」
もうすぐ敵軍――イ・ラプセルの連中が聖央都に突入してくるということか。
「分かりました。ならば全軍を以て迎撃します。アルマイア卿、貴女はこの教皇庁の本殿であるミトラース大聖堂の門前で敵を撃滅しなさい」
「委細承知。枢機卿猊下より同様の指示あり」
「……そのクラーマー枢機卿はいずこに?」
周りを見るが、ゲオルグの姿はどこにも見当たらなかった。
「枢機卿猊下、聖央塔にて待機。アルス・マグナ発射準備中」
聖央塔はこの聖央都ウァティカヌスの中心に位置する純白の聖塔だ。
ウァティカヌスで最も高いその塔こそは、シャンバラが誇る超規模破壊神造兵器アルス・マグナの発射用砲塔に他ならない。
「なるほど、分かりました。今このとき、最も重要なのはそこでしょう。では、我らは我らが神を守ることに専念するといたしましょう」
「赤竜騎士団、全軍全霊を以て敵軍を撃滅せしめん」
「こちらも、集められるだけの戦力は全て集めましょう。異国の者が我が主に触れようなどと恐れ多い。それを教えて差し上げましょう」
その言葉を聞いて、アルマイアはふと気になったので尋ねてみた。
「教皇猊下、心境、変化在りや?」
「……いいえ、特には」
ヨハネスは首を振る。
しかし、その脳裏にはゲオルグの言葉が蘇っていた。
――神は人を選ばない。神は、人が選んだ人に力を授けるのみだ。
今ならばそれがよく分かる。
このシャンバラにあって、神とは万民を遍く愛する存在のことをいうのだ。
人とは、神の庇護のもとでこそ生きられる存在。飼われる羊に過ぎない。
羊がどれだけ己の個を主張しようとも、羊飼いがそれを汲むことがあるだろうか。つまりはそういう話なのだった。
ゆえに、ヨハネスは誓った。
この命はミトラースのために。この心身はシャンバラのために捧げると。
それこそはまさに、ゲオルグ・クラーマーと同じ境地。
「来なさい、イ・ラプセルの邪教徒共。シャンバラは決して、墜ちぬ」
教皇ヨハネス・グレナデン、一世一代の大勝負のときであった。
●決戦のときは訪れた
「――まるで夢のようだよ」
聖央都へと向けて進軍する自由騎士団にあって、パーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056)がそんなことを言い出した。
「何の話だ?」
同行する自由騎士が彼に尋ねる。
「もちろん、こうして君達と共にシャンバラの打倒に向かっているのがさ」
パーヴァリはそう答えるが、やはりどうにも要領を得ない。
「……戦争が夢だったのか?」
「いいや、違うよ。そんな物騒な夢は持ったことないけれども、ただ――」
「ただ?」
「僕達が抱いて来た、ヨウセイの解放という目標がもうすぐ達せられようとしている。……それが夢のようなんだよ」
彼の言葉は、どこまでも重い響きを伴っていた。
シャンバラ皇国の森の中を、ずっとずっと長い間逃げ続けてきたヨウセイ達。
それを解放すべく、僅かな戦力でシャンバラと戦ってきたのが、パーヴァリ率いるウィッチクラフトであった。
今はもう、それもほぼ自由騎士団に吸収される形になっており、ウィッチクラフトとしての体裁はなくなりつつある。
だが、それはつまり自由騎士団がウィッチクラフトの目標を引き継いだとも言えるワケで、シャンバラとの決着はまさにウィッチクラフトと、それを率いていたパーヴァリにとっては宿願であった。
「まだこの言葉をいうのは早いかもしれない。それでも言うよ」
「何だ?」
「君達に会えて、よかった」
パーヴァリの言葉に、自由騎士は苦笑する。
「確かに、まだ少し早いかもな」
「――そうだね」
言い返されて、ウィッチクラフトのリーダーは苦笑した。
聖央都はすでに見えている。戦いのときはいよいよ迫りつつあった。
「もう、因縁なんていうのは飽きていてね、さすがに食傷気味だよ」
もうすぐそこまで近づいた純白の都を眺めつつ、パーヴァリは苦笑を深めた。
「終わらせよう。……ヨウセイとシャンバラの、いびつに過ぎる関わりを」
決戦への意気を胸に、彼は弓を握り締めた。
――決戦のときは、訪れた。
教皇ヨハネス・グレナデンは神が住まうその場所へとやってきた。
全てが白で染め抜かれた、光満ちる領域。
聖央都の中央にそそり立つ教皇庁のさらに中央。
大司教達からは“秘神の間”と呼ばれるそこにシャンバラの神は立っていた。
「――主よ」
光輝の空間に踏み入って、ヨハネスは主の立つ祭壇を見上げた。
広大な空間の中に建てられた巨大な祭壇は、まず上がるための階段からして百段を超えていた。それを一段一段踏みしめながら、教皇はゲオルグから言われた事実を胸の中に反芻する。
二十年前、大戦が起きるきっかけとなったシャンバラの前教皇暗殺事件。
当時、教皇の役を務め、宰相としてシャンバラを取り仕切っていたのはゲオルグとジョセフの父親であるアルジオス・クラーマーという男だった。
アルジオスは優秀な外交官でもあった。
彼は積極的に他国へと渡り、外との繋がりを強化しようとしていた。思えばそれは、幾つもの国から攻め立てられている現状を予期していたがゆえのことかもしれなかった。
だがアルジオスは死んだ。暗殺された。そして戦いの火種となってしまった。
――いや、違うか。
大戦のきっかけとなったのは確かにアルジオスの死であろう。だが、アルジオスの死のきっかけを作ったのは誰か。
自分であった。
今、神への拝謁を賜らんとしているヨハネス・グレナデンこそが、アルジオスが死ぬきっかけを作った張本人なのであった。
アルジオスの暗殺計画が動いていることを、彼は知っていた。
その情報が入ってきたのはたまたまのこと。
当時、大司教の一人でしかなかったヨハネスはアルジオスの暗殺計画を知り、しかし、何もしなかった。アルジオスの死を見過ごしたのだ。
全ては神のために。
神の国であるシャンバラが他国と深く繋がるなどあってはならない。その果てに、異国の悪しき業がシャンバラに流れ込んだらどうするのか。
神は静寂を、平穏を、安穏をこそ望んでおられるはずだ。
当時のヨハネスはそう思っていた。正しくは、思いこんでいた。
「主よ……」
階段をのぼり切ると、ミトラースが立つ中央神殿があった。
それは、光に包まれた真っ白い一軒家程度の大きさの神殿で、壁はなく円を描くように配置された十本の柱と、それによって支えられる石造りの円形の屋根という、いっそ簡素な造りの建物であった。
中央神殿にミトラースはいた。
白の衣でその身を包んだ、白髪の老人。
その身は淡い光を放ち、足は床からかすかに宙に浮いている。
「主よ、我らが神ミトラースよ」
自らが信仰する神を前に、ヨハネスは両膝をついてその場に跪いた。
教皇であろうとも関係ない。
神の前に、罪もたぬ全ての人は等しく愛され、等しく扱われる。
ミトラースという神に、人の個は意味を持たない。
「――主よ、わたくしに罰をお与えください」
平伏したまま額を地面にこすりつけて、ヨハネスは震える声で切り出した。
「かつて、わたくしは罪を犯しました。それは、我が愛するシャンバラを危機へと陥れた、あまりにも大きく、そして愚かな罪でありました」
神を前にそれを告白するヨハネスは死を覚悟していた。
ミトラースはすでに自分のしでかしたことを知っている。ゲオルグはそう言った。もし事実であるのならば、死をもって償うしかない。
死ぬしかない。
死ぬしかない。
思いながら、ヨハネスは押し寄せる死の恐怖に震えつつ、沙汰を待った。
そうしてしばし――
「よい。赦す」
「……は?」
耳が聞いたその言葉に、ヨハネスは気の抜けた顔をそのまま上げる。
ミトラースが、彼を見下ろしていた。
「ヨハネス・グレナデン。我がいとし児よ」
「は、ははッ!」
名を呼ばれ、畏れ多さにヨハネスは再び平伏した。
「汝は我がシャンバラにて育まれしいとし児なれば、その命を無駄に散らすこと、ただただ哀しきことなり。ならば我は汝の罪をも愛し、これを赦そう」
ミトラースが自分の足元に伏しているヨハネスに手を添えた。
降り注ぐ光が、現教皇の心に熱となって伝わっていく。
「おお、おお……!」
ヨハネスを実感が満たしていった。
それこそはミトラースの愛。赦しの光。自分の中の罪悪感が、炎天下に晒された氷の如く、瞬く間に溶けて消えていく。
「我がいとし児よ、シャンバラを守れ。汝はそれを成し遂げよ」
「ははっ! はは――――ッ!」
床に熱い涙を滴らせながら、教皇は神から授けられた勅命に大声で応じた。
神を守り、シャンバラを守る。
教皇ヨハネス・グレナデンは己の命の使いどころを得たのであった。
●誓いと共に
もはや、退路はどこにもない。
「状況はどうなっていますか?」
大聖堂に戻ったヨハネスは、そこにいた赤竜騎士団団長のアルマイア・エルネーシスに尋ねた。
「聖央都、包囲完了。敵軍、進軍開始。早々接敵」
もうすぐ敵軍――イ・ラプセルの連中が聖央都に突入してくるということか。
「分かりました。ならば全軍を以て迎撃します。アルマイア卿、貴女はこの教皇庁の本殿であるミトラース大聖堂の門前で敵を撃滅しなさい」
「委細承知。枢機卿猊下より同様の指示あり」
「……そのクラーマー枢機卿はいずこに?」
周りを見るが、ゲオルグの姿はどこにも見当たらなかった。
「枢機卿猊下、聖央塔にて待機。アルス・マグナ発射準備中」
聖央塔はこの聖央都ウァティカヌスの中心に位置する純白の聖塔だ。
ウァティカヌスで最も高いその塔こそは、シャンバラが誇る超規模破壊神造兵器アルス・マグナの発射用砲塔に他ならない。
「なるほど、分かりました。今このとき、最も重要なのはそこでしょう。では、我らは我らが神を守ることに専念するといたしましょう」
「赤竜騎士団、全軍全霊を以て敵軍を撃滅せしめん」
「こちらも、集められるだけの戦力は全て集めましょう。異国の者が我が主に触れようなどと恐れ多い。それを教えて差し上げましょう」
その言葉を聞いて、アルマイアはふと気になったので尋ねてみた。
「教皇猊下、心境、変化在りや?」
「……いいえ、特には」
ヨハネスは首を振る。
しかし、その脳裏にはゲオルグの言葉が蘇っていた。
――神は人を選ばない。神は、人が選んだ人に力を授けるのみだ。
今ならばそれがよく分かる。
このシャンバラにあって、神とは万民を遍く愛する存在のことをいうのだ。
人とは、神の庇護のもとでこそ生きられる存在。飼われる羊に過ぎない。
羊がどれだけ己の個を主張しようとも、羊飼いがそれを汲むことがあるだろうか。つまりはそういう話なのだった。
ゆえに、ヨハネスは誓った。
この命はミトラースのために。この心身はシャンバラのために捧げると。
それこそはまさに、ゲオルグ・クラーマーと同じ境地。
「来なさい、イ・ラプセルの邪教徒共。シャンバラは決して、墜ちぬ」
教皇ヨハネス・グレナデン、一世一代の大勝負のときであった。
●決戦のときは訪れた
「――まるで夢のようだよ」
聖央都へと向けて進軍する自由騎士団にあって、パーヴァリ・オリヴェル(nCL3000056)がそんなことを言い出した。
「何の話だ?」
同行する自由騎士が彼に尋ねる。
「もちろん、こうして君達と共にシャンバラの打倒に向かっているのがさ」
パーヴァリはそう答えるが、やはりどうにも要領を得ない。
「……戦争が夢だったのか?」
「いいや、違うよ。そんな物騒な夢は持ったことないけれども、ただ――」
「ただ?」
「僕達が抱いて来た、ヨウセイの解放という目標がもうすぐ達せられようとしている。……それが夢のようなんだよ」
彼の言葉は、どこまでも重い響きを伴っていた。
シャンバラ皇国の森の中を、ずっとずっと長い間逃げ続けてきたヨウセイ達。
それを解放すべく、僅かな戦力でシャンバラと戦ってきたのが、パーヴァリ率いるウィッチクラフトであった。
今はもう、それもほぼ自由騎士団に吸収される形になっており、ウィッチクラフトとしての体裁はなくなりつつある。
だが、それはつまり自由騎士団がウィッチクラフトの目標を引き継いだとも言えるワケで、シャンバラとの決着はまさにウィッチクラフトと、それを率いていたパーヴァリにとっては宿願であった。
「まだこの言葉をいうのは早いかもしれない。それでも言うよ」
「何だ?」
「君達に会えて、よかった」
パーヴァリの言葉に、自由騎士は苦笑する。
「確かに、まだ少し早いかもな」
「――そうだね」
言い返されて、ウィッチクラフトのリーダーは苦笑した。
聖央都はすでに見えている。戦いのときはいよいよ迫りつつあった。
「もう、因縁なんていうのは飽きていてね、さすがに食傷気味だよ」
もうすぐそこまで近づいた純白の都を眺めつつ、パーヴァリは苦笑を深めた。
「終わらせよう。……ヨウセイとシャンバラの、いびつに過ぎる関わりを」
決戦への意気を胸に、彼は弓を握り締めた。
――決戦のときは、訪れた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ミトラースの討滅
----------------------------------------------------------------------
「この共通タグ【楽土陥落】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
----------------------------------------------------------------------
ついにこの日がやってまいりました。
長らく続いたシャンバラとの戦いも、この決戦で最後となります。
このシナリオの成功条件は「ミトラースの討滅」ですが、
それを成し遂げるには下記の二つの条件が必要となります。
・教皇ヨハネス・グレナデンの打倒
・赤竜騎士団の打倒
それでは、ここから下はシナリオ詳細となります。
◆戦場
・ミトラース大聖堂
シャンバラの行政中枢でもある教皇庁を内包する広大な聖堂です。
イ・ラプセルでいう王城と思ってもらえればOKです。
ステージは大聖堂門前広場、大聖堂大礼拝堂、中央神殿の3つに分かれています。
・大聖堂門前広場
広大な面積を持つ門前広場です。
“竜騎公”アルマイア率いる赤竜騎士団がここで待ち構えています。
多人数が戦闘できるだけの広さはあります。
・大聖堂大礼拝堂
かなりの広さがある礼拝堂です。
教皇ヨハネス・グレナデンが手勢の聖堂騎士団と共にここに駐留しています。
多人数が戦闘できるだけの広さはあります。
・中央神殿
ミトラースがいる神殿です。
ここまで来ることができれば、ミトラース討滅達成の可能性が生じます。
◆敵勢力
・“竜騎公”アルマイア・エルシーネス
真っ赤な鎧に身を包んだシャンバラ最強の赤竜騎士団の団長です。
スタイルは重戦士。ただしネクロマンサーのスキルも使います。
いずれもかなり高レベルなのでご注意ください。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
Exスキル:紅牙赤熱の刻印
手にした刃が刻みつける、これこそはほむらの御印。燃え上がれ、灼熱に躍れ紅の牙。骨の髄まで朱色に染めろ。
敵遠単・バーン付与
・大聖獣“赤竜王”
体長8mほどの真っ赤な飛竜の姿をした戦争用聖獣です。
腕部が翼になっており飛行能力を有しています。飛行速度はそれなりに速いです。
攻撃力:A
防御力:A
俊敏性:B
特殊能力:再生能力(弱)、炎完全耐性、
炎(遠単・超ダメージ・バーン3)、炎(全・大ダメージ・バーン2)
・聖堂騎士(鎧竜)×4
砕竜部隊に所属している赤い鎧の聖堂騎士です。
今回は四人一組からなり、防・防・医・医のスタイルで構成されています。
いずれも現状の自由騎士よりも高レベルの騎士達となります。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
・大聖獣“鎧竜”×4
体長6mほどの全身が鎧のような表皮に包まれた戦争用聖獣です。
イメージとしてはアンキロサウルスが近いでしょう。
飛行能力はありませんが、その防御能力はかなりの脅威となるでしょう。
攻撃力:C
防御力:S
俊敏性:C
特殊能力:再生能力(弱)、テイルハンマー(近接範囲・ノックバック・ブレイク2)
※赤竜騎士団は説得できません。全員が死を覚悟して戦いに臨んでいます。
・教皇ヨハネス・グレナデン
シャンバラ皇国の国王に相当する教皇です。
ネクロマンサーではなくヒーラーであり、非常に優れた腕前を持っています。
攻撃用のスキルはもたない代わりに、回復用のスキルがやたら充実しています。
また、纏っている神職服は常時HPチャージの効果を持ちます。
Exスキル:慈愛の霊雨
祈りを捧げ、身を尽くせ。さすれば天より慈愛は降り注ぎ、魂渇きたる者に癒しと潤いを与えるであろう。
味全・小回復
・聖堂騎士×6
ヨハネスを護衛する真っ白い鎧を着た親衛部隊です。
バトルクラスは防・防・軽・重・魔・死となっています。
いずれも現状の自由騎士よりも高レベルの騎士達となります。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
※教皇ヨハネスと聖堂騎士団は説得できません。全員が死を覚悟して戦いに臨んでいます。
・“白き神”ミトラース
中央神殿にましますシャンバラの神。戦う力はありません。
◆ルート選択と『妨害』について
今回は三つのルートから一つを選んでいただきます。
ルート1は『赤竜騎士団と戦う』。赤竜騎士団との戦闘に専念します。
ルート2は『教皇ヨハネスと戦う』。ヨハネスとの戦闘に専念します。
ルート3は『ミトラースを討つ』。ミトラースを討滅しに行きます。
ただし、ルート2、3を選んだ場合、『妨害』が発生します。
これは敵の妨害によって先に進める確率が下がることを言います。
シナリオ開始時、ルート3進撃成功率は『妨害』により0%となっています。
敵戦力が減少することで『妨害』の影響は少なくなっていきます。
アルマイアと赤竜王を倒すと一気にルート2に進みやすくなります。
教皇ヨハネスを倒すと一気にルート3に進みやすくなります。
なお、参加者の皆さんのルート選択がどこか一か所に偏った場合、こちらである程度任意に振り分けることがあります。ご了承ください。
また、今回のシナリオでは連動シナリオの『【楽土陥落】鉄血進撃』と『【楽土陥落】Agent! 機国から来た潜入工作員!』の状況によって、各国からの介入される恐れがあります。
各国の兵士にミトラースが殺害された場合はその権能は各国のものになってしまいますので、対応をお願いします。
基本的に各国の兵士はみなさまを利用して、ミトラースの殺害を最優先として行動します
最後に、ルートを選択する場合はプレイングにその旨を記載してください。
不記載の場合はプレイング内容に応じてこちらで振り分けます。
==================================
・プレイング書き方例
1行目【ルート1】
2行目【同行者名orチーム名タグ】
3行目(ここからプレイング内容を記載)
==================================
・パーヴァリについて
パーヴァリは皆さんの指示に従いますので、何かありましたら指示をお願いします。
指示がない場合、パーヴァリは自身の判断で行動します。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。
「この共通タグ【楽土陥落】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
----------------------------------------------------------------------
ついにこの日がやってまいりました。
長らく続いたシャンバラとの戦いも、この決戦で最後となります。
このシナリオの成功条件は「ミトラースの討滅」ですが、
それを成し遂げるには下記の二つの条件が必要となります。
・教皇ヨハネス・グレナデンの打倒
・赤竜騎士団の打倒
それでは、ここから下はシナリオ詳細となります。
◆戦場
・ミトラース大聖堂
シャンバラの行政中枢でもある教皇庁を内包する広大な聖堂です。
イ・ラプセルでいう王城と思ってもらえればOKです。
ステージは大聖堂門前広場、大聖堂大礼拝堂、中央神殿の3つに分かれています。
・大聖堂門前広場
広大な面積を持つ門前広場です。
“竜騎公”アルマイア率いる赤竜騎士団がここで待ち構えています。
多人数が戦闘できるだけの広さはあります。
・大聖堂大礼拝堂
かなりの広さがある礼拝堂です。
教皇ヨハネス・グレナデンが手勢の聖堂騎士団と共にここに駐留しています。
多人数が戦闘できるだけの広さはあります。
・中央神殿
ミトラースがいる神殿です。
ここまで来ることができれば、ミトラース討滅達成の可能性が生じます。
◆敵勢力
・“竜騎公”アルマイア・エルシーネス
真っ赤な鎧に身を包んだシャンバラ最強の赤竜騎士団の団長です。
スタイルは重戦士。ただしネクロマンサーのスキルも使います。
いずれもかなり高レベルなのでご注意ください。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
Exスキル:紅牙赤熱の刻印
手にした刃が刻みつける、これこそはほむらの御印。燃え上がれ、灼熱に躍れ紅の牙。骨の髄まで朱色に染めろ。
敵遠単・バーン付与
・大聖獣“赤竜王”
体長8mほどの真っ赤な飛竜の姿をした戦争用聖獣です。
腕部が翼になっており飛行能力を有しています。飛行速度はそれなりに速いです。
攻撃力:A
防御力:A
俊敏性:B
特殊能力:再生能力(弱)、炎完全耐性、
炎(遠単・超ダメージ・バーン3)、炎(全・大ダメージ・バーン2)
・聖堂騎士(鎧竜)×4
砕竜部隊に所属している赤い鎧の聖堂騎士です。
今回は四人一組からなり、防・防・医・医のスタイルで構成されています。
いずれも現状の自由騎士よりも高レベルの騎士達となります。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
・大聖獣“鎧竜”×4
体長6mほどの全身が鎧のような表皮に包まれた戦争用聖獣です。
イメージとしてはアンキロサウルスが近いでしょう。
飛行能力はありませんが、その防御能力はかなりの脅威となるでしょう。
攻撃力:C
防御力:S
俊敏性:C
特殊能力:再生能力(弱)、テイルハンマー(近接範囲・ノックバック・ブレイク2)
※赤竜騎士団は説得できません。全員が死を覚悟して戦いに臨んでいます。
・教皇ヨハネス・グレナデン
シャンバラ皇国の国王に相当する教皇です。
ネクロマンサーではなくヒーラーであり、非常に優れた腕前を持っています。
攻撃用のスキルはもたない代わりに、回復用のスキルがやたら充実しています。
また、纏っている神職服は常時HPチャージの効果を持ちます。
Exスキル:慈愛の霊雨
祈りを捧げ、身を尽くせ。さすれば天より慈愛は降り注ぎ、魂渇きたる者に癒しと潤いを与えるであろう。
味全・小回復
・聖堂騎士×6
ヨハネスを護衛する真っ白い鎧を着た親衛部隊です。
バトルクラスは防・防・軽・重・魔・死となっています。
いずれも現状の自由騎士よりも高レベルの騎士達となります。
また、纏う鎧が魔導効果を宿し、常時HPチャージの状態となります。
※教皇ヨハネスと聖堂騎士団は説得できません。全員が死を覚悟して戦いに臨んでいます。
・“白き神”ミトラース
中央神殿にましますシャンバラの神。戦う力はありません。
◆ルート選択と『妨害』について
今回は三つのルートから一つを選んでいただきます。
ルート1は『赤竜騎士団と戦う』。赤竜騎士団との戦闘に専念します。
ルート2は『教皇ヨハネスと戦う』。ヨハネスとの戦闘に専念します。
ルート3は『ミトラースを討つ』。ミトラースを討滅しに行きます。
ただし、ルート2、3を選んだ場合、『妨害』が発生します。
これは敵の妨害によって先に進める確率が下がることを言います。
シナリオ開始時、ルート3進撃成功率は『妨害』により0%となっています。
敵戦力が減少することで『妨害』の影響は少なくなっていきます。
アルマイアと赤竜王を倒すと一気にルート2に進みやすくなります。
教皇ヨハネスを倒すと一気にルート3に進みやすくなります。
なお、参加者の皆さんのルート選択がどこか一か所に偏った場合、こちらである程度任意に振り分けることがあります。ご了承ください。
また、今回のシナリオでは連動シナリオの『【楽土陥落】鉄血進撃』と『【楽土陥落】Agent! 機国から来た潜入工作員!』の状況によって、各国からの介入される恐れがあります。
各国の兵士にミトラースが殺害された場合はその権能は各国のものになってしまいますので、対応をお願いします。
基本的に各国の兵士はみなさまを利用して、ミトラースの殺害を最優先として行動します
最後に、ルートを選択する場合はプレイングにその旨を記載してください。
不記載の場合はプレイング内容に応じてこちらで振り分けます。
==================================
・プレイング書き方例
1行目【ルート1】
2行目【同行者名orチーム名タグ】
3行目(ここからプレイング内容を記載)
==================================
・パーヴァリについて
パーヴァリは皆さんの指示に従いますので、何かありましたら指示をお願いします。
指示がない場合、パーヴァリは自身の判断で行動します。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
50LP
50LP
相談日数
9日
9日
参加人数
55/∞
55/∞
公開日
2019年04月23日
2019年04月23日
†メイン参加者 55人†

●大聖堂前広場の攻防:1
白き神ミトラースを討つべく、自由騎士達はついに聖央都に乗り込んだ。
だが、敵の王城とも呼ぶべきミトラース大聖堂の入り口前には、シャンバラの守護者とも呼ぶべき最強戦力が待ち構えていた。
「――戦闘、開始。敵勢、殲滅すべし!」
“竜騎公”アルマイア・エルシーネス率いる赤竜騎士団だ。
「ああ、ついに接敵してしまったなぁ……」
咆哮を高らかと響かせる“赤竜王”の威容を眺め、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)は陰鬱な溜息をついた。
できれば戦いたくない。
それが彼の本音。争いはあまり好きではないのだ。
だが、状況が彼にそれを許さない。
「焦熱、展開」
アルマイアが言い、“赤竜王”が翼を広げて飛翔する。
すると、周囲の大気がグニャリと歪んだ。
“赤竜王”が発する高熱によって生じた陽炎であった。
「炭となれ、イ・ラプセル」
“赤竜王”の口から、超高熱の火炎放射が放たれた。
その範囲に、ヨーゼフはしっかりと入っていた。
「うおお、や、やば……!」
回避は間に合いそうもない。咄嗟に身を丸めて防ごうとするが――
「危なぁぁぁぁぁぁぁい!」
だがそこで『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が彼の前に立った。
掲げたラージシールドが、炎を正面から受け止める。
「ぐ、あ、熱ッ!」
さすがに威力の全ては防ぎきれず、身を焼かれる苦痛にデボラは顔を歪めた。
「ああ、全く……!」
助けられながら、ヨーゼフは思う。
この戦い、聖戦などと盲目になれればどれだけ楽だったことか。
だがこの通り、敵は在り、同朋は自分を助け、他の騎士も懸命に戦っている。
「ワタシだけが逃れることなど、できないだろうさ!」
ヨーゼフのライフルが火を噴いた。
弾丸が、“赤竜王”の頭部の角に命中する。
「何ッ!」
“赤竜王”の動きが乱れ、アルマイアが驚いた。
そこへ、さらに『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)が同じくライフルを構えて、“赤竜王”の翼を狙った。
「翼の付け根、狙い撃ちますわ!」
銃声、銃声、銃声。
広場にそれは何度も響き、“赤竜王”に多少なりとも傷を与えていく。
だが、その動きは少しも鈍らない。とてつもないタフネスっぷりだ。
「強いですわ、でも……!」
レベッカは諦めず、さらにトリガーを引き続けた。
「空を飛んでいても動きが止まってるならやりやすいですぅ~」
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が言って、“赤竜王”に狙いを定める。
「でもやっぱり、地面に降りていただいた方がいいでしょうねぇ~」
発動した魔導が“赤竜王”の翼の一部を凍結させる。
レベッカの射撃に合わせた、打ち合わせなしの連携攻撃だ。
これは効いたか、“赤竜王”が派手に鳴いた。しかし墜落するには至らない。
「あらあら、随分と丈夫ですねぇ~」
「だから、もっともっと攻めないと、ですわ!」
「ですねぇ~」
レベッカとシェリルは共にうなずき、“赤竜王”とアルマイアを見上げる。
大聖堂前広場の戦いは、こうして始まった。
――広場にいる敵は“赤竜王”だけではない。
「圧し潰せェ!」
深紅の鎧に身を包んだ赤竜騎士団の騎士が、剣を掲げて指示を出す。
戦闘用の聖獣である鎧竜が、その指示に従って突進してきた。
「来るぞ! 皆、身構えろ! 自由騎士団は倒れぬことを教えてやれェ!」
馬上よりそう叫ぶのは、『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)であった。
彼の言葉は周りにいる自由騎士達の間に響き、そしてその声がもたらす力が、騎士達の心にまで届く熱となって、彼らを奮い立たせる。
「来るか、赤竜騎士団」
『そのゆめはかなわない』ウィルフリード・サントス(CL3000423)が鎧竜を前に大剣を構えた。
鎧竜は防御力こそ驚異的だが、攻撃面では一歩劣る。
実際、鎧竜の突進をウィルフリードは何とかかわすことができた。
そして、回避した際についた勢いをそのまま使い、彼は大剣を思い切りよく鎧竜の側面に叩きつける。
やたら重々しい金属音が響き渡った。
「……なるほど、硬いな」
手に残る痺れを確認し、ウィルフリードは後退する。
代わりに、『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が前に出てきた。
「はぁ、何とも大きな蜥蜴やなぁ。でも、硬いだけならこうするわぁ」
彼女はその細い身で鎧竜の前に出て、ヒラリヒラリと舞い始める。
「貴様、何をしているか!」
「さぁて、何やろねぇ」
聖堂騎士の叫びもいなし、狼華は軽い足取りで舞い続ける。
「チッ、踏み潰してしまえ!」
狼華を狙い、騎士が鎧竜に命じた。しかし、突如として鎧竜は進路を変える。
「くっ、何をしている!?」
それは、狼華の舞によって生じた意識の混乱であった。
鎧竜が意味不明な進撃を始めるのを見て、彼は鉄扇で口元を隠して笑った。
「これなら、こちらもやりやすい」
『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)が混乱から覚めない鎧竜へと肉薄し、素早く軍刀で切りつけようとする。
だが、その刃のことごとくが鎧竜の堅牢な表皮に弾かれてしまった。
「……さすがの強靭さだな!」
唇を噛む彼女の耳に、馬の蹄の音が聞こえてくる。
「奮い立て、気合を入れろ! これがシャンバラとの最後の戦いなのだ!」
現れたのは、ボルカスであった。
「ああ、分かっている……!」
彼の言葉に、グローリアは熱を得る。
そして、再びの軍刀による疾風の如き切りつけ。先刻よりもさらに速く。
衝撃に火花が散って、硬い手応えに痺れが生じた。
しかし、繰り返す。攻撃を、繰り返す。
やがて切っ先が、鎧竜の肌に明らかな傷を刻み付けた。
鎧竜が痛みに鳴いて、騎士を乗せたまま暴れ出す。
「お、落ち着け、落ち着けェい!」
声を荒げる聖堂騎士を見て、グローリアは自分が戦えるという実感を得た。
最強戦力たる赤竜騎士団を前に、自由騎士達は一歩も劣っていなかった。
●中央神殿に向かって:1
ミトラース大聖堂は見上げても果てが見えないほど大きい。
このどこかに、真白き神ミトラースは存在している。
ミトラースを討ち果たす。
それを目的として、自由騎士達は大聖堂を目指そうとする。が、
「蹂躙すべし“赤竜王”!」
空より、その声と共に強烈な熱波が降り注いできた。
シャンバラ最強の赤竜騎士団。その団長であるアルマイアだ。
彼女は巨大な大聖獣“赤竜王”を乗りこなし、この大聖堂前広場に陣取って自由騎士達を殲滅すべく戦っていた。
「うわわっ、何だあれ、怖いなぁ!」
『ビーラビット』オズワルド・ルイス・アンスバッハ(CL3000522)が“赤竜王”の姿を見て慌てふためく。
幾度も炎を吐いて自由騎士の進撃を阻むその威容は、慣れていない者にはただただ脅威にしか感じられないだろう。
だが大聖堂へ向かうのならばここは通らねばならない場所だ。
何とか、赤竜騎士団を超えていかねばならない。
「薙ぎ払え、鎧竜!」
聖堂騎士が命じると、鎧竜がその長い尾を激しく振り回す。
「わ、わ……!」
他の自由騎士をかばおうと、前に出た『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)が盾でその一撃を受け止めて吹き飛ぶ。
「ありがとう! 助かったわ!」
かばってもらった『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)がお返しというワケではないだろうが、両手に得物を構えて鎧竜へと切り込んでいく。
「一人でも多く、中に入れさせてもらうわ!」
刃が鎧竜の甲皮を削って火花が散った。
とてつもない強度。しかし、傷がついていないわけではない。
「みんな、攻め続けるのよ! そうすれば必ず敵も怯むから!」
「ああ!」
「分かってるよ!」
アリアの声に、周囲の自由騎士達が口々に応じた。
「さてこの状況、このまま何もなければ助かる、が……」
『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)が素早く周囲の状況を見やって、広場に他国の介入がないかを確認する。
今回の決戦には、イ・ラプセルだけでなくヴィスマルクはヘルメリアまでもが参戦してきている。この聖央都にとて、いつそれらの国の部隊が突入してくるかわかったものではないのだ。
だが少なくとも今のところ、まだイ・ラプセル以外に聖央都に到着している部隊はいなさそうだった。
アンは小さく息をつき、道を阻む鎧竜に向かって拳銃を構える。
「それじゃあ、お仕事しようかね、っと!」
銃声が、高らかに鳴り響いた。
戦いが始まってしばらく、赤竜騎士団は徐々に押され始めた。
敵は精強であり、大聖堂前広場を守らんとするその意志は目に見えない圧力となって自由騎士達に恐れを与えていた。
しかし、それでも自由騎士は止まらなかった。
両騎士団が激突し合う中、鉄壁を誇っていた赤竜騎士団の布陣が徐々に徐々に、少しずつ少しずつ歪んでいって、そして――
「今よ! そこから中に入れるわ!」
ついに突破口が開けた。
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)がそこを指さし、自由騎士達が走っていく。それを上空から俯瞰していたアルマイアが“赤竜王”を操って接近してくるが、きゐこがそれを阻んだ。
「やらせないわよ!」
炸裂した電磁力場に“赤竜王”が身を悶えさせる。
「賢しい連中め!」
アルマイアが上空で舌を打った。
「敵の陣形が変われば通れなくなるわ、今のうちに通っちゃいなさい!」
きゐこはギアで近くにいる仲間も呼びつつ、大声でそう促した。
赤竜騎士団の布陣は鉄壁に近かった。
しかし完璧ではなかった。
「大聖堂前広場、まずは突破成功よ!」
他の自由騎士が大聖堂に入っていくのを見ながら、きゐこはギア越しに沿う報告したのだった。
●教皇ヨハネスの聖戦:1
大礼拝堂で、ヨハネス・グレナデンは静かに祈りを捧げていた。
後ろには聖堂騎士達が控えており、彼と同じように神像を前に傅いている。
礼拝堂は、荘厳なる静寂に満ちていた。
ここはまさしく聖職者達の領域。
神に祈り、神に捧げる、それのみを目的としている場であった。
「……来てしまいましたか」
静寂を破ったのは、ヨハネスの声。
立ち上がり、彼は小さく息をつくと共に礼拝堂の入り口がある方を見た。
「邪魔をさせてもらうぞ、ミトラースの羊さん達よ」
入ってきたのは、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)をはじめとする自由騎士数名。赤竜騎士団の猛攻をかいくぐり、ここまで来た。
「アルマイアは通してしまいましたか」
顔に表情らしい表情は浮かべず、ヨハネスは目を伏せた。
「いくら士気が高かろうとな、聖堂前はだだっ広い上にこっちには数がいる。取りこぼすさ、そりゃあな」
言ってツボミは肩をすくめるが、しかしヨハネスはかぶりを振った。
「愚かなことです。むざむざ神敵を通してしまうとは」
ツボミの説明も全く聞き入れようとしていない。
見た目こそ温和そうだが、このヨハネスという男、かなり辛口なようだった。
「まぁよいでしょう。神敵よ、不遜にも神の家に立ち入った愚行、決して看過できるものではありません。お前達の歩みもここまでです」
ガシャン! と音がする。
ヨハネスの後ろに控えている聖堂騎士が、揃って武器を掲げた音だった。
こうなれば、次に連中が言うことは決まっている。
「「神敵必滅!」」
後方に回ったヨハネスがゆっくりと両手を広げる。
するとそこから生じた淡い金色の輝きが雨のように騎士達に降り注いだ。
「行きなさい、選ばれし騎士達。ここに神威を示し、我らが主を守るのです」
「「教皇猊下の仰せのままに!」」
金色の輝きを纏い、最精鋭たる聖堂騎士が前に出る。
おそらくはシャンバラでも赤竜騎士団に匹敵するであろう最精鋭の聖堂騎士は、威風堂々たる振る舞いを見せて、自由騎士に迫った。
「これは、少し早まったやもしれぬな」
聖堂騎士を前に、『果たせし十騎士』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が小さく息を呑んだ。
歴戦の彼女をして聖堂騎士から受ける圧力に汗を流す。
それほどの気迫を、純白の騎士達は纏っていた。
本格的に気圧される前に、シノピリカの方から聖堂騎士に仕掛けた。
「自由騎士、シノピリカ・ゼッペロン! 参る!」
「我が神に歯向かう者に騎士を名乗る資格なそない! 退け邪教徒!」
シノピリカは鉄の杖を持つ聖堂騎士を狙おうとする。
しかし、その前に盾を構えた大柄な騎士が立ちはだかった。
「どけェい!」
シノピリカ渾身の左腕が火を噴いた。
凄まじいまでの激突音。衝撃の余波が、広範囲に響いていく。
「ぬ、ゥ!?」
退き目を剥いたのは、シノピリカの方だった。まさか受け止め切るとは。
盾を持った聖堂騎士は、だが口から血を流していた。
しかしその傷も、金色の光が瞬いてすぐに消えていく。
「持続回復の魔導。……教皇のあれか!」
ツボミが気づいた。
「シノピリカさんの攻撃を弾くとはね。これは集中的にやった方がいいわね」
成り行きを見守っていた『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が、共にこの場にやってきた自由騎士達に促す。
「何だ何だ、こんな強そうな連中と戦わなきゃいかんのか?」
ライフルに弾丸を込めて『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)がその顔をしかめっ面に変える。
彼は防衛騎士の向こうにいる鉄杖の聖堂騎士を狙って引き金を引いた。
銃声。だが、その弾丸もシノピリカが交戦した騎士の盾に阻まれてしまう。
「これならどうですか!」
ベルナルトの隣より、『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)が突っ込んでいく。
彼女は短剣を振るって切りかかったが、しかしやはり堅固な盾を打ち破るには至らず、ベルナルトのところへと戻ってきた。
「すっごい固かったで!?」
「お嬢、素が出てるぞ、素が」
目を丸くして驚いているガブリエーレを、ベルナルトは小声で諭した。
聖堂騎士には、エルシーが挑みかかっていた。
それをフォローするために、『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)が先んじてエルシーに持続回復の魔導を施していた。
「さて、あの教皇さん、吹っ切れはしたが今さらなんだよな、悲しいかな」
ニコラスは呟く。
彼の認識としてすでにシャンバラは敗北を待つばかりの状況だ。
果たして、この戦いに勝ったところで先はあるのか。
イ・ラプセル側からすればそんな風にも見えるのだが――
「押し返しなさい。我らが神の家を守るのは、我々なのです!」
見る限り、ヨハネスは全く諦めていないようだ。
「しぶとい限りだね、どうにも」
ニコラスは苦笑するしかなかった。
「はぁぁ!」
エルシーが聖堂騎士の盾を蹴り叩き、その反動でニコラスの近くに跳んだ。
「おっと、怪我してるじゃないか……」
「さすがに強いですね、あの人達」
口から流れる血を乱暴に拭い、エルシーは息をつく。
まだ、大聖堂広場を通り抜けてここに到達したのはこの場にいる人間だけだ。
これだけの面子で敵軍の最精鋭を相手にするのは、分が悪いか。
「何、戦線を維持してれば誰かなりとも来るだろうさ」
「それをさせる私共だと思いますか?」
言うニコラスに、ヨハネスが低い声でそう返した。
大礼拝堂の戦いはまだ始まったばかりだ。
●大聖堂広場前の攻防:2
かつて、赤竜騎士団は自由騎士を追い詰めたことがある。
その際には、最終的に赤竜騎士団側の一角が崩されたことで撤退させられた。
しかしその戦い自体、終始赤竜騎士団側が有利であり、アルマイアも自由騎士の危険性こそは認識したが、しかし勝てない敵だとは思わなかった。
しかし――
「蹴散らせェ!」
聖堂騎士が鎧竜を駆って自由騎士を潰しにかかる。
鎧竜は身をひねり、十分に勢いをつけて長い尾を振るおうとした。
「――単調な動きですね!」
しかし、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はギリギリの間合いでそれを避けると、何と尾を足場に跳躍した。
「何ィ!?」
驚愕する聖堂騎士の懐へ、彼女は身体ごと突っ込んでいった。
不安定な鎧竜の上、突き飛ばされた聖堂騎士は声を上げながら落ちてしまう。
「く、くそ!」
騎士は慌てて盾を構え、次に来るであろう攻撃に備えた。
だが、緊張の中で待ち続けても、追撃はなかなか来なかった。
「……?」
不審に思った騎士が、盾の脇からそっと向こうをのぞき込む。
「どうも」
そこに、すでに拳を構えていたミルトスがいた。
「し、しまっ……!」
言い切る前に、彼女の拳が騎士の顔面ど真ん中を打ち抜いていた。
鈍い音が響いて騎士の一人が地面に転がった一方、乗り手を失った鎧竜は近くにいた『信念の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)に狙いを定めて突進していった。
「そっちから来てくれるのであれば、手間が省けるというものである」
彼はその場で両足を開くと、鎧竜の突進を避けずにそのまま身で受けた。
凄まじい圧力が全身に襲い掛かってくる。
だが踏ん張りを利かせた足腰は浮き上がることなく、靴底が地面を擦った。
「……問題なし」
軋む身に痛みを覚えながらも、だがランスロットは鎧竜を受け止め切った。
「次はこちらの番である!」
言って、ランスロットが鎧竜の鼻っ面に愛用の大剣を叩きつける。
鎧竜の悲鳴。その声を聞いてか、別の鎧竜が彼の方を向いた。
「おのれ、貴様ァ!」
激昂して聖堂騎士が鎧竜を突っ込ませてくるが――
「ランス先輩、騎士の方は俺が抑えます!」
叫び、『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が前に出た。
ランスロットと共に参戦していた彼が、強く拳を構える。
しかし、仕掛けたのは攻撃ではなかった。
「な、何ぃ!?」
いきなり現れる、横たわるミトラースの像。聖堂騎士が驚愕した。
それはアリスタルフが造りあげた幻影であった。
ここは聖央都だ。モデルにするべきミトラースの像はそこら辺に立っている。
「隙を、見せたな!」
驚きに身を強張らせた聖堂騎士に、アリスタルフが殴りかかる。
「ぐ、くっ!」
されど騎士も精鋭。すぐに立ち直って彼を迎え撃とうとした。
だが、足が思い通りに動かずたたらを踏んでしまう。
騎士は二度目の驚愕に襲われた。
「う、お……!?」
「残念でした~。そうそう思い通りにはいかせないよ~」
いつの間にそこにいたのか、『夜の蝶は世界の影を知る』ローラ・オルグレン(CL3000210)が聖堂騎士に向かって軽いウィンクをする。
騎士の異常は、彼女の舞によるものだった。
広い戦場で、騎士は視界の片隅に舞を収めてしまっていたのだ。
「ぐ、お、おのれ……!」
騎士がローラに杖を振るおうとする。しかし、アリスタルフが先手を取った。
「――遅いッ!」
「うおお!?」
放たれた一撃が、騎士を鎧竜の上から吹き飛ばす。
「まだ鎧竜が残っているのである! 油断せずに行くぞ!」
「はい! 分かりました、ランス先輩!」
鎧竜へと立ち向かう二人の背中を見届けて、ローラは口元を軽くゆるめた。
「熱い友情で結ばれたイケメン、そういうのもあるのね……!」
アルマイアは自由騎士団を『倒せる敵』として認識していた。
無論、それは油断をしているということではない。
侮ってはいない。
警戒はしている。
しかし、その上で勝てると判断していたのだ。
だが彼女のその認識は今、目の前で覆されつつあった。
「大物殺し、狙ってみましょうか」
“赤竜王”が吐いた火をかわし、『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)が軽く告げる。
彼は戦いのさなかに崩れた瓦礫を台代わりにして跳躍、空中の“赤竜王”へと一気に迫った。アルマイアは、それに気づくのが遅れた。
「ハァ――ア!」
躍る刃がシャンバラ最強の戦闘型聖獣の首を浅く切り裂く。
「……さすがに、硬いですね」
着地したサブロウが苦い顔をした。
だが、アルマイアが感じた苦々しさは彼どころではない。
「自由騎士――!」
彼女は叫び、“赤竜王”を操ってサブロウに炎を浴びせようとする。
かくして灼熱の火線が放たれた。しかし、
「――思うようには、させないんですから!」
『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)の声が朗々と響いた。彼女の魔導が、炎によるダメージを即座に癒していく。
「……小癪!」
これだ。先ほどから、ずっとこの調子だ。
“赤竜王”が暴れても、自由騎士達はすぐに立ち直ってまた攻めてくる。
前の戦いとは、何もかもが違っていた。
状況の違い。数の違い。気構えの違い。こちらとて、決死の覚悟を抱いているはずなのに。
今やアルマイアにとって、自由騎士は『倒せる敵』ではなくなっていた。彼らは難敵。いや、それ以上の――
「“竜騎公”アルマイア!」
背後から彼女を呼ぶ声がする。
ここは“赤竜王”の上。あり得ないことだった。戦慄と共にアルマイアが後ろを向く。
そこには、しっかりと“赤竜王”の上に立って腕を組んでいる『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)の姿があった。
「そっちがなかなか来ないから、こっちから来てやったよ!」
「チィッ!」
アルマイアが腰の剣を引き抜こうとする。
だがその間に、すでにカーミラは駆け込んできていた。
「地面に叩きつけてやる!」
「不遜! その無駄口、己に返ると知れ!」
カーミラの拳とアルマイアの長剣が、刹那のうちに交差する。
ガツンという、拳が肉を叩く音。衝撃に、アルマイアの顔が跳ね上がった。
だがおそらくこの場で優ったのは“竜騎公”。
「くぅ、あああああああ!?」
振るった秘剣によって、カーミラは全身炎に包まれた。
「……墜ちろ、下郎」
「ク、クソ……!」
激痛の中で悔みつつカーミラは墜落していった。
口の中に血の味を感じながら、アルマイアは改めて戦場を見下ろした。
大聖堂目指して駆ける自由騎士がそこに見える。
「蹂躙すべし“赤竜王”!」
アルマイアは直ちに指示を下し、“赤竜王”が地面に向かって炎を噴いた。
「うわああああああ!」
「ぐああああ!」
多数の自由騎士が、真っ赤な炎に巻き込まれる。
しかし、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)がすぐにそれらの傷を癒して周りに向かって叫んだ。
「ここは我々に任せて先に行け。早く!」
癒しを施された自由騎士達が、この言葉にうなずいて大聖堂へと入っていく。
その瞬間、アルマイアの髪が怒りの圧によってフワリと浮き上がった。
「自由騎士……!」
彼女の怒りに呼応するようにして“赤竜王”が咆哮を轟かせた。
●教皇ヨハネスの聖戦:2
やがて、大礼拝堂に姿を現す自由騎士が増えてきた。
「何ということですか! アルマイア、おお、アルマイア!」
ヨハネスの嘆きの声が大礼拝堂にこだまする。
「かくなる上はわたくし共がここを死守する以外にありますまい!」
「もとより承知のこと!」
「教皇猊下、どうぞ我らにお命じくださいませ!」
数的不利を強いられながら、しかし、敵はまさに意気軒高。
「下手をすれば呑まれるな、これは……」
つい先ほどこの場に到着した『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)が短く切り詰めた突撃槍を手にまずは状況を俯瞰する。
広場を何とか通貨できた自由騎士は、しかし、未だこの場で足止めを食らっているようだった。
大礼拝堂の最奥に、殊更壮麗な装飾が施された扉がある。
ここはいわばシャンバラの王城だが、しかし、戦闘を意図して建てられた建物ではない。ならば、造りな素直なはずだ。
「あの扉か」
敵の聖堂騎士も、最奥にある扉の前に陣取っていた。間違いないだろう。
「だが俺の目的は――大将首だ」
アデルが睨むのは扉ではなく、その脇に立っているヨハネスであった。
「ぬぅ!」
彼の突撃を、盾を持った聖堂騎士が受け止める。
素早い動きだと、アデルはいっそ感心した。攻撃は止められてしまったが、
「何、だったら俺がやらなければいい。それだけの話だ」
彼の攻撃を受けたがゆえに、盾の聖堂騎士には隙ができていた。
そこにできたほんの小さな間隙を、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)がさらにこじ開けようとする。
「あれがシャンバラの一番エライ人かぁ。戦争も佳境って感じだなぁ」
ヨハネスの顔を見た後で、クイニィーはホムンクルスを生成する。
「さぁ、派手に行こうか!」
彼女はホムンクルスに前を任せると、自身は高い毒性を有する水銀を操って、聖堂騎士の動きを縛りにかかった。
「ぬぅ!」
重戦士とおぼしき聖堂騎士が大剣で水銀を受けにかかる。
しかし、敵がそちらに意識を割くその足元を、ホムンクルスが通っていった。
「――今、炸裂!」
「何ッッ!?」
後衛の位置にいる杖を持った騎士のところで、ホムンクルスが破裂した。
敵陣に動揺が走る。自由騎士側にチャンスが訪れた。
「今がそのとき、全力で行きます!」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)がそこに電磁力場を発生させて敵聖堂騎士を一網打尽に叩きに行った。
「ぐおおおおお!?」
響く叫びはヨハネスのもの。
しかし、彼らは耐えた。強力な電撃もただ一発では倒すには至らない。
「神よ、主よ、我らを見守り給う!」
再びヨハネスが己の業を用いて騎士に金色の輝きを纏わせる。
ただ傷を癒すのではなく、それはおそらく、ノートルダムの息吹にも似た効果を持った業であろう。聖堂騎士達の傷が、時と共に癒えていった。
「じゃあいっぱつでどかんとやればいい」
敵が癒えるのを見て、『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)はそう結論付けた。
彼女は武器を振り回し、敵へと突撃してひたすらに暴れようとする。
獲物が大きいだけにそれは聖堂騎士にとっても脅威だった。
「単調に過ぎる、ナメるな!」
と、前衛の聖堂騎士が叫んで盾を構えるが、実はそれこそ、狙い通り。
「……そこだ。狙い撃つ」
リムリィと連携していた『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)が前衛の向こうに立つ聖堂騎士へと拳銃をぶっ放した。
銃声が鳴り渡り、弾丸は鉄杖の聖堂騎士ののどを穿っていた。
「あ、ガッ!?」
今まさに魔導を行使せんとしていた騎士は、激痛に身を折り曲げる。
聖堂騎士達の統制がこれによって乱れた。
「このチャンスに、賭けるんだよ!」
『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)が、敵が立ち直る前に駆け込んで攻撃を仕掛けた。
「ぬぅ!」
後衛の位置に立つ別の聖堂騎士が、杖を振るう。
発生した冷気がリサを襲うが、彼女はそれを耐えてさらに走った。
盾をかざす前衛の騎士の側面へ。そして、呼吸を止めて拳を連打する。
「ぐ、おおおお!?」
ここまで、散々自由騎士の攻撃を阻んできた盾の聖堂騎士が、彼女の猛攻によって身を傾がせた。それを見て、ヨハネスが顔色を変える。
「なりません! 倒れてはなりません! 立つのです!」
「お、オォ……、神よ……!」
ヨハネスの鼓舞を受け、聖堂騎士はグッと全身を強張らせて耐えた。
しかし、その胸にいずこかより放たれた矢が突き立つ。
「これは……!」
「――邪魔をされるワケには行かないんだよ、シャンバラ」
この場に追いついたパーヴァリ・オリヴェルが放った一矢であった。
「……魔女!」
その姿を見て、ヨハネスが顔色を変える。
「何ということ、何ということです……! 恐れ多い! お前が、罪在りし邪悪の権化がこの大聖堂を踏み荒らすなどと!」
「因果応報というヤツだよ、シャンバラの教皇。これまで君達は長いことヨウセイの森を踏み荒らしてきたんだ。ようやく僕達の番が来た。それだけだ」
パーヴァリの物言いは、しかしヨハネスにとっては到底許せるものではなかった。教皇の顔色が憤怒に染まっていく。
「不遜……、不遜なり魔女めが! ならばこのわたくしがお前達に――」
「させんよ、そんなことはな!」
言いかけたヨハネスを、シノピリカが遮った。
彼女の解放した闘気が物理的な圧力を伴って聖堂騎士達に襲いかかった。
「行け、パーヴァリ殿! 本命はここではなかろう!」
「……感謝を」
短く告げて、パーヴァリは走った。
彼は崩れかけた聖堂騎士達の間をすり抜けて、奥にある扉に手をかける。
「魔女……!」
ヨハネスが、パーヴァリに手を伸ばしかける。
だが、届かなかった。
「シャンバラを、終わらせてくるよ」
ヨウセイのリーダーが、扉の向こうに消えていった。
「おのれェェェェェェェェ――――ッッ!」
教皇ヨハネスの絶叫が、大礼拝堂にこだました。
●中央神殿に向かって:2
祈りが踏み躙られていく。
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が感じたのは、そんな思いであった。
ミトラース大聖堂にて、今、激戦が繰り広げられている。
教皇ヨハネス・グレナデンをはじめとしたシャンバラの最精鋭が、神のいる中央神殿へと続く扉の前に立ち、必死の抵抗を続けている。
自由騎士側も数で攻めるものの、敵は精強。攻めあぐねていた。
アンネリーザもライフルを構えて参戦する。それが必要だからである。
しかしトリガーを引きながら、彼女は拭えない違和感を感じていた。
「ここは――、お祈りをする場所じゃないの?」
トリガーを引く。
弾丸は敵の防衛騎士に弾かれてしまった。
跳ね返された弾丸は、ミトラースの神像の腹部に突き刺さった。
何故だろう、チクリとしたものを感じてしまう。
大礼拝堂、ここは祈りの場所。静謐なる、人の心が安らぎを得る場所。
そのはずだ。
「おかしいわよ、こんなの……」
シャンバラの在り方がおかしいとしても、その祈りは真摯であったろう。
だが壊されていく。
だが燃やされていく。
自らもその仲間の援護という形でその破壊に加担しながら、アンネリーザは違和感を無視できなかった。
だが、彼女一人がそれを思っても、戦いは収まらない。
「おのれェェェェェェェェ――――ッッ!」
教皇ヨハネスの絶叫が、すっかり朽ちかけた大礼拝堂にこだまする。
ついに自由騎士がミトラースの居場所へと続く門を破ったのだ。
「みんな、アタシ達も続くわよ!」
『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)が腕を振り上げてそう吼える。周りの自由騎士達は俄然勢いづいた。
戦いにおいて、勢いは重要だ。
上手く勢いに乗れた結果、少数が多数を打ち破ることもある。
そして今、この戦いで勢いに乗っているのはどちらか。
「せりゃあ!」
ライカの拳が大剣持ちの聖堂騎士を容赦なく叩いた。
アンネリーザも火砲支援で敵の戦力を上手く削り、状況は推移してゆく。
「イケるわ! このまま、このままミトラースのところへ!」
「させてはなりません! 死守です! 死そうともこの場を守るのです!」
叫びと叫びがぶつかり合う。
だが片方は確実に勢いを増す叫びで、片方は悲鳴にも似た叫びであった。
「この滅びこそ応報というものだろう、教皇猊下」
全身を怒気に包むヨハネスへ、冷ややかな声で告げたのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)であった。
「……自由騎士がよくぞ吠えるものです」
「私を睨んでも状況は変わらんよ、神は死に、この国は滅びる。それが因果というものだ。我らを罰しようとしたのだ、罰せられるのも道理だろう」
テオドールの言葉を聞いて、アンネリーザは理解した。
そうか、シャンバラは、彼らは、己で己の祈りを踏みにじったのか。
祈りを捧げる場所を戦場に選んで壊したのは、彼ら自身。
ならば、異邦人であるアンネリーザにできることはない。これはシャンバラ自身の選択によってなされた失墜なのだから。
まさに、罰しようとしたがゆえに罰せられた。
テオドールの言葉通りに。
「そして、我々の目的な貴方ではない。よって、退いてもらおう!」
言った瞬間に、雷撃が爆ぜる。
「ぐォ!?」
テオドールが展開したユピテルゲイヂによってヨハネスの動きが止まった。
「今よ、行きましょう!」
いち早くライカが走り出した。
「う、うん!」
それに続いて、アンネリーザも。
「待ちなさい……、我が神がお前達の戯言に耳を貸すなど――」
「悪いが、教皇猊下。私は神を諭すつもりはない。ただ滅ぼすのみだ」
それだけ言うと、テオドールも走り去る。
後ろから獣の咆哮の如き声が聞こえたがそれは無視した。
中央神殿は、もう近い。
●大聖堂前広場の攻防:3
激闘は続いていた。
鎧竜の尾が、三人の自由騎士を吹き飛ばした。
しかし、間髪置かず『笑顔のちかい』ソフィア・ダグラス(CL3000433)が魔導を発動させ、彼らの傷を癒していった。
「これで大丈夫……、だから……」
抑揚のない彼女の声に、自由騎士達が「ありがとう!」と礼を言う。
「小娘、がァァァァァ!」
鎧竜の上で聖堂騎士がいきり立った。
騎士は鎧竜を操りソフィアを狙おうとする。しかし、その攻撃は骨の兵士が受け止めた。
「危なかったな、大丈夫か?」
彼女を助けたのは『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)であった。
ウィリアムはこの場で調合した強毒を含む炸薬を鎧竜へと投げつける。
爆裂。そして発生した毒煙を、聖堂騎士が吸い込んでしまう。
「ぐっ、かは……!」
「そら、隙ができたぞ!」
「「応!」」
周りに立つ自由騎士達が、鎧竜へと攻撃を集中させていく。
それを見て、ソフィアは小さくうなずいた。
「負けてないの……、ボクたち……」
「ああ、その通りだ。この戦いは、私達が勝つ」
ウィリアムの物言いには、半ば確信めいたものが含まれていた。
確かに鎧竜の堅牢さは脅威であろう。聖堂騎士の実力は高い壁であろう。
しかし、押しているのは明らかに自由騎士。
その理由を、ウィリアムもソフィアもすでに肌で感じ取っていた。
「勝てるぞ! 俺達は勝てる! 俺達は強い! 信じろ、それが力となる!」
今もな広場を駆けまわり、馬上にて皆を鼓舞するボルカスがいる。
彼の声は、その熱は、この場にいる自由騎士を支える一助となっていた。
そして、挫けぬ意志を支えとして、彼らはこの戦場を駆け抜ける。
例え傷ついても、
「怪我をした人はこっちへ! 私が治します!」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が言って魔導の準備をする。
癒し手が多く集まる現状、負傷を怖がる必要も薄い。
逆に、数が少ない鎧竜部隊は少数精鋭だからこそ負傷を恐れる必要があった。
「それでは、遠慮なくいきますぞ!」
『ひっこぬかれた猫舌』瑠璃彦 水月(CL3000449)が高く跳躍し、鎧竜の上に乗った。狙いは、当然そこにいる聖堂騎士だ。
「く……!」
不運だったのは、その騎士が癒し手であったことだ。
最低限、戦うすべは心得てはいるものの、しかしさすがに戦闘を専門とする水月相手では分が悪かった。よって、
「せいやっ!」
彼の渾身の突きをまともに喰らうのも、仕方のないことだった。
鎧竜を操っていた最後の聖堂騎士がなすすべなく地面に転がり落ちていく。
こうなれば、あとは鎧竜を残すのみだ。
防御力がいかに高かろうとも、硬いだけならばさしたる敵ではない。
「終わらせるぞ、いいか!」
「「おおおおお!」」
ボルカスの号令に従って、自由騎士達が前へ前へと進撃する。
そこから鎧竜部隊が打倒されるまで、そう時間はかからなかった。
鎧竜部隊が全滅した頃、アルマイアもまた追い詰められていた。
「小癪! 小癪! 小癪! 小癪!」
何度もそう繰り返し、彼女は“赤竜王”に攻撃を命じる。
轟炎が戦場を灼熱に彩る。それは一体何度目かになることか。
相も変らぬ超高熱の炎に焼かれ、のたうちまわる自由騎士が眼下に見えた。
しかし、それもまたすぐに癒されて、だれ一人倒れることはない。
「小癪!」
噛みしめた歯がギリリと軋む。
「“赤竜王”、蹂躙、蹂躙! 蹂躙だ!」
アルマイアは目を血走らせ、さらに命じた。
普段は常に冷静な彼女だがしかし、こんな展開は初めてのこと。
最強であったがゆえに、アルマイアと赤竜騎士団は未だに敗北の味を知らない。国境間の小競り合い程度、彼女達が出る必要はなかったからだ。
秘密兵器であったがゆえの戦闘経験の少なさ。
そこからくる、窮地に陥った際の視野狭窄。
それこそが、この優秀なる騎士の唯一とも呼べる欠点であった。
つまり――
「……“赤竜王”!?」
上空の“赤竜王”がいきなりガクンと揺れる。そして飛行速度も落ちた。
起きた失策。
焦燥に駆られたあまり、彼女は“赤竜王”の体力を考えず突っ走りすぎた。
いかに戦闘用に調整された大聖獣とて、生物なのだ。
“赤竜王”の高度が落ちていく。どんどんと、落ちてゆく。
これは自由騎士にとって、逃せない好機であった。
「やっと、捕まえましたよ?」
声は、何と上からした。
それまで戦線を支えていた回復役の一人、『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)がカーミラと同じように高く高く跳躍していた。
その跳躍力は、明らかに常軌を逸している。
だがそれは当然のこと。リンネは、この戦いに己の命を賭けていた。
魂を燃やしたのだ。
「この間はどうも。……あの時の続きと参りましょう」
「しつこい……!」
アルマイアが剣を抜いて切りかかる。
しかしリンネはその手を掴み取り、自ら前に出て力任せに抑え込んだ。
「――飛狼白撃、行きます!」
宣し、彼女は鮮やかな投げを放つ。
しかも自分ごとアルマイアを空中に放り出して、諸共落下した。
「う、あああああああ!」
「そちらの頑丈さを信じますよ」
そしてリンネは、アルマイアをクッションにして地面に激突する。
肉が潰れる重くも生々しい音が大聖堂前広場に響き渡った。
「…………か」
アルマイアが、立ち上がる。
左腕はあらぬ方に折れ曲がり、紅の甲冑はひしゃげ、頭から大量の血を流し、
「勝た、ねば」
それでも彼女は剣を手に、なお戦おうとする。
「その姿勢は大したものです。尊敬します」
自身も相応にダメージを負ったリンネが、彼女を前に言う。
「ですが、もう詰みです」
「何を……ッ!?」
リンネに近づこうとしたアルマイアの顔が驚きに歪む。足が動かない。
「うちら、一人で戦ってるんやないで?」
彼女の動きを止めたのは、『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)であった。
彼女の舞によって生じた力のうねりが、アルマイアをその場に釘付けにした。
アルマイアは咄嗟に上を見る。
自分は戦えずとも、まだ最強の大聖獣“赤竜王”が――!
「悪いな“竜騎公”様。あんたの望みは叶わねぇよ」
かつて“赤竜王”に焼かれた『パーペチュアル・チェッカー』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が冷たく言い放つ。
彼が撃った弾丸が体力の尽きかけた“赤竜王”の翼に命中し、大聖獣は悲鳴と共に墜落した。
アルマイアが瞬きもできないまま目の当たりにしたそれは、最強たる赤竜騎士団の敗北を決定づける光景であった。
「おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「それでも立ち向かってくるのならば、ええ、お相手いたしましょう」
「ええよ、全力でやったるわ」
リンネとアリシアが構え、そして迎え撃つ。
「お前の相手はこっちだぜ“赤竜王”。さぁ、決着つけようや」
墜落しながらも暴れる“赤竜王”へは、ウェルスが言ってライフルを向けた。
奇しくも、アルマイアと“赤竜王”が倒れたのは同時のこと。
最期まで勇ましく戦い抜いた姿は最強騎士団の名に相応しいものだった。
だがついに、赤竜騎士団――壊滅!
●教皇ヨハネスの聖戦:3
「通してなるものか、通してなるものかァァァァ!」
聖堂騎士は必死だった。
大剣を振り回し、中央神殿へと向かおうとする自由騎士達を叩こうとする。
だがその一撃も『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)によってしっかりと受け止められてしまう。
「お返しするぜェ! しっかり受け取れよな!」
敵の攻撃を自ら受けて、マリアはその威力を敵へと跳ね返した。
「うぐおぉ!?」
思わぬ反撃に、聖堂騎士は後退する。そこへ、さらに『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)が踏み込んでいった。
「このォ!」
軽やかな剣閃が、騎士の甲冑を切り刻む。
血が舞って、だが、聖堂騎士はそこで目を剥いた。
「ここで倒れて、なるものぞォォォォオ!」
聖堂騎士、渾身のオーバーブラスト。
強烈なる衝撃波が、マリアとサラに叩きつけられる。
「こ、このヤロ……!」
さすがのマリアもこれには怯むが、だが後方、『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)がすでに準備を終えていた。
「みんなの傷を癒すんだぞ!」
彼女が発動させた癒しの魔導が、マリア達をダメージを消していく。
「ありがとうございます、行ってきます!」
サラは礼を言い、刃を翻してまた敵へと挑みかかっていった。
「おう、頑張ってくるんだぞー!」
「うっしゃ、俺も行くぜェ!」
マリアも拳を打ち合わせて、ズンズン前へと出張っていく。
「神敵必滅、神敵必滅――!」
聖堂騎士達は一心不乱に叫びながら自由騎士を押しとどめようとする。
しかし、すでに戦いの趨勢は決しつつあった。
「く、このような……!」
教皇ヨハネスの苦悶の声が響く。
彼と聖堂騎士達はよく戦っていた。
自由騎士達は未だこの場を完全には攻略できておらず、苦戦していた。
しかし、やはり数と勢いが違った。すでに何人かの自由騎士が、中央神殿へと至る門を通って、先に進んでしまっている。
「だが、まだ、まだ……!」
それでもヨハネスはこの場を死守せんと立ち続ける。
「おのれ神敵! お前達の罪、死して虚無に堕ちようとも晴れること無し!」
「それならそれでも構わないさ。この戦いに勝てるのなら、ね」
吼え狂う彼に返したのは、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。舞によって残った聖堂騎士達の動きを封じ、ヨハネスの前に立つ。
「もう諦めたらどうだい? すでに状況は決してると思うけど」
「黙りなさい! わたくしは神をお守りする、そう、何があろうとも!」
「分かんねぇ。何でミトラースなんて神様を守ろうとするんだ?」
気炎を上げるヨハネスへ、『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)がそんな問いを投げかけた。
「だって、ヨウセイだってヒトだろ? 俺達と同じに笑うし、泣くし、話だってする。そんな相手を家畜みたいに扱う神なんて……」
「魔女を人と同列に扱うお前達こそ、理解できかねます」
ナバルの訴えを、だが、ヨハネスは一言のもとに断じた。
「何でそんな風に言えるんだ? どうして、みんなで仲良くなれないんだ?」
半ば信じがたい思いで、ナバルはなお問うが、
「人に怒りがあり、罪があり、正義があり、優越感がある限り、全ての人が等しく手を取ることなどできません。お前はそこまで考えてものを言っていますか? 考えなしにただ問うだけならば、お前の言葉など雑音と変わりありません。中身なき言葉は、空しく響くだけのものでしかないのです」
ヨハネスの全身から怒気が立ちのぼる。
ナバルの言っていることは、きっと誰もが思い、そして実現しえぬと分かっているがゆえに口には出さぬことだろう。
それを口にし、なおかつ魔女を友とするなど、ヨハネスの価値観からすればそれは論外に等しいものだった。
「そう、無碍にするものではないと、僕は思うけどね」
だが割って入る者がいた。
ナバルの肩に手を置き、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)がヨハネスのことを強く睨みつける。
「彼も、貴方も、僕も、同じく信念を持ってここに立っているんだ。お互い、否定し合うしかない関係ではあるけれど、それでもその一点だけはきっと誰も否定できない。そうじゃないかな、教皇猊下」
アダムの言葉を、だがヨハネスは鼻で笑って見下した。
「愚か。実に愚か。お前達は侵略者なのです。何をどう言い繕ったところで、お前達が我が国を滅ぼさんとしている悪であることに変わりはない!」
「それが戦いだ。それが戦争だ。それが人の営みだ! 辛い現実がここにあるとしても、僕は己の信じるもののために、覚悟を胸に世界を変える!」
「吼えるな、神敵!」
聖堂騎士が動く。狙いは、ナバルとアダムだ。
「俺、難しいことはまだよく分かんねぇけど、でも……!」
「ああ、いいんだ。それでいい。君も僕も、やろうと思ったことをやれば!」
戦いは続く。
趨勢は決しようとも、聖堂騎士は一人も退くことはない。
なおも自由騎士達を苦しめながら、騎士達は一人、また一人と倒れていく。
「全く、この数の差でこれだけキツいとはな……」
ツボミが顔をしかめてそう言った。
聖堂騎士の戦いぶりは、まさしく国の最精鋭と呼ぶにふさわしいものだった。
だがやがて、長らく続いた戦いにも終わりのときがやってくる。
「教皇ヨハネス・グレナデン殿とお見受けするよ」
ヨハネスの前に最後に立ったのは、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)だった。
「……自由騎士」
「カノン・イスルギだよ、教皇サマ」
聖堂騎士ともやり合って、カノンは無傷ではなかった。
だが彼女はヨハネスを前にして拳を手で包んで深く一礼をする。
抱拳礼という、格闘者の間に伝わる礼の作法だ。
「何のつもりです、お前は」
「これが戦場の礼儀だから、かな」
「戦場の礼儀……」
繰り返し、ヨハネスはカノンを見る。傷だらけの少女。だが、その瞳に宿る光の何と力強いことか。
「お前は、自らの正義を語ることはしないのですか。私は敵ですよ」
「覚悟を決めた人に何を言っても失礼でしかないよ」
それが、カノンの答えだった。
「それも戦場の礼儀、ですか?」
「うん。口で何かを語るなら、それは語るべき場で語るべきでしょ?」
ああ、全くその通り。ヨハネスは思わずうなずきたくなった。
「戦いの場でものを言うのは、戦いのすべだけだよ。だから――」
カノンは静かに構えをとった。
「カノンの全力の技を贈るよ」
闘気をみなぎらせる彼女を見て、ヨハネスは新たな発見をした思いだった。
顧みれば、彼自らが戦場に出るのはこれが初めて。
当然、戦場の礼儀など一切知らず、己の神を守るべくハイオラクルでありながらここまで必死に戦い続けてきた。
教皇となって以降、神への献身と己の栄達と保身に努めてきた人生だった。
二十年前の一件とてその一つ。
だがそれは常に、己を追い落とす何者かの影に怯える日々でもあった。
ゆえに――
「カノン・イスルギ、でしたね」
「……何かな」
「私の名は、ヨハネス・グレナデンです。この名を覚えておきなさい」
「その勇姿も覚えておくよ、ヨハネスさん」
戦いの場に立って、唯一残った“信仰”を胸に、ヨハネスは初めて自分から胸を張って戦いを挑んでいく。
「主よ、天に一つなるもの、至高なるミトラースよ! オオオ!」
二人の戦いの結果は、記すまでもない。
大礼拝堂の戦いは、教皇ヨハネスの殉教をもって終わりを告げた。
●天に一つなるミトラース
ミトラースはそこにいた。
全てが白に包まれた、命などかけらも感じられない空間。
シャンバラの者達が中央神殿と呼ぶそここそが、真白き神ミトラースが住まう、あまりにも潔癖に過ぎる場所であった。
ここに辿り着いた者達が、目の前に並ぶ長い階段を上がり始める。
その中には、パーヴァリ・オリヴェルの姿もあった。
「ここまで、来たね」
「…………」
「……ああ」
応じる者は少なく、応じても短い一声のみ。
ほとんどの者が、アクアディーネ以外の神と相対のは初めてだった。
それに、この場があまりにも神々しくて、どうしても緊張が強まってしまう。
皆、高鳴り続ける己の心臓の音を耳の近くに聞きながら、階段を上がる。
するとやがて、長い階段の果てが見えた。
緊張がさらに強まった。
階段を上がり切る。するとそこに――神はいた。
「あれが、ミトラースなのか」
パーヴァリは思わず呟いていた。
そこにいたのは、ゆったりとした白い衣をまとった白いひげの老人。
その身は宙に浮き上がり、全身から淡い光を放っている。
「……あれだ、あれがミトラースだ」
自由騎士の一人が言った。
間違いない。この純白の空間に、その老人はあまりにも似合いすぎた。
誰が見ても理解できるだろう。かの老人こそ、この空間の主であるのだと。
神々しくも荘厳なる白きもの、あれこそが神ミトラースだ。
『――来たか、罪よ』
その声は耳にではなく、意識そのものに届いた。
「罪、だって……?」
パーヴァリが聞き返す。
『然り。汝らに命はない、罪であるがゆえに。汝らは世を滅ぼすもの也』
「何を――」
言いかけたところで、ミトラースめがけて突っ込む影がいた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!」
『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)であった。
飛び掛かり、振り下ろした刃が肩口から腹にかけてミトラースを切り裂く。
血は、しかし噴き出ることはなかった。
自由騎士達が驚きにざわめいた。
「――生物、ではないのか?」
パーヴァリも疑問とばかりにそう言った。
『罪よ。汝らは魔女と手を組みこの国を滅ぼしに来た。何と嘆かわしきこと』
「AAAAAAAAAArrrrrrrrrrrHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!」
ナイトオウルが幾度も斬りつけながら、だが、ミトラースはそれを意に介する様子もなく、自由騎士へ言葉を続けた。
『罪よ、直ちに滅びよ。魔女よ、直ちに清められよ。それのみが汝らの救い。我が施す汝らへの愛と知るがよい』
「「……ハッ!」」
ミトラースの言葉を、鼻で笑う者がいる。
「ねぇ、ザッくん、何かおかしいこと言ってるヤツがいるけど、どうする?」
『魔女』エル・エル(CL3000370)が笑って問う。
「決まってるだろ、潰すぜ。俺達の手で、きっちりくたばらせてやるんだよ」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)が笑って答えた。
二人が動く。
ザルクがミトラースの足元に弾丸を撃った。
しかし白き神はその場から少しも動こうとしない。
「チッ、これじゃあパラライズショットが効くか判断できないな!」
「だったらもう攻めるのみでしょ。焼いてやる。砕いてやる!」
エルが次々に魔力弾を放ち、全力でミトラースへと撃ち込んでいく。
『罪よ。我をも滅ぼさんとするならば、汝らは己の罪によって滅ぶこととなろう。汝らは罪ゆえに魂を持ち合わせぬ。ならば汝らに安寧は訪れない』
「偽りの春を作るものが、囀るな! ――ザッくん、合わせなさい!」
「喰らえよ神が。おまえは、俺の目的のための、通過点だ!」
ザルクの二丁拳銃が火を噴き、エルがそこに歌声を響かせる。
歌は魔力を引き寄せて、連なる双子星を作り上げた。
弾丸と双子星とが、ミトラースへと命中して生々しい音をその場に轟かせた。
手応えは十分。人であれば確実に死に至るであろう、怒涛の連撃。
『罪よ』
だが、ミトラースは健在であった。
「……忌々しい!」
エルが舌を打つ。
「人の物差しじゃ測れない、とは言わせないわよ?」
ミトラースへ、次に言葉を投げかけたのは到着したばかりのライカだった。
「ミトラース!」
『…………』
「答えなさい、神の蟲毒に勝利したとき、あなたはどうなるの? あなたは、本当にこのシャンバラの民を愛していたの?」
『…………』
「さぁ、答えてみなさい!」
ライカが鋭い声でミトラースを糾す。
だが、真白き神はただ、ゆっくりと告げるのみだった。
『罪よ。汝らは愛を知らずして在るもの。罰に焼かれよ、悔い改めよ』
全く、話にならない。
「――殺すわ」
その一言を最後に会話を捨てて、ライカは力いっぱい神を殴りつける。
肉を叩いた。その感触は確かにあった、だが、神は揺るがない。
「何なんだ? 神ってのは、無敵なのか?」
ザルクが眉をひそめた。
神殺し。それを、自分達はできるはずではなかったのか。
それとも、このミトラースという神が、実は神の中でも特別な存在なのか。
攻めようともまるで反応を見せないミトラースを前に、自由騎士達の中でそういった不安が膨れ上がり始めていた。
だが、ミトラースの肩に矢が突き立つ。放ったのはパーヴァリだった。
「大丈夫だよ」
彼の言葉には、強い確信が込められていた。
それを証明するように、周囲に広がっていた白にかすかな陰りが差す。
ミトラースに血は流れていない。
だが、その身より放たれる光は幾度か明滅を繰り返した。
ほんの少しだけ薄暗さが増した中央神殿で、パーヴァリは皆を鼓舞する。
「大丈夫さ。君達なら、勝てるから」
「ええ……!」
『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)が拳を握った。
「やるわ。……ミトラース、絶対に討って見せるわ!」
『罪よ。汝らは我に逆らいて何を――』
「うるさい、知らないわよ、そんなの!」
一気に距離を詰めて、モニカがミトラースに飛び蹴りを喰らわせた。
「これがモニカの……、ううん、ヨウセイの怒りよ!」
そして至近距離で、彼女の放った氷の魔導が空気をビシリと鋭く鳴らす。
「やるぞ!」
「俺達で、ミトラースを討つんだ!」
自由騎士達がミトラースへ集中攻撃を開始した。
白き神はそれを全て受け止めながら、だが揺るがないし動じない。
しかし空間の暗さは増していった。真昼の場所に、夜が訪れつつあった。
「――ミトラース」
集中攻撃が一旦止まり、訪れる刹那の静寂。
そのとき、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)がミトラースの前へと立って、白き神の名を呼んだ。
『おお、魔女よ。悪なるもの。あってはならぬ滅びの種よ』
「お前は俺達を魔女と呼ぶ。悪と断じる。きっと、俺達にも伝わっていないほどの昔に何かあったんだろ? それが原因なんだろ?」
『魔女よ、悪よ、我が名において汝らに罰を。誅されよ、悪なるもの』
「だけどそんなの、俺達には関係ない。俺がお前を討つ理由は、これから先、今を生きている同胞が悲劇に見舞われないようにするためだ」
オルパの周囲に、陽炎が揺らめき立つ。
それは、彼が自らの魂を燃やし、それを力に変えているからであった。
彼の右目から、一筋の涙がこぼれた。
これまでのことを思っての悲しみか、これからのことを思っての喜びか。
その涙の意味を、オルパ自身理解していなかった。ただ、
「終わりだ、ミトラース。おまえに質したいことも、語りたいこともない」
彼が己の魂を燃やすのは、何かをしようと考えているからではない。
ただ、力を。
この刃に込めるための力を。
確実にこの手で神を殺すための力を。それのみを求めて――
『魔女め。汝に滅びを』
「神め。お前に死を」
オルパが、逆手に持ったダガーをミトラースの眉間に突き立てた。
ザッ、と、ザラついた音がして、白き神は灰へと変わった。
その瞬間、斜陽を迎えた白の空間に、音なき絶叫が響き渡るのを皆が聞いた。
それは中央神殿に留まらず、聖央都全体に響き、野を走り空を超え、シャンバラ全域にまで広がって奔っていく。
シャンバラの民が有していた信心の権能が消えたのは、このときだった。
――イ・ラプセル国内某所、地下牢。
「…………」
彼もまた、感じ取っていた。
この胸に抱き続けた、それまでの彼にとって最も大切だったもの。
信じ続けた神より賜った神の愛、服従の権能。
それがさっぱりと消えてなくなったのを、実感していた。
その意味するところを、彼はすぐに察する。
「終わったのだな、ゲオルグよ」
闇の中に呟いて彼はすぐに牢を見張る看守を呼んだ。
そして、いぶかしむ看守へと、彼は言う。
「私、ジョセフ・クラーマーは神アクアディーネの祝福を授かりたく思う」
看守はその言葉に仰天した。
どれだけ説得しても頑としてそれを受け入れず、欠損した左腕と左目を機械化することも拒んでいたジョセフが、いきなりそれを言い出したのだ。
「この腕と目も、貴国の技術によって使えるようにしていただきたい」
伝え終えると、ジョセフはまた瞑想に戻った。
看守が大慌てで走っていく。
その足音を聞きながら、彼はしばし、幼き頃の思い出に浸った。
中央神殿には、重い静寂の帳が下りていた。
集まった自由騎士が、神がいた場所を声もないままに見つめる。
ミトラースであった灰は、風もないのに散っていった。
そして今、ミトラースが立っていた場所には何もない。本当に、何もない。
ただ、この空間に満ちていた神々しさは嘘のように消えていた。
今のここは、ただの白い石造りの広場でしかなかった。
神の威が消えたそこで、誰かがぽつりと呟く。
「……勝ったんだ」
すると、同じような呟きが次々に起きた。
「勝った」
「勝ったんだ」
「勝った……!」
そして彼らは、歓喜に弾けた。
「勝ったんだ! イ・ラプセルが、シャンバラに勝ったんだ!」
声は重なり、歓喜は喝采となって場に轟く。
戦争は終わった。
イ・ラプセルは勝った。
ヨウセイ達は解放された。
無論、全ての問題に決着がついたワケではない。
むしろこれから新たな問題が発生することもあるだろう。
例えば、ミトラースが潰えたと同時に、シャンバラ中に存在していた聖櫃と聖霊門が機能を停止したことを、自由騎士達はまだ知らない。
しかし今は、今だけは、この瞬間の喜びを分かち合い、彼らは諸手を挙げる。
ここに、一つの戦いが決着を見た。
それは世界全土に大きな影響を与えることになるだろう。
だがそれはまた別の話。
今はただ、自由騎士達は勝利の喜びに身を打ち震わせるのであった。
――こうして、シャンバラ皇国は滅亡した。
白き神ミトラースを討つべく、自由騎士達はついに聖央都に乗り込んだ。
だが、敵の王城とも呼ぶべきミトラース大聖堂の入り口前には、シャンバラの守護者とも呼ぶべき最強戦力が待ち構えていた。
「――戦闘、開始。敵勢、殲滅すべし!」
“竜騎公”アルマイア・エルシーネス率いる赤竜騎士団だ。
「ああ、ついに接敵してしまったなぁ……」
咆哮を高らかと響かせる“赤竜王”の威容を眺め、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)は陰鬱な溜息をついた。
できれば戦いたくない。
それが彼の本音。争いはあまり好きではないのだ。
だが、状況が彼にそれを許さない。
「焦熱、展開」
アルマイアが言い、“赤竜王”が翼を広げて飛翔する。
すると、周囲の大気がグニャリと歪んだ。
“赤竜王”が発する高熱によって生じた陽炎であった。
「炭となれ、イ・ラプセル」
“赤竜王”の口から、超高熱の火炎放射が放たれた。
その範囲に、ヨーゼフはしっかりと入っていた。
「うおお、や、やば……!」
回避は間に合いそうもない。咄嗟に身を丸めて防ごうとするが――
「危なぁぁぁぁぁぁぁい!」
だがそこで『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)が彼の前に立った。
掲げたラージシールドが、炎を正面から受け止める。
「ぐ、あ、熱ッ!」
さすがに威力の全ては防ぎきれず、身を焼かれる苦痛にデボラは顔を歪めた。
「ああ、全く……!」
助けられながら、ヨーゼフは思う。
この戦い、聖戦などと盲目になれればどれだけ楽だったことか。
だがこの通り、敵は在り、同朋は自分を助け、他の騎士も懸命に戦っている。
「ワタシだけが逃れることなど、できないだろうさ!」
ヨーゼフのライフルが火を噴いた。
弾丸が、“赤竜王”の頭部の角に命中する。
「何ッ!」
“赤竜王”の動きが乱れ、アルマイアが驚いた。
そこへ、さらに『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)が同じくライフルを構えて、“赤竜王”の翼を狙った。
「翼の付け根、狙い撃ちますわ!」
銃声、銃声、銃声。
広場にそれは何度も響き、“赤竜王”に多少なりとも傷を与えていく。
だが、その動きは少しも鈍らない。とてつもないタフネスっぷりだ。
「強いですわ、でも……!」
レベッカは諦めず、さらにトリガーを引き続けた。
「空を飛んでいても動きが止まってるならやりやすいですぅ~」
『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)が言って、“赤竜王”に狙いを定める。
「でもやっぱり、地面に降りていただいた方がいいでしょうねぇ~」
発動した魔導が“赤竜王”の翼の一部を凍結させる。
レベッカの射撃に合わせた、打ち合わせなしの連携攻撃だ。
これは効いたか、“赤竜王”が派手に鳴いた。しかし墜落するには至らない。
「あらあら、随分と丈夫ですねぇ~」
「だから、もっともっと攻めないと、ですわ!」
「ですねぇ~」
レベッカとシェリルは共にうなずき、“赤竜王”とアルマイアを見上げる。
大聖堂前広場の戦いは、こうして始まった。
――広場にいる敵は“赤竜王”だけではない。
「圧し潰せェ!」
深紅の鎧に身を包んだ赤竜騎士団の騎士が、剣を掲げて指示を出す。
戦闘用の聖獣である鎧竜が、その指示に従って突進してきた。
「来るぞ! 皆、身構えろ! 自由騎士団は倒れぬことを教えてやれェ!」
馬上よりそう叫ぶのは、『いつかそう言える日まで』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)であった。
彼の言葉は周りにいる自由騎士達の間に響き、そしてその声がもたらす力が、騎士達の心にまで届く熱となって、彼らを奮い立たせる。
「来るか、赤竜騎士団」
『そのゆめはかなわない』ウィルフリード・サントス(CL3000423)が鎧竜を前に大剣を構えた。
鎧竜は防御力こそ驚異的だが、攻撃面では一歩劣る。
実際、鎧竜の突進をウィルフリードは何とかかわすことができた。
そして、回避した際についた勢いをそのまま使い、彼は大剣を思い切りよく鎧竜の側面に叩きつける。
やたら重々しい金属音が響き渡った。
「……なるほど、硬いな」
手に残る痺れを確認し、ウィルフリードは後退する。
代わりに、『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が前に出てきた。
「はぁ、何とも大きな蜥蜴やなぁ。でも、硬いだけならこうするわぁ」
彼女はその細い身で鎧竜の前に出て、ヒラリヒラリと舞い始める。
「貴様、何をしているか!」
「さぁて、何やろねぇ」
聖堂騎士の叫びもいなし、狼華は軽い足取りで舞い続ける。
「チッ、踏み潰してしまえ!」
狼華を狙い、騎士が鎧竜に命じた。しかし、突如として鎧竜は進路を変える。
「くっ、何をしている!?」
それは、狼華の舞によって生じた意識の混乱であった。
鎧竜が意味不明な進撃を始めるのを見て、彼は鉄扇で口元を隠して笑った。
「これなら、こちらもやりやすい」
『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)が混乱から覚めない鎧竜へと肉薄し、素早く軍刀で切りつけようとする。
だが、その刃のことごとくが鎧竜の堅牢な表皮に弾かれてしまった。
「……さすがの強靭さだな!」
唇を噛む彼女の耳に、馬の蹄の音が聞こえてくる。
「奮い立て、気合を入れろ! これがシャンバラとの最後の戦いなのだ!」
現れたのは、ボルカスであった。
「ああ、分かっている……!」
彼の言葉に、グローリアは熱を得る。
そして、再びの軍刀による疾風の如き切りつけ。先刻よりもさらに速く。
衝撃に火花が散って、硬い手応えに痺れが生じた。
しかし、繰り返す。攻撃を、繰り返す。
やがて切っ先が、鎧竜の肌に明らかな傷を刻み付けた。
鎧竜が痛みに鳴いて、騎士を乗せたまま暴れ出す。
「お、落ち着け、落ち着けェい!」
声を荒げる聖堂騎士を見て、グローリアは自分が戦えるという実感を得た。
最強戦力たる赤竜騎士団を前に、自由騎士達は一歩も劣っていなかった。
●中央神殿に向かって:1
ミトラース大聖堂は見上げても果てが見えないほど大きい。
このどこかに、真白き神ミトラースは存在している。
ミトラースを討ち果たす。
それを目的として、自由騎士達は大聖堂を目指そうとする。が、
「蹂躙すべし“赤竜王”!」
空より、その声と共に強烈な熱波が降り注いできた。
シャンバラ最強の赤竜騎士団。その団長であるアルマイアだ。
彼女は巨大な大聖獣“赤竜王”を乗りこなし、この大聖堂前広場に陣取って自由騎士達を殲滅すべく戦っていた。
「うわわっ、何だあれ、怖いなぁ!」
『ビーラビット』オズワルド・ルイス・アンスバッハ(CL3000522)が“赤竜王”の姿を見て慌てふためく。
幾度も炎を吐いて自由騎士の進撃を阻むその威容は、慣れていない者にはただただ脅威にしか感じられないだろう。
だが大聖堂へ向かうのならばここは通らねばならない場所だ。
何とか、赤竜騎士団を超えていかねばならない。
「薙ぎ払え、鎧竜!」
聖堂騎士が命じると、鎧竜がその長い尾を激しく振り回す。
「わ、わ……!」
他の自由騎士をかばおうと、前に出た『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)が盾でその一撃を受け止めて吹き飛ぶ。
「ありがとう! 助かったわ!」
かばってもらった『慈葬のトリックスター』アリア・セレスティ(CL3000222)がお返しというワケではないだろうが、両手に得物を構えて鎧竜へと切り込んでいく。
「一人でも多く、中に入れさせてもらうわ!」
刃が鎧竜の甲皮を削って火花が散った。
とてつもない強度。しかし、傷がついていないわけではない。
「みんな、攻め続けるのよ! そうすれば必ず敵も怯むから!」
「ああ!」
「分かってるよ!」
アリアの声に、周囲の自由騎士達が口々に応じた。
「さてこの状況、このまま何もなければ助かる、が……」
『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)が素早く周囲の状況を見やって、広場に他国の介入がないかを確認する。
今回の決戦には、イ・ラプセルだけでなくヴィスマルクはヘルメリアまでもが参戦してきている。この聖央都にとて、いつそれらの国の部隊が突入してくるかわかったものではないのだ。
だが少なくとも今のところ、まだイ・ラプセル以外に聖央都に到着している部隊はいなさそうだった。
アンは小さく息をつき、道を阻む鎧竜に向かって拳銃を構える。
「それじゃあ、お仕事しようかね、っと!」
銃声が、高らかに鳴り響いた。
戦いが始まってしばらく、赤竜騎士団は徐々に押され始めた。
敵は精強であり、大聖堂前広場を守らんとするその意志は目に見えない圧力となって自由騎士達に恐れを与えていた。
しかし、それでも自由騎士は止まらなかった。
両騎士団が激突し合う中、鉄壁を誇っていた赤竜騎士団の布陣が徐々に徐々に、少しずつ少しずつ歪んでいって、そして――
「今よ! そこから中に入れるわ!」
ついに突破口が開けた。
『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)がそこを指さし、自由騎士達が走っていく。それを上空から俯瞰していたアルマイアが“赤竜王”を操って接近してくるが、きゐこがそれを阻んだ。
「やらせないわよ!」
炸裂した電磁力場に“赤竜王”が身を悶えさせる。
「賢しい連中め!」
アルマイアが上空で舌を打った。
「敵の陣形が変われば通れなくなるわ、今のうちに通っちゃいなさい!」
きゐこはギアで近くにいる仲間も呼びつつ、大声でそう促した。
赤竜騎士団の布陣は鉄壁に近かった。
しかし完璧ではなかった。
「大聖堂前広場、まずは突破成功よ!」
他の自由騎士が大聖堂に入っていくのを見ながら、きゐこはギア越しに沿う報告したのだった。
●教皇ヨハネスの聖戦:1
大礼拝堂で、ヨハネス・グレナデンは静かに祈りを捧げていた。
後ろには聖堂騎士達が控えており、彼と同じように神像を前に傅いている。
礼拝堂は、荘厳なる静寂に満ちていた。
ここはまさしく聖職者達の領域。
神に祈り、神に捧げる、それのみを目的としている場であった。
「……来てしまいましたか」
静寂を破ったのは、ヨハネスの声。
立ち上がり、彼は小さく息をつくと共に礼拝堂の入り口がある方を見た。
「邪魔をさせてもらうぞ、ミトラースの羊さん達よ」
入ってきたのは、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)をはじめとする自由騎士数名。赤竜騎士団の猛攻をかいくぐり、ここまで来た。
「アルマイアは通してしまいましたか」
顔に表情らしい表情は浮かべず、ヨハネスは目を伏せた。
「いくら士気が高かろうとな、聖堂前はだだっ広い上にこっちには数がいる。取りこぼすさ、そりゃあな」
言ってツボミは肩をすくめるが、しかしヨハネスはかぶりを振った。
「愚かなことです。むざむざ神敵を通してしまうとは」
ツボミの説明も全く聞き入れようとしていない。
見た目こそ温和そうだが、このヨハネスという男、かなり辛口なようだった。
「まぁよいでしょう。神敵よ、不遜にも神の家に立ち入った愚行、決して看過できるものではありません。お前達の歩みもここまでです」
ガシャン! と音がする。
ヨハネスの後ろに控えている聖堂騎士が、揃って武器を掲げた音だった。
こうなれば、次に連中が言うことは決まっている。
「「神敵必滅!」」
後方に回ったヨハネスがゆっくりと両手を広げる。
するとそこから生じた淡い金色の輝きが雨のように騎士達に降り注いだ。
「行きなさい、選ばれし騎士達。ここに神威を示し、我らが主を守るのです」
「「教皇猊下の仰せのままに!」」
金色の輝きを纏い、最精鋭たる聖堂騎士が前に出る。
おそらくはシャンバラでも赤竜騎士団に匹敵するであろう最精鋭の聖堂騎士は、威風堂々たる振る舞いを見せて、自由騎士に迫った。
「これは、少し早まったやもしれぬな」
聖堂騎士を前に、『果たせし十騎士』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)が小さく息を呑んだ。
歴戦の彼女をして聖堂騎士から受ける圧力に汗を流す。
それほどの気迫を、純白の騎士達は纏っていた。
本格的に気圧される前に、シノピリカの方から聖堂騎士に仕掛けた。
「自由騎士、シノピリカ・ゼッペロン! 参る!」
「我が神に歯向かう者に騎士を名乗る資格なそない! 退け邪教徒!」
シノピリカは鉄の杖を持つ聖堂騎士を狙おうとする。
しかし、その前に盾を構えた大柄な騎士が立ちはだかった。
「どけェい!」
シノピリカ渾身の左腕が火を噴いた。
凄まじいまでの激突音。衝撃の余波が、広範囲に響いていく。
「ぬ、ゥ!?」
退き目を剥いたのは、シノピリカの方だった。まさか受け止め切るとは。
盾を持った聖堂騎士は、だが口から血を流していた。
しかしその傷も、金色の光が瞬いてすぐに消えていく。
「持続回復の魔導。……教皇のあれか!」
ツボミが気づいた。
「シノピリカさんの攻撃を弾くとはね。これは集中的にやった方がいいわね」
成り行きを見守っていた『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が、共にこの場にやってきた自由騎士達に促す。
「何だ何だ、こんな強そうな連中と戦わなきゃいかんのか?」
ライフルに弾丸を込めて『風詠み』ベルナルト レイゼク(CL3000187)がその顔をしかめっ面に変える。
彼は防衛騎士の向こうにいる鉄杖の聖堂騎士を狙って引き金を引いた。
銃声。だが、その弾丸もシノピリカが交戦した騎士の盾に阻まれてしまう。
「これならどうですか!」
ベルナルトの隣より、『疾走天狐』ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)が突っ込んでいく。
彼女は短剣を振るって切りかかったが、しかしやはり堅固な盾を打ち破るには至らず、ベルナルトのところへと戻ってきた。
「すっごい固かったで!?」
「お嬢、素が出てるぞ、素が」
目を丸くして驚いているガブリエーレを、ベルナルトは小声で諭した。
聖堂騎士には、エルシーが挑みかかっていた。
それをフォローするために、『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)が先んじてエルシーに持続回復の魔導を施していた。
「さて、あの教皇さん、吹っ切れはしたが今さらなんだよな、悲しいかな」
ニコラスは呟く。
彼の認識としてすでにシャンバラは敗北を待つばかりの状況だ。
果たして、この戦いに勝ったところで先はあるのか。
イ・ラプセル側からすればそんな風にも見えるのだが――
「押し返しなさい。我らが神の家を守るのは、我々なのです!」
見る限り、ヨハネスは全く諦めていないようだ。
「しぶとい限りだね、どうにも」
ニコラスは苦笑するしかなかった。
「はぁぁ!」
エルシーが聖堂騎士の盾を蹴り叩き、その反動でニコラスの近くに跳んだ。
「おっと、怪我してるじゃないか……」
「さすがに強いですね、あの人達」
口から流れる血を乱暴に拭い、エルシーは息をつく。
まだ、大聖堂広場を通り抜けてここに到達したのはこの場にいる人間だけだ。
これだけの面子で敵軍の最精鋭を相手にするのは、分が悪いか。
「何、戦線を維持してれば誰かなりとも来るだろうさ」
「それをさせる私共だと思いますか?」
言うニコラスに、ヨハネスが低い声でそう返した。
大礼拝堂の戦いはまだ始まったばかりだ。
●大聖堂広場前の攻防:2
かつて、赤竜騎士団は自由騎士を追い詰めたことがある。
その際には、最終的に赤竜騎士団側の一角が崩されたことで撤退させられた。
しかしその戦い自体、終始赤竜騎士団側が有利であり、アルマイアも自由騎士の危険性こそは認識したが、しかし勝てない敵だとは思わなかった。
しかし――
「蹴散らせェ!」
聖堂騎士が鎧竜を駆って自由騎士を潰しにかかる。
鎧竜は身をひねり、十分に勢いをつけて長い尾を振るおうとした。
「――単調な動きですね!」
しかし、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)はギリギリの間合いでそれを避けると、何と尾を足場に跳躍した。
「何ィ!?」
驚愕する聖堂騎士の懐へ、彼女は身体ごと突っ込んでいった。
不安定な鎧竜の上、突き飛ばされた聖堂騎士は声を上げながら落ちてしまう。
「く、くそ!」
騎士は慌てて盾を構え、次に来るであろう攻撃に備えた。
だが、緊張の中で待ち続けても、追撃はなかなか来なかった。
「……?」
不審に思った騎士が、盾の脇からそっと向こうをのぞき込む。
「どうも」
そこに、すでに拳を構えていたミルトスがいた。
「し、しまっ……!」
言い切る前に、彼女の拳が騎士の顔面ど真ん中を打ち抜いていた。
鈍い音が響いて騎士の一人が地面に転がった一方、乗り手を失った鎧竜は近くにいた『信念の盾』ランスロット・カースン(CL3000391)に狙いを定めて突進していった。
「そっちから来てくれるのであれば、手間が省けるというものである」
彼はその場で両足を開くと、鎧竜の突進を避けずにそのまま身で受けた。
凄まじい圧力が全身に襲い掛かってくる。
だが踏ん張りを利かせた足腰は浮き上がることなく、靴底が地面を擦った。
「……問題なし」
軋む身に痛みを覚えながらも、だがランスロットは鎧竜を受け止め切った。
「次はこちらの番である!」
言って、ランスロットが鎧竜の鼻っ面に愛用の大剣を叩きつける。
鎧竜の悲鳴。その声を聞いてか、別の鎧竜が彼の方を向いた。
「おのれ、貴様ァ!」
激昂して聖堂騎士が鎧竜を突っ込ませてくるが――
「ランス先輩、騎士の方は俺が抑えます!」
叫び、『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)が前に出た。
ランスロットと共に参戦していた彼が、強く拳を構える。
しかし、仕掛けたのは攻撃ではなかった。
「な、何ぃ!?」
いきなり現れる、横たわるミトラースの像。聖堂騎士が驚愕した。
それはアリスタルフが造りあげた幻影であった。
ここは聖央都だ。モデルにするべきミトラースの像はそこら辺に立っている。
「隙を、見せたな!」
驚きに身を強張らせた聖堂騎士に、アリスタルフが殴りかかる。
「ぐ、くっ!」
されど騎士も精鋭。すぐに立ち直って彼を迎え撃とうとした。
だが、足が思い通りに動かずたたらを踏んでしまう。
騎士は二度目の驚愕に襲われた。
「う、お……!?」
「残念でした~。そうそう思い通りにはいかせないよ~」
いつの間にそこにいたのか、『夜の蝶は世界の影を知る』ローラ・オルグレン(CL3000210)が聖堂騎士に向かって軽いウィンクをする。
騎士の異常は、彼女の舞によるものだった。
広い戦場で、騎士は視界の片隅に舞を収めてしまっていたのだ。
「ぐ、お、おのれ……!」
騎士がローラに杖を振るおうとする。しかし、アリスタルフが先手を取った。
「――遅いッ!」
「うおお!?」
放たれた一撃が、騎士を鎧竜の上から吹き飛ばす。
「まだ鎧竜が残っているのである! 油断せずに行くぞ!」
「はい! 分かりました、ランス先輩!」
鎧竜へと立ち向かう二人の背中を見届けて、ローラは口元を軽くゆるめた。
「熱い友情で結ばれたイケメン、そういうのもあるのね……!」
アルマイアは自由騎士団を『倒せる敵』として認識していた。
無論、それは油断をしているということではない。
侮ってはいない。
警戒はしている。
しかし、その上で勝てると判断していたのだ。
だが彼女のその認識は今、目の前で覆されつつあった。
「大物殺し、狙ってみましょうか」
“赤竜王”が吐いた火をかわし、『ジローさんの弟(嘘)』サブロウ・カイトー(CL3000363)が軽く告げる。
彼は戦いのさなかに崩れた瓦礫を台代わりにして跳躍、空中の“赤竜王”へと一気に迫った。アルマイアは、それに気づくのが遅れた。
「ハァ――ア!」
躍る刃がシャンバラ最強の戦闘型聖獣の首を浅く切り裂く。
「……さすがに、硬いですね」
着地したサブロウが苦い顔をした。
だが、アルマイアが感じた苦々しさは彼どころではない。
「自由騎士――!」
彼女は叫び、“赤竜王”を操ってサブロウに炎を浴びせようとする。
かくして灼熱の火線が放たれた。しかし、
「――思うようには、させないんですから!」
『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)の声が朗々と響いた。彼女の魔導が、炎によるダメージを即座に癒していく。
「……小癪!」
これだ。先ほどから、ずっとこの調子だ。
“赤竜王”が暴れても、自由騎士達はすぐに立ち直ってまた攻めてくる。
前の戦いとは、何もかもが違っていた。
状況の違い。数の違い。気構えの違い。こちらとて、決死の覚悟を抱いているはずなのに。
今やアルマイアにとって、自由騎士は『倒せる敵』ではなくなっていた。彼らは難敵。いや、それ以上の――
「“竜騎公”アルマイア!」
背後から彼女を呼ぶ声がする。
ここは“赤竜王”の上。あり得ないことだった。戦慄と共にアルマイアが後ろを向く。
そこには、しっかりと“赤竜王”の上に立って腕を組んでいる『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)の姿があった。
「そっちがなかなか来ないから、こっちから来てやったよ!」
「チィッ!」
アルマイアが腰の剣を引き抜こうとする。
だがその間に、すでにカーミラは駆け込んできていた。
「地面に叩きつけてやる!」
「不遜! その無駄口、己に返ると知れ!」
カーミラの拳とアルマイアの長剣が、刹那のうちに交差する。
ガツンという、拳が肉を叩く音。衝撃に、アルマイアの顔が跳ね上がった。
だがおそらくこの場で優ったのは“竜騎公”。
「くぅ、あああああああ!?」
振るった秘剣によって、カーミラは全身炎に包まれた。
「……墜ちろ、下郎」
「ク、クソ……!」
激痛の中で悔みつつカーミラは墜落していった。
口の中に血の味を感じながら、アルマイアは改めて戦場を見下ろした。
大聖堂目指して駆ける自由騎士がそこに見える。
「蹂躙すべし“赤竜王”!」
アルマイアは直ちに指示を下し、“赤竜王”が地面に向かって炎を噴いた。
「うわああああああ!」
「ぐああああ!」
多数の自由騎士が、真っ赤な炎に巻き込まれる。
しかし、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)がすぐにそれらの傷を癒して周りに向かって叫んだ。
「ここは我々に任せて先に行け。早く!」
癒しを施された自由騎士達が、この言葉にうなずいて大聖堂へと入っていく。
その瞬間、アルマイアの髪が怒りの圧によってフワリと浮き上がった。
「自由騎士……!」
彼女の怒りに呼応するようにして“赤竜王”が咆哮を轟かせた。
●教皇ヨハネスの聖戦:2
やがて、大礼拝堂に姿を現す自由騎士が増えてきた。
「何ということですか! アルマイア、おお、アルマイア!」
ヨハネスの嘆きの声が大礼拝堂にこだまする。
「かくなる上はわたくし共がここを死守する以外にありますまい!」
「もとより承知のこと!」
「教皇猊下、どうぞ我らにお命じくださいませ!」
数的不利を強いられながら、しかし、敵はまさに意気軒高。
「下手をすれば呑まれるな、これは……」
つい先ほどこの場に到着した『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)が短く切り詰めた突撃槍を手にまずは状況を俯瞰する。
広場を何とか通貨できた自由騎士は、しかし、未だこの場で足止めを食らっているようだった。
大礼拝堂の最奥に、殊更壮麗な装飾が施された扉がある。
ここはいわばシャンバラの王城だが、しかし、戦闘を意図して建てられた建物ではない。ならば、造りな素直なはずだ。
「あの扉か」
敵の聖堂騎士も、最奥にある扉の前に陣取っていた。間違いないだろう。
「だが俺の目的は――大将首だ」
アデルが睨むのは扉ではなく、その脇に立っているヨハネスであった。
「ぬぅ!」
彼の突撃を、盾を持った聖堂騎士が受け止める。
素早い動きだと、アデルはいっそ感心した。攻撃は止められてしまったが、
「何、だったら俺がやらなければいい。それだけの話だ」
彼の攻撃を受けたがゆえに、盾の聖堂騎士には隙ができていた。
そこにできたほんの小さな間隙を、『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)がさらにこじ開けようとする。
「あれがシャンバラの一番エライ人かぁ。戦争も佳境って感じだなぁ」
ヨハネスの顔を見た後で、クイニィーはホムンクルスを生成する。
「さぁ、派手に行こうか!」
彼女はホムンクルスに前を任せると、自身は高い毒性を有する水銀を操って、聖堂騎士の動きを縛りにかかった。
「ぬぅ!」
重戦士とおぼしき聖堂騎士が大剣で水銀を受けにかかる。
しかし、敵がそちらに意識を割くその足元を、ホムンクルスが通っていった。
「――今、炸裂!」
「何ッッ!?」
後衛の位置にいる杖を持った騎士のところで、ホムンクルスが破裂した。
敵陣に動揺が走る。自由騎士側にチャンスが訪れた。
「今がそのとき、全力で行きます!」
『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)がそこに電磁力場を発生させて敵聖堂騎士を一網打尽に叩きに行った。
「ぐおおおおお!?」
響く叫びはヨハネスのもの。
しかし、彼らは耐えた。強力な電撃もただ一発では倒すには至らない。
「神よ、主よ、我らを見守り給う!」
再びヨハネスが己の業を用いて騎士に金色の輝きを纏わせる。
ただ傷を癒すのではなく、それはおそらく、ノートルダムの息吹にも似た効果を持った業であろう。聖堂騎士達の傷が、時と共に癒えていった。
「じゃあいっぱつでどかんとやればいい」
敵が癒えるのを見て、『黒炎獣』リムリィ・アルカナム(CL3000500)はそう結論付けた。
彼女は武器を振り回し、敵へと突撃してひたすらに暴れようとする。
獲物が大きいだけにそれは聖堂騎士にとっても脅威だった。
「単調に過ぎる、ナメるな!」
と、前衛の聖堂騎士が叫んで盾を構えるが、実はそれこそ、狙い通り。
「……そこだ。狙い撃つ」
リムリィと連携していた『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)が前衛の向こうに立つ聖堂騎士へと拳銃をぶっ放した。
銃声が鳴り渡り、弾丸は鉄杖の聖堂騎士ののどを穿っていた。
「あ、ガッ!?」
今まさに魔導を行使せんとしていた騎士は、激痛に身を折り曲げる。
聖堂騎士達の統制がこれによって乱れた。
「このチャンスに、賭けるんだよ!」
『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)が、敵が立ち直る前に駆け込んで攻撃を仕掛けた。
「ぬぅ!」
後衛の位置に立つ別の聖堂騎士が、杖を振るう。
発生した冷気がリサを襲うが、彼女はそれを耐えてさらに走った。
盾をかざす前衛の騎士の側面へ。そして、呼吸を止めて拳を連打する。
「ぐ、おおおお!?」
ここまで、散々自由騎士の攻撃を阻んできた盾の聖堂騎士が、彼女の猛攻によって身を傾がせた。それを見て、ヨハネスが顔色を変える。
「なりません! 倒れてはなりません! 立つのです!」
「お、オォ……、神よ……!」
ヨハネスの鼓舞を受け、聖堂騎士はグッと全身を強張らせて耐えた。
しかし、その胸にいずこかより放たれた矢が突き立つ。
「これは……!」
「――邪魔をされるワケには行かないんだよ、シャンバラ」
この場に追いついたパーヴァリ・オリヴェルが放った一矢であった。
「……魔女!」
その姿を見て、ヨハネスが顔色を変える。
「何ということ、何ということです……! 恐れ多い! お前が、罪在りし邪悪の権化がこの大聖堂を踏み荒らすなどと!」
「因果応報というヤツだよ、シャンバラの教皇。これまで君達は長いことヨウセイの森を踏み荒らしてきたんだ。ようやく僕達の番が来た。それだけだ」
パーヴァリの物言いは、しかしヨハネスにとっては到底許せるものではなかった。教皇の顔色が憤怒に染まっていく。
「不遜……、不遜なり魔女めが! ならばこのわたくしがお前達に――」
「させんよ、そんなことはな!」
言いかけたヨハネスを、シノピリカが遮った。
彼女の解放した闘気が物理的な圧力を伴って聖堂騎士達に襲いかかった。
「行け、パーヴァリ殿! 本命はここではなかろう!」
「……感謝を」
短く告げて、パーヴァリは走った。
彼は崩れかけた聖堂騎士達の間をすり抜けて、奥にある扉に手をかける。
「魔女……!」
ヨハネスが、パーヴァリに手を伸ばしかける。
だが、届かなかった。
「シャンバラを、終わらせてくるよ」
ヨウセイのリーダーが、扉の向こうに消えていった。
「おのれェェェェェェェェ――――ッッ!」
教皇ヨハネスの絶叫が、大礼拝堂にこだました。
●中央神殿に向かって:2
祈りが踏み躙られていく。
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)が感じたのは、そんな思いであった。
ミトラース大聖堂にて、今、激戦が繰り広げられている。
教皇ヨハネス・グレナデンをはじめとしたシャンバラの最精鋭が、神のいる中央神殿へと続く扉の前に立ち、必死の抵抗を続けている。
自由騎士側も数で攻めるものの、敵は精強。攻めあぐねていた。
アンネリーザもライフルを構えて参戦する。それが必要だからである。
しかしトリガーを引きながら、彼女は拭えない違和感を感じていた。
「ここは――、お祈りをする場所じゃないの?」
トリガーを引く。
弾丸は敵の防衛騎士に弾かれてしまった。
跳ね返された弾丸は、ミトラースの神像の腹部に突き刺さった。
何故だろう、チクリとしたものを感じてしまう。
大礼拝堂、ここは祈りの場所。静謐なる、人の心が安らぎを得る場所。
そのはずだ。
「おかしいわよ、こんなの……」
シャンバラの在り方がおかしいとしても、その祈りは真摯であったろう。
だが壊されていく。
だが燃やされていく。
自らもその仲間の援護という形でその破壊に加担しながら、アンネリーザは違和感を無視できなかった。
だが、彼女一人がそれを思っても、戦いは収まらない。
「おのれェェェェェェェェ――――ッッ!」
教皇ヨハネスの絶叫が、すっかり朽ちかけた大礼拝堂にこだまする。
ついに自由騎士がミトラースの居場所へと続く門を破ったのだ。
「みんな、アタシ達も続くわよ!」
『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)が腕を振り上げてそう吼える。周りの自由騎士達は俄然勢いづいた。
戦いにおいて、勢いは重要だ。
上手く勢いに乗れた結果、少数が多数を打ち破ることもある。
そして今、この戦いで勢いに乗っているのはどちらか。
「せりゃあ!」
ライカの拳が大剣持ちの聖堂騎士を容赦なく叩いた。
アンネリーザも火砲支援で敵の戦力を上手く削り、状況は推移してゆく。
「イケるわ! このまま、このままミトラースのところへ!」
「させてはなりません! 死守です! 死そうともこの場を守るのです!」
叫びと叫びがぶつかり合う。
だが片方は確実に勢いを増す叫びで、片方は悲鳴にも似た叫びであった。
「この滅びこそ応報というものだろう、教皇猊下」
全身を怒気に包むヨハネスへ、冷ややかな声で告げたのは『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)であった。
「……自由騎士がよくぞ吠えるものです」
「私を睨んでも状況は変わらんよ、神は死に、この国は滅びる。それが因果というものだ。我らを罰しようとしたのだ、罰せられるのも道理だろう」
テオドールの言葉を聞いて、アンネリーザは理解した。
そうか、シャンバラは、彼らは、己で己の祈りを踏みにじったのか。
祈りを捧げる場所を戦場に選んで壊したのは、彼ら自身。
ならば、異邦人であるアンネリーザにできることはない。これはシャンバラ自身の選択によってなされた失墜なのだから。
まさに、罰しようとしたがゆえに罰せられた。
テオドールの言葉通りに。
「そして、我々の目的な貴方ではない。よって、退いてもらおう!」
言った瞬間に、雷撃が爆ぜる。
「ぐォ!?」
テオドールが展開したユピテルゲイヂによってヨハネスの動きが止まった。
「今よ、行きましょう!」
いち早くライカが走り出した。
「う、うん!」
それに続いて、アンネリーザも。
「待ちなさい……、我が神がお前達の戯言に耳を貸すなど――」
「悪いが、教皇猊下。私は神を諭すつもりはない。ただ滅ぼすのみだ」
それだけ言うと、テオドールも走り去る。
後ろから獣の咆哮の如き声が聞こえたがそれは無視した。
中央神殿は、もう近い。
●大聖堂前広場の攻防:3
激闘は続いていた。
鎧竜の尾が、三人の自由騎士を吹き飛ばした。
しかし、間髪置かず『笑顔のちかい』ソフィア・ダグラス(CL3000433)が魔導を発動させ、彼らの傷を癒していった。
「これで大丈夫……、だから……」
抑揚のない彼女の声に、自由騎士達が「ありがとう!」と礼を言う。
「小娘、がァァァァァ!」
鎧竜の上で聖堂騎士がいきり立った。
騎士は鎧竜を操りソフィアを狙おうとする。しかし、その攻撃は骨の兵士が受け止めた。
「危なかったな、大丈夫か?」
彼女を助けたのは『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)であった。
ウィリアムはこの場で調合した強毒を含む炸薬を鎧竜へと投げつける。
爆裂。そして発生した毒煙を、聖堂騎士が吸い込んでしまう。
「ぐっ、かは……!」
「そら、隙ができたぞ!」
「「応!」」
周りに立つ自由騎士達が、鎧竜へと攻撃を集中させていく。
それを見て、ソフィアは小さくうなずいた。
「負けてないの……、ボクたち……」
「ああ、その通りだ。この戦いは、私達が勝つ」
ウィリアムの物言いには、半ば確信めいたものが含まれていた。
確かに鎧竜の堅牢さは脅威であろう。聖堂騎士の実力は高い壁であろう。
しかし、押しているのは明らかに自由騎士。
その理由を、ウィリアムもソフィアもすでに肌で感じ取っていた。
「勝てるぞ! 俺達は勝てる! 俺達は強い! 信じろ、それが力となる!」
今もな広場を駆けまわり、馬上にて皆を鼓舞するボルカスがいる。
彼の声は、その熱は、この場にいる自由騎士を支える一助となっていた。
そして、挫けぬ意志を支えとして、彼らはこの戦場を駆け抜ける。
例え傷ついても、
「怪我をした人はこっちへ! 私が治します!」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が言って魔導の準備をする。
癒し手が多く集まる現状、負傷を怖がる必要も薄い。
逆に、数が少ない鎧竜部隊は少数精鋭だからこそ負傷を恐れる必要があった。
「それでは、遠慮なくいきますぞ!」
『ひっこぬかれた猫舌』瑠璃彦 水月(CL3000449)が高く跳躍し、鎧竜の上に乗った。狙いは、当然そこにいる聖堂騎士だ。
「く……!」
不運だったのは、その騎士が癒し手であったことだ。
最低限、戦うすべは心得てはいるものの、しかしさすがに戦闘を専門とする水月相手では分が悪かった。よって、
「せいやっ!」
彼の渾身の突きをまともに喰らうのも、仕方のないことだった。
鎧竜を操っていた最後の聖堂騎士がなすすべなく地面に転がり落ちていく。
こうなれば、あとは鎧竜を残すのみだ。
防御力がいかに高かろうとも、硬いだけならばさしたる敵ではない。
「終わらせるぞ、いいか!」
「「おおおおお!」」
ボルカスの号令に従って、自由騎士達が前へ前へと進撃する。
そこから鎧竜部隊が打倒されるまで、そう時間はかからなかった。
鎧竜部隊が全滅した頃、アルマイアもまた追い詰められていた。
「小癪! 小癪! 小癪! 小癪!」
何度もそう繰り返し、彼女は“赤竜王”に攻撃を命じる。
轟炎が戦場を灼熱に彩る。それは一体何度目かになることか。
相も変らぬ超高熱の炎に焼かれ、のたうちまわる自由騎士が眼下に見えた。
しかし、それもまたすぐに癒されて、だれ一人倒れることはない。
「小癪!」
噛みしめた歯がギリリと軋む。
「“赤竜王”、蹂躙、蹂躙! 蹂躙だ!」
アルマイアは目を血走らせ、さらに命じた。
普段は常に冷静な彼女だがしかし、こんな展開は初めてのこと。
最強であったがゆえに、アルマイアと赤竜騎士団は未だに敗北の味を知らない。国境間の小競り合い程度、彼女達が出る必要はなかったからだ。
秘密兵器であったがゆえの戦闘経験の少なさ。
そこからくる、窮地に陥った際の視野狭窄。
それこそが、この優秀なる騎士の唯一とも呼べる欠点であった。
つまり――
「……“赤竜王”!?」
上空の“赤竜王”がいきなりガクンと揺れる。そして飛行速度も落ちた。
起きた失策。
焦燥に駆られたあまり、彼女は“赤竜王”の体力を考えず突っ走りすぎた。
いかに戦闘用に調整された大聖獣とて、生物なのだ。
“赤竜王”の高度が落ちていく。どんどんと、落ちてゆく。
これは自由騎士にとって、逃せない好機であった。
「やっと、捕まえましたよ?」
声は、何と上からした。
それまで戦線を支えていた回復役の一人、『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)がカーミラと同じように高く高く跳躍していた。
その跳躍力は、明らかに常軌を逸している。
だがそれは当然のこと。リンネは、この戦いに己の命を賭けていた。
魂を燃やしたのだ。
「この間はどうも。……あの時の続きと参りましょう」
「しつこい……!」
アルマイアが剣を抜いて切りかかる。
しかしリンネはその手を掴み取り、自ら前に出て力任せに抑え込んだ。
「――飛狼白撃、行きます!」
宣し、彼女は鮮やかな投げを放つ。
しかも自分ごとアルマイアを空中に放り出して、諸共落下した。
「う、あああああああ!」
「そちらの頑丈さを信じますよ」
そしてリンネは、アルマイアをクッションにして地面に激突する。
肉が潰れる重くも生々しい音が大聖堂前広場に響き渡った。
「…………か」
アルマイアが、立ち上がる。
左腕はあらぬ方に折れ曲がり、紅の甲冑はひしゃげ、頭から大量の血を流し、
「勝た、ねば」
それでも彼女は剣を手に、なお戦おうとする。
「その姿勢は大したものです。尊敬します」
自身も相応にダメージを負ったリンネが、彼女を前に言う。
「ですが、もう詰みです」
「何を……ッ!?」
リンネに近づこうとしたアルマイアの顔が驚きに歪む。足が動かない。
「うちら、一人で戦ってるんやないで?」
彼女の動きを止めたのは、『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)であった。
彼女の舞によって生じた力のうねりが、アルマイアをその場に釘付けにした。
アルマイアは咄嗟に上を見る。
自分は戦えずとも、まだ最強の大聖獣“赤竜王”が――!
「悪いな“竜騎公”様。あんたの望みは叶わねぇよ」
かつて“赤竜王”に焼かれた『パーペチュアル・チェッカー』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が冷たく言い放つ。
彼が撃った弾丸が体力の尽きかけた“赤竜王”の翼に命中し、大聖獣は悲鳴と共に墜落した。
アルマイアが瞬きもできないまま目の当たりにしたそれは、最強たる赤竜騎士団の敗北を決定づける光景であった。
「おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「それでも立ち向かってくるのならば、ええ、お相手いたしましょう」
「ええよ、全力でやったるわ」
リンネとアリシアが構え、そして迎え撃つ。
「お前の相手はこっちだぜ“赤竜王”。さぁ、決着つけようや」
墜落しながらも暴れる“赤竜王”へは、ウェルスが言ってライフルを向けた。
奇しくも、アルマイアと“赤竜王”が倒れたのは同時のこと。
最期まで勇ましく戦い抜いた姿は最強騎士団の名に相応しいものだった。
だがついに、赤竜騎士団――壊滅!
●教皇ヨハネスの聖戦:3
「通してなるものか、通してなるものかァァァァ!」
聖堂騎士は必死だった。
大剣を振り回し、中央神殿へと向かおうとする自由騎士達を叩こうとする。
だがその一撃も『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)によってしっかりと受け止められてしまう。
「お返しするぜェ! しっかり受け取れよな!」
敵の攻撃を自ら受けて、マリアはその威力を敵へと跳ね返した。
「うぐおぉ!?」
思わぬ反撃に、聖堂騎士は後退する。そこへ、さらに『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)が踏み込んでいった。
「このォ!」
軽やかな剣閃が、騎士の甲冑を切り刻む。
血が舞って、だが、聖堂騎士はそこで目を剥いた。
「ここで倒れて、なるものぞォォォォオ!」
聖堂騎士、渾身のオーバーブラスト。
強烈なる衝撃波が、マリアとサラに叩きつけられる。
「こ、このヤロ……!」
さすがのマリアもこれには怯むが、だが後方、『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)がすでに準備を終えていた。
「みんなの傷を癒すんだぞ!」
彼女が発動させた癒しの魔導が、マリア達をダメージを消していく。
「ありがとうございます、行ってきます!」
サラは礼を言い、刃を翻してまた敵へと挑みかかっていった。
「おう、頑張ってくるんだぞー!」
「うっしゃ、俺も行くぜェ!」
マリアも拳を打ち合わせて、ズンズン前へと出張っていく。
「神敵必滅、神敵必滅――!」
聖堂騎士達は一心不乱に叫びながら自由騎士を押しとどめようとする。
しかし、すでに戦いの趨勢は決しつつあった。
「く、このような……!」
教皇ヨハネスの苦悶の声が響く。
彼と聖堂騎士達はよく戦っていた。
自由騎士達は未だこの場を完全には攻略できておらず、苦戦していた。
しかし、やはり数と勢いが違った。すでに何人かの自由騎士が、中央神殿へと至る門を通って、先に進んでしまっている。
「だが、まだ、まだ……!」
それでもヨハネスはこの場を死守せんと立ち続ける。
「おのれ神敵! お前達の罪、死して虚無に堕ちようとも晴れること無し!」
「それならそれでも構わないさ。この戦いに勝てるのなら、ね」
吼え狂う彼に返したのは、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。舞によって残った聖堂騎士達の動きを封じ、ヨハネスの前に立つ。
「もう諦めたらどうだい? すでに状況は決してると思うけど」
「黙りなさい! わたくしは神をお守りする、そう、何があろうとも!」
「分かんねぇ。何でミトラースなんて神様を守ろうとするんだ?」
気炎を上げるヨハネスへ、『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)がそんな問いを投げかけた。
「だって、ヨウセイだってヒトだろ? 俺達と同じに笑うし、泣くし、話だってする。そんな相手を家畜みたいに扱う神なんて……」
「魔女を人と同列に扱うお前達こそ、理解できかねます」
ナバルの訴えを、だが、ヨハネスは一言のもとに断じた。
「何でそんな風に言えるんだ? どうして、みんなで仲良くなれないんだ?」
半ば信じがたい思いで、ナバルはなお問うが、
「人に怒りがあり、罪があり、正義があり、優越感がある限り、全ての人が等しく手を取ることなどできません。お前はそこまで考えてものを言っていますか? 考えなしにただ問うだけならば、お前の言葉など雑音と変わりありません。中身なき言葉は、空しく響くだけのものでしかないのです」
ヨハネスの全身から怒気が立ちのぼる。
ナバルの言っていることは、きっと誰もが思い、そして実現しえぬと分かっているがゆえに口には出さぬことだろう。
それを口にし、なおかつ魔女を友とするなど、ヨハネスの価値観からすればそれは論外に等しいものだった。
「そう、無碍にするものではないと、僕は思うけどね」
だが割って入る者がいた。
ナバルの肩に手を置き、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)がヨハネスのことを強く睨みつける。
「彼も、貴方も、僕も、同じく信念を持ってここに立っているんだ。お互い、否定し合うしかない関係ではあるけれど、それでもその一点だけはきっと誰も否定できない。そうじゃないかな、教皇猊下」
アダムの言葉を、だがヨハネスは鼻で笑って見下した。
「愚か。実に愚か。お前達は侵略者なのです。何をどう言い繕ったところで、お前達が我が国を滅ぼさんとしている悪であることに変わりはない!」
「それが戦いだ。それが戦争だ。それが人の営みだ! 辛い現実がここにあるとしても、僕は己の信じるもののために、覚悟を胸に世界を変える!」
「吼えるな、神敵!」
聖堂騎士が動く。狙いは、ナバルとアダムだ。
「俺、難しいことはまだよく分かんねぇけど、でも……!」
「ああ、いいんだ。それでいい。君も僕も、やろうと思ったことをやれば!」
戦いは続く。
趨勢は決しようとも、聖堂騎士は一人も退くことはない。
なおも自由騎士達を苦しめながら、騎士達は一人、また一人と倒れていく。
「全く、この数の差でこれだけキツいとはな……」
ツボミが顔をしかめてそう言った。
聖堂騎士の戦いぶりは、まさしく国の最精鋭と呼ぶにふさわしいものだった。
だがやがて、長らく続いた戦いにも終わりのときがやってくる。
「教皇ヨハネス・グレナデン殿とお見受けするよ」
ヨハネスの前に最後に立ったのは、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)だった。
「……自由騎士」
「カノン・イスルギだよ、教皇サマ」
聖堂騎士ともやり合って、カノンは無傷ではなかった。
だが彼女はヨハネスを前にして拳を手で包んで深く一礼をする。
抱拳礼という、格闘者の間に伝わる礼の作法だ。
「何のつもりです、お前は」
「これが戦場の礼儀だから、かな」
「戦場の礼儀……」
繰り返し、ヨハネスはカノンを見る。傷だらけの少女。だが、その瞳に宿る光の何と力強いことか。
「お前は、自らの正義を語ることはしないのですか。私は敵ですよ」
「覚悟を決めた人に何を言っても失礼でしかないよ」
それが、カノンの答えだった。
「それも戦場の礼儀、ですか?」
「うん。口で何かを語るなら、それは語るべき場で語るべきでしょ?」
ああ、全くその通り。ヨハネスは思わずうなずきたくなった。
「戦いの場でものを言うのは、戦いのすべだけだよ。だから――」
カノンは静かに構えをとった。
「カノンの全力の技を贈るよ」
闘気をみなぎらせる彼女を見て、ヨハネスは新たな発見をした思いだった。
顧みれば、彼自らが戦場に出るのはこれが初めて。
当然、戦場の礼儀など一切知らず、己の神を守るべくハイオラクルでありながらここまで必死に戦い続けてきた。
教皇となって以降、神への献身と己の栄達と保身に努めてきた人生だった。
二十年前の一件とてその一つ。
だがそれは常に、己を追い落とす何者かの影に怯える日々でもあった。
ゆえに――
「カノン・イスルギ、でしたね」
「……何かな」
「私の名は、ヨハネス・グレナデンです。この名を覚えておきなさい」
「その勇姿も覚えておくよ、ヨハネスさん」
戦いの場に立って、唯一残った“信仰”を胸に、ヨハネスは初めて自分から胸を張って戦いを挑んでいく。
「主よ、天に一つなるもの、至高なるミトラースよ! オオオ!」
二人の戦いの結果は、記すまでもない。
大礼拝堂の戦いは、教皇ヨハネスの殉教をもって終わりを告げた。
●天に一つなるミトラース
ミトラースはそこにいた。
全てが白に包まれた、命などかけらも感じられない空間。
シャンバラの者達が中央神殿と呼ぶそここそが、真白き神ミトラースが住まう、あまりにも潔癖に過ぎる場所であった。
ここに辿り着いた者達が、目の前に並ぶ長い階段を上がり始める。
その中には、パーヴァリ・オリヴェルの姿もあった。
「ここまで、来たね」
「…………」
「……ああ」
応じる者は少なく、応じても短い一声のみ。
ほとんどの者が、アクアディーネ以外の神と相対のは初めてだった。
それに、この場があまりにも神々しくて、どうしても緊張が強まってしまう。
皆、高鳴り続ける己の心臓の音を耳の近くに聞きながら、階段を上がる。
するとやがて、長い階段の果てが見えた。
緊張がさらに強まった。
階段を上がり切る。するとそこに――神はいた。
「あれが、ミトラースなのか」
パーヴァリは思わず呟いていた。
そこにいたのは、ゆったりとした白い衣をまとった白いひげの老人。
その身は宙に浮き上がり、全身から淡い光を放っている。
「……あれだ、あれがミトラースだ」
自由騎士の一人が言った。
間違いない。この純白の空間に、その老人はあまりにも似合いすぎた。
誰が見ても理解できるだろう。かの老人こそ、この空間の主であるのだと。
神々しくも荘厳なる白きもの、あれこそが神ミトラースだ。
『――来たか、罪よ』
その声は耳にではなく、意識そのものに届いた。
「罪、だって……?」
パーヴァリが聞き返す。
『然り。汝らに命はない、罪であるがゆえに。汝らは世を滅ぼすもの也』
「何を――」
言いかけたところで、ミトラースめがけて突っ込む影がいた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!」
『空に舞う黒騎士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)であった。
飛び掛かり、振り下ろした刃が肩口から腹にかけてミトラースを切り裂く。
血は、しかし噴き出ることはなかった。
自由騎士達が驚きにざわめいた。
「――生物、ではないのか?」
パーヴァリも疑問とばかりにそう言った。
『罪よ。汝らは魔女と手を組みこの国を滅ぼしに来た。何と嘆かわしきこと』
「AAAAAAAAAArrrrrrrrrrrHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!」
ナイトオウルが幾度も斬りつけながら、だが、ミトラースはそれを意に介する様子もなく、自由騎士へ言葉を続けた。
『罪よ、直ちに滅びよ。魔女よ、直ちに清められよ。それのみが汝らの救い。我が施す汝らへの愛と知るがよい』
「「……ハッ!」」
ミトラースの言葉を、鼻で笑う者がいる。
「ねぇ、ザッくん、何かおかしいこと言ってるヤツがいるけど、どうする?」
『魔女』エル・エル(CL3000370)が笑って問う。
「決まってるだろ、潰すぜ。俺達の手で、きっちりくたばらせてやるんだよ」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)が笑って答えた。
二人が動く。
ザルクがミトラースの足元に弾丸を撃った。
しかし白き神はその場から少しも動こうとしない。
「チッ、これじゃあパラライズショットが効くか判断できないな!」
「だったらもう攻めるのみでしょ。焼いてやる。砕いてやる!」
エルが次々に魔力弾を放ち、全力でミトラースへと撃ち込んでいく。
『罪よ。我をも滅ぼさんとするならば、汝らは己の罪によって滅ぶこととなろう。汝らは罪ゆえに魂を持ち合わせぬ。ならば汝らに安寧は訪れない』
「偽りの春を作るものが、囀るな! ――ザッくん、合わせなさい!」
「喰らえよ神が。おまえは、俺の目的のための、通過点だ!」
ザルクの二丁拳銃が火を噴き、エルがそこに歌声を響かせる。
歌は魔力を引き寄せて、連なる双子星を作り上げた。
弾丸と双子星とが、ミトラースへと命中して生々しい音をその場に轟かせた。
手応えは十分。人であれば確実に死に至るであろう、怒涛の連撃。
『罪よ』
だが、ミトラースは健在であった。
「……忌々しい!」
エルが舌を打つ。
「人の物差しじゃ測れない、とは言わせないわよ?」
ミトラースへ、次に言葉を投げかけたのは到着したばかりのライカだった。
「ミトラース!」
『…………』
「答えなさい、神の蟲毒に勝利したとき、あなたはどうなるの? あなたは、本当にこのシャンバラの民を愛していたの?」
『…………』
「さぁ、答えてみなさい!」
ライカが鋭い声でミトラースを糾す。
だが、真白き神はただ、ゆっくりと告げるのみだった。
『罪よ。汝らは愛を知らずして在るもの。罰に焼かれよ、悔い改めよ』
全く、話にならない。
「――殺すわ」
その一言を最後に会話を捨てて、ライカは力いっぱい神を殴りつける。
肉を叩いた。その感触は確かにあった、だが、神は揺るがない。
「何なんだ? 神ってのは、無敵なのか?」
ザルクが眉をひそめた。
神殺し。それを、自分達はできるはずではなかったのか。
それとも、このミトラースという神が、実は神の中でも特別な存在なのか。
攻めようともまるで反応を見せないミトラースを前に、自由騎士達の中でそういった不安が膨れ上がり始めていた。
だが、ミトラースの肩に矢が突き立つ。放ったのはパーヴァリだった。
「大丈夫だよ」
彼の言葉には、強い確信が込められていた。
それを証明するように、周囲に広がっていた白にかすかな陰りが差す。
ミトラースに血は流れていない。
だが、その身より放たれる光は幾度か明滅を繰り返した。
ほんの少しだけ薄暗さが増した中央神殿で、パーヴァリは皆を鼓舞する。
「大丈夫さ。君達なら、勝てるから」
「ええ……!」
『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)が拳を握った。
「やるわ。……ミトラース、絶対に討って見せるわ!」
『罪よ。汝らは我に逆らいて何を――』
「うるさい、知らないわよ、そんなの!」
一気に距離を詰めて、モニカがミトラースに飛び蹴りを喰らわせた。
「これがモニカの……、ううん、ヨウセイの怒りよ!」
そして至近距離で、彼女の放った氷の魔導が空気をビシリと鋭く鳴らす。
「やるぞ!」
「俺達で、ミトラースを討つんだ!」
自由騎士達がミトラースへ集中攻撃を開始した。
白き神はそれを全て受け止めながら、だが揺るがないし動じない。
しかし空間の暗さは増していった。真昼の場所に、夜が訪れつつあった。
「――ミトラース」
集中攻撃が一旦止まり、訪れる刹那の静寂。
そのとき、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)がミトラースの前へと立って、白き神の名を呼んだ。
『おお、魔女よ。悪なるもの。あってはならぬ滅びの種よ』
「お前は俺達を魔女と呼ぶ。悪と断じる。きっと、俺達にも伝わっていないほどの昔に何かあったんだろ? それが原因なんだろ?」
『魔女よ、悪よ、我が名において汝らに罰を。誅されよ、悪なるもの』
「だけどそんなの、俺達には関係ない。俺がお前を討つ理由は、これから先、今を生きている同胞が悲劇に見舞われないようにするためだ」
オルパの周囲に、陽炎が揺らめき立つ。
それは、彼が自らの魂を燃やし、それを力に変えているからであった。
彼の右目から、一筋の涙がこぼれた。
これまでのことを思っての悲しみか、これからのことを思っての喜びか。
その涙の意味を、オルパ自身理解していなかった。ただ、
「終わりだ、ミトラース。おまえに質したいことも、語りたいこともない」
彼が己の魂を燃やすのは、何かをしようと考えているからではない。
ただ、力を。
この刃に込めるための力を。
確実にこの手で神を殺すための力を。それのみを求めて――
『魔女め。汝に滅びを』
「神め。お前に死を」

オルパが、逆手に持ったダガーをミトラースの眉間に突き立てた。
ザッ、と、ザラついた音がして、白き神は灰へと変わった。
その瞬間、斜陽を迎えた白の空間に、音なき絶叫が響き渡るのを皆が聞いた。
それは中央神殿に留まらず、聖央都全体に響き、野を走り空を超え、シャンバラ全域にまで広がって奔っていく。
シャンバラの民が有していた信心の権能が消えたのは、このときだった。
――イ・ラプセル国内某所、地下牢。
「…………」
彼もまた、感じ取っていた。
この胸に抱き続けた、それまでの彼にとって最も大切だったもの。
信じ続けた神より賜った神の愛、服従の権能。
それがさっぱりと消えてなくなったのを、実感していた。
その意味するところを、彼はすぐに察する。
「終わったのだな、ゲオルグよ」
闇の中に呟いて彼はすぐに牢を見張る看守を呼んだ。
そして、いぶかしむ看守へと、彼は言う。
「私、ジョセフ・クラーマーは神アクアディーネの祝福を授かりたく思う」
看守はその言葉に仰天した。
どれだけ説得しても頑としてそれを受け入れず、欠損した左腕と左目を機械化することも拒んでいたジョセフが、いきなりそれを言い出したのだ。
「この腕と目も、貴国の技術によって使えるようにしていただきたい」
伝え終えると、ジョセフはまた瞑想に戻った。
看守が大慌てで走っていく。
その足音を聞きながら、彼はしばし、幼き頃の思い出に浸った。
中央神殿には、重い静寂の帳が下りていた。
集まった自由騎士が、神がいた場所を声もないままに見つめる。
ミトラースであった灰は、風もないのに散っていった。
そして今、ミトラースが立っていた場所には何もない。本当に、何もない。
ただ、この空間に満ちていた神々しさは嘘のように消えていた。
今のここは、ただの白い石造りの広場でしかなかった。
神の威が消えたそこで、誰かがぽつりと呟く。
「……勝ったんだ」
すると、同じような呟きが次々に起きた。
「勝った」
「勝ったんだ」
「勝った……!」
そして彼らは、歓喜に弾けた。
「勝ったんだ! イ・ラプセルが、シャンバラに勝ったんだ!」
声は重なり、歓喜は喝采となって場に轟く。
戦争は終わった。
イ・ラプセルは勝った。
ヨウセイ達は解放された。
無論、全ての問題に決着がついたワケではない。
むしろこれから新たな問題が発生することもあるだろう。
例えば、ミトラースが潰えたと同時に、シャンバラ中に存在していた聖櫃と聖霊門が機能を停止したことを、自由騎士達はまだ知らない。
しかし今は、今だけは、この瞬間の喜びを分かち合い、彼らは諸手を挙げる。
ここに、一つの戦いが決着を見た。
それは世界全土に大きな影響を与えることになるだろう。
だがそれはまた別の話。
今はただ、自由騎士達は勝利の喜びに身を打ち震わせるのであった。
――こうして、シャンバラ皇国は滅亡した。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
軽傷
非時香・ツボミ(CL3000086)
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
サブロウ・カイトー(CL3000363)
ニコラス・モラル(CL3000453)
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
アデル・ハビッツ(CL3000496)
アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
リムリィ・アルカナム(CL3000500)
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
ローラ・オルグレン(CL3000210)
アリア・セレスティ(CL3000222)
グローリア・アンヘル(CL3000214)
ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
アダム・クランプトン(CL3000185)
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
マリア・スティール(CL3000004)
ランスロット・カースン(CL3000391)
マグノリア・ホワイト(CL3000242)
ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
サシャ・プニコフ(CL3000122)
瑠璃彦 水月(CL3000449)
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
クイニィー・アルジェント(CL3000178)
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
蔡 狼華(CL3000451)
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
雪・鈴(CL3000447)
アン・J・ハインケル(CL3000015)
リサ・スターリング(CL3000343)
ウィルフリード・サントス(CL3000423)
ナバル・ジーロン(CL3000441)
オズワルド・ルイス・アンスバッハ(CL3000522)
ベルナルト レイゼク(CL3000187)
ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)
ソフィア・ダグラス(CL3000433)
レベッカ・エルナンデス(CL3000341)
サラ・ケーヒル(CL3000348)
ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
サブロウ・カイトー(CL3000363)
ニコラス・モラル(CL3000453)
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
アデル・ハビッツ(CL3000496)
アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
リムリィ・アルカナム(CL3000500)
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
ローラ・オルグレン(CL3000210)
アリア・セレスティ(CL3000222)
グローリア・アンヘル(CL3000214)
ライカ・リンドヴルム(CL3000405)
アダム・クランプトン(CL3000185)
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
マリア・スティール(CL3000004)
ランスロット・カースン(CL3000391)
マグノリア・ホワイト(CL3000242)
ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
サシャ・プニコフ(CL3000122)
瑠璃彦 水月(CL3000449)
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
クイニィー・アルジェント(CL3000178)
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
蔡 狼華(CL3000451)
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
雪・鈴(CL3000447)
アン・J・ハインケル(CL3000015)
リサ・スターリング(CL3000343)
ウィルフリード・サントス(CL3000423)
ナバル・ジーロン(CL3000441)
オズワルド・ルイス・アンスバッハ(CL3000522)
ベルナルト レイゼク(CL3000187)
ガブリエーレ・シュノール(CL3000239)
ソフィア・ダグラス(CL3000433)
レベッカ・エルナンデス(CL3000341)
サラ・ケーヒル(CL3000348)
ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
称号付与
†あとがき†
お疲れさまでした。
ついに、終わりました。
この戦いの結末について、私から語ることはありません。
ただ、お疲れさまでしたと言わせてください。
それでは、また次のシナリオでお会いしましょう。
ご参加いただきありがとうございました!
ついに、終わりました。
この戦いの結末について、私から語ることはありません。
ただ、お疲れさまでしたと言わせてください。
それでは、また次のシナリオでお会いしましょう。
ご参加いただきありがとうございました!
FL送付済