MagiaSteam
腹が減っては戦は出来ぬ!




 ふんわりと、香ばしいかおりがキッチンに漂ってくる。
「……そろそろかしら!」
 女性があちち、と言いながらオーブンから取り出したのは、ふっくら出来たてのスコーン。
 ずらりと並ぶスコーンを見て、女性はふふふと楽しそうに微笑んだ。
「エマさん」
「あら、アーネスト! ちょうど焼きあがったところよ。はい、あーん」
 背後に立つ少年の姿を認めると、女性はスコーンを千切って彼の口元へ差し出す。
「あー……ん。―――……いやそうじゃなくて」
 そんなことを言いながらもしっかりスコーンを食べた少年は、口をもごもごさせながら目を逸らした。
 ああ、今日も彼女の料理は世界でいちばん美味しい。
 今までまともな料理を食べてこれなかったからかもしれないけれど、きっとそんなことはなく、彼女の料理は、世界一美味しいのだ。

 それは、しあわせそうな光景。
 ――――でも悲しいかな、この地は料理が美味しくないと言われるヘルメリアなのだった。
 けれど、ヘルメリアの地から離れたことのない彼らが、そんなことを知るよしもない。


「まいにち三食たべさせてくれる、自由騎士団はよいところ」
 台詞はさておき。『ふわふわ演算士』ペコラ・ココペコラ(nCL3000060)の目は真剣だった。
 その言葉の意図が分からず首を傾げていると、あのねとペコラが話を続けた。
「ヘルメリアの料理がね、そのね、…………口にあわないひともいるって聞いたの」
 その言葉に先日振舞われたスコーンと、ビールの酒粕を使ったジャムのことを思い出す。
 ただでさえ他国なのだ。文化の違いは食事にも勿論あるだろう。
 と、まあそんなのは建前で。
 本音を言ってしまうと、口に合う合わないではなく、ヘルメリア料理は不味いのだ。
 これからフリーエンジンをはじめ、きっと多くのヘルメリアの民と土地に関わることになるだろう。長くヘルメリアの地で活動することもあるかもしれない。
「その時に、口にあわないものばかりだと、しょんぼりしちゃうでしょう。
 だから!交流もかねて! お料理を教えたり、教えてもらったりするの、どうかしら?」
 イ・ラプセルの料理をフリーエンジンに根付かせちゃおうぜ、という話らしい。
 悪食をはじめとする食に対するスキルが豊富とはいえ、食べるなら美味しいものがいい。
 それに、フリーエンジンのなかに他国の料理へ興味を持っているひとたちもいるようだ。
「ね。だから、お料理しにいきましょう? まずは胃袋を掴めというし。………え、ちがう?」
 ペコラが首を傾げれば、長い髪がもふもふ揺れる。
 ヒツジの肉も美味しいよね、と思ったけれど、口に出すのはやめておいた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.料理を教える
2.ヘルメリア料理を教わる
 食事はやっぱり美味しいほうがいいよね。あまのいろはです。
 ヘルメリアの料理人と戦うので、対人戦闘です。対人戦闘なんです。

 教えるのは携帯できる料理でも、お祝いの豪華な料理でも、なんでも構いません。
 フリーエンジンとの交流を楽しみつつ、そっと美味しい料理を根付かせてください。

●ヘルメリアの料理人
 今回交流を持つのは、
 ノウブル女性のエマと、ソラビト少年のアーネストのふたりです。
 ふたりともヘルメリア料理しか知らず、現状にも満足しています。

・エマ(ノウブル女性)
 おっとりとした雰囲気のノウブルの女性。
 ヘルメリア料理しか知らず、他国の料理を教わるのを楽しみにしています。
 皆がおいしく料理を食べてくれたらしあわせ。
 今のヘルメリア料理に不満はないけれど、もっと美味しい料理を目指したい。

・アーネスト(ソラビト少年)
 すこし目つきも口も悪い、スズメのソラビト少年。
 フリーエンジンによって解放された元奴隷です。
 ヘルメリアの、というよりエマの料理が世界でいちばん美味しいと思っています。
 料理人見習いになったのも、エマの役に立ちたいという理由から。不純。
 エマの料理を否定しようものなら、猫のように威嚇してきます。

●場所
 動く城ティダルト内のキッチン。
 料理に必要な道具、材料は揃っています。
 調味料類はヘルメリアにはないので、イ・ラプセルから持ち込み済みです。

●同行
 ペコラ・ココペコラ(nCL3000060) が同行します。
 ヘルメリア料理がすごく気になるとのことです。料理ではあまり役には立ちません。
 これはどうしても食べられないな!ってものが出てきたら押し付けてください。
 表情を変えず、キッチンの端っこでもそもそ食べると思います。

●補足
 キッチンは自爆しません。

 情報は以上となります。皆様の美味しそうな?プレイングをお待ちしております。
状態
完了
報酬マテリア
1個  5個  1個  1個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2019年08月11日

†メイン参加者 6人†

『ゴーアヘッド』
李 飛龍(CL3000545)
『蒼光の癒し手(病弱)』
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『背水の鬼刀』
月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
『Who are You?』
リグ・ティッカ(CL3000556)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)



 動く城ティダルトのキッチンにて。
 自由騎士たちを迎えたのは、料理人であるエマとアーネストのふたり。
「よく来てくださいました! とってもとっても、楽しみにしていたの」
 エマは笑顔だったが、その背後に立つアーネストは何かもの言いたそうな瞳でこちらを見ている。年頃の少年らしい想いが、いろいろあるのだろう。
「ざるくんがおどかすので、どんなものかと思いましたが……」
 『おいしいまいにち』リグ・ティッカ(CL3000556)が、キッチンにあるスコーンをちらと見遣って。
「エマさんのお料理はなんだかおいしそうなのですよ?」
 さくふわスコーン、リグも食べたいです、とリグの頬がへにゃりとゆるむ。
 けれど、『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は、リグの言葉に思わず苦い顔。
 ――――油断してはならない。
 ザルクはヘルメリア料理がマズいということをよく知っている。それもそのはず、彼はヘルメリア出身なのだから。
 他国の料理も知ってる今だからこそ、それがよく分かる。本当に分かる。
 味付けがなかったり、逆に調味料入れ過ぎだったり、食感が最悪だったり煮過ぎだったり焼き過ぎだったり材料の大きさがバラけて火の通りが均一でなかったり――……。思い出せばキリがない。
「その最たるものがあのウナギのゼリー寄せで……」
「ざるくん、だいじょうぶですー? あれ、ざるくーん?」
 ぱたぱたぱた。リグが目の前で手を振ってみるけれど、どこか遠くを見つめるザルクの瞳に、リグの姿は映らなかった。

「前にザルクが言ってたヘルメリア料理ってのを食べる機会があるとはラッキーだな!」
 そんなザルクの想いは露知らず。『ゴーアヘッド』李 飛龍(CL3000545)は楽しそうだ。
 なにを食べても美味しく感じる彼にとって、ヘルメリア料理も怖くないのかもしれない。
「ペコラとティッカとヨツカもいい機会だから、一緒にヘルメリア料理ならってみようぜ!」
 折角だから作り方も教わって、と飛龍の言葉に、名前を呼ばれた『ふわふわ演算士』ペコラ・ココペコラ(nCL3000060)、『誰ガタメの願イ』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)、それからリグがはーいっと楽しそうに手を挙げる。
「まあ、まずはどんなヘルメリア料理がどんなものなのか、知らないとねっ」
「そうだな、相手を知ることは大事だ。どんなものか味わってみたい」
 『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)と、ヨツカが机に並ぶスコーンを見ながら言えば、エマはすぐにお茶の用意をしてくれた。
 ふんわりさっくりと焼きあがったスコーンは、とても美味しそうだ。淹れてくれた紅茶のかおりもとてもよい。―――けれど。
「ジャムをつけるとね、とっても美味しくなるの! 栄養も満点なのよ」
 そう言ってエマが笑顔で差し出したものは、フリーエンジンと合流した際に振舞われたビールの酒粕を使ったジャムである。
 自由騎士たちは、既にその味を知っていた。手を伸ばすのには勇気が要る。
「い、いただきます」
 そんななか、先陣を切ったのはカノンだ。
 にこり。笑顔を浮かべて。瓶にたっぷり詰まったジャムをひと掬い。ジャムから漂う独特のかおりがカノンを襲うが、ここで手を止めるわけにはいかない。
 自分は劇団員だ。例えこれの味が筆舌しがたいものだったとしても笑顔を保たなければ。後ろでこちらを見ているアーネストの視線も怖いし。
 自由騎士たちの視線がカノンに注がれている。大丈夫、カノンなら出来る!がんばれ!
 みんなから(心のなかで)声援を受けながら、カノンはたっぷりとジャムを塗ったスコーンをぱくり。
(―――不味い。ひたすら不味い)
 考える間も要らないくらい、それは不味かった。いや、スコーンは美味しかったのだ。けれど、このジャムが不味いとしか言いようがないのだ。
 ジャムが強烈すぎて、美味しいはずのスコーンすら不味く感じる。
 プラスにマイナスを掛けるとマイナスになるってこういうことなんだね。
「…………個性的な味だね」
 にっこり。笑顔を保ったままカノンが答える。エマは嬉しそうに微笑んで、アーネストもそうだろうと言いたげに頷いている。
 役者でよかった! どうやら演じきれたらしい。カノンは心のなかでガッツポーズを決める。
「戦いの助言でなく、お料理の話であれば力になれそうだと思いましたが……」
 なかなか手強そうそうです、と。同じようにスコーンを口にした『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)が、困ったように笑っていた。


 早速ヘルメリア料理の洗礼を受けて、体力だとか精神力がごりっと削られた気もするが、これくらいで挫けてはいられない。
 今日ティダルトに足を運んだのは、フリーエンジンとの交流のため。更なるとんでも料理でもてなされることは間違いない。
 それに、今後長いお付き合いになるのなら、イ・ラプセルの美味しい料理を根付かせたい。そう、自分たちのためにも。
「では、エマさんにはいつも通りにお料理してもらうとして! 私は私でお料理を」
 お芋にベーコン、キノコにお魚。食材は申し分ない。
 フーリィンは頭のなかでメニューを組み立てると、いくつもの調理を同時にこなしていく。
 孤児院で大量の料理を作る彼女にとってはいつものこと。手際よく調理を進める姿に、エマも思わず目を見張る。
「すごいわ、うちで一緒に料理してほしいくらい」
「ふふふー。食べさせてあげなきゃいけない子たちがいるので、ちょっと難しいです」
 転職は出来ないけれど、褒められれば嬉しい。上機嫌で食材を煮込むフーリィンの背後から、チクチクした視線を感じる。
「エマさんの料理は今のままでも美味しいです。教わることなどないですよ」
 視線だけでなく言葉もチクチクしていた。あは、とフーリィンが困ったように笑う。
 こら、とエマに窘められたアーネストはすこし大人しくはなったものの、このままではギスギスした空気のままだ。せっかくの交流なのに。
 そうだ、とアーネストに向き直ったフーリィンは、ぱっと笑顔を浮かべた。言い返されるだろうかと身構えていたアーネストが、ぽかんと口を開ける。
「アーネストさんにとっては、エマさんのお料理が一番なんですね」
「…………は?」
「ふふ、分かりますよー? うちの可愛い弟妹達と同じですもん♪」
「……だ、誰が子供と一緒だって!?」
「大丈夫大丈夫、分かってますから♪」
「何をだ!?」
 にこにこ笑顔のフーリィンはアーネストに歩み寄ると、エマには聞こえないこそっと耳打ち。
 アーネストさんにとって一番の料理が、も~っと凄くなったら――嬉しくないですか?
「料理は愛情って言いますもんね♪」
 何かを言いかけたアーネストの口についと人差し指をあてて言葉を遮る。アーネストはぐっと言葉を飲み込んだ。
 訳知り顔で微笑むフーリィンに、ただの少年が勝てるわけがなかった。

 ほっこり。お米の炊き上がる美味しそうなかおりが、キッチンに漂いはじめる。
 お米の粒の大きさを揃えるところから始まり、とぎ方や水分量もきちんとしてカノンが炊いた『美味しい』お米だ。
「何か手伝うことはあるか。ヨツカは斬るのは得意だぞ」
 昆布で出汁をとっていたカノンを、ヨツカがひょっこり覗き込む。
「じゃあお肉とかタマネギ切ってもらおうかな! くし型切りや乱切り……って、分かる?」
「教えてもらっていいだろうか……」
 包丁を持って動きを止めたヨツカに、おっけーとカノンが微笑む。カノンの指示を受けながら、不慣れながらもなんとか調理を進めていく。
「あら、いいかおり」
 始めて見る料理を前にしたエマは、カノンが調理する鍋を眺めて首を傾げる。
「これは、何になるのかしら?」
「味噌汁と肉じゃがになるよ。こっちでは珍しいかなって!」
 お口に合えばいいけどね、とカノンが笑う横で、これが肉じゃがになるのか、とヨツカは自ら刻んだ食材をまじまじと眺めていた。
「アマノホカリの料理も得意なのか。誰かが教えてくれたのか?」
「かーさまが教えてくれたよ。これでも自信あるんだから!」
 今は亡き母から教えてもらった料理を、こうして生かすことが出来るのはとても嬉しい。
 美味しいものを食べたら幸せになれる。きっとそこには、種族も国も境界はないのだ。
「味噌汁は沸騰させないよう気を付けつつ出汁をとる、肉じゃがは灰汁をきちんと取ること!」
 カノンは味噌を溶きながら、料理のポイントをエマに教える。
 エマの調理は料理人だけあって手際は悪くない。けれど、ひと手間が足りないのだと調理を見ていたカノンは思う。だから、そんなひと手間をアドバイス。
「そういう調理前の準備や下処理をしっかりやれば、きっと美味しい物が作れると思うな♪」
「そうですね。ていねいなしごとこそ、おいしいゴハンの必須条件なのです」
 リグがぐつぐつ煮込む鍋からはほんわか優しく、あまいかおり。
 美味しそうなかおりに誘われて鍋を覗いたアーネストの顔が思わず引き攣る。
「…………なんだこの黒いどろどろは……」
「あんこなのですよ。味見してみますです?」
 聞いたことのない料理名。なんとなくおぞましい見た目。いい、と逃げようとするアーネストの口に、リグがえいっとスプーンを突っ込む。
「んむぐっ!!?」
 謎の食べ物を突然突っ込まれ顔を青くしたアーネストだが、あんこの甘さが口に広がるころには驚いた様子で目をぱちくりさせた。
「…………甘い」
「ふふっ、きっとエマさんのスコーンにも合いますよ」
 エマさんの料理はあれで美味しいと反論される前に、もう一度スプーンを口に突っ込んで。
「ていねいなしごと。これぞお料理のスパイス、愛情とも言うのだとリグは思いますのですよ」
 あいじょう。その単語にびくりと反応したアーネストが赤くなって黙り込んだ。分かりやすい。そんな彼を見てリグはふふりと笑って。
「エマさんはよい方ですね、ちゃんとおいしいゴハンを作られる方は、すてきなひとです」
 『いちばんおいしい』を知ってるアーネストさんが、リグは少しうらやましいです。
 アーネストさんにとっては何を作るかよりも、誰が作るかの方が大事。そういうことだと思うです。
 とつとつとそんなことを語ったリグに、アーネストは赤くなったり青くなったり忙しい。
「リグも、世界でいちばんおいしいものに、いつか出会えたらいいなって思うのです」
「……いつか出会えるだろう。俺だって、その、出会えたんだ」
 ぼそりと呟いた言葉はぶっきらぼうで。でもちょっぴり優しくて。それが可笑しくて、リグはふふふと笑いがこぼれてしまうのだった。
 暫くして。キッチンに並んだのは、お砂糖たっぷりお塩はちょっぴり。やさしい甘さのあんこに、もちもちお米で作ったおはぎ。
 それに味噌汁と肉じゃがが並ぶのだから、これはイ・ラプセル料理というよりも―――。
「アマノホカリのような安心感……」
 ヨツカがこくりと喉を鳴らす。懐かしい料理を前にして、師匠はこの地にも来たことはあるのだろうか、なんて。そんなことをふと想うのだった。

「んで、おれっちでも作れそうなヘルメリア料理って何があるんだ?」
 知ってるのは前にザルクがいってた魚のゼリー寄せくらいで、と続けた飛龍をザルクが止める。
 それ以上はいけない。口は災いのもとと言うのだ。じゃあそれを作りましょうだなんて無邪気に言われたら止められない。思い出したくもないのに。
「最近本当に上手いウナギ料理を食べたんだ……」
「お、おう。そうか」
 やっぱりどこか遠くを見つめるザルク。先ほどのジャムも美味しく頂けた、極度の味音痴な飛龍からすると、ザルクがそんな目をする理由がまだピンとこない。
「イ・ラプセルでヘルメリアの料理に似たようなものを食べても、基本美味い。
 やっぱ調理法とか味付けとか、その辺を改善すれば、ちゃんと美味くなると思うんだよなあ。たぶん、きっと、おそらく」
 独り言のように呟き続けるザルクの背を、飛龍がぽんと叩いた。
 我に返ったザルクが顔を上げれば、飛龍が心配そうにザルクを見ていた。そんな目で見ないであげて。大丈夫だから。たぶん。
 いつまでもヘルメリア料理に想いを馳せていたら前へ進めない。気を取り直して、ザルクが作ろうと思ったのはフィッシュ&チップス。
 当たり外れが激しい料理だった記憶がある。油が多すぎたり、衣が分厚すぎて剥がれたり。きっと、油の量や揚げる時間に問題があるのだろう。
 その料理はおれっちにも作れそうか?と飛龍が首を傾げるが、大丈夫だろうとザルクは言う。
「ティッカもフーリィンも、カノンも料理上手だ」
「それもそうだな! あ、でも料理に関しちゃ切って焼くくらいしかやったことねーから教えるのよろしくな!」
 料理は素人な飛龍だが、気合は充分。ぐっと握った拳が心強い。極度の味音痴だとしても。
「失敗しても大丈夫だ! おれっちに食えないものはないってな!」
「いや、そこは成功してくれ……」
 調理に使う魚を選んでいたザルクは思わず苦笑い。飛龍なら確かにどんなヘルメリア料理でも平らげてしまう気がするが、安心は出来ない。
 不味いヘルメリア料理は、本当に、冗談じゃないほど、救いようがなく不味いのだ。
「それで、ザルクさんはどんなフィッシュ&チップスが理想なんですか?」
「こう、胃にもたれないサクっと食べやすいのが理想だ」
「さっくり香ばしい。リグもすきです。想像しただけでもおいしそうなのです」
「大丈夫! ちゃーんとひと手間掛ければ美味しいフィッシュ&チップスが作れるよっ」
 選ぶ魚も脂身が多すぎないもの、衣の扱いに油の温度、揚げたあとの油の落とし方。調味料も掛け過ぎずに適量で―――……。
 様々なひとの手を借りて、ザルクと飛龍が作ったフィッシュ&チップスは、はじめて作ったとは思えないほど良い出来だった。
「……よし、これでどうだ! 中々いいんじゃないか? 皆で食ってみようぜ」
 さっくり揚がったフィッシュ&チップスもキッチンに並ぶ。
 料理が揃ったとなれば、あとはみんなで楽しく美味しく、いただきますの時間である。


 料理が出来たと聞いて、フリーエンジンの人々も集まってきた。自由騎士団からサポートで駆けつけた者も銀の尻尾をゆらゆら、楽しそうに料理を待っている。
「ヘルメリア料理とはどんなものがあるんだろうな、ヨツカは楽しみだ」
 キッチンに並ぶのは、なんだかぺっしょりしているマッシュポテト。真っ黒なソーセージのようなもの。パイからは魚が顔を出している。え、これどうしてこうなっちゃったの?
 けれど、衝撃的な料理を前にしても、飛龍の反応は変わらなかった。ヘルメリア料理に率先して手を伸ばし、もぐもぐと食べ始める。景気のいい食べっぷりにエマも嬉しそうだ。
「ヘルメリア料理ってよー、ザルクが言うほどわるくねーんじゃねーか?」
 飛龍は笑顔でヘルメリア料理を頬張っている。もしかしたら(悪いほうに)思い出補正だったのでは、とザルクが料理に手を伸ばしてみるが、ああ、なんだかすごく懐かしい味だ。
「素材の味をそのまま出してるって感じでいいと思うぜ! なあ、ヨツカ!ティッカ!」
「……?? ええ、食べれるですよ」
「ヘルメリア料理はこんな感じなのだとヨツカは思ったが。ペコラは?」
「ペコラも一瞬め゛ぇ゛ってなったりしたけど、飲み込めたのよ!」
「マジか……すごいなお前ら……」
 おいしいご飯を食べ隊は今日も絶好調。ザルクは口にしたヘルメリア料理を水で流し込みながら、力なく笑うのだった。

 出来上がったたくさんの料理は、なんだかんだでみんなでぺろりと平らげてしまった。
「食文化交流、大成功ですね♪ 喜んでもらえるのはやっぱり嬉しいです」
「イ・ラプセル料理がこっちでも流行ったらいいよね!」
 個性的すぎる味もあったけれど。楽しく美味しい食事はやっぱりよいものだと、フーリィンが、カノンが笑う。
 こうして、自由騎士団とフリーエンジンとの食文化交流は楽しく終わったのでした。
 ――――なんて。綺麗に終わらないのが悲しいことに世の常なんだよなあ。
「そう! そう言えば、来た時にウナギのゼリー寄せが、って言ってたでしょう?」
 びくり。エマの言葉に、ザルクを筆頭に自由騎士たちの動きが止まる。嫌な予感しかしない。
 エマのにこにこ笑顔が怖いのは、これから起こる悲劇が予想できるからだろうか。
「実は、それも作ってあったの! でももうお腹いっぱいだろうから、お土産にどうかしら?」
 ほれ見ろ。エマの手には、ちゃんと人数ぶん包まれたウナギのゼリー寄せ。流石料理人、用意がいい。
「い、」
 ―――要りません。そう言えたらどんなに良かっただろう。
 ここに来たのは交流のためであって、これからの関係がよくなるためで、それに実際どんな味がするのか気になる気持ちもちょっとだけあったりして。
「…………イタダキマス……」
 自由騎士たちは、エマが差し出す包みを受け取ったのだった。
 雲行きが怪しいけれど、こうして食文化交流は恙なく終わったのだと、そんな感じで綺麗に纏めておきたい。
 お土産に持たされたウナギのゼリー寄せの味はどうだったかって?
 ―――それはそれは、強烈な思い出(トラウマ)を植え付ける、個性的な味だったそうな。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『ウナギのゼリー寄せ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
FL送付済