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【白蒼激突】朝焼けの遭遇戦



●金色の蹂躙者
 ニルヴァン小管区へと続く森の中、蹄の音が静かに響く。
 地面を駆けるのは、手に突撃槍を持った金色の騎馬兵だった。
 一人ではない、それが七人。
 それぞれ持つ武器こそ違っていたが、揃って金色の鎧で身を覆っている。
 先頭を往く突撃槍の騎兵が止まってサッと手を挙げた。
 それを合図にして、後続の騎兵達も足を止める。統制の取れた動きであった。
「……いるな」
 先頭の騎兵が、森の奥を凝視して言った。
「どうされましたか、隊長」
「敵がいる」
「何と、それでは――」
「ああ」
 後の騎兵にうなずき、先頭の隊長が振り向き兜のバイザーを上げる。
 そこにあったのは、顔中傷だらけの中年の男の顔だった。
 男は叫んだ。
「おどれら、お待ちかねの敵じゃあ!」
 森に響き渡るその怒声に、金色の騎士達が応えた。
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 森全体を震わせるかのような、荒々しいまでの雄叫びであった。
「ええかぁ! ワシらァ、聖堂騎士団一の荒くれ、黄金騎士団第三戦隊じゃ! ワシらン命はミトラース様もモンじゃあ! 分かっとるじゃろうなぁ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
「ならば言うてみぃ! ワシらァ役目、言うてみぃ!」
「「神敵必滅! 神敵必滅! 神敵必滅!」」
「そうじゃあ! ワシらン命はただそのためだけにある! ミトラース様のために生き、ミトラース様のために殺し、ミトラース様のために死ぬ! それがワシらの生き様にして死に様よ! さぁおどれら、栄えある一番槍じゃ! ゆくぞぉ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 森の中にあって、彼らの戦意は留まるところを知らず高まり続けた。
 それを成しているのは先頭の騎兵。
 彼こそは“黄金騎士団”第三戦隊隊長“金色の猛将”ヴァルドーンである。
「突撃! 突貫! 突破じゃあああああああああ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」

●不運な遭遇
 その遭遇は、自由騎士側にとって不運という他なかった。
 ニルヴァン近くの森の中を哨戒していたところ、黄金騎士団と出くわしてしまったのだ。
 逃げることもできたかもしれないが、そうすれば間違いなく敵は小管区まで辿り着いてしまうだろう。
 迎撃するしかない。
 自由騎士達は対して打ち合わせないまま、そう結論を出した。
 不幸中の幸いとしてここは直進しにくい森の中、敵は騎馬兵で動きをある程度抑えられる可能性がある。
 なし崩しのうちに、自由騎士と聖堂騎士団の戦いが森の中で始まった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.“金色の猛将”ヴァルドーンの撃破
2.或いは、黄金騎士団4名以上の撃破
戦場では迷わない馬鹿ほど厄介なものはない。
吾語です。

今回は森の中での偶発的遭遇戦となります。
以下、シナリオ情報です。

◆敵
・“金色の猛将”ヴァルドーン・ガイアロド
 ノウブルの重戦士。叩き上げで言葉遣いが乱暴。突撃あるのみの脳筋。
 その荒ぶる魂は共に戦う者の心を震わせ猛き戦士へと変貌させる。
 装着している鎧が魔導の効果を帯びており、常時HPチャージ状態。
 装着している突撃槍が魔導の効果を帯びており、常時【貫通】付与。

 Exスキル:クレイジーロアー
 叫べ。心のままに。我らこそ最強にして無敵なりと、叫べ。さすればその声、全ての者に力を与えるであろう。
 味全・補助強化

・黄金騎士団×6
 全員重戦士。平均レベルはかなり高め。
 装着している鎧が魔導の効果を帯びており、常時HPチャージ状態。
 装着している武器が魔導の効果を帯びており、常時【貫通】付与。 
 
※彼らが乗っている馬も金色の鎧で武装しており、常時HPチャージ状態です。
 なお、ヴァルドーンを倒すか黄金騎士4人を倒すと勝利となります。

◆戦場
・森の中
 森の中で時間は朝早くとなります。
 地形の関係で、敵騎馬兵は毎ターン5%の確率で行動不能になります。  

※なお、この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/10
公開日
2019年02月16日

†メイン参加者 8人†



●一度目の激突
 木漏れ日の射す朝の森に、怒号が大きく轟いた。
「踏み潰せェェェェェェェェェェェェェ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 彼らはシャンバラ黄金騎士団第三戦隊。
 その進撃にて全てを踏み荒らしていく、金色の蹂躙者達。
 木々並ぶ森の中といえど、連中は知ったことかとばかりに突き進んでくる。
 中でも突出しているのが“金色の猛将”ヴァルドーンその人だ。
「さすがによぉ、頭がそんな出張ってちゃ、狙うに決まってるよな!」
 『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が素早く愛用のライフルを構え、ヴァルドーンが騎乗する馬の頭部を狙った。
「馬さえ抑えちまえば!」
 ウェルスのライフルが火を噴く。
 だが、弾丸は馬が装っている金色の鎧に火花を散らせただけだった。
「はァ!? ……どんだけ重武装キメてんだよ!」
 これにはウェルスも仰天した。
「クハッハッハッハッハ! 何ともヌルいのぉ!」
 全身に風を感じながらヴァルドーンが嘲笑った。
 敵と己との相対距離はどんどん狭まっている。
 彼はこのまま突っ込んで、突撃槍で連中を串刺しにするつもりであった。
 しかし睨み据えるその先に、一人の少女が姿を現す。
「あさからうるさい、だまれ」
 大型メイスを振り上げる、リムリィ・アルカナム(CL3000500)だ。
 彼女は無表情のまま勢いよくメイスを地面に叩きつける。
 その小柄な体が起こしたとは思えぬ揺れが、辺り一帯を揺るがした。
「おどれ……!?」
 衝撃波こそ届かなかったが、ヴァルドーンは目を剥いた。
 駆ける騎馬の進路上に、メイスによる大きなくぼみができてしまっている。
「ぬおおおおおおお!!?」
 騎馬がくぼみに足を取られ、ヴァルドーンが馬ごと転がった。
「総員、一斉攻撃! 畳みかけろ――――ッ!」
 『果たせし十騎士』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)が声を張り上げた。その号令に応じて、自由騎士達が動き出す。
「わざわざそっちからやられに出てくるなんて、色々手間が省けたよ!」
 真っ先に飛び出したのは、『イ・ラプセル自由騎士団』シア・ウィルナーグ(CL3000028)。
 彼女の振るう二刀のレイピアがそれぞれ不規則に軌道を描き、まだ馬上にまたがったままの敵将の目を眩ませる。
「ぬ、ゥ……!」
「そこ、隙ありだー!」
 すかさず『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)が飛び込んで、馬の横っ面に拳を叩きつけた。
 馬が悲鳴としか思えない声でいななき、派手に暴れる。
 リサは「落ちろ!」と念じたが、ヴァルドーンは手綱を握り締めて吼えた。
「鎮まらんかァ!」
 馬がビクリと震えて、暴れるのをやめる。
「ガキが、戦場に出た以上はくたばる覚悟ォできとるよなァ!」
 ヴァルドーンが憤怒と共にリサを睨む。
 だが割り込むようにして放たれた弾丸が、肩当てに命中した。
「何じゃあ!」
 鬱陶しそうに振り向けば、走り込んでくるボルカスが見えた。
 その少し後方にはウェルス。
 銃撃は、ヴァルドーンの意識をこちらに向かせるためのものか。
「聖堂騎士団ンンンンンン!」
「チィィ!」
 ボルカスの槍より、闘気が一気に解放される。
 それは力を伴ってヴァルドーンと彼の乗馬を容赦なく打ち付けた。
「「今だァ!」」
 さらには、そこにシアとリサも攻め込んで、勢いにヴァルドーンの体が吹き飛ばされそうになってしまう。
「ぐ、ぬうううう!」
 それでも彼の手は手綱から放れない。
 だからこそ、狙いやすかった。
「――当てるぜ」
 ウェルスの一射が、ヴァルドーンの手に突き刺さった。
「ぐおお!?」
 溜まらず彼は手綱を放し、馬上から転落した。
「まだ、終わらせんぞォ!」
 そして――ボルカスの槍の穂先が真っ赤な炎に包まれた。
「魔術混じりの不格好な槍ではあるが、その威力は十二分と知るがいい!」
 炎の槍が振るわれて、ヴァルドーンの胴を狙う。
「甘い、わァァァァァァ!」
 だが突撃槍が振り回されて、ボルカスの槍を弾き飛ばした。
「な……、に!?」
「クハッハハハハ! おうおう、アタマのワシを狙うんは正解よ!」
 すぐさまその場から跳ね起きて、ヴァルドーンが突撃槍を構え直した。
「だがそんな攻められ方はなァ、飽きるほどされとんのじゃ、こっちは!」
 突撃槍を空に向け、彼は吼えた。
「野郎共ォ、こン阿呆共を喰い荒らしたれやァァァ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 すでに間近に迫っていた黄金騎士団が、隊長の声に応じて勢いを増す。
「ヤベェ!」
 『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)が慌てて前に出た。
 敵の圧力が凄まじい。マリアは腰を落として何とか踏ん張ろうとした。そしてかざした二枚の盾に、黄金騎士団の突撃槍が衝突する。
「うっ、ぐが!」
 全身を襲う激しい衝撃にくぐもったうめき声が漏れる。
 それでもマリアは踏ん張って――
「…………でェりゃあああああ!」
 繰り出すのは転応の構えと称される、攻撃の威力を跳ね返す妙技。
 敵の勢いを利用し、突き出した盾の前面で馬を思い切りひっぱたく。
「ぐっ! し、鎮まれ!」
 馬が痛みに暴れ、攻撃を跳ね返された一騎が動きを乱した。
「クソ、落馬までは行か――、ぐぉあ!?」
 舌を打ちかけたマリアだったが、続けて襲ってきた二騎目に吹き飛ばされた。
「「神敵必滅! 神敵必滅! 神敵必滅――――ッ!」」
「突撃が速い……! 皆、避け……!」
 黄金騎士団の予想を超える進撃速度に、ボルカスが回避を促そうとした。
 だが――
「そこじゃああああああああああああああ!」
「…………な?」
 隙を見せてしまった彼の腹に、ヴァルドーンの突撃槍が突き刺さっていた。

●金色の猛将
 黄金騎士団の突撃音が、自由騎士達の悲鳴をかき消した。
「あ、ぅ……」
 馬の体当たりを受けたシアは地面に転がり、
「……こほっ、ごほっ!」
 敵の槍に吹き飛ばされたリサは近くの木に頭から突っ込んで、
「くそ、このくらい、で……」
 リムリィもかわし切れずに、突撃槍にわき腹を抉られていた。
 無論、彼女達は避けようとした。だが避けられなかった。
 ミトラースの『攻撃範囲の拡大』という権能によって、黄金騎士団の突撃が半ば全体攻撃と化していたがためだ。
「ほぉ、一人も死んどらんのか。存外しぶといのぉ」
 場を見渡し、ヴァルドーンはあごを撫でた。
 そして突き立てたままの突撃槍を乱暴に引き抜いて、ボルカスの腹を蹴る。
「がは……!」
 地面に転がった彼は、だが手で腹を押さえて何とか立とうとする。
 それを見てヴァルドーンは気づいた。
「ははぁ……、自動治癒じゃな? おどれら、先んじて手を打っとったのか」
「み、皆さん……! 大丈夫ですか!」
 駆けつけてきたのは、後方に待機していた『少年聖歌隊』ティア・ブラックリップ(CL3000489)であった。
 少年を見て、ヴァルドーンは笑みを浮かべた。
 自動治癒を施した癒し手が彼だと気づいたのだ。
「オイ! そこのガキを潰せィ! それでこの戦はほぼ詰みじゃあ!」
「はっ!」
 黄金騎士団の一騎が命令に従ってティアを狙おうとする。。
「わ、わぁ……!」
 自由騎士達を癒すべく魔導を使おうとしていたティアだが、自分を狙う黄金の騎士を前に、完全に動けなくなってしまった。
「やらせやしないよ!」
 だが、そこにトミコ・マール(CL3000192)が立ちはだかった。
「どけぇい、ババア!」
「うるさいよ! ティアを叩くんなら、その前にアタシを倒すことだ、ね!」
 騎士の突撃槍の一撃を、何とトミコは巨大なフライパンを振り回すことによって払いのけた。その間に、ティアが癒しの魔導を発動させる。
「皆さん、これで……!」
 広域に展開した魔導によって、倒れていた自由騎士達の傷が癒え始めた。
「いつつ……、助かったよ~……」
 まずはリサが立ち上がり、
「やってくれたな。おかえしはするから」
 リムリィがハンマーを構え直した。
「そうよ、ボク達はこの程度じゃやられないんだから!」
 そしてシアも自らを鼓舞するように叫んでヴァルドーンをしっかりと睨む。
「――残念だったな、金ピカ騎士野郎!」
「むぅ!」
 言葉と共に繰り出される槍の一突き。
 ヴァルドーンは突撃槍でそれを打って払い、そこに立つボルカスを見た。
「しゃらくさいわ、騎士モドキ共が!」
 それを見て、ヴァルドーンが怒りに叫ぶ。すると高く響く蹄の音。
 駆けてきたのは、金色の鎧を纏った彼の愛馬であった。
「せぇい!」
 彼は地面を跳躍し、その一跳びで馬の背に見事着地する。
 そして部下六騎が集まる場所へと一度戻って、
「仕切り直しじゃ。ええな、おどれらァ!」
「「「承知ッッ!」」」
 部下六騎は完全に声を揃えた。ヴァルドーンは息を大きく吸い込んで、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ぅわっ!」
「うるさ!?」
 ティアが驚き、シアが耳を塞いだ。
 それは、森一帯に響くほどのヴァルドーンの雄叫びであった。
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 部下六騎がそれに続く。
「何だよ、こいつらは……?」
「怖ェくらいに士気が高まってやがる。それがテメェらの忠誠かよ」
 ウェルスは顔を青くし、マリアも苦い表情を浮かべてそう呟いた。
 小声ではあったが聞こえていたらしく、ヴァルドーンが破顔一笑する。
「クハッハハハハハハ! 我が神を守らんがための聖戦、ここにありじゃ!」
 馬の蹄が地面をザリリと蹴る。
 場にある緊張が張り詰めつつあった。
 それを感じて、ティアはゴクリと息を呑み込んだ。
「これが、戦争……」
「そうとも。絶対に負けられない戦いだよ」
 彼の前に立つトミコが、フライパンを構えてうなずいた。
 場の緊張がますます高まり、そして、裏腹に音は消えていく。
 この静けさはまさしく巻き起こる嵐の前触れ。
 森に流れる風の音だけが聞こえるここで、もはや誰もが悟っていた。
 次の激突で、決着がつく。
「勝ちたきゃあ全部出し切れや。なぁ、騎士モドキ共」
 ヴァルドーンは茶化すようにそう言うと、鐙で自分の馬の腹を蹴った。
 来る――!
 自由騎士達が身構えた。
「行くぞおどれら! 神敵必滅じゃあ――――ッ!」
「「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々――――ッッ!」」
 最後の激突が始まった。

●クレイジーロア
 逃げ場はない。
 退いたところで敵の突撃に巻き込まれて屍を晒すだけ。
 立ち止まっていたところで敵にとっては格好の的でしかない。
 つまりは、そういう状況だ。
「前に出るしかないんだよ」
 誰もが分かっていることを、ウェルスが言って引き金を引き絞る。
 二度の銃声。弾丸は一発がヴァルドーンの馬の鎧に突き刺さり、二発目がその弾丸に命中する。鎧徹しの妙技。灼熱の弾頭は間違いなく馬を抉った。
 だが馬は痛みに暴れ出したりしなかった。
 走っている。突っ込んでくる。完全に人馬が一体となって、攻め込んでくる。
 馬までもが戦争に狂っていた。
「全く、イヤになるぜ……!」
 ウェインが苦笑しつつ奥歯を軋ませる。
 もはや、馬を攻撃して進撃を阻む。という手段は通用しそうになかった。
 危機感に肌をヒリつかせながら、リサは拳を握った。
「敵は退かないし、こっちも退けない。だったら前に行くしかないよね!」
「そう、ですよね。負けるワケにはいかないですもんね……」
 ティアが半ば顔を引きつらせながら言う。だが、
「ちがう」
 リムリィがかぶりを振った。
「え、ち、違う……?」
「うん。そうだね。違うよ、そうじゃない」
 シアも分かっているようで、リムリィに賛同した。
「負けるワケにゃいかないなんて考えてたらよ、負けんだよ。こういうのは」
 答えを明かしたのは、マリアだった。
「じゃあ、どう考えれば……?」
「決まってるだろ、勝つことだけ考えてりゃいいのさ」
 不安げなティアの背中を、トミコが軽く叩く。
「勝つことだけを……」
 彼が呟いた直後に、ウェルスの余裕無き声が聞こえた。
「来るぜ、連中が」
「ならば行こう、俺達も」
 答えたのはボルカスだった。
「俺達は、敵が迫ってるから応じるんじゃない。俺達から攻め込むんだ」
 未だ痛む腹を軽くさすりつつ、彼は逆の手で槍を握り締めた。
「俺達を騎士モドキなどとホザイた連中に、自由騎士の力を見せてやるぞ!」
「あの金装備、全部引っぺがしてやるぜ」
 ウェルスが新たに弾を込めて、狙いを定める。
「ガハハハハハハ! やれるかおどれら如きに? このワシらをよぉぉぉ!」
「やる。わたしはやる。……このいちげきでつぶしてやる!」
 真っ先に突っ込んだのはリムリィだった。
 己のメイスを振りかぶり。彼女はヴァルドーンの間合いに踏み込んだ。
 ミトラースの権能によって、相手の攻撃範囲は広くなっている。
 だがそんなことお構いなしだ。
「上等じゃ小娘! ならばおどれから潰れろやァァァ!」
「つぶれるのはおまえだ」
 リムリィの体が、不可視の圧力によってミシリと軋んだ。
 ヴァルドーンの攻撃範囲に入ってしまったのだ。そして彼女の体が浮く。
「吹き飛べぇい!」
「おまえもな」
 身が潰され、リムリィは口から血を吐いた。そんな状態で、彼女は笑った。
 浮いた状態で振り抜かれたメイスが、見事にヴァルドーンの胸を捉える。
「ぬう……!? ううおおおおおおおおお!」
 鎧を通して伝わってくる痛みに耐えながら、彼はリムリィを撥ね飛ばした。
 しかしすでに、次の攻め手が間合いに入ろうとしていた。
 リサと、シアである。
「やらせないよ、やらせない!」
「勝つのは、ボク達だ!」
「しゃらくさいわァァァァァァ!」
 跳躍し、シアがレイピア二刀を振り回す。
 それは先に見せた幻惑の剣舞ではない。一直線に放たれる神速の刺突だ。
「――ファンデヴッッ!」
 切っ先が、黄金の鎧を貫いてヴァルドーンを抉った。
「ぐおお、おお!」
「まだ、終わらない。この一発を受けてみろ!」
 最前線に出る恐怖に顔を青くしながら、リサもまた飛び込んでいく。
 恐怖を耐え抜き乗り越えた者は強い。その強さが、彼女の拳には宿っていた。
 リサの心魂滾る一発がヴァルドーンの顔面と痛打する。
「ぬ。ぅ……!」
 一瞬たじろぐ。
 だが彼は、止まらなかった。
「まだじゃ……。まだじゃあああああああああ!」
 シアとリサを諸共踏み潰し、彼はなお突撃を敢行する。
 眼前にはマリアとトミコが並んで立っていた。
 その向こうに、他の自由騎士達が全員揃っている。
 ヴァルドーンは笑みを浮かべた。潰す。潰してやる。全て蹂躙してくれる。
「大したものだ、金色の猛将」
 ボルカスがまっすぐにヴァルドーンを見据え、呟いた。
「その在り様。同じ騎士として尊敬に値する。……だからこそ」
 彼は握った拳を、ヴァルドーンへと向けて突き出した。
「だからこそ超えねばならん。そう、勝つのはお前ではない――」
 そして彼は吼えた。ヴァルドーンのように、ヴァルドーンよりも激しく。
「勝つのは我らだ。我らこそが、勝ァァァァァァァァァァァァァァつ!」
 咆哮は勢いとなりて、自由騎士達の背中を押す。
「オレ達を――」
「――超えられると思うんじゃないよ!」
 立ちはだかる壁二人。
 それは、今のヴァルドーンでも十分に突き破れるはずだった。
 その確信が彼にはあった。その自信が彼にはあった。突き破れるはずだった。
 だから――
「……バカ、な!」
 自分の突撃を馬ごと受け止めきったマリアとトミコに、彼はただただ驚愕するしかなかった。
「そ、そこです!」
 そしてできた隙をティアが容赦なく突き刺した。
 発動した氷の魔導が、敵将と彼の馬を凍らせてその場に釘付けにする。
「う、お、お、お、お、お……!!?」
 驚愕に、さらに驚愕が重なって、見開かれた目の先に、ウェルスがいた。
「――Jackpot」
 弾丸は、ヴァルドーンの心臓のど真ん中を穿っていた。

●朝焼けが終わる頃
 黄金騎士団が撤退していく。命じられていた通りに。
 気が付けば、ヴァルドーンの馬もいずこかへと走り去っていた。
「弔い合戦はしないのか、連中は」
「ハッ、無駄なことじゃな。ワシらは騎士よ。仕える者よ。自由意思などいらん。命じられたことを全力でこなすのみよ」
「……シャンバラにも、お前のような騎士がいたのだな」
 ボルカスの言葉に、ヴァルドーンは力なく笑った。
「クハ、ハ……、シャンバラにも、か……。おどれから見れば、この国ァ随分酷い国に見えておるようじゃのう」
「誰かを犠牲にして成り立つ豊かさなど、邪悪以外の何物でもない」
「辛辣じゃな……」
「正直、どうしてミトラースなんかが信仰されてるのか分かりません……」
 おどおどしつつもティアは言った。
「……権能ゆえ、じゃ」
「何?」
「この国じゃ、皆、権能の下で生きとる……。生まれたときから……。我が主ミトラースを信じ、敬う……、契約……、けん、のう……」
「おい?」
「じゃがそれでも、ワシァこの国が好きじゃ……、シャンバラが……」
 もはや、ヴァルドーンの目には何も映っていなかった。
 呼びかけても答えはなく、彼はただうわ言のように言葉を続けた。
「おお、シャンバラ、よ……。我が栄光の、永久楽土よ……」
 弱々しく伸ばされた手は、だが、空の方を向く前に力を失い地面に落ちる。
 自由騎士達が見ている前で、“金色の猛将”は息絶えた。
 それは、ちょうど朝焼けが終わる頃のことだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした。
難儀な相手ではありましたが何とか勝てましたね。

シャンバラとの戦争はまだ続きますが、
ひとまずはこの勝利を噛み締めましょう。

それでは次のお会いできることを楽しみにしています!

ラーニング成功!!
スキル名:クレイジーロア
取得者:ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)
FL送付済