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バイオレットブルーとフリークショウ

●サーカス「オンリーワン」
「うちに来れば誰だって主人公。キミは誰からも愛される」
団長はそうボクに言った。こんなボクに。こんな役立たずなボクに──
気付いた時にはボクはとある町の片隅にいた。両親なんていたのかな?
誰もがボクの前をただ通り過ぎる。蔑むような目でボクを見ながら。
ボクを見ると暴力をふるって来る人もいた。ボクは何もしてないのに。
それが当たり前の日々。ボクの日常。
でも……ある日突然、ボクの前に現れた団長は違ったんだ。
「うちにくるかい?」
団長はボクに笑顔で話しかけてきてくれた。
そして差し出された手を、ボクはぎゅっと握ったんだ。
──それから5年。今ボクはこのサーカス(見世物小屋)で働いている。
団長はボクにセプテンバーという名前をくれた。意味は出会った月なんだって。
え? 月が名前なんておかしい? でもね。この名前、結構気に入ってるんだ。
サーカスには仲間もいるし、何より団長やみんながボクを必要としてくれる。
それだけでボクは幸せなんだ。だからこの幸せがいつまでも続くことを祈っているんだ。
そして今度は海を渡ってイ・ラプセルって国に来た。
この国は初めてだけどここでもやっぱりボクたちは奇異の目で見られるのかな。
でも、それはいつもの事。きっとここも同じ。
だけど大丈夫、ボクには仲間がいる。団長がくれた綺麗な指輪もあるんだ。
さぁ今日から頑張るぞ。お客様が来る前に入場口の準備をしないとね──
ザシュッ
セプテンバーの見る風景が真紅に染まる。
途切れる意識の最後の瞬間、指輪の砕ける音がした。
●
「国々を巡ってる無所属のサーカスが還リビトに襲われるらしいんだ!」
息を切らしながら駆け寄ってきた『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はたまたま街を歩いていた自由騎士たちへそう告げた。
各国を転々としながら興行を行っているサーカスが還リビトに襲われる。
そのサーカスは曲芸というよりは見世物小屋に近いもので、団員達は重度のマザリモノである自分達の姿を晒し、見世物とすることで生計を立てているという。
「還リビトを退治して欲しいのももちろんだけど……できればサーカスの子達に少なくともこの国なら別の道もある事を教えてあげて欲しいんだ。自分を見世物にするしかない人生なんて悲しすぎるだろ?」
「うちに来れば誰だって主人公。キミは誰からも愛される」
団長はそうボクに言った。こんなボクに。こんな役立たずなボクに──
気付いた時にはボクはとある町の片隅にいた。両親なんていたのかな?
誰もがボクの前をただ通り過ぎる。蔑むような目でボクを見ながら。
ボクを見ると暴力をふるって来る人もいた。ボクは何もしてないのに。
それが当たり前の日々。ボクの日常。
でも……ある日突然、ボクの前に現れた団長は違ったんだ。
「うちにくるかい?」
団長はボクに笑顔で話しかけてきてくれた。
そして差し出された手を、ボクはぎゅっと握ったんだ。
──それから5年。今ボクはこのサーカス(見世物小屋)で働いている。
団長はボクにセプテンバーという名前をくれた。意味は出会った月なんだって。
え? 月が名前なんておかしい? でもね。この名前、結構気に入ってるんだ。
サーカスには仲間もいるし、何より団長やみんながボクを必要としてくれる。
それだけでボクは幸せなんだ。だからこの幸せがいつまでも続くことを祈っているんだ。
そして今度は海を渡ってイ・ラプセルって国に来た。
この国は初めてだけどここでもやっぱりボクたちは奇異の目で見られるのかな。
でも、それはいつもの事。きっとここも同じ。
だけど大丈夫、ボクには仲間がいる。団長がくれた綺麗な指輪もあるんだ。
さぁ今日から頑張るぞ。お客様が来る前に入場口の準備をしないとね──
ザシュッ
セプテンバーの見る風景が真紅に染まる。
途切れる意識の最後の瞬間、指輪の砕ける音がした。
●
「国々を巡ってる無所属のサーカスが還リビトに襲われるらしいんだ!」
息を切らしながら駆け寄ってきた『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)はたまたま街を歩いていた自由騎士たちへそう告げた。
各国を転々としながら興行を行っているサーカスが還リビトに襲われる。
そのサーカスは曲芸というよりは見世物小屋に近いもので、団員達は重度のマザリモノである自分達の姿を晒し、見世物とすることで生計を立てているという。
「還リビトを退治して欲しいのももちろんだけど……できればサーカスの子達に少なくともこの国なら別の道もある事を教えてあげて欲しいんだ。自分を見世物にするしかない人生なんて悲しすぎるだろ?」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビトの撃退
2.団員の全員無事
3.イブリース化した団員を元に戻す(浄化)
2.団員の全員無事
3.イブリース化した団員を元に戻す(浄化)
麺大好き麺二郎です。死ぬまで好きだと思います。
マザリモノの中でも特にその異形性の高い人々が生活のため、自立のため、そして自身の存在価値を得るため、サーカスの舞台に立ち、日夜ショウを行っています。
今ではある程度人気のショウとなっていますが、マザリモノへの偏見を持つ人々からすればそれらはお金を払ってみるようなものではなく、排除したい怪物達の宴でしかありません。
少なくともそういった見方をする国が多いのが実情で、中にはひどい罵声や暴力などを受けることもありました。
彼らは生きていくためにはここ(サーカス)しかない。ここしか自分達の生きる場所は無いと思い込んでいます。
そんな中、通商連の助力により今回初めてマザリモノに殆ど偏見のない国、イ・ラプセルを訪れます。
この国のことを知れば、彼らの生きる道が幾多にもある事を理解できるはず……でした。
その新しい道が開ける直前に彼らは還リビトによって惨殺されようとしています。
彼らを還リビトから守り、更にマザリモノは迫害されるばかりの存在では無い事を彼らにどうか教えてあげてください。どうか彼らに選択のある未来を。
●ロケーション
サーカス「オンリーワン」
その名の通り、他に類を見ないような異形に偏っているマザリモノ達が在籍するサーカス(見世物小屋)です。
首都郊外に巨大なテントを張り興行しています。
現在は座長を筆頭に6~24歳の男女、20名ほどが在籍。座長はノウブル。
団員はその異形に近い風貌を晒すことで生計を立てています。
通常では働き口の無い彼らにとっては貴重な収入源であり、同じような境遇を体験している大切な仲間との場所となっています。
団員は皆、座長からプレゼントされたお揃いのバイオレットブルーの鉱石の指輪をつけています。
舞台は初日公演の始まる数時間前。時間も早くまだお客は来ていません。
到着した際にはすでに還リビトにより団員の一人が瀕死の重体の状態です。
そのままにしておくと5ターン後に絶命します。
また仲間を瀕死にされた憎悪の念で数名の団員が精神に異常をきたしイブリース化しています。
サーカステントは巨大で十分に戦闘が行えるほどの広さがありますが布製のためテント内での戦闘は火の気に注意する必要があります。
●登場人物
・団長 オールシーズンズ
オンリーワンを束ねる団長。ノウブルですが、素性はあまり知られていません。
襲撃時は所用でサーカスを離れており、その場にはいません。
・セプテンバー
14歳前後の少年。皮膚がどろどろの粘液のようなものに包まれている。
言葉はうまく喋れず、入り口でもぎりをするのが仕事でしたが
その仕事ゆえに還リビトの最初のターゲットなりました。対処しなければ5ターン後に絶命します。
・その他団員達
様々な理由により親に捨てられた異形度の高いマザリモノ達です。
その見た目や性別、年齢は様々です。現在のところイブリース化の危険は無いようです。
サーカステント控え室の隅でうずくまっていますが、歩行自体が困難なものもいるため、避難には相応の対応が必要です。
●イブリース化した団員
セプテンバーの惨状を間近で目撃したことにより、イブリース化してしまいました。
攻撃対象は団員以外のすべてです。オーガストとメイは入り口瀕死のセプテンバーの近く、エイプリルはサーカステント内に侵入したアンデッドドルイドを追ってテント内にいます。
・オーガスト(イブリース化)
24歳男。体の殆どが硬質化。防御力が大幅に上がっています。力任せに入り口付近にあるものを破壊しています。
ぶん回し 攻近範 両腕を大きく振り回します。
全力パンチ 攻近単 渾身の一撃をお見舞いします。威力大
・エイプリル(イブリース化)
17歳女。もともと混ざっているサラマンドラの力が暴走。体のあちこちから炎が吹き出て自分自身をも燃やしています。放っておくと20ターン後に自身を燃やし尽くします。あまり表には出しませんが心優しいセプテンバーに対して秘めたる思いがあります。
ファイヤーブレス 魔近範 【バーン1】 炎の息を吹きます。
灼熱化 自 攻撃力防御力↑↑ HP↓ 体の炎を更に燃やして能力アップ。ただし自身が燃え尽きるのも早くなります。
・メイ(イブリース化)
8歳女。体中が七色のうろこに覆われている少女。イブリース化した事により鱗一枚一枚が凶器、有毒化。ただし体力は低い。
鱗弾 攻遠単 【ポイズン1】鋭い鱗を飛ばします。
鱗鞭 攻近範 【ポイズン1】【パラライズ1】 鱗を鞭状につなげ周りを攻撃します。
●敵
アンデッドドルイド 3体
近くにある墓地の死体が還リビトになりました。生きているモノを求めて近くにあったサーカスを襲います。
動きは早くありませんが、体力は多めです。なぜか宝石に対して執着があり、宝石を付けているものを優先的に狙う習性があります。1体は入り口付近。残りの2体は残りの団員に引き寄せられるかのようにテント内に侵入しています。
毒の息 魔近範 【ポイズン1】 毒の息を吐きます。
毒液弾 魔遠単 【ポイズン1】 毒液を飛ばします。
爪 攻近単 【スクラッチ1】鋭い爪で切り裂きます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければ団員を守る行動をとります。
所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。
皆様のご参加お待ちしております。
マザリモノの中でも特にその異形性の高い人々が生活のため、自立のため、そして自身の存在価値を得るため、サーカスの舞台に立ち、日夜ショウを行っています。
今ではある程度人気のショウとなっていますが、マザリモノへの偏見を持つ人々からすればそれらはお金を払ってみるようなものではなく、排除したい怪物達の宴でしかありません。
少なくともそういった見方をする国が多いのが実情で、中にはひどい罵声や暴力などを受けることもありました。
彼らは生きていくためにはここ(サーカス)しかない。ここしか自分達の生きる場所は無いと思い込んでいます。
そんな中、通商連の助力により今回初めてマザリモノに殆ど偏見のない国、イ・ラプセルを訪れます。
この国のことを知れば、彼らの生きる道が幾多にもある事を理解できるはず……でした。
その新しい道が開ける直前に彼らは還リビトによって惨殺されようとしています。
彼らを還リビトから守り、更にマザリモノは迫害されるばかりの存在では無い事を彼らにどうか教えてあげてください。どうか彼らに選択のある未来を。
●ロケーション
サーカス「オンリーワン」
その名の通り、他に類を見ないような異形に偏っているマザリモノ達が在籍するサーカス(見世物小屋)です。
首都郊外に巨大なテントを張り興行しています。
現在は座長を筆頭に6~24歳の男女、20名ほどが在籍。座長はノウブル。
団員はその異形に近い風貌を晒すことで生計を立てています。
通常では働き口の無い彼らにとっては貴重な収入源であり、同じような境遇を体験している大切な仲間との場所となっています。
団員は皆、座長からプレゼントされたお揃いのバイオレットブルーの鉱石の指輪をつけています。
舞台は初日公演の始まる数時間前。時間も早くまだお客は来ていません。
到着した際にはすでに還リビトにより団員の一人が瀕死の重体の状態です。
そのままにしておくと5ターン後に絶命します。
また仲間を瀕死にされた憎悪の念で数名の団員が精神に異常をきたしイブリース化しています。
サーカステントは巨大で十分に戦闘が行えるほどの広さがありますが布製のためテント内での戦闘は火の気に注意する必要があります。
●登場人物
・団長 オールシーズンズ
オンリーワンを束ねる団長。ノウブルですが、素性はあまり知られていません。
襲撃時は所用でサーカスを離れており、その場にはいません。
・セプテンバー
14歳前後の少年。皮膚がどろどろの粘液のようなものに包まれている。
言葉はうまく喋れず、入り口でもぎりをするのが仕事でしたが
その仕事ゆえに還リビトの最初のターゲットなりました。対処しなければ5ターン後に絶命します。
・その他団員達
様々な理由により親に捨てられた異形度の高いマザリモノ達です。
その見た目や性別、年齢は様々です。現在のところイブリース化の危険は無いようです。
サーカステント控え室の隅でうずくまっていますが、歩行自体が困難なものもいるため、避難には相応の対応が必要です。
●イブリース化した団員
セプテンバーの惨状を間近で目撃したことにより、イブリース化してしまいました。
攻撃対象は団員以外のすべてです。オーガストとメイは入り口瀕死のセプテンバーの近く、エイプリルはサーカステント内に侵入したアンデッドドルイドを追ってテント内にいます。
・オーガスト(イブリース化)
24歳男。体の殆どが硬質化。防御力が大幅に上がっています。力任せに入り口付近にあるものを破壊しています。
ぶん回し 攻近範 両腕を大きく振り回します。
全力パンチ 攻近単 渾身の一撃をお見舞いします。威力大
・エイプリル(イブリース化)
17歳女。もともと混ざっているサラマンドラの力が暴走。体のあちこちから炎が吹き出て自分自身をも燃やしています。放っておくと20ターン後に自身を燃やし尽くします。あまり表には出しませんが心優しいセプテンバーに対して秘めたる思いがあります。
ファイヤーブレス 魔近範 【バーン1】 炎の息を吹きます。
灼熱化 自 攻撃力防御力↑↑ HP↓ 体の炎を更に燃やして能力アップ。ただし自身が燃え尽きるのも早くなります。
・メイ(イブリース化)
8歳女。体中が七色のうろこに覆われている少女。イブリース化した事により鱗一枚一枚が凶器、有毒化。ただし体力は低い。
鱗弾 攻遠単 【ポイズン1】鋭い鱗を飛ばします。
鱗鞭 攻近範 【ポイズン1】【パラライズ1】 鱗を鞭状につなげ周りを攻撃します。
●敵
アンデッドドルイド 3体
近くにある墓地の死体が還リビトになりました。生きているモノを求めて近くにあったサーカスを襲います。
動きは早くありませんが、体力は多めです。なぜか宝石に対して執着があり、宝石を付けているものを優先的に狙う習性があります。1体は入り口付近。残りの2体は残りの団員に引き寄せられるかのようにテント内に侵入しています。
毒の息 魔近範 【ポイズン1】 毒の息を吐きます。
毒液弾 魔遠単 【ポイズン1】 毒液を飛ばします。
爪 攻近単 【スクラッチ1】鋭い爪で切り裂きます。
●同行NPC
ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
特に指示がなければ団員を守る行動をとります。
所持アイテムは着火剤と保存食(パスタ)です。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年10月13日
2018年10月13日
†メイン参加者 8人†
●
あれ、ぼくどうしたのかな
めのまえが、あかくそまってく
どうしたの、えいぷりる、そんなかなしいかおしないで
めいもおーがすとも、ないちゃだめだよ
ぼくは、だいじょうぶ、だから
「あ”あ”あ”ああああああお”お”おおおお」
めいが、かわってく
おーがすとも、かわってく
えいぷりるも
だれか、みんなをとめて
みんなたいせつな、ぼくのかぞくなんだ
おねがいだよ
だれ、か だれ、か
●
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)は自己の記憶と重ねながら思う。サーカス団員が、このサーカスについていった気持ち、なんとなく分かる。イーイーがアマノホカリからイ・ラプセルへ来るときに握った手も、温かかったから。かけられた言葉がとても優しかったから。
『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)もまた思う。ボクも孤児院に拾われた身だけど……今は大親友のイーイーもいるし、自由騎士として楽しく過ごしてる。だからサーカス自体の存在は決して悪いものじゃないと思う。でも世界は広いんだ。他にも色々な道がある事は教えてあげたい、と。
ランスロット・カースン(CL3000391)は考える。折角我が国を訪れてくれたのだ。彼らの安全を守る事は騎士の義務。行って当然の行為である、と。
「一人の犠牲も出さん、必ずだ」
ランスロットは誓いを改めて言葉にする。
『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は思い出す。他の国での出来事を。異形(マザリモノ)たちのサーカス。他の国で見たことあるが、ショーそのものよりも観衆からの罵声や嘲笑の方が多かった印象が強い。この国ならまた違った興行になりそうだが……。
「その為にもうまいこと対処しねぇとな」
『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)は願う。
ここは皆さんの今後の生き方を変えられる可能性の高い場所。全てが寛容では無いかも知れないけれども、団員の皆さんが出来る限り、離れ離れにならずこれまでのように皆で暮らせる全く別の生き方も見つけられる場所であらん事を。
その為にも出来る事はすべて、全身全霊を持って対応したい、と。
●
サーカスへ到着するなり、自由騎士は速やかに行動を開始する。
「俺たちは先に中に向かいますっ」
アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は韋駄天足で速度を上げ、目にも留まらぬ機動力で入り口付近の混乱をするりとかわし、先行してサーカス内へ突入する。
「入り口は任せたっ!!」
アリスタルフに遅れる事数秒。『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)もその場を全速力で駆け抜ける。しかしその瞬間、アンデッドドルイドがそれに反応。ボルカスへ鋭い爪を振り下ろす。
「ふんっ!!」
ガキンッ。ランスロット・カースン(CL3000391)の大剣がドルイドの攻撃を弾く。
攻撃を弾かれたドルイドは大きく態勢を崩した。
「すまん、助かった」
その隙を逃さず、ボルカスとランスロット、それにジローと現地で合流した自由騎士はサーカス内部へ突入した。
同時に他のメンバーも動く。
誰よりも早くセプテンバーの元へ駆けつけたのはイーイーだった。
「もう大丈夫っ」
息も絶え絶えの状態で横たわるセプテンバーを、イーイーは迷う事無くその小さな体で抱く。
体中からの出血や吐血。セプテンバーの体を覆う粘液に対してもイーイーには一切の躊躇は無い。
「セプテンバー、おれは君たちを助けたいっ」
薄れ行く意識の中で、セプテンバーは思う。この人たちはきっと僕たちを救ってくれるヒーローなのだと。皆を助けてくれるのだと。
安堵からか一瞬笑顔を見せ、気を失ったセプテンバーの指に光る指輪。イーイーはとっさにそれをアンデッドドルイドの目に移らぬよう隠した。
「第一関門は突破したようですね。……ではこちらも私達の戦いを始めましょう」
ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)はアンデッドドルイドに向けて静かに漆黒の剣を抜く。
──腹立たしい、非常に腹立たしい……!
セフィロトの海へ帰することを拒むに飽き足らず、
新たなイブリースを生み女神を悲しませ、
剰え女神の代行たるオラクルの征く手を阻むとは──
ナイトオウルの目がギラリと光り、気配が変わる。その感情は憤怒。自身が絶対と崇める存在への許されぬ冒涜。
「我らが女神に仇なす神敵どもは万死に値すると知れ! ARRRRRRGGGGGHHHHHH!!!」
言葉にならない叫びと共に狂戦士が如き斬撃を叩き込んでいく。
「一旦離れてくれっ。そいつの動きを止めるっ!!」
ザルクがナイトオウルへ声をかける。バラライズショット。ザルクが戦いの中で会得し、自らのものとした、その魔連弾の一撃はアンデッドドルイドを動きを封じ込める。
「AAAAEEEEERRRRRRRRRRR!!!」
そこへナイトオウルの追撃。そして追撃。更に追撃。数秒の後、アンデッドドルイドは完全に沈黙した。
「セプテンバーさんっ! もう大丈夫ですっ」
たまきの祈りが、イーイーが抱きかかえるセプテンバーに優しい光を降り注ぎ、瀕死とも言える彼の生命を回復させる。
徐々に傷口からの出血は少なくなり、青ざめていた顔にも生気が戻っていく。
守らねば。たまきが固く誓い、セプテンバーを守る態勢を取り終えたとき、その目の前にはイブリース化により更に異形を増したオーガストとメイがいた。
今の彼等には団員以外はすべて敵。セプテンバーや他の皆を害しようとする敵。
「ウゴォアアアアァァァァアア」
オーガストが天へ咆哮すると共に、硬質化した両腕をたまきへ振り下ろす。
「あぶないっ!!」
グリッツの放ったダブルシェルがオーガストの腕へ命中する。いかにライフルでの連弾としても全身が硬質化したオーガストへのダメージは予想通り少ない。だがオーガストとメイはくるりと向きを変え、グリッツを目で追う。新たな攻撃対象として。
「僕が引きつけますっ! 今の内にセプテンバーさんをっ!」
グリッツの言葉に、こく、と頷くと、たまきはセプテンバーへの回復を継続する。
その間もオーガストの攻撃は止まらない。純粋な破壊力。その強大な力を前にグリッツは出来る限り冷静な対処を心がける。距離をとり、硬質化の接合部分を可能な限り狙い、オーガストとメイの気を引き続ける。
オーガストの大振りで強力な攻撃とメイの鱗弾による遠距離攻撃。そのコンビネーションは荒いが、それでもグリッツ一人で相手にするにはなかなかに厳しい。
「ぐっ!?」
オーガストの攻撃をよけた一瞬、メイの鱗弾がグリッツの上腕を掠る。破れたチュニクから血が滲む。
ふわり、とグリッツの視界が一瞬歪む。少しずつ、けれど確実にメイの鱗に含まれる毒はグリッツを蝕んでいく。
「たまき。セプテンバー、たのむ。おれも戦う」
そういうと、だいぶ状態が安定したセプテンバーをたまきに任せ、イーイーは一人奮戦するグリッツの元へ。
毒を受けながらも、一人イブリース化した二人を相手し続けるグリッツ。
グリッツが毒でふらつき、オーガストが一気に距離を縮めたその時、大きな衝撃と共にイーイーが駆けつける。
「グリ、おれもきたっ」
その声を聞くとこれまで苦しそうな表情をしていたグリッツの雰囲気は変わる。彼らは同じ孤児院で長くを共にする親友ともいえる存在。お互いにとって誰よりも心強い存在が今目の前に居る。
「イーちゃん、あいつを少しの間でいいから止められる?」
毒に苦しみながらもグリッツの射撃は確実にオーガストにダメージを蓄積していっている。現に硬質化した体の一部には亀裂が走り始めている。ここぞという一点。それを打ち抜くための僅かな時間。
「まかせとけっ」
イーイーはオーガストの猛攻をしのぎつつ、徐々に距離を詰めていく。
「ゴァァァアアアァアァァァ」
オーガストが渾身の全力パンチを撃つべく振りかぶった瞬間。
「ごめん。うぉぉっぉおおおおおおおおお!!!」
イーイーの放つウォークライが、オーガストの動きをほんの僅かの間、停止させる。
「ありがと! イーちゃんっ!」
その瞬間。グリッツの放ったヘッドショットは超硬質化したオーガストの身体の僅かな綻びを的確に打ち抜いた。
「グォォオオオォォォォ」
一際大きな咆哮と共に、ついにオーガストは地へ倒れこんだ。
「やった!」
グリッツが挙げた手にイーイーがあわせる。
「残るは……っ!」
「ア”ア”ア”ア”ア”アアアアアアアアアァァァァァァァァ」
地に伏すオーガストを見て、メイが奇声を上げる。
自らの鱗を鞭状にし、目にも留まらぬ速さで撓らせる。
「ふむ、仲間が倒れたことで、最終手段に出た、といったところでしょうか」
そこにアンデッドドルイドを屠ったナイトオウルが合流する。アンデッドを相手にしていたときのあの狂気にも似た雰囲気は無く、その目にはイブリース化した団員への慈愛が溢れている。
「まだ戦えますか?」
「もちろんっ」
ナイトオウルの問いかけに二人は同時に答える。しばしの戦闘。そして……メイは静かに沈黙する。
その顔には涙の跡がはっきりと残っていた。
「皆さん大丈夫ですかっ」
セプテンバーの回復に集中していたたまきが皆をハーベストレインで癒し、グリッツの毒をクリアカースで解除する。
「セプテンバーさんはもう心配はいりません」
たまきのその言葉に安堵の表情を見せるイーイーとグリッツ。戦いのダメージはまだある。
それでも尊い命を自らの手で救えた実感は二人を奮い立たせる。
「まだ終わってないよ」
「だな、行こう!」
エイプリルの体から噴出した炎はサーカス内で燃え広がりつつある。
4人はサーカス内へ急いだ。
●
韋駄天足でいち早くサーカス内へ飛び込んだアリスタルフは、その光景に思わず息を呑む。
そこには自らの体を燃やしながらもアンデッドドルイドを追い、攻撃せんとするエイプリルの姿があった。
セプテンバーが傷つき倒れたその瞬間。エイプリルの中で何かが弾けた。
圧倒的な憎悪。その炎(憎悪)が今まさに形となって自らをも燃やし尽くそうとしている。
一刻も早く、何よりも先にエイプリルを止めなければ──
「そこに居たかっ」
ランスロットとボルカスが合流する。
予想以上にエイプリルの炎は強い。何よりも緊急性が求められるのは明らかだった。
「ジローさんたちは先に行って団員達の避難をっ。あと可能ならば指輪を外すように伝えてくれっ。今だけでいいっ」
アリスタルフの言葉に、応、と頷くとジロー達は奥へ向かう。
指輪を外すことで少なくとも攻撃対象が変わるはず。そうなれば動けぬものも居る団員を無理に退避させる必要も薄まる。そう考えた上での言葉だった。
「俺がエイプリルを止めますっ。お二人はアンデッドをお願いしますっ」
ブンッ。返事代わりにランスロットは剣を振り下ろす。
「弱者の盾となる事こそ騎士の誉れ」
「了解した。アンデッドはまかせておけ」
ボルカスが拳を鳴らす。その手にはきらきらと輝く欠片。先んじて得たドルイドの習性を利用しての行動だった。──それぞれの戦いが始まる。
「くっ」
アリスタルフは接近戦を得意とするスタイルだ。一方エイプリルは遠方広範囲にまで炎で攻撃が可能。うかつには近寄れず、なかなか攻めきれない。独自の構えをとることで攻撃にこそ耐性はあれど、魔導の攻撃にはその影響は少ない。サーカス突入時にたまきが全員にかけたノートルダムの息吹の効果もすでに消えている。多少ハイリスクだが……一気に距離を詰めて短期決戦に挑むか? アリスタルフが思考をめぐらせていた時、そこに一発の銃声が響く。
「遅くなった。セプテンバーはもう大丈夫だっ」
セプテンバーの救出後、すぐにテント内へ向かったザルクがここで合流する。
その場に居たものすべての表情が一瞬和らいだ。
「俺が隙を作る。接近戦は任せたぜっ」
ザルクの銃撃がエイプリルを翻弄する。遠距離からの攻撃はエイプリルを十分に引きつけ、アリスタルフへの注意をそらし、アリスタルフの強力な打撃へ繋ぐ。そしてパターンを嫌ったエイプリルが二度目の灼熱化を試みたのをザルクは見逃さなかった。
「これ以上はダメだ。止めさせてもらうぜっ」
ザルクが地面に向けて魔弾を発射する。
「パラライズ……ショット!」
足元から無数の弾丸がエイプリルを取り囲むように放物線を描く。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あああっ!!!!!」
動きを封じられたエイプリルはもがき、絶叫する。
「今だ!!」
ザルクの合図と共に、アリスタルフが渾身の震撃を叩き込む。
「……グボァッ」
エイプリルの動きが止まる。それと同時に暴走の炎は小さくなり、やがて消えた。
「じゃぁこっちも早いトコ終わらせないとな」
同じくザルクの吉報を聞いた、ドルイドを相手にタイマンで一歩引かない戦いを繰り広げていたランスロットとボルカスにも力が漲る。
「うぉぉぉぉぉおおおおお」
ボルカスが吼える。ランスロットも呼応するように奮起する。二人はウォーモンガーで一気に自身の攻撃力を高めていく。
二人の気迫に気圧されたのか2体のドルイドはお互いの背中を支えるように後ずさる。
「タァァァァァァァァッ!!」
ボルカス、ランスロット、双方が同時にはなったその技は、武器の威力とも相成ってドルイドたちを完全に沈黙させた。
──こっちはみんなやっつけた。今はテント内で消火活動中。そっちはどう?
イーイーからのテレパスに対して皆の答えは一つだった。
「こっちも終わったところさ」
●
すべてが終わり、改めて自由騎士たちは団員達と対峙した。
重傷だったセプテンバーも峠を越え、快方に向かっている。
イブリース化した団員達もダメージは残るものの、皆無事元に戻っていた。
他の団員達はジロー達が状況を説明し、守護していたこともあり全くの無傷だった。
一方サーカス内部はというと、エイプリルの炎によって一部焼失したものの、復旧は十分に可能で修復期間を経て改めて興行は行うそうだ。
イーイーとグリッツは意識を取り戻し、ベッドで安静にしているセプテンバーの傍にいた。
「目、さめた?」
「どこか痛かったりしない?」
二人はセプテンバーに声をかける。セプテンバーは穏やかに微笑んだ。
「あ……、あ、いがと、みんな……たすけ、くえて」
セプテンバーはもともとうまくしゃべれない。それでも一生懸命言葉を紡ぐ。
イーイーがセプテンバーの手を取る。
「友達になろう」
グリッツもまた頷く。
「……ともだ、ち?」
セプテンバーは大粒の涙を流しながら、とびっきりの笑顔で頷いた。
現場がある程度の落ち着きを取り戻したあと、ボルカスは団員達も含めた皆に回復を試みる。身体的なダメージ云々というよりも、こうやって団員達に対して手を差し伸べる存在が居ることを伝えたかった。彼は本心では明らかに動揺している。自由騎士たちにもマザリモノは沢山居るが、このサーカスの団員ほどに異形が多く現れているものは少ないからだ。
それでも自身の騎士としての矜持が、彼の表情に一切の動揺を表させなかった。
彼はまごう事なき己が信念を貫き通す騎士。団員に向けられた笑顔こそが彼の信念そのものだった。
改めてランスロットは考える。己が強者の環境に生まれた事は認識している故、安易な同情は不誠実。
ただ事実として、我が国では誰でも、望む事に挑戦する事ができる。
たどたどしいながらもランスロットはそれを丁寧に団員へ伝えていく。
きっとそれが彼らにとって新しい第一歩にもなりえると信じて。
終始穏やかな表情のたまきの放つマイナスイオンは、直接的な回復とは違う意味で場を和ませ、突然悲劇に襲われた団員達の心を癒していた。たまきもまた団員達へイ・ラプセルのことや、自身の工房のこと、様々な可能性を話して聞かせた。その話の中でそれとなく団長についても聞いてみる。たまきの中には僅かな団長に対しての懸念があったからだ。だがその懸念とは裏腹にその答えはすべて「とても優しくていい人」であった。
アリスタルフとザルクは団長の部屋にいた。
雑然と様々なものが散らばった部屋。お世辞にも片付いているとはいえない。
「これじゃどこに何があるのかわからねぇな」
机に合った本を適当にぱらぱらとめくりながらザルクが呟く。
「確かに。でもサーカスの初日に不在なんていったどういうことなんでしょう」
興行初日に不在。アリスタルフが感じた違和感。
「団員に聞いても団長の行き先を誰もしらないみたいだしな」
残念ながら、団長に付いては詳しい情報は得ることはできなかった。
「では帰りましょう。アクアディーネ様にも我々の活躍と吉報を報告せねば」
ナイトオウルはアクアディーネにこの良き報告できることに一人、悦を感じていた。
結局団長は、サーカスへは戻って来ず、自由騎士たちは適切な処置によって動けるほどには回復したセプテンバーたちに見送られ、サーカスを後にした。
●
ザルクがたまたま団長の部屋で適当に目星を付けた本の1ページ。
そこにはある宝石について記載があった。
「バイオレットブルー。花崗岩の一種とされ、花崗岩の中で一番硬い石とも言われており、極東の島国アマノホカリでは高級石材として墓石などに使用されています──」
あれ、ぼくどうしたのかな
めのまえが、あかくそまってく
どうしたの、えいぷりる、そんなかなしいかおしないで
めいもおーがすとも、ないちゃだめだよ
ぼくは、だいじょうぶ、だから
「あ”あ”あ”ああああああお”お”おおおお」
めいが、かわってく
おーがすとも、かわってく
えいぷりるも
だれか、みんなをとめて
みんなたいせつな、ぼくのかぞくなんだ
おねがいだよ
だれ、か だれ、か
●
『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)は自己の記憶と重ねながら思う。サーカス団員が、このサーカスについていった気持ち、なんとなく分かる。イーイーがアマノホカリからイ・ラプセルへ来るときに握った手も、温かかったから。かけられた言葉がとても優しかったから。
『見習い銃士』グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)もまた思う。ボクも孤児院に拾われた身だけど……今は大親友のイーイーもいるし、自由騎士として楽しく過ごしてる。だからサーカス自体の存在は決して悪いものじゃないと思う。でも世界は広いんだ。他にも色々な道がある事は教えてあげたい、と。
ランスロット・カースン(CL3000391)は考える。折角我が国を訪れてくれたのだ。彼らの安全を守る事は騎士の義務。行って当然の行為である、と。
「一人の犠牲も出さん、必ずだ」
ランスロットは誓いを改めて言葉にする。
『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)は思い出す。他の国での出来事を。異形(マザリモノ)たちのサーカス。他の国で見たことあるが、ショーそのものよりも観衆からの罵声や嘲笑の方が多かった印象が強い。この国ならまた違った興行になりそうだが……。
「その為にもうまいこと対処しねぇとな」
『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)は願う。
ここは皆さんの今後の生き方を変えられる可能性の高い場所。全てが寛容では無いかも知れないけれども、団員の皆さんが出来る限り、離れ離れにならずこれまでのように皆で暮らせる全く別の生き方も見つけられる場所であらん事を。
その為にも出来る事はすべて、全身全霊を持って対応したい、と。
●
サーカスへ到着するなり、自由騎士は速やかに行動を開始する。
「俺たちは先に中に向かいますっ」
アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は韋駄天足で速度を上げ、目にも留まらぬ機動力で入り口付近の混乱をするりとかわし、先行してサーカス内へ突入する。
「入り口は任せたっ!!」
アリスタルフに遅れる事数秒。『折れぬ傲槍』ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)もその場を全速力で駆け抜ける。しかしその瞬間、アンデッドドルイドがそれに反応。ボルカスへ鋭い爪を振り下ろす。
「ふんっ!!」
ガキンッ。ランスロット・カースン(CL3000391)の大剣がドルイドの攻撃を弾く。
攻撃を弾かれたドルイドは大きく態勢を崩した。
「すまん、助かった」
その隙を逃さず、ボルカスとランスロット、それにジローと現地で合流した自由騎士はサーカス内部へ突入した。
同時に他のメンバーも動く。
誰よりも早くセプテンバーの元へ駆けつけたのはイーイーだった。
「もう大丈夫っ」
息も絶え絶えの状態で横たわるセプテンバーを、イーイーは迷う事無くその小さな体で抱く。
体中からの出血や吐血。セプテンバーの体を覆う粘液に対してもイーイーには一切の躊躇は無い。
「セプテンバー、おれは君たちを助けたいっ」
薄れ行く意識の中で、セプテンバーは思う。この人たちはきっと僕たちを救ってくれるヒーローなのだと。皆を助けてくれるのだと。
安堵からか一瞬笑顔を見せ、気を失ったセプテンバーの指に光る指輪。イーイーはとっさにそれをアンデッドドルイドの目に移らぬよう隠した。
「第一関門は突破したようですね。……ではこちらも私達の戦いを始めましょう」
ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)はアンデッドドルイドに向けて静かに漆黒の剣を抜く。
──腹立たしい、非常に腹立たしい……!
セフィロトの海へ帰することを拒むに飽き足らず、
新たなイブリースを生み女神を悲しませ、
剰え女神の代行たるオラクルの征く手を阻むとは──
ナイトオウルの目がギラリと光り、気配が変わる。その感情は憤怒。自身が絶対と崇める存在への許されぬ冒涜。
「我らが女神に仇なす神敵どもは万死に値すると知れ! ARRRRRRGGGGGHHHHHH!!!」
言葉にならない叫びと共に狂戦士が如き斬撃を叩き込んでいく。
「一旦離れてくれっ。そいつの動きを止めるっ!!」
ザルクがナイトオウルへ声をかける。バラライズショット。ザルクが戦いの中で会得し、自らのものとした、その魔連弾の一撃はアンデッドドルイドを動きを封じ込める。
「AAAAEEEEERRRRRRRRRRR!!!」
そこへナイトオウルの追撃。そして追撃。更に追撃。数秒の後、アンデッドドルイドは完全に沈黙した。
「セプテンバーさんっ! もう大丈夫ですっ」
たまきの祈りが、イーイーが抱きかかえるセプテンバーに優しい光を降り注ぎ、瀕死とも言える彼の生命を回復させる。
徐々に傷口からの出血は少なくなり、青ざめていた顔にも生気が戻っていく。
守らねば。たまきが固く誓い、セプテンバーを守る態勢を取り終えたとき、その目の前にはイブリース化により更に異形を増したオーガストとメイがいた。
今の彼等には団員以外はすべて敵。セプテンバーや他の皆を害しようとする敵。
「ウゴォアアアアァァァァアア」
オーガストが天へ咆哮すると共に、硬質化した両腕をたまきへ振り下ろす。
「あぶないっ!!」
グリッツの放ったダブルシェルがオーガストの腕へ命中する。いかにライフルでの連弾としても全身が硬質化したオーガストへのダメージは予想通り少ない。だがオーガストとメイはくるりと向きを変え、グリッツを目で追う。新たな攻撃対象として。
「僕が引きつけますっ! 今の内にセプテンバーさんをっ!」
グリッツの言葉に、こく、と頷くと、たまきはセプテンバーへの回復を継続する。
その間もオーガストの攻撃は止まらない。純粋な破壊力。その強大な力を前にグリッツは出来る限り冷静な対処を心がける。距離をとり、硬質化の接合部分を可能な限り狙い、オーガストとメイの気を引き続ける。
オーガストの大振りで強力な攻撃とメイの鱗弾による遠距離攻撃。そのコンビネーションは荒いが、それでもグリッツ一人で相手にするにはなかなかに厳しい。
「ぐっ!?」
オーガストの攻撃をよけた一瞬、メイの鱗弾がグリッツの上腕を掠る。破れたチュニクから血が滲む。
ふわり、とグリッツの視界が一瞬歪む。少しずつ、けれど確実にメイの鱗に含まれる毒はグリッツを蝕んでいく。
「たまき。セプテンバー、たのむ。おれも戦う」
そういうと、だいぶ状態が安定したセプテンバーをたまきに任せ、イーイーは一人奮戦するグリッツの元へ。
毒を受けながらも、一人イブリース化した二人を相手し続けるグリッツ。
グリッツが毒でふらつき、オーガストが一気に距離を縮めたその時、大きな衝撃と共にイーイーが駆けつける。
「グリ、おれもきたっ」
その声を聞くとこれまで苦しそうな表情をしていたグリッツの雰囲気は変わる。彼らは同じ孤児院で長くを共にする親友ともいえる存在。お互いにとって誰よりも心強い存在が今目の前に居る。
「イーちゃん、あいつを少しの間でいいから止められる?」
毒に苦しみながらもグリッツの射撃は確実にオーガストにダメージを蓄積していっている。現に硬質化した体の一部には亀裂が走り始めている。ここぞという一点。それを打ち抜くための僅かな時間。
「まかせとけっ」
イーイーはオーガストの猛攻をしのぎつつ、徐々に距離を詰めていく。
「ゴァァァアアアァアァァァ」
オーガストが渾身の全力パンチを撃つべく振りかぶった瞬間。
「ごめん。うぉぉっぉおおおおおおおおお!!!」
イーイーの放つウォークライが、オーガストの動きをほんの僅かの間、停止させる。
「ありがと! イーちゃんっ!」
その瞬間。グリッツの放ったヘッドショットは超硬質化したオーガストの身体の僅かな綻びを的確に打ち抜いた。
「グォォオオオォォォォ」
一際大きな咆哮と共に、ついにオーガストは地へ倒れこんだ。
「やった!」
グリッツが挙げた手にイーイーがあわせる。
「残るは……っ!」
「ア”ア”ア”ア”ア”アアアアアアアアアァァァァァァァァ」
地に伏すオーガストを見て、メイが奇声を上げる。
自らの鱗を鞭状にし、目にも留まらぬ速さで撓らせる。
「ふむ、仲間が倒れたことで、最終手段に出た、といったところでしょうか」
そこにアンデッドドルイドを屠ったナイトオウルが合流する。アンデッドを相手にしていたときのあの狂気にも似た雰囲気は無く、その目にはイブリース化した団員への慈愛が溢れている。
「まだ戦えますか?」
「もちろんっ」
ナイトオウルの問いかけに二人は同時に答える。しばしの戦闘。そして……メイは静かに沈黙する。
その顔には涙の跡がはっきりと残っていた。
「皆さん大丈夫ですかっ」
セプテンバーの回復に集中していたたまきが皆をハーベストレインで癒し、グリッツの毒をクリアカースで解除する。
「セプテンバーさんはもう心配はいりません」
たまきのその言葉に安堵の表情を見せるイーイーとグリッツ。戦いのダメージはまだある。
それでも尊い命を自らの手で救えた実感は二人を奮い立たせる。
「まだ終わってないよ」
「だな、行こう!」
エイプリルの体から噴出した炎はサーカス内で燃え広がりつつある。
4人はサーカス内へ急いだ。
●
韋駄天足でいち早くサーカス内へ飛び込んだアリスタルフは、その光景に思わず息を呑む。
そこには自らの体を燃やしながらもアンデッドドルイドを追い、攻撃せんとするエイプリルの姿があった。
セプテンバーが傷つき倒れたその瞬間。エイプリルの中で何かが弾けた。
圧倒的な憎悪。その炎(憎悪)が今まさに形となって自らをも燃やし尽くそうとしている。
一刻も早く、何よりも先にエイプリルを止めなければ──
「そこに居たかっ」
ランスロットとボルカスが合流する。
予想以上にエイプリルの炎は強い。何よりも緊急性が求められるのは明らかだった。
「ジローさんたちは先に行って団員達の避難をっ。あと可能ならば指輪を外すように伝えてくれっ。今だけでいいっ」
アリスタルフの言葉に、応、と頷くとジロー達は奥へ向かう。
指輪を外すことで少なくとも攻撃対象が変わるはず。そうなれば動けぬものも居る団員を無理に退避させる必要も薄まる。そう考えた上での言葉だった。
「俺がエイプリルを止めますっ。お二人はアンデッドをお願いしますっ」
ブンッ。返事代わりにランスロットは剣を振り下ろす。
「弱者の盾となる事こそ騎士の誉れ」
「了解した。アンデッドはまかせておけ」
ボルカスが拳を鳴らす。その手にはきらきらと輝く欠片。先んじて得たドルイドの習性を利用しての行動だった。──それぞれの戦いが始まる。
「くっ」
アリスタルフは接近戦を得意とするスタイルだ。一方エイプリルは遠方広範囲にまで炎で攻撃が可能。うかつには近寄れず、なかなか攻めきれない。独自の構えをとることで攻撃にこそ耐性はあれど、魔導の攻撃にはその影響は少ない。サーカス突入時にたまきが全員にかけたノートルダムの息吹の効果もすでに消えている。多少ハイリスクだが……一気に距離を詰めて短期決戦に挑むか? アリスタルフが思考をめぐらせていた時、そこに一発の銃声が響く。
「遅くなった。セプテンバーはもう大丈夫だっ」
セプテンバーの救出後、すぐにテント内へ向かったザルクがここで合流する。
その場に居たものすべての表情が一瞬和らいだ。
「俺が隙を作る。接近戦は任せたぜっ」
ザルクの銃撃がエイプリルを翻弄する。遠距離からの攻撃はエイプリルを十分に引きつけ、アリスタルフへの注意をそらし、アリスタルフの強力な打撃へ繋ぐ。そしてパターンを嫌ったエイプリルが二度目の灼熱化を試みたのをザルクは見逃さなかった。
「これ以上はダメだ。止めさせてもらうぜっ」
ザルクが地面に向けて魔弾を発射する。
「パラライズ……ショット!」
足元から無数の弾丸がエイプリルを取り囲むように放物線を描く。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あああっ!!!!!」
動きを封じられたエイプリルはもがき、絶叫する。
「今だ!!」
ザルクの合図と共に、アリスタルフが渾身の震撃を叩き込む。
「……グボァッ」
エイプリルの動きが止まる。それと同時に暴走の炎は小さくなり、やがて消えた。
「じゃぁこっちも早いトコ終わらせないとな」
同じくザルクの吉報を聞いた、ドルイドを相手にタイマンで一歩引かない戦いを繰り広げていたランスロットとボルカスにも力が漲る。
「うぉぉぉぉぉおおおおお」
ボルカスが吼える。ランスロットも呼応するように奮起する。二人はウォーモンガーで一気に自身の攻撃力を高めていく。
二人の気迫に気圧されたのか2体のドルイドはお互いの背中を支えるように後ずさる。
「タァァァァァァァァッ!!」
ボルカス、ランスロット、双方が同時にはなったその技は、武器の威力とも相成ってドルイドたちを完全に沈黙させた。
──こっちはみんなやっつけた。今はテント内で消火活動中。そっちはどう?
イーイーからのテレパスに対して皆の答えは一つだった。
「こっちも終わったところさ」
●
すべてが終わり、改めて自由騎士たちは団員達と対峙した。
重傷だったセプテンバーも峠を越え、快方に向かっている。
イブリース化した団員達もダメージは残るものの、皆無事元に戻っていた。
他の団員達はジロー達が状況を説明し、守護していたこともあり全くの無傷だった。
一方サーカス内部はというと、エイプリルの炎によって一部焼失したものの、復旧は十分に可能で修復期間を経て改めて興行は行うそうだ。
イーイーとグリッツは意識を取り戻し、ベッドで安静にしているセプテンバーの傍にいた。
「目、さめた?」
「どこか痛かったりしない?」
二人はセプテンバーに声をかける。セプテンバーは穏やかに微笑んだ。
「あ……、あ、いがと、みんな……たすけ、くえて」
セプテンバーはもともとうまくしゃべれない。それでも一生懸命言葉を紡ぐ。
イーイーがセプテンバーの手を取る。
「友達になろう」
グリッツもまた頷く。
「……ともだ、ち?」
セプテンバーは大粒の涙を流しながら、とびっきりの笑顔で頷いた。
現場がある程度の落ち着きを取り戻したあと、ボルカスは団員達も含めた皆に回復を試みる。身体的なダメージ云々というよりも、こうやって団員達に対して手を差し伸べる存在が居ることを伝えたかった。彼は本心では明らかに動揺している。自由騎士たちにもマザリモノは沢山居るが、このサーカスの団員ほどに異形が多く現れているものは少ないからだ。
それでも自身の騎士としての矜持が、彼の表情に一切の動揺を表させなかった。
彼はまごう事なき己が信念を貫き通す騎士。団員に向けられた笑顔こそが彼の信念そのものだった。
改めてランスロットは考える。己が強者の環境に生まれた事は認識している故、安易な同情は不誠実。
ただ事実として、我が国では誰でも、望む事に挑戦する事ができる。
たどたどしいながらもランスロットはそれを丁寧に団員へ伝えていく。
きっとそれが彼らにとって新しい第一歩にもなりえると信じて。
終始穏やかな表情のたまきの放つマイナスイオンは、直接的な回復とは違う意味で場を和ませ、突然悲劇に襲われた団員達の心を癒していた。たまきもまた団員達へイ・ラプセルのことや、自身の工房のこと、様々な可能性を話して聞かせた。その話の中でそれとなく団長についても聞いてみる。たまきの中には僅かな団長に対しての懸念があったからだ。だがその懸念とは裏腹にその答えはすべて「とても優しくていい人」であった。
アリスタルフとザルクは団長の部屋にいた。
雑然と様々なものが散らばった部屋。お世辞にも片付いているとはいえない。
「これじゃどこに何があるのかわからねぇな」
机に合った本を適当にぱらぱらとめくりながらザルクが呟く。
「確かに。でもサーカスの初日に不在なんていったどういうことなんでしょう」
興行初日に不在。アリスタルフが感じた違和感。
「団員に聞いても団長の行き先を誰もしらないみたいだしな」
残念ながら、団長に付いては詳しい情報は得ることはできなかった。
「では帰りましょう。アクアディーネ様にも我々の活躍と吉報を報告せねば」
ナイトオウルはアクアディーネにこの良き報告できることに一人、悦を感じていた。
結局団長は、サーカスへは戻って来ず、自由騎士たちは適切な処置によって動けるほどには回復したセプテンバーたちに見送られ、サーカスを後にした。
●
ザルクがたまたま団長の部屋で適当に目星を付けた本の1ページ。
そこにはある宝石について記載があった。
「バイオレットブルー。花崗岩の一種とされ、花崗岩の中で一番硬い石とも言われており、極東の島国アマノホカリでは高級石材として墓石などに使用されています──」
†シナリオ結果†
成功
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†あとがき†
MVPはセプテンバーの団員以外のお友達第1号となってくれたあなたへ。
それは何よりの希望となりました。
焼失したものを修理次第、興行は行われるようです。
オンリーワンはしばらくイ・ラプセルでの興行を行うようです。
ご参加頂き誠にありがとうございました。
それは何よりの希望となりました。
焼失したものを修理次第、興行は行われるようです。
オンリーワンはしばらくイ・ラプセルでの興行を行うようです。
ご参加頂き誠にありがとうございました。
FL送付済