MagiaSteam
我らなりに○○よ、奉ずるは其だけ



 生気の感じられない、やつれた男が崩れるように跪いた。
 男の前には異様なオブジェ。逆さ十字に蛇が巻き付き周りに犬猫の生首が供えてあるなにかがあった。
「……救済のない神はたとえ存在していても無価値。我が神よ奉ずるは其のみ……すべてに滅びを」
 そう力なく呟くと喉元にナイフを当て、前方に体を投げ出すようにして死の拝礼を行った。

「あら! ちょうどいいとこに。ねぇ、ちょっとたのまれてくれると嬉しいんだけど」
 『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)がパチンと音のしそうなウィンクをとばしながらそう言った。
「近くの村の話なんだけど、その村のはずれに偉い研究者さんのお屋敷があってね。四人家族でそこに暮らしていたんだけど……本当に、本当に不幸としか言えないような事故で奥さんとお子さんが立て続けに亡くなってね……」
 痛ましそうにバーバラが言う。
「もともと人付き合いの良い人ではなかったらしいんだけど、それからはさらに必要最低限の付き合いしかしなくなったらしいの。で、家の周りもどんどん荒れて、気が付いたら窓は板を打ち付けてふさがれているし、夜に野良犬や野良猫を捕まえてたりとか……ちょっとヤバいのが極まってきたらしいのね」

「村中でどうしようかと考えていたんだけど、半月に一回は食料とかを買いに来てたその研究者さんがここ三ヶ月、一度も顔を見せていないらしいの」
 そこまで話してバーバラは大きく息を一つついた。
「それで、ここからが本番なんだけど……最悪の状況も考えて村の人たちが何人かでお屋敷の様子を見に行ったらしいのね。鍵はかかっていなくてすんなり玄関ホールに入れたらしいんだけど……入った瞬間からなんだかわけもわからず不気味で、五分も経たずに全員飛び出てきたらしいわ。で、全員が口をそろえて『もう一度屋敷に入れと言うなら村を出ていく!』ですって」
 そう言って「ふぅ」と大きく肩をすくめる。
「もうわかったと思うけど、お願いっていうのはそのお屋敷の調査。研究者さんも無事でいてくれたら助けだして欲しいけど望みは……薄いでしょうね。騎士団にお願いするような内容ではないっていうこともあるけど、あなたたちならきっと解決してくれると信頼してるからお願いするの。だからヨロシクね」
 バーバラは流し目でそう言うと「これは前払いね」と自由騎士たちにキュートな投げキッスをするのだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
ミドリバ
■成功条件
1.イブリース化した邪神の祭壇の破壊
初めまして、ミドリバと申します。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

屋敷内の探索、異変の原因の排除が目的となります。
窓が板でふさがれているので昼に来ても夜に来ても屋敷内は暗いです。
が、誰が点けたのかわからないランプにより不気味に明るいです。
明かりが何者かの制御化にあるということは突然消えることもあるかもしれません。
お屋敷らしく各部屋は広く戦闘に不具合はありません。
ただ家具などが配置されているためきれいに陣形を組んだりするのは難しいかもしれません。


●敵情報
ポルターガイスト

攻撃方法
体当たり 近距離/単体

屋敷内の家具やいろいろが襲い掛かってきます。
ただぶつかってくるだけなのでそこまでの脅威ではないです。
一応、刃物には注意でしょうか。


邪神の祭壇

攻撃方法
体当たり 近距離/単体
噛みつき 近距離/単体 【カース1】

現実の神に絶望した男が妄執の果てに生み出したなにか。
実はイブリース化したのは屋敷全体ですが男が執着した祭壇が核となっています。
邪神とうたっていますが神性は皆無です。


玄関ロビーから居間、食堂、寝室、書斎、子供部屋などを探索します。
各部屋ではお化け屋敷のような精神的なサプライズアタックがある場合があります。
一応フレーバー用に判定をします。
各キャラクターがホラーに強いか弱いか簡単に教えて頂けると大変助かります。
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
5/6
公開日
2019年05月09日

†メイン参加者 5人†



●屋敷前にて
「よっ、ほっ、とぅ!」
「ほい、ほい、ほいっと」
 『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)がアキヅキ・カナメ(CL3000528) の周りをくるくると周りながら軽く素早い打撃を繰り出す。
 そしてそれをアキヅキがテンポよくさばく。
 見ようによっては二人でワルツを踊っているようにも見えた。

「待たせたな……って、なにやってんだ?」
 建物周辺の最終確認を終えた『私立探偵』ルーク・H・アルカナム(CL3000490) が呆れたように言う。
「あぁ、お疲れ様。約束組手? 推手? そんな感じの軽い鍛錬らしいよ。なかなか見入ってしまうね」
 『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)がそう返事をする。
「即興であれだけのことができるんだから大したもんだ……で、どうだった?」
 ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)がルークに視線を向ける。
「周囲に異常はない。予定通りに調査を始めていいだろう」
「おう、ありがとな。そういえば村人からはなんか新しい情報は聞けたのか?」
「調査に参加した全員に話は聞いたが、まぁ大した内容ではなかったな。屋敷内は暗く、屋内に少し足を踏み入れたが生暖かい空気が気持ち悪くてとても留まれなかったらしい……一人だけこんなことを言ってたな『まるでデカい生き物の口の中に迷い込んだようだった』」
「はっ、これから調査に入る俺たちに気の利いた台詞でありがたいこったな」

「ありがとうございましたー!」
「こちらこそありがとね!」
 一区切りがついたのか、カノンとアキヅキがお互いに元気のいい礼をしていた。
 その二人にアルビノがぱちぱちと拍手をしている。
「準備運動完了! さぁいこう!」
 カノンが小さい体をグンと伸ばして屋敷を指さす。
 それとは正反対に大きい体を縮こませるアキヅキ。
「うぇ……やっぱり行くのかぁ……あー、やっぱ不気味!」
 本来であれば立派なお屋敷と呼んでもよい佇まいなのだろうが、草が伸び放題になっている元花壇、雑に板が打ち付けてある窓。
どんよりとした空模様と相まって不吉で重苦しい雰囲気を感じさせた。
「あの板とか外しちゃダメかなぁ……絶対に中暗いよね! 怖いよね!」
「うーん、俺もその意見に賛成なんだが、持ち主が塞いだモンだからなぁ。その意向を無視して勝手にってのはなぁ……とりあえず中を確認して明かりが欲しいと思ったらあらためて板を外すでいいんじゃねぇか?」
 ウェルスがなだめるようにアキヅキの背中をポンポンと叩く。
「立派なお屋敷だし、中には照明設備もあるんじゃないかい? あと自前の明かりも用意してきたし……」
「カノン暗いところでもいろいろ見えるから大丈夫大丈夫!」
 アルビノ、カノンもアキヅキを勇気づけるように声をかける。
「オバケなんてカノンがやっつけるよ!」
 そう言ってカノンはアキヅキの腕にぶら下がった。
「よ、よーし! あたしだってやってやる! なにが出たってぶっ飛ばすよ! おー!」
 カノンをぶら下げたまま勢いよく腕を突き上げる。ぶら下がったままのカノンも「おー」と腕を振り上げるのだった。


●屋内探索開始
「ん? これは……」
 音もなく開いた扉の向こうは石造りの玄関ホール。
 事前の情報とは異なり、壁掛けのガス灯が十分な明かりを生み出していた。
「サーモグラフィの範囲には生き物の反応はない……けど、これは明かりを点けた人がいるということだよね」
 警戒しながら全員が玄関ホールに入る。
「普通に考えたら捜索対象の研究者が点けたんだろうが……この空気は」
 ウェルスが小さく鼻をひくつかせる。
「臭いんじゃないけど、なんか嫌な空気!」
「ねー、なんか変なのー」
 カノンとアキヅキが顔をしかめる。
「これは廃墟の空気、だな。建物に人の出入りがないと空気がよどんでこんな感じになるんだが……埃がまったく積もってない」
 不自然に清潔だが空気は廃墟のもの、事前情報では暗闇のはずが点いている明かり、警戒すべき状況といえた。
「おーい! 誰かいませんかー!」
「こーんにーちわー」
 大声で呼びかけるも石の壁に反響するだけで返事はない。

「……あー、間取りは調べてあるから、予定通りこのまま……」
 ウェルスが声をかけたその時……
 バン!
 激しい音を立てて勢いよく扉が閉まった。
「うひゃあ!」
「ヒェッ!」
「ッ!」
 突然の大音にそれぞれ一瞬硬直するもすぐに立ち直り、得物を構えて周囲を警戒する。

「だ、誰!? 戸はバンって閉めちゃダメでしょ! バンって!」
「そ、そうだよ! 開け閉めは丁寧にだよ!」
 アキヅキとカノンが怒りながら全員の顔を見る。
「誰、って言ってもなぁ……」
 沈黙の中、お互い顔を見合わせる。
 全員玄関ホールへ入っており、扉に手が届く場所には誰もいない。そもそも扉は外開きだった。
「外に誰かいたの、かな?」
「……サーモグラフィに反応ないね……」
「……周囲に人がいないのは確認済みだ」
「じゃあなんでなんで! なんで戸が勝手に閉まるの!?」

 沈黙。

「……ま、まぁ、閉まったなら開ければいいだけだろ……そんな大ごとでも……む、ん? ……おいマジか、開かねぇ」
 扉を開けようとするも、入る時にはすんなり開いた扉がびくとも動かなかった。
「ウェルスさんどいて! カノンちゃんせーので!」
「うん! わかった! せーの!」
 ととっと軽く助走をして二人が扉を蹴りつける。
 ズン、と重く低い音が響く。二人で蹴ったのに響いた音は一つ、完璧なタイミングだった。
 だが扉には何の変化もなかった。
「チッ!」
 ルークが手近の窓に銃把を叩き付ける。
 が、乾いた音がしたのみで、割れて当然の窓ガラスに変化はなかった。

 再び玄関ホールに沈黙が広がった。
「閉じ込められちゃった……」
「……やられたな、油断したつもりはないんだが」
 1ラウンド取られたか、くらいの軽い感じでルークが肩をすくめる。
「なんかね、扉じゃなくて大きくて重い生き物を蹴ったみたいだったよ」
 カノンは首をひねりながらペタペタと扉を触ったり叩いたりしている。

 全員が押し黙る中、アルビノがポツリと呟いた。
「……これはさ、つまり誰かは知らないけど、奥に来いと言ってるんじゃないかな?」
 全員がアルビノを見る。
「明かりはつけた、扉は閉めた、さぁ奥に進めってさ」

「……なるほどな、フン、どうせ調査が目的だ、遠慮なく招待を受けるか」
 装備を整え直してウェルスが言う。
「そうだね! 前衛は任せて!」
 変わらぬ明るさでカノンが握りこぶしを構える。
「ううう……なんか怖すぎて逆に腹がたってきた! ぜったいぶっ飛ばしてやるんだから!」
 プリプリと地団太を踏むアキヅキ。
「……よし、じゃあまずは正面の部屋だ。本来は客間だが居間として使っていたらしい」
 ルークが正面の扉を指さす。
 遠くからボーン、ボーンと柱時計の鳴る音が響いた。

 仕掛けの有無と扉の向こうの気配を確認してルークが扉を開ける。
「よいしょっと」
 カノンが扉のストッパーとして入口近くにあったエンドテーブルを置いた。

 居間は玄関ホールに比べると明かりの数が少ないのか薄暗かった。
 そのわずかな明かりに照らされて部屋の奥、ソファに腰かけている人影が見える。
 その長い髪やシルエットから女性と察せられるが、背中を向けているため顔は確認できない。
「……しょ…………から…………ふふ」
 細く聞こえる声も女性のものだが、話している内容は聞き取れない。ただなんとなく楽し気な雰囲気は感じられた。

「サーモグラフィ……生物反応はないね」
「だろうな」
 アルビノの言葉にルークがうなずく。
 霊感の有無と関係なく、人影に生の気配がないことがわかる。
「おそらく亡くなった研究者の妻だろう。強い心残りがあるのか屋敷のなにかに捕らわれたか……交霊術で聞いてみるか」
「え、え、! 撃たないの!? 怖くないの!?」
「撃たねぇよ! お前が怖いわ!」
「だって暗いし! 怖いし! なんだかよくわからないし!」
「なんだかわからないで撃ってたら世の中どうなるんだ……頼むからお前は銃持たないでくれよ……さて」
 気負わない感じで、それでも油断はせずウェルスがソファに近づく。
「……て……た……」
 手を伸ばせば届く距離まで来たがそれでも話している内容は聞こえない。
「……失礼…………うっ……」
 ウェルスが人影に声をかけると、人影はゆっくりと振り返りそのまま溶ける様に消えていった。

 それと同時に部屋全体が大きく震える。
 扉がバタバタと開閉し壁に掛けられた絵が揺れる。家具も跳ねるように大きく動き出した。
「じ、地震かな!?」
「いや! 家具の揺れが異常だ! 騒霊! ポルターガイストだ!」
「!? スパルトイ! 守れ!」
 アルビノがウェルスに向かってスパルトイを放つ。
 スパルトイは一直線にウェルスの元に向かうと、ウェルス目掛けて落下してきたシャンデリアに体当たりをする。
 それを合図に部屋中の家具が向かってきた。

「よし! 殴れるのならなんとかなる!」
 バン! と家の揺れより激しい震脚を踏み、アキヅキがその勢いのままの震撃を放つ。
 それを正面から受けた戸棚がバラバラになりながら吹き飛んだ。

「よっと、ほ、それ!」
 宙を飛ぶポルターガイストよりも身軽にカノンが宙を駆ける。
 回転しながら飛んでくる額入りの絵をいなし叩き落とす。

 前衛二人が後衛組を守るように動く。
 合間を見てルークが抜き打ち、ウェルスが狙撃する。銃声が響く度に壺や花瓶がはじけ飛んだ。
 最後、スパルトイが抑え込んでいたサイドテーブルをカノンが踏みつぶすと、ゆっくりと部屋の揺れがおさまっていった。

「ふぅ……ちょっとだけスーッとしたかも!」
「まるで家の中に台風が来たみたいだね」
 残心を解いたアキヅキとカノンが素直な感想を言う。
 部屋の中は壊れた家具の破片でひどいことになっていた。

「少し傷があるね……パナケア」
「おう、ありがとな。シャンデリアの時も助かったぜ」
「間に合って良かったよ」

「それで交霊術の結果はどうだ?」
 部屋の中で唯一無事なソファセット、人影が座っていた場所を調べながらルークが尋ねる。
「一瞬触れた時に一言だけ『夫の魂に救済を』だ」
「……そうか、目的が一つ決まったな」
 テーブルの上の写真立て、家族四人が写ったものを見ながらルークが呟いた。


●名もなきなにか
 居間を抜けて廊下に出たところでアキヅキが「あ!」と声を出した。
「どうした?」
 足を止めてルークが訊ねる。
「大変なことに気付いちゃった! どうしよう!」
 その真剣な様子にただ事ではないと全員が緊張する。
「……ここでトイレに行きたくなったらどうしよう!」
 全員から一斉に「ふへ」と気が抜ける。
「そんなの勝手に行って来いよ……というか屋敷一つの捜索にどれだけ時間をかけるつもりなんだ、お前は……」
 ウェルスが眉間を揉みながら言う。
「だって! 一人じゃ絶対無理!」
「大丈夫! その時はカノンが一緒についていってあげるよ」
「カノンちゃんありがとう! でもその時は耳を塞いでおいてね!」

「……近い順で、次は子供部屋を調べるぞ」
 気を取り直してルークが言う。
「熱源反応はないけど、あまり参考にはならないかもね」

 ゆっくりと開けられた部屋の中はほぼ暗闇だった。
 中に入る前にカノン、ウェルスが暗視でざっと確認する。
「ベットと机と……部屋の真ん中に……人形が二体、浮いてるな」
「でも、なんだかあの人形、怖い感はしないかも」
 カノンがそう言ってカンテラを掲げて人形を照らす。
 薄ぼんやりした光の中にピスクドールが二体、それぞれの人形から子供の声が響いてきた。

「おとうさんは書斎の奥です」
「ゆるしてあげて」
 そんな短い言葉の後、人形はガシャリと床に落ちる。

「……目的地は書斎のようだな」
「あ、ちょっと待って」
 一声かけてカノンが小走りに部屋に入る。
 そして床に倒れている人形を抱えるとベッドの上に並べて寝かせた。
「待たせてごめんね…………あれ、ここ……」
 なにかに気付いたカノンがドア枠のちょうど目線の高さの所を指でなぞる。
「キャスロン……8歳、線が引いてある……そっか、これくらいの背だったんだね。少し下にも……フーツラ、4歳」
 カノンは小さく息を吐くと、バイバイと部屋の中に声をかけ静かにドアを閉めた。


 書斎は小さめの書庫と言ってもいいくらいの大きさだった。
 壁三面に2mほどの高さの本棚が並んでおり、それでも収まりきらない本が床に散らばっていた。
 残り一面の壁には大きめの机と椅子、そしてその横に奥へと続く扉が見えた。
 ガス灯がいくつか点灯しており明るさに問題はない。

「なんだこりゃ……」
 ウェルスが呆れたように言う。他の面々も同様だった。
 目につく本棚の本、床に積まれた本、その全てが刃物によってズタズタに傷つけられていた。
 アルビノが床に置かれた一冊を手に取る。
 表紙が×の形に切り裂かれ、さらに何度も突き刺した跡が見える。
「……彼は、なんの研究をしていたのかな?」
「歴史学の研究者だ。旧古代神時代からの神学、民俗学の分野では結構な有名人らしい」
 調査済みだったルークが答える。
「そして、家族全員が敬虔な信徒だったそうだ」
「突然の不幸で強い信仰が強い憎しみに、ということなのかな?」
「家族への深い愛情が深い悲しみに、かもな」
 「そうかもね」と呟くとアルビノはそっと本を元の場所に置き机の方に向かった。

「ねぇねぇ、これ読める?」
 机の上にある本を指さしてカノンが聞く。
 机の上には積み上げられた本が数冊、それと開かれたままの本が一冊あった。それらは他の本とは異なり傷つけられてはいない。
「残念ながら見たこともないかな」
「古文書解読は専門外だ」
 アルビノとルークがそう答える。
 よほど古いか遠い地方のものか、記号にしか見えない文字だった。

「文字はわからないけど、この絵がなんていうか不気味……」
 「うえー」と舌を出しながらアキヅキが言う。
 大きな双頭の蛇のような化け物に笑顔で首を差し出している絵。
 他のページの挿絵も大体同じで、どれも異形の化け物に生贄を捧げている様子が描かれていた。

「本の内容はわからねぇが、件の研究者はこの本のこのページを最後に見ていたんだろうな……で」
 ウェルスが隣の扉を見る。
「おそらくこの先にいるんだろうよ」


「間取り図では広めの倉庫になっていたが」
 カンテラを掲げながらルークが扉をくぐる。
 かび臭い空気の中に微かな鉄の匂い。
 全員がひと固まりになり奥を目指す。
 と、突然光が爆発した。
「ッ!」
「なんだ!」

 光が収まると、そこに広がっていたのは白く輝く清浄な神域。
 奥には花で飾られた祭壇とその上に浮かぶ、白い翼を背負った天使。

「ふわぁ……」
「え! え! なんで!?」
「…………」
 驚いている一同の前へゆっくりと慈愛の笑顔を浮かべた天使が近づいてくる。


「……ありえねぇ、気に食わねぇな」
「全く同感だ」
 ルークの抜き打ちの銃撃が天使の額を打ち抜く。
 そして一拍遅れたウェルスの銃弾が胸元に吸い込まれた。

 天使の笑顔が溶けるように崩れる。
 その後から現れたのは泣き叫ぶような男の顔。
 「オオォ……ウオオォォ」と呻きながら祭壇へ向かうと倒れこむ。
 瞬間、清浄だった空間は消え去り元のかび臭い倉庫に戻る。
 祭壇の周囲にあった燭台に次々と明かりが点き、禍々しい本来の姿を浮かび上がらせた。

 蛇が巻き付いた逆さ十字のオブジェ。
 そのオブジェを守るように浮かぶ人と犬と猫の首。それぞれの首が吠えたり叫んだりしている。
 さらに燭台の明かりに照らされ光る、生贄の犬猫を処理するときに使ったものであろうナイフ、ハサミ、のこぎりなどの刃物が浮かんでいた。

「刃物は任せて! こぉぉぉぉ……いくよ!」
 細く細く息を吐き、一気に吸う。
 飛び出したアキヅキ目掛けて一斉に刃物が飛び掛かるが、極限まで高めた集中力でそれらを払い、いなし、落とす。
 動きを止めた刃物をピンポイントでルークが打ち抜く。
「叩けるものなら怖くないよ! さぁ! いくらでも来い!」

「じゃあ、こっちはカノンが相手するよ!」
 狂ったように吠え掛かる犬の首に軽い打撃を加えてそらす。
 そらし、そらし、打ち込む! 普通に肉を打つ手応えだった。
「シャアアアァァァ」
 打ち込んだ隙を狙い横から猫の首が噛みつこうとするが……
「スパルトイ、押さえろ」
「ありがとう! てぇい!」
 アルビノが防いだところをカノンが打ち抜く。

 眼窩のない目から血の涙を流し呻き続ける男の額にウェルスが銃口を突き付ける。
「なぁ、本気で野良犬や野良猫の首で作られた神に救われるつもりだったのか? 妻も子もそんなこと望んじゃいなかったのによ……」
 そう語りかけると静かに引き金を引いた。

 銃声が響いて数秒後、空気に溶ける様に逆さ十字のオブジェは消えていった。


 戦闘後、一同は首のない研究者の遺体、ピスクドール、家族の写真を回収し同じ墓に埋葬するように頼んだ。
 埋葬して何日か後、村人が様子を見に行くと屋敷は崩れておりその痕跡をほとんど残していなかった。
 さらに季節は巡って屋敷があったという記憶も薄れた頃、そこはピンクのバーベラが咲き誇る花畑になっていた。
 天気の良い日にはそこで仲の良い家族が昼食をとりながら景色を楽しむ、そんな場所になったのでした。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

ご参加ありがとうございました。

今回のMVPはフレーバー判定として使用した「怖がり判定」で、(補正があったとはいえ)数多く引っかかって頂いたアキヅキ様へ。


機会がありましたらまた宜しくお願い致します。
FL送付済