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【アクアフェスタ】屋形船クルーズ

●
抜けるような空の青を吸い込んで深みを増す蒼い波。
「集まってくれてありがとう。今日のお話も商売のおはなし。通商連からの依頼よ」
同じ色に揺らめく髪を二つに括った『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は、営業用のスマイルを浮かべ、集まった自由騎士達を船へと誘った。
●
乗り込んだ先は独特な作りになっていた。
「アマノホカリから移住した人に話を聞いたの」
イグサという植物で編まれたタタミ、薄い紙が貼られたショウジ。土を焼いたカワラの並ぶ屋根。小型蒸気エンジンのついた船はヤカタブネ――屋形船、というらしい。
「ほら、アクアフェスタでしょう?折角だから目新しい物があると楽しいかと思って」
一通り案内をしたミズーリは、言葉とは裏腹に困った顔で首を傾げる。
「この船での一日クルーズを計画してるんだけど、人手不足で最終チェックする人員がいないの」
お客様を募る前に、実際に一日運航してみての最終チェックを欠かす事は出来ない。ピンときた自由騎士達は瞳を輝かせた。これはつまり。
「ふふ、そう、貴方達にお願いするわ。ついでに少し改良してくれると嬉しいわね」
片目を瞑るミズーリ。屋形船の中に、了承代わりの雄叫びが響くのだった。
抜けるような空の青を吸い込んで深みを増す蒼い波。
「集まってくれてありがとう。今日のお話も商売のおはなし。通商連からの依頼よ」
同じ色に揺らめく髪を二つに括った『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は、営業用のスマイルを浮かべ、集まった自由騎士達を船へと誘った。
●
乗り込んだ先は独特な作りになっていた。
「アマノホカリから移住した人に話を聞いたの」
イグサという植物で編まれたタタミ、薄い紙が貼られたショウジ。土を焼いたカワラの並ぶ屋根。小型蒸気エンジンのついた船はヤカタブネ――屋形船、というらしい。
「ほら、アクアフェスタでしょう?折角だから目新しい物があると楽しいかと思って」
一通り案内をしたミズーリは、言葉とは裏腹に困った顔で首を傾げる。
「この船での一日クルーズを計画してるんだけど、人手不足で最終チェックする人員がいないの」
お客様を募る前に、実際に一日運航してみての最終チェックを欠かす事は出来ない。ピンときた自由騎士達は瞳を輝かせた。これはつまり。
「ふふ、そう、貴方達にお願いするわ。ついでに少し改良してくれると嬉しいわね」
片目を瞑るミズーリ。屋形船の中に、了承代わりの雄叫びが響くのだった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.屋形船を飾り立てる等、改良を施す
2.屋形船クルーズを楽しむ
2.屋形船クルーズを楽しむ
二度目まして、日方です。日常系を自負する身としましては、夏祭りとあればヒャッフゥせざるを得ません。
水着と浴衣が選べなかったために、欲張りさんな結果となりました。ご縁が合いましたら、よしなに。
●屋形船の改良
畳に障子、瓦だけのシンプルな平船。前方にはちょっとしたデッキがあります。飾り付けるのは勿論、思い切った改造などもOK。それによってクルーズ内容が変わるかもしれません(例:床が開いて釣り堀になるように改造→クルーズ内容に釣りが追加)。そのため、相談によって全員の意識を統一してください。
●昼の部(初期設定)
水着着用。船上デッキにてのBBQ、屋形船に引かせての水上スキーなどが楽しめます。シュノーケルによるダイビングでは、色鮮やかな景色が広がります。
●夜の部(初期設定)
星空の下、浴衣に着替えての水上花火鑑賞。アマノホカリ由来のお食事が楽しめます。デッキにて楽器を爪弾くのも乙な物かも?
●衣装や食べ物
拘りがありましたらご記載ください。記載なければボヤッとした描写になりますかと。
水着と浴衣が選べなかったために、欲張りさんな結果となりました。ご縁が合いましたら、よしなに。
●屋形船の改良
畳に障子、瓦だけのシンプルな平船。前方にはちょっとしたデッキがあります。飾り付けるのは勿論、思い切った改造などもOK。それによってクルーズ内容が変わるかもしれません(例:床が開いて釣り堀になるように改造→クルーズ内容に釣りが追加)。そのため、相談によって全員の意識を統一してください。
●昼の部(初期設定)
水着着用。船上デッキにてのBBQ、屋形船に引かせての水上スキーなどが楽しめます。シュノーケルによるダイビングでは、色鮮やかな景色が広がります。
●夜の部(初期設定)
星空の下、浴衣に着替えての水上花火鑑賞。アマノホカリ由来のお食事が楽しめます。デッキにて楽器を爪弾くのも乙な物かも?
●衣装や食べ物
拘りがありましたらご記載ください。記載なければボヤッとした描写になりますかと。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
2個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
9日
9日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年10月01日
2019年10月01日
†メイン参加者 8人†
●
うだるような暑い夏の港に人影が並ぶ。
「聞いた事はありますけど、乗るのは初めてなんですよね」
『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)は、ドッグに鎮座する屋形船をしげしげと眺めて呟いた。
「屋形船クルーズ?を体験してみて、もしあれば改善点を報告すればいいのかな?」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はふんふんと頷くと。
「楽しそうだし、その話、乗ったわ!」
船だけに!! 拳を突き上げ叫ぶエルシーの緋色の髪を、生温い潮風が優しく撫でていった。
「えっと……では、こんな感じで如何でしょう」
気を取り直してフィーリンがささっと書いた概要を覗き込み、皆はあーだこーだと意見を追加。やがて役割分担も決まり、一斉に動き出す。まずは灯りから。
「夜の部があるし、ライトは必要だよね?……僕は……アマノホカリ風に『提灯』という物を飾ってみたいな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は設計図を広げ、灯りの必要な箇所を書き込む。
「あ、船だし揺れるかもだから、傾いても蝋燭は真っ直ぐな強盗提灯なんてどうかな?」
提灯という響きに以前にお芝居で使った特殊な物を思い出し、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は詳細を図入りで紙に認める。後で通商連経由で用意できないか聞いてみるつもりだ。
「それは便利だね。なら僕は和紙を使って、提灯自体に工夫をしようかな……」
「ロマンチックだねー♪」
和紙を重ねたり、透かし彫りの和紙を挟んで柄にしたり。実際にマグノリアが重ねた和紙の美しさに、カノンは手を叩いて喜んだ。
「ワシ?って綺麗ですね。ショウジの飾り付けにもいいかも」
エルシーは和紙を手に考え込む。アマノホカリ由来の折り紙を使うつもりだったが、和紙を混ぜてみるのもいいかもしれない。とりあえず、桜や紅葉の形に切り抜き始めた。
屋形船と言えば料理も欠かせない。とくれば勿論、キッチンも必須で。
「力仕事なら任せて!」
踊る足取りで木材を運んではトンカンする『飲めや歌えの大騒ぎ』カーシー・ロマ(CL3000569)は、外枠の担当。昼は屋台風、夜は天ぷらを揚げたりと様変わりするオープンキッチンの予定だ。
「縁日スタイルにはソースヌードルとお好み焼きは外せません!」
アマノホカリ流の食のおもてなしを力説する『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は、特注の鉄板をせっせと設置している。タコ焼き用は強盗提灯と一緒に手に入れてもらえるよう、カノンにお願い済みだ。
「天ぷら鍋も幾つか用意しておきたいですね」
「じゃ、取ってきますね」
フィーリンの言葉に、障子が一段落したエルシーは素材倉庫に向かう。途中、大量の木材を積んだ台車とすれ違った。
「いやーちょっと他で使いたくてえへへ」
訝し気な黄緑の視線に、カーシーは口笛を吹いて足を速めた。その目的地は船のデッキ。
「アクアフェスタの新しい風……僕も全力で手助けしないとね、って」
そう思っていた時期もありました。『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)はトンカチ片手に貴公子然とした微笑みを浮かべる。大工ハチマキが死ぬほどアンバランス。
「でもね、その、なんていうのだろう……この祭り的な雰囲気を感じ取った瞬間、僕の蒸気少年心に火がついてしまったんだ」
「具体的にいうとー?」
木材を積み上げながらカーシーは合いの手を入れる。
「気分が高揚してしまった」
「もいっちょ!砕けてこー!」
「ふふ、テンアゲ……さ!」
屋形船がこんなにも心震わせるモノだったなんて!アダムの背後に薔薇が舞う。咥えた釘が死ぬほど似合ってない。ハイタッチ一つ、着々と櫓を完成させていくイイ歳こいた少年達を、悲しいかな、止められる人は誰も居なかった。
提灯の目途が立ったマグノリアは船底へ。
「ダイビングも出来るけれど……」
小さな子や泳げないお客さんのためにと、ガラス張りの小部屋を作り始める。その背へ、ダイビング機材を担いだティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が声をかけた。
「灯りを多めに置いてもらえませんか?ナイトダイビングも出来るかもしれません」
一潜りしてきた感じでは、夏の太陽に照らされた水中はとても綺麗だったけれど。夜はまた違う景色を魅せてくれそうで。息を弾ませて素晴らしさを語るティラミスに、マグノリアは微笑んで頷いた。
橙の光が差し込むドッグで、シェリルはそろばんをぱちぱち。
「フライヤーを揃えたりするとこのくらいかかりますかね~」
台所事情はいかほど、と総額をしっかりと出資者用の封筒にいれる。
「あ、ついでに注文書もお願い」
カノンが更に紙を追加する横で、最後の仕上げ、とフィーリンは屋形船に近付く。その手には風鈴、風の強く当たりすぎない所へちょこんと吊り下げて。
「フーリィンだけに風鈴、なーんて……どわはははー」
潮風はやっぱり生温かった。
●
強盗提灯もタコ焼き鉄板も無事に届き。今日は初の試運転。
「やーはー!祭だよー!」
フィーリン提案の貸衣装から、額の宝石に負けないド派手な浴衣を借りたカーシーと。
「これから始まる一日を皆が楽しめる様に叩くよ!」
自前の海よりも深い青を纏ったアダムは、櫓の上で諸肌を脱ぎバチを構えた。心が浮き立つリズムは万国共通、とノリノリで始まる太鼓セッション。
「太鼓は知っていたが、高い所に設置するというのは盲点だったな!」
「男の浪漫だよね!」
音も多方面に響くし目立つ。何より高くて景色が良いから叩く自分も楽しい。そう、気分は今日もテンアゲさ。
「これがソースヌードルですか、確かに特別な味がしますねー」
アゲアゲなリズムをBGMに、撫子柄の袖を捲り、フィーリンは熱々を口一杯に頬張った。
「まだまだありますよぉ~」
屋台の中で忙しなく動くシェリルは、お好み焼きをひっくり返したと思えば謎の鉄板をくーるくる。
「面白いパフォーマンスですねー、タコ焼きでしたっけ」
「焼きおにぎりももうすぐできますよ!」
暴力的な匂いをさせるB級グルメ達が完成するのはあと少し。
小型の水上バイクから縄がピンと張る。
「これも依頼だからね。仕方ないわね」
「ええ、転んだときのリカバリーポイントとか危険性とか、やってみないとわからないですから!」
たわわなアレソレを守るには防御力に心許ない布面積の水着をちょっぴり気にしつつ、バイクが急旋回するたびにエルシーとティラミスは水上で歓声を上げる。
「この爽快感、たまらないです!」
「これ楽しい!」
建前をぶち抜いてきた本音と共に、水上スキーはあちらこちら。勿論、ちゃんとチェックも忘れてませんよ?
「よし、そろそろ食材の確保をしようかな。誰か餌の付け方から教えてもらえるかしら?」
切りの良い所で屋形船に戻り、手ほどきを受けつつ舳先から釣糸を垂らすエルシー。場所が良いのか腕が良いのかはたまたビギナーズラックか。休む間もないほどの入れ食い状態に、厨房にいたカノンの目が光る。
「さぁさお立合い!お魚解体ショーだよ!」
包丁が閃くたび、まな板の上で鯛や鮃の舞い踊り。あっというまに船盛のお造りの完成だ。
「まさにアマノホカリの御馳走ですねー」
「こっちのキスは夜に天ぷらに……えっ、エビやイカも連れたんですかぁ!?」
儚げな雰囲気とは裏腹にどんどんとお腹に収めていくフィーリン。歯についたアオノリは今のとこ誰にもバレてない。目を輝かせてエルシーの釣果を讃えるシェリルの後ろから、太鼓野郎達が汗だくで顔を出す。
「オサシミ?美味しそー!」
「すごい御馳走だね、僕のお腹もテンアゲだよ」
テンアゲなのは頭だろ、と思ったかは定かでないが。カノンはウィンク一つ、お猪口を振った。
「お刺身にはコレが合うんだって!大人限定らしいけど」
「アマノホカリの聖水だー!」
上品に刺身をつまむアダムを余所に、清酒を一息に呷ったカーシーは蕩ける瞳で溜息を吐いた。たぶん脳も溶けてる。八分目ほどまで腹を満たした太鼓野郎達は、再び櫓にてバチを構える。
「完成ですぅー。ちょっと船底行ってきますね」
お好み焼きを華麗にくるり、出来立てを持ってシェリルは船底へ。同時に力強いリズムが響き渡る。音はどんどんと速度を増し――
「な、なんか回ってない……?」
思わず目を擦るカノンの前、櫓はリズムに合わせ回転数をアゲていく。そして更に。
「アガってきたよ!」
何を思ったか柵に足をかけ、アダムは徐に腹筋を始める。
「音!汗!太鼓!腹筋!さあカーシーさん仕上げをお願いします!」
「よしわかった!ぜんぜんわかんないぞ!」
だが即興には合わせるのが礼儀、と酔っ払いはバチを振りかぶり、叩く、叩く、叩く。
「これぞ僕が考案した見て聞いて楽しむマッスルミュージカルさ!」
「あ、すごいいー音するぅ」
オーディエンスの戸惑いを置き去りに、太鼓野郎達の行為(意味深)は激しさを増し。最後、カーシー渾身のフルスイングが最高速の遠心力と組み合わさった結果。
丁度その頃。水上で独り、一回転半のトリックジャンプをキメたティラミスは最後の仕上げ、と深呼吸。たわわなたわわがぶるんと揺れる。
「初心者の転びやすい体勢は、っと」
ちょっと怖い気持ちを抑えてカウントダウン、タイムが0になると同時に海に転げ落ちようとして。
「これぞ!正しく!テンアゲだ!」
「テンアゲって何ですかー!?」
吹っ飛んできたアダムに巻き込まれどぼんした。
船上の騒ぎを知らぬまま。
「うん、問題なさそうだね……」
船底にてガラス張りの具合を確かめるマグノリア。
「お疲れ様ですぅ、お好み焼きをお届けに参りました」
「嬉しいな、ありがとう……ふふ、美味しいね」
息を吹きかけて一口、濃いソースが空腹に沁みる。ゆっくりと噛み締める眼前では、色鮮やかな魚達が眼を楽しませてくれて。何ともゆったりした空気が流れ――どぼん!
「あれ、水音……っ!?」
「ふぁー!ティラミスさん!?」
慌てて目を逸らすマグノリアに、あわあわと耳を動かすシェリル。アダムに巻き込まれたティラミスは、目を回してガラスにびたんと張り付いていた。母なるたわわをもろりしながら。いえ、ワカメがガードしてくれたのでセーフ?
波のリズムで揺れていた釣糸が暴れ始めた。
「これは大物かも!?」
エルシーは甲板に仁王立ち、全力で竿を引っ張った。すごく重い。
「ほんのりイヤな予感がしますねー?」
焼きおにぎり片手に観戦するフィーリンの声は波音に紛れ届かないまま。エルシーの戦いは一進一退の攻防を見せ。ついに。
「獲ったわ!鮪!!……じゃない?」
きらきら輝く水飛沫と共に甲板に打ち上げられたのは、イキの良い大魚、ではなく。
「ゴホッ、良い一打ちだった……おや、前が見えないな」
「随分……えっと、お洒落なサングラスですね」
アダムの顔に巻き付く面積の少ない布。何処かで見たことがある気がする、具体的に言うとティラミスの上半身で。フィーリンは焼きおにぎりを完食した手でそっと合掌した。気付いたアダムがぶっ倒れるまで、あとほんの少し。
●
茜空を夜の帳が覆い尽くした頃。
「夜と言えば宴会、腕がなりますねぇ!」
「すごい。独特の感じがするわね」
キッチンにて包丁が唸る。エルシーが大量に釣った新鮮な魚介類が、そのエルシーによって衣を纏い、シェリルによってからりと揚げられていく。
「煮付けは煮込みすぎちゃダメですよぉー!」
屋形船イベントが常設になれば実際にキッチンに立つ者達へ、ノリにノッて矢継ぎ早に指示を出していくシェリル。
「お味噌汁、ってホッとするね……」
「昼のグルメも中々でしたが、正統派はまた楽しませてくれますねー。あ、ご飯お代わりで」
両手にお椀を抱えてほんわりした笑みを浮かべるマグノリア。ポップなイラストじみていた昼間とはまた違い、美術館の油絵を見るかのような味わいに、フィーリンの胃袋も最大限の敬意を以って挑む。ホカホカご飯にお新香をガリリと噛んだ耳に、ベベンと弦を弾く音が届く。
「夜はムーディーにいっくよー!」
「うーん、僕に表現できるだろうか」
なんちゃって演奏なカーシーの三味線が軽快に走り出し、アダムの太鼓が悩みながら後を追う。ムーディーどこいった、明らかに人選ミスですね。
「ムーディーとは違うんじゃ……」
「やはー細かい事はいーじゃんいーじゃん!楽しければ何でもありだよ!」
「そうね、私もやってみようかしら」
首を傾げつつも丸め込まれたエルシーはその辺に置いてあった楽器の弦を弾く。三味線よりは幾分か高い琴の音が、不器用に夜闇に溶けて。その、纏まりがないのに不思議と様になっている合奏が一瞬、轟音にかき消される。
「ええと、『たーまやー』でしたっけ」
「これはテンアゲ魂的に負けていられないよ!」
酢の物タコを噛み噛み、フィーリンの酸っぱい顔を人工の光が色鮮やかに化粧する。バチ裁きを増したテンアゲ野郎は夜空に吼えると、太鼓と腹筋を交互に激しく叩き始めた。やっぱりいみがわからない。
「んふふ、ロマンティック、って奴だね!」
浪漫というには些かBGMが騒がしい気もするが。衝立に囲まれたペアシートにてカノンはうっとりと夜空を、ここが華よと咲き乱れる花火を見上げる。障子に貼られた桜の切り絵が、花火に照らされて地上の華となっている。
「恋人さん達が並んで花火鑑賞……カノンもいつかセンセーと……んふふ♪」
にまにまとした笑みを浮かべる妄想アイには、隣に座る想い人の姿がくっきりと。来年の屋形船、ペアシートをリザーブしてお待ちしております。勿論、BGMはもう少しムーディーにして。
海面を鮮やかに彩る花火は、海中にまでその輝きを魅せる。
「花火に照らされる海中もまたいいですね」
普通のナイトダイビングでは味わえない景色に、ティラミスの金の瞳が楽しそうに細められる。失った装備はどうしたかって?ウッアタマガ。
(あれは事故あれは事故あれは無かった事ですから……!!)
海中を照らす火薬の赤よりもなお頬を赤く染めて悶えるティラミス。その痴態を波に揺れるワカメが優しく隠してやる。だが。
「うっ、何か無かったはずの記憶が揺さぶられるような……たわ、ワァーーーっ!!」
「あっ、アダムーー!!だから回転はダメって言っ、うっぷ」
酒入って回転はすごい酔う。真顔で口元を抑えるカーシーの目の前、フルスロットルな回転櫓の上でナニカを思い出しそうになったアダムは迷うことなくバチで頭をぶっ叩き。
(ううっ……そろそろ上がって天ぷらを食べましょう)
水面へと顔を向けたティラミスの真上、どぼん、とテンフリ(テンション振り切り)なキジンが落ちてくるまで、あと少し。
●
余韻を残して海中へと消える、最後の花の一欠けら。眼裏の残滓までじっくりと味わって、マグノリアはそっと手を翳す。
「この船で、沢山の人がいい思い出を作れますように」
黒地の袂が風に舞う。密やかに浴衣に咲く朝顔のような、控えめな笑みが顔を彩り。そして夜闇に沈む屋形船の、提灯が一斉に瞬いた。激しく、ではない、どこかホッとする輝きで。
「これは……ホタル、ですね。一日限りの東洋の神秘的な体験を貴方に、というところでしょうか」
いい売り文句かもしれません、とフィーリンは微笑む。薄花色の撫子の花弁で、透かし彫りの蝶が翅を震わせた。
「うへーわるぎはなかっらんれふーたいこドンドコしたかったら、け……」
完全に潰れた酔っ払いにさえも、ホタルは優しく灯りを分けてあげる。なお、酒を飲んだ辺りから記憶がないそうです。マッスルミュージックなにそれ。
「デートコースも一つ見付けたし……屋形船クルーズって楽しいねー♪」
「デートのお供に甘い物はどうですか?」
「わ、綺麗~!」
ホタルを見て思い付いた、とカノンに差し出されたのは抹茶と、中に小さな柑橘の入った水まんじゅう。清らかな水流に遊ぶホタルを模したのだとか。美味しそうに頬張るカノンに、これは売れる、とシェリルは脳内でソロバンをはじいた。
「とても楽しかったけど……昼夜通しで楽しむと、ちょっと疲れるかもね」
うーんと伸びをするエルシーは、だが言葉とは裏腹に満足そうな笑みを浮かべる。今晩はよく眠れそうだ。そんな気持ちの良い足元に、ザバァと水飛沫と共にナニカが転がり出る。
「ううっ……ワカメがぬるぬる……お嫁にいけない」
「夜にしては暗すぎないだろうか……前が見えない」
ナニがあったのか疲労困憊で倒れるティラミスを背に庇い、エルシーは得意の格闘技の構えを取る。
「ワカメのイブリースだなんて珍しいわね、全力で行くわ!覚悟!」
「えっ何が、待っ!?」
悲鳴を上げて落ちていったワカメのイブリース?に、エルシーはどこかで聞いたことある声のような、と首を傾げた。
己のホタル火が齎した賑わいに、マグノリアは笑みを深める。いい思い出は沢山あるに越したことは無いと思うから。
「ふふ、一緒に頑張った皆にも、いい思い出を。今日一日……本当に、お疲れ様……」
楽しそうに港に帰り行くホタルの屋形船を、月が優しく照らしていた――
うだるような暑い夏の港に人影が並ぶ。
「聞いた事はありますけど、乗るのは初めてなんですよね」
『蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)は、ドッグに鎮座する屋形船をしげしげと眺めて呟いた。
「屋形船クルーズ?を体験してみて、もしあれば改善点を報告すればいいのかな?」
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)はふんふんと頷くと。
「楽しそうだし、その話、乗ったわ!」
船だけに!! 拳を突き上げ叫ぶエルシーの緋色の髪を、生温い潮風が優しく撫でていった。
「えっと……では、こんな感じで如何でしょう」
気を取り直してフィーリンがささっと書いた概要を覗き込み、皆はあーだこーだと意見を追加。やがて役割分担も決まり、一斉に動き出す。まずは灯りから。
「夜の部があるし、ライトは必要だよね?……僕は……アマノホカリ風に『提灯』という物を飾ってみたいな」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は設計図を広げ、灯りの必要な箇所を書き込む。
「あ、船だし揺れるかもだから、傾いても蝋燭は真っ直ぐな強盗提灯なんてどうかな?」
提灯という響きに以前にお芝居で使った特殊な物を思い出し、『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は詳細を図入りで紙に認める。後で通商連経由で用意できないか聞いてみるつもりだ。
「それは便利だね。なら僕は和紙を使って、提灯自体に工夫をしようかな……」
「ロマンチックだねー♪」
和紙を重ねたり、透かし彫りの和紙を挟んで柄にしたり。実際にマグノリアが重ねた和紙の美しさに、カノンは手を叩いて喜んだ。
「ワシ?って綺麗ですね。ショウジの飾り付けにもいいかも」
エルシーは和紙を手に考え込む。アマノホカリ由来の折り紙を使うつもりだったが、和紙を混ぜてみるのもいいかもしれない。とりあえず、桜や紅葉の形に切り抜き始めた。
屋形船と言えば料理も欠かせない。とくれば勿論、キッチンも必須で。
「力仕事なら任せて!」
踊る足取りで木材を運んではトンカンする『飲めや歌えの大騒ぎ』カーシー・ロマ(CL3000569)は、外枠の担当。昼は屋台風、夜は天ぷらを揚げたりと様変わりするオープンキッチンの予定だ。
「縁日スタイルにはソースヌードルとお好み焼きは外せません!」
アマノホカリ流の食のおもてなしを力説する『まいどおおきに!』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は、特注の鉄板をせっせと設置している。タコ焼き用は強盗提灯と一緒に手に入れてもらえるよう、カノンにお願い済みだ。
「天ぷら鍋も幾つか用意しておきたいですね」
「じゃ、取ってきますね」
フィーリンの言葉に、障子が一段落したエルシーは素材倉庫に向かう。途中、大量の木材を積んだ台車とすれ違った。
「いやーちょっと他で使いたくてえへへ」
訝し気な黄緑の視線に、カーシーは口笛を吹いて足を速めた。その目的地は船のデッキ。
「アクアフェスタの新しい風……僕も全力で手助けしないとね、って」
そう思っていた時期もありました。『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)はトンカチ片手に貴公子然とした微笑みを浮かべる。大工ハチマキが死ぬほどアンバランス。
「でもね、その、なんていうのだろう……この祭り的な雰囲気を感じ取った瞬間、僕の蒸気少年心に火がついてしまったんだ」
「具体的にいうとー?」
木材を積み上げながらカーシーは合いの手を入れる。
「気分が高揚してしまった」
「もいっちょ!砕けてこー!」
「ふふ、テンアゲ……さ!」
屋形船がこんなにも心震わせるモノだったなんて!アダムの背後に薔薇が舞う。咥えた釘が死ぬほど似合ってない。ハイタッチ一つ、着々と櫓を完成させていくイイ歳こいた少年達を、悲しいかな、止められる人は誰も居なかった。
提灯の目途が立ったマグノリアは船底へ。
「ダイビングも出来るけれど……」
小さな子や泳げないお客さんのためにと、ガラス張りの小部屋を作り始める。その背へ、ダイビング機材を担いだティラミス・グラスホイップ(CL3000385)が声をかけた。
「灯りを多めに置いてもらえませんか?ナイトダイビングも出来るかもしれません」
一潜りしてきた感じでは、夏の太陽に照らされた水中はとても綺麗だったけれど。夜はまた違う景色を魅せてくれそうで。息を弾ませて素晴らしさを語るティラミスに、マグノリアは微笑んで頷いた。
橙の光が差し込むドッグで、シェリルはそろばんをぱちぱち。
「フライヤーを揃えたりするとこのくらいかかりますかね~」
台所事情はいかほど、と総額をしっかりと出資者用の封筒にいれる。
「あ、ついでに注文書もお願い」
カノンが更に紙を追加する横で、最後の仕上げ、とフィーリンは屋形船に近付く。その手には風鈴、風の強く当たりすぎない所へちょこんと吊り下げて。
「フーリィンだけに風鈴、なーんて……どわはははー」
潮風はやっぱり生温かった。
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強盗提灯もタコ焼き鉄板も無事に届き。今日は初の試運転。
「やーはー!祭だよー!」
フィーリン提案の貸衣装から、額の宝石に負けないド派手な浴衣を借りたカーシーと。
「これから始まる一日を皆が楽しめる様に叩くよ!」
自前の海よりも深い青を纏ったアダムは、櫓の上で諸肌を脱ぎバチを構えた。心が浮き立つリズムは万国共通、とノリノリで始まる太鼓セッション。
「太鼓は知っていたが、高い所に設置するというのは盲点だったな!」
「男の浪漫だよね!」
音も多方面に響くし目立つ。何より高くて景色が良いから叩く自分も楽しい。そう、気分は今日もテンアゲさ。
「これがソースヌードルですか、確かに特別な味がしますねー」
アゲアゲなリズムをBGMに、撫子柄の袖を捲り、フィーリンは熱々を口一杯に頬張った。
「まだまだありますよぉ~」
屋台の中で忙しなく動くシェリルは、お好み焼きをひっくり返したと思えば謎の鉄板をくーるくる。
「面白いパフォーマンスですねー、タコ焼きでしたっけ」
「焼きおにぎりももうすぐできますよ!」
暴力的な匂いをさせるB級グルメ達が完成するのはあと少し。
小型の水上バイクから縄がピンと張る。
「これも依頼だからね。仕方ないわね」
「ええ、転んだときのリカバリーポイントとか危険性とか、やってみないとわからないですから!」
たわわなアレソレを守るには防御力に心許ない布面積の水着をちょっぴり気にしつつ、バイクが急旋回するたびにエルシーとティラミスは水上で歓声を上げる。
「この爽快感、たまらないです!」
「これ楽しい!」
建前をぶち抜いてきた本音と共に、水上スキーはあちらこちら。勿論、ちゃんとチェックも忘れてませんよ?
「よし、そろそろ食材の確保をしようかな。誰か餌の付け方から教えてもらえるかしら?」
切りの良い所で屋形船に戻り、手ほどきを受けつつ舳先から釣糸を垂らすエルシー。場所が良いのか腕が良いのかはたまたビギナーズラックか。休む間もないほどの入れ食い状態に、厨房にいたカノンの目が光る。
「さぁさお立合い!お魚解体ショーだよ!」
包丁が閃くたび、まな板の上で鯛や鮃の舞い踊り。あっというまに船盛のお造りの完成だ。
「まさにアマノホカリの御馳走ですねー」
「こっちのキスは夜に天ぷらに……えっ、エビやイカも連れたんですかぁ!?」
儚げな雰囲気とは裏腹にどんどんとお腹に収めていくフィーリン。歯についたアオノリは今のとこ誰にもバレてない。目を輝かせてエルシーの釣果を讃えるシェリルの後ろから、太鼓野郎達が汗だくで顔を出す。
「オサシミ?美味しそー!」
「すごい御馳走だね、僕のお腹もテンアゲだよ」
テンアゲなのは頭だろ、と思ったかは定かでないが。カノンはウィンク一つ、お猪口を振った。
「お刺身にはコレが合うんだって!大人限定らしいけど」
「アマノホカリの聖水だー!」
上品に刺身をつまむアダムを余所に、清酒を一息に呷ったカーシーは蕩ける瞳で溜息を吐いた。たぶん脳も溶けてる。八分目ほどまで腹を満たした太鼓野郎達は、再び櫓にてバチを構える。
「完成ですぅー。ちょっと船底行ってきますね」
お好み焼きを華麗にくるり、出来立てを持ってシェリルは船底へ。同時に力強いリズムが響き渡る。音はどんどんと速度を増し――
「な、なんか回ってない……?」
思わず目を擦るカノンの前、櫓はリズムに合わせ回転数をアゲていく。そして更に。
「アガってきたよ!」
何を思ったか柵に足をかけ、アダムは徐に腹筋を始める。
「音!汗!太鼓!腹筋!さあカーシーさん仕上げをお願いします!」
「よしわかった!ぜんぜんわかんないぞ!」
だが即興には合わせるのが礼儀、と酔っ払いはバチを振りかぶり、叩く、叩く、叩く。
「これぞ僕が考案した見て聞いて楽しむマッスルミュージカルさ!」
「あ、すごいいー音するぅ」
オーディエンスの戸惑いを置き去りに、太鼓野郎達の行為(意味深)は激しさを増し。最後、カーシー渾身のフルスイングが最高速の遠心力と組み合わさった結果。
丁度その頃。水上で独り、一回転半のトリックジャンプをキメたティラミスは最後の仕上げ、と深呼吸。たわわなたわわがぶるんと揺れる。
「初心者の転びやすい体勢は、っと」
ちょっと怖い気持ちを抑えてカウントダウン、タイムが0になると同時に海に転げ落ちようとして。
「これぞ!正しく!テンアゲだ!」
「テンアゲって何ですかー!?」
吹っ飛んできたアダムに巻き込まれどぼんした。
船上の騒ぎを知らぬまま。
「うん、問題なさそうだね……」
船底にてガラス張りの具合を確かめるマグノリア。
「お疲れ様ですぅ、お好み焼きをお届けに参りました」
「嬉しいな、ありがとう……ふふ、美味しいね」
息を吹きかけて一口、濃いソースが空腹に沁みる。ゆっくりと噛み締める眼前では、色鮮やかな魚達が眼を楽しませてくれて。何ともゆったりした空気が流れ――どぼん!
「あれ、水音……っ!?」
「ふぁー!ティラミスさん!?」
慌てて目を逸らすマグノリアに、あわあわと耳を動かすシェリル。アダムに巻き込まれたティラミスは、目を回してガラスにびたんと張り付いていた。母なるたわわをもろりしながら。いえ、ワカメがガードしてくれたのでセーフ?
波のリズムで揺れていた釣糸が暴れ始めた。
「これは大物かも!?」
エルシーは甲板に仁王立ち、全力で竿を引っ張った。すごく重い。
「ほんのりイヤな予感がしますねー?」
焼きおにぎり片手に観戦するフィーリンの声は波音に紛れ届かないまま。エルシーの戦いは一進一退の攻防を見せ。ついに。
「獲ったわ!鮪!!……じゃない?」
きらきら輝く水飛沫と共に甲板に打ち上げられたのは、イキの良い大魚、ではなく。
「ゴホッ、良い一打ちだった……おや、前が見えないな」
「随分……えっと、お洒落なサングラスですね」
アダムの顔に巻き付く面積の少ない布。何処かで見たことがある気がする、具体的に言うとティラミスの上半身で。フィーリンは焼きおにぎりを完食した手でそっと合掌した。気付いたアダムがぶっ倒れるまで、あとほんの少し。
●
茜空を夜の帳が覆い尽くした頃。
「夜と言えば宴会、腕がなりますねぇ!」
「すごい。独特の感じがするわね」
キッチンにて包丁が唸る。エルシーが大量に釣った新鮮な魚介類が、そのエルシーによって衣を纏い、シェリルによってからりと揚げられていく。
「煮付けは煮込みすぎちゃダメですよぉー!」
屋形船イベントが常設になれば実際にキッチンに立つ者達へ、ノリにノッて矢継ぎ早に指示を出していくシェリル。
「お味噌汁、ってホッとするね……」
「昼のグルメも中々でしたが、正統派はまた楽しませてくれますねー。あ、ご飯お代わりで」
両手にお椀を抱えてほんわりした笑みを浮かべるマグノリア。ポップなイラストじみていた昼間とはまた違い、美術館の油絵を見るかのような味わいに、フィーリンの胃袋も最大限の敬意を以って挑む。ホカホカご飯にお新香をガリリと噛んだ耳に、ベベンと弦を弾く音が届く。
「夜はムーディーにいっくよー!」
「うーん、僕に表現できるだろうか」
なんちゃって演奏なカーシーの三味線が軽快に走り出し、アダムの太鼓が悩みながら後を追う。ムーディーどこいった、明らかに人選ミスですね。
「ムーディーとは違うんじゃ……」
「やはー細かい事はいーじゃんいーじゃん!楽しければ何でもありだよ!」
「そうね、私もやってみようかしら」
首を傾げつつも丸め込まれたエルシーはその辺に置いてあった楽器の弦を弾く。三味線よりは幾分か高い琴の音が、不器用に夜闇に溶けて。その、纏まりがないのに不思議と様になっている合奏が一瞬、轟音にかき消される。
「ええと、『たーまやー』でしたっけ」
「これはテンアゲ魂的に負けていられないよ!」
酢の物タコを噛み噛み、フィーリンの酸っぱい顔を人工の光が色鮮やかに化粧する。バチ裁きを増したテンアゲ野郎は夜空に吼えると、太鼓と腹筋を交互に激しく叩き始めた。やっぱりいみがわからない。
「んふふ、ロマンティック、って奴だね!」
浪漫というには些かBGMが騒がしい気もするが。衝立に囲まれたペアシートにてカノンはうっとりと夜空を、ここが華よと咲き乱れる花火を見上げる。障子に貼られた桜の切り絵が、花火に照らされて地上の華となっている。
「恋人さん達が並んで花火鑑賞……カノンもいつかセンセーと……んふふ♪」
にまにまとした笑みを浮かべる妄想アイには、隣に座る想い人の姿がくっきりと。来年の屋形船、ペアシートをリザーブしてお待ちしております。勿論、BGMはもう少しムーディーにして。
海面を鮮やかに彩る花火は、海中にまでその輝きを魅せる。
「花火に照らされる海中もまたいいですね」
普通のナイトダイビングでは味わえない景色に、ティラミスの金の瞳が楽しそうに細められる。失った装備はどうしたかって?ウッアタマガ。
(あれは事故あれは事故あれは無かった事ですから……!!)
海中を照らす火薬の赤よりもなお頬を赤く染めて悶えるティラミス。その痴態を波に揺れるワカメが優しく隠してやる。だが。
「うっ、何か無かったはずの記憶が揺さぶられるような……たわ、ワァーーーっ!!」
「あっ、アダムーー!!だから回転はダメって言っ、うっぷ」
酒入って回転はすごい酔う。真顔で口元を抑えるカーシーの目の前、フルスロットルな回転櫓の上でナニカを思い出しそうになったアダムは迷うことなくバチで頭をぶっ叩き。
(ううっ……そろそろ上がって天ぷらを食べましょう)
水面へと顔を向けたティラミスの真上、どぼん、とテンフリ(テンション振り切り)なキジンが落ちてくるまで、あと少し。
●
余韻を残して海中へと消える、最後の花の一欠けら。眼裏の残滓までじっくりと味わって、マグノリアはそっと手を翳す。
「この船で、沢山の人がいい思い出を作れますように」
黒地の袂が風に舞う。密やかに浴衣に咲く朝顔のような、控えめな笑みが顔を彩り。そして夜闇に沈む屋形船の、提灯が一斉に瞬いた。激しく、ではない、どこかホッとする輝きで。
「これは……ホタル、ですね。一日限りの東洋の神秘的な体験を貴方に、というところでしょうか」
いい売り文句かもしれません、とフィーリンは微笑む。薄花色の撫子の花弁で、透かし彫りの蝶が翅を震わせた。
「うへーわるぎはなかっらんれふーたいこドンドコしたかったら、け……」
完全に潰れた酔っ払いにさえも、ホタルは優しく灯りを分けてあげる。なお、酒を飲んだ辺りから記憶がないそうです。マッスルミュージックなにそれ。
「デートコースも一つ見付けたし……屋形船クルーズって楽しいねー♪」
「デートのお供に甘い物はどうですか?」
「わ、綺麗~!」
ホタルを見て思い付いた、とカノンに差し出されたのは抹茶と、中に小さな柑橘の入った水まんじゅう。清らかな水流に遊ぶホタルを模したのだとか。美味しそうに頬張るカノンに、これは売れる、とシェリルは脳内でソロバンをはじいた。
「とても楽しかったけど……昼夜通しで楽しむと、ちょっと疲れるかもね」
うーんと伸びをするエルシーは、だが言葉とは裏腹に満足そうな笑みを浮かべる。今晩はよく眠れそうだ。そんな気持ちの良い足元に、ザバァと水飛沫と共にナニカが転がり出る。
「ううっ……ワカメがぬるぬる……お嫁にいけない」
「夜にしては暗すぎないだろうか……前が見えない」
ナニがあったのか疲労困憊で倒れるティラミスを背に庇い、エルシーは得意の格闘技の構えを取る。
「ワカメのイブリースだなんて珍しいわね、全力で行くわ!覚悟!」
「えっ何が、待っ!?」
悲鳴を上げて落ちていったワカメのイブリース?に、エルシーはどこかで聞いたことある声のような、と首を傾げた。
己のホタル火が齎した賑わいに、マグノリアは笑みを深める。いい思い出は沢山あるに越したことは無いと思うから。
「ふふ、一緒に頑張った皆にも、いい思い出を。今日一日……本当に、お疲れ様……」
楽しそうに港に帰り行くホタルの屋形船を、月が優しく照らしていた――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『グルメ満喫』
取得者: フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『ドンドコ!太鼓野郎』
取得者: カーシー・ロマ(CL3000569)
『お魚解体ショー』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『食のおもてなし』
取得者: シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『テンアゲ!太鼓野郎』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『蛍火の灯し手』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『お嫁に行けない』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『ビギナーズラック』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
取得者: フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『ドンドコ!太鼓野郎』
取得者: カーシー・ロマ(CL3000569)
『お魚解体ショー』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『食のおもてなし』
取得者: シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『テンアゲ!太鼓野郎』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『蛍火の灯し手』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『お嫁に行けない』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『ビギナーズラック』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)
†あとがき†
ご参加有難うございました、本当に本当にお待たせいたしました。
個性的なプレイングに三度見くらいしましたが、皆様しっかりと改良を考えてくださったので、字数との戦いに涙致しました……フフフ。ひと夏の想い出
個性的なプレイングに三度見くらいしましたが、皆様しっかりと改良を考えてくださったので、字数との戦いに涙致しました……フフフ。ひと夏の想い出
FL送付済