MagiaSteam
闇に蠢く




 暗い森の中。
 闇の中に蠢く影。
「うへへへ……ひさびさのシャバだぜェ」
「しかしよぉ。ちぃーとばかしナマっちまってるなァ」
「マッタクだぜェ……。暴れてェよなぁ」
「ああ、そりゃもうイロイロとなァ」
 そこにはぐへへと卑下た笑いを見せる異様な風貌の2人と、それに付き従う数人の男達。
「久々の狩り、おマエら存分に楽しむんだぜェ」
 狩り。それは彼らにとってのパーティの始まり。
「ヒャッハーーーー!! やっちまいましょう! アニキーィッ!」
「ああ、やっちまおうかァ、ソドム」
「ああ、ヤっちまおうぜェ、ゴモラ」
「うへへ」
「ぐへへへへ」
「ヒャァァァーーーハハハッハ!!!」
 卑下た笑いを響かせながら男達は森の闇へと消える。

 そして──その日を境にこの森の近くでは若い女性や、旅商人が次々と姿を消すようになる。


「どうやらヤツラがまた動き出したようだ。……いや、動いていたが、他国などとの大きな動向の影に隠れ、演算しきれていなかったというべきか……」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は苦悶の表情を浮かべながらプラロークからの報告を皆に伝えた。
「ヤツラの次のターゲットは幼い娘を連れた旅商人だ。森の中で襲われ全てが奪われてしまう。今からなら十分に間に合う。彼らを救って欲しい」
 勿論だ。その言葉をフレデリックが聞いたときには、すでに自由騎士達は動いていた。
「このまま大人しくしているとは思っていなかったが……。一体何を考えている。ラスカルズ……」
 フレデリックは深いため息をつく。
(頼んだぞ……)

 部屋の飛び出した自由騎士達は準備も程ほどに先を急ぐ。
 目の前で消えようとしているものを、その手で繋ぎとめるために。


 静かに、ただ静かに、闇に潜み蠢いていた者達は再び動き出す。
 混沌の中にこそ、愉悦があると。
 絶望の中にこそ、快楽があると。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.ラスカルズ構成員の討伐
2.旅商人親子の無事
ご無沙汰しておりました。麺二郎です。
皆さんコロナは大丈夫でしょうか。麺は手洗いうがいマスク消毒で今のところは何とか乗り切っています。

時間が開いてしまい、いつの間にやら浦島太郎状態になってしまいました。申し訳ありません。
状況の理解を進めつつ、まずは単純な討伐依頼でリハビリさせていただければと思います。


●ロケーション

深夜、真っ暗闇の森の中。
前日に降った大雨により道はぬかるみ、霧も出ています。
道のコンディションはかなり悪く、道幅も馬車が一台通るのがやっとの狭さです。
そんな中、次の街へと馬車で森を通過しようとした旅商人が襲撃されます。

襲撃時にまず馬車の明かりが狙われるため、足場も悪く真っ暗闇の中での戦闘となります。
男達は、道前方より2人。左右から3人ずつの計8人で襲ってきます。

自由騎士達は襲撃前に旅商人の馬車に追いつきますが、自由騎士が皆で普通に馬車を守ってしまうと彼らはその気配を察知し、そのまま逃走します。
そのため男達が現れるまでは気付かれないように相応のスキルを使用して気配を殺す、もしくは一定の距離をとって、馬車を見守る必要があります。
ただし女性であれば1,2人なら警備としてついていても、大丈夫です。
(勿論それは男達にとってご馳走に他ならないからです。勿論多すぎると警戒され逃げられます)
 戦闘までに十分に時間があるため事前付与も可能です。

 また一定の時間経過、もしくは仲間が1人でも倒れると、ソドムもしくはゴモラのどちらかが旅商人の娘を攫って逃亡します。戦闘中のため、これを追いかける事が出来るのは2名までです。逃亡者は追いつくと人質を巧みに利用しますが、これを純戦で倒すか、人質交換などを申し出るかはお任せします。


●登場人物&敵

・エバンス
 旅商人32歳。街々を転々とし、各地の旬の産物を売り歩いている。剣術の経験はあるが、降りかかる火の粉を払える程度。

・ティナ
 エバンスの一人娘。10歳。ふわふわのウェーブの掛かった髪にそばかすのかわいい女の子。

・ソドム
 右腕が異様なまでに発達している大柄の醜男。27歳。ゴモラとは双子。ラスカルズ構成員。マザリモノ。凹凸が気になる。暗視は持っていませんが、異様に鋭い嗅覚で暗闇をものともしません。得意技は巨大な右腕を使ったアックスボンバー。巨体の割には素早く、ある程度の特殊耐性を持っています。

・ゴモラ
 左腕が異様なまでに発達している大柄の醜男。27歳。ソドムとは双子。ラスカルズ構成員。マザリモノ。まな板が気になる。暗視は持っていませんが、異様に鋭い嗅覚で暗闇をものともしません。得意技は巨大な左腕を使ったウエスタンラリアット。巨体の割には素早く、ある程度の物理耐性を持っています。

・他ラスカルズ一般構成員6人
 3人が暗視と痛覚遮断、もう3人が暗視とフォレストマスターを所持。全員が攻撃的ですが、特に痛覚遮断持ちは攻撃に臆す事無く狂気の表情で襲い掛かってきます。武器はナイフで遠距離攻撃の方法は持っていませんが、距離をとると森の木々に隠れるため遠距離攻撃は当たりにくくなっています。

⇒ラスカルズって何さ。
拙作に登場する悪いヤツラ位の認識で問題ありません。


皆様のご参加お待ちしております。


状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2020年06月16日

†メイン参加者 6人†




「ヒヒィィーーーンッ!!」
 真っ暗な森の細道を走る馬車。その進行は突如目前に現れた男達によって遮られた。
「な、なんですかっ! あなた達は一体何──」
「ぐへへ……何者ですか。ってか」
「俺達が何者だろうと知ったこっちゃねぇ」
「え……それは……」
 男達の持つナイフが暗闇の中でギラリと光る。周囲から商人へ向けて放たれる明らかな殺意。商人はすべてを悟る。この者達はきっと自分を殺すのであろうと。
「だってそうだろぉ。お前達はすぐにお陀仏だからよぉ……ウホッ女もいるじゃねェか……って貧相なガキかよ。ケッ!!」
 ぴく。
「何言ってんだァ。ソレがいいんじゃねぇかァ」
「ったく、てめェの趣味は理解できねェ」
 一際大柄な2人が相反する嗜好をぶつけ合うのもつかの間。
「まぁいい。とりあえずはやっちまおうぜェ」
「そうするかァ」
 二人は商人の方を向くと顔を歪めてニタァと嗤った。
「ひ、ひぃぃ……た、たすけ──」
「きゃ、きゃぁぁーーーー!!!」
 商人に同行していたリスのケモノビトのか弱い少女(?)が、待ってましたとばかりに悲鳴を上げる。──のだが勘の良い読者は見逃さなかった。襲撃者の一人が放った言葉に反応するように彼女の眉がぴくぴくとひくついていた事を。ああ、修羅場の予感。
「臭う……臭うぜェ……お宝と……未熟な果実の臭いがするぜェ」
 わざとらしく鼻を引くつかせる巨腕の男。
「さぁパーリィの始まりだァ!! お前らァ、やっちまえ!」
「アニキ!! 派手にやりましょうぜ!!」
「ヒャッハーーーーーー!!!」
 男達の1人が勢いよく商人に飛び掛ったまさにその時だった。
「グボァーーーッ!?」
 商人に飛び掛ったはずの男が突然弾き飛ばされる。
「なにぃ!?」
「誰だ──!?」
 そこには馬車を守るように颯爽と現れた自由騎士達の姿があったのだった。
 
「私達は──」


 時は少し戻る。
「やれやれ。懲りない連中だねぇ」
 内心またかと思わず声が洩れたのは『罰はその命を以って』ニコラス・モラル(CL3000453)。
「なんかさ、ほっとけないよな、こういうの」
 これまで何度と無くラスカルズと交戦した自由騎士たちは、商人エバンスの馬車が襲われる少し前に馬車へ追いつくと時間の優位性を活用し、襲撃に備えた準備を着々と進めていた。
「突然すみません。でも時は一刻を争うのです」
 そう言って馬車へと乗り込んだのは『か弱いうさぎさんですよぉ』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)。突然の来訪者に驚くエバンスを尻目に淡々と状況を伝える。
「さて、説明は終わったので次は──あの作戦ですね」
 ティラミスが次の準備を始めようとした時だった。
「その作戦面白そう。あたしも一枚噛ませてよっ」
 少し楽しげに馬車に乗り込んできたのは『譎詐百端』クイニィー・アルジェント(CL3000178)だった。ティラミスはにこりと笑うとその提案を受け入れる。
 数分後。
「じゃぁ最後の仕上げね」
「ふわぁっ!?」
 そう言うとお着替えしたエバンスの娘ティナをぎゅっと抱きしめるティラミス。
「お二人は私たちが絶対に守ります。信じてください」
 自分達の乗った馬車が襲撃される事を聞き、はじめは恐怖に震えていたティナだったが、ティラミスの温かな抱擁に少し落ち着きを取り戻したようだった。
「じゃ、あたしは外に出てるね」
 同じく準備の終わったクイニィーは馬車を降り、外を警備(警備できる技能なんてないんだけど! というのは本人談)にあたる。

「人々の生活を脅かす輩はしっかり懲らしめないといけませんね」
 馬車より少し後方。襲撃備え臨戦態勢をとるのは『カレーとパスタを繋ぐモノ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。……カレーとパスタ!? げふんげふん。取り乱しました、失礼。
 技能効果により己の存在感を極限まで希薄にしたアンジェリカはセプテントリオンで襲撃に備える。スキル効果による若干の運の低下はあるものの、準備は万端だ。……個人的には運の低下でドジっこになったアンジェリカも少し見てみたい気もする。
 そんなアンジェリカから少し離れた位置で馬車を護衛しているのは『異国のオルフェン』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)。
(ラスカルズ、まだ悪さをしているのか……外国との戦争も大切だけど、国内でこういう事件が起きてるのもほっとけない。みんなが安心して森の道を通れるように、悪いやつらを懲らしめてやる)
 普段はのんびりしたイメージのイーイーなのだが、幾度と無く繰り返されるラスカルズの悪行に耐えかねているのか、その表情には怒気が垣間見える。
 イーイーもまた暗視を駆使し、周囲の様子を注意深く探りながらその時を待っていた。
 来るべき襲撃に向けての準備はすでに整っていたのだ。


「私たちは自由騎士よ」
 エバンスに襲い掛かった男を返り討ちにし、颯爽と立ちふさがったのは『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だった。
 襲撃の合図でもあったクイニィーの悲鳴が聞こえるか聞こえないかの刹那、セフィラの効果で襲撃を感じ取ったエルシーは、後方から一気に駆け出し、前方へと走っていたのだ。
「随分久しぶりじゃない、ラスカルズ。お仕置きが必要みたいね!」
「ぐっ?! なぜ俺達がラスカルズだと知ってやがる」
「おしゃべりはあとよ」
「くそっ!! やっちまえ!!」
 そこへ他のメンバーも合流する。
「ぐわっ!?」
 不用意に馬車に近づこうとした男に巨大な十字架が振り下ろされる。
「神の御心のままに……断罪と救済の時間です」
 アンジェリカが。
「なな、なんだ!?」
 そこには怒気を纏い、闘争本能を呼び起こした金髪の少年。
「何が狩りだ!! お前らのやってることは、ただの弱いものいじめだ!」
 イーイーが。
「きゃーこわーい」←棒読み
 そしてクイニィーが。
「て、てめぇ……さっきまで悲鳴をあげて逃げ回って……」
 男の前にいるのは先ほどまで悲鳴をあげ、ただ逃げ惑うだけの少女……だったはずの存在。
「さぁ……出てきたことを後悔させてあげるよ」
 そうぽつりと呟いた少女に、相対する男は一瞬たじろぐ。なぜなら男は確かに見たのだ。先ほどまでの様子からは想像も出来ないような、冷徹な目線と口元に浮かぶほんの僅かな笑みを。

「それじゃ、ま。いつもどーり頑張りますか」
 気付けば音も無く馬車に乗込み、エバンスの守りについたニコラス。けだるげな言葉とは裏腹に、ニコラスの瞳は鋭い眼光を放つ。全てを見渡すその瞳は闇夜の中でも正確に仲間達やラスカルズの動きを把握していた。
「……(ごくり)」
 一方馬車から降りてきたティラミスを前にした男達は異質の感覚に襲われていた。
(こいつ……誘ってやがる……)
(た、タマンねぇ……)
 その容姿、仕草。明らかに他と異なる雰囲気を纏うティラミス。というかうさぎさんで網タイツでガーターベルトとか反則だと思います。反則だよぉ。
「誘ってんのかよ……いいぜ、すぐに相手してやるぜぇ!!!」
 押し倒すように襲い掛かった男のナイフは、ティラミスの柔らかい体毛に包まれた柔肌を切り刻んだ……はずだった。
「な!? 確かにヤったはず……!?」
 男の放ったナイフの軌跡はティラミスの纏った影に飲み込まれ、消えた。
「うふふ……」
 戸惑う男にティラミスは妖艶な笑みを見せる。
 自由騎士の布陣は完璧であった。


「アニキ!! これじゃラチがあきませんぜ!!」
 襲撃からいくらかの時間が経ち、焦りを見せたのは襲撃者達のほうだった。
 なぜなら男達は今回を襲撃も殆ど無抵抗ですぐに終わると高をくくっていた。ところが駆けつけた自由騎士達による思わぬ抵抗にあい、その予想とは大きくかけ離れた状況が作られたのだ。
「……クソどもがよォ」
「せっかくのパーリィが台無しじゃねぇかァ」
 苦戦する手下に苛立ちを隠さないソドムとゴモラ。
「あなた達だけ高見の見物なんてご大層じゃない?」
 そんな二人の前で構えを取るのはエルシー。握る拳に力が篭る。
 この状況にとうとうゴモラとソドムが動く。
「しょうがねぇな。コイツの相手は任せたァ」
「オレはちょいと強引にいかせてもらうぜェ」
「シぃぃねぇぇぇえええええええ!!!!」
 その巨腕。どす黒く純粋な暴力の塊がエルシーに振り下ろされた。

「グエヘヘヘ、こいつは頂いてくぜェ」
 自由騎士達の一瞬の隙を突き、馬車の中へと進入したゴモラ。
(ん? 匂いが混じってやがる……)
 隠れていた少女を乱暴に抱えあげ、ゴモラは一気に馬車から飛び出す。
「すまん!! 娘ちゃんが奪われた!!」
 ゴモラを何とか阻止しようとしたニコラスだったが、巨腕から繰り出される攻撃と仲間の回復との両立は敵わず、その一撃を食らい娘を攫われてしまう。
「待ちなさい!!」
「グワハハ!! 待てといわれて待つヤツはいねェ!!」
 その場を離脱するゴモラとそれを追いかけようとするエルシー。
「頼んだぜ!!」
 そう言うとニコラスがエルシーに小さな合図をする。それを確認するとエルシーは大きく頷きゴモラを追っていったのだった。
「痛てて……まったく、おじさんは回復専門なのに……死ぬかと思ったぜ」
 ニコラスはゴモラの一撃に悶絶しながらも、仲間の回復を継続する。
「ま、待ってくれ、ゴモラのアニキっ!!」
「あっしもいきますぜ!!」
 逃走を図るゴモラを追随しようとする男が二人。 
「待て!!」
 それを止めるはイーイー。炎のごとく波状に仕上げられた剣を握り、男達の行く手を遮る。
「うぉぉぉおおおーーー!!!」
 その容姿からは想像も出来きないような雄雄しき咆哮は、男達の本能に小さな感情を芽生えさせる。その感情とは紛れも無い怯え。恐怖。
「逃がさない。追いかけさせない。おれが立ってる限りは!」
 イーイーは強い決意と信念を背負い、男達の前に立ちはだかる。
「まだ贖罪と解放は終わっていませんよ」
 にこりと笑顔を見せながらアンジェリカもまた大剣を振り上げる。
「吹き荒れる金色の輪舞曲(ストームレイン)!!」
 アンジェリカの祈りと共に両手に備えた武具から繰り出された衝撃波は深いダメージと共に男達を混濁させる。
「回復は任せろっ!」
 ニコラスがすかさずヒポクラテスで皆を回復援助する。その癒しは味方全員を優しく包み、体力回復のみならず斬撃による流血をも癒す。
「知ってますか? うさぎって……すっっごいんですよ」
 何故か上気した表情でそういうティラミスに思わず反応してしまう男。
「な、何が──ギャッ!!」
 男が突然悶絶してその場に倒れこむ。
「何がって……決まってるじゃないですか。きゃ・く・りょ・く♪」
 ティラミスの容赦の無い蹴りは男の急所にクリーンヒット。え? 痛覚遮断? いや、そんなものじゃこの痛みは無理だと思う。たぶん。よしんば物理的に痛くなくても精神的に無理。きっと。
「うわ、痛そー!」
 それを見ていたクイニィー。
「それじゃあたしからもプレゼントだよっ。はいっ!」
 そういってクイニィーがソドムに投げたのは小さな白いどんぐり。
「グハハ、なんだこれは? お前(リス)みたいにどんぐりでも食べてろってか? 笑わせやがる」
 あざけ笑うようにソドムがどんぐりを飲み込もうとしたその刹那。確かにクイニィーは……笑った。
「グ、グワァァアアア!!!! なんじゃこりゃぁぁあああ!!! がぁぁああああ!!!!」
 小さなどんぐりがソドムの口の中に嵐を巻き起こす。
 それは瞬時に神経に作用する。貪欲な栗鼠の放つ、小さな小さな猛毒の爆薬。
 のどをかきむしりながらのた打ち回るソドム。
「知らない人からもらったものを食べちゃダメって教わらなかった? お・ば・か・さ・ん」
「さぁ悔い改めるのです」
 軽快なタンゴのリズムが響く。アンジェリカの大きくスリットの入った修道服が激しく宙を舞う。そこには聖女のイメージとはかけ離れた独特の色香が漂う。
 そしてそれに魅入るように次々と足を止めていく男たち。
 勝負の行方はすでに見え始めていた。


「逃げられないわよ!」
 真っ暗闇で足場も悪い森の中の移動には絶対の自信を持っていたゴモラだったのだが。
「……うっとおしいヤツだ」
 ふいに暴れだした少女を抱えながら、影狼を駆使し距離をつめてくるエルシーを引き離すことは出来ないと判断したのか、馬車からさほど離れる事も無くゴモラの足が止まる。
「観念したのね。その子を離しなさい!! さもないと……」
 エルシーが拳にありったけの力を込め始める。そこに込められるのは友情、努力、勝利、そして……彼氏持ちへの若干の羨望。
「この阿呆が! お前にはこの人質が見えねえのか!!」
 構わず力を込め続けるエルシー。
「そんな攻撃を俺にしてみろ! こいつもタダじゃ済まねぇぞ!! ただじゃ……あァ!?」
 その時、抱えていた少女の首がぽとりと落ちて……爆ぜた。
「なんじゃコラァァァァーーーーー!!!!」
 爆ぜた頭部の煙に撒かれながらゴモラが叫ぶ。
「まんまとひっかっかたわね……食らいなさい! 渾身の!!!」
「緋色の衝撃(すかーれっといんぱくと)ぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉっ!!!」
「グギャァァアアァァーーーーッ!!!」

 ゴモラが攫ったもの。それは商人の娘ティナではなかった。精密に模倣された頭部とそれ以外の合体ホムンクルス。それこそ襲撃前にティラミスとクイニィーがとった作戦だったのだ。
 ティナを着替えさせたもの、ティラミスがぎゅっと抱きしめたのも、ニコラスがほぼ無抵抗で娘を攫わせたのも、全てはこの作戦のため。
「人間の頭っていうか顔ってかなり複雑だから錬成するのも大変……でもやるからには完璧目指さなきゃね。腕がなるぅ♪」
 ティナとホムンクルスの体型差を埋めるために頭部を担当するクイニィーもまたその精度を上げるべく集中していた。更にはティナに幻影を投射し、荷物に紛れ込ませる徹底した略奪防御策。
 こうしてゴモラの敏感な嗅覚をも狂わせることに成功したのであった。

「グフ……クソがぁ!!! ふざけやがって!!!!」
 自慢の嗅覚を逆手に取られたゴモラにもう冷静さは無かった。ただ怒りに任せてその豪腕を振り回す。
 我を忘れテレフォンパンチに成り下がった豪腕を華麗に避けながら、エルシーがゴモラの鳩尾に叩き込んだのは獅子吼。強力な重力がゴモラを襲う。
「ふざけるな!! フザけるなあああああ!! このオレ様がぁあああ!!!!」
 エルシーをすさまじい憎悪の瞳で睨みつけながらゴモラが絶叫する。
「終わりよ!!」
 エルシーが舞う。その優雅な演舞はゴモラが力尽きるまで続いたのだった。

 暫くの後。そこには精根尽き倒れこむゴモラと全身で荒い呼吸をするのエルシー。勝負はついていた。
(……危なかったわ。もしあのまま逃げ続けられていたら……もし相手が冷静さを失わなかったら……)
 どちらに転ぶかわからない危険な賭け。ぎりぎりの戦い。
 だがエルシーの勝利への渇望は、確かにそれを制し、そして勝利を引き寄せたのであった。
「「「オオォォーーー!!!」」」
 森の道の方から仲間の声がした。あちらも上手くいったようだ。エルシーは安どの表情を浮かべ、仲間の元へ戻る。
 こうしてこの襲撃事件は自由騎士達の活躍により、人的被害を一切出さずに幕を下ろしたのであった。


 アンジェリカの用意した食事で皆がおなかと心を満たし、馬車を見送ったあとの森の中。
「ねぇ、ドミニクって知ってるわよね? どんな奴か教えてくれない? カマーってやつの事でもいいわよ」
 捕まえた男達から情報を聞き出そうとするエルシー。表情は柔らかいが、硬く握られた拳の無言の圧力はかなりのものだ。
「俺達下っ端はたいした情報なんてねぇよ。ただ……」
「ただ? ただ何だ? まだ何かしようとしてるのか!」
 普段は温厚なイーイーだが珍しく声を荒げて問い詰める。
 国の外に行ってる自由騎士団の仲間たち。彼らが心配しなくていいように、国に残ったおれ達が国内を守るんだ──。
 そんな気持ちがイーイーを突き動かしている。
「ただ……近々大きな動きがあるかもしれないから皆準備をしておけと」
(大きく……ラスカルズ……また何か企んでいるのね)
 その場を離れようとするエルシーを見て、男達が安どの表情を見せたその時だった。
「これで終わりなんて思っちゃいないよなぁ……?」
「これで終わりなんて思っちゃいないよねぇ……?」
 ラスカルズの前に現れたのはニコラスとクイニィー。
 穏やかな笑顔を浮かべる二人に底知れぬ恐怖を感じる男達。
「ま、待て俺達は知ってることは全部話した」
「そ、そうだ。ほかには何もしらねぇ」
「ふうん。何も知らない……か。痛覚遮断持ってるなら逆にいえば何でもありよな」
「色々試したい薬とか機械とかあるんだよね~♪」
 ご機嫌そうにクイニィーが1人の男に近づくと耳元でそっと囁いた。


 ── 貧 相 っ て 誰 の こ と …… カ ナ ?
 

 男の表情が凍りつき、全身がガクガクと震えだす。
「え……お、ま……ちょっと待っ──」

「さぁて、楽しいお仕置きタイムといきますか」
「お仕置きターーイム!」

「助けてくれぇぇぇええええぇぇぇええ!!!!!!」

 その後ラスカルズの助けを求める声はしばしの間森中に響き続けたのであった。
 めでたしめでたし。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『修道超人スリットマン』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)

†あとがき†

お待たせして申し訳ありません。
久々のリプレイ、楽しく作業させていただきました。

MVPは麺が全く想定していなかった作戦を思いついた貴女へ。
お見事でした。
FL送付済