MagiaSteam
堕ちた竜女




「ほら、いるじゃん? ウチに。殺しも略奪もしない。自由騎士とも仲良しこよしっていう異質(イレギュラー)な存在が。そろそろやっちゃおーと思うんだけど」
「本気でいってるのか。アイツはオレの──」
「それが何? これでも……キミ達兄弟の功績もあるから、我慢してきたんだけどな~。でももう限界。これ以上今みたいな自由な振る舞い、許しておけないよ~。」
「だが……同じ組織の人間だぞ」
「だからこそだよ。ほら僕達もっとみんなで協力しなきゃ! それにはさ……足並みを乱すヤツはちょっと邪魔だよね」
「だからって──」
「それとも……キミ達兄弟は組織よりも血の繋がりを重視する……とでも? いいんだよ、別にボクは。キミ達全員が相手でもね」
 ずいと顔を寄せてまっすぐに見つめてくる青年に、男は何も言い返せない。そこにあるのは、ただ圧倒的な力の差。
「ぐっ……」
「じゃっ異論は無いよね? 大丈夫。この件はボクがぜーんぶ片付けるから」
 何も言い返せず顔をそむける男。
「それとも……やってみる? 兄妹で……こ・ろ・し・あ・い」
「……」
「んー? どうしたのそんな青ざめた顔しちゃって。……ってうそうそジョーダン。あははっ!!」
 楽しそうに話す青年に、男は何も言い返すことは無い。
「じゃ、そーゆーことでっ」
 ばいばーいと手を振りながら去っていく青年を見て、男が感じたのは心からの安堵。
「……すまん……オレにはどうする事も……」

 計画はすぐに実行される。
 その日の夜、コルレオンの全メンバーは忽然と姿を消す。
 そして次の日も、また次の日も、コルレオンのメンバーが姿を現すことは無かった。


「……ぃゃっ……ぐっ……ぁぁっ」
 光も声も届かぬ地下の地下。湿った空気と血の匂いで充満したその部屋。
 そこには無残な姿で横たわる女達と、醜悪な笑みを見せながら追い討ちをかけるように彼女達を嬲る男達の姿。
「うっ……」
 意識を取り戻した一人の少女がうめき声を上げる。愛らしかったであろう顔は腫れ上がり、口元からは血が滲む。全身の数え切れないほどの痣や裂傷が、それまでの過ぎた時間での凄惨な事態を物語る。
 だが並の人間であれば気がふれてもおかしくないほどの責め苦を受けながらも、その少女の瞳の輝きは失われてはいなかった。

 ──数日前。
 ラスカルズ内の女性だけで構成された組織、コルレオンは突然の襲撃を受けた。
 女性ばかりとはいえ腕に覚えのあるコルレオンのメンバーだったのだが、気を許した仲間からの思いもよらぬ襲撃に、完全に虚をつかれてしまう。
 さらに悪い事にこの襲撃を先導していたのは大幹部の右腕とも言える男。リーダーのジョアンナですら対応しきれず、ついには全員が捕縛されるという自体に陥る。
 捕縛された彼女達はすぐにこの地下室へと監禁。苛烈な拷問によって身体と精神の両方を追い込まれていく。そして──心折れた者からどこかへと運ばれていった。どこへ運ばれたのかは誰にもわからない。日々減っていく仲間達。絶望と恐怖に蝕まれていく心と身体。
 この時点で30人ほどいたメンバーも、すでに数名ほどにまで減っていた。

「……おい……アン! 生きてるか……」
 返事は無い。少女は痛み霞む目を僅かに開いて周囲を探るが、ぼやけた視界にアンの姿は映らない。確かにすぐ側にいるはずなのに。少し前までは声も──少女は唇を強く噛みしめる。
「アン……。うっ……オマエ達……ジョー達にこんなことし……て……ただで済むとおもってんの……かっ」
「あら……あらららら……うふふふふ♪」
 男の一人がさもおかしげに笑い出す。それに同調するように周りの男達もぐへへと醜悪な笑顔を晒す。
「ただで済むと……ねぇ、ただで済むと、ですって♪」
 オネェ調の言葉で話す体躯の良い男は少女の顎を乱暴に掴むと、顔を寄せながら言い放つ。
「ばぁーーーーか。ただで済むと思ってっから今こうなってんじゃねぇかよぉ!! うひゃひゃぎゃはははは!!!」
(くそっ……うぅ……)
 ジョアンナは何か言い返そうとするが、すでにそんな気力すら残ってはいなかった。
「あららら、やだぁん。乱暴な言葉使いになっちゃったわぁ。だいたい、アンタたちが悪いのよ。そう、ぜーんぶアナタたちのせい」
(アン……みんな……ごめん……)
 少女の瞳から必死に零すまいと耐えてきた涙が一粒流れ落ちる。

 それから1日と9時間34分後。コルレオンは消滅した。


「アタシらにとっちゃただの仲間割れでしかない。しかも敵さんの話。本来ならば敵の戦力が減るのは喜ばしいこと何だが……」
 確かに敵同士の潰しあいなら此方にとってはメリットしかない。だが『演算士』テンカイ・P・ホーンテン(nCL3000048)の表情ははっきりしない。
「今回狙われるのはコルレオン。ラスカルズ内部の女性のみの組織だ」
「そういえば……コルレオンのリーダーとは何度か顔を合わせているな」
 彼女達と面識がある自由騎士もいる。
「そう。彼女はラスカルズという組織にいながら、我々との繋がりもある稀有な存在だ。だが今回その自由な振る舞いが災いを呼び込んでしまう」
「確かに上のものとしては面白くない存在……か」
「まだ良くは見えてない。演算しきれてはいない。……だが彼女達を助けることは必ずアタシたちにとって大きな意味がある。アタシを信じてくれ。そして彼女を、彼女達を助けてくれ。まだ……間に合う!」

 この行動が今後どういう事態を引き起こすのか──この時の自由騎士達にはまだ分かるはずもなかった。

 


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
麺二郎
■成功条件
1.生存しているコルレオンメンバーの救出
麺です。フラグ回収と参りましょう。

 何度か自由騎士達にもちょっかいを掛けてきたジョアンナ率いるコルレオンメンバーが仲間の裏切りにより、絶望の淵へと追いやられています。
 これを救出し、この未来を変えてください。
 見事助ける事が出来れば、内部の者のみが知り得る貴重な情報が手に入る可能性があります。

●ロケーション

 とある鉱山の奥深くに作られた大きめの部屋。そこにコルレオンのメンバーがいます。
 自由騎士達はその部屋を一気に強襲。部屋には罠や仕掛けはありません。
 女性達は扉を開けて正面の壁沿いに。男達はその前にいます。
 急ぎ駆けつけるため、事前付与等は出来ません。
 成功条件は彼女達を無事救出すること。男達の討伐の成否は問われません。

●登場人物&敵

・カマー・ホリマス
 年齢、職業、経歴など一切不明。美しい青年を何よりも愛す、髭剃りあとの青々しい半端無く強いオネェ言葉のマッチョ。ただし高揚しているときは男言葉に戻る事もある。女に対しては非常に冷徹。格闘スタイルランク2までのスキルを複数所持しているため格闘スタイルを思われる。専用と思しき宝石の鏤められたナックルにはノックバック効果が付与されています。その鈍重そうな見た目とは裏腹に俊敏性も持ち合わせており、自由騎士トップレベルの回避、速度域でも侮れません。口癖は「あらららら」【行動不能無効】【精神系耐性】を持っています。

 キッス♡タイフーン 攻近単 技と呼ぶ事も憚られるようなカマーの求愛行動の一つ。捕まえた者に回避不能なキスの嵐を降らせる。精神的ダメージにより対象のMPを0にします(男性キャラ限定)【ダメージ0】

 女嫌い 自P 相手が女性の場合ステータスが25%アップします。

 大絶叫 攻遠範 一般人であれば鼓膜が破れるほどの大絶叫。【ショック】【移動不能】 
 
 カマーはピンチになれば必ずコルレオンメンバーを人質に使います。ただし2人以上で対応していれば防ぐ事が出来ます。
 
・サディスト戦闘員(ムチ使い)
 
 痩せ型高身長の覆面を被った男。速度特化。中遠距離からムチで攻撃してきます。ハンマー使いと連携してきます。【精神系耐性】【行動不能耐性】を持っています。
 攻撃に【スクラッチ2】【パラライズ1】の効果があります。

・サディスト戦闘員(ハンマー使い)

 デブで低身長の覆面を被った男。攻撃特化。なりふり構わず突進してきてハンマーを振り回します。ムチ使いと連携します。【精神系耐性】【行動不能耐性】を持っています。
 攻撃に【グラビティ1】【ウィーク1】の効果があります。 

・サディスト戦闘員(大蝋燭使い) 

 カマーに負けず劣らぬのゴリマッチョで覆面を被った男。体力特化。とにかく相手を捕獲し、高温の溶けた蝋を全身に浴びせる。当然自らにも掛かるが、それは逆に男を悦に誘い、微妙に体力を回復させる。らしい。無限とも思しき体力の持ち主。【行動不能耐性】【痛覚遮断】を持っています。攻撃に【アンコントロール1】【不安】の効果があります。

・ジョアンナ・R・ロベルトドーン

 コルレオンのリーダー。自称竜の生まれ変わりのマザリモノ。度重なる拷問によって極限まで体力を削られています。そのままでは立ち上がり歩く事すらままなりません。
 
・アン

 ジョアンナの側近兼教育係。非常に毒舌。部屋のいるはずだがその生死は不明。

・コルレオンメンバー 3名

 ジョアンナ、アンと共に拷問に耐え抜いた数少ないメンバー。こちらも現在の生死は不明。不用意な全体攻撃を行うと彼女達が盾にされる可能性があります。


●サポート参加について

 サポート参加者がいた場合は、戦闘時の女性メンバーの救出などが行われ、メインメンバーがより戦闘に集中する事が出来ます。


●同行NPC

 ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
 特に指示が無ければ回復サポートを行います。
 所持スキルはステータスシートをご参照ください。

 皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
5モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
6/6
公開日
2020年08月24日

†メイン参加者 6人†




「あら……どこかで見た顔ねぇん。でも……そろそろ来ると思ってたわ」
 勢いよく開け放たれた扉から入ってきた面々を見て、男はさらりとそう言った。その言葉や態度には余裕すら感じさせる。
「さて……守る事で精一杯だったあの頃から、どれだけ立ち向かえるようになったのか。試させて頂きますよ!」 
 決意も新たに目の前の敵を見据えるのは『全自動麺茹で機通販準備中の』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。その眼前にはかつて苦汁を舐めさせられた敵。武具を握る手にも自然と力が篭る。
「我が名は騎士アダム・クランプトン! 全てを救い守る為に馳せ参じた!」
 アンジェリカの横に並ぶは『白騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)。アダムもまたアンジェリカに同じくカマーとは少なからぬ縁を持つ。
「さあ来い、さあ見よ! カマー! 貴殿らの敵は此処にいる!」
 高らかと名乗りを上げ、剣を掲げるアダム。
「相変わらずいい声……可愛いわねぇ。うずうずしちゃう」
 男は何かを思い出したかのように身を捻らせる。
「貴方とお会いするのもこれで2度目……もはや運命とも感じてしまう。ならば……僕を見てくれ、僕だけを。その目線他の誰にも奪わせはしない」
 この言葉に即座に反応するように少し離れた場所から悲鳴が漏れたような気がしたが気のせいだろう。
「フンっ。ワタシの気を引こうったってムダよ」
 言葉とは裏腹に 嘗め回すようにアダムを見つめるカマー。
「僕は貴方のすべてを受け止めてみせる」
「……本気なの? じゃあ──」
 カマーがアダムへと歩を進めようとしたまさにその時。
「──だが」
「……だが?」
「だが反抗する者を屈服させる方が貴方を好みのはずだ。さあ来るなら来い、僕はそう簡単に膝を折らないぞ」
 受け入れ態勢から一転し剣を構え、臨戦態勢のアダム。
「ふぅん。いいわ。遊んであげる。そっちの女も一緒でいいわ。ふたり纏めてかかってらっ──」
 
『我、このひととき魔人とならん──』

 カマーが二人を挑発する数秒。この数秒がアンジェリカにもたらしたもの、それは自身の潜在能力を極限まで活性化する命脈の流れ。
「はぁぁぁああああああ!!!!」
 初手にアンジェリカが放つは自身必殺の六連撃。神速の重撃がカマーに炸裂する。
 ドゴオォォォォォォン!!!
(やった……!?)
「い……ったぁぁぁぁぁあああああい!!!! 痛いじゃないの!! (……なんなのこの女! 前にあった時はこんな……はっ!?)」
 突如飛んできた魔力の矢を寸前で避けるカマー。
「おおっと残念。当たるかと思ったんだけどなぁ。まぁ回復は任せてくれよ」
 カマーは矢が飛んできた方向を睨みつける。と、そこには『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)がいつも通りのしたり顔でにやりと笑う。
「なんなのよもうっ!! アナタたち許さないわよっ!!」
 こうしてカマーとアンジェリカ、アダム。そしてニコラスの戦いの火蓋は切って落とされた。


(落ち着け、私。闘志は燃やしても、頭は常に冷静に……)
『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は自分に言い聞かせる。目の前には3人の覆面の男達。その誰もが際物でありながら強烈な強者の香りを漂わせる。
「ぐ、ぐへ……こ、こいつらも、ゴ、ゴーモンして、い、いいんだよな」
「ブフフフ……後悔させてやるぞお」
「……まずは服を剥ぎ取って……キョーイクしてやるぅ……スパルタだぁぁぁあああ」
 それぞれが聞くに堪えない言葉を吐き続ける男達の後ろで、かすかに感じるのは今にも途絶えてしまいそうな息遣い。
「趣味悪いわね、この変態ども!」
(落ち着くのエルシー。そう、落ち着くの。……でも……こんなの……冷静になんて無理!!)
 エルシーの脳裏に浮かぶのは誰よりも家族を大切にした老紳士の姿。彼の残した言葉。その最後。
(もうあんな悲しい人たちを、お前達の犠牲者を増やさせない!)
「こいつらは任せて! みんなはカマーと救出をお願い!」
 初手から全力。エルシーが駆け出そうとしたその時。
「エルシー殿、手伝いますぞ」
「ジローさん!?」
 荒ぶるエルシーの横には、拳をバキバキと鳴らし首を回すジロー。
「さぁて。お前達のような下衆野郎、これ以上野放しにしてはおけないわよねぇ」
 少し冷静さを取り戻したエルシーは改めて闘志を漲らせる。
「げ、下衆だってよ」
「ブフフフ……いきがってやがる」
「キョーイク……!! キョーイク……!!」
 対峙するサディスト達とエルシー、ジローの後ろにはセアラ・ラングフォード(CL3000634)が控える。
「エルシー様、ジロー様、回復は任せてくださいねっ」
 その言葉ににこりと笑顔を見せるエルシー。
(このただならぬ雰囲気……楽に勝たせてくれる相手じゃないわね……)
「ジローさん!」
「承知!!」
 掛け声と共に、エルシーとジロー、そしてセアラの戦いが始まる。


(……ったく、ジョアンナのヤツもドジ踏んだなぁ。でも、ほっとくのも気分悪いし、とっとと助けてやろっと)
『伝承者』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)はと穆王八駿で一気に部屋の奥まで駆け抜けると監禁されているコルレオンメンバーの安否確認に全力を注いでいた。
 唯一まだ抵抗の意思を見せていたジョアンナ。その場所の特定は明かりに乏しい部屋の中でも容易であった。
「ジョアンナ、助けに来たよ」
「え? おま……えたち……」
 焦点の合わない瞳を声の方に向けるジョアンナ。
「な……なんで……」
「そんなの今はどーでもいいじゃん」
 軽口を叩きながらも、カーミラはジョアンナを気にかけていたようだ。状況はどうであれジョアンナの生存を確認できた事で、カーミラには安堵の表情が浮かぶ。
(ジョアンナは大丈夫。なら……まずはアンの安否確認だね!)
 敵の位置、部屋の形。演算されたジョアンナの言葉。様々なものから得た情報を重ね、カーミラはすぐにアンの元へとたどり着く。
 ぐったりと横たわるアンに声を掛けるが返事は無い。
(まさか……)
 カーミラはアンの胸元に耳をあて願う。絶対に間に合ってるハズ、と。
(──────とくん)
 鼓動が聞こえた。アンは生きている!
「ジョアンナ!! アンなら大丈夫! アンは生きてるよ!」
 思わず声を上げ、ジョアンナに伝えるカーミラ。
「そ……っか……よか……った」
 短い言葉の中にも、アンが生きていたことへの喜びが伝わる。ジョアンナにとってアンはやはりそれだけの存在なのだ。
「カーミラ様、右前方から微かな感情が感じられます」
 回復手としての役割を担いつつも、部屋の中で感情探索を続けていたセアラがカーミラに声を掛ける。
「あと向こうだっ。おじさんの直感がそういってる」
「ありがとっ!」
(アンは生きてた。でも……もし他のメンバーに何かあったとしたら……)
 最悪の状況は覚悟しなければならない。カーミラも勿論それは理解している。
「……私はジョアンナには全てを伝えるよ」
 あえて口に出したその言葉。それはカーミラの覚悟の表れでもあった。


「回復しますっ!!」
 セアラの術式がエルシー達を癒す。
「助かるわっ」
「かたじけないっ」
(それにしても……これほど隙のない連携を繰り出してくるなんて──)
 ヒットアンドアウェイ。攻撃を避けてからの反撃を得意とするエルシー。
 そのエルシーをしてもハンマー使いとムチ使いの連携を崩すのは容易ではない。ハンマー使いの挙動が大きい攻撃の合間を縫って繰り出される鞭。さらにはその攻撃がもたらす状態異常が曲者だった。
 距離をとり踊らんとすればすかさず鞭が撓り、かといって近づいてもその見た目からは想像できないような流れるような連携によって、回避行動を織り交ぜざるを得ず、攻撃が単発に終わる状況が続いていた。
(何とかこの連携を崩さないと……いくら柳凪で軽減して回復してもらってもこのままじゃ……)
 攻撃を避けながらチャンスを待つエルシー。セアラも懸命に治癒を行い続けているものの魔力消耗の激しさは否めない。
「(こちらは回復し続けているのに……このままでは回復しきれなくなって……)」
 セアラにはコルレオンとの面識は無い。当然ジョアンナとも。言わば敵でしかない相手。それでも救出に名乗りを上げたのは同じ女性が痛めつけられるのを、放ってはおけなかったから。苦しむ女性を救いたい。ただその一心でセアラは癒し続けていた。
「ぬぬぬぬ……ぬおぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」
 一方のジローは大蝋燭使いと真っ向力勝負。もろ手を組んでの力比べが続いていた。
「少し危険だけど……やるしかないわね」
 一旦距離を取り、一息つくとエルシーはセアラに伝える。  
「セアラさん少しの間だけ回復せずにアイツらを攻撃してもらえる?」
「え? は、はいっ!」
 セアラは回復をやめ、その行動を攻撃へと転化する。
「ぐ、ぐへ……こ、攻撃が増えたって、お、俺達のグレェトな連携を、く、崩せるとでも?」
「ブフフフ……きっとヤケになったんだゼェ」
 セアラによる回復が無くなり、さらに削れていくエルシーの体力。
「エルシー様、このままではっ」
「いいのっ! 続けてっ」
「で、でもっ」
(まだ……まだよ)
 鞭に打たれた箇所は血がにじみ、ハンマーの打撃はエルシーの動きを鈍らせる。嬲られ弱っていくその姿はサディストたちを一層高揚させていく。
「ぐへ……も、もうすぐ終わる、お、終わるぞぉ」
「ブフフ……ブフフ……ハァ……ハァ……」
「お前達なんかに私は絶対に屈しない!」
「エルシー様っ!!」
「うぉぉぉーーー!!(今よ! 荒ぶる狂気よ! 私に力を!)」
 エルシーが発動したのはバーサーク。自らの体力を極限まで減らすことを条件に発動する、言わば諸刃の刃。エルシーはその一撃に全てを掛けたのだ。
「喰らいなさい! 緋色の衝撃(すかーれっといんぱくと)ぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
「おぎゃぁぁぁぁあああああああああ!!!」
 壮絶な悲鳴と共に、ハンマー使いが事切れる。
「はぁ……はぁ……さすがに……きつい……わね」
 満身創痍のエルシーはよろめき、片膝をつく。
「ブ、ブフッ。今がチャンスっ」
「みんな、お待たせ!」
 そこへ、コルレオンメンバーの安否確認を終えたカーミラが合流する。途中合流した自由騎士達により、コルレオンメンバーの救出が思いのほか早く終わったのだ。
「お前の相手は、私だあああああ!!!」
 カーミラが合流してきた勢いそのままのとび蹴りで鞭使いに一気に迫る。
「うわぁぁぁあ!!!」
 鞭使いが死に物狂いで振るった鞭がカーミラの全身に叩きつけられる。
「や、やった──」
「この痛み、そっくりそのままお返しするよっ!!!」
 カーミラの放った羅刹破神は、カーミラの受けたダメージをそのまま鞭使いにも弾き返す。
「ぐぎゃあぁぁあああ」
 転がりまわる鞭使い。鞭を打つことはあっても打たれた事など皆無。その痛みを始めてその身で実感しているのだ。
「これで終わりじゃないぞ」
「ひっ。ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 そして。鞭使いが事切れたのは、カーミラが3度の絶拳を叩き込んだと同時だった。
「はぁ……はぁ……なんとか……勝ったわ」
「エルシー様、すぐに回復をっ」
 セアラが残る魔力を注ぎ込み、エルシーを治癒する。
「あとは……アレだね」
 カーミラの目線の先には未だ力比べの最中のジローと大蝋燭使いの姿。
 大蝋燭使いが地に伏すのはこの数分後の事であった。


 カマーは驚愕していた。自由騎士達のその成長のスピードに。
 前に出会った時は美味しいカモとしか見ていなかった相手。それが今はどうだ。二人がかりとはいえ自身と渡り合える相手として眼前にいる。
「んふふふふ。ちょっとはマシになったみたいねぇ」
 この戦いにおいてカマーは2つの大きな過ちを犯す。
 1つはアダムの誘いに乗り自らの行動に制約をつけた事。アダムの攻撃は今のカマーとの速度差を考えればやすやすと当たるものではない。カマーにとってそこは変わらない。だが、アダムの鉄壁ともいえる強固な防御力はカマーの攻撃を完全とは言わないまでも凌いでいた。さらには多少体力を削ろうとも後ろには、飄々と役割をこなす回復役が常にアダムの体力を見張っている。
 加えてもう一人常にカマーを狙う者がいる。アンジェリカだ。
「ハァアアアッ!!!!!」
 アンジェリカの振り下ろす十字架と剣が空を切る。
「(さすがにあれを何度も喰らうのは……いただけないわねぇ)」
 初手で受けたアンジェリカの必殺。この威力のイメージがカマーを縛る。そういう意味では攻撃自体は不発に終わったものの、アンジェリカの先制の一撃は大きな意味を持っていた。強化されたアンジェリカの身体能力は、カマーの速度域を完全には捕らえ切れないまでも食らいつくには十分であった。
「(女のくせに……このワタシにここまで食らいついてくるなんて……)」
 カマーの能力『女嫌い』。女性を相手にしたときにのみ身体能力が上がるこの能力も、アダムとアンジェリカの二人を同時に相手にしている今は効果を十二分に発揮していない。
 両腕を盾と化し、突進してくるアダムをひらりと避けると、カマーはアンジェリカへとその攻撃を集中させていく。
「まずは二人を一人にしてあげる。アナタは最後にねっとり、どっぷり、たぁ~~~っぷり遊んであげる」
「そうはさせない!!」
 アダムが突進しようとした刹那。
「ア”ア”ァァア”ア”ア”ア”アアアアアァァァァァァアアアアアア!!!!!!!!」
 大きく息を吸い込みカマーが放つは力任せの大絶叫。
 空気を震わせ大地が揺れるほどのその音量はアダムの行動を阻害する。
「ぐっ!? う、動け──」
「ふふ、動けないでしょう? ……じゃ、そっちの生意気な女から始末してあげるわ」
「(くっ……自己強化も効果が……掛けなおしてる余裕はなさそうですね)」
 アンジェリカは覚悟を決め、武器を握りなおす。
「私は……あの時の私を越える!」
 カマーとアンジェリカの勝負は、苛烈を極める。が、『女嫌い』を100%発揮したカマーの前に徐々にアンジェリカは追い詰められていく。
「んふふふ……ワタシはね、容赦しないわよ。アンナみたいな生意気なヤツにはねぇ」
 善戦しながらも防戦が続くアンジェリカ。その衣服は徐々にちぎれ飛び、その肌には血が滲む。
「あぁら。いい格好ねぇ。それで男でも誘ってるのか・し・ら?」
「くっ……」
「じゃぁそろそろ終わらせてあげる」
 カマーが力をこめた手刀を振り下ろしたその瞬間だった。
 シュッ。
「……?」
 たらり。カマーの頬を血が滴る。何が起きたかわからずカマーが頬に手をやるとその手には血。
「あっちゃー。当たっちまった」
 大げさにポーズをとるのはニコラス。
「こ、こ、こ……このクソがぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!! 俺様の顔を傷つけやがってぇぇぇ!!!」
「おいおい、そんな怒るなよ」
 ニコラスの飄々とした態度はカマーの怒りに更なる油を注ぐ。
「ブッ殺してやる!!!」
 猛烈な勢いでニコラスに襲い掛かるカマー。
「(やっべぇ。こりゃ死んだか)」
 ニコラスが覚悟を決めたその瞬間、声がした。
「貴方を受け止めるのは、僕だぁああああ!!!!」
 ニコラスとカマーの間に割って入ったのは束縛から解放されたアダム。
「ゴルァァアアア!!!! ジャァァァマァァァ!!!」
「(確かに僕の攻撃では貴方の速度を捕らえきれない。だがこの技なら!!)」
 ドオオオォォォォォォン。
 激しい激突音と砂煙が辺りを包む。
「ぐ……」
 カマーの怒りに任せた一撃を真正面から受けたアダムが膝から崩れる。
 その目の前には──自身の全力をそのまま弾き返され呆然と立ち尽くすカマーの姿。
「……グフッ。アナタそんな隠し玉を持ってたの……ねぇ」
 アダムが放った技は渾身のカウンター。自身も大きなダメージを受けるがそのダメージをそのまま相手にも返す。
「……お!? おじさん死んでない!?」
「さぁ、懺悔の時間です」
 そしてアンジェリカ。ボロボロながらもその瞳は強い輝きを放つ。
「ちょ……ア、アンタたち。ワタシはこんなにボロボロなのよ。しかも3人がかりなんて……それはよくないんじゃないの」
「問答無用!」
「これで最後だ!」
「じゃぁおじさんもっ」

「んぎゃあああーーーーーーーっ!!!」

 カマーの二つ目の過ち。それは相手していたのを攻撃していた2人だけ、と決め付けていた事だった。


 途中合流した自由騎士達のサポートもあり、コルレオンメンバーの回復、輸送は滞りなく進んでいた。
 カマーとサディストたちも全員捕縛。しかるべき施設へ移送される事となった。ニコラスはそちらについていくという。その後サディストたちは自身が行った事を何倍にもして返される事になる。
「ジョアンナ。実は……」
 全てを終えたカーミラは重い口を開く。救えなかった命があったこと。いなくなったコルレオンのメンバーの事。
 今のジョアンナにそれを受け止めきれるのかはわからない。だがカーミラはありのままを伝えた。その場しのぎの嘘は言わない。それはカーミラなりの優しさだった。
「そっか……ありがと」
 ジョアンナはポツリとそれだけ呟くとアンを抱きかかえたまま黙ったままだった。

 こうしてコルレオン救出作戦は、関わった者達に様々な思いを抱かせながらも終了したのであった。



 
 

 


 

 


 
 

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『過去の自身を超えし者』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『安心してください、未遂です』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)

†あとがき†

コルレオンの殆どのメンバーは無事救出されました。
今後捕縛した者とジョアンナより新たな情報が入る事になります。

MVPはサディストを一挙に引き受け、カマー討伐への土台を整え、凌ぎきった貴女へ。

依頼お疲れ様でした。
FL送付済