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天司になった教祖。或いは、盲目的信仰による廃退。

●蘇る教主
場所はシャンバラのとある洞窟。
宗教団体の教主が亡くなった。
シャンバラの神を信仰する団体だが、名前はない。
その名も無き宗教団体は、彼が一代で築き上げたものである。
絶対的なカリスマを発揮し、60年にわたり教主の地位に突き続けた男である。
彼は教団を立ち上げた当初から今に至るまで、己の名を誰にも教えることはなかった。
ただ「教主」とだけ名乗っていたのだ。
彼曰く「自分は単なる代言者。自分の言葉は天司様の言葉であり、そこに自分の意思など関係ない。そのため名を名乗る必要も無い」とのことである。
果たして、彼の言葉の幾らほどが真実だったのか。
彼の死後、それを確かめる術はない……。
団体は、彼の遺体を祭壇に祀り七日間にわたって安らかな眠りを祈り続けた。
そして、七日目……。
祭壇には、肉の翼を背から生やした彼の姿がたしかにあった。
禍々しい……けれど、背から翼を生やしたその姿はまさに彼の説法にあった“天司”の姿そのものではないか。
教団員たちは涙を流し、彼を崇めた。
彼は己の死を持って、教団の崇める“天司”へ昇華したのだと。
●階差演算室
「人は死んだらそこで終わりだ……名も無き教祖は天司になったのではない。還リビトと成り果てたに過ぎない」
モノクルを押し上げ、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)はそう言葉を紡ぐ。
還リビトと化した教祖を崇める、盲目的な教団員たちにはある種の同情さえ覚えているようだ。
「おそらくは[チャーム]によるものだろうが……ターゲットである【天司】の討伐を彼らは邪魔してくるだろうな」
魅了が解けた後、どうなるかは不明だが現在の教団員たちは洗脳状態にあると言ってもいいだろう。
おそらくは、自身の身の安全など気にもとめずに自由騎士たちを制圧にかかることが予想される。
「天司は多少の飛行能力を有しているようだ。加えて、広範囲にわたる魔弾や魔力による攻撃……まるで殲滅兵器だな」
生前の行いや信仰によってそのような能力を得たのだろうか。
「状態異常は[アンラック][アンコントロール][カース]か。教団員たちが巻き込まれないかが不安だが……」
洗脳状態にあるとはいえ一般人。
現状、目立つ犯罪に手を染めているわけでもないので、無事に救出したいところだ。
「戦場となるのは教団の隠れ家である地下洞窟。天井には一部穴が空いていて、空が拝めるそうだ。ふむ、視界に問題はなさそうだが……洞窟内に焚かれている香には注意してくれたまえ。長い時間吸っていると[ポイズン]の状態異常を受けてしまうようだ」
だとすれば、後は侵入経路や作戦が重要になるだろう。
そう呟いて、クラウスは一度、集まった自由騎士たちを見回した。
「殲滅対象は還リビト【天司】……速やかに頼むのである」
と、そう言って。
自由騎士たちを送り出す。
場所はシャンバラのとある洞窟。
宗教団体の教主が亡くなった。
シャンバラの神を信仰する団体だが、名前はない。
その名も無き宗教団体は、彼が一代で築き上げたものである。
絶対的なカリスマを発揮し、60年にわたり教主の地位に突き続けた男である。
彼は教団を立ち上げた当初から今に至るまで、己の名を誰にも教えることはなかった。
ただ「教主」とだけ名乗っていたのだ。
彼曰く「自分は単なる代言者。自分の言葉は天司様の言葉であり、そこに自分の意思など関係ない。そのため名を名乗る必要も無い」とのことである。
果たして、彼の言葉の幾らほどが真実だったのか。
彼の死後、それを確かめる術はない……。
団体は、彼の遺体を祭壇に祀り七日間にわたって安らかな眠りを祈り続けた。
そして、七日目……。
祭壇には、肉の翼を背から生やした彼の姿がたしかにあった。
禍々しい……けれど、背から翼を生やしたその姿はまさに彼の説法にあった“天司”の姿そのものではないか。
教団員たちは涙を流し、彼を崇めた。
彼は己の死を持って、教団の崇める“天司”へ昇華したのだと。
●階差演算室
「人は死んだらそこで終わりだ……名も無き教祖は天司になったのではない。還リビトと成り果てたに過ぎない」
モノクルを押し上げ、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)はそう言葉を紡ぐ。
還リビトと化した教祖を崇める、盲目的な教団員たちにはある種の同情さえ覚えているようだ。
「おそらくは[チャーム]によるものだろうが……ターゲットである【天司】の討伐を彼らは邪魔してくるだろうな」
魅了が解けた後、どうなるかは不明だが現在の教団員たちは洗脳状態にあると言ってもいいだろう。
おそらくは、自身の身の安全など気にもとめずに自由騎士たちを制圧にかかることが予想される。
「天司は多少の飛行能力を有しているようだ。加えて、広範囲にわたる魔弾や魔力による攻撃……まるで殲滅兵器だな」
生前の行いや信仰によってそのような能力を得たのだろうか。
「状態異常は[アンラック][アンコントロール][カース]か。教団員たちが巻き込まれないかが不安だが……」
洗脳状態にあるとはいえ一般人。
現状、目立つ犯罪に手を染めているわけでもないので、無事に救出したいところだ。
「戦場となるのは教団の隠れ家である地下洞窟。天井には一部穴が空いていて、空が拝めるそうだ。ふむ、視界に問題はなさそうだが……洞窟内に焚かれている香には注意してくれたまえ。長い時間吸っていると[ポイズン]の状態異常を受けてしまうようだ」
だとすれば、後は侵入経路や作戦が重要になるだろう。
そう呟いて、クラウスは一度、集まった自由騎士たちを見回した。
「殲滅対象は還リビト【天司】……速やかに頼むのである」
と、そう言って。
自由騎士たちを送り出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.還リビト【天司】の討伐
●ターゲット
・天司(還リビト)×1
名も無き教団の教主を務めていた男。
死後、その身は変異し、背には肉と血管で形成された翼を持つ。
速度は遅いが飛行能力を有するようだ。
広範囲に魔力をばらまく攻撃を得意とする。
至近距離でその姿を見た者に[チャーム]状態を確率で付与する特性を持つ。
・聖なる輝き[攻撃] A:魔遠範[アンラック1][アンコントロール2]
翼から放たれる、禍々しき魔力の輝き。
・天司の塵[攻撃] A:魔遠範[カース2]
翼をはためかせることにより、周囲に高温の塵を降り注がせる。
・教団員(ノウブルその他)×30
天司によって操られた状態にある教団員たち。
元々、教義に従い行動していた者たちであるため天司殲滅後おとなしくなるとは限らない。
天司に敵対する様子を見せれば、各々武器を手に襲いかかってくるだろう。
・盲信的進行[攻撃] A:攻近単
自身のダメージも恐れず行使される全力攻撃。
●場所
教団の拠点となっている地下洞窟。
大昔の遺跡跡を改築して使用しているようだ。
内部にはランプが灯されており、それなりに明るい。
通路の幅はまちまちであるが、人が通れないような場所はない。
天司のいる最奥、祭壇付近は一部天井に穴が空いていて地上につながっているようだ。
教団員たちのほとんどは、現在祭壇付近に集まっている。
洞窟内には香が焚かれており、長時間吸い続けることで[ポイズン]の状態異常を付与される。
・天司(還リビト)×1
名も無き教団の教主を務めていた男。
死後、その身は変異し、背には肉と血管で形成された翼を持つ。
速度は遅いが飛行能力を有するようだ。
広範囲に魔力をばらまく攻撃を得意とする。
至近距離でその姿を見た者に[チャーム]状態を確率で付与する特性を持つ。
・聖なる輝き[攻撃] A:魔遠範[アンラック1][アンコントロール2]
翼から放たれる、禍々しき魔力の輝き。
・天司の塵[攻撃] A:魔遠範[カース2]
翼をはためかせることにより、周囲に高温の塵を降り注がせる。
・教団員(ノウブルその他)×30
天司によって操られた状態にある教団員たち。
元々、教義に従い行動していた者たちであるため天司殲滅後おとなしくなるとは限らない。
天司に敵対する様子を見せれば、各々武器を手に襲いかかってくるだろう。
・盲信的進行[攻撃] A:攻近単
自身のダメージも恐れず行使される全力攻撃。
●場所
教団の拠点となっている地下洞窟。
大昔の遺跡跡を改築して使用しているようだ。
内部にはランプが灯されており、それなりに明るい。
通路の幅はまちまちであるが、人が通れないような場所はない。
天司のいる最奥、祭壇付近は一部天井に穴が空いていて地上につながっているようだ。
教団員たちのほとんどは、現在祭壇付近に集まっている。
洞窟内には香が焚かれており、長時間吸い続けることで[ポイズン]の状態異常を付与される。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/8
5/8
公開日
2020年02月28日
2020年02月28日
†メイン参加者 5人†

●
場所はシャンバラのとある洞窟。
天井の割れ目から差し込む陽光を浴び、その場に浮かぶ痩せた人影。
そして、その背に広がる肉と血管で形成された歪な翼。
どことなく甘い……果物の腐ったような香りの満ちるその場所で。
異形の天司を崇めるように、年齢も性別も様々な30名の男女が集う。
彼らはとある、名もなき教団の信者たちだ。
そして異形の天司は、彼らの教祖の成れの果て。
死した後、還リビトと化して蘇った教祖の姿に信者たちは涙する。
おぉ、我らが教祖は死後、天司へと昇華したのだ、と。
洞窟の奥から、人々のすすり泣く声が聞こえていた。時折混じる「教祖様」という囁き声を耳にして、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)眉間にしわを寄せる。
「教主の遺体がイブリース化して、還リビトとして蘇ったのね」
赤い髪を掻き揚げて、ふぅと小さくため息をこぼした。
辺りは薄暗く、そして腐った果物の匂いが立ち込めている。ここは「名もなき教団」の拠点。どこに誰が隠れているかわからない。
不意打ちを受ければ、いかに自由騎士たちとて無傷とはいかないだろう。
なればこそ、エルシーは意識を研ぎ澄まし周囲への警戒を怠らない。
「……香か? イヤな臭いがするぜ」
口元を抑え、そう呟いたのは『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)だ。匂いの原因は、洞窟内のいたるところで炊かれている香であろうか。
長く吸い続けることでその身が「毒」に侵される……そういう類の、碌でもない香だ。
「彼らの信仰対象はミトラースではなかったんだね。この遺跡も……もしかすると」
洞窟の壁に手を触れて、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はぽつりと言葉をこぼした。
それから、ふと視線を洞窟の奥へと投げる。
「来たみたいだよ……しかし、彼等が信仰していたものは果たして“神”だったのか“教祖”だったのか」
マグノリアの視線の先には、短い槍を手にした3人の男性の姿があった。
その瞳は虚ろであり、そして赤く充血している。
侵入者たち……つまりは自由騎士たちの姿を見るや、3人は同時に駆け出した。怒りに狂った形相で、口の端から泡を吹きながら迫る。
「教祖様……否、天司様の布告である! 侵入者は排除し、供物とせよ!」
そういって突き出された槍は、けれど『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)の斧であっさりと弾き飛ばされた。
「悪いけど、私はアレコレ考えるのは得意じゃないんだ。邪魔する奴はなぎ倒す。シンプルに行かせてもらうぜ!」
「同感よ!」
振り抜かれた斧の一撃で、信者の1人が地に伏した。
ジーニーに叫びに同調し、エルシーが跳ぶ。
壁を足場にした三角跳び。スタン、と軽い音をたてて信者たちの背後へ着地した。
背を取られた、と信者たちが気づいたときにはもう遅い。
鋭く放たれた2発の手刀が、信者たちの首筋へと打ち込まれる。
意識を失い、倒れる最中……。
「天司様……申し訳ありません」
彼らはそう呟いた。
「信仰の邪魔をするつもりはありませんが、魅了されているのでは自由意思でという訳ではなさそうですし……しばらく眠っていてくださいね」
瞳を伏せてセアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言った。
彼女の言葉は、信者たちの耳に届かない。
こうして、洞窟内部での最初の戦闘は、速やかに幕を降ろしたのである。
●
洞窟内部を進むことしばらく。
スキルにより曲がり角の先を見通していたセアラは「おや?」と疑問に首を傾げた。
「何か見えたの?」
と、そう問うたのはエルシーだ。
セアラは首を横に振る。
「いいえ。曲がり角の先には誰もいません。静かに歩く必要も、ないかもしれませんよ」
「見張り役は最初に遭った3人だけということかな。ということは、残りは全員、教祖のところか……信者達の命を“其れ”から守りながら戦わなければいけない訳だね」
マグノリアの言う“其れ”とは、教祖の成れの果てである。
決して“天司”などではない、異形と化した還リビト。
すでに人としての生を終え、自我さえ失った哀れな老人である。
「教団員諸共俺達を攻撃してくるだろうからな」
苦々しい表情を浮かべ、オルパは言った。
自分たちならいざしらず、何の力もない一般人が天司の攻撃に巻き込まれては、最悪命を落とすこともあり得るからだ。
信者たちの命を守りながら、ターゲットである天司を倒す。
なかなかに骨が折れそうだ。
「要するにだ、教団員が殺される前にイブリースを浄化すりゃいいんだろ?」
ぶぉん、と戦斧を振り回しジーニーは笑う。
なるほど確かに、言葉にすればただそれだけのことである。
「それがなかなか難しそうではありますが……やるしかありませんね」
と、苦笑と共にそう答え。
セアラはすいと自身の頭上へ手を翳す。
飛び散った淡い燐光が、仲間たちの体へ降り注いだ。
香による毒のダメージを癒しているのだ。
洞窟最奥……天司の待ち構える祭壇は近い。
開戦を告げるは魔力の大渦。
仲間たちの先頭に立ち、マグノリアは両の腕を眼前へと翳す。
突然の乱入者による先制攻撃を、信者たちは防げない。
魔力の波に飲み込まれ、その身は宙へと打ち上げられた。
「もう1度……っ!」
先の一撃で信者たちの3割から4割は先頭不能に陥っただろうか。
さらに敵戦力を減らすべく、マグノリアは再度魔力を練り上げる。
だが、しかし……。
『-----------!!』
耳の奥が痛むような超高音の雄叫びは、頭上に浮かぶ天司の喉から発されたものだ。
それと同時に、血肉で形成された歪な翼から禍々しい光が放たれる。
血の赤と、腐りかけた肉に似た色の黒い輝き。
まるで雪か雨のように降り注ぐそれは、数名の信者たちと共にマグノリアの体を包む。
「ぐ……う」
練り上げた魔力が霧散する。
苦悶の呻きと共に、マグノリアの口元からは血の雫が滴り落ちた。
「回復……いえ、まずは無力化でしょうか」
マグノリアを庇うように前に出たセアラは、天司へ向けて手を翳した。
解き放たれた膨大な魔力が渦を巻く。
マグノリアが行使したものと同じ[大渦海域のタンゴ]だ。
事前に自身に付与した[カテドラルの福音]のおかげで、彼女は精神系の状態異常に対して耐性を得ている。
祭壇周辺を魔力の渦が暴れまわり、それに巻き込まれた信者たちや天司が壁へと叩きつけられた。
だが、天司はそれでも翼を広げ空中に留まり続けていた。
「飛ばれてしまうと私の得意の接近戦が仕掛けられないわ。どうにか地面に落とせないかしら?」
近くまで接近してきた信者を殴り飛ばしながら、エルシーは言う。
「俺が行こう。翼を狙うぜ。攻撃のキーも翼みたいだからな」
そう言って、エルシーの真横を駆け抜ける黒い影。
音もなく加速したオルパは、群がる信者たちの間をすり抜けるように疾駆し、天司の真下へと迫る。
降り注ぐ黒い光を浴びながらも、両手に握ったダガーを一閃。
不可視の刃が宙を疾駆し、天司の翼を切り裂いた。
ぼたぼたと零れる、腐った血と肉が地面に黒い染みを作る。
翼に傷を負った天司は、ガクンと空中で姿勢を崩す。
『--------------------!!』
ゆっくりと高度を落としながらも、天司は翼をはばたかせどうにかその場に留まろうともがく。
天司が翼を動かすたびに血と腐肉と、それから赤く燃える塵が舞う。
「うぎゃあああ!」
悲鳴を上げたのは信者たちだ。
燃える塵をその身に浴びて、皮膚を焼かれて悶え苦しむ。
「見境なしですか……」
近くにいた信者に治療を施しながら、セアラはそう呟いた。
「あの禍々しい力が、貴方達が信じる天司だと本当に思うの? よく見なさい。貴方達の教主はその崇高なる信仰心ゆえに悪魔に身体を乗っ取られているのよ!」
身を焼かれながらも武器を振るう信者の胸倉を締め上げながら、エルシーは天司を睨みつけた。
そんな彼女の視界の端では、今もオルパが天司へ向けて攻撃を仕掛け続けている。
降り注ぐ塵に焼かれ、オルパの皮膚は焼け爛れていた。
オルパだけではない。
前線で戦斧を振るうジーニーもまた、大きなダメージを負っている。
「ちっ、うっとうしいな……だけど、私の戦斧は吹き荒ぶ嵐が如く! どりゃあ~っ!」
雄叫びと共に振り回される戦斧の風圧が、群がる信者を薙ぎ払い、降り注ぐ塵を掻き消した。
げほ、と咳き込むジーニーの口元からは一筋の血が垂れている。
苦痛に顔を歪めながらも、ジーニーは背後へ振り返り、エルシーへと視線を投げかけた。
「道は開いたぜ! 5秒後だ……あいつが地上に落ちてくる!」
その言葉を聞いた瞬間、エルシーは弾かれたように駆け出した。
否、動き始めたのはエルシーだけではない。
『-------------------!!』
天司の放つ黒い輝きが、祭壇を中心に吹き荒れる。
その輝きを身に受け、傷つきながらも信者たちはオルパへ迫った。信者たちにとっては、自身の身の安全よりも、天司を守ることが優先されるということだろう。
だが、そんな信者たちをジーニーが阻む。
「教主様は天司の代理だって言ってたんだろ? なら、そういうことなんだよ。アレは天司じゃない。ただの怪物だ」
斧を振り回すことで、信者たちの進行を食い止めた。そんなジーニーの身体を包む淡い燐光は、セアラによる回復術だ。
「……長期戦は被害者を増やすだけだ。速攻で決める」
そう呟いて、オルパは何度目かになる[エコーズ]を行使した。
さらに……。
「僕も出よう。……生きているものの命は奪わせないよ」
蒼き魔力をその手の内に練り上げながら、マグノリアも前に出る。
放出された魔力は、吹雪のような勢いでもって天司の体に吹きつけられた。
視界が白に染まるほどの冷気が洞窟に満ちる。
天司の翼が……否、その全身が白に染まった。
凍り付く天司の右翼へ、狙い違わず2発の斬激が命中。ダガーを振りぬいた姿勢のまま、オルパはにやりとその口元に笑みを浮かべた。
「伊達にレンジャースタイルを名乗ってるんじゃないぜ?」
翼が砕け、天司の身体が傾いた。
ゆっくりと……血と腐肉と、黒い輝きをまき散らし。
凍り付いた異形の天司は、地に落ちる。
●
片方の翼をはばたかせ、天司は体勢を持ち直す。
よたよたと、どうやら洞窟の天井に空いた裂け目へ……地上へと向かっているようだ。
逃走を図るつもりだろうか。
しかし、そんな天司の身体に、何者かがしがみついた。
何者か……それは、洞窟の壁を駆け上がってきたセアラであった。
天司の放つ黒い輝きによってダメージを負うが、自身のスキルで即座にそれを癒しているのだ。セアラは歯を食いしばりながら、天司の体を掴む両の腕により一層の力を込めた。
「脱出は許可できません……浄化させていただきます!」
片翼では、セアラを引きつれたまま地上へたどり着くことはできない。
そうして天司の体は、再び高度を下げ始めた。
信者の1人を殴り飛ばして、エルシーは地面を蹴飛ばした。
ジーニーの切り開いた道を。
オルパとマグノリアの作った好機を。
セアラの献身を。
無駄にしては、女が廃る。
姿勢を低く、砂埃を上げ駆ける姿はまるで1本の矢のようだ。
降り注ぐ黒い輝きによってダメージを受ける。口からは血を吐き、内臓は痛みに悲鳴を上げた。
けれどエルシーは止まらない。
「あとはお任せいたします」
天司の体を離し、地面に降りたセアラから回復術の支援を受けた。
痛みが和らぎ、状態異常が取り除かれる。
そうして、エルシーはついに天司の目の前に。
「安らかな眠りを」
と、囁くようにそう言って。
駆け抜ける勢いそのままに、赤い拳を天司の胸へと打ち込んだ。
砕けた氷が宙へ舞い散る。
天を仰ぎ見ながら、天司の体は地面へ落ちた。
右の翼は失われ、左の翼は落下の衝撃でつぶれている。
陥没した胸部からは、黒い血がじわりと滲んでいた。
「あ、あぁ……あああああああ!!」
誰かの絶叫が響く。
信者の1人が、耐え切れずに悲鳴をあげたのだ。
悲鳴は連鎖する。
中には怒りの声をあげる信者たちもいた。
「御覧なさい。悪魔から解放され気高い教主に戻ったわ」
そんな中。
淡々と、教祖の遺体を指さしてエルシーはそう告げたのだ。
いつの間にか、天司の翼は消えていた。
残るは腐敗しかけた教祖の遺体が一つだけ。
「どんな理由があったって、自分達の神様が危害を加えてくるなんて悲しい事はないって」
「まぁ、まっとうな宗教じゃなさそうだがな……」
慰めの言葉を口にするジーニーと、祭壇付近にあった香炉を壊すオルパ。
項垂れ、嘆き悲しむ信者たちへセアラは無言で治療を施す。
そんな仲間たちの様子を見ながら、マグノリアは一人思案に耽っていた。
「彼は……教祖は、自身が天司になりたかったのかもしれないね」
なんて……。
独り言は、誰の耳にも届かない。
こうしてその日、とある名もなき宗教団体は壊滅した。
人知れず活動を続け、そして人知れず失われたのだ。
この世界にある、数多くの不幸の、これはほんの一端で。
誰の記憶にも残らない、そんなありふれた出来事なのだ。
場所はシャンバラのとある洞窟。
天井の割れ目から差し込む陽光を浴び、その場に浮かぶ痩せた人影。
そして、その背に広がる肉と血管で形成された歪な翼。
どことなく甘い……果物の腐ったような香りの満ちるその場所で。
異形の天司を崇めるように、年齢も性別も様々な30名の男女が集う。
彼らはとある、名もなき教団の信者たちだ。
そして異形の天司は、彼らの教祖の成れの果て。
死した後、還リビトと化して蘇った教祖の姿に信者たちは涙する。
おぉ、我らが教祖は死後、天司へと昇華したのだ、と。
洞窟の奥から、人々のすすり泣く声が聞こえていた。時折混じる「教祖様」という囁き声を耳にして、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)眉間にしわを寄せる。
「教主の遺体がイブリース化して、還リビトとして蘇ったのね」
赤い髪を掻き揚げて、ふぅと小さくため息をこぼした。
辺りは薄暗く、そして腐った果物の匂いが立ち込めている。ここは「名もなき教団」の拠点。どこに誰が隠れているかわからない。
不意打ちを受ければ、いかに自由騎士たちとて無傷とはいかないだろう。
なればこそ、エルシーは意識を研ぎ澄まし周囲への警戒を怠らない。
「……香か? イヤな臭いがするぜ」
口元を抑え、そう呟いたのは『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)だ。匂いの原因は、洞窟内のいたるところで炊かれている香であろうか。
長く吸い続けることでその身が「毒」に侵される……そういう類の、碌でもない香だ。
「彼らの信仰対象はミトラースではなかったんだね。この遺跡も……もしかすると」
洞窟の壁に手を触れて、『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はぽつりと言葉をこぼした。
それから、ふと視線を洞窟の奥へと投げる。
「来たみたいだよ……しかし、彼等が信仰していたものは果たして“神”だったのか“教祖”だったのか」
マグノリアの視線の先には、短い槍を手にした3人の男性の姿があった。
その瞳は虚ろであり、そして赤く充血している。
侵入者たち……つまりは自由騎士たちの姿を見るや、3人は同時に駆け出した。怒りに狂った形相で、口の端から泡を吹きながら迫る。
「教祖様……否、天司様の布告である! 侵入者は排除し、供物とせよ!」
そういって突き出された槍は、けれど『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)の斧であっさりと弾き飛ばされた。
「悪いけど、私はアレコレ考えるのは得意じゃないんだ。邪魔する奴はなぎ倒す。シンプルに行かせてもらうぜ!」
「同感よ!」
振り抜かれた斧の一撃で、信者の1人が地に伏した。
ジーニーに叫びに同調し、エルシーが跳ぶ。
壁を足場にした三角跳び。スタン、と軽い音をたてて信者たちの背後へ着地した。
背を取られた、と信者たちが気づいたときにはもう遅い。
鋭く放たれた2発の手刀が、信者たちの首筋へと打ち込まれる。
意識を失い、倒れる最中……。
「天司様……申し訳ありません」
彼らはそう呟いた。
「信仰の邪魔をするつもりはありませんが、魅了されているのでは自由意思でという訳ではなさそうですし……しばらく眠っていてくださいね」
瞳を伏せてセアラ・ラングフォード(CL3000634)はそう言った。
彼女の言葉は、信者たちの耳に届かない。
こうして、洞窟内部での最初の戦闘は、速やかに幕を降ろしたのである。
●
洞窟内部を進むことしばらく。
スキルにより曲がり角の先を見通していたセアラは「おや?」と疑問に首を傾げた。
「何か見えたの?」
と、そう問うたのはエルシーだ。
セアラは首を横に振る。
「いいえ。曲がり角の先には誰もいません。静かに歩く必要も、ないかもしれませんよ」
「見張り役は最初に遭った3人だけということかな。ということは、残りは全員、教祖のところか……信者達の命を“其れ”から守りながら戦わなければいけない訳だね」
マグノリアの言う“其れ”とは、教祖の成れの果てである。
決して“天司”などではない、異形と化した還リビト。
すでに人としての生を終え、自我さえ失った哀れな老人である。
「教団員諸共俺達を攻撃してくるだろうからな」
苦々しい表情を浮かべ、オルパは言った。
自分たちならいざしらず、何の力もない一般人が天司の攻撃に巻き込まれては、最悪命を落とすこともあり得るからだ。
信者たちの命を守りながら、ターゲットである天司を倒す。
なかなかに骨が折れそうだ。
「要するにだ、教団員が殺される前にイブリースを浄化すりゃいいんだろ?」
ぶぉん、と戦斧を振り回しジーニーは笑う。
なるほど確かに、言葉にすればただそれだけのことである。
「それがなかなか難しそうではありますが……やるしかありませんね」
と、苦笑と共にそう答え。
セアラはすいと自身の頭上へ手を翳す。
飛び散った淡い燐光が、仲間たちの体へ降り注いだ。
香による毒のダメージを癒しているのだ。
洞窟最奥……天司の待ち構える祭壇は近い。
開戦を告げるは魔力の大渦。
仲間たちの先頭に立ち、マグノリアは両の腕を眼前へと翳す。
突然の乱入者による先制攻撃を、信者たちは防げない。
魔力の波に飲み込まれ、その身は宙へと打ち上げられた。
「もう1度……っ!」
先の一撃で信者たちの3割から4割は先頭不能に陥っただろうか。
さらに敵戦力を減らすべく、マグノリアは再度魔力を練り上げる。
だが、しかし……。
『-----------!!』
耳の奥が痛むような超高音の雄叫びは、頭上に浮かぶ天司の喉から発されたものだ。
それと同時に、血肉で形成された歪な翼から禍々しい光が放たれる。
血の赤と、腐りかけた肉に似た色の黒い輝き。
まるで雪か雨のように降り注ぐそれは、数名の信者たちと共にマグノリアの体を包む。
「ぐ……う」
練り上げた魔力が霧散する。
苦悶の呻きと共に、マグノリアの口元からは血の雫が滴り落ちた。
「回復……いえ、まずは無力化でしょうか」
マグノリアを庇うように前に出たセアラは、天司へ向けて手を翳した。
解き放たれた膨大な魔力が渦を巻く。
マグノリアが行使したものと同じ[大渦海域のタンゴ]だ。
事前に自身に付与した[カテドラルの福音]のおかげで、彼女は精神系の状態異常に対して耐性を得ている。
祭壇周辺を魔力の渦が暴れまわり、それに巻き込まれた信者たちや天司が壁へと叩きつけられた。
だが、天司はそれでも翼を広げ空中に留まり続けていた。
「飛ばれてしまうと私の得意の接近戦が仕掛けられないわ。どうにか地面に落とせないかしら?」
近くまで接近してきた信者を殴り飛ばしながら、エルシーは言う。
「俺が行こう。翼を狙うぜ。攻撃のキーも翼みたいだからな」
そう言って、エルシーの真横を駆け抜ける黒い影。
音もなく加速したオルパは、群がる信者たちの間をすり抜けるように疾駆し、天司の真下へと迫る。
降り注ぐ黒い光を浴びながらも、両手に握ったダガーを一閃。
不可視の刃が宙を疾駆し、天司の翼を切り裂いた。
ぼたぼたと零れる、腐った血と肉が地面に黒い染みを作る。
翼に傷を負った天司は、ガクンと空中で姿勢を崩す。
『--------------------!!』
ゆっくりと高度を落としながらも、天司は翼をはばたかせどうにかその場に留まろうともがく。
天司が翼を動かすたびに血と腐肉と、それから赤く燃える塵が舞う。
「うぎゃあああ!」
悲鳴を上げたのは信者たちだ。
燃える塵をその身に浴びて、皮膚を焼かれて悶え苦しむ。
「見境なしですか……」
近くにいた信者に治療を施しながら、セアラはそう呟いた。
「あの禍々しい力が、貴方達が信じる天司だと本当に思うの? よく見なさい。貴方達の教主はその崇高なる信仰心ゆえに悪魔に身体を乗っ取られているのよ!」
身を焼かれながらも武器を振るう信者の胸倉を締め上げながら、エルシーは天司を睨みつけた。
そんな彼女の視界の端では、今もオルパが天司へ向けて攻撃を仕掛け続けている。
降り注ぐ塵に焼かれ、オルパの皮膚は焼け爛れていた。
オルパだけではない。
前線で戦斧を振るうジーニーもまた、大きなダメージを負っている。
「ちっ、うっとうしいな……だけど、私の戦斧は吹き荒ぶ嵐が如く! どりゃあ~っ!」
雄叫びと共に振り回される戦斧の風圧が、群がる信者を薙ぎ払い、降り注ぐ塵を掻き消した。
げほ、と咳き込むジーニーの口元からは一筋の血が垂れている。
苦痛に顔を歪めながらも、ジーニーは背後へ振り返り、エルシーへと視線を投げかけた。
「道は開いたぜ! 5秒後だ……あいつが地上に落ちてくる!」
その言葉を聞いた瞬間、エルシーは弾かれたように駆け出した。
否、動き始めたのはエルシーだけではない。
『-------------------!!』
天司の放つ黒い輝きが、祭壇を中心に吹き荒れる。
その輝きを身に受け、傷つきながらも信者たちはオルパへ迫った。信者たちにとっては、自身の身の安全よりも、天司を守ることが優先されるということだろう。
だが、そんな信者たちをジーニーが阻む。
「教主様は天司の代理だって言ってたんだろ? なら、そういうことなんだよ。アレは天司じゃない。ただの怪物だ」
斧を振り回すことで、信者たちの進行を食い止めた。そんなジーニーの身体を包む淡い燐光は、セアラによる回復術だ。
「……長期戦は被害者を増やすだけだ。速攻で決める」
そう呟いて、オルパは何度目かになる[エコーズ]を行使した。
さらに……。
「僕も出よう。……生きているものの命は奪わせないよ」
蒼き魔力をその手の内に練り上げながら、マグノリアも前に出る。
放出された魔力は、吹雪のような勢いでもって天司の体に吹きつけられた。
視界が白に染まるほどの冷気が洞窟に満ちる。
天司の翼が……否、その全身が白に染まった。
凍り付く天司の右翼へ、狙い違わず2発の斬激が命中。ダガーを振りぬいた姿勢のまま、オルパはにやりとその口元に笑みを浮かべた。
「伊達にレンジャースタイルを名乗ってるんじゃないぜ?」
翼が砕け、天司の身体が傾いた。
ゆっくりと……血と腐肉と、黒い輝きをまき散らし。
凍り付いた異形の天司は、地に落ちる。
●
片方の翼をはばたかせ、天司は体勢を持ち直す。
よたよたと、どうやら洞窟の天井に空いた裂け目へ……地上へと向かっているようだ。
逃走を図るつもりだろうか。
しかし、そんな天司の身体に、何者かがしがみついた。
何者か……それは、洞窟の壁を駆け上がってきたセアラであった。
天司の放つ黒い輝きによってダメージを負うが、自身のスキルで即座にそれを癒しているのだ。セアラは歯を食いしばりながら、天司の体を掴む両の腕により一層の力を込めた。
「脱出は許可できません……浄化させていただきます!」
片翼では、セアラを引きつれたまま地上へたどり着くことはできない。
そうして天司の体は、再び高度を下げ始めた。
信者の1人を殴り飛ばして、エルシーは地面を蹴飛ばした。
ジーニーの切り開いた道を。
オルパとマグノリアの作った好機を。
セアラの献身を。
無駄にしては、女が廃る。
姿勢を低く、砂埃を上げ駆ける姿はまるで1本の矢のようだ。
降り注ぐ黒い輝きによってダメージを受ける。口からは血を吐き、内臓は痛みに悲鳴を上げた。
けれどエルシーは止まらない。
「あとはお任せいたします」
天司の体を離し、地面に降りたセアラから回復術の支援を受けた。
痛みが和らぎ、状態異常が取り除かれる。
そうして、エルシーはついに天司の目の前に。
「安らかな眠りを」
と、囁くようにそう言って。
駆け抜ける勢いそのままに、赤い拳を天司の胸へと打ち込んだ。
砕けた氷が宙へ舞い散る。
天を仰ぎ見ながら、天司の体は地面へ落ちた。
右の翼は失われ、左の翼は落下の衝撃でつぶれている。
陥没した胸部からは、黒い血がじわりと滲んでいた。
「あ、あぁ……あああああああ!!」
誰かの絶叫が響く。
信者の1人が、耐え切れずに悲鳴をあげたのだ。
悲鳴は連鎖する。
中には怒りの声をあげる信者たちもいた。
「御覧なさい。悪魔から解放され気高い教主に戻ったわ」
そんな中。
淡々と、教祖の遺体を指さしてエルシーはそう告げたのだ。
いつの間にか、天司の翼は消えていた。
残るは腐敗しかけた教祖の遺体が一つだけ。
「どんな理由があったって、自分達の神様が危害を加えてくるなんて悲しい事はないって」
「まぁ、まっとうな宗教じゃなさそうだがな……」
慰めの言葉を口にするジーニーと、祭壇付近にあった香炉を壊すオルパ。
項垂れ、嘆き悲しむ信者たちへセアラは無言で治療を施す。
そんな仲間たちの様子を見ながら、マグノリアは一人思案に耽っていた。
「彼は……教祖は、自身が天司になりたかったのかもしれないね」
なんて……。
独り言は、誰の耳にも届かない。
こうしてその日、とある名もなき宗教団体は壊滅した。
人知れず活動を続け、そして人知れず失われたのだ。
この世界にある、数多くの不幸の、これはほんの一端で。
誰の記憶にも残らない、そんなありふれた出来事なのだ。