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オルガン弾き逃げ!?~せんりつの修道院~

●
「いきなり何かしら、この手紙……」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はため息交じりに呟いて、封筒を開ける。
つい先ほど彼女が街中を歩いていると、突然修道服姿の女性に手紙を手渡されたのである。
青ざめて憔悴しきった様子の彼女は「こちらを……どうかお願いします」とだけ小声で告げるとそのまま逃げるように人ごみの中へ消えていってしまったのだ。
訝しみながら、便箋に書かれた内容を読む。
“このような形でお手紙を差し上げること、大変不躾でお恥ずかしい限りでございます。
しかし、私たちの今の状態で取り乱さずにお話しすることは難しいと思ってのことです。
我々修道女の不安の種は当院で大切にしているオルガンにございます。
事の発端は一昨日、皆が寝静まった真夜中に集会堂から一音一音、確かめるような重苦しいオルガンの音が院中に鳴り響いたのです。
飛び起きて見に行くと大男が椅子にどっしりと腰かけて鍵盤を抑えているのです。
思わず声を上げると男は急いで立ち上がり逃げていきました。
そして昨日、オルガンの周りに見張りを付けておいた真夜中。
今度は三人の大男たちが分厚い窓を蹴破って入ってきました。
驚いて声も出ない見張り達を突き飛ばし、三人がかりでオルガンを担ぎ上げたのです。
見張り達が何度大男たちに縋り付いてもオルガンで蹴散らし、割られた窓から院の外へ運び出そうとするのです。
騒ぎで多くの者が叫ぶと、大事になるのを恐れたのか渋々出ていきましたが、その中の一人が「チッ、また明日な」と仲間たちに向けて呟いたのが確かに聞き取れました。
この騒ぎで見張り達は怪我をしてしまい、今日起こるであろう襲撃に怯えています。
私どもとしても、あのような暴漢たちにオルガンを奪われるなど見過ごせるはずがございません。
自由騎士さま、どうか非力な私たちに代わってあの者たちを捕らえて頂けないでしょうか。
しかしそのまま殺めることは神の教えに背くこととなりますので、どうか彼らが跪き懺悔する姿をこの目で見ることが出来るならと思います。”
至急、集結させなければ。
読み終えてすぐさま、バーバラは自由騎士たちを呼び寄せた。
●
「……どうやらこの修道院のオルガンは、本当に素晴らしい芸術品らしいの。
だから、ほんのかすり傷も付けちゃダメよ。天罰が下るわ」
バーバラは少しおどけた口調で言うが、その瞳からは真剣さが伺えた。
「三人ともかなり屈強な男たちみたいだから、縄で縛るなんてかなりお仕置きして弱らせないと無理でしょうね。早急の任務でおあいにくだけど、もう今夜危ないの。さあ、いってらっしゃい!」
かくして自由騎士たちは、修道院に向かって夜道を走り出すこととなった。
「いきなり何かしら、この手紙……」
『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はため息交じりに呟いて、封筒を開ける。
つい先ほど彼女が街中を歩いていると、突然修道服姿の女性に手紙を手渡されたのである。
青ざめて憔悴しきった様子の彼女は「こちらを……どうかお願いします」とだけ小声で告げるとそのまま逃げるように人ごみの中へ消えていってしまったのだ。
訝しみながら、便箋に書かれた内容を読む。
“このような形でお手紙を差し上げること、大変不躾でお恥ずかしい限りでございます。
しかし、私たちの今の状態で取り乱さずにお話しすることは難しいと思ってのことです。
我々修道女の不安の種は当院で大切にしているオルガンにございます。
事の発端は一昨日、皆が寝静まった真夜中に集会堂から一音一音、確かめるような重苦しいオルガンの音が院中に鳴り響いたのです。
飛び起きて見に行くと大男が椅子にどっしりと腰かけて鍵盤を抑えているのです。
思わず声を上げると男は急いで立ち上がり逃げていきました。
そして昨日、オルガンの周りに見張りを付けておいた真夜中。
今度は三人の大男たちが分厚い窓を蹴破って入ってきました。
驚いて声も出ない見張り達を突き飛ばし、三人がかりでオルガンを担ぎ上げたのです。
見張り達が何度大男たちに縋り付いてもオルガンで蹴散らし、割られた窓から院の外へ運び出そうとするのです。
騒ぎで多くの者が叫ぶと、大事になるのを恐れたのか渋々出ていきましたが、その中の一人が「チッ、また明日な」と仲間たちに向けて呟いたのが確かに聞き取れました。
この騒ぎで見張り達は怪我をしてしまい、今日起こるであろう襲撃に怯えています。
私どもとしても、あのような暴漢たちにオルガンを奪われるなど見過ごせるはずがございません。
自由騎士さま、どうか非力な私たちに代わってあの者たちを捕らえて頂けないでしょうか。
しかしそのまま殺めることは神の教えに背くこととなりますので、どうか彼らが跪き懺悔する姿をこの目で見ることが出来るならと思います。”
至急、集結させなければ。
読み終えてすぐさま、バーバラは自由騎士たちを呼び寄せた。
●
「……どうやらこの修道院のオルガンは、本当に素晴らしい芸術品らしいの。
だから、ほんのかすり傷も付けちゃダメよ。天罰が下るわ」
バーバラは少しおどけた口調で言うが、その瞳からは真剣さが伺えた。
「三人ともかなり屈強な男たちみたいだから、縄で縛るなんてかなりお仕置きして弱らせないと無理でしょうね。早急の任務でおあいにくだけど、もう今夜危ないの。さあ、いってらっしゃい!」
かくして自由騎士たちは、修道院に向かって夜道を走り出すこととなった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.オルガンを傷つけずに、男達だけを狙って攻撃し捕縛する。
こんにちは、ルイーゼロッテです。
オルガン泥棒退治です。
●敵情報
大男×3
オルガンと同じくらい、2メートル近くの身長があるのではないかと思われる若い男たちです。
攻撃方法
・オルガンで相手を押し退ける、向かってきた相手を撃つ、斬る
真ん中の一人中心でオルガンを持っており、両脇の二人のうち一人は剣、もう一人は銃を携えており、時折オルガンから手を離して近づいた相手を攻撃します。
オルガンには傷一つ付けてはいけないことになっているので、敵の横や背後に回って攻撃しなければなりません。必然的に接近戦になります。
●場所情報
住宅地など他の建物からは離れてぽつんと建つ修道院。
真夜中、月明かりだけが差し込む集会堂にオルガンを狙った盗人がまだ修繕しきれていない窓から侵入してきます。
修道女たちは事態が収束するまで各々の自室にこもっています。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
オルガン泥棒退治です。
●敵情報
大男×3
オルガンと同じくらい、2メートル近くの身長があるのではないかと思われる若い男たちです。
攻撃方法
・オルガンで相手を押し退ける、向かってきた相手を撃つ、斬る
真ん中の一人中心でオルガンを持っており、両脇の二人のうち一人は剣、もう一人は銃を携えており、時折オルガンから手を離して近づいた相手を攻撃します。
オルガンには傷一つ付けてはいけないことになっているので、敵の横や背後に回って攻撃しなければなりません。必然的に接近戦になります。
●場所情報
住宅地など他の建物からは離れてぽつんと建つ修道院。
真夜中、月明かりだけが差し込む集会堂にオルガンを狙った盗人がまだ修繕しきれていない窓から侵入してきます。
修道女たちは事態が収束するまで各々の自室にこもっています。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
5個
1個
1個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
4/6
4/6
公開日
2020年02月20日
2020年02月20日
†メイン参加者 4人†
●
夜の修道院は沈鬱な空気に満ち、辺りは静まり返っていた。
冷たい石畳の壁に大きく浮かび上がる四人の人影。
「まっくら……修道院って、ぶきみ、こわい……」
人影が大きく揺れ、不鮮明になった。
それはノーヴェ・キャトル(CL3000638)のカンテラを持つ手が震えたからだと気が付いたリンドウ・ヤクシ(CL3000520)は慌てて彼女に声を掛けた。
「お、お嬢さん!ここには大人もいますし、私のような男もいますから!そりゃぁまぁ、私ではちと頼りないかもしれませンが……」
声が尻すぼみになりつつ頭を掻くリンドウだったが、隣を歩く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の横顔を見てハッと口をつぐんだ。
「許せない……許せないわ。オルガンが修道院にとってどんなに大切なものか、まるで分かっていないのでしょうね」
彼女は神職として思うところが多々あるのだ。眉を顰めた険しい表情が暗い中でも見て取れる。
「やっぱり高級品として売り払うつもりなのかもだけど、他に理由があるとしたらなんだろうね」
「それを知るためにもきちんと捕らえて問い質すべきだわ」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の疑問にエルシーが相槌を打ったところで、長い回廊は途切れ、目の前には集会堂が開けていた。
●
修復しきれていない窓から吹き込む風が指し示すように、オルガンはそこにあった。
自由騎士たちは恐る恐る近づき、それぞれほう……と感嘆の溜め息を漏らした。
その場の時を止めるような雰囲気を発しながら、神への捧げものとして静謐に佇んでいた。
名匠が作り上げたのだろう、決して派手ではないが作り手の心が行き届いたような隙の無い精密な表面の装飾。
寸分違わずずらりと並ぶ純白のパイプ、象牙の白鍵、黒鍵。
誰もが息を飲み、触れることも躊躇われると思ったその時
ガキィンッッ!!
突如、静寂が破られた。
修道女たちがせめてもの思いで窓に嵌め込んだであろう急ごしらえの鉄格子はやすやすと捻じ曲げられ、それだけの力があると納得できる程筋骨隆々の3人の若者が荒々しく入り込んできた。
素早くその者たちに正面から対峙する自由騎士たち。
「そこまでよ!盗人ども!!」
怒り露わなエルシーはオルガンへ足を踏み出す男目がけて飛び掛かる。
「オルガンから離れなさい!!」
エルシーは腰に剣を携えた男に飛びついて腕と胸で押さえつけ、自由を奪う。
夜間用眼鏡を持参して正解だったようだ。男たちは月明かりを背にして立っているため、こちらからでは逆光となって見え辛い。
「うわっ!! 何だこの女!!」
男は真っ赤になって必死に抵抗する……満更でもないようにも見える。
仲間を羽交い絞めにする美女を目の前にして呆気に取られていたガンナーは気付かなかった。自分も標的だという事に。
カノンは息を殺し影となってガンナーの背後に回り、太腿に装着したホルスター目がけて拳を叩き込んだ。
「ぐぁああっ!!!」
男は片膝を付いて崩れ落ちた。どうやら大腿骨が骨折してもう立ち上がることは出来ないようだ。
しかし、痛みに顔を顰めながらもホルスターの中の銃に骨張った大きな手を伸ばそうとする。
その様子を『未来視』したノーヴェは褐色の目を大きく見開く。
「……! 銃…まだ、使える…カノン、撃たれる…!」
「そンなこと、させませンよッ!」
リンドウは細い指を伸ばし、敵の手をアイスコフィンで凍て付かせた。
「ぅヒィッ!」
これで飛び道具は故障して使えまい。リンドウは暗視を活性化させた視線を変え、オルガンを力づくで引きずりだそうと一人奮闘する男の足元を凍らせた。
身悶えする三人の男達にザッと視線を這わせたところ、奴らは軽装備ではあるがいざという時の防御の備えは出来ているようだ。
ヘルメットに真鍮のゴーグルを掛け、皮革の手甲、手袋……
そこで突然、ノーヴェからのテレパスが彼の脳裏をよぎった。
『リンドウ…避けて……!』
「ふンッ!!」
男が思い切り押し出したオルガンがリンドウに追突する――
寸前でノーヴェは疾風の如き速さで躍り出、リンドウを後ろから抱き留め二人は仰向けに床へ倒れ込む。
カノンが彼らを背に庇い、オルガンをひしと受け止めた。
「くっ……この小娘……」
いくら巨漢が力任せにオルガンごと彼女を押し退けようとも、柳凪とハイバランサーの力でビクとも動かない。
カノンはオルガン越しに相手の目をじっと見つめる。真っ直ぐな金色の視線にたじろぐように、男の目にはどこか感傷的な色が混ざったように見えた。
「おいコラ!!なにチビ助相手にモタモタしてんだよ!!」
エルシーの震撃を喰らい意識朦朧としていた剣の男だったが、仲間の苦戦を察して突然彼女を振り解き、オルガンに駆け寄り元からいた巨漢と共に持ち上げた。
慌ててカノンの元に急ぎ、オルガンに縋り付くエルシー。
二対二。両者は一歩も譲らず互いを睨みつけた。
●
時がいきなり進んだようで何が起こったのか分からないリンドウ、彼は自分の下敷きとなっているノーヴェを見てすぐさま飛び上がるように身を起こす。
「わわッ!すみませン、ノーヴェさン!!」
「あやまら…ないで……私、のタイムスキップ…役に立って、よかった……」
そういって微笑みながらもぐったりとして動かないノーヴェ。
「い、今すぐハーベストレインしますからッ!」
ノーヴェに降り注ぐ光の雨は優しく、彼女の頬に赤みが戻った。
「も、う……動き、たい…」
リンドウに手を引かれゆっくりと立ち上がったノーヴェはオルガンへと駆け出した。
●
戦いは難航していた。
どうしても銃の男が足りないため、時折二人がバランスを崩してしまう。その度にカノンが慌ててオルガンの足を持ち上げ、その勢いで剣の男にぐっと近づき獅子吼を喰らわせる。
「グアァアァッッ!!」
解放された轟きは男の皮膚をビリビリと震え上がらせ、内臓を収縮させ、骨を砕かんと押し迫った。
エルシーは耳を劈くようなうめき声に一瞬気を取られたその隙を狙い、もう一人の男の背後にサッと回って古い鋼鉄の甲の鉤爪のように鋭い鉄拳を一発喰らわせた。
しかし、まだあと一歩及ばない。戦闘をこちらに有利に持っていくための決定打が足りないのだ。
「なめるなぁっっ!!」
男は振り向き様エルシーの長い髪の束を掴んで引き寄せ、彼女の頭をオルガンの角に叩き付けようとする――
その時、どこからともなく一陣の風がエルシーを攫い、男からオルガンを挟んだ向こう側へと運んだ。
「……ノーヴェ!!」
エルシーの顔がパアッと輝く。ラピッドジーンによって自分を助けてくれたのだ。
「私、みんな…を、助け…たい、から……動く」
そう言ってすっくと立ち上がり男たちに向き直ったノーヴェの前髪に隠れて見えない左の目は、奥から青く発光しているように見えた。
「よく、も…エルシー、を……」
彼女の両側から二本の青白い閃光が見えたかと思うと、一瞬後には男の胸から腹部にかけて×印の裂傷が刻み込まれていた。
「! うぅっ……」
続いて、その隣の剣の男も腹部を両手で抑えてうずくまり、慌てて自由騎士たちはオルガンを自らのもとに引き寄せた。
「オマエらぁ!! 何が何でもそのデカい楽器を確保しろよ!!」
突然、銃の男の罵声が集会堂中に響いた。最早戦闘力は無いと見なされ、リンドウによってロープを巻き付けられている途中だったのだが、何とか折れた足を震わせながら立ち上がろうとし、声を限りに叫んだのだった。
「売った金を山分けしようと話したろうが!! 女子供に負けるような根性かよぉっ…ぐわぁっっ……」
言い切らぬうちに、男の後頭部に鈍い痛みが走った。しゃがんで頭を押さえるその後ろには、書物を手にして見下ろす痩せた男の姿があった。
「しつこいんンですよ。いい加減諦めて下さい。そのオルガン、何か間違いを起こしたら天罰が下るらしいですよ」
そう冷たい声で言い放つやいなや、最後の力を振り絞ったのか銃の男が突然リンドウの胸ぐらを掴んで持ち上げた。上を向かされた彼の、喉仏がひくっ、と上下に動く。
「知った風な口を聞くな。天罰があるとしたらな、俺たちにはとっくに下ってんだよ」
離そうとしない男の血管の漲った腕にリンドウは喰らいつく。食い込む犬歯から己の血が吸い取られていく感覚に男は悲鳴を上げ、リンドウを投げ飛ばした。
ドサッ!
「っ、ぅうっ……」
両者は同時に床へ仰向けに倒れ込む。
リンドウの顔が苦痛で顰められた様を目の当たりにして、途端にノーヴェが怯えだす。
「たいへん……悪いこと、したから……、天罰、下っちゃう……!」
「大丈夫だよ、ノーヴェちゃん。オルガンは傷ついてないんだから」
カノンはうろたえる彼女を優しくなだめると、男たちをキッと見据えた。
「もうオルガンを支える仲間も戦えないし、傷つけるつもりがないのなら降参したら?」
その時中心の男の脳裏には懐かしい情景が浮かんだ。幼子と戯れる己の少年時代、それが目の前のノーヴェを庇うカノンの勇姿と重なったのだ。
「…あ…あぁ…天罰があるとしたら、下されるのは私だ……」
男はガックリと膝を付き、項垂れた。
●
「ほら、じっとして」
戦意喪失した男たちは、ノーヴェに抑え付けられながらカノン、エルシー、そして起き上がったリンドウによってロープで拘束されていく。
「こいつだよ。こいつが言い出しっぺだよ」
「元々はいいとこの貴族様だったらしいぜ」
剣と銃の二人が真ん中の男を肘で突いた。
「ああ、神よ。どうかこの私をお裁き下さい。
十年前に私の両親が死んでから、みるみるうちに家が貧しくなった。
家財の一切を売り払い、その中には妹が大事にしていたオルガンも含まれていた。
しばらく私は鉄工所、妹は家庭教師をしてなんとか生計を立てていたが、そのうち妹は病気になって床に臥せりがちになった。
あのオルガンに合わせて歌うのが大好きだった妹は満足な治療も受けられず動けなくなってしまった。
そんな時、修道院のオルガンは我が家から買い取られたものだという話を耳にした。
追い詰められた私はせめてあのオルガンが妹のそばにあることで少しでも元気になってくれたらと、荒くれ者たちを雇いあのような愚かな行為を……」
そこまで言って、男は顔を伏せた。
「何だと! そんならオルガンを売った金を山分けするってのは嘘だったのよ!!」
荒くれ者二人は男に食ってかかる。
その時、上から女性の声が響いた。
修道女が上階から集会堂を見下ろしている。
「確かに、貴方がたの行いは許されざる行為です。しかし、そのような事情がおありだったのですね」
「シスター! この通り、三人とも確保致しました!」
エルシーが上を向いて叫ぶと、修道女は階段を下りてきた。
「傷は付けていないつもりですが、どうですか?」
自由騎士たちが死守したオルガンを修道女は隈なく確認し、彼女たちに向かってにっこり微笑んだ。
「ええ、傷一つありません。よくぞ守り切ってくださいましたね」
その言葉に一斉に肩の力を抜いて安堵する自由騎士たち。
「ほら、貴方達。もう二度とこんな真似はしないとシスター達に約束しなさい!」
エルシーの口調は強いものではあったが、どこか憐れみを交えた声色だった。
「俺たちはこいつに騙されたんだってのに……」
剣と銃の男はそっぽを向き、吐き捨てるように呟く。
「何であれ、勝手によそ様の土地に忍び込んで物を拝借しようッてのは…まァ、あまり褒められた行為とは言えませンね」
神妙な顔つきで言うリンドウ。
空間には同情と憐憫の空気が満ちた。
修道女は中心で唇を噛み締めている男に目を向け、厳かな口調で語りかけた。
「もちろん然るべき罰は受けなければなりません。しかし償いを果たした後は、この修道院に妹君を参拝させてはいかがでしょうか。オルガンをお渡しすることは出来ませんが、讃美歌と共に奏でることは何時でも出来るのだから」
「……!では、またここに来てもいいという事ですね! ああ、ご慈悲を、ありがとうございます……」
男は天を仰ぎ、さめざめと涙した。
●
その後、またバーバラに修道院からの手紙が届いた。
”先日は尽力して頂き、大変お世話になりました。
自由騎士の方々にも宜しくお伝えください。
さて、件の兄妹ですが、兄君が刑を終えた後に妹君を当修道院へ運び、集会堂の讃美歌を鑑賞させました。
妹君は病み衰えてはいましたが、オルガンの音色を聞くと微笑み、頬には赤みが戻ったように見えました。
今回の解決は皆様の協力なしには到底成立しなかったものと思います。
重ね重ね、お礼申し上げます。”
読み終わったバーバラは、そっと目を閉じた。
その耳には、微かな讃美歌とオルガンの音色が聞こえたような気がした。
夜の修道院は沈鬱な空気に満ち、辺りは静まり返っていた。
冷たい石畳の壁に大きく浮かび上がる四人の人影。
「まっくら……修道院って、ぶきみ、こわい……」
人影が大きく揺れ、不鮮明になった。
それはノーヴェ・キャトル(CL3000638)のカンテラを持つ手が震えたからだと気が付いたリンドウ・ヤクシ(CL3000520)は慌てて彼女に声を掛けた。
「お、お嬢さん!ここには大人もいますし、私のような男もいますから!そりゃぁまぁ、私ではちと頼りないかもしれませンが……」
声が尻すぼみになりつつ頭を掻くリンドウだったが、隣を歩く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)の横顔を見てハッと口をつぐんだ。
「許せない……許せないわ。オルガンが修道院にとってどんなに大切なものか、まるで分かっていないのでしょうね」
彼女は神職として思うところが多々あるのだ。眉を顰めた険しい表情が暗い中でも見て取れる。
「やっぱり高級品として売り払うつもりなのかもだけど、他に理由があるとしたらなんだろうね」
「それを知るためにもきちんと捕らえて問い質すべきだわ」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)の疑問にエルシーが相槌を打ったところで、長い回廊は途切れ、目の前には集会堂が開けていた。
●
修復しきれていない窓から吹き込む風が指し示すように、オルガンはそこにあった。
自由騎士たちは恐る恐る近づき、それぞれほう……と感嘆の溜め息を漏らした。
その場の時を止めるような雰囲気を発しながら、神への捧げものとして静謐に佇んでいた。
名匠が作り上げたのだろう、決して派手ではないが作り手の心が行き届いたような隙の無い精密な表面の装飾。
寸分違わずずらりと並ぶ純白のパイプ、象牙の白鍵、黒鍵。
誰もが息を飲み、触れることも躊躇われると思ったその時
ガキィンッッ!!
突如、静寂が破られた。
修道女たちがせめてもの思いで窓に嵌め込んだであろう急ごしらえの鉄格子はやすやすと捻じ曲げられ、それだけの力があると納得できる程筋骨隆々の3人の若者が荒々しく入り込んできた。
素早くその者たちに正面から対峙する自由騎士たち。
「そこまでよ!盗人ども!!」
怒り露わなエルシーはオルガンへ足を踏み出す男目がけて飛び掛かる。
「オルガンから離れなさい!!」
エルシーは腰に剣を携えた男に飛びついて腕と胸で押さえつけ、自由を奪う。
夜間用眼鏡を持参して正解だったようだ。男たちは月明かりを背にして立っているため、こちらからでは逆光となって見え辛い。
「うわっ!! 何だこの女!!」
男は真っ赤になって必死に抵抗する……満更でもないようにも見える。
仲間を羽交い絞めにする美女を目の前にして呆気に取られていたガンナーは気付かなかった。自分も標的だという事に。
カノンは息を殺し影となってガンナーの背後に回り、太腿に装着したホルスター目がけて拳を叩き込んだ。
「ぐぁああっ!!!」
男は片膝を付いて崩れ落ちた。どうやら大腿骨が骨折してもう立ち上がることは出来ないようだ。
しかし、痛みに顔を顰めながらもホルスターの中の銃に骨張った大きな手を伸ばそうとする。
その様子を『未来視』したノーヴェは褐色の目を大きく見開く。
「……! 銃…まだ、使える…カノン、撃たれる…!」
「そンなこと、させませンよッ!」
リンドウは細い指を伸ばし、敵の手をアイスコフィンで凍て付かせた。
「ぅヒィッ!」
これで飛び道具は故障して使えまい。リンドウは暗視を活性化させた視線を変え、オルガンを力づくで引きずりだそうと一人奮闘する男の足元を凍らせた。
身悶えする三人の男達にザッと視線を這わせたところ、奴らは軽装備ではあるがいざという時の防御の備えは出来ているようだ。
ヘルメットに真鍮のゴーグルを掛け、皮革の手甲、手袋……
そこで突然、ノーヴェからのテレパスが彼の脳裏をよぎった。
『リンドウ…避けて……!』
「ふンッ!!」
男が思い切り押し出したオルガンがリンドウに追突する――
寸前でノーヴェは疾風の如き速さで躍り出、リンドウを後ろから抱き留め二人は仰向けに床へ倒れ込む。
カノンが彼らを背に庇い、オルガンをひしと受け止めた。
「くっ……この小娘……」
いくら巨漢が力任せにオルガンごと彼女を押し退けようとも、柳凪とハイバランサーの力でビクとも動かない。
カノンはオルガン越しに相手の目をじっと見つめる。真っ直ぐな金色の視線にたじろぐように、男の目にはどこか感傷的な色が混ざったように見えた。
「おいコラ!!なにチビ助相手にモタモタしてんだよ!!」
エルシーの震撃を喰らい意識朦朧としていた剣の男だったが、仲間の苦戦を察して突然彼女を振り解き、オルガンに駆け寄り元からいた巨漢と共に持ち上げた。
慌ててカノンの元に急ぎ、オルガンに縋り付くエルシー。
二対二。両者は一歩も譲らず互いを睨みつけた。
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時がいきなり進んだようで何が起こったのか分からないリンドウ、彼は自分の下敷きとなっているノーヴェを見てすぐさま飛び上がるように身を起こす。
「わわッ!すみませン、ノーヴェさン!!」
「あやまら…ないで……私、のタイムスキップ…役に立って、よかった……」
そういって微笑みながらもぐったりとして動かないノーヴェ。
「い、今すぐハーベストレインしますからッ!」
ノーヴェに降り注ぐ光の雨は優しく、彼女の頬に赤みが戻った。
「も、う……動き、たい…」
リンドウに手を引かれゆっくりと立ち上がったノーヴェはオルガンへと駆け出した。
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戦いは難航していた。
どうしても銃の男が足りないため、時折二人がバランスを崩してしまう。その度にカノンが慌ててオルガンの足を持ち上げ、その勢いで剣の男にぐっと近づき獅子吼を喰らわせる。
「グアァアァッッ!!」
解放された轟きは男の皮膚をビリビリと震え上がらせ、内臓を収縮させ、骨を砕かんと押し迫った。
エルシーは耳を劈くようなうめき声に一瞬気を取られたその隙を狙い、もう一人の男の背後にサッと回って古い鋼鉄の甲の鉤爪のように鋭い鉄拳を一発喰らわせた。
しかし、まだあと一歩及ばない。戦闘をこちらに有利に持っていくための決定打が足りないのだ。
「なめるなぁっっ!!」
男は振り向き様エルシーの長い髪の束を掴んで引き寄せ、彼女の頭をオルガンの角に叩き付けようとする――
その時、どこからともなく一陣の風がエルシーを攫い、男からオルガンを挟んだ向こう側へと運んだ。
「……ノーヴェ!!」
エルシーの顔がパアッと輝く。ラピッドジーンによって自分を助けてくれたのだ。
「私、みんな…を、助け…たい、から……動く」
そう言ってすっくと立ち上がり男たちに向き直ったノーヴェの前髪に隠れて見えない左の目は、奥から青く発光しているように見えた。
「よく、も…エルシー、を……」
彼女の両側から二本の青白い閃光が見えたかと思うと、一瞬後には男の胸から腹部にかけて×印の裂傷が刻み込まれていた。
「! うぅっ……」
続いて、その隣の剣の男も腹部を両手で抑えてうずくまり、慌てて自由騎士たちはオルガンを自らのもとに引き寄せた。
「オマエらぁ!! 何が何でもそのデカい楽器を確保しろよ!!」
突然、銃の男の罵声が集会堂中に響いた。最早戦闘力は無いと見なされ、リンドウによってロープを巻き付けられている途中だったのだが、何とか折れた足を震わせながら立ち上がろうとし、声を限りに叫んだのだった。
「売った金を山分けしようと話したろうが!! 女子供に負けるような根性かよぉっ…ぐわぁっっ……」
言い切らぬうちに、男の後頭部に鈍い痛みが走った。しゃがんで頭を押さえるその後ろには、書物を手にして見下ろす痩せた男の姿があった。
「しつこいんンですよ。いい加減諦めて下さい。そのオルガン、何か間違いを起こしたら天罰が下るらしいですよ」
そう冷たい声で言い放つやいなや、最後の力を振り絞ったのか銃の男が突然リンドウの胸ぐらを掴んで持ち上げた。上を向かされた彼の、喉仏がひくっ、と上下に動く。
「知った風な口を聞くな。天罰があるとしたらな、俺たちにはとっくに下ってんだよ」
離そうとしない男の血管の漲った腕にリンドウは喰らいつく。食い込む犬歯から己の血が吸い取られていく感覚に男は悲鳴を上げ、リンドウを投げ飛ばした。
ドサッ!
「っ、ぅうっ……」
両者は同時に床へ仰向けに倒れ込む。
リンドウの顔が苦痛で顰められた様を目の当たりにして、途端にノーヴェが怯えだす。
「たいへん……悪いこと、したから……、天罰、下っちゃう……!」
「大丈夫だよ、ノーヴェちゃん。オルガンは傷ついてないんだから」
カノンはうろたえる彼女を優しくなだめると、男たちをキッと見据えた。
「もうオルガンを支える仲間も戦えないし、傷つけるつもりがないのなら降参したら?」
その時中心の男の脳裏には懐かしい情景が浮かんだ。幼子と戯れる己の少年時代、それが目の前のノーヴェを庇うカノンの勇姿と重なったのだ。
「…あ…あぁ…天罰があるとしたら、下されるのは私だ……」
男はガックリと膝を付き、項垂れた。
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「ほら、じっとして」
戦意喪失した男たちは、ノーヴェに抑え付けられながらカノン、エルシー、そして起き上がったリンドウによってロープで拘束されていく。
「こいつだよ。こいつが言い出しっぺだよ」
「元々はいいとこの貴族様だったらしいぜ」
剣と銃の二人が真ん中の男を肘で突いた。
「ああ、神よ。どうかこの私をお裁き下さい。
十年前に私の両親が死んでから、みるみるうちに家が貧しくなった。
家財の一切を売り払い、その中には妹が大事にしていたオルガンも含まれていた。
しばらく私は鉄工所、妹は家庭教師をしてなんとか生計を立てていたが、そのうち妹は病気になって床に臥せりがちになった。
あのオルガンに合わせて歌うのが大好きだった妹は満足な治療も受けられず動けなくなってしまった。
そんな時、修道院のオルガンは我が家から買い取られたものだという話を耳にした。
追い詰められた私はせめてあのオルガンが妹のそばにあることで少しでも元気になってくれたらと、荒くれ者たちを雇いあのような愚かな行為を……」
そこまで言って、男は顔を伏せた。
「何だと! そんならオルガンを売った金を山分けするってのは嘘だったのよ!!」
荒くれ者二人は男に食ってかかる。
その時、上から女性の声が響いた。
修道女が上階から集会堂を見下ろしている。
「確かに、貴方がたの行いは許されざる行為です。しかし、そのような事情がおありだったのですね」
「シスター! この通り、三人とも確保致しました!」
エルシーが上を向いて叫ぶと、修道女は階段を下りてきた。
「傷は付けていないつもりですが、どうですか?」
自由騎士たちが死守したオルガンを修道女は隈なく確認し、彼女たちに向かってにっこり微笑んだ。
「ええ、傷一つありません。よくぞ守り切ってくださいましたね」
その言葉に一斉に肩の力を抜いて安堵する自由騎士たち。
「ほら、貴方達。もう二度とこんな真似はしないとシスター達に約束しなさい!」
エルシーの口調は強いものではあったが、どこか憐れみを交えた声色だった。
「俺たちはこいつに騙されたんだってのに……」
剣と銃の男はそっぽを向き、吐き捨てるように呟く。
「何であれ、勝手によそ様の土地に忍び込んで物を拝借しようッてのは…まァ、あまり褒められた行為とは言えませンね」
神妙な顔つきで言うリンドウ。
空間には同情と憐憫の空気が満ちた。
修道女は中心で唇を噛み締めている男に目を向け、厳かな口調で語りかけた。
「もちろん然るべき罰は受けなければなりません。しかし償いを果たした後は、この修道院に妹君を参拝させてはいかがでしょうか。オルガンをお渡しすることは出来ませんが、讃美歌と共に奏でることは何時でも出来るのだから」
「……!では、またここに来てもいいという事ですね! ああ、ご慈悲を、ありがとうございます……」
男は天を仰ぎ、さめざめと涙した。
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その後、またバーバラに修道院からの手紙が届いた。
”先日は尽力して頂き、大変お世話になりました。
自由騎士の方々にも宜しくお伝えください。
さて、件の兄妹ですが、兄君が刑を終えた後に妹君を当修道院へ運び、集会堂の讃美歌を鑑賞させました。
妹君は病み衰えてはいましたが、オルガンの音色を聞くと微笑み、頬には赤みが戻ったように見えました。
今回の解決は皆様の協力なしには到底成立しなかったものと思います。
重ね重ね、お礼申し上げます。”
読み終わったバーバラは、そっと目を閉じた。
その耳には、微かな讃美歌とオルガンの音色が聞こえたような気がした。