MagiaSteam
廃鉱山の鉱毒流出停止作戦



「鉱山会社に勤めとる知り合いからな、相談がありましてん」

 『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は地図を広げ、兎の耳と束ねた桃色の髪をぴょこぴょこさせながら話し始めた。

「レグテール鉱山って知ってはります? そこの廃鉱から鉱毒が出てまして、近くの川に流出してるらしいんです」

 そのためにすぐ下流の農地が鉱毒を受け、農産物に被害が出ているという。

「そこの鉱山会社の評判にも関わりますんで、できれば話が大きくなる前になんとかして欲しいってことで、うちに相談が回ってきたんですのん」

 自由騎士のひとりが、訝しげに問い掛ける。
「しかしそれなら、どちらかといえば土木工事の領分でしょう。我々のような騎士を集めるからには、何か荒事の心配があるということですか」

 佐クラはうなずいた。
「実は……雨とかで勝手に流れ出て来るわけやのうて、どうも夜ごとに、何かが無理やり廃坑の奥から鉱石を運び出して、河に投げ込んでるらしいって目撃情報があるんです」

「なるほど」
「でも一体だれが?」
「何のためにそんな作業を?」

 口々に質問が飛ぶ。

「正確なとこは分かりまへんけど。目撃しはった人は、けっこう小型の、ヒト形の生き物って言うてはったらしいんです。だから十中八九は――」

「ノーム、ですか」

 一人が後を引き継いだ。
 ノーム。あるいは地霊小人とも呼ばれる種族。
 鉱山地帯に住み、人型で小型といえば誰もが連想する幻想種だ。小柄ではあるが身体的な頑強さはノウブルにひけをとらない。
 
「もとからレグテール鉱山は昔、ノームはんらの棲み処だったらしいんです。それを鉱業のために、業者が傭兵を雇って無理矢理追い出しはったとか……なにしろエドワード王はんの平等化推進が始まる前のことですんで、酷い話も色々と……」

「その報復として今、毒を流しているノームの残党がいるということですか」

 佐クラの兎の耳がぺこりと前に倒れた。
 頷いているのか、項垂れているのか。ある者たちは彼女の表情からそれを読み取ろうとしたが、はっきりした確信を持てた者はいなかった。

「そうなんですのん。現にノームも目撃されているらしいですし。同情しないこともないんですけど、昔のスキャンダルが公になる前に、彼らをなんとか退治して欲しいっていうのが、知り合いの本音です」

「やりましょう」と一人が言う。

「事情はどうあれ、ノームどもが傷つけているのは罪なき農民です。それに今、種族間の軋轢の種を秘密裏に減らせるのならば、それが国の利益にもなる。エドワード陛下の理想のためにも、私は参加します」

 幾人かが静かに頷いた。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
執行明
■成功条件
1.鉱毒を流出させている存在(20体)を全滅させる。
 オープニングの中では、エネミーは故郷を奪われたノームのテロリストであろうと推測されていますが、一応隠された真相があります。
 ただし一般的なノームのイメージからかけ離れた、極端な強敵が代わりに出て来るということはありません。戦闘面で「真相」を警戒することはないでしょう。

 条件としては夜間戦闘になります。
 敵は狭い坑道から出て来て、かつて鉱石輸送用の船を着けていた川べりまで鉱石を運んできて投げ込みます。
 積荷の上げ下ろしをしていたところですから広さはそれなりです。もし坑道にこちらから入って対処しようとするなら、かなり不自由な活動を強いられるでしょう。

 OPで佐クラが広げていた地図は写しをもらえている設定で、ユーザー側で用意していただく必要はありません。
 また移動についても基本的に鉱山会社が用意してくれた馬車に乗って行けますので、特に考える必要はないです。ただし独自の希望ルート(たとえば泳いでいって河の中から迎撃したいとか)がある場合は明記して頂ければ配慮します。
状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
20モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/8
公開日
2018年07月23日

†メイン参加者 6人†




 太陽が完全に沈み、少し遅れて空の赤らみも消えた。
 レグテール川の水面は月と星だけに照らされ、きらきらと静かに輝いていた。
 ノームの老人は岸辺の岩に腰掛け、水面に映る峻険な元鉱山を眺めていた。
ノームの眼にとって月夜は、人の眼にとっての晴天と変わらない。老いた彼の眼も例外なく。
(そろそろ……じゃな)
 老人は水面から顔を上げ、本物のレグテール山に目を移した。目の前の、もう使われていない船着場から続く道は、口のようにぽっかり開いた坑道に続いている。辺りには廃棄されたトロッコや、ヒトの鉱夫たちが使っていた様々の道具が乱雑に散らばっていた。数年前まで、彼ら鉱夫がここで汗と血に塗れて鉱石を運んでいたものだ。
 自分達を追い出した、この場所で――。
 
「よお、ノームの爺さん」
 低く野太い声に、老人は振り返った。
それと同時に、その喉元に白く輝く剣先が突き付けられる。
「動くなよ。ツノのお嬢ちゃんは怖い娘だぜ」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は腕組みをして老人を見下ろした。
「自由騎士団だ。単刀直入に聞こう、毒物テロの首謀者はあんたか? イエスなら逮捕する。抵抗は無意味だ」
「いえ、無意味ということもないでしょう」
『一刃にて天つ国迄斬り往くは』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は冷たく訂正した。愛刀・逢瀬乱切丸をゆっくりと老人の喉に這わせながら。
「抵抗は、死を意味します」
 ノームの老人は数秒、怪訝な表情を浮かべて2人を見比べていた。そして徐々に口元を歪ませると、何かを悟ったように笑い出した。まるで、手の込んだ冗談話の笑いどころが漸く分かったときのように。
「そうか、そうか! お前たち、儂らが毒を投げ込んで居るように見えるのか! そうかそうか……!」
 ひとしきり大笑いすると、老ノームは熊と鬼を睨みつけて毒づいた。
「愚かなものよ。お前達も同じくヒトに虐げられてきた種族であろうに。自由騎士などというおだてに乗って舞い上がり、ものを見る目が腐ったかのう? 悪しきものは全てヒト以外に見えるようにな!」
「……なんだと?」
 そのとき、川べりで待ち伏せていた『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)が手振りをした。来たぞ、の合図である。
彼の鋭聴力が、坑道から出てこようとする者の音を聞きつけたのだ。。
 

 老人はカスカから腹に膝蹴りを入れられ、昏倒する。その体を熊の大腕が抱え上げ、待機中の『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)に投げ渡した。
見事な連携である。
「どうも自由騎士になってから、こんな巻き方をするほうが多い気がするぜ……」
包帯を捕縄とさるぐつわ代わりにして、手早くノームを拘束しながらツボミはぼやいた。

「いるぞ! 入口のすぐ向こうだ」
 夜目の効くウェルスには、坑道のなかに蠢く小柄な何かが、確かに見えていた。

 6人は打ち合わせ通りに行動を始めた。
カスカが追い付いたことを確認すると、『ビッグ・ヴィーナス』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は自身にウォーモンガーを施した。カスカ自身もラピッドジーンを使う。
 互いに背後を守り合いながら、なるべく多くの敵を始末する。
その範囲に入らない者、無視して川まで進もうとする者は、ウェルスとジークベルトのガンナー2名が銃で個別に狙い撃つ。それをかいくぐって川に近づかせてしまった者がいればツボミと、そして最後のひとり『知りたがりのクイニィー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)が対応する。

 暗闇にまぎれて出てきた人影たちは、明らかに小柄であった。
 服装は半裸か、あるいはぼろ布のようなものを身にまとっており、両手に、抱えるようにして大量の石ころを持っている。それを川に投げ込もうというのだろう。
「止めるのじゃお主等! そんなことに何の意味がある!」
 シノピリカは鋼に覆われた左腕で、気合を込めて最初の小人が抱える石を薙ぎ払った。数十個の石塊は飛び散り、小人の身体も後方に3メートルほどの吹き飛ぶ。
 小人はすぐに立ち上がり、シノピリカに向かって飛びかかって来た。
 後続の小人たちはその周囲を避けるように、同じように大量の石くれを抱えて行った。思い石を抱えているので動きは遅い。夜間とはいえ前衛の戦士たちにも、後方のガンナーたちにとっても狙いをつけるのは容易であった。

「なんかさ。らしくない感じだよね。ノームにしては」
 クイニィーが呟く。
「君もやっぱりそう思うか?」
 ツボミのエネミースキャンの結果も同じであった。
 彼らには、知性が感じられない。ノームとしても、計画的に悪事を働いているはずのテロリストとしても。
 一般にノームは知性のある幻想種である。地底に暮らしていても衣服や道具は都会に住むものと遜色はない。なのに彼らは、粗末な布だけを身体にまとい、敵襲に備えた武器も用意していないようだ。それどころか石の運搬にさえ道具を活用するそぶりがない。

 同じ疑問に、実際に相手をしている前衛2名も辿り着いていた。
「カスカ、やっぱりこいつらおかしくないか?」
「ええ……以前のあれに似た感じがします」
 小人たちは運んでいる石塊以外、武器を持っているように見えない。
ならば警戒しなければならない攻撃は魔術の類を除けば、投石だ。戦闘の熟練者に対しても、数名の素人が対抗できる方法の一つである。幾つもの石を同時に投げつけられれば防ぐのは至難だ。一揆の鎮圧に参加した高名な剣豪が、農民の投石であっさり命を落とした例もある。
 そのいちばん有効な攻撃をしてこないのだ。
 こちらに打ち倒されても、石を拾うか近くの者に素手で襲い掛かるばかり。
「やるぞ! オーバーブラストッ!」
 シノピリカの左腕が凄まじい威力で大地に叩き付けられた。衝撃が地走って周辺の小人たちを襲う。ほとんどが振動で石を取り落とし、その下敷きになる者もいる。
 伊達に技の名前を叫んだのではない。その声を合図にカスカが跳躍していた。仲間の肩に足を掛け、2度目のジャンプ。オニヒトの剣士は振動がおさまってからふわりと着地し、そばにいる2体を瞬時に切り捨てた。
 衝撃から立ち直った小人は、2人の近くにいる者たちだけが襲ってきたが、残りは落とした石を拾い集めている。
 
「シノピリカさん、こいつらやっぱり――」
 カスカが言い掛けた結論を横取りしたのは、川べりからのツボミとクイニィーの声だった。
「カスカぁ! シノピリカぁ! そいつら生きてないぜ! イブリースだ!」
「たぶん人間の還リビトだよぉー!」
 
「……今の、聞こえたかな?」
「おそらく聞こえたでしょう。もしかしたら自分達の発砲音が邪魔したかもしれませんが、あの方々ならばもう気付いている頃です」
 そう言いながら、ジークベルトは続けざまに3体、ヘッドショットで還リビトを沈黙させた。
 相手が死者である、と分かると銃撃組の効率は俄然向上した。
 距離がある相手を殺さずに仕留めたいなら、頭部を狙う訳にはいかない。今までは相手をノームのテロリストと考えていたので、尋問の必要性からなるべく殺害を避けていた。さらに大量に抱えている石が盾となり、胴体を狙い辛くなっていた。そのため銃撃組はダブルシェルで石の山を弾き飛ばし、2度目の射撃で倒れた本体を狙う。そんな戦い方になっていた。
 だがヘッドショット解禁となれば話は違ってくる。
「ヒュー! 思いっきり撃てるとなると気分が違うねえ!」
「ええ、これで相手が……いえ、なんでもありません」
 青年軍人は暗い気持ちを押し込めるように呟いた。その表情をちらりと見て、熊の捜査官も沈痛な面持ちになる。
「……そうだな。あんな子供らでさえなきゃあな」
 そう、小人と見間違える大きさのヒトの死体。それはすなわち、子供の死体だった。栄養失調で実際より幼く見える面もあるかもしれないが、主に4~6歳。年長の者で8歳程度といったところだろう。掘る坑道が狭くて済むからという、ただそれだけの理由で死ぬまで働かされ、鉱山の中で息絶えた子供たちだった。
「よくある話さ」
「はい、感情は挟みません」
 そう。自由騎士団にとって、こういった話は決して初めてではない。このメンバーの中にも、すでに子供の還リビトの処分に携わったことのある者もいる。今まさに彼らと切り結んでいる二人――カスカとシノピリカがそうだった。

「それにしても、前とは違うのう。あまりワシらを攻撃してこんようじゃ」
「ええ。まるで石を持って、川に辿り着くことだけが目的みたいです」
 還リビトの戦闘力や戦闘傾向は、様々な条件で異なる。
 生前の体力や人格、健康状態。死因による体の損壊の程度。遺体の保存状態。そして抱えている執着。
 それらすべてが表面的には同じであったとしても、なお還リビトの在り方は多様である。恨みのある当人だけを付け狙う者、その血筋を引く者に償いをせまる者、生者すべてに禍をなそうとする者。そして生前の行動を繰り返す者。
 先ほどのオーバーブラストで動きを止めた子供達に「とどめ」を刺し終わったとき、動ける子供はすでに二人の交戦範囲から抜け、川に向かってしまっていた。
「生きてた頃もこうだったのじゃろうな。怖い大人たちに脅され、怒鳴られ、殴られて……あの船着場に石を運ぶことしか考えられんようにされたんじゃろうな」
 銃撃のペースが落ちた。
 自分たちから比較的離れた還リビトだけが、散発的に撃たれてゆく。
「カスカ戻るぞ!」「はい!」
 ターゲットの後方に自分たちがいては、ウェルスとジークベルトが思うように戦うことができないのだ。戦士組2人の切り替えは迅速だった。
「今は任せて! ちょっとだけだけど!」
 クイニィーの錬金術によって作り出された人形兵士が、子供たちの前に立ちはだかった。人形ゆえの容赦のない一撃が、幼い死者たちを蹴散らして消滅する。
 その直後、彼らは矢のような速度で追いすがったカスカに後方から首を刎ねられた。
 最後にシノピリカが合流する。左腕に纏わりついた、おそらくは少女の頭を地面に叩き付けて砕きながら。
 酸鼻を極めるような戦い方だったが、そんな方法が最善なのだ。この子供たちを、一瞬でも早く昇天させてやるためには。
 
 小さな死者たちは残り数体。6人の大人がその前に立ちはだかっていた。
 子供たちが死者なりに懸命に負わせたであろうシノピリカとカスカの軽傷は、もう跡形も残っていない。ツボミの治癒が全て消し去ってしまった。
「ごめんな」
 誰かがそう呟いた。
「大人に怖い目に遭わされるのは、これが最後だから」
 それぞれの銃口と刃が、一斉に光を放った。
 

「お疲れ様でした。皆さん」
 佐クラは深々と6人に頭(特に耳)を下げた。
「今回はほんまに、つらい仕事を頼むことになってしまって、申し訳ないと思ってます」
「気になさらないでください。誰かがするべきことをするのが、自由騎士です」
 ジークベルトが生真面目に答える。
 クイニィーが尋ねた。
「ところで佐クラさん、あのノームの爺ちゃんは? 結局、あの人が還リビトを操ってたってわけじゃないんでしょ?」
「あのひとは故郷恋しさに、こっそり廃鉱山に帰って住んではっただけらしいです。夜な夜なあの子たちが石運びを繰り返しているのを、ただ見ていることしかできなかったと……山に戻られたら、子供たちのお墓を作るそうです。皆さんに伝えてほしいと言ってはりました。『ありがとう』って」
「そうだったのか。なんか、いきなりふんじばって悪い事したなぁ」
 ツボミがぼやき、カスカは少しだけきまり悪げに俯く。
「それで、例のうちの知り合いの奥様から手紙が来ましてん。実は鉱山会社は、自分達で雇った傭兵に、犯人を退治させるつもりだったらしいのんです。真相はどうあれ、全てノームはんらの仕業という筋書にして」
 ウェルスは舌打ちをした。
「昔の悪事を隠すのに必死かよ、クソ野郎どもが!」
 だが、佐クラは憂鬱そうに首を振った。
「それもありますけど、レグテール鉱山から追われたノームはんらが移った山脈にも、豊富な鉱脈が見つかりましてん」
「おいそれはどういう」「ちょっと待って」
 騎士たちはざわついた。
 怒りを抑えながらカスカが問い質す。
「つまりこういう事ですか。彼らはその新しい棲み処からもノームを追い立てるため、ノームという幻想種自体に、テロリストのレッテルを貼りたかった、と」
 それはオニヒトの彼女にとっても、決して他人事ではなかった。
「はい」
「そんな……」
「鉱山開発をしようとしたら、その地下にはもうノームはんらが住んではった、そんなことは今までも幾らでもあったんですのん。テロ事件をきっかけに世論がノームを悪者にしたら、この件だけやなくて今後もずっと争いを有利に進められる――でもそんなことになったら、単なる鉱山の取り合いでは済まなくなります。ノウブルとノームそのものが、長いこと敵対することになっていたかもしれません。うちの知り合いも会社に訴えたらしいんですが、もう決定事項やと。個人では証拠を持ち出すことさえままならなくて、会社が実行に移す前に騎士団に解決してもらえないかって……」
「待ってよ」
 再びクイニィーが口を挟む。
「さっきさ。奥様から手紙がきたって言ったけど、知り合いさん本人はどうしたの?」
 佐クラの耳が、はっきりと項垂れた。
「行方不明なんです。たぶんもう、消されてはるんやと思います」
 

「そう思いつめない方がいいですよ」
 打ち上げの席で、まだ暗い顔をしているジークベルトにカスカは話し掛けた。グラスを揺らし、転がる氷を眺めながら。
「……ええ、大丈夫です。俺達は、あの子たちを救えたんですよね」
「そうだよ! あたしたちの立場では、それで上々さ」
 クイニィーはつまみを口に入れたばかりだったが、器用にしゃべる。膨らませたほっぺたに食物を移しているから、食べながらでも口籠ることなく話せるのだ。シマリスのケモノビトならではの特技である。
「それだけじゃねえよ。起こったかもしれねえノームとの戦いだって、未然に防いだんだぜ。17歳の少年軍人としちゃ、大した手柄じゃねえか」
 毛むくじゃらの大きな手が、若者の頭をわしわしと撫でた。
「皆さん、ありがとうございます、少し元気が出ました」
 嘘ではない。が、全く無理をしていないわけでもない笑顔で彼は答える。
「にしても、未成年ってのはこういう時不便なもんだな。酒で気を晴らせねえってのは。ま、それもあと少しの辛抱だぜ」
 額の眼でツボミがウィンクしてみせる。
「そうじゃ。それに騎士団の方からは、鉱毒事件そのものの真相については公表できる。佐クラ殿の知り合いの行方不明事件については、我々は直接証拠を握っておらんがな」
 シノピリカは、酒で赤らんではいるが真剣に語り始めた。
「この国はエドワード陛下の即位以来、かなりの速さで良い方に向かっておる。これほど色々な種族が酒席を共にすることなど、昔はまずなかったのじゃ。例の会社のように邪魔する者も多いが、国中で大勢の努力がこの状況を作っておる。お主はそのうちの一人として、確かに力を発揮したのじゃ。今後もお主ができることも、救える命も、まだまだ沢山あるはずじゃ。期待しておるぞ」
「俺にできること――」
 少年の眼の光が、ただの憂鬱さから、希望と決意の光に変わった。
「俺、あの鉱山会社のことをもう少し調べてみます。何かわかるかもしれません」
「あたしもやるよ! 情報収集なら任せて!」


 とある社会心理学者――この時代にはまだない学問だが――が、後にこんな調査を発表している。
 差別や偏見は、ただ相手がそばにいるだけでは解消しない。
 思い込みに合致する面だけが目について、ますます助長されていくだけだ。
 差別・偏見とは、何かを協力して成し遂げることによって解消されていくのだ、と。

 その学者はもちろん知らない。
 この時代、この場所に、自説のこんな好例があったことを。

†シナリオ結果†

大成功

†詳細†

称号付与
『揺れる豊穣の大地』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『桃色のタウラス』
取得者: カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
『旅するプレイベアー』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『包帯のあやとり名人』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『銃弾は裁きの鉛槌』
取得者: ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)
FL送付済