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迷子とオラトリオ・マーケット

●
オラトリオ・オデッセイ。神の誕生を祝うお祭り。
プレゼント交換をしたり、ご馳走を食べたり。大切な誰かと、愛を深めあったり。
楽しみ方はそれぞれだが、誰もが神が誕生したその日を楽しみに待っている。
そして、イ・ラプセルのアデレード港町でも、オラトリオ・オデッセイのためのオラトリオ・マーケットが開かれていた。
マーケットの中心にはツリーが飾られ、どこからか聞こえてくるのは、楽器の音と歌声。
通りでは、たくさんの買い物袋を抱えたひとや、チュロスを頬張るひと。いろいろなひとたちが楽しそうに行き交っている。
そんな華やかなマーケットの片隅で、靴磨きに励むミズヒトの少年がひとり。
「はい、おーわり。キレイになったでしょ? またどうぞ!」
今、靴を磨き終えたばかりのお客さんを、ひらひらと手を振って見送る。僅かな報酬をポケットに突っ込んでいたら、ひとの気配。ふと、視線を上げると。
そこには、ぐずぐずと目に涙をいっぱいに溜めた、ミズヒトの子供が立っていた。
「……えーっと……、………お客さん、じゃないよね……?」
●
その日、マーケットを歩いていたのは偶然で。声を掛けられたのも、偶然だった。
「あーっ、ちょっと待って! 自由騎士のひと、だよねっ!?」
不意に背後から掛けられた声。振り向けば、ミズヒトの少年が、同じくミズヒトの子供の手を引いて立っていた。
「もし、手が空いていたら、なんだけど。手助けして欲しくて!」
お願い!と頭を下げたミズヒトの少年は『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)。どうやら、最近自由騎士になったばかりの新人のようだ。
サミュエルは迷子に出会ったいきさつ、親を探そうとしたもののマーケットに来ているひとが多すぎてひとりでは見つけられなそうなことを自由騎士に話した。
「それに、ボクみたいな新人より、国に貢献している自由騎士のひとが一緒なら安心だろうし」
実際、サミュエルがちら、とミズヒトの子供に目をやれば、子供は心なしかきらきらした瞳でじぃっと自由騎士のことを見上げている、気がする。
今日は仕事をしにきた訳ではないのだけれど、そんな瞳で見られるとなんだか断りづらい。
困っている国民のため、地道なこともコツコツと。これも自由騎士団のお仕事なのです。
オラトリオ・オデッセイ。神の誕生を祝うお祭り。
プレゼント交換をしたり、ご馳走を食べたり。大切な誰かと、愛を深めあったり。
楽しみ方はそれぞれだが、誰もが神が誕生したその日を楽しみに待っている。
そして、イ・ラプセルのアデレード港町でも、オラトリオ・オデッセイのためのオラトリオ・マーケットが開かれていた。
マーケットの中心にはツリーが飾られ、どこからか聞こえてくるのは、楽器の音と歌声。
通りでは、たくさんの買い物袋を抱えたひとや、チュロスを頬張るひと。いろいろなひとたちが楽しそうに行き交っている。
そんな華やかなマーケットの片隅で、靴磨きに励むミズヒトの少年がひとり。
「はい、おーわり。キレイになったでしょ? またどうぞ!」
今、靴を磨き終えたばかりのお客さんを、ひらひらと手を振って見送る。僅かな報酬をポケットに突っ込んでいたら、ひとの気配。ふと、視線を上げると。
そこには、ぐずぐずと目に涙をいっぱいに溜めた、ミズヒトの子供が立っていた。
「……えーっと……、………お客さん、じゃないよね……?」
●
その日、マーケットを歩いていたのは偶然で。声を掛けられたのも、偶然だった。
「あーっ、ちょっと待って! 自由騎士のひと、だよねっ!?」
不意に背後から掛けられた声。振り向けば、ミズヒトの少年が、同じくミズヒトの子供の手を引いて立っていた。
「もし、手が空いていたら、なんだけど。手助けして欲しくて!」
お願い!と頭を下げたミズヒトの少年は『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)。どうやら、最近自由騎士になったばかりの新人のようだ。
サミュエルは迷子に出会ったいきさつ、親を探そうとしたもののマーケットに来ているひとが多すぎてひとりでは見つけられなそうなことを自由騎士に話した。
「それに、ボクみたいな新人より、国に貢献している自由騎士のひとが一緒なら安心だろうし」
実際、サミュエルがちら、とミズヒトの子供に目をやれば、子供は心なしかきらきらした瞳でじぃっと自由騎士のことを見上げている、気がする。
今日は仕事をしにきた訳ではないのだけれど、そんな瞳で見られるとなんだか断りづらい。
困っている国民のため、地道なこともコツコツと。これも自由騎士団のお仕事なのです。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.迷子の子供の両親、どちらかを見つけて帰してあげること
きらきらしている街に心を躍らせるより、寒いことに参っているあまのいろはです。
でもお祭りは楽しみ! オラトリオ・オデッセイまであとすこしですね!
●ミズヒトの子供『ルーファス』
迷子になってしまった、ミズヒトの男の子。(自称)5歳。
自分の名前以外の情報はあやふやですが、両親もミズヒトのようです。
最初は人見知りするかもしれませんが、慣れればよく喋る普通の男の子。
サミュエルがざっくり聞きだした情報によると、
迷子になっている現時点での所持品は、クマのぬいぐるみとキャンディ。
自由騎士団のことは、ヒーローのように思っているようです。
●場所
アデレード港町のマーケット。時間帯は昼。
オラトリオ・オデッセイのために飾り付けられていて、とても華やか。
いつもはないお店も出ているようで、いつも以上にひとが多いようです。
出ているお店は、
キャンドルやオーナメントなどオラトリオ・オデッセイにちなんだお店や、
マフラーや文房具、絵本などの雑貨や、ジュエリーなどなど。結構雑多にいろいろ。
食べ物はクレープや、チキンレッグ、ホットワインやホットチョコレートなど、
食べ歩きしやすいものが多めです。もちろん座って食べる場所もあります。
●同行
サミュエル・マシューズ(nCL3000049)が同行します。
何かご指示がありましたらどうぞ。スキルは活性化している範囲で使用可能です。
依頼相談掲示板で【サミュエル】と書かれている一番新しい発言を参照致します。
特に指示がなければ、子供がいなくならないように様子を見ています。
●補足
無事迷子の子供を両親に届けることが出来たら、マーケットを楽しんで大丈夫。
出店で食べたり飲んだり、誰かにプレゼントを買ってみたり。
でも、未成年の飲酒喫煙はダメです。公序良俗には配慮するようにお願いします。
情報は以上となります。人助けついでに、楽しい時間をお過ごしください。
でもお祭りは楽しみ! オラトリオ・オデッセイまであとすこしですね!
●ミズヒトの子供『ルーファス』
迷子になってしまった、ミズヒトの男の子。(自称)5歳。
自分の名前以外の情報はあやふやですが、両親もミズヒトのようです。
最初は人見知りするかもしれませんが、慣れればよく喋る普通の男の子。
サミュエルがざっくり聞きだした情報によると、
迷子になっている現時点での所持品は、クマのぬいぐるみとキャンディ。
自由騎士団のことは、ヒーローのように思っているようです。
●場所
アデレード港町のマーケット。時間帯は昼。
オラトリオ・オデッセイのために飾り付けられていて、とても華やか。
いつもはないお店も出ているようで、いつも以上にひとが多いようです。
出ているお店は、
キャンドルやオーナメントなどオラトリオ・オデッセイにちなんだお店や、
マフラーや文房具、絵本などの雑貨や、ジュエリーなどなど。結構雑多にいろいろ。
食べ物はクレープや、チキンレッグ、ホットワインやホットチョコレートなど、
食べ歩きしやすいものが多めです。もちろん座って食べる場所もあります。
●同行
サミュエル・マシューズ(nCL3000049)が同行します。
何かご指示がありましたらどうぞ。スキルは活性化している範囲で使用可能です。
依頼相談掲示板で【サミュエル】と書かれている一番新しい発言を参照致します。
特に指示がなければ、子供がいなくならないように様子を見ています。
●補足
無事迷子の子供を両親に届けることが出来たら、マーケットを楽しんで大丈夫。
出店で食べたり飲んだり、誰かにプレゼントを買ってみたり。
でも、未成年の飲酒喫煙はダメです。公序良俗には配慮するようにお願いします。
情報は以上となります。人助けついでに、楽しい時間をお過ごしください。

状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
1個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2018年12月23日
2018年12月23日
†メイン参加者 6人†
●
オラトリオ・オデッセイが近い今日、アデレード港町ではオラトリオ・マーケットが開かれていた。『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)も、マーケットを覗きに来たひとり。
「ただ買い出しに来ただけのはずが、なんだか妙な事に巻き込まれましたね」
カスカが瞳だけを動かした先には、ミズヒトの男の子。どうやら迷子らしい。
「自由騎士と言えば何でも自由に請けてくれると、便利に思われてる節がありますよね」
彼女は、事実そうなんですけど、と続ける。あまり表情を表に出さない彼女だからどうしても感情が読み取りづらい。また、整った顔立ちはそれに拍車を掛ける。
カスカの顔を見上げたミズヒトの男の子、―――ルーファスは何か言いたそうに、けれど動きを止めた。視線に気付いて、僅かに首を傾げる。
「カスカさんのこと知ってるんだって。ほら。自由騎士って今や、子供たちの英雄だから」
助け舟を出したのは『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)。特にカスカさんは華々しいから、と付け加えてけらけら笑った。
その言葉を受けたカスカは、僅かに、ほんの僅かに目を見開いて。すこしだけ居心地が悪そうに、視線を落とす。
「……英雄視されるのも人助けもどちらも柄じゃないんですが」
ルーファスの目が憧憬を込めていることは、なんとなく理解できた。カスカは、ちいさな溜息をひとつ。
「私の力の及ぶ範囲で最善かつ最速の解決を図るとしましょう」
子供心の憧憬をわざわざぶち壊すような悪い趣味は持ってませんからね、と言い残して、ふらりと人込みのなかに姿を消した。
『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は、マーケットに漂うおいしそうな香りに釣られて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。だから、馴染みのある顔を見つけたのは偶然だった。
「あれ? サミュエル、何か困ったことでもあったー?」
「迷子の親探し中! ルーファスくん5歳!」
サシャの問いに困ったように笑うサミュエルと迷子のルーファスの側には、『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)も立っている。
「僕だったら、このくらい歳で迷子になったら絶対心細いなあ……」
親御さんも心配しているだろうし、と考えながらルーファスをまじまじと見詰めるトットの耳が、しおしお垂れる。
サシャは不安そうなルーファスの背中を軽く叩きながら、いっぱいの笑顔で言った。
「ルーファス、泣いていてはいけないんだぞ! ひとつおにーちゃんになる試練なんだぞ!」
「………うん。大丈夫だよ。早く会わせてあげられるように頑張るから」
まずは僕たちに慣れてもらえるようにしなくちゃ、とルーファスの側にしゃがみ込んだ。
「えと……耳でも触る? これなら手が届くかな」
ルーファスはトットの耳におずおずっと手を伸ばして、トットの耳をふにふにふに。
「……やわらかいね」
暫くトットの耳をふにふにしたルーファスがふんわりと微笑んだ。きっと、緊張も解けたのだろう。笑った顔は、幼い子供そのものだ。
「よーし! パパとママを見つける、これが今日のミッションなんだぞ!」
ゲームのように親探しをすれば、すこしは楽しくなるかもしれないと考えたサシャ。
「サシャ達はルーファスのミッションをお手伝いするお手伝いヒーローなんだぞ!」
サシャがえっへんと胸を張った。耳と尻尾が、ぴこぴこ揺れている。いちばん楽しんでいるのは彼女なのでは、と思ったりもしたがその場にいた誰も口には出さなかった。
●
「おや」
ちいさな子供を連れだって歩く自由騎士の姿は、『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)には奇妙に見えた。
何をしているのかと声を掛ければ、迷子の親探し!という声がが返ってくる。アルビノは、ふむ、とちいさく頷いてから、ワタシも協力していいかな、と微笑んだ。もちろん、その申し出を断る自由騎士はいない。
アルビノは片手を胸にあて、どことなく芝居掛かった動きでルーファスにお辞儀をする。
「やぁ。僕たちは自由騎士団。この国を護るため、日夜働いているよ」
知っているかな、と聞けばルーファスはこくんと頷いた。
「自由騎士のひとたちは、お国を守るお仕事をしているって。パパとママが。おともだちも」
物知りだね、とひとの手でルーファスの頭を軽く撫でる。でも、国だけじゃないよ、とアルビノは優しく笑って。
「キミのような迷子を送り届けるのだって立派なお仕事なんだ」
アルビノは続ける。
だって自由騎士はこの国の人々みなの助けになるためにいるんだからね。だからキミも安心して欲しい。必ずお父さんとお母さんに合わせてあげるから。
「約束しよう。これは騎士の約束。必ず果たされる約束なのだよ」
約束のしるしに、と小指を差し出せば、ルーファスも小指を差し出す。ふたりの小指が静かに絡んだ。
「そういえば名前はなんていうんだい?」
ルーファス、と名乗った彼にいい名前だねと告げれば、照れくさそうにルーファスが笑う。
「あら、英羽さん。お買い物ですか?」
「……アーベントさん? いえ。迷子探しの手伝いを頼まれて来たのですが……」
お恥ずかしいことにまだ合流出来ていないのです、と告げたのは『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)。
それを聞いた『蒼の彼方の傍観者』サラ・アーベント(CL3000443)は、くすくすと笑ってから、あそこにおりますよ、と嫋やかな動きで賑やかな集団を指差す。
「高いの羨ましいんだぞ! かっこいいんだぞ!」
「年下の兄弟にしてあげたら喜んでくれたことを思い出して……」
指差した先には、肩車されているミズヒトの男の子。肩車をしているのは、トットだった。
トットは肩車をしながらも、耳だけはぴくぴくと動かして周囲の音をしっかりと聞いている。鋭聴力を使い、子供を探す親の声を拾っているのだ。
「……随分と賑やかになっていますね」
「ええ、皆さん楽しんでらっしゃるようですよ」
くすくす、おかしそうに笑うサラを見て、月秋はほんの僅かに首を傾げた。
「アーベントさんは一緒に行動しないんですか?」
月秋の問いも、変わらぬ笑顔で受け止めたサラは、私は傍観者ですから、と呟いた。
こうして、月秋もすこし遅れて自由騎士たちに合流した。
挨拶を、と、月秋はふたつの人形、――カワホリとタタラバを携えて、彼の側にしゃがみこんで視線を合わせる。
「英羽・月秋です。こちらはカワホリとタタラバ。……ご一緒しても?」
月秋の丁寧な申し出に、ルーファスはこくり、と頷く。言葉がなかったのは、はじめて見る異形の人形がすこし怖かったのかもしれない。
けれど、月秋の言葉は優しく、人形もかたかたカラカラ笑ったように見えたから。怖さはすぐに消えたようだった。
こうして、気付けば大所帯になった迷子と自由騎士たちは、また親探しに繰り出すのだった。
カスカは、情報収集や斥候のスキルを用いて、とても効率的に情報を集めていた。人が多いと見つけづらいのは確かだが、逆に言えば多くの人の目があるということ。
(子供を捜して心配そうにウロウロしている夫婦とくれば、特定は容易でしょう)
聞いて回るだけでは時間が惜しいので、群集のなかからの盗み聞きも辞さない。
「………あれは」
自らの足と、能力を最大限に使って。マーケットを見回していたカスカに、ひとりのミズヒトの女性が目に留まった。
その女性はそわそわとなんだか落ち着かない様子で、マーケットの雰囲気に似合わない。もしかして、と呟いた彼女は、その女性へと歩み寄る。
●
自由騎士たちは、ルーファスと一緒に買い食いをしながらマーケットを巡る。
もちろん、親探しを忘れたわけではない。ルーファスが寂しくないようゲームのようにマーケットを巡りをしようとした結果だ。
「ワタシは少しつまみ食いをしようと思うのだけど、君にも手伝ってもらえないかな」
皆で分けたほうがいろいろなものを摘まめるからね、とアルビノが、一口サイズのシュークリームを手渡した。ルーファスだけでなく、分けてもらった自由騎士もぱくり。
「あそこのクレープ、美味しそうですね。食べ歩きも出来ますし」
「あっちからも、いいにおいがするんだぞ!」
月秋がクレープに足を止める。サシャがいい香りのする方へ引き寄せられていく。
チキンレッグに、ホットチョコレート。色とりどりのキャンディは目を引く。
ルーファスが気にした素振りを見せたお店はもちろん、自由騎士たちが気になったお店でも足を止めるものだから、ルーファスの手には、いつの間にかオモチャやお菓子が増えている。
こんなにたくさんの物を買ってもらったことが知れたら、両親に怒られそうな気がするが、それはそれ。ちょっと横に置いておく。
マーケットを楽しく巡りながら親探しをしていた自由騎士たちだったが、ルーファスを肩車していたトットがぴた、と足を止めた。
「あれ? うー……ん? さっきまで名前を呼ぶ声が聞こえてたんだけど……」
自由騎士たちは、当てずっぽうに歩いていたわけではなく、集めた情報や声を頼りにマーケットを歩いていたのだ。
けれど、その声が聞こえなくなっちゃったなあ、とトットは困り顔。自由騎士たちも、無闇に歩き回るのはどうかと足を止める。
困り顔の自由騎士を見て、ルーファスもすこしだけ不安な顔をしそうになった、その時。
マキナ=ギアの通信に、はっと自由騎士たちが顔を見合わせた。通信はカスカからだった。
『……えーっと、どなたか聞こえます? ルーファスの親御さんを見つけたのですが』
両親を見つけたこと、一緒にツリーの近くにいること、そこで待っていることを告げると、通信は途切れた。
「―――……ああ、よかった。一安心だね」
アルビノがルーファスに向かって微笑んだ。あとは、彼を両親の元に届けるだけ。ルーファスの顔からは、不安そうな色は消えている。
自由騎士たちは、マーケットの象徴でもある、大きなツリーの方向を見た。ここからだと、すこし遠い。
「はやく会わせてあげたいですね」
「……空から行ったらどうでしょう」
「ああ、いいんじゃないかな。目立つだろうし。ね」
任せることになるけど、いいかい?とアルビノが聞けば、サラと月秋が任せてくださいと笑って見せた。
「空の散歩、楽しそうなんだぞ……。サシャも飛んでみたいけど、おねいさんだから……」
我慢するぞ、と、ぐっとこぶしを握る。くすくすと笑ったサラは、ルーファスをしっかりと抱えた。
「一緒について行きますよ」
月秋も、その横に並ぶ。それでは、とふわりと舞い上がったソラビトふたりを見上げながら、飛べない自由騎士たちは人込みをうまく避けながら地上を歩いていく。
「……むむ。楽しそうなんだぞ」
けれど、飛行する姿を見ながらゆらゆら動くサシャの尻尾は、空を飛びたい気持ちが隠しきれていなかった。そんなサシャを見て、地上を歩く自由騎士たちはくすくすと忍び笑った。
ルーファスと月秋、サラが人込みを飛び越えて空を飛ぶ。
空を飛ぶ浮遊感を味わうのは、ミズヒトの彼にとって初めての経験なのだろう。ぎゅう、とルーファスがしがみつく。
「……大丈夫ですよ。落としたりしませんから」
安心させようとサラが微笑む。空を飛べば、ツリーへ辿り着くのはすぐだった。
ミズヒトの夫婦とカスカの姿を見つけると、空からすとんと舞い降りる。怖くはなかったですか?と笑って。月秋は彼の頭を軽く撫でた。
「ちょっとした空の冒険、楽しんでくれたのなら幸いですよ」
舞い降りた先には、ミズヒトの夫婦。―――ルーファスの両親が立っている。
両親はオモチャやお菓子をいっぱい抱えたルーファスの姿を見て顔を見合わせたが、それも一瞬。母親がルーファスに向かって駆けて来る。
「ルーファス…!!」
我が子元に辿り着いた彼女は、ぎゅうと力強く、けれども優しく抱きしめた。カスカの側に立っていた父親も、すこし遅れて駆け寄ると、並ぶ自由騎士たちに頭を下げる。
「………ママ、くるしい」
そういうルーファスだったが、彼の言葉が震えていること、目にいっぱいの涙が浮かんでいることは、その場にいる誰もが分かった。
地上を歩いてきた自由騎士たちもツリーへと辿り着いたようで、その様子をそっと見守る。
「お父さんとお母さんに会えてよかったね。もう、はぐれちゃだめだよ」
「これでルーファスも一つ大人に近づいたんだぞ! えらいんだぞ!」
トットがバイバイ、と手を振った。サシャも力強く手を振る。
ほら、約束は果たされただろう、と微笑みながら。アルビノは、ルーファスの前に膝を付く。
「キミが自由騎士の門をたたくことを心待ちにしているよ。小さな英雄さん」
「また大人に近づくミッションがあるときは、サシャはいつでも手伝ってやるぞ!」
ありがとう、と言って恥ずかしそうに笑ったルーファスは、自由騎士たちに手を振る。両親ももう一度自由騎士たちに深々と頭を下げた。
仲良く手を繋いで歩くさんにんの影がちいさくなるまで、自由騎士たちは見送っていた。
●
「……なんだか兄弟達や、故郷を出た時のことを思い出しちゃうなあ」
さんにんの姿が見えなくなってから、そう呟いたトットの耳がしおしお垂れた。
「きっとお腹がすいてるからしんみりしちゃうんだ」
「おなかが空いた? よし、そんなときはお肉だぞ!」
トットの言葉にサシャがぴくん、と反応する。ぱたぱたと尻尾も動いている。
「牛でも豚でも鶏でも魚でも何でもいいぞ! 肉を食べてパワーアップするぞー!」
サシャの尻尾が、ぶんぶんぶんと振り切れそうなくらい激しく動いている。アルビノはそんな姿を見てくすり、と笑った。
「折角だ。ワタシもご一緒していいかな?」
「もちろんだぞ! ごはんはみんなで食べたほうがおいしいんだぞ!」
「うん。一緒にご飯にしたいなあ、なんて……。マーケット、実は楽しみにしてたんだ……!」
あれが食べたい、これも美味しそう。そんな話をしながら、ふわりと漂う香りに誘われたさんにんは、賑やかなマーケットへと繰り出した。
「………それで、アナタは何が食べたいのかな?」
「おにく!!!」
にぱっと満面の笑みで宣言したサシャを見て、アルビノもトットも思わず笑みがこぼれた。
月秋とサラは、ふたりでオラトリオ・マーケットを巡ることにした。
「やはりこの時期はどこも賑わいますね。……あら」
サラが人込みに流されそうになる。月秋はその手を咄嗟に掴んだ。引き止められたサラが、くるりと振り返って月秋の顔を見た。
「あ、ええと……」
月秋は思わずぱっと手を離す。月秋の表情には出ていなかったけれど、いきなり手を掴むなんて随分と失礼なことをしたのでは。ふたつの人形は動揺をしっかり見抜いているのか、可笑しそうに揺れている。
サラはというと、ぱちりと一度だけ瞬いて。やさしい顔を一層やわらかくして、ふんわりと笑った。
「はぐれたら大変ですものね、行きましょうか」
サラが月秋に手を差し伸べる。躊躇いつつも、月秋はサラの手を取った。
「アーベントさん、逆じゃないですか?」
「そうでしょうか?」
ほんのすこしだけバツが悪そうにした月秋は、帽子を目深に被り直す。そんな姿を見たサラは、くすくすと笑った。
「年甲斐もなくはしゃいでしまいますが、許してくださいませね?」
ふたりは手を繋いでオラトリオ・マーケットを巡る。羽ペンやペンダントに、ホットチョコレート。気になるお店が多すぎて、時間が足りなくなりそうだ。
「年が6倍も違う子と遊ぶのがこんなに楽しいとは思っていませんでした」
サラの言葉を聞いた月秋が、顔を上げてぱちりと瞬く。カワホリとタタラバが、楽しそうにからからと揺れた。
「それで、何してるんですか」
カスカの視線が、座り込んでチュロスを食べているサミュエルに刺さる。んぐっと咽つつも最後の一口を飲み込んだ。
「いやー。皆が強力な助っ人すぎて、出る幕が。手伝ってくれてありがとう」
サミュエルは食べ終わったチュロスの包みをくしゃりと丸めてポケットに突っ込む。カスカは僅かに呆れた表情を見せたものの、それ以上は何も言わなかった。
「この街も物騒なことが多いですし、変なのが絡んで来たら追っ払おうと思っていましたが」
「うん。カスカさんがそれ抜く騒ぎにならなくて良かった」
鯉口を鳴らしたカスカにいやいやと苦笑いしたサミュエルが、カスカが腕に抱えているものを見て首を傾げた。
「それは?」
腕に抱えられていたのは、うさぎの縫いぐるみ。
「………ああ。例の少年にあげようと思ったのですが。渡すタイミングを逃しまして」
どうしましょうか、というカスカにサミュエルは自分のプレゼントにしたら?と笑う。
あまり趣味ではないのですが、とうさぎの縫いぐるみを見詰めていたカスカだったが、暫くしてからそれを抱えなおした。
「ちょっと早いけど、メリー・オラトリオ!」
マーケットを去る彼女の背にサミュエルが声を掛ける。答えるの代わりに、彼女の腕に抱かれた縫いぐるみの手がふわふわ揺れた。
暗くなりつつあるマーケットに、キャンドルのあかりがぽつぽつ灯っていく。
楽しそうな話し声と人の波は、日が暮れても途切れない。きれいに包まれたプレゼントたちは、誰のもとに届くのだろう。
キャンドルに照らされたひとたちの影は、いつまでも楽しそうにゆらゆらと揺れていた。
オラトリオ・オデッセイが近い今日、アデレード港町ではオラトリオ・マーケットが開かれていた。『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)も、マーケットを覗きに来たひとり。
「ただ買い出しに来ただけのはずが、なんだか妙な事に巻き込まれましたね」
カスカが瞳だけを動かした先には、ミズヒトの男の子。どうやら迷子らしい。
「自由騎士と言えば何でも自由に請けてくれると、便利に思われてる節がありますよね」
彼女は、事実そうなんですけど、と続ける。あまり表情を表に出さない彼女だからどうしても感情が読み取りづらい。また、整った顔立ちはそれに拍車を掛ける。
カスカの顔を見上げたミズヒトの男の子、―――ルーファスは何か言いたそうに、けれど動きを止めた。視線に気付いて、僅かに首を傾げる。
「カスカさんのこと知ってるんだって。ほら。自由騎士って今や、子供たちの英雄だから」
助け舟を出したのは『自称未来の情報屋』サミュエル・マシューズ(nCL3000049)。特にカスカさんは華々しいから、と付け加えてけらけら笑った。
その言葉を受けたカスカは、僅かに、ほんの僅かに目を見開いて。すこしだけ居心地が悪そうに、視線を落とす。
「……英雄視されるのも人助けもどちらも柄じゃないんですが」
ルーファスの目が憧憬を込めていることは、なんとなく理解できた。カスカは、ちいさな溜息をひとつ。
「私の力の及ぶ範囲で最善かつ最速の解決を図るとしましょう」
子供心の憧憬をわざわざぶち壊すような悪い趣味は持ってませんからね、と言い残して、ふらりと人込みのなかに姿を消した。
『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は、マーケットに漂うおいしそうな香りに釣られて、あっちへふらふら、こっちへふらふら。だから、馴染みのある顔を見つけたのは偶然だった。
「あれ? サミュエル、何か困ったことでもあったー?」
「迷子の親探し中! ルーファスくん5歳!」
サシャの問いに困ったように笑うサミュエルと迷子のルーファスの側には、『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)も立っている。
「僕だったら、このくらい歳で迷子になったら絶対心細いなあ……」
親御さんも心配しているだろうし、と考えながらルーファスをまじまじと見詰めるトットの耳が、しおしお垂れる。
サシャは不安そうなルーファスの背中を軽く叩きながら、いっぱいの笑顔で言った。
「ルーファス、泣いていてはいけないんだぞ! ひとつおにーちゃんになる試練なんだぞ!」
「………うん。大丈夫だよ。早く会わせてあげられるように頑張るから」
まずは僕たちに慣れてもらえるようにしなくちゃ、とルーファスの側にしゃがみ込んだ。
「えと……耳でも触る? これなら手が届くかな」
ルーファスはトットの耳におずおずっと手を伸ばして、トットの耳をふにふにふに。
「……やわらかいね」
暫くトットの耳をふにふにしたルーファスがふんわりと微笑んだ。きっと、緊張も解けたのだろう。笑った顔は、幼い子供そのものだ。
「よーし! パパとママを見つける、これが今日のミッションなんだぞ!」
ゲームのように親探しをすれば、すこしは楽しくなるかもしれないと考えたサシャ。
「サシャ達はルーファスのミッションをお手伝いするお手伝いヒーローなんだぞ!」
サシャがえっへんと胸を張った。耳と尻尾が、ぴこぴこ揺れている。いちばん楽しんでいるのは彼女なのでは、と思ったりもしたがその場にいた誰も口には出さなかった。
●
「おや」
ちいさな子供を連れだって歩く自由騎士の姿は、『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)には奇妙に見えた。
何をしているのかと声を掛ければ、迷子の親探し!という声がが返ってくる。アルビノは、ふむ、とちいさく頷いてから、ワタシも協力していいかな、と微笑んだ。もちろん、その申し出を断る自由騎士はいない。
アルビノは片手を胸にあて、どことなく芝居掛かった動きでルーファスにお辞儀をする。
「やぁ。僕たちは自由騎士団。この国を護るため、日夜働いているよ」
知っているかな、と聞けばルーファスはこくんと頷いた。
「自由騎士のひとたちは、お国を守るお仕事をしているって。パパとママが。おともだちも」
物知りだね、とひとの手でルーファスの頭を軽く撫でる。でも、国だけじゃないよ、とアルビノは優しく笑って。
「キミのような迷子を送り届けるのだって立派なお仕事なんだ」
アルビノは続ける。
だって自由騎士はこの国の人々みなの助けになるためにいるんだからね。だからキミも安心して欲しい。必ずお父さんとお母さんに合わせてあげるから。
「約束しよう。これは騎士の約束。必ず果たされる約束なのだよ」
約束のしるしに、と小指を差し出せば、ルーファスも小指を差し出す。ふたりの小指が静かに絡んだ。
「そういえば名前はなんていうんだい?」
ルーファス、と名乗った彼にいい名前だねと告げれば、照れくさそうにルーファスが笑う。
「あら、英羽さん。お買い物ですか?」
「……アーベントさん? いえ。迷子探しの手伝いを頼まれて来たのですが……」
お恥ずかしいことにまだ合流出来ていないのです、と告げたのは『相棒捜索中』英羽・月秋(CL3000159)。
それを聞いた『蒼の彼方の傍観者』サラ・アーベント(CL3000443)は、くすくすと笑ってから、あそこにおりますよ、と嫋やかな動きで賑やかな集団を指差す。
「高いの羨ましいんだぞ! かっこいいんだぞ!」
「年下の兄弟にしてあげたら喜んでくれたことを思い出して……」
指差した先には、肩車されているミズヒトの男の子。肩車をしているのは、トットだった。
トットは肩車をしながらも、耳だけはぴくぴくと動かして周囲の音をしっかりと聞いている。鋭聴力を使い、子供を探す親の声を拾っているのだ。
「……随分と賑やかになっていますね」
「ええ、皆さん楽しんでらっしゃるようですよ」
くすくす、おかしそうに笑うサラを見て、月秋はほんの僅かに首を傾げた。
「アーベントさんは一緒に行動しないんですか?」
月秋の問いも、変わらぬ笑顔で受け止めたサラは、私は傍観者ですから、と呟いた。
こうして、月秋もすこし遅れて自由騎士たちに合流した。
挨拶を、と、月秋はふたつの人形、――カワホリとタタラバを携えて、彼の側にしゃがみこんで視線を合わせる。
「英羽・月秋です。こちらはカワホリとタタラバ。……ご一緒しても?」
月秋の丁寧な申し出に、ルーファスはこくり、と頷く。言葉がなかったのは、はじめて見る異形の人形がすこし怖かったのかもしれない。
けれど、月秋の言葉は優しく、人形もかたかたカラカラ笑ったように見えたから。怖さはすぐに消えたようだった。
こうして、気付けば大所帯になった迷子と自由騎士たちは、また親探しに繰り出すのだった。
カスカは、情報収集や斥候のスキルを用いて、とても効率的に情報を集めていた。人が多いと見つけづらいのは確かだが、逆に言えば多くの人の目があるということ。
(子供を捜して心配そうにウロウロしている夫婦とくれば、特定は容易でしょう)
聞いて回るだけでは時間が惜しいので、群集のなかからの盗み聞きも辞さない。
「………あれは」
自らの足と、能力を最大限に使って。マーケットを見回していたカスカに、ひとりのミズヒトの女性が目に留まった。
その女性はそわそわとなんだか落ち着かない様子で、マーケットの雰囲気に似合わない。もしかして、と呟いた彼女は、その女性へと歩み寄る。
●
自由騎士たちは、ルーファスと一緒に買い食いをしながらマーケットを巡る。
もちろん、親探しを忘れたわけではない。ルーファスが寂しくないようゲームのようにマーケットを巡りをしようとした結果だ。
「ワタシは少しつまみ食いをしようと思うのだけど、君にも手伝ってもらえないかな」
皆で分けたほうがいろいろなものを摘まめるからね、とアルビノが、一口サイズのシュークリームを手渡した。ルーファスだけでなく、分けてもらった自由騎士もぱくり。
「あそこのクレープ、美味しそうですね。食べ歩きも出来ますし」
「あっちからも、いいにおいがするんだぞ!」
月秋がクレープに足を止める。サシャがいい香りのする方へ引き寄せられていく。
チキンレッグに、ホットチョコレート。色とりどりのキャンディは目を引く。
ルーファスが気にした素振りを見せたお店はもちろん、自由騎士たちが気になったお店でも足を止めるものだから、ルーファスの手には、いつの間にかオモチャやお菓子が増えている。
こんなにたくさんの物を買ってもらったことが知れたら、両親に怒られそうな気がするが、それはそれ。ちょっと横に置いておく。
マーケットを楽しく巡りながら親探しをしていた自由騎士たちだったが、ルーファスを肩車していたトットがぴた、と足を止めた。
「あれ? うー……ん? さっきまで名前を呼ぶ声が聞こえてたんだけど……」
自由騎士たちは、当てずっぽうに歩いていたわけではなく、集めた情報や声を頼りにマーケットを歩いていたのだ。
けれど、その声が聞こえなくなっちゃったなあ、とトットは困り顔。自由騎士たちも、無闇に歩き回るのはどうかと足を止める。
困り顔の自由騎士を見て、ルーファスもすこしだけ不安な顔をしそうになった、その時。
マキナ=ギアの通信に、はっと自由騎士たちが顔を見合わせた。通信はカスカからだった。
『……えーっと、どなたか聞こえます? ルーファスの親御さんを見つけたのですが』
両親を見つけたこと、一緒にツリーの近くにいること、そこで待っていることを告げると、通信は途切れた。
「―――……ああ、よかった。一安心だね」
アルビノがルーファスに向かって微笑んだ。あとは、彼を両親の元に届けるだけ。ルーファスの顔からは、不安そうな色は消えている。
自由騎士たちは、マーケットの象徴でもある、大きなツリーの方向を見た。ここからだと、すこし遠い。
「はやく会わせてあげたいですね」
「……空から行ったらどうでしょう」
「ああ、いいんじゃないかな。目立つだろうし。ね」
任せることになるけど、いいかい?とアルビノが聞けば、サラと月秋が任せてくださいと笑って見せた。
「空の散歩、楽しそうなんだぞ……。サシャも飛んでみたいけど、おねいさんだから……」
我慢するぞ、と、ぐっとこぶしを握る。くすくすと笑ったサラは、ルーファスをしっかりと抱えた。
「一緒について行きますよ」
月秋も、その横に並ぶ。それでは、とふわりと舞い上がったソラビトふたりを見上げながら、飛べない自由騎士たちは人込みをうまく避けながら地上を歩いていく。
「……むむ。楽しそうなんだぞ」
けれど、飛行する姿を見ながらゆらゆら動くサシャの尻尾は、空を飛びたい気持ちが隠しきれていなかった。そんなサシャを見て、地上を歩く自由騎士たちはくすくすと忍び笑った。
ルーファスと月秋、サラが人込みを飛び越えて空を飛ぶ。
空を飛ぶ浮遊感を味わうのは、ミズヒトの彼にとって初めての経験なのだろう。ぎゅう、とルーファスがしがみつく。
「……大丈夫ですよ。落としたりしませんから」
安心させようとサラが微笑む。空を飛べば、ツリーへ辿り着くのはすぐだった。
ミズヒトの夫婦とカスカの姿を見つけると、空からすとんと舞い降りる。怖くはなかったですか?と笑って。月秋は彼の頭を軽く撫でた。
「ちょっとした空の冒険、楽しんでくれたのなら幸いですよ」
舞い降りた先には、ミズヒトの夫婦。―――ルーファスの両親が立っている。
両親はオモチャやお菓子をいっぱい抱えたルーファスの姿を見て顔を見合わせたが、それも一瞬。母親がルーファスに向かって駆けて来る。
「ルーファス…!!」
我が子元に辿り着いた彼女は、ぎゅうと力強く、けれども優しく抱きしめた。カスカの側に立っていた父親も、すこし遅れて駆け寄ると、並ぶ自由騎士たちに頭を下げる。
「………ママ、くるしい」
そういうルーファスだったが、彼の言葉が震えていること、目にいっぱいの涙が浮かんでいることは、その場にいる誰もが分かった。
地上を歩いてきた自由騎士たちもツリーへと辿り着いたようで、その様子をそっと見守る。
「お父さんとお母さんに会えてよかったね。もう、はぐれちゃだめだよ」
「これでルーファスも一つ大人に近づいたんだぞ! えらいんだぞ!」
トットがバイバイ、と手を振った。サシャも力強く手を振る。
ほら、約束は果たされただろう、と微笑みながら。アルビノは、ルーファスの前に膝を付く。
「キミが自由騎士の門をたたくことを心待ちにしているよ。小さな英雄さん」
「また大人に近づくミッションがあるときは、サシャはいつでも手伝ってやるぞ!」
ありがとう、と言って恥ずかしそうに笑ったルーファスは、自由騎士たちに手を振る。両親ももう一度自由騎士たちに深々と頭を下げた。
仲良く手を繋いで歩くさんにんの影がちいさくなるまで、自由騎士たちは見送っていた。
●
「……なんだか兄弟達や、故郷を出た時のことを思い出しちゃうなあ」
さんにんの姿が見えなくなってから、そう呟いたトットの耳がしおしお垂れた。
「きっとお腹がすいてるからしんみりしちゃうんだ」
「おなかが空いた? よし、そんなときはお肉だぞ!」
トットの言葉にサシャがぴくん、と反応する。ぱたぱたと尻尾も動いている。
「牛でも豚でも鶏でも魚でも何でもいいぞ! 肉を食べてパワーアップするぞー!」
サシャの尻尾が、ぶんぶんぶんと振り切れそうなくらい激しく動いている。アルビノはそんな姿を見てくすり、と笑った。
「折角だ。ワタシもご一緒していいかな?」
「もちろんだぞ! ごはんはみんなで食べたほうがおいしいんだぞ!」
「うん。一緒にご飯にしたいなあ、なんて……。マーケット、実は楽しみにしてたんだ……!」
あれが食べたい、これも美味しそう。そんな話をしながら、ふわりと漂う香りに誘われたさんにんは、賑やかなマーケットへと繰り出した。
「………それで、アナタは何が食べたいのかな?」
「おにく!!!」
にぱっと満面の笑みで宣言したサシャを見て、アルビノもトットも思わず笑みがこぼれた。
月秋とサラは、ふたりでオラトリオ・マーケットを巡ることにした。
「やはりこの時期はどこも賑わいますね。……あら」
サラが人込みに流されそうになる。月秋はその手を咄嗟に掴んだ。引き止められたサラが、くるりと振り返って月秋の顔を見た。
「あ、ええと……」
月秋は思わずぱっと手を離す。月秋の表情には出ていなかったけれど、いきなり手を掴むなんて随分と失礼なことをしたのでは。ふたつの人形は動揺をしっかり見抜いているのか、可笑しそうに揺れている。
サラはというと、ぱちりと一度だけ瞬いて。やさしい顔を一層やわらかくして、ふんわりと笑った。
「はぐれたら大変ですものね、行きましょうか」
サラが月秋に手を差し伸べる。躊躇いつつも、月秋はサラの手を取った。
「アーベントさん、逆じゃないですか?」
「そうでしょうか?」
ほんのすこしだけバツが悪そうにした月秋は、帽子を目深に被り直す。そんな姿を見たサラは、くすくすと笑った。
「年甲斐もなくはしゃいでしまいますが、許してくださいませね?」
ふたりは手を繋いでオラトリオ・マーケットを巡る。羽ペンやペンダントに、ホットチョコレート。気になるお店が多すぎて、時間が足りなくなりそうだ。
「年が6倍も違う子と遊ぶのがこんなに楽しいとは思っていませんでした」
サラの言葉を聞いた月秋が、顔を上げてぱちりと瞬く。カワホリとタタラバが、楽しそうにからからと揺れた。
「それで、何してるんですか」
カスカの視線が、座り込んでチュロスを食べているサミュエルに刺さる。んぐっと咽つつも最後の一口を飲み込んだ。
「いやー。皆が強力な助っ人すぎて、出る幕が。手伝ってくれてありがとう」
サミュエルは食べ終わったチュロスの包みをくしゃりと丸めてポケットに突っ込む。カスカは僅かに呆れた表情を見せたものの、それ以上は何も言わなかった。
「この街も物騒なことが多いですし、変なのが絡んで来たら追っ払おうと思っていましたが」
「うん。カスカさんがそれ抜く騒ぎにならなくて良かった」
鯉口を鳴らしたカスカにいやいやと苦笑いしたサミュエルが、カスカが腕に抱えているものを見て首を傾げた。
「それは?」
腕に抱えられていたのは、うさぎの縫いぐるみ。
「………ああ。例の少年にあげようと思ったのですが。渡すタイミングを逃しまして」
どうしましょうか、というカスカにサミュエルは自分のプレゼントにしたら?と笑う。
あまり趣味ではないのですが、とうさぎの縫いぐるみを見詰めていたカスカだったが、暫くしてからそれを抱えなおした。
「ちょっと早いけど、メリー・オラトリオ!」
マーケットを去る彼女の背にサミュエルが声を掛ける。答えるの代わりに、彼女の腕に抱かれた縫いぐるみの手がふわふわ揺れた。
暗くなりつつあるマーケットに、キャンドルのあかりがぽつぽつ灯っていく。
楽しそうな話し声と人の波は、日が暮れても途切れない。きれいに包まれたプレゼントたちは、誰のもとに届くのだろう。
キャンドルに照らされたひとたちの影は、いつまでも楽しそうにゆらゆらと揺れていた。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
特殊成果
『チョコレート・リース』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:サラ・アーベント(CL3000443)
『夜色の羽根ペン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:英羽・月秋(CL3000159)
『ターキーレッグ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:サシャ・プニコフ(CL3000122)
『雪の街のマグカップ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:トット・ワーフ(CL3000396)
『オラトリオ・キャンドル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アルビノ・ストレージ(CL3000095)
『まっしろうさぎの縫い包み』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:サラ・アーベント(CL3000443)
『夜色の羽根ペン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:英羽・月秋(CL3000159)
『ターキーレッグ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:サシャ・プニコフ(CL3000122)
『雪の街のマグカップ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:トット・ワーフ(CL3000396)
『オラトリオ・キャンドル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アルビノ・ストレージ(CL3000095)
『まっしろうさぎの縫い包み』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カスカ・セイリュウジ(CL3000019)
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