MagiaSteam
美酒を求めて。或いは、大蛇とウワバミ…



●美酒の香に誘われて
 とある山間部にある小さな村では、酒造りが盛んであった。
 きれいな水と澄んだ空気。
 豊かな土壌で育ったぶどうが、その原料。
 空気には年中酒気が混じり、村から輸出される酒の味は舌の肥えた貴族でさえも虜にした。
 そんな村に1人、酒精に誘われ迷い込んだ男が1人。
 身に纏うは浅黄色のローブ。
 蛇に似たギョロ目と、人並み外れて長い舌。
 長身痩躯の手足には、必要最低限しか筋肉が付いていないように見える。
 けれど、その身から漂う気配は明らかに“強者”のそれである。
「あー……いぃ酒の匂いだなぁ、っと」
 背に担いだのは、長さ2メートルほどの鉄の棒。
 見れば、ローブの内側には無数のスキットルが吊るされている。その中身は、おそらくすべて酒だろう。
「ここの酒は美味いんだが……高けぇのが珠に傷だよなぁ」
 買えねぇんだよなぁ、と。
 ぼやくようにそう言って、スキットルの中身を喉に流し込んだ。
 空になったスキットルを投げ捨てて、男は「安酒じゃ酔えねぇ」と、どことなくふわふわとした口調でそう呟く。
 どうやら彼は、この村に酒を盗みに来たらしい。
「んじゃぁ、行くかぁ」
 背後に向けて男がそう声をかけた。
 そこにいたのは一匹の大蛇。
 “バジリスク”と呼ばれる幻想種であろう。
 男の呼びかけに応えるように、しゅるる、と小さな鳴き声をあげた。
「そうかぁ、お前も楽しみかぁ」

●階差演算室
「ってわけで、男と大蛇を捕まえて来てほしいのよね」
 と、疲れた顔で『あたしにお任せ』バーバラ・キュプカー(nCL3000007)はそう告げた。
「男の名前は不明だけど、おそらく“ウワバミ”と呼ばれている窃盗犯ね」
 ここ最近、酒蔵を襲う窃盗事件が連続しているの、と。
 バーバラは男の正体に当たりを付ける。
 事件の仔細は簡単だ。酒の産地に男が1人訪れて、その日の夜に酒蔵が破壊されて酒をすべて盗まれる。
 奇妙なのは、酒蔵が破壊される音などに近隣の住人たちが気づかなかったという点だ。
 男は酒の大半をその場で飲み干し、残りは奪って逃げるらしい。
 どのような方法で? それは誰にも分らない。
「まぁ、蛇と一緒に飲んでるんでしょうね……破壊音がしないのは、たぶん男の技によるものね」
 棒の先端にのみ力を一点集中させて、対象を貫くウワバミの技を駆使すれば大きな音をたてずに酒蔵の扉を開けることも可能だろう。
 バーバラはそう予想を立てた。
「それと、全長7メートルほどの大蛇の存在も厄介ね。こちらは【ポイズン】【ショック】の状態異常に気をつけて」
 と、そう告げてバーバラは自由騎士たちに視線を向けた。
「ウワバミの攻撃には【ブレイク】が……それと、酒を運ぶための手段を用意しているはずね」
 おそらくそれは、馬に引かせる荷馬車のような何かであろう。
 もしかすると、これまで盗んだ酒も積まれているかもしれない。
「酒に酔っていても、ウワバミはかなりの使い手よ。努々注意を怠らないで」
 そう言ってバーバラは、仲間たちを送り出す。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
病み月
■成功条件
1.ウワバミ&大蛇の捕縛
●ターゲット
ウワバミ(ノウブル)×1
浅黄色のローブを纏った長身痩躯の男。
手にした2メートルほどの鉄の棒を武器として操る。
常に酒に酔っているが、その攻撃は正確に急所を突いてくる。
目的は美酒を盗むこと。
その1点のみで、大蛇と協力関係を築いているようだ。

・棍操撃[攻撃]A:攻近貫【ブレイク2】
棒の先端に力を1点集中して放つ渾身の一撃。


大蛇(幻想種)×1
ウワバミの相棒である大蛇。
全長7メートルほど。
酒が好きで、ウワバミと一緒にいれば美味い酒にありつけるという理由から彼に協力している。
好戦的な性格ではあるが、戦いよりも酒が好き。

・ポイズンミスト[攻撃]A:攻遠範【ポイズン】【ショック】
毒の霧をまき散らす攻撃。


●場所
真夜中の酒蔵前。
村にある酒蔵は全部で3つ。
川辺、山の麓、ぶどう畑の傍の3か所。
月明りのおかげで、視界に問題はないだろう。
ウワバミがどこに現れるかは分からない。
 
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
11モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
5/8
公開日
2020年05月23日

†メイン参加者 5人†




 酒造りが盛んなとある村。
きれいな水と澄んだ空気。
 豊かな土壌で育ったぶどうが、その原料。
 空気には年中酒気が混じり、村から輸出される酒の味は舌の肥えた貴族でさえも虜にした。
 そんな村に1人、酒精に誘われ迷い込んだ男が1人。
 身に纏うは浅黄色のローブ。
 蛇に似たギョロ目と、人並み外れて長い舌。
 長身痩躯の手足には、必要最低限しか筋肉が付いていないように見える。
男の名はウワバミ。酔拳と棒術を操る、酒豪であった。

 時刻は真夜中。
 村にある酒蔵は全部で3つ。
川辺、山の麓、ぶどう畑の傍の3か所だ。
 そのうちの1つ、川辺の酒蔵の中で、『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は胡坐をかいて座っていた。
「綺麗な空気に澄み渡る水! そして豊かな大地が育んだ瑞々しい葡萄! 上等な葡萄酒ができるわけじゃな!」
 持参したひょうたんの中身を喉に流し込みながら、天輝は笑みを浮かべる。
 周囲に並んだ樽から香る強い酒気が、天輝の気を惹いて止まないのだ。
「ぷはぁっ! なかなかいい塩梅に酔って来た。ウワバミめ、来るなら来てみよ!」
 余が成敗してくれよう、と。
 赤ら顔で、そう告げた。

 月明りを頼りに、山の麓を彷徨う人影。
 とろけるような笑みを浮かべて、視線を周囲へ巡らせる。彼女の名は天哉熾 ハル(CL3000678)。血液について研究を続ける女学生である。
「葡萄畑にある酒蔵は赤ワインでしょう? それを絞るなら、搾りかすが出来るわ。なら。山の麓はブランデー。川辺は…そうね。普通に考えれば白ワインかしら?」
 と、頬に手を当て思案する。
「嗚呼……素敵。酒蔵を守った報酬として、全種分けて貰えないかしら?」
 肩に担いだ大太刀を撫で、彼女はそう呟いた。

「いい葡萄ね。さぞ美味しいお酒ができるのでしょう」
傍らに控えた愛馬の頬を一撫でし、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は村から畑へと続く小道へ視線を向けた。
 赤い籠手に包まれた拳を握りしめ、その身に戦意を滾らせる。
 そんなエルシーの視界に映る人影が2つ。
「あれは……」
 腰を落とし、戦闘態勢を整えるエルシーだったが……。
「なぁ、私は未成年だから、お酒はまだ飲めないんだよ。そんなにうまいのか?」
 現れたのは、遊撃隊として酒蔵を回る『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)と『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)であった。
「なんだ……ジーニーか」
「なんだとはなんだよ。様子を見に来てやったってのに」
「来たらすぐに連絡入れるわよ。ちなみに、こっちにはまだ来てないわ」
 言葉を交わすエルシーとジーニー。
 そんな2人を横目に、聖流は酒蔵を見やる。
「良い香り……お酒は人を惑わせますよね。でも、いくらお酒が好きとはいえ、酒蔵に侵入して、お酒を奪うなんて、いけませんよね」
 酒気を孕んだ風が吹く。
 水色の髪を手で押さえ、聖流は小さな吐息を一つ。
「それにしても、なかなか現れませんわね」
 なんて、言って。
 マギナギアを手に取った。


 ふらりふらりと、身体を左右に揺らしながら長身痩躯が夜道を進む。
 肩に担いだ鉄の棍棒。背後に付き従う巨大な蛇。蛇の首には縄がかけられ、背後に荷馬車を引いている。
 ウワバミと、その相棒である大蛇であった。
 ともに「酒が好き」という共通の嗜好を持つ、人と幻想種のコンビだ。彼らの目的は、美味い酒をたらふく飲むこと。
 そのために……そのためだけに、1人と1匹はこの山間の村を訪れたのだ。
 そうして、ウワバミの向かった先は……。
「おぉ? 先客かぁ?」
 川辺に建てられた酒蔵であった。
 酒蔵の内側から、何者かの気配を感じたウワバミは背後の大蛇へと視線を向ける。大蛇は舌をチロチロと動かし、警戒を強める。
「そうかぁ、強いかぁ」
 まぁいいかぁ、と。
 酒蔵を目の前にして、引き返すという選択肢は彼にはなかった。大蛇もそれは同様で、首を高くもたげ戦闘態勢を整える。
 酒蔵に近づいたウワバミは、棍の先端を外壁へ押し当て、酒精の混じった吐息を零す。
「ふぅぅぅぅ……」
 細く、長く。
 棍の先端に集中し、力を籠めていくが……。
「やめんかっ!」
 酒蔵の入り口を開け跳び出してきた天輝が、慌ててそれを制止した。

「用心棒か何かかぁ?」
 手にした根をくるくると回転させながら、ウワバミは問う。ウワバミの背後からは、大蛇がぎろりと天輝を睨んだ。
 天輝は大蛇の動向に気を配りながらも、よろけるような動作でウワバミに接近。
「おぉ?」
 その動きに覚えがったのか、ウワバミはその表情に喜色を浮かべて、お試しとばかりに棍を突き出す。
「ほう、酔拳で棒術を操るか。面白い」
 ウワバミの棍が、天輝の頬を裂く。
 ギリギリのところで、棍の一撃を回避し懐へと潜り込む。魔導を宿した掌打を一撃、ウワバミの胸へ叩き込む。

 ローブの裾を翻し、夜道を駆ける影が1つ。
 瞳に怪しい光を灯し、ハルは大太刀を引き抜いた。木々の間を縫うように、山の麓から、川辺へ向かって進む。
「天輝の方に出たのね………一体どんな使い手なのか。楽しみでしょうがないわねぇ。ふふ」
 地面を蹴って、ハルは跳んだ。
「あぁ? 新手かぁ?」
 茂みを突き破り跳び出した先には、天輝と打ち合うウワバミの姿。
 ハルの登場に気付いたウワバミが疑問の言葉を口にする。ウワバミを庇うように、口の端から毒霧を零す大蛇が、ハルの進路を塞ぎにかかった。
「血を……たぁ〜くさん見れそうねぇ」
 大上段に振り上げた大太刀を一閃。
 ハルの一撃は、大蛇の眉間を深く抉った。飛び散る鮮血を浴び、全身を朱に染めるハルは、濡れた舌で頬に付いた血を舐めとった。
「どんどん行くわぁ……そっちも頑張ってね、アマテル」
「言われずともわかっておるわ」
 大蛇の突進を回避し、ハルは大太刀を振りかぶる。
 一方、アマテルとウワバミは川の際で、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 蹄が地面を蹴る音がする。
 エルシーの愛馬・黒弾と、聖流の愛馬・ステルラだ。
「急ぐわよ。あいつらに飲ませてやるタダ酒は、一滴たりともないのだから」
 赤い髪を靡かせ、エルシーは告げる。
 清流は深く頷くと、愛馬・ステルラの速度を上げる。
「存分に暴れてください。ドクターとして、皆さんの事は、私が支えます!」
「先陣は私が切るぜ。敵に突っ込んで【テンペスト】をぶちかましてやる!」
 ウワバミの現れた川辺までは後少し。
 遠くから、戦闘の音が聞こえていた。ジーニーは、背に負った戦斧に手をかけ、獰猛な笑みを浮かべる。
 
 大太刀の一撃が、大蛇の顎を打ち上げた。
 よろけた大蛇が、川に落下し盛大な水飛沫を撒き散らす。頭から水を浴びた天輝とウワバミは、不愉快そうな表情を浮かべ、一旦互いに距離を取る。
 天輝は腰のひょうたんへ、ウワバミは懐のスキットルへと同時に手を伸ばした。
 水を被って覚めた酔いを戻すため、酒精を摂取しているのだ。悲しいまでに似た者同士。酔いどれにしか通じぬ思考だが、ことこの場においては飲ん兵衛こそが主流であった。
 顎と額から血を流しながら、大蛇が川から這い上がる。
 ウワバミへと向けられる恨みがましい視線。自分にも酒を寄越せとそう言っているのだろう。目は口ほどに物を言うのだ。視線の意味を理解したウワバミは、道の端に停めた荷馬車へと視線を向けた。
「おめぇさんも、飲みたきゃ飲みなぁ」
「お酒が好きなのね。大人しく縛に就いたら、村人達と交渉してあげるわよ?」
 荷馬車へと向かう大蛇を追いながら、ハルはそう言葉を投げる。
 大蛇からの返答はないが、ほんの一瞬、戸惑うような仕草を見せたことをハルは見逃さなかった。
 そんな大蛇の前方に、転がるように飛び込んでくる人影が一つ。
「それ、盗んだ酒だろ? 盗みなんてセコイ真似するなよな!」
 金の髪を靡かせながら、戦斧を振るうジーニーだった。

 不機嫌そうにしゅるると鳴いて、大蛇は口内から毒の霧を吐き出した。
 霧を吸い込み、顔色を悪くするジーニー。
 けれど気合と根性で、身体に走る痛みを堪え、ジーニーは斧を振り抜いた。
「どぉらぁっ!!」
 空気を震わす大音声。
 斧を受けた大蛇がよろける。
 そんなジーニーの背後で、聖流は馬から降りて戦場を睥睨。ダメージの大きい天輝へ向けて杖を構えた。
 淡い燐光の軌跡を残し、放たれたのは魔力の矢。天地より借り受けた癒しの力を、矢の形状へと変換したものだ。
 矢が天輝の胴を貫く。
「なんだぁ? 援軍かぁ?」
 天輝の傷が癒える光景を見て、ウワバミは目を見開いた。
 けれど、それも一瞬のこと。すぐに視線を鋭くし……と、言っても酒に酔っているので、どこか虚ろではあるが……頭上で棍を旋回させる。
 直後、金属同士がぶつかるような激しい音が鳴り響く。
「さっさと酒ぇ、飲ませろよなぁ」
 頭上から強襲したエルシーの拳は、旋回する棍に阻まれ届かない。
 舌打ちを一つ、着地したエルシーが天輝と並ぶ。
「本当にお酒が好きならね、正当な対価を支払うべきよ!」
 戦闘態勢を整え、エルシーは告げる。
 酒臭いため息を一つ零して、ウワバミは棍を腰の位置で構え直した。
「俺みたいな飲ん兵衛に碌な稼ぎがあるわきゃねぇだろ?」
 なんて、言って。
 ウワバミは、棍の先端へ意識を集中させるのだった。

 前衛をエルシーへスイッチし、天輝は後衛から青い魔弾を放った。
 ウワバミの突きが魔弾を弾く。
 炸裂した魔弾から拡散される膨大な冷気が、ウワバミの視線を白く覆った。
「余が後衛になることで、多少的をバラけさせる事ができるかの」
 視界を奪われたウワバミの懐へ、エルシーは一気に潜り込む。
「代価を支払わないのなら、貴方は真の酒飲みじゃない! この世のすべてのお酒を愛する人達を代表して、この私が貴方に天誅を下します!」
 放たれるは神速の3連撃。
 狙いは正確に、ウワバミの胸部へ向けられていた。
 けれど、しかし……。
「っと、あぶねぇ」
 コツン、と。
 予想外に軽い音。エルシーの拳に、棍の先端が押し当てられた音である。
 直後……。
「ぐっ……!?」
 拳を押さえたエルシーが後方へ跳んだ。
 棍の先端に1点集中された力が、エルシーの拳に大きなダメージを与えたのである。
 痺れが残る拳を押さえ、エルシーは歯を食いしばる。
 一方、エルシーの攻撃を受け止めたウワバミの棍も、軋んだ音を立てていた。顔をしかめて、ウワバミは呟く。
「籠めた力ぁ、全部防御に使っちまったぁ」
 やべぇなぁ、と。
 ちっとも焦った様子も見せず、ウワバミはスキットルに口を付ける。

「数の上では有利ですが、油断は禁物ですね」
そう言って聖流は、エルシーへ向けて癒しの矢を放つ。
 多少のダメージであれば、こうして即座に回復できる。大蛇の吐き出す毒に対しても同様だ。そのうえで、自分が倒れることのないよう切れかけていた【サンタフェの奇跡】を自身にかけ直す。
 聖流は、川と酒蔵のちょうど中間に控えていた。
 その位置からなら、川辺で戦うウワバミと大蛇のどちらも視界に収められるのである。
「お次は……」
 毒に侵されたジーニーへ向け、聖流は癒しの矢を放つ。

「でかいから、当てやすい!」
「毒蛇らしく蛇酒にしてあげるわ」
 左右から同時に放たれる、戦斧と大太刀による斬撃。
 大蛇は頭を高くもたげて、ジーニーとハルの攻撃を腹部で受けた。身体の大きな大蛇では、2人の攻撃を受け止めきれないと判断したのだ。
 2人の武器は巨大な刃物。重量もかなりのものだ。攻撃後の硬直を狙って、大蛇はジーニーに長い身体を巻き付けた。
 ギリギリとジーニーの身体を締め上げる。
 骨と内臓の軋む音。ジーニーの口の端から血が零れた。
「う、ぐぉぉぉ!」
 大蛇の締め付けから逃れようとジーニーがもがく。
「おい、急がんと全身の骨が砕かれるぞ」
 離れた位置から、天輝が慌てた声をあげる。助けに来ようとする天輝を手で制し、ハルは大太刀を構え直した。
「平気よ、こっちは任せて」
 大蛇の真下へと駆けこんで、ハルは深く腰を落とした。
 不気味なオーラを纏う大太刀。餌食とするは眼前の大蛇。
【マンイーター】……スキルを乗せた一撃が、大蛇の腹部を深く切り裂く。


「積極的に……激しく行くわね?」
 一閃。
 ハルの大太刀が、大蛇の腹部が深く抉った。
 痛みに怯んだその隙に、ジーニーは大蛇の締め付けを振りほどく。
 全身を痣だらけにしたジーニーが、転がるように地面に降りた。回復しようと視線を向けた聖流に、ジーニーは獣のような笑みを返した。
 回復は不要、とその瞳が告げている。
「ウワバミも大蛇も、盗みはダメだ。村の人達が一所懸命作ったお酒だぞ。ちゃんとお金を払って買わないと!」
 発動するスキルは【バーサーク】。満身創痍の体に漲る狂気の力を戦斧に籠めて、ジーニーは大きく身体を捻る。
 渾身の力を籠めて放たれた、竜巻を巻き起こすほどの一撃が、大蛇の腹部から顎にかけてを斬り裂いた。
 空気が震え、地面が揺れる。
「どぉぉらぁっ!!」
 ジーニーの怒声が夜空に響いた。
 宙を舞う大蛇は、既に意識を失っている。
 降り注ぐ血を浴びながら、ハルは怪しく微笑んだ。
「酒神として祀って貰えば……お酒も飲み放題なんじゃないかしら?」
 なんて、言って。
 逃走を防ぐためだろう。落下した大蛇の尾の先を、大太刀で地面に縫い付ける。

「全力回復です! 一気に決めてしまいましょう!」
 杖を頭上へと掲げ、聖流は目を閉じ祝詞を紡いだ。
 聖流を中心に展開される魔法陣。
 降り注ぐ光の雨が、傷ついた仲間たちの身体を癒す。 
 これまでの戦闘で、ウワバミは着実にダメージを負っている。
 一方、前衛と後衛をスイッチしながら交戦していた天輝とエルシーのダメージと疲労は、ウワバミのそれに比べればまだ軽い。
 そこに加えて、聖流による治療。
 これにはウワバミも、苦々しい表情を浮かべて呻くような声を零した。
「貴方がすべての罪を償ったら、一杯付き合ってあげてもいいわよ?」
 おどけるようにそう言って、エルシーはウワバミへと迫る。
 ゆらり、と身体を揺らしウワバミはエルシーの拳を回避するが……。
「言ったでしょう? この私が貴方に天誅を下します! って!」
 ラッシュの終わりから繋げられた、神速の3連撃。
 ウワバミは棍でそれを防いだ。
 だが、棍の耐久が限界を迎えたのだろう。
 3連撃を防ぎ切った、その直後……棍の先が音を立てて砕け散る。
 体勢を整えるべく、千鳥足でウワバミは後退。
 けれど、それは悪手であったと言わざるを得ない。
「反省するのじゃな」
 果たして、いつの間にそこに回り込んでいたのだろうか。
 後退するウワバミの背後には、天輝が拳を構えて待っていた。
「や、っべぇ……」
 冷や汗一滴、ウワバミの頬をつぅと流れて。
 その顎を打ち抜く、天輝の拳によってそれは宙に飛び散った。

 ウワバミと大蛇を拘束し、5人の自由騎士は川のほとりに腰を下ろす。
「さて、一杯飲るかの。仕事の後の酒は格別じゃ」
 そう言って天輝は、酒蔵から運んできた樽を開けた。
 芳醇な酒の香が周囲に漂う。
 仕事の報酬として、天輝は酒樽を1つ、酒蔵主から譲り受けていたようだ。
「そうね。月も綺麗だし」
 まずはハルが、次いでエルシーが手にしたグラスに酒を注いだ。
 酒が飲めないジーニーと聖流は、嬉々として酒を注ぐ2人の様子を興味深そうに眺めている。
 ハルとエルシーが酒を注いだのを確認し、天輝は樽を抱えて立ち上がる。
「では、乾杯じゃ!」
 と、そう告げて。
 樽の中身を、豪快に喉へと流し込む。
 そんな5人を、月は明るく照らしていた。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

FL送付済