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〈魔女狩り騎士団〉シャンバラ魔女裁判



●シャンバラ魔女裁判
 それは、シャンバラの神ミトラースが討たれてしばらくのことだった。
 イ・ラプセル領内に組み込まれたシャンバラのとある村落。
「……クソ、ロクに作物が育ちゃしねぇ」
 鍬を背負った男性が、自分の畑を見て毒づいた。
 種を植えたところからは芽が出ている。しかし、それはまだ小さい。
「いつもだったらよぉ、この三倍、いや、五倍は育ってるってのによぉ……」
 彼はガックリと肩を落とした。
 これでは、収穫まで何日かかるか分からない。
 今まで直面したことのないこの難問に、彼だけでなく他の農民も頭を抱える。
 全ては、神が死に、“聖櫃”が失われてしまったせいだ。
「何で俺らがこんな目に遭わにゃいけねぇんだ。なぁ、ミトラース様よぉ」
 ミトラースへの信仰の根底にあった権能がなくなった今、元シャンバラの民であろうともこうして神を恨むことがあった。
 結局は、彼らの信仰は権能のもとに成立していた偽りのもの。
 それが失せ、“聖櫃”という目に見える恵みまでもが消え去れば、この地の民がミトラースを崇拝する理由など一つもないのだ。
「ああ、俺らこれから、どうすりゃあいいんだ……」
 そして、彼は天を仰いだ。
 彼は農家だ。
 しかし、その農耕の技術は“聖櫃”がもたらす理想の土壌があってのもの。
 普通の環境に戻った今、彼らは生まれて初めて『普通の土壌での農耕』をしなければならなくなっていた。無論、経験値は零だ。
「はぁ……」
 と、畠を前に男性が座り込んだときだった。
 ガシャン、と、やけに硬い音が聞こえた。村の入口の方からだ。
「何だ……?」
 男性の立っている場所は入り口にほど近い。
 覗いてみるとそこには漆黒の集団がいた。
 全員が物々しい雰囲気の黒い甲冑を着込んでおり、武器を携えている。
 異国の騎士団、だろうか。男性は訝しむ。
 見ていると、集団の先頭に立つ人物が一歩前に出ていきなり叫んだ。
「これより魔女裁判を開廷する!」
「魔女、裁判……?」
 何を言っているんだ、こいつらは。男性は思った。
 或いは、ここで逃げておけば男性は生き延びられたかもしれない。
 しかし現実はそうではなく、彼は黒甲冑の言葉をそのまま聞いてしまった。
「この村の住人は我らが主ミトラースが討たれた後もなお生き延びている。父なる神のいとし子であるならば、父が天へと帰りしのち、自ら教えに殉じて命を捧げるべきである! だがこの村の民はそうしなかった! それは何故か! この村の民が、魔女に染められし悪徳の民であるがゆえである! よってここに、我、“黒鉄槌騎士団”団長ゲオルグ・ホーソーンはこの村の民を魔女として告発し、その罪を断ずるものである! 判決――死刑!」
「判決――死刑!」
「死刑!」
「死刑!」
「「「死刑!」」」
 黒甲冑達が武器を抜き、猛然と村へ侵入してきた。
 その迫力に、男性は目を見開いて腰を抜かす。
「ひ、ひぃ……!」
 叫んでいた黒甲冑が、男性に気づいた。
「魔女め。貴様らの命、一つ残らず刈り取ってやろう!」
「ち、違う! お、お、俺は魔女なんかじゃ……!」
「ならば証明してみせよ、貴様が魔女ではないというのならば!」
「証明って、どうやってだよぉ……!」
「出来ぬのならば、汝は魔女。罪在りき! 我が断罪の刃を受けよ!」
「ひぃ! ひいぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 殺戮は始まった。

●偶然か、必然か
「何故、私までもが巡回に駆り出されているのだろうか」
 ほぼ同時刻、村落近く。
 イ・ラプセルからわざわざここまでやってきたジョセフ・クラーマー(nCL3000059)が、同道する自由騎士に対してそう零した。
「仕方がないだろう。一気に領地が増えて猫の手も借りたい状況なんだよ」
 とは、その自由騎士の談。
 というのも、ニルヴァン城砦にあった聖霊門が使えなくなったため、イ・ラプセル―シャンバラ間の交通の便が一気に悪くなっていたのだ。
 しかも現在は終戦直後で、三国によるシャンバラの領地の腑分けこそ終わったものの、その増えた分の情勢調査なども急がれていた。
 ジョセフ含めたこの一団も、そうした元シャンバラ領の情勢調査に駆り出された面子、というワケだ。
「なるほど。猫の手も借りたい。という感じなのだろうが、しかし、それでもアクアディーネ神の祝福を受けたばかりの私をこのようなそれなりに重要な任務に就かせるのは少しばかり疑問を覚えるところだな。疑わない、というのは美徳であるのかもしれないが現実はそうそう甘くできているものではない。仮に私が何か良からぬことを考えていたらどうするつもりなのか。それでも私の力を借りざるを得ない、というのもまたよろしくない。それはまるっきり『イ・ラプセルには全然余裕がありません』と言っているようなものだ。そのような実情は、分かっていても表向きは隠して然るべきもの。それをこうして私を担当とすることで表に晒すのはあまり――」
「長い。長い。長い。簡潔にまとめろ」
「色々甘すぎないかね? ということだよ」
「じゃあ最初からそう言えよ」
「最初から結論を望む者の望みなど叶えてやる必要はないな」
「この野郎……!」
 などと、和気藹々(?)に話しながら一行が歩いていると、何やら遠くにチラチラと見えるものがあった。
「ん? あれは、目的地の村――!?」
 自由騎士が気づいた。チラついているもの。それは炎の揺らめきだ。
「……襲われているようだ。急がねばなるまい」
「あ、ああ、そうだな!」
 駆け出すジョセフの後に続き、残りの自由騎士達も村へと急いだ。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.村落への救援
残り物には大体災いしかないんだよなぁ。
吾語です。

さぁ、シャンバラ魔女裁判の時間です。
神様死んだのに生きてるのはお前も魔女だからだな、死ねぇ!
ひでー話ですね。

今回は完全な偶発的遭遇となります。
まぁ、それ自体はあまり気にしないで大丈夫です。やっつけましょう。
なお今シナリオはシリーズ風に見えますが単発シナリオです。
では以下、シナリオ情報詳細です。

◆敵勢力
・黒騎士×10
 未知のスタイルを有する黒甲冑の騎士です。
 使用するのはネクロマンサーのスキルと未知のスタイルのスキルを使用します。
 一定ターン経過するか一定以上のダメージを負うと撤退します。

・“魔女狩り騎士長”ゲオルグ・ホーソーン
 ゲオルグ・クラーマーが連れていた黒騎士最後の生き残りです。
 黒騎士の中では最強の戦力です。使用するスキルは今回は他の黒騎士と同じです。
 一定ターン経過するか一定以上のダメージを負うと撤退します。

※上記の敵勢力は自由騎士との戦闘よりも村人の殺害を優先します。


◆戦場
・村落
 ごくごく普通の農村です。
 黒鉄槌騎士団の襲撃を受けて、すでに何名かの犠牲が出ています。
 村は現在、黒騎士に焼き討ちされて燃えている家屋がいくつもあります。
 村は小さく、常駐戦力などはありません。

 今回のシナリオ目的は黒騎士達の撤退までにどれだけ村人を救えるか、です。
 戦闘に専念する場合、撤退は早まりますが1ターン辺りの犠牲は増えます。
 救援を優先する場合、敵は時間いっぱいまでいますが犠牲は減るでしょう。


◆ジョセフさん
 マギウスのランク2までのスキルを使用可能です。
 皆さんの指示に従ってくれます。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
12モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
8日
参加人数
10/10
公開日
2019年05月26日

†メイン参加者 10人†



●迫る黒騎士、その名は
「何よ、これは? ……何よこれは!?」
 村落に最初に到着したのは、『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)であった。
 翼を広げて空をへと上がった彼女は、眼下に広がる光景に絶句する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 空にいる彼女にまで響く、断末魔の悲鳴。
 漆黒の甲冑を纏った騎士が、逃げる民を背中から斬って捨てていた。
 村落を作る家々は焼かれ、家畜は殺され、畑も荒らされて――
「そんな……、こんな理不尽なこと……!」
「いいから! さっさと役割を果たしなさい!」
 怒りに震えるアンネリーザを、『浮世の憂い』エル・エル(CL3000370)が叱り飛ばした。その声にアンネリーザはハッとして、エルに向かってうなずく。
 だが、エルはそれを見ていなかった。
 彼女もまた、目の前の光景に拳をきつく握り締めていたからだ。
「た、助け……!」
「汝は魔女なり。我が審判のもとに死するべし!」
「うぁ!? 違う、ま、魔女なんかじゃ……!」
 また一人、黒騎士の手にかかった。
 斬られた勢いにその民はすでに息絶えながらも何歩か走って倒れ伏す。
 伸ばした手の指が、エルのつま先に触れていた。
「――魔女狩り!」
 握り込んだ拳から、つと一筋の血が垂れる。
 これだ。謂われなき罪を叫び、証明できぬからと魔女に仕立てて断罪する。
 これこそが本当の魔女狩り。エルは、その光景を知っていた。
「おいおいおいおい、何の冗談だ、こりゃあ!」
 駆けつけてきた『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が、黒騎士を見るなり驚きの声を上げる。彼女と他数名は、その姿に見覚えがあった。
「おい、貴様ら。ここで何をしとるんだ!」
「断罪である!」
 問うと、黒騎士はこともなげに答えた。
「ここに住まう者は主ミトラースがお隠れになった後も、のうのうと生き続けようとしていた。それはシャンバラの民としてあるまじきこと! 即ち、この者らは魔女と成り果てたのだ! よってその罪断ずべし!」
「何を、言っている!」
 朗々と告げる黒騎士に対して、『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)が大声で言い返す。
「ミトラース亡きあとも生きている者が魔女ならば、お前らはどうなんだ!」
 ロジェは黒騎士を指さして指摘した。
 それは誰もが思う、分かりやすすぎる矛盾であろう。
 しかし、黒騎士はギチリと拳を握って叫んだ。
「我ら、すでに人に非ず!」
「何だと……?」
「我らは“黒鉄槌騎士団”! 我ら人に非ず、我らは鉄槌! 魔女の頭を叩いて砕く、黒き鋼の硬き鎚! 断罪と神罰の執行者なり!」
 無茶苦茶極まる主張であった。
「……嘘だろう?」
 そして、黒騎士の主張にツボミが呻いた。
「神を喪ってもなおこれか!」
 彼女は、近くに駆け付けたジョセフ・クラーマーを流し見て、
「ジョセフ、貴様の兄は教化の腕が高過ぎんか!?」
「それを私に言ってどうするのだ。……否定はできんがな」
 答えを返すジョセフも、なかなか複雑そうな表情を浮かべていた。
「言ってる場合か! それより連中の動き止めねぇとだろ!」
「それも、否定はしない」
「だったらお前も手伝えよ!」
 『果たせし十騎士』マリア・スティール(CL3000004)が大声で指示を飛ばしてきた。ジョセフは杖を構えて「承知した」とだけ返す。
「だが――」
 杖に魔力を注ぐジョセフが見る先で、黒騎士は全身に薄い影のようなものを纏う。直後、彼の魔導が発動し、強烈な凍気が黒騎士を襲った。
「無駄だ」
 本来であれば相手を凍結させて動きを封じる氷の魔導だが、しかし、黒騎士はその甲冑の表面を白く凍てつかせながらも平然と歩みを進めてくる。
「こいつらは……!」
 少し離れた場所で、別の黒騎士達を相手取っていた『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)が強く舌を打った。
 彼もまた敵の動きを封じんと、地面に魔力を込めた弾頭を撃って、束縛の決壊を形成したのだが、やはり影を纏った黒騎士は結界を乗り越えてきた。
「オイ、ゲオルグの弟!」
 『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)がジョセフへ叫ぶ。
「あの黒騎士について知ってることがあるなら全部話してくれ!」
 素直にジョセフの名を呼ばない辺り、オルパの中にある複雑な感情が垣間見えた。それでも今は鉄火場。情報は必要だ。
 ジョセフが答えた。
「あれは――、“魔剣士”だ」
「魔剣士? 何だ、それは……!」
「魔導と剣技の両立をコンセプトとする戦闘スタイル。シャンバラが続いていれば、聖堂騎士団の次期主力を担うはずだった連中だ」
「……発案者は?」
「愚兄だ」
 ジョセフが言った直後に、ザルクがまた舌を打った。
「正真正銘、ゲオルグの遺産かよ。厄介にも程がある!」
 しかし、そこまでの話を聞いて逆に発奮する者もいる。
「なるほどね“魔女狩り将軍”が鍛え上げた連中か。叩き甲斐がありそうだ」
 『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が笑いながら言った。
 魔女狩りの家系に生まれた彼にとっても、ゲオルグ・クラーマーの名はそれなりに大きな意味を持っているようだった。
「皆さん、思うところは様々でしょうが、今はそれは置いておきましょう。逃げている人達を助けないと!」
 ジョセフの魔導を受けながらも村人へと向かう黒騎士を遮ろうと、『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)が駆けていく。
「ええ、そうですね。矛盾だらけの連中に、一発カマしてやりましょう!」
 ミルトスに続いて、『花より──』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)も走り出す。そして彼女は大盾を前にかざして、黒騎士にぶつかっていった。
「吹き飛べ、三文役者共!」

●人々は火中に惑い
 燃えている、村が燃えている。
「狩れ! 殺せ! この場にいるのは全て魔女! 断罪こそが救いである!」
 叫ぶのは黒騎士――魔剣士の頭領であるゲオルグ・ホーソーンであった。
「ふざけ……、るな!」
 空のアンネリーザが、憤怒と共にゲオルグに向かってライフルを撃った。
「呪法」
 しかし、ゲオルグの身が他の魔剣士同様、影に包まれる。
 弾丸は彼の頭部を直撃する。しかし、その身は揺らぎもしなかった。
 ゲオルグは一度だけアンネリーザを見て、それっきり無視する。
「魔女を殺せ! 断罪の刃を振り上げよ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 彼は自由騎士を完全にいないものとしているようだった。
 それを見て、アンネリーザが唇を噛む。そこへジョセフが叫んだ。
「魔剣士が纏う影は物理に対する強い耐性を持つぞ!」
「……そう、みたいね」
 アンネリーザは渋々ながらそれを認め、すぐに視線を辺りに巡らせた。
 相手がこちらを無視するなら、こちらも村人の救出を優先して行うべきだ。
 短い間に切り替えて、彼女はさらに高く上がって景色を俯瞰する。
「――あそこ!」
 目を付けたのは、村落のすぐ東にある小さな森だった。
 アンネリーザは近くにいたロジェに対し、「あっち!」と森の方向を示した。
「東だ! 助けた村人は東に逃がすんだ!」
 ロジェが空の上からマキナ=ギアを用いて場にいる自由騎士に指示を出す。
 自由騎士達の動きは迅速だった。
「俺達はあの魔剣士ヤロウ共を止めるぞ! ついてこい!」
「分かっていますとも!」
 マリアとデボラが、敵が特に多くいる場所へと突っ込んでいく。
 そこでは、逃げ遅れた村人を捕らえて黒騎士の一人が剣を振り上げていた。
「やらせっかよぉ!」
 振り下ろされた刃を、マリアが盾で受け止める。
 その瞬間、彼女はその衝撃を巧みに操り、グッと盾を押し込んで跳ね返した。
「ぐぬっ!?」
 甲高い金属音と共に、黒騎士がのけ反る。
「今だ! 逃げろ、東だ!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!」
 襲われていた村人が、情けない声を出して逃げていった。
「我らが聖務を邪魔するか、異端めが!」
「もうそのような身分の者は、どこにもいません!」
 デボラが側面から盾をかざして体当たりをかました。
「フン、無力。無力!」
 しかし影を纏った黒騎士はそれを軽々受け止め、
「業剣ッ」
 黒騎士が刃をかざして叫ぶ。デボラは咄嗟に身構えた。
「…………?」
 しかし何も起こらない。直後、離れた場所から肉が裂かれる音がした。
「――しまった! 遠距離攻撃かよ!?」
 魔剣士は影を刃にすることができる。
 その情報を知っていたはずなのに、迂闊。と、マリアが舌を打って振り向く。
 だが、そこに切られた村人はいなかった。
「間一髪、でしたね。さぁ、逃げて!」
「うわ、ぐひぃぃぃぃ!」
 割って入ったのはミルトスだった。身を切られながらも彼女は村人を逃がす。
「おのれ、邪魔立てするか、女!」
 断罪を邪魔されて、黒騎士がいきり立った。
「行かせるとでも?」
 しかしデボラが自分の盾で黒騎士の進撃を押し留め、
「もう、誰も傷つけさせませんよ!」
 さらにミルトスが前に立つことで、黒騎士の動きを完全に封じ込めるのだった。
 前に出る三人がこのように黒騎士達の動きを阻んでいる頃、ロジェは続けて空から呼びかけ続けていた。
「東だ! 生き残っている者は東に逃げろ! 賊は私達が何とかする!」
 彼の言葉に、村人らは我先に彼が指さした方へ走っていった。
「た、助けてェ!」
 また悲鳴が聞こえた。
 見れば、逃げているのは子供二人を連れた少女であった。
 黒騎士はすでにすぐ背後にまで接近している。
「まずい!」
 ロジェが氷の魔導を使おうとするが、その脳裏に凍てついても平然と前へと進む黒騎士の姿がよぎった。
 自分の魔導は通じるのか。ふと浮かんでしまう、その疑問。
 考えてしまった一瞬が、致命的な遅れとなる。
「死ねェい! 魔女め!」
「くッ――!」
 黒騎士の声にロジェは我に返った。
 だが遅い。黒騎士は少女と子供達へと剣を振り下ろした。
「させ……、るかァァァァァァァ!」
 叫んだのはエル。そして彼女は自ら少女を守るように身を飛び込ませ、身代わりになって敵の刃をその背中に受けた。
「う、ッ! グゥゥ――ッ!」
「あ……」
 少女は自分を助けてくれたエルに気付き、絶句する。
 助けてもらったということは理解できても、驚きに声を失っているのだ。
「オノレ、貴様も魔女か!」
「お、お前達はそうやって、自分達の都合のいいように魔女の名を使う……」
 肩越しに振り向いたエルが、とびっきりの憎悪を込めた目を黒騎士に向けた。
「やらせるものか……。私の目の前で、魔女狩りなんてさせてたまるか!」
「――ならば汝も魔女、罰を受けよ!」
 黒騎士が刃を再び刃を掲げた。だが今度こそ、ロジェが間に合う。
「させん!」
「ぬゥ!!?」
 発動した氷の魔導が、黒騎士の身体を凍てつかせた。
 効いた。今度の一撃は上手く効果を発揮できたようだ。そしてさらに、
「何してやがる、テメェェェェ!」
「ぐぅおおおお!!?」
 ザルクが鬼の形相で凍てついた黒騎士に銃弾を叩きこんでいった。
「あ、あの……!」
「……まだいたの? 世話が焼けるわね、もう!」
「わ。きゃあ!?」
 腰を抜かしてその場にへたり込んでいた少女を、エルが担ぎ上げた。
 ついでに、少女が連れている子供二人も一緒に。
「うわぁ! わぁん! おろして! おろしてよぉぉぉぉ!」
「うるさい! ちょっと我慢してて!」
 泣いて足をバタつかせている子供を叱り、エルは村落の東側へ走っていった。
「に、逃がさぬ……。魔女め、魔女……!」
「うるせぇ、大人しく仕留められてろ」
 黒騎士はなおもエルを追おうとするが、ザルクがそれを許すはずがなかった。
 敵がまだ凍っているうちに、さらに大地に束縛の結界を施し、そして銃撃。
「ぐ、お……」
 敵はズルリと崩れ落ち、その場に倒れかけた。
「何をしている! 敵わぬならば下がれ!」
 援護に入ってきたゲオルグ・ホーソーンがザルクの銃弾を剣で弾いた。
 動きを封じられていた黒騎士は、他の黒騎士に引っ張られて下がっていった。
 黒煙が上がる村落で、騒乱はまだ終わりそうになかった。

●魔女狩りは終わらない
「そら、こっちだ! できる限りかたまれ! 一人になるな!」
 村落の東側では、逃げてきた村人へツボミが声を上げていた。
 さらに、彼女は傷ついた村人がいれば癒しの魔導を惜しまず使い、彼らを東の森へと逃げるよう指示し続けた。
 自由騎士の介入によって、村人達の大部分は生き残れそうだった。
 しかし、黒騎士達がそれを見逃すはずもなく、
「おっと悪いがここから先は行かせないぜ」
 村の東側を目指そうをする黒騎士達を阻むべく、オルパが前に立った。
「そういうことだ。行かせやしないぜ?」
 そして、その隣にはロンベル。
 彼を見た黒騎士が、何かを察して後続に叫んだ。
「――呪法!」
「呪法を!」
「呪法・纏影法衣!」
 黒騎士達がその身に影を纏った。そこへ、ロンベルの魔導が炸裂する。
 彼が用いたのはネクロマンサーの奥義とも呼べる術の一つ。強烈な魔力の奔流によって対象の動きを封じるものではあるのだが――
「ハッ、ほとんど効いちゃいねぇ!」
 範囲に収めた黒騎士の中ので、動きを封じられたのはごく一部。
 それ以外は全員健在。各々が武器を手に迫ってくる。
「……いいねェ。そうこなくちゃ」
「オイ、分かってるんだろうな。魔女狩り」
「ああ? ンだ、魔女野郎」
 オルパが口を出すと、笑っていたロンベルが途端に不機嫌そうな顔になる。
 構わず、オルパは言う。
「俺達の目的は連中を叩くことじゃないぞ」
「ハッ、言われるまでもねぇ。不服じゃあるが、弁えてンよ!」
 ロンベルが再び魔導を行使する。
 使ったのはスワンプ。敵の足元を泥化させて歩みを止めさせる魔導である。
 それを見たオルパは眉根を潜めて小さくひとりごちた。
「……元とはいえ魔女狩りだったヤツと一緒に戦う、か。複雑だ」
 彼はそのまま泥に足を取られる黒騎士へと自ら接近し、
「そら、本物の魔女はここにいるぞ。どうした、こっちに来い!」
 自ら囮を買って出た。
 一瞬、黒騎士達からオルパへと向けて特量の殺気が放たれる。
 だがそれだけ。黒騎士達は彼を無視してすぐに視線を村人の方へとやった。
 一部始終を見ていたツボミがこれに仰天する。
「マジか、オイ!」
 シャンバラの戦いに深く関わってきた彼女だ。
 これまで連中がどれだけヨウセイを目の敵にしていたかを知っているだけに、黒騎士達の行動がにわかには信じられなかった。
「なぁジョセフ、何なんだアレは? どれだけ教育が行き届いてるんだ!」
「だから私に言うな。私とて我が兄の行動を全て認知しているワケではない」
 幾度目かになる氷の魔導を放とうとしているジョセフが、無表情で返す。
 はじめは村落全体に広がっていた戦場も、村人が東に逃げることで一か所に固まりつつあった。
 攻める黒騎士、守る自由騎士、守られながら東に逃げる村人、という構図だ。
「自由騎士風情が、我らが神聖なる魔女裁判の邪魔をするか!」
「ハッ、魔女裁判? 裁判ねぇ」
 叫ぶ黒騎士の声を聞き、ロンベルがそれを鼻で笑う。
「何が裁判だ。わざわざ村に火をつけるなんて手の込んだことしやがって。神の名を使いつつも、結局、お前らはイ・ラプセルが憎いだけだろうが! そんなだからミトラースは討たれたんだよ、この中身なしのがらんどう共が!」
 怒りと共に彼は言う。だが、
「ク、フフフ。何を青いことを。個の感情などに拘るとは。それを口に出すこと自体、貴様自身の未熟の証明だな。魔女狩り風情め」
 ロンベルの言葉が通じるほど、黒騎士の価値観は柔らかくはなかった。
「あァ?」
 ロンベルを前に、黒騎士達は剣を構え、
「我らは鎚」
「我らは鋼」
「我らは黒」
「「我らの在り方に人たることなど不要。我らは魔女を殺す神罰の鉄槌也」」
 声を揃える彼らに、オルパは寒気と共に呟いた。
「間違いなくシャンバラだよ、お前らは……!」
 と、そのときだった。村落の外から多数の声が聞こえてきた。
「やっと来たか……」
 その声にロジェが安堵のため息を漏らす。
 それは、近隣地域の巡回をしていた自由騎士達だった。
 村落が襲撃を受けた時点で、ギアを使って連絡しておいたのだ。
「潮時だな」
 外に響く声を聴きつけて、ゲオルグ・ホーソーンはそう判断する。
「撤退せよ!」
「撤退!」
「撤退せよ、直ちに撤退せよ!」
 黒騎士達は速やかに動き出す。これまでの執着が嘘のように、彼らは退いた。
 応援の自由騎士が到着する頃には、黒騎士達は完全に撤収していた。
「引き際まで鮮やかとは、超一流の悪役か、あいつらは……」
「何でもいいわ。そんなことより、あいつら、いつかまたやるわよ」
 呆れるツボミにエルがいう。
 今回こそ、被害は少なく終わったが、連中は再び魔女裁判を起こすだろう。
 果たしてそれを防ぐことができるのか否か。
「全く、シャンバラはまだまだ問題が山積みだな」
 荒れ果てた村落を見ながら、ザルクはそう零すのだった。

「あー、ところでジョセフよ」
 戦闘後、ツボミがジョセフに話しかける。
「何かね?」
「最高にクソッタレな置き土産を残しやがった貴様の兄貴は、何かこう、恥ずかしい秘密みたいなモンはないのか? 意趣返しに超広めたいんだが」
「ふむ、最高に恥ずかしい秘密。……例えば、だが」
「お、何かあるのか?」
「兄は妻を呼ぶとき『ちゃん』付けで呼んでいた、などはどうかね」
「「「「マジで!?」」」」
 愕然となる自由騎士一同であった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

お疲れさまでした!
村落に被害は出たものの、ほぼ最小限で済みました。
黒騎士連中は足がつきかねないのでしばらくはこの村を襲わないでしょう。

黒騎士の正体はシャンバラの次期主力戦闘スタイル「魔剣士」でした。
こいつらがどういう能力を持つかは今後の展開でさらに明らかになっていくでしょう。

それでは、また次のシナリオでお会いしましょう。
ありがとうございました!
FL送付済