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オラトリオオデッセイに飛び交う白いアレ(生)

●
「はわぁぁぁぁ~~…………」
オルヴェル・クライツは目の前に積み重ねられた信じがたい現実に頭を抱えていた。その目の前には在庫、在庫、また在庫。どう見ても過剰な在庫が積まれている。さらにはその在庫の中身は生もの。そう、賞味期限が短いのである。
「困ったなぁ~~困ったなぁ~~」
腕を組み、難しい顔をしてその場をぐるぐると回るオルヴェル。
「え? 何が困ったって? これこれ、このクリームパイの山。これ実はいたずらアイテムなんだけどね……」
誰に説明してるのかわからないが、オルヴェルのカメラ?目線の説明は続く。
「それが……、さ。いざ発注したのはいいのだけど……発注単位が【個】じゃなくて【ケース(50個入)】だったのだよ……」
あぁ、50倍。やっちまったなぁ! しかし頼んでしまったものは致し方ない。ここは男は黙って──
いえいえ、このオルヴィルなる人物。ぱっと見あどけない少年のように見える。だがその見た目とは裏腹にその年齢は19歳。そう、安全安心な年齢である。さらには通商連所属【カーネリ商会】の若き商人なのであった。知る人ぞ知る女性だけで構成されたあの商会である。つまりはこう見えて彼女は妙齢の女性なのであった。
だが商会に所属しているとはいえ、まだまだ駆け出しの下っ端。いつかは自分の商会を! と意気込んで仕事に励むものの、生まれついてのおっちょこちょいがしばしば顔を出し、この日もなんと想定の50倍という誤発注をぶちかまし、どうしたものかと頭を抱えているのである。ただ彼女の場合、割とこれが平常運転という話もあるのだが……。
「このクリームパイ、顔にペチャっとやるとすっごいハイテンションになって楽しいのだけど……さすがにこの量は……それに……」
誤発注も当然問題なのだが、オルヴェルがそれ以上に頭を抱える大問題。それはこのクリームパイがどう贔屓目に評価しても美味しくないという事。
「!!」
へにょりと下を向いていたオルヴェルのしっぽが突然上を向く。
「……あそこならもしかして!」
オリヴェルは早速大量の在庫を積み込み、ある場所へ向かうのであった。
●
「というわけで安くしとくから、パイ投げパーティーでもしない?」
「またあなたですかぁ~~」
開口一番とんでもない提案をしてきたオルヴェルをやれやれといった表情で迎えたのは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。ここはシェリルが営む和菓子茶屋、八千代堂。
「そういわずに、きっと楽しいのだよ」
シェリルの制止も聞かずに在庫を積んでいくオルヴェルに、さすがのシェリルも一言。
「うちは和菓子屋ですよ~」
え、突っ込むところ、そこ!? 量じゃないんだ……。
「仕方ないですねぇ~。オラトリオの時期でもありますし、一応皆さんに声をかけてみますが~。それ以上はわたしには何もできませんよ~」
ふぅ、とため息をつきながらも、まるで世話のかかる妹の相手をするような優しい眼差しのシェリル。
こうして八千代堂初の試み「廃テンションパイ投げ祭り」が開催されることになったのだった。
集え、腕に覚えある自由騎士達よ……呼吸を整え、全集中で投げるのだ。
「はわぁぁぁぁ~~…………」
オルヴェル・クライツは目の前に積み重ねられた信じがたい現実に頭を抱えていた。その目の前には在庫、在庫、また在庫。どう見ても過剰な在庫が積まれている。さらにはその在庫の中身は生もの。そう、賞味期限が短いのである。
「困ったなぁ~~困ったなぁ~~」
腕を組み、難しい顔をしてその場をぐるぐると回るオルヴェル。
「え? 何が困ったって? これこれ、このクリームパイの山。これ実はいたずらアイテムなんだけどね……」
誰に説明してるのかわからないが、オルヴェルのカメラ?目線の説明は続く。
「それが……、さ。いざ発注したのはいいのだけど……発注単位が【個】じゃなくて【ケース(50個入)】だったのだよ……」
あぁ、50倍。やっちまったなぁ! しかし頼んでしまったものは致し方ない。ここは男は黙って──
いえいえ、このオルヴィルなる人物。ぱっと見あどけない少年のように見える。だがその見た目とは裏腹にその年齢は19歳。そう、安全安心な年齢である。さらには通商連所属【カーネリ商会】の若き商人なのであった。知る人ぞ知る女性だけで構成されたあの商会である。つまりはこう見えて彼女は妙齢の女性なのであった。
だが商会に所属しているとはいえ、まだまだ駆け出しの下っ端。いつかは自分の商会を! と意気込んで仕事に励むものの、生まれついてのおっちょこちょいがしばしば顔を出し、この日もなんと想定の50倍という誤発注をぶちかまし、どうしたものかと頭を抱えているのである。ただ彼女の場合、割とこれが平常運転という話もあるのだが……。
「このクリームパイ、顔にペチャっとやるとすっごいハイテンションになって楽しいのだけど……さすがにこの量は……それに……」
誤発注も当然問題なのだが、オルヴェルがそれ以上に頭を抱える大問題。それはこのクリームパイがどう贔屓目に評価しても美味しくないという事。
「!!」
へにょりと下を向いていたオルヴェルのしっぽが突然上を向く。
「……あそこならもしかして!」
オリヴェルは早速大量の在庫を積み込み、ある場所へ向かうのであった。
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「というわけで安くしとくから、パイ投げパーティーでもしない?」
「またあなたですかぁ~~」
開口一番とんでもない提案をしてきたオルヴェルをやれやれといった表情で迎えたのは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。ここはシェリルが営む和菓子茶屋、八千代堂。
「そういわずに、きっと楽しいのだよ」
シェリルの制止も聞かずに在庫を積んでいくオルヴェルに、さすがのシェリルも一言。
「うちは和菓子屋ですよ~」
え、突っ込むところ、そこ!? 量じゃないんだ……。
「仕方ないですねぇ~。オラトリオの時期でもありますし、一応皆さんに声をかけてみますが~。それ以上はわたしには何もできませんよ~」
ふぅ、とため息をつきながらも、まるで世話のかかる妹の相手をするような優しい眼差しのシェリル。
こうして八千代堂初の試み「廃テンションパイ投げ祭り」が開催されることになったのだった。
集え、腕に覚えある自由騎士達よ……呼吸を整え、全集中で投げるのだ。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.楽しくパイを消費する
2.楽しく廃テンションになる
2.楽しく廃テンションになる
麺です。
リクエストありがとうございます。麺も甘いものは好物です。
※
このシナリオは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)のリクエストによって作成されたシナリオです。
申請者以外のキャラクターも参加することができます。
なお、依頼はオープニングが公開された時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。
●ロケーション
シェリルが用意した特設会場。パイ投げ対策はばっちりなので、会場の汚れは一切気にせず楽しむことができます。
用意されたパイはたくさんあるので無くなる心配はありません。
クリームパイたくさん 投げつけられると一時的に廃テンションになるパイ。効果は短く一時的。
大会ルール
・たくさんパイを投げて相手にあてた人が優勝
・たくさんパイを投げられて最高に廃テンションになった人も優勝
・脇目も振らずにパイを食し、在庫をたくさん減らした人も優勝
・この大会以外でパイを減らす方法を考えた人も優勝
・とにかく優勝
優勝賞品あり〼。
このシナリオは本能のままに廃テンションを楽しむシナリオとなっております。
物理的、精神的どちらの廃テンションも起こりえます。
●登場人物
オルヴェル・クライツ 19歳 狐のケモノビト。
この状況を作った張本人。会場の隅で在庫の整理をしています。パイを投げて巻き込むも良し。
●NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
数合わせ要因として参加。参加者が奇数だった場合に参戦します。が、廃テンションになるとあまり役に立ちません。
皆様のご参加お待ちしております。
リクエストありがとうございます。麺も甘いものは好物です。
※
このシナリオは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)のリクエストによって作成されたシナリオです。
申請者以外のキャラクターも参加することができます。
なお、依頼はオープニングが公開された時点で確定しており、参加者が申請者1名のみでもリプレイは執筆されます。
●ロケーション
シェリルが用意した特設会場。パイ投げ対策はばっちりなので、会場の汚れは一切気にせず楽しむことができます。
用意されたパイはたくさんあるので無くなる心配はありません。
クリームパイたくさん 投げつけられると一時的に廃テンションになるパイ。効果は短く一時的。
大会ルール
・たくさんパイを投げて相手にあてた人が優勝
・たくさんパイを投げられて最高に廃テンションになった人も優勝
・脇目も振らずにパイを食し、在庫をたくさん減らした人も優勝
・この大会以外でパイを減らす方法を考えた人も優勝
・とにかく優勝
優勝賞品あり〼。
このシナリオは本能のままに廃テンションを楽しむシナリオとなっております。
物理的、精神的どちらの廃テンションも起こりえます。
●登場人物
オルヴェル・クライツ 19歳 狐のケモノビト。
この状況を作った張本人。会場の隅で在庫の整理をしています。パイを投げて巻き込むも良し。
●NPC
『ヌードルサバイバー』ジロー・R・ミタホーンテン(nCL3000027)
数合わせ要因として参加。参加者が奇数だった場合に参戦します。が、廃テンションになるとあまり役に立ちません。
皆様のご参加お待ちしております。

状態
完了
完了
報酬マテリア
1個
1個
2個
1個




参加費
100LP
100LP
相談日数
7日
7日
参加人数
6/6
6/6
公開日
2021年01月13日
2021年01月13日
†メイン参加者 6人†
●
「皆さまようこそいらっしゃいましたぁ〜。それではぁ、今回のやらかし先生もといオルヴェルさん一言どうぞ〜」
ここは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の店から少し離れた集会場。そこには腕に覚え?のある自由騎士たちと、一人の駆け出し商人の姿があった。
「え、えっと皆さん初めまして、オルヴェル・クライツです。この度はこのような場を設けていただ──」
「はい~。それではパイ投げパーティー始まりまぁす!!」
無茶ぶりをしておきながら、話途中でマイクを奪うシェリル。いつも通りの笑顔ではあるものの、どうもいつもとは雰囲気が違う。なぜか。それはこの少し前の出来事にある。
「わたしはぁ、この美味しくないパイを出来るだけ美味しくなるように頑張ってアレンジしたいと思いますぅ! 先ずは味見を………ふむふむ……これは…………」
パイ投げパーティが始まる少し前に会場入りしたシェリル。美味くないと評判のパイを少しでもましにしようとデコレーションを行っていた。その際に味見をした結果。
「きゃははははぁ〜!! まぁずいですぅ〜!!! これはぁ、どうしようもないマズさですねぇ〜。どうしましょう? どうしましょう? フルーツを乗っけてみますかぁ??」
と開始前からそのテンションをがっつり上げてしまっていたのだった。その後多少落ち着きを取り戻したものの、それでも先のような行動をとってしまう程度にはまだ効果が続いているようだった。
「よーし、今日は投げまくるよ~!」
いつも元気。『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は気合十分にパイを手にした。腕をぶんぶんと振り回し、高らかに宣言するその様子は年齢相応の子供らしさを見せる。といっても実力はそこらの大人など相手にならないのであるのだが。
「パイ投げですか……なるほど、つまりは雪合戦みたいなものですね?」
あってる。いや間違ってる。『サルーテ・コン・ラ・パスタ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は幼い頃の雪合戦を思いだす。蔦を結び、穴を掘り、塹壕を作り……ってずいぶん本格的じゃないか、おい! 固めた雪玉の中に石を仕込んでないだけまだ子供の遊びの範疇なのであろう。
だが、此度の相手は自由騎士。相応の覚悟と決意をと気合を入れるアンジェリカ。
「アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン。全身全霊をもって死闘<パイ投げ>の相手を務めさせて頂きます……!」
本気だわもう。止められる気がしない。なんかスキルまで使って能力あげてるし。ぱねぇよ、アンジェリカ姐さん!
「パイを投げる事で何故利益が……よくわかりませんがストレス発散? しかし少々非生産的な気も……いえ、細かい事は気にしません! 承知しました!!」
若干戸惑いながらも臨戦態勢に入ったのは『いと堅き乙女に祝福を』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。別の依頼越しの覚悟完了という荒業を見せた彼女。その意気や良し。存分に味わってもらいたい。
「そうだね。……折角の機会。全力で楽しむよ。某赤髪シスターに走り込みをさせられている成果、今こそ見せる時……!」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)も日ごろの成果を見せようとやる気は十分。なぜか格好はこの寒いのに水着に必勝ハチマキといういで立ち。動けば温まるは本人談だが、見ているほうも結構寒い。個人的にも早く温まってほしい。切に願う。
「いくら投げるためのと言っても、食えるには食えるんだよな、これ」
いったいどんな味なんだろ──『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は恐る恐るパイに手を伸ばし、一舐めする。
「……!!!(まっずぅぅぅーーー!!!!)」
思わずリュエルの顔が歪む。そしてリュエルは固く心に誓う。食べることは考えず、ひたすら投げ続けよう、と。
「それでは……スタート!」
オルヴェルの号令とともに合戦はスタートする。
遊びの範疇を超えた死闘の幕開けであった。
●
それではここからはパイバトルのテーマをBGMに進行していこう。
『戦え! パイバトル』 作詞作曲:リュエル・ステラ・ギャレイ
<<♪パイ! パイ! パイ! どっちを向いてもパイ!♪>>
投げるだけなど芸がない──そう考えたデボラは実験を始める。おのが鍛えた攻撃スキル。それをパイ投げに応用しようというのだ。
例えばバレッジファイア。
通常の弾の代わりにパイを投げる事でどのような効果が得れるのか。
例えばバーチカルブロウ。
凝縮した気と共にパイを投げたらどのような効果が得れるのか。
例えばチェシャキャット。
巨大鋸の代わりにパイを回転させる事でどのような効果が得れるのか。
例えばマーチラビット。
通常の炸裂弾頭の代わりにパイを投げる事でどのような効果が得れるのか。
試したいことは山ほどある。すべては自らの鍛錬のため。すべてはトライ&エラー。行うことに意義がある。だからこの場でできることは全て試す──。
デボラの大いなる実験が始まった。
スタートと同時に各自パイを持ち、一斉に投げ合う自由騎士たち。その動きには一切のよどみはない。瞬く間に会場は白く染まっていく。
「遊びに見せかけてはいますが……」
パイの効果が思わぬ方向に向き、思考が一つ上に到達してしまったアンジェリカがたどり着いた答え。それはこのイベント自体が対ヴィスマルクを想定して実践訓練などであるというものだった。
「飛び交うパイは砲弾、であればこれは差し詰め模擬戦闘訓練。ならば手を抜くなど以ての外」
アンジェリカから発せられる気迫はどう見ても戦場でのそれ。死闘とかいてマジと読む。
「さぁ、生存戦略を始めましょう──」
<<♪(セリフ)「おいパイ食わねぇか」 誰がっ! 頼んだっ! こんな量ぉぉお♪>>
正直、当たる気がしないな……投げながらもそんなことを思うのはマグノリア。今回の相手はこれまで幾戦を共にしてきた仲間たち。彼らの身体能力は嫌というほど熟知している。
アンジェリカとリュエルにはそもそも当てられる気がしない……カノンとはいい勝負になりそうだが……一投一投のダメージが桁違いだ。まともにやっては到底勝ち目はない。デボラは……どんな戦法でくるか全く読めない。
「こうなれば……」
と、その目線が向いたのはシェリル。一度は投げようとするも踏みとどまる。
「駄目だ…!! 純粋にこのパイを美味しくさせようと努力している彼女に、当てられる訳が無い……!」
葛藤するマグノリアに向けられるは、ほかの参加者から投げつけられる容赦のないパイ攻撃。その視界は奪われ、どんどん白くなっていく。
「うわぁ……」
目の前が真っ白だ──。このまま埋もれてもいいかな。そんなことを一瞬マグノリアは考えたのであった。
「うわぁ……あれだけあったパイがどんどん減っていく……自由騎士ってやっぱりすごいな……」
感嘆の声を上げるのはオルヴェル。自身の不手際が招いた大量の在庫が瞬く間に減っていく様はある意味爽快である。自らの失敗を忘れ、それどころかこの状況を作れた自分に関心すらするような。そんな高揚感を感じている。
「もっとやれっ! いけっ! 自由騎士っ!!」
<<♪いつもの、事だっ! Don’t look back! 投げろ! 食べろ! 減らせぇぇ!♪>>
「きゃははははぁ〜!! やっぱりだめですぅ~!! どんなにデコレーションしてもまずいものはまずいですぅ〜!!!」
シェリルは一人、他のメンバーとは違う戦いに挑んでいた。それは不可能オブ不可能。いくらやっても結果が出ない地獄のデコレーション作業。けらけらと笑い続けるシェリル。こんな彼女を見たことがあるだろうか。いや、無い。この商売において彼女は完璧である。しかしその彼女をしてもこのパイの魔力には抗えないようだ。
「はうっ」
流れ弾となったパイがシェリルの頭にぽすっ。
「はわぁ〜やりましたねぇ〜!! まだデコレーションの途中なのですぅ! デコレーションを邪魔する悪い子にはきっつうーいお返ししちゃいますよぉ〜!!!」
シェリルの目がキラーンと光り、その両手にはこれ以上ないくらいデコレーションで盛ったパイ。そしてそのパイの片割れは隣で応援していたオルヴェルの顔面へと炸裂するのであった。
<<賞味期限は長くはないぞ! パイはまだまだ残ってる! パイが七分で敵が三分だ!♪>>
「えいっ!」
とにかく手数で勝負。ひたすらパイを投げ、そして投げられたパイを避けることもせずに受け続けていたのはカノン。避けるどころかむしろ当たりにいっている。
「不味い! もう一枚!」
どこかで聞いたようなフレーズ。一瞬どこかの悪役が集まる商会の元プロ野球選手の顔が浮かんだ気がした。気のせいだった。そうこう言ってるうちにパイを受け続け、クリームまみれになるカノンのテンションは爆上がりしていく。
「燃えカスなんて残らないくらい燃え上がるんだよぉぉおお!」
カノンが咆哮する。それに応じたように他の自由騎士達の本気度も上がっていく。
「カノンが動くぞっ」
全身パイまみれのリュエルが目線を遮るパイをぬぐいながら叫ぶ。
「そろそろラストスパートですね~」
シェリルも袖をたくし上げ、気合十分。といっても彼女はほとんどの時間をパイのデコレーションに使っていたわけだが。それでも流れ弾によってなかなかにパイにまみれている。
「落ち着くんだ、僕……まだ、終われない。ここで心折れてどうする。白紙の未来を回避する為に、此処で屈する訳にはいかないんだ……っ!」
ダウン方向にテンションが傾き、心折れかけていたマグノリアだったが、そこは自由騎士。不屈の精神でふと我に返り、ここから反撃を開始する。
「当たらない様に動くからいけないんだ。当たる事を覚悟でカウンターを決めればいい!」
マグノリアが導き出した答え。それは相打ち覚悟の白兵戦だった。
皆のテンションが極限に近づく。それはすなわち皆がパイにまみれているという事だ。
「あ……は……こんな……にも……白くて……どろりとしたものに私……まみれちゃってる……まみれちゃってるのぉおお」
顔についたクリームを指ですくい、ぺろりと舐めるデボラ。その頬は薄紅色に色づき、呼吸も荒い。そこだけまるで色気が可視化されているような空気感。
……デボラさんだけちょっと廃テンションの方向性が違う気がします。
「きゃっ」
「あ、、すまねぇ」
パイを顔面に食らったリュエルがよろけ、デボラに軽い接触。すると──
「ユータッチマイパァイ?」
デボラが妖艶にほほ笑みながら胸を寄せる。デボラさん、それはパイ違いです。
デボランヌ、もといデボラの意表を突くパイ攻撃にたじろぐリュエル。
「ノータッチユアパァァァーイッ!」
リュエル、逃げて!! 脱兎のごとく走り去るリュエル。それでいい、少年よ。それに今のデボラにその手の相手はちょっとまずい。なんたって覚悟が完了している。
「さぁ、時は最終局面。最後の攻防と参りましょう」
アンジェリカも気づけばクリームにまみれている。
ここで今一度考えてみたい。自由騎士たちが本気で避けることだけを考えれば、誰一人服を汚さずに避けきる可能性もあった。だがそれでは単にパイを投げ捨てたという事実が残るのみ。食品ロスがさこばれる昨今、これでは到底消費したとは言えないだろう。人に当てて廃テンションを演出することで初めて活用されたといえる。その点では皆が空気を読んでいた。ありがとう自由騎士。
<<♪白い──>>
「白いクリームの会場にぃぃぃ~~~♪♪ 今!! 嵐がぁぁ吹き荒れるぅぅぅーーーー♪♪」
脱兎のように会場の端まで走り抜けたリュエル。BGMをかき消すかのように自らマイクを持ち、歌いだす。その廃テンションな歌声は会場のボルテージをさらに上げていく。
「いつだってぇぇ~~~勝者はただ一人!!♪」
「「「ただ一人!!」」」
気づけば全員が口ずさむ。もう何が何やらわからないが、なぜか皆歌っている。なぜ初めて聞く曲の歌詞を知っているか。その説明はできない。だがこれもパイによって上がったテンションのなせるわざなのだ。そう、たぶん。
「勝つのはどいつだぁぁあああぁぁぁ!!!!!♪」
リュエルが叫びマイクを皆に向ける。
「私です!!」
「わたしですぅ~!!」
「カノンだよっ!!」
「私だ!!」
「僕だ!!」
「いいや、オレだぁぁぁ!!」
皆が勝利を信じている。皆が勝利を望んでいる。
「「「Go!!! fight!!! 戦えぇぇぇっ!!!」」」
ラスト一投。これが最後。各々が全力を込めて相手めがけてパイを投げた。
そしてこの日オルヴェルが持ち込んだ分のすべてのパイが消費されると全員がその場に倒れこむ。
会場は一時の静寂に包まれるのであった。
「ピィィィーーーーーーーーー!!!! 終了っ!! 終了っ!!」
シェリルが命中させたパイのクリームを拭いながらオルヴェルが終了の笛を吹く。
こうして大会は終わる。参加した誰の表情も、それはそれはやり遂げたもの達の満足げな顔だった。ただ一人、クリームにまみれながら体をよじらせ、上気した頬で切ない声を漏らしていたデボラを除いて。
……あ。
もう一人、会場の隅にいた。
「燃え尽きたよ、真っ白にね……」
全身真っ白(パイのクリームで)で深く椅子に腰かけ、がっくりと肩を落とすカンン。某トゥモロウな人の名シーンが完璧に再現されている。唯一違うのは全身から甘い匂いを漂わせている事くらいだろう。
こうしてパイ投げ大会は幕を閉じる。
いったい誰が片付けるのだろうという麺の心配を残して。
●
「持ってきた分は全部なくなったけどまだあるんでしょ? やっぱりパイ投げだけでは消費効率が悪いね……。そうだ。生クリームの原料は脂。このクリームも限界迄振り続ければ、バターになるんじゃないかな?」
シャワーを浴び、休憩を終えたマグノリアがオルヴェルに提案する。
「確かになると思います……でもやっぱり味のほうが……」
オルヴェルの言葉の歯切れは悪い。やはり口に入るものとしては味は重要。なかなかそのあたりはデリケートな問題のようだ。
「それにバターになったからといって効果がなくなるとも言えない……か」
そうなのだ。このパイの問題点は二つ。味とその効果。
「結局、こんな感じで楽しんじゃうのがいいのかもねっ」
すっかり元に戻ったカノン。パイ投げがとても楽しかったらしくとてもご機嫌だ。
「運動後のおやつですよぉ~」
シェリルが店の和菓子を配ってまわると、皆が一斉に食べ始める。
「待ってましたっ! あ、お茶も欲しいっ」
「運動後の甘いものは……良いものですね」
「シェリル様、いただきますっ!」
「おっいしぃーーー!」
「これだけ美味しければ……試しにあのクリームを──」
クリームを乗せようとするマグノリアを、笑顔で制止するシェリル。マグノリアの探求心の結果がどうなるのか見たいものだが、今はやめておこう。ストップザエンドレス。
「ごちそうさまっ」
「本当に皆さんありがとうございました」
オルヴェルがぺこりと頭を下げる。
「で、今回の参加費ですが、おひとりあたり──」
「「「「えぇぇぇーーーー!?!?!?」」」」
さすがは商売人。ちゃっかりしてた。
そんなこんな、すったもんだで今日も日が暮れる。
実に楽しい一日でありました。
●
「あ。今回、歯リュート披露できなかったな」
それはまた次回だ、リュエル君!
「皆さまようこそいらっしゃいましたぁ〜。それではぁ、今回のやらかし先生もといオルヴェルさん一言どうぞ〜」
ここは『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)の店から少し離れた集会場。そこには腕に覚え?のある自由騎士たちと、一人の駆け出し商人の姿があった。
「え、えっと皆さん初めまして、オルヴェル・クライツです。この度はこのような場を設けていただ──」
「はい~。それではパイ投げパーティー始まりまぁす!!」
無茶ぶりをしておきながら、話途中でマイクを奪うシェリル。いつも通りの笑顔ではあるものの、どうもいつもとは雰囲気が違う。なぜか。それはこの少し前の出来事にある。
「わたしはぁ、この美味しくないパイを出来るだけ美味しくなるように頑張ってアレンジしたいと思いますぅ! 先ずは味見を………ふむふむ……これは…………」
パイ投げパーティが始まる少し前に会場入りしたシェリル。美味くないと評判のパイを少しでもましにしようとデコレーションを行っていた。その際に味見をした結果。
「きゃははははぁ〜!! まぁずいですぅ〜!!! これはぁ、どうしようもないマズさですねぇ〜。どうしましょう? どうしましょう? フルーツを乗っけてみますかぁ??」
と開始前からそのテンションをがっつり上げてしまっていたのだった。その後多少落ち着きを取り戻したものの、それでも先のような行動をとってしまう程度にはまだ効果が続いているようだった。
「よーし、今日は投げまくるよ~!」
いつも元気。『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は気合十分にパイを手にした。腕をぶんぶんと振り回し、高らかに宣言するその様子は年齢相応の子供らしさを見せる。といっても実力はそこらの大人など相手にならないのであるのだが。
「パイ投げですか……なるほど、つまりは雪合戦みたいなものですね?」
あってる。いや間違ってる。『サルーテ・コン・ラ・パスタ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は幼い頃の雪合戦を思いだす。蔦を結び、穴を掘り、塹壕を作り……ってずいぶん本格的じゃないか、おい! 固めた雪玉の中に石を仕込んでないだけまだ子供の遊びの範疇なのであろう。
だが、此度の相手は自由騎士。相応の覚悟と決意をと気合を入れるアンジェリカ。
「アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン。全身全霊をもって死闘<パイ投げ>の相手を務めさせて頂きます……!」
本気だわもう。止められる気がしない。なんかスキルまで使って能力あげてるし。ぱねぇよ、アンジェリカ姐さん!
「パイを投げる事で何故利益が……よくわかりませんがストレス発散? しかし少々非生産的な気も……いえ、細かい事は気にしません! 承知しました!!」
若干戸惑いながらも臨戦態勢に入ったのは『いと堅き乙女に祝福を』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。別の依頼越しの覚悟完了という荒業を見せた彼女。その意気や良し。存分に味わってもらいたい。
「そうだね。……折角の機会。全力で楽しむよ。某赤髪シスターに走り込みをさせられている成果、今こそ見せる時……!」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)も日ごろの成果を見せようとやる気は十分。なぜか格好はこの寒いのに水着に必勝ハチマキといういで立ち。動けば温まるは本人談だが、見ているほうも結構寒い。個人的にも早く温まってほしい。切に願う。
「いくら投げるためのと言っても、食えるには食えるんだよな、これ」
いったいどんな味なんだろ──『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は恐る恐るパイに手を伸ばし、一舐めする。
「……!!!(まっずぅぅぅーーー!!!!)」
思わずリュエルの顔が歪む。そしてリュエルは固く心に誓う。食べることは考えず、ひたすら投げ続けよう、と。
「それでは……スタート!」
オルヴェルの号令とともに合戦はスタートする。
遊びの範疇を超えた死闘の幕開けであった。
●
それではここからはパイバトルのテーマをBGMに進行していこう。
『戦え! パイバトル』 作詞作曲:リュエル・ステラ・ギャレイ
<<♪パイ! パイ! パイ! どっちを向いてもパイ!♪>>
投げるだけなど芸がない──そう考えたデボラは実験を始める。おのが鍛えた攻撃スキル。それをパイ投げに応用しようというのだ。
例えばバレッジファイア。
通常の弾の代わりにパイを投げる事でどのような効果が得れるのか。
例えばバーチカルブロウ。
凝縮した気と共にパイを投げたらどのような効果が得れるのか。
例えばチェシャキャット。
巨大鋸の代わりにパイを回転させる事でどのような効果が得れるのか。
例えばマーチラビット。
通常の炸裂弾頭の代わりにパイを投げる事でどのような効果が得れるのか。
試したいことは山ほどある。すべては自らの鍛錬のため。すべてはトライ&エラー。行うことに意義がある。だからこの場でできることは全て試す──。
デボラの大いなる実験が始まった。
スタートと同時に各自パイを持ち、一斉に投げ合う自由騎士たち。その動きには一切のよどみはない。瞬く間に会場は白く染まっていく。
「遊びに見せかけてはいますが……」
パイの効果が思わぬ方向に向き、思考が一つ上に到達してしまったアンジェリカがたどり着いた答え。それはこのイベント自体が対ヴィスマルクを想定して実践訓練などであるというものだった。
「飛び交うパイは砲弾、であればこれは差し詰め模擬戦闘訓練。ならば手を抜くなど以ての外」
アンジェリカから発せられる気迫はどう見ても戦場でのそれ。死闘とかいてマジと読む。
「さぁ、生存戦略を始めましょう──」
<<♪(セリフ)「おいパイ食わねぇか」 誰がっ! 頼んだっ! こんな量ぉぉお♪>>
正直、当たる気がしないな……投げながらもそんなことを思うのはマグノリア。今回の相手はこれまで幾戦を共にしてきた仲間たち。彼らの身体能力は嫌というほど熟知している。
アンジェリカとリュエルにはそもそも当てられる気がしない……カノンとはいい勝負になりそうだが……一投一投のダメージが桁違いだ。まともにやっては到底勝ち目はない。デボラは……どんな戦法でくるか全く読めない。
「こうなれば……」
と、その目線が向いたのはシェリル。一度は投げようとするも踏みとどまる。
「駄目だ…!! 純粋にこのパイを美味しくさせようと努力している彼女に、当てられる訳が無い……!」
葛藤するマグノリアに向けられるは、ほかの参加者から投げつけられる容赦のないパイ攻撃。その視界は奪われ、どんどん白くなっていく。
「うわぁ……」
目の前が真っ白だ──。このまま埋もれてもいいかな。そんなことを一瞬マグノリアは考えたのであった。
「うわぁ……あれだけあったパイがどんどん減っていく……自由騎士ってやっぱりすごいな……」
感嘆の声を上げるのはオルヴェル。自身の不手際が招いた大量の在庫が瞬く間に減っていく様はある意味爽快である。自らの失敗を忘れ、それどころかこの状況を作れた自分に関心すらするような。そんな高揚感を感じている。
「もっとやれっ! いけっ! 自由騎士っ!!」
<<♪いつもの、事だっ! Don’t look back! 投げろ! 食べろ! 減らせぇぇ!♪>>
「きゃははははぁ〜!! やっぱりだめですぅ~!! どんなにデコレーションしてもまずいものはまずいですぅ〜!!!」
シェリルは一人、他のメンバーとは違う戦いに挑んでいた。それは不可能オブ不可能。いくらやっても結果が出ない地獄のデコレーション作業。けらけらと笑い続けるシェリル。こんな彼女を見たことがあるだろうか。いや、無い。この商売において彼女は完璧である。しかしその彼女をしてもこのパイの魔力には抗えないようだ。
「はうっ」
流れ弾となったパイがシェリルの頭にぽすっ。
「はわぁ〜やりましたねぇ〜!! まだデコレーションの途中なのですぅ! デコレーションを邪魔する悪い子にはきっつうーいお返ししちゃいますよぉ〜!!!」
シェリルの目がキラーンと光り、その両手にはこれ以上ないくらいデコレーションで盛ったパイ。そしてそのパイの片割れは隣で応援していたオルヴェルの顔面へと炸裂するのであった。
<<賞味期限は長くはないぞ! パイはまだまだ残ってる! パイが七分で敵が三分だ!♪>>
「えいっ!」
とにかく手数で勝負。ひたすらパイを投げ、そして投げられたパイを避けることもせずに受け続けていたのはカノン。避けるどころかむしろ当たりにいっている。
「不味い! もう一枚!」
どこかで聞いたようなフレーズ。一瞬どこかの悪役が集まる商会の元プロ野球選手の顔が浮かんだ気がした。気のせいだった。そうこう言ってるうちにパイを受け続け、クリームまみれになるカノンのテンションは爆上がりしていく。
「燃えカスなんて残らないくらい燃え上がるんだよぉぉおお!」
カノンが咆哮する。それに応じたように他の自由騎士達の本気度も上がっていく。
「カノンが動くぞっ」
全身パイまみれのリュエルが目線を遮るパイをぬぐいながら叫ぶ。
「そろそろラストスパートですね~」
シェリルも袖をたくし上げ、気合十分。といっても彼女はほとんどの時間をパイのデコレーションに使っていたわけだが。それでも流れ弾によってなかなかにパイにまみれている。
「落ち着くんだ、僕……まだ、終われない。ここで心折れてどうする。白紙の未来を回避する為に、此処で屈する訳にはいかないんだ……っ!」
ダウン方向にテンションが傾き、心折れかけていたマグノリアだったが、そこは自由騎士。不屈の精神でふと我に返り、ここから反撃を開始する。
「当たらない様に動くからいけないんだ。当たる事を覚悟でカウンターを決めればいい!」
マグノリアが導き出した答え。それは相打ち覚悟の白兵戦だった。
皆のテンションが極限に近づく。それはすなわち皆がパイにまみれているという事だ。
「あ……は……こんな……にも……白くて……どろりとしたものに私……まみれちゃってる……まみれちゃってるのぉおお」
顔についたクリームを指ですくい、ぺろりと舐めるデボラ。その頬は薄紅色に色づき、呼吸も荒い。そこだけまるで色気が可視化されているような空気感。
……デボラさんだけちょっと廃テンションの方向性が違う気がします。
「きゃっ」
「あ、、すまねぇ」
パイを顔面に食らったリュエルがよろけ、デボラに軽い接触。すると──
「ユータッチマイパァイ?」
デボラが妖艶にほほ笑みながら胸を寄せる。デボラさん、それはパイ違いです。
デボランヌ、もといデボラの意表を突くパイ攻撃にたじろぐリュエル。
「ノータッチユアパァァァーイッ!」
リュエル、逃げて!! 脱兎のごとく走り去るリュエル。それでいい、少年よ。それに今のデボラにその手の相手はちょっとまずい。なんたって覚悟が完了している。
「さぁ、時は最終局面。最後の攻防と参りましょう」
アンジェリカも気づけばクリームにまみれている。
ここで今一度考えてみたい。自由騎士たちが本気で避けることだけを考えれば、誰一人服を汚さずに避けきる可能性もあった。だがそれでは単にパイを投げ捨てたという事実が残るのみ。食品ロスがさこばれる昨今、これでは到底消費したとは言えないだろう。人に当てて廃テンションを演出することで初めて活用されたといえる。その点では皆が空気を読んでいた。ありがとう自由騎士。
<<♪白い──>>
「白いクリームの会場にぃぃぃ~~~♪♪ 今!! 嵐がぁぁ吹き荒れるぅぅぅーーーー♪♪」
脱兎のように会場の端まで走り抜けたリュエル。BGMをかき消すかのように自らマイクを持ち、歌いだす。その廃テンションな歌声は会場のボルテージをさらに上げていく。
「いつだってぇぇ~~~勝者はただ一人!!♪」
「「「ただ一人!!」」」
気づけば全員が口ずさむ。もう何が何やらわからないが、なぜか皆歌っている。なぜ初めて聞く曲の歌詞を知っているか。その説明はできない。だがこれもパイによって上がったテンションのなせるわざなのだ。そう、たぶん。
「勝つのはどいつだぁぁあああぁぁぁ!!!!!♪」
リュエルが叫びマイクを皆に向ける。
「私です!!」
「わたしですぅ~!!」
「カノンだよっ!!」
「私だ!!」
「僕だ!!」
「いいや、オレだぁぁぁ!!」
皆が勝利を信じている。皆が勝利を望んでいる。
「「「Go!!! fight!!! 戦えぇぇぇっ!!!」」」
ラスト一投。これが最後。各々が全力を込めて相手めがけてパイを投げた。
そしてこの日オルヴェルが持ち込んだ分のすべてのパイが消費されると全員がその場に倒れこむ。
会場は一時の静寂に包まれるのであった。
「ピィィィーーーーーーーーー!!!! 終了っ!! 終了っ!!」
シェリルが命中させたパイのクリームを拭いながらオルヴェルが終了の笛を吹く。
こうして大会は終わる。参加した誰の表情も、それはそれはやり遂げたもの達の満足げな顔だった。ただ一人、クリームにまみれながら体をよじらせ、上気した頬で切ない声を漏らしていたデボラを除いて。
……あ。
もう一人、会場の隅にいた。
「燃え尽きたよ、真っ白にね……」
全身真っ白(パイのクリームで)で深く椅子に腰かけ、がっくりと肩を落とすカンン。某トゥモロウな人の名シーンが完璧に再現されている。唯一違うのは全身から甘い匂いを漂わせている事くらいだろう。
こうしてパイ投げ大会は幕を閉じる。
いったい誰が片付けるのだろうという麺の心配を残して。
●
「持ってきた分は全部なくなったけどまだあるんでしょ? やっぱりパイ投げだけでは消費効率が悪いね……。そうだ。生クリームの原料は脂。このクリームも限界迄振り続ければ、バターになるんじゃないかな?」
シャワーを浴び、休憩を終えたマグノリアがオルヴェルに提案する。
「確かになると思います……でもやっぱり味のほうが……」
オルヴェルの言葉の歯切れは悪い。やはり口に入るものとしては味は重要。なかなかそのあたりはデリケートな問題のようだ。
「それにバターになったからといって効果がなくなるとも言えない……か」
そうなのだ。このパイの問題点は二つ。味とその効果。
「結局、こんな感じで楽しんじゃうのがいいのかもねっ」
すっかり元に戻ったカノン。パイ投げがとても楽しかったらしくとてもご機嫌だ。
「運動後のおやつですよぉ~」
シェリルが店の和菓子を配ってまわると、皆が一斉に食べ始める。
「待ってましたっ! あ、お茶も欲しいっ」
「運動後の甘いものは……良いものですね」
「シェリル様、いただきますっ!」
「おっいしぃーーー!」
「これだけ美味しければ……試しにあのクリームを──」
クリームを乗せようとするマグノリアを、笑顔で制止するシェリル。マグノリアの探求心の結果がどうなるのか見たいものだが、今はやめておこう。ストップザエンドレス。
「ごちそうさまっ」
「本当に皆さんありがとうございました」
オルヴェルがぺこりと頭を下げる。
「で、今回の参加費ですが、おひとりあたり──」
「「「「えぇぇぇーーーー!?!?!?」」」」
さすがは商売人。ちゃっかりしてた。
そんなこんな、すったもんだで今日も日が暮れる。
実に楽しい一日でありました。
●
「あ。今回、歯リュート披露できなかったな」
それはまた次回だ、リュエル君!
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『クリームパイ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
使われたパイは全てスタッフが美味しく頂きました。
FL送付済