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喪われたシルクロード

●
「……」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は、呆然と立ち尽くしていた。
おいしい仕事のはずだった。品を仕入れて、他所で売るだけの簡単な仕事。大量発注で仕入れ値も極限まで抑え、しかもその品には他所では信じられない程の高値がつく。最高の商談のはずだった。仕入れと輸送のための資金も用意できた。あとは品物を取ってくるだけのはずだったのだ。
だというのに──ミズーリは今なぜか、焼け落ちた家屋の残骸の前に立ち尽くしていた。わずかな骨組みだけを残して全焼した家。その骨組みも黒く炭化し、辺りには香ばしくもむさ苦しい炭の匂いと、油断すれば鼻にまで入ってきそうな極小の灰が舞っている。
「……すみません、メイヴェンさん」
ミズーリの隣に立つ男がそう言った。その額には小さな瘤──いや、角がある。オニヒト、あるいはマザリモノだろうか。
この男が家主なのだろうか。そうならばミズーリが言うべき言葉は「お気の毒に」とか「大丈夫ですか?」とかなのだろう。しかし、今のミズーリには残念ながら、相手を気遣うほどの余裕は無かった。目の前の光景が、あまりにも衝撃すぎて。
「……なんで……?」
隣の男に問うたわけではなかった。……何もかも、順調なはずだったのに。
●
「……で、その家を焼いた放火犯を捕まえてほしいの」
後日。ミズーリは自分の呼びかけに集まった自由騎士達に状況を説明し、そう締めくくった。「放火なのか?」誰かが尋ねる。
「本人はそう言ってるわ。火の始末は誓って完璧だった。自分のせいだとわかってるならこんなこと頼まない、ってね」
「捜査をしないと、いけないんですか?」
「出来ることは一杯あると思うわ。現場の調査、周辺とか被害者本人への聞き込み、容疑者が絞れたらその人の取り調べとか、ね。あとは犯人を捕まえたらどうするかも考えておいてね。……私的には、損害賠償を請求したいけど」
ミズーリは笑顔でそう言った。……目が笑っていない。「あの」誰かが恐る恐る尋ねる。
「ちなみに、何を取引しようとしてたんですか……?」
「反物よ」
「反物?」
訊き返され、ミズーリは頷く。「被害者──ナカニシさんは凄腕の織物・反物職人なのよ。彼の作品は国外では、皆が想像してるより遥かに高い金額で取引されるの。その相場はもはや単なる布製品じゃなく、美術品みたいな価格帯になるわ。近いうちに通商連とのパイプが出来たら私が全部買うから、それまでに沢山作っておいてねって頼んでたの。それが一晩でオシャカよ。宝の山だったのよあの家は。それを誰よ。考えも無しに。いったいどれだけの札束が吹っ飛んだと思ってんのよこのバカチンが!」
びくり、と全員が一歩引いた。ミズーリはこほんと咳払いを一つ。
「というわけで、よろしくね。迅速な犯人確保を望みます」
「つってもなあ……本格的な捜査なんてやったことないぜ。有力な容疑者とかいないのかよ」
「全員よ」
「え?」
訊き返され、ミズーリは続けた。「事件が起きたのは王都サンクディゼール、エルディアン・ロード──ノウブル貴族が住まう古き街。ナカニシさんは、その……あまり歓迎されてないの。昔から、ね」
言って、ミズーリは小さく溜息を吐いた。
「……」
『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)は、呆然と立ち尽くしていた。
おいしい仕事のはずだった。品を仕入れて、他所で売るだけの簡単な仕事。大量発注で仕入れ値も極限まで抑え、しかもその品には他所では信じられない程の高値がつく。最高の商談のはずだった。仕入れと輸送のための資金も用意できた。あとは品物を取ってくるだけのはずだったのだ。
だというのに──ミズーリは今なぜか、焼け落ちた家屋の残骸の前に立ち尽くしていた。わずかな骨組みだけを残して全焼した家。その骨組みも黒く炭化し、辺りには香ばしくもむさ苦しい炭の匂いと、油断すれば鼻にまで入ってきそうな極小の灰が舞っている。
「……すみません、メイヴェンさん」
ミズーリの隣に立つ男がそう言った。その額には小さな瘤──いや、角がある。オニヒト、あるいはマザリモノだろうか。
この男が家主なのだろうか。そうならばミズーリが言うべき言葉は「お気の毒に」とか「大丈夫ですか?」とかなのだろう。しかし、今のミズーリには残念ながら、相手を気遣うほどの余裕は無かった。目の前の光景が、あまりにも衝撃すぎて。
「……なんで……?」
隣の男に問うたわけではなかった。……何もかも、順調なはずだったのに。
●
「……で、その家を焼いた放火犯を捕まえてほしいの」
後日。ミズーリは自分の呼びかけに集まった自由騎士達に状況を説明し、そう締めくくった。「放火なのか?」誰かが尋ねる。
「本人はそう言ってるわ。火の始末は誓って完璧だった。自分のせいだとわかってるならこんなこと頼まない、ってね」
「捜査をしないと、いけないんですか?」
「出来ることは一杯あると思うわ。現場の調査、周辺とか被害者本人への聞き込み、容疑者が絞れたらその人の取り調べとか、ね。あとは犯人を捕まえたらどうするかも考えておいてね。……私的には、損害賠償を請求したいけど」
ミズーリは笑顔でそう言った。……目が笑っていない。「あの」誰かが恐る恐る尋ねる。
「ちなみに、何を取引しようとしてたんですか……?」
「反物よ」
「反物?」
訊き返され、ミズーリは頷く。「被害者──ナカニシさんは凄腕の織物・反物職人なのよ。彼の作品は国外では、皆が想像してるより遥かに高い金額で取引されるの。その相場はもはや単なる布製品じゃなく、美術品みたいな価格帯になるわ。近いうちに通商連とのパイプが出来たら私が全部買うから、それまでに沢山作っておいてねって頼んでたの。それが一晩でオシャカよ。宝の山だったのよあの家は。それを誰よ。考えも無しに。いったいどれだけの札束が吹っ飛んだと思ってんのよこのバカチンが!」
びくり、と全員が一歩引いた。ミズーリはこほんと咳払いを一つ。
「というわけで、よろしくね。迅速な犯人確保を望みます」
「つってもなあ……本格的な捜査なんてやったことないぜ。有力な容疑者とかいないのかよ」
「全員よ」
「え?」
訊き返され、ミズーリは続けた。「事件が起きたのは王都サンクディゼール、エルディアン・ロード──ノウブル貴族が住まう古き街。ナカニシさんは、その……あまり歓迎されてないの。昔から、ね」
言って、ミズーリは小さく溜息を吐いた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.放火犯の捕縛
皆様こんにちは、鳥海きりうです。よろしくお願いします。
放火犯を捕縛する捜査シナリオです。放火犯を特定し、捕縛してください。
サブキャラクターのご紹介です。
・ナカニシ
反物職人。彼の作品は国外では高く評価されているらしい。額に角がある。
・ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)
通称連から来た商人。今回の損害に大変ご立腹。
特に要望が無ければ捜査には同行しません。
闇雲に捜査しろと言われても困ってしまうと思いますので、ミッションタスクをいくつか提示いたします。
・現場の調査
放火された家屋跡を調べます。遺留品や手がかりが見つかるかもしれません。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・周辺住民の聞き込み
周辺に住む住民に何か知らないか聞いてみます。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・ナカニシへの聞き込み
ナカニシ本人に聞き込みを行います。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・ミズーリへの聞き込み
ていうかお前は何か知らんのか。ミズーリに聞き込みを行います。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・容疑者の取り調べ
ある程度容疑者が絞れたら、直接会って取り調べを行いましょう。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
容疑者の数によっては、一人では手が回らないでしょう。
・容疑者の追跡・捕縛
容疑者が抵抗した場合に追跡し、実力行使で捕縛します。
ある程度戦闘に寄せたスキルや装備が必要でしょう。
容疑者の数・実力によっては一人では手が回らないかもしれません。
また、今回の敵がイブリースである可能性は限りなくゼロです。戦闘の際はくれぐれも手加減してあげてください。
もちろん、これ以外にも「こんなところを捜査したらどうだろう」「こういうことをすれば楽になるのでは?」というのがあればお書きください。プレイングにあれば喜んで採用させて頂きます。……ただし、実際に有効打となるかは判定次第となりますのでご了承ください。
簡単ですが、説明は以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。
放火犯を捕縛する捜査シナリオです。放火犯を特定し、捕縛してください。
サブキャラクターのご紹介です。
・ナカニシ
反物職人。彼の作品は国外では高く評価されているらしい。額に角がある。
・ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)
通称連から来た商人。今回の損害に大変ご立腹。
特に要望が無ければ捜査には同行しません。
闇雲に捜査しろと言われても困ってしまうと思いますので、ミッションタスクをいくつか提示いたします。
・現場の調査
放火された家屋跡を調べます。遺留品や手がかりが見つかるかもしれません。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・周辺住民の聞き込み
周辺に住む住民に何か知らないか聞いてみます。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・ナカニシへの聞き込み
ナカニシ本人に聞き込みを行います。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・ミズーリへの聞き込み
ていうかお前は何か知らんのか。ミズーリに聞き込みを行います。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
・容疑者の取り調べ
ある程度容疑者が絞れたら、直接会って取り調べを行いましょう。
有効なスキルや装備があれば捗るかもしれません。
容疑者の数によっては、一人では手が回らないでしょう。
・容疑者の追跡・捕縛
容疑者が抵抗した場合に追跡し、実力行使で捕縛します。
ある程度戦闘に寄せたスキルや装備が必要でしょう。
容疑者の数・実力によっては一人では手が回らないかもしれません。
また、今回の敵がイブリースである可能性は限りなくゼロです。戦闘の際はくれぐれも手加減してあげてください。
もちろん、これ以外にも「こんなところを捜査したらどうだろう」「こういうことをすれば楽になるのでは?」というのがあればお書きください。プレイングにあれば喜んで採用させて頂きます。……ただし、実際に有効打となるかは判定次第となりますのでご了承ください。
簡単ですが、説明は以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年06月23日
2018年06月23日
†メイン参加者 8人†
●黒の底から
依頼を受けた自由騎士達は、手分けして捜査にあたることにした。
「さぁて……探偵の真似事は苦手じゃないわ♪」
言いながら、『イ・ラプセル自由騎士団』猪市 きゐこ(CL3000048)は事件現場を調査していた。かつては床だった地面を注意深く見ながら歩く。−−やがて歩みを止め、しゃがみ込み、見つけたものを拾い上げた。
「いたいた……鍵ゲット♪」
拾い上げたのは大型の南京錠だった。表面の煤を払い落とす。鍵は開いていた。しかし、破壊された形跡は無い。「開けたのが犯人だとすれば……まあ、まだ断定はできないわね」
「犯人は現場に戻るって言うしな……のこのこ出てきたらばっちり押さえてやるぜ」
『エイビアリー』柊・オルステッド(CL3000152)は近所の屋根に登り、リュンケウスの瞳と双眼鏡を使って周辺を観察していた。撮影用のカメラも準備してある。−−しかし、今のところ不審な動きをする人影は見当たらなかった。こういう張り込みはすぐに結果を求めるものではないが、戻ってこないという線も当然ある。理由としては−−戻ってこられないか、戻る必要が無いか。「隠れてんのかな……?」
「……この辺だぞ」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は現場の一角、すっかり燃えて何もかも無くなっている場所に立っていた。ナカニシに見せてもらった間取り図とも一致する。おそらくここが−−「あったぞ」地面から『それ』を拾い上げる。燃えた錦の切れ端。鮮やかな色彩を微かに残すそれは、ナカニシの『作品』に違いなかった。「ここが保管庫……そして……」反物は燃えた。少なくとも、ここにあった分は。
「みんなー。こっちー」
『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)の声に、三人は振り返った。そちらへ集まる。
集まった三人に、アラドは自分の足元を指差した。−−地面の下へと続く階段があった。きゐこが周辺の地面を少し探り、立ち上がる。−−鍵ではないが、金属の部品。「ハッチがあったの……? 燃えてるということは、木製の?」
「……そいつを開けるために、火を点けた?」
「……いこー」
アラドがランタンを灯し、階段を降りていく。三人も慎重な足取りでその後に続いた。
●貴族街 −ミズーリの証言−
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)と『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は、まずは依頼主である『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)に詳しい話を聞くことにした。
「ナカニシの旦那はどんな人なんだ。街での評判は?」
ウェルスの問いにミズーリが答える。
「一言で言うなら、職人よ。人付き合いは得意じゃない。でも偏屈ってわけじゃないわ。街での評判はさっき言った通り。あまり歓迎されてない」
「それは先程も聞いたよ。けど、その時少し言い淀んでなかったかな? 過去にもナカニシさん絡みで何か事件でも?」
アダムの言葉にミズーリは頭を振る。
「話すほどのことじゃないわ。そのくらいの小さな事件がいくつか、ね。嫌がらせってそういうものでしょ?」
「例の取引で損する奴とかに心当たりは?」
「少なくとも、この街にはいないと思うわ。そのくらい彼の作品は、この国では買い手が少ないのよ」
「現場近くの貴族で、奴隷開放派と反対派はどのくらいいるんだ?」
「それは……ちょっと、細かい説明が必要ね」
お、とウェルスが呟き、ミズーリが続ける。「厳格な意味での奴隷解放反対派というのは、この街にはいないわ。あえて表現するならこの街は中立、もしくは無関心。奴隷かどうかは関係無いの。そもそもこの街には奴隷は殆どいないから。それもだいぶ前から、ね」
「そ、そうなのか?」
「貴族街エルディアン・ロードと言っても、王都の中心地で活躍してるような華やかな貴族の街じゃないの。どちらかというとエルローは、そういう貴族達の実家−−今は古ぼけた旧家の街。奴隷を雇うようなお金も必要ももう無いの。でも古い考えは残ってる。ここでいう古い考えというのは、つまり、」
ミズーリは言葉を切り、二人を見た。「奴隷とか何とか以前に−−人間≪ノウブル≫じゃないんだから、区別するのは当然じゃない?」
「「……」」
「……ごめん。二人に言ったわけじゃないのよ。だいいちそれ言ったら、私もノウブルじゃないし」
「わかってるよ。もう十分だ。協力に感謝するぜ」
「最後に−−もし叶うなら、捜査に同行してもらえないかな? 貴女の力は役に立つと思うんだ」
「それはいいけど−−あんまり貴方達が頑張ってたら、私が頑張る幕は無いかもよ?」
「そうなるように努力するよ」
言いながら、三人は歩き出した。
「ところでミズーリさん」
「何?」
「貴女の損害は大変気の毒とは思うのですが、あまり怒らないで下さい。せっかくの愛らしい顔が台無しですよ」
「……」
(って……僕ってば女性に何てことを! バカみたいじゃないか!? 大丈夫か!?)
「……さすがね、金髪イケメン優等生」
「って、え? な、なんです?」
「実際評価はしてるのよ。貴方ぐらい振り切れた正統派イケメンって最近希少だもの。これから大変だと思うけど、いなくなったりしないでね。華が無くなるから」
「な、何を言ってるのかわからない……やっぱり女性は苦手だ……」
(この、ギリギリで踏み込みが足りない感じも含めて完璧よね……観賞用の共有財産としては)
●エルローの地下道
四人は地下への階段を降り、やがて階段は通路になった。「なんだ……地下室じゃねえのか?」オルステッドが呟く。やがて四人の前に一枚のドアが現れた。重厚な鋼鉄製だ。アラドが細長いドアノブに手をかけると、それはあっさりと回った。ドアを押し、開く。
「……おー」
「……ひろいぞ」
「……広すぎんだろ」
四人が辿り着いたのは、古い煉瓦造りの地下道だった。幅10メートル、高さ5メートルほどの十分なスペースが取られており、所々松明が設えられていた形跡もある。頑丈な鋼鉄製のドアが、四人の背後でバタンとしまった。「これは……ナカニシさんの個人所有ではないわね。どう見ても」
「……みんなの?」
「それに、すごく古いぞ」
「あ゛ーーーー!」
突然オルステッドが叫び、三人が振り返る。「どうしたの?」「開かねえ!」「はい?」
「ドアが! 開かねえ! 見ろこれ!」
四人がくぐったドア。そのこちら側には−−ノブが無かった。オルステッドがタックルするが、びくともしない。確かこのドアは押し戸だった。つまりこちら側から開くには、ドアノブを回した上で引かねばならない。そしてこちら側にはノブが無い−−
「単純だけど、それだけに打つ手が無いわね。しかもドアは鋼鉄製……完全な一方通行だわ」
「落ち着いてる場合か! どーするよこれ!」
「……歩けるところを、歩くしかないぞ」
「……そだねー」
アラドが通路をランタンで照らす。地下道は長く、先は見えない。「……聞き込みとか、他にもやりたいことあったんだけど」「オレもだ。くっそ。でも、犯人もここに入ったってことか……?」「とりあえず、マキナ=ギアで皆に知らせるぞ。……ちょっと遅れるかもって」
「……なんで、一方通行?」
アラドはドアを振り返り、呟いた。
●貴族街 −住民の証言−
貴族街に、歌声が響く。
エルディアン・ロードの中央十字路。『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は、その中心にある噴水の前で歌っていた。周りには通りすがりや談笑している貴族がいて、その中の数人がカノンを振り返る。
目があった一人に、カノンはその二つ名通りの笑顔で呼びかけた。
「こんにちはー。劇団アマリリスのカノンだよ。最近こちらで火事があったって聞いて、新しいみすてり風お芝居のネタにしたいんだー。もし今の歌が良かったと思ったら、お代の代わりに知ってる事を教えて欲しいな。協力してくれたらパンフレットにお名前を掲載するよ」
カノンの言葉にあら、おほほほ、と談笑していた貴族の婦人達が笑った。にこやかだが、やや引き気味だ。その目はカノンの耳に向いている。
「大道芸人さん? 最近珍しいわね」
「いい歌じゃない? 歌っててもらいましょうよ」
「そうね。貴女、とりあえず歌いなさいな。話はそれからよ」
「え? う、うん!」
カノンはやや戸惑いながらも、言われた通り歌を続けた。婦人達はころころと笑い、再び井戸端会議に戻っていく。悪くない。決して悪くない反応。しかし−−
(違う、聞き込みをしたいのに……! 貴族って自由!)
とはいえ、途中で歌を止めて機嫌を損ねるわけにもいかない。カノンは演技力も駆使して身振り手振りも交えながら、歌い続けた。
その傍を、茶色いショートヘアの少女が通り過ぎる。
「すみません、さっきあの子が言ってた話なんですけど……最近放火があったんですよね?」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレスティ(CL3000222)は、そう婦人達に切り出した。婦人達はアリアを振り返り、顔を見合わせる。
「そういえば、こないだ騒がしかったわね」
「ほら、あのオニヒトの家でしょう?」
「そう、そのナカニシさんの家のことで」
「−−ねえ。貴女、警察の方?」
「え? ええと、いえ、私は」
特に嘘回答等は用意していなかったので、アリアは正直に答えた。「イ・ラプセル自由騎士団より参りました、アリア・セレスティです」「……」「……」「……」
「まあああ自由騎士団の方!」
「お若いのにご立派ねえ!」
「今日は剣はお持ちでないの?」
「え、ええ、今日は戦闘任務ではありませんので」
非常にウケがいい。やはり貴族達は騎士というフレーズに好感を持つらしい。アリアがノウブルの少女なのも好印象に拍車をかけたのだろう。
「あの、それで、放火犯がこの辺りにいるのではと……」
「どうかしら……もしかして、この街の人間がやったと仰るの?」
「ありえませんわ。いくらなんでもそこまではしなくってよ」
「この街にいるのは現役を退いたおじいちゃん達と、私達のような非力な女ばかりですわ。そんなことをする度胸や体力のある者は、この街にはいなくてよ」
「……はあ」
−−嘘を言っているようには見えない。「無闇に疑うわけではないが……ナカニシ殿の事は、疎んでいるのじゃろう?」「疎んでいる、というか」「あまり話さないだけですわ。向こうもそういうの、お嫌みたいだし」「そう。正直あまり知らないんですの。ご近所づきあいがないから」補佐に来ていた自由騎士の問いにも、婦人達はそんな答えを返した。
(とりあえず、こっちも……)
アリアは感情探査を発動した。−−めぼしい反応は無い。強い感情も負の感情も、これぞというものは見つからなかった。平和な街だ。
「よお、やってるな」
「アリアさん、お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」
そこへウェルスとアダム、ミズーリが合流した。「あ、ミズーリさんも」「やっほー」「で、どんな感じだ?」「ええと……」アリアはここまでの会話の内容を説明する。
「ふむ……すみませんご婦人方、俺の質問にも答えて頂きたいんですが」
「まあ、アダム様と仰るの?」
「え、ええ、そうです。あの、それでちょっとお聞きしたい事が」
「何でも仰って。騎士様のお仕事に協力いたしますわ」
「あ、ありがとうございます。……近くないですか?」
ウェルスが口を開く頃には、アダムがすでに婦人達に取り囲まれていた。「……大丈夫そうだな」「そりゃクリティカルよね……あの見た目と性格で、おまけに騎士ですもの」
「ねー、ところで、現場を見に行った皆は大丈夫かな?」
「ちょっと遅れるとは言ってましたね……どのくらい遅れるんでしょう」
「まあ、心配してもしょうがないわ。ここが終わったらナカニシさんの所で合流しましょう」
「……終わったら、な」
ウェルスが呟き、全員がアダムを見る。アダムはまだ婦人達に囲まれていた。
●遭遇
地下道を進む四人の視界が、少しづつ明るくなってきた。通路の果てから光が差し込んできている。ドアは無い。出口だ。
「「「「……」」」」
しかし、四人は緊張と共に歩みを止めた。それとなく隊列を調整する。−−人影があった。黒い装束に身を包んだ人物が、出口の手前に佇んでいる。
その人物が振り返り、四人と目が合った。「……すごく、怪しいわね」
「貴方、誰? ここで何をしてるの? −−うっかり逃げてきて、迷ったとかかしら?」
「……」
人影は答えず、四人に向き直り、構える。「やる気か……!?」「んー」オルステッドに続き、アラドも表情を正して戦闘態勢に入った。
「皆、がんばるんだぞ。たぶん、こいつは」
想定していた相手と違う。−−手加減はいらないし、通用しない。
人影−−否、敵が動いた。オルステッドが前に出て迎え撃つ。敵の攻撃はオルステッドに命中するが、彼女はライオットシールドでこれを捌いた。反撃。オルステッドのタックルが敵を吹き飛ばす。敵は地面を転がりながらもバックロールで態勢を立て直した。「速い……魔眼は難しいかしら」「……牽制」アラドが宙に緋文字≪スカーレットレター≫の印を描く。回避。敵はこれをフロントロールでかわし、再びオルステッドを狙う。命中。敵の手甲から伸びた刃がオルステッドの二の腕を裂いた。「くっそ、当ててきやがる!」反撃。しかし敵はバックステップでかわした。敵の低い唸りが風に乗ってオルステッドの耳に届く。困っているように聞こえた。攻めあぐねてか、それともこの状況そのものか−−「回復するぞ」サシャがメセグリンでオルステッドの傷を癒す。アラドの緋文字が今度は命中し、敵は炎に巻かれながら態勢を崩した。
「−−悪いけど、他にもやることがある!」
緋文字。アニマ・ムンディを発動したきゐこの魔焔が敵を飲み込んだ。爆発。地下道が揺れ、黒く炭化した敵が吹き飛び、倒れた。「って……やり過ぎたかしら?」
「……死なれちゃ困るぞ」
サシャが倒れた敵に駆け寄り、メセグリンをかける。他の三人も駆け寄り、武器とロープを構えた。いつでも捕縛できる態勢だ。
「……自由騎士団か……せめてお前らでなければ、切り抜けられたものを……」
敵が初めて口を開いた。まだ息がある。「なんでこんなことしたんだ?」オルステッドが尋ねた。
「……こいつは、しくじった」
「あ?」
「そして、私もだ……だが、仕事は終わった」
言って、敵は小さく呻きを上げた。その身体が微かに震え、「−−ちょっと!」四人が異変を察知するのとほぼ同時に、動かなくなった。サシャが敵の口を開ける。
「……奥歯に、毒を仕込んでたみたいだぞ」
「……自決?」
「そこまでするかよ……只者じゃねえな」
「皆、見て! こっちにもう一人いる!」
きゐこの声に三人が弾かれたように顔を上げる。駆け寄ると、同じような装束の人物が倒れていた。喉をかき斬られ、死んでいる。「見て」きゐこがその人物の服を摘んで引っ張った。ぼろり、と炭化した切れ端が持ち上がる。
「燃えてるけど、指で摘めるぐらい冷え切ってる。−−さっき燃えたわけじゃないわ」
「……火事の、時に?」
アラドの言葉に、きゐこは頷く。「行こうぜ」オルステッドが出口を指差す。
「ナカニシに、聞きたいことがある」
全員が同意した。
●貴族街 −ナカニシの証言−
「つまり、結論を言うと」
全員が集まっていた。ミズーリとナカニシも含めて。ウェルスが言葉を続ける。「ナカニシの旦那は狙われたんじゃなく、巻き込まれただけだったってわけだ。−−何か、別の事件に」
ナカニシは、彼らの問いにこう答えた。
「『ハッチ』は誰の家にもある。大昔からのもので、緊急避難用に使われているが、そのルーツまでは知らない」
「むしろ『犯人』が知ってたのが驚きだ。余所者に教える事じゃない。−−ただ、それを聞いて分かる事もある」
「そこまで調べていて、なおかつこの街で何かをやらかして逃げていて、その為に俺の家を焼いて地下道に入ったのなら−−そいつは、この街の『敵』だ」
「事件当夜は外出していて、施錠が完璧じゃなかった。運がなかったとはいえ、責任は自分にもある」
−−捜査は終了した。自由騎士団はベストを尽くし、確かに犯人を発見した。事件の原因と経緯も突き止め、それを裏付ける証拠、証言も手に入れた。首尾は上々。捜査手法も万全のものだった。何も問題は無い。
この事件は解決した。だが−−
「俺は、誰がどうして家を焼いたか知りたかっただけだ。そしてそれは分かった。犯人がすでに罰を受けてるなら尚更だ。−−皆、ありがとう」
依頼を受けた自由騎士達は、手分けして捜査にあたることにした。
「さぁて……探偵の真似事は苦手じゃないわ♪」
言いながら、『イ・ラプセル自由騎士団』猪市 きゐこ(CL3000048)は事件現場を調査していた。かつては床だった地面を注意深く見ながら歩く。−−やがて歩みを止め、しゃがみ込み、見つけたものを拾い上げた。
「いたいた……鍵ゲット♪」
拾い上げたのは大型の南京錠だった。表面の煤を払い落とす。鍵は開いていた。しかし、破壊された形跡は無い。「開けたのが犯人だとすれば……まあ、まだ断定はできないわね」
「犯人は現場に戻るって言うしな……のこのこ出てきたらばっちり押さえてやるぜ」
『エイビアリー』柊・オルステッド(CL3000152)は近所の屋根に登り、リュンケウスの瞳と双眼鏡を使って周辺を観察していた。撮影用のカメラも準備してある。−−しかし、今のところ不審な動きをする人影は見当たらなかった。こういう張り込みはすぐに結果を求めるものではないが、戻ってこないという線も当然ある。理由としては−−戻ってこられないか、戻る必要が無いか。「隠れてんのかな……?」
「……この辺だぞ」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は現場の一角、すっかり燃えて何もかも無くなっている場所に立っていた。ナカニシに見せてもらった間取り図とも一致する。おそらくここが−−「あったぞ」地面から『それ』を拾い上げる。燃えた錦の切れ端。鮮やかな色彩を微かに残すそれは、ナカニシの『作品』に違いなかった。「ここが保管庫……そして……」反物は燃えた。少なくとも、ここにあった分は。
「みんなー。こっちー」
『荷運び兼店番係』アラド・サイレント(CL3000051)の声に、三人は振り返った。そちらへ集まる。
集まった三人に、アラドは自分の足元を指差した。−−地面の下へと続く階段があった。きゐこが周辺の地面を少し探り、立ち上がる。−−鍵ではないが、金属の部品。「ハッチがあったの……? 燃えてるということは、木製の?」
「……そいつを開けるために、火を点けた?」
「……いこー」
アラドがランタンを灯し、階段を降りていく。三人も慎重な足取りでその後に続いた。
●貴族街 −ミズーリの証言−
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)と『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は、まずは依頼主である『マーチャント』ミズーリ・メイヴェン(nCL3000010)に詳しい話を聞くことにした。
「ナカニシの旦那はどんな人なんだ。街での評判は?」
ウェルスの問いにミズーリが答える。
「一言で言うなら、職人よ。人付き合いは得意じゃない。でも偏屈ってわけじゃないわ。街での評判はさっき言った通り。あまり歓迎されてない」
「それは先程も聞いたよ。けど、その時少し言い淀んでなかったかな? 過去にもナカニシさん絡みで何か事件でも?」
アダムの言葉にミズーリは頭を振る。
「話すほどのことじゃないわ。そのくらいの小さな事件がいくつか、ね。嫌がらせってそういうものでしょ?」
「例の取引で損する奴とかに心当たりは?」
「少なくとも、この街にはいないと思うわ。そのくらい彼の作品は、この国では買い手が少ないのよ」
「現場近くの貴族で、奴隷開放派と反対派はどのくらいいるんだ?」
「それは……ちょっと、細かい説明が必要ね」
お、とウェルスが呟き、ミズーリが続ける。「厳格な意味での奴隷解放反対派というのは、この街にはいないわ。あえて表現するならこの街は中立、もしくは無関心。奴隷かどうかは関係無いの。そもそもこの街には奴隷は殆どいないから。それもだいぶ前から、ね」
「そ、そうなのか?」
「貴族街エルディアン・ロードと言っても、王都の中心地で活躍してるような華やかな貴族の街じゃないの。どちらかというとエルローは、そういう貴族達の実家−−今は古ぼけた旧家の街。奴隷を雇うようなお金も必要ももう無いの。でも古い考えは残ってる。ここでいう古い考えというのは、つまり、」
ミズーリは言葉を切り、二人を見た。「奴隷とか何とか以前に−−人間≪ノウブル≫じゃないんだから、区別するのは当然じゃない?」
「「……」」
「……ごめん。二人に言ったわけじゃないのよ。だいいちそれ言ったら、私もノウブルじゃないし」
「わかってるよ。もう十分だ。協力に感謝するぜ」
「最後に−−もし叶うなら、捜査に同行してもらえないかな? 貴女の力は役に立つと思うんだ」
「それはいいけど−−あんまり貴方達が頑張ってたら、私が頑張る幕は無いかもよ?」
「そうなるように努力するよ」
言いながら、三人は歩き出した。
「ところでミズーリさん」
「何?」
「貴女の損害は大変気の毒とは思うのですが、あまり怒らないで下さい。せっかくの愛らしい顔が台無しですよ」
「……」
(って……僕ってば女性に何てことを! バカみたいじゃないか!? 大丈夫か!?)
「……さすがね、金髪イケメン優等生」
「って、え? な、なんです?」
「実際評価はしてるのよ。貴方ぐらい振り切れた正統派イケメンって最近希少だもの。これから大変だと思うけど、いなくなったりしないでね。華が無くなるから」
「な、何を言ってるのかわからない……やっぱり女性は苦手だ……」
(この、ギリギリで踏み込みが足りない感じも含めて完璧よね……観賞用の共有財産としては)
●エルローの地下道
四人は地下への階段を降り、やがて階段は通路になった。「なんだ……地下室じゃねえのか?」オルステッドが呟く。やがて四人の前に一枚のドアが現れた。重厚な鋼鉄製だ。アラドが細長いドアノブに手をかけると、それはあっさりと回った。ドアを押し、開く。
「……おー」
「……ひろいぞ」
「……広すぎんだろ」
四人が辿り着いたのは、古い煉瓦造りの地下道だった。幅10メートル、高さ5メートルほどの十分なスペースが取られており、所々松明が設えられていた形跡もある。頑丈な鋼鉄製のドアが、四人の背後でバタンとしまった。「これは……ナカニシさんの個人所有ではないわね。どう見ても」
「……みんなの?」
「それに、すごく古いぞ」
「あ゛ーーーー!」
突然オルステッドが叫び、三人が振り返る。「どうしたの?」「開かねえ!」「はい?」
「ドアが! 開かねえ! 見ろこれ!」
四人がくぐったドア。そのこちら側には−−ノブが無かった。オルステッドがタックルするが、びくともしない。確かこのドアは押し戸だった。つまりこちら側から開くには、ドアノブを回した上で引かねばならない。そしてこちら側にはノブが無い−−
「単純だけど、それだけに打つ手が無いわね。しかもドアは鋼鉄製……完全な一方通行だわ」
「落ち着いてる場合か! どーするよこれ!」
「……歩けるところを、歩くしかないぞ」
「……そだねー」
アラドが通路をランタンで照らす。地下道は長く、先は見えない。「……聞き込みとか、他にもやりたいことあったんだけど」「オレもだ。くっそ。でも、犯人もここに入ったってことか……?」「とりあえず、マキナ=ギアで皆に知らせるぞ。……ちょっと遅れるかもって」
「……なんで、一方通行?」
アラドはドアを振り返り、呟いた。
●貴族街 −住民の証言−
貴族街に、歌声が響く。
エルディアン・ロードの中央十字路。『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)は、その中心にある噴水の前で歌っていた。周りには通りすがりや談笑している貴族がいて、その中の数人がカノンを振り返る。
目があった一人に、カノンはその二つ名通りの笑顔で呼びかけた。
「こんにちはー。劇団アマリリスのカノンだよ。最近こちらで火事があったって聞いて、新しいみすてり風お芝居のネタにしたいんだー。もし今の歌が良かったと思ったら、お代の代わりに知ってる事を教えて欲しいな。協力してくれたらパンフレットにお名前を掲載するよ」
カノンの言葉にあら、おほほほ、と談笑していた貴族の婦人達が笑った。にこやかだが、やや引き気味だ。その目はカノンの耳に向いている。
「大道芸人さん? 最近珍しいわね」
「いい歌じゃない? 歌っててもらいましょうよ」
「そうね。貴女、とりあえず歌いなさいな。話はそれからよ」
「え? う、うん!」
カノンはやや戸惑いながらも、言われた通り歌を続けた。婦人達はころころと笑い、再び井戸端会議に戻っていく。悪くない。決して悪くない反応。しかし−−
(違う、聞き込みをしたいのに……! 貴族って自由!)
とはいえ、途中で歌を止めて機嫌を損ねるわけにもいかない。カノンは演技力も駆使して身振り手振りも交えながら、歌い続けた。
その傍を、茶色いショートヘアの少女が通り過ぎる。
「すみません、さっきあの子が言ってた話なんですけど……最近放火があったんですよね?」
『イ・ラプセル自由騎士団』アリア・セレスティ(CL3000222)は、そう婦人達に切り出した。婦人達はアリアを振り返り、顔を見合わせる。
「そういえば、こないだ騒がしかったわね」
「ほら、あのオニヒトの家でしょう?」
「そう、そのナカニシさんの家のことで」
「−−ねえ。貴女、警察の方?」
「え? ええと、いえ、私は」
特に嘘回答等は用意していなかったので、アリアは正直に答えた。「イ・ラプセル自由騎士団より参りました、アリア・セレスティです」「……」「……」「……」
「まあああ自由騎士団の方!」
「お若いのにご立派ねえ!」
「今日は剣はお持ちでないの?」
「え、ええ、今日は戦闘任務ではありませんので」
非常にウケがいい。やはり貴族達は騎士というフレーズに好感を持つらしい。アリアがノウブルの少女なのも好印象に拍車をかけたのだろう。
「あの、それで、放火犯がこの辺りにいるのではと……」
「どうかしら……もしかして、この街の人間がやったと仰るの?」
「ありえませんわ。いくらなんでもそこまではしなくってよ」
「この街にいるのは現役を退いたおじいちゃん達と、私達のような非力な女ばかりですわ。そんなことをする度胸や体力のある者は、この街にはいなくてよ」
「……はあ」
−−嘘を言っているようには見えない。「無闇に疑うわけではないが……ナカニシ殿の事は、疎んでいるのじゃろう?」「疎んでいる、というか」「あまり話さないだけですわ。向こうもそういうの、お嫌みたいだし」「そう。正直あまり知らないんですの。ご近所づきあいがないから」補佐に来ていた自由騎士の問いにも、婦人達はそんな答えを返した。
(とりあえず、こっちも……)
アリアは感情探査を発動した。−−めぼしい反応は無い。強い感情も負の感情も、これぞというものは見つからなかった。平和な街だ。
「よお、やってるな」
「アリアさん、お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」
そこへウェルスとアダム、ミズーリが合流した。「あ、ミズーリさんも」「やっほー」「で、どんな感じだ?」「ええと……」アリアはここまでの会話の内容を説明する。
「ふむ……すみませんご婦人方、俺の質問にも答えて頂きたいんですが」
「まあ、アダム様と仰るの?」
「え、ええ、そうです。あの、それでちょっとお聞きしたい事が」
「何でも仰って。騎士様のお仕事に協力いたしますわ」
「あ、ありがとうございます。……近くないですか?」
ウェルスが口を開く頃には、アダムがすでに婦人達に取り囲まれていた。「……大丈夫そうだな」「そりゃクリティカルよね……あの見た目と性格で、おまけに騎士ですもの」
「ねー、ところで、現場を見に行った皆は大丈夫かな?」
「ちょっと遅れるとは言ってましたね……どのくらい遅れるんでしょう」
「まあ、心配してもしょうがないわ。ここが終わったらナカニシさんの所で合流しましょう」
「……終わったら、な」
ウェルスが呟き、全員がアダムを見る。アダムはまだ婦人達に囲まれていた。
●遭遇
地下道を進む四人の視界が、少しづつ明るくなってきた。通路の果てから光が差し込んできている。ドアは無い。出口だ。
「「「「……」」」」
しかし、四人は緊張と共に歩みを止めた。それとなく隊列を調整する。−−人影があった。黒い装束に身を包んだ人物が、出口の手前に佇んでいる。
その人物が振り返り、四人と目が合った。「……すごく、怪しいわね」
「貴方、誰? ここで何をしてるの? −−うっかり逃げてきて、迷ったとかかしら?」
「……」
人影は答えず、四人に向き直り、構える。「やる気か……!?」「んー」オルステッドに続き、アラドも表情を正して戦闘態勢に入った。
「皆、がんばるんだぞ。たぶん、こいつは」
想定していた相手と違う。−−手加減はいらないし、通用しない。
人影−−否、敵が動いた。オルステッドが前に出て迎え撃つ。敵の攻撃はオルステッドに命中するが、彼女はライオットシールドでこれを捌いた。反撃。オルステッドのタックルが敵を吹き飛ばす。敵は地面を転がりながらもバックロールで態勢を立て直した。「速い……魔眼は難しいかしら」「……牽制」アラドが宙に緋文字≪スカーレットレター≫の印を描く。回避。敵はこれをフロントロールでかわし、再びオルステッドを狙う。命中。敵の手甲から伸びた刃がオルステッドの二の腕を裂いた。「くっそ、当ててきやがる!」反撃。しかし敵はバックステップでかわした。敵の低い唸りが風に乗ってオルステッドの耳に届く。困っているように聞こえた。攻めあぐねてか、それともこの状況そのものか−−「回復するぞ」サシャがメセグリンでオルステッドの傷を癒す。アラドの緋文字が今度は命中し、敵は炎に巻かれながら態勢を崩した。
「−−悪いけど、他にもやることがある!」
緋文字。アニマ・ムンディを発動したきゐこの魔焔が敵を飲み込んだ。爆発。地下道が揺れ、黒く炭化した敵が吹き飛び、倒れた。「って……やり過ぎたかしら?」
「……死なれちゃ困るぞ」
サシャが倒れた敵に駆け寄り、メセグリンをかける。他の三人も駆け寄り、武器とロープを構えた。いつでも捕縛できる態勢だ。
「……自由騎士団か……せめてお前らでなければ、切り抜けられたものを……」
敵が初めて口を開いた。まだ息がある。「なんでこんなことしたんだ?」オルステッドが尋ねた。
「……こいつは、しくじった」
「あ?」
「そして、私もだ……だが、仕事は終わった」
言って、敵は小さく呻きを上げた。その身体が微かに震え、「−−ちょっと!」四人が異変を察知するのとほぼ同時に、動かなくなった。サシャが敵の口を開ける。
「……奥歯に、毒を仕込んでたみたいだぞ」
「……自決?」
「そこまでするかよ……只者じゃねえな」
「皆、見て! こっちにもう一人いる!」
きゐこの声に三人が弾かれたように顔を上げる。駆け寄ると、同じような装束の人物が倒れていた。喉をかき斬られ、死んでいる。「見て」きゐこがその人物の服を摘んで引っ張った。ぼろり、と炭化した切れ端が持ち上がる。
「燃えてるけど、指で摘めるぐらい冷え切ってる。−−さっき燃えたわけじゃないわ」
「……火事の、時に?」
アラドの言葉に、きゐこは頷く。「行こうぜ」オルステッドが出口を指差す。
「ナカニシに、聞きたいことがある」
全員が同意した。
●貴族街 −ナカニシの証言−
「つまり、結論を言うと」
全員が集まっていた。ミズーリとナカニシも含めて。ウェルスが言葉を続ける。「ナカニシの旦那は狙われたんじゃなく、巻き込まれただけだったってわけだ。−−何か、別の事件に」
ナカニシは、彼らの問いにこう答えた。
「『ハッチ』は誰の家にもある。大昔からのもので、緊急避難用に使われているが、そのルーツまでは知らない」
「むしろ『犯人』が知ってたのが驚きだ。余所者に教える事じゃない。−−ただ、それを聞いて分かる事もある」
「そこまで調べていて、なおかつこの街で何かをやらかして逃げていて、その為に俺の家を焼いて地下道に入ったのなら−−そいつは、この街の『敵』だ」
「事件当夜は外出していて、施錠が完璧じゃなかった。運がなかったとはいえ、責任は自分にもある」
−−捜査は終了した。自由騎士団はベストを尽くし、確かに犯人を発見した。事件の原因と経緯も突き止め、それを裏付ける証拠、証言も手に入れた。首尾は上々。捜査手法も万全のものだった。何も問題は無い。
この事件は解決した。だが−−
「俺は、誰がどうして家を焼いたか知りたかっただけだ。そしてそれは分かった。犯人がすでに罰を受けてるなら尚更だ。−−皆、ありがとう」
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
称号付与
『エルローの歌姫』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『翠の魔焔師』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『灰の探索者』
取得者: アラド・サイレント(CL3000051)
『クマの捜査官』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『エルローの七色騎士』
取得者: 柊・オルステッド(CL3000152)
『エルローの黄金騎士』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『蒼の審問騎士』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『銀の癒し手』
取得者: サシャ・プニコフ(CL3000122)
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『翠の魔焔師』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『灰の探索者』
取得者: アラド・サイレント(CL3000051)
『クマの捜査官』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『エルローの七色騎士』
取得者: 柊・オルステッド(CL3000152)
『エルローの黄金騎士』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『蒼の審問騎士』
取得者: アリア・セレスティ(CL3000222)
『銀の癒し手』
取得者: サシャ・プニコフ(CL3000122)
特殊成果
『綾織のスカーフ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
皆様ご参加ありがとうございました。
素晴らしいプレイングをありがとうございました。楽しんで書かせて頂きました。
皆さんが苦しみ戦っている時、私もまた同じ場所で戦っています。
皆さんがダメージを受ける時、私もまたダメージを受けています。そして皆さんがレベルアップするように、私もレベルアップします。
何を言ってるかわからないと思いますが、えーと、そんな感じです。
MVPは猪市きゐこ様。接戦でした。誰がMVPでもおかしくなかったと思います。
あらゆる状況に対応できるようにするか、逆に一点突破を狙うか。どちらも正解だと思いますが、今回は彼女を選ばせて頂きました。
長文失礼いたしました。重ねまして、皆様お疲れありがとうございました。
素晴らしいプレイングをありがとうございました。楽しんで書かせて頂きました。
皆さんが苦しみ戦っている時、私もまた同じ場所で戦っています。
皆さんがダメージを受ける時、私もまたダメージを受けています。そして皆さんがレベルアップするように、私もレベルアップします。
何を言ってるかわからないと思いますが、えーと、そんな感じです。
MVPは猪市きゐこ様。接戦でした。誰がMVPでもおかしくなかったと思います。
あらゆる状況に対応できるようにするか、逆に一点突破を狙うか。どちらも正解だと思いますが、今回は彼女を選ばせて頂きました。
長文失礼いたしました。重ねまして、皆様お疲れありがとうございました。
FL送付済