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梗都強襲! 恐怖の人間爆撃弾頭、神殲組!



●さぁ、神を殲しに行こう
 アマノホカリ主都、栄堂。
「そろそろ、いいかなー」
 木造都市の中央に聳え立つ巨大、広大な栄堂城の庭に、気の抜けた声がする。
「なー、どう思うよ、土方よぉ」
「えぇ……、そんなことを僕に聞かれてもなぁ~」
 大きな池の淵に立って、宇羅幕府二代将軍、宇羅・嶽丸が配下の土方・武蔵に問う。
 しかし、問われた土方はその眉毛をハの字に下げて、困ったように首をかしげるのみ。
「そろそろと思えばそろそろかもですし、そうじゃないと思えば、そうじゃないかも」
「おまえさんはいつもそうだな。そうやって判断を人に任せっぱなしではないか」
「僕より判断できる人がいるなら、そりゃ任せますよぉ~」
 えへへと頼りなさげにそんなことを言う土方を、嶽丸はおかしげに笑って眺める。
「本当におまえさんは、人として見れば困りモンだが、道具として見れば至上だな」
「そうですか? やれと言われたことをやるだけの方が気楽でしょう」
「そうか。ならば、やってもらおうではないか」
「あ、やるんだ」
「応とも。すでに鉄血のから船は借りておる。あとはいつ出るかのみよ」
「……じゃあ何に悩んでたんですか、上様」
「決まっておろう。明日出るか、明後日出るか、についてだ。大きな差であろうが」
 当然のように告げる嶽丸に土方は「はぁ」と生返事をするのみ。
「で、だな。土方、船に乗せる人員についてだが――」
「ああ、もう選んであります」
「む? まだ策の中身も教えておらんぞ、余は」
「誰選んだって一緒ですよ。そういう連中しかいませんからね、神殲組は」
「で、あるか」
「十人程度はいつでも動けるようにしてますけど、いいですよね?」
「うむ。そのくらいでよい」
 サクサク話を進める土方に、嶽丸はうなずき続けた。
 そして土方が去ったのち、一人残った嶽丸が池の淵に立っていると、水面に波紋が走る。
 パシャンと、池の鯉が大きく跳ねて、
「フフン」
 嶽丸が小さく笑った次の瞬間、鯉は真ん中から両断されていた。
「よしよし、鈍っちゃおらんな」
 鯉の血が広がっていく水面から目を離し、彼は大きく天を仰ぐと、
「オイコラ、自由騎士共! おまえさんらどうせ見ておるんだろう!」
 いきなり青空へと向かって大声で叫び出した。
「これから鉄血の国の空舞う船で梗都に攻撃を仕掛けるぞ! 狙いはアマノホカリの首級ただ一つ! 奇襲だ奇襲! ここ一か月半近く何もせんかったから、朝廷の方も緩んでおろう! ならばおまえさんらはどうだ!? 対応できるか? いや、してみせろ!」
 叫び、吼え、嶽丸は腕を組んで豪快に笑い飛ばす。
「クハーハハ! これで連中が何も察知せんかったら、余はただ冬空に向かって叫んだだけの大うつけよな! ま、それもよい! 冷たい冬の空に熱気をぶつけるも一興よ!」
 栄堂城の庭に、嶽丸の豪快な笑い声がまた響くのだった。

●自由騎士、急行せよ
「全く、冗談ではない」
 水鏡の間にて、ジョセフ・クラーマーは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。
「あの将軍とやらが水鏡について知っているか否かは、もはやどうでもいい。問題は、予知が解読された現時点で、すでに幕府が動き始めている可能性が高いということだ」
 予知を知らされたとき、彼が危ぶんだのは自分達が後手に回っている可能性だった。
 水鏡による予知は断片的で、得られる情報も不安定だ。それを読み解くのにも時間がかかるし、読み解いたのち、自由騎士を招集するのにだって一定の時間が必要となる。
 もしも敵がそこまで見越して、迅速に動けるだけの準備を整えていたとしたら?
 水鏡の予知について知らずとも、それがあるという仮定を前提として動いていたら?
 予知する側は先んじて未来を知ることができても、それに対処するためにはどうしても時間を費やして準備する必要がある。
 一方で、敵側が水鏡の存在を前提に動いているなら、入念に計画を練り、全て万端揃えた上で、電撃的速攻を行なうに違いない。
 予知し、準備が必要となる自由騎士と、予知され、速攻で動き出す宇羅幕府。
 果たしてどちらが先手を取れるか。これはそういう問題だ。
 さらに加えて、一か月半以上膠着しているおかげで、梗都でも緊張を保ちきれなくなっている感はある。いつ来るかもわからない脅威に緊張し続けるのは、非常に難しい。
 ジョセフの中で、非常に強い焦燥感が刻まれつつあった。
「もうすぐ梗都上空に飛来した飛空艇から十人のサムライが飛び降り、朝廷を襲撃する! 今ならば間に合うはずだ、急ぐのだアマノホカリが討たれる前に!」
 自由騎士達が、聖霊門へと走る。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
吾語
■成功条件
1.神殲組の朝廷襲撃を防ぐ。
2.神殲組の無差別殺戮を防ぐ。
チキンレースを開始します。吾語です。
スタート地点は梗都・聖霊門。ゴールは天津朝廷の御所の奥です。

ヴィスマルクの飛空艇から十人のサムライが飛び降りてきます。
飛空艇は自由騎士が飛行しても届かない高度にあるので攻撃できません。
サムライ達はパラシュート装備済みなので着地時にダメージを負いません。

リプレイ開始時点で自由騎士は聖霊門をくぐったところです。
サムライは梗都に降り立ったところです。

サムライのうち三名が聖霊門近くに降り立ちました。
他三名が聖霊門と御所の中間に降り立ちました。
残り四名が御所近くに降り立ちました。

つまり、何も対策を施さずにいると、サムライ四名の方が先に御所に到着します。
しかし、この四名だけを追うと、聖霊門側の三名が市中に出て殺戮を開始します。
どちらに行こうとしても、中間にいる三名が邪魔をしてきます。

位置関係的に、聖霊門から見て東側に御所があります。
西側に市中へと続く道があります。

市中から御所へは特に障害物はありませんが、
歩いて24ターン、走って8ターン、飛行して4ターンかかるものとします。
聖霊門から向かう場合は上記の時間が半分になります。

サムライはいずれもランク2までのスキルを使用します。
レベルは「自由騎士側の平均レベル+5」です。

自由騎士側の行動によって被害を軽減することが可能です。
ベストの行動をとって被害を完全に防ぐこともできますが、難易度が上がります。
何の対策も施さなかった場合、最悪、アマノホカリが――

それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
2モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年12月19日

†メイン参加者 8人†



●急行
 聖霊門を通じ、自由騎士が梗都に着いた瞬間、目の前を数人の男達が走っていった。
「まさか、あの連中!」
 それは医者としての直感か、天哉熾 ハル(CL3000678)が血相を変える。
「待て、そこの連中!」
「オイオイ、待てよ、ハルちゃんよぉ! ……ええい、面倒な! 行くぞ、フリオ!」
「ニコラスさん、了解であります!」
 走り出すハルを見て、髪を掻きむしりながら叫び、『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)と『積み上げていく価値』フリオ・フルフラット(CL3000454)が後を追おうとする。しかし瞬間、襲い来た斬撃が近くの木の幹をバッサリと断った。
「クソ、足止めまで用意してやがるのか!」
 ニコラスが顔をしかめる。
「やっぱり、羽ばたき機械をもってきて正解だったね!」
 叫び、『鉄鬼殺し』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が機械の翼を広げる。
「ここまでやけに何もないなと思ってた矢先にこれって、本当に厄介ね!」
 『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)も、ブツクサ言いながら同じく機械の翼で空へと舞い上がろうとする。
「全くだ。予知を前提に動くとはな……。だが、見過ごすわけにはいかない」
 こちらはウィルフレッド・オーランド(CL3000062)。ソラビトである彼は、自分の巨躯を大きく開いた翼によって浮かび上がらせる。
 だが、足止め役のサムライがそれを見過ごすはずがない。
「敵者発見。御命頂戴仕る!」
 構え、放たれる飛翔の斬撃。受ければそこに血の花が咲く。
「そんなものは、当たりません!」
 『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は空中でそれを器用にかわすも、しかし、不運にもウィルフレッドが一撃を背に受け、地に堕ちた。
「ぐ、おお!?」
「ウィルフレッド様……!」
「構うな! 守るべきものを間違えるな!」
 アンジェリカが咄嗟に彼へと手を延ばそうとするが、しかし、逆にウィルフレッドに叱責される。そして、隣を舞う『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が、アンジェリカの肩をポンと軽く叩いて促した。
「行こう。僕達がここに来た目的を忘れちゃダメだ」
「……そうですね。ウィルフレッド様、またのちほど!」
 そして高く空へと逃れていく二人を、ウィルフレッドが見上げて笑う。
「落ちたのが俺でよかった」
 自前の飛行手段を持つ彼であれば、落とされても再び飛び立てる。これは僥倖と評するべき幸運であろうが、しかし、問題は再び翼を広げられるかどうかだ。
 足音が近づいてくる。自分を落としたサムライが、仲間を連れて接近する音だ。
「ええい、クソッ! フリオ、先に行け!」
「ニコラスさんは?」
「ウィルフレッドほっとけないだろ! 大丈夫だ、すぐに追いつく!」
「わかったであります!」
 そして、フリオがハルに続いて市中へと向かう。
 一人残ったニコラスは、腹の底に力をグッと溜めて、声を張り上げた。
「おまえらァ! 面倒なことしかできないさだめのもとに生まれたんか、あァン!?」
 その大声に、サムライ達が彼の方を向いた。
 一瞬だけで切る隙。その瞬間、ウィルフレッドはサムライから間合いを空けるように飛び退く。そして、ニコラスは駆け出してサムライとの間合いを詰める。
「いよぉ、ウィルフレッド。随分と久しぶりだな、いつ以来だ?」
「うむ、何と驚くことにさっきぶりだ。元気なようで何よりだ」
 間に三人のサムライを挟んで、二人は余裕ぶって軽口を叩き合う。
 しかし、共にその頬には大粒の汗が伝っていた。
 何せ、二人共に担う役割は癒し手。その二人が、この場に釘付けにされてしまっている現状は、戦況全体に与える影響を考えれば、無視できるものではない。
 しかし逃げることもできない。ここで三人のサムライを仕留めねば、これもまたのちのちに多大な悪影響を及ぼすことになるだろう。
 逃げられない。見逃せない。ならば、ここで敵を倒す以外に手段はない。
「覚悟キメるかぁ、ウィルフレッドよぉ」
「それしかないようだ」
 敵の向こう側でうなずくウィルフレッドを見て、ニコラスはその手に魔力を溜め始めた。

●激闘:市中にて
 刃が閃き、ぶつかり合った鋼が花火を散らして悲鳴を奏でる。
「クソ、どけ! どきなさいよ!」
 目の前に立つサムライに、いきり立ちながらハルがでたらめに得物を振り回した。
 しかし、さすがの神殲組隊士か、それをあっさりを受け止めて刀を返す。
 一合、二合、三合、打ち合うハルの耳に、市中から響く誰かの叫びが届いた。
 体の芯が一気に熱くなる。
 今、こうしている瞬間にも、市中では残る二人のサムライが民を手にかけているのだ。
「どけ、バカ野郎ォ――――ッ!!!!」
 普段ならば決して吐かないような罵倒をその口から迸らせ、ハルがサムライに切りかかる。そこに、フリオが追いついてきた。
「ハルさん!」
「フリオ、こいつ潰すわ! 衛生兵は先に市中に向かって!」
 即断し、ハルが指示を飛ばす。
 一緒に連れてきた衛生兵達が市中へ走ろうとする。
 だが、ハルの行く手を塞いでいたサムライが、それすら阻もうと動き出す。
「さァァァせるかァァァァァァ、であります!」
 が、間一髪。フリオの全身を使った全霊の一撃が、サムライの体を打ちのめす。
「ぐ、ぬゥ! ……彼岸花!」
 サムライもただでは退かず、神速の居合一閃。フリオの肩が深く裂けた。
「い……! まであります、ハルさん!」
 しぶく赤い血、フリオが痛みに顔を歪めるも、彼女はハルへと告げる。
 そして、鬼神と化したハルの刃に、強烈な魔力が渦巻いた。
「何度も言わせるな。そこを、どけェェェェェェェェ――――ッ!」
 業剣・終焉奈落。
 刃より解き放たれた莫大な力の奔流が、サムライを呑み込んで吹き飛ばした。
 そして、倒れたサムライはもう動かない。完全に意識を失ったようだ。
「急ぐわ! フリオも走って!」
「り、了解であります!」
 何とかサムライを一人退けた二人は、しかし息つくヒマもなく市中へと走った。
 到着すれば、そこにあるのは地獄絵図。
 すでに倒れた民が幾人も。衛生兵がそれらを抱え起こしてはいるが、彼らは戦闘用の人員ではない。次々に無辜の民に凶刃を振るう神殲組を止めるすべは持たないのだ。
 ゆえに、ハルの怒りが爆発する。
「何なのよ、何なのよこれは! これが為政者のやることか、宇羅・嶽丸ッッ!」
 医の道を歩む者として、これを許せる道理はどこにもない。
 かつてないほどの怒りがハルを苛む。
 それは魂すらも燃やして、ついにははっきりと力として顕現を――、
「落ち着くであります、ハルさん!」
 だが、劫火と化しつつあったハルの怒りに、フリオが一滴、水を差す。
「死者はまだ出てないようであります。だったら、ハルさんがいます。ニコラスさんもいます。今からでも連中の凶行を止めれば、まだ十分間に合うであります!」
「フリオ……」
 我を失うまでに高まっていたハルの中の憤激が、その言葉によってやや鎮まる。
 そしてハルは素早く状況を吟味する。
 怒りに囚われて見えていなかったが、よく見れば民は倒れているがまだ死者は出ていないようだ。衛生兵が順次助け起こそうとしている。
 生きているなら、まだ目はある。自分の手で助けられる。癒すことができる。
「なら、その前にまずやることは」
 ハルの目が、白刃を掲げる神殲組へと固定された。
「変わらない。私がやることは、何も変わらないわ。でしょう、フリオ」
「ええ、その通りであります!」
 拳を打ち合わせ、フリオがニッと笑った。
 そこへ、聖霊門を通じて歩兵隊が追いついてくる。
「行くわ、あのサムライ共を、まずはブチのめるわよ!」
「了解であります!」
 二人の自由騎士が、凶刃の振るい手へと突っ込んでいった。

●激闘:御所にて
 神聖不可侵であるべき神の座に、大量の血がブチまけられた。
「……弱い」
 血に濡れ、ぬらりとした光沢を見せる刃をダランと垂れ提げて、神殲組は言う。
「弱い、弱いな、それでよくぞこの地を守ると抜かせたものよ」
 倒れ伏した朝廷近衛軍の剣士を踏みつけ、襲撃者は笑うことなく吐き捨てる。
「お、おのれ!」
 別の近衛軍の剣士が切りかかるも、しかし、別の神殲組がその一撃を受け止めた。
「軽いぞ。刃に念が乗っていない。怖さばかりがあるだけか」
 言って弾き返し、逆に神殲組が胴薙ぎ一閃。剣士は悲鳴を上げることもなく、倒れた。
「貴様ら……!」
 神アマノホカリの前に立って、真比呂が襲撃者を強く睨み据える。
 しかし、そんなものはどこ吹く風と、四人のサムライは笑い、神と彼を囲もうとする。
「脆弱、惰弱。これが神か。これがこの地の母か」
「然り。貴様などにこの地を統べる力なし。力なき者に、資格もなし」
「死ね。死して我らが戦を虚無の中より眺めるがよい」
 そして、四人の敵が揃って刀を振り上げて――、
「させてたまるか、ってのよォォォォォォォォォォォォ!」
 屋根が、爆ぜた。
「緊急時につきダイナミック謁見! アマノホカリ、やっほー!」
「助けに来たよォ~~~~!」
 魔導にて屋根をぶっ飛ばしたきゐこと、次いでカーミラが神の座に突入する。
「むぅ、自由騎士か!」
 サムライの一人が叫ぶ、そこへ、立ち込める煙の向こうから振り下ろされる巨大な刃。サムライはそれを咄嗟に倭刀で受け止め、一歩飛び退く。
「今のを受け止めますか。……さすがに大した御手前で」
 降り立ったアンジェリカが、厳しいまなざしで神殲組を見据える。
「間に合った、とは口が裂けても言えないね、これは」
 アマノホカリと真比呂のすぐ前に降り立ったマグノリアが、そこかしこに倒れている近衛軍の剣士を見て、顔をしかめる。一目見てわかる、もう、間に合わない。
「潰すわ!」
「もちろん、ぶっ潰す!」
 ギリと奥歯を噛みしめるきゐこに、カーミラも同意して両の拳をガツンと合わせる。
「逃げられるとは思わないことですね」
 巨剣を構えるアンジェリカも、珍しくその顔に浮かぶ怒りを隠そうとしない。
 殺気を漲らせる自由騎士を前に、しかしサムライ共は一歩退くどころか、
「……クハハ、ここからがいくさか!」
 四人全員が、その顔に鬼気迫る満面の笑みを浮かべるのだった。
「斬り合いか! 殺し合いか! ならば根こそぎだ、根こそぎを所望するぞ!」
「フハハハハ、よいな、実によい! やはり人を斬ってこその我らよな!」
「いくさ、いくさだ! さぁ、今こそいくさに臨もうぞ!」
「応とも、これぞ我らが大勝負よ! ハハハハハハハハハハハ!」
 響く笑い声に、カーミラがキレた。
「殺すことを、楽しもうとするなァァァァァァァァ――――!」
 唸りをあげて振るわれる拳を、最前の神殲組が刀の腹で受け止めて、後方に跳躍。
 しかし、威力を完全に殺しきることはできず、吹き飛んで後方の壁を突き破る。
 それが激突の合図となった。
「毎度毎度、こいつらは……! 盾兵さん達、壁よろしくね!」
 追いついてきた盾を持った兵士達を前に立たせて、きゐこが魔力を溜め始める。
 それを見た敵の一人が、嬉々として切り込んでくる。
「何をするつもりだ! どういう攻め手を見せてくれるのだ!」
「っだー! 気になるなら待ってなさいよ、ブッ倒してやるから!」
「気になるな。気になるなァ! しかしそれよりおまえを斬りたいなぁ!」
「ちょっと! 盾兵さん、それしっかり抑えておいてよね!」
 きゐこの指示を受けた盾兵が、うなずいてグイグイ押し込んでくる敵を必死に阻む。
 その向こう側で、アンジェリカと神殲組の一人が、激しく刃を打ち合っている。
 鋭く、そして迅い敵の斬撃。しかし、それをアンジェリカは巨剣にて弾き返し、
「どうしました、そんなへっぴり腰では私まで届きませんよ」
「フハハ、強いな。盾としても使える剣か! 使いこなれている、ブレがない!」
「くだらない、批評を!」
 敵が次の攻撃に移るよりも速く、アンジェリカが剣を振りかぶる。
「おおおおおおおおおおおおお!」
 雄叫びと共に横薙ぎに振るわれた刃から、灼熱の闘気がまるで弾幕のようになって周囲へと広がって、サムライを巻き込み、猛威を振るわんとする。
「ぐ、おお!」
 後方に吹き飛ばされるサムライの声には、しかしにわかな歓喜の色。明らかに戦いを愉しんでいる。この場において、それはどうにも癇に障る。
「よっしゃあ! 畳みかけるわよ!」
 だから全力で黙らせてやる。そんな本音を言外にありありと見せて、きゐこが限界まで圧縮した魔力を、敵めがけて解き放つ。轟という音と共に、戦場を熱波が嘗めた。
 狭い室内で炸裂した魔導の熱波が、アンジェリカの剣気によって体勢を崩していた神殲組をさらにその上から叩き、さしものサムライ達も大きく隙を晒すこととなる。
 そして当然、カーミラがそれを見逃すわけがない。
「グオォ!」
 彼女が発した獣性を剥き出しにした一声が、サムライの一人を直撃し、身を竦ませる。
 そこへ、重ねての全力の一発。拳は吸い込まれるようにしてサムライのみぞおちにめり込み、そして、壁を二枚突き破って、その身は外の池へと放り込まれた。
「フハハハハハ! 強い、強い、実に強い! これぞいくさよなぁ!」
 それを見て、おののくどころか歓喜に身を打ち震わせ、死角より別のサムライが駆ける。
「させはしない!」
 だが、そこで真比呂が体を張った。
 サムライの斬撃を、身を挺して受け止めたのだ。刃が、彼の肩に深く食い込む。
「全く、無茶をする!」
 マグノリアが放った二連撃の魔弾が、サムライを退かせる。
 膝をついた真比呂を含め、マグノリアは急ぎ仲間へと癒しの魔導を施す。
「もう一発、行くわよォ!」
 そして、きゐこが再び掌中に形成した魔力の星を、神殲組へと解き放った。
 神聖不可侵なる神の御所が、荒れ狂う魔力の波動に晒された。

●決着
 最も苦戦したのは、彼らであろう。
「うおおおおお!」
 もはや、なりふり構っている余裕もない。
 ウィルフレッドが渾身の力を振り絞って解き放った魔力の星に、サムライが焼かれる。
 だが連中、すでに満身創痍ながらも笑う、笑う。
「キハハハハハ! 命の取り合い、死線の踏み合い! 望むところ!」
「うるせぇぇぇぇぇ、いい加減倒れろよォォォォォォォ!」
 ニコラスも全身血だらけになりながら吼えて、放つはもう幾度目かになる呪いの風。
 吹き荒れる魔力の嵐に、サムライは打たれ、骨が折れる音が響く。
「ご、が……」
 最後の一人。だが、これで終わり――、
「きぇぇぇぇぇええええええい!」
 ではなかった。
 油断しかけていたニコラスの胸元が、飛翔する斬撃によって深く刻まれる。
「……ッてェんだよ、この野郎!」
 絶叫と共に投げた愛用の礫が、サムライを打ち倒す。それで、敵は動かなくなった。
「ハァッ! ハァ……ッ!」
「終わった、か……」
 ウィルフレッドも息をつく。もう、魔力の一片すら残ってはいない。
「クソッ! もう一歩も動けねぇ!」
 同様に力を使い果たしたニコラスも、そう言って天を仰いだ。
 聖霊門前の戦いは、かくしてギリギリながらも決着を見たのだった。

 一方、市中では――、
 ジョセフの放つ魔導が、サムライに当たって隙を作る。
「倒れろ! 倒れろ、倒れろォォォォォォォォ!」
 そこへ魔導の剣閃を迸らせたのが、ハルであった。
「ぐぬ、お……!」
 しかし、サムライはまだ倒れない。踏みとどまって、なお、刃を振り上げる。
「ぬおお、やらせんであります!」
 しかし蒸気機関の出力を全開にしたフリオが体を盾にしてそれを阻み、至近距離にて神殲組を睨み据えて、決意の雄叫びを発する。
「全弾、持っていけでありまァァァァァァァァ――――す!」
 彼女のカタクラフトに内蔵されていた火器・弾頭が全て、この瞬間に解放される。
 さらに、限界を考えずに振るわれた超出力の連撃が、サムライの全身をこれでもかと叩き伏せ、両者の間に、派手な爆発が巻き起こる。
「ちょっと、フリオ!?」
 これには、ハルもさすがに驚くが――、
「ケホッ、だ、大丈夫でありますよ~」
 焼け焦げたサムライを足元に転がし、煙の向こうから黒煤にまみれたフリオが顔を出す。
 その後方では、衛生兵達がけが人を懸命に手当てしていた。
「死者は、出てないわよね?」
 心配げにそちらを見るハルに、フリオが胸を張って言う。
「ハルさんのおかげで、一人もいないであります!」
「よかった……」
 その言葉に、ハルはホッと胸をなでおろした。

 実を言えば、最も戦いが早く終わったのが御所だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
「うらァァァァァァァァァァ――――!」
 理由、キレたみんなで全ぶっぱ。
 主にアンジェリカときゐこが、御所へのダメージも考えずにやりまくった結果である。
 やっぱ高威力範囲攻撃の連発って鬼だわー。
 さらにいえば、マグノリアが敵を弱体化させ、きゐこにぶっ飛ばされた敵をカーミラが準じとどめを刺していく。そのサイクルが完全に機能したのが大きい。
 御所はほぼその形を失ったが、しかし、ひとまず戦いは終わった。
 アマノホカリをその腕にいだき、真比呂がホッと息をつく。
 そしてアマノホカリもまた、彼の腕に抱かれながら、安堵したようだ。
 だからだろうか、近くにマグノリアがいるのに、神はつい、零してしまった。
「――兄様」
 その呟きを、マグノリアは、聞き逃さなかった。